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  • 特許-内燃機関用の内部冷却バルブ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】内燃機関用の内部冷却バルブ
(51)【国際特許分類】
   F01L 3/14 20060101AFI20230718BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20230718BHJP
【FI】
F01L3/14 A
B82Y30/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020523395
(86)(22)【出願日】2018-08-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 EP2018071242
(87)【国際公開番号】W WO2019086154
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】102017125365.3
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518073055
【氏名又は名称】フェデラル-モーグル バルブトレイン ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】FEDERAL-MOGUL VALVETRAIN GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】トルシュテン マティアス
(72)【発明者】
【氏名】アントニウス ウォルキング
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンド アリアス
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン リンゲリング
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101713306(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0032543(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1955252(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 3/14
B82Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブヘッド(4)及びバルブステム(6)を有するバルブ本体と、前記バルブ本体の内部にあって、ナノ流体冷却剤(10)が配置された少なくとも1つのキャビティ(8)と、を備え、
前記ナノ流体冷却剤(10)が、分散媒(16)として、ナトリウム、リチウム、カリウム、セシウム、又はナトリウム・カリウム合金を含み、分散されたナノ粒子(14)として、チタン粒子、ナノダイヤモンド、炭化ケイ素粒子、ベリリウム粒子、窒化ホウ素粒子、及び/又は、グラフェン粒子のうちの少なくとも2種類を含み、選択されたナノ粒子の少なくとも1つは、選択された分散媒に対して高い熱容量の特性を有し、かつ、選択されたナノ粒子の別のものは、選択された分散媒に対して高い熱伝導率の特性を有し、前記ナノ流体冷却剤が、前記ナノ流体冷却剤に2つの異なる特性をもたらす2つの異なる種類のナノ粒子を含む三成分系であり、そして、前記ナノ流体冷却剤10)が、前記ナノ粒子(14)が結合してナノ粒子凝集体を形成するのを回避するように機能する分散助剤を更に含むことを特徴とする内部冷却バルブ。
【請求項2】
請求項1に記載の内部冷却バルブ(2)であって、前記ナノ流体冷却剤10)は、周囲が冷却エンジン条件下で固体状態であり、900℃までの高温エンジン作動温度で流体状態であることを特徴とする内部冷却バルブ。
【請求項3】
請求項1に記載の内部冷却バルブ(2)であって、前記ナノ粒子(14)は、2~100 nmの範囲の直径を有することを特徴とする内部冷却バルブ。
【請求項4】
請求項1に記載の内部冷却バルブ(2)であって、前記ナノ粒子(14)は、前記ナノ流体冷却剤(10)の0.5~30体積パーセントの割合を有することを特徴とする内部冷却バルブ。
