(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】温度表示デバイス
(51)【国際特許分類】
G01K 11/18 20060101AFI20230718BHJP
C09K 9/02 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
G01K11/18
C09K9/02 B
(21)【出願番号】P 2019135013
(22)【出願日】2019-07-23
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【氏名又は名称】谷川 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100171251
【氏名又は名称】篠田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義則
(72)【発明者】
【氏名】三本木 法光
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-066210(JP,A)
【文献】特開2016-070731(JP,A)
【文献】特表2010-515793(JP,A)
【文献】西村 光平 Kohei NISHIMURA,紙面への発色型映像投影技術の多色化 Multiple Color Representation on Projection Based Color-forming Display,日本バーチャルリアリティ学会論文誌 第19巻 第3号 Transactions of the Virtual Reality Society of Japan,日本,特定非営利活動法人日本バーチャルリアリティ学会 The Virtual Reality Society of Japan,第19巻
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 11/00-11/20
C09K 9/00,9/02
C07D 333/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色の基材と、
前記基材上
に形成された温度インジケータと
、
時間情報が印字される領域として前記基材上に前記温度インジケータと面方向に並んで形成された時間情報表示部と、
を有し、
前記温度インジケータはフォトクロミック化合物を含み、
前記基材における前記温度インジケータとの界面には、蛍光増白剤が実質的に含まれない、温度表示デバイス。
【請求項2】
前記基材が蛍光増白剤を実質的に含まない、請求項1に記載の温度表示デバイス。
【請求項3】
前記基材は、前記温度インジケータとの界面に、蛍光増白剤を実質的に含まない遮断層を有する、請求項1又は2に記載の温度表示デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度表示デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、食品及び医薬品等は、製造後又は開封後の経過時間や保存温度環境に注意しなければならないことは経験的によく理解されている。例えば乳製品は、製造時から急速に劣化する。
【0003】
また、医薬品の多くは、その保管状態が適切に管理されることで初めてその医薬品としての効果を発揮するため、温度環境等の保管状態が適切に管理されなければならない。例えば、医薬品の代表例であるワクチンは生物由来製品であり、種類によって適切な保管状態が異なり、扱い方で効能が変わる。
今後、温度感受性の高い食品・医薬品の急増が予想されている。よってこれらの製品個々に対する適正な管理は、環境・資源の社会課題を解決するツールとして、多岐にわたり広い用途でますます重要である。
【0004】
例えば、設備インフラ業界や産業界においては、温度管理が施設等のモニタリング及び製品化工程や品質管理上で重要な管理項目として知られている。現状では、製品が管理される設備に設置される電子計測器を用いて温度管理されている。
食品及び医薬品等に対する温度管理用としての電子計測器の利用は、バッテリー駆動型の動作原理であり、個々の食品や医薬品に対して高コストであること、更に取扱い上の簡便性がないことから、本用途に適していない。
他の温度管理用ツールとしては、示温インク材料を利用したサーモラベルがある。サーモラベルは、取扱いは簡便性ではあるが、温度検知開始機能がない。示温インク材料は、発色反応が可逆性であるため、温度検知の対象や利用状況が限定される。また、サーモラベルは、高精度な温度測定が困難である。
【0005】
そのため、温度感受性の高い製品の保管時間並びに保管温度を簡便かつ正確に検知でき、その表示が可能なインジケータ、タグ、ラベル等が必要とされている。
特許文献1には、フォトクロミック化合物を含む光機能素子と、フォトクロミズムを利用した温度管理技術が開示されている。
【0006】
ここで、フォトクロミズムとは、光の作用により単一の化学種が分子量を変えることなく吸収スペクトルの異なる2つの異性体(A,B)を可逆的に生成する現象である。また、フォトクロミズムは、異性体Aに特定波長の光(例えば紫外線)を照射すると、結合様式あるいは電子状態に変化が生じ、異性体Bに変換し、その結果、紫外・可視吸収スペクトルが変化して色が変わる現象である。
特許文献1に記載の光機能素子は、以下に示す3つの特徴を有している。特許文献1には、このような特徴を有する光機能素子を、温度履歴表示材として使用することが開示されている。
(i)スイッチオン機能を備える。
(ii)加熱により再生不可能な消色が起こる。
(iii)着色状態が可視化で安定である。
【0007】
フォトクロミズムを利用した特許文献1に記載の技術は、外部刺激による色の変化を利用する原理であるため、電力消費はゼロである。また、曝される環境の温度変化を退色特性と経過時間による色の差から温度検知が行われることから、温度履歴の表示と記録及びエビデンス性を有する。
また、特許文献1に記載の技術は、小型で薄膜なデバイス仕様の実現が可能なことから、特許文献1に記載の技術を利用する場所や対象が限定されない。また、フレキシビリティ性が見込めることから、温度検知対象のサイズ等、種類を選ばない。
さらに、特許文献1に記載の技術を利用して、小型で薄膜なデバイスを実現する際は、ディスポーザル性、低コスト化、簡便性が期待でき、新たな温度インジケータとして有望である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の光機能素子は、加熱により再生不可能な消色が起こるとしているものの、この光機能素子を製品として実装した場合は、完全に再生不可能な消色とならない。具体的には、消色後に紫外線等の光を再度照射すると、20~50%の濃度で再発色が発生する。
