(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】選択的CD8陽性T細胞誘導ワクチン抗原
(51)【国際特許分類】
C12N 15/49 20060101AFI20230719BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20230719BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20230719BHJP
C07K 14/16 20060101ALI20230719BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20230719BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20230719BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230719BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230719BHJP
A61K 39/21 20060101ALI20230719BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20230719BHJP
【FI】
C12N15/49 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/86 Z
C07K14/16
C07K19/00
A61P31/18
A61P37/04
A61K35/76
A61K39/21
A61K47/65
(21)【出願番号】P 2019566539
(86)(22)【出願日】2019-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2019001607
(87)【国際公開番号】W WO2019142933
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2018008255
(32)【優先日】2018-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】俣野 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】石井 洋
(72)【発明者】
【氏名】井上 誠
(72)【発明者】
【氏名】弘中 孝史
(72)【発明者】
【氏名】朱 亜峰
(72)【発明者】
【氏名】森 豊隆
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-512815(JP,A)
【文献】国際公開第2015/060235(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/136814(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/050259(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/093243(WO,A1)
【文献】特開2005-034049(JP,A)
【文献】KURIHARA K. et al.,Immunogenicity of repeated Sendai viral vector vaccination in macaques,Microbes and Infection, 2012, vol. 14, no. 13, p. 1169-1176
【文献】DASARI V. et al.,Prophylactic and therapeutic adenoviral vector-based multivirus-specific T-cell immunotherapy for transplant patients,Molecular Therapy- Methods & Clinical Development, 2016, vol. 3, p. 16058
【文献】BAZHAN SI. et al.,Rational design based synthetic polyepitope DNA vaccine for eliciting HIV-specific CD8+ T cell responses,Molecular Immunology, 2010, vol. 47, p. 1507-1515
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MHCクラスIエピトープの同定を要せずに、標的抗原蛋白質特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導することができるポリペプチドまたは該ポリペプチドをコードする核酸を製造する方法であって、
(i) 抗原タンパク質をコードするアミノ酸配列を、8~12残基のアミノ配列に分割する工程であって、該分割アミノ酸配列は互いに重なり合っていてもいなくてもよい工程、
(ii) 該分割アミノ酸配列を、該抗原タンパク質の該アミノ酸配列と同一とならないように連結する工程であって、該分割アミノ酸配列の各連結部にはスペーサーを挟んでも挟まなくてもよい工程、
(iii) 工程(ii)により得られたアミノ酸配列を含むポリペプチドまたは該ポリペプチドをコードする核酸をそれぞれ取得する工程、を含み、
