(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】カールマスカラ組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/81 20060101AFI20230718BHJP
A61Q 1/10 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
A61K8/81
A61Q1/10
(21)【出願番号】P 2021559741
(86)(22)【出願日】2020-04-12
(86)【国際出願番号】 US2020027862
(87)【国際公開番号】W WO2020210771
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-12-03
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513161449
【氏名又は名称】イーエルシー マネージメント エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,ウィルソン エー.
【審査官】山田 陸翠
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-322032(JP,A)
【文献】国際公開第2019/005579(WO,A2)
【文献】特開2018-008904(JP,A)
【文献】特表2014-528420(JP,A)
【文献】特開2017-141165(JP,A)
【文献】特開平09-263518(JP,A)
【文献】特開2016-124851(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0039874(US,A1)
【文献】特開2019-014706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
まつ毛カール用の単相水性マスカラ組成物であって、前記組成物の総重量に対して、
合計で10~30%の
、それぞれ大きいガラス転移温度(Tg)と小さいTgを有する2種の(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウム
、ここで、大きいTgと小さいTgの比率は2:1~3:1の範囲にあり、大きいTgを有するコポリマーと小さいTgを有するコポリマーの相対濃度は1:1~4:1である、
0.5~2.8%の(アクリレーツ/VA)コポリマー、
最大10%までの顔料、
少なくとも50%の水
を含む、前記組成物。
【請求項2】
0.5%以下の疎水性の油又はワックスを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
3%以下の界面活性剤又は乳化剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
粘土粒子又は未溶解の粒子状物質を含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
最大10%までの透明なナイロン繊維をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
4.0%以下のグリコールを含む、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品の分野であり、具体的には、まつ毛をカールさせることができる高光沢マスカラ組成物である。
【背景技術】
【0002】
十分なつやのある(高光沢な(high shine))カラー化粧用製品によって付与される外観は、魅惑的で官能的であると見なされる。しかしながら、高光沢な製品はこれまで、皮膚又は毛髪上での保持力をほぼ有しない傾向にあった。フレーキング(flaking)やにじみ(smudging)は高光沢な製品に共通する問題である。フレーキングやにじみを軽減するために、光沢のないマスカラ製品では必要のない措置を取ることがある。これまで、そのような1つの対策は、マスカラ組成物に被膜形成剤を使用することであった。このような材料は、ある一定のレベルのつや及び保持力を提供するが、そのつやは、使用される被膜形成剤の量と比例する。あるレベルのつやを達成するためにあまりに多くの被膜形成剤が必要になると、製品が硬くなるであろうから、ひび割れを起こしやすく、また水のみで除去することは困難となる。
【0003】
