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特許7314183定量的血行動態フロー分析のための方法および装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】定量的血行動態フロー分析のための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20230718BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20230718BHJP
【FI】
A61B6/00 350A
A61B6/00 320Z
A61B6/00 350D
G06T7/00 612
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2020569860
(86)(22)【出願日】2019-06-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 EP2019065351
(87)【国際公開番号】W WO2019238754
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】62/685,651
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504048537
【氏名又は名称】パイ メディカル イメージング ビー ヴイ
【氏名又は名称原語表記】PIE MEDICAL IMAGING B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バウマン、クリス
(72)【発明者】
【氏名】コーエン、デニス
(72)【発明者】
【氏名】アーベン、ジャン-ポール
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-534154(JP,A)
【文献】特開2015-107171(JP,A)
【文献】特開2018-027323(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0273572(US,A1)
【文献】特開2015-097759(JP,A)
【文献】国際公開第2018/060529(WO,A1)
【文献】特表2015-527901(JP,A)
【文献】特表2018-535816(JP,A)
【文献】特開2008-136800(JP,A)
【文献】特開昭58-216038(JP,A)
【文献】特表2014-534889(JP,A)
【文献】特開2018-083056(JP,A)
【文献】特表2008-521506(JP,A)
【文献】特開2015-217113(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0243761(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0024932(US,A1)
【文献】KORNOWSKI, R. et al.,Fractional Flow Reserve Derived From Routine Coronary Angiograms,Journal of the American College of Cardiology,2016年,Vol. 68, No. 20,p. 2235-2237,[検索日:2023/01/10], <DOI: 10.1016/j.jacc.2016.08.051>
【文献】COLLET, C. et al.,State of the art: coronary angiography,EuroIntervention,2017年,Vol. 13,p. 634-643,[検索日: 2023/01/10], <10.4244/EIJ-D-17-00465>
【文献】MORRIS, P. D. et al.,Fast Virtual Fractional Flow Reserve Based Upon Steady-State Computational Fluid Dynamics Analysis: Results From the VIRTU-Fast Study,JACC Basic Translational Science,2017年,Vol. 2, No. 4,p.434-446,[検索日:2023/01/10], <DOI:10.1016/j.jacbts.2017.04.003>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - 6/14 、
G06T 7/00 - 7/90 、
G06V10/00 -20/90 、30/418、40/16 、
40/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
定量的血行動態フロー分析のための方法であって:
i) 患者固有の画像データを読出すステップ;
ii) 前記患者固有の画像データから冠動脈ツリーのサブセットを表す対象血管の3D再構成を作成するステップ;
iii) 前記3D再構成から、ジオメトリ情報を抽出するステップ;
iv) 前記対象血管内の病変の位置を決定するステップ;
v) 大動脈圧の患者固有のデータを取得するステップ;
vi) 前記3D再構成内の前記対象血管の中心線に沿った圧力降下の仮想プルバックを計算するステップであって、前記中心線が、第1および第2の場所の間の多数の中心線ポイントを含み、前記中心線ポイントが、前記3D再構成された対象血管のジオメトリ情報の少なくとも一部を表す、ステップ;
vii) 仮想プルバック曲線を計算するステップ;
viii) セグメントの前記ジオメトリ情報、前記病変の位置、および前記大動脈圧の患者固有のデータを使用して、前記第1および第2の場所の間の圧力降下と血管FFR値を計算するステップ;および
ix) 前記第2の場所に対応するプルバック曲線データに前記圧力降下と血管FFR値を追加するステップ
を備える方法。
【請求項2】
前記病変の位置を決定する前記ステップが、フローが層流であるか乱流であるかを示すフローパターンパラメータの計算に少なくとも基づいていて、前記フローパターンパラメータが、前記3D再構成から抽出された前記ジオメトリ情報に基づいて計算される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フローパターンパラメータが、レイノルズ数である、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記フローパターンパラメータが、前記対象血管に沿った健康なジオメトリの推定値に基づいて計算される、請求項またはに記載の方法。
【請求項5】
前記健康なジオメトリの前記推定値が、前記病変の位置に近接する、前記対象血管のセグメントにおける直径または面積の少なくとも1つの推定値である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記病変の位置を決定する前記ステップが、前記対象血管に沿った血液速度の変動を特定するステップを含み、前記変動が、血管狭窄の存在に起因する、請求項1~の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記血液速度の前記変動が、前記3D再構成から抽出された前記ジオメトリ情報に基づいて計算される、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記血液速度の前記変動が、前記対象血管に沿った健康なジオメトリの推定値に基づいて計算される、請求項またはに記載の方法。
【請求項9】
前記健康なジオメトリの前記推定値が、直径または面積のうちの少なくとも1つの推定値である、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記対象血管の近位端および遠位端に沿った高度の相違による重力圧力勾配を計算するステップを、さらに、備える、請求項1~の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記3D再構成を作成するステップが、さらに、
前記患者固有の画像データから画像シーケンス、アンギュレーションおよび回転を選択するステップ;
前記患者固有の画像データから第1および第2の選択画像フレームを決定するステップ;
前記第1および第2の選択画像フレームにおける管腔境界を検出するステップ;
前記第1および第2の選択画像投影を決定するステップ;および
前記第1および第2の選択画像投影から前記3D再構成を作成するステップ
を備える請求項1~10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ジオメトリ情報を抽出する前記ステップが、a)面外倍率エラーおよびb)遠近短縮エラーの少なくとも1つに起因するジオメトリの不正確さを回避する、請求項1~11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記病変の位置を決定する前記ステップが、さらに、
前記対象血管に沿った直径または面積のデータポイントを通る線を自動的にフィットさせるステップであって、前記対象血管が、前記病変の位置での血管狭窄セグメントと、前記病変の位置の遠位および/または近位の少なくとも1つである健康な血管セグメントとを含む、ステップ;
前記対象血管に沿った血管の狭窄セグメントを除く直径または面積のデータポイントを通る線をフィットさせることによって、前記対象血管に沿った健康な血管の直径または面積の推定値を取得するステップ;
前記血管狭窄セグメントに沿った血管狭窄直径または面積の推定値を取得するステップ;および
ii)前記健康な血管の直径または面積に対する、i)前記血管狭窄の直径または面積の直径または面積比を計算するステップ、
を、さらに、備える、請求項1~12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記病変の位置が、直径比または面積に基づいて決定される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記3D再構成に基づいて、前記対象血管の少なくとも一部に沿った面積または直径の少なくとも1つを決定するステップであって、前記対象血管が、前記対象血管内の病変に関連する病変セグメントを含む、ステップ;
前記病変セグメントの少なくとも一部に沿った健康な参照面積または健康な参照直径の少なくとも1つを推定するステップ;
前記健康な参照面積または直径の少なくとも1つに基づいて前記病変セグメント内の前記病変の除去から生じる予測圧力変化または予測FFRの少なくとも1つを計算するステップ
を、さらに、備える、請求項1~14の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記病変セグメントがステントを含み、計算する前記ステップが、さらに
前記ステントを通る血液フローが経験する摩擦推定値を計算するステップ;および
少なくとも前記摩擦推定値に基づいて前記予測圧力変化を計算するステップ、
を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記対象血管が、冠動脈ツリーのサブセットを表し、そして計算する前記ステップが、前記冠動脈ツリーが、全体を通して一定の健康な速度を示すという仮定に基づいている、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記対象血管内の病変に関連する病変セグメントの少なくとも一部を含む、前記対象血管の少なくとも一部に沿った面積または直径の少なくとも1つを決定するステップ;および
前記面積または直径の少なくとも1つに基づいて前記病変セグメント内の前記病変に起因する初期圧力を計算するステップであって、予測される圧力変化が、少なくとも前記初期圧力に基づいている、ステップ、
を、さらに、備える、請求項1~17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
計算する前記ステップが、さらに、
前記対象血管に沿った面積または直径の変化を示す面積曲線または直径曲線の少なくとも1つを決定するステップ;
前記面積曲線または前記直径曲線の少なくとも1つに基づいて初期圧力を計算するステップ;
前記病変セグメントに対応する前記面積曲線または直径曲線の一部を、前記健康な参照面積または健康な参照直径の少なくとも1つにより自動的に置き換えるステップ;
前記健康な参照面積または健康な参照直径の少なくとも1つにより置き換えられた前記一部に基づいて更新された圧力を計算するステップ;
前記対象血管の前記3D再構成を変更せずに、前記初期圧力と更新された圧力に基づいて予測圧力変化を決定するステップ
を備える、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
計算する前記ステップが、さらに、
患者固有の大動脈圧を決定するステップ;
前記対象血管を通る最大冠拡張時血液フローを決定するステップ;
前記最大冠拡張時血液フローに基づいて、前記対象血管の近位の場所に対応する初速度を取得するステップ;および
前記初速度、患者固有の大動脈安静時圧、および前記対象血管の少なくとも一部に沿った前記面積または直径の少なくとも1つに基づいて、前記対象血管に沿った患者固有の一定速度を決定するステップ
を備える、請求項1519の何れか1項に記載の方法。
【請求項21】
定量的血行動態フロー分析のためのシステムであって、
i) 患者固有の画像データを読出すステップ;
ii) 前記患者固有の画像データから対象血管の3D再構成を作成するステップ;
iii) 前記3D再構成からジオメトリ情報を抽出するステップ;
iv) 前記対象血管内の病変の位置を決定するステップ;
v) 大動脈圧の患者固有のデータを取得するステップ、
vi) 3D再構成内の前記対象血管の中心線に沿った圧力降下の仮想プルバックを計算するステップであって、前記中心線が、第1および第2の場所の間の多数の中心線ポイントを含み、前記中心線ポイントが、前記3D再構成された関心血管の前記ジオメトリ情報の少なくとも一部を表す、ステップ;
vii) 仮想プルバック曲線を計算するステップ;
viii) セグメントの前記ジオメトリ情報、前記病変の位置、および前記大動脈圧の患者固有のデータを使用して、前記第1および第2の場所の間の圧力降下と血管FFR値を計算するステップ;および
ix) 前記第2の場所に対応するプルバック曲線データに前記圧力降下と血管FFR値を追加するステップ
を実行するためのプログラム命令を実行するように構成されている少なくとも1つのプロセッサ、
を備える、システム。
【請求項22】
前記3D再構成を作成する前記ステップが、さらに、
前記患者固有の画像データから画像シーケンス、アンギュレーションおよび回転を選択するステップ;
前記患者固有の画像データから第1および第2の選択画像フレームを決定するステップ;
前記第1および第2の選択画像フレームにおける管腔境界を検出するステップ;
前記第1および第2の選択画像投影を決定するステップ;および
前記第1および第2の選択画像投影から前記3D再構成を作成するステップ
を備える、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記ジオメトリ情報を抽出する前記ステップが、a)面外倍率エラーおよびb)遠近短縮エラーのうちの少なくとも1つに起因するジオメトリの不正確さを回避する、請求項21または22に記載のシステム。
【請求項24】
前記少なくとも1つのプロセッサが、
前記3D再構成に基づいて、前記対象血管の少なくとも一部に沿って面積または直径の少なくとも1つを決定するステップであって、前記対象血管が、病変に関連する病変セグメントを含む、ステップ;
前記病変セグメントの位置を決定するステップ;
前記病変セグメントの少なくとも一部に沿って、健康な参照面積または健康な参照直径の少なくとも1つを推定するステップ;
前記健康な参照面積または直径の少なくとも1つに基づいて、前記病変セグメント内の前記病変の除去から生じる予測圧力変化または予測FFRの少なくとも1つを計算するステップ、
を実行するように構成されている、請求項2123の何れか1項に記載のシステム。
【請求項25】
前記少なくとも1つのプロセッサが、さらに、
前記病変セグメントの少なくとも一部に沿ったものを含む、前記対象血管の少なくとも一部に沿って、面積または直径の少なくとも1つを決定するステップ;および
前記面積または直径の少なくとも1つに基づいて前記病変セグメントの前記病変に起因する初期圧力を計算するステップであって、前記予測される圧力変化が、少なくとも前記初期圧力に基づいている、ステップ、
