(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】定検時リスク管理システムおよび定検時リスク管理方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230718BHJP
G06Q 10/20 20230101ALI20230718BHJP
G06Q 50/06 20120101ALI20230718BHJP
G06Q 50/10 20120101ALI20230718BHJP
【FI】
G05B23/02 Z
G06Q10/20
G06Q50/06
G06Q50/10
(21)【出願番号】P 2020051178
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 怜
(72)【発明者】
【氏名】尾上 泰基
(72)【発明者】
【氏名】二葉 真市
(72)【発明者】
【氏名】宮本 千賀司
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 健
(72)【発明者】
【氏名】曽利 慎二
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-67043(JP,A)
【文献】特開2000-231406(JP,A)
【文献】特開2018-205992(JP,A)
【文献】特開2007-42014(JP,A)
【文献】特開平11-231909(JP,A)
【文献】特開2005-301842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00 -23/02
G06Q 10/00 -10/30
G06Q 30/00 -30/08
G06Q 50/00 -50/20
G06Q 50/26 -99/00
G16Z 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントに設けられている機器に関するフォールトツリーが記憶されるフォールトツリー情報データベースと、
前記プラントの運用マニュアルの遵守状態を解析する遵守ロジックツリーが記憶される遵守ロジックツリー情報データベースと、
前記プラントの防火区画に関する防火区画情報が記憶される防火区画情報データベースと、
前記プラントの溢水防護区画に関する溢水防護区画情報が記憶される溢水防護区画情報データベースと、
前記プラントの線量マップに関する線量マップ情報が記憶される線量マップ情報データベースと、
前記プラントの定期検査で火災が生じた場合に前記火災の影響が及ぶ範囲を前記防火区画情報に基づいて判定する防火区画判定部と、
前記プラントの定期検査で溢水が生じた場合に前記溢水の影響が及ぶ範囲を前記溢水防護区画情報に基づいて判定する溢水防護区画判定部と、
前記プラントの定期検査を行ったときに作業者の被ばく量を前記線量マップ情報に基づいて判定する線量判定部と、
前記プラントの定期検査で特定のイベントが生じた場合に前記イベントの影響が及ぶ範囲を前記フォールトツリーに基づいて判定するフォールトツリー判定部と、
前記フォールトツリー判定部の判定結果を前記遵守ロジックツリーに適用して前記遵守状態が維持されるか否かを判定する遵守ロジックツリー判定部と、
を備え、
前記遵守ロジックツリー判定部は、前記防火区画判定部と前記溢水防護区画判定部と前記線量判定部の判定結果を前記遵守ロジックツリーに適用して前記遵守状態が維持されるか否かを判定する、
定検時リスク管理システム。
【請求項2】
前記プラントのエリアマップと前記エリアマップにおける前記機器の配置位置を特定可能な作業情報が記憶される作業情報データベースと、
前記定期検査が行われる作業位置と前記作業情報に基づいて、前記フォールトツリー判定部の判定対象となる前記機器を特定する対象機器特定部と、
を備える、
請求項1に記載の定検時リスク管理システム。
【請求項3】
前記エリアマップが複数のメッシュで区切られており、
前記対象機器特定部は、前記作業位置に関連する前記メッシュに配置されている前記機器を前記フォールトツリー判定部の判定対象として特定する、
請求項2に記載の定検時リスク管理システム。
【請求項4】
前記機器の重要度を定量的に特定可能な重要設備情報が記憶される重要設備情報データベースを備え、
前記対象機器特定部は、前記重要設備情報に基づいて、前記フォールトツリー判定部の判定対象となる前記機器を特定する、
請求項2または請求項3に記載の定検時リスク管理システム。
【請求項5】
前記プラントの現場写真が記憶される現場写真情報データベースと、
前記現場写真情報データベースから前記定期検査に関する前記現場写真を出力可能な現場写真出力部と、
を備える、
請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の定検時リスク管理システム。
【請求項6】
前記定期検査の作業に関するリスク対策を示すリスク対策情報が記憶されるリスク対策情報データベースと、
前記リスク対策情報データベースから前記定期検査に関する前記リスク対策情報を出力可能なリスク対策情報出力部と、
を備える、
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の定検時リスク管理システム。
【請求項7】
前記プラントが原子力発電所であり、
前記フォールトツリー判定部の判定結果が炉心損傷確率を含むものである、
請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の定検時リスク管理システム。
【請求項8】
プラントに設けられている機器に関するフォールトツリーがフォールトツリー情報データベースに記憶されるステップと、
前記プラントの運用マニュアルの遵守状態を解析する遵守ロジックツリーが遵守ロジックツリー情報データベースに記憶されるステップと、