被膜形成システムはまた、特に乾燥するにつれて被膜が収縮する場合、まつ毛にカールを付与するのにも有用である。このようなシステムでは、被膜形成剤の種類と量を、ちょうどよい収縮力と乾燥時間を与えるように選択する必要がある。収縮力が小さすぎて乾燥時間が短いと、まつ毛のカールがほとんどないか、まったくなくなり、収縮力が大きすぎて乾燥時間が長いと、望ましくない不自然な外観をもたらす。このように、まつ毛をカールさせることもできる高光沢のマスカラは、配合がさらに難しい。
【0004】
被膜形成システムのもう一つの問題は、溶媒が蒸発するにつれて、色の強さ、トゥルーカラー(true color)、及び/又は光沢が失われる傾向があることである(つまり、組成物はあまり「長持ち(wear)」しない)。
【0005】
このように、シネレシスのような安定性の問題を回避しつつ、まつ毛に適度なカールを与える高光沢のトゥルーカラーマスカラ組成物を実現することは、簡単なことではなかった。このような課題は、まつ毛から簡単に除去できるなど対処しなければならない他の消費者製品要求によってさらに悪化している。現在のところ、満足のいく結果は得られていない。そのため、これらを満たし、且つその他の消費者の要求に応えるマスカラ組成物が求められている。まつ毛をカールし長くし、トゥルーカラーを提供するとともに、フレーキングやにじみが軽減された、高光沢で長持ちするマスカラ組成物を提供することは、特に有利であろう。本発明は、そのような組成物を提供するものである。
【0006】
従来のマスカラの処方には、典型的には1:7~1:3の油相と水の比率を有し得る水中油型エマルジョンマスカラがある。一般的に、水中油型マスカラは水や湿気に弱い。また、耐水性と長持ち性という原則的な利点を持つ油中水型マスカラもあるが、一般的には、まつ毛から製品を除去するのが困難であり、乾燥時間が長い。
【0007】
一方、同時係属中のUS15/632,903には、柔軟性があり、にじみやフレーキングに強く、耐油性もあるため、高光沢で長持ちする化粧品として非常に適した高光沢カラー化粧品組成物が開示されている。これらの組成物は、最初は親水性であるが、乾燥すると疎水性になる。この組成物は、化粧品として許容されるベース又は送達賦形剤に(アクリレーツ/VA)コポリマーとアクリレーツコポリマーの特定の組み合わせを含んでおり、マスカラ製品として適している。しかし、この出願では、本明細書に開示されているような可塑剤として10%~30%の(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムと1%~6%の(アクリレーツ/VA)コポリマーとを含む組成物、及び本明細書において初めて記載されているようなその利点を開示していない。
【発明の概要】
【0008】
概要
本発明は、水性ベースに、可塑剤として(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウム及び(アクリレーツ/VA)コポリマーを含むマスカラ組成物に関するものである。本明細書で特定された濃度では、得られるマスカラ組成物は、転移温度、粘度、乾燥時間、収縮の度合いなど、制御可能な様々な有用な特性を有する。本発明の組成物は親水性である。しかし、塗布後、組成物は収縮してカールを付与し、完全に乾くまでは比較的硬い状態で、付与されたカールを維持し、移り(transfer)、にじみ、フレーキング、湿気、油分、皮脂に強く、24時間長持ちする化粧品として非常に適している。いくつかの好ましい実施形態はナイロン繊維を含んでおり、まつ毛のボリューム及び長さを向上させる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
詳細な説明
実施例及び比較例(operating and comparative examples)を除き、又は別段明記されない限り、材料の量若しくは比、又は反応条件、材料の物理的特性及び/又は使用を示す本明細書中に記載のすべての数字は、「約」という語により修正して理解されるべきである。別段指定されない限り、すべてのパーセンテージは、最終組成物の重量パーセントである。
【0010】
本明細書を通して「被膜形成剤」等は、基材上に塗布し、例えば被膜形成剤に付随する溶媒が蒸発し、基材中に吸収され及び/又は基材上に消散した後に基材上に被膜を残すポリマーを指す。
【0011】
「カール」とは、未処理のまつ毛と比較して、マスカラ製品が処理されたまつ毛の曲がり(上まつ毛の上向きの曲がり、下まつ毛の下向きの曲がり)を引き起こすことをいう。「長さ」は、自由な先端から皮膚に挿入されるポイントまでのまつ毛の寸法である。「フレーキング」とは、一定時間つけた後にまつ毛からマスカラの破片がはがれることをいう。「にじみ」は、一定時間つけた後、皮膚又は他の表面に触れたときに染みが付くというマスカラの性質である。にじみは、マスカラが皮膚や環境からの水分及び/又は油分と混ざることによって促進される。フレーキング及びにじみはマスカラ組成物の望ましくない品質であるが、カールと長見せ(lengthening)はしばしば好ましいものである。