本発明は、紫外線等の光を再度照射しても再発色しにくい温度表示デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、光機能素子を製品として実装する際に用いる基材が、再発色の一因であることを突き止めた。具体的には、光機能素子を温度表示デバイス等の製品として実装する際には、通常、バインダにフォトクロミック化合物を分散させた後に、基材表面に塗工・乾燥させて用いる。すなわち、フォトクロミック化合物はバインダ中に分散した状態で存在することとなる。フォトクロミック化合物は紫外線等の光が照射されると発色するが、このとき、基材まで到達した光の一部が反射し、その反射光がバインダ中のフォトクロミック化合物に到達することでもフォトクロミック化合物が発色することが判明した。一方、基材としては、フォトクロミック化合物の発色等が目立つように、通常、合成紙や上質紙等の白色の基材が用いられる。そして、このような白色の基材には、白色度を高める目的で、蛍光増白剤が含まれていることが一般的である。しかし、蛍光増白剤を含む基材では、基材まで到達した光を蛍光増白剤が吸収してしまい、光の反射が軽減されてしまう。その結果、基材からの反射光をフォトクロミック化合物の発色反応に充分に活用できず、一定比率で発色しないフォトクロミック化合物が残存してしまう。そのため、最初の光照射により発色したフォトクロミック化合物が再生不可能な消色に至っても、再度、光照射することで、最初の光照射により発色しなかったフォトクロミック化合物がまた一定比率で発色し、これが再発色したかのように見えると考えられる。なお、フォトクロミック化合物が溶剤に溶解した状態であれば、バインダ中のフォトクロミック化合物に隈なく光が照射されるため、再発色しにくい。
そこで、温度インジケータを通過した光を反射光として充分に活用できるようにすれば、バインダ中のフォトクロミック化合物に隈なく光が照射され、発色しないフォトクロミック化合物が残存しにくくなるとの着想に基づき、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の一態様に係る温度表示デバイスは、白色の基材と、前記基材上の温度インジケータとを有し、前記温度インジケータはフォトクロミック化合物を含み、前記基材における前記温度インジケータとの界面には、蛍光増白剤が実質的に含まれないことを特徴とする。
本態様によれば、温度インジケータに紫外線等の光を照射したときに、温度インジケータを通過した光を反射光として充分に活用でき、バインダ中のフォトクロミック化合物に隈なく光が照射され、発色しないフォトクロミック化合物が残存しにくく、紫外線等の光を再度照射しても再発色しにくい。よって、故意に紫外線等の光を再度照射することで、食品及び医薬品等の温度履歴を改ざんすることを防止できる。
また、本態様によれば、フォトクロミック化合物を含むので、温度逸脱履歴を正確に把握できる。しかも、構成が単純なため低コストで実現可能である。加えて、電池などの電源を必要としないため、環境負荷を軽減できる。
【0012】
上記の温度表示デバイスの一例として、前記基材が蛍光増白剤を実質的に含まないことが好ましい。
上記の温度表示デバイスの一例として、前記基材は、前記温度インジケータとの界面に、蛍光増白剤を実質的に含まない遮断層を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、紫外線等の光を再度照射しても再発色しにくい温度表示デバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る温度表示デバイスの平面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態における温度インジケータの退色特性の一例を示す図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る温度表示デバイスの発行装置を示す概略図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る温度表示デバイスの断面図である。
【
図6】本発明の第3実施形態に係る温度表示デバイスの断面図である。
【
図7】本発明の第4実施形態に係る温度表示デバイスの断面図である。
【
図8】本発明の第5実施形態に係る温度表示デバイスの断面図である。
【
図9】本発明の第6実施形態に係る温度表示デバイスの断面図である。
【
図10】実施例及び比較例における再発色率の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の温度表示デバイスについて、図を参照して具体的に説明する。ただし、以下に説明する実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるため具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、発明内容を限定するものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、数や、位置や、大きさ等についての変更、省略、追加及びその他の変更が可能である。
なお、後述する
図5~9において、
図1と同じ構成要素には同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0016】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る温度表示デバイスについて、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る温度表示デバイス20の平面図である。
図2は、
図1の温度表示デバイス20のII-II線における断面図である。
【0017】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の温度表示デバイス20は、基材21と、参照部22と、温度インジケータ23と、時間情報表示部24とを有する。平面視において、参照部22と、温度インジケータ23と、時間情報表示部24とは、基材21上の面方向に並んで形成されている。
【0018】
温度表示デバイス20は、温度管理を行う対象となる製品等の対象物(例えば食品、医薬品等)のパッケージ等に装着される。
温度表示デバイス20は、温度検知の対象となる対象物に貼付して使用することが想定される。このため、対象物の製品の仕様、サイズ、使用方法などに基づいて、基材21の形状及び大きさが選択される。
【0019】
基材21は白色である。
本発明において「白色」とは、通常の目視によって白く見える範囲の色をいう。すなわち可視光領域に特異な吸収波長を持たない物質により入射光を乱反射させる事ができる色をいう。
基材21の白色度は、70%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
白色度は、色彩計を用い、JIS P-8148に準拠して測定されるISO白色度である。
【0020】
また、本実施形態の基材21は、蛍光増白剤を実質的に含まない。すなわち、基材21における温度インジケータ23との界面には、蛍光増白剤が実質的に含まれない。よって、温度インジケータ23に紫外線等の光を照射したときに、温度インジケータ23を通過して基材21まで到達した光を効率よく反射できる。
本発明において「蛍光増白剤を実質的に含まない」及び「蛍光増白剤が」実質的に含まれない」とは、蛍光増白剤の効力が現れるほどには、蛍光増白剤を含んでいないことを意味する。
基材21の総質量に対して、蛍光増白剤の含有量は、0.01質量%未満であることが好ましく、0.005質量%以下であることがより好ましい。
蛍光増白剤としては、例えばジアミノスチルベンジスルホン酸、ビス(トリアジニルアミド)スチルベンジスルホン酸、ビススチルベンジスルホン酸等のスチレン系、チオフェノン系、クマリン系、オキサゾール系、ピラゾリン系の化合物などが挙げられる。