を実行するように構成されている、請求項24に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医療画像、特に血管造影画像の技術分野に関するが、非破壊検査用途など、閉塞または部分的に閉塞された導管内のフローの血行動態を定量化する必要がある任意の分野での用途を見出すことができる。
【背景技術】
【0002】
心血管疾患(CVD:cardiovascular disease)は、世界的に主要な死亡原因の1つである。CVDは、一般に、血管の狭窄または閉塞に関係する状態を指し、これは、狭窄または狭窄の遠位のセクションへの血液供給の減少または欠如をもたらし、これにより心筋への酸素供給が減少する結果、例えば、虚血および胸痛(狭心症)をもたらす可能性がある。CVDの予防と治療における非常に重要な側面は、このように狭窄したまたは閉塞した血管を機能的に評価することである。
【0003】
現在、X線血管造影法は、経皮的冠動脈インターベンション(PCI: percutaneous coronary intervention)としても知られている低侵襲的措置により、狭窄(狭まった)冠動脈を治療する間に使用される画像化モダリティである。PCIの間、(インターベンショナル)心臓専門医は、カテーテル上の収縮したバルーンまたは他のデバイスを、鼠径部の大腿動脈または橈骨動脈から、血管を介して、それらが動脈の閉塞部位に到達するまで送る。X線画像は、カテーテルの送りをガイドするために使用される。PCIは、通常、血液フロー(血流)が妨げられていない状態を回復することを目的として、バルーンを膨らませて動脈を開くことに係る。動脈を開いたままにするために、ステントまたは足場は、閉塞部位に配置させることができる。
【0004】
X線血管造影法は、X線診断血管造影法として知られている、冠動脈の解剖学的評価および冠動脈疾患の診断のための標準的な画像化技術である。狭窄のジオメトリ寸法が、例えば、非特許文献1によって教示されている2次元(2D)定量的冠動脈分析ツール(QCA: Quantitative Coronary Arteries)によって、または例えば、非特許文献2が考える3次元(3D)QCAを使用して、定量化される場合でさえ、冠動脈病変の機能的な重症度は冠動脈の血行動態に依存するので、解剖学的内腔の縮小から血行動態狭窄の重症度への変換は、簡単ではない。冠動脈狭窄の解剖学的重症度と機能的重症度の間の関係がこのように貧弱であることは、非特許文献3によるマルチディテクターコンピュータ断層撮影冠動脈造影法(CCTA:computed tomography coronary angiography)を使用する、新しくかつ有望な非侵襲的技術を使用することによっても、示されている。
【0005】
例えば、冠動脈の解剖学的病変が、中庸である(30~70%の管腔狭窄として規定される)場合、この狭窄が患者にとってリスクであるか否か、および行動を起こすことが望まれるか否かは、必ずしも明らかではない。狭窄の重症度を過大評価すると、後に考えると不必要な治療を行ってしまい、これにより、患者に不必要なリスクを与えてしまう可能性がある。しかしながら、狭窄の重症度を過小評価すると、狭窄が実際には重症であるので、患者が治療されずに放置される結果、リスクが誘発される可能性がある。特にこれらの状況では、適切な意思決定を支援するために、追加の機能評価を行うことが、望まれる。
【0006】
冠血流予備量比(FFR: Fractional Flow Reserve)測定は、PCIから最も高い効果が得られるように、冠動脈病変を特定しかつそれを効果的に標的にする方法として、過去10~15年にわたって、ますます使用されて来ている。FFRは、冠動脈の狭窄全体の圧力差を測定して、狭窄が心筋への酸素供給を妨げる可能性を決定するために使用される技術である。この技術は、冠動脈内に圧力変換ワイヤを経皮的に挿入し、そして病変の後(遠位)および前(近位)の圧力を測定することに係る。心筋への血液フローは心筋灌流圧に比例するので、これは、最大冠拡張状態で行うのが最適である。従って、FFRは、非特許文献4に記載されているように、冠動脈病変の機能的重症度の定量的評価を提供する。圧力変換ワイヤを使用したFFRの測定は侵襲的であるため、この手法は侵襲的FFRとも呼ばれる。
【0007】
非特許文献5は、中等度の冠動脈の狭窄症(30~70%)の患者にはFFRを使用することを推奨しているが、経皮的冠動脈インターベンションの対象となる患者が選択される措置の90%以上において、QCAによりサポートされているか否かにかかわらず、X線冠動脈造影には依然として視覚による評価しか使用されていない(非特許文献6)。
【0008】
強力な根拠となるエビデンスおよびガイドラインからの推奨があるにも関わらず、PCI中に(侵襲的)FFRが使用される率が低い(10%)原因には、多数の要因が考えられる。第1に、血管再生のモードに関する決定は、通常、侵襲的X線冠動脈の造影時に行われるが、この決定は、特に、FFRを実行する時間と設備を備えたインターベンションカテーテルのラボラトリで作業するPCIオペレータのみにより行われる。第2に、この措置は長く、かつ侵襲的FFRには、一度しか使用することが出来ない圧力ワイヤの追加コストが必要となる。FFRの測定には、侵襲的なカテーテル挿入が必要であるが、これには関連するコストと措置に要する時間を伴う。また、(最大)最大冠拡張を誘発するために、薬物注入(アデノシンまたはパパベリン)を追加する必要があるが、これは、患者には余分な負担となる。第3に、多くのオペレータは、自分の視覚による評価が生理学的に正確であると確信しているが、これは、正しくない判断をもたらす場合がある。これの精度は、複数人の視覚による評価(例えば、「心臓チーム」の設定)または以前の非侵襲的虚血検査により、向上する。最後に、FAME: Fractional Flow Reserve Versus Angiography for Multivessel Evaluation(多血管評価のための冠血流予備量比対血管造影法)試験データ(非特許文献7)にも関わらず、一部の臨床医は、安定した冠動脈疾患との関連でPCIの価値に懐疑的であり、これが、侵襲的FFR評価への熱意を低下させている。
【0009】
非特許文献8は、2D QCAから抽出されたジオメトリ情報を使用して、冠血流予備能(CFR:coronary flow reserve)を計算する方法を導入した。非特許文献8のアプローチの限界は、とりわけ、2Dジオメトリ情報を使用することにより、精度が低くなることである。CFRは、冠動脈を通る最大冠動脈血液フローとその安静時冠動脈血液フローとの比率として規定される。さらに、CFRは、FFRとは異なり、医療ガイドラインには記載されていない。
【0010】
したがって、全ての心臓専門医には、侵襲的FFRに関連する実際の欠点が無い、生理学的病変評価の利点を提供する方法が、必要である。コストが削減され、かつ患者の管理が改善されている方法は、冠動脈画像化に基づいて、解剖学的モデルに関連する高度な計算技術を使用する計算冠血流予備量比(cFFR:computed Fractional Flow Reserve)である。計算流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamics)の計算は、冠動脈血液フロー循環を計算し、そして冠動脈病変に起因する冠血流予備量比を導出するために使用される。cFFRの分野では、多数の研究が、CFDを使用して行われている。例えば、非特許文献9および特許文献1は、CCTAに基づいてFFRを計算する方法(これをFFRCTと呼ぶ)を説明している。この技術は、左冠動脈と右冠動脈の両方が発する領域をカバーする上行大動脈の部分を含む冠動脈に対し半自動セグメンテーションを行った後に、CCTAに適用されるCFDを使用する。冠動脈の3次元(3D)血液フローと圧力が、Navier-Stokes方程式を使用して、血液を非圧縮性ニュートン流体としてモデル化して、シミュレートされ、そして並列スーパーコンピュータにより有限要素法を使用して、適切な初期条件と境界条件の基に解かれる。FFRCTは、アデノシン注入なしのアデノシン誘発最大冠拡張状態をモデルにしている。このプロセスは、計算が複雑でかつ時間がかかる(数時間かかる場合がある)。さらに、FFRCTは、PCIまたは診断用X線血管造影法で使用される画像化モダリティではない、非侵襲的CCTAを使用する。
【0011】
計算要求を実行可能なレベルに保つために、縮小モデルを計算に使用することが出来る。つまり、冠動脈ツリーのセクションは、1次元ネットワークまたは0次元(集中)モデルで表すことができる。このマルチスケールアプローチは、冠動脈における生理学的に現実的な圧力とベースライン状態の血管フローの波形を計算するために非特許文献10によって採用された。CFDシミュレーションは、CCTAから導出された3D冠動脈ジオメトリに基づいて、循環の分析1Dモデルと冠動脈抵抗の集中定数モデルとに組み合わされた。しかしながら、これらの方法の基礎となる多数の仮定は、非特許文献11によって説明されているように多数の制限をもたらす。
【0012】
CFDを使用する、アプローチされたcFFRは、X線血管造影法から導出された3D冠動脈解剖学的モデルにも適用させることが出来る。例えば、非特許文献12は、CFDを、X線冠動脈造影法からの3D冠動脈再構成に基づく解剖学的冠動脈モデルに適用した。患者固有のダウンストリーム境界条件が、開発され、そしてこれは、ウィンドケッセルモデルを使用して動脈出口に適用された。ウィンドケッセルモデルは、動脈血管系の電気的類似物であり、ここで、ダウンストリームの抵抗は、心周期全体の圧力とフローから計算された。このような手法は、原理的にはPCIの間に使用することは出来るが、計算時間が長い(24時間)ため、実際には使用されないであろう。
【0013】
CFDに必要な計算時間を短縮するための別のアプローチは、特許文献2で導入されている。この作業では、解剖学的な3次元冠動脈ジオメトリから抽出された特徴に基づいて、機械学習システムを使用してFFRを評価する方法が開示されている。この機械学習は、合成的に生成された3D狭窄ジオメトリから幾何学的に抽出された特徴と、CFDを使用して計算された合成的に生成された3D狭窄に対応するFFR値とを使用して、トレーニングされる。学習段階の後、このシステムは、例えば、画像セグメンテーション法によってCCTAから抽出された、目に見えない解剖学的3次元冠動脈ジオメトリの同じ特徴の抽出に基づいて、FFRを予測する。
【0014】
しかしながら、機械学習技術には、非特許文献13で説明されているように、多数の欠点がある。
【0015】
機械学習の顕著な制限の1つは、エラーの影響を受けやすいことである。エラーが避けられず、そして基礎となる構造が複雑になる可能性があるため、エラーの診断と修正は困難になる可能性がある。さらに、例えば、臨床医が異なる画像化プロトコルを使用する場合のように、システムをトレーニングした条件が変更された場合、ソリューションは、最適とはほど遠いものとなる可能性がある。
【0016】
機械学習の他の制限は、履歴データを通じて学習することである。データが、大きくなり、かつこのデータにさらされる時間が長くなるほど、アルゴリズムのパフォーマンスは向上する。しかしながら、医用画像の場合、新しい技術が広く実行されているとは言えないため、非常に大きなデータセットを提供することは困難である。
【0017】
機械学習の更なる他の制限は、検証可能性の欠如である。BrynjolfssonとMcAfeeは、機械学習は文字通りの真実ではなく統計的な真実を扱うと述べている。履歴データに含まれていない状況では、機械学習によって行われた予測が、全てのシナリオで正しいことを確実に証明することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】米国特許第8,315,812号明細書
【文献】国際公開第2015/058044
【文献】米国特許第7,155,046号明細書
【文献】欧州特許第3403582号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017/236326号明細書
【非特許文献】
【0019】
【文献】Meijboom外の「CAASII:オフラインおよびオンラインの定量的冠動脈造影のための第2世代システム」、Journal of the American College of Cardiology 52(8)(2008年)636-643頁
【文献】Yoshinobu Onuma外の「分岐病変のための新しい専用の3次元定量的冠動脈分析方法論」、EuroIntervention 2011年;6:1-100頁
【文献】Sarno G 外の「冠動脈血管再生を誘発するための非侵襲的マルチディテクターコンピュータ断層撮影冠動脈造影法の不適切性について:侵襲的血管造影法との比較」、JACC Cardiovasc Interv. 2009年6月;2(6):550-7頁
【文献】Pijls外の「冠動脈狭窄の機能的重症度を評価するための冠血流予備量比の測定」、N Engl J Med 1996年、334号:1703-1708頁
【文献】欧州心臓病学会(ESC: European Society of Cardiology)および米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA: American College of Cardiology/American Heart Association)のガイドライン
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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって、経皮的冠動脈インターベンションの措置中に使用することが出来、かつそのような措置の臨床ワークフローにフィットさせることが出来る、冠動脈病変の機能的血行動態重症度を評価する方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本明細書の態様によれば、プログラム命令を実行する少なくとも1つのプロセッサの制御下で、
患者固有の画像データを読出すステップ;
前記患者固有の画像データから対象血管の3D再構成を作成するステップ;
前記3D再構成からジオメトリ情報を抽出するステップ;
病変の位置を決定するステップ;
患者固有のデータを取得するステップ;
前記ジオメトリ情報、病変の位置、および患者固有のデータに基づいて血行動態結果を計算するステップ、
を備える、定量的血行動態フロー分析のためのコンピュータ実装方法が提供される。
【0022】
前記対象血管は、例えば、冠動脈ツリーのサブセットを表し、計算する前記ステップは、前記冠動脈ツリーが全体を通して一定の健康な速度を示すという仮定に部分的に基づいている。
【0023】
一実施形態では、前記血行動態結果を計算する前記ステップは、前記冠動脈ツリー内の場所に依存しない速度を使用する。
【0024】
前記病変の位置を決定する前記ステップは、フローが層流であるか乱流であるかを示す、例えば、レイノルズ数のような、フローパターンパラメータの計算に、少なくとも部分的に基づいていて、前記フローパターンパラメータが、前記3D再構成から抽出された前記ジオメトリ情報に基づいて計算されることが好ましい。
【0025】
オプションとして、前記フローパターンパラメータは、前記対象血管に沿った健康なジオメトリの推定値に基づいて計算させることができる。このような前記健康なジオメトリの前記推定値は、例えば、前記病変の位置に近接する、前記対象血管のセグメントにおける直径または面積の少なくとも1つの推定値である。
【0026】
一実施形態では、前記位置を決定するステップが、例えば、前記3D再構成から抽出された前記ジオメトリ情報に基づいて計算された、前記対象血管に沿った血液速度の変動を特定することによって前記病変の位置を決定するステップをさらに備え、前記変動が、血管狭窄の存在に起因する。
【0027】
オプションとして、前記血液速度の前記変動は、前記対象血管に沿った健康なジオメトリの推定値に基づいて計算される。
【0028】
前記健康なジオメトリの前記推定値が、通常、直径または面積の少なくとも1つの推定値である。
【0029】
一実施形態では、この方法は、前記対象血管の近位端および遠位端に沿った高度の相違による重力圧力勾配を計算するステップを、さらに、備え、前記血行動態結果が、前記重力圧力勾配に部分的に基づいて計算される。
【0030】
血行動態結果を計算する前記ステップが、心筋微小血管系の状態を決定するために心筋濃染計算を実行するステップを、さらに、備えることができる。
【0031】
本明細書の実施形態では、作成する前記操作が、さらに、
前記患者固有の画像データから画像シーケンス、アンギュレーションおよび回転を選択するステップ;
