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特許7314258石膏建材用のホウ素を含まないサグ防止添加剤
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  • 特許-石膏建材用のホウ素を含まないサグ防止添加剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】石膏建材用のホウ素を含まないサグ防止添加剤
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/06 20060101AFI20230718BHJP
   C04B 28/14 20060101ALI20230718BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
C04B24/06 A
C04B28/14
C04B22/08 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021517003
(86)(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2018000492
(87)【国際公開番号】W WO2020083457
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】510094539
【氏名又は名称】クナウフ ギプス カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピーチュマン、ベルント
(72)【発明者】
【氏名】シュタインバウアー、ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイガント、ダーヴィト
(72)【発明者】
【氏名】コーラー、ヴェレーナ
(72)【発明者】
【氏名】ケーラー、ユリアーネ
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/092837(WO,A1)
【文献】特表2016-503388(JP,A)
【文献】特表2015-535522(JP,A)
【文献】特開2002-145655(JP,A)
【文献】特開2016-121048(JP,A)
【文献】特開昭52-040527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏成形品を製造するためのサグ防止添加剤(anti-sagging additive)であって、(i)L-酒石酸および/またはL-酒石酸塩と、(ii)セメント及び生石灰のうちの少なくとも1つと、を含むがホウ素含有化合物を含まない、サグ防止添加剤であって、前記(i)L-酒石酸および/またはL-酒石酸塩の量と前記(ii)セメント及び生石灰のうちの少なくとも1つの量との比率が1:2~1:5である、サグ防止添加剤。
【請求項2】
メントを含むことを特徴とする、請求項1に記載のサグ防止添加剤。
【請求項3】
少なくとも、焼石膏、水、およびサグ防止添加剤から形成されるスラリーから製造される石膏成形品であって、前記サグ防止添加剤が、(i)L-酒石酸および/またはL-酒石酸塩と、(ii)セメント及び生石灰のうちの少なくとも1つと、を含むが、ホウ素化合物を含まない、石膏成形品であって、前記(i)L-酒石酸および/またはL-酒石酸塩の量と前記(ii)セメント及び生石灰のうちの少なくとも1つの量との比率が1:2~1:5である、石膏成形品。
【請求項4】
前記石膏成形品が石膏ボードである、請求項3に記載の石膏成形品。
【請求項5】
前記(i)L-酒石酸および/または前記L-酒石酸塩が、焼石膏の質量に対して、0.001~0.1重量%の質量で含有されることを特徴とする、請求項3又は請求項4に記載の石膏成形品。
【請求項6】
前記(i)L-酒石酸および/または前記L-酒石酸塩が、焼石膏の質量に対して、0.01~0.05重量%の質量で含有されることを特徴とする、請求項3に記載の石膏成形品。
【請求項7】
前記(ii)セメント及び生石灰のうちの少なくとも1つが、焼石膏の質量に対して、0.05~0.5重量%の量で含有されることを特徴とする、請求項3~6のいずれか一項に記載の石膏成形品。
【請求項8】
前記(ii)セメント及び生石灰のうちの少なくとも1つが、焼石膏の質量に対して、0.08~0.25重量%の量で含有されることを特徴とする、請求項7に記載の石膏成形品。
