(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】車両のハンドル装置
(51)【国際特許分類】
E05B 77/06 20140101AFI20230718BHJP
E05B 85/16 20140101ALI20230718BHJP
E05B 5/02 20060101ALI20230718BHJP
B60J 5/04 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
E05B77/06 A
E05B85/16 D
E05B5/02 D
B60J5/04 H
(21)【出願番号】P 2019165088
(22)【出願日】2019-09-11
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000170598
【氏名又は名称】株式会社アルファ
(74)【代理人】
【識別番号】100093986
【氏名又は名称】山川 雅男
(72)【発明者】
【氏名】遠山 孝生
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/210903(WO,A1)
【文献】特開2011-256654(JP,A)
【文献】国際公開第2013/153947(WO,A1)
【文献】特開2008-156936(JP,A)
【文献】特開2019-044485(JP,A)
【文献】特開2015-090028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 77/00-85/28
B60J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動アクチュエータにより初期位置からポップアップ位置まで駆動されたハンドル本体をポップアップ位置を超えるラッチ操作位置まで手動操作してラッチ解除レバーをラッチ解除位置まで回転駆動し、ドア内のドアラッチ装置をラッチ解除動作させる車両のハンドル装置であって、
前記ハンドル本体の動作に伴って該ハンドル本体の初期位置に対応する初期対応位置から前記ラッチ解除レバーを押動してラッチ解除位置まで回転駆動するレバー押動部材を備え、
前記レバー押動部材には、
レバー押動部近傍にウエイト部が形成されることで、車両への衝突衝撃負荷時に発生するラッチ解除位置側への慣性力を相殺する慣性モーメントが与えられる車両のハンドル装置。
【請求項2】
一端が前記ハンドル本体の一端に、他端がハンドルベースに各々回転自在に連結され、前記電動アクチュエータにより駆動される駆動アームを有し、
前記レバー押動部材は、前記ハンドル本体の他端に一端が、他端がハンドルベースに回転自在に連結されて、前記ハンドル本体、および前記駆動アームと協働してリンク機構を構成する作動アームに一体形成される請求項1記載の車両のハンドル装置。
【請求項3】
前記作動アームとハンドル本体
とは、ハンドル本体に固定される連結ピンを作動アームに形成される長孔に挿通させて回転、かつスライド自在に連結され、
前記ハンドル本体のポップアップ位置からラッチ操作位置までの移行は、前記ハンドル本体を該ハンドル本体と駆動アームとの回転中心周りに回転させて行われる請求項2記載の車両のハンドル装置。
【請求項4】
衝突衝撃荷重が負荷された際に停止位置まで回転して前記レバー押動部材のラッチ解除位置側への移動を規制する慣性ストッパを備える請求項1、2または3記載の車両のハンドル装置。
【請求項5】
前記レバー押動部材には、ハンドル本体が初期位置からポップアップ位置に至るまでの領域内でラッチ解除レバーのラッチ解除位置への移行を規制し、ラッチ操作位置において規制を解除する規制壁が設けられる請求項1から4のいずれかに記載の車両のハンドル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両のハンドル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不使用時に車両のドア等に形成された凹部内に格納され、使用に際して電動アクチュエータにより突出位置まで移動させるフラッシュサーフェイス仕様のハンドル装置としては、特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
