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特許7314201長期使用特性が改善されたポリアミド材料の製造方法
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  • 特許-長期使用特性が改善されたポリアミド材料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】長期使用特性が改善されたポリアミド材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20230718BHJP
   C08K 5/51 20060101ALI20230718BHJP
   C08K 3/014 20180101ALI20230718BHJP
   C08K 3/105 20180101ALI20230718BHJP
   C08K 3/16 20060101ALI20230718BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230718BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20230718BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20230718BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K5/51
C08K3/014
C08K3/105
C08K3/16
C08K3/22
C08K3/28
C08K5/09
C08J3/20 CFG
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2021092453
(22)【出願日】2021-06-01
(62)【分割の表示】P 2019541855の分割
【原出願日】2017-10-16
(65)【公開番号】P2021152168
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】16002227.3
(32)【優先日】2016-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519139860
【氏名又は名称】エル. ブルッゲマン ゲーエムベーハー ウント コー. カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】ベルグマン,クラウス
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-518142(JP,A)
【文献】特表2002-527558(JP,A)
【文献】特公昭49-029297(JP,B1)
【文献】特公昭45-023033(JP,B1)
【文献】特開2010-202724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドを、銅錯体とハロゲン含有脂肪族ホスフェートと混合するポリアミドの安定化方法であって、
ポリアミド中の銅の量は、1~100ppmであり、
ポリアミド中のハロゲン含有脂肪族ホスフェートの量は、10~1500ppmであり、
Cuとハロゲンの量の比(Cu:ハロゲン)が、1:1~1:15(モル比)であることを特徴とする、125℃以下の温度におけるポリアミドの安定化方法。
【請求項2】
125℃以下の温度でポリアミドを安定化するための、銅錯体とハロゲン含有脂肪族ホスフェートとを含む組成物の使用であって、
ポリアミド中の銅の量は、1~100ppmであり、
ポリアミド中のハロゲン含有脂肪族ホスフェートの量は、10~1500ppmであり、
Cuとハロゲンのモル比(Cu:ハロゲン)が、1:1~1:15であることを特徴とする、銅錯体とハロゲン含有脂肪族ホスフェートとを含む組成物の使用。
【請求項3】
ポリアミドを、銅化合物とハロゲン含有脂肪族ホスフェートと混合するポリアミドの安定化方法であって、
前記銅化合物が、銅(I)塩または銅(II)塩であり、
ポリアミド中の銅の量は、1~100ppmであり、
ポリアミド中のハロゲン含有脂肪族ホスフェートの量は、10~1500ppmであり、
Cuとハロゲンのモル比(Cu:ハロゲン)が、1:1~1:15であることを特徴とする、125℃以下の温度におけるポリアミドの安定化方法。
【請求項4】
125℃以下の温度でポリアミドを安定化するための、銅化合物とハロゲン含有脂肪族ホスフェートとを含む組成物の使用であって、
前記銅化合物が、銅(I)塩または銅(II)塩であり、
ポリアミド中の銅の量は、1~100ppmであり、
ポリアミド中のハロゲン含有脂肪族ホスフェートの量は、10~1500ppmであり、
Cuとハロゲンのモル比(Cu:ハロゲン)が、1:1~1:15であることを特徴とする、銅化合物とハロゲン含有脂肪族ホスフェートとを含む組成物の使用。
【請求項5】
銅(I)塩が、CuI、CuBr、CuCl、CuCN、Cu2O、またはこれらの混合物から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
銅(I)塩が、CuI、CuBr、CuCl、CuCN、Cu2O、またはこれらの混合物から選択される、請求項4に記載の使用。
【請求項7】
銅(II)塩が、酢酸銅、ステアリン酸銅、硫酸銅、プロピオン酸銅、酪酸銅、乳酸銅、安息香酸銅、硝酸銅、CuO、CuCl2、またはこれらの混合物から選択される、請求項3又は5に記載の方法。
【請求項8】
銅(II)塩が、酢酸銅、ステアリン酸銅、硫酸銅、プロピオン酸銅、酪酸銅、乳酸銅、安息香酸銅、硝酸銅、CuO、CuCl2、またはこれらの混合物から選択される、請求項4又は6に記載の使用。
【請求項9】
銅錯体が、銅アセチルアセトネート、シュウ酸銅、銅EDTA、[Cu(PPh33X]、[Cu22(PPH33]、[Cu(PPh3)X]、[Cu(PPh32X]、[CuX(PPh3)(bipy)]、[CuX(PPh3)(biqui)](式中、XはCl、Br、I、CN、SCN、または2-メルカプトベンズイミダゾール)から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
銅錯体が、銅アセチルアセトネート、シュウ酸銅、銅EDTA、[Cu(PPh33X]、[Cu22(PPH33]、[Cu(PPh3)X]、[Cu(PPh32X]、[CuX(PPh3)(bipy)]、[CuX(PPh3)(biqui)](式中、XはCl、Br、I、CN、SCN、または2-メルカプトベンズイミダゾール)から選択される、請求項2に記載の使用。
【請求項11】
ハロゲン含有脂肪族ホスフェートがトリス(ハロヒドロカルビル)ホスフェートである、請求項1、3、5、7、及び9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ハロゲン含有脂肪族ホスフェートがトリス(ハロヒドロカルビル)ホスフェートである、請求項2、4、6、8、及び10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
トリス(ハロヒドロカルビル)ホスフェートが、トリス(3-ブロモ-2,2-ビス(ブロモメチル)プロピル)ホスフェート、トリス(ジブロモネオペンチル)ホスフェート、トリス(トリクロロネオペンチル)ホスフェート、トリス(ブロモジクロロネオペンチル)ホスフェート、トリス(クロルジブロモネオペンチル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、またはこれらの混合物から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
トリス(ハロヒドロカルビル)ホスフェートが、トリス(3-ブロモ-2,2-ビス(ブロモメチル)プロピル)ホスフェート、トリス(ジブロモネオペンチル)ホスフェート、トリス(トリクロロネオペンチル)ホスフェート、トリス(ブロモジクロロネオペンチル)ホスフェート、トリス(クロルジブロモネオペンチル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、またはこれらの混合物から選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