【請求項9】
石膏成形品を製造するための方法であって、焼石膏を水および添加剤と混合する工程、及び石膏成形品を形成する工程を含み、前記添加剤が、(i)L-酒石酸および/またはL-酒石酸塩と、(ii)セメント及び生石灰のうちの少なくとも1つと、を含むが、ホウ素化合物を含まない、方法であって、前記(i)L-酒石酸および/またはL-酒石酸塩の量と前記(ii)セメント及び生石灰のうちの少なくとも1つの量との比率が1:2~1:5である、方法。
【請求項10】
前記石膏成形品が石膏ボードである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記方法が、更に石膏成形品を乾燥させる工程を含む、請求項9又は請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石膏建材用サグ防止添加剤(anti-sagging additive)に関する。
特に、本発明は、石膏建材のサグ抵抗を増大させ、ホウ素を含まない石膏建材用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
石膏成形品、特に石膏ボードのサグ抵抗を増大させる添加剤は、先行技術から知られている。石膏ボードの場合の、特に温暖多湿条件に曝されたときのクリープの現象が、かなり以前から知られている。例として、DE1771017B2は、石膏成形品のクリープを低減するための酒石酸の使用について記載している。ポリリン酸塩、特にSTMP(トリメタリン酸ナトリウム)を使用すると、より良好な結果が達成される(例えば、WO99/08978を参照)。
【0003】
加えて、異なる試薬の組み合わせが、先行技術から知られている。例えば、US2006/0048680A1には、サグ耐性を改善するための添加剤として、酒石酸とホウ酸またはホウ酸塩との組み合わせを使用することが記載されている。加えて、アルカリ金属リン酸塩またはアルカリ土類金属リン酸塩、例えば、STMPを含有することもできる。
【0004】
WO2017/092837A1は、ホウ酸および/またはホウ酸の塩、酒石酸および/または酒石酸の塩、およびセメントを含むサグ防止添加剤を記載している。
【0005】
最近、深刻な健康被害を排除することができないため、ホウ素含有試薬の工業的使用が継続的な議論の対象となっている。安全規制、例えば欧州REACh規制は、今後、これらの化合物の使用を防止または大幅に制限する可能性がある。したがって、ホウ素を含まない添加剤が必要である。
【0006】
本発明の目的は、STMPまたはホウ酸もしくはホウ酸塩を含有しない、石膏成形品のサグ耐性を改善するためのさらなる添加剤を提供することである。加えて、石膏成形品、およびこの種類の石膏成形品を製造するための方法も提供され、当該石膏成形品は、STMPも、ホウ酸またはホウ酸塩も含有しない。
【0007】
この目的は、請求項1に記載のサグ防止添加剤、請求項6に記載の石膏成形品、および請求項7に記載の石膏成形品を製造するための方法によって達成される。本発明の有利な実施形態の特徴は、それぞれの従属請求項に記載されている。
【0008】
「添加剤」という単語は、完成した石膏成形品のサグ耐性にプラスの影響を与える石膏スラリーの構成成分に関する包括的用語として使用される。添加剤は、必ずしも予め作製された混合物である必要はなく、代わりに、個々の構成成分が石膏スラリーに個別に添加されてもよい。
【0009】
石膏成形品は、主に石膏から作製された、すなわち、石膏含有量が50重量%を超える、好ましくは85重量%を超える、規定された形態を有する物品である。石膏成形品は、好ましくはプラスターボードである。
【0010】
サグ防止剤は、石膏成形品に含まれる場合、その成形品のサグ、すなわち石膏のクリーピング(石膏成形品に作用する荷重による塑性変形を意味する)を低減または防止する組成物である。荷重は、石膏成形品に作用する任意の力、例えば重力であり得る。
【0011】
石膏成形品を製造するためのサグ防止添加剤は、サグ防止剤として石膏成形品の製造に使用するための化合物である。
【0012】
したがって、石膏成形品を製造するためのサグ防止添加剤は、L-酒石酸(左旋性酒石酸)および/またはL-酒石酸塩と、pH増強化合物と、を含むが、例えばホウ酸またはホウ酸塩としてのホウ素含有化合物を含まない。添加剤は基本的にホウ素を含まない、すなわち、ホウ素含有化合物は積極的には添加されていない。好ましくは、サグ防止添加剤が使用されるスラリーも、基本的にはホウ素を含まない。pH増強化合物は、好ましくはセメント、特にポルトランドセメントであり得る。しかしながら、生石灰や白色セメントなど、他のpH増強物質も使用可能である。