【請求項5】
請求項3に記載の内部冷却バルブ(2)であって、前記範囲は、4~50 nmであることを特徴とする内部冷却バルブ。
【請求項6】
請求項3に記載の内部冷却バルブ(2)であって、前記範囲は、6~20 nmであることを特徴とする内部冷却バルブ。
【請求項7】
請求項4に記載の内部冷却バルブ(2)であって、前記体積パーセントは、2~20体積パーセントであることを特徴とする内部冷却バルブ。
【請求項8】
請求項4に記載の内部冷却バルブ(2)であって、前記体積パーセントは、5~10体積パーセントであることを特徴とする内部冷却バルブ。
【請求項9】
バルブヘッドと、
バルブボディと、
内部キャビティと、を備え、
0℃の標準条件の下で固定状態であり、900℃までの作動温度で流体状態である分散媒を含むナノ流体冷却剤が前記キャビティの内部に収容されており、
前記ナノ流体冷却剤分散媒に含まれる少なくとも2つの異なる種類のナノ粒子は、選択されたナノ粒子の1つが前記分散媒に比べて高い熱容量の特性を有し、前記選択されたナノ粒子のうちの別のものは、前記分散媒に対して高い熱伝導率の特性を有し、前記ナノ流体冷却剤は、分散助剤と結合して前記ナノ流体冷却剤に2つの異なる特性をもたらす2つの異なる種類のナノ粒子を含む三成分系である、内部冷却バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された冷却特性を有する内部冷却バルブに関する。本発明は、特に、バルブヘッドと、バルブステムとを有するバルブ本体を備える内部冷却バルブに関し、バルブ本体には、少なくとも1つのキャビティが設けられ、そのキャビティ内には、少なくとも作動温度においてナノ流体となる冷却剤が収容又は配置されている。ナノ流体中における粒子の特性により、流体の熱吸収及び熱放散は、純粋な液体の場合よりも改善される。これは、ナノ流体中における粒子の熱伝導率及び/又は熱容量が利用されるからである。これにより、冷却剤を、所望の作動及び設計パラメータにより良好に適合させることができる。
【背景技術】
【0002】
バルブに関する技術がかなり以前より使用されてきたため、様々な実施形態において、多くの異なる種類の内部冷却バルブがこれまでに知られている。
【0003】
内部冷却は、主として排気バルブに適用される。なぜなら、吸気バルブは、吸気行程毎に、供給される新鮮な空気及び供給される混合気により冷却されるのに対して、排気バルブは、燃焼室の側面からの熱負荷のみならず、通過する排気ガスによる負荷も受けるからである。
【0004】
内部冷却排気バルブにおけるキャビティの約60%は、典型的にはナトリウムで充填される。ナトリウムの部分充填により、エンジンの作動温度で液体であるナトリウムは、バルブが開放するたびにバルブヘッドからバルブステムに向けて移動可能であり、バルブが閉鎖するたびにバルブステムからバルブヘッドに向けて移動可能であり、これにより熱エネルギーが搬送される。バルブヘッド及びバルブステムの下部において、バルブ及び冷却剤が熱を吸収し、冷却されたエンジンヘッドにガイドされたバルブステムにおいて、バルブ及び冷却剤が熱を放出する。この形式の冷却は、「シェイカー冷却」として知られている。排気バルブは、最高で900℃の温度に達し得る。効果的な冷却を行うことにより、温度を約150℃だけ低減することができる。
【0005】
同様に、特許文献1(独国実用新案第1970267号明細書)に記載されているように、バルブのキャビティを鉛で充填することもこれまでに知られている。
【0006】
更に、特許文献2(中国特許出願公開第101713306号明細書)には、ナノ粒子が導入されるナトリウム充填物を備える内部冷却バルブが知られている。特許文献3(特開2005048634号公報)には、炭素複合材で構成されたコアを備えるバルブが記載されている。特許文献4(国際公開第03/074843号パンフレット)は、支持構造及びナトリウム充填物を備える軽量バルブを開示している。特許文献5(独国特許出願公開第3015201号明細書)は、銅粒子が付加的に添加されたナトリウム充填物を備える内部冷却バルブに関する。特許文献6(独国特許出願公開第102009016938号明細書)には、内部冷却バルブが知られているが、既知のナトリウム冷却バルブとは対照的に、ナトリウムではなく、グラファイト、銅、銅合金、又は銅ベースの焼結材料が充填されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】独国実用新案第1970267号明細書
