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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/454 20210101AFI20230718BHJP
   H01M 10/12 20060101ALI20230718BHJP
   H01M 50/411 20210101ALI20230718BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20230718BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20230718BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20230718BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20230718BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20230718BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20230718BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20230718BHJP
   H01M 50/463 20210101ALI20230718BHJP
   H01M 50/466 20210101ALI20230718BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20230718BHJP
【FI】
H01M50/454
H01M10/12 K
H01M50/411
H01M50/414
H01M50/42
H01M50/434
H01M50/44
H01M50/443 M
H01M50/446
H01M50/46
H01M50/463 B
H01M50/466
H01M50/489
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022511930
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2021011516
(87)【国際公開番号】W WO2021200290
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2020060528
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020126309
(32)【優先日】2020-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】山田 健太郎
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-059480(JP,A)
【文献】特開2018-018800(JP,A)
【文献】特開2018-006258(JP,A)
【文献】特開2018-018802(JP,A)
【文献】特開2018-018803(JP,A)
【文献】特開2013-206571(JP,A)
【文献】特開平04-218259(JP,A)
【文献】特開2005-197145(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0344036(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01M 10/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極の間に介在するセパレータと、
前記正極と前記セパレータとの間に配置され、繊維とフィラーとを含む不織布と
を備え、
前記セパレータは、ベース部から凸状に形成されたリブを前記正極側に備え、
前記不織布の厚みTと、前記ベース部を基点とした前記リブの頂点までの高さRとの関係T/Rが、1.00超過かつ11以下である鉛蓄電池。
【請求項2】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極の間に介在するセパレータと、
前記正極と前記セパレータとの間に配置され、繊維とフィラーとを含む不織布と
を備え、
前記セパレータは、ベース部から凸状に形成されたリブを前記正極側に備え、
前記不織布の厚みTと、前記ベース部を基点とした前記リブの頂点までの高さRとの関係T/Rが、1.50以上かつ11以下である鉛蓄電池。
【請求項3】
前記不織布の平均流量孔径が、25μm以下である、請求項1又は2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記不織布の平均流量孔径が、0.05μm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記セパレータを平面視したときの有効範囲での、凸状部の面積をA、前記ベース部の面積をBとしたとき、A/(A+B)が、0.01以上0.4以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記不織布の最大孔径が、30μm以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
前記不織布の最大孔径が、0.5μm以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項8】
前記不織布の厚みが、100μm以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項9】
前記不織布の厚みが、100μm以上1300μm以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項10】
前記不織布は、アクリル系樹脂、及び/又はスチレン系樹脂を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項11】
前記アクリル系樹脂、及び/又は前記スチレン系樹脂が、シラン化合物を含む、請求項10に記載の鉛蓄電池。
【請求項12】
前記アクリル系樹脂、及び/又は前記スチレン系樹脂の100質量部に対して、前記シラン化合物中のケイ素(Si)が、0質量部超過6質量部以下である、請求項11に記載の鉛蓄電池。
【請求項13】
前記セパレータは、多孔質膜であり、そして前記多孔質膜が、鋸歯状リブ、傾斜リブ、破断リブ、直線リブ、エンボス、突起、及びこれらの組み合わせから成る群のうちの1つであるリブを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項14】
前記セパレータは、袋状であり、前記正極又は前記負極を収容している、請求項1~13のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項15】
前記セパレータは、前記負極を収容している、請求項1~14のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項16】
前記セパレータは、前記正極を収容している、請求項1~14のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項17】
前記繊維は、有機繊維を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【請求項18】
前記フィラーは、無機粒子を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用途(例えば、乗用車、バス、トラック、二輪車、及びゴルフカート)又は産業用途(例えば、フォークリフト、耕作機械、鉄道、無停電電源装置(UPS)、及び通信機器)等において、世界的に幅広く利用されている。特に、車載用途では、近年の二酸化炭素排出規制対策、燃費向上等を目的として、信号待ち又は渋滞中等にエンジンを停止する、アイドリングスタートアンドストップ(Idling Start and Stop)車(以下、「ISS車」と略記する)の開発が盛んである。
【0003】
アイドリングストップ中は、オルタネータによる発電が行われない。他方、エアコン(air conditioner)又はオーディオ、ランプ等はアイドリングストップ中も動作するため、鉛蓄電池が各種電装の電力を供給する必要があり、鉛蓄電池の放電深度は大きくなる。さらに、オルタネータの発電による鉛蓄電池の充電時間も短くなることから、鉛蓄電池は、部分充電状態(Partial State of Charge、以下、「PSоC」と略記する)での動作が続くことになる。
【0004】
鉛蓄電池はPSоCでの充放電が繰り返されると、成層化と呼ばれる現象に起因する、鉛蓄電池の劣化モードが促進される。ISS車ではPSоCが続くため、ISS車用途の鉛蓄電池の開発においては、成層化を抑制することが重要な課題である。
【0005】
また、ISS車用途の鉛蓄電池は、充放電が頻繁に繰り返される。鉛蓄電池の充放電は、極板の膨張及び/又は収縮を伴い、活物質の脱落による容量低下を引き起こす。一般的に、充放電の繰り返しによる活物質の脱落は、正極において顕著に発生することが知られており、ISS車用途の鉛蓄電池の開発においては、正極活物質の脱落を抑制することが重要な課題である。
【0006】
鉛蓄電池用セパレータとしては、AGM(Absorbed Glass Mat)というガラス繊維の不織布が、広く知られている。そのようなセパレータは、鉛蓄電池の充放電によって生じ得る成層化の抑制能が高い。また、より目の粗いガラス繊維の不織布であるガラスマットは、鉛蓄電池の充放電による活物質の脱落の抑制能が高いことが知られている。
【0007】
特許文献1には、セパレータと繊維マットを正極と負極の間に配置し、繊維マットを負極に接触させることで、成層化を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2019/087679号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、セパレータに形成されたリブによって正極活物質の脱落を抑制することに主眼を置いており、不織布を使用することによる正極活物質の脱落の抑制、又は成層化の抑制の効果は検討されていない。そのため、特許文献1に記載の技術は、正極活物質の脱落の抑制又は成層化の抑制のための鉛蓄電池の構造が最適化されておらず、ISS車用途の鉛蓄電池の寿命性能が不十分であると考えられる。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたものであり、優れたPSоCサイクル寿命性能を示す鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の技術的手段により解決される。
[1]
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極の間に介在するセパレータと、
前記正極と前記セパレータとの間に配置され、繊維とフィラーとを含む不織布と
を備え、
前記セパレータは、ベース部から凸状に形成されたリブを前記正極側に備え、
前記不織布の厚みTと、前記ベース部を基点とした前記リブの頂点までの高さRとの関係T/Rが、0.10以上かつ11以下である鉛蓄電池。
[2]
前記不織布の平均流量孔径が、25μm以下である、項目1に記載の鉛蓄電池。
[3]
前記不織布の平均流量孔径が、0.05μm以上である、項目1又は2に記載の鉛蓄電池。
[4]
前記セパレータを平面視したときの有効範囲での、凸状部の面積をA、前記ベース部の面積をBとしたとき、A/(A+B)が、0.01以上0.4以下である、項目1~3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
[5]
前記不織布の最大孔径が、30μm以下である、項目1~4のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
[6]
前記不織布の最大孔径が、0.5μm以上である、項目1~5のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
[7]
前記不織布の厚みが、100μm以上である、項目1~6のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
[8]
前記不織布の厚みが、100μm以上1300μm以下である、項目1~7のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
[9]
前記不織布は、アクリル系樹脂、及び/又はスチレン系樹脂を含む、項目1~8のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
[10]
前記アクリル系樹脂、及び/又は前記スチレン系樹脂が、シラン化合物を含む、項目9に記載の鉛蓄電池。
[11]
前記アクリル系樹脂、及び/又は前記スチレン系樹脂の100質量部に対して、前記シラン化合物中のケイ素(Si)が、0質量部超過6質量部以下である、項目10に記載の鉛蓄電池。
[12]
前記セパレータは、多孔質膜であり、そして前記多孔質膜が、鋸歯状リブ、傾斜リブ、破断リブ、直線リブ、エンボス、突起、及びこれらの組み合わせからなる群のうちの1つであるリブを含む、項目1~11のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