この従来例において、ハンドル装置は、回転軸周りに回転可能なアウトハンドル(ハンドル本体)と、ハンドル本体に形成された連結突部が嵌合する連結孔を備えて所定の回転軸周りに回転自在なハンドルレバーと、電動モータにより回転駆動される駆動レバーとを有する。
【0004】
ハンドル本体を不使用時に保持する初期位置から電動モータを駆動すると、駆動レバーが回転し、この駆動レバーに設けられるピンに当接ピンが押圧されてハンドルレバーが回転することによりハンドル本体は初期位置からポップアップ位置に移動する。
【0005】
ポップアップ位置からさらに、ハンドル本体を回転操作すると、駆動レバーの回転に伴って解除レバーが回転し、該解除レバーに連結されたラッチ機構のラッチ解除動作が行われる。
【0006】
また、ハンドル本体が取り付けられる支持ケースにはイナーシャレバーが回転自在に連結されており、衝突による衝撃が負荷された際に規制位置まで回転し、初期位置にあるハンドル本体の動作を規制してドアロックの不用意な解除操作、およびこれに伴うドアの開放動作を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した従来例において、イナーシャレバーは、ハンドル本体が初期位置にあるときにのみハンドル本体の動作を規制することができるだけで、ポップアップ姿勢にあるハンドル本体の衝突時の移動を規制することができないために、ドアの開放動作を防止できないという欠点がある。
【0009】
本発明は、以上の欠点を解消すべくなされたものであって、ハンドル本体が初期位置、あるいはポップアップ位置のいずれにあっても衝突衝撃によるドア開放を確実に防止可能なハンドル装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば上記目的は、
電動アクチュエータ1により初期位置からポップアップ位置まで駆動されたハンドル本体2をポップアップ位置を超えるラッチ操作位置まで手動操作してラッチ解除レバー3をラッチ解除位置まで回転駆動し、ドア内のドアラッチ装置4をラッチ解除動作させる車両のハンドル装置であって、
前記ハンドル本体2の動作に伴って該ハンドル本体2の初期位置に対応する初期対応位置から前記ラッチ解除レバー3を押動してラッチ解除位置まで回転駆動するレバー押動部材6を備え、
前記レバー押動部材6には、レバー押動部6a近傍にウエイト部6dが形成されることで、車両への衝突衝撃負荷時に発生するラッチ解除位置側への慣性力を相殺する慣性モーメントが与えられる車両のハンドル装置を提供することにより達成される。
【0011】
本発明において、電動アクチュエータ1によりポップアップ位置まで駆動されたハンドル本体2をさらにラッチ操作位置まで操作すると、レバー押動部材6はハンドル本体2の初期位置に対応する初期対応位置からラッチ解除操作位置まで回転する。
【0012】
ラッチ解除レバー3は、レバー押動部材6のラッチ解除操作位置への移動に伴ってラッチ解除位置に移動し、ドアラッチ装置4を作動させる。
【0013】
ハンドル本体2が初期位置、あるいはポップアップ位置にあるときに側方衝突等による衝撃力が与えられると、ハンドル本体2にはラッチ操作位置まで移動する慣性力が発生し、これに伴いレバー押動部材6にはラッチ操作対応位置方向への回転力が発生する。
【0014】
ラッチ解除レバー3への押動方向と反対方向に回転させる慣性モーメントがレバー押動部材6に設定される本発明において、衝突による衝撃が負荷された際であっても、レバー押動部材6への衝撃により発生する慣性力は自身に設定された慣性モーメントにより相殺されるために、ラッチ解除レバー3への操作が行われることなく、不用意なドアの開放が防止される。
【0015】
レバー押動部材6は、ハンドル本体2の動作に伴って初期対応位置からラッチ操作対応位置まで移動可能であれば、ハンドル本体2に一体形成したり、あるいは、ハンドル本体2を含む適宜のリンク機構内の適宜の構成リンクに形成することもできる。
