(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】スタビライザ製造装置と、スタビライザの製造方法
(51)【国際特許分類】
B60G 21/055 20060101AFI20230718BHJP
【FI】
B60G21/055
(21)【出願番号】P 2022539485
(86)(22)【出願日】2021-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2021027714
(87)【国際公開番号】W WO2022025048
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2022-09-12
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱本 昭敏
(72)【発明者】
【氏名】古月 康彦
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-047909(JP,A)
【文献】特開2010-228555(JP,A)
【文献】特開2011-235323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 21/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタビライザ製造装置であって、
第1の成形ユニット(31)と、
第2の成形ユニット(32)とを有し、
前記第1の成形ユニット(31)が、
上方から見て円弧形の第1の成形部(70)と、ワークを支持する前側支持部(71)と、前記ワークを支持する後側支持部(72)とを有する第1の成形芯金(61)と、
前記ワークを前記第1の成形芯金(61)との間でクランプする第1の前側押さえ部材(62)と、
前記ワークを前記第1の成形芯金(61)との間でクランプする第1の後側押さえ部材(63)と、
前記第1の成形部(70)に沿って旋回する第1の曲げローラ(65)とを具備し、
前記第2の成形ユニット(32)が、
上方から見て円弧形の第2の成形部(170)と、前記ワークを支持する前側支持部(171)と、前記ワークを支持する後側支持部(172)とを有する第2の成形芯金(161)と、
前記ワークを前記第2の成形芯金(161)との間でクランプする第2の前側押さえ部材(162)と、
前記ワークを前記第2の成形芯金(161)との間でクランプする第2の後側押さえ部材(163)と、
前記第2の成形部(170)に沿って旋回する第2の曲げローラ(165)とを具備したスタビライザ製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスタビライザ製造装置において、
前記第1の成形芯金(61)と前記第2の成形芯金(161)とが互いに左右対称形であるスタビライザ製造装置。
【請求項3】
請求項1に記載のスタビライザ製造装置において、
前記第1の成形ユニット(31)と前記第2の成形ユニット(32)とが、それぞれ水平な方向に延びるガイド部材(41)(42)(43)(44)に沿って移動可能であり、
前記第1の成形ユニット(31)を移動させるための第1のユニット駆動機構(51)と、前記第2の成形ユニット(32)を移動させるための第2のユニット駆動機構(52)とを具備したスタビライザ製造装置。
【請求項4】
請求項1に記載のスタビライザ製造装置において、
前記第1の成形部(70)が、
第1の曲率半径(r1)の大径円弧面(70a)と、
前記第1の曲率半径(r1)よりも小さい第2の曲率半径(r2)の小径円弧面(70b)とを有し、
前記第2の成形部(170)が、
前記第1の曲率半径(r1)の大径円弧面(170a)と、
前記第2の曲率半径(r2)の小径円弧面(170b)とを有したスタビライザ製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載のスタビライザ製造装置において、
前記第1の成形芯金(61)と前記第2の成形芯金(161)とがそれぞれ上下方向に移動可能であり、
前記第1の成形芯金(61)の前記大径円弧面(70a)または前記小径円弧面(70b)が前記第1の曲げローラ(65)と同じ高さとなるように前記第1の成形芯金(61)を移動させる第1の昇降機構(86)と、
前記第2の成形芯金(161)の前記大径円弧面(170a)または前記小径円弧面(170b)が前記第2の曲げローラ(165)と同じ高さとなるように前記第2の成形芯金(161)を移動させる第2の昇降機構(186)と、
を具備したスタビライザ製造装置。
【請求項6】
請求項1に記載のスタビライザ製造装置において、
前記第1の前側押さえ部材(62)を前記第1の成形芯金(61)に向けて移動させる第1の前側アクチュエータ(80)と、
前記第1の後側押さえ部材(63)を前記第1の前側押さえ部材(62)と同期して同時に前記第1の成形芯金(61)に向けて移動させる第1の後側アクチュエータ(81)と、
前記第2の前側押さえ部材(162)を前記第2の成形芯金(161)に向けて移動させる第2の前側アクチュエータ(180)と、
前記第2の後側押さえ部材(163)を前記第2の前側押さえ部材(162)と同期して同時に前記第2の成形芯金(161)に向けて移動させる第2の後側アクチュエータ(181)と、
を具備したスタビライザ製造装置。
【請求項7】
請求項1に記載のスタビライザ製造装置において、
前記第1の曲げローラ(65)の周面に前記ワークの径に応じた溝(65a)を有し、前記第2の曲げローラ(165)の周面に前記ワークの径に応じた溝(165a)を有したスタビライザ製造装置。
【請求項8】
請求項1に記載のスタビライザ製造装置において、
前記ワークを保持し移動させる保持部(35)を有したロボットアーム(34)をさらに有し、
前記ロボットアーム(34)は、
前記ワークを第1の方向に曲げる際に、前記ワークを前記第1の成形芯金(61)と前記第2の成形芯金(161)の前側に載置し、
前記ワークを第2の方向に曲げる際に、前記ワークを前記第1の成形芯金(61)と前記第2の成形芯金(161)の後側に移動させるスタビライザ製造装置。
【請求項9】
請求項8に記載のスタビライザ製造装置において、
前記ロボットアーム(34)は、