[13]
前記セパレータは、袋状であり、前記正極又は前記負極を収容している、項目1~12のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
[14]
前記セパレータは、前記負極を収容している、項目1~13のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
[15]
前記セパレータは、前記正極を収容している、項目1~13のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
[16]
前記繊維は、有機繊維を含む、項目1~15のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
[17]
前記フィラーは、無機粒子を含む、項目1~16のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れたPSоCサイクル寿命性能を示す鉛蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る鉛蓄電池の構成を示す概略斜視図である。
図2】本発明の実施の形態に係る鉛蓄電池の極板群の模式断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る鉛蓄電池の極板の構成、特に正極がセパレータに収納された構成の一例を示す模式図であり、その構成の斜視図(a)と断面図(b)を表示する。
図4】本発明の実施の形態に係る鉛蓄電池の極板の構成、特に負極がセパレータに収納された構成の一例を示す模式図であり、その構成の斜視図(a)と断面図(b)を表示する。
図5】本発明の実施の形態に係るセパレータの物理的構成要素を示す模式上面図である。
図6】本発明の実施の形態に係るセパレータの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、以下に示される各種の数値は、特定に明示しない限り、実施例に記載の方法により測定される。
【0015】
≪鉛蓄電池≫
本発明の鉛蓄電池は、正極、負極、正極と負極の間に介在するセパレータ、及び正極と負極の間に配置した不織布を備える。正極を構成する正極格子は鉛又は鉛合金でよく、そして正極活物質は、酸化鉛、例えば二酸化鉛でよい。負極を構成する負極格子は鉛又は鉛合金でよく、負極活物質は鉛でよく、そして鉛負極は、例えば海綿状の形態でよい。また、これらの正極及び負極の活物質については、上記組成にその他の金属元素が含まれていてよい。
【0016】
正極と負極の間に配置されるセパレータは、絶縁性及びイオン伝導性を有する膜体であることが好ましい。また、正極とセパレータの間に配置される不織布は、繊維とフィラーとを含み、好ましくは繊維とフィラーとを含む膜体である。また、本実施の形態では、PSоCサイクル寿命、又は成層化の抑制の観点から、正極と負極の間にセパレータと不織布が存在し、不織布は正極とセパレータの間に存在することが好ましい。セパレータ及び不織布に関しては、2層の重ね合わせでよく、3層以上の多層の形態もよい。そのような3層以上の形態は、少なくとも本実施の形態に係るセパレータ及び不織布を特定の2層として含み、その他の層は、任意の膜体から選択できる。
【0017】
また、本実施の形態の鉛蓄電池は、電解液として比重1.1~1.4の希硫酸を含んでよく、さらに添加剤を含んでよい。添加剤としては、サルフェーションを抑制する観点から、例えば、アルミニウムイオンを含むことができる。その他の添加剤としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン等の金属イオン、又はそれらの金属イオン源が挙げられる。
【0018】
本実施の形態に係る鉛蓄電池は、PSоCでの充放電の繰り返しにおいて、成層化又は正極活物質の脱落が抑制され、サイクル寿命性能に優れる。本実施の形態に係る鉛蓄電池は、開放式鉛蓄電池、及び、制御弁式鉛蓄電池のいずれにおいても使用可能である。
【0019】
以下、本発明を適用した鉛蓄電池の構成について説明する。
【0020】
図1は、本発明の鉛蓄電池の全体構成を例示した概略斜視図である。本図において、鉛蓄電池は、電槽1と端子2を外装として備えている。電槽1の内部には極柱3と電極群(極板群)4とを収容している。極柱3は、端子2と電極群4を接続する。また、電槽1の内部には、上記で説明された希硫酸が電解液として充填され、電極群4が浸漬されている。
【0021】
図2は、本発明の鉛蓄電池の電極群の一部を例示した模式断面図である。電極群4は、鉛又は鉛合金を格子として、酸化鉛(例えば二酸化鉛)を活物質として含む正極5と、鉛又は鉛合金を格子として、鉛(例えば海綿状鉛)を活物質として含む負極6と、正極5と負極6の間に配置されたセパレータ7と、正極5とセパレータ7の間に配置された不織布8とを備えている。セパレータ7と不織布8とを介して、板状の正極5と負極6が積層された構造であり、これらが電極群4を構成する。電極群4は、希硫酸から成る電解液に浸漬されて電槽1に収容され、鉛蓄電池を構成する。
【0022】
なお、本発明に係るセパレータは、シート状の形態として使用することができる。しかしながら、電槽底部に堆積し得る活物質による正極と負極の電気的短絡を防止する観点から、セパレータは、袋状の形態で使用されることが好ましい。
【0023】
図3は、図2の電極群に含まれる一対の正極及び負極を示す模式図の一例である。本図(a)におけるセパレータ7は袋状であり、正極5を収納している。図3(a)には不織布8が示されていないが、本図の模式断面図(b)に示すように、正極5とセパレータ7の間には、不織布8が配置されている。不織布8の使用形態としては、例えば、シート状、袋状等、いずれの形態でも使用することができる。
【0024】
また、セパレータ7を袋状の形態にして使用する場合、負極6を収納してもよい。図4は、図2の電極群に含まれる一対の負極及び正極を示す模式図の一例である。本図(a)におけるセパレータ7は袋状であり、負極6を収納している。図4(a)には不織布8が示されていないが、本図の模式断面図(b)に示すように、セパレータ7の、負極6と対向する面の反対側には、不織布8が配置されている。不織布8の使用形態としては、セパレータ7の、負極6と対向する面の反対側に配置されることを満たせば特に限定されず、例えば、シート状、袋状等、いずれかの形態でも使用することができる。
【0025】
≪セパレータ≫
本実施の形態に係るセパレータは、正極と負極の間に配置され、イオンが透過し得、電気的短絡を防止するため、微多孔質である。本実施の形態におけるセパレータは、後述する不織布より最大孔径が小さい。電気的短絡を抑制する観点から、セパレータの最大孔径は、500nm以下が好ましく、より好ましくは400nm以下であり、更に好ましくは300nm以下であり、より更に好ましくは200nm以下であり、特に好ましくは150nm以下である。
【0026】
<セパレータ材料>
セパレータは、天然又は合成材料で製造された多孔質膜であることが好ましい。多孔質膜の材料としては、ポリオレフィン、フェノール樹脂、天然若しくは合成ゴム、合成木材パルプ(SWP)、ガラス繊維、合成繊維、セルロース繊維、又はこれらの組合せ等が挙げられる。
より好ましくは、セパレータは、熱可塑性ポリマーから製造された微多孔質膜を含む。熱可塑性ポリマーとしては、鉛蓄電池の用途に適した全ての酸耐性熱可塑性材料を挙げることができる。好ましい熱可塑性ポリマーとしては、ポリビニル及びポリオレフィンが挙げられる。
ポリビニルとしては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)が挙げられる。
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、エチレン・ブテン共重合体、及びポリプロピレンが挙げられる。中でも、ポリエチレンが好ましく、少なくとも600,000の分子量(粘度測定法により測定し、マルゴリー(Margolie)の式により算出される)を有する高分子量ポリエチレンがより好ましく、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)が更に好ましい。
本明細書では、UHMWPEの分子量は、粘度測定法により測定し、マルゴリー(Margolie)の式により算出される分子量が少なくとも1,000,000であり、標準荷重メルトインデックス(2,160gの標準荷重を用いてASTM D1238(条件E)で規定されているとおりに測定される)が実質的にゼロ(0)であり、かつ粘度数(130℃においてデカリン100g中のポリオレフィン0.02gの溶液中で測定される)が600ml/g以上である。UHMWPEの分子量は、好ましくは4,000,000超であり、より好ましくは5,000,000~8,000,000である。また、UHMWPEの粘度数は、好ましくは1,000ml/g以上、より好ましくは2,000ml/g以上、最も好ましくは3,000ml/g以上である。
【0027】
更に好ましくは、セパレータは、UHMWPE、及びフィラー(適切なフィラーは後述される)を含む微多孔質膜であり、押出機で、フィラーと、UHMWPE、天然ゴム及び/又は合成ゴム等の熱可塑性ポリマーと、加工用可塑剤(例えば、プロセスオイル)とを混合することにより製造することができる。
【0028】
特定の実施の形態では、セパレータとして使用される多孔質膜又は微多孔質膜は: 約5~15質量%のポリマー、又は約10質量%のポリマー;
約10~75質量%のフィラー、又は約30質量%のフィラー;及び
約10~85質量%のプロセスオイル、又は約60質量%のプロセスオイル;
を配合することにより製造することができる。
【0029】
他の実施の形態では、フィラー含有率を上記より減らし、オイル含有率を60質量%より高くすることができ、例えば、約61質量%超、62質量%、63質量%、64質量%、65質量%、66質量%、67質量%、68質量%、69質量%又は70質量%にすることができる。
【0030】
特定の実施の形態では、フィラー:ポリマー比(質量基準)は、次の指定範囲、すなわち2:1、2.5:1、3:1、3.5:1、4.0:1、4.5:1、5.0:1、5.5:1若しくは6:1であることができ、又は2~5.5:1、2.5~5.0:1、若しくは3.0~4.5:1であることができる。
【0031】
別の実施形態では、フィラー:ポリマー比(質量基準)は、約1.5:1~約6:1、2:1~6:1、約2:1~5:1、約2:1~4:1、又は約2:1~約3:1であり得る。
【0032】
多孔質膜又は微多孔質膜においてフィラー、オイル、ポリマー(例えば、ポリエチレン)、並びに天然ゴム及び/又は合成ゴムの量は、操業性、電気抵抗(ER)、空隙率、物理的強さ、ねじれ、及びその他の所望のセパレータ特性に応じて、バランスを取ることができる。
【0033】
一実施の形態によれば、セパレータとして使用される多孔質膜は、プロセスオイル及び沈降シリカと混合された超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を含むことができる。
【0034】
別の実施の形態によれば、セパレータとして使用される微多孔質膜は、プロセスオイル、添加剤及び沈降シリカと混合されたUHMWPEを含むことができる。ここで、添加剤は、セパレータ技術分野において一般的な添加剤又は試剤(例えば、湿潤剤、着色料、帯電防止剤、界面活性剤、又はこれらの類似品等)を含むことができ、同技術分野において微量として知られる量でUHMWPEと混合されることができる。
【0035】
セパレータが、ポリマー含有微多孔質膜を1つの層として含む場合には、ポリマー含有微多孔質層を形成するための組成物は、80~100体積%のポリオレフィン、0~40体積%の可塑剤及び0~92体積%のフィラーの均一な混合物であり得る。フィラーは、予め乾燥し、微粉化してよい。適切なフィラー材料は後述される。好ましい可塑剤は、石油である。可塑剤は、容易にポリマー・フィラー・可塑剤組成物から取り除かれる成分であるので、電池用セパレータへ空隙率を付与するのに有用である。
【0036】
いくつかの実施の形態では、微多孔質膜を以下の製造プロセスにより得ることができる。先ず、押出機で、約30質量%のフィラーを約10質量%のUHMWPE、及び約60質量%のプロセスオイルと混合することにより製造してよい。加熱された押出機に成分を通過させ、押出機により押出物を生成する。生成した押出物を、ダイ及び2本の加熱されたカレンダーロールから成るニップロールに通過させて、連続ウェブを生成する。次いで、溶媒を使用してウェブからプロセスオイルの相当量を抽出し、抽出されたウェブを乾燥し、ウェブを所定の幅のレーンにスリットし、レーンをロールに巻取ることにより、微多孔質膜を製造することができる。カレンダーロールは様々な溝パターンで刻み、得られる膜にリブ、鋸歯状の縁(serrations)、エンボス等を付与することができる。代替的に又は追加的に、上記押出物として得られた膜を、追加の適切に刻まれたカレンダー又はエンボス加工ロール又はプレスに通過させることにより、リブ等を微多孔質膜に付与してもよい。
【0037】
セパレータにとって適切なフィラーとしては、シリカ、アルミナ、タルク、及びこれらの組合せが挙げられる。中でも、シリカが好ましく、乾燥及び微粉化されたシリカがより好ましい。比較的高レベルの吸油性及び比較的高レベルの鉱油との親和性を有するシリカは、本明細書に示されている種類の鉛蓄電池セパレータを製造する場合、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン)及び鉱油の混合物中に望ましく分散可能になる。加えて、本明細書で使用されるシリカは、沈降シリカ及び/又は非晶質シリカであってよい。