【0012】
「耐移り性」は、本発明の組成物が別の物質、例えば衣服又は水との偶然の接触によって容易に除去されないことを意味する。耐移り性は、当業者に公知の任意の方法によって評価することができる。例えば、組成物は、つけた人の皮膚又は毛髪から他の何らかの基材、例えば、衣服に移った製品の量に基づいて評価することができる。例えば製品の大部分がつけた人の皮膚又は毛髪上に残っていれば、組成物は、耐移り性であり得る。さらに、移った量は、他の組成物、例えば市販の組成物の移った量と比較してもよい。本発明の好ましい実施形態において、組成物は、皮膚又は毛髪から別の基材にほとんど又は全く移らない。
【0013】
「トゥルーカラー」組成物は、塗布された組成物の色がある時間の経過後に皮膚又は毛髪への塗布時と同じ、又は実質的に同じである組成物である。
【0014】
溶剤が蒸発した後に色の強さ、トゥルーカラー及び光沢度を維持する組成物は、「優れた持ち」又は「長持ち」を呈すると称される。
【0015】
「柔軟性」のある組成物は、意図された使用目的で皮膚又は毛髪に塗布された場合に、一定期間、例えば、つけて4時間又は8時間の間、ひび割れもフレークも生じない組成物である。組成物が十分に柔軟性でない場合、その組成物は「硬い」。
【0016】
「耐水性」とは、皮膚又は毛髪上に付着した組成物が乾燥又は硬化させた後に溶解も再度湿潤することも、水分を吸収することも、又はその他、水による相当程度の不利な影響を受けることもないことを意味する。
【0017】
「単相」によって、組成物は、不均一な油中水型又は水中油型エマルジョンの形態ではなく、安定した均一な形態であることが意図される。
【0018】
「含む」等は、列挙された要素が明白に記載された要素に限定され得ないことを意味する。
【0019】
(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウム(ammonium styrene / acrylates copolymer)
本発明の第1の主成分は、スチレンとアクリル酸又はメタクリル酸からなる単量体とのポリマーのアンモニウム塩である(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウム(2-プロペン酸、エテニルベンゼンとのポリマー、アンモニウム塩)である。本発明では、(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムの被膜が、乾燥するにつれてまつ毛をカールさせる収縮力を提供する。
【0020】
本発明の組成物は、典型的には、組成物の全重量に対して、約10%から約30%の(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムを含み、例えば、組成物の全重量に対して、10%から25%、10%から20%、10%から15%、15%から30%、15%から25%、15%から20%、20%から30%、20%から25%、25%から30%、又は11.25%から27%の(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムを含む。約30%を超えると、組成物が硬くなりすぎるであろう。好ましいのは10~25%、より好ましいのは15~20%である。
【0021】
様々なガラス転移温度を有する(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムが市販されている。本発明では、これらを単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。好ましいのは、ガラス転移温度が2:1~3:1の比率であり、両方とも35℃以下である、正確に2種の(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムの組み合わせである。大きいTgと小さいTgの比率が2:1~3:1の範囲にある場合、大きいTgポリマーと小さいTgポリマーの相対的な濃度は約1:1~4:1であろう。Tgの比率が2:1~3:1の範囲外の場合は、試行錯誤によって、異なる相対濃度の2種の(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムを得ることができる。
【0022】
