(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】音圧推定システム、及びその音圧推定方法並びに音圧推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01H 3/14 20060101AFI20230718BHJP
【FI】
G01H3/14
(21)【出願番号】P 2020049215
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】細谷 浩之
(72)【発明者】
【氏名】林 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴裕
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/189417(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/189424(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向に複数設けられ、音圧を計測するセンサと、
各前記センサの計測値を前記円周方向の位置の関数として表した信号を離散信号として、前記離散信号を空間フーリエ変換してフーリエ係数を導出するフーリエ変換部と、
前記フーリエ係数を用いて、円周上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行い、前記所定位置における音圧を導出する逆フーリエ変換部と、
を備える音圧推定システム。
【請求項2】
前記センサは、円周方向において等間隔に設けられており、
前記所定位置は、円周上において隣接する前記センサの間の位置に設定される請求項1に記載の音圧推定システム。
【請求項3】
前記センサは、円周方向において不等間隔に設けられており、
前記フーリエ変換部は、前記センサの数よりも前記フーリエ係数の必要数の方が多い場合に、圧縮センシングにより、各前記センサの計測値から前記必要数の前記フーリエ係数を導出する請求項1または2に記載の音圧推定システム。
【請求項4】
前記フーリエ係数の前記必要数は、想定される探査対象の音源の数に基づいて設定されている請求項3に記載の音圧推定システム。
【請求項5】
前記探査対象の音源の数は、周波数次数数に基づいて設定される請求項4に記載の音圧推定システム。
【請求項6】
平面上に複数設けられ、音圧を計測するセンサと、
各前記センサの計測値を離散信号として、前記離散信号を空間フーリエ変換してフーリエ係数を導出するとともに、前記センサの数よりも前記フーリエ係数の必要数の方が多い場合に、圧縮センシングにより、各前記センサの計測値から前記必要数の前記フーリエ係数を導出するフーリエ変換部と、
前記フーリエ係数を用いて、平面上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行い、前記所定位置における音圧を導出する逆フーリエ変換部と、
を備える音圧推定システム。
【請求項7】
前記フーリエ係数の前記必要数は、想定される探査対象の音源の数に基づいて設定されている請求項6に記載の音圧推定システム。
【請求項8】
円周方向に複数設けられており音圧を計測するセンサにおいて、各前記センサの計測値を前記円周方向の位置の関数として表した信号を離散信号として、前記離散信号を空間フーリエ変換してフーリエ係数を導出する工程と、
前記フーリエ係数を用いて、円周上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行い、前記所定位置における音圧を導出する工程と、
を有する音圧推定方法。
【請求項9】
平面上に複数設けられており音圧を計測するセンサにおいて、各前記センサの計測値を離散信号として、前記離散信号を空間フーリエ変換してフーリエ係数を導出するとともに、前記センサの数よりも前記フーリエ係数の必要数の方が多い場合に、圧縮センシングにより、各前記センサの計測値から前記必要数の前記フーリエ係数を導出する工程と、
前記フーリエ係数を用いて、平面上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行い、前記所定位置における音圧を導出する工程と、
を有する音圧推定方法。
【請求項10】
円周方向に複数設けられており音圧を計測するセンサにおいて、各前記センサの計測値を前記円周方向の位置の関数として表した信号を離散信号として、前記離散信号を空間フーリエ変換してフーリエ係数を導出する処理と、