前記ワークを曲げる方向に応じて、前記ワークを該ワークの軸線回りに回転させて前記第1の成形芯金(61)と前記第2の成形芯金(161)の前側または後側にセットするスタビライザ製造装置。
【請求項10】
スタビライザの製造方法であって、
スタビライザの材料である鋼製のワークをA1点未満の温間加工に適した温度に加熱し、
加熱された前記ワークを、曲率半径が互いに異なる複数の円弧面を含む成形部(70)(170)を有した成形芯金(61)(161)にセットし、
前記ワークを押さえ部材(62)(63)(162)(163)によって前記成形芯金(61)(161)に固定し、
回転可能な曲げローラ(65)(165)を前記成形部(70)(170)の前記複数の円弧面のうち選択された円弧面に沿って移動させることにより、前記ワークを前記選択された円弧面に応じた曲率半径に曲げ、
前記ワークを焼入れ可能な温度まで再加熱し、
再加熱された前記ワークを冷却材中に入れて冷却し、焼入れを行うこと、
を具備したスタビライザの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載のスタビライザの製造方法において、
前記ワークを前記成形芯金(61)(161)にセットする際に、前記ワークを曲げる方向に応じて前記ワークをロボットアーム(34)によって前記ワークの軸線回りに回転させるスタビライザの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば車両用のスタビライザ(Stabilizer)を製造するための製造装置とスタビライザの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の懸架機構部に配置されるスタビライザは、車両の幅方向に延びるトーション部と、トーション部の両端に連なる一対のアーム部と、複数の曲げ部などを有している。懸架機構部の一例では、前記トーション部が車体に支持され、アーム部がサスペンションアーム等に接続される。
【0003】
鋼製の棒あるいは鋼管等の材料からなるスタビライザを製造するために、加熱された材料を所望の形状に曲げることが行われている。中実のスタビライザの一例では、高温(例えば960℃以上)に加熱された材料の曲げるべき部分を、金型によって押し曲げている。しかしスタビライザの表面の金型と接した箇所に傷がつくことがある。また材料が高温に加熱されるため、材料の表面にスケールが生じることがある。スケールが付着した材料を金型によって押し曲げると、スケールが付着していた箇所に、いわゆるスケール傷が生じることがあり、好ましくない。また材料が長時間高温に維持されると脱炭が生じることがあり、この点も問題である。
【0004】
中空のスタビライザの場合には、例えば特開2004-9125号公報(特許文献1)に示されているように、パイプベンダが使用されることがある。パイプベンダの一例では、材料を引っ張りながらローラによって材料を曲げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-9125号公報
【文献】国際公開WO2011/029434
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしパイプベンダは曲げ部の断面の形状に問題が生じることがある。パイプベンダに代わって金型を用いて材料を曲げることも考えられた。しかし金型によって材料を押し曲げると、材料の表面に傷がつくだけでなく、曲げ部の断面が偏平になってしまうことがある。国際公開WO2011/029434(特許文献2)に記載されたように、溶融した材料を金型のキャビティ内に収容し、金型の内部で材料を硬化させることも提案されている。しかしこの方法では鋼製のスタビライザを製造することができない。
【0007】
本発明の目的は、スタビライザの表面に傷をつけることなく曲げ部を曲げることができるスタビライザの製造装置と、スタビライザの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの実施形態に係るスタビライザ製造装置は、第1の成形ユニットと、第2の成形ユニットとを有している。前記第1の成形ユニットは、第1の成形芯金と、第1の前側押さえ部材と、第1の後側押さえ部材と、第1の曲げローラとを具備している。前記第1の成形芯金は、上方から見て円弧形の第1の成形部と、前記第1の前側押さえ部材との間でワークを支持する前側支持部と、前記第1の後側押さえ部材との間で前記ワークを支持する後側支持部とを有している。前記ワークを第1の方向に曲げる際に、前記第1の前側押さえ部材と前記第1の成形芯金との間で、前記ワークがクランプされる。また前記第2の前側押さえ部材と前記第2の成形芯金との間で、前記ワークがクランプされる。前記ワークを第2の方向に曲げる際には、前記第1の後側押さえ部材と前記第1の成形芯金との間で、前記ワークがクランプされる。また前記第2の後側押さえ部材と前記第2の成形芯金との間で、前記ワークがクランプされる。前記第1の曲げローラは、前記第1の成形部に沿って旋回する。前記第2の曲げローラは、前記第2の成形部に沿って旋回する。
【0009】
この明細書で成形芯金の前側とは、ワークを第1の方向に曲げる際に、成形芯金に対してワークが配置される側を言う。成形芯金の後側は、ワークを第2の方向に曲げる際に、成形芯金に対してワークが配置される側である。
【0010】
前記第2の成形ユニットは、第2の成形芯金と、第2の前側押さえ部材と、第2の後側押さえ部材と、第2の曲げローラとを具備している。前記第2の成形芯金は、上方から見て円弧形の第2の成形部と、前記第2の前側押さえ部材との間で前記ワークを支持する前側支持部と、前記第2の後側押さえ部材との間で前記ワークを支持する後側支持部とを有している。
【0011】
前記第1の成形芯金と前記第2の成形芯金とが互いに左右対称形であるとよい。また前記第1の成形ユニットと前記第2の成形ユニットとが、それぞれ、水平方向に延びるガイド部材に沿って移動可能であり、前記第1の成形ユニットを移動させるための第1のユニット駆動機構と、前記第2の成形ユニットを移動させるための第2のユニット駆動機構とを具備しているとよい。
【0012】