前記患者固有の画像データから第1および第2の選択画像フレームを決定するステップ;
前記第1および第2の選択画像フレームにおける管腔境界を検出するステップ;
第1および第2の選択画像投影を決定するステップ;そして
前記第1および第2の選択画像投影から前記3D再構成を作成するステップ
を備える。
【0032】
オプションとして、前記ジオメトリ情報を抽出する前記ステップは、a)面外倍率エラーおよびb)遠近短縮エラーの少なくとも1つに起因するジオメトリの不正確さを回避する。
【0033】
コンピュータにより実装される方法は、さらに、
前記3D再構成内の前記対象血管の中心線に沿った圧力降下の仮想プルバックを計算するステップであって、前記中心線が、第1および第2の場所の間の多数の中心線ポイントを備え、前記中心線ポイントが、3D再構成された前記対象血管の前記ジオメトリ情報の少なくとも一部を表す、ステップ;
仮想プルバック曲線を計算するステップ;
セグメントの前記ジオメトリ情報を利用して、前記第1の場所と第2の場所の間の圧力降下と血管FFR値を計算するステップ;および
前記第2の場所に対応するプルバック曲線データに前記圧力降下と血管FFR値を追加するステップ、
を備えることができる。
【0034】
一実施形態では、病変の位置を決定する前記ステップが、さらに、
前記対象血管に沿った直径または面積のデータポイントを通る線を自動的にフィットさせるステップであって、前記対象血管が、前記病変の位置での血管狭窄セグメントと、前記病変の位置の遠位および/または近位の少なくとも1つである健康な血管セグメントとを含む、ステップ;
前記対象血管に沿った血管の狭窄セグメントを除く直径または面積のデータポイントを通る線をフィットさせることによって、前記対象血管に沿った健康な血管の直径または面積の推定値を取得するステップ;
前記血管狭窄セグメントに沿った血管狭窄直径または面積の推定値を取得するステップ;および
ii)前記健康な血管の直径または面積に対する、i)前記血管狭窄の直径または面積の直径または面積比を計算するステップ、
を備える。
【0035】
前記病変の位置は、前記直径比または面積に基づいて決定させることが有利である。
【0036】
本明細書の実施形態は、また、定量的血行動態フロー分析のための方法に関し、この方法は、プログラム命令を実行する1つまたは複数のプロセッサの制御下で、
患者固有の画像データを読出すステップ;
前記患者固有の画像データから対象血管の3D再構成を作成するステップ;
前記3D再構成に基づいて、前記対象血管の少なくとも一部に沿った面積または直径の少なくとも1つを決定するステップであって、前記対象血管が、病変に関連する病変セグメントを含む、ステップ;
前記病変セグメントの少なくとも一部に沿った健康な参照面積または健康な参照直径の少なくとも1つを推定するステップ;
前記健康な参照面積または直径の少なくとも1つに基づいて前記病変セグメント内の前記病変の除去から生じる予測圧力変化または予測FFRの少なくとも1つを計算するステップ、
を、さらに、備える
【0037】
前記病変セグメントがステントを含む場合、計算する前記ステップが、さらに、
前記ステントを通る血液フローが経験する摩擦推定値を計算するステップ;および
前記摩擦推定値に部分的に基づいて前記予測圧力の変化を計算するステップ、
を備えることができる。
【0038】
前記対象血管は、通常、冠動脈ツリーのサブセットを表すことができ、そして前記計算の操作は、前記冠動脈ツリーが全体を通して一定の健康な速度を示すという仮定に部分的に基づいている。
【0039】
一実施形態では、この方法は、さらに、
前記病変セグメントの少なくとも一部に沿ったものを含む、前記対象血管の少なくとも一部に沿った面積または直径の少なくとも1つを決定するステップ;および
前記面積または直径の少なくとも1つに基づいて前記病変セグメント内の前記病変に起因する初期圧力を計算するステップであって、前記予測される圧力変化が、部分的に前記初期圧力に基づいている、ステップを
備えることができる。
【0040】
オプションとして、計算する前記ステップは、
前記対象血管に沿った面積または直径の変化を示す面積曲線または直径曲線の少なくとも1つを決定するステップ;
前記面積曲線または前記直径曲線の少なくとも1つに基づいて初期圧力を計算するステップ;
前記病変セグメントに対応する前記面積曲線または直径曲線の一部を、前記健康な参照面積または健康な参照直径の少なくとも1つで自動的に置き換えるステップ;
前記健康な参照面積または健康な参照直径の少なくとも1つで置き換えられた前記部分に基づいて更新された圧力を計算するステップ;および
前記対象血管の前記3D再構成を変更せずに、前記初期圧力と更新された圧力に基づいて前記予測圧力変化を決定するステップ
を備える。
【0041】
一実施形態では、前記予測圧力変化を計算する前記ステップが、さらに、
患者固有の大動脈圧を決定するステップ;
前記対象血管を通る最大冠拡張時血液フローを決定するステップ;
前記最大冠拡張時血液フローに基づいて、前記対象血管の近位の場所に対応する初速度を取得するステップ;および
前記初速度、患者固有の大動脈安静時圧、および前記対象血管の少なくとも前記部分に沿った前記面積または直径の少なくとも1つに基づいて、前記対象血管に沿った患者固有の一定速度を決定するステップ
を備える。
【0042】
本明細書の実施形態は、また、本明細書の実施形態による方法の1つまたは複数の動作を実行するためのプログラム命令を実行するように構成されている1つまたは複数のプロセッサを備える、定量的血行動態フロー分析のためのシステムに関する。
【0043】
一実施形態は、より具体的には、
患者固有の画像データを読出すステップ;
前記患者固有の画像データから対象血管の3D再構成を作成するステップ;
前記3D再構成からジオメトリ情報を抽出するステップ;
病変の位置を決定するステップ;
患者固有のデータを取得するステップ:
前記ジオメトリ情報、病変の位置、および患者固有のデータに基づいて血行動態結果を計算するステップ
を備える定量的血行動態フロー分析のためのシステムに関する。
【0044】
作成する前記操作は、さらに、
前記患者固有の画像データから画像シーケンス、アンギュレーションおよび回転を選択するステップ;
前記患者固有の画像データから第1および第2の選択画像フレームを決定するステップ;
前記第1および第2の選択画像フレームにおける管腔境界を検出するステップ;
前記第1および第2の選択画像投影を決定するステップ;および
前記第1および第2の選択画像投影から前記3D再構成を作成するステップ
を備えることができる。
【0045】
前記ジオメトリ情報の前記抽出は、通常、a)面外倍率エラーおよびb)遠近短縮エラーのうちの少なくとも1つに起因するジオメトリの不正確さを回避する。
【0046】
本明細書の実施形態によれば、このシステムは、さらに、
前記3D再構成内の前記対象血管の中心線に沿った圧力降下の仮想プルバックを計算するステップであって、前記中心線が、第1および第2の場所の間の多数の中心線ポイントを含み、前記中心線ポイントが、前記3D再構成された関心血管の前記ジオメトリ情報の少なくとも一部を表す、ステップ;
仮想プルバック曲線を計算するステップ;
セグメントの前記ジオメトリ情報を利用して、前記第1および第2の場所の間の圧力降下と血管FFR値を計算するステップ;および
前記第2の場所に対応するプルバック曲線データに前記圧力降下と血管FFR値を追加するステップ
を備える。
【0047】
本明細書の実施形態は、また、定量的血行動態フロー分析のためのシステムに関していて、このシステムは、
前記3D再構成に基づいて、前記対象血管の少なくとも一部に沿って面積または直径の少なくとも1つを決定するステップであって、前記対象血管が、病変に関連する病変セグメントを含む、ステップ;
前記病変セグメントの位置を決定するステップ;
前記病変セグメントの少なくとも一部に沿って、健康な参照面積または健康な参照直径の少なくとも1つを推定するステップ;
前記健康な参照面積または直径の少なくとも1つに基づいて、前記病変セグメント内の前記病変の除去から生じる予測圧力変化または予測FFRの少なくとも1つを計算するステップ
を実行するプログラム命令を実行するように構成されている1つ以上のプロセッサを、備える。
【0048】
前記1つまたは複数のプロセッサは、さらに、
前記病変セグメントの少なくとも一部に沿ったものを含む、前記対象血管の少なくとも一部に沿って面積または直径の少なくとも1つを決定するステップ;および
前記面積または直径の少なくとも1つに基づいて前記病変セグメントの前記病変に起因する初期圧力を計算するステップであって、前記予測される圧力変化が、部分的に初期圧力に基づいている、ステップ、
を実行するように構成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本明細書の一実施形態による血行動態結果を決定するための方法のフローチャートを示す。
図2】例示的なシングルプレーン血管造影システムの機能ブロック図を示す。
図3】第1の画像フレームを取得するための例示的なワークフロースクリーンショットを示す。
図4】3D再構成を生成するための方法のフローチャートを示す。
図5】投影ガイダンスを伴う例示的なワークフロースクリーンショットを示す。
図6】得られた第2の画像フレームを備えた例示的なワークフロースクリーンショットを示す。
図7】管腔境界およびエピポーラ線を有する例示的なワークフロースクリーンショットを示す。
図8A】2Dにおける病変の位置決定の制限の例を示す。
図8B】2Dにおける病変の位置決定の制限の例を示す。
図8C】2Dにおける病変の位置決定の制限の例を示す。
図9】大動脈圧のような患者固有のデータを入力するための例示的なワークフロースクリーンショットを示す。
図10】直径の結果および病変の位置を示す例示的なワークフローのスクリーンショットを示す。
図11】冠動脈圧と冠動脈流との関係によるCFRの考えの例を示す。
図12】FFRとCFRの考えの相違の例を示す。
図13A】心外膜冠動脈における冠動脈病変の概略図を示す。
図13B】CFRの圧力フロー関係から採用された冠動脈血管圧力関係を示す。
図14】仮想プルバックを実行する方法のフローチャートを示す。
図15】血管の先細りによっても血管内の圧力降下が引き起こされる冠動脈血管の例を示す。
図16】健康な血管の直径または面積を決定する方法のフローチャートを示す。
図17】本明細書の実施形態によるX線シネ透視ユニットの例示的なブロック図である。
図18A】分岐を有する血管の概略図を示す。
図18B】血管に沿った直径を示すグラフである。
図19】複数の画像フレームの画像登録を使用して管腔境界検出を改善するための方法のフローチャートを示す。
図20】CFDを使用して病変の位置を特定するための例示的なワークフローを示す。
図21A】本明細書の実施形態による、最大健康速度を規定する動作の概略図である。
図21B】本明細書の実施形態による、最大健康速度を規定する動作の概略図である。
図22】本明細書の実施形態による、血管セグメント内の最大速度を規定する動作の概略図である。
図23】対象血管に沿った健康な参照直径および/または面積グラフを規定するための様々な方法の概要を示す。
図24】対象血管の3D再構成の座標系と物理世界の座標系との相関関係を示す。
図25】抽出されたジオメトリ情報(例、直径または面積)を通る直線をフィットさせることによって健康な血管の推定値を規定する例を示す。
図26A】指定されたジオメトリ情報(例、直径または面積)を通る直線をフィットさせることによって健康な血管の推定値を規定する例を示している。
図26B】指定されたジオメトリ情報(例、直径または面積)を通る直線をフィットさせることによって健康な血管の推定値を規定する例を示す。
図27】手動の参照位置を通る直線をフィットさせることによって健康な血管の推定値を規定する例を示す。
図28A】病変セグメントを排除することによって、圧力損失の減少、または血管FFRを予測する操作の概略図である。
図28B】病変セグメントを排除することによって、圧力損失の減少、または血管FFRを予測する操作の概略図である。
図28C】病変セグメントを排除することによって、圧力損失の減少、または血管FFRを予測する操作の概略図である。
図28D】病変セグメントを排除することによって、圧力損失の減少、または血管FFRを予測する操作の概略図である。
図29A】健康な血管の推定値を組み込むことによって、圧力損失の減少、または血管FFRを予測する操作の概略図である。
図29B】健康な血管の推定値を組み込むことによって、圧力損失の減少、または血管FFRを予測する操作の概略図である。
図29C】健康な血管の推定値を組み込むことによって、圧力損失の減少、または血管FFRを予測する操作の概略図である。
図30】治療の予測方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
経皮的冠動脈インターベンションの措置中に使用することが出来、そして侵襲的FFRの使用を少なくする制限を考慮する必要が無く、そしてcFFRに関連付けられている、冠動脈病変の機能的血行動態重症度を評価する方法を心臓専門医に提供するために、X線血管造影法に基づいてFFRを計算する新しい方法(以下、血管FFRと呼ぶ)が、提示されている。
【0051】
血管FFRには、a)X線血管造影法の使用によるFFRの計算、b)経皮的冠動脈インターベンションの措置中またはX線冠動脈造影措置中の心臓専門医のワークフローに完全にフィットする分析ワークフロー、およびc)合計分析時間に措置の時間が追加されないことが、含まれる。
【0052】
図1は、本出願の一実施形態による操作を示すフローチャートを示す。これらの操作は、血管器官(またはその一部)または他の対象オブジェクトの二次元画像シーケンスを取得しかつ処理することができる画像化システムを使用する。例えば、シーメンス社(Artis zee Biplane)またはフィリップス社(Allura Xper FD)によって製造されているような、シングルプレーンまたはバイプレーンの血管造影システムを使用することができる。
【0053】
図2は、例示的なシングルプレーン血管造影システムの機能ブロック図である。これは、ユーザインターフェースモジュール116からのコマンドの下で動作し、そしてデータ処理モジュール114にデータを提供するであろう血管造影画像装置112を含む。シングルプレーン血管造影画像装置112は、例えば、後前方(PA:postero-anterior)方向で、対象血管器官の2次元X線画像シーケンスを捕捉する。シングルプレーン血管造影画像装置112は、典型的には、支持ガントリのアームに取り付けられたX線源および検出器の対を含む。ガントリは、X線源と検出器の間のテーブルに支えられている患者に対して、X線源と検出器のアームをさまざまな角度で配置することを可能にする。データ処理モジュール114は、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、または他のコンピュータ処理システムによって実現させることができる。データ処理モジュール114は、シングルプレーン血管造影画像装置112によって捕捉された二次元画像シーケンスを処理して、本明細書に記載されるデータを生成する。ユーザインターフェースモジュール116は、ユーザと対話し、そしてデータ処理モジュール114と通信する。ユーザインターフェースモジュール116は、視覚出力用のディスプレイ画面、タッチ入力用のタッチスクリーン、タッチスクリーン、入力用のマウスポインタまたは他のポインティングデバイス、音声入力用のマイク、音声出力用のスピーカ、入力用のキーボードおよび/またはキーパッド、等のような異なる種類の入力および出力デバイスを含むことが出来る。データ処理モジュール114およびユーザインターフェースモジュール116は、協働して、以下に説明される図1の操作を実行する。
【0054】
図1の操作は、コンピュータ製品(例えば、光ディスクまたはUSBドライブまたはネットワークサーバのような、他の形態の永続的メモリ)に具体化されるソフトウェアコードによって実行させることも出来る。ソフトウェアコードは、図1の操作を実行するために、データ処理システムのメモリに直接ロードさせることが出来る。このようなデータ処理システムは、入力として画像を取得するために任意のタイプのデータ通信を使用して画像を取得するために使用される血管造影システムから、物理的に分離させることも出来る。
【0055】
この例では、画像化システムは、既に、対象オブジェクトの少なくとも1つの2次元画像シーケンスを取得していてそして保存していると想定されている。この目的には、二次元血管造影画像シーケンスを提供することができる任意の画像デバイスを、使用することが出来る。例えば、シーメンス社(Artis zee Biplane)またはフィリップス社(Allura Xper FD)によって製造される、バイプレーンまたはシングルプレーン血管造影システムを使用することが出来る。