該ポリペプチドは、該抗原タンパク質のアミノ酸配列に含まれる8~12残基のアミノ酸配列を有する多種のペプチドが連結されたポリペプチドである、方法。
【請求項2】
該8~12残基ペプチドが、該抗原タンパク質における順番とは異なる順番で連結されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該ポリペプチドは、該抗原タンパク質の13残基以上の連続した部分アミノ酸配列を実質的に含まない、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
該複数種のペプチドのアミノ酸配列は重なり合っていてもよい、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
該重なり合いが1~4残基である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
該連結部のそれぞれにはスペーサーを有していてもよい、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
該スペーサーが1~4残基のアミノ酸である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該8~12残基ペプチドが少なくとも20種連結されている、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
抗原タンパク質のアミノ酸配列に含まれる8~12残基のアミノ酸配列を有する多種のペプチドを連結したポリペプチド
を含む組成物であって、MHCクラスIエピトープの同定を要せずに、標的抗原蛋白質特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導するために用いる組成物。
【請求項10】
該ポリペプチドが、
該8~12残基ペプチド
が該抗原タンパク質における順番とは異なる順番で連結されている
ポリペプチドである、請求項9に記載の
組成物。
【請求項11】
該ポリペプチドが、
該抗原タンパク質の13残基以上の連続した部分アミノ酸配列を実質的に含まない
ポリペプチドである、請求項9または10に記載の
組成物。
【請求項12】
該複数種のペプチドのアミノ酸配列は重なり合っていてもよい、請求項9から11のいずれかに記載の
組成物。
【請求項13】
該重なり合いが1~4残基である、請求項12に記載の
組成物。
【請求項14】
該連結部のそれぞれにはスペーサーを有していてもよい、請求項9から13のいずれかに記載の
組成物。
【請求項15】
該スペーサーが1~4残基のアミノ酸である、請求項14に記載の
組成物。
【請求項16】
該ポリペプチドが、
該8~12残基ペプチドが少なくとも20種連結されている
ポリペプチドである、請求項9から15のいずれかに記載の
組成物。
【請求項17】
請求項9から16のいずれかに記載のポリペプチドをコードする核酸
または該核酸を含むベクターを含む組成物であって、MHCクラスIエピトープの同定を要せずに、標的抗原蛋白質特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導するために用いる組成物。
【請求項18】
該ベクターが
センダイウイルスベクターである、請求項
17に記載の
組成物。
【請求項19】
請求項9から
18のいずれかに記載の
組成物からなるワクチン。
【請求項20】
抗原タンパク質がヒト免疫不全ウイルスの抗原タンパクに由来する、請求項
19に記載のワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原特異的CD4陽性T細胞反応を低レベルに抑えたまま、抗原特異的CD8陽性T細胞反応を選択的に誘導するポリペプチド、その作製法並びに同ポリペプチドを発現するワクチン等に関する。本発明のワクチンは特に抗HIVワクチンとして有用である。
【背景技術】
【0002】
世界のヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者数は3600万人を超え、年間新規感染者数は約180万人と推定されており、HIV感染拡大は深刻な問題である。HIV感染拡大抑制に向け、HIVワクチン開発は国際的重要課題であるが、未だ有効なワクチンの実用化に至っていない。HIV感染症は、一般的に自然治癒はなく、慢性持続感染を呈し、エイズ(後天性免疫不全症候群)発症にいたる致死的感染症である。抗HIV薬治療によりエイズ発症阻止は可能となったが、体内からのウイルス排除は困難で治癒にはいたらないことから、感染者はほぼ一生涯にわたって抗HIV薬治療が必要となる(非特許文献12)。近年、長期投薬治療下の副作用・薬剤耐性ウイルス出現の問題に加え、高額医療費や慢性炎症に伴う骨粗鬆症・心血管障害・脳認知障害・腎障害等の促進が大きな問題となってきている(非特許文献13-15)。しかし、アフリカ等をはじめとして、世界におけるHIV感染者数の増大は続いており、感染拡大抑制に向け、早期診断・早期治療の促進に加え、有効なHIVワクチンの開発は国際的に最重要課題の一つとされている。しかし、未だ有効性の確立したHIVワクチンの開発にはいたっていない。
【0003】
HIV複製抑制に中心的役割を担うとされているCD8陽性T細胞反応の誘導は、HIVワクチン開発における重要戦略の一つである(非特許文献1-4)。CD8陽性T細胞誘導HIVワクチン開発においては、抗原デリバリー法の最適化と抗原の最適化が重要と考えられる。デリバリー法については、アデノウイルスベクター(非特許文献7)、サイトメガロウイルスベクター(非特許文献8)、アデノウイルス/ポックスウイルスベクター(非特許文献9)など効率よいCD8陽性T細胞誘導能を有するものが複数開発されてきている。