本実施形態のスタビライザ製造装置において、前記第1の成形部が、第1の曲率半径の大径円弧面と、前記第1の曲率半径よりも小さい第2の曲率半径の小径円弧面とを有し、前記第2の成形部が、前記第1の曲率半径の大径円弧面と、前記第2の曲率半径の小径円弧面とを有してもよい。この実施形態のスタビライザ製造装置は、前記第1の成形芯金と前記第2の成形芯金とがそれぞれ上下方向に移動可能である。前記第1の成形芯金の前記大径円弧面または前記小径円弧面が前記第1の曲げローラと同じ高さとなるように前記第1の成形芯金を移動させる第1の昇降機構を具備している。また前記第2の成形芯金の前記大径円弧面または前記小径円弧面が前記第2の曲げローラと同じ高さとなるように前記第2の成形芯金を移動させる第2の昇降機構とを具備している。
【0013】
1つの実施形態に係るスタビライザの製造方法は、スタビライザの材料である鋼製のワークを温間加工に適した温度(A1点未満)に加熱する。この加熱された前記ワークを、円弧形の成形部を有する成形芯金にセットし、前記ワークを押さえ部材によって前記成形芯金に固定する。前記成形部は、互いに曲率半径が異なる複数の円弧面を含んでいる。回転可能な曲げローラを、前記複数の円弧面のうち選択された円弧面に沿って移動させることにより、前記ワークを前記選択された円弧面に応じた曲率半径に曲げる。こうして曲げたワークを、焼入れ可能な温度まで例えば通電加熱(あるいは炉)によって再加熱し、再加熱された前記ワークを冷却材(例えば水)中に入れて冷却し、焼入れを行う。冷却材は油でもよいし、それ以外の流体でもよい。
【発明の効果】
【0014】
本実施形態のスタビライザ製造装置と製造方法によれば、互いに曲率半径が異なる複数の曲げ部を有するスタビライザを、能率良く製造することができる。しかもA1点以下の温間域で、円弧面を有する成形芯金と曲げローラとを用いてロール曲げが行なわれる。このため、スタビライザの表面にスケールや脱炭等の問題が生じることを回避でき、いわゆるスケール傷(scale defect)が生じることを防止できる。しかも冷間で成形する場合と比較して変形抵抗が小さく、形状精度の高い曲げ部を比較的容易に成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図5】1つの実施形態に係るスタビライザ製造装置の正面図。
【
図7】同スタビライザ製造装置の一部を拡大して示す平面図。
【
図8】同スタビライザ製造装置の一部を拡大して示す正面図。
【
図9】同スタビライザ製造装置の一部とワークを模式的に表した平面図。
【
図10】同スタビライザ製造装置の一部と、第1の曲げ部と第2の曲げ部とが成形された前記ワークを模式的に表した平面図。
【
図11】同スタビライザ製造装置の一部と、移動した前記ワークを模式的に表した平面図。
【
図12】同スタビライザ製造装置の一部と、第3の曲げ部と第4の曲げ部とが成形された前記ワークを模式的に表した平面図。
【
図13】同スタビライザ製造装置の一部と、第5の曲げ部が成形された前記ワークを模式的に表した平面図。
【
図14】同スタビライザ製造装置の一部と、第7の曲げ部が成形された前記ワークを模式的に表した平面図。
【
図15】同スタビライザ製造装置の一部と、第6の曲げ部が成形された前記ワークを模式的に表した平面図。
【
図16】同スタビライザ製造装置の一部と、第8の曲げ部が成形された前記ワークを模式的に表した平面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に1つの実施形態に係るスタビライザ製造装置とスタビライザの製造方法について、
図1から
図16を参照して説明する。
図1は、スタビライザ10を備えた車両11の一部を示している。スタビライザ10は、車両11の懸架機構部12に配置されている。スタビライザ10は、車体13の幅方向(
図1に両方向矢印Yで示す方向)に延びるトーション部15と、トーション部15の両端に連なる一対のアーム部16,17とを含んでいる。アーム部16,17の先端に、それぞれ目玉部18,19が形成されている。
【0017】
トーション部15は、ゴムブッシュ等を備えた一対の支持部20,21を介して、車体13の一部に支持されている。目玉部18,19は、それぞれ、リンク部材22,23を介して、懸架機構部12のサスペンションアームに接続されている。車両11がカーブを走行する際に、アーム部16,17に互いに逆相の荷重が入力する。そうすると、アーム部16,17に曲げの力がかかるとともに、トーション部15がねじられることにより、車体13のローリングが抑制される。
【0018】
図2はスタビライザ10の一例を示した平面図である。
図3Aはスタビライザ10の正面図、
図3Bはスタビライザ10の側面図である。スタビライザ10の材料(これ以降はワークWと称す)は、焼入れ等の熱処理によって強度を向上させることが可能な鋼(例えば低炭素鋼)からなる。低炭素鋼の一例は、米国のSAE(Society of Automotive Engineers)の規定に準拠するSAE15B26である。ワークWは中実でもよいし、中空でもよい。スタビライザ10は、3次元的に曲げた形状も含めて、アーム部16,17にそれぞれ1箇所以上の曲げ部が形成されていてもよい。あるいは、トーション部15の長手方向の途中に2箇所以上の曲げ部を有していてもよい。この明細書では、
図2においてスタビライザ10(ワークW)の長手方向に延びる線分X2をワークWの軸線X2と称す。
【0019】
スタビライザ10の形状は
図2に示した例に限定されるものではない。
図2に示されたスタビライザ10は、長手方向の中央を対称軸X1として左右対称形である。スタビライザ10の一例は、目玉部18,19に近い位置から順に、一対の第1の曲げ部R1および第2の曲げ部R2と、一対の第3の曲げ部R3および第4の曲げ部R4と、一対の第5の曲げ部R5および第6の曲げ部R6と、一対の第7の曲げ部R7および第8の曲げ部R8とを有している。
【0020】
図4は、本実施形態に係るスタビライザ10の製造工程を示している。
図4に示された加熱工程ST1において、スタビライザ10の材料であるワークWが温間成形に適した温度に加熱される。加熱する温度は、例えば400℃以上で、かつ、鋼のA1点(723℃)を越えない温度を上限とする。中実のワークの場合、例えば600℃に加熱される。中空のワークの場合には、例えば700℃以下の温間域(鋼がオーステナイト化する温度よりも低い温度)に加熱されるとよい。温間域での加熱であれば、ワークWの表面にスケールや脱炭等が実質的に生じないため好ましい。加熱手段の一例は、ワークをウォーキングビーム(walking beam)によって移動させながら炉内で加熱する加熱炉である。ただし加熱手段として、通電加熱や高周波誘導加熱が採用されてもよい。
