IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

特許7313933超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法
<>
  • 特許-超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法 図1
  • 特許-超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法 図2
  • 特許-超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法 図3
  • 特許-超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法 図4
  • 特許-超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法 図5
  • 特許-超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法 図6
  • 特許-超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/00 20060101AFI20230718BHJP
【FI】
H01F6/00 180
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019122765
(22)【出願日】2019-07-01
(65)【公開番号】P2021009914
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 安見
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 寛史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智庸
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-020266(JP,A)
【文献】特開昭62-169312(JP,A)
【文献】特開2009-158680(JP,A)
【文献】特開平06-120573(JP,A)
【文献】特開平05-144639(JP,A)
【文献】実公昭50-001332(JP,Y1)
【文献】特開昭59-158505(JP,A)
【文献】特開2018-125338(JP,A)
【文献】特開昭57-141904(JP,A)
【文献】国際公開第2011/074092(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導コイルと、この超電導コイルを励磁するための電源と、前記超電導コイルを前記電源に電気的に接続するコイル通電電線と、前記超電導コイルに並列に且つ前記電源に直列に接続されて保護抵抗を含む保護回路と、を有する超電導磁石装置において、
前記コイル通電電線の一部及び前記保護回路の一部の温度、または前記保護回路の一部の温度をそれぞれ変化させる温度可変装置を備えて構成されたことを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項2】
前記超電導コイルが発生する磁場を計測する磁場センサを備え、
温度可変装置の制御装置は、前記磁場センサが計測した磁場が目標値になるように前記温度可変装置を制御して、前記コイル通電電線の一部及び保護回路の一部の少なくとも一方の温度を変化させるよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の超電導磁石装置。
【請求項3】
前記超電導コイルが真空容器に内蔵され、この真空容器内で前記超電導コイルが冷凍機により冷却され、電源が前記真空容器外の室温部に設置されることで前記コイル通電電線が前記真空容器内の低温部に導入され、
温度可変装置は、前記コイル通電電線の前記室温部に存在する一部の温度を変化させるよう構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の超電導磁石装置。
【請求項4】
前記超電導コイルが真空容器に内蔵され、この真空容器内で前記超電導コイルが冷凍機により冷却され、電源が前記真空容器外の室温部に設置されることで前記コイル通電電線が前記真空容器内の低温部に導入され、
