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  • 特許-厚板の圧延方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】厚板の圧延方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/38 20060101AFI20230718BHJP
   B21B 1/38 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
B21B37/38 C
B21B1/38 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019106957
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020199514
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000232793
【氏名又は名称】日本冶金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】江藤 敏泰
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博喜
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-072416(JP,A)
【文献】特開2010-274289(JP,A)
【文献】特開2003-311306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00-37/78
B21B 1/00-1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚板圧延における、少なくとも上下一対のワークロールと、圧延材の圧下手段を有し、圧延中に圧延率を変化させることができる圧延機を用いた圧延方法であって、
前記一対のワークロールのロールギャップの設定値を、温度と圧延材の変形抵抗と圧延機能力を考慮して決められる目的の厚みにするためのパス毎の予定ギャップとロールバランスシリンダの影響を考慮した値(以下、初期設定値と称する)として板材に対して圧延を行い、
最終パス前の任意のNパス後、前記板材の圧延方向先端部および後端部における増大した板厚偏差を計測し、
Nパスの後端から圧延を開始するN+1パスに際して、Nパスまでの圧延で後端部に生じた前記板厚偏差を1/10以上解消する分だけ前記初期設定値を減少させる補正を行い(以下、補正設定値と称する)、
前記N+1パスにおける前記板材の先端部がロールに噛み込み、前記先端部の板厚偏差を有する部分を圧延した後、前記補正設定値を前記初期設定値まで戻す操作を行い圧延するものであり
前記Nパス後に板厚偏差を計測すること、前記N+1パスに際して初期設定値から補正設定値へ減少させること、板厚偏差を有する部分を圧延した後補正設定値を初期設定値まで戻して圧延することを最終パスまで繰り返し行うものであり、
前記板厚偏差を解消する板厚制御は、前記板材の噛み込み時の衝撃荷重と前記板材の冷却むらによる変形抵抗の変動を加味したものとする板厚制御を行って、毎パスにおける先端部の板厚偏差を解消するものであり、
前記補正設定値は、前記初期設定値を1/60~1/8狭く設定することを特徴とする板材の圧延方法。
【請求項2】
前記最終パスの2パス前までの圧延において後端部(前記最終パスの1パス前の圧延においては先端部、前記最終パスにおいては後端部に相当する)に生じた板厚偏差を解消する圧延を前記最終パス1パス前と前記最終パスの2回行うことを特徴とする請求項1に記載の板材の圧延方法。
【請求項3】
前記最終パスの3パス前までの圧延において後端部(前記最終パスの2パス前の圧延においては先端部、前記最終パスの1パス前の圧延においては後端部、前記最終パスにおいては先端部に相当する)に生じた板厚偏差を解消する圧延を最終パス2パス前と最終パス1パス前と最終パスの3回行うことを特徴とする請求項1に記載の板材の圧延方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属厚板材料圧延方法に係り、特に、広幅プレートに圧延する際の板厚の精度向上を可能とする圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属厚板は、素材のスラブを1000℃から1300℃に加熱してから、熱間厚板圧延機によってリバース圧延して、所定の厚みに仕上げられる。