少なくとも1種のハロゲン化芳香族化合物および/または少なくとも1種の2個以上のヒドロキシル基を有するポリオールをさらに含む、請求項1、3、5、7、9、11、及び13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
2~12個のヒドロキシル基および64~2000g/molの分子量を有するポリオールをさらに含む、請求項1、3、5、7、9、11、及び13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、およびトリペンタエリスリトール、をさらに含む、請求項1、3、5、7、9、11、及び13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
ジペンタエリスリトールをさらに含む、請求項1、3、5、7、9、11、及び13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1種のハロゲン化芳香族化合物および/または少なくとも1種の2個以上のヒドロキシル基を有するポリオールをさらに含む、請求項2、4、6、8、10、12、及び14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
2~12個のヒドロキシル基および64~2000g/molの分子量を有するポリオールをさらに含む、請求項2、4、6、8、10、12、及び14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、およびトリペンタエリスリトールをさらに含む、請求項2、4、6、8、10、12、及び14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
ジペンタエリスリトールをさらに含む、請求項2、4、6、8、10、12、及び14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
ハロゲン化芳香族化合物が、臭素化ポリスチレン、ポリ(ペンタブロモベンジル)アクリレート、トリス(2,4-ジブロモフェニル)ホスフェート、トリス(2,4-ジクロロフェニル)ホスフェート、トリス(2,4,6-トリブロモフェニル)ホスフェート、またはこれらの混合物から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
ハロゲン化芳香族化合物が、臭素化ポリスチレン、ポリ(ペンタブロモベンジル)アクリレート、トリス(2,4-ジブロモフェニル)ホスフェート、トリス(2,4-ジクロロフェニル)ホスフェート、トリス(2,4,6-トリブロモフェニル)ホスフェート、またはこれらの混合物から選択される、請求項19に記載の使用。
【請求項25】
ポリアミドが、強化または非強化のPA6、PA6.6、PA4.6、PA11、PA12、またはこれらの混合物から選択される、請求項1、3、5、7、9、11、13、15、16、17、18、及び23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
ポリアミドが、強化または非強化のPA6、PA6.6、PA4.6、PA11、PA12、またはこれらの混合物から選択される、請求項2、4、6、8、10、12、14、19、20、21、22、及び24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
ポリアミドを銅錯体およびハロゲン含有脂肪族ホスフェートと混合することを特徴とする、125℃以下または180℃以上の温度範囲におけるポリアミドの安定化方法、または、
ポリアミドを、銅(I)塩または銅(II)塩とハロゲン含有脂肪族ホスフェートと混合するポリアミドの安定化方法であって、
ポリアミド中の銅の量は、1~100ppmであり、
ポリアミド中のハロゲン含有脂肪族ホスフェートの量は、10~1500ppmであり、
Cuとハロゲンのモル比(Cu:ハロゲン)が、1:1~1:15であることを特徴とする、125℃以下または180℃以上の温度範囲におけるポリアミドの安定化方法。
【請求項28】
125℃以下または180℃以上の温度範囲でポリアミドを安定化するための、銅錯体およびハロゲン含有脂肪族ホスフェートを含む組成物の使用、または、
125℃以下または180℃以上の温度範囲でポリアミドを安定化するための、銅(I)塩または銅(II)塩とハロゲン含有脂肪族ホスフェートを含む組成物の使用であって、
ポリアミド中の銅の量は、1~100ppmであり、
ポリアミド中のハロゲン含有脂肪族ホスフェートの量は、10~1500ppmであり、
Cuとハロゲンのモル比(Cu:ハロゲン)が、1:1~1:15であることを特徴とする、銅錯体およびハロゲン含有脂肪族ホスフェートを含む組成物の使用。
【請求項29】
銅化合物、ハロゲン含有脂肪族ホスフェートおよび/またはポリアミドが請求項5、7、9、11、13、15、16、17、18、23、及び25のいずれか一項に記載される、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
銅化合物、ハロゲン含有脂肪族ホスフェートおよび/またはポリアミドが請求項6、8、10、12、14、19、20、21、22、24、及び26のいずれか一項に記載される、請求項28に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドの長期安定化方法およびポリアミドの長期安定化のための特定の添加剤組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中の酸素の存在下では、70℃を超える温度により、またはポリアミド表面における高エネルギー照射により、熱酸化反応または光酸化反応が引き起こされる。そして、その表面は黄変し、次第にくすんでいき、割れが生じる。これらの表面変化は材料の脆化を引きおこし、成形部品の機械的性質の低下を招く。適切な安定剤を添加することによって、ポリアミドの酸化的損傷を遅らせることができ、その結果、ポリアミド部の脆化までの時間を遅らせることができる。
【0003】
異なる温度範囲に対して、通常、安定剤は区別される。典型的なポリアミド用の安定剤は、銅系の安定剤および立体障害フェノール系の安定剤である。立体障害フェノールは、主に二次酸化防止剤、特に亜リン酸塩と組み合わせて使用される。立体障害フェノールと亜リン酸塩との混合物は、以下ではフェノール系安定剤またはフェノール系酸化防止剤と称される。銅系安定剤は、典型的には少なくとも1種の銅化合物および相乗剤として知られる少なくとも1種の他のハロゲン含有成分を含む。銅化合物とハロゲン含有相乗剤との組み合わせは、以下では銅安定剤と称される。
【0004】
これまで、銅安定剤は、150℃を超える範囲の高い連続運転温度が用途において必要とされる場合にほぼ限って、実際に使用されてきた。従来の銅安定剤(ハロゲン塩と組み合わせた銅塩)の使用により典型的に生じる変色と低耐トラッキング性の課題に加えて、現在の見方によれば、この主な理由は、150℃未満の温度範囲における銅系熱安定剤は、機械的特性の損失に対する安定化に関して、フェノール系酸化防止剤より劣っているということにある。
【0005】
従って、フェノール系酸化防止剤は、主に150℃未満の温度範囲が要求される際に使用されている。非常に広い温度範囲にわたってポリアミド材料を安定化する必要のある用途において、銅安定剤(高温安定化用)はこれまでフェノール系酸化防止剤と実際に組み合わせて用いられてきた。これはコストの高安定化に繋がり、このように安定化されたポリアミド材料は経済的に魅力が少ない。
【0006】
150℃以上では銅安定剤が非常に効果的であるが、これは、150℃未満ではフェノール系酸化防止剤は銅安定剤よりもより効果的であるということを、当業者と使用者に教示するプラスチック添加剤の最も重要な参考書から明らかとなっている。その例は、
・"Plastics Additives Handbook" by Hans Zweifel, Ralph D. Maier and Michael Schiller (6th Edition 2009) pp. 80-84.
