(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】テレフタル酸ジアルキルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/327 20060101AFI20230718BHJP
C07C 69/82 20060101ALI20230718BHJP
C01B 33/40 20060101ALI20230718BHJP
B01J 21/16 20060101ALI20230718BHJP
B01J 31/26 20060101ALI20230718BHJP
B01J 27/25 20060101ALI20230718BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230718BHJP
【FI】
C07C67/327
C07C69/82 A
C01B33/40
B01J21/16 Z
B01J31/26 Z
B01J27/25 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020556846
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 EP2019057916
(87)【国際公開番号】W WO2019201569
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-01-28
(32)【優先日】2018-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521042714
【氏名又は名称】ユニリーバー・アイピー・ホールディングス・ベスローテン・ヴェンノーツハップ
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ブリーデン,サイモン・ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,ジェームズ・ハンリー
(72)【発明者】
【氏名】ファーマー,トーマス・ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】マッコーリー,ダンカン・ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】マッケルロイ,コン・ロバート
(72)【発明者】
【氏名】オグンジョビ,ジョセフ・コラウォレ
(72)【発明者】
【氏名】ソーンスウェイト,デイビッド・ウィリアム
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-503187(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0137579(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0126772(US,A1)
【文献】特表2014-528939(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0364631(US,A1)
【文献】米国特許第09321714(US,B1)
【文献】特開2008-230936(JP,A)
【文献】Chem. Eur. J.,2005年,11,288-297
【文献】RESONANCE,2002年,64-77
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/327
C07C 69/82
C01B 33/40
B01J 21/16
B01J 31/26
B01J 27/25
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸ジアルキルの製造方法であって、以下の工程:
i) フラン-2,5-ジカルボキシレートを用意する工程;
ii) フラン-2,5-ジカルボキシレートをアルコールでエステル化してフラン-2,5-カルボン酸ジアルキルエステルを生成する工程;
iii) 前記フラン-2,5-カルボン酸ジアルキルエステルとエチレンとを、ディールス・アルダー反応条件、高温高圧および触媒の存在下で反応させて、テレフタル酸ジアルキルを生成させる工程;
を含み、
ここで、前記ディールス・アルダー反応は溶媒を含まず;
またここで、前記触媒は、金属イオンを含みルイス酸性を有する粘土を含み、
該金属イオンが、アルミニウム、ジルコニウム、チタンおよび銅からなる群から選択される、
前記方法。
【請求項2】
前記テレフタル酸ジアルキルを、さらなる生成物
に変換する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記さらなる生成物が、
a)
テレフタレートポリエステル、
b)ポリ(ブチレンアジペート-ブチレンテレフタレート)共重合体、および