【0004】
一方、有効なCD8陽性T細胞誘導のための抗原については、さらなる最適化が必要と考えられる。ウイルス抗原特異的CD8陽性T細胞は、ウイルス感染細胞表面に主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI 分子と結合して提示されたウイルス抗原由来の8~11 merペプチド断片(エピトープ)を特異的に認識し、感染細胞を傷害する(非特許文献16)。CD8陽性T細胞反応は、その標的が宿主のMHCクラスI遺伝子型に依存するとともに、標的とするウイルス抗原によってCD8陽性T細胞によるウイルス複製抑制能(有効性)に差異が生じることが知られている(非特許文献17)。さらに、有効性の低いCD8陽性T細胞反応が優位となると、有効性の高いCD8陽性T細胞反応の誘導が阻害されることから(immunodominance)(非特許文献18)、有効性の高いCD8陽性T細胞反応を選択的に誘導するための抗原設計が求められる。近年、HIV感染者およびサルエイズモデルの解析により、GagおよびVif抗原を標的とするCD8陽性T細胞反応が強いウイルス複製抑制能を有することが示されてきている(非特許文献17-20)。また、Gag capsid (CA) 抗原は、構造保存性の高い点でも有力なCD8陽性T細胞標的領域候補である(非特許文献21)。
【0005】
従来のHIVワクチン手法では、HIV抗原特異的CD8陽性T細胞だけでなく、HIV抗原特異的CD4陽性T細胞も同時に誘導される。ウイルス抗原特異的CD4陽性T細胞は、抗原提示細胞表面にMHCクラスII分子と結合して提示されたウイルス抗原由来のペプチド断片(エピトープ)を特異的に認識し、抗原特異的反応を生ずる。しかし、HIVはHIV抗原特異的CD4陽性T細胞をより優先的に標的として増殖することから(非特許文献10)、ワクチンによるHIV抗原特異的CD4陽性T細胞誘導は、HIV増殖促進に結びつくことが危惧される。実際、サル免疫不全ウイルス(SIV)感染サルエイズモデルでの解析では、ワクチンによるSIV抗原特異的CD4陽性T細胞誘導がSIV曝露後急性期のSIV増殖促進に結びついていることが報告されている(非特許文献11)。したがって、抗原最適化に向けては、有効なCD8陽性T細胞の標的を設計するだけでなく、HIV抗原特異的CD4陽性T細胞誘導をできるだけ抑え、有効なHIV抗原特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導する手法の開発が求められるが、そのような観点での抗原設計はこれまでなされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Koup RA. et al., J Virol. 68:4650-4655. 1994.
【文献】Matano T. et al., J Virol. 72:164-169. 1998.
【文献】Schmitz JE. et al., Science. 283:857-860. 1999.
【文献】Goulder PJ. et al., Nat Rev Immunol. 4:630-640. 2004.
【文献】Matano T. et al., J Exp Med. 199:1709-1718. 2004.
【文献】Nyombayire J. et al., J Infect Dis. 215:95-104. 2017.
【文献】Wilson NA. et al., J Virol. 80:5875-5885. 2006.
【文献】Hansen SG. et al., Nature. 473:523-527. 2011.
【文献】Barouch DH. et al., Nature. 482:89-93. 2012.
【文献】Douek DC. et al., Nature. 417:95-98. 2002.
【文献】Terahara K. et al., J Virol. 88:14232-14240. 2014.
【文献】Fischer M. et al., AIDS. 17:195-199. 2003.
【文献】Kirk GD. et al., Clin Infect Dis. 45:103-110. 2007.
【文献】Hsue PY. et al. Curr Opin HIV AIDS. 12:534-539. 2017.
【文献】Khoury G. et al., J Infect Dis. 215:911-919. 2017.
【文献】Hewitt EW. et al., Immunology. 110:163-169. 2003.
【文献】Kiepiela P. et al., Nat Med. 13:46-53. 2007.
【文献】Akram A. et al., Clin Immunol. 143:99-115. 2012.
【文献】Mudd PA. et al., Nature. 491:129-133. 2012.
【文献】Iwamoto N. et al., J Virol. 88:425-433. 2014.
【文献】Goulder PJ. et al. Nat Rev Immunol. 8:619-630. 2008.
【文献】Tsukamoto T. et al., J Virol. 83:9339-9346. 2009.
【文献】Ishii H. et al., J Virol. 86:738-745. 2012.
【文献】Letourneau S. et al.,PLoS One. 2:e984. 2007.