前記プラントの防火区画に関する防火区画情報が防火区画情報データベースに記憶されるステップと、
前記プラントの溢水防護区画に関する溢水防護区画情報が溢水防護区画情報データベースに記憶されるステップと、
前記プラントの線量マップに関する線量マップ情報が線量マップ情報データベースに記憶されるステップと、
防火区画判定部が前記プラントの定期検査で火災が生じた場合に前記火災の影響が及ぶ範囲を前記防火区画情報に基づいて判定するステップと、
溢水防護区画判定部が前記プラントの定期検査で溢水が生じた場合に前記溢水の影響が及ぶ範囲を前記溢水防護区画情報に基づいて判定するステップと、
線量判定部が前記プラントの定期検査を行ったときに作業者の被ばく量を前記線量マップ情報に基づいて判定するステップと、
フォールトツリー判定部が前記プラントの定期検査で特定のイベントが生じた場合に前記イベントの影響が及ぶ範囲を前記フォールトツリーに基づいて判定するステップと、
遵守ロジックツリー判定部が前記フォールトツリー判定部の判定結果を前記遵守ロジックツリーに適用して前記遵守状態が維持されるか否かを判定するステップと、
を含
み、
前記遵守ロジックツリー判定部は、前記防火区画判定部と前記溢水防護区画判定部と前記線量判定部の判定結果を前記遵守ロジックツリーに適用して前記遵守状態が維持されるか否かを判定する、
定検時リスク管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、定検時リスク管理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラントにおいて定期点検(定検)を行う際に点検作業のリスクを評価する定検時リスク管理技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-252311号公報
【文献】特許第6596287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、過度なリスク評価がなされるため、点検作業の許可が下り難かったり、点検作業の実施時期を後ろ倒しさせたりする必要がある。そのため、定期点検の効率が悪く、プラントの運転効率の低下を招いてしまうという課題がある。
【0005】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、安全性を確保しつつ過度なリスク評価とならないようにし、定期点検の効率を向上させることができる定検時リスク管理技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る定検時リスク管理システムは、プラントに設けられている機器に関するフォールトツリーが記憶されるフォールトツリー情報データベースと、前記プラントの運用マニュアルの遵守状態を解析する遵守ロジックツリーが記憶される遵守ロジックツリー情報データベースと、前記プラントの防火区画に関する防火区画情報が記憶される防火区画情報データベースと、前記プラントの溢水防護区画に関する溢水防護区画情報が記憶される溢水防護区画情報データベースと、前記プラントの線量マップに関する線量マップ情報が記憶される線量マップ情報データベースと、前記プラントの定期検査で火災が生じた場合に前記火災の影響が及ぶ範囲を前記防火区画情報に基づいて判定する防火区画判定部と、前記プラントの定期検査で溢水が生じた場合に前記溢水の影響が及ぶ範囲を前記溢水防護区画情報に基づいて判定する溢水防護区画判定部と、前記プラントの定期検査を行ったときに作業者の被ばく量を前記線量マップ情報に基づいて判定する線量判定部と、前記プラントの定期検査で特定のイベントが生じた場合に前記イベントの影響が及ぶ範囲を前記フォールトツリーに基づいて判定するフォールトツリー判定部と、前記フォールトツリー判定部の判定結果を前記遵守ロジックツリーに適用して前記遵守状態が維持されるか否かを判定する遵守ロジックツリー判定部と、を備え、前記遵守ロジックツリー判定部は、前記防火区画判定部と前記溢水防護区画判定部と前記線量判定部の判定結果を前記遵守ロジックツリーに適用して前記遵守状態が維持されるか否かを判定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態により、安全性を確保しつつ過度なリスク評価とならないようにし、定期点検の効率を向上させることができる定検時リスク管理技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】定検時リスク管理システムを示すブロック図。
【
図9】定検時リスク管理処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、定検時リスク管理システムおよび定検時リスク管理方法の実施形態について詳細に説明する。
【0010】
図1の符号1は、本実施形態の定検時リスク管理システムである。この定検時リスク管理システム1は、原子力発電所、火力発電所、新エネルギー発電所(風力発電所、太陽光発電所、バイオマス発電所など)、化学プラント、または工場などのプラントにおいて、定期検査を行う際に、点検作業で生じるリスクを評価するものである。本実施形態では、原子力発電所の定期検査に用いる態様を例示する。
【0011】
プラントは、配電システム、運転機器、監視機器などの複数の要素を用いて構築される。これらの要素で様々な系統が構築される。以下の説明では、プラントに設けられる様々な要素を機器2(
図5および
図8)と称する。
【0012】
特に、原子力発電所では、リスク情報を活用して原子力安全と放射線安全とを確保することが求められている。さらに、運転時または定検時は、安全上、防護上の性能を適切に把握した上で様々な機器2を要求通りに運転および維持することが求められている。本実施形態の定検時リスク管理システム1は、点検作業を行うときのリスク低減を図るものである。
【0013】