【文献】中国特許出願公開第101713306号明細書
【文献】特開2005048634号公報
【文献】国際公開第03/074843号パンフレット
【文献】独国特許出願公開第3015201号明細書
【文献】独国特許出願公開第102009016938号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
内燃機関のバルブ、特に排気バルブの冷却を改善することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1に記載の特徴を有する内部冷却バルブにより解決される。好適な実施形態は、従属請求項に記載した通りである。
【0010】
本発明の一態様によれば、バルブヘッドと、バルブステムとを有するバルブ本体を備える内部冷却バルブが提供され、バルブ本体は、冷却剤としてのナノ流体が配置された少なくとも1つのキャビティを有する。ナノ流体とは、ナノメートル範囲の小粒子(ナノ粒子とも称される)を液体中に分散させたものと定義される。このようにナノ粒子を含む分散物と理解されるが、以下においては、名称が示唆する「マイクロ流体」を含まない場合であっても、簡潔さを期すために用語「ナノ流体」を使用するものとする。
【0011】
本発明の一実施形態において、ナノ流体は、作動温度でのみナノ流体として存在し、20℃の室温又は0℃の標準条件では固体状態で存在していてもよい。
【0012】
本発明の他の例示的な実施形態において、ナノ流体は、分散媒として、ナトリウム、リチウム、カリウム、セシウム、又はナトリウム・カリウム合金を含む。内部冷却バルブの製造に関する経験の殆どは、ナトリウムを使用して得られている。ただし、要求される特性に応じて、リチウム、カリウム、セシウム、又はその合金を分散媒として使用することができる。同様に、ウッドメタル又は低融点を有する他の金属の使用も可能である。この場合も、熱伝導率が大きく、かつ熱容量が大きい流体を使用するのが好適である。
【0013】
内部冷却バルブの他の例示的な実施形態において、ナノ流体は、分散粒子として、チタン粒子、ナノダイヤモンド、炭化ケイ素粒子、ベリリウム粒子、窒化ホウ素粒子、及び/又は、グラフェン粒子より成る群から選択される粒子を含む。炭化ケイ素粒子及びナノダイヤモンド(即ち、数ナノメートルの粒径を有するダイヤモンド)は、ナトリウムなどの従来の純粋な冷却剤に比べて、ナノ流体の熱容量を増加させるのに極めて適している。小さな粒子は、極めて有利な表面/質量比を有するため、熱伝導率が比較的小さい材料であっても迅速に加熱することができる。この場合、分散媒の熱は、粒子の周りに伝導され、ナノ粒子を表面全体にわたって加熱することができる。この加熱は、僅かな寸法及び有利な表面/質量比により、熱伝導率が極めて小さな材料であっても短時間で実現可能である。対照的に、チタンなどのナノ粒子は、極めて優れた熱伝導体であり、熱がバルブディスクからナノ流体へ、又はナノ流体からバルブステムに伝達される速度を大幅に増加させることができる。
【0014】
内部冷却バルブの他の実施形態において、ナノ流体は、少なくとも2種類の異なるナノ粒子を含む三元系ナノ流体として構成されている。更に、一方でナノ流体の熱伝導率を増加させ、他方でナノ流体の熱容量を増加させるために、良好な熱伝導率を有するナノ粒子と、大きな熱容量を有するナノ粒子をナノ流体中に混合することができる。
【0015】
内部冷却バルブの他の例示的な実施形態においては、2~100 nm、好適には4~50 nm、更に好適には6~20 nmの範囲の直径を有する粒子又はナノ粒子を含むナノ流体が使用される。粒子の直径が小さい場合、凝集のリスクが高まり急速な分散が妨げられるが、レイノルズ数が小さいため、大きな粒子よりも遥かにゆっくりと落下する。粒子が十分に小さい場合、粒子は極めてゆっくりと落下するため、エンジンの停止し、従って冷却剤の凝固が落下の前に生じ、凝集に関する問題が確実に回避され得る。
【0016】
内部冷却バルブの他の実施形態において、ナノ流体中のナノ粒子は、0.5~30体積パーセント、好適には2~20体積パーセント、更に好適には5~10体積パーセントの割合を有する。これにより、ナノ粒子が冷却剤の流動特性に及ぼす影響が僅かであることが保証される。更に、これらの割合のナノ粒子により、熱伝導及び/又は熱容量に関して、冷却特性の大幅な改善が実現される。