前記フーリエ係数を用いて、円周上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行い、前記所定位置における音圧を導出する処理と、
をコンピュータに実行させるための音圧推定プログラム。
【請求項11】
平面上に複数設けられており音圧を計測するセンサにおいて、各前記センサの計測値を離散信号として、前記離散信号を空間フーリエ変換してフーリエ係数を導出するとともに、前記センサの数よりも前記フーリエ係数の必要数の方が多い場合に、圧縮センシングにより、各前記センサの計測値から前記必要数の前記フーリエ係数を導出する処理と、
前記フーリエ係数を用いて、平面上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行い、前記所定位置における音圧を導出する処理と、
をコンピュータに実行させるための音圧推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、音圧推定システム、及びその音圧推定方法並びに音圧推定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
音源探査は、アレイを構成するセンサを用いて行われる(例えば、特許文献1)。例えば回転音源に対応する場合には、回転音源の回転と同期した角度の音圧を求める必要がある。このため、周方向に配置したセンサアレイにおいて、同期した位置のセンサにより回転音源に対応した音圧を計測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
周方向にセンサを配置した場合には、センサ間は間隔が空くこととなるため、該間隔における音圧を直接計測することはできない。例えば、該間隔の音圧は、最も近い2つのセンサの音圧計測値を用いて線形補間により求めることが考えられるが、線形補間を用いた場合には補間精度が十分でない場合がある。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、補間精度を向上させることのできる音圧推定システム、及びその音圧推定方法並びに音圧推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1態様は、円周方向に複数設けられ、音圧を計測するセンサと、各前記センサの計測値を前記円周方向の位置の関数として表した信号を離散信号として、前記離散信号を空間フーリエ変換してフーリエ係数を導出するフーリエ変換部と、前記フーリエ係数を用いて、円周上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行い、前記所定位置における音圧を導出する逆フーリエ変換部と、を備える音圧推定システムである。
【0007】
本開示の第2態様は、円周方向に複数設けられており音圧を計測するセンサにおいて、各前記センサの計測値を前記円周方向の位置の関数として表した信号を離散信号として、前記離散信号を空間フーリエ変換してフーリエ係数を導出する工程と、前記フーリエ係数を用いて、円周上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行い、前記所定位置における音圧を導出する工程と、を有する音圧推定方法である。
【0008】
本開示の第3態様は、円周方向に複数設けられており音圧を計測するセンサにおいて、各前記センサの計測値を前記円周方向の位置の関数として表した信号を離散信号として、前記離散信号を空間フーリエ変換してフーリエ係数を導出する処理と、前記フーリエ係数を用いて、円周上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行い、前記所定位置における音圧を導出する処理と、をコンピュータに実行させるための音圧推定プログラムである。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、補間精度を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の第1実施形態に係る音源探査システムの概略構成を示す図である。
【
図2】本開示の第1実施形態に係る情報処理部のハードウェア構成の一例を示した図である。
【
図3】本開示の第1実施形態に係る音源可視化の例を示す図である。
【
図4】本開示の第1実施形態に係る音源探査処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】本開示の第2実施形態に係る音源探査システムの概略構成を示す図である。