【0016】
この場合、ハンドル装置は、
一端が前記ハンドル本体2の一端に、他端がハンドルベース7に各々回転自在に連結され、前記電動アクチュエータ1により駆動される駆動アーム8を有し、
前記レバー押動部材6は、前記ハンドル本体2の他端に一端が、他端がハンドルベース7に回転自在に連結されて、前記ハンドル本体2、および前記駆動アーム8と協働してリンク機構を構成する作動アーム5に一体形成して構成することができる。
【0017】
本態様において、駆動アーム8をモータ等の電動アクチュエータ1により回転駆動すると、一端に作動アーム5が、他端に駆動アーム8が連結されて全体としてリンク機構を構成するハンドル本体2が初期位置からポップアップ位置に移動し、この後、ハンドル本体2をさらに操作してラッチ操作位置まで移動させると、作動アーム5に固定されるレバー押動部材6はラッチ操作対応位置まで移動し、ラッチ解除レバー3が駆動されてドアラッチ装置4が作動する。
【0018】
このリンク機構は、ハンドルベース7、駆動アーム8、作動アーム5、およびハンドル本体2により四節のリンク機構として構成することが可能であり、この場合、ドアラッチ装置4のラッチ解除操作は、電動アクチュエータ1によりポップアップ位置まで駆動されたハンドル本体2を、手動でさらにラッチ操作位置まで引き出すことにより行うことができる。
【0019】
また、上記四節のリンク機構を平行リンク機構として構成すると、ハンドル本体2は、初期位置から平行に移動するために、使い勝手が良好になる。
【0020】
さらに、
前記作動アーム5とハンドル本体2とは、ハンドル本体2に固定される連結ピン12を作動アーム5に形成される長孔5aに挿通させて回転、かつスライド自在に連結され、
前記作動アーム5とハンドル本体2との連結部に滑り対偶が追加され、
前記ハンドル本体2のポップアップ位置からラッチ操作位置までの移行は、前記ハンドル本体2を該ハンドル本体2と駆動アーム8との回転中心周りに回転させて行われる車両のハンドル装置を構成した場合には、初期位置からポップアップ位置までは四節リンク機構として動作させた後、ハンドル本体2を駆動アーム8との連結部周りに回転させた位置をラッチ操作位置とすることができる。
【0021】
また、ハンドル装置は、
衝突衝撃荷重が負荷された際に停止位置まで回転して前記レバー押動部材6のラッチ解除位置側への移動を規制する慣性ストッパ9を備えて構成することができる。
【0022】
本態様において、慣性ストッパ9は、衝突衝撃が負荷された際に慣性力により停止位置まで回転する慣性モーメントを有するように形成されており、停止位置においてはレバー押動部材6のラッチ操作対応位置側への移動経路を閉塞して当該方向への移動を規制する。
【0023】
したがって、衝突衝撃荷重が負荷されると、レバー押動部材6のラッチ操作対応位置方向への移動が規制されるために、ラッチ解除レバー3が作動することがない。
【0024】
慣性ストッパ9は、ハンドル本体2の初期位置からポップアップ位置への移動を規制する位置か、あるいはポップアップ位置からラッチ操作位置への移動を規制する位置のいずれかを選択して配置することができるが、衝突の可能性の高さを考慮して、ハンドル本体2の初期位置からポップアップ位置への移動を規制する位置に配置するのが望ましい。
【0025】
さらに、ハンドル装置は、
前記レバー押動部材6には、ハンドル本体2が初期位置からポップアップ位置に至るまでの領域内でラッチ解除レバー3のラッチ解除位置への移行を規制し、ラッチ操作位置において規制を解除する規制壁10が設けられるように構成することができる。
【0026】
本態様において、衝突による衝撃力が付与されてラッチ解除レバー3に慣性によりラッチ解除位置方向への操作力が発生しても、ラッチ解除レバー3はレバー押動部材6に設けられた規制壁10により当該方向への移動が規制されるために、不用意にドアラッチ装置4を作動させることがない。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ハンドル本体が初期位置、あるいはポップアップ位置のいずれにあっても衝突衝撃によるドア開放を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図4】駆動アームの駆動源を示す図で、(a)は電動アクチュエータの動力伝達を示す図、(b)はカムを示す図、(c)はカム線図を示す図である。