【0056】
101で、データ処理モジュール114には、異なる視点から取得された導管のツリーまたはツリーの一部の少なくとも1つの二次元画像フレームが、供給される。
【0057】
データ処理モジュール114は、101の第1の画像フレームおよび決定された第2の画像フレームを使用して、3D再構成を生成する。103で、データ処理モジュール114は、3D再構成に基づいて計算を行って、面積、直径、長さ、曲率、中心線等のような、導管のジオメトリ特徴を決定する。これらの特徴は、血行動態結果を決定するために使用される。
【0058】
104で、データ処理モジュール114は、病変の位置を決定する。
【0059】
105で、データ処理モジュール114には、動脈ラインを介して侵襲的に得られた安静時の大動脈圧のような患者固有の情報が、供給される。106で、処理モジュール114は、血行動態結果を計算する。各対象セグメントの血管FFR値が、例えば、計算され、そして臨床医のディスプレイに表示される。
【0060】
ここで、図1を参照して一実施形態を開示する。ここに示されている操作は、任意の論理的順序で実行させることが出来、そして部分的に省略させることが出来ることは、明らかである。インターベンション中に使用することが出来る、選択された(例えば、最適な)ワークフローを提供することが本出願の目的であるので、ワークフローの例のステップも参照されるであろう。
【0061】
図1に示されるように、このワークフローは、多数のステップを備える。
【0062】
最初に、図1のステップ101で説明されているように、患者固有の画像データが、取得される。患者固有の画像データは、X線冠動脈造影中に取得される。これは、PCIインターベンションの一般的なステップである。臨床医が、X線冠動脈造影中に得られた患者固有の画像データから、1つの画像シーケンスを選択する。図3のステップ301および図4のステップ401に見られるように、対象冠動脈血管が、明確に見える。次で、このシステムは、図4のステップ402に記載されているように、画像シーケンス内で選択(例、最適)フレームを自動的に規定して、分析を開始する。画像シーケンスは、心臓サイクルの1つまたは複数のフェーズをカバーする、複数のフレームを備える。さらに、特定の時点での取得中に、造影剤の注入が開始され、これにより冠動脈血管の視覚的増強がもたらされる。造影液が存在する冠動脈の動きが最も少ないフレームが、選択フレームとして規定される。選択フレームは、例えば、図3の参照302として示される、患者のECG信号(存在する場合)を使用して決定させることができる。
【0063】
この選択されたフレームにおいて、図4のステップ403によって説明されるように、対象冠動脈血管の管腔境界が、検出される。この検出は、例えば、半自動的に行わせることができる。この場合、臨床医が、対象血管内の近位および遠位端点を特定すると、プロセッサが自動的に管腔境界を検出する。検出された管腔境界は、図5のステップ501で見ることができる。オプションとして、臨床医は、必要に応じて、検出された管腔境界を修正することが出来る。
【0064】
標準的なPCI措置または診断用X線血管造影中に臨床医が遭遇する困難の1つは、正確な3D再構成を生成するために使用されるべき第1の画像シーケンスと組み合わせるのに望ましい(例、最適な)第2の画像投影の選択である。ここで、正確な3D再構成とは、対象オブジェクトに関する最大量の情報を使用して生成される3D再構成として規定される。これらの結合された2つの画像シーケンスは、対象オブジェクトに関して可能な限り多くの情報を含むべきである。この第2の画像投影の選択が、3D再構成の精度を大きく左右するので、第2の画像投影を正しく選択することが重要である。臨床医のためのこの標準的な措置ステップを簡素化しかつ容易にするために、第2の画像投影の選択に関するガイダンスが提供されている。これにより、X線システムの回転とアンギュレーションの組み合わせごとに、図5のステップ502に示されるように、対応する色またはグレー値を使用して所望値(例、最適値)が表示される、カラーマップが得られる。このカラーマップでは、最も白い投影が最適なものであり、最も暗い投影が適切ではないものである。
【0065】
このカラーマップを使用して、臨床医は、図4のステップ404で説明されているように、第2の画像シーケンスを取得するのに最適な画像投影を、正確かつ迅速に、決定することが出来る。したがって、臨床医向けのこのガイダンスは、標準的な措置の時間を短縮させることが出来る。
【0066】
図4のステップ405に記載されるように、選択された画像投影に対応する画像シーケンスを得るために、臨床医は、画像化システムのアームを、選択された第2の投影に対応する位置まで手動で回転させる、または臨床医に対して措置をさらに単純化するために、Cアーム制御モジュール1710により、画像化システムのアームを、計算された選択投影まで自動的に回転させることが出来る。次で、得られた第2の画像シーケンスは、図6のステップ601に示されるように、臨床医に提示される。
【0067】
第1の画像シーケンスと同様に、得られた第2の画像シーケンスは、心周期の1つまたは複数のフェーズをカバーする複数のフレームを備える。例えば、臨床医が、シングルプレーン画像化システムを使用する場合、得られる第2の画像シーケンスは、第1の画像シーケンスとは異なる心臓位相からなることがあり得る。2つの画像シーケンスのフレームが、同じ心臓位相で取得された3D再構成を生成するために使用されると、3D再構成がより正確になる。したがって、システムは、図4のステップ406で説明されるように、対象血管を検出するために、第2の画像シーケンスにも選択画像フレームを提供する。
【0068】
インターベンション中に発生する可能性のある別の側面は、テーブルの移動である。第1の画像シーケンスと第2の画像シーケンスを取得する間に、臨床医が、例えば、措置の間により良い全体像を得るために、患者テーブル1705を移動させてしまうことは珍しいことではない。しかしながら、テーブルの移動は、画像取得中にも発生する可能性がある。テーブルの移動を考慮しない場合、3D再構成の生成に対し不正確さが発生する可能性がある。したがって、X線管とX線検出パネルの間の距離、X線管とCアームアイソセンタの間の距離、Cアームアイソセンタに対するテーブルの回転ポイントの位置、何れも通常3つの角度で表される、Cアームおよび調整可能なテーブルの3D方位、および最後にX線検出器のピクセルの水平および垂直間隔のような、X線システムの情報は、テーブルの移動を補正するために、3D冠動脈再構成中に考慮される。
【0069】
第2の画像シーケンスの選択フレームにおいては、例えば、第1の画像フレームについて説明した方法を使用して、(図7のステップ701に示されそして図4のステップ407に説明されるように)管腔境界も検出される。
【0070】
臨床医が、対象血管を第2の画像フレームに表示するのを支援するために、図7の参照702として示されるいわゆるエピポーラ線が、第2の画像フレームに示されている。第2の画像フレームに示されるこのエピポーラ線は、第2の画像フレームにおいて第1の画像フレームの視線方向を示し、第1の画像フレームに示される血管の最近位と最遠位の位置を表す。
【0071】
加えて、共通画像ポイント(CIP: Common Image Point)が、参照705として図7に示されるように、自動的に決定される。CIPは、図7の703で示されている同じ解剖学的場所を示す、両方の画像フレームにおける共通のランドマークを表す。CIPは、画像フレームのアイソセンタのオフセットの可能性を補正するために、必要である。不正確なCIPは、不正確な3D再構成をもたらす。オプションとして、臨床医は、必要に応じてCIPを再配置させることが出来る。
【0072】
両方の画像フレームで管腔境界を検出した後、プロセッサは、図4のステップ408で表される、対象血管の3D再構成を作成する。X線画像とともにDICOMヘッダを介して保存されるメタデータは、少なくとも、次の情報:X線管とX線検出パネルの間の距離、X線管とCアームアイソセンタの間の距離、Cアームアイソセンタに対するテーブル回転ポイントの位置、何れも通常3つの角度で表されている、Cアームと調整可能なテーブルの3D方位、そして最後にX線検出器のピクセルの水平方向と垂直方向の間隔、を含むべきである。このメタデータを使用すると、テーブルの再配置の影響が考慮されている、取得された画像間の完全なジオメトリ関係を取得することが出来る。
【0073】
導出されたジオメトリ関係には、テーブルの配置の影響は考慮されているが、対象構造の実際の位置は、他の動きが起因して変更されている可能性がある。冠動脈の場合、これらの動きの原因は、心臓の動き、呼吸の動き、およびテーブルに対する患者の動きを含んでいた。
【0074】
残りの動きの並進成分を補正するために、同じ物理的ポイントに対応する全ての画像において、単一のポイントを付記させることが出来る(図7に参照705として表示されるCIP)。これらのポイントの付記は、手動または自動で実行させることが出来る。対象構造が冠動脈である場合、自動付記アルゴリズムの例は、管腔境界情報から抽出された局所直径情報に基づかせることができる。付記されたポイントを使用して画像間のジオメトリ関係を調整することは、特許文献3(「身体構造の物理的パラメータを決定する方法」権利者:Aben 外)に記載されているように行うことが出来る。
【0075】
全ての画像間のジオメトリ関係に加えて、全ての画像内の対象構造の規定が得られると、対象構造の3D再構成は、再構成させることが出来る。これを達成することができる多くの方法が、既存の技術に記載されている。これらの方法のほとんどは、エピポーラ制約と三角法の考えに基づいている。2つのビューの相対位置が、一方の画像の3Dポイントの投影とともに、既知である場合、同じポイントの投影位置を含まなければならない他方の画像におけるエピポーラ線は、規定させることが出来る。これはエピポーラ制約と呼ばれる。他方の画像内のエピポーラ線上に投影された位置を見出すと、当業者に知られているように、このポイントの三次元位置は、三角法と呼ばれるプロセスにより再構成させることが出来る。もし、対象構造の規定が血管の中心線により構成されている場合、結果となる3D再構成は、3D中心線となるであろう。もし、管腔境界が、対象構造の規定に含まれている場合、局所血管径の情報は、3D再構成モデルに組み込むことが出来る。この場合、血管内腔の表面モデルを、作成することが出来る。
【0076】
図1のステップ102に記載されているように、プロセッサは、複数の2次元画像を使用して、対象冠動脈病変を含む、冠動脈ツリーの対象サブセットの患者固有の3D再構成を作成する。3D再構成の例は、図7の参照704として示されている。
【0077】
オプションとして、3D再構成を生成した後、臨床医は必要に応じて管腔境界を修正することが出来る。もし、管腔境界が既に修正されている場合、新しい3D再構成は自動的に生成されるであろう。
【0078】
3D再構成から、図1のステップ103に記載されるように、ジオメトリ情報を抽出することが出来る。この3Dジオメトリ情報は、例えば、3D再構成された、対象血管の中心線に沿った対象血管の断面積および長さとすることが出来る。断面積から、中心線の全てのポイントの直径を決定することが出来る。この直径は、例えば、等価直径の最小、最大として、断面積から導出することが出来る。2Dの代わりに3Dジオメトリ情報を使用することにより、測定は、より正確になる。3D再構成で決定された長さは、例えば、遠近短縮されていない。対象血管に沿って抽出された直径の結果の例は、図10の参照1001として見ることが出来る。
【0079】
3Dジオメトリ情報が抽出されると、病変の位置が、図1のステップ104によって説明されるように、決定される。
【0080】
病変の位置は、図10に示されるように、局所的な最小直径の位置(1001A)、この最小直径の位置の近位(1001B)および遠位(1001C)に対応する障害物の境界を備える。この障害物の境界は、狭窄病変の長さを規定する。病変の位置は、例えば、非特許文献14によって教示されるように、自動的に決定させることが出来る。病変の自動位置決定を使用して、病変の位置が、3D再構成を使用して直接規定される。2D画像フレームは、例えば、上術したように遠近短縮され、これにより障害物境界の誤った配置をもたらす可能性があるので、3D再構成の使用は、2Dで病変の位置を決定する場合よりも正確である。2D病変の位置決定の起こりえる不正確さの例は、図8A-8Cに見ることが出来る。図8A~8Bは、2D画像フレームで決定された場合の障害物の境界を示す。図8Cは、3D再構成で明確に見ることが出来る、真の障害物の境界を示す。病変の位置の決定は、純粋に血管のジオメトリ(例えば、健康と想定される血管の直径または面積に対する血管狭窄の最小直径、直径比または面積比)に基づかせることが出来る。血管狭窄の比率を計算するためには、対象血管に沿った健康な血管の直径または面積の推定値が必要である。図16には、健康な血管の直径または面積を推定するための例が提示されている。健康な血管を決定するためには、血管の中心線に沿った、対象血管の直径または面積が、必要である(図16の1601)。このジオメトリ情報は、図1のステップ103によって抽出される。第1の例では、血管の中心線に沿った全ての直径または面積のデータが使用され(図25の2502)、そして図16のステップ1604で、直線が、図25の2501に示されているように、全ての直径または面積のデータポイントを通過するように、自動的にフィットされる。このフィットされた線は、血管の中心線に沿った健康な血管の直径または面積を表す。このアプローチを使用すると、結果として得られる健康な直径線または面積線は、血管に沿った全ての直径または面積の値に基づいているので、罹患した血管部分内の直径または面積も含む。これにより、計算された健康な直径または面積線は、わずかに過小評価されるかもしれない。
【0081】
参照直径面積の計算を改善するための1つのアプローチは、逸脱した血管直径または血管面積値が、直径または面積データから破棄される、図16のオプションのステップ1602を実行することによる。これらの逸脱した直径または面積の値の決定は、例えば、全ての血管の直径または血管の面積のデータポイントの累積ヒストグラム(図26Bの2601)を作成することによって達成させることが出来る。事前に規定されたまたは動的なしきい値(図26Bの2602)に基づいて、血管の最小の直径または面積の値は、破棄される(図26Aの2603)。次に、図16のステップ1604において、直線を、残りの直径または面積のデータポイントを通るようにフィットさせる。このフィットされた線は、血管の中心線に沿った正常な血管の直径または面積を表す。
【0082】
これに代えて、図16のステップ1603では、医師が、血管の直径または面積データ(図27の2701)に従って、手動参照位置を示す。参照位置は、健康な血管部分の特定である。次に、図16のステップ1604において、直線(図27の2702)が、例えば、非特許文献14によって教示されているように、参照位置での直径または面積のデータ値にフィットされる。このフィットされた線は、血管の中心線に沿った正常な血管の直径または面積を表す。
【0083】
オプションとして、臨床医は、この領域を手動で選択することにより、血管内の異なる病変の位置を規定することができる。病変の位置の選択は、生成された直径グラフ(図10、1001)、または2D血管造影画像、または3D再構成において直接行うことが出来る。
【0084】
これに代えて、対象血管内で複数の病変の位置を選択することも出来る。プロセッサ/システムは、血管内腔の局所的な狭窄も示す、対象とする別の領域を決定する。これに代えて、臨床医が、別の病変の位置を手動で選択することも出来る。
【0085】
これに代えて、血管内腔に局所的な狭窄が存在しない場合には、臨床医によって規定される、または自動的に決定される病変の位置は、存在しない。血管内腔が、例えば、健康である、または局所的な内腔減少の治療が、例えば、ステント留置によって既に行われている場合、病変の位置は必要ない。
【0086】