【0021】
温間成形に適した温度に加熱されたワークWが、
図4中の成形工程ST2において、所定のスタビライザ形状に成形される。成形工程ST2では、以下に詳しく説明するスタビライザ製造装置25(
図5から
図16に示す)を用いて、ワークWの曲げ成形(ロール曲げ)が行なわれる。成形工程ST2で扱われるワークWは、温間成形に適した温度(A1点未満)に加熱されているため、冷間(室温)のときと比較して塑性加工が容易な硬さとなっている。
【0022】
目玉部成形工程ST3では、ワークWの温度が温間域に保たれている状態のもとで、押し曲げ用の金型によって、目玉部18,19が所定の角度(
図2にθ1,θ2で示す)に曲げられる。目玉部18,19の形状や角度θ1,θ2は、
図2および
図3A,
図3Bに示された例に限定されることなく、種々の態様で実施されることは言うまでもない。
【0023】
図4中の再加熱工程ST4では、ワークWが焼入可能な温度(例えば910-980℃±30℃)、すなわちA3変態点を越える温度に加熱される。加熱されたワークWは、焼入れ工程ST5において、冷却材を用いて焼入れが行なわれる。焼入れは、焼入可能な温度に保たれたワークWを、例えば水槽に浸漬し、急速に冷却する。ワークWの冷却速度は、ワークWに焼入組織(マルテンサイト)が形成される温度勾配とする。ここでは水焼入れを行なうため、油焼入れと比較して比較的安全である。なお、冷却材に油を用いてもよいし、それ以外の流体を用いてもよい。
【0024】
以下に、成形工程ST2で使用されるスタビライザ製造装置25について、
図5から
図16を参照して説明する。
図5は、スタビライザ製造装置25の正面図、
図6はスタビライザ製造装置25の平面図である。
図7は、スタビライザ製造装置25の一部を拡大した平面図、
図8はスタビライザ製造装置25の一部を拡大した正面図である。
【0025】
図5と
図6に示すようにスタビライザ製造装置25は、工場等のフロアに設置された基台30と、基台30に搭載された第1の成形ユニット31と、第2の成形ユニット32と、基台30の近傍に設けられたロボット33などを含んでいる。第1の成形ユニット31と第2の成形ユニット32とは、実質的に互いに左右対称形である。ロボット33はロボットアーム34を有している。ロボットアーム34の先端に、ワークWを保持することが可能なチャック等を備えた保持部35が設けられている。
【0026】
保持部35によって保持されたワークWは、ロボットアーム34によって所望の位置に移動させることができる。
図3Bに示されたスタビライザ10の一例は、側方から見て角度αをなして曲がる曲げ部を有している。このためワークWを曲げる方向に応じて、ロボットアーム34によってワークWを軸線X2まわり(
図2と
図3Bにθ3で示す方向)に回転させる。これにより、その後に行われる曲げ工程において、互いに異なる方向に3次元的に曲がる曲げ部を形成することができる。
【0027】
基台30は水平方向に延びるガイド部材41,42,43,44(
図6に示す)を有している。第1の成形ユニット31は、ガイド部材41,42に沿って水平方向に移動することができる。第2の成形ユニット32は、ガイド部材43,44に沿って水平方向に移動することができる。第1の成形ユニット31と第2の成形ユニット32とは、同一の直線上で互いに近付いたり、離れたりすることができるように配置されている。
【0028】
図6に示すようにスタビライザ製造装置25は、第1の成形ユニット31を移動させるための第1のユニット駆動機構51と、第2の成形ユニット32を移動させるための第2のユニット駆動機構52とを含んでいる。第1のユニット駆動機構51と第2のユニット駆動機構52とによって、第1の成形ユニット31と第2の成形ユニット32との間の距離を変化させることができる。ユニット駆動機構51,52の一例は、それぞれ、サーボモータとボールねじなどによって、成形ユニット31,32を所定位置に移動させることができる。
【0029】
まず、
図7の右側に示された第1の成形ユニット31について説明する。
第1の成形ユニット31は、ガイド部材41,42に沿って移動する第1の可動フレーム60(
図6に示す)と、第1の成形芯金61と、第1の前側押さえ部材62と、第1の後側押さえ部材63と、第1の曲げローラ機構64とを有している。第1の曲げローラ機構64は、回転可能な第1の曲げローラ65と、第1の曲げローラ65を成形芯金61に向けて移動させるアクチュエータ66などを備えている。第1の曲げローラ65の周面には、ワークWの径に応じた溝65aが形成されている。
【0030】
第1の成形芯金61は、ボルト67,68によって、第1の可動フレーム60に固定されている。
図7に示されたように第1の成形芯金61は、上方から見て円弧形(ほぼ半円形)の第1の成形部70と、前側支持部71と、後側支持部72とを有している。前側支持部71と後側支持部72とは、それぞれ実質的にストレートであり、かつ、互いに平行である。前側支持部71は、後に詳しく説明するように、ワークWを第1の方向(
図10に矢印F1で示す)に曲げる際に、第1の前側押さえ部材62との間でワークWの面W1を支持する。第1の後側支持部72は、ワークWを第2の方向(
図12に矢印F2で示す)に曲げる際に、第1の後側押さえ部材63との間でワークWの面W2を支持する。
【0031】
第1の曲げローラ65は、アクチュエータ66によって、第1の成形芯金61の成形部70に対して近付く方向と離れる方向とに移動させることができる。第1の曲げローラ65は、
図7に両方向矢印Z1で示されたように、円弧形の第1の成形部70に沿って旋回する。すなわち第1の曲げローラ65は、第1の旋回機構75(
図5に一部を示す)によって、第1の成形部70の中心C1を回転中心として、ほぼ180°の範囲で旋回する。第1の曲げローラ65の高さは一定である。
【0032】