【0038】
いくつかの実施の形態では、フィラーは、25μm以下、22μm以下、20μm、18μm、15μm、又は10μmの平均粒径を有する。フィラーが粒子形態の場合には、所望により、フィラー粒子の平均粒径は10~25μmに調整されることができる。
フィラーがシリカ粒子の場合には、シリカ粒子の粒径は、シリカの吸油性及び/又はフィラーとしてのシリカの表面積に寄与するので、最終製品又はセパレータ中のシリカ粒子は、上記平均粒径の範囲内でよい。しかしながら、セパレータ製造プロセスにおいて、原料として使用される最初のシリカは、1つ以上のアグロメレート及び/又はアグリゲートとして入手され、約200μm以上のサイズを有し得る。
【0039】
上記で説明されたとおり、ポリエチレンと、フィラーと、天然ゴム及び/又は合成ゴムとを含む組成物から製造された微多孔質膜は、典型的には、残オイル含有物を有する。天然ゴム、及び合成ゴムについては後述される。
一実施の形態では、かかる残オイル含有物はセパレータ膜の総重量のうち約0.5%~約40%である。
別の実施の形態では、かかる残オイル含有割合は、セパレータ膜の総重量のうち約10~30%、又は総量のうち約20~30%である。
【0040】
いくつかの実施の形態では、セパレータは、シート形態であり、セパレータシート製品の質量当たり、約0.5%~約40%の範囲内のオイル含有率を有し、場合によっては、約10~約30%の残プロセスオイルを有し、場合によっては、約20~約30%の残プロセスオイル又は残オイルを有する。
【0041】
特定の実施の形態では、セパレータ中の残オイル含有物の一部又は全てを、6未満のHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)を有する界面活性剤又は非イオン性界面活性剤等の、より多くの性能を向上させる添加剤に置換してもよい。例えば、非イオン性界面活性剤等の添加剤は、微多孔質膜の総重量のうち0.5%以下の量から全量までの残オイル含有物(例えば、20又は30又は40%まで)を含み、これによりセパレータ膜中の残オイルを部分的又は完全に置換してもよい。
【0042】
本明細書に開示されているセパレータは、天然ゴム、合成ゴム、又はこれらの2種以上の混合物を含有することができる。天然ゴムとしては、例えば、ポリイソプレンの1つ以上の配合物が挙げられる。合成ゴムとしては、例えば、メチルゴム、ポリブタジエン、クロロペンゴム、ブチルゴム、ブロモブチルゴム、ポリウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、クロロスルホニルポリエチレン、ノルボルネンゴム、アクリレートゴム、フッ素ゴム及びシリコーンゴムならびにスチレン・ブタジエンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム(EPM及びEPDM)及びエチレン・酢酸ビニルゴム等の共重合体ゴムが挙げられる。ゴムは、架橋ゴムであってもよく、非架橋ゴムであってもよく、特定の好ましい実施の形態では、ゴムは非架橋ゴムである。
【0043】
特定の実施の形態では、ゴムは、架橋ゴム及び非架橋ゴムの配合物であってもよい。ゴムは、セパレータ質量(例えば、ポリオレフィンセパレータシートの質量、又はゴムを含有する層の質量)に対して、少なくとも約1質量%、2質量%、3質量%、4質量%、5質量%、6質量%、7質量%、8質量%、9質量%、又は10質量%の量で、セパレータ中に存在することができる。
【0044】
別の実施の形態では、ゴムは、セパレータ質量に対して、1~20質量%、2~20質量%、2.5~15質量%、2.5~12.5質量%、2.5~10質量%、又は5~10質量%の量で存在することができる。
【0045】
本明細書に開示されているセパレータは、鉛蓄電池の性能向上(例えば、耐酸化性の向上、湿潤性の向上、黒い残留物の低減、表面伝導率の向上、剛性の増大、及び/又は金属汚染誘導酸化に対する耐性の向上等)のために、材料、機能、及び/又は層を追加するための官能化、コーティング、処理等が表面に施されていてもよい。材料、機能及び/又は層は、ダイ塗工、スプレー塗工、ディップコート、ナイフ塗工、カーテン塗工、グラビア塗工、物理的気相成長法、原子層成長法、又は化学的気相成長法等によって表面に適用することができる。例えば、シリカ、ヒュームドシリカ、酸化シリコン、アルミナ、酸化アルミニウム、金属、金属酸化物、セルロース、炭素、及び導電性炭素材料(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック)等をセパレータ表面に施すことができる。例えば、片面が上記導電性炭素材料でコーティングされ、該片面と反対面に不織布が配置されたセパレータを挙げることができる。
【0046】
<セパレータ製造方法>
本実施の形態に係るセパレータを製造するため、ゴムを、ポリマー(例えば、ポリエチレン)、フィラー(例えば、シリカ)、並びにプロセスオイル及び/又は可塑剤と共に押出機に組み込んでもよい。
【0047】
他の実施の形態では、ゴム、必要に応じてシリカ、及び水などの材料を含む液体スラリーを形成し、ポリエチレン膜等の微多孔質膜の片側又は両側、好ましくは負極と対面する側を液体スラリーで被覆し、次いで乾燥することができ、所望により、さらに前述の微多孔質膜の面上に、これらの材料の薄膜を形成することができる。代替的には、液体スラリーによる被覆と乾燥に限定されることなく、微多孔質膜の面上に、上記の材料の薄膜を形成してよい。これらの材料から形成される膜又は層のより良好な濡れ性のため、公知の湿潤剤を、鉛蓄電池に使用するためのスラリーへ添加することができる。
【0048】
特定の実施の形態では、スラリーは、上記で例示された1つ以上の添加剤を含むこともできる。添加剤含有スラリーを微多孔質膜の片側又は両側に塗工して乾燥した後、添加剤を含有する多孔質層及び/又は薄膜をセパレータ表面に形成すると、微多孔質膜に非常に良く接着するにもかかわらず、電気抵抗を増大させないか、又は僅かに電気抵抗を増大させるにすぎない。
【0049】
また、スラリーにゴムを添加してセパレータを得た後、プレス機械又はカレンダスタックもしくはロールのいずれかを用いてセパレータをさらにプレスすることができる。プレス又はカレンダーを刻んで、リブ、溝、鋸歯状の縁、鋸歯状リブ、エンボス等をセパレータに付与してもよい。
【0050】
<リブ>
本実施の形態のセパレータは、鉛蓄電池内に配置されるときに、正極側にリブを有する。図5は、本実施の形態に係るセパレータを例示した模式上面図である。セパレータ100は、上部エッジ101と、下部エッジ103と、側面エッジ105a及び105bとを有する。また、図5には、セパレータの上面が、装置方向(「Machine Direction;MD」)と装置直交方向(「Transverse Direction;TD」)とに沿うように画定されている。本実施の形態のセパレータは、多孔質又は微多孔質膜のバックウェブ102と、バックウェブ102から延び、好ましくはセパレータの縦方向、すなわちMDに沿って配置される一連の正極側リブ104とを備えてよい。図示しているように、正極側リブ104は、鋸歯状であってよい。別の実施形態(図示せず)では、正極側リブは、溝、テクスチャー領域、バトルメント(狭間胸壁状)リブ、破断リブ、傾斜リブ、直線リブ、曲線若しくは正弦波リブ、ジグザグリブ、エンボス、ディンプル等、又はこれらの任意の組み合わせであってよい。なお、正極側リブは、バックウェブの所定の領域から延びてよく、かつ/又はバックリブの他の領域へと延びてよい。
【0051】
一実施の形態では、正極側リブは、上面視において側面エッジに対して、0°より大きく180°より小さい、又は180°より大きく360°より小さい角度で配置されてよい。また、鉛蓄電池において、セパレータの負極側にもリブを形成するときは、負極側交差リブは、セパレータの第2の表面上に、セパレータの上部エッジ(すなわちTD)にほぼ平行に配置されてよい。
【0052】
本実施の形態は、リブ104が正極(図示せず)に面している状態でセパレータ100を電池(図示せず)内に配置するが、これは必須ではない。リブ104は、正極に面している場合に正極側リブと呼ばれてよい。また、セパレータとしての微多孔質膜の反対側から延びるリブ(図示せず)は、負極(図示せず)に面し、MD又はTDに配置されてよい。負極側リブがTDに沿って配置される場合、一般に「交差リブ」と呼ばれ、以下で説明するように「負極側交差リブ」又は「Negative Cross Rib;NCR」と呼ばれる。セパレータ100は、典型的には電池内に配置されて負極側交差リブを負極に向けて位置決めするが、これは必須ではない。また、正極側リブに照らして、負極側リブは、同じリブ、より小さいリブ、縦方向のミニリブ、交差ミニリブ、NCR、対角線リブ、又はこれらの組み合わせであってよい。さらに、セパレータの負極側及び/又は正極側表面は、全体又は一部にリブがなく、セパレータの片側又は両側が平滑又は平坦であってよい。
【0053】
リブは、正極側、負極側、又は両極側で連続、不連続、多孔質、又は非多孔質でよく、負極側でミニリブ又は交差ミニリブ等であってよい。リブは、特定の好ましい実施の形態において鋸歯状(例えば鋸歯状の正極側リブ、負極側リブ、又はその両方)であってよい。鋸歯状リブは、約0.05mmから約1mmまでの平均MD長を有してよい。例えば、平均MD長は、0.05mm、0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mm、もしくは0.9mm以上、及び/又は1.0mm、0.9mm、0.8mm、0.7mm、0.6mm、0.5mm、0.4mm、0.3mm、0.2mm、もしくは0.1mm以下であってよい。本実施の形態では、正極側リブが、負極側リブと比べて、正極活物質の脱落を抑制し易く、ひいてはPSоCサイクル寿命を向上させる傾向にあることが見出された。
【0054】
セパレータのリブは、ベース部から凸部頂点までの最短距離を、リブ高さRとして画定することができる。セパレータに鋸歯状リブが存在する場合、約0.05mmから約4mmの平均リブ高さを有してよい。図6は、本実施の形態に係るセパレータを高さ方向に沿って観察した断面図を物理的に描写したものである。例示的なセパレータ100において、リブ高さ106とは、バックウェブ102の正極側リブ104を備える表面を基点とした時の、正極側リブの頂点までの高さと定義する。例えば、平均リブ高さは、約0.05mm、0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm(400μm)、0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mm、もしくは0.9mm以上、及び/又は約1.0mm、0.9mm、0.8mm、0.7mm、0.6mm、0.5mm、0.4mm、0.3mm、0.2mm、もしくは0.1mm以下であってよい。このような範囲は、セパレータの全体の厚みが、典型的に約1mm~約4mmである可能性がある工業用の牽引型スタート/ストップ電池用セパレータ、及びセパレータの全体の厚みが少し小さい(例えば、典型的には約0.3mm~約1mm)可能性がある自動車用スタート/ストップ電池用セパレータに適用されてよい。
【0055】
鋸歯状リブは、装置方向の柱状部内の平均中心間ピッチが約0.1mm~約50mmであってよい。例えば、平均中心間ピッチは、約0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.9mm、1.0mm、1.25mm、もしくは1.5mm以上、及び/又は約1.5mm、1.25mm、1.0mm、0.9mm、0.8mm、0.7mm、0.6mm、0.5mm、0.4mm、0.3mm、もしくは0.2mm以下であってよい。また、鋸歯状リブの隣接する柱状部は、装置方向の同じ位置に又はオフセットして同様に配置することができる。オフセット構造では、隣接する鋸歯状リブは、装置方向の異なる位置に配置される。
【0056】
鋸歯状リブは、平均リブ高さ:リブ底部の平均幅の比率として、約0.1:1から約500:1mでの平均高さ底幅比率を有してよい。例えば、平均高さ底幅比率は、約0.1以上:1、25以上:1、50以上:1、100以上:1、150以上:1、200以上:1、250以上:1、300以上:1、350以上:1、もしくは450以上:1、及び/又は約500以下:1、450以下:1、400以下:1、350以下:1、300以下:1、250以下:1、200以下:1、150以下:1、100以下:1、50以下:1、もしくは25以下:1であってよい。
【0057】
鋸歯状リブは、リブ底部の平均幅:リブ先端部の平均幅の比率として、約1000:1から約0.1:1までの平均底幅先端幅比率を有してよい。例えば、平均底幅先端幅比率は、約0.1以上:1、1以上:1、2以上:1、3以上:1、4以上:1、5以上:1、6以上:1、7以上:1、8以上:1、9以上:1、10以上:1、15以上:1、20以上:1、25以上:1、50以上:1、100以上:1、150以上:1、200以上:1、250以上:1、300以上:1、350以上:1、450以上:1、500以上:1、550以上:1、600以上:1、650以上:1、700以上:1、750以上:1、800以上:1、850以上:1、900以上:1、950以上:1、及び/又は約1000以下:1、950以下:1、900以下:1、850以下:1、800以下:1、750以下:1、700以下:1、650以下:1、600以下:1、550以下:1、500以下:1、450以下:1、400以下:1、350以下:1、300以下:1、250以下:1、200以下:1、150以下:1、100以下:1、50以下:1、25以下:1、20以下:1、15以下:1、10以下:1、9以下:1、8以下:1、7以下:1、6以下:1、5以下:1、4以下:1、3以下:1、2以下:1、もしくは1以下:1であってよい。