【文献】Mothe B. et al., J Transl Med. 9:208. 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は抗原特異的CD4陽性T細胞の誘導を抑えつつ、抗原特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導するようなポリペプチドおよび同ポリペプチドを搭載したワクチン等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の通り、HIV複製抑制に中心的役割を担うとされているCD8陽性T細胞反応の誘導は、HIVワクチン開発における重要戦略の一つであり、CD8陽性T細胞誘導HIVワクチン開発においては抗原の設計が重要と考えられる。
【0009】
そこで本発明者らは、抗原特異的CD4陽性T細胞の誘導を抑え、抗原特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導するために新たな手法をもとに抗原設計を行うことを考えた。具体的には、まず標的とする抗原タンパク質のアミノ酸配列を、MHCクラスIエピトープの典型長を少なくとも有し、MHCクラスIIエピトープの典型長を有しない長さとなるように複数の部分アミノ酸配列に分割した。そして分割された部分アミノ酸配列を、MHCクラスIIエピトープの典型長を有する標的抗原タンパク質の連続した部分アミノ酸配列が再び数多く形成されてしまわないように順番を変えたり、オーバーラップやスペーサーを設けるなどして連結することで、標的抗原のMHCクラスIエピトープは含まれるが、標的抗原のMHCクラスIIエピトープは含まれないアミノ酸配列を形成させた。
【0010】
具体的には実施例では、CD4陽性T細胞の至適エピトープが13-18 merペプチドであることに対し、CD8陽性T細胞の至適エピトープが8-11 merペプチドであることに着目し、有効なHIV抗原特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導するためにHIV標的抗原由来11 merペプチドをタンデムに連結した新規抗原を設計した。有効なCD8陽性T細胞の標的領域であるウイルスGag CAおよびVifのアミノ酸配列を11 merペプチドに断片化し、これらのペプチド群の順序を並び替え、アラニンをスペーサーとしてタンデムに連結した抗原を設計した(TCT11)(
図1)。同様の手順で、標的抗原領域のペプチド開始アミノ酸位置を1 merずつシフトさせたタンデム連結抗原を計8種類(A~H)設計した。全8種類の抗原で、標的領域に理論上存在しうるCD8陽性T細胞エピトープを全て網羅することになる。一方、これらの抗原には、ウイルス由来の12 mer以上のペプチド配列が含まれないので、ウイルス抗原特異的CD4陽性T細胞の至適エピトープは論理上存在せず、効率良いCD4陽性T細胞誘導は生じないと考えられる。
【0011】
こうして設計されたタンデム連結抗原は、11 merという短い範囲では標的抗原のアミノ酸配列と一致しているものの、全体のアミノ酸配列は標的抗原のアミノ酸配列とは全く異なっている。このような連結抗原が、標的抗原タンパク質に対する特異的CD8陽性T細胞を果たして効率よく誘導できるのかを調べるため、連結抗原を発現するウイルスベクターを構築して個体に接種した。その結果、接種された個体では、標的抗原特異的CD8陽性T細胞頻度が有意に上昇する一方、標的抗原特異的CD4陽性T細胞頻度は変化しないことが確認された(
図2)。このように、本発明にしたがって抗原タンパク質のアミノ酸配列を再編成したポリペプチドを抗原として用いることによって、標的抗原のMHCクラスIエピトープを介した免疫反応を選択的に誘導できることが明らかとなった。
【0012】
本発明の方法を用いれば、標的抗原のMHCクラスIエピトープをあらかじめ同定する必要はなく、本発明の方法にしたがってアミノ酸配列を再編成して構築したポリペプチドを抗原として接種することによって、標的抗原のMHCクラスIIエピトープを介した免疫反応の誘導を避けながら、標的抗原のMHCクラスIエピトープを介した免疫反応を選択的に誘導することが可能となる。この方法は極めて汎用性が高く、HIVなどの感染性ウイルスに限られず、広く一般の標的蛋白質に対して、標的抗原特異的CD8陽性T細胞の反応を選択的に誘導するために用いることができる。
【0013】
すなわち本発明は、抗原特異的CD4陽性T細胞の誘導を抑えつつ、抗原特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導する抗原および該抗原を搭載したワクチン等に関し、より具体的には請求項の各項に記載の発明に関する。なお同一の請求項を引用する請求項に記載の発明の2つまたはそれ以上の任意の組み合わせからなる発明も、本明細書において意図された発明である。すなわち本発明は、以下の発明に関する。
〔1〕 抗原タンパク質のアミノ酸配列に含まれる8~12残基のアミノ酸配列を有する多種のペプチドを連結したポリペプチド。