図7に示されたように円弧形の第1の成形部70は、第1の曲率半径r1の大径円弧面70aと、第1の曲率半径r1よりも小さい第2の曲率半径r2の小径円弧面70bと、第2の曲率半径r2よりもさらに曲率半径が小さい最小円弧面70cとを有している。曲率半径が大きい曲げ部(例えば曲げ部R5)を曲げる際には、大径円弧面70aが使用される。曲率半径が小さい曲げ部(例えば曲げ部R1,R3,R7)を曲げる際には、小径円弧面70bが使用される。曲率半径がさらに小さい曲げ部を曲げる際には、最小円弧面70cが使用される。
【0033】
本実施形態の成形部70は、互いに曲率半径が異なる3種類の円弧面70a,70b,70cを有している。しかし少なくとも2種類の曲率半径の円弧面を有していればよい。場合によっては4種類以上の曲率半径の円弧面を有していてもよい。
【0034】
図7と
図8に示すように第1の成形芯金61の前側支持部71は、下側の支持面71aと、中間の支持面71bと、上側の支持面71cとを含んでいる。下側の支持面71aは大径円弧面70aに連なり、水平方向に延びている。中間の支持面71bは小径円弧面70bに連なり、水平方向に延びている。上側の支持面71cは最小円弧面70cに連なり、水平方向に延びている。これらの支持面71a,71b,71cには、それぞれ、ワークWの径に対応した溝が形成されている。
【0035】
図8に示されたように第1の前側押さえ部材62は、下側の押さえ面62aと、中間の押さえ面62bと、上側の押さえ面62cとを含んでいる。下側の押さえ面62aは、下側の支持面71aと対向し、水平方向に延びている。中間の押さえ面62bは、中間の支持面71bと対向し、水平方向に延びている。上側の押さえ面62cは、上側の支持面71cと対向し、水平方向に延びている。
【0036】
下側の押さえ面62aは、大径円弧面70aと同じ高さである。中間の押さえ面62bは、小径円弧面70bと同じ高さである。上側の押さえ面62cは、最小円弧面70cと同じ高さである。これらの押さえ面62a,62b,62cには、それぞれ、ワークWの径に対応した溝が形成されている。下側の支持面71aから下側の押さえ面62aまでの距離と、中間の支持面71bから中間の押さえ面62bまでの距離と、上側の支持面71cから上側の押さえ面62cまでの距離は、互いに同等である。
【0037】
図7と
図8に示すように第1の成形芯金61の後側支持部72も、下側の支持面72aと、中間の支持面72bと、上側の支持面72cとを含んでいる。下側の支持面72aは大径円弧面70aに連なり、水平方向に延びている。中間の支持面72bは小径円弧面70bに連なり、水平方向に延びている。上側の支持面72cは最小円弧面70cに連なり、水平方向に延びている。これらの支持面72a,72b,72cには、それぞれ、ワークWの径に対応した溝が形成されている。
【0038】
図8に示されたように第1の後側押さえ部材63は、下側の押さえ面63aと、中間の押さえ面63bと、上側の押さえ面63cとを含んでいる。下側の押さえ面63aは、下側の支持面72aと対向し、水平方向に延びている。中間の押さえ面63bは、中間の支持面72bと対向し、水平方向に延びている。上側の押さえ面63cは、上側の支持面72cと対向し、水平方向に延びている。
【0039】
下側の押さえ面63aは、大径円弧面70aと同じ高さである。中間の押さえ面63bは、小径円弧面70bと同じ高さである。上側の押さえ面63cは、最小円弧面70cと同じ高さである。これらの押さえ面63a,63b,63cには、それぞれ、ワークWの径に対応した溝が形成されている。下側の支持面72aから下側の押さえ面63aまでの距離と、中間の支持面72bから中間の押さえ面63bまでの距離と、上側の支持面72cから上側の押さえ面63cまでの距離は、互いに同等である。
【0040】
第1の成形ユニット31は、第1の前側押さえ部材62を駆動するための第1の前側アクチュエータ80と、第1の後側押さえ部材63を駆動するための第1の後側アクチュエータ81とを有している。第1の前側押さえ部材62と第1の後側押さえ部材63とは、アクチュエータ80,81によって、互いに同期して第1の成形芯金61に向けて同時に移動させることができる。
【0041】
第1の成形芯金61の前側支持部71と第1の前側押さえ部材62との間でワークWをクランプすることができる。第1の成形芯金61の後側支持部72と第1の後側押さえ部材63との間でワークWをクランプすることができる。アクチュエータ80,81の一例は油圧シリンダであるが、それ以外の駆動源(例えばサーボモータ等の電動アクチュエータ)が使用されてもよい。
【0042】
第1の成形芯金61と、第1の前側押さえ部材62と、第1の後側押さえ部材63とは、第1の昇降機構86(
図5に示す)によって、上下方向(
図8に両方向矢印Z3で示す)に移動可能である。第1の昇降機構86の駆動源の一例はサーボモータ等の電動アクチュエータであるが、それ以外の駆動源(例えば油圧シリンダ)が使用されてもよい。
【0043】
第1の成形芯金61を第1の昇降機構86によって上下方向に移動させることにより、大径円弧面70aまたは小径円弧面70bまたは最小円弧面70cを第1の曲げローラ65と同じ高さに移動させることができる。
図8は、最小円弧面70cが第1の曲げローラ65と同じ高さに移動した状態を示している。
【0044】
次に、
図7の左側に示された第2の成形ユニット32について説明する。
第2の成形ユニット32は、ガイド部材43,44に沿って移動する第2の可動フレーム160(
図6に示す)と、第2の成形芯金161と、第2の前側押さえ部材162と、第2の後側押さえ部材163と、第2の曲げローラ機構164とを有している。第2の曲げローラ機構164は、回転可能な第2の曲げローラ165と、第2の曲げローラ165を成形芯金161に向けて移動させるアクチュエータ166などを備えている。第2の曲げローラ165の周面には、ワークWの径に応じた溝165aが形成されている。
【0045】
第2の成形芯金161は、ボルト167,168によって、第2の可動フレーム160に固定されている。
図7に示されたように第2の成形芯金161は、上方から見て円弧形(ほぼ半円形)の第2の成形部170と、前側支持部171と、後側支持部172とを有している。前側支持部171と後側支持部172とは、それぞれ実質的にストレートであり、かつ、互いに平行である。前側支持部171は、後に詳しく説明するように、ワークWを第1の方向(
図10に矢印F1で示す)に曲げる際に、第2の前側押さえ部材162との間でワークWの面W1を支持する。後側支持部172は、ワークWを第2の方向(