病変の位置が判明すると、健康な参照直径および/または面積グラフの推定値は、決定させることが出来る。図23は、対象血管に沿った正常な参照直径および/または面積グラフを規定するためのさまざまな方法の概要を示す。図23のステップ2301によって表される、対象血管に沿った3Dジオメトリデータは、図1のステップ104からの結果として計算される。このジオメトリデータに基づいて、対象血管に沿った、健康な参照直径および/または面積グラフを計算するための2つの異なる方法が提示される。ステップ2302によって表される第1の方法は、図16に関連して本出願内で説明される方法の集合である。第2の方法は、ステップ2304および2305によって表される自動アプローチを説明する。ステップ2304内で、病変範囲(病変の長さ)は、例えば、非特許文献14に教示されるように自動的に規定される。次で、ステップ2305において、健康な参照直径または面積グラフが、例えば、対象血管に沿った直径または面積値を通る線をフィットさせることによって、計算される。ここで、病変範囲内の直径または面積値は、非特許文献14によって説明されるようにフィッティング中に除外される。
【0087】
図1に戻ると、図1のステップ105に示されるように、患者固有のデータが使用される。前述したように、本出願の目的は、措置の時間を追加しないことである。現在のPCIインターベンション中、例えば、動脈ラインを使用して、患者の安静時の大動脈圧を侵襲的に測定することは、臨床診療行為である。血管FFRの計算のために、臨床医は、図9の参照901に示されるように、この大動脈圧を入力する必要がある。
【0088】
図1のステップ106では、血行動態結果が計算される。血行動態結果のリアルタイム計算を可能にするために、ここでは、低計算方法が開示されている。要約すると、この方法は、カテーテル挿入の措置中に測定された患者固有の大動脈圧を統合する。冠動脈を通る近位の最大冠拡張時血液フローまたは血液速度を規定した後、患者固有の速度は、冠動脈心外膜系内の健康な一定速度、測定された大動脈圧、および冠動脈の3Dジオメトリを仮定することによって、規定される。この方法の詳細な説明は、後述される。
【0089】
ジオメトリ情報と患者固有の血圧を使用して、対象血管の中心線に沿った全ての場所または単一の場所の圧力降下が、計算される。図1のステップ106において、血管FFR値が、計算された圧力降下から導出させることが出来る。オプションでは、圧力降下と血管FFR値が、対象血管の中心線に沿った全ての場所に対して計算される。後者は、仮想プルバックと呼ばれ、計算された圧力降下または血管FFR値の仮想インビボプルバックに類似する。この仮想プルバックは、対象血管の膨大な量の生理学的および血行動態情報を提供する。
【0090】
この血管FFR法は、冠動脈循環の生理学に基づいている。健康な状態では、冠動脈血液フローは、心臓の代謝の必要性に良く適合している。例えば、ランニングのような運動中、冠動脈血液フローは、心筋の酸素要求量の増加に応じて増加し、そして安静時の冠動脈血液フローは最小になる。この原理は、冠動脈の自動調節と呼ばれ、そして臓器レベルで局所的に制御される。冠動脈循環は、概念的には、心外膜伝導血管と壁内血管に分けることが出来る。心外膜冠動脈は、直径5mmから0.4mmまでの冠動脈をカバーし、そして心筋の外面に位置し、そして壁内血管(直径<400μm)は、冠動脈と微小循環を備える毛細血管レベルまでの細動脈である。X線血管造影法では、注入された造影剤によって心外膜冠動脈のみが視覚化される。血行動態的には、血管系を通る血液フローは、オームの法則によって支配される。オームの法則では、フローは、圧力勾配を血管の入力と出力の間の抵抗の合計により除したものに等しい。血液フローに対する血管抵抗は、式7で表すことができ、この式は、抵抗が、血管の長さと血液の粘度に比例し、そして直径の4乗に反比例することを意味する。これは、平滑筋の緊張を変化させることにより、冠動脈循環に血液フロー調節の強力なメカニズムを提供する(例、血管径が30%減少すると、抵抗は4倍増加する)。直径400μm未満の冠動脈血管は、全て、フロー制御、自動調節に貢献する。これらの抵抗血管の拡張は、心筋血液フローを増加させて、増加する酸素要求を満足させることが出来る。
【0091】
心外膜狭窄が存在しない場合、人間の最大フローは、健康な男性の安静時フローの4~5倍に上昇すると報告されている。最大の冠動脈血液フローと安静時の冠動脈血液フローの比率として計算されるこの予備能容量は、冠血流予備能(CFR)と呼ばれる。図11は、冠動脈圧と冠動脈血液フローの関係により、CFRの考えを示す。血管緊張(動脈血管の拡張が直径400μm未満)が存在する場合、圧力とフローの関係は、自動調節を表す中央の平坦な部分1103によって特徴付けられる。最大運動(最大冠動脈血液フロー、最大血管拡張)時の圧力とフローの関係は、直線1101である。これは、最大血管拡張に応答して、微小循環が最大拡張することに起因し、この結果、フローは、主に、微小血管抵抗血管の断面積の関数となり、これは、一般的な膨張圧に依存する。心外膜冠動脈の狭窄に起因する管腔狭窄は、血液フローに追加される抵抗を表す。この抵抗は、安静時に代償性血管拡張によって低下させることができ、そして自動調節されたフローは、血管拡張能力が使い果たされたときにのみ完全閉塞の近くで減少する(1104)。冠動脈血管再生は、狭窄の重症度が、もはや酸素要求を満たすことが出来なくなる冠動脈血液フローの障害のレベルに既に達しているときに示される。これは、最初、運動中に明確になって来るであろう。図11には、最大血管拡張時の冠動脈の圧力とフローの関係に対する狭窄の影響も、ラベル1102によって、示されている。この場合、これは、狭窄に起因する非線形の圧力損失による曲線関係により特徴付けられる。この曲線関係は、狭窄性冠動脈セグメント内の圧力勾配とフローの間の二次関係に起因する。狭窄セグメントによる圧力勾配
【数1】
は、摩擦損失の合計であり、そして病変の出口での対流加速とフローの分離による損失は、(式1)のように表すことができる。
【数2】
ここで、
【数3】
は、冠動脈血液フローを表し、
【数4】

【数5】
は、それぞれ、粘性損失係数と膨張損失係数である。
【0092】
図11内で、1105は、特定の冠動脈圧での健康な冠動脈のCFRを示す。参照番号1106は、狭窄を伴う冠動脈のCFRを示す。
【0093】
CFRは、ドップラー心エコー検査や陽電子放出断層撮影のようなさまざまな方法により測定することが出来る。インターベンションの措置中、CFRは、ドップラーカテーテルを使用した冠動脈内血液速度測定によって測定され、そして侵襲的FFRと同様に、CFRには、コストと措置の時間が追加される。また、最大冠拡張を発生させるためには、薬剤注入を加えることが必要であり、これは患者にとって余分な負担となる。
【0094】
前述したように、CFRは、冠動脈を通る最大冠動脈血液フローとその安静時冠動脈血液フローとの比率として規定される。CFRの欠点は、固有の「正常な」参照値がないことである。参照値は、安静状態に対応する各血管に対し必要である(図11、1103)。例えば、頻脈を呈する患者の場合、この安静状態は、上方にシフトし(より高い安静時フロー)、CFRの過大評価をもたす。さらに、健康な被験者の場合、冠動脈血液フローの最大増加は、安静時のフローに対し4~5倍であり、これによりCFRの特異性は低くなる。FFRは、このような制限を受けない。前述したように、FFRは、最大冠拡張中に測定された冠動脈病変の遠位の圧力と冠動脈病変の前の圧力(大動脈圧)との比率として規定される。これにより、FFRが、0.0~1.0のインデックスであると言う結果になり、これは、事前に規定されたしきい値(0.75)によって冠動脈病変が機能的に有意であるか否かを示す。さらに、FFRは、ベースライン特性に影響を及ぼす(図11、1103または1104)。図12は、この相違を示す。1201と1202は、健康な冠動脈と病変のある冠動脈との最大血管拡張時の冠動脈圧とフローの関係を表す。FFRは1205で表され、CFRは1206で表される。図12は、安静時の冠動脈圧とフローの関係の相違に起因する2つの異なるCFR値を示す。ここで、1203は、例えば、頻脈を呈する患者を表し、1204は頻脈なしの症例を表す。
【0095】
図1のブロック106で、血行動態結果が計算される。本出願の実施形態では、血行動態結果を計算するために、重要な原理が使用される。これは、冠動脈系の最大圧力降下(勾配)の物理的制限である。図13Aは、心外膜冠動脈1301における冠動脈病変1303を伴う冠動脈循環の概略図を示す。1302は、静脈系1308に接続される微小循環とも呼ばれる壁内冠動脈を表す。各冠動脈血液フロー1305において、冠動脈に沿った圧力降下
【数6】
と微小血管系による圧力降下
【数7】
の合計は、大動脈圧1304
【数8】
および静脈圧1307
【数9】
の差を物理的に超えることは出来ない。冠動脈(図13B、1301)に沿った圧力降下は、大動脈圧1304
【数10】
から遠位圧1306
【数11】
を引いたもの
【数12】
として規定される。この原理は、次のように、図13Aを参照して数学的に式4で記述される。
【数13】
【0096】
式4によって規定される原理を考慮すると、以下の独特の特徴:
-2D冠動脈ジオメトリに代えて3D冠動脈ジオメトリ情報を使用すること
-冠動脈フローではなく、冠動脈速度に基づいて計算すること
-患者固有の血行動態パラメータを計算すること
を備える、圧力降下およびFFRのような血行動態パラメータを定量化するための方法が、開示される。
【0097】
(2D冠動脈ジオメトリに代えて3D冠動脈ジオメトリ情報を使用すること)
本出願の実施形態では、3D QCAに基づくジオメトリ情報を使用して、FFRを計算する方法が、提供される。2D QCAは、a)面外倍率エラー、およびb)遠近短縮エラーを原因とするジオメトリの不正確さを有すると言う問題を持つ。遠近短縮とは、特定の視点から見たときにオブジェクトが圧縮されているように見え、これにより冠動脈の長さの過小評価のような不正確なジオメトリ情報が発生するイベントである。ジオメトリ情報は流体方程式の重要な部分であるので、正確かつ信頼性の高い冠動脈のジオメトリ情報は、不可欠である。
【0098】
(冠動脈フローではなく、冠動脈速度に基づいて計算すること)
前述したように、CFRは、冠動脈を通る最大冠動脈血液フローとその安静時冠動脈血液フローとの比率として規定される。
【0099】
しかしながら、冠動脈フローは、X線血管造影画像データから容易に抽出されるわけではなく、そして多数の方法が、さまざまなパフォーマンスで開発されて来ている。さらに、このような方法は、最小フレームレートのような特定の取得要件を必要とし、取得シーケンスは、造影剤注入の前後の画像データを含む必要等がある。前述したように、血管FFRは、経皮的冠動脈インターベンションの措置中またはX線冠動脈造影の措置中に、心臓専門医のワークフローにフィットさせる必要があり、そして措置の時間は、分析合計時間に加えられるべきではない。したがって、冠動脈フローに代えて冠動脈速度に依存する方法が開発されている。
【0100】
さらに、本発明者らは、冠動脈速度には、冠動脈速度が、一人の患者については冠動脈ツリー内の場所に依存しないという利点があることを認識した。冠動脈ツリーのサブセグメントを分析する場合、その特定のサブセグメントを通る冠動脈血液フローは、冠動脈ツリー内のその特定のサブセグメントの場所に依存する。例えば、冠動脈血液フローは、冠動脈ツリーのダウンストリームで減少し、これは、健康な冠動脈ツリー内のほぼ一定の冠動脈速度に関係する。事実、冠動脈速度は患者間で異なるが、一患者内では冠動脈速度はほぼ一定である。例えば、対象血管は、冠動脈ツリーのサブセットを表す。本明細書で説明される血行動態結果の計算は、冠動脈ツリーが全体を通して一定速度を示すという仮定に、部分的に、基づいている。この原理は、提案された実施形態を、単一の血管、分岐または血管ツリーに使用することを可能にする。分岐部の遠位では、血管の断面積または直径は、減少している(図18Bの1802)。したがって、アルゴリズムは、図18A(1801)に示されるように、分岐の1つのブランチに一定速度で適用させることが出来る。これは、健康な状況では、速度が、血管ツリー全体に沿って一定であると想定されることを意味する。
【0101】
この観察結果は、本出願内の「(患者固有の血行動態パラメータの計算)」の説明内でさらに使用される。冠動脈速度を使用することを組み合わせた式4を参照して、この方法をさらに説明する。
【0102】
(微小循環による圧力勾配
【数14】

図11を参照すると、健康な状況における最大血管拡張(1101)下の冠動脈圧勾配は、フローに線形に依存する。健康な状況では、冠動脈の圧力勾配は無視し得、そしてこの線形の圧力勾配の要因は微小血管系である。これは、微小血管系による圧力勾配、つまり、図13Aにおける、
【数15】
(1306)から
【数16】
(1307)を引いたもの
【数17】
が、血液フローに線形に依存することを意味する。冠動脈フローがゼロの場合、微小血管系を要因とする圧力勾配はゼロとなり、そして
【数18】
図13A、1306)は、患者の静脈圧(図13A、1307)に等しくなる。最大冠動脈フローでは、圧力勾配は、大動脈圧と静脈圧の差に等しくなる(図13A、1304、および1307)。冠動脈自体には圧力勾配が存在せず、そして微小血管床で全ての圧力勾配が観察されるので、これは、完全に健康な冠動脈の場合になる。これは、冠動脈速度で表すこともでき、そして図13B、1316の点線で表すと、次の式5になる。
【数19】
【0103】
最大血液速度
【数20】
図13B、1314)は、ストレス/最大冠拡張中の健康な状態での最大血液速度を示す、大規模な患者集団から経験的に決定された値である。これに代えて、健康な状態での最大血液フローは、大規模な患者集団から経験的に決定することが出来る。健康な条件での最大速度
【数21】
図13B、1314)は、図23のフローチャートに記載されているように、入口面積または推定された健康な参照入口面積を使用して、この最大フローから導出することが出来る。
【0104】
(心外膜冠動脈病変による圧力勾配
【数22】

再び図13Aを参照すると、心外膜冠動脈病変(1303)内の圧力勾配は、
【数23】
(1304)から
【数24】
(1306)を引いたもの
【数25】
として規定され、これは、2つの主要な流体力学的効果(式1)によって引き起こされ、そして粘性効果と分離効果に起因する摩擦効果
【数26】
として規定される。前述したように、速度には、冠動脈ツリー内の場所に依存しないという利点があるため、摩擦項
【数27】
と分離項
【数28】
の両方は、パラメータ
【数29】
(摩擦)と
【数30】
(分離)を使用して冠動脈速度に応じて次のように表すことが出来る。
【数31】
本明細書の実施形態により、冠動脈速度に依存する処方が、さらに、説明される。これは、前述したように、速度が冠動脈ツリー内の場所に依存しないという利点を有する。式6を利用することにより、本明細書で説明される、血行動態結果の計算は、冠動脈ツリーが全体を通して一定速度を示すという仮定に、部分的に、基づいている。
【0105】
摩擦効果
【数32】
は、ポアズイユ(Poiseuille)の法則を使用して計算することが出来る。血管の断面積は、その長さに沿って一定ではないため(例、血管が先細りする)、血管の長さに沿ってポアズイユの法則を統合することがより正確である。この摩擦項は、血液粘度とジオメトリパラメータに依存する。例えば、図1のステップ103で、長さと血管半径/面積が、次式のように3D再構成から決定され、
【数33】
ここで、
【数34】
は血液粘度を表す定数であり、そして3D再構成から導出され、
【数35】
は冠動脈セグメントの長さを表し、
【数36】
は冠動脈の近位領域を表し、そして
【数37】
は冠動脈セグメントの半径である。
【0106】
冠動脈の半径はその長さに沿って一定ではないので、式7は、血管の長さに沿って積分によって書き直すことが出来る。冠動脈セグメント全体に沿って積分することの利点は、小さな血管で重要な要素となる摩擦による圧力勾配が考慮されることである。
【0107】
分離項
【数38】
は、主に、図1のステップ103で決定される、冠動脈閉塞領域のジオメトリパラメータに依存する。これらのパラメータには、3D再構成および血液密度のような血液特性から、
【数39】
により得られる狭窄の断面積が含まれる。ここで、
【数40】
は血液密度を表す定数であり、
【数41】
は、患者データから経験的に決定された項と、3D再構成から導出された狭窄セグメントの長さと正常な直径への依存性を含み、
【数42】
は冠動脈の近位領域を表し、
【数43】
は3D再構成から導出された狭窄セグメントの場所の領域を表す。
【0108】
【数44】

【数45】
の両方の用語では、血管セグメントの入口の領域
【数46】
が必要である。この領域は、3D再構成の入口から直接決定させることが出来る。より堅牢にするために、対象血管の健康的な再構成は、狭窄領域の外側の3D再構成の全ての次元を使用して、行うことが出来る(図23)。血管の再構成を使用することにより、入口領域は、小さなセグメンテーションエラーの影響を受けにくくなる。血液の密度や粘度のような血液特性については、文献の値を使用することが出来る。これに代えて、これらの値は、大規模な患者集団から経験的に決定された値とすることもできる。