例えば、大同化学株式会社製のVinysol 1012JC及びVinysol 1013JHが有用であり得る。Vinysol 1012JC及びVinysol 1013JHは、(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムの45.0%水性混合物である。Vinysol 1012JC及びVinysol 1013JHは、アニオン性で、pHが6.5~9.0、粘度が5~500mPa-sと報告されている。Vinysol 1012JCの計算上のガラス転移温度(Tg)は15℃と報告されており、一方Vinysol 1013JHの計算上のガラス転移温度(Tg)は30℃と報告されている。Tgが高いほど被膜は硬くなることを意味する。これら2種のポリマーのガラス転移温度が2:1の比率であることを考えると、本発明の組成物におけるVinysol 1013JHとVinysol 1012JCの相対濃度は、約1:1~4:1となるであろう。
【0023】
前述の通り、Vinysol 1012JC及びVinysol 1013JHは、(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムの45.0%水性混合物である。したがって、Vinysol 1012JC、Vinysol 1013JH、又はこれら2種の組み合わせを使用する場合、上述の(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムの濃度を達成するためには、Vinysol 1012JCとVinysol 1013JHの合計濃度は、組成物の総重量に対して約22.2%~約66.7%であるできである。好ましくは、組成物の重量の約22.2%~55.6%、より好ましくは33.3%~44.4%、最も好ましくは約40%である。
【0024】
(アクリレーツ/VA)コポリマー
本発明の第2の主要な成分は、(アクリレーツ/VA)コポリマー(Acrylates/VA Copolymer(INCI名))、C15H26O4であり、エテニルアセテート又は2-エチルヘキシルプロパ-2-エノエート(IUPAC名)、CAS番号25067-02-1としても知られている。詳細な情報に関しては、PubChem化合物データベースCID=168269を参照されたい。
【0025】
【0026】
化粧品では、この材料は、バインダー、被膜形成剤、接着剤、毛髪固定剤として機能することが多い。しかし、本発明では、(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムの可塑剤としての(アクリレーツ/VA)コポリマーの有用性が開示される。本明細書に開示されている温度で混合すると、(アクリレーツ/VA)コポリマーは、(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムの結合の一部を緩めているようにみえる。理論に縛られるつもりはないが、おそらく(アクリレーツ/VA)コポリマーの一部が(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムの構造に挿入され、その結果、結合の一部を延ばしたり弱めたりすると考えられる。
【0027】
このように、本発明による組成物が付与するカールの度合いは、(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムと(アクリレーツ/VA)コポリマーの比率を調整することで制御することができる。本発明の組成物は、典型的には、組成物の全重量に対して0.5%~2.8%の(アクリレーツ/VA)コポリマーを含み、例えば、組成物の全重量に対して、0.5%~2.5%、0.5%~2.0%、0.5%~1.5%、0.5%~1.0%、1.0%~2.8%、1.0%~2.5%、1.0%~2.0%、1.0%~1.5%、1.5%~2.8%、1.5%~2.5%、1.5%~2.0%、2.0%~2.8%、2.0%~2.5%、又は2.5%~2.8%である。約0.5%未満の濃度の(アクリレーツ/VA)コポリマーは、(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムを十分に可塑化することができず、得られた組成物は過度に収縮し、まつ毛の不自然な過剰カールを引き起こす。また、この組成物は非常に脆く、そのためフレーキングが生じやすくなる。(アクリレーツ/VA)コポリマーの濃度が約2.8%超になると、組成物の塗布面からの除去が容易になるが、(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムの収縮力が弱くなり、まつ毛のカール効果が得られないだけでなく、マスカラの耐水性も損なわれる。本明細書で開示されている(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムと(アクリレーツ/VA)コポリマーの濃度は、優れた性能を持つ商業的に許容されるマスカラ組成物をもたらすバランスをとっている。