温度可変装置は、前記コイル通電電線の前記低温部に存在する一部の温度を変化させるよう構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の超電導磁石装置。
【請求項5】
超電導コイルと、この超電導コイルを励磁するための電源と、前記超電導コイルを前記電源に電気的に接続するコイル通電電線と、前記超電導コイルに並列に且つ前記電源に直列に接続されて保護抵抗を含む保護回路と、を有する超電導磁石装置の制御方法において、
前記超電導コイルが発生する磁場を磁場センサで計測し、
この磁場センサが計測した磁場が目標値になるように温度可変装置を制御して、前記コイル通電電線の一部及び前記保護回路の一部の温度、または前記保護回路の一部の温度をそれぞれ変化させることを特徴とする超電導磁石装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図7の超電導磁石装置100に示すように、超電導コイル101は、通電のための電線105を介して電源102により通電され、磁場を発生させることができる。図中の符号106は、電線105の電気抵抗を模式的に示したものである。通常、超電導磁石装置100では、例えば保護抵抗104及び遮断器103を設けて、超電導コイル101の異常時に、この超電導コイル101の焼損や放電等を防止することで系を保護している。また、超電導コイル101には、超電導線材の接続等による電気抵抗があり、この電気抵抗を符号107で模式的に示している。
【0003】
電線105は、電気抵抗の小さな金属(通常は銅)等が用いられている。また、保護抵抗104は、超電導コイル101の保護のために必要な抵抗値と、想定される保護時の消費エネルギを考慮して適切な大きさになる金属が用いられている。
【0004】
このように、永久電流モードではない電源駆動方式の超電導磁石装置100は、電気抵抗がゼロとなる超電導コイル101に通電する経路、あるいは、実用上必須な部品である保護抵抗104等のように有限の抵抗値を持つ部材で構成された回路で成り立っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-41966号公報
【文献】特開2005-259826号公報
【文献】特開2004-179413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電源駆動方式の超電導磁石装置100には、超電導コイル101が発生する磁場の安定性にとって重要な課題がある。即ち、超電導コイル101側の経路の全抵抗R1と、保護抵抗104を含む保護回路105側の全抵抗Rとによって、電源102からの供給電流Iは、超電導コイル101側への分流電流Iと、保護抵抗104側への分流電流Iとに分流する。超電導コイル101での発生磁場と比例関係にある超電導コイル101側への分流電流Iは、
=I・(R/R)=(I-I)・(R/R
で表され、従って、
=I・R/(R+R)=I・[1-R/(R+R)]
で表される。
【0007】
このように、分流経路のある保護回路105を含めると、超電導コイル101側への分流電流Iは、抵抗R及びRに依存する。ここで問題となるのは、通常の金属は電気抵抗率に温度依存性があるため、室温変化等の外乱による温度変化で、超電導コイル101側への分流電流I(つまり磁場強度)が変動してしまうことである。
【0008】
このため、通常の超電導磁石装置100の超電導コイル101では、上述の温度変化により、場合によっては数百ppm程度の磁場変動が生じてしまう。更に、通常各部の温度変化は一様ではなく、構成部材の抵抗率の温度依存性に差異があること等が原因で、この磁場変動は複雑な変動になる。
【0009】
永久電流モードは、そのための解決手段の一つであるが、永久電流モードのための永久電流スイッチがない電源駆動方式の超電導磁石装置100では、上述の超電導コイル101の磁場変動は、超電導磁石装置100の全体を恒温室に入れる等の対策をとらない限り、避けられない。
【0010】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、超電導コイルによるppmオーダーの磁場変動を抑制して磁場の安定性を向上させることができる超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態における超電導磁石装置は、超電導コイルと、この超電導コイルを励磁するための電源と、前記超電導コイルを前記電源に電気的に接続するコイル通電電線と、前記超電導コイルに並列に且つ前記電源に直列に接続されて保護抵抗を含む保護回路と、を有する超電導磁石装置において、前記コイル通電電線の一部及び前記保護回路の一部の温度、または前記保護回路の一部の温度をそれぞれ変化させる温度可変装置を備えて構成されたことを特徴とするものである。