c)アルキル基が直鎖および分岐鎖から選択されるより長い炭素鎖であるテレフタレートジエステルであるテレフタレート可塑剤
からなる群から選択される、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記テレフタレートポリエステルがポリエチレンテレフタレートである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記テレフタル酸ジアルキルがテレフタル酸ジエチルである、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記テレフタル酸ジアルキルをポリアルキレンテレフタレートに変換する追加の工程を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程ii)におけるアルコールがバイオアルコールである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程ii)におけるアルコールが、脂肪族アルコール、ベンジルアルコールまたはフェノール性アルコールから選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程ii)におけるアルコールが、バイオメタノール、バイオエタノール、バイオプロパノールおよびそれらの混合物からなる群から
選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記アルコールがバイオメタノールである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
二環式オキソ付加物である中間体がディールス・アルダー反応の間に形成される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ディールス・アルダー反応が溶媒を含まない環境で実施される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記粘土がモンモリロナイト、ヘクトライト、ボルコンスコイト(volchonskoite)、ノントロナイト、サポナイト、ビデライト(bidelite)およびソーコナイトのクラスから選択されるスメクタイト粘土
である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記スメクタイト粘土がモンモリロナイトである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記触媒が、カチオン交換粘土または支柱化粘土から
選択される、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記触媒が支柱化粘土である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記カチオンが、アルミニウム、ジルコニウム、チタンおよび銅からなる群から
選択される、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記カチオンがアルミニウムである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記支柱化粘土が、アルミニウム支柱化粘土、ジルコニウム支柱化粘土、チタン支柱化粘土および銅支柱化粘土からなる群から
選択される、請求項15から18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記支柱化粘度がアルミニウム支柱化粘土である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記フラン-2,5-カルボン酸ジアルキルエステルが粘土触媒上に予備吸着されている、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
バッチ法である、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオベースのテレフタル酸を、特に、新規な触媒を利用してフラン-2,5-ジカルボキシレートから製造する方法に関する。テレフタル酸はポリエチレンテレフタレート(PET)のような材料の製造において主要な用途を有し、さらに、これは多くのプラスチック容器の重要な構成要素である。
【背景技術】
【0002】
テレフタル酸(TA)および他の芳香族カルボン酸は繊維、フィルム、容器、ボトル、包装材料および成形品への変換のために、一般にエチレングリコール、高級アルキレングリコールまたはそれらの組み合わせとの反応によるポリエステルの製造において広く使用されている。このタイプの重要なポリエステルは、テレフタル酸のエステル化、またはテレフタル酸ジアルキルのエチレングリコールとのエステル交換から誘導されるポリエチレンテレフタレート(PET)である。PETはその耐久性、酸素および水に対する高い耐性、充填体積に対する低い重量、気体に対する低い透過性、およびヒトに対する無毒性のために、包装用途での使用に理想的である。現在の世界的なPET生産量は、年間5000万トンを超えている。