原子力発電所でリスク評価の対象となるものには、例えば、重要設備に近接する作業、作業に起因する火災、消火活動の妨害、作業に起因する溢水、作業者の高線量被ばく、などがある。さらに、所定の機器2の検査中に、その機器2のバックアップが故障することなどもリスク評価の対象となる。
【0014】
定検時リスク管理システム1は、これらのリスクを一元管理することでリスク低減を図る。また、定検時に生じるリスクを早期に把握可能とし、リスク管理を図る上で必要な図書などの整備または発行することで、作業者の負荷の低減を図ることができる。
【0015】
なお、過度なリスク評価がされてしまうと、定期点検の効率が悪く、プラントの運転効率の低下を招いてしまう。そこで、本実施形態では、安全性を確保しつつ過度なリスク評価とならないようにし、定期点検の効率を向上させるようにする。
【0016】
例えば、点検作業により影響を受ける可能性がある機器2を特定し、これらの機器2が仮に停止した場合にプラント全体に生じる影響を評価する。このようにすれば、定検時に停止させたり故障する物として仮定したりする機器2が最小限度で済むため、定検時に不必要な機器2(系統)の停止を伴うことがない。そのため、プラントの運転効率を向上させることができる。また、重要設備に近接する作業を許可できる範囲を広げることができる。そのため、定期点検の効率を向上させることができる
【0017】
次に、定検時リスク管理システム1のシステム構成を
図1および
図2に示すブロック図を参照して説明する。
【0018】
図1に示すように、定検時リスク管理システム1は、メイン制御部3と入力部4と出力部5と記憶部6と通信部7とを備える。
【0019】
さらに、定検時リスク管理システム1は、フォールトツリー情報データベース8と遵守ロジックツリー情報データベース9と作業情報データベース10と重要設備情報データベース11と防火区画情報データベース12と溢水防護区画情報データベース13と線量マップ情報データベース14と現場写真情報データベース15とリスク対策情報データベース16とを備える。これらは、メモリまたはHDDに記憶され、検索または蓄積ができるよう整理された情報の集まりである。
【0020】
本実施形態の定検時リスク管理システム1は、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の定検時リスク管理方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0021】
定検時リスク管理システム1の各構成は、必ずしも1つのコンピュータに設ける必要はない。例えば、ネットワークで互いに接続された複数のコンピュータを用いて1つの定検時リスク管理システム1を実現しても良い。例えば、各種のデータベースがそれぞれ個別のコンピュータに搭載されていても良い。
【0022】
入力部4は、定検時リスク管理システム1を使用するユーザの操作に応じて所定の情報が入力される。この入力部4には、マウスまたはキーボードなどの入力装置が含まれる。つまり、これら入力装置の操作に応じて所定の情報が入力部4に入力される。
【0023】
出力部5は、所定の情報の出力を行う。本実施形態の定検時リスク管理システム1には、解析結果の出力を行うディスプレイなどの画像の表示を行う装置が含まれる。つまり、出力部5は、ディスプレイに表示される画像の制御を行う。なお、ディスプレイはコンピュータ本体と別体であっても良いし、一体であっても良い。さらに、ネットワークを介して接続される他のコンピュータが備えるディスプレイに表示される画像の制御を出力部5が行っても良い。
【0024】
なお、本実施形態では、画像の表示を行う装置としてディスプレイを例示するが、その他の態様であっても良い。例えば、プロジェクタを用いて情報の表示を行っても良い。さらに、紙媒体に情報を印字するプリンタをディスプレイの替りとして用いても良い。つまり、出力部5が制御する対象として、プロジェクタまたはプリンタが含まれていても良い。
【0025】
記憶部6は、それぞれのデータベース8~16に記憶された情報に基づいて、定期検査のリスク評価を行うときに必要な各種情報を記憶する。また、記憶部6は、定期検査に関する申請書類を作成するときに必要な各種情報を記憶する。
【0026】
通信部7は、インターネットなどの通信回線を介して他のコンピュータと通信を行う。なお、本実施形態では、定検時リスク管理システム1と他のコンピュータがインターネットを介して互いに接続されているが、その他の態様であっても良い。例えば、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)または携帯通信網を介して互いに接続されても良い。
【0027】
フォールトツリー情報データベース8には、プラントに設けられている機器2に関するフォールトツリー(
図3)が記憶される。
【0028】
遵守ロジックツリー情報データベース9には、プラントの運用マニュアルの遵守状態を解析する遵守ロジックツリー(
図4)が記憶される。
【0029】
運用マニュアルには、プラントの停止時の安全管理に関する規定を定めた停止時運用マニュアルが含まれる。さらに、重要設備に近接する作業を行う場合の安全管理に関する規定を定めた管理マニュアルが含まれても良い。さらに、プラントの保守管理規定または火災防護規定などが含まれても良い。
【0030】
作業情報データベース10には、プラントのエリアマップ(
図5)とエリアマップにおける機器2の配置位置を特定可能な作業情報が記憶される。なお、作業情報データベース10には、エリア管理テーブル(
図6)が記憶される。
【0031】
重要設備情報データベース11には、プラントに設けられている機器2の重要度を定量的に特定可能な重要設備情報が記憶される。なお、重要設備情報データベース11には、機器管理テーブル(
図7)が記憶される。
【0032】