【
図6】本開示の第3実施形態に係る音源探査システムの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔第1実施形態〕
以下に、本開示に係る音圧推定システム、及びその音圧推定方法並びに音圧推定プログラムの第1実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、本開示の第1実施形態に係る音圧推定システムを備える音源探査システム1の概略構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る音源探査システム1は、センサアレイ2aと、情報処理部4とを主な構成として備えている。
【0013】
センサアレイ2aは、円周方向に複数のセンサ3を有している。本実施形態では、各センサ3は円周方向において等間隔であることとする。なお、各センサ3の間隔は、
図1に限定されない。
【0014】
配置された各センサ3は、それぞれ音圧を検出する。音圧は、センサ3が配置された位置における音による圧力である。そして、各センサ3で検出された音圧は、情報処理部4へ出力される。
【0015】
情報処理部4は、センサ3からの情報に基づいて音源探査を行う。
図1に示すように各センサ3を円周方向に配置した場合には、各センサ位置においては音圧の計測が可能であるものの、センサ間の領域(センサ間領域)では音圧を計測することはできない。このため、情報処理部4では、センサ間領域の音圧を精度よく推定する。
【0016】
例えば、回転音源に対して音源探査を行う場合には、回転音源と同期して音圧計測を行う必要がある。具体的には、回転音源の回転と同期してセンサアレイ2aを仮想回転させ、各センサによって同期した音圧状態を計測する。なお、仮想回転とは、固定して円周上配置された各センサ3において、予め設定された基準位置を回転音源の回転と同期して仮想的(ソフトウェア的)に回転させることである。仮想回転させることで、回転音源と同期回転して音源計測を行う。特に回転音源に対して音源探査を行う場合には、仮想回転を行うために、センサ間領域の音源が重要となる。情報処理装置では、センサ間領域の音源を精度よく推定することができるため、回転音源を対象とした場合であっても、精度良く音源探査を行うことが可能となる。
【0017】
図2は、本実施形態に係る情報処理部4のハードウェア構成の一例を示した図である。
図2に示すように、情報処理部4は、コンピュータシステム(計算機システム)であり、例えば、CPU11と、CPU11が実行するプログラム等を記憶するためのROM(Read Only Memory)12と、各プログラム実行時のワーク領域として機能するRAM(Random Access Memory)13と、大容量記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)14と、ネットワーク等に接続するための通信部15とを備えている。なお、大容量記憶装置としては、ソリッドステートドライブ(SSD)を用いることとしてもよい。これら各部は、バス18を介して接続されている。
【0018】
また、情報処理部4は、キーボードやマウス等からなる入力部や、データを表示する液晶表示装置等からなる表示部などを備えていてもよい。
【0019】
なお、CPU11が実行するプログラム等を記憶するための記憶媒体は、ROM12に限られない。例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等の他の補助記憶装置であってもよい。
【0020】
後述の各種機能を実現するための一連の処理の過程は、プログラムの形式でハードディスクドライブ14等に記録されており、このプログラムをCPU11がRAM13等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、後述の各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROM12やその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0021】
図1に示されるように、情報処理部4は、フーリエ変換部5と、逆フーリエ変換部6と、探査部7とを備えている。
【0022】
フーリエ変換部5は、各センサ3の計測値を円周方向の位置の関数として表した信号を離散信号として、離散信号をフーリエ変換してフーリエ係数を導出する。音源からの音波は、正弦波の重ね合わせで表されること、及び周方向に連続していることから、フーリエ変換による補間ができる。