【0058】
一実施の形態において、セパレータは、直線リブ、鋸歯状リブ、ディンプル、又はこれらの組み合わせを特徴とすることができる。例えば、セパレータは、上から下に延びる一連の鋸歯状リブと、水平に延びる第2の一連の鋸歯状リブとを有してよい。他の実施の形態において、セパレータは、直線リブ、鋸歯状リブ、ディンプル、連続リブ、中断リブ、破断した直線リブ、又はこれらの組み合わせが交互に連なってよい。
【0059】
一実施の形態において、セパレータは、多孔質膜であり、かつ突起として膜の反対の面に負極側の縦方向又は交差リブを有してよい。負極側(すなわち背面)リブは、セパレータの上部エッジに平行であってよく、又は上面視において上部エッジに対して特定の角度で配置されてよい。例えば、交差リブは、上部エッジに対して約90°、80°、75°、60°、50°、45°、35°、25°、15°又は5°で配向されてよい。交差リブは、上部エッジに対して約90~60°、60~30°、60~45°、45~30°、又は30~0°で配向されてよい。典型的には、交差リブは、負極に面している膜の面上に存在する。
【0060】
一実施の形態において、リブ付き膜は、少なくとも約0.005mm、0.01mm、0.025mm、0.05mm、0.075mm、0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.9mm、又は1.0mmの横方向交差リブ高さ(HNCR)を有してよく、又はリブ付き膜は、約1.0mm、0.5mm、0.25mm、0.20mm、0.15mm、0.10mm又は0.05mm以下のHNCRを有してよい。
【0061】
一実施の形態において、リブ付き膜は、少なくとも約0.005mm、0.01mm、0.025mm、0.05mm、0.075mm、0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.9mm、又は1.0mmの横方向交差リブ幅を有してよい。一実施の形態において、リブ付き膜は、約1.0mm、0.5mm、0.25mm、0.20mm、0.15mm、0.10mm又は0.05mm以下の横方向交差リブ幅を有してよい。
【0062】
特定の実施の形態において、セパレータとして使用される多孔質膜は、約0.10~0.15mmの横方向交差リブ高さ、及び約0.10~0.15mmの縦方向リブ高さを有してよい。一実施の形態において、多孔質膜は、約0.10~0.125mmの横方向交差リブ高さ、及び約0.10~0.125mmの縦方向リブ高さを有してよい。
【0063】
上記で説明された負極側交差リブは、正極側リブより小さく、かつ互いに近接していてよい。正極側リブ104は、8μm~1mmの高さを有し、1μm~20mmだけ離間することができるのに対し、セパレータとしてのポリオレフィン微多孔質膜の好ましいバックウェブ厚み(リブ又はエンボスを含まない)は、約50μm~約500μm(例えば特定の実施の形態において、約125μm以下)であってよい。例えば、複数のリブは、互いに、0.05mm以上、0.1mm以上、0.2mm以上、0.3mm以上、0.4mm以上、0.5mm以上、0.6mm以上、0.7mm以上、0.8mm以上、0.9mm以上、1.0mm以上、1.1mm以上、1.2mm以上、1.3mm以上、1.4mm以上、1.5mm以上、1.6mm以上、1.7mm以上、1.8mm以上、1.9mm以上、2.0mm以上、そして最大で20mmまで離れてよい。ここで、バックウェブ厚み107とは、図6の例示的セパレータ100における、バックウェブ102の厚みと定義する。
【0064】
負極側交差リブは、好ましくは約25μm~約100μm、より好ましくは約50μm~75μmの高さを有してよく、又は高さが25μmより小さくてもよい。一部の例において、NCRの高さは、約25μm~約250μmであり、好ましくは約50μm~125μm、又は好ましくは約50μm~75μmであってよい。
【0065】
セパレータを平面視したときの有効範囲における、凸状部としてのリブ凸部の面積をA、ベース部の面積をBとしたとき、A/(A+B)は、リブが不織布を電極へ押さえ付けることによって活物質の脱落を抑制する効果を得る観点から、0.01以上であることが好ましく、より好ましくは0.02以上であり、更に好ましくは0.03以上であり、より更に好ましくは0.04以上であり、なお更に好ましくは0.05以上であり、特に好ましくは0.06以上である。また、リブが存在しない部分においては不織布が電極へ押さえ付けられず、不織布の微多孔構造が維持されるため電解液が浸透し易い。電解液が電極近傍に豊富に存在することで、鉛蓄電池の容量を確保する観点から、A/(A+B)は、0.4以下であることが好ましく、より好ましくは0.35以下であり、更に好ましくは0.3以下であり、より更に好ましくは0.25以下であり、なお更に好ましくは0.20以下であり、特に好ましくは0.15以下である。
【0066】
なお、リブ寸法に関する数値、例えば、エッジに対する角度、高さ、幅、長さ、ピッチ等は、例えばセパレータの断面/表面SEM(走査型電子顕微鏡)観察により得られる。SEM観察の詳細な条件は、実施例において後述される。
【0067】
<セパレータ厚み>
いくつかの実施の形態では、セパレータは、厚みが少なくとも約50μm、少なくとも約75μm、少なくとも約100μm、少なくとも約125μm、少なくとも約150μm、少なくとも約175μm、少なくとも約200μm、少なくとも約225μm、少なくとも約250μm、少なくとも約275μm、少なくとも約300μm、少なくとも約325μm、少なくとも約350μm、少なくとも約375μm、少なくとも約400μm、少なくとも約425μm、少なくとも約450μm、少なくとも約475μm、又は少なくとも約500μmのバックウェブを備えることができる。
【0068】
≪不織布≫
本実施の形態に係る不織布は、正極とセパレータの間に配置される多孔体である。本実施の形態に係る不織布を使用することで、PSоCでの充放電における成層化、及び正極活物質の脱落を抑制することができる。繊維の絡み合いによって強度が高まる観点から、不織布は繊維を含む。繊維としては、無機繊維、芯鞘型繊維、有機繊維(芯鞘型繊維を除く)等、種々の形態の繊維を用いることができる。フィラーを繊維と複合して用いることによって、細孔を作ることができる観点、及び/又は複数の繊維間の空隙部分にフィラーを保持して不織布の細孔径を制御することで、硫酸イオンの沈降の抑制又は正極活物質の保持に寄与する観点から、不織布はフィラーを含む。フィラーとしては、無機粒子、有機粒子、及び有機-無機複合粒子から成る群から選択される少なくとも1つを用いることができる。中でも、有機粒子及び有機-無機複合粒子は、無機粒子と比較して、一般的に密度が低く、粉体取り扱い時に飛散し易いことが多い。したがって、取り扱い性の観点からは、無機粒子が、粉体取り扱い時に空間中に粒子が飛散し難いため好ましい。なお、本発明に係る不織布は、上記セパレータより大きい最大孔径を有する点で、上記セパレータとは区別される。また、本発明に係る不織布は、鉛蓄電池における使用時に正極とセパレータの間に配置されることを満たす限り、電極の製造中に、電極の表面に貼り付けて使用することもできる。
【0069】
<不織布材料>
[繊維]
本実施の形態に係る不織布は、不織布が繊維の絡み合いによって強度が高まる観点、及び/又は上記で説明された粒子を複数の繊維間に保持して細孔径を小さくする観点から、繊維を含む。これらの観点から、繊維は、無機繊維と有機繊維のいずれも用いることができる。なお、本明細書における繊維径は、不織布に含まれる繊維に関して、走査型電子顕微鏡(SEM)による不織布の断面観察を行うことで観察される繊維の繊維径Φ(μm)である。繊維断面が真円ではない場合の繊維径Φは、繊維断面の内接円の直径をΦ(μm)とし、繊維断面の外接円の直径をΦ(μm)として、下記式:
Φ=(Φ+Φ)/2
より求めるものとする。また、本明細書における平均繊維径は、不織布の断面観察で無作為にセパレータから選定した50本の繊維に関して、上記手法で各々の繊維径Φを求め、該50本分の繊維径の相加平均値より求める値である。例えば、無機繊維の平均繊維径とは、上記観察で無作為に選定した50本の無機繊維に関して、上記手法で各々の繊維径Φを求め、該50本分の無機繊維径より求める相加平均値である。
【0070】
〔無機繊維〕
無機繊維の材料の例としては、ガラス繊維、アルミナ繊維等を使用することで、不織布と電解液である希硫酸との濡れ性が向上し、電解液が不織布内部に浸透し易くなる。その結果、鉛蓄電池の充電時に電極から発生する酸素及び水素ガスが、不織布内に保持されることを抑制し、電気抵抗の上昇を抑制することができる。この観点から、また、鉛蓄電池の成層化を抑制する観点から、本実施の形態に係る不織布は、無機繊維を含んでいることが好ましく、中でも、ガラス繊維又はアルミナ繊維を含んでいることが好ましい。ガラス繊維の中でも、鉛蓄電池の電解液である希硫酸に対する耐酸性に優れた組成(例えば、Cガラス組成)を使用することが好ましい。また、繊維同士の絡み合いによる不織布の膜強度向上の観点から、ウール状のガラス繊維を使用することが好ましい。
【0071】
また、無機繊維による網目構造によって、不織布内に微細な細孔を形成する観点、及び/又は上述した鉛蓄電池の電槽内における成層化を抑制する観点から、無機繊維の平均繊維径は、500μm以下が好ましく、より好ましくは100μm以下であり、更に好ましくは50μm以下であり、より更に好ましくは30μm以下であり、なお更に好ましくは20μm以下であり、特に好ましくは10μm以下であり、最も好ましくは5μm以下、3μm以下、2μm以下、1μm以下、又は1μm以下である。また、製造上の難易度から、無機繊維の平均繊維径は、0.05μm以上が好ましく、より好ましくは0.1μm以上であり、更に好ましくは0.3μm以上であり、より更に好ましくは0.5μm以上である。
【0072】
〔有機繊維〕
本実施の形態に係る不織布は、有機繊維を含むことが好ましく、有機繊維として、耐酸性に優れ安価なポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリ-1,3-トリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、カーボン繊維、ポリオレフィン繊維(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、耐熱性に優れたPA9T等のポリアミド繊維、セルロース繊維等が例示できる。本発明の効果を奏する範囲内で、これらの例示以外の有機繊維を使用することも可能である。
【0073】
・芯鞘型繊維
本実施の形態に係る不織布は、芯鞘型繊維を含むことが好ましい。芯鞘型繊維が不織布内部で三次元的網目構造を形成し、かつ該網目構造は鞘の融解成分によって強固に結着される為、高い耐熱性、特に希硫酸中での高い耐熱性(重量保持性、及び形状保持性)を示す。
【0074】
本明細書における芯鞘型繊維とは、繊維(芯)表面の一部又は全面が、融点150℃以下の有機成分(鞘)で被覆された繊維であり、かつ、上記芯の融点は上記鞘の融点より高い繊維と定義する。一般的に、湿式抄造工程で使用される湿紙乾燥工程が200℃以下であるため、該芯鞘型繊維表面の一部又は全面が融点200℃未満であることがより好ましい。芯鞘型繊維と周辺材料とを均一かつ強く結着させる観点から、芯鞘型繊維(芯)表面の好ましくは20%以上の面積が、より好ましくは50%以上の面積が、更に好ましくは70%以上の面積が、最も好ましくは100%の面積が、鞘で被覆される。例えば、サイド-バイ-サイド型繊維(融点の異なる2種以上の繊維が、繊維長手方向に同一繊維として複合化された繊維)のように、繊維(芯)の表面の一部が、該芯より低融点の有機成分(鞘)で被覆されたものも、広義の意味で本実施の形態に係る芯鞘型繊維に含むものとする。また、鞘は1種の組成に限定されることは無く、2種以上の鞘組成が芯を被覆していてもよい。その場合、芯鞘型繊維に含まれる最も融点の高い繊維を芯とする。不織布中での複数種の材料間の均一な結着を考慮すると、芯表面が全て1種の組成の鞘で被覆された芯鞘型繊維が好ましい。また、不織布中での複数種の材料間の均一な結着を考慮すると、芯表面の全面が有機成分(鞘)で被覆されていることが好ましい。芯鞘型繊維を繊維長手方向に対して垂直かつ短手方向にカットした断面は円形である必要は無いが、不織布のその他の材料と均一に結着する観点を考慮すると、円形であることが好ましい。該断面に占める芯の形状も任意に決定されることができ、同様の観点を考慮すると円形であることが好ましい。また、無機繊維表面(例えばガラス繊維)が融点200℃未満の有機成分(鞘)で被覆され、かつ、上記無機繊維の融点が上記有機成分の融点より高い繊維も、広義において本実施の形態に係る芯鞘型繊維に含まれるものとする。なお、本明細書では、上記無機繊維表面を融200℃未満の有機成分(鞘)で被覆した繊維は、芯鞘型繊維とみなし、上述した無機繊維(無機成分のみから成る繊維)とは区別する。軽い不織布を作製する観点、及び不織布の高密度化(プレス加工等)時に掛かる応力で無機繊維が折れ易く、切れ易いという観点を考慮すると、芯鞘型繊維の芯と鞘の双方が有機成分であることが好ましい。
【0075】
なお、本明細書における融解成分とは、上記で説明された芯鞘型繊維の鞘を意味する。また、本実施の形態に係る芯鞘型繊維の非融解成分とは、該芯鞘型繊維の芯を意味する。