防火区画情報データベース12には、プラントの防火区画に関する防火区画情報が記憶される。なお、防火区画情報データベース12には、仮にプラントの所定の位置で火災が起きた場合に、その影響が及ぶ範囲が識別可能な情報が記憶される。例えば、防火壁などの情報が記憶される。
【0033】
溢水防護区画情報データベース13には、プラントの溢水防護区画に関する溢水防護区画情報が記憶される。なお、溢水防護区画情報データベース13には、仮にプラントの所定の位置で溢水が生じた場合に、その影響が及ぶ範囲が識別可能な情報が記憶される。例えば、防水壁などの情報が記憶される。
【0034】
線量マップ情報データベース14には、プラントの線量マップに関する線量マップ情報が記憶される。なお、線量マップ情報データベース14には、プラントの所定の位置で作業を行った場合に、作業者が受ける放射線量、つまり、被ばく量を特定可能な情報が記憶される。
【0035】
現場写真情報データベース15には、プラントの現場写真(
図8)が記憶される。なお、現場写真は、例えば、点検作業を行う場所を写したものである。過去に点検作業を行ったときに撮影したものでも良い。ユーザは、定期検査に関する申請書類を作成するときに、申請書類に現場写真を添付しなければならない。従来は、申請時にプラントに出向いて現場の写真を撮影しなければならなかった。本実施形態では、現場写真情報データベース15から必要とする現場写真を抽出して、申請書類に添付することができる。このようにすれば、定期点検の作業の許可申請の申請書を作成するときに、実際にプラントの現場まで写真を撮りに行く必要がなくなる。そのため、ユーザの手間を省略することができる。
【0036】
リスク対策情報データベース16には、定期検査の作業に関するリスク対策を示すリスク対策情報が記憶される。なお、リスク対策情報には、リスクを回避するための対策に関する情報が含まれる。例えば、点検作業を行うときに機器2が壊れないように養生をすること、火災が起きないように不燃材料を使うことなどが、リスク対策情報に含まれる。リスク対策情報データベース16には、過去に行われたリスク対策情報が予め記憶されている。ユーザは、定期検査に関する申請書類を作成するときに必要なリスク対策情報を検索することができる。このようにすれば、若手の技術者であってもリスク対策の技術を容易に入手することができる。
【0037】
図2に示すように、メイン制御部3は、定検時リスク管理システム1を統括的に制御する。このメイン制御部3は、対象機器特定部17とフォールトツリー判定部18と防火区画判定部19と溢水防護区画判定部20と線量判定部21と遵守ロジックツリー判定部22と現場写真出力部23とリスク対策情報出力部24とを備える。これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0038】
対象機器特定部17は、定期検査が行われる作業位置25(
図5)と作業情報に基づいて、フォールトツリー判定部18の判定対象となる機器2を特定する。また、対象機器特定部17は、重要設備情報に基づいて、フォールトツリー判定部18の判定対象となる機器2を特定する。また、対象機器特定部17は、作業位置25に関連するメッシュ26(
図5)に配置されている機器2をフォールトツリー判定部18の判定対象として特定する。
【0039】
フォールトツリー判定部18は、プラントの定期検査で特定のイベントが生じた場合にイベントの影響が及ぶ範囲をフォールトツリーに基づいて判定する。
【0040】
防火区画判定部19は、プラントの定期検査で火災が生じた場合に火災の影響が及ぶ範囲を防火区画情報に基づいて判定する。
【0041】
溢水防護区画判定部20は、プラントの定期検査で溢水が生じた場合に溢水の影響が及ぶ範囲を溢水防護区画情報に基づいて判定する。
【0042】
線量判定部21は、プラントの定期検査を行ったときに作業者の被ばく量を線量マップ情報に基づいて判定する。
【0043】
遵守ロジックツリー判定部22は、フォールトツリー判定部18の判定結果を遵守ロジックツリーに適用して遵守状態が維持されるか否かを判定する。また、遵守ロジックツリー判定部22は、防火区画判定部19と溢水防護区画判定部20と線量判定部21の判定結果を遵守ロジックツリーに適用して遵守状態が維持されるか否かを判定する。
【0044】
なお、本実施形態の遵守状態に関する判定は、遵守されているか否かの判定のみならず、遵守状態を定量的に判定することも含まれる。例えば、遵守状態を数値で示しても良い。そして、遵守状態を示す数値の変化を所定の閾値を用いて判定しても良い。また、遵守状態が悪化するか否かの判定を行っても良い。例えば、数値を用いて遵守状態の悪化具合(変化のレベル)を判定しても良い。
【0045】
現場写真出力部23は、定期検査に関する現場写真(
図8)を出力する。例えば、ユーザが定期検査に関する申請書類を作成するときに、現場写真情報データベース15に記憶されている現場写真を検索する。現場写真出力部23は、現場写真情報データベース15から対象となる現場写真を抽出し、この現場写真を出力することができる。
【0046】
リスク対策情報出力部24は、リスク対策情報を出力する。例えば、ユーザが定期検査の計画を立案するときに、リスク対策情報データベース16に記憶されているリスク対策情報を検索する。リスク対策情報出力部24は、リスク対策情報データベース16から定期検査に関するリスク対策情報を抽出し、このリスク対策情報を出力することができる。
【0047】
図3は、フォールトツリー判定部18で判定に用いられるフォールトツリーの一例である。なお、フォールトツリーは、フォールトツリー情報データベース8に予め記憶されている。
【0048】
本実施形態のフォールトツリーにおける下位アイテム27には、機器2に生じる特定のイベントが登録される。なお、特定のイベントには、例えば、機器2の故障(トラブル)、機器2の停止、機器2の点検などが含まれる。また、機器2の本体に関するものでなくても良く、例えば、所定の機器2への電力の供給が停止されたり、所定の機器2が設けられている部屋の空調設備が故障したりすることなども、所定の機器2に対応して発生するイベントとなっている。これらの下位アイテム27を論理ゲート30(ANDゲート、ORゲート)により関連付けてフォールトツリーを構築する。