【0021】
基材21の材質としては、プラスチック、合成紙、上質紙などを挙げることができる。基材21は、合成紙又は上質紙であることが好ましい。温度表示デバイス20が低温下で使用され、結露が生じる可能性がある場合には、基材21として合成紙を使用することが好ましい。基材21として合成紙を使用すると、水分が基材21に染み込みにくく、強度が保たれる。
基材21としては市販品を用いることができ、例えば株式会社のユポ・コーポレーショ製のユポシリーズ、東洋紡株式会社製のクリスパーシリーズ、東レ株式会社製の「ルミラー S10」などが挙げられる。
【0022】
基材21は、板状、箔状等であってよい。基材21は、可撓性を有することが好ましい。基材21は、温度インジケータ23に照射される光(例えば紫外線)に対して透過性であってもよいし、非透過性であってもよいが、非透過性であることが好ましい。基材21は、例えば平面視略矩形のカード状であってよい。
【0023】
基材21の厚さは、参照部22及び温度インジケータ23を支持できる厚さであれば特に限定されないが、10μm~1.0mmであることが好ましく、より実用的な範囲として50μm~0.5mmであることが望ましい。
【0024】
基材21の材質は、印字がしやすいものを選択するようにしてもよい。基材21の材質は、記録方式によらず、温度インジケータ23の形成、インク付着性、印字等のパターン配置等を考慮して選択してもよい。例えば、基材21の表面領域の少なくとも一部を感熱紙で構成した場合、当該領域は、加熱により発色する感熱紙領域となる。感熱記録式の印字記録装置を採用する場合は、前記感熱紙領域に印字することができる。
【0025】
参照部22は、温度インジケータ23の色を特定するための指標となる基準色を呈する。目視により温度インジケータ23を参照部22と比較することによって、温度インジケータ23の色を判定することができる。
参照部22の構成は特に限定されないが、外部環境(温度、光など)の影響で変色することなく所望の色強度を維持でき、耐水性、耐光性に優れた材料(例えば顔料)を含んでいることが好ましい。
参照部22は、温度検知の対象となる対象物に装着して使用することが想定される対象の製品の仕様、サイズ、使用方法などに基づいて形状及び大きさが適宜選択される。
【0026】
温度インジケータ23は、フォトクロミック化合物を含む薄層である。
温度インジケータ23は、光の照射により温度の検知が開始される機能を有する。温度インジケータ23は、例えば、特定の波長の光が照射されることにより初期化されて色強度が変化する。色情報を認識することで、温度表示デバイス20が曝されていた温度、曝されていた温度における経過時間を確認することができる。
【0027】
温度インジケータ23は、特定の波長の光が照射されることにより不可逆的に変色(有色化)し、熱により不可逆的に退色(消色)する材料であるフォトクロミック化合物を含む。よって、温度インジケータ23に特定の波長の光を照射して変色させることにより、温度インジケータ23を初期化することができる。
すなわち、温度表示デバイス20が実際に使用される直前に、温度インジケータ23に光を照射することによって温度表示デバイス20が初期化される。よって、温度表示デバイス20が保存される温度環境、すなわち温度表示デバイス20が初期化される以前における温度環境には制約が少ない。例えば、2℃程度の低温における温度検知をするための温度表示デバイス20であっても、常温(例えば25℃)における保存が可能である。
【0028】
フォトクロミック化合物とは、エネルギーの低い基底状態(無色)から、紫外線等の光照射により励起状態となり、その後安定した異性体(有色)に不可逆的に変化する化合物である。さらに、この有色の異性体は、熱エネルギーによって退色する不可逆性を有している。この退色反応は、一定の熱エネルギー下で半永久的に継続する。つまり、フォトクロミック化合物の退色特性は、温度環境及び異性体に変化してからの経過時間に依存する。よって、フォトクロミック化合物に光照射することにより、有色の異性体に変化させることで温度表示デバイス20を初期化し、初期化時からの任意の経過時間と、フォトクロミック化合物の示す色を参照することによって、温度表示デバイス20(及び温度表示デバイス20が貼付された対象物)が曝された温度環境の推定判断が可能となる。
【0029】
フォトクロミック化合物としては、例えば、ジアリールエテン系、アゾベンゼン系、スピロピラン系、フルキド系が挙げられる。なかでも、ジアリールエテン系フォトクロミック化合物は、熱安定性、繰返し耐久性、熱に対して高感度であること、様々な温度で光反応可能であることなどの点で好ましい。ジアリールエテン系フォトクロミック化合物として、例えば一般式(1)に示す化合物が挙げられる。
【0030】
【0031】
一般式(1)中、Xは硫黄原子(S)又はスルホニル基(SO2)であり、Zは水素原子(H)又はフッ素原子(F)であり、R及びR’は同一又は異なっていてもよい炭素数1~7のアルキル基又は炭素数3~7のシクロアルキル基であり、かつR及びR’の少なくともいずれか一方が炭素数3~7の第二級アルキル基である。
【0032】
上述のように、フォトクロミック化合物は、特定の波長の光、例えば紫外線(例えば波長250~400nm)の照射により有色となる。一般式(1)のフォトクロミック化合物は、紫外線照射により、2つのチオフェン環に結合する2つの置換基R(ここではR’=Rとする)が結合して環を形成(閉環)し有色となる。有色のフォトクロミック化合物は、所定の温度未満では安定であるが、当該温度以上の条件に曝される(加熱される)ことにより消色(退色)する。
【0033】
温度検知の信頼性を高める観点から、フォトクロミック化合物は、有色状態において可視光下で安定であることが好ましい。
【0034】
温度インジケータ23に含まれるフォトクロミック化合物の含有量は、温度インジケータ23の全体の質量(総質量)に対して、0.1~20質量%であることが好ましく、より実用的な範囲として1~10質量%であることが望ましい。フォトクロミック化合物の含有量が0.1質量%以上であれば、初期化濃度が薄くなりすぎず、良好に認識できるため、温度検知精度を維持できる。フォトクロミック化合物の含有量が20質量%以下であれば、光照射による初期化の際、フォトクロミック化合物の反応率が低下しにくく、未初期化部分が発生しにくいため、紫外線等の光を再度照射してもより再発色しにくくなる。
【0035】
温度インジケータ23は、フォトクロミック化合物に加え、バインダを含んでいてもよい。
バインダとしては、熱可塑性エラストマーが挙げられる。
本明細書において「熱可塑性エラストマー」とは、1分子中にハードセグメントを構成するモノマーと、ソフトセグメントを構成するモノマーとがブロック共重合されているものである。
【0036】
熱可塑性エラストマーにおいて、分子量、ブロック数等は特に限定されず、例えば2種の重合体ブロックA及び重合体ブロックBからなるA-B型のジブロック共重合体や、2種の重合体ブロックA及び重合体ブロックBからなるA-B-A型のトリブロック共重合体等のいずれでもよく、これらの混合物であってもよい。この場合、重合体ブロックAがハードセグメント、重合体ブロックBがソフトセグメントとなる。
【0037】