【0076】
また、本明細書における融点とは、空気中で材料を室温から10℃/minの昇温速度で加熱した際に、材料が融解変形し始める融解温度である。なお、該融解には、形状変化を伴う軟化も含まれるものとする。例えば、特定の芯鞘型繊維を他の材料(例えば、繊維又は粒子又は樹脂等)と接点を持つ状態で静置し、室温から10℃/minの昇温速度で200℃まで加熱し、その後室温まで冷却した時に、該芯鞘型繊維表面が融解変形して、他の材料と融着点を形成している場合、又は、該芯鞘型繊維の断面形状が変化している場合、該芯鞘型繊維の融解成分の融点は200℃未満である。
【0077】
芯鞘型繊維は、例えば湿式抄造プロセスの加熱乾燥時(例えば、鞘の融点以上、芯の融点未満の温度での乾燥時)に、芯が融解せず繊維状に残る為、融解成分が、芯周辺に留まり易く、他の材料(例えば、無機繊維、粒子等)に融解成分が濡れ広がり難い。その為、芯鞘型繊維は、不織布の細孔が埋まって電気抵抗が高くなることを抑制する。また、加熱乾燥時に鞘が融けた際、不織布内に芯が繊維状に残る為、芯繊維の網目構造と鞘由来の融解成分の結着により、不織布内に強固な3次元網目構造が形成されることができて、不織布の強度が高くなる。また、不織布の高い膜強度と低い電気抵抗を両立する観点から、本実施の形態に係る芯鞘型繊維の融解成分は、融点150℃以下のポリエステルであることが好ましい。他方、芯鞘型繊維の非融解成分としては、融点200℃以上のポリエステルが好ましい。別の実施の形態では融点が200℃未満の融解成分の場合、比較的低い加熱乾燥温度で不織布を作製することが可能である。
【0078】
また、融点以上に加熱すると全体が融解する繊維(以下「全融解型繊維」という)との比較から、融解成分と非融解成分の両方を有する芯鞘型繊維の利点を以下に説明する。全融解型繊維は、同じ長さかつ同じ直径の芯鞘型繊維と比較して、繊維に占める融解成分の割合が多い為、他の材料(例えば繊維、粒子等)に濡れ広がり易く、結果として不織布の電気抵抗が上昇し易い。また、全融解型繊維を融点以上に加熱すると、芯鞘型繊維の芯部のように融け残る成分が無い為、繊維全体が融解して他の材料に濡れ広がり易い。その結果として、全融解型繊維を用いて得られる不織布には、融解成分の痩せ細った領域が形成され、芯鞘型繊維と比較して、不織布の機械的膜強度が低くなる。したがって、本実施の形態に係る不織布は、芯鞘型繊維を使用することが好ましい。
【0079】
本実施の形態に係る芯鞘型繊維は、特定の樹脂組成に限定されるものではないが、その芯鞘型繊維の芯組成としては、鉛蓄電池の電解液の希硫酸に対して化学的に安定な、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ-1,3-トリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン)等が例示でき、低価格で比重が水より大きい(すなわち、水系スラリー作製時にスラリー表面に浮遊し難い)PETが好ましい。また、上記芯は、ガラス又はアルミナ等の無機成分であってもよい。
【0080】
芯鞘型繊維の鞘組成の例としては、低温で鞘を融解させる観点から有機成分であることが好ましく、融点200℃未満のポリエステル、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、EVOH(エチレン・ビニル共重合体)等が例示でき、中でも鉛蓄電池の電解液の希硫酸に対して化学的に安定な、ポリエステル、ポリエチレン、及びポリプロピレンが好ましい。融解成分が親水材料の無機粒子又はガラス繊維に濡れ広がり難く、かつ、不織布の細孔を埋め難く、かつ、抵抗上昇を抑制し易いポリエステルが好ましく、セパレータ製造時の加工温度を下げる観点から、融点200℃未満のポリエステルであることがより好ましい。
【0081】
また、本実施の形態に係る芯鞘型繊維においては、非晶性の鞘と結晶性の鞘のいずれを選択してもよい。非晶性の鞘は、芯鞘型繊維の融解成分による結着性に優れ、結晶性の鞘は、耐酸化性、耐薬品性等に優れる。鞘の例として、非晶性のポリエステル、結晶性のポリエステルが例示できる。これらのポリエステルは、加工温度を下げる観点から融点200℃未満が好ましい。
【0082】
代表的な芯鞘型繊維としては、芯が融点200℃以上のPETで鞘が融点150℃以下のポリエステルから成る繊維、芯が融点200℃以上のPETで鞘が融点200℃未満のポリエチレンから成る繊維、芯が融点200℃以上のPETで鞘が融点200℃未満のポリプロピレンから成る繊維、鞘が融点200℃未満のポリエチレン又はポリプロピレンで芯が該鞘より高融点のポリプロピレンから成る繊維、芯が融点200℃以上のPETで鞘が融点200℃未満のEVOHから成る繊維等が挙げられる。中でも、不織布の電気抵抗の上昇を抑制し、希硫酸に対する耐性を高める観点から、芯が融点200℃以上のPETで鞘が融点200℃未満のポリエステルから成る繊維が好ましい。
【0083】
芯鞘型繊維の鞘成分と芯成分の重量比(融解成分重量(g)/非融解成分重量(g))は、不織布内に、芯鞘型繊維による三次元網目構造を形成し、該網目構造の繊維間の結着力を高めて、希硫酸中での耐熱性(重量保持性、形状保持性)を向上させる観点から、0.06以上が好ましく、より好ましくは0.10以上であり、更に好ましくは0.15以上であり、更に好ましくは0.20以上であり、より更に好ましくは0.30以上であり、なお更に好ましくは0.40以上であり、特に好ましくは0.50以上であり、最も好ましくは0.60以上である。また、(i)不織布の加熱乾燥時に、融解成分が融けて、繊維状の非融解成分が不織布に残ると、不織布に非融解成分由来の強度を付与することができ、又は(ii)芯鞘型繊維に占める融解成分の割合を減らすことで、融解成分が不織布の細孔を埋めることを抑制できる。上記の観点(i)又は(ii)から、重量比(融解成分重量(g)/非融解成分重量(g))は、50以下が好ましく、より好ましくは10以下であり、更に好ましくは9.0以下であり、より更に好ましくは8.0以下であり、なお更に好ましくは7.0以下であり、特に好ましくは6.0以下であり、最も好ましくは5.0以下、4.0以下、3.0以下、2.0以下、又は1.6以下である。
【0084】
また、芯鞘型繊維の鞘の融点が低くなるにつれて耐熱性が低くなり、一方で該融点が高くなるにつれて、鞘を十分融解させる為に必要な加熱乾燥温度が高くなることから、鞘成分の融点は、50℃超過かつ200℃未満であることが好ましく、より好ましくは60℃超過かつ190℃未満、更に好ましくは65℃~180℃、より更に好ましくは85℃~170℃であり、なお更に好ましくは90℃~150℃、特に好ましくは100℃~150℃である。また、芯鞘型繊維の芯の融点が低くなるにつれて必然的に鞘の融点も下がることで耐熱性が低くなることから、芯の融点は、60℃以上が好ましく、より好ましくは、100℃以上であり、更に好ましくは150℃以上であり、より更に好ましくは200℃超過であり、なお更に好ましくは220℃超過であり、特に好ましくは240℃以上である。
【0085】
また、本実施の形態に係る不織布を湿式抄造する場合、水系のスラリー表層に繊維が浮遊することを抑制し、芯鞘型繊維を均一に分散させる観点から、芯鞘型繊維の比重が水の比重よりも大きいことが好ましい。そのような観点から、本実施の形態に係る芯鞘型繊維の組成に、ポリエステルを含んでいることが好ましく、芯がPETで鞘がポリエステルから成る芯鞘型繊維がより好ましい。
【0086】
上述した有機繊維は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。上記芯鞘型繊維及び上記芯鞘型繊維以外の有機繊維の繊維長は、繊維1本当たりの材料間の結着点を増やして、不織布の強度、特に膜形態の場合の膜強度を高める観点から、0.5mm以上が好ましく、より好ましくは1mm以上、更に好ましくは2mm以上、より更に好ましくは3mm以上である。また、湿式抄造時のスラリー中での繊維同士の絡まりを抑制し、繊維のスラリー中での分散性を高める観点から、繊維長は、300mm以下が好ましく、より好ましくは100mm以下であり、更に好ましくは50mm以下であり、より更に好ましくは30mm以下であり、なお更に好ましくは15mm以下であり、特に好ましくは10mm以下であり、最も好ましくは8mm以下である。
【0087】
上記芯鞘型繊維及び上記芯鞘型繊維以外の有機繊維の平均繊維径(直径)は、湿式抄造時のスラリー中での繊維同士の絡まりを抑制し、繊維のスラリー中での分散性を高める観点から、0.1μm以上が好ましく、より好ましくは0.5μm以上であり、更に好ましくは1μm以上であり、より更に好ましくは3μm以上であり、なお更に好ましくは5μm以上であり、特に好ましくは8μm以上である。また、不織布に同一重量かつ同一繊維長の繊維を付与した場合、繊維の直径が小さい方が、繊維本数が多くなり、繊維による緻密な網目構造を付与することができる為、上記芯鞘型繊維及び上記芯鞘型繊維以外の有機繊維の平均繊維径(直径)は、500μm以下が好ましく、より好ましくは50μm以下であり、更に好ましくは30μm以下であり、より更に好ましくは25μm以下であり、特に好ましくは20μm以下である。
【0088】
[不織布用フィラー]
本実施の形態に係る不織布は、次の3つの観点から、フィラーを含むことが好ましい:
(i)フィラーを本実施の形態に係る不織布と複合化することによって、細孔を作ることができる観点;
(ii)複数の繊維間の空隙部分にフィラーを保持して不織布の細孔径を小さくすることで、充放電サイクル中に活物質を保持して脱落を抑制する観点;及び
(iii)デンドライトショート又は活物質が不織布に入り込むことによる短絡を抑制する観点。
上記(i)~(iii)の観点から、不織布用フィラーとしては、無機粒子、有機粒子、及び有機-無機複合粒子のいずれでも用いることができる。有機粒子及び有機-無機複合粒子は、無機粒子と比較して一般的に密度が低いことが多い為、粉体取り扱い時に空間中に粒子が飛散し難い無機粒子であることが好ましい。また、不織布用フィラーは、無機粒子の場合には、上記で説明されたセパレータに適したフィラーと同じでもよい。
【0089】
有機粒子及び有機-無機複合粒子を使用する場合、不織布の製造時(特に加熱工程)に不織布中に粒子形状を残したまま複合化することで、不織布に細孔を形成することができる。不織布中に粒子形状を残す観点から、有機粒子及び有機-無機複合粒子に含まれる有機成分の融点は、芯鞘型繊維の鞘の融点より高いことが好ましく、芯鞘型繊維の鞘の融点より5℃以上高いことが好ましく、より好ましくは10℃以上高いことであり、更に好ましくは20℃以上高いことであり、より更に好ましくは100℃以上高いことである。
【0090】
無機粒子の材料の例としては、シリカ(沈降法シリカ、ゲル化法シリカ、ヒュームドシリカ等)、アルミナ、硫酸塩(例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム)、チタニア(ルチル型、アナターゼ型)、ギブサイト、バイヤライト、ベーマイト、ジルコニア、マグネシア、セリア、イツトリア、酸化亜鉛及び酸化鉄等の酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン及び窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、チタン酸カリウム、タルク、合成カオリナイト、カオリンクレー、カオリン(カオリナイト、ディク石、ナルク石)、焼成カオリンフライボンタイト、スチブンサイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、オーディナイト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、ボルコンスコアイト、サポナイト、ヘクトライト、フッ素ヘクトライト、ソーコナイト、スインホルダイト、バーミキュライト、フッ素バーミキュライト、バーチェリン、セリサイト、アメサイト、ケリアイト、フレイポナイト、プリンドリアイト、ベントナイト、ゼオライト、黒雲母、金雲母、フッ素金雲母、鉄雲母、イーストナイト、テニオライト、シデロフィライト、テトラフェリ鉄雲母、鱗雲母、フッ素四ケイ素雲母、ポリリシオナイト、白雲母、セラドン石、鉄セラドン石、鉄アルミノセラドン石、アルミノセラドン石、砥部雲母、ソーダ雲母、クリンナイト、木下、ビテ雲母、アナンダ石、真珠雲母、クリノクロア、シャモサイト、ペナンタイト、ニマイト、ベイリクロア、ドンバサイト、クッケアサイト、スドーアイト、ハイドロタルサイト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ藻土及びケイ砂等が挙げられる。
【0091】
上記例示の中でも、不織布に使用するフィラーとしては、耐酸性及び耐酸化性に優れ親水性の高い、シリカ、アルミナ、カオリン、チタニア、ケイ酸アルミニウム又は硫酸バリウムの粒子が好ましい。鉛蓄電池において成層化を抑制するためには、電解液中において硫酸濃度を空間的に均一に保つことが必要である。硫酸濃度を均一化するためには、電池反応により電極表面から放出される硫酸の沈降を、不織布によって抑制する必要がある。そのために、無機粒子の表面に硫酸を静電気的相互作用で吸着・保持する観点から、アルミナ、シリカ又はカオリン等の粒子を使用することがより好ましい。また、本実施の形態に係る不織布によって、鉛蓄電池の正極及び負極における低導電性サルフェーションの形成又は進行を抑制する観点から、無機粒子に硫酸バリウムを使用することが好ましい。
【0092】
本実施の形態に係る不織布用フィラーは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0093】