【0003】
PETの使用における特に有利な利点は、典型的には溶融および改質を介するか、または構成モノマー単位を改質するための解重合(加水分解、アルコーリシスまたは解糖)を介するかのいずれかで、容易にリサイクルできることである。PETのリサイクルは、機械的性質を過度に失わないので何度でも再利用できるため、ガスの排出を抑え、省エネルギーにつながる。
【0004】
したがって、バイオマスからPETを製造するための持続可能なプロセスも望ましい。石油の変動するコストおよび世界的な原油埋蔵量の減少は現在のPET製造プロセスに影響を与え、それらをますます高価にし、持続不可能にする。また、PETの製造に使用される構成モノマーの製造のための新しい改良された方法も望ましい。成功した例は、PETの30%(w/w)を占め、歴史的には石油源のみから合成されていたエチレングリコール(EG)の製造である。EGは今や、生体由来エチレンから、またはソルビトールおよびキシリトールなどのプラットフォーム分子から得ることができる。しかしながら、p-キシレンの酸化によるTAの生成は酢酸の2番目に大きな世界消費量を示し、これは、非常に環境的に有害なプロセスである。p-キシレン自体は化石由来の化学物質であり、PETの残りの70%(w/w)を占めるが、この分子の単純な生物由来代替物はない。
【0005】
生物由来テレフタル酸を得る試みにおいて、多くの経路が探求されてきた。
【0006】
第1の経路は、グルコースまたはセルロースから供給される5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)を介する。例えば、米国特許出願公開第2010331568号はDMFのp-キシレンへの変換のための触媒プロセスを記載し、ここで、DMF出発物質は炭水化物(例えば、グルコースまたはフルクトース)から合成され得る。
【0007】
米国特許出願公開第2011087000号に開示されている別の経路はイソブタノールへの糖の発酵、続いてイソブテンへの脱水を利用し、その生成物の二量化、脱水素環化および酸化により生物由来のTAが得られる。
【0008】
第3の経路はサトウダイコンを中間体の混合物に変換し、これをさらに処理して、生成物の1つとしてp-キシレンを得る;例えば、Sheldon,R.A.;Green and Sustainable Manufacture of Chemicals from Biomass:State of the Art;Green Chemistry 16,950-963(2014)を参照のこと。この経路はまた、国際公開第2009/120457号に記載されているバイオベースPETの生産の基礎を形成する。
【0009】
さらなる経路、「絶対エタン経路」は、p-キシレンを得るための唯一の出発物質としてエテンを利用する(経路D);Lyons,T.W.、Guironnet,D.、Findlater,M. & Brookhart,M.;Synthesis of p-Xylene from Ethylene;Journal of the American Chemical Society 134、15708-15711(2012)。当該合成は、エテンのヘキセンへの三量化、イリジウム錯体触媒上でのヘキサジエンへの変換、ヘキサジエンへのエテンのDiels-Alder(ディールス・アルダー)付加、次いで生成物3,6-ジメチルシクロヘキセンの接触脱水素化を介して進行する。
【0010】
最後に、「絶対フルフラール経路」はフルフラールのフマル酸およびマレイン酸への酸化を介して進行し、続いて無水マレイン酸に脱水される。フラン(フルフラールの脱カルボニル化から得られる)(米国特許第4780552号に開示されている)の無水マレイン酸へのディールス・アルダー付加は、エキソ-DA付加物を与え、これは続いて無水物およびフタル酸塩に変換され、最後にTAに変換される。得られたTAを加速器質量分析で分析したところ、それは100%のバイオベースの炭素含有量を有することが示された(Tachibana,Y.、Kimura,S & Kasuya,K.-i.;Synthesis and Verification of Biobased Terephthalic Acid from Furfural;Scientific Reports 5,8249、doi:10.1038/srep08249;2015)。
【0011】
国際公開第2010/099201号(Gevo Inc.)は、脱水素化によってC4および/またはC5オレフィンの混合物からイソブテン、イソプレンおよびブタジエンを製造する方法を開示している。C4および/またはC5オレフィンはC4およびC5アルコール、例えば、バイオマスから熱化学的または発酵プロセスによって調製された再生可能なC4およびC5アルコールの脱水によって得ることができる。次に、イソプレンまたはブタジエンを重合させて、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ブチルゴムなどの合成ゴムなどのポリマーを形成し、さらに、ブタジエンを、メチルメタクリレート、アジピン酸、アジポニトリル、1,4-ブタジエンなどのモノマーに変換することができ、次いで、これを重合させて、ナイロン、ポリエステル、ポリメチルメタクリレートなどを形成することができる。