【0013】
好ましくは、添加剤は、L-酒石酸/L-酒石酸塩の量と、pH増強化合物(セメント)の量を、(質量に対して)1:1~1:10、好ましくは1:2~1:5の比率で含有する。
【0014】
L-酒石酸および/またはL-酒石酸の塩(L-酒石酸塩)は、これらが使用される焼石膏の質量に対して、0.001~0.1重量%、好ましくは0.01~0.05重量%の量で添加剤に含有される。
【0015】
例として、ポルトランドセメントをpH増強化合物として使用することができる。本発明の一実施形態によれば、セメントは、添加剤が使用される焼石膏の質量に対して、0.05~0.5重量%、好ましくは0.08~0.25重量%の量で含有される。
【0016】
本発明はまた、少なくとも焼石膏、水、および硬化石膏から石膏成形品を製造するためのサグ防止添加剤からなるスラリーから製造された、石膏成形品、特にプラスターボードなどの石膏ボードに関する。サグ防止添加剤は、上記の物質、具体的には酒石酸および/または酒石酸塩と、pH増強化合物と、を含むまたは含有するが、ホウ素含有化合物は含まないまたは含有しない。
【0017】
本発明は追加的に、石膏成形品、特に石膏ボードを製造するための方法であって、焼石膏を水およびサグ防止添加剤と混合する工程と、石膏成形品を形成する工程と、任意選択的に、この石膏成形品を乾燥させて、硬化石膏から石膏成形品を製造する工程と、を含む、方法に関する。添加剤は、上記の構成成分、具体的には酒石酸および/または酒石酸塩と、pH増強化合物とを含有するが、ホウ素含有化合物は含有しない。
以下、例示的な実施形態に基づいて、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】プラスターボードから切り取ったサグ決定用試料の一例を示す図である。
【0019】
プラスターボードのサグ耐性を改善するために異なる組成の添加剤を使用して搬送ライン試験(conveyor line tests)を実施した。製造したプラスターボードは、板紙ウェブで包まれた発泡石膏コアからなる。ボードは従来通りに製造される。つまり、最初に、ベータ半水和物、水、対応するサグ防止添加剤、ならびにさらなる添加剤(特に、促進剤および発泡界面活性剤溶液)からスラリーを作る。酒石酸には石膏スラリーの硬化速度を遅らせる効果があるため、異なるスラリーについて硬化時間がほぼ一定となるように、促進剤の添加量を設定した。細かく粉砕した、すなわち粉末状の硫酸カリウム二水和物を促進剤として使用した。促進剤の選択は、本発明の範囲内において重要ではなく、したがって、当業者が熟知している他の促進剤を使用することもできる。
【0020】
製造したプラスターボードのサグを決定するために、プラスターボードから10cm×67cmの寸法の試料を、所定の箇所でボードから切り取った(図1を参照)。縦方向の3つの試料(RL=右縦方向、ML=中央縦方向、およびLL=左縦方向)および横方向の3つの試料(RQ=右横方向、MQ=中央横方向、およびLQ=左横方向)を、被験ボードごとに取得した。縦方向の試料は、それらの縦方向の範囲がボードの製造方向に延在するよう、被験ボードから切り取った。横方向の試料は、それらの縦方向の範囲がボードの製造方向に対して垂直に配置されるよう、被験ボードから切り取った。各場合(ML、MQ)における1つの試料を、ボードの中央から(つまり、ボードの縦方向の2つの縁から等しい距離で)取得し、各場合(LL、LQおよびRL、RQ)における1つの試料を、それぞれ、ボードの左または右縁部のより近くに配置されたボード領域から取得した。
【0021】
次いで、このようにして取り除いた試料を、一定重量に達するまで、乾燥キャビネット内で、縦方向縁部で立たせて乾燥させ、サグを決定するためのゼロ値(初期サグ)を、試料の中央において精密深さゲージを用いて決定した。
【0022】
20±1℃および90±1%の相対湿度の人工気候室内にて7日間、試料を縁部(支持体間の距離:60cm)で支持して貯蔵した。次いで、上述の方法でサグを再び決定し、初期サグを差し引くことによって絶対値を決定した。ボードごとの縦方向の3つの試料の値および横方向の3つの試料の値を、各場合において平均した。
【0023】