図12に矢印F2で示す)に曲げる際に、第2の後側押さえ部材163との間でワークWの面W2を支持する。
【0046】
第2の曲げローラ165は、アクチュエータ166によって、第2の成形芯金161の成形部170に対して近付く方向と離れる方向とに移動させることができる。第2の曲げローラ165は、
図7に両方向矢印Z2で示されたように、円弧形の第2の成形部170に沿って旋回する。すなわち第2の曲げローラ165は、第2の旋回機構175(
図6に一部を示す)によって、第2の成形部170の中心C2を回転中心として、ほぼ180°の範囲で旋回する。第2の曲げローラ165の高さは一定である。
【0047】
図7に示されたように円弧形の第2の成形部170は、第1の曲率半径r1の大径円弧面170aと、第1の曲率半径r1よりも小さい第2の曲率半径r2の小径円弧面170bと、第2の曲率半径r2よりもさらに曲率半径が小さい最小円弧面170cとを有している。曲率半径が大きい曲げ部(例えば曲げ部R6)を曲げる際には、大径円弧面170aが使用される。曲率半径が小さい曲げ部(例えば曲げ部R2,R4,R8)を曲げる際には、小径円弧面170bが使用される。曲率半径がさらに小さい曲げ部を曲げる際には、最小円弧面170cが使用される。
【0048】
本実施形態の成形部170は、互いに曲率半径が異なる3種類の円弧面170a,170c,170bを有している。しかし少なくとも2種類の曲率半径の円弧面を有していればよい。場合によっては4種類以上の曲率半径の円弧面を有していてもよい。
【0049】
図7に示すように第2の成形芯金161の前側支持部171は、下側の支持面171aと、中間の支持面171bと、上側の支持面171cとを含んでいる。下側の支持面171aは大径円弧面170aに連なり、水平方向に延びている。中間の支持面171bは小径円弧面170bに連なり、水平方向に延びている。上側の支持面171cは最小円弧面170cに連なり、水平方向に延びている。これらの支持面171a,171b,171cには、それぞれ、ワークWの径に対応した溝が形成されている。なお、第2の前側押さえ部材162は、第1の前側押さえ部材62と共通の構造であるため説明を省略する。
【0050】
図7に示すように第2の成形芯金161の後側支持部172は、下側の支持面172aと、中間の支持面172bと、上側の支持面172cとを含んでいる。下側の支持面172aは大径円弧面170aに連なり、水平方向に延びている。中間の支持面172bは小径円弧面170bに連なり、水平方向に延びている。上側の支持面172cは最小円弧面170cに連なり、水平方向に延びている。これらの支持面172a,172b,172cには、それぞれ、ワークWの径に対応した溝が形成されている。なお、第2の後側押さえ部材163は、第1の後側押さえ部材63と共通の構造であるため説明を省略する。
【0051】
第2の成形ユニット32は、第2の前側押さえ部材162を駆動するための第2の前側アクチュエータ180と、第2の後側押さえ部材163を駆動するための第2の後側アクチュエータ181とを有している。第2の前側押さえ部材162と第2の後側押さえ部材163とは、アクチュエータ180,181によって、互いに同期して第2の成形芯金161に向けて同時に移動させることができる。
【0052】
第2の成形芯金161の前側支持部171と第2の前側押さえ部材162との間でワークWをクランプすることができる。第2の成形芯金161の後側支持部172と第2の後側押さえ部材163との間でワークWをクランプすることができる。アクチュエータ180,181の一例は油圧シリンダであるが、それ以外の駆動源(例えばサーボモータ等の電動アクチュエータ)が使用されてもよい。
【0053】
第2の成形芯金161と、第2の前側押さえ部材162と、第2の後側押さえ部材163とは、第2の昇降機構によって上下方向に移動可能である。第2の昇降機構は第1の昇降機構86と共通の構造である。第2の成形芯金161を第2の昇降機構によって上下方向に移動させることにより、大径円弧面170aまたは小径円弧面170bまたは最小円弧面170cを第2の曲げローラ165と同じ高さに移動させることができる。
【0054】
ワークWは、前工程(位置決め工程)において、所定の方向を向けて所定位置に載置(位置決め)されている。ロボットアーム34は、ワークWを第1の方向(
図10に矢印F1で示す)に曲げる際に、前記位置決め工程において位置決めされたワークWを、そのまま成形芯金61,161の前側にセットする。ロボットアーム34は、ワークWを第2の方向(
図12に矢印F2で示す)に曲げる際に、ワークWを成形芯金61,161の後側にセットする。
【0055】
以下に、スタビライザ製造装置25によってワークWの曲げ部R1-R8を曲げる工程について、
図9から
図16を参照して説明する。
図9と
図10は、第1の曲げ部R1と第2の曲げ部R2を曲げる場合を示している。第1の成形芯金61は、第1の曲げ部R1と対応する位置に移動している。第2の成形芯金161は、第2の曲げ部R2と対応する位置に移動している。第1の成形芯金61と第2の成形芯金161とは、互いに距離L1だけ離れている。ワークWは実質的にストレートである。この場合、曲げ工程において小径円弧面70b,170bが選択され、小径円弧面70b,170bが使用される。
【0056】
図9に示されたように、第1の前側押さえ部材62は、第1の成形芯金61の前側支持部71から離れている。第1の後側押さえ部材63は、第1の成形芯金61の後側支持部72から離れている。第1の成形芯金61は、小径円弧面70bが第1の曲げローラ65と同じ高さとなる位置に移動している。
【0057】
第2の前側押さえ部材162は、第2の成形芯金161の前側支持部171から離れている。第2の後側押さえ部材163は、第2の成形芯金161の後側支持部172から離れている。第2の成形芯金161は、小径円弧面170bが第2の曲げローラ165と同じ高さとなる位置に移動している。第1の曲げローラ65と第2の曲げローラ165は、ワークWと干渉しない位置に退避している。この状態で、ロボットアーム34によって、ワークWが成形芯金61,161の前側に配置される。
【0058】