【0049】
また、フォールトツリーにおける中位アイテム28には、下位アイテム27のイベントの発生に対応して生じるイベントが登録される。さらに、フォールトツリーにおける上位アイテム29には、中位アイテム28のイベントの発生に対応して生じるイベントが登録される。上位アイテム29のイベントは、遵守ロジックツリー(
図4)における要素アイテム32に対応している。フォールトツリーは、下位アイテム27のイベントの発生が、上位アイテム29のイベント(フォールトモード)を発生させるか否かを判定するために用いられる。
【0050】
本実施形態では、フォールトツリー判定部18の判定結果が炉心損傷確率を含むものとなっている。このようにすれば、炉心損傷確率を含めたリスク評価を行うことができる。
【0051】
なお、フォールトツリーの判定要素には、例えば、機器2ごとの故障確率が含まれても良い。さらに、系統ごとの故障確率が含まれていても良い。そして、フォールトツリーを用いて所定のフォールトが生じる確率を算出しても良い。
【0052】
図4は、遵守ロジックツリー判定部22で判定に用いられる遵守ロジックツリーの一例である。なお、遵守ロジックツリーは、遵守ロジックツリー情報データベース9に予め記憶されている。
【0053】
本実施形態の遵守ロジックツリーにおける要素アイテム32には、フォールトツリー判定部18の判定結果が登録される。なお、要素アイテム32に登録される判定結果には、例えば、所定の系統が運転可能であるか否かの判定結果が含まれる。これらの要素アイテム32を論理ゲート31(ANDゲート、ORゲート)により関連付けて遵守ロジックツリーを構築する。この遵守ロジックツリーは、プラントの運用マニュアルに基づいて構築される。そして、結論アイテム33には、運用マニュアルが遵守中であることが登録される。つまり、遵守ロジックツリーは、特定のイベントが発生した場合に、運用マニュアルが遵守されるか否かを判定するために用いられる。
【0054】
さらに、遵守ロジックツリーにおける要素アイテム32には、防火区画判定部19の判定結果と、溢水防護区画判定部20の判定結果と、線量判定部21の判定結果についても登録される。このようにすれば、防火区画、溢水防護区画、線量マップに基づいて、プラントの運用マニュアルが遵守されているか否かを判定することができる。
【0055】
なお、本実施形態では、論理ゲート30,31を用いて判定を行っているが、論理ゲート30,31の判定の代わりに所定の閾値を用いて判定を行っても良い。また、論理ゲート30,31を用いる判定と閾値を用いる判定とを組み合わせて用いても良い。
【0056】
図5は、エリアマップの一例である。このエリアマップは、プラントの所定のフロアの平面図を示している。また、フロアの状況が期間に応じて変化する場合には、それぞれの期間(日時)に応じたエリアマップが作成される。
【0057】
本実施形態のエリアマップは、メッシュ状(グリッド状)に区切られている。例えば、エリアマップが複数のメッシュ26で区切られている。つまり、エリアマップにおける所定の位置をメッシュ26で特定することができる。それぞれのメッシュ26には、それぞれのメッシュ26を個々に識別可能なメッシュID(
図6)が付与されている。なお、1個のメッシュ26は、仮想の立方体の領域を示す。
図5では、理解を助けるために、1個のメッシュ26を仮想の正方形の領域として示している。
【0058】
メッシュ26の一辺の寸法は任意に設定することができる。本実施形態では、例えば、メッシュ26の一辺の寸法を1mとする。また、作業内容または機器2に応じてメッシュ26の寸法を変更しても良い。
【0059】
エリアマップには、複数の機器2の配置が表示されている。それぞれの機器2には、それぞれの機器2を個々に識別可能な機器ID(
図7)が付与されている。
【0060】
また、エリアマップには、点検作業が行われる作業位置25が表示される。さらに、エリアマップには、注意が必要な要注意エリア34が表示される。また、エリアマップには、リスク対策を施す必要がある箇所、またはリスク対策が未検討の箇所を示すリスク対策マーク35が表示される。
【0061】
なお、作業位置25、要注意エリア34、リスク対策マーク35を、リスクの種類に応じて色分けして表示させても良い。例えば、所定の位置で作業を行う場合において、メイン、サブ、バックアップの3系統のうち、3系統が運転可能であれば青色で表示し、2系統が運転可能であれば黄色で表示し、1系統が運転可能であれば赤色で表示する。ユーザは視覚的にリスクを把握することができる。また、色分けの替わりに、所定の数値またはグラフでリスクの種類を示しても良い。
【0062】
なお、エリアマップ(
図5)は、定検時リスク管理システム1が備えるディスプレイに表示されても良い。ユーザは、エリアマップを視認することにより、点検作業を行う作業者の作業位置25と要注意エリア34とリスク対策を施す必要がある箇所を把握することができる。
【0063】
本実施形態では、エリアマップにおける所定のメッシュ26で点検作業が行われる場合に、この点検作業の作業位置25に対応するメッシュ26と、このメッシュ26に隣接する近傍のメッシュ26とを特定する。なお、作業位置25に対応するメッシュ26を中心として所定の範囲のメッシュ26を特定しても良い。
【0064】
さらに、これらのメッシュ26に機器2が存在するか否かを特定する。この特定された機器2が存在する場合に、その機器2を点検作業で作業者が近接する可能性があるものとして仮定する。例えば、この機器2が点検作業の影響で破損したり故障したりするものと仮定する。そして、この機器2をフォールトツリー判定部18の判定対象とする。