【
図5】カムの動作を示す図で、(a)は駆動アームが初期対応位置にある状態を示す図、(b)は初期対応位置とポップアップ対応位置の間の状態を示す図、(c)はポップアップ対応位置を示す図である。
【
図6】ハンドルの操作を示す図で、(a)はハンドル本体のポップアップ位置を示す図、(b)はラッチ操作位置を示す図である。
【
図7】ラッチ解除レバーを示す図で、(a)は
図2の要部拡大図、(b)は
図7(a)の7B方向矢視図、(c)はラッチ解除レバーを
図7(b)の矢印7C方向から見た図である。
【
図8】ラッチ解除レバーを示す図で、(a)は(b)の8A方向矢視図、(b)は斜視図である。
【
図9】レバー押動部材を示す図で、(a)は(d)の9A方向矢視図、(b)は(a)の9B-9B線断面図、(c)は(a)の9C-9C線断面図である。
【
図10】ラッチ解除レバーの動作を示す図で、(a)は
図7(b)の10A-10A線断面図、(b)は
図7(b)の10B-10B線断面図、(c)は作動アームが初期対応位置とポップアップ対応位置との中間位置にあるときの
図10(a)に対応する図、(d)は作動アームがポップアップ対応位置にあるときの
図10(a)に対応する図、(e)は作動アームがポップアップ対応位置にあるときの
図10(b)に対応する図である。
【
図11】慣性ストッパの動作を示す図で、(a)は非動作状態を示す図、(b)は衝撃荷重によりストッパ回転位置に回転した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1以下に示すように、ドアハンドル装置は、ハンドルベース7と、ハンドル本体2と、このハンドル本体2をハンドルベース7に連結する駆動アーム8、および作動アーム5とを有し、ハンドルベース7において車両のドアに固定される。
【0030】
ハンドルベース7をドアに固定した状態でハンドル本体2は
図1、3に示す初期位置と、
図6(a)に示すポップアップ位置、および
図6(b)に示すように、ポップアップ位置からハンドル本体2の一端を引き上げたラッチ操作位置まで移動させることができる。
【0031】
ドアハンドル装置は、ハンドル本体2が不使用時にドア内に格納されてハンドル本体2の表面がドア表面とほぼ同一面となるフラッシュサーフェイス仕様であり、ハンドル本体2の初期位置が不使用姿勢に対応し、ハンドルベース7には、初期位置のハンドル本体2を格納するハンドル収容凹部7aが形成される(
図3参照)。
【0032】
図3に示すように、上記ハンドルベース7には、駆動アーム8と作動アーム5とが回転中心周りに回転自在に連結される。駆動アーム8と作動アーム5のハンドルベース7に対する回転中心(C87、C57)は、前後方向、すなわちハンドルベース7の長手方向に適宜間隔離れており、駆動アーム8の回転中心(C87)は、作動アーム5の回転中心(C57)の前方に配置される。
【0033】
なお、本明細書において
図1の左側を「前方」、右側を「後方」、
図1の紙面手前側を「表面」方向、反対方向を「裏面」方向とする。
【0034】
また、ハンドルベース7にはモータ等の電動アクチュエータ1が固定され、
図4に示すように、モータ1の動力は、ウオーム1a、ウオームホイル1b、減速歯車1cを経由してハンドルベースに回転自在に連結されるカム11に伝達される。
【0035】
回転中心(C11)周りに回転駆動されるカム11に対応するように、上記駆動アーム8には、被押圧部8aが形成されており、この被押圧部8aがカム11により押されることにより、駆動アーム8は、カム11の回転に伴ってハンドル本体2の初期位置に対応する初期対応位置からハンドル本体2のポップアップ位置に対応するポップアップ対応位置まで回転する。
【0036】
被押圧部8aのカム11への接触を確保するために、ハンドルベース7と駆動アーム8との連結部(C87)周りには、トーションスプリング8bが装着されて駆動アーム8を