【0012】
さらに本発明の実施形態における超電導磁石装置の制御方法は、超電導コイルと、この超電導コイルを励磁するための電源と、前記超電導コイルを前記電源に電気的に接続するコイル通電電線と、前記超電導コイルに並列に且つ前記電源に直列に接続されて保護抵抗を含む保護回路と、を有する超電導磁石装置の制御方法において、前記超電導コイルが発生する磁場を磁場センサで計測し、この磁場センサが計測した磁場が目標値になるように温度可変装置を制御して、前記コイル通電電線の一部及び前記保護回路の一部の温度、または前記保護回路の一部の温度をそれぞれ変化させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によれば、超電導コイルによるppmオーダーの磁場変動を抑制して磁場の安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係る超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法の構成を示す回路図。
図2】金属の電気抵抗の温度依存性を示すグラフ。
図3】第2実施形態に係る超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法の構成を示す回路図。
図4】第3実施形態に係る超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法の構成を示す回路図。
図5】第4実施形態に係る超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法の構成を示す回路図。
図6】第5実施形態に係る超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法の構成を示す回路図。
図7】従来の超電導磁石装置を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(図1
図1は、第1実施形態に係る超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法の構成を示す回路図である。超電導磁石装置10は、図1に示すように、超電導コイル11と、この超電導コイル11を励磁するための電源12と、超電導コイル11を電源12に電気的に接続するコイル通電電線13と、保護抵抗14を含む保護回路15と、遮断器16と、コイル通電電線13の一部である可変抵抗体18の温度を変化させる温度可変装置17と、を有して構成される。
【0016】
超電導コイル11は、コイル通電電線13を介して電源12により通電されて磁場を発生する。即ち、超電導コイル11は、永久電流モードではなく電源駆動方式により磁場を発生する。また、コイル通電電線13は、電気抵抗の小さな金属(例えば銅)等が用いられる。更に、遮断器16は、超電導コイル11、電源12及び保護抵抗14に直列に接続されている。
【0017】
保護抵抗14を含む保護回路15は、超電導コイル11に並列に且つ電源12に直列に接続される。保護抵抗14は、遮断器16と共に、超電導コイル11の異常時に超電導コイル11の焼損や放電を防止して超電導磁石装置10を保護する。この保護抵抗14は、超電導コイル11の保護のために必要な抵抗値と規定される保護時の消費エネルギとを考慮して適切な大きさになる金属が用いられる。保護抵抗14は、通常、銅よりも大きな電気抵抗率の金属が用いられる。
【0018】
ここで、図1では、コイル通電電線13の電気抵抗を模式的に符号19で示している。また、超電導コイル11における超電導線材の接続等による電気抵抗を模式的に符号20で示している。
【0019】
温度可変装置17は、制御装置21の制御により、コイル通電電線13の一部である可変抵抗体18の温度を変化(例えば加熱または冷却)させて、この可変抵抗体18の電気抵抗を変更させる。このように電気抵抗が変化するので、可変抵抗体18は、図1では模式的に可変抵抗の記号で示している。また、可変抵抗体18は、例えば保護回路15よりも電源12の下流側(即ち超電導コイル11側)に設けられる。
【0020】