熱可塑性エラストマーとしては、アクリル系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの中でも、適度な柔軟性を有し、透明性も高く、弾性と粘性のバランスにも優れる観点から、アクリル系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0038】
アクリル系熱可塑性エラストマーとしては、メタクリル酸アルキルエステル単位を有する重合体ブロックAと、アクリル酸アルキルエステル単位を有する重合体ブロックBとを含むジブロック共重合体やトリブロック共重合体が挙げられる。
メタクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸イソボルニルなどが挙げられる。
アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸トリデシル、アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。
【0039】
このようなアクリル系熱可塑性エラストマーとしては、例えばポリメタクリル酸メチル-ポリアクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸メチル-ポリアクリル酸2-エチルヘキシル、ポリメタクリル酸メチル-ポリアクリル酸ブチル-ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル-ポリアクリル酸2-エチルヘキシル-ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル-ポリアクリル酸2-エチルヘキシル-ポリメタクリル酸ラウリル等のブロック共重合体などが挙げられる。これらの中でも、メタクリル酸メチル単位と、アクリル酸ブチル単位をブロック単位として含む、ポリメタクリル酸メチル-ポリアクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸メチル-ポリアクリル酸ブチル-ポリメタクリル酸メチルが好ましい。
【0040】
アクリル系熱可塑性エラストマーとしては市販品を用いることができ、例えば株式会社クラレ製の「クラリティLA2250」、「クラリティLA2140」、「クラリティLA2330」、「クラリティLA3320」、「クラリティLA1140」、「クラリティLA1892」、「クラリティLA2270」、「クラリティLA4285」、「クラリティLK9243」、「クラリティKL-LK9333」などが挙げられる。
【0041】
バインダとしては、上述した熱可塑性エラストマー以外にも、例えばポリビニルアセタール樹脂、シリコーン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル、エポキシ樹脂、ニトロセルロース(硝化綿)、エチルセルロース、ポリアミド、イソプレンゴム等の環化ゴム、塩素化ポリオレフィン、マレイン酸樹脂、フェノール樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、石油樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネートなどを用いてもよい。
【0042】
温度インジケータ23に含まれるバインダの含有量は、温度インジケータ23の全体の質量(総質量)に対して、80~99.9質量%であることが好ましく、より実用的な範囲として90~99質量%であることが望ましい。バインダの含有量が80質量%以上であれば、温度インジケータ23を成膜しやすい。バインダの含有量が99.9質量%以下であれば、温度インジケータ23中のフォトクロミック化合物の量が充分となり、初期化濃度が薄くなりすぎず、良好に認識できるため、温度検知精度を維持できる。
【0043】
温度インジケータ23の厚さは、100nm~50μmであることが好ましく、より実用的な範囲として500nm~20μmであることが望ましい。温度インジケータ23の厚さが100nm以上であれば、初期化濃度が薄くなりすぎず、良好に認識できるため、温度検知精度を維持できる。温度インジケータ23の厚さが50μm以下であれば、光照射による初期化の際、温度インジケータ23の基材21に近い部分にまで光が充分に到達できる。よって、フォトクロミック化合物の反応率が低下しにくく、未初期化部分が発生しにくいため、紫外線等の光を再度照射してもより再発色しにくくなる。
また、温度インジケータ23は、温度検知の対象となる対象物に装着して使用することが想定される対象の製品の仕様、サイズ、使用方法などに基づいて形状及び大きさが適宜選択される。
【0044】
時間情報表示部24は、時間情報が印字される領域である。時間情報は、例えば、文字情報(文字としての印字)、バーコード、二次元コード等である。時間情報は、温度表示デバイス20を利用開始した時刻を示す時間情報である。なお、時間情報表示部24がバーコード、二次元コード等の場合、温度表示デバイス20が装着されている対象物に関する情報を含んでいてもよい。対象物に関する情報とは、例えば、製品名、対象物を識別するための識別情報等である。
【0045】
時間情報表示部24は、温度表示デバイス20が初期化される前に時間情報が印字されていてもよいし、温度インジケータ23が初期化される時に時間情報が印字されてもよい。
時間情報表示部24は、温度検知の対象となる対象物に装着して使用することが想定される対象の製品の仕様、サイズ、使用方法などに基づいて形状及び大きさが適宜選択される。
なお、
図1に示す温度表示デバイス20では、時間情報表示部24に時間情報が印字されている。
【0046】
(温度表示デバイスの製造方法)
本発明の一態様における温度表示デバイス20の製造方法の一例を以下に説明する。
【0047】
基材21上に、参照部22を形成する。参照部22を形成する方法としては、所望の色強度となるような顔料及び溶剤を含む溶液を調製し、この溶液を基材21上の一部に印刷した後、乾燥させる方法が挙げられる。
印刷方法としては、スクリーン印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、ドライオフセット印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、パッド印刷、オフセット印刷、シルク印刷、バーコーターを用いた印刷等が挙げられる。
【0048】
基材21上に、温度インジケータ23を形成する。温度インジケータ23を形成する方法としては、フォトクロミック化合物と、バインダと、溶剤とを含む溶液を調製し、この溶液を基材21上の一部に印刷した後、乾燥させる方法が挙げられる。
温度インジケータ23を形成する際に使用される溶剤は、温度インジケータ23や基材21の材料に応じて決定されるが、例えばミネラルスピリット、石油ナフサ、テレピン油、n-ブチル、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、テトラリン、酢酸、酢酸メトキシブチル、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、イソホロン、ジアセトンアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)、n-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、2-エトキシエタノール(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(セロソルブアセテート)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート(ブチルセロソルブアセテート)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)等が挙げられる。これらの材料を二種以上混合して溶剤として用いてもよい。中でも溶剤としては、トルエン、アセトンが好ましい。