不織布用フィラーの粒子径は、不織布に微細な細孔を形成する観点から、18μm未満が好ましく、より好ましくは17μm以下であり、更に好ましくは16μm以下であり、より更に好ましくは15μm以下であり、なお更に好ましくは14μm以下であり、特に好ましくは13μm以下であり、最も好ましくは12μm以下である。該粒子径は、不織布の全体に微細な細孔を形成する観点から、平均粒子径であることが好ましい。また、フィラーが不織布を構成する繊維のネットワークに保持され易くする観点、及びフィラーが保持されることによって不織布に微細な細孔を形成する観点から、フィラーの粒子径は、6μm以上が好ましく、より好ましくは7μm以上であり、更に好ましくは8μm以上であり、より更に好ましくは9μm以上であり、特に好ましくは10μm以上である。該粒子径は、不織布の全体に微細な細孔を形成する観点から、平均粒子径であることが好ましい。
【0094】
[不織布用樹脂]
本実施の形態に係る不織布は、上記繊維の有機成分、及び上記粒子の有機成分を除いた有機成分としての樹脂を含有することが好ましい。不織布用樹脂は、不織布中で粒子形状を持っていない点において、上述された粒子と区別することができる。樹脂成分が、一連の湿式抄造プロセスの加熱乾燥工程等で融解し、粒子又は繊維と結着することで、微細な多孔構造を持つ不織布を作製することができる。また、樹脂成分が、一連の湿式抄造プロセスの加熱乾燥工程等で融解し、不織布の細孔の大部分を埋めてしまうと、不織布を電極間に備える鉛蓄電池の電気抵抗が上昇する。樹脂成分の加熱時流動性を抑制することで不織布内に細孔を残し、低い電気抵抗を維持することができる。不織布に微細な多孔構造を形成する観点、及び、樹脂成分の加熱時流動性を抑制することで多孔体に細孔を残し、不織布を鉛蓄電池の電極間に使用した時に希硫酸中で低い電気抵抗を低く維持する観点から、本実施の形態に係る樹脂は、以下に例示するものが好ましい。
【0095】
本実施の形態における不織布用樹脂の好ましい具体例としては、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル・ウレタン系樹脂、アクリル・スチレン系樹脂、酢酸ビニル・アクリル系樹脂、スチレン・ブタジエン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン系樹脂、天然ゴム系樹脂、ポリブタジエン系樹脂(BR樹脂)、メチルメタクリレート・ブタジエン系樹脂、2-ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン系樹脂(VP樹脂)、クロロプレン樹脂、ポリエチレン又はポリプロピレン又はポリブテン又はそれらの共重合体等のポリオレフィン系樹脂、該ポリオレフィン系樹脂を塩素化又は酸変性した変性ポリオレフィン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン又はポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体又はエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム、(メタ)アクリル酸-スチレン-ブタジエン共重合体樹脂及びその水素化物、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアルコール・ポリアセテート共重合体樹脂等がある。
【0096】
上記具体例の中でも、アクリル系樹脂、及び/又はスチレン系樹脂が、粒子又は繊維との結着性に優れ、かつ耐酸性に優れるため、不織布としての使用に際してより好ましい。
【0097】
なお、本明細書でアクリル系樹脂と表記した場合、アクリル・ウレタン系樹脂、アクリル・スチレン系樹脂、アクリル・スチレン・ブタジエン系樹脂、酢酸ビニル・アクリル系樹脂、アクリル樹脂等の重合体を含む。
【0098】
また、本明細書でスチレン系樹脂と表記したものは、アクリル・スチレン系樹脂、スチレン・ブタジエン系樹脂、アクリル・スチレン・ブタジエン系樹脂、2-ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン系樹脂、スチレン樹脂等の重合体を含む。
【0099】
これらの樹脂は、上記例示した組成に、その他の成分が1種以上含まれていてもよい。なお、本実施の形態に係る樹脂は、1種に限定されず、本発明の効果が得られる範囲内で、複数種を併用することができる。例えば、アクリル系樹脂とスチレン系樹脂の組み合わせ等が例示できる。
【0100】
本実施の形態における不織布用樹脂は、シラン化合物を含むことが好ましく、より好ましくは、アクリル系樹脂、及び/又はスチレン系樹脂がシラン化合物を含む。不織布用樹脂シラン化合物を含むことによって、不織布と希硫酸電解液の親和性を高めることができ、成層化抑制の性能を向上させることができる。成層化抑制の性能をさらに向上させるという観点から、不織布においては、アクリル系樹脂及び/又はスチレン系樹脂の100質量部に対して、シラン化合物中のケイ素(Si)が、0質量部超過6質量部以下であることが好ましく、1質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
【0101】
本実施の形態におけるシラン化合物の例としては、アルコキシシラン基を含有する重合性単量体であれば特に限定されないが、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも好ましくは、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、及びγ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランである。これらの中で、より好ましくは、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及びγ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランである。
【0102】
本実施の形態の不織布では、シラン化合物が含まれる樹脂を使用することにより、シラン化合物が持つSi-O結合等に由来する極性のため、硫酸がセパレータに浸透し易くなることにより、成層化抑制能を高めることができる。シラン化合物中のケイ素(Si)と、樹脂の重量比(シラン化合物中のSi(g)/樹脂固形分(g))は、成層化抑制の効果を十分に得られる観点から、0超過が好ましく、より好ましくは0.001以上であり、更に好ましくは0.005以上であり、より更に好ましくは0.01以上であり、なお更に好ましくは0.03以上であり、特に好ましくは0.05以上であり、最も好ましくは0.07以上である。
【0103】
不織布が有機繊維を含むと、相対的に高い疎水性を示す。樹脂がシラン化合物を含むと、セパレータの親水性が高くなり成層化抑制能が向上する。シラン化合物中のSiと樹脂との重量比(シラン化合物中のSi(g)/樹脂(g))は、成層化抑制効果の観点から、0超過が好ましく、より好ましくは0.001以上であり、更に好ましくは0.005以上であり、より更に好ましくは0.01以上であり、なお更に好ましくは0.03以上であり、特に好ましくは0.05以上であり、最も好ましくは0.07以上である。また、シラン化合物の量が増えるに従い、有機繊維を含むセパレータの構成材料の表面を覆うシラン化合物重合体は厚くなり、セパレータの細孔体積が低下する。有機繊維に親水性を付与しつつ、希硫酸が浸透するセパレータの細孔体積を十分に確保して、高い成層化抑制能を得る観点から、シラン化合物中のSiと、樹脂との重量比(シラン化合物中のSi(g)/樹脂(g))は、6以下であり、より好ましくは5.9以下であり、更に好ましくは5.7以下であり、より更に好ましくは5.5以下であり、なお更に好ましくは5以下であり、特に好ましくは4以下であり、最も好ましくは3以下、2以下、1.5以下、又は1.0以下である。
【0104】
樹脂の計算ガラス転移温度(計算Tg)は、樹脂成分の耐熱性を高める観点から-50℃以上であることが好ましく、複数の材料間の結着力を高める観点から70℃以下が好ましい。同様の理由で、計算Tgは、-30℃以上、50℃以下がより好ましく、更に好ましくは-30℃以上、30℃以下であり、特に好ましくは-30℃以上、10℃以下である。本実施の形態において、計算Tgとは、各単量体のホモ重合体のガラス転移温度と共重合比率より、下記式によって決定されるものである。なお、アルコキシシラン基含有重合性単量体は、架橋性があること、使用量が少ないことから計算ガラス転移温度の計算には含めない。また、反応性界面活性剤についても、計算ガラス転移温度の計算には含めない。
1/Tg=W/Tg+W/Tg+・・・
{式中、
Tg:単量体1、単量体2、・・・よりなる共重合体の計算ガラス転移温度(K);
、W・・・:単量体1、単量体2、・・・の共重合体中の質量分率(W+W+・・・=1);
Tg、Tg・・・:単量体1、単量体2、・・・のホモ重合体のガラス転移温度(K)}
【0105】
上記の式に使用するホモ重合体のTg(K)は、例えば、ポリマーハンドブック(Jhon Willey & Sons)に記載されている。本実施の形態に使用される数値を次に例示する。カッコ内の値がホモ重合体のTgを示す。ポリスチレン(373K)、ポリメタクリル酸メチル(378K)、ポリアクリル酸n-ブチル(228K)、ポリアクリル酸2-エチルヘキシル(218K)、ポリアクリル酸(360K)、ポリメタクリル酸(417K)、ポリアクリロニトリル(369K)、ポリアクリル酸2-ヒドロキシエチル(258K)、ポリメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(328K)。共重合比率が未知である場合、計算ガラス転移温度は、熱分解-GCMS、NMRで共重合比率を求めた後、上記式にて計算する。
【0106】
本実施の形態に係る不織布を形成するための樹脂としては、液状分散媒中に微小な重合粒子が分散した樹脂、すなわち、ラテックスを使用することが好ましい。ラテックスは、不織布内で樹脂成分を均一に分布させ、複数の材料間で強固な結着を形成させる観点、及び鉛蓄電池に使用するときに微細な細孔を残して電気抵抗上昇を抑制しつつ、不織布の希硫酸中での耐熱性を高める観点から好ましい。具体的には、ラテックス中の重合粒子が、最終生成物として得られる不織布に細孔を残しつつ、不織布内部に均一に分布して各種の構成材料と結着する。それにより、不織布の耐熱性、例えば希硫酸中における不織布の耐熱性(特に、重量保持性)を高めることができる。
【0107】
また、各種の構成材料(例えば、樹脂、粒子、繊維等)を不織布中に均一に分布させて、かつそれらの材料間の結着を強固にすることで、耐熱性、特に希硫酸中での耐熱性を高めることができる為、本実施の形態に係る不織布は、湿式抄造体されることが好ましい。本明細書における湿式抄造体は、例えば、樹脂、繊維及び/又は粒子を含む液体(以後、このように固形分が分散した液体を「スラリー」と記載する)を、メッシュに通過させ、該メッシュ上に堆積したスラリー中の固形分を加熱乾燥させることで得られる。環境への配慮という観点から、スラリーに使用する液体は、水、又は水系液体が好ましい。水系液体は、水が主成分として含まれる溶液、水と他の液体との混合物等でよい。その為、本実施の形態に係る不織布を形成するための樹脂においても、水又は水系液体の液状分散媒に微小な重合粒子が分散した樹脂、すなわち水系ラテックスを使用することが好ましい。本実施の形態に係る不織布は、該ラテックスを上記スラリーに加え、メッシュ上に堆積させて乾燥することにより作製されることができる。その他の作製方法としては、繊維を主成分として(例えば50質量%以上で)含む不織布を予め作製し、該不織布を、樹脂及び/若しくは粒子を含むスラリーに浸漬させるか、又は、該不織布表面に樹脂及び/若しくは粒子を含むスラリーをコートした後に、乾燥することで、本実施の形態に係る不織布を得ることができる。
【0108】
<不織布製造方法>
不織布は、任意の方法で製造することができ、例えば、繊維、樹脂、フィラーを含むスラリーを湿式抄造プロセスで作製できる。スラリーは、凝集剤及び/又は分散剤、その他の抄紙で利用される添加剤を含んでもよい。また、湿式抄造プロセスでスラリー中での繊維の水分散性を高める為、不織布の製造に使用する各種繊維に適した分散剤をスラリーに添加してもよい。また、予め各種繊維表面に、界面活性剤成分を付着させておくことで、水分散性を向上させることも可能である。その他の製造方法としては、繊維を主体とする多孔体を予め作製しておき、該多孔体を樹脂及び/又は無機粒子を含むスラリーに含浸・乾燥させることによっても不織布を作製可能である。最大孔径の小さい不織布を作製する観点から、繊維や粒子の材料は、分散媒中において十分な撹拌によって均一性を高めておくことが好ましい。代替的には、該多孔体に、樹脂及び/又は無機粒子を含むスラリーを塗工することで不織布を作製することもできる。
【0109】
<不織布厚み>