可変抵抗体18は、上述のように温度可変装置17により温度が変化することで電気抵抗が変更される。これは、図2に示すように、金属が、例えば室温付近で温度が高いほど電気抵抗が大きくなるような温度依存性を有するからである。このため、電源12から超電導コイル11側に流れる分流電流と、保護回路15に流れる分流電流との比(分流比)が変化する。従って、室温変化等によってコイル通電電線13や保護回路15の電気抵抗が変更されて、超電導コイル11の発生磁場に変動が生じたとき、温度可変装置17は、可変抵抗体18の温度を変化させ、その電気抵抗を変更することで超電導コイル11へ流れる分流電流の電流値を変え、超電導コイル11の発生磁場を一定に保持することが可能になる。
【0021】
例えば、超電導コイル11の発生磁場が室温変化等によって微小量増加してしまったときには、温度可変装置17により可変抵抗体18の温度を上昇(加熱)させることで、コイル通電電線13側の電気抵抗が増大して超電導コイル11へ流れる分流電流が低下する。これにより、超電導コイル11の発生磁場を減少させて一定磁場に保持することが可能になる。以下、超電導磁石装置の制御方法について更に詳説する。
【0022】
超電導コイル11及びコイル通電電線13の全電気抵抗をR、保護回路15の電気抵抗をR、電源12から供給する電流をIとすると、超電導コイル11側に流れる分流電流Iは、
=I・R/(R+R)=I・[1-R/(R+R)]………(1)
で表される。
【0023】
保護回路15の電気抵抗R2が例えば1Ω(1000mΩ)、超電導コイル11及びコイル通電電線13の全電気抵抗Rが例えば10mΩである場合、超電導コイル11側に流れる分流電流Iは、電源12からの供給電流Iの99%(保護抵抗14に流れる分流電流は、電源12からの供給電流の1%)になる。超電導コイル11及びコイル通電電線13の全電気抵抗R(10mΩ)は、銅製のコイル通電電線13の室温側部分の電気抵抗が支配的である。仮に、このコイル通電電線13の室温側部分の電気抵抗が10mΩになっているとして、このコイル通電電線13の室温側部分は、温度を1℃上昇させると、電気抵抗が3000ppm(0.3%)程度増大する。
【0024】
超電導コイル11及びコイル通電電線13の全電気抵抗(コイル通電電線13の室温側部分の電気抵抗)Rが3000ppm変化(増大)してR´になったとき、超電導コイル11側へ流れる分流電流はIからI´に変化(減少)する。即ち、
´=I・R/(R´+R)………(2)
【0025】
式(1)と式(2)から、超電導コイル11側へ流れる分流電流の変化率は、
(I-I´)/I=R/(R+R)-R/(R´+R
=R・(R´-R)/(R+R)・(R´+R
となる。ここで、R´=1.003Rであるから、R´を消去して変形すると、
(I-I´)/I=0.003(R/R)/[(R/R)+1]・[(R´/R)+1]
となる。ここで、R/R=1/100であり、R´/R=1.003/100が十分に小さいことから、超電導コイル11側へ流れる分流電流の変化率は、
(I-I´)/I≒0.003(R/R)=0.003×1/100=30ppmになる。
【0026】
超電導コイル11側へ流れる分流電流の変化率と超電導コイル11にて発生する磁場の変化率とが比例関係にあるので、コイル通電電線13の室温側部分を1℃温度上昇させると、超電導コイル11にて発生する磁場は30ppm程度変動(減少)する。コイル通電電線13の室温側部分の全長ではなく、この全長の1/10の部分(可変抵抗体18に相当)のみを1℃温度上昇させると、その1/10部分の電気抵抗の増大も1/10になるので、超電導コイル11の発生磁場も1/10の3ppm程度変動(減少)する。この磁場変動(減少)を更に小さくしたい場合には、温度を変化(上昇)させる部分をより小さな領域にすればよい。
【0027】
従って、温度可変装置17による可変抵抗体18の温度上昇によって、超電導コイル11の発生磁場をppmオーダーで減少させ、これにより、超電導コイル11の発生磁場の変動をppmオーダーで抑制することが可能になる。
【0028】
また、超電導コイル11の発生磁場が室温変化等によって微小量減少してしまったときには、温度可変装置17により可変抵抗体18の温度を低下(冷却)させることで、コイル通電電線13の電気抵抗が減少して超電導コイル11へ流れる分流電流が増加する。これにより、超電導コイル11の発生磁場を増加させて一定磁場に保持することが可能になる。この場合、温度可変装置17を冷却装置とすればよいが、あるいは、温度可変装置17をヒータ等の加熱装置とし、デフォルトでヒータ等により可変抵抗体18をある程度予め加熱しておき、超電導コイル11の発生磁場を増加させたい場合に加熱量を減少させるようにしてもよい。
【0029】
以上のように構成されたことから、本実施形態によれば、次の効果(1)を奏する。