【0012】
国際公開第2009/120457号(The Coca-Cola Company)はテレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸およびこれらの組み合わせから選択されるテレフタレートの25~75重量%と、エチレングリコール、シクロヘキサンジメタノールおよびこれらの組み合わせから選択されるジオールの20~50重量%とを含み、テレフタレートおよび/またはジオールの少なくとも1重量%がバイオベースの材料に由来する、バイオベースのポリエチレンテレフタレートポリマーを開示している。また、a)エチレングリコールを含むジオールを得ること;b)テレフタル酸を含むテレフタレートを得ること(ここで、ジオールおよび/またはテレフタレートは、バイオベースの材料から誘導される);ならびにc)該ジオールおよび該テレフタレートを反応させて、テレフタレートの25~75重量%およびジオールの20~50重量%を含む、バイオベースのポリエチレンテレフタレートポリマーを形成することを含む、バイオベースのポリエチレンテレフタレートポリマーを製造する方法が開示されている。
【0013】
国際公開第2009/064515号(BP Corporation N.Am.Inc.)は、a)溶媒の存在下で2,5-フランジカルボキシレートをエチレンと反応させて二環式エーテルを生成すること;およびb)該二環式エーテルを脱水することを含む、テレフタル酸の製造方法を開示している。また、不純物として約25ppm未満の2,5-フラン-ジカルボン酸を含み、追加の精製なしでの繊維およびフィルムの製造に適したテレフタル酸組成物であって、少なくとも1つのグリコールとの反応によるポリエステルへの直接変換に十分な純度を有する組成物が開示されている。
【0014】
米国特許第9321714号(UOP LLC)は2,5-ジメチルフランのジエステル誘導体を不飽和2-炭素単位を含有するジエノフィルと触媒の存在下で反応させてp-キシレン誘導体を形成し、場合によりp-キシレン誘導体をテレフタル酸に反応させることを含む、テレフタル酸またはテレフタル酸の誘導体の製造方法を開示している。触媒はブレンステッド酸性度を有する金属酸化物を含み、電子リッチ金属プロモーターをさらに含む。適切な触媒としては、固体酸触媒、金属酸化物、イオン性液体およびゼオライトが挙げられる。好ましい触媒はタングステン化ジルコニアである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】米国特許出願公開第2010331568号公報
【文献】米国特許出願公開第2011087000号公報
【文献】国際公開第2009/120457号パンフレット
【文献】米国特許第4780552号公報
【文献】国際公開第2010/099201号パンフレット
【文献】国際公開第2009/120457号パンフレット
【文献】国際公開第2009/064515号パンフレット
【文献】米国特許第9321714号公報
【非特許文献】
【0016】
【文献】Green Chemistry 16,950-963(2014)
【文献】Journal of the American Chemical Society 134、15708-15711(2012)
【文献】Scientific Reports 5,8249、doi:10.1038/srep08249;2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従来技術にもかかわらず、出発バイオマスは、最初に還元されて部分的または完全に酸素原子が除去され、その後酸化されてTAを形成しなければならないという問題が残っている。これは、プロセスの原子経済性にかなりの影響を及ぼす。さらに、酸化工程は、典型的なTA合成において現在使用されているのと同じ過酷で破壊的な反応条件を使用する。原子経済性とは、反応物の原子が最終生成物中にどれだけ多く残り、どれだけ多くが副生成物または廃棄物中に残るかを測定することであり、所与の反応の環境への影響の有用な指標である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、不均質な粘土ベース(clay-based)触媒を用いたエテンへの2,5-フランジカルボン酸のディールス・アルダー付加を介する、バイオベースのPETの潜在的前駆体としてのテレフタル酸ジアルキル(好ましくはテレフタル酸ジエチル(DET)の合成を含む経路が、収率および選択性を他の報告された経路よりも高くすることを見出した。この経路は無溶媒であり、従来技術よりも少ない工程しか含まない。