【0109】
これに代えて、血管セグメントの入口の領域を使用する代わりに、病変の位置の健康な領域の値を使用して、狭窄のより具体的な参照面積
【数47】
を表すことも出来る。
【数48】
は、図23で決定された正常な血管面積を使用して計算することが出来る。式7は、次のように変形される:
【数49】
【0110】
式7と同様に、式9は、冠動脈の半径と健康な血管面積の変化を考慮に入れるために、血管の長さに沿った積分によって書き直すことも出来る。そして、式8は次の式
【数50】
に変形される。
【0111】
加えて、近位と遠位の圧力測定ポイント間で垂直方向または「上」方向に高さの相違がある場合(高度が異なる場合)、静圧力が、考慮されるべきである。血管の3D再構成は、血管の近位側と遠位側の間の血管中心線に沿った高度差を表す。図24は、図1のステップ102からの結果である、対象血管の3D再構成の座標系と、(例えば、画像化システムに対する)現実世界の座標系との相関関係を示している。画像化システム(例、X線システム)の概略図は、画像増強器(2402)、X線源(2403)、Cアーム(2404)、および患者が配置されているテーブル(2405)によって表される。座標系は2401で示され、ここでz軸は、地面(2406)(例、地球の表面)に垂直に規定され、そしてx軸とy軸はz軸に直交するように規定される。対象血管に沿った高度差(または上昇)は、3D座標のz成分の差によって規定される。図24内では、3D再構成に沿った、2409と2410で表される2つの場所が視覚化されている。例えば、3D再構成(2407)の2つの場所(2408と2409)間の上昇(2410)を計算するために、高度差が、2409.zから2408.zを引いた値(2409.z~2408.z)によって、計算される。高度差は、血液に作用する重力(図24の2411)により、圧力勾配を発生させる。重力勾配
【数51】
が式6に追加され、そして次の式
【数52】
が得られる。
【0112】
この高さ/重力情報を利用できることは、単一の2次元投影を使用する代わりに、複数のX線投影に基づいて、3D再構成を使用することができる利点にもなる。対象血管に沿った重力による圧力勾配は、式12
【数53】
を使用して計算することが出来る。ここで、
【数54】
は血液の密度を表し、
【数55】
は重力加速度を表し、
【数56】
は近位血管部分と遠位血管部分の高度の差(例、図24の2410)である。
【0113】
オプションとして、重力加速度は、地表上の場所に依存するその特定の値に従って調整させることが出来る。
【0114】
(患者固有の血行動態パラメータの計算)
図13Bは、式4から組み込まれた知識および圧力とフローの関係と共に、冠動脈速度と冠動脈圧との関係を示す。図13Bでは、x軸は冠動脈速度を表し、そしてy軸は図13Aの場所1306での冠動脈圧を表す。「(微小循環による圧力勾配
【数57】
)」
(段落0102)の説明で述べたように、1316は、心外膜冠動脈が健康な場合に、微小血管床(図13A、1302)で観察される圧力勾配を表す。この関係は、冠動脈速度の増加に対し線形である。最大冠動脈速度1314は、最大運動中の速度を反映する。最大冠動脈速度での静脈圧
【数58】
と微小循環による圧力勾配
【数59】
の合計は、大動脈圧1304
【数60】
に等しい必要がある。最大血管拡張は、等しい冠動脈圧でフローが増加する結果をもたらすので(図12図13)、安静時の患者固有の大動脈圧を使用することが出来る。この患者固有の大動脈圧は、誘導カテーテルを使用して測定された拡張末期圧および収縮末期圧から導出されることが、好ましい。誘導カテーテルを冠動脈口に留置し、そしてトランスデューサーを接続することにより大動脈圧が測定される。拡張末期圧と収縮末期圧は、測定された大動脈圧トレースから取得することが出来る。血管FFRは平均大動脈圧を使用する。平均大動脈圧は、例えば、拡張末期圧と収縮末期圧の両方の加重平均により計算される。これに代えて、患者固有の大動脈圧は、圧力カフ測定を使用して上腕動脈で測定することも出来る。図13Bでは、1315は、心外膜冠動脈病変の遠位の圧力(図13A、1306)を表しており、そして「(心外膜冠動脈病変による圧力勾配
【数61】
(段落0104)の説明で述べたように、この曲線は放物線形状をしている。冠動脈閉塞(図13A、1303)が重症であるほど、この曲線は冠動脈速度の増加に伴ってより速く下降する。次に、式4を組み込むことにより、この特定の患者内の最大速度(最大冠拡張時)は、曲線1316と1315の交点によって規定させることが出来る。図13Bの例では、この最大速度は1312により表され、
【数62】
は1310により表され、
【数63】

は1310により表される。
【0115】
この情報を使用して、FFR(血管FFR)のような血行動態パラメータを計算することが出来る。血管FFR値は、冠動脈病変(1303)の遠位の冠動脈圧を大動脈圧で割った割合である。遠位圧は、大動脈圧(1304)から圧力降下(1310)を減算することによって計算することが出来る。
【数64】
【0116】
例示的な実施形態および対応するワークフローおよび方法は、上述されている。次に、代替および/またはオプションのワークフローおよび/または方法を含む代替の実施形態が説明される。
【0117】
実施形態では、管腔境界は、選択フレーム(図4のステップ402および406)において検出される(図4のステップ403および407)。オプションとして、同じ画像シーケンス(図4の401)の経時的な複数の画像フレームを使用して、管腔境界の検出が改善される。追加の画像フレームの数は、可変であり、そして画像シーケンスで利用可能な1つまたは複数の画像フレームを含むことが出来る。時間の経過とともに追加の画像フレームを使用することにより、値が、既に、管腔境界検出アルゴリズムに追加されている。追加の画像フレームを使用して、画質を改善する、または血管のジオメトリおよび/または冠動脈のツリー全体のジオメトリに関する詳細情報を境界検出アルゴリズムに組み込むことが出来る。
【0118】
画質の向上は、画像登録技術(図19の1901)を使用して画像フレームを位置合わせすることにより、実現させることが出来る。画像登録は、例えば、非特許文献15に教示されるように行うことが出来る。画像フレームの位置合わせ後、画像品質を改善するために、画像フレームは、図19のステップ1902によって互いに重ね合わされる。次に、図19のステップ1903において、管腔境界が、重ね合わされた画像において検出される。
【0119】
さらに、画像シーケンスの複数の画像フレームを使用すると、対象血管および画像シーケンスに存在する他の血管の3D方位および/またはジオメトリに関する時間情報が、追加される。時間情報は、例えば、分岐部と交差および/または重なり合う血管をより良く区別するために使用することが出来る。例えば、分岐側のブランチは、交差および/または重なり合う血管が、互いに独立して移動する間、同様の動きの挙動を示すであろう。複数の画像フレームを使用すると、一部の画像フレームでは見えなかったが、血管の動きのために他の画像フレームでは明確に見える、対象血管の部分または詳細が、表れるかもしれない。追加の画像フレームの使用は、血管の詳細の良好な投影/可視性の可能性を高め、管腔境界検出の改善に貢献する。これに代えて、回転血管造影画像シーケンスは、管腔境界検出を改善させることが出来る。回転血管造影法は、時間の経過とともに視野角を変化させるので、1つの視野角内で重なり合う血管は、他の視野角で見えるようになるであろう。ECG信号は、視野角間の心臓の位相を一致させるために使用させることが出来る。
【0120】
オプションとして、特定の狭窄セグメントを表す複数の
【数65】
項(式8)を追加することにより、冠動脈圧勾配の計算(式6)に複数の狭窄セグメントを含めることが出来る。
【0121】
オプションとして、狭窄セグメントが存在しない場合がある。この場合、
【数66】
項は式6から削除される。
【0122】
図1のステップ104で、病変の位置が、血管セグメントの3Dジオメトリに基づいて決定される。これに加えて、病変の位置の決定により革新的な機能パラメータを使用することが出来る。これらの機能パラメータは、例えば、流体力学に関連している。この機能パラメータは、パラメータが、対象血管に沿った1つまたは複数のポイントで選択されたフロー特性を示すので、フローパターンパラメータと呼ばれることもある。レイノルズ数は、そのような流体力学機能パラメータの例である。レイノルズ数は、流体のフローパターンを予測するために使用される流体力学における重要な無次元量である。レイノルズ数が低い場合、フローは、層流によって支配される傾向があるが、レイノルズ数が高い場合、フローは、流体の速度と方向の相違に起因する乱流によって支配される傾向がある。レイノルズ数は、乱流の存在を示し、そしてレイノルズ数が、例えば、血管の形態に基づいて、固定しきい値または動的しきい値を超えた場合に、病変の存在を示すために使用することが出来る。血管形態を使用して動的閾値を規定する例は、例えば、血管の屈曲、曲率、または動脈瘤のような局所的な血管拡張のような、血管形態の変化を含めることによるものである。
【0123】
本明細書の実施形態によれば、フローパターンパラメータは、レイノルズ数とすることができる。ここで、実施形態は、対象血管の長さに沿った一連の対応するポイントで一連のレイノルズ数を計算する。病変の位置は、レイノルズ数の変化に依存させることが出来る。例えば、レイノルズ数を相互に比較して、それらの間の相対的な変化を特定することができる。例えば、対象血管セグメントに沿ったレイノルズ数を、その最小値と最大値を比較することによって評価する。オプションとして、1つまたは複数のレイノルズ数は、層流パターンと乱流パターンとの間のカットオフを規定するしきい値と比較させることができる。さらなる例として、レイノルズ数間の比率または差を利用して、血管形態および推定される健康状態を評価することができる(例えば、図23を参照)。前述したように、図1のステップ104での決定操作は、少なくとも部分的に、フローが層流であるか乱流であるかを示すフローパターンパラメータの計算に基づいている。例えば、フローパターンパラメータは、レイノルズ数である。
【0124】
病変の位置を決定する別の例は、血管狭窄の存在に起因する、血管に沿った血液速度の変動を特定することによるものである。本出願内では、速度は、冠動脈ツリーに沿った健康な血管内では一定であると想定されている。血管が狭くなると、病変で血液速度は増加し、そして血管が広がると、病変の出口で再び一定速度
【数67】
に減少する。局所速度
【数68】
は、次の式14を使用して、局所健康推定面積
【数69】
および局所血管面積
【数70】
を使用して計算することが出来る。
【数71】
血管の拡大により病変出口で発生する可能性のある血液速度の急激な低下は、フローの乱れの発生原因となり得る。速い血液速度変化の場所の特定は、例えば、局所的な健康な速度
【数72】
と局所的な疾患の速度
【数73】
との間の比率または差によって行わせることが出来る。別の例は、病変と病変の遠位との間の局所速度の変化/比率である。
【0125】
これに続いて、病変の位置は、例えば、一次元の波動伝播および/または非特許文献16によって当技術分野で教示されている計算流体力学(CFD)の使用、および/または式1のような単純化された数学的アプローチを含めることによって決定させることが出来る。冠動脈血管全体のCFDシミュレーションは、時間がかかるので、1次元波動伝搬またはCFDが適用される場合には、計算時間と血管(ツリー)のリソース候補領域(図20の2006)を削減することが、特定される。これらの領域の特定は、例えば、血管の形態、例えば、想定される健康な参照とは異なる血管(ツリー)の領域、に依存させることが出来る(図23)。候補病変領域を特定する別の方法は、直径または面積の局所的な減少を示す血管の部分を含めることである。
【0126】
図20の2002では、CFDが候補領域に適用される。CFDの計算には、流入口(2004)と流出口(2003)の境界条件が必要である。入口では、フロー値が設定され、そして出口では、例えば、当技術分野で教示されている(Wentzel外、2005年)ように、応力のない出口が適用される。入口境界条件には、フローまたは速度が適用される(図20の2004)。このフローまたは速度は、患者集団から経験的に決定させる、または「(患者固有の血行動態パラメータの計算)」(段落0114)のセクションで説明されている方法を使用して推定させることが出来る。
【数74】
の計算は、分離項
【数75】
を無視して行われる(分離項は、病変の場所に依存する唯一の項である)。出口境界では、ゼロ圧力境界条件(図20の2003)が適用される。1次元波動伝搬またはCFDによって計算された圧力損失が、分離項
【数76】
を無視した式6(図20の2005)を使用して計算された圧力損失と一致しない場合に、病変は存在する。
【0127】
これに代えて、病変は、CFDから派生した他の用語を使用して、特定させることも出来る。例えば、フローの分離、乱流運動エネルギ、渦度は、フローの挙動を表すパラメータである。病変出口でフローの分離が起こり、この結果エネルギ損失が生じることはあり得るので、フローの分離は、病変の存在を示す。乱流運動エネルギは、乱流を起因とするエネルギ損失に関する情報を提供する。病変により乱流が発生する可能性があるので、これは、病変の存在を特定することが出来るパラメータである。渦度は、病変の出口に関連する尺度でもある。渦は、フローの分離領域で発生する可能性があるので、これは病変の存在を示す。
【0128】
次に、病変の位置を特定するために、機械学習を使用することが出来る。機械学習法では、病変は、血管(ツリー)の形態に基づいて特定させることが出来る。オプションとして、これは、特許文献3で考えるように決定させることが出来る、推定された健康な血管の3D形態と、組み合わせることが出来る。
【0129】
オプションとして、対象冠動脈血管の2D画像強度を機械学習アプローチに組み込んで、血管の平面寸法に関する情報を提供することも出来る。これに代えて、造影剤のX線吸収による画像強度の変化を機械学習アプローチに使用することも出来る。
【0130】
さらに、大動脈圧、年齢、体重、患者の身長、患者の病歴のような追加の患者固有の特性を、病変の存在確率に関する情報を提供する機械学習アプローチに組み込むことも出来る。
【0131】
オプションでは、対象血管の中心線に沿った圧力降下の仮想プルバックが計算される。図14は、仮想プルバックを生成する方法の態様を示す概略図を示す。
【0132】
対象血管の3D再構成には、3D中心線が含まれる。この3D中心線は、多数の中心線ポイントを備える。第1の中心線ポイントは、対象とする3D再構成血管の開始場所に対応し、近位と呼ばれる(図15、1501)。最後の中心線ポイントは、対象とする3D再構成血管の終了場所に対応し、遠位と呼ばれる(図15、1502)。他の全ての中心線ポイントは、対象とする3D再構成血管の近位端点と遠位端点の間の場所を表す。全ての中心線ポイントに対して、対象とする3D再構成されている血管の局所的なジオメトリ情報が、利用可能である。
【0133】
仮想プルバックの計算は、対象血管の3D再構成の近位端から開始される。図14のステップ1401において、近位中心線ポイントが、第1の場所として設定され(図15、1504)、そしてこれは、完全な仮想プルバック計算の間、第1の場所に留まる。
【0134】
対象とする3D再構成血管の中心線は、前述のように多数の中心線ポイントにより構成される。図14のステップ1402において、このポイントは、第1の場所の後の次の中心線ポイントから開始して、第2の場所として設定される。
【0135】
図14のステップ1403において、第1の場所と第2の場所との間のセグメントに対応する、対象血管の3D再構成からのジオメトリ情報が、収集される。
【0136】
第1の場所と第2の場所との間のセグメントのジオメトリ情報を使用して、第1の計算に対する第2の場所での圧力降下および血管FFR値が、前述の式を使用して、図14のステップ1404において、計算される。
【0137】
圧力降下と血管FFR値が第1と第2の場所の間で計算されると、圧力降下と血管FFR値が、図14のステップ1405において、第2の場所に対応するプルバック曲線データに追加される。
【0138】
第2の場所で計算された圧力降下と血管FFR値が、仮想プルバック曲線に追加された後、第2の場所は、更新され、そして次の中心線ポイントの場所に設定される。図14のステップ1406を参照すると、プロセスは、対象血管の3D再構成の第1の場所と遠位端位置との間の全ての中心線ポイントに対して繰り返される。最後の中心線ポイントが処理され、そして圧力降下および血管FFR値が仮想プルバック曲線に追加されると、仮想プルバック曲線の準備が整う。