・"Resistance and Stability of Polymers" by Gottfried Ehrenstein and Sonja Pongratz, Carl Hanser Verlag 01.10.2013, Chapter 3.7.8, Page 308 - 313.
・"Iodine Chemistry and Application"s, Tatsuo Kaiki, (1st Edition), Kapitel 31, S. 551f.
・Lecture by J.R. Pauquet and A.G. Oertli (Ciba) held at the World Congress POLYAMIDE 2000, Zurich, Switzerland, 14.-16.03.2000.
である。
オンラインプラットフォーム "Specialchem"もこの確信を明らかにしている。
http://polymeradditives.specialchem.com/selection-guide/light-stabilizers-and-antioxidants-for-polyamides/heatstabilizers-for-aliphatic-polyamides/
【0007】
刊行物「Polyamide composition stabilized with copper salt and aliphatic halogenated phosphate」DE 198476216では、少なくとも1種の銅塩および少なくとも1種のハロゲン含有脂肪族ホスフェートを安定剤として含むことを特徴とするポリアミド組成物が、150℃を超える温度範囲での連続使用温度の上昇が改善され、射出成形直後およびコンディショニング直後に、耐トラッキング性およびより低変色性の改善が達成され得ることが開示されている。
DE19847626A1は、銅塩および芳香族ハロゲン化合物で安定化されたポリアミド組成物を明らかにしている。この教示はポリアミドの安定化に着目し、同時に連続使用温度を上昇させている。熱エージング試験は150℃および165℃で示されている。150℃における試験のデータは、そこで試験された従来の塩様ハロゲン化合物を含む安定剤における比較データと測定精度の点で相違しない。この教示の目的によれば、安定化効果の有意な改善はより高い温度でのみ達成され、高い連続使用温度(165℃以上)における安定化が達成される。
【0008】
特許明細書EP1121388B1「Polyamide compositions stabilized with copper complexes and organic halogen compounds」では、安定化のために少なくとも1種の銅と少なくとも1種の有機ハロゲン化合物との錯体を含むポリアミド組成物が、射出成形直後およびコンディショニング直後に、耐トラッキング性およびより低変色性の改善が達成されたことが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これにより、プラスチック系材料の応用分野、例えば自動車産業、は増え続けているため、より良好な安定化成分(特にポリアミド、連続使用温度が150℃未満の範囲)が求められている。典型的な連続使用温度、例えば電気および自動車産業においてしばしば必要とされる温度は、その最高温度が約120℃である。この温度範囲では、フェノール/亜リン酸塩混合物が安定剤として典型的に使用されるが、たとえその使用量が増加しても、これらは最大時間範囲を超えて安定化を可能にしない。
【0010】
従って、本発明は、かなり低いないし中程度の連続使用温度で所望の安定化を達成することができる方法、すなわち特に広範囲にわたる熱(150℃を超え180℃までの高温でも)に対して改善された長期安定性を示すポリアミド組成物を可能にすること、及び同時に可能な耐用年数の大幅な延長に関し、
a)引張強度および衝撃強度の維持(脆化防止)の観点、
b)破断点伸びの非常に良好な保持、および同時に引張強度および衝撃強度の良好な保持の観点
の好ましくは両方の観点から、150℃未満の温度で特に効率的に安定化されることを示すことを課題とする。
[発明の簡単な説明]
【0011】
課題は、請求項1および2の主題によって解決される。好ましい構成は、従属請求項ならびに以下の説明に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、120℃の蓄熱下における種々の実施例および比較例についての破断点伸びの半減期を示す。
【0013】
本発明は、驚くべきことに、今日までの技術水準における高温安定化についてもっぱら知られていた既知の成分を使用することにより、ポリアミドの所望の安定化を可能にした。それにもかかわらず、特に、より低い連続使用温度でポリアミドを安定化させるために、これまでに使用された化合物と比較して、150℃以下、例えば120℃の連続使用温度で著しく改善された安定化を達成することができる。本発明において使用される安定剤はポリアミド中に十分に分散することができるので、取り扱いが容易である。本発明による安定剤は慣用の方法によりポリアミド中に導入することができ、そして分散することができる。さらに、安定剤成分は、例えばワックスまたはポリマーなどの一般的な材料のマトリックスと配合することによって、その使用のために容易に配合することができる。したがって、本発明は以下の利点の実現を可能にする。
1.150℃未満の温度における長期暴露に対する、非強化および強化ポリアミドの安定化を改善する。劣化を可能な限り長く遅らせ、したがって使用特性を低下させ、特に引張強度および衝撃強度の機械的特性を可能な限り長く維持する。
2.破断点伸びは一般に、熱エージングと共に特に急速にそして著しく低下する。ポリアミド材料の実用化のための特に重要な利点は、フェノール系酸化防止剤と比較して、温度負荷下(150℃未満の温度で)の長期貯蔵の間の破断点伸びの維持を有意に延長するという、本発明に基づく可能性である。ポリマーマトリックス(強化ポリアミドにおいても)の高い破断点伸びは、材料全体の適用特性における有意な改善およびエネルギー吸収能力の増加をもたらす。