【0019】
本発明の第1の態様は、以下の工程を含むテレフタル酸ジアルキルの製造方法を提供する:
i)フラン-2,5-ジカルボキシレートを用意する;
ii)アルコールでエステル化してフラン-2,5-カルボン酸ジアルキルエステルを生成する;
iii)前記フラン-2,5-カルボン酸ジアルキルエステルとエチレンとを、ディールス・アルダー反応条件、高温高圧下および触媒の存在下で反応させて、テレフタル酸ジアルキルを生成させる;
ここで、ディールス・アルダー反応は溶媒を含まず;
またここで、前記触媒は、金属イオンを含みルイス酸性を有する粘土を含む。
【0020】
好ましくは、当該方法がテレフタル酸ジアルキルを、好ましくはテレフタレートポリエステル(好ましくはポリエチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンアジペート-ブチレンテレフタレート)共重合体(PBAT)、およびテレフタレート可塑剤(アルキル基が直鎖および分岐鎖から選択されるより長い炭素鎖であるテレフタレートジエステルである)からなる群から選択されるさらなる生成物に変換する工程をさらに含む。好ましくは、テレフタル酸ジエチルがポリエチレンテレフタレートに変換される。
【0021】
好ましくは、本発明の方法はバッチ法である。昇華はバッチプロセスでは特に問題であり、フローシステムでは問題ではない。
【発明を実施するための形態】
【0022】
「バイオベース」という用語は、本発明の文脈において使用される場合、好ましくは少なくとも1つのバイオベースの材料に由来する何らかの成分を含むことを示す。例えば、「バイオベースのPETポリマー」は、少なくとも1つのバイオベースの材料に部分的または全体的に由来する少なくとも1つの成分を含むPETポリマーである。
【0023】
フラン-2,5-ジカルボキシレート
本発明の方法で使用するフラン-2,5-ジカルボキシレートは、好ましくは廃棄物由来であり、例えば炭水化物、セルロースまたはリグノセルロース系廃棄物に由来する。
【0024】
アルコールおよびエステル化反応
フラン-2,5-ジカルボキシレートは、アルコール、好ましくはバイオアルコールを用いてエステル化されてフラン-2,5-カルボン酸アルキルエステルを形成する。
【0025】
フラン-2,5-カルボン酸ジアルキルエステルは、好ましくはフラン-2,5-カルボン酸ジエチルエステルである。
【0026】
バイオアルコールは、石炭や石油などの化石燃料からではなく、農業や嫌気性消化など、現代的な生物学的過程を通じて生産されるアルコールである。例えば、バイオエタノールは、主にトウモロコシ、サトウキビまたはスイートソルガムのような糖または澱粉植物中に生産される炭水化物からの発酵によって作られる。木や草などの非食料源から派生したセルロースバイオマスも、バイオエタノール生産のための原料として開発されている。
【0027】
好ましくは、前記アルコールは1~9個の炭素原子、より好ましくは1~4個の炭素原子、最も好ましくは1~3個の炭素原子を有する。
【0028】
前記アルコールは、本質的に脂肪族、ベンジルまたはフェノール性であってもよく、好ましくは脂肪族である。
【0029】
前記アルコールは、直鎖であっても分枝鎖であってもよく、好ましくは直鎖である。
【0030】
より好ましくは、前記アルコールは炭素数1~4、好ましくは炭素数1~3の直鎖脂肪族である。
【0031】
好ましくは、前記アルコールが200℃まで、より好ましくは120℃未満、最も好ましくは100℃までの沸点を有する。
【0032】
好ましくは、前記アルコールは、バイオメタノール、バイオエタノール、バイオプロパノールおよびそれらの混合物からなる群から選択される。最も好ましいアルコールはバイオエタノールである。
【0033】
エステル化反応は、好ましくは酸触媒および過剰のアルコールの存在下で行われる。酸触媒は、好ましくは硫酸、トルエンスルホン酸およびスルホン酸樹脂ポリマーから選択され、好ましくは硫酸である。スルホン酸樹脂ポリマーは固体であり、回収可能であり、再使用可能であるため、環境的に有利である。
【0034】
フラン-2,5-カルボン酸ジアルキルエステルのエチレンへのディールス・アルダー付加
工程ii)の生成物(フラン-2,5-カルボン酸ジアルキルエステル)を、テレフタル酸ジアルキルが生成するように、触媒の存在下、ディールス・アルダー条件下でエチレンと反応させてテレフタル酸ジアルキルを生成させる。
【0035】
工程ii)の生成物がフラン-2,5-カルボン酸ジエチルエステルである場合、テレフタル酸ジエチルが生成するように、触媒の存在下、ディールス・アルダー条件下で、フラン-2,5-カルボン酸ジエチルエステルをエチレンと反応させてテレフタル酸ジエチルを生成させる。
【0036】
反応は、例えば高圧反応器を用いて加圧される。充填圧力は、好ましくは20~300バール、より好ましくは30~250バール、さらにより好ましくは30~200バール、最も好ましくは40~100バールである。