図10に示すように、第1の前側押さえ部材62が矢印P1で示す方向に移動することにより、第1の前側押さえ部材62と第1の成形芯金61とによってワークWがクランプされる。これと同時に、第1の後側押さえ部材63が矢印P2で示す方向に移動する。第1の後側押さえ部材63が第1の成形芯金61に当接することにより、第1の成形芯金61が後側から支持される。
【0059】
また第2の前側押さえ部材162が矢印P1で示す方向に移動することにより、第2の前側押さえ部材162と第2の成形芯金161とによってワークWがクランプされる。これと同時に、第2の後側押さえ部材163が矢印P2で示す方向に移動する。第2の後側押さえ部材163が第2の成形芯金161に当接することにより、第2の成形芯金161が後側から支持される。
【0060】
このように第1の成形芯金61の前後両側から荷重が加わるため、第1の成形芯金61の一方側から大きなクランプ荷重が片寄って加わることが回避される。このため第1の成形芯金61やボルト67,68に過剰な負荷が加わることがなく、第1の成形芯金61の位置がずれたりすることも回避される。第2の成形芯金161も前後両側から荷重が加わるため、第2の成形芯金161の一方側から大きなクランプ荷重が片寄って加わることが回避される。このため第2の成形芯金161やボルト167,168に過剰な負荷が加わることがなく、第2の成形芯金161の位置がずれたりすることも回避される。
【0061】
図10に示されたように、第1の曲げローラ65が第1の成形芯金61の小径円弧面70bに沿って移動し、ワークWの目玉部18側が第1の方向F1に曲がることにより、第1の曲げ部R1が形成される。これと同時に、第2の曲げローラ165が第2の成形芯金161の小径円弧面170bに沿って移動し、ワークWの目玉部19側が第1の方向F1に曲がることにより、第2の曲げ部R2が形成される。
【0062】
図11と
図12は、第3の曲げ部R3と第4の曲げ部R4を曲げる場合を示している。第1の成形芯金61は、第3の曲げ部R3と対応する位置に移動している。第2の成形芯金161は、第4の曲げ部R4と対応する位置に移動している。第1の成形芯金61と第2の成形芯金161との間の距離がL2に変化している。
【0063】
図11に示されたように、第1の後側押さえ部材63は、第1の成形芯金61から離れている。第2の後側押さえ部材163も、第2の成形芯金161から離れている。この状態で、ロボットアーム34によって、ワークWが成形芯金61,161の後側にセットされる。このときロボットアーム34は、曲げ部R3,R4を曲げる方向(例えば
図3Bに示す角度α)に応じて、ワークWを軸線X2まわりに回転させて位置決めをなす。こうすることにより、曲げ部R1,R2とは異なる方向(3次元の方向)に曲げ部R3,R4を曲げることができる。他の曲げ部R5-R8も同様に、ロボットアーム34によってワークWを軸線X2まわりに回転させることにより、所望の方向に曲げることができるようにする。
【0064】
図12に示すように、第1の前側押さえ部材62が矢印P1で示す方向に移動することにより、第1の成形芯金61が前側から支持される。これと同時に、第1の後側押さえ部材63が矢印P2で示す方向に移動することにより、第1の後側押さえ部材63と第1の成形芯金61とによってワークWがクランプされる。
【0065】
また第2の前側押さえ部材162が矢印P1で示す方向に移動することにより、第2の成形芯金161が前側から支持される。これと同時に、第2の後側押さえ部材163が矢印P2で示す方向に移動することにより、第2の後側押さえ部材163と第2の成形芯金161とによってワークWがクランプされる。
【0066】
図12に示されたように、第1の曲げローラ65が第1の成形芯金61の小径円弧面70bに沿って移動し、ワークWの目玉部18側が第2の方向F2に曲がることにより、第3の曲げ部R3が形成される。これと同時に、第2の曲げローラ165が第2の成形芯金161の小径円弧面170bに沿って移動し、ワークWの目玉部19側が第2の方向F2に曲がることにより、第4の曲げ部R4が形成される。
【0067】
第5の曲げ部R5と第6の曲げ部R6とは、互いに近い位置にある。第7の曲げ部R7と第8の曲げ部R8も互いに近い位置にある。このため第5の曲げ部R5と第6の曲げ部R6を同時に曲げようとすると、第1の成形ユニット31と第2の成形ユニット32とが互いに干渉するおそれがある。また第7の曲げ部R7と第8の曲げ部R8を同時に曲げようとすると、第1の成形ユニット31と第2の成形ユニット32とが互いに干渉するおそれがある。このため本実施形態では、互いに近い位置にある曲げ部R5,R6,R7,R8を曲げる際には、それぞれの曲げ工程を分けている。
【0068】
図13は第5の曲げ部R5を曲げる場合を示している。第1の成形芯金61が第5の曲げ部R5と対応する位置に移動している。この場合、曲げ工程において大径円弧面70aが選択され、大径円弧面70aが使用される。このため第1の成形芯金61の大径円弧面70aが第1の曲げローラ65と対向している。第1の前側押さえ部材62と第1の成形芯金61とによって、ワークWがクランプされる。これと同時に、第1の後側押さえ部材63が第1の成形芯金61に当接することにより、第1の芯金61が後側から支持される。この状態のもとで、第1の曲げローラ65が第1の成形芯金61の大径円弧面70aに沿って移動し、ワークWの目玉部18側が第1の方向F1に曲がることにより、第5の曲げ部R5が形成される。
【0069】
図14は第7の曲げ部R7を曲げる場合を示している。ワークWは、ロボットアーム34によって第1の成形芯金61の後側に移動している。第1の成形芯金61は、第7の曲げ部R7と対応する位置に移動している。この場合、曲げ工程において小径円弧面70bが選択され、小径円弧面70bが使用される。このため第1の成形芯金61の小径円弧面70bが第1の曲げローラ65と対向している。
【0070】
図14に示されたように、第1の後側押さえ部材63と第1の成形芯金61とによって、ワークWがクランプされる。これと同時に、第1の前側押さえ部材62が第1の成形芯金61に当接することにより、第1の成形芯金61が前側から支持される。この状態のもとで、第1の曲げローラ65が第1の成形芯金61の小径円弧面70bに沿って移動し、ワークWの目玉部18側が第2の方向F2に曲がることにより、第7の曲げ部R7が形成される。
【0071】