【0049】
フォトクロミック化合物と、バインダと、溶剤とを含む溶液に含まれるフォトクロミック化合物の含有量は、前記溶液に適度な粘性が生じ、印刷の際に滲みにくく、前記溶液中にフォトクロミック化合物を均一に分散させることができるように適宜設定される。
印刷方法としては、参照部22を形成する際の印刷方法と同様の方法が挙げられる。
乾燥温度は、20~100℃の間で、生産性と温度インジケータ23のダメージを考慮して決定することが好ましい。
【0050】
なお、バインダとして熱硬化性樹脂や水性塗料などの無溶剤系樹脂を用いれば、溶剤を用いることなく温度インジケータ23を形成できる。すなわち、無溶剤系樹脂とフォトクロミック化合物とを混合し、得られた混合物を基材21上に印刷した後に加熱や乾燥により無溶剤系樹脂を硬化させることで、温度インジケータ23を形成する。この方法であれば、VOC(揮発性有機化合物)の排出を抑制できる。
【0051】
以上により、本実施形態における温度表示デバイス20が製造される。
【0052】
(温度表示デバイスの使用方法)
次に、温度表示デバイス20の使用方法の一例について説明する。
図3は、温度インジケータ23の退色特性の一例を示す図である。
図3の縦軸は、温度インジケータ23の色強度(例えば光吸収波長の光強度の吸収量や発色前を基準色とした場合の色差)であり、色強度が大きいほど濃い色である。横軸は、温度インジケータ23の初期化時からの経過時間を示す。
【0053】
図3に示すように、温度インジケータ23は、特定の波長の光が照射されて有色となった後、時間とともに退色(消色)する。
図3において、符号aは、第1の温度における色の経時変化を示す。符号bは、第1の温度より高い第2の温度における色の経時変化を示す。符号cは、第2の温度より高い第3の温度における色の経時変化を示す。このように、温度インジケータ23は、温度が高いほど退色(消色)が速くなる。色の強度は温度に応じた値となるため、色の強度に基づいて、温度表示デバイス20が置かれた環境の温度を知ることができる。
【0054】
参照部22における色強度は、温度インジケータ23に含まれるフォトクロミック化合物を有色とした(つまり初期化した)時点からの色強度の変化を、所定の温度条件下で予め測定しておき、所定の経過時間における色強度に基づいて定めることができる。例えば、参照部22の色強度を、想定された温度環境下における温度表示デバイス20の初期化時からの所定の経過時間後に得られる色強度とする。ここでは、温度表示デバイス20を5℃下で初期化から3時間保持した時に得られる色強度とする。
【0055】
次に、温度表示デバイス20を使用して対象物の温度検知を行う方法の一例について説明する。
まず、後述する発行装置を用いて、温度表示デバイス20の温度インジケータ23を初期化し、初期化された時刻を時間情報表示部24に印字する。なお本実施形態において、温度インジケータ23が初期化され、初期化された時刻等が時間情報表示部24に印字された状態の温度表示デバイス20を温度履歴管理ラベルと定義する。
【0056】
発行装置には、あらかじめ温度表示デバイス20が備えられている。発行装置に備えられた温度表示デバイス20の温度インジケータ23は、発行装置に設けられた光源から光が照射され、温度インジケータ23が初期化される。時間情報表示部24には、発行装置の印字記録部により温度インジケータ23が初期化された時刻等が印字される。時刻等の情報は、コード化されて時間情報表示部24に印字されてもよい。温度インジケータ23が初期化され、初期化された時刻が時間情報表示部24に印字されることにより、温度履歴管理ラベルが生成される。温度履歴管理ラベルは、発行装置から搬出され、温度検知の対象となる製品に直ちに貼付される。
【0057】
温度インジケータ23が初期化されてから3時間後、参照部22の色強度と、温度インジケータ23の色強度とを目視により比較する。温度インジケータ23の色強度が参照部22の色強度より高いと判断される場合、対象物は5℃より低い温度で保持されていたと推定される。温度インジケータ23の色強度が参照部22の色強度と同一と判断される場合、対象物は約5℃で保持されていたと推定される。温度インジケータ23の色強度が参照部22の色強度より低い場合、対象物は5℃より高い温度で保持されていたと推定される。
【0058】
以上のように、温度表示デバイス20が初期化されてから所定の時間経過後に目視により参照部22の色強度と温度インジケータ23の色強度とを比べることにより、温度履歴管理ラベルを取り付けた対象物が想定通りの温度環境にあったか否かを推定できる。本実施形態における温度表示デバイス20は、前記対象物の温度管理時間があらかじめ設定されている場合に有効である。
【0059】
なお、温度履歴管理ラベルの発行装置として、例えば
図4の発行装置50を用いることができる。発行装置50は、基材供給部55、印字記録部52、照射部53及び制御部51を備えている。また、発行装置50は、移動機構部(図示略)を備えている。
【0060】
基材供給部55は、例えば、長尺の温度表示デバイス20Aが巻回されたロール551(例えばロール紙)を備えることができる。温度表示デバイス20Aは、温度表示デバイス20の切断前の形態であり、複数の温度表示デバイス20が連なって構成されている。
なお、基材供給部55は、予め所定の大きさに切断された温度表示デバイスを供給できる方式(枚葉式)を採用してもよい。
【0061】
印字記録部52は、サーマルヘッドを用いた感熱記録式、インクリボン式、インクジェット式、電子写真式、レーザーマーキング式(レーザ光を照射して表面加工を行う方式)等、種々の印字記録方式が採用可能である。なかでも特に、感熱記録式を用いたサーマルプリンタが好ましい。サーマルプリンタは、動作音が非常に小さく、小型軽量に適した比較的簡単な構造で、コストが抑えられるという特長がある。また、サーマルプリンタは、インクリボン、インクカートリッジといったインク類を使用しないため、唯一の消耗品は感熱紙のみであり、簡便でランニングコストが抑えられるという利点もある。
印字記録部52は、温度表示デバイス20Aに、時刻や温度履歴管理ラベル40が取り付けられる対象物の情報等の表示情報を、温度表示デバイスにおける時間情報表示部に印字する。
【0062】
照射部53は、温度インジケータに照射する照射光の光源を備えている。照射部53による照射光の波長は、例えば紫外光領域(例えば250~400nm)である。紫外線は、短波長から、可視光領域に近い長波長に至る広い範囲で温度インジケータの着色が可能である。照射部53は、フォトクロミック化合物の開環体と閉環体の吸収スペクトルに基づいて、使用する照射光の波長を選択できる構成であることが望ましい。
【0063】