【0037】
さらに、50~400℃、より好ましくは100~300℃、最も好ましくは120~280℃の温度が利用される。異なる触媒は異なる温度および圧力で作用するので、温度および圧力の両方は、触媒の正確な性質に従って選択されるべきである。
【0038】
中間体がディールス・アルダー反応中に形成される。ディールス・アルダー反応の第一段階は二環式オキソ付加物を形成し、これは、当該反応の高温酸性条件下で脱水を介して自動芳香族化し、したがって、好ましくはテレフタル酸ジエチルである所望のテレフタル酸ジアルキルを形成する。
【0039】
上記ディールス・アルダー反応は、エテンの臨界点未満で、例えば20~40バールの圧力で適切に実施することができる。必要であれば、昇華を防止するためにフラン-2,5-カルボン酸ジアルキルエステルの溶解が要求され得る。
【0040】
本発明の方法のディールス・アルダー反応は、無溶媒環境で実施される。無溶媒反応の使用は、高収率のテレフタル酸ジエチルをもたらした。
【0041】
溶媒、例えばエタノールおよび水を使用する試みは、テレフタレートまたはオキソ付加物の形成が観察されず、不成功であることが見出された。
【0042】
エチレン
本発明の方法はエチレンを利用する。エチレンは、好ましくはバイオマス供給原料からバイオ的に誘導される。バイオエチレンはバイオエタノールから製造される。
【0043】
触媒
本発明の方法は、粘土を含んだ不均一系触媒を利用する。不均一系触媒は回収可能であり、再使用可能であるので有利である。
【0044】
粘土は、天然、合成、または化学的に変性された粘土であってもよい。それは好ましくはスメクタイト粘土である。本明細書で使用されるスメクタイト粘土という用語は、ケイ酸塩格子中に酸化アルミニウムが存在する粘土およびケイ酸塩格子中に酸化マグネシウムが存在する粘土を包含する。
【0045】
好適なスメクタイト粘土の具体例としては、モンモリロナイト、ヘクトライト、ボルコンスコイト(volchonskoite)、ノントロナイト、サポナイト、ビデライト(bidelite)およびソーコナイトのクラスから選択されるものが挙げられる。好ましくは、粘土はモンモリロナイトである。
【0046】
好ましい化学修飾粘土は、カチオン交換粘土および支柱化粘土から選択され、好ましくは支柱化粘土である。カチオン交換粘土は、典型的には金属ルイス酸カチオンであるカチオンが、典型的にはイオン交換によって粘土の層状構造の層間スペースに導入された粘土である。支柱化粘土は、大きな金属ポリカチオンが粘土の層状構造に導入され、焼成されると熱的に安定な多孔質構造を形成するように処理される。アルミニウム支柱化粘土の例示的な市販品は、Sigma-Aldrichから入手可能である。
【0047】
前記粘土触媒は、固有のルイス酸性度を示す。触媒のルイス酸性度のレベルを調整するために、他の金属イオンを粘土中に交換してもよい。
【0048】
好ましい触媒は支柱化粘土、好ましくは金属カチオン、例えば硝酸アルミニウムで処理されたアルミニウム支柱化粘土である。
【0049】
交換および支柱化に使用するのに好ましい金属は、アルミニウム、ジルコニウム、チタンおよび銅からなる群から選択され、最も好ましくはアルミニウムである。
【0050】
好ましくは、フラン-2,5-カルボン酸ジアルキルエステル(好ましくはフラン-2,5-カルボン酸ジエチルエステル)が最初に粘土触媒上に予備吸着される。これは、フラン-2,5-カルボン酸ジアルキルエステルの昇華を最小限に抑えることが見出されたことから、有利である。
【0051】
フラン-2,5-カルボン酸ジアルキルエステルを粘土上に予備吸着する好ましい方法は、フラン-2,5-カルボン酸ジアルキルエステルを溶媒(好ましくはエタノール)に溶解し、粘土触媒を添加し、次いで真空および加熱を使用してエタノール溶媒を除去する工程を含む。
【0052】
PETへの転換
好ましくは、本発明の方法は、テレフタル酸ジアルキルを、好ましくはテレフタレートポリエステル(最も好ましくはポリエチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンアジペート-ブチレンテレフタレート)共重合体(PBAT)、およびテレフタレート可塑剤(アルキル基が直鎖および分岐鎖から選択されるより長い炭素鎖であるテレフタレートジエステルである)からなる群から選択されるさらなる生成物に変換する工程をさらに含む。好ましくは、テレフタル酸ジエチルがポリエチレンテレフタレートに変換される。
【0053】
他の成分をPETポリマーに添加してもよい。当業者は所望の特性を改善するためにPETポリマーに添加する適切な成分を容易に選択することができ、これは、意図される用途の種類に依存し得る。特定の実施形態では、PETポリマーが少なくとも1つの着色剤、少なくとも1つの高速再加熱添加剤、少なくとも1つのガスバリア添加剤、少なくとも1つのUV遮断添加剤、およびそれらの組み合わせから選択される補足成分をさらに含み得る。
【0054】