表1に決定したサグ値を列挙する。被験ボードは、V15~V19、V20~V26、V27~V33、およびV34~V39の4つの試料群を区別できるように、異なる日に製造した。各試料について、2つのプラスターボードから複製を切り取り、異なる実験(runs)において複製のサグについて試験した。各実験は、内部「標準」のサグ防止添加剤を使用して(つまり、それぞれのボードを製造するのに使用したスタッコの質量に対して各々、0.03重量%のSTMP、0.1重量%のセメント、および0.05重量%のホウ酸を使用して)製造したボードに関して行う試験から開始する。「標準欄」の右欄には、異なる組成のサグ防止添加剤を使用した実験を示し、その内容が表示されている。DL-またはL-酒石酸は0.03重量%の量で使用し、ホウ酸は0.05重量%の量で使用し、セメントは常に0.1重量%の量で使用し、すべての量は、それぞれのボードを製造するのに使用したスタッコの量を基準とした。
【0024】
略語「縦1」および「横1」は、1回目の実験の縦方向および横方向の試料(上記を参照)を指す。「縦2」および「横2」は、2回目の実験の縦方向および横方向の試料を指す。各試料についての2つの測定値を、個々の測定値の下に、「縦」または「横」として平均した。「縦」および「横」は、試験のすべての縦方向の試料またはすべての横方向の試料(つまり、ボードのどの部分から試料を切り出したか区別せずに)の算術平均を示す。最下行は、1つの試験のすべての測定値の平均値を示す。
【0025】
すべての試料を同じ方法で準備し、これらの試料には、使用したサグ防止添加剤を除いて同じ成分が含有されていた。
【0026】
DL-酒石酸、セメント、およびホウ酸を含有する試料(V38)は、内部標準(つまり、STMP)、セメント、およびホウ酸を用いて製造したすべての試料(V15、V20、V27、およびV34)よりも平均してわずかに低いサグを示している。試料V38と標準試料との間の唯一の違いは、STMPの代わりに等量のDL-酒石酸を使用したことである。
【0027】
STMPの代わりにL-酒石酸が使用され(V26、V36)、試料にホウ酸が含有される場合、サグについて非常に良好な結果が達成される。
【0028】
しかしながら、健康および環境問題のためにホウ酸を含有しない場合(試料V19およびV39)には、別の状況となる。STMPの代わりにDL-酒石酸を含有するが、ホウ酸を含有しないサグ値は、それぞれの標準試料(V15およびV34)よりも明らかに高いサグを示す。
【0029】
驚いたことに、DL-酒石酸の代わりにL-酒石酸およびセメントを使用するが、ホウ酸を使用しない(V25、V33、V37)と、サグ値が標準よりも明らかに低くなる。
【0030】
したがって、内部標準の代わりに酒石酸とセメントの組み合わせを使用し、ホウ酸を含有しないことは、品質を低下させることなく可能である。
【表1】

本開示は、以下の実施形態を含む。
<1> 石膏成形品を製造するためのサグ防止添加剤(anti-sagging additive)であって、L-酒石酸および/またはL-酒石酸塩と、pH増強化合物と、を含むがホウ素含有化合物を含まない、サグ防止添加剤。
<2> 前記pH増強化合物がセメントであることを特徴とする、前記<1>に記載のサグ防止添加剤。
<3> L-酒石酸またはL-酒石酸塩の量とpH増強化合物の量の比率が、1:1~1:10、好ましくは1:2~1:5であることを特徴とする、前記<1>または<2>に記載のサグ防止添加剤。
<4> 前記L-酒石酸および/または前記L-酒石酸塩が、焼石膏の質量に対して、0.001~0.1重量%、好ましくは0.01~0.05重量%の質量で含有されることを特徴とする、前記<1>~<3>のいずれか一項に記載のサグ防止添加剤。
<5> 前記pH増強化合物が、焼石膏の質量に対して、0.05~0.5重量%、好ましくは0.08~0.25重量%の量で含有されることを特徴とする、前記<1>~<4>のいずれか一項に記載のサグ防止添加剤。
<6> 少なくとも、焼石膏、水、およびサグ防止添加剤から形成されるスラリーから製造される石膏成形品、特に石膏ボードであって、前記サグ防止添加剤が、L-酒石酸および/またはL-酒石酸塩と、pH増強化合物と、を含むが、ホウ素化合物を含まない、石膏成形品、特に石膏ボード。
<7> 石膏成形品、特に石膏ボードを製造するための方法であって、焼石膏を水および添加剤と混合する工程であって、前記添加剤が、L-酒石酸および/またはL-酒石酸塩と、pH増強化合物と、を含む、混合する工程と、石膏成形品を形成する工程と、任意選択的に、前記石膏成形品を乾燥させる工程と、を含む、方法。
図1