【0003】
上記熱間圧延では、板厚の精度が重要で、板の平均厚みが狙い通りであるだけでなく、板の全長にわたって、厚みの変動が少ないことが望まれている。
【0004】
厚板の圧延は、板幅(圧延方向と直交する方向)が広くなるにつれ、板厚精度の制御は困難になり、特に、厚板の先後端(厚板が圧延ロールに最初に噛み込まれる側を先端、圧延ロールから抜ける側を後端という)では、先端と後端の間である定常部に比べ板厚が厚くなる傾向を示し、生産性、品質、歩留に直結する問題として取り上げられることが多い。
【0005】
この先後端での板厚精度が不安定となる原因としては、次の点が挙げられる。
・厚板先端のロールへの噛み込み時の衝撃荷重により、ロールギャップが瞬間的に押し広げられ、出側板厚が厚くなる。
・圧延機の剛性が足りない。つまり、圧延の際に圧延機が弾性変形しロールギャップが大きくなり、出側板厚が厚くなる。
・板先後端の温度低下により、材料の変形抵抗が増加し、板先後端の圧延荷重が増大し出側板厚が厚くなる。
【0006】
これらの不具合点を解消するには、定常部に対する先後端部の板厚偏差を抑えることが、プレート材圧延の安定した品質の確保には必要であるが、従来の厚板圧延では、先端から定常部後端までロールギャップは一定に設定されているにも関わらず上記の原因より不具合が常々問題になってきた。すなわち、先端(先後端)の板厚増加を抑える為に、ロールギャップを先端から定常部まで一定に設定する以上の、先後端補正制御の検討が必要になってくる。
【0007】
ところが、板材の後端部がロールギャップを抜ける瞬間を正確に予測することはきわめて困難である。そこで、先端(先後端)の板厚増加を抑える為に、ロールギャップを先端から定常部まで一定に設定する以上の先端補正制御の検討が必要になってくる。
【0008】
厚板圧延における板厚制御技術に関しては、例えば、特許文献1には、テーパープレートの圧延の際に所望のテーパーを付与する技術が開示されている。しかしながら、この技術は、例えば図1、2に示されるように、造船や橋梁の分野で用いられる比較的大スケールの板材であるテーパープレートに関する発明であり、本発明の厚板圧延で要求される0.5mm以下の板厚偏差の修正に適用できるものではなく、また、テーパーの付与の制御に関する記載はあるものの、厚板の先後端において生じる板厚偏差や、その制御に関する言及は無い。
【0009】
特許文献2には、タンデム圧延機のワークロールへの圧延材の噛み込み時に押付手段による押圧力を大きく設定することで水平衝撃力及びミル振動低減を図る発明が開示されている。しかしながら、この技術は、薄板圧延を主たる対象としていて、また、ワークロールおよびバックアップロールを保持するロールチョークを水平方向に押圧することで水平衝撃力及びミル振動低減を図っており、本発明の厚板圧延時の先後端部板厚偏差の発生についての記載や、これを解消する方法や効果についての記載は無い。
【0010】
特許文献3には、圧延中にロール間隔を変化させることができる圧延機を用いた厚板の圧延において、噛み込まれた先端部の二枚割れを防止する技術が開示されている。しかしながら、この技術においては、噛み込みから板厚長までの圧下率を5%以下と軽減し、板厚長通過後は目標圧下率に増加させており、本発明の厚板圧延時の先後端部板厚偏差を解消する効果は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平08-300005号公報
【文献】特開2003-48005号公報
【文献】特開平08-10804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上述べたように、従来の方法では、厚板の先後端の板厚偏差を解消することが困難であった。特に、複数回方向を変えて圧延を行う厚板圧延においては先後端の板厚偏差が蓄積し、無視できない量となり、この部分を切断して製品歩留まりが低下する問題をも招来していた。