【0065】
本実施形態では、対象機器特定部17(
図2)が、エリアマップに基づいて、フォールトツリー判定部18の判定対象となる機器2を特定する処理を行う。このようにすれば、作業位置25に近接している機器2をエリアマップで特定することができる。そして、このエリアマップで特定された機器2が作業の影響を受けるものと仮定して、フォールトツリーの判定対象とすることができる。
【0066】
図6に示すように、作業情報データベース10に記憶されるエリア管理テーブルには、メッシュIDに対応付けて、座標位置と機器IDと作業予定とが登録される。なお、その他の情報をメッシュIDに対応付けて登録しても良い。
【0067】
エリア管理テーブルに登録される座標位置は、メッシュIDに対応するメッシュ26のエリアマップにおける座標位置を示す。なお、エリアマップごとに原点が設定されている。メッシュ26の座標位置は、メッシュ26の中心でも良いし、メッシュ26を構成する立方体における任意の角部でも良い。
【0068】
エリア管理テーブルに登録される機器IDは、メッシュIDに対応するメッシュ26に配置される機器2の機器IDを示す。
【0069】
エリア管理テーブルに登録される作業予定は、メッシュIDに対応するメッシュ26で作業が行われる予定が有るか否かを示す情報を含む。なお、作業予定には、点検作業が実施される日時、作業件名などの情報も含まれる。さらに、作業予定には、防火区画に関する情報、溢水防護区画に関する情報、線量マップに関する情報が含まれても良い。
【0070】
本実施形態では、作業情報データベース10に機器2の配置位置を特定可能な作業情報が記憶される。このようにすれば、定期検査が行われる作業中に作業者が近接してしまう可能性がある機器2を特定し、この特定された作業情報および機器2に基づいてリスク評価を行うことができる。
【0071】
図7に示すように、重要設備情報データベース11に記憶される機器管理テーブルには、機器IDに対応付けて、状態と運用予定と重要度と故障確率とが登録される。なお、その他の情報を機器IDに対応付けて登録しても良い。
【0072】
機器管理テーブルに登録される状態は、機器IDに対応する機器2の状態を示す。なお、この状態は、現在の状態でも良いし、点検作業が行われる日時の状態でも良い。
【0073】
機器管理テーブルに登録される運用予定は、機器IDに対応する機器2の運用予定を示す。例えば、所定の期間ごとに、機器2が運用中であるか、機器2が待機中であるか、機器2が点検中であるかなどを示す情報が登録される。
【0074】
機器管理テーブルに登録される重要度は、機器IDに対応する機器2の重要度を示す。この重要度は、定量的に重要度を示す情報であっても良い。このようにすれば、定期検査が行われる作業中に作業者が近接してしまう可能性がある機器2の重要度を定量的に評価することができる。例えば、重要度が高い機器2の場合はフォールトツリーの判定対象とし、重要度が低い機器2の場合はフォールトツリーの判定対象としないようにできる。
【0075】
機器管理テーブルに登録される故障確率は、機器IDに対応する機器2の故障確率を示す。例えば、通常の運転をしているときに、その機器2が故障する確率が登録される。
【0076】
図8に示すように、現場写真情報データベース15に記憶される現場写真には、写っている物を説明するための説明文などが含まれる。例えば、機器2の名称を示す名称情報36、リスク対策情報37などが、現場写真に含まれている。なお、名称情報36、リスク対策情報37などは、テキストデータとして現場写真に埋め込まれても良い。これらのテキストデータに基づいて、ユーザは必要とする現場写真の検索および抽出を行うことができる。
【0077】
現場写真情報データベース15には、それぞれの現場写真を個々に識別可能な現場写真IDが登録される。さらに、これらの現場写真IDに対応付けて、名称情報36、リスク対策情報37、機器ID、機器番号、系統番号、などの情報が登録される。また、現場写真が撮影されたメッシュ26を示すメッシュIDが登録されても良い。ユーザは、機器2の名称などに基づいて、作業予定がある場所の現場写真を検索することができる。
【0078】
なお、エリアマップ(
図5)に表示される作業位置25、要注意エリア34、リスク対策マーク35をマウスカーソルでクリックすると、対応する現場写真またはリスク対策情報37が表示されるようにしても良い。
【0079】
次に、定検時リスク管理システム1が実行する定検時リスク管理処理について
図9のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。以下のステップは、定検時リスク管理処理に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップが定検時リスク管理処理に含まれても良い。
【0080】
この処理は、一定時間毎に繰り返される処理である。この処理が繰り返されることで、定検時リスク管理システム1で定検時リスク管理方法が実行される。なお、定検時リスク管理システム1が他のメイン処理を実行中に、この処理を割り込ませて実行しても良い。
【0081】
図9に示すように、まず、ステップS11において、メイン制御部3は、メイン制御処理を実行する。このメイン制御処理では、定検時リスク管理システム1のディスプレイなどの各種デバイスを制御する処理が行われる。
【0082】
次のステップS12において、メイン制御部3は、操作受付処理を実行する。この操作受付処理では、入力部4により所定の入力操作を受け付ける処理が行われる。
【0083】
次のステップS13において、メイン制御部3は、事前登録処理を実行する。この事前登録処理では、それぞれのデータベース8~16に各種情報を記憶させる処理が行われる。
【0084】