【0028】
(アクリレーツ/VA)コポリマーは、例えば、大同化学株式会社からVinysol 2140Lとして市販されている。Vinysol 2140Lは、pHが4.5、粘度が2,000mPa-s、計算上のガラス転移温度(Tg)が-9℃であると報告されている。Vinysol 2140Lは、(アクリレーツ/VA)コポリマーの46.6%水性混合物である。したがって、Vinysol 2140Lを使用する場合、上述の(アクリレーツ/VA)コポリマーの濃度を達成するためには、Vinysol 2140Lの濃度は、組成物の総重量に対して約1%~6%であるべきである。
【0029】
組成物の形態及び他の成分
本発明の好ましい組成物は、単一の水相であり、ゲル、ワックス、オイル、シリコーンを含まない。顔料は任意成分である。色を加えずに光沢とカールを付与する透明なコーティングの場合、組成物に顔料は含まれない。一方、本発明のカラー付与組成物の場合、組成物は典型的には最大10%までの顔料を含む。
【0030】
本発明の組成物は、組成物全体の重量に対して、少なくとも50%の水を含むべきである。この水の量は、Vinysol 2140L、Vinysol 1012JC及びVinysol 1013JHに含まれるものなど、すべてのソースからのものである。本発明の組成物の有利な特徴の1つは、使用前及び使用中は親水性であるが、乾燥時には疎水性となり、塗布した組成物をウォータープルーフにすることである。乾燥すると疎水性状態になる、水性の親水性状態において配合できること(本明細書中に記載される他の有利な特性を有しながら)は、本発明の大きな利点である。組成物が第1の又は親水性の状態にある間、水溶性成分と共に配合する能力は高くなり、化粧品の塗布はより容易で感触が良くなる。乾燥して第2の又は疎水性状態になると、塗布された組成物は、水分への曝露による分解に耐性となる。
【0031】
第1の状態で十分な親水性を達成するために、疎水性材料の使用は、組成物の総重量に基づいて約0.5%以下、好ましくは0.25%以下に制限されるべきである。一部親水性で、一部疎水性である材料は、最終組成物の性能に基づいてこの制限を超えることがある。本発明の一部の実施形態では、組成物が、疎水性の成分、例えば、疎水性の油又はワックスを含まないと好ましい。油は、周囲温度で液体の有機物質、例えばエステル、トリグリセリド、炭化水素、及びシリコーンである。化粧用組成物で使用される典型的なワックスは、カルナバワックスである。本発明の一部の実施形態では、組成物が疎水性の油又はワックスを含まないと最も好ましい。それにもかかわらず、乾燥して被膜になると、その被膜は疎水性を明らかに呈し、被膜を耐水性にする。組成物は、まつ毛への優れた接着性を持ち、その場に留まる。さらに、組成物は、高度な輝き、透明感(clarity)、トゥルーカラー、及び色の強さを維持しており、優れた長持ちする組成物となる。
【0032】
種々の成分が、消費者の体験を微調整する又は化粧用組成物の性能を増強させるために、化粧用組成物中に含まれてよい。アルコールは、例えば、塗布後の乾燥をスピードアップさせるために、及び/又は防腐剤として有用であり得る。最大5%のアルコールの量が有用であり得る。化粧用組成物はまた必要に応じて、典型的には組成物の最大約2重量%までの防腐剤も含んでもよい。また、増粘剤、粘度低下剤、及び/又はpH調整剤は、典型的には組成物の1重量%未満のレベルで、消費者に許容可能な製品を作製するために必要に応じて使用されてよい。先に挙げた成分は、このレベルにおいては組成物の化粧用又は商業用の特性に不利に作用しないと思われる。
【0033】
グリコールは、ジオール(2つのヒドロキシル基を含む化学化合物)としても公知であり、任意であるが、本発明において時には有用である。グリコール、例えば、1,3-プロパンジオールは、本組成物の凍結融解安定性を向上させるために化粧品中に典型的に使用され得る。また、グリコールは低温での(アクリレーツ/VA)コポリマーの重合を妨げる場合がある。グリコールの使用はグリコール全体を4%以下、好ましくはグリコール全体を1%以下、より好ましくはグリコール全体を0.5%以下に制限するべきである。
【0034】
エマルジョン形態は本発明から除外されるので、界面活性剤及び乳化剤を回避するか、又は付随的にごく微量に存在するだけであることが好ましい。本発明の水性組成物に存在するならば、乳化剤又は界面活性剤特性を示す任意の材料は、12未満のHLBを有するであろう。したがって、組成物の総重量に基づいて、組成物が3%以下の界面活性剤及び/又は乳化剤を含むと好ましく、界面活性剤も乳化剤も含まないことがより好ましい。
【0035】