【0023】
具体的には、周方向に(円周方向順に)フーリエ変換(空間フーリエ変換)を行う。空間フーリエ変換とは、音を位置の関数として捉えてフーリエ変換を行うことである。すなわち、センサ3が配置された円周方向に沿って空間フーリエ変換が行われる。具体的には、以下の式(1)によって、フーリエ変換を行い、フーリエ係数を算出する。なお、基底は正弦波となる。
【0024】
【0025】
上記の式(1)において、tは時間を表し、jはセンサ番号を示し、Nは、センサ個数(円周上に設けられたセンサ3の総数)を示している。すなわち、円周上にはセンサ番号が0からN-1までのセンサ3(センサ個数はN個)が配置されているものとする。そして、pj(t)はセンサ番号に対応した音圧を示している。kは、音圧の空間分布を表現する周方向次数である。換言すると、kとは、円周上に入る波の数(次数)となる。kは、例えば、想定する波の数として予め設定される。なお、円周上に等間隔にセンサ3を配置した場合には、センサ3の個数Nと、kの設定数は等しくなる。なお、センサ3の個数Nよりもkの設定数の方が少ないこととしてもよい。そして、Pk(t)は、kの値を固定した場合に式(1)によって算出されるフーリエ係数となる。すなわち、Pk(t)は、k番目の離散フーリエ変換の係数となる。また、iは虚数単位である。
【0026】
このようにして、フーリエ変換部5では、センサアレイ2aの各センサ3で計測した音圧値(pj(t))を用いて式(1)によりk個分のフーリエ係数としてPk(t)を算出する。
【0027】
算出されたPk(t)は、逆フーリエ変換部6へ出力される。
【0028】
逆フーリエ変換部6は、フーリエ係数を用いて、円周上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行い、所定位置における音圧を導出する。所定位置とは、音圧を求めたい円周上の位置である。本実施形態では、所定位置は、円周上においてセンサ3が設けられていない位置に設定される。
【0029】
具体的には、以下の式(2)によって逆フーリエ変換を行い、任意の位置lにおける音圧を導出する。
【0030】
【0031】
上記の式(2)において、lは所定位置を示している。lは例えば整数値である必要はなく実数となる。例えば、センサ番号が0であるセンサ3と1であるセンサ3の中間位置の音圧を算出したい場合には、l=0.5と設定される。式(1)において、円周に沿ってフーリエ変換を行っているため、中間位置についても定義することができる。すなわち、2πl/Nは、所定位置の角度(rad)を表している。そして、pl(t)は、位置lにおける音圧値となる。
【0032】
このようにして、円周上に配置したセンサ3を用いて、円周上の任意の位置の音圧を推定することができる。例えば線形補間を用いた場合には近接する2つのセンサの音圧に基づいて中間位置の音圧推定が行われるが、本実施形態の方法によれば、円周上に配置されたすべてのセンサ3の音圧に基づいて推定が行われるため、補間精度が向上する。
【0033】
探査部7は、計測した音圧や、推定した音圧(pl(t))に基づいて、音源探査を行う。なお、計測した音圧及び推定した音圧の少なくともいずれか一方を用いることとしてよい。具体的には、探査部7は、複数の位置の音圧に基づいてビームフォーミングを行い、音源探査を行う。各位置のそれぞれに届く信号に遅延などの処理を行うことで、等価的に非常に鋭い指向性を持たせ、特定の方向から到来する音波の強度を求める。そして、鋭い指向性の方向を変化させ、探査方向におけるエリアをスキャンして音源の位置及び強度を推定する。音源探査が行われると、探査方向におけるエリアがスキャンされるため、該エリア内における音源の位置及び強度が可視化可能となる。
【0034】
図3は、探査対象をファン8として、センサアレイ2aに対するファン8の方向を探査方向とし音源探査(音源可視化)を行った場合の例を示している。
図3では、音源の強度を4段階として示している。
図3の例では、ファン8におけるPの位置が音源と特定することができる。このように探査対象が回転音源(ファン8)であっても、音源を特定することが可能となる。
【0035】
次に、上述の情報処理部4による音圧推定処理の一例について
図4を参照して説明する。
図4は、本実施形態に係る音圧推定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図4に示すフローは、例えば、使用者等によって音源探査の開始指示がされた場合に実行される。
【0036】