例えば、フォールトツリー情報データベース8にフォールトツリーが記憶される。遵守ロジックツリー情報データベース9に遵守ロジックツリーが記憶される。作業情報データベース10に作業情報が記憶される。重要設備情報データベース11に重要設備情報が記憶される。防火区画情報データベース12に防火区画情報が記憶される。溢水防護区画情報データベース13に溢水防護区画情報が記憶される。線量マップ情報データベース14に線量マップ情報が記憶される。現場写真情報データベース15に現場写真が記憶される。リスク対策情報データベース16にリスク対策情報が記憶される。
【0085】
次のステップS14において、メイン制御部3は、後述のリスク判定処理(
図10)を実行する。なお、メイン制御部3は、ディスプレイにリスク評価の支援を行う支援画面が表示中である場合に、リスク判定処理を実行する。
【0086】
次のステップS15において、現場写真出力部23は、現場写真出力処理を実行する。なお、現場写真出力部23は、ディスプレイに現場写真の検索を行う写真検索画面が表示中である場合に、現場写真出力処理を実行する。
【0087】
現場写真出力処理では、ユーザが入力した情報に基づいて、現場写真情報データベース15に記憶されている現場写真(
図8)を検索する。そして、検索により抽出した現場写真を出力する。
【0088】
次のステップS16において、リスク対策情報出力部24は、リスク対策情報出力処理を実行する。そして、定検時リスク管理処理を終了する。なお、リスク対策情報出力部24は、ディスプレイにリスク対策情報の検索を行うリスク対策情報検索画面が表示中である場合に、リスク対策情報出力処理を実行する。
【0089】
リスク対策情報出力処理では、ユーザが入力した情報に基づいて、リスク対策情報データベース16に記憶されているリスク対策情報37(
図8)を検索する。そして、検索により抽出したリスク対策情報37を出力する。なお、リスクの事案とその対策の関係が分かるように、リスクの事案とその対策の一覧表を表示しても良い。
【0090】
次に、
図10のフローチャートを用いてリスク判定処理について説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。以下のステップは、リスク判定処理に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップがリスク判定処理に含まれても良い。
【0091】
まず、ステップS21において、対象機器特定部17は、後述の対象機器特定処理(
図11)を実行する。
【0092】
次のステップS22において、フォールトツリー判定部18は、フォールトツリー判定処理を実行する。ここで、フォールトツリー判定部18は、プラントの定期検査で特定のイベントが生じた場合にイベントの影響が及ぶ範囲をフォールトツリーに基づいて判定する。
【0093】
次のステップS23において、防火区画判定部19は、防火区画判定処理を実行する。ここで、防火区画判定部19は、プラントの定期検査で火災が生じた場合に火災の影響が及ぶ範囲を防火区画情報に基づいて判定する。
【0094】
なお、防火区画判定処理では、火災のリスクがある作業予定がある場合に、防火区画または火災の影響が及ぶ範囲の評価を行っても良い。そして、火災の影響が大きいエリアで火気作業が予定されている場合は、ディスプレイにアラーム表示し、その対策を促すようにしても良い。さらに、予定されている作業が、消火活動の動線を妨害するものである場合は、ディスプレイにアラーム表示し、その対策を促すようにしても良い。
【0095】
次のステップS24において、溢水防護区画判定部20は、溢水防護区画判定処理を実行する。ここで、溢水防護区画判定部20は、プラントの定期検査で溢水が生じた場合に溢水の影響が及ぶ範囲を溢水防護区画情報に基づいて判定する。
【0096】
なお、溢水防護区画判定処理では、溢水のリスクがある作業予定がある場合に、溢水防護区画または溢水の影響が及ぶ範囲の評価を行っても良い。そして、溢水の影響が大きいエリアで作業が予定されている場合は、ディスプレイにアラーム表示し、その対策を促すようにしても良い。
【0097】
次のステップS25において、線量判定部21は、線量判定処理を実行する。ここで、線量判定部21は、プラントの定期検査を行ったときに作業者の被ばく量を線量マップ情報に基づいて判定する。
【0098】
なお、線量判定処理では、高線量エリアでの作業が予定されている場合に、高線量の被ばくのリスクがあるか否かの評価を行っても良い。そして、高線量の被ばくのリスクがある場合は、ディスプレイにアラーム表示し、その対策を促すようにしても良い。
【0099】
次のステップS26において、遵守ロジックツリー判定部22は、遵守ロジックツリー判定処理を実行する。ここで、遵守ロジックツリー判定部22は、フォールトツリー判定部18の判定結果を遵守ロジックツリーに適用して遵守状態が維持されるか否かを判定する。また、遵守ロジックツリー判定部22は、防火区画判定部19と溢水防護区画判定部20と線量判定部21の判定結果を遵守ロジックツリーに適用して遵守状態が維持されるか否かを判定する。そして、リスク判定処理を終了する。なお、前述の
図10に示したフローチャートにおいてステップS22からステップS26については適宜順番を変更し、または並列して実行することができる。
【0100】
次に、
図11のフローチャートを用いて対象機器特定処理について説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。以下のステップは、対象機器特定処理に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップが対象機器特定処理に含まれても良い。
【0101】
まず、ステップS31において、対象機器特定部17は、定期検査が行われる作業位置25の入力があるか否かを判定する。ここで、作業位置25の入力がない場合(ステップS31にてNOの場合)は、対象機器特定処理を終了する。一方、作業位置25の入力がある場合(ステップS31にてYESの場合)は、ステップS32に進む。