光源としては、LED式、ランプ式等がある。光源は、温度表示デバイスの仕様、及び発行装置50の仕様に応じて選択することができる。小型の発行装置50においては、紫外線LEDを光源として用いるのが好適である。紫外線LEDは波長帯域が狭いため、温度表示デバイスの温度インジケータ部のフォトクロミック吸収スペクトルから波長を選択し、その波長の光を照射できる紫外線LEDを選択するのが好ましい。ランプ式のように広い波長帯域の光源を用いる場合は、温度インジケータ部の吸収スペクトルに応じて、フィルターにより照射光の発色特性を調整することも可能である。
【0064】
照射部53は、光の照射時において発行装置50外に照射光が漏れないことが好ましい。照射部53は、印字記録部52より下流側(温度表示デバイス20Aの搬送方向の下流側)であって、発行装置50の出口(温度表示デバイス20Aが搬出される搬出口)に近い位置に設けられていてもよい。光照射により温度表示デバイス20Aの温度インジケータ部が温度検知を開始することから、照射部53が発行装置50の出口に近い位置にあると、温度検知の開始から短時間で対象製品に温度表示デバイスを貼付できるためである。また、印字記録部52が照射部53より搬送方向の上流側にあるため、印字の時点では温度検知が開始されていない。そのため、印字の際の加熱が温度インジケータの温度履歴に影響を与えない。よって、正確な温度履歴を表示することが可能となる。
【0065】
制御部51は、例えば、相互に接続されたCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)を備える。例えば、制御部51は、予め記憶されたプログラムをCPUにより実行する。
【0066】
また、制御部51は、照射制御部、印字制御部、情報取得部、計時部及び位置制御部(いずれも図示略)を備えている。
照射制御部は、照射部53による温度表示デバイス20Aへの光の照射を制御する。印字制御部は、印字記録部52による温度表示デバイス20Aへの表示情報の印字を制御する。前記表示情報は、例えば、温度表示デバイス20Aの温度検知の開始時間になる時間情報、すなわち温度インジケータ23に光を照射することにより温度表示デバイス20Aを初期化した時刻情報や、商品情報等である。
情報取得部は、時間情報、商品情報を取得する。計時部は、照射部53において温度インジケータに光を照射する照射時刻を計時し、時刻情報(照射時刻)を出力する。この構成によれば、正確な時刻を温度表示デバイス20Aに印字できる。
位置制御部は、例えば基材供給部55から供給される温度表示デバイス20Aの搬送を制御する。位置制御部は、温度表示デバイス20Aの位置に合わせて照射制御部及び印字制御部に制御信号を出力し、印字記録部52及び照射部53を動作させる。
【0067】
移動機構部は、モータ等の駆動部(図示略)によって長尺の温度表示デバイス20Aをロール551から繰り出し、印字記録部52及び照射部53を経て温度表示デバイスを送り出す。これによって温度表示デバイスが発行される。
【0068】
以上の構成を有する発行装置50を用いれば、本発明の温度表示デバイスの初期化と、初期化された時刻等の印字の双方を行うことが可能である。
【0069】
(作用効果)
上述した本実施形態の温度表示デバイス20は、基材21が蛍光増白剤を実質的に含まないため、温度インジケータ23に紫外線等の光を照射したときに、温度インジケータ23を通過して基材21まで到達した光を効率よく反射できる。その反射光がバインダ中のフォトクロミック化合物に到達することでもフォトクロミック化合物が発色するため、温度インジケータを通過した光を基材21からの反射光として充分に活用できる。よって、バインダ中のフォトクロミック化合物に隈なく光が照射され、発色しないフォトクロミック化合物が残存しにくく、紫外線等の光を再度照射しても再発色しにくい。具体的には、再発色率を20%以下にまで低減できる。よって、故意に紫外線等の光を再度照射することで、食品及び医薬品等の温度履歴を改ざんすることを防止できる。
また、本実施形態の温度インジケータ23はフォトクロミック化合物を含むので、温度逸脱履歴を正確に把握できる。しかも、構成が単純なため低コストで実現可能である。加えて、電池などの電源を必要としないため、環境負荷を軽減できる。
【0070】
(他の態様)
温度表示デバイス20は、温度インジケータ23の一部が基材21の一部に染み込んでいてもよい。
温度インジケータ23が基材21の一部に染み込む程度は、温度インジケータ23の形成方法に依存する。そのため、所望の温度インジケータ23の形態を得るには、温度インジケータ23の形成方法を適宜選択すればよい。例えば、温度インジケータ23の位置を制御するために、フォトクロミック化合物、バインダ及び溶剤を含む溶液の粘度を規定してもよい。
【0071】
温度表示デバイス20は、複数の色強度を有する参照部22を有していてもよい。また複数の温度インジケータ23を有していてもよい。
複数の参照部及び複数の温度インジケータを有していれば、温度表示デバイス20が貼付された対象物が管理温度範囲からどの程度逸脱したかを目視により容易に判定することが可能であり、本来管理されるべき温度範囲からどの程度逸脱したかを把握する必要がある場合に有用である。
【0072】
温度表示デバイス20のその他の使用方法として、読取処理装置を用いた温度検知方法が挙げられる。この態様における温度表示デバイス20は、参照部22を設けなくてもよい。
読取処理装置は、撮像機能を有する、例えばスマートフォン、タブレット端末、専用装置等である。読取処理装置は、その撮像手段を介して温度履歴管理ラベルの情報(温度インジケータ23、時間情報表示部24を含む画像)を読み取り、読み取った情報に基づいて温度履歴管理ラベル(温度表示デバイス20)が貼付されている対象物が曝されていた温度と経過時間等を求める。読取処理装置は、求めた対象物が曝されていた温度と温度履歴管理ラベルの初期化時からの経過時間等を表示部に表示させる。
このように、読取処理装置を用いて温度履歴管理ラベルの情報を読み取って温度検知を行うことにより、温度履歴管理ラベルを初期化してからの任意の経過時間において、簡便に、より正確に温度履歴管理ラベルが貼付されている対象物の温度管理を行うことが可能である。
【0073】
[第2施形態]
本発明の第2実施形態に係る温度表示デバイスについて、
図5を参照して説明する。
図5は、本発明の第2実施形態に係る温度表示デバイス20Bの断面図である。
本実施形態の温度表示デバイス20Bは、基材21の参照部22、温度インジケータ23及び時間情報表示部24が位置している面とは反対側の面に、粘着層31と、剥離層32とを有している以外は、第1実施形態に係る温度表示デバイスと同じである。
【0074】
粘着層31は、基材21と剥離層32との間に位置している。
粘着層31の材料は、温度検知対象物に温度表示デバイス20Bを貼付することが可能であれば特に限定されない。
剥離層32の材料は、粘着層31から容易に剥離することが可能であれば特に限定されない。
温度表示デバイス20Bを使用する直前に剥離層32を粘着層31から剥がし、剥離層32が剥離された温度表示デバイス20Bを対象物に貼付して使用することができる。
【0075】
[第3施形態]
本発明の第3実施形態に係る温度表示デバイスについて、
図6を参照して説明する。
図6は、本発明の第3実施形態に係る温度表示デバイス20Cの断面図である。
本実施形態の温度表示デバイス20Cは、温度インジケータ23上に保護層33を有している以外は、第1実施形態に係る温度表示デバイスと同じである。
【0076】