まず、各センサ3から計測結果を取得する(S101)。具体的には、周方向にN点の音圧計測値を取得する。
【0037】
次に、各センサ3からの計測結果に基づいて、円周方向にフーリエ変換を行う(S102)。S102では、式(1)により、フーリエ係数が算出される。
【0038】
次に、算出したフーリエ係数を用いて、任意の位置に対して逆フーリエ変換を行う(S103)。S103では、式(2)により、任意の位置lに対応した音圧が算出される。
【0039】
次に、音源探査を行い、音源可視化を行う(S104)。S104では、任意の位置lに対応して算出された音圧を用いて、ビームフォーミングにより音源探査が行われる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態に係る音圧推定システム、及びその音圧推定方法並びに音圧推定プログラムによれば、円周方向順とした各センサ3の計測値を離散信号としてフーリエ係数を求め、円周上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行うことで、該所定位置に対する音圧を推定することができる。このため、円周上の任意の位置(所定位置)における音圧を精度よく導出することが可能となる。例えば、線形補間によって円周上の任意の位置の音圧を推定する場合と比較して、フーリエ変換を利用して補間を行うため(フーリエ変換(FFT)補間)、補完精度を向上させることができる。
【0041】
〔第2実施形態〕
次に、本開示の第2実施形態に係る音圧推定システム、及びその音圧推定方法並びに音圧推定プログラムについて説明する。
上述した第1実施形態では、センサ3が等間隔に配置された場合を説明していたが、本実施形態では、センサ3が不等間隔に配置されている場合について説明する。以下、本実施形態に係る音圧推定システム、及びその音圧推定方法並びに音圧推定プログラムについて、第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0042】
本実施形態におけるセンサアレイ2bでは、
図5に示すように、円周上に複数のセンサ3が不等間隔に設けられている。
図5に示すように、不等間隔に設けられた各センサ3には、円周方向順に識別番号l0からlNが設定されているものとする。不等間隔とは、円周上に設けられた各センサ間の距離が互いに異なることである。なお、不等間隔では、各センサ間の距離において、少なくとも1つの間隔が他の間隔と異なることとしてもよい。
【0043】
不等間隔にセンサ3を設けた場合には、センサ3の個数よりも、空間周波数次数の数M(すなわち、式(1)におけるkの個数)の方が多くなる場合がある。このような場合には、以下の式(3)のように、各センサ3の計測値は正弦波の重ね合わせで表される。なお、基底は正弦波となる。
【0044】
【0045】
式(3)において、pl0からplNは、円周上に不等間隔に配置した各センサ3(l0からlN)の計測値(音圧)となる。そして、Mは、空間周波数次数を示し、P0からPMは、それぞれ空間周波数次数に対応したフーリエ係数を示している。また、フーリエ係数に掛けられる行列要素であるelN,Mは、以下の式(4)により示される。
【0046】
【0047】
式(3)において、pl0からplNは、各センサ3の計測値として取得される。また、elN,Mについても式(4)より値が設定される。すなわち、方程式の数(N)よりも未知変数(M)の方が多くする場合は、圧縮センシング(周方向圧縮センシング)を適用してP0からPMの未知数を導出する。圧縮センシングは公知の計算手法である。具体的には、ある表現空間ではスパース(疎)と仮定して、必要とする未知数の数よりも少ない観測データから、未知数を導出する手法である。
【0048】
圧縮センシングによって不等間隔の各センサ3の計測値から、フーリエ係数であるP0からPMが導出される。すなわち、フーリエ変換部5は、センサ3の数よりもフーリエ係数の必要数の方が多い場合に、圧縮センシングにより必要数のフーリエ係数を導出する。フーリエ係数の必要数は、想定される探査対象の音源の数(または周波数次数数)に基づいて設定されている。そして、式(2)を用いて任意の位置に対して逆フーリエ変換を行うことにより、第1実施形態と同様に音源探査を行うことが可能となる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態に係る音圧推定システム、及びその音圧推定方法並びに音圧推定プログラムによれば、センサ3が円周方向において不等間隔に設けられている場合には、センサ3の数よりもフーリエ係数の必要数の方が多い可能性があるが、圧縮センシングを適用することによって、必要数のフーリエ係数を導出することができる。なお、フーリエ係数の必要数とは、想定される探査対象の音源の数により予め設定される。また、不等間隔で設けられることで、等間隔で設けられる場合と比較して、センサ3の間隔が狭い場合にはより高い周波数の音圧を検出することが期待できる。想定される探査対象の音源の数に基づいてフーリエ係数の必要数が設定されることで、適切にフーリエ変換を行うことができる。