【0017】
内部冷却バルブの他の実施形態において、ナノ流体は、ナノ粒子が結合してナノ粒子凝集体を形成するのを回避すると共に、堆積後のナノ粒子の再分散を可能又は容易にする分散助剤を更に含む。分散剤又は分散助剤としては、界面活性剤又はテンサイドを使用することができる。
【0018】
以下、本発明に係る内部冷却バルブの概略図を参照しつつ本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る内部冷却バルブの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、内部冷却バルブ2の断面図を示す。バルブは、バルブディスクを有するバルブヘッド4と、バルブを一般的にはエンジンヘッドにガイドするバルブステムとを備える。バルブディスクは燃焼室を閉鎖し、また排気バルブについては、各排気行程の間、高温の燃焼ガスがバルブヘッド全体の周りを流れる。この大きな熱負荷は、比較的細長いバルブステム6を介してのみ放散され得る。
【0021】
バルブ2内には、バルブヘッド4からバルブステム6に向けてキャビティ8が延在している。このキャビティ8の一部は、冷却剤10で充填されている。バルブが開放するたびに、質量慣性に起因し、冷却剤10がバルブヘッド4からバルブステム6に流れ込み、その温度及び熱容量により、シリンダヘッドで冷却されるバルブステムに一定量の熱エネルギーが搬送される。吸気行程の開始時に排気バルブ2が閉鎖するたびに、冷却された冷却剤10は、バルブステムからバルブヘッドに向けて戻り、その熱エネルギーを利用してバルブヘッドを冷却し、自らの温度を再び増加させることができる。この原理は、冷却剤の熱容量及び熱伝導率が大きいほど、より効果的に機能することは言うまでもない。
【0022】
本発明によれば、冷却剤は、ナノメートル範囲の寸法を有する粒子が液体中に分散されたナノ流体として構成されている。これは、図1の拡大詳細図で示す。ナノ流体12は、分散媒16中に分散されたナノ粒子14を含む。ナノ粒子14が分散媒16よりも遥かに大きな熱伝導率を有する場合、ナノ流体の全体的な熱伝導率は、ナノ粒子14に起因し、純粋な分散媒16に比べて増加する。これは、ナノ粒子が存在する領域において、ナノ粒子がいわば「熱的に短絡する」ことによるものである。ナノ粒子14が分散媒16よりも遥かに大きな熱容量を有する場合、ナノ流体12の全体的な熱容量は、ナノ粒子14に起因し、純粋な分散媒16に比べて増加する。この場合、粒子は極めて小さく、熱がいわばこれら粒子の周りを流れることができるため、熱伝導率は特に大きく低下することはない。大きな熱容量を有するナノ粒子14の熱伝導率が小さい場合であっても、迅速かつ完全な加熱が可能である。なぜなら、ナノ粒子は、質量に関して極めて大きな表面を有し、従って極めて迅速に分散媒16と熱平衡に達するからである。分散媒は、ナノ粒子の周りで加熱し、従ってナノ粒子を全ての側面から加熱する。
【0023】
三元系を使用することも可能であり、この場合、導電率がより大きなナノ粒子と、熱容量がより大きな他のナノ粒子が分散媒中で併用されることにより、両方の効果を補完的に利用することができる。
【0024】
このように、排気バルブの冷却が改善可能であり、従ってより大きな作動温度及び燃焼温度が実現可能となり、ひいては内燃機関の効率向上がもたらされる。シェイカー効果により、ナノ粒子が分散状態に留まり、堆積しないことが保証される。非作動条件下で固定状態となる分散媒16を使用することにより、分散はいわば「凍結」される場合があり、静止状態の低温エンジンにおいてもナノ粒子が堆積することはできない。凝固した分散媒により、エンジンが再始動するまで分散状態が凍結される。ナノ流体は、キャビティバルブ、中空ステムバルブ、並びに中空ヘッドバルブで使用することができる。ナノ流体は、1つ以上のキャビティを備えるバルブにおいて使用することができる。
【0025】
図示のキャビティバルブにおいては、ナトリウム及びナノ粒子が使用され、純粋なナトリウムに比べて冷却剤の冷却効果が高められている。ナノ粒子は更に、ナトリウムの反応性を低下させるため、ナトリウムの取り扱いが容易になる。
【符号の説明】
【0026】
2 内部冷却バルブ
4 バルブヘッド
6 バルブステム
8 キャビティ
10 冷却剤
12 ナノ流体
14 ナノ粒子
16 分散媒/分散剤
図1