本発明は、これら問題を解決するものであり、圧延において、厚板の先後端の板厚偏差を解消することのできる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、本発明の厚板圧延における板材の圧延方法は、少なくとも上下一対のワークロールと、圧延材の圧下手段を有し、圧延中に圧延率を変化させることができる圧延機を用いた圧延方法であって、一対のワークロールのロールギャップの設定値を、温度と圧延材の変形抵抗と圧延機能力を考慮して決められる目的の厚みにするためのパス毎の予定ギャップとロールバランスシリンダの影響を考慮した値(以下、初期設定値と称する)として板材に対して圧延を行い、最終パス前の任意のNパス後、板材の圧延方向先端部および後端部における増大した板厚偏差を計測し、Nパスの後端から圧延を開始するN+1パスに際して、Nパスまでの圧延で後端部に生じた前記板厚偏差を1/10以上解消する分だけ初期設定値を減少させる補正を行い(以下、補正設定値と称する)、前記N+1パスにおける前記板材の先端部がロールに噛み込み、前記先端部の板厚偏差を有する部分を圧延した後、前記補正設定値を前記初期設定値まで戻す操作を行い圧延するものであり前記Nパス後に板厚偏差を計測すること、前記N+1パスに際して初期設定値から補正設定値へ減少させること、板厚偏差を有する部分を圧延した後補正設定値を初期設定値まで戻して圧延することを最終パスまで繰り返し行うものであり、前記板厚偏差を解消する板厚制御は、前記板材の噛み込み時の衝撃荷重と前記板材の冷却むらによる変形抵抗の変動を加味したものとする板厚制御を行って、毎パスにおける先端部の板厚偏差を解消するものであり、前記補正設定値は、前記初期設定値を1/60~1/8狭く設定することを特徴としている。
【0014】
また、本発明の板材の圧延方法は、前記最終パスの2パス前までの圧延において後端部(前記最終パスの1パス前の圧延においては先端部、前記最終パスにおいては後端部に相当する)に生じた板厚偏差を解消する圧延を最終パス1パス前と最終パスの2回行うことを特徴としている。
【0015】
本発明においては、前記最終パスの3パス前までの圧延において後端部(前記最終パスの2パス前の圧延においては先端部、前記最終パスの1パス前の圧延においては後端部、前記最終パスにおいては先端部に相当する)に生じた板厚偏差を解消する圧延を最終パス2パス前と最終パス1パス前と最終パスの3回行うことを好ましい態様としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、特定鋼種最終パスを圧延するにあたり、まず最初に従来同様にロールギャップを一定値として圧延を行って、先端の板厚偏差を求め、次回以降同じ鋼種を同条件で圧延するにあたり、その板厚偏差を解消するためにロールギャップの設定値を減少させ、噛み込み直後にロールギャップを一定値に戻している。したがって、厚板の噛み込まれた先端において従来よりも高い圧延率で圧延され、その後圧延率が低下するので、先端における厚さの増大が解消される。
【0019】
また、圧延を繰り返し複数回行う場合は、まず最初に従来同様にロールギャップを圧延荷重による制限手前の目一杯の圧下率配分で設定し複数回の圧延を行った後に先後端の板厚偏差を求め、先端の噛み込みの際、すなわち最終パスの2パス前までの圧延において後端部に生じた板厚偏差を解消する圧延を最終パス1パス前と最終パスの2回行う圧延の際に、最終パス1パス前の後端部の板厚偏差を解消できるようにロールギャップの設定値を減少させ、最終パス先端部の板厚偏差部を圧延した後、ロールギャップを一定値に戻している。あるいは最終パス前の任意のNパスにおいて先端の噛み込みの際、すなわち、ワークロールを逆転させることによるN+1パス目の後端部になる部分の圧延の際に、N+1パス目の後端部の板厚偏差を解消できるようにロールギャップの設定値を減少させ、当該パス先端部の板厚偏差部を圧延した後、ロールギャップを一定値に戻している。したがって、厚板の噛み込まれた先端において従来よりも高い圧延率で圧延され、その後圧延率が低下するので、先後端における厚さの増大が解消される。
【0020】
本発明によれば、上述した作用効果により、比較的広い幅の厚板圧延における先端後端の高精度な板厚制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の圧延方法を模式的に示す概略図である。
図2】従来の圧延方法を模式的に示す概略図である。
図3】本発明の圧延方法におけるロールギャップ制御値と板厚実測値の関係を示すグラフである。
図4】従来の圧延方法におけるロールギャップ制御値と板厚実測値の関係を示すグラフである。
図5】実施例および比較例の厚板の圧延試験における結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1には本発明の圧延方法の概略図を示し、図3にはこの圧延方法によるロールギャップの設定値と実際の圧延材の厚さの実測値の関係を示す。また、図2には従来の圧延方法の概略図を示し、図4にはこの圧延方法によるロールギャップの設定値と実際の圧延材の厚さの実測値の関係を示す。
【0023】