3.本発明に準じて使用される安定剤は、使用量が増加すると安定化特性の拡張を可能にするので、使用される安定剤の量は所望の安定化時間(製品寿命)に適合させることができ、この効果は特にフェノール系安定剤ではそれほど顕著ではない効果である。これらの安定剤は、たとえ使用量が著しく増加しても、安定化効果の非常に迅速な拡大を全く示さない。反対に、高投与量(例えば、1%を超える範囲)では、安定化効果が低下することさえあり得る。図1は、異なる安定剤を用いたポリアミド6.6の破断点伸び(120℃で測定)の半減期を示す。試料R01は安定化されていないポリアミドであり、試料R02およびR09はフェノール系安定剤で安定化されたポリアミドであり(試料は全て、同一のポリアミド6.6を使用した)、試料R09に使用されたフェノール系酸化防止剤の量はR02に比べて2倍である。しかしながら、これらは破断点伸びの半減期にほとんど影響を及ぼさない。試料R07は本発明の安定化試料である(安定剤の量は試料R02中の量に等しい)。ここで、フェノール系安定剤と比較すると、達成されるべき半減期(すなわち破断点伸びの元の値が半分になるまでに経過する時間)の劇的かつ驚くべき増加はすでに明らかである。サンプルR014では、(R07と比較して)使用量が2倍になった、これは、半減期の非常に明確なさらなる延長を示している。この効果はまた、本発明において安定化された試料R06およびR13(R06と比較して添加剤の量が2倍)において明らかに確認できる。本発明の方法のこの計り知れない安定化効率はまた、少量の安定剤を使用して、フェノール系安定剤で達成することができる連続使用時間の水準を保証することに利用することができる。これは、コスト面での利点、ラベリングからの自由およびハロゲン含有量の低減の可能性に関する利点をもたらし、その結果、困難な電気的および電子的用途においても使用が容易になる。
4.安定性が改善されているため、これまで必要とされていた材料の厚さ(望ましい冗長性または対応する安全係数による)を減らすことができるので(本発明により安定化されたポリアミドは、より薄い材料厚でもより長い荷重に耐えることができるので)、部品をより薄くすることができる。
5.本発明によれば、以下の利点も実現することができる。
・劣化の長期遅延およびそれに伴う使用特性の低下、特に引張強度、破断点伸びおよび衝撃強度などの機械的特性の長期維持。
・材料の品質を損なうことなく、(本発明にて使用される銅成分と相乗剤との組み合わせの有効性は高温では知られているため、)最高200℃の温度ピーク(例えば、かなり低い連続使用温度に耐えなければならない材料の場合、ライフサイクル中に温度ピークが発生する可能性がある)でも、非常に広い温度範囲でポリアミドを効率的に安定させること(および脆化防止)ができる。フェノール系安定剤は、単独では高温(150℃以上)での必須特性の急激な劣化を免れることができないため、この様な用途には適していない。異なる温度負荷におけるそのような用途の要求に対して、本発明に基づく安定化方法により、異なる温度範囲に対して異なる安定剤系(例えばフェノール系安定剤と銅系安定剤の両方の組み合わせ)を使用する必要がもはや無い。
・コンディショニング後の色が中間色であるか、または変色がわずかであること。
・耐トラッキング性への影響はまったくないか、少なくとも許容できる程度のものであり、電気および電子業界における使用において、とても重要であること。
【0014】
このため、驚くべきことに、相乗的に作用するハロゲン含有脂肪族ホスフェートと適切に組み合わされている銅化合物によりポリアミドが安定化される方法を用いることよって、安定化の改善を達成することができる。この安定剤の組み合わせを用いて提供されるポリアミド組成物は、150℃未満、好ましくは145℃以下、例えば140℃以下、130℃以下、例えば125℃以下、特に120℃以下の温度において、従来の銅系および/または有機安定剤(フェノール系酸化防止剤を単独、および亜リン酸塩との組み合わせ)と比較してより良好な安定性を示す。特に、これらのポリアミド組成物の150℃未満の温度における引張強さおよび衝撃強さは、はるかに長い期間、高い水準で維持される。
【0015】
さらに、驚くべきことに、銅錯体とハロゲン含有脂肪族ホスフェートとの組み合わせは、特に、既知のポリアミドの安定剤系と比較して、また、銅塩または他の銅化合物(銅錯体ではない)とハロゲン化リン酸塩またはハロゲン塩を含む他のハロゲン化合物との組み合わせと比較して、はるかに長い時間にわたり熱エージング後の破断点伸びを高い水準に保つことを可能にする。この効果は特に150℃未満の温度で現れる。より高い温度、例えば180℃では、従来の銅安定剤による安定化と比較して、破断点伸びを維持することについての差はない。
従って、全体として、本発明にて使用される安定剤の組み合わせは、単一の安定化成分(本発明にて使用される組み合わせ)を用いて、極めて広い温度範囲にわたって長期安定化を達成することができる。以下の説明および実施例では、本発明にて使用される組み合わせを用いて、150℃未満の温度における上述した驚くべき安定化に加えて、150℃を大幅に上回る、例えば180℃を超えて約200℃までの温度範囲での安定化も可能であることを示す。近年の技術では、そのような広い温度範囲にわたる安定化のためには異なる安定剤の組み合わせが必要であると考えられている。典型的には、低温での安定化のためには、記載したフェノール化合物の使用は必須であると考えられているが、150℃を超える温度では、それらはもはや事実上の効果を全く持たない。したがって、近年の技術においては、例えば、安定化が120℃から180℃の温度範囲で望まれる場合、例えば150℃を超える温度範囲ではフェノール系酸化防止剤と他の銅系安定剤との組み合わせを使用しなければならない。本発明に特有の安定剤の組み合わせは全温度範囲を安全にカバーすることができるので、その様な組み合わせは本発明の知見によればもはや必要ではないであろう。
したがって、150℃未満の温度での長期安定化について示された方法および使用に加えて、本発明は広い温度範囲(150℃未満の温度および150℃以上の温度も含む)にわたってポリアミドを安全に安定化することができるシステムを提供する。150℃以上の温度範囲は、特に160℃以上、180℃以上を含み、通常は200℃まで及ぶ。本発明は、本明細書に記載されるように、近年の技術において必要と考えられるいくつかの異なる安定化系の組み合わせを単一の系に置き換えることを可能にする。このため、本発明のこの態様の安定化ポリアミド組成物は、安定剤として本明細書に記載の温度安定化系のみを含むことが好ましい。特にフェノール系を省くことができるので、これは配合プロセスを単純化し、そしてコスト削減を可能にする。この目的のために、以下の実験データが特に示すように、全体的に改良された系が利用可能になり、その結果安定化期間の有意な延長もまた実現され得る。