〔2〕 該8~12残基ペプチドが、該抗原タンパク質における順番とは異なる順番で連結されている、〔1〕に記載のポリペプチド。
〔3〕 該抗原タンパク質の13残基以上の連続した部分アミノ酸配列を実質的に含まない、〔1〕または〔2〕に記載のポリペプチド。
〔4〕 該複数種のペプチドのアミノ酸配列は重なり合っていてもよい、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のポリペプチド。
〔5〕 該重なり合いが1~4残基である、〔4〕に記載のポリペプチド。
〔6〕 該連結部のそれぞれにはスペーサーを有していてもよい、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のポリペプチド。
〔7〕 該スペーサーが1~4残基のアミノ酸である、〔6〕に記載のポリペプチド。
〔8〕 該8~12残基ペプチドが少なくとも20種連結されている、〔1〕から〔7〕のいずれかに記載のポリペプチド。
〔9〕 〔1〕から〔8〕のいずれかに記載のポリペプチドをコードする核酸。
〔10〕 〔9〕に記載の核酸を含むベクター。
〔11〕 センダイウイルスベクターである、〔10〕に記載のベクター。
〔12〕 〔1〕から〔8〕のいずれかに記載のポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、または該核酸を含むベクターを含むワクチン。
〔13〕 抗原タンパク質がヒト免疫不全ウイルスの抗原タンパクに由来する、〔12〕に記載のワクチン。
〔14〕 〔12〕または〔13〕に記載のワクチンを接種する工程により、標的抗原特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導する方法。
〔15〕 〔1〕に記載のポリペプチドまたは該ポリペプチドをコードする核酸の製造方法であって、
(i) 抗原タンパク質をコードするアミノ酸配列を、8~12残基のアミノ配列に分割する工程であって、該分割アミノ酸配列は互いに重なり合っていてもいなくてもよい工程、
(ii) 該分割アミノ酸配列を、該抗原タンパク質の該アミノ酸配列と同一とならないように連結する工程であって、該分割アミノ酸配列の各連結部にはスペーサーを挟んでも挟まなくてもよい工程、
(iii) 工程(ii)により得られたアミノ酸配列を含むポリペプチドまたは該ポリペプチドをコードする核酸をそれぞれ取得する工程、を含む方法。
【0014】
また本発明は以下の発明も包含する。
〔16〕 該多種のペプチドが、スペーサーを介して連結されている、〔1〕から〔8〕のいずれかに記載のポリペプチド。
〔17〕 該8~12残基のアミノ酸配列が10種以上連結されている、〔1〕から〔8〕および〔16〕のいずれかに記載のポリペプチド。
〔18〕 該8~12残基のアミノ酸配列が20種以上連結されている、〔17〕に記載のポリペプチド。
〔19〕 該8~12残基のアミノ酸配列が30種以上連結されている、〔17〕に記載のポリペプチド。
〔20〕 該8~12残基以下のアミノ酸配列が8~11残基のアミノ配列である、〔1〕から〔8〕および〔16〕から〔19〕のいずれかに記載のポリペプチド。
〔21〕 該抗原タンパク質の13残基以上の連続した部分アミノ酸配列の総残基数が、該連結したアミノ酸配列の総残基数の20%以下である、〔1〕から〔8〕および〔16〕から〔20〕のいずれかにに記載のポリペプチド。
〔22〕 該抗原タンパク質の13残基以上の連続した部分アミノ酸配列の総残基数が、該連結したアミノ酸配列の総残基数の10%以下または5%以下である、〔21〕に記載のポリペプチド。
【0015】
また本発明は以下の発明も包含する。
〔23〕 抗原タンパク質のアミノ酸配列から12残基以下のアミノ配列を複数選択し、これらを連結したアミノ酸配列を含む、〔1〕から〔8〕のいずれかに記載のポリペプチド。
〔24〕 該抗原タンパク質の該アミノ酸配列と同一とならないように連結されている、〔23〕に記載のポリペプチド。
〔25〕 13残基以上の該抗原タンパク質の連続アミノ酸配列が実質的に生成しないように連結されている、〔23〕または〔24〕に記載のポリペプチド。
〔26〕 13残基以上の該抗原タンパク質の連続アミノ酸配列が生成するような連結が、連結総数の20%以下、10%以下、または5%以下となるように連結されている、〔23〕または〔24〕に記載のポリペプチド。
〔27〕 抗原タンパク質のアミノ酸配列から11残基以下のアミノ配列を複数選択して連結されており、12残基以上の該抗原タンパク質の連続アミノ酸配列が生成するような連結が、実質的に生成しないように連結されているか、あるいは連結総数の20%以下、10%以下、または5%以下となるように連結されている、〔26〕に記載のポリペプチド。
〔28〕 スペーサーを介して連結されている、〔23〕から〔27〕のいずれかに記載のポリペプチド。
〔29〕 スペーサーが1~4残基のアミノ酸である、〔28〕に記載のポリペプチド。
〔30〕 該分割アミノ酸配列が互いに重なり合っている、〔20〕から〔29〕のいずれかに記載のポリペプチド。