なお、図1に示す本発明の圧延機と、図2に示す従来の圧延機は、上ワークロールおよび下ワークロール以外の部材の図示は省略したが、一対のワークロールの外側にはバックアップロールを有し、さらにバックアップロールの外側には圧下手段を有し、設定値を入力することで圧下手段を動作させ、圧延前や圧延中に圧延率を変更できる従来の圧延機を用いるものとする。
【0024】
ここで、厚板は、鋳造工程及び加熱工程を経ており、さらに、熱間圧延で、素材表面に生成する酸化物などのスケールを吹き飛ばすためデスケール水と呼ばれる高圧水を吹き付けるので、素材の先後端の温度は中央にくらべて早く低下する。このデスケール水を用いない場合であっても圧延ロールは、冷却水を用いるので、冷却水が垂れて素材にかかり、厚板の先後端の温度は中央にくらべて早く低下する。したがって、厚板内部では相対的に高温であり、端部および表面部では冷却が進み相対的に低温である。したがって、内部では変形抵抗が低く、端部においては変形抵抗が大きいのが通例である。
【0025】
従来の圧延においては、図2(a)でロールギャップが長手中央部予定ギャップの値Sに設定され、圧延が開始される。圧延開始以降、ロールギャップの設定値はSのままであるが、図2(b)において厚板先端部がワークロールに噛み込まれる際、圧延機のばね特性が大きく影響するとともに、厚板先端の衝突の衝撃と、上述した厚板先端の変形抵抗の大きさに起因して、一瞬ワークロールが押し広げられ、圧延が開始される。
【0026】
そして変形抵抗の大きい先端が通過して図2(c)の状況に至るまでに、相対的に高温で変形抵抗が小さい部分が通過するに伴い、ロールギャップは、図4の破線で示すように、設定値のSに戻る。最後に厚板の後端がワークロールを通過して、1回目の圧延が終了する。
【0027】
このように、従来の圧延では、ロールギャップの設定値はSで一定であっても、得られた圧延材の厚さは、先端部の衝突の衝撃や変形抵抗変動、前パス後端部の板厚偏差によってロールギャップは押し広げられ、徐々に目標の板厚になる。さらに、この圧延材のワークロールを逆転させて、後端から圧延機を通過させ、これを複数パス行う圧延では、前パスで作られた厚み差の影響が次のパスに残留することになり、結果的に、図5の比較例のグラフで示すように、先後端に板厚偏差が生じる。
【0028】
次に、本発明の圧延方法を説明する、まず前提として、従来の圧延方法により圧延を行っておき、板厚の偏差を求めておく。そして、次回以降の同じ鋼種の新規な圧延において、図1(a)でロールギャップが、長手中央部予定ギャップの設定値Sよりも所定値減少させたS-ΔSに設定され、圧延が開始される。
【0029】
図1(b)において厚板先端部がワークロールに噛み込まれる際、圧延機のばね特性が大きく影響するとともに、厚板先端の衝突の衝撃と、厚板先端の変形抵抗の大きさに起因して、一瞬ワークロールが押し広げられ、実際のロールギャップは図3に示すSとなって圧延が開始される。
【0030】
そして変形抵抗の大きい先端が通過して図1(c)の状況に至るまでに、相対的に高温で変形抵抗が小さくなることにより、ロールギャップは減少する傾向が予め把握されているので、図1(b)から(c)までの時間でロールギャップをS-ΔSからSに増加させるように予め設定しておく。これにより、ワークロールと厚板の物性により圧延と共に厚さが減少する作用と、ロールギャップを増加させる設定動作が相殺して、図3の破線で示すように、実測値はほぼSのままで圧延が行われる。最後に厚板の後端がワークロールを通過して、1回目の圧延が終了する。
【0031】
このように、本発明の圧延では、ロールギャップの設定値をS-ΔSとしておき、厚板先端の衝突時からは増加させてSに戻す設定とすることで、得られた圧延材の厚さは、先端部から中央部、後端にかけて全てSの一定値とすることができる。
【0032】
さらに、この圧延材のワークロールを逆転させて、後端から圧延機を通過させ、最終パス前の任意のNパスにおける圧延では、その前パスであるN-1パスで作られた厚み差の影響が次のNパスに残留することになるので、毎パスにおいて上記のロールギャップ制御を行っても良いが、最終パスの3パス前のパスまでは全てロールギャップを一定値で行って先後端の板厚偏差の蓄積を許容しておき、最終パス、最終パス1パス前のパスのみにおいて上記のロールギャップ制御を行って、板厚偏差を解消してもよい(先端、後端それぞれについて1回ずつ)。
【0033】
また、前記最終パスの2パス前までの圧延において後端部に生じた板厚偏差を解消する圧延を最終パス1パス前と最終パスの2回まで先端補正を実施することも効果的である。
【0034】