【0016】
さらに広い温度範囲、特に200℃を超える温度で安定化が求められる場合、ポリアミド用の公知の高温安定剤を使用することができる。特に、2個以上のヒドロキシル基を有するポリオールをこの目的に使用することができる。この様な化合物の公知の例は、2~12個のヒドロキシル基を有し、且つ64~2000g/molの分子量を有するポリオールである。特に好適な例は、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、およびトリペンタエリスリトールであり、特にジペンタエリスリトールである。このような化合物は常法でポリアミドに導入することができる。プレミックスを介する導入、好ましくはマスターバッチを介する導入が特に好適であり、それによってプレミックスまたはマスターバッチは本発明における他の安定化成分も含有する。この様な高温安定剤の適用量は、既に知られている情報に基づいて当業者によって選択され得るか、または所望のポリアミド組成物についての単純な試験によって決定され得る。
【0017】
本発明における銅錯体およびハロゲン含有脂肪族ホスフェートに基づいて安定化されたポリアミド組成物を用いることで、非常に優れた色彩と高い耐トラッキング性が同時に達成される。これはまた、600V(非強化ポリアミドによる)のCTI値(比較トラッキング指数)の形態で高い耐トラッキング性を必要とする分野での使用も可能にする。
【0018】
本発明に関連して驚くべきことは、請求項1および2に定義されるように銅成分を特定の相乗剤と組み合わせることによって、ポリアミドの安定化における予想外の改善が達成され得ることであり、既知の銅安定剤とハロゲン含有相乗剤の他の組み合わせでは達成することができないことである。このことは、従来の銅ベースの系(銅塩およびハロゲン塩、または銅錯体およびハロゲン含有有機化合物(脂肪族ホスフェートではない))では、本発明における組み合わせにより達成される効果が認められないという後述の実施例において実証されている。
【0019】
本発明に使用される銅安定剤は、2つの必須成分、すなわち銅化合物と特定のハロゲン含有化合物(ここでは相乗剤とも呼ばれる)の混合物からなる。本発明にて使用される銅化合物は、任意の銅塩(CuI、CuBr、酢酸銅、CuCN、ステアリン酸銅など)、または、CuO、Cu2O、炭酸銅、または銅錯体などの他の銅化合物であってもよい。本発明にて使用される相乗剤は、ハロゲン含有脂肪族ホスフェートである。
【0020】
これらの二つの成分は、そのCu:ハロゲン使用量の比が、例えば、1:1~1:50(モル比)、好ましくは1:4~1:20、より好ましくは1:6~1:15である。
【0021】
ポリアミド中の銅およびハロゲンの量は、ポリアミドの所望の用途および所望の安定性に応じて選択される。ポリアミドの機械的性質が悪影響を受けない限り、銅の使用量は制限されない。銅の使用量は、通常、1~1000ppm Cu、好ましくは3~200ppm Cu、より好ましくは5~150ppm Cuの範囲である。具体例は、33ppm、66ppm、100ppmである。従って、相乗剤の使用量(いずれの場合もppmハロゲンに基づく)は、上記の比から生じる。加える相乗剤の量は、いかなる特定の制限も受けない。しかしながら、一般的に1%を超える添加は安定剤効果を改善しない。典型的な適応量は10~10,000ppmの範囲である。好ましい量は30から2000ppmであり、より好ましくは50から1500ppmの範囲である。
【0022】
本発明によれば、全ての一般的なポリアミドを安定化させることができる。ポリアミドは、主鎖に繰り返しカルボアミド基-CO-NH-を有するポリマーである。ポリアミドは、
(a)アミノカルボン酸またはそれらの官能性誘導体、例えばラクタム、または
(b)ジアミンおよびジカルボン酸またはそれらの官能性誘導体からなる。
【0023】
モノマー構成単位を変更することによって、多様なポリアミドを得ることができる。最も重要な代表例は、ε-カプロラクタムからのポリアミド6、ヘキサメチレンジアミンおよびアジピン酸からのポリアミド6.6、ポリアミド6.10、および6.12、ポリアミド11、ポリアミド12、PACM-12、ならびにポリアミド6-3-T、PA4.6、およびセミ-芳香族ポリアミド(ポリフタルアミドPPA)である。
【0024】
しかしながら、本発明によれば、他のすべてのポリアミド、例えばコポリアミドまたはポリアミドと他のセグメント(例えばポリエステル)とのコポリマー、も安定化することができる。異なるポリアミドの混合物およびポリアミドと他のポリマーとの混合物を安定化することも可能である。ポリアミド6およびポリアミド6.6が特に好ましい。
本発明による安定剤混合物は、前述のすべてのポリアミドおよび混合物、未充填および非強化ポリアミド、ならびに充填および強化ポリアミドの両方、に使用することができる。充填剤/強化材として、ガラス繊維、炭素繊維、ガラス球、珪藻土、細粒鉱物、タルク、カオリン、層状ケイ酸塩、CaF2、CaCO3、および酸化アルミニウムを使用することができる。
【0025】
本発明にて使用される銅錯体は、トリフェニルホスフィン、メルカプトベンズイミダゾール、グリシン、シュウ酸塩、およびピリジンの様な配位子を有する銅の錯体である。エチレンジアミン四酢酸塩、アセチルアセトナート、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ホスフィンキレート配位子、またはビピリジンのようなキレート配位子も使用できる。好ましいホスフィンキレート配位子の例は、1,2-ビス-(ジメチルホスフィノ)-エタン、ビス-(2-ジフェニルホスフィノエチル)-フェニルホスフィン、1,6-(ビス-(ジフェニルホスフィノ))-ヘキサン、1,5-ビス-(ジフェニルホスフィノ)-ペンタン、ビス-(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2-ビス-(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス-(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス-(ジフェニルホスフィノ)ブタン、および2,2'-ビス-(ジフェニルホスフィノ)-1,1' -ビナフチルである。