本実施の形態に係る鉛蓄電池において、不織布の細孔内部に電解液を保持することで成層化を抑制することを考慮すると、不織布の厚み(T)は、100μm以上、又は100μm超過であることが好ましく、より好ましくは110μm以上であり、更に好ましくは120μm以上であり、より更に好ましくは130μm以上であり、なお更に好ましくは140μm以上であり、特に好ましくは150μm以上であり、最も好ましくは160μm以上、170μm以上、又は180μm以上である。また、限られた電槽の空間内に不織布を配置すること、及び電池反応におけるイオン伝導性を確保することを考慮すると、不織布の厚みは、1300μm以下、又は1300μm未満であることが好ましく、より好ましくは1200μm以下であり、又はより好ましくは1200μm未満であり、更に好ましくは1100μm以下であり、又は更に好ましくは1000μm以下であり、より更に好ましくは900μm以下であり、なお更に好ましくは800μm以下であり、特に好ましくは700μm以下であり、最も好ましくは、600μm以下、550μm以下、500μm以下、450μm以下、430μm以下、又は410μm以下である。なお、本明細書における厚みは、不織布の断面SEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、該観察部の中から異なる5つの領域に関して厚みを測定した際の、5領域の厚みの相加平均値と定義する。SEM観察の詳細な条件は、実施例において後述される。
【0110】
本実施の形態の不織布は、鉛蓄電池の内部において、隣接するセパレータが有するリブによって正極へ押し当てられることで、成層化の抑制、サルフェーションの抑制、及び正極活物質の脱落の抑制の効果を発揮するものである。したがって、セパレータが有するリブによって発生するセパレータと正極との間の空隙を満たし、硫酸又は正極活物質の沈降を抑制することを考慮すると、不織布は、上記で説明されたセパレータのベース部を基点としたリブの頂点までの高さ(リブ高さ)に対して、十分な厚みを持つことが好ましい。不織布の厚みをT、リブ高さをRとした時に、リブ高さに対する不織布の厚み(T/R)は、0.10以上であり、0.15以上であることが好ましく、より好ましくは0.18以上であり、更に好ましくは0.20以上であり、より更に好ましくは0.21以上であり、なお更に好ましくは0.22以上であり、特に好ましくは0.23以上であり、最も好ましくは、0.24以上、0.25以上、0.26以上、0.28以上、又は0.30以上である。また、リブによる正極への不織布の押し当てにより局所的に不織布が圧縮されることで、硫酸又は正極活物質の沈降を抑制することを考慮すると、リブ高さに対して不織布の厚みが過剰でないことが好ましい。これに関連して、リブ高さに対する不織布の厚み(T/R)は、11以下であることが好ましく、より好ましくは10.00以下であり、更に好ましくは8.00以下であり、又は更に好ましくは5.00以下であり、又は更に好ましくは4.00以下であり、より更に好ましくは3.50以下であり、なお更に好ましくは3.00以下であり、特に好ましくは2.75以下であり、最も好ましくは、2.50以下、2.25以下、2.00以下、1.75以下、又は1.50以下である。
【0111】
<平均流量孔径>
本実施の形態に係る不織布は、不織布の細孔で正極活物質を保持することで正極活物質の脱落を抑制すること、及びデンドライトショート又は活物質がセパレータに入り込むことによる電気的短絡を抑制することを考慮すると、不織布の平均流量孔径は、25μm以下であることが好ましく、より好ましくは20μm以下であることが好ましく、更に好ましくは18μm以下であり、より更に好ましくは15μm以下であり、なお更に好ましくは13μm以下であり、特に好ましくは10μm以下であり、最も好ましくは、8μm以下、5μm以下、4μm以下、3μm以下、又は2μm以下である。また、イオン伝導度を確保することを考慮すると、不織布の平均流量孔径は、0.05μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上であり、更に好ましくは0.2μm以上であり、より更に好ましくは0.3μm以上であり、なお更に好ましくは0.4μm以上であり、特に好ましくは0.5μm以上であり、最も好ましくは、0.6μm以上、0.7μm以上、0.8μm以上、0.9μm以上、1.0μm以上、1.2μm以上、又は1.5μm以上である。不織布の平均流量孔径は、例えば、上記で説明されたフィラー及び樹脂を用いて不織布を形成すること等により上記の数値範囲内に調整されることができる。
【0112】
<最大孔径>
本実施の形態に係る不織布の孔径は限定されるものではない。しかしながら、不織布の細孔で正極活物質を保持することで正極活物質の脱落を抑制すること、及び/又は、デンドライトショート又は活物質がセパレータに入り込むことによる電気的短絡を抑制する観点から、不織布の最大孔径は、30μm以下であることが好ましく、より好ましくは25μm以下であることが好ましく、更に好ましくは20μm以下であり、より更に好ましくは18μm以下であり、なお更に好ましくは15μm以下であり、特に好ましくは13μm以下であり、最も好ましくは、10μm以下、9μm以下、8μm以下、7μm以下、又は6μm以下である。また、イオン伝導度を確保する観点から、不織布の最大孔径は、0.5μm以上であることが好ましく、又は0.5μm超過であることが好ましく、より好ましくは0.8μm以上であり、更に好ましくは1.0μm以上であり、より更に好ましくは1.1μm以上であり、なお更に好ましくは1.2μm以上であり、特に好ましくは1.3μm以上であり、最も好ましくは、1.4μm以上、1.5μm以上、1.6μm以上、1.8μm以上、1.9μm以上、2.0μm以上、2.2μm以上であり、2.5μm以上、又は3.0μm以上である。
【実施例
【0113】
以下、本発明について、実施例に基づき詳述するが、これらは説明のために記述されるものであり、本発明の範囲が以下の実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例で得たセパレータ及び不織布の各種評価結果を表1に示す。表1に記載した各評価項目について、評価手法を以下に説明する。なお、セパレータ及び不織布の各種評価は、鉛蓄電池における使用前後に関わらず適用可能である。鉛蓄電池における使用後のセパレータ及び不織布を評価する場合、鉛蓄電池を解体してセパレータ及び不織布を取り出し、水洗・乾燥することで各種評価を実施することができる。
【0114】
<リブ高さ>
セパレータの断面SEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、倍率200倍の条件下、セパレータのベース部を基点とした時の、該セパレータが持つリブの頂点までの高さを、セパレータ面内の異なる5領域に関して測定し、該5領域の高さの相加平均値を表1に記載した。単位はμmである。
【0115】
<厚み>
不織布の断面SEM観察を行い、倍率200倍の条件下、不織布面内の異なる5領域に関して厚み(膜厚)を測定し、該5領域の厚みの相加平均値を表1に記載した。単位はμmである。
【0116】
<セパレータ平面観察>
セパレータの表面SEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、倍率40倍の条件下、有効範囲4mm×3mmとして、セパレータを平面視したときのリブ凸部の面積A、及びベース部の面積Bを計測して、A/(A+B)を算出した。なお、本明細書における有効範囲とは、顕微鏡使用時における観察可能範囲を意味する。
【0117】
<最大孔径>
測定装置にはPMI社のパームポロメーター(型式:CFP-1500AL)を用いた。本装置では、不織布を被測定サンプルとして使用し、表面張力が既知の試験液で不織布の全細孔が満たされた状態で圧縮空気を流し、不織布の細孔径を測定する。試験液として、最大孔径100μm未満の被測定サンプルのためにはPMI社製のGalwick液を、最大孔径100μm以上の被測定サンプルのためには純水を用いた。先ず、25mmΦに切り抜いた不織布を試験液に浸し、余分な試験液を除いた後、測定を行った。試験液で満たされた細孔を空気が透過する時の圧力と、試験液の表面張力とから、当該細孔の孔径が計算可能であり、計算には以下の式が用いられる。
pore = C・γ/P
{ここで、dporeは、不織布の細孔径であり、γは、試験液の表面張力であり、Pは、当該孔径を空気が透過する最小空気圧であり、そしてCは、定数である}
まず、試験液に浸漬した不織布に掛ける圧力Pを連続的に増加させた時の空気流量(濡れ流量)を測定する。測定当初は、不織布の全細孔が試験液で満たされている状態であるために空気流量は0であるが、圧力が増大するに従い、やがて最大の孔径を持つ細孔から空気が透過するようになり、正の空気流量が初めて観測される(この時点をバブルポイントという)。本発明における最大孔径dmaxは、バブルポイントにおいて導出された不織布の細孔径を意味する。表1に、dmaxの測定結果を記載した。単位はμmである。
【0118】
<平均流量孔径>
上記<最大孔径>測定において、バブルポイント以降、圧力を更に上げるに従って空気流量は増加し、不織布が乾いた状態の空気流量(乾き流量)に近付いていく。最も小さな細孔が開通した時点以降の空気流量は、乾き流量と完全に一致する。本測定方法においては、或る空気圧力における濡れ流量を、同一圧力における乾き流量で除した値を、累積フィルター流量(単位:%)として定義する。累積フィルター流量が50%となる空気圧力において開通する細孔径を、本発明では平均流量孔径dmeanと定義する。表1に、dmeanの測定結果を記載した。単位はμmである。
【0119】
<成層化進行度>
ポリカーボネート製電槽、酸化鉛正極1枚、及び鉛負極1枚と、必要に応じて、後述されるセパレータ及び/又は不織布とを用いて鉛蓄電池(定格容量6Ah、2V単セル)を組み立てて、比重1.28の希硫酸を電解液として注入した。この鉛蓄電池を用いて、規格75073: 2012-07に準拠してPSоCでの鉛蓄電池の充放電サイクル試験を実施し、成層化進行度を評価した。充放電サイクル試験の具体的な条件は、25℃において、以下の(1)に示す初放電を行った後、(2)~(3)を1サイクルとして繰り返した。
(1)初放電:電流値1.2A(0.2C)、150分間の定電流放電
(2)充電:電流値2.1A(0.35C)、電圧値2.4V、40分間の定電流-定電圧充電
(3)放電:電流値2.1A(0.35C)、電圧値1.75V、30分間の定電流-定電圧放電
【0120】
40サイクル目の放電を開始してから20分後に、鉛蓄電池内の電解液を2箇所から0.5mLずつ採取した。1箇所目は電解液の液面から3mm下方、2箇所目は電槽底部から3mm上方に、耐酸性のシリンジチューブの先端を配置し、耐酸性のシリンジを用いて、電解液を静かに採取した。採取した電解液の希硫酸の比重を、Antоn Paar社製比重計(型式:DMA35)を用いて測定した。2箇所で測定された電解液の比重の差分を計算し、成層化進行度として表1に記載した。
【0121】
<PSоCサイクル寿命>
ポリカーボネート製電槽、酸化鉛正極1枚、及び鉛負極1枚と、必要に応じて、後述されるセパレータ及び/又は不織布とを用いて、鉛蓄電池(定格容量6Ah、2V単セル)を組み立てて、比重1.28の希硫酸を電解液として鉛蓄電池内に注入した。この鉛蓄電池を用いて、規格75073: 2012-07に準拠してPSоCでの鉛蓄電池の充放電サイクル試験を実施した。充放電サイクル試験の具体的な条件は、25℃において、以下の(1)に示す初放電を行った後、(2)~(3)を1サイクルとして、放電終端電圧が1.75Vを下回るまで繰り返し、その時のサイクル数を、PSоCサイクル寿命として求めた。
(1)初放電:電流値1.2A(0.2C)、150分間の定電流放電
(2)充電:電流値2.1A(0.35C)、電圧値2.4V、40分間の定電流-定電圧充電
(3)放電:電流値2.1A(0.35C)、電圧値1.75V、30分間の定電流-定電圧放電
なお、充放電サイクル中には、85サイクル毎に以下の(4)~(6)の充放電を実施し、再び上記(1)の初放電から開始することを繰り返した。
(4)充電:電流値0.6A(0.1C)、電圧値2.67V、18時間の定電流-定電圧充電
(カットオフ電流値:0.1A)
(5)放電:電流値0.3A(0.05C)、150分間の定電流放電
(カットオフ電圧値:1.75V)
(6)充電:電流値0.6A(0.1C)、電圧値2.67V、23時間の定電流-定電圧充電
(カットオフ電流値:0.1A)
表1には、後述する実施例1のPSоCサイクル寿命を100とした時の結果を記載した。
【0122】
<活物質保持性>
上述したPSоCサイクル寿命評価を実施し、放電終端電圧が1.75Vを下回って寿命に達した電池を解体した。電池から取り出された正極を目視で観察し、PSоCサイクルにおける正極活物質の保持性を評価した。PSоCサイクル寿命評価の前後で、正極の重量保持率が85%以上のものをA、正極の重量保持率が70%以上85%未満のものをB、正極の重量保持率が70%未満のものをCとして、表1に活物質保持性の評価結果を記載した。
【0123】
以下、実施例及び比較例のサンプルについて詳細を記載する。
【0124】
(実施例1)
セパレータとしては、ポリエチレン製セパレータ(バックウェブ厚み:300μm、鋸歯状リブ、リブ高さ:400μm、最大孔径:120nm、A/(A+B):0.08)を用いた。長方形にカットしたセパレータ片の長辺方向で半分に折り、折った辺と直交する方向に沿うセパレータの両端部を封止することで、袋状のセパレータを作製した。この時、リブが袋の内側となるようにセパレータを折り畳んだ。
【0125】
不織布の作製には、まず、無機粒子として平均粒子径13μmのシリカ粒子29.4質量%、無機繊維としてガラス繊維(Cガラス製)19.6質量%、有機繊維として芯部がPET(融点255℃)、鞘部が共重合ポリエステル(融点130℃)から成る芯鞘型繊維(平均繊度2.2dtex、平均繊維長5mm、芯部と鞘部の重量比1:1)39.2質量%、及び、樹脂としてアクリル系樹脂(固形分濃度:50質量%、計算Tg:-2℃、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン濃度:0.5%、分散媒:水、高分子ラテックス)11.8%(固形分)の配合比で、これらの材料を水中で分散・混合し、スラリーを調製した。この時、スラリー中の固形分100質量部に対して、分散剤を2質量部、該スラリーに添加・撹拌した。その後、スラリー中の固形分100質量部に対し、凝集剤7質量部を該スラリーに添加・撹拌し、生成物スラリーを得た。該生成物スラリーを用いて抄紙機にてシート形成し、湿紙状態で脱水プレスした後、回転型乾燥機にて180℃で3分間加熱/乾燥し、不織布を得た。