本発明においては、ロールギャップを長手中央部予定ギャップの1/60~1/8狭く設定するものとし、ロールギャップを長手方向中央部予定ギャップに戻すことが好ましい。ロールギャップがこの範囲未満であると、板厚偏差の解消作用が不足し、この範囲を超えると、板厚偏差の解消作用が過剰となったり、先端の板割れ等の不具合が発生する。
【0035】
本発明において、ロールギャップの設定値をS-ΔSからSに変化させ始めるタイミングは、厚板先端がワークロールに噛み込み板厚偏差部を圧延したタイミングであり、ロールギャップ設定値の増加が自動的に開始されるようにして可能となる。
【0036】
従来の圧延方法により、先後端が厚くなった製品は、製品規格を満足しなければその部分を切除しなければならなく、仮に規格に適合したとしても厚みの増加した部分は中央厚みとの差が使用の妨げとなることがあり、経済的な損失になる。先後端厚みを目標厚みにそろえるには、先後端を締めて圧延できればよいと考えるかもしれないが、後端を抜け直前に目的のギャップに締めるには、圧延材の位置を正確に知る必要があり至難の業であった。後端を締めても、野球のバットがボールを空振りするがごとく、早すぎ、あるいは遅すぎ、失敗する。
【0037】
以上述べたように、本発明によれば、厚板の先後端の厚みを一定にすることにより、製品の良品部位の割合を改善でき、製品の長手の厚み精度を改善することができる。厚板生産においては、製品の歩留まりが向上して屑が減少し、生産のエネルギー効率と省資源性が向上する。厚板の需要家にとっては、製品の厚み精度が向上すると火炎切断レーザー切断などの安定化により設備稼働率が向上し、溶接作業もより安定する。厚板製品の厚み精度向上は、それを使用した加工品の精度向上にもつながり、経済効果は波及する。
【実施例
【0038】
以下、本発明の一例としてステンレス鋼SUS304の厚板圧延に適用した実施例と、同じ厚板を従来の方法で圧延した比較例を説明するが、本発明は、以下の実施態様の条件のみに限定されるものではない。
【0039】
[実施例]
実施条件は下記の通りである。
1)圧延機:
幅2.6m、作業ロール径1000mm、バックアップロール径1600mmの熱間圧延機で、圧延機の圧下機構には、油圧シリンダーが用いられており、計算機の指令により、噛み込んですぐギャップを所定の制御値まで開く動作を行えるようになっている。
2)圧延材料:
材質はステンレス鋼SUS304、製品厚み12mm、幅2100mmの寸法で圧延鋼材の中で一般的なサイズである。
3)圧延方法:
圧延材料を圧延機に往復させることで、全19パスの圧延を行った。1~17パスでは、目標の圧延率となるようにロールギャップを長手中央部厚み設定値とし、先端が噛み込まれてから後端が抜けるまで一定の設定で圧延を行った。
最終前パスでは、ロールギャップを0.8mm締め込み、圧延材の噛み込みと同時にギャップを開き先端から700mmで長手中央部厚み設定のギャップに戻し、そのまま後端が抜けるまで圧延を行った。
最終パスでは、ロールギャップをやはり0.8mm締め込み、先端の噛み込みと同時にギャップを開き、先端から700mmで長手中央部厚み設定のギャップに戻し、そのまま後端が抜けるまで圧延を行った。
【0040】
[比較例]
従来の方法で圧延を行った比較例では、圧延機および圧延材料は実施例と同じ物を用い、圧延方法は、最終厚みまでの圧延のうち、全てにおいて先端でロールギャップを締め込むことなく、圧延材の噛み込みから抜けまで長手中央部厚み設定値のまま圧延を行った。
【0041】
以上の実施結果を図5のグラフに示す。
比較例の圧延においては、厚板先端の板厚の増大が蓄積され、長手方向中央の厚さ設定値12mmより0.6mm程厚くなっていた。なお、圧延は往復動作、すなわち圧延方向を逆転して交互に行うので、後端が次パスで先端となるため、先端と後端の両方に厚さの増大が見られる。
【0042】
これに対して、実施例の圧延においては、先後端の厚さの増大が0.2mm以内に改善している。なお、実施例では最終前パスと最終パスにおいて締め込みを行っているので、先端と後端について1回ずつ行ったことになる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、製品の長手の厚み精度を改善して製品の良品部位の割合を改善できるので、製品の歩留まりが向上して屑が減少し、生産のエネルギー効率と省資源性が向上する。また、製品の厚み精度が向上すると火炎切断レーザー切断などの安定化により設備稼働率が向上し、溶接作業もより安定するなど、厚み精度向上は、それを使用した加工品の精度向上にもつながり、経済効果は波及する。











図1
図2
図3
図4
図5