(1)コイル通電電線13と保護回路15の温度変化に起因する超電導コイル11のppmオーダーの磁場変動を、コイル通電電線13の一部である可変抵抗体18の温度を温度可変装置17により変化させて、その可変抵抗体18の電気抵抗を変更し、超電導コイル11へ流れる分流電流を変更することで抑制する。これにより、超電導コイル11が発生する磁場の安定性を向上させることができる。
【0030】
なお、上述の超電導コイル11の発生磁場の変動抑制制御を、電源12の設定電流を調整することで実現する場合には、その電流値を少なくとも7桁以上の範囲で制御する必要があり、困難であることが予想される。
【0031】
[B]第2実施形態(図3
図3は、第2実施形態に係る超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法の構成を示す回路図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0032】
本第2実施形態の超電導磁石装置25が第1実施形態と異なる点は、温度可変装置17と同様に機能する温度可変装置27が温度を変化させる対象が、保護回路15の一部である可変抵抗体26である点である。この可変抵抗体26は、温度が変化することで電気抵抗が変化するため、図3では模式的に可変抵抗の記号で示している。
【0033】
室温変化等によってコイル通電電線13や保護回路15の電気抵抗が変更されて超電導コイル11の発生磁場が微小量増加してしまったときには、制御装置28が温度可変装置27を制御して可変抵抗体26の温度を低下(冷却)させることで、保護回路15の電気抵抗を減少させて保護回路15へ流れる分流電流を増加させ、超電導コイル11側へ流れる分流電流を減少させる。これにより、超電導コイル11の発生磁場を減少させて一定磁場に保持することが可能になる。
【0034】
また、室温変化等によってコイル通電電線13や保護回路15の電気抵抗が変更されて超電導コイル11の発生磁場が微小量減少してしまったときには、制御装置28が温度可変装置27を制御して可変抵抗体26の温度を上昇(加熱)させることで、保護回路15の電気抵抗を増大させて保護回路15へ流れる分流電流を減少させ、超電導コイル11側へ流れる分流電流を増加させる。これにより、超電導コイル11の発生磁場を増加させて一定磁場に保持することが可能になる。
【0035】
以上のように構成されたことから、本第2実施形態によれば、次の効果(2)を奏する。
(2)コイル通電電線13と保護回路15の温度変化に起因する超電導コイル11のppmオーダーの磁場変動を、保護回路15の可変抵抗体26の温度を温度可変装置27により変化させてその可変抵抗体26の電気抵抗を変更し、超電導コイル11へ流れる分流電流を変更させることで抑制する。これにより、超電導コイル11が発生する磁場の安定性を向上させることができる。
【0036】
なお、図3に2点鎖線で示すように、コイル通電電線13の一部に第1実施形態の可変抵抗体18を更に設けて、この可変抵抗体18を温度可変装置17により温度変化させてもよい。この場合、超電導コイル11の発生磁場を減少させる際には可変抵抗体18を温度可変装置17により加熱させ、また、超電導コイル11の発生磁場を増加させる際には可変抵抗体26を温度可変装置27により加熱させることで、それぞれ、超電導コイル11の発生磁場を一定に保持することができる。つまり、この場合には、温度可変装置17及び27を共に加熱手段とすることができる。
【0037】
また、本第2実施形態においては温度可変装置27による可変抵抗体26の温度変化と、温度可変装置17による可変抵抗体18の温度変化とを同時に実施してもよい。更に、可変抵抗体26に代えて、保護抵抗14を温度可変装置27により温度変化させてもよい。
【0038】
[C]第3実施形態(図4
図4は、第3実施形態に係る超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法の構成を示す回路図である。この第4実施形態において第1及び第2実施形態と同様な部分については、第1及び第2実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0039】
本第3実施形態の超電導磁石装置30が第1実施形態と異なる点は、超電導コイル11が発生する磁場を計測する磁場センサ31を備え、温度可変装置17の制御装置32が、磁場センサ31による磁場計測値が目標値になるように温度可変装置17を制御して、コイル通電電線13の可変抵抗体18の温度を変化させてその可変抵抗体18の電気抵抗を変更するよう構成された点である。