PETポリマーは樹脂を形成するために使用されてもよく、樹脂は射出成形および延伸ブロー成形を含むがこれらに限定されない方法を使用して、容器にさらに加工されてもよい。
【0055】
本発明の実施形態を、以下の実施例によって説明する。
【実施例】
【0056】
実施例1:本発明による方法で使用するための触媒CAT1~CAT5の調製および比較触媒CATAおよびCATB
以下の触媒:
CAT1-CAT5:本発明による、
CATA、CATB:比較例、
を調製した。
【0057】
CAT1は、硝酸アルミニウムとSigma Aldrichから入手した「Monmorillonite」粘土を用いて調製した、アルミニウム交換粘土であった。
CAT2は、Sigma Aldrichから入手したアルミニウム支柱化粘土であった。
CAT3は、アルミニウム支柱化粘土(CAT2)を硝酸アルミニウムで処理したものであった。
CAT4は、フラン-2,5-カルボン酸ジエチルエステルで前処理したアルミニウム支柱化粘土であった。
CAT5は、予備吸着された試薬を有するCAT1であった。
CATAはゼオライトY(Sigma Aldrichから入手)であった。
CATBは、予備吸着された試薬を有するCATAであった。
【0058】
カチオン交換粘土の製造方法
モンモリロナイト粘土およびアルミニウム支柱化粘土を、以下のようにして金属イオンで交換した:
1.86mmolの所望の金属硝酸塩(例えば、硝酸アルミニウム)を60mlの蒸留水に溶解した。この金属硝酸塩溶液に、1gのモンモリロナイト粘土またはアルミニウム支柱化粘土を添加し、その懸濁液を60℃に18時間加熱した。その後、懸濁液を遠心分離し、液分をデカント除去して、交換された粘土触媒を残した。当該触媒を蒸留水で数回洗浄し、再び遠心分離した後、真空オーブン中にて80℃で5時間乾燥させた。
【0059】
フラン-2,5-カルボン酸ジエチルエステルを触媒上に予備吸着する方法
典型的には、1gのフラン-2,5-カルボン酸ジエチルエステルを20mlの酢酸エチルに溶解し、次いで1gの触媒(CAT1、CAT2、CAT3またはCAT4)を添加した。次いで、その懸濁液をロータリーエバポレーターに付し、真空にも加熱もせずに30分間回転させた。30分間の回転の後、回転を最大速度まで増加させつつ、加熱(50℃)および真空(25mbar)の両方を適用して酢酸エチルを除去した。全ての溶媒を除去したら、サンプルを高真空(1mbar)下に一晩置いた。最後に、集めた固体を乳棒および乳鉢で粉砕し、均質性を確保した。
【0060】
予備吸着の程度は、フラン-2,5-カルボン酸ジエチルエステル(FDEE):触媒の重量で50:50から60:40まで変化させた。
【0061】
フラン-2,5-カルボン酸ジエチルエステルとエテンとの加圧反応を以下のように行った:
触媒およびフラン-2,5-カルボン酸ジエチルエステルを高圧反応器に添加し、次いでこれを窒素でパージした。次いで、エテンを反応器に添加した(40バールの充填圧力、20℃)。
触媒の量を0.15~0.5gの間で変化させた。
エテンの量を80~100mlの間で変化させた。
フラン-2,5-カルボン酸ジエチルエステルの量は0.5gであった。
反応温度は150℃~250℃の間で変化させ、反応時間は24~48時間であった。
【0062】
割り当てられた反応時間の後、反応器をゆっくりと排気した。全ての固体および液体物質を、酢酸エチルを使用して反応器から洗浄し、得られた懸濁液から触媒を濾過した。酢酸エチルを真空中で除去して、典型的には黄色い油を得た。
【0063】
プロセスの転化率、収率および選択性に及ぼす反応条件、試薬の予備吸着および触媒の影響を決定した。結果を以下の実施例に示す。
【0064】
実施例2:触媒CAT5(予備吸着されたフラン-2,5-カルボン酸ジエチルエステルを有するアルミニウム交換粘土)を用いた転化率、収率および選択性
【表1】
【0065】
本発明による方法では、CAT5触媒を用いて優れた収率が得られることがわかる。
【0066】
実施例3:触媒CATA(アルミニウム-Y-ゼオライト)およびCATB(予備吸着試薬を含む)を用いた転化率、収率および選択性
【表2】
【0067】
ゼオライト比較例は、試薬の予備吸着があっても、非常に乏しい転化率および収率を生じることがわかる。
【0068】
実施例4:触媒CAT3(予備吸着された試薬を有するアルミニウム支柱化粘土)を用いた転化率、収率および選択性
【表3】
【0069】
本発明による方法では、CAT3触媒を用いて優れた収率が得られることがわかる。CAT3触媒は、機能するために150℃を超える温度を必要とした。
【0070】
実施例5:触媒CAT2(アルミニウム支柱化粘土)の再使用中の転化率、収率および選択性
触媒CAT2を、フラン-2,5-カルボン酸ジエチルエステルとエテンとの反応において、本発明によるバッチ条件下で再使用した。
【表4】
【0071】
触媒は再使用時に良好に機能し、優れた選択性を示すことがわかる。改善された結果は、流動条件下で予想される。