【0139】
仮想プルバックは、再構成された3Dの近位側から遠位側に第2の場所を移動させることにより、3D中心線に沿って繰り返し計算される。図15を参照すると、第2の場所(1505)は、狭窄領域(1503)の近位にある。狭窄領域に近い血管部分では、式6の分離項
【数77】
は無視することができ、そして粘性効果のみが存在する。
【0140】
これに代えて、仮想プルバック曲線は、第1の場所(図15. 1504)を、対象血管の3D再構成の近位端(図15、1501)とは異なる場所に設定することによって生成させることも出来る。第1の場所は、例えば、近位病変境界に設定することができる。
【0141】
これに代えて、仮想プルバック曲線は、対象血管の3D再構成の遠位端の前で終了させることによって生成することも出来る(図15、1502)。仮想プルバック計算の最後の第2の場所は、例えば、遠位閉塞境界とすることができる。
【0142】
これに代えて、仮想プルバック曲線(図15. 1606)は、対象血管の3D再構成の遠位端から近位端まで計算させることも出来る。このアプローチでは、第1の場所は3D再構成の遠位端に対応し、これは、3D中心線の最後の中心線ポイントに等しくなる。第1の場所は、プルバック計算全体に対し同じままである。第2の場所は、3D中心線の以前の中心線ポイントに対応する。全ての中心線ポイントについて、圧力降下と血管FFR値が第1と第2の場所の間で計算される。第1の場所と第2の場所との間の圧力降下および血管FFRの計算のために、第1の場所と第2の場所との間の血管セグメントのジオメトリ情報が、対象血管の3D再構成から収集される。圧力降下と血管FFR値が第1の場所と第2の場所の間で計算されると、圧力降下と血管FFR値が、第2の場所のプルバック曲線データに追加される。このプロセスは、対象血管の3D再構成の第1の場所と近位端場所との間の全ての中心線ポイントに対して繰り返される。ここで、対象血管の3D再構成の近位端は、3D中心線の開始時の中心線ポイントに対応する。
【0143】
図15に見られるように、遠位血管FFR値は、狭窄領域によって完全には考慮されてはいないが、遠位血管の直径が減少するという事実、いわゆるテーパーにも起因する。直径が小さい血管の場合、上記の計算の摩擦項
【数78】
(ポアズイユの法則)がより明らかになるので、圧力損失は増加し、そして血管FFR値が減少する。
【0144】
仮想プルバック情報は、臨床的に測定された遠位FFR値にのみ付加価値を提供する。仮想プルバックは、局所血管ジオメトリの血行動態影響を詳細に提供する。仮想プルバックは、臨床医の意思決定をサポートする。仮想プルバックは、例えば、仮想プルバックのジオメトリに基づいて、血管が、限局性病変またはびまん性病変を有するか否かを決定するために使用することができる。図15は、仮想プルバック曲線を示す。限局性病変は、多分、ステントまたは足場を配置した後に拡張させることが出来るバルーンを使用して、狭窄を広げることにより、治療することが出来る局所閉塞である。びまん性病変は、異なる治療アプローチを必要とし、そして適切でない治療決定による不必要なコスト、患者のリスク、および患者の快適さを防ぐために、限局性病変とは区別する必要がある。
【0145】
一実施形態では、このプロセスは、病変の位置に基づいて治療セグメントを特定する。例えば、治療セグメントは、病変の位置に少なくとも部分的に重ねることができる。オプションとして、治療セグメントは、病変の位置とは別の位置に配置させることができる。
【0146】
ステント留置やバルーン血管形成術のようなインターベンションの後に、インターベンションが、血行動態的に健康な血管と言う結果をもたらしていることを確認するために、追加の(侵襲的)FFR測定を実行する必要があることについての証拠は、非特許文献17のような文献に見出される。これは、病変の治療後、血管の総抵抗が減少し、その結果血液フローが増加するであろうと言う効果が要因である。血液フローが増加すると、血液速度は増加するであろう。(例えば、図28Aの2801によって示されるように)対象血管が複数の病変を示す場合、血液フローのこの増加は、残りの未治療の病変に対する圧力降下または血管の起こり得るびまん性狭窄を増加させるであろう。
【0147】
病変を説明するために使用される「除去する」という用語は、病変を身体から物理的に除去する治療に限定されないことは、理解される。これに代えて、ステントの配置、バルーン血管形成術、または他の治療方法等によって病変が治療される場合、この治療によって、プラークまたは他の閉塞物質が、血管のセグメントを通る通常の経路から少なくとも部分的に変位した場合、この病変は「除去された」と見なされる。治療が、外科的措置の目標を達成した場合、病変は「除去された」と見なされる。例え、治療が、部分的にしか、血管をその健康な面積または直径に回復させない場合であっても、病変は除去されたと見なすことも認識されるべきである。例えば、治療が、所望のパーセンテージ(例、20%以上)しかフローを増加させない場合でも、治療は、プラークまたは他の閉塞物質を「取り除く」と見なされる。
【0148】
圧力損失の減少、または血管FFRを予測する簡単な方法は、例えば、図28A-28Dに示される、ステント留置術またはバルーン血管形成術によって治療されるであろう病変に起因する圧力損失を排除することであろう。図28A~28Dにおいて、2801は、2つの病変を有する冠動脈血管を表し、2802は病変1を表し、そして2804は病変2を表す。冠動脈血管に沿ったFFRを表す仮想プルバックグラフまたは血管2801の仮想圧力損失グラフは、2807によって示される。このグラフ内で、デルタ圧力損失またはデルタFFRは、病変1に対しては2805により、そして病変2に対しては2806により示されている。病変1が、ステント長2803のステント配置によって治療されると仮定すると、結果的に得られる冠動脈ジオメトリは2808で示される。ここで、2809は、2803をステント長として配置されたステントを示す。治療された冠動脈2808から生じる仮想プルバックグラフまたは仮想圧力損失グラフは、2810によって提示される。このグラフ(2810)内で、グラフ2807(病変)の2803(病変1、2802)によって特定される領域(または病変セグメント)を起因とする圧力損失またはFFRは、除去されている。これは、FFRまたは圧力を、病変1の近位の場所(2811)から病変1の遠位の場所(2812)に外挿し、そしてグラフの残りの部分を、y方向に位置2812の外挿値までシフトさせることによって実行される。このアプローチの欠点は、本出願内の「(患者固有の血行動態パラメータの計算)」(段落0014)のセクションで説明されている原則が、治療される血管に適用されないことである。未治療の病変の圧力降下は、不正確になる。さらに、領域2803の摩擦効果は無視される。これは、この領域の長さと直径によってはかなり大きくなる可能性がある。
【0149】
治療の予測のために、本出願内のセクション「(患者固有の血行動態パラメータの計算)」(段落0014)で前述した方法を組み込むために、図29A~29Cの健康な血管の推定値2904が使用される。図30は、健康な血管の推定値を用いて治療後のFFRの予測する方法のフローチャートを示す。このアプローチは、対象血管の3D再構成の変更を必要とせず、そして直径曲線の一部を、正常な推定直径曲線の値により自動的に置き換えることにより、ユーザの操作なしで、または非常に限定されたユーザ操作で迅速に適用させることが出来る。さらに、図30のフローチャートで提供されるアプローチは、臨床治療後の図1のワークフローまたは侵襲的FFR測定の繰り返しを不要とする。
【0150】
ステップ3001で、例えば、図29A~29Cの2901または図28A~28Dの2801によって示されるように、未処理の対象血管の血行動態結果が、実行され、そしてこれは、図1によって提示されたフローチャートと同一である。
【0151】
図30のステップ3002において、図1のステップ103から得られる、対象血管の直径または面積グラフが、臨床医によって特定された1つまたは複数の病変の治療を反映するように調整され、そしてこれらは、図29A~29Cを参照してさらに説明される。図29A~29Cにおいて、2901は、2つの病変を有する冠動脈血管を示す。直径曲線(または面積)(2902)は、図1のステップ103によって導出されるように視覚化され、そして図1のステップ102によって実行された血管の3D再構成に基づいている。臨床医が、治療されるべき病変セグメントを特定した後(2903)、健康な血管の寸法(直径または面積の何れか)に対応しそして図23に記載されている方法の1つによって導出される健康な直径または面積が、計算される(2904)。次に、直径曲線の予測が、病変セグメント(2904)内の健康な血管の推定値を、直径曲線2902に組み込むことによって実行され、結果的に、予測される直径または面積曲線2905が得られる。
【0152】
ステップ3003内で、予測された直径曲線(図29Cの2905)が、治療後の血管/病変の重要性を計算するために使用され、そしてこの方法は、図1のステップ106と同じである。
【0153】
オプションとして、ステントの材料による血液への摩擦の影響は、式6、7、9、および/または11によって考慮に入れることが出来る。例えば、これは、追加の摩擦またはエネルギ損失項を方程式に組み込むことによって達成させることが出来る。
【0154】
オプションとして、ステップ3004内で、侵襲的FFR測定が読み出されて、方程式で使用されるより多くの患者固有のパラメータが決定される。侵襲的FFR測定が、侵襲的プルバックFFRによって実行される場合、最も遠位のFFR測定は、ステップ3005で使用することが出来る。例えば、図13Aおよび13Bの最大健康速度1314は、図21Aおよび21Bに示されるように決定させることができる。曲線2115のジオメトリは、図1のステップ103およびステップ104、(式6または11)の結果として、血管のジオメトリから導出され、そして
【数79】
(2110)は侵襲的測定から知られている。これにより、曲線2115が
【数80】
(2110)に等しくなる点2101を決定することが可能になる。速度の関数として
【数81】
(2116)を表す線は、
【数82】
からポイント2101を通る直線として計算することが出来る。図1のステップ105
【数83】
からの結果として、線(2116)が測定された大動脈圧に到達する速度は、この患者の健康な血管の場合の最大速度(最大冠拡張時)、図13の1314および式5の
【数84】
に対応する
【数85】
2114を特定する。この患者固有の最大健康速度には、これが、例えば、可能性のある微小血管疾患を組み込むという利点がある。患者固有の最大健康速度(2114)を使用すると、例えば、対象血管に沿った仮想プルバック計算のより良い推定が、可能になり(図14のフローチャートで説明)、そして治療戦略における改善された洞察の提供が、サポートされる。さらに、連続病変(タンデム病変)の場合、より多くの患者固有のパラメータ(ステップ3005の結果)およびステップ3002から得られる予測治療直径曲線を使用して、残りの病変の重要性は、ステップごとに決定することができる。この実施形態の利点は、他の病変の治療後の残りの病変の重要性を評価するために追加の侵襲的測定を不要とすることであり、これは、アデノシンによるコストおよび患者の不快感を低減する。
【0155】
これに代えて、侵襲的FFR測定が、侵襲的プルバックFFRによって実行される場合、パラメータ
【数86】
は、各病変の侵襲的に測定された圧力値を使用して、各病変に対して患者ごとに決定させることが出来る。これは、病変の遠位および/または近位の侵襲的に測定された圧力またはFFRとすることが出来る。最初に、疾患血管の最大速度(図22の2212)を決定することが出来る。これは、大動脈圧
【数87】
から病変による圧力降下
【数88】
を減算することにより、
【数89】
を計算することによって行うことが出来る。
【数90】
と線2216の交点は、最大速度(2212)を示す。連続病変の場合、式6は次のように変形させることが出来る:
【数91】
ここで、
【数92】
は病変の総数、
【数93】
は侵襲的測定から既知であり、定数
【数94】
は2212に等しく、そして
【数95】
は式7に従って各病変に対して計算される。全ての病変に対して未知の
【数96】
値が残っている場合、これらの
【数97】
個の未知の
【数98】
値は、各病変の遠位および/または近位の
【数99】
個の侵襲的測定を使用して、決定させることが出来、そして治療予測に対しこの実施形態の方法をより正確にする。このように決定されたより多くの患者固有のパラメータは、ステップ3002から得られる予測治療直径曲線を使用して、ステップ3003によって残りの病変の重要性を決定するために、使用することができる。この実施形態の利点は、1つまたは複数の病変の治療後の残りの病変の重要性を評価するために追加の侵襲的測定を必要としないことであり、これにより、アデノシンによるコストと患者の不快感が軽減される。
【0156】
これに代えて、連続病変の間隔が小さい場合、文献(非特許文献18)ではクロストークとも呼ばれている、狭窄間の血行動態相互作用が、圧力低下とFFR値に影響を与える可能性がある。侵襲的FFRを使用して、可能な相互作用の存在を特定し、そしてクロストークを計算に組み込むための追加のパラメータを決定することが出来る。侵襲的FFRプルバックが仮想プルバックと異なる場合、クロストークの存在が示されているかもしれず、そして病変相互作用項を式6に追加することが出来る。病変相互作用項は、例えば、病変の圧力降下を増減させるパラメータまたは項とすることが出来る。
【0157】
患者固有の血行動態パラメータの計算は、画像情報を使用して血液フロー/血液速度に関する情報を推定することによって拡張/改善させることが出来る。特許文献4に記載されている血液速度/血液フローを決定する方法は、「(者固有の血行動態パラメータの計算)(段落0114)のセクションで決定された患者固有の最大冠拡張時血液速度(図13Bの1312)を改善するために、そのまま使用することが出来る。例えば、「(患者固有の血行動態パラメータの計算)」のセクションで決定された最大冠拡張時血液速度(図13Bの1312)は、画像情報を使用して決定された血液速度により置き換える、または両方の方法の加重平均速度は、計算させ、さらなる計算に使用させることが出来る。
【0158】
式5は、微小血管系が健康であることを前提としている。しかしながら、微小血管疾患や心筋の機能低下の場合、血液に対する抵抗力は高まる。心筋微小血管系の状態は、プロセッサに心筋濃染計算を実行させることによって決定させ、そして式5に組み込ませることが出来る。心筋濃染は、例えば、2次元血管造影画像を使用して計算される。血管造影画像の実行のフレームでは、対象領域は、予想される梗塞領域の遠位に規定される。画像実行におけるフレーム間の動き補正は、例えば、相関技術を使用して計算される。対象領域は、計算されたモーションオフセットに従ってフレームごとにシフトされる。背景マスクは、例えば、メディアンフィルタによって実行される画像の全てのフレームにより構成される。画像マスクごとの、対象領域の平均ピクセル強度(例、5 x 5ピクセル)は、画像実行内の全ての画像に対し、元の画像の画像強度から計算された背景マスクを減算することによって計算される。このようにして、小さなサイズの構造の画像強度のみが、経時的に考慮される。このようにして、心筋の濃染は、対象領域内で経時的に定量化させることが出来る。心筋濃染計算は、例えば、非特許文献19によって教示されているように、当技術分野では公知である。これは、心臓の1つまたは複数の大きなセクションまたは小さなセクションに対して実行させることが出来る。
【0159】
計算は2次元の血管造影画像で実行されるので、ユーザが調査したい心臓のセクションには、遠近短縮と重ね合わせの問題がある。しかしながら、心筋の状態を正確に決定するために、これらの影響は最小化することが好ましい。
【0160】
これは、例えば、3D濃染測定を実行することによって実行することが出来る。つまり、これは、3D再構成を構築するために使用される投影または他の2次元投影の両方で濃染測定を実行することによって、行われる。各画像で、ユーザは、測定が実行されるべき領域を示す。画像の交差領域は、例えば、回転、アンギュレーション、倍率のような、両方の透視画像に属するジオメトリ情報を使用して、計算することが出来る。この情報を使用して、例えば、心筋の後側または前側を区別することができる。
【0161】
オプションとして、侵襲的FFR測定が実行され、そして侵襲的に測定されたFFRと血管FFRとの間に不一致がある場合、これは、微小血管疾患の兆候となる。微小血管疾患の兆候がある場合、心筋の濃染計算を実行させ、そして微小血管疾患の存在下でのより多くの洞察を提供させることが出来る。