【0040】
磁場センサ31は、超電導コイル11による発生磁場の磁場強度が高い箇所、例えば超電導コイル11の近傍に設置される。また、超電導コイル11自体による磁場変動が想定される場合には、複数の磁場センサ31による磁場計測が有効である。制御装置32は、磁場センサ31による磁場計測値の目標値に対する変化がゼロになるように、温度可変装置17による可変抵抗体18の温度変化量を算出し、この可変抵抗体18の電気抵抗値をフィードバック制御する。これにより、超電導コイル11の磁場変動が抑制される。
【0041】
また、磁場センサ31により計測された磁場計測値を、1点鎖線で示す温度可変装置27の制御装置33に送信し、この制御装置33が、磁場センサ31による磁場計測値の目標値に対する偏差がゼロになるように、温度可変装置27による可変抵抗体26の温度変化量を算出し、この可変抵抗体26の電気抵抗値をフィードバック制御して、超電導コイル11の磁場変動を抑制してもよい。
【0042】
なお、この第3実施形態においても、温度可変装置27による可変抵抗体26の温度変化と、温度可変装置17による可変抵抗体18の温度変化とを同時に実施してもよい。
【0043】
以上のように構成されたことから、本第3実施形態によれば、第1及び第2実施形態の効果(1)及び(2)と同様な効果を奏するほか、次の効果(3)を奏する。
【0044】
(3)温度可変装置27の制御装置32は、磁場センサ31が計測した磁場が目標値になるように温度可変装置17を制御して、コイル通電電線13の可変抵抗体18の温度を変化させ、その可変抵抗体18の電気抵抗を変更する。また、温度可変装置27の制御装置33は、磁場センサ31が計測した磁場が目標値になるように温度可変装置27を制御して、保護回路15の可変抵抗体26の温度を変化させ、その可変抵抗体26の電気抵抗を変更する。これらにより、超電導コイル11の磁場変動を抑制して超電導コイル11の磁場を安定化させる制御を自動で行なうことができる。
【0045】
このように超電導コイル11の発生磁場を直接計測して制御するので、電源12からの供給電流そのものによる磁場の不安定性、または超電導コイル11自体に起因する磁場の不安定性を含めて、超電導コイル11の磁場の安定化を図ることができる。
【0046】
[D]第4実施形態(図5
図5は、第4実施形態に係る超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法の構成を示す回路図である。この第4実施形態において第1及び第3実施形態と同様な部分については、第1及び第3実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0047】
本第4実施形態の超電導磁石装置40では、温度可変装置17は、コイル通電電線13における真空容器41外の室温部Aに存在する室温部側通電電線45の温度を変化させて、この室温部側通電電線45の電気抵抗を変更させるよう構成されている。
【0048】
超電導コイル11は、断熱のための真空容器41に内蔵され、この真空容器41内で冷凍機42により冷却される。つまり、冷凍機42の冷却部は、超電導コイル11との間に配置された熱伝導率の高い伝熱板43を介して真空中で超電導コイル11を冷却する。また、真空容器41内には、超電導コイル11を内包すると共に冷凍機42により冷却される輻射シールド44が設けられ、この輻射シールド44により超電導コイル11への熱侵入量が低減される。
【0049】
電源12は、真空容器41外の室温部Aに設置される。従って、この電源12及び超電導コイル11に接続されるコイル通電電線13は、室温部Aから真空容器41内の低温部Bに導入される。電源12からの電流は、電源12、保護回路15及び遮断器16等で構成される回路から、コイル通電電線13における室温部側通電電線45及び低温部側通電電線46を順次経て、超電導コイル11へ供給される。ここで、室温部側通電電線45は、コイル通電電線13における真空容器41外の室温部Aに存在する領域であり、低温部側通電電線46は、コイル通電電線13における真空容器41内の低温部Bに存在する領域である。
【0050】
磁場センサ31により計測された超電導コイル11の発生磁場の計測値は、温度可変装置17の制御装置32へ送信される。この制御装置32は、磁場センサ31による磁場計測値が目標値になるように温度可変装置17を制御して、コイル通電電線13の室温部側通電電線45の温度を変化させ、その室温部側通電電線45の電気抵抗を変更する。これにより、超電導コイル11が発生する磁場の変動を抑制することが可能になる。