【0050】
〔第3実施形態〕
次に、本開示の第3実施形態に係る音圧推定システム、及びその音圧推定方法並びに音圧推定プログラムについて説明する。
上述した第1実施形態では、センサ3が等間隔に配置された場合を説明していたが、本実施形態では、センサ3が平面にランダムに配置されている場合について説明する。以下、本実施形態に係る音圧推定システム、及びその音圧推定方法並びに音圧推定プログラムについて、第1実施形態及び第2実施形態と異なる点について主に説明する。
【0051】
本実施形態におけるセンサアレイ2cでは、
図6に示すように、円周上に限定されず平面に複数のセンサ3がランダムに設けられている。
図6に示すように、平面(x-y平面)に設けられた各センサ3には、識別番号(x0、y0)から(xN、yN)が設定されているものとする。不等間隔とは、円周上に設けられた各センサ間の距離が互いに異なることである。
【0052】
平面にセンサ3を設けた場合には、センサ3の個数よりも、空間周波数次数の数(すなわち、式(1)におけるkの個数)の方が多くなる場合がある。このような場合には、以下の式(5)のように、各センサ3の計測値は正弦波の重ね合わせで表される。なお、基底は、円筒波動関数となる。なお、各センサの位置は、(x0、y0)から(xN、yN)のそれぞれに対応して、極座標系として、(r0、θ0)から(rN、θN)としている。
【0053】
【0054】
式(5)において、pr0、θ0からprN、θNは、平面上にランダムに配置した各センサ3((r0、θ0)から(rN、θN))の計測値(音圧)となる。そして、Mは、空間周波数次数を示す。krMは半径方向の波数(M成分)を示し、kθMは周方向の波数(M成分)を示す。Pkr0、kθ0からPkrM、kθMは、それぞれ空間周波数次数に対応したフーリエ係数を示している。換言すると、Pkr0、kθ0からPkrM、kθMは、円筒波動関数を基底とした場合に、任意の平面上の音圧分布を各基底の重ね合わせで表す場合の各係数(フーリエ係数)である。半径方向の波数(krM)と周方向の波数(kθM)で表されるため、引数を2つとして各フーリエ係数が表されている。例えば、周方向の波数が0(例えばkrM=0)である場合には、対応する円筒波動関数で表される成分は、周方向に一様な分布を示す。また、フーリエ係数に掛けられる行列要素であるerN,θN,krM,kθMは、以下の式(6)により示される。
【0055】
【0056】
式(6)において、Jはベッセル関数である。式(5)において、pr0、θ0からprN、θNは、各センサ3の計測値として取得される。また、erN,θN,krM,kθMについても式(6)より値が設定される。このため、方程式の数よりも未知変数の数が多い場合は、圧縮センシングを適用してPkr0、kθ0からPkrM、kθMの未知数を導出する。換言すると、周方向に連続した円筒波動関数を基底関数とした展開を行い、フーリエ係数(円筒波動関数係数)が算出される。
【0057】
圧縮センシングによって平面にランダム配置された各センサ3の計測値から、フーリエ係数であるPkr0、kθ0からPkrM、kθMが導出される。このように、フーリエ変換部5は、各センサ3の計測値を離散信号として、離散信号をフーリエ変換してフーリエ係数を導出するとともに、センサ3の数よりもフーリエ係数の必要数の方が多い場合に、圧縮センシングにより必要数のフーリエ係数を導出する。フーリエ係数の必要数は、想定される探査対象の音源の数(または周波数次数数)に基づいて設定されている。そして、フーリエ係数が導出されると、該フーリエ係数を用いて、任意の位置に対して逆フーリエ変換を行うことにより、該位置における音圧を導出することができる。具体的には、式(5)において圧縮センシングを適用してPkr0、kθ0からPkrM、kθMを導出したら、式(5)のフーリエ係数に掛けられる行列(行列要素はerN,θN,krM,kθM)を求めたい位置(座標)に設定して構成する。すなわち、式(6)によりerN,θN,krM,kθMを求めたい座標値に対応させてマトリクスを構成する。そうすると、式(5)の右辺がすべて既知となるため、求めたい位置の音圧として、式(5)の左辺の音圧が導出される。このようにして、第1実施形態と同様に音源探査を行うことが可能となる。なお、逆フーリエ変換部6では、フーリエ係数を用いて、平面上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行い、所定位置における音圧を導出することとしてもよい。