【0162】
操作は、スタンドアロンシステムのプロセッサユニットによって実行させる、または、例えば、X線透視システムまたは他の任意の画像化システムに直接組み込んで、2次元血管造影画像シーケンスを取得することにより実行させることが出来る。図17は、X線シネ透視システムの高レベルのブロック図の例を示す。このブロック図には、実施形態をこのようなシステムにどのように統合させるかの例が示されている。
【0163】
(さまざまな機能ブロックによって規定される)システムの部分は、専用のハードウェア、アナログおよび/またはデジタル回路、および/またはメモリに格納されたプログラム命令を操作する1つまたは複数のプロセッサにより、実装させることができる。
【0164】
図17のX線システムは、X線ビーム1703を生成する高電圧発生器1702を備えたX線管1701を含む。
【0165】
高電圧発生器1702は、X線管1701を制御し、そして電力を供給する。高電圧発生器1702は、X線管1701の陰極と回転陽極との間の真空ギャップに高電圧を印加する。
【0166】
X線管1701に印加される電圧により、X線管1701の陰極から陽極へ電子移動が起こり、この結果、制動放射とも呼ばれるX線光子生成効果が発生する。生成された光子は、画像検出器1706に向けられたX線ビーム1703を形成する。
【0167】
X線ビーム1703は、とりわけ、X線管1701に印加される電圧および電流によって決定される最大値までの範囲にあるエネルギのスペクトルを有する光子を備える。
【0168】
次に、X線ビーム1703は、調整可能なテーブル1705上の患者1704を通過する。X線ビーム1703のX線光子は、様々な程度で患者の組織を透過する。患者1704の異なる構造は、放射線の異なる部分を吸収し、ビーム強度を変調する。
【0169】
患者1704から発っせられ、変調されたX線ビーム1703’は、X線管の反対側に配置された画像検出器1706によって検出される。この画像検出器1706は、間接または直接検出システムの何れかとすることが出来る。
【0170】
間接検出システムの場合、画像検出器1706は、X線出口ビーム1703‘を、増幅された可視光画像に変換する真空管(X線画像増強器)を備える。次に、この増幅された可視光画像は、画像の表示および記録のために、デジタルビデオカメラのような可視光画像受像器に送信される。これにより、デジタル画像信号が生成される。
【0171】
直接検出システムの場合、画像検出器1706は、フラットパネル検出器を備える。フラットパネル検出器は、X線出口ビーム1703‘をデジタル画像信号に直接変換する。
【0172】
画像検出器1706から生じるデジタル画像信号は、デジタル画像処理ユニット1707を通過する。デジタル画像処理ユニット1707は、1706からのデジタル画像信号を、例えば、DICOMのような標準画像ファイル形式で補正された(例えば、反転されたおよび/またはコントラスト強調された)X線画像に変換する。次で、補正されたX線画像は、ハードドライブ1708に保存させることが出来る。
【0173】
さらに、図17のX線システムは、Cアーム1709を備える。Cアームは、患者1704と調節可能なテーブル1705を、X線管1701および画像検出器1706の間にとの間に位置するように、保持する。Cアームは、所望の位置に移動(回転およびアンギュレート)させ、Cアーム制御1710を使用して、制御された方法で特定の投影を取得させることを可能にする。Cアーム制御は、特定の投影でのX線記録の目的の位置にCアームを調整するための手動または自動入力を可能にする。
【0174】
図17のX線システムは、シングルプレーンまたはバイプレーン画像化システムの何れかとすることが出来る。バイプレーン画像化システムの場合、それぞれが、X線管1701、画像検出器1706、およびCアーム制御1710から構成される複数のCアーム1709が、存在する。
【0175】
さらに、調整可能なテーブル1705は、テーブル制御1711を使用して移動させることが出来る。調整可能なテーブル1705は、x、yおよびz軸に沿って移動させそして特定の点の周りに傾けることができる。
【0176】
さらに、X線システムには、測定ユニット1713が存在する。この測定ユニットは、計算のための入力である、患者に関する情報(例えば、大動脈圧、バイオマーカ、および/または高さ、身長等に関する情報)を含む。
【0177】
X線システムには、汎用ユニット1712も存在する。この汎用ユニット1712は、Cアーム制御1710、テーブル制御1711、デジタル画像処理ユニット1707、および測定ユニット1713と対話するために使用することができる。
【0178】
一実施形態は、以下のように、図17のX線システムによって実施される。臨床医または他のユーザは、Cアーム制御1710を使用して、Cアーム1709を患者1704に対して所望の位置に移動させることによって、患者1704の少なくとも2つのX線血管造影画像シーケンスを取得する。患者1704は、テーブルコントロール1711を使用して、ユーザが既に特定の位置に移動させた、調整可能なテーブル1705に横たわっている。
【0179】
次に、X線画像シーケンスは、上述したように、高電圧発生器1702、X線管1701、画像検出器1706、およびデジタル画像処理ユニット1707を使用して、生成される。次に、これらの画像は、ハードドライブ1708に格納される。汎用処理ユニット1712は、これらのX線画像シーケンスを使用して、3D再構成を生成し、ジオメトリ情報を決定し、病変の位置を決定し、そして患者固有のデータに基づいて血行動態結果を計算する。汎用処理ユニット1712は、測定ユニット1713の情報を使用して、血行動態結果を決定する。
【0180】
定量的フロー分析のための方法と装置の幾つかの実施態様が、ここまで、記載されかつ図示されてきた。ここまで、特定の実施形態が記載されて来たが、技術分野が許す限り本出願は、広い範囲にあり、そして明細書がそのように読まれることが意図されているので、本出願がそれに限定されることは意図されていない。例えば、データ処理操作は、デジタルストレージに格納されている画像に対して、オフラインで処理させることが出来る。これは、通常、DICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)のような汎用言語(ベンダに依存しない)により処理される。このストレージは、ハードディスクまたはPACS(Picture Archiving and Communications system)サーバまたはVNA(Vendor Neutral Archive)または医療画像技術に使用される他の画像保存および通信システムとすることが出来る。従って、当業者は、特許請求の範囲におけるその精神および範囲から逸脱することなく、この提示された発明にさらに他の修正を加えることができることを理解するであろう。
【0181】
本明細書に記載の実施態様は、上述したように、様々なデータストレージならびに他のメモリおよびストレージ媒体を備えることができる。これらは、1つ以上のコンピュータに対してローカルな(および/またはそこに常駐する)ストレージ媒体上、これに代えてネットワークを介して任意のまたは全てのコンピュータから離れたストレージ媒体上のような、さまざまな場所に存在することが出来る。特定の実施態様のセットでは、情報は、当業者に良く知られているストレージエリアネットワーク(「SAN」)に存在してもよい。同様に、コンピュータ、サーバまたは他のネットワークデバイスに起因する機能を実行するために必要なファイルは、必要に応じてローカルおよび/またはリモートに格納することができる。システムがコンピュータ化デバイスを含む場合、各デバイスは、バスを介して電気的に結合することができるハードウェア要素を含むことができ、この要素は、例えば、少なくとも1つの中央処理ユニット(「CPU」または「プロセッサ」)、および少なくとも1つの入力デバイス(例えば、マウス、キーボード、コントローラ、タッチスクリーンまたはキーパッド)および少なくとも1つの出力デバイス(例えば、ディスプレイデバイス、プリンタまたはスピーカ)を含む。このようなシステムは、ディスクドライブ、光ストレージ、およびランダムアクセスメモリ(「RAM」)または読み出し専用メモリ(「ROM」)のような固体ストレージ、およびリムーバブルメディアデバイス、メモリカード、フラッシュカードのような1つ以上のストレージも含むことができる。
【0182】
このようなデバイスは、また、コンピュータ可読ストレージ媒体リーダ、通信デバイス(例、モデム、ネットワークカード(無線または有線)、赤外線通信デバイス等)、および上述した作業メモリを含むことが出来る。コンピュータ可読ストレージ媒体リーダは、リモート、ローカル、固定および/または取り外し可能なストレージを表すコンピュータ可読ストレージ媒体、ならびにコンピュータ可読情報の保存、送信、取得を一時的におよび/またはより恒久的に格納するためのストレージ媒体に接続することが出来る、またはこれらを受入れるように構成することが出来る。システムおよび様々なデバイスは、また、典型的には、オペレーティングシステムおよびクライアントアプリケーションまたはウェブブラウザのようなアプリケーションプログラムを含む、少なくとも1つのワーキングメモリデバイス内に配置された、多数のソフトウェアアプリケーション、モジュール、サービスまたは他の要素を含むであろう。当然のことながら、代替の実施態様は、上述したものに対する多数の変形例を有することが出来る。例えば、カスタマイズされたハードウェアを、使用してもよく、および/または特定の要素を、ハードウェア、ソフトウェア(アプレットのような携帯用ソフトウェアを含む)またはその両方に実装させてもよい。さらに、ネットワーク入力/出力デバイスのような他のコンピューティングデバイスへの接続も使用することができる。
【0183】
様々な実施態様は、さらに、コンピュータ可読媒体上で前述の説明に従って実施された命令および/またはデータを、受信、送信、または格納することができる。コード、またはコードの一部を含むためのストレージ媒体およびコンピュータ可読媒体は、コンピュータ可読命令、データ構造、プログラムモジュール、または他のデータのような、情報の格納および/または伝送のための任意の方法または技術で実施される揮発性および不揮発性、取り外し可能、およびこれらに限定されない、固定媒体、ストレージ媒体および通信媒体を含む、当技術分野において既知のまたは使用される任意の適切な媒体を含むことが出来る。このような媒体には、RAM、ROM、電気的消去可能プログラマブル読み取り専用メモリ(「EEPROM」)、フラッシュメモリまたは他のメモリ技術、コンパクトディスク読み取り専用メモリ(「CD-ROM」)、デジタル多用途ディスク(DVD)または他の光学ストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージまたは他の磁気ストレージデバイスまたは所望の情報を格納するために使用することができかつシステムデバイスによってアクセスすることが出来る他の任意の媒体が含まれる。本明細書に提供される開示および教示に基づいて、当業者は、様々な実施態様を実施するための他の方法および/または方法を理解するであろう。
【0184】
ここで開示された実施形態は、シングルまたはバイプレーンX線画像化モダリティに関して説明されているが、これらの実施形態内の変形は、例えば、回転血管造影法、コンピュータ断層撮影、磁気共鳴画像法などに基づく3D再構成にも適用可能である。
【0185】
したがって、本明細書および図面は、限定的な意味ではなく例示的なものと見なすべきである。しかしながら、特許請求の範囲に記載されている本発明のより広い精神および範囲から逸脱することなく様々な修正および変更をおこなうことが出来ることは明らかであろう。
【0186】
本開示の精神の範囲内には、他の変形例がある。したがって、開示された技術は、様々な修正および代替の構成を受け入れる余地があり、それらの特定の例示された実施態様は、図面に示されていて、そして上述のように詳細に説明されてきた。しかしながら、本発明を、開示された特定の形態に限定する意図はない。それどころか、その意図は、特許請求の範囲に規定されているように、本発明の精神および範囲内にある全ての修正形態、代替構造、および均等物を網羅することである。
【0187】
開示された実施態様を説明する文脈における(特に以下の特許請求の範囲の文脈における)用語「a」および「an」および「the」および類似の冠詞の使用は、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数形および複数形の両方を網羅すると解釈されるべきである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、および「含有する(containing)」は、特に断りがない限り、制限しない用語として解釈されるべきである(すなわち、「・・を含むがこれらに限定されない」ことを意味する)。「接続された」という用語は、修正されずに物理的な接続を指す場合、たとえ介在するものがあっても、その一部または全部がその中に含まれる、つまり、共に取り付けられているまたは共に結合されていると解釈される。本明細書中の値の範囲の列挙は、本明細書中に別段の指示がない限り、単にその範囲内に含まれる各個別の値を個々に指す簡潔な方法として機能することを意図している。「セット」(例えば、「項目のセット」)または「サブセット」という用語の使用は、別段の記載がない限り、または文脈と矛盾しない限り、1つ以上の構成要素を含む空でない集合として解釈されるべきである。
【0188】
本明細書に記載のプロセスの操作は、本明細書に別段の指示がない限りまたは文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行することが出来る。本明細書に記載のプロセス(またはその変形例および/または組み合わせ)は、実行可能命令により構成されている1つ以上のコンピュータシステムの制御下で実行させることができ、かつハードウェアまたはそれらの組み合わせによって、1つ以上のプロセッサ上で集合的に実行するコード(例えば、実行可能命令、1つ以上のコンピュータプログラムまたは1つまたは複数の本出願)として実装させることができる。コードは、例えば、1つ以上のプロセッサによって実行可能な複数の命令を含むコンピュータプログラムの形で、コンピュータ可読ストレージ媒体に格納させることができる。コンピュータ可読ストレージ媒体は、非一時的としてもよい。
【0189】
本発明を実施するために本発明者らが知っている最良の形態を含め、本開示の好ましい実施態様が、本明細書に記載されている。これらの好ましい実施態様の変形例は、前述の説明を読めば当業者には明らかになるであろう。本発明者らは、当業者がそのような変形形態を適切に使用することを予想しており、かつ本発明者らは、本明細書に具体的に記載されたものとは別の方法で本開示の実施態様が実施されることを意図する。したがって、本開示の範囲は、適用法によって許容されるように、本明細書に添付の特許請求の範囲に記載の主題の全ての修正形態および均等物を含む。さらに、その全ての可能な変形形態における上記の要素の任意の組み合わせは、本明細書で別段に示されない限り、または文脈によって明らかに否定されない限り、本開示の範囲に含まれる。
【0190】
以下で引用されているまたは本明細書の他の場所で引用されている刊行物、特許出願および特許を含む全ての参考文献は、あたかも、各参考文献が個別におよび具体的に参照により組み込まれることが示され、そしてその全体が本明細書に記載されいると同程度に、参照により本明細書に組み込まれている。
【0191】
特許文献5(二次元血管造影投影の選択のためのユーザーガイダンスのための方法および装置)
【0192】
特許文献3(人体構造の物理的パラメータを決定する方法)
【0193】
特許文献4(X線血管造影画像の血液速度を決定するための方法と装置)
【0194】
非特許文献20
【0195】
非特許文献21
【0196】
非特許文献22
【0197】
非特許文献23
【0198】
非特許文献24
【0199】
非特許文献13
【0200】
非特許文献25
【0201】
非特許文献26
【0202】
非特許文献27
【0203】
非特許文献28
【0204】
非特許文献15
【0205】
非特許文献16
【0206】
非特許文献17
【0207】
非特許文献18
【0208】
非特許文献19
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図19
図20
図21A
図21B
図22
図23
図24
図25
図26A
図26B
図27
図28A
図28B
図28C
図28D
図29A
図29B
図29C
図30