【0026】
これらの配位子は、錯体を形成するために個々にまたは組み合わせて使用することができる。その合成方法は、当業者に知られているか、または錯体化学に関する専門文献に記載されている。一般的に、これらの錯体は上記の配位子に加えて、水、塩化物、シアノ配位子などの典型的な無機配位子を含んでもよい。
【0027】
錯体配位子として、トリフェニルホスフィン、メルカプトベンズイミダゾール、アセチルアセトネート、およびシュウ酸塩を有する銅錯体が好ましい。トリフェニルホスフィンおよびメルカプトベンズイミダゾールが特に好ましい。
【0028】
本発明において使用される好ましい銅錯体は、通常、銅(I)イオンとホスフィンまたはメルカプトベンゾイミダゾール化合物との反応により形成される。例えば、これらの錯体は、トリフェニルホスフィンをクロロホルムにて懸濁したハロゲン化銅(I)と反応させることによって得ることができる(G.Kosta、E.Reisenhofer and L.Stafani、J.Inorg、Nukl.Chem.27(1965)2581)。また、銅(II)化合物をトリフェニルホスフィンと還元的に反応させて銅(I)付加化合物を得ることも可能である(F.U.Jardine、L.Rule、A.G.Vohrei、J.Chem.Soc.(A)238-241(1970))。
【0029】
しかしながら、本発明において使用される錯体は他の適当な方法によって製造することもできる。これらの錯体の製造に適した銅化合物は、ハロゲン化水素酸若しくは青酸の銅(I)、または銅(II)塩、青酸または脂肪族カルボン酸の銅塩である。適切な銅塩の例は、塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、シアン化銅(I)、塩化銅(II)、酢酸銅(II)、またはステアリン酸銅(II)である。
【0030】
ヨウ化銅(I)およびシアン化銅(I)が特に好ましい。
【0031】
原則として、全てのアルキルまたはアリールホスフィンが好適である。本発明に従って用いることができるホスフィンの例は、トリフェニルホスフィン(TPP)、置換トリフェニルホスフィン、トリアルキルホスフィン、およびジアリールホスフィンである。適切なトリアルキルホスフィンの例は、トリス-(n-ブチル)ホスフィンである。一般的に、トリフェニルホスフィン錯体はトリアルキルホスフィン錯体よりも安定である。トリフェニルホスフィンもまた、その商業的に入手可能であることから経済的に好ましい。
【0032】
適切な錯体の例は、下記式で表すことができる。
[Cu(PPh33X]、[Cu22(PPh33]、[Cu(PPh3)X]4、[Cu(PPh32X](Xは、Cl、Br、I、CN、SCN、または2-MBIから選択される。
【0033】
本発明にて使用可能な錯体は、さらに錯体配位子を含んでいてもよい。例えば、ビピリジル(例えば、CuX(PPh3)(bipy)(XはCl、Br、またはIである))、ビシノリン(例えばCuX(PPh3)(biquin)(XはCl、Br、またはIである))、1,10-フェナントロリン、o-フェニレンビス(ジメチルアルシン)、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、およびターピリジルが挙げられる。
【0034】
これらの複合体は一般的に非導電性と反磁性を備える。これらは通常無色であり、分解せずに融解する水不溶性結晶として蓄積する。錯体は、DMF、クロロホルム、および熱エタノールのような極性有機溶媒に容易に溶解する。
【0035】
本発明にて使用される銅塩は、任意の銅塩であってもよい。一価または二価の銅と無機または有機の酸との塩が好ましい。適切な銅塩の例としては、CuI、CuBr、CuClまたはCuCNなどの銅(I)塩、CuCl2、CuBr2、CuI2、酢酸銅、硫酸銅、ステアリン酸銅、プロピオン酸銅、酪酸銅、乳酸銅、安息香酸銅または硝酸銅等の銅(II)塩、ならびにこれらの塩のアンモニウム錯体が挙げられる。
【0036】
銅アセチルアセトネートまたは銅EDTAといった化合物も使用できる。また、異なる銅塩の混合物も使用できる。必要であれば、銅粉も使用できる。好ましいのは、ハロゲン化銅(I)および有機酸の銅塩である。ヨウ化銅(I)および酢酸銅が特に好ましい。上記の銅成分は、単独でまたは2種以上の成分の混合物で使用することができる。
【0037】
本発明にて使用される相乗剤は、ハロゲン含有脂肪族ホスフェートである。本発明によれば、少なくとも1種のハロゲン含有脂肪族ホスフェートが、好ましくはトリス(ハロヒドロカルビル)-ホスフェートまたはホスホン酸エステルの形で使用される。トリス(ブロモヒドロカルビル)ホスフェート(臭素化脂肪族ホスフェート)が好ましい。特に、これらの化合物では、ハロゲン原子に結合したC原子に対してアルファ位にあるアルキルC原子には水素原子が結合していない。これは脱ハロゲン化水素反応が起こらないことを意味する。化合物の例は、トリス(3-ブロモ-2,2ビス(ブロモメチル)プロピル)ホスフェート、トリス(ジブロモネオペンチル)ホスフェート、トリス(トリクロロネオペンチル)ホスフェート、およびトリス(クロロジブロモペンチル)ホスフェートおよびトリス(ブロモジクロロペンチル)ホスフェートである。トリス-(ジブロモネオペンチル)ホスフェートおよびトリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートが好ましい。
【0038】
ハロゲン含有脂肪族ホスフェートの混合物を使用することも可能である。さらに、ハロゲン含有脂肪族ホスフェートとハロゲン化芳香族化合物との混合物、例えば、臭素化ポリスチレンまたはポリ(ペンタブロモベンジル)アクリレートも使用することができる。また、トリス(ハロ芳香族)ホスフェートまたはホスホン酸エステルも、ハロゲン化芳香族化合物、例えば、トリス(2,4-ジブロモフェニル)ホスフェート、トリス(2,4-ジクロロフェニル)ホスフェートおよびトリス(2,4,6-トリブロモフェニル)ホスフェート、として使用できる。しかしながら、相乗剤としてハロゲン含有脂肪族ホスフェートのみを使用することが好ましい。