図3において反時計回りに付勢している。
【0037】
カム11は、
図4(b)に示すように、ハンドル本体2が初期位置にあるときに始点(P1)において被押圧部8aに接触し、接触状態を維持しながら回転中心(C11)周りに
図4(b)において反時計回りに角度θだけ回転し、終点(P2)における接触時にハンドル本体2がポップアップ位置に移動する。
【0038】
図5は以上のようにしてカム11により駆動アーム8が作動する状態を示す説明図で、(a)は駆動アーム8が初期対応位置にある状態、(c)はポップアップ対応位置にある状態、(b)はその途上を示している。図中(H)はハンドル本体2との連結点(C28)の移動量で、
図4(c)はこの移動量を得るためのカム11のカム線図であり、横軸にカム11の回転角度(θ)、縦軸にハンドル本体2との連結点の高さ方向移動量(H)を示す。
【0039】
図4(c)に示すように、カム11は、単位角度あたりの駆動アーム8のハンドル本体2との連結点の高さ方向への移動距離の増分が、回転初期において小さく、終点に近づくにつれて漸次大きくなるように設定されており、モータによる駆動直後は垂直方向にゆっくりと上昇し、ポップアップ位置に近付くにつれて徐々に上昇速度を上げるように駆動される。
【0040】
この結果、上昇速度の低い駆動初期、すなわち、ハンドル本体2が初期位置から移動を開始する際の駆動力は最大となり、例えば、ハンドル本体2の周囲に薄い氷が形成されている場合であっても、結氷を破砕するだけの十分な駆動力を期待でき、氷結による動作不良を防止することができる。
【0041】
また、ポップアップ位置から初期位置に復帰する際には、初期位置近傍において降下速度が低下するために、ハンドルベース7、あるいはパッキン等との衝突が防止することができ、衝接音、あるいは跳ね返えり等の発生を防止できる。
【0042】
さらに、
図5(c)に示すように、駆動アーム8がポップアップ対応位置にあるとき、カム11の回転中心は、被押圧部8aとの接触点(P2)から下ろした法線(N)の近傍に配置されるために、カム11の接触点(P2)に被押圧部8aからの力を加えられた際の水平方向分力、すなわち、カム11を回転させようとする力は小さくなる。
【0043】
したがって、ハンドル本体2がポップアップ対応位置にあるときにハンドル本体2に初期位置側への負荷、すなわち、ハンドル本体2を押し付ける力が加わっても、カム11には概ね回転中心(C11)方向の力のみが加わり、これに直交する方向の力は小さくなる。このため、カム11への回転操作力が小さくなってウオームホイルからウオームに加わる力を小さくすることができる。
【0044】
図3、6に示すように、上記ハンドル本体2には、前後両端部に裏面側に向けて突出するリンク連結部2aが設けられ、前後部のリンク連結部2aの間には、ハンドル本体2を操作する際の手掛けとなる手掛用凹部2bが形成される。
【0045】
上記ハンドル本体2の前方のリンク連結部2aには、一端がハンドルベース7に連結される上記駆動アーム8の他端が回転自在に連結され、後方のリンク連結部2aには、作動アーム5の他端が各々連結される。
【0046】
作動アーム5とハンドル本体2との連結は、回転、かつスライド自在に連結されており、本例においては、後方のリンク連結部2aに固定され、回転中心(C27)を提供する連結ピン12を作動アーム5の端部に形成された長孔5aに挿通させることによって、回転中心(C27)、すなわち連結ピン12がスライド自在とされる。上記連結ピン12は長孔5aに挿通された後、適宜抜け止め手段により抜け止めされる。
【0047】
図3に示すように、駆動アーム8のハンドルベース7との回転中心(C87)、駆動アーム8とハンドル本体2との回転中心(C28)、ハンドル本体2の連結ピン12、および作動アーム5のハンドルベース7に対する回転中心(C57)は、平行四辺形の頂点位置に配置され、長孔5aは平行四辺形の頂点位置における連結ピン12の位置を一方の終端位置(初期終端位置)とし、後方やや裏面方向、すなわち、連結ピン12がスライドすることによって、作動アーム5のリンク長が延長される方向に延設される。
【0048】
また、