【0102】
次のステップS32において、対象機器特定部17は、エリアマップを参照し、作業位置25に対応するメッシュ26(
図5)を特定する。
【0103】
次のステップS33において、対象機器特定部17は、作業位置25に対応するメッシュ26に隣接する近傍のメッシュ26(
図5)を特定する。
【0104】
次のステップS34において、対象機器特定部17は、エリア管理テーブル(
図6)を参照し、特定したメッシュ26のメッシュIDに機器IDが対応付けられているか否かを判定する。つまり、作業位置25に関連するメッシュ26に機器2が存在するか否かを判定する。ここで、作業位置25に関連するメッシュ26に機器2が存在しない場合(ステップS34にてNOの場合)は、対象機器特定処理を終了する。一方、作業位置25に関連するメッシュ26に機器2が存在する場合(ステップS34にてYESの場合)は、ステップS35に進む。
【0105】
次のステップS35において、対象機器特定部17は、機器管理テーブル(
図7)を参照し、メッシュ26に存在する機器2が重要設備であるか否かを判定する。ここで、機器2が重要設備でない場合(ステップS35にてNOの場合)は、対象機器特定処理を終了する。一方、機器2が重要設備である場合(ステップS35にてYESの場合)は、ステップS36に進む。
【0106】
次のステップS36において、対象機器特定部17は、機器管理テーブル(
図7)を参照し、重要設備である機器2が作業時に停止の予定か否かを判定する。ここで、機器2が作業時に停止の予定である場合(ステップS36にてYESの場合)は、対象機器特定処理を終了する。一方、機器2が作業時に停止の予定でない場合(ステップS36にてNOの場合)は、ステップS37に進む。
【0107】
次のステップS37において、対象機器特定部17は、作業位置25に関連するメッシュ26(
図5)に配置されている機器2をフォールトツリー判定部18の判定対象として特定する。そして、対象機器特定処理を終了する。
【0108】
なお、本実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0109】
本実施形態のシステムは、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。このシステムは、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0110】
なお、本実施形態のシステムで実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
【0111】
また、このシステムで実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、このシステムは、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0112】
なお、本実施形態において、基準値(閾値)を用いた任意の値の判定は、「任意の値が基準値以上か否か」の判定でも良いし、「任意の値が基準値を超えているか否か」の判定でも良い。或いは、「任意の値が基準値以下か否か」の判定でも良いし、「任意の値が基準値未満か否か」の判定でも良い。また、基準値が固定されるものでなく、変化するものであっても良い。従って、基準値の代わりに所定範囲の値を用い、任意の値が所定範囲に収まるか否かの判定を行っても良い。また、予め装置に生じる誤差を解析し、基準値を中心として誤差範囲を含めた所定範囲を判定に用いても良い。
【0113】
本実施形態の定検時リスク管理システム1では、定期点検の作業位置25と機器2の近接性を判定する。そして、近接作業については、機器2を使用不可とした場合の運用マニュアルへの影響または炉心損傷頻度の増加をディスプレイに表示することができる。
【0114】
また、重要設備近接作業に起因する原子力安全上の定量的リスクを管理し、かつ視覚化することで、リスク管理業務を効率化するとともに、合理的な重近作業許可判断を支援することができる。
【0115】
さらに、作業位置25の周囲に配置されている機器2の干渉の可能性を判定することができる。そして、干渉の可能性がある作業は、3D-CADなどで詳細なエリアの確認または調整を行うようにしても良い。また、足場を含む必要がある作業、資材置き場の使用予定、クレーンまたはハッチ使用予定、搬入口使用予定などを作業ごとに管理することができる。
【0116】
以上説明した実施形態によれば、フォールトツリー判定部の判定結果を遵守ロジックツリーに適用して遵守状態が維持されるか否かを判定する遵守ロジックツリー判定部を備えることにより、安全性を確保しつつ過度なリスク評価とならないようにし、定期点検の効率を向上させることができる。
【0117】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0118】
1…定検時リスク管理システム、2…機器、3…メイン制御部、4…入力部、5…出力部、6…記憶部、7…通信部、8…フォールトツリー情報データベース、9…遵守ロジックツリー情報データベース、10…作業情報データベース、11…重要設備情報データベース、12…防火区画情報データベース、13…溢水防護区画情報データベース、14…線量マップ情報データベース、15…現場写真情報データベース、16…リスク対策情報データベース、17…対象機器特定部、18…フォールトツリー判定部、19…防火区画判定部、20…溢水防護区画判定部、21…線量判定部、22…遵守ロジックツリー判定部、23…現場写真出力部、24…リスク対策情報出力部、25…作業位置、26…メッシュ、27…下位アイテム、28…中位アイテム、29…上位アイテム、30,31…論理ゲート、32…要素アイテム、33…結論アイテム、34…要注意エリア、35…リスク対策マーク、36…名称情報、37…リスク対策情報。