【0039】
好ましい組み合わせ(以下、「安定剤混合物」と称する)は、銅塩、特にCuIと、本明細書に記載のリン酸塩、特に臭素化リン酸塩との組み合わせ、ならびに、銅錯体、特にTPP配位子との錯体と、本明細書に記載のリン酸塩、特に臭素化リン酸塩との組み合わせである。
ポリアミドと安定剤の混合物を一緒に溶融して混合すること、またはポリアミドを最初に溶融してから安定剤の混合物を混合することがあるが、後者が好ましい。好ましい形態においては、安定剤混合物はプレミックス(濃縮物またはマスターバッチ)の形態で溶融ポリアミドに添加される。
適切な混合装置は当業者によく知られており、混合ミル、不連続密閉式混練機および混練機、連続押出機および混練機、ならびに静的混練機を含む。なかでも良好な混合を可能にする一軸スクリュー押出機および二軸スクリュー押出機の両方の連続押出機の使用が好ましい。通常、ポリアミドは最初に押出機内で溶融され、次いで安定剤混合物は適切な(重量分析のまたは容積測定の)導入口を通して計量供給される。これらの手順および必要な装置は当業者に知られている。
しかしながら、ポリアミドの製造中、すなわちモノマー混合物、に安定化成分を添加することも可能である。これは追加の混合なしに非常に良好な混合を可能にし、それは製造コストと時間を削減する。
安定剤混合物の予備濃縮物を使用する場合、この予備濃縮物は、非常に良好で均一な分配を可能にする不連続運転ミキサー、例えばBuss Kneaderにて製造することができる。しかしながら、通常、二軸スクリュー押出機またはZSK押出機のような連続ミキサーが使用される。通常、同じポリアミドがマトリックス材料として使用され、そして予備濃縮物と混合される。しかしながら、異なるポリアミドまたはポリマーを選択することも可能である。場合によって、マスターバッチ製造中に追加の添加剤を添加することができる。
あるいは、予備濃縮物は、安定剤混合物を他の添加剤および/または添加剤、例えば、潤滑剤、離型剤、成核剤など、と一緒に混合し、続いて凝集またはペレット化、圧縮または打錠することにより、別の好ましいバージョンで製造することができる。関連する手順および必要な装置は当業者に知られている。しかしながら、上述の添加剤および/またはさらなる成分は、本発明による方法、例えば本発明による安定化ポリアミドの製造中に別々に投与することによって別々に使用することもできる。
【0040】
本発明の他の好ましい効果は、(ハロゲン含有化合物の含有量にかかわらず)労働安全性、環境保護および電気および電子用途における適用性の観点に関する。ハロゲン含有材料と同様、従来の銅安定剤は、CLP規則第1272/2008号に従ってラベル付け、輸送、保管、および取り扱いに関して特別な規則の対象となる。ハロゲン化材料の使用における重大な問題は腐食、特に電食である。これに関連して、ハロゲン、特に臭素および塩素、さらにヨウ素は、ハロゲン化物アニオンの金属間相との相互作用のため、電気部品にとって有害であると考えられている。このため、ハロゲン含有量の低減についての要求は現在、電気および電子産業において広がっている。PCB材料(プリント基板)の国際規格IEC61249-2-21およびEN61249-2-21およびIPC4101によると、1500ppm未満のClおよびBrを含み、BrおよびClの最大量がそれぞれ900ppmである材料はハロゲンフリーとみなされる。その非常に優れた有効性のために、本発明にて用いられる安定剤の組み合わせは、対応する限界値を順守することができるように低用量で使用することができる。安定剤の組み合わせを製造するにあたって、例えば上述の予備濃縮物を製造することによって、銅とハロゲンの濃度を低く保つことも可能である。このようにして、低濃度の(本発明の安定剤の組み合わせに関連する)添加剤が入手可能になり、上述した利点がある。これはまた、全体として、GHS/CLP Regulation(EC) No.1272/2008に準ずるラベリングが必要とされないので、使用者にとって、本発明によって使用される安定剤成分の取り扱いを単純化する。これは、とりわけ、保管および輸送のための費用の削減につながる。
そのような材料はまた、環境上の危険性および労働安全性に関してより少ない危険性を示す。
以下の実施例は本発明を説明する。
(実施例)
【0041】
全ての実施例において、ポリアミドは通常の方法で記載した安定剤と配合され、そして試験されるべき機械的性質および他の性質は試験片上で評価された。それぞれの場合においてエージング条件が示されている。
ポリアミド6.6はBASFのものを使用した(Ultramid A27 E)。
調製は、Leistritz ZSE27MAXX-48D製の二軸押出機を用いて行った。
添加剤は重量測定法にて配合中に添加した。
乾燥後、機械特性(ISO 527)および衝撃強度(ISO 179 / 1eU)を決定するための“Demag Ergotech 60/370-120 concept”の標準試験棒を、Demag Ergotech 60/370-120 concept射出成型機により、化合物から製造した。
対流式オーブンでは、試験棒を実施例に記載の温度(120℃、140℃、150℃、および180℃)で貯蔵した。
弾性率[MPa]、引張強度[MPa](伸び[%])、および破壊応力[MPa](伸び[%])は、Zwick Z010静的材料試験機を用いてISO 527に準拠した引張試験で測定した。
衝撃強度は、振り子式衝撃試験機HIT PSW 5.5Jを用いてシャルピー衝撃曲げ試験においてISO 179/1eUに従って測定した。
【0042】
使用された化学物質および略語:
TPP:トリフェニルホスフィン;P(C653
PDBS:ポリジブロモスチレン;[CH2-CH(C63Br2)-]n
リン酸塩1:トリス-(トリブロモネオペンチル)-リン酸塩;C15Br9244
フェノール/亜リン酸塩 混合物 B1171:1.1 トリス-(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトとN、N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド))の混合物