〔31〕 1~4残基重なり合っている、〔30〕に記載のポリペプチド。
〔32〕 10種以上の分割アミノ酸配列が連結されている、〔23〕から〔31〕のいずれかに記載のポリペプチド。
〔33〕 20種以上の分割アミノ酸配列が連結されている、〔32〕に記載のポリペプチド。
〔34〕 30種以上の分割アミノ酸配列が連結されている、〔32〕に記載のポリペプチド。
〔35〕 抗原タンパク質のアミノ酸配列を5~12残基のアミノ配列に分割する、〔23〕から〔34〕のいずれかに記載のポリペプチド。
〔36〕 抗原タンパク質のアミノ酸配列を8~12残基のアミノ配列に分割する、〔23〕から〔34〕のいずれかに記載のポリペプチド。
〔37〕 抗原タンパク質のアミノ酸配列を8~11残基のアミノ配列に分割する、〔23〕から〔34〕のいずれかに記載のポリペプチド。
【0016】
また本発明は以下の発明も包含する。
〔38〕 〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチドをコードする核酸。
〔39〕 〔38〕に記載の核酸を含むベクター。
〔40〕 センダイウイルスベクターである、〔39〕に記載のベクター。
〔41〕 〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、または該核酸を含むベクターを含むワクチン。
〔42〕 抗原タンパク質がヒト免疫不全ウイルスの抗原タンパクに由来する、〔41〕に記載のワクチン。
〔43〕 〔41〕または〔42〕に記載のワクチンを接種する工程により、標的抗原特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導する方法。
【0017】
また本発明は以下の発明も包含する。
〔44〕 〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、または該核酸を含むベクターの、標的抗原特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導するための使用。
〔45〕 〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、または該核酸を含むベクターの、標的抗原特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導するための医薬または薬剤の製造のための使用。
【0018】
また本発明は以下の発明も包含する。
〔46〕 〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、または該核酸を含むベクターを接種する工程を含む、ワクチネーション方法。
〔47〕 〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、または該核酸を含むベクターであって、それぞれ複数種のポリペプチド、核酸、またはベクターを投与する、〔46〕に記載の方法。
〔48〕 〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチドではない他のポリペプチド、該他のポリペプチドをコードする核酸または該核酸を含むベクターをさらに接種する工程を含む、〔46〕または〔47〕に記載の方法。
〔49〕 〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチドではない他のポリペプチド、該他のポリペプチドをコードする核酸または該核酸を含むベクターを先に接種する、〔48〕に記載の方法。
〔50〕 該他のポリペプチドが、該抗原タンパク質またはその部分ペプチドである、〔48〕または〔49〕に記載の方法。
〔51〕 該他のポリペプチドをコードする核酸を含むベクターが、DNAベクターである、〔48〕から〔50〕のいずれかに記載の方法。
【0019】
〔52〕 〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、または該核酸を含むベクターの、ワクチネーションのための使用。
〔53〕 〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、または該核酸を含むベクターであって、それぞれ複数種のポリペプチド、核酸、またはベクターを投与するための、〔52〕に記載の使用。
〔54〕 〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチドではない他のポリペプチド、該他のポリペプチドをコードする核酸または該核酸を含むベクターをさらに接種する、〔52〕または〔53〕に記載の使用。
〔55〕 〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチドではない他のポリペプチド、該他のポリペプチドをコードする核酸または該核酸を含むベクターを先に接種する、〔54〕に記載の使用。
〔56〕 該他のポリペプチドが、該抗原タンパク質またはその部分ペプチドである、〔54〕または〔55〕に記載の使用。