【0058】
以上説明したように、本実施形態に係る音圧推定システム、及びその音圧推定方法並びに音圧推定プログラムによれば、平面上に音圧を計測するセンサ3が設けられている場合に、各センサ3の計測値を離散信号としてフーリエ変換するとともに、センサ3の数よりもフーリエ係数の必要数の方が多い場合には、圧縮センシングにより必要数のフーリエ係数を導出することができる。このため、フーリエ係数を用いて、平面上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行うことで、該所定位置における音圧を導出することができる。
【0059】
本開示は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々変形実施が可能である。なお、各実施形態を組み合わせることも可能である。すなわち、上記の第1実施形態、第2実施形態、及び第3実施形態については、それぞれ組み合わせることも可能である。
【0060】
以上説明した各実施形態に記載の音圧推定システム、及びその音圧推定方法並びに音圧推定プログラムは例えば以下のように把握される。
本開示に係る音圧推定システム(1)は、円周方向に複数設けられ、音圧を計測するセンサ(3)と、各前記センサ(3)の計測値を前記円周方向の位置の関数として表した信号を離散信号として、前記離散信号を空間フーリエ変換してフーリエ係数を導出するフーリエ変換部(5)と、前記フーリエ係数を用いて、円周上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行い、前記所定位置における音圧を導出する逆フーリエ変換部(6)と、を備える。
【0061】
本開示に係る音圧推定システム(1)によれば、円周方向順とした各センサ(3)の計測値を離散信号としてフーリエ係数を求め、円周上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行うことで、該所定位置に対する音圧を推定することができる。このため、円周上の任意の位置(所定位置)における音圧を精度よく導出することが可能となる。例えば、線形補間によって円周上の任意の位置の音圧を推定する場合と比較して、フーリエ変換を利用して補間を行うため(フーリエ変換(FFT)補間)、補完精度を向上させることができる。
【0062】
本開示に係る音圧推定システム(1)は、前記センサ(3)は、円周方向において等間隔に設けられており、前記所定位置は、円周上において隣接する前記センサ(3)の間の位置に設定されることとしてもよい。
【0063】
本開示に係る音圧推定システム(1)によれば、センサ(3)が円周方向において等間隔に設けられており、円周上においてセンサ(3)が設けられていない位置に設定された所定位置の音圧が推定される。このため、センサ(3)を配置していない仮想的な位置の音圧を推定することができる。
【0064】
本開示に係る音圧推定システム(1)は、前記センサ(3)は、円周方向において不等間隔に設けられており、前記フーリエ変換部(5)は、前記センサ(3)の数よりも前記フーリエ係数の必要数の方が多い場合に、圧縮センシングにより、各前記センサの計測値から前記必要数の前記フーリエ係数を導出することとしてもよい。
【0065】
本開示に係る音圧推定システム(1)によれば、センサ(3)が円周方向において不等間隔に設けられている場合には、センサ(3)の数よりもフーリエ係数の必要数の方が多い可能性があるが、圧縮センシングを適用することによって、必要数のフーリエ係数を導出することができる。また、不等間隔で設けられることで、等間隔で設けられる場合と比較して、センサ(3)の間隔が狭い場合にはより高い周波数の音圧を検出することが期待できる。
【0066】
本開示に係る音圧推定システム(1)は、前記探査対象の音源の数は、周波数次数数に基づいて設定されることとしてもよい。
【0067】
本開示に係る音圧推定システム(1)は、前記フーリエ係数の前記必要数は、想定される探査対象の音源の数に基づいて設定されていることとしてもよい。
【0068】
本開示に係る音圧推定システム(1)によれば、想定される探査対象の音源の数に基づいてフーリエ係数の必要数が設定されることで、適切にフーリエ変換を行うことができる。