【0126】
長方形にカットした不織布片を、その長辺方向で半分に折り返し、その折り返した辺から上記袋状セパレータの内部へ該不織布片を挿入した。この時、該袋状セパレータの袋内側の表面全体が、該不織布片で覆われるよう設計した。正極は、折り返した不織布片に挟まれるように挿入した。
【0127】
セパレータ、得られた不織布及び鉛蓄電池について、上記の評価方法に従って評価した結果を表1に記載した。
【0128】
(比較例1)
不織布を使用せず、セパレータのみで評価を行った点を除き、使用した材料、作製方法及び評価方法に関して実施例1と同じである。
【0129】
(実施例2~11)
不織布について、実施例1と同じ配合比で生成物スラリーを作製し、抄紙機のシートへ転写するスラリーを増量することで厚みを増加させた点を除き、使用した材料、作製方法及び評価方法に関して実施例1と同じである。
【0130】
(比較例2)
実施例5において、リブが袋の外側となるようにセパレータを折り畳んだ点、及び、折り返した不織布片が挿入された袋状セパレータへ挿入する電極を負極に変更した点を除き、使用した材料、作製方法及び評価方法に関して実施例5と同じである。
【0131】
(比較例3)
実施例5において、セパレータのリブが袋の外側となるようにセパレータを折り畳んだ点を除き、使用した材料、作製方法及び評価方法に関して実施例5と同じである。
【0132】
(比較例4)
不織布を、ガラスマットに変更した点を除き、使用した材料、作製方法及び評価方法に関して実施例1と同じである。
【0133】
(実施例12)
セパレータについて、ポリエチレン製セパレータ(リブ高さ120μm、A/(A+B):0.24)へ変更した点を除き、使用した材料、作製方法及び評価方法に関して実施例1と同じである。
【0134】
(実施例13~20、比較例5)
不織布について、実施例12と同じ配合比で生成物スラリーを作製し、抄紙機のシートへ転写するスラリーを増量することで厚みを増加させた点を除き、使用した材料、作製方法及び評価方法に関して実施例12と同じである。
【0135】
(比較例6)
実施例15において、リブが袋の外側となるようにセパレータを折り畳んだ点、及び、折り返した不織布片が挿入された袋状セパレータへ挿入する電極を負極に変更した点を除き、使用した材料、作製方法及び評価方法に関して実施例15と同じである。
【0136】
(比較例7)
実施例15において、セパレータのリブが袋の外側となるようにセパレータを折り畳んだ点を除き、使用した材料、作製方法及び評価方法に関して実施例15と同じである。
【0137】
(実施例21)
セパレータについて、ポリエチレン製セパレータ(リブ高さ650μm、A/(A+B):0.04)へ変更した点を除き、使用した材料、作製方法及び評価方法に関して実施例1と同じである。
【0138】
(実施例22~26、比較例8)
不織布について、実施例21と同じ配合比で生成物スラリーを作製し、抄紙機のシートへ転写するスラリーを増量ないし減量することで厚みを増加又は減少させた点を除き、使用した材料、作製方法及び評価方法に関して実施例21と同じである。
【0139】
(比較例9)
実施例24において、リブが袋の外側となるようにセパレータを折り畳んだ点、及び、折り返した不織布片が挿入された袋状セパレータへ挿入する電極を負極に変更した点を除き、使用した材料、作製方法及び評価方法に関して実施例24と同じである。
【0140】
(比較例10)
実施例24において、セパレータのリブが袋の外側となるようにセパレータを折り畳んだ点を除き、使用した材料、作製方法及び評価方法に関して実施例24と同じである。
【0141】
以下、表1に記載された実施例、比較例の結果について説明する。
【0142】
【表1】
【0143】
実施例1~11においては、T/Rが0.10以上であることを満足することで、正極とセパレータの間の空隙を不織布が満たして電解液を保持するため、充電中に正極から発生する硫酸の沈降を抑えることに寄与し、成層化が抑制されたと考えることができる。成層化が抑制されると、希硫酸の濃度が高い領域が発生し難く、サルフェーションによる劣化が抑制され、PSоCサイクル寿命の向上に寄与する。また、T/Rが11以下を満たすことで、微多孔構造を持つ不織布が、セパレータのリブよって正極に押さえつけられながら対向して存在することで、正極活物質の脱落が抑制される。成層化と活物質脱落が抑制される結果、PSоCサイクル寿命が向上する。特に、不織布の厚みTは約120~1200μmの範囲内の時に、PSоCサイクル寿命が優れる傾向が見られる。このことから、電解液を保持するために十分な微多孔容量を持ち、かつ、電池反応におけるイオン伝導を阻害せず、充電効率を損なわない厚みの範囲が存在することが考えられる。実施例11は、不織布が存在することで、成層化と正極活物質の脱落は抑制されたが、Tが1200μm未満を満たさないことで、電池反応におけるイオン伝導度、ひいては充電効率が低下し、電圧が比較的早期に降下したと考えることができる。一方、T/Rが0.10以上を満足しない比較例1においては、充電中に正極から生成する硫酸、又は正極から脱離する活物質を保持するための不織布の微多孔が、存在しない。そのため、比較例1は、成層化進行度が大きくなり、活物質保持性、及びPSоCサイクル寿命が低下したと考えられる。
【0144】
比較例2は、不織布が負極に対向して存在することで、充電中に負極表面から生成する高濃度の硫酸が沈降することを抑制できるため、成層化の進行は小さく実施例5と同等である。一方、比較例2では、正極は不織布と対向しておらず、袋状のセパレータ及び不織布に収容されていることを満足しないため、正極活物質の脱落が進行した。従って、比較例2のPSоCサイクル寿命は、セパレータ及び不織布の特性が同様である実施例5の半分未満まで減少し、実施例1~11の全てと比較しても劣る結果となった。
【0145】
比較例3は、不織布が正極に対向して存在することで、充電中に正極表面から生成する高濃度の硫酸が沈降することを抑制できるため、成層化の進行は小さく実施例5と同等である。一方、比較例3では、セパレータのリブは正極と対向することを満足しないため、リブで不織布を正極に押し当てることによる正極活物質の脱落抑制ができず、正極活物質の脱落が進行した。従って、比較例3のPSоCサイクル寿命は、セパレータ及び不織布の特性が同様である実施例5の半分未満まで減少し、実施例1~11の全てと比較しても劣る結果となった。
【0146】
フィラーを含まず、最大孔径dmaxが30μm以下であることと、平均流量孔径dmeanが25μm以下であることを満たさない比較例4は、成層化進行度が0.085、活物質保持性がBであり、PSоCサイクル寿命が86となり、実施例1~11より低下する結果となった。実施例1~11に関しては、不織布がフィラー及び樹脂を含むことで、細孔内部に複雑な曲路が形成され、最大孔径や平均流量孔径が小さくなる。そのため、正極とセパレータの間に存在する不織布が、充電中に正極から発生する硫酸、又は正極から脱離する活物質が沈降することを抑えることに寄与する。一方で、比較例4に関しては、不織布がフィラーを含まないため細孔内部に複雑な曲路が形成され難く、dmaxは170μm、dmeanは150μmとなり、実施例1~11と比べて相対的に大きい結果となった。そのため、充放電サイクル中の硫酸や正極活物質の沈降を抑制し難く、PSоCサイクル寿命が低下したと考えることができる。
【0147】
実施例12~20、比較例5においては、正極と負極の間にセパレータと不織布が存在し、不織布は正極とセパレータの間に存在する。セパレータのリブ高さRは120μmで共通であり、不織布の厚みTが100~1400μmで異なる。実施例12~20においては、T/Rが0.10以上かつ11以下であることを満たすことで、成層化進行度は0.033~0.072、活物質保持性はA又はB、PSоCサイクル寿命は102~140となった。一方、T/Rが11以下であることを満たさない比較例5は、成層化進行度は0.034と優れる一方、活物質保持性はC、PSоCサイクル寿命は77であり、実施例12~20と比較して劣る結果となった。原因として、リブ高さRに対して不織布の厚みTが大きすぎるために、リブによる不織布の正極に対する押し当てが弱くなり、正極活物質の脱落が抑制できなくなったこと、不織布の平均流量孔径が小さくイオン伝導性が低下するため、電池反応効率が悪化し、充電効率が悪化したこと等が考えられる。また比較例6は、セパレータ及び不織布の特性は、PSоCサイクル寿命に優れる実施例15と同様であり、不織布が負極とセパレータの間に配置されている点、及びセパレータのリブが外側になるように折り畳まれている点のみが異なる。比較例6においては、成層化進行度は0.045、活物質保持性はC、PSоCサイクル寿命は55となった。比較例6は、不織布が負極に対向して存在することで、充電中に負極表面から生成する高濃度の硫酸が沈降することを抑制できるため、成層化の進行は小さく実施例15と同等である。一方、比較例6では、正極は不織布と対向しておらず、袋状のセパレータ及び不織布に収容されていることを満足しないため、正極活物質の脱落が進行した。従って、比較例6のPSоCサイクル寿命は、セパレータ及び不織布の特性が同様である実施例15の半分未満まで減少し、実施例12~20の全てと比較しても劣る結果となった。
【0148】
比較例7は、不織布が正極に対向して存在することで、充電中に正極表面から生成する高濃度の硫酸が沈降することを抑制できるため、成層化の進行は小さく実施例15と同等である。一方、比較例7では、セパレータのリブは正極と対向することを満足しないため、リブで不織布を正極に押し当てることによる正極活物質の脱落抑制ができず、正極活物質の脱落が進行した。従って、比較例7のPSоCサイクル寿命は、セパレータ及び不織布の特性が同様である実施例15の半分未満まで減少し、実施例12~20の全てと比較しても劣る結果となった。
【0149】
実施例21~26、比較例8においては、正極と負極の間にセパレータと不織布が存在し、不織布は正極とセパレータの間に存在する。セパレータのリブ高さRは650μmで共通であり、不織布の厚みTが60~1300μmで異なる。実施例21~26においては、T/Rが0.10以上かつ11以下であることを満たすことで、成層化進行度は0.058~0.079、活物質保持性はA又はB、PSоCサイクル寿命は108~144となった。一方、T/Rが0.09である比較例8においては、成層化進行度が0.135、活物質保持性がC、PSоCサイクル寿命が70となった。T/Rが0.10以上を満たさないことで、リブ高さに対して不織布の厚みが不足するため、リブによって発生するセパレータの屈曲した表面と、正極表面との間の空隙を、不織布が満たすことができない。従って、比較例8においては、正極表面には不織布で満たされていない空隙が存在することとなり、硫酸及び/又は正極活物質の沈降が優先的に発生するため、成層化進行度は大きくなり、活物質保持性、ひいてはPSоCサイクル寿命が低下したと考えることができる。また比較例9は、セパレータ及び不織布の特性は、PSоCサイクル寿命に優れる実施例24と同様であり、不織布が負極とセパレータの間に配置されている点、及びセパレータのリブが外側になるように折り畳まれている点のみが異なる。比較例9においては、成層化進行度は0.062、活物質保持性はC、PSоCサイクル寿命は53となった。比較例9は、不織布が負極に対向して存在することで、充電中に負極表面から生成する高濃度の硫酸が沈降することを抑制できるため、成層化の進行は小さく実施例24と同等である。一方、比較例9では、正極は不織布と対向しておらず、袋状のセパレータ及び不織布に収容されていることを満足しないため、正極活物質の脱落が進行した。従って、比較例9のPSоCサイクル寿命は、セパレータ及び不織布の特性が同様である実施例24の半分未満まで減少し、実施例21~26の全てと比較しても劣る結果となった。
【0150】
比較例10においては、成層化進行度は0.058、活物質保持性はC、PSоCサイクル寿命は54となった。比較例10は、不織布が正極に対向して存在することで、充電中に正極表面から生成する高濃度の硫酸が沈降することを抑制できるため、成層化の進行は小さく実施例24と同等である。一方、比較例10では、セパレータのリブは正極と対向することを満足しないため、リブで不織布を正極に押し当てることによる正極活物質の脱落抑制ができず、正極活物質の脱落が進行した。従って、比較例10のPSоCサイクル寿命は、セパレータ及び不織布の特性が同様である実施例24の半分未満まで減少し、実施例21~26の全てと比較しても劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明に係るセパレータと不織布と正極と負極と電解液の配置は、優れたPSоCサイクル寿命性能が要求される鉛蓄電池に利用することができる。
【符号の説明】
【0152】
1:電槽
2:端子
3:極柱
4:電極群(極板群)
5:正極
6:負極
7:セパレータ
8:不織布
100:セパレータ
101:上部エッジ
102:バックウェブ
103:下部エッジ
104:正極側リブ
105a、105b:側面エッジ
106:リブ高さ
107:バックウェブ厚み
図1
図2
図3
図4
図5
図6