表1:ポリアミド6.6ナチュラルの安定性;120℃における熱エージング
フェノール系酸化防止剤と他の銅安定剤との比較試験(本発明の組み合わせおよび比較の変形);対応する試験片の引張強度、破断点伸び、および衝撃強度の測定。
33ppmのCu濃度および400ppmのハロゲン濃度の銅安定剤を使用した。
衝撃強度が10kJ/m2の絶対値に低下するまでの時間を決定した。さらに、引張強度が初期強度の90%の値に低下するまで、また破断点伸びが初期値の半分に達するまでの時間(半値測定)を決定した。
【表1】
表2:ポリアミド6.6ナチュラルの安定性;120℃における熱エージング
フェノール系酸化防止剤と銅安定剤との比較試験(本願の組み合わせおよび比較の変形);対応する試験片における引張強度および破断点伸びの測定。
66ppmのCu濃度および800ppmのハロゲン濃度の銅安定剤を使用した。
引張強度が初期強度の70%値に低下するまでの時間および破断点伸びが初期値の半分に達するまでの時間(半値測定)を決定した。
【表2】
表3:ポリアミド6.6ナチュラルの安定性;180℃における熱エージング
銅安定剤を用いた比較試験(本発明の組み合わせおよび比較の変形);対応する試験片の引張強度、破断点伸び、および衝撃強度の測定。
100ppmのCu濃度および1200ppmのハロゲン濃度の銅安定剤を使用した。
衝撃強度、引張強度、および破断点伸びがそれぞれの初期値の半分に達するまでの時間(半値測定)を決定した。
【表3】
表4:ポリアミド6.6の色彩と耐トラッキング性
フェノール系酸化防止剤および他の銅安定剤との比較試験(本発明の組み合わせおよび比較の変形);銅安定剤用に100ppmのCu/1000ppmのハロゲンを追加した。
3×5cm、3mm厚の試験板を上記の粒状物から射出成形機で製造し、IEC-60112に従ってCTI値を測定した。試験板の変色は目視で評価した。
【表4】
*は、安定剤混合物の一般的な形成に適用され、添加量が(ポリアミド含有量を基準として)安定剤の0.5~3%の範囲になるように調整されている。
【0043】
表1~4では、それぞれの試験および比較試験をまとめている。これらは本発明の利点を印象的に実証している。例えば、表1は、本発明の安定剤成分が標準的なフェノール系安定剤と比較して、また、公知の銅に基づく系と比較して、とても長い期間、安定化ポリアミドの機械的特性を非常に良好な範囲で維持できることを示している。一方、安定剤系ヨウ化銅/ヨウ化カリウム、ならびに銅錯体およびハロゲン化芳香族化合物はフェノール系安定剤の安定化効果に匹敵する安定化効果を示すものの、本発明のポリアミドの様な高水準の安定化は達成できない。
【0044】
表2は、関連する実験であるが安定剤の量を増やしたものをまとめている。ここでは、フェノール系安定剤の量の増加が、低い含有量であるものと比較してもわずかな改善をもたらすだけであることを示す。ここでプラトーに達するので、さらに配合量が増加してもそれ以上の改善にはつながらない。対照的に、本発明の安定剤の組み合わせは安定化効果の明らかな拡大を示す。
【0045】
表3は、高温での熱エージング試験をまとめたものである。これは、本発明に基づく組み合わせ、および従来の銅に基づく系(ここではヨウ化銅/ヨウ化カリウム)の双方がほぼ同等の安定化効果を発揮することを示しており、これらの安定剤に典型的なより高い温度では安定化効果に有意差はないことから、これもまた本発明に基づく組み合わせにについて、低温での改良安定化効果が驚くべきものと見なされるべきであることの証拠として考えられる。
【0046】
表4は、電気/電子分野で使用されるポリアミドの安定化に対するそれぞれの安定剤の適合性を示す試験および比較試験を列挙したものである。多くの分野で安定化ポリアミドが使用されるのは、CTI値が600V、または少なくとも600Vをはるかに下回らない場合のみであるため、ここではCTI値が特に重要である。ここで、本発明の安定剤の組み合わせ、特に塩に基づく成分を含まない本発明の安定剤の組み合わせが、要求を満たすことが示されている。対照的に、従来の塩に基づく銅安定剤はこれらの用途には適していない。
【0047】
これらの試験および比較試験は、本発明によって安定化されたポリアミドが優れた特性を有することをも示している。本発明にて使用される安定剤成分を用いることで、マトリックスの特性を広範囲にわたって特異的に制御することができる。一方、広い範囲にわたって安定化されるようにポリアミドの機械的安定性を調整することが可能であり、これは、少量の使用であっても、低温から中温の範囲において従来のフェノール系安定剤で達成できるものよりはるかに高い。同時に、高い耐トラッキング性(高いCTI値)を有し、且つコンディショニング後に変色する傾向が全くないかまたは低い傾向しか示さない安定化ポリアミドも得ることができる。これもまた、本発明の安定剤の組み合わせが優れた特性を有することを裏付ける。
【0048】
既知のフェノール系安定剤と比較して、本発明の安定剤の驚くべき有効性を実証するために、PA6.6を含む組成物の破断伸度の半減期を、様々な組み合わせについて評価した。
表5:安定化機能としてのポリアミド6.6の破断点伸びの半減期[h]
フェノール系酸化防止剤と銅安定剤との比較試験(本発明の組み合わせ);対応する試験片の破断点伸びの測定。破断点伸びが初期値の半分に達するまでの時間(半値測定)を決定した。
【表5】
上の表のデータは、ポリアミド6.6において、本発明の変数をもって、特に120℃および140℃で、従来のフェノール/亜リン酸塩系(B1171)と比較して、破断点伸びのより良好な(より長い)保存が達成されることを示している。同時に、本発明の使用が、フェノール/亜リン酸塩系の安定剤がごくわずかな効果しか有しない温度範囲である、150℃を超える温度ピークに対する保護をも提供することを明らかにしている。これは特に170℃以上の範囲の温度に当てはまり、この温度ではこれらの安定剤の有効性はもはや示されていない。本発明の安定剤の高い有効性により、ポリアミド中の低濃度の銅およびハロゲンをもってしても、それぞれの材料の非常に良好な長期使用特性を広い温度範囲にわたって得ることができる。これに必要となる濃度が低いため、とりわけ、鮮やかな色、良好な電気的性質、低い安定化コストおよび著しく低下した電食傾向を達成することができる。
図1