図3に示すように、作動アーム5は、ハンドルベース7との回転中心(C57)周りに巻装されるトーションスプリング5bによって、該作動アーム5をハンドル本体2の初期位置に対応する初期対応位置側に付勢されるとともに、駆動アーム8のハンドルベース7に対する回転中心(C87)周りには、上述したように、該駆動アーム8をハンドル本体2の初期位置に対応する初期対応位置側に付勢するトーションスプリング8bが巻装されており、上記トーションスプリング5bは、連結ピン12を長孔5a内の初期終端位置、すなわち、上述した平行四辺形の頂点位置側に付勢し、当該位置に保持する。
【0049】
したがって、本例において、ハンドル本体2が
図3に示す初期位置にある状態で、電動アクチュエータ1を駆動してカム11を
図3において反時計回りに回転させると、駆動アーム8は回転中心(C87)周りに時計回りに回転する。
【0050】
上述したように、作動アーム5とハンドル本体2とはトーションスプリング5b、8bの作用により、連結ピン12が作動アーム5のリンク長を最短にする初期対応位置に保持されているために、駆動アーム8、作動アーム5、ハンドル本体2、およびハンドルベース7はハンドルベース7を固定リンクとする平行クランク機構を形成しており、駆動アーム8の回転によりハンドル本体2は初期位置から平行姿勢を保持しつつ
図6(a)に示すポップアップ位置に移動する。
【0051】
ハンドル本体2がポップアップ位置に達すると、図外のスイッチにより電動アクチュエータ1の駆動が停止され、ハンドル本体2はポップアップ位置に保持され、この状態から電動アクチュエータ1を反転駆動すると、回転中心(C87)周りに巻装された上記トーションスプリング8bにより駆動アーム8は初期対応位置に復帰してハンドル本体2は初期位置に復帰する。
【0052】
ポップアップ位置においてハンドル本体2はドア表面に対して平行な姿勢を保持しており、この後、後端側をドア外方に引き出すことによって、ハンドル本体2は駆動アーム8との回転中心((C28)周りに図外のストッパに当接するまで回転し、
図6(b)に示すように、前端部から後端部に向けて傾いたラッチ解除位置に移動することができる。
【0053】
ハンドル本体2のポップアップ位置からラッチ解除位置への回転は手動による回転操作により行われ、ハンドル本体2のラッチ解除位置への回転操作に伴って作動アーム5はハンドル本体2のポップアップ位置に対応するポップアップ対応位置を超えてさらに回転してラッチ操作対応位置まで回転する。
【0054】
本例において、ドアラッチ装置4の操作は、上記作動アーム5に固定されるレバー押動部材6によりラッチ解除レバー3を作動させることにより行われる。
【0055】
レバー押動部材6は、
図7に示すように、作動アーム5のハンドルベース7との回転中心(C57)上において固定され、作動アーム5の回転に伴って、回転中心(C57)周りに回転する。
【0056】
ラッチ解除レバー3は、作動アーム5のハンドルベース7に対する回転中心(C57)に対して直交する回転中心(C37)周りに回転自在にハンドルベース7に連結される。このラッチ解除レバー3は、
図8に示すように、板状本体部3aから回転軸を挿通する筒部3bを突設して形成され、この筒部3bの近傍にケーブル装置13の図示しないインナーケーブルの先端を保持するためのケーブル連結部3cが形成される。
【0057】
また、ラッチ解除レバー3は、回転中心(C37)周りに巻装される図外のトーションスプリングにより
図7(c)における時計回りに付勢され、同図に示す初期位置に保持される。
【0058】
さらに、ラッチ解除レバー3には、被押動部3dが形成されており、後述するように、この被押動部3dをレバー押動部材6のレバー押動部6aにより押し付けることによりラッチ解除レバー3は
図7(c)において反時計周りに回転し、ケーブル装置13に引っ張り操作力を付与し、ドアラッチ装置4を作動させる(
図2参照)。
【0059】
上記レバー押動部材6は、
図9に示すように、一端部にストッパ片6bを備えるとともに、他端部に上記ラッチ解除レバー3の板状本体部3aを受容可能な凹部6cを備え、この凹部6cの周縁壁部にレバー押動部6aが形成される。
【0060】