〔57〕 該他のポリペプチドをコードする核酸を含むベクターが、DNAベクターである、〔54〕から〔56〕のいずれかに記載の使用。
【0020】
〔58〕 〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、または該核酸を含むベクターの、ワクチネーションのための医薬または薬剤の製造のための使用。
〔59〕 〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、または該核酸を含むベクターであって、それぞれ複数種のポリペプチド、核酸、またはベクターを投与するための、〔58〕に記載の使用。
〔60〕 〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチドではない他のポリペプチド、該他のポリペプチドをコードする核酸または該核酸を含むベクターをさらに接種する、〔58〕または〔59〕に記載の使用。
〔61〕 〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチドではない他のポリペプチド、該他のポリペプチドをコードする核酸または該核酸を含むベクターを先に接種する、〔60〕に記載の使用。
〔62〕 該他のポリペプチドが、該抗原タンパク質またはその部分ペプチドである、〔60〕または〔61〕に記載の使用。
〔63〕 該他のポリペプチドをコードする核酸を含むベクターが、DNAベクターである、〔60〕から〔62〕のいずれかに記載の使用。
【0021】
〔64〕 ワクチネーションのための、〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、または該核酸を含むベクターの使用。
〔65〕 〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、または該核酸を含むベクターであって、それぞれ複数種のポリペプチド、核酸、またはベクターを投与するための、〔64〕に記載の使用。
〔66〕 〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチドではない他のポリペプチド、該他のポリペプチドをコードする核酸または該核酸を含むベクターをさらに接種する、〔64〕または〔65〕に記載の使用。
〔67〕 〔1〕から〔8〕、および〔16〕から〔37〕のいずれかに記載のポリペプチドではない他のポリペプチド、該他のポリペプチドをコードする核酸または該核酸を含むベクターを先に接種する、〔66〕に記載の使用。
〔68〕 該他のポリペプチドが、該抗原タンパク質またはその部分ペプチドである、〔66〕または〔67〕に記載の使用。
〔69〕 該他のポリペプチドをコードする核酸を含むベクターが、DNAベクターである、〔66〕から〔68〕のいずれかに記載の使用。
【0022】
なお、本明細書に記載した任意の技術的事項およびその任意の組み合わせは、本明細書において意図されている。また、それらの発明において、本明細書に記載の任意の事項またはその任意の組み合わせを除外した発明も、本明細書において意図されている。また本発明に関して、明細書中に記載されたある特定の態様は、それを開示するのみならず、その態様を含むより上位概念の本明細書に開示された発明から、その態様を除外した発明も開示するものである。
【発明の効果】
【0023】
上述の通り本発明は、所望の抗原についてCD8陽性T細胞を選択的に誘導するために有用である。例えばAIDSワクチンにおいて、HIV抗原特異的CD4陽性T細胞誘導をできるだけ抑え、有効なHIV抗原特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】標的11mer連結抗原TCT11の概要を示す図である。
【
図2】SIV複製制御サル慢性期におけるSCaV11抗原発現ワクチン接種試験を示す図である。
【
図3】非感染サルへのSCaV11抗原発現ワクチン接種試験を示す図である。
【
図4】
図3と同様に、ワクチン接種後の抗原特異的T細胞反応を示す図である。
【
図5】ワクチン接種後のリンパ節における抗原特異的T細胞反応を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明において「ワクチン」とは、抗原に対する免疫反応を惹起させるための組成物を言い、例えば、伝染病や感染症等の予防または治療のために使用される組成物を言う。ワクチンは抗原を含んでいるか、または抗原を発現可能であり、これにより抗原に対する免疫応答を誘導することができる。病原微生物の感染、伝播、および流行の予防または治療のために、本発明のポリペプチド、該ポリペプチドを発現する核酸およびベクターはワクチンとして有用である。このワクチンは、所望の形態で用いることができる。
【0026】