【0051】
以上のよう構成されたことから、本第4実施形態によれば、第1及び第3実施形態の効果(1)及び(3)と同様な効果を奏するほか、次の効果(4)を奏する。
【0052】
(4)コイル通電電線13における真空容器41外の室温部Aに存在する室温部側通電電線45を温度可変装置17により温度変化させる構成である。このため、室温部側通電電線45の温度変化が冷凍機42の熱負荷にならず、従って、冷凍機42の仕様等を変更する必要がない利点があると共に、超電導磁石装置40の稼働を継続した状態で温度可変装置17、制御装置32及び磁場センサ31を増設することができる。
【0053】
[E]第5実施形態(図6
図6は、第5実施形態に係る超電導磁石装置および超電導磁石装置の制御方法の構成を示す回路図である。この第5実施形態において第1、第3及び第4実施形態と同様な部分については、これらの第1、第3及び第4実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0054】
本第5実施形態の超電導磁石装置50が第4実施形態と異なる点は、制御装置32により制御される温度可変装置17がコイル通電電線13における真空容器41内の低温部Bに存在する低温部側通電電線46の温度を変化させて、その低温部側通電電線46の電気抵抗を変更させるよう構成された点である。
【0055】
つまり、磁場センサ31により計測された超電導コイル11の発生磁場の計測値を受信した温度可変装置17の制御装置32は、磁場センサ31による磁場計測値が目標値になるように温度可変装置17を制御する。これにより、コイル通電電線13の低温部側通電電線46の温度が変化してその低温部側通電電線46の電気抵抗が変更され、超電導コイル11が発生する磁場の変動を抑制することが可能になる。
【0056】
以上のように構成されたことから、本第5実施形態によれば、第1及び第3実施形態の効果(1)及び(3)と同様な効果を奏するほか、次の効果(5)を奏する。
【0057】
(5)真空容器41内の低温部Bに存在する低温部側通電電線46は、冷却状態にあるため室温部側通電電線45よりも電気抵抗が低く、そのため、断面積が室温部側通電電線45よりも小さく、熱容量が小さい。更に、低温部側通電電線46は、真空容器41内に設置されるため断熱性が良好で、温度可変装置17により温度制御されたときに熱の出入が少なく、効率良く温度変化する。これらのことから、温度可変装置17が低温部側通電電線46の温度を変化させる際の熱量を抑えることができ、且つ温度変化の応答性が高い。従って、温度可変装置17が低温部側通電電線46の温度を変化させて超電導コイル11が発生する磁場の変動を抑制する際の制御性に優れる。特に、磁場の変動周期が短い短時間の磁場変動を抑制する制御性に優れている。
【0058】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0059】
例えば、第4及び第5実施形態では、冷凍機42が2段冷凍機で、真空容器41内に輻射シールド44が配置されたものを述べたが、冷凍機42が単段冷凍機であってもよく、また、輻射シールド44が存在しないものでもよい。更に冷凍機42ではなく、液体ヘリウムや液体窒素などの冷媒を用いて超電導コイル11を冷却する構成の超電導磁石装置であってもよい。
【0060】
また、第1~第5実施形態における超電導コイルが高温超電導コイルである場合に、各実施形態は特に有効である。即ち、高温超電導コイルは、接続抵抗が大きいために永久電流モードでは電流及び磁場の減衰が大きくなってしまい、磁場の安定性に課題がある。このため、高温超電導コイルを用いた超電導磁石装置では、永久電流モードを用いないで電源駆動方式が用いられることから、高温超電導コイルを用いた超電導磁石装置において、第1~第5実施形態を適用することで磁場の安定性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0061】
10…超電導磁石装置、11…超電導コイル、12…電源、13…コイル通電電線、14…保護抵抗、15…保護回路、17…温度可変装置、18…可変抵抗体、21…制御装置、25…超電導磁石装置、26…可変抵抗体、27…温度可変装置、30…超電導磁石装置、31…磁場センサ、32…制御装置、40…超電導磁石装置、41…真空容器、42…冷凍機、45…室温部側通電電線、46…低温部側通電電線、50…超電導磁石装置、A…室温部、B…低温部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7