【0069】
本開示に係る音圧推定システム(1)によれば、探査対象の音源の数が周波数次数数に基づいて設定されることで、適切にフーリエ変換を行うことができる。
【0070】
本開示に係る音圧推定システム(1)は、平面上に複数設けられ、音圧を計測するセンサ(3)と、各前記センサ(3)の計測値を離散信号として、前記離散信号を空間フーリエ変換してフーリエ係数を導出するとともに、前記センサ(3)の数よりも前記フーリエ係数の必要数の方が多い場合に、圧縮センシングにより、各前記センサの計測値から前記必要数の前記フーリエ係数を導出するフーリエ変換部(5)と、前記フーリエ係数を用いて、平面上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行い、前記所定位置における音圧を導出する逆フーリエ変換部(6)と、を備える。
【0071】
本開示に係る音圧推定システム(1)によれば、平面上に音圧を計測するセンサ(3)が設けられている場合に、各センサ(3)の計測値を離散信号としてフーリエ変換するとともに、センサ(3)の数よりもフーリエ係数の必要数の方が多い場合には、圧縮センシングにより必要数のフーリエ係数を導出することができる。このため、フーリエ係数を用いて、平面上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行うことで、該所定位置における音圧を導出することができる。
【0072】
本開示に係る音圧推定システム(1)は、前記フーリエ係数の前記必要数は、想定される探査対象の音源の数に基づいて設定されていることとしてもよい。
【0073】
本開示に係る音圧推定システム(1)によれば、想定される探査対象の音源の数に基づいてフーリエ係数の必要数が設定されることで、適切にフーリエ変換を行うことができる。
【0074】
本開示に係る音圧推定方法は、円周方向に複数設けられており音圧を計測するセンサ(3)において、各前記センサ(3)の計測値を前記円周方向の位置の関数として表した信号を離散信号として、前記離散信号を空間フーリエ変換してフーリエ係数を導出する工程と、前記フーリエ係数を用いて、円周上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行い、前記所定位置における音圧を導出する工程と、を有する。
【0075】
本開示に係る音圧推定方法は、平面上に複数設けられており音圧を計測するセンサ(3)において、各前記センサ(3)の計測値を離散信号として、前記離散信号を空間フーリエ変換してフーリエ係数を導出するとともに、前記センサ(3)の数よりも前記フーリエ係数の必要数の方が多い場合に、圧縮センシングにより、各前記センサ(3)の計測値から前記必要数の前記フーリエ係数を導出する工程と、前記フーリエ係数を用いて、平面上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行い、前記所定位置における音圧を導出する工程と、を有する。
【0076】
本開示に係る音圧推定プログラムは、円周方向に複数設けられており音圧を計測するセンサ(3)において、各前記センサ(3)の計測値を前記円周方向の位置の関数として表した信号を離散信号として、前記離散信号を空間フーリエ変換してフーリエ係数を導出する処理と、前記フーリエ係数を用いて、円周上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行い、前記所定位置における音圧を導出する処理と、をコンピュータに実行させる。
【0077】
本開示に係る音圧推定プログラムは、平面上に複数設けられており音圧を計測するセンサ(3)において、各前記センサ(3)の計測値を離散信号として、前記離散信号を空間フーリエ変換してフーリエ係数を導出するとともに、前記センサ(3)の数よりも前記フーリエ係数の必要数の方が多い場合に、圧縮センシングにより、各前記センサ(3)の計測値から前記必要数の前記フーリエ係数を導出する処理と、前記フーリエ係数を用いて、平面上の所定位置に対して逆フーリエ変換を行い、前記所定位置における音圧を導出する処理と、をコンピュータに実行させる。
【符号の説明】
【0078】
1 :音源探査システム(音圧推定システム)
2a :センサアレイ
2b :センサアレイ
2c :センサアレイ
3 :センサ
4 :情報処理部
5 :フーリエ変換部
6 :逆フーリエ変換部
7 :探査部
8 :ファン
11 :CPU
12 :ROM
13 :RAM
14 :ハードディスクドライブ
15 :通信部
18 :バス