上述したようにこのレバー押動部材6は作動アーム5のポップアップ対応位置への回転に伴って
図10(b)に示す状態から、
図10(e)に示す状態に移動し、レバー押動部6aがラッチ解除レバー3の被押動部3dに当接する。この後、ハンドル本体2をラッチ操作位置まで操作し、作動アーム5を作動対応位置まで回転させると、レバー押動部材6のレバー押動部6aがラッチ解除レバー3の被押動部3dを押下し、ラッチ解除レバー3は回転中心(C37)周りに回転してドアラッチ装置4を作動させる。
【0061】
さらに、レバー押動部材6のレバー押動部6a近傍にはウエイト部6dが形成されてレバー押動部材6の慣性モーメントが調整される。慣性モーメントの値は、車両に衝突による衝撃力が加えられた場合に慣性によりレバー押動部材6に発生するラッチ解除レバー3を作動させる方向の操作力を慣性により相殺し、当該方向への回転が発生しない程度の大きさに設定され、ウエイト部6dの重量、および回転中心(C57)からのアーム長等は、レバー押動部材6に求められる慣性モーメントをもとに決定される。
【0062】
したがって、本例において、衝突衝撃力が付与されても、レバー押動部材6に発生する操作力はレバー押動部材6の慣性モーメントにより相殺されるために、ラッチ解除レバー3が押圧されることがなくなるために、不用意なドア開放が防止される。
【0063】
さらに、レバー押動部材6には規制壁10が設けられるとともに、ラッチ解除レバー3には、規制突部3eが設けられる。規制突部3eは、
図8に示すように、板状本体部3aから立設されるとともに、規制壁10は、
図9(c)に示すように、凹部6cの壁面として形成される。
【0064】
図10(a)に示すように、レバー押動部材6が初期対応位置にあるとき、ラッチ解除レバー3のラッチ解除位置方向への回転、すなわち、
図10(a)の反時計回りの回転は、規制突部3eの移動経路を規制壁10が閉塞していることから不可能であり、衝突等の衝撃力によりラッチ解除レバー3が単独でラッチ解除位置に移動してドアラッチ装置4が作動することが防止される。
【0065】
この規制壁10によるラッチ解除レバー3の回転規制は、
図10(c)に示すように、レバー押動部材6の初期対応位置とポップアップ対応位置との中間位置においても継続し、
図10(d)に示すように、レバー押動部材6がポップアップ対応位置に到達すると解消され、以後、レバー押動部材6のレバー押動部6aによる被押動部3dへの押動によるラッチ解除レバー3の回転操作が可能になる。
【0066】
さらに、ハンドル装置には、車両への衝突荷重が負荷された際のレバー押動部材6の移動を規制するための慣性ストッパ9が組み込まれる。慣性ストッパ9は、ハンドルベース7に回転自在に連結され、
図11(a)に示す待機回転位置と、
図11(b)に示す停止位置との間で回転し、回転中心(C9)周りに巻装される図外のトーションスプリングにより待機回転位置側に付勢される。
【0067】
この慣性ストッパ9は、衝突による衝突力が付与された際には、慣性により待機回転位置から停止位置に移動するように重心位置が設定された円柱体として形成されており、
図11(a)に示すように、待機回転位置においては、レバー押動部材6のストッパ片6bの移動経路(
図11(a)における回転中心(C57)周りの時計回りの回転)が開放されているために、作動アーム5のラッチ操作対応位置までの回転動作に追随した回転が許容される。
【0068】
これに対し、車両の側方衝突力が与えられた際には、慣性ストッパ9は待機回転位置から停止位置まで回転する。
図11(b)に示すように、慣性ストッパ9が停止位置にあるときには、レバー押動部材6のストッパ片6bの移動経路を慣性ストッパ9が閉塞するために、レバー押動部材6は、作動アーム5の回転に追随することなく、慣性ストッパ9との干渉位置に留まるために、ラッチ解除レバー3が作動し、ドアが不要に開放されることが確実に防止できる。
【符号の説明】
【0069】
1 電動アクチュエータ
2 ハンドル本体
3 ラッチ解除レバー
4 ドアラッチ装置
5 作動アーム
6 レバー押動部材
7 ハンドルベース
8 駆動アーム
9 慣性ストッパ
10 規制壁