図15は第6の曲げ部R6を曲げる場合を示している。ワークWは、ロボットアームによって第2の成形芯金161の前側に移動している。第2の成形芯金161は、第6の曲げ部R6と対応する位置に移動している。この場合、曲げ工程において大径円弧面170aが選択され、大径円弧面170aが使用される。このため第2の成形芯金161の大径円弧面170aが第2の曲げローラ165と対向している。第2の前側押さえ部材162と第2の成形芯金161とによって、ワークWがクランプされる。これと同時に、第2の後側押さえ部材163が第2の成形芯金161に当接することにより、第2の芯金161が後側から支持される。この状態のもとで、第2の曲げローラ165が第2の成形芯金161の大径円弧面170aに沿って移動し、ワークWの目玉部19側が第1の方向F1に曲がることにより、第6の曲げ部R6が形成される。
【0072】
図16は第8の曲げ部R8を曲げる場合を示している。ワークWは、ロボットアームによって第2の成形芯金161の後側に移動している。第2の成形芯金161は、第8の曲げ部R8と対応する位置に移動している。この場合、曲げ工程において小径円弧面170bが選択され、小径円弧面170bが使用される。このため第2の成形芯金161の小径円弧面170bが第2の曲げローラ165と対向している。
【0073】
第2の後側押さえ部材163と第2の成形芯金161とによって、ワークWがクランプされる。これと同時に、第2の前側押さえ部材162が第2の成形芯金161に当接することにより、第2の成形芯金161が前側から支持される。この状態のもとで、第2の曲げローラ165が第2の成形芯金161の小径円弧面170bに沿って移動し、ワークWの目玉部19側が第2の方向F2に曲がることにより、第8の曲げ部R8が形成される。
【0074】
以上説明したように本実施形態のスタビライザ製造方法は、下記の工程を含んでいる。
(1)
図4に示された加熱工程ST1において、スタビライザの材料である鋼製のワークWを温間加工域の温度まで加熱する。
(2)
図4に示された成形工程(ロール曲げ)ST2では、加熱されたワークWを温間成形に適した温度で曲げ加工(ロール曲げ)を行なう。この曲げ加工(ロール曲げ)はスタビライザ製造装置25によって、例えば
図10から
図16に示した工程を経て行われる。
(3)例えば
図9に示されたように、加熱されたワークWを成形芯金61,161の一方(前側)に配置する。
(4)
図10に示されたように、ワークWを一方の押さえ部材62,162によって成形芯金61,161の支持部71,171に固定する。これと同時に、他方の押さえ部材63,163によって成形芯金61,161を支持する。
(5)
図10に示されたように、曲げローラ65,165をそれぞれ円弧形の成形部70,170に沿って移動させることにより、ワークWを第1の方向F1に曲げる。
(6)
図11に示されたように、ロボットアーム34によってワークWを成形芯金61,161の他方側(後側)に移動させる。
(7)
図12に示されたように、ワークWを押さえ部材63,163によって成形芯金61,161の支持部72,172に固定する。これと同時に、押さえ部材62,162によって成形芯金61,161を支持する。
(8)曲げローラ65,165をそれぞれ円弧形の成形部70,170に沿って移動させることにより、ワークWを第2の方向F2に曲げる。
なお、目玉部からの距離が異なる複数の曲げ部を有するスタビライザの場合、始めは目玉部に近い曲げ部を曲げ、次に目玉部から遠い曲げ部を曲げる。また左右対称位置の一対の曲げ部を曲げる場合には、一対の成形芯金を用い、2か所の曲げ部を同時に曲げてもよい。
(9)ワークWを成形芯金61,161から取り出す。
(10)
図4中の目玉部成形工程ST3において、目玉部用の金型によって目玉部18,19を角度θ1,θ2(
図2に示す)となるように曲げる。
(11)ワークWを加熱手段の一例としての通電加熱用の電極にセットする。
(12)
図4中の再加熱工程ST4において、ワークWに前記電極を通じて電流を流す。これによりワークWを加熱し、焼入れ可能な温度にする。なお、加熱用の炉によってワークWを加熱してもよい。
(13)
図4中の焼入れ工程ST5において、加熱されたワークWを冷却材中に入れて焼入れを行う。
【0075】
本実施形態のスタビライザ製造装置と製造方法によれば、互いに曲率半径が異なる複数の曲げ部を有するスタビライザを、能率良く製造することができる。しかもA1点以下の温間域で、円弧面を有する成形芯金と曲げローラとを用いてロール曲げが行なわれる。このため、スタビライザの表面にスケールや脱炭等の問題が生じることを回避でき、いわゆる scale defect が生じることを防止できる。しかも冷間で成形する場合と比較して変形抵抗が小さく、形状精度の高い曲げ部を比較的容易に成形することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の製造装置と製造方法は、車両用のスタビライザをはじめとして、様々な態様のスタビライザを製造する分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
10…スタビライザ、25…スタビライザ製造装置、30…基台、31…第1の成形ユニット、32…第2の成形ユニット、33…ロボット、34…ロボットアーム、35…保持部、51…第1のユニット駆動機構、52…第2のユニット駆動機構、60…第1の可動フレーム、61…第1の成形芯金、62…第1の前側押さえ部材、63…第1の後側押さえ部材、64…第1の曲げローラ機構、65…第1の曲げローラ、65a…溝、66…アクチュエータ、70…第1の成形部、70a…大径円弧面、70b…小径円弧面、70c…最小円弧面、71…前側支持部、72…後側支持部、75…第1の旋回機構、80…第1の前側アクチュエータ、81…第1の後側アクチュエータ、86…第1の昇降機構、160…第2の可動フレーム、161…第2の成形芯金、162…第2の前側押さえ部材、163…第2の後側押さえ部材、164…第2の曲げローラ機構、165…第2の曲げローラ、165a…溝、166…アクチュエータ、170…第2の成形部、170a…大径円弧面、170b…小径円弧面、170c…最小円弧面、171…前側支持部、172…後側支持部、175…第2の旋回機構、180…第2の前側アクチュエータ、181…第2の後側アクチュエータ、186…第2の昇降機構。