保護層33の面積は、温度インジケータ23の面積より大きい。保護層33は、温度インジケータ23全体を覆うように配置されることが好ましい。保護層33を設けることにより、温度インジケータ23に対する温度、湿度、薬品等の影響を抑制することができる。また、保護層33は、時間情報表示部24への印字の際に、温度インジケータ23が加熱されることを防止する。温度表示デバイス20Cに保護層33を設けることにより、印字に用いられるサーマルプリンタ等の印字装置の印字位置精度が低い場合においても、温度インジケータ23への熱の影響を抑えることが可能である。保護層33は、温度インジケータ23上だけでなく、温度表示デバイス20Cの表面全体を覆っていてもよい。
【0077】
保護層33は、熱的及び化学的に安定なシリコーン塗布層であることが好ましいが、熱的及び化学的に安定な層であれば、特に限定されない。例えば、保護層33として、ポリビニルアルコール等からなる水性エマルジョンコーティング層、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂からなる透明なフィルムからなるラミネート層などが挙げられる。
保護層33の形成方法としては、例えば、保護層33としてシリコーン塗布層を用いる場合、温度インジケータ23全体を覆うようにシリコーン塗布層を形成するための溶液を塗布して乾燥することにより形成することができる。他の方法として、保護層33としてラミネート層を用いる場合、温度インジケータ23全体を覆うようにラミネート層を配置し、圧着することでラミネート層を固定することで保護層33を形成することができる。
【0078】
なお、温度表示デバイス20Cに保護層33を設けない場合であっても、温度表示デバイス20Cの寸法と、温度インジケータ23、時間情報表示部24のレイアウトを予め印字装置に記憶させておき、温度インジケータ23の位置を避けるように印字範囲を設定しておけばよい。このようにすることで、印字の際に温度インジケータ23を直接加熱することがなく、温度インジケータ23の温度特性に影響を与えずに時刻及びその他の情報を印字することが可能である。
また、本実施形態において、基材21の参照部22、温度インジケータ23、時間情報表示部24及び保護層33が位置している面とは反対側の面に、粘着層及び剥離層(いずれも図示略)がこの順で設けられていてもよい。
【0079】
[第4施形態]
本発明の第4実施形態に係る温度表示デバイスについて、
図7を参照して説明する。
図7は、本発明の第4実施形態に係る温度表示デバイス20Dの断面図である。
本実施形態の温度表示デバイス20Dは、基材21Dと、参照部22と、温度インジケータ23と、時間情報表示部24とを有する。平面視において、参照部22と、温度インジケータ23と、時間情報表示部24とは、基材21D上の面方向に並んで形成されている。
【0080】
本実施形態の基材21Dは、基材本体211と、遮断層212とを有する。
基材本体211は、白色である。
基材本体211は、蛍光増白剤を含んでいてもよいし、実質的に蛍光増白剤を含んでいなくてもよい。基材本体211の白色度が高まる観点では、基材本体211は蛍光増白剤を含むことが好ましい。
基材本体211が蛍光増白剤を含む場合、蛍光増白剤の含有量は、基材本体211の総質量に対して0.01~5質量%であることが好ましく、0.1~1質量%であることがより好ましい。
蛍光増白剤としては、本発明の第1実施形態の説明において先に例示した蛍光増白剤が挙げられる。
【0081】
基材本体211の材質、形状、厚さ等については、本発明の第1実施形態で説明した基材と同様である。
【0082】
遮断層212は、温度インジケータ23が基材本体211に直接接することを妨げるように、基材本体211と温度インジケータ23との間に形成されている。すなわち、基材21Dは、温度インジケータ23との界面に遮断層212を有する。
遮断層212は、蛍光増白剤を実質的に含まない。遮断層212の面積は、温度インジケータ23の面積より大きい。よって、基材本体211が蛍光増白剤を含んでいたとしても、基材21Dにおける温度インジケータ23との界面には、蛍光増白剤が実質的に含まれない。
基材21Dが、温度インジケータ23との界面に遮断層212を有していれば、温度インジケータ23に紫外線等の光を照射したときに、温度インジケータ23を通過した光が遮断層212で反射される。そのため、基材本体211が蛍光増白剤を含んでいても、温度インジケータ23を通過した光を遮断層212からの反射光として充分に活用できる。加えて、遮断層212を配置することにより、温度インジケータ23を形成するための溶剤やバインダ等が基材本体211に染み込むことで基材本体211が変色することを防ぐことができる。
【0083】
遮断層212の材料としては、温度インジケータ23に照射される光(例えば紫外線)に対して非透過性である材料が好ましい。特に、光が反射されやすくなる観点から、温度インジケータ23や基材本体211と、遮断層212との屈折率の差が大きくなるような材料を用いることが好ましい。
このような材料としては、例えば塩化ビニル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル、エポキシ樹脂、ニトロセルロース(硝化綿)、エチルセルロース樹脂、ポリアミド、イソプレンゴム等の環化ゴム、塩素化ポリオレフィン、マレイン酸樹脂、フェノール樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、石油樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート等が挙げられる。上記の材料は、紫外線硬化性等の光硬化性の樹脂であってもよい。遮断層の材料として、アクリル樹脂が好ましい。
【0084】
遮断層212の厚さは、1μm~2mmであることが好ましく、より実用的な範囲として10μm~0.5mmであることが望ましい。遮断層212の厚さが1μm以上であれば、紫外線等の光を照射したときに、光が遮断層212を通過してその下の基材本体211にまで到達することをより抑制できる。遮断層212の厚さが2mm以下であれば、遮断層212上に温度インジケータ23を形成しやすくなる。
【0085】
遮断層212の形成方法としては、以下の方法が挙げられる。
まず上述の遮断層212の材料及び溶剤を含む溶液を調製する。遮断層212は、基材本体211上の温度インジケータ23が形成される箇所に、遮断層212の材料及び溶剤を含む溶液を印刷して乾燥することにより形成される。印刷方法としては、参照部22を形成する際の印刷方法と同様の方法が挙げられる。
【0086】
また、遮断層212として、感熱記録層を用いてもよい。その場合は、基材本体211上の温度インジケータ23が形成される箇所に、ロイコ染料、顕色剤及び溶剤を含む溶液を塗布し、乾燥することにより溶剤を除去し、感熱記録層を形成する。
あるいは、光の反射をより効果的に利用できる観点から、遮断層212としてアルミニウムなどの金属薄膜を用いてもよい。その場合は、基材本体211上の温度インジケータ23が形成される箇所に、接着剤を介してアルミニウム箔などの金属箔を接着することにより金属薄膜からなる光反射層を形成する。
【0087】
[第5施形態]
本発明の第5実施形態に係る温度表示デバイスについて、
図8を参照して説明する。
図8は、本発明の第5実施形態に係る温度表示デバイス20Eの断面図である。