さらに、乾燥被膜の透明感(clarity)を高めるために、組成物が、乾燥化粧用組成物の透明感又は光沢に干渉するであろうレベルの任意の種類の粘度粒子も非溶解粒子状物質も含まないとより好ましい。最低限でも、粘土粒子又は非溶解粒子状物質の濃度は、乾燥被膜で所望の光沢レベルを妨げないレベルに制限されなければならない。好ましくは本発明の組成物は、0.25%以下の粘土粒子又は非溶解粒子状物質を含み、粘度粒子も非溶解粒子状物質も含まないことがより好ましい。ただし、例外として、ナイロン繊維がある。まつ毛の伸長を向上させるために、透明なナイロン繊維を本発明の組成物に全組成物の最大約10重量%まで含有させることができる。従来のエマルジョンタイプのマスカラでは、ナイロン繊維は約2%に抑えられ得る。なぜなら、それ以上だとエマルジョンの粘度や安定性が損なわれる傾向があるためである。これは、本明細書で開示されている単相水性組成物とは異なり、透明なナイロン繊維が10%という高濃度であっても、乾燥製品の安定性、透明感、トゥルーカラー及び光沢を損なわない。
【0036】
乾燥被膜の構造に著しく干渉する薬剤は、光沢、透明感又は色を低下させ得る。したがって、本発明の組成物が合計で1.5%以下の構造化剤、例えば、キサンタンガム、ワックス、粘土(例えばベントナイト)又はステアリン酸を含むと好ましい。本発明の組成物が合計で0.05%以下の構造化剤を含むことが、より好ましい。本発明の組成物が構造化剤を含まないことが、最も好ましい。この条件に有用な例外は、ステアリン酸ナトリウムである。多くの構造化剤とは異なり、ステアリン酸ナトリウムは、一部親水性であることから、水性系に適している。ステアリン酸ナトリウムは一部疎水性ではあるが、その使用は本発明の目的を損なわないようである。これにより、構造化剤又は粘性剤を必要とする場合に、本発明のマスカラ実施形態において特に有用になる。ステアリン酸ナトリウムは、構造化剤として組成物全体の最大13重量%まで含まれ得る。それより多い量は、(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムのまつ毛をカールさせる能力を妨害すると考えられる。
【実施例】
【0037】
以下の、非限定の実施例は、本発明の付加的な実施形態を示す。
【0038】
【0039】
本発明によるマスカラ組成物を調製するための好ましい手順は以下の通りである。
1. 室温の容器の中で、(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムと(アクリレーツ/VA)コポリマーを一部の水に混合して溶解させる(Vinysol 1012JC、Vinysol 1013JH及びVinysol 2140Lのように、すでに溶液で供給されている材料を使用する場合は、このステップは省略できる)。
2. 残りの成分を段階的に加え、均一な塊になるように十分混合する。
3. 約40℃まで冷却する。
4. 組成物をパッケージに注ぐ。
5. 周囲温度まで冷却する。
【0040】
なお、上述のように組成物がステアリン酸ナトリウムを含む場合、まずステアリン酸ナトリウムを水の一部と混合し、95℃に加熱する。混合を継続し、次いでステアリン酸ナトリウムを50°まで冷却する。上記のステップ1を実行した後、アクリレーツ溶液をステアリン酸ナトリウムに加え、均一になるまで混合する。その後、上記のステップ2~5を続ける。
【0041】
本発明のマスカラ組成物は、乾燥するにつれて収縮しながらも柔軟性を維持する被膜をまつ毛に形成する。その結果、単相の水性マスカラは、高い光沢とカールを付与し、同時に移り、にじみ及びフレーキングに強い。乾燥後、塗布されたマスカラはウォータープルーフであり、長持ちする。
本発明は例えば以下の態様を含む。
[項1]
まつ毛カール用の単相水性マスカラ組成物であって、前記組成物の総重量に対して、
合計で10~30%の1種以上の(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウム、
0.5~2.8%の(アクリレーツ/VA)コポリマー、
最大10%までの顔料、
少なくとも50%の水
を含む、前記組成物。
[項2]
ガラス転移温度が2:1~3:1の比率であり、相対濃度が1:1~4:1である、正確に2種の(スチレン/アクリレーツ)コポリマーアンモニウムを含む、項1に記載の組成物。
[項3]
0.5%以下の疎水性の油又はワックスを含む、項1に記載の組成物。
[項4]
3%以下の界面活性剤又は乳化剤を含む、項1に記載の組成物。
[項5]
粘土粒子又は未溶解の粒子状物質を含まない、項1に記載の組成物。
[項6]
最大10%までの透明なナイロン繊維をさらに含む、項1に記載の組成物。
[項7]
4.0%以下のグリコールを含む、項1に記載の組成物。