本実施形態の温度表示デバイス20Eは、基材21Dの参照部22、温度インジケータ23及び時間情報表示部24が位置している面とは反対側の面に、粘着層31と、剥離層32とを有している以外は、第4実施形態に係る温度表示デバイスと同じである。
【0088】
粘着層31は、基材21Dと剥離層32との間に位置している。
粘着層31の材料は、温度検知対象物に温度表示デバイス20Eを貼付することが可能であれば特に限定されない。
剥離層32の材料は、粘着層31から容易に剥離することが可能であれば特に限定されない。
温度表示デバイス20Eを使用する直前に剥離層32を粘着層31から剥がし、剥離層32が剥離された温度表示デバイス20Eを対象物に貼付して使用することができる。
【0089】
[第6施形態]
本発明の第6実施形態に係る温度表示デバイスについて、
図9を参照して説明する。
図9は、本発明の第6実施形態に係る温度表示デバイス20Fの断面図である。
本実施形態の温度表示デバイス20Fは、温度インジケータ23上に保護層33を有している以外は、第4実施形態に係る温度表示デバイスと同じである。
保護層33は、本発明の第3実施形態の温度表示デバイスに備わる保護層と同じである。
なお、本実施形態において、基材21Dの参照部22、温度インジケータ23、時間情報表示部24及び保護層33が位置している面とは反対側の面に、粘着層及び剥離層(いずれも図示略)がこの順で設けられていてもよい。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例及び比較例における測定方法は以下の通りである。
【0091】
[測定方法]
<再発色率の測定>
色彩計(コニカミノルタ株式会社製、「FD-5」)を用い、照明条件をD50(色濃度5003k)とし、視野を2°視野として、光照射前の温度インジケータについてL*a*b*色空間におけるL*、a*、b*を測定した。
次いで、温度インジケータに紫外線を照射して発色させ、照射直後の温度インジケータのL*、a*、b*を同様に測定し、下記式(i)より色差(ΔE1)を求めた。
次いで、温度インジケータが完全に消色したことを確認した後に、再度、温度インジケータに紫外線を照射し、照射直後の温度インジケータのL*、a*、b*を同様に測定し、下記式(ii)より色差(ΔE2)を求めた。
下記式(iii)より再発色率を求めた。なお、再発色率が20%以下であれば目視による再発色は認められないことから、再発色率が20%以下の場合を合格とする。
ΔE1={(L0
*-L1
*)2+(a0
*-a1
*)2+(b0
*-b1
*)2}1/2 ・・・(i)
ΔE2={(L0
*-L2
*)2+(a0
*-a2
*)2+(b0
*-b2
*)2}1/2 ・・・(ii)
再発色率[%]=(色差(ΔE2)/色差(ΔE1))×100 ・・・(iii)
ただし、L0
*、a0
*、b0
*は、光照射前の温度インジケータの表面のL*、a*、b*であり、L1
*、a1
*、b1
*は、1回目の光照射直後の温度インジケータの表面のL*、a*、b*であり、L2
*、a2
*、b2
*は、2回目の光照射直後の温度インジケータの表面のL*、a*、b*である。
【0092】
[実施例1]
溶剤としてトルエン27gに、フォトクロミック化合物として上記一般式(1)で示す化合物(式(1)中、Xは硫黄原子であり、Zはいずれもフッ素原子であり、R及びR’はそれぞれ-CH(Pr)
2であり、Prはn-プロピル基である化合物)0.15gと、バインダとしてポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業株式会社製、「エスレックBL-1」、ブチラール樹脂)3gを添加し、撹拌して溶液(塗工液)を調製した。
基材として蛍光増白剤を実質的に含まないポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ株式会社製、「ルミラー S10」、汎用ポリエステルフィルム)上に塗工液を乾燥後の厚さが1μmとなるようにバーコーターを用いて塗工し、自然乾燥させ、基材上にフォトクロミック化合物及びバインダを含む温度インジケータが形成された温度表示デバイスを得た。
得られた温度表示デバイスについて、温度インジケータの再発色率を測定した。これらの結果を表1、
図10に示す。
なお、再発色率の測定では、基材の下に合成紙(株式会社ユポ・コーポレーション製、「ユポタック SGS110」、白色度97%)を敷いて、測定した。
【0093】
[実施例2]
バインダとしてポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業株式会社製、「エスレックBM-S」、ブチラール樹脂)を用いた以外は、実施例1と同様にして温度表示デバイスを製造し、再発色率を測定した。結果を表1、
図10に示す。
【0094】
[実施例3]
バインダとしてアクリル樹脂溶液(楠本化成株式会社製、「HIPLAAD ER2800」)を固形分換算で3g用いた以外は、実施例1と同様にして温度表示デバイスを製造し、再発色率を測定した。結果を表1、
図10に示す。
【0095】
[実施例4]
バインダとしてアクリル樹脂溶液(楠本化成株式会社製、「HIPLAAD ER2600」)を固形分換算で3g用いた以外は、実施例1と同様にして温度表示デバイスを製造し、再発色率を測定した。結果を表1、
図10に示す。
【0096】
[比較例1]
基材として蛍光増白剤を含むPETフィルム(東レ株式会社製、「ルミラー E20」、白色高遮蔽ポリエステルフィルム)を用いた以外は、実施例1と同様にして温度表示デバイスを製造し、再発色率を測定した。結果を表1、
図10に示す。
【0097】
[比較例2]
基材として蛍光増白剤を含むPETフィルム(東レ株式会社製、「ルミラー E20」、白色高遮蔽ポリエステルフィルム)を用いた以外は、実施例2と同様にして温度表示デバイスを製造し、再発色率を測定した。結果を表1、
図10に示す。
【0098】
[比較例3]
基材として蛍光増白剤を含むPETフィルム(東レ株式会社製、「ルミラー E20」、白色高遮蔽ポリエステルフィルム)を用いた以外は、実施例3と同様にして温度表示デバイスを製造し、再発色率を測定した。結果を表1、
図10に示す。
【0099】
[比較例4]
基材として蛍光増白剤を含むPETフィルム(東レ株式会社製、「ルミラー E20」、白色高遮蔽ポリエステルフィルム)を用いた以外は、実施例4と同様にして温度表示デバイスを製造し、再発色率を測定した。結果を表1、
図10に示す。
【0100】
【0101】
表1及び
図10から明らかなように、実施例1~4で得られた温度表示デバイスは、再発色率が20%以下と低く、再発色しにくかった。
一方、蛍光増白剤を含む基材を用いた比較例1~4で得られた温度表示デバイスは、再発色率が20%を超えており、再発色しやすかった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の温度表示デバイスは、紫外線等の光を再度照射しても再発色しにくく、任意の経過時間における温度履歴を正確に表示できる。
【符号の説明】
【0103】
20,20A,20B,20C,20D,20E,20F…温度表示デバイス、21,21D…基材、211…基材本体、212…遮断層、22…参照部、23…温度インジケータ、24…時間情報表示部、31…粘着層、32…剥離層、33…保護層、40…温度履歴管理ラベル。