「抗原」とは、一般的には、1つまたはそれ以上のエピトープ(抗体あるいは免疫細胞が認識する抗原の一部分)を含む分子であり、宿主の免疫系を刺激して抗原特異的な免疫応答を誘導し得るものを言う。免疫応答は、体液性免疫応答および/または細胞性免疫応答であってよい。なお本発明においてエピトープには、一次構造から形成されるエピトープだけでなく、蛋白質の立体構造に依存したエピトープも含まれる。また抗原は免疫原とも言う。
【0027】
本発明において「ウイルスベクター」は、当該ウイルスに由来するゲノム核酸を有し、該核酸に導入遺伝子を組み込むことにより、細胞に導入後、該遺伝子を発現させることができるベクターである。例えばパラミクソウイルスベクターは、染色体非組み込み型ウイルスベクターであって、ベクターは細胞質中で発現されるので、導入遺伝子が宿主の染色体(核由来染色体)に組み込まれる危険性がない。従って安全性が高く、また感染細胞からベクターを除去することが可能である。本発明においてパラミクソウイルスベクターには、感染性ウイルス粒子の他、ウイルスコア、ウイルスゲノムとウイルス蛋白質との複合体、または非感染性ウイルス粒子などからなる複合体であって、細胞に導入することにより搭載する遺伝子を発現する能力を持つ複合体が含まれる。例えばパラミクソウイルスにおいて、パラミクソウイルスゲノムとそれに結合するパラミクソウイルス蛋白質(NP、P、およびL蛋白質)からなるリボヌクレオ蛋白質(ウイルスのコア部分)は、細胞に導入することにより細胞内で導入遺伝子を発現することができる(WO00/70055)。細胞への導入は、適宜トランスフェクション試薬等を用いて行えばよい。このようなリボヌクレオ蛋白質(RNP)も本発明においてパラミクソウイルスベクターに含まれる。本発明においてパラミクソウイルスベクターは、好ましくは上記のRNPが細胞膜由来の生体膜に包まれた粒子である。
【0028】
本発明は、標的とする抗原タンパク質に対する特異的CD4陽性T細胞の誘導を抑え、特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導するために有用なポリペプチドを提供する。当該ポリペプチドは、MHCクラスIエピトープの典型長を少なくとも有し、MHCクラスIIエピトープの典型長を有しない長さとなるよう抗原タンパク質のアミノ酸配列から切り出された複数の部分アミノ酸配列が、抗原タンパク質のもとのアミノ酸配列(すなわち抗原タンパク質のアミノ酸配列)と同一とならないように連結されたアミノ酸配列を含むポリペプチドである。ここでMHCクラスIまたはクラスIIエピトープの典型長とは、それぞれのエピトープに必要な長さの典型を言う。MHCクラスIエピトープは一般に5~12残基程度である。CD8陽性T細胞誘導のための至適MHCクラスIエピトープは8~11残基ペプチドである。一方、CD4陽性T細胞誘導のための至適MHCクラスIIエピトープは13~18残基ペプチドと考えられている。本発明において、MHCクラスIエピトープの典型長とは、例えば5~12アミノ酸、好ましくは6~12アミノ酸、より好ましくは7~12アミノ酸、より好ましくは8~11アミノ酸、例えば7、8、9、10、または11アミノ酸である。本発明においてMHCクラスIIエピトープの典型長とは、例えば15アミノ酸以上、好ましくは14~25アミノ酸以上、より好ましくは13~18アミノ酸であり、例えば22、20、18、15、または13アミノ酸である
【0029】
本発明のポリペプチドは、例えば以下の手順により製造することができる。
(i) 所望の標的抗原タンパク質をコードするアミノ酸配列を、MHCクラスIエピトープの典型長を少なくとも有し、MHCクラスIIエピトープの典型長を有しない長さとなるよう分割する工程であって、当該分割アミノ酸配列は互いに重なり合っていてもいなくてもよい工程、
(ii) 当該分割アミノ酸配列を、当該抗原タンパク質の当該アミノ酸配列(すなわちもとのアミノ酸配列)と同一とならないように連結する工程であって、当該分割アミノ酸配列の各連結部にはスペーサーを挟んでも挟まなくてもよい工程、
(iii) 工程(ii)により得られたアミノ酸配列を含むポリペプチドを取得する工程。
【0030】
また本発明のポリペプチドをコードする核酸は、例えば以下の手順により製造することができる。
(i) 所望の標的抗原タンパク質をコードするアミノ酸配列を、MHCクラスIエピトープの典型長を少なくとも有し、MHCクラスIIエピトープの典型長を有しない長さとなるよう分割する工程であって、当該分割アミノ酸配列は互いに重なり合っていてもいなくてもよい工程、
(ii) 当該分割アミノ酸配列を、当該抗原タンパク質の当該アミノ酸配列(すなわちもとのアミノ酸配列)と同一とならないように連結する工程であって、当該分割アミノ酸配列の各連結部にはスペーサーを挟んでも挟まなくてもよい工程、
(iii) 工程(ii)により得られたアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸を取得する工程。
【0031】
ここで、「MHCクラスIエピトープの典型長を少なくとも有し、MHCクラスIIエピトープの典型長を有しない長さ」とは、例えば5~14アミノ酸であり、好ましくは5~13アミノ酸、より好ましくは5~12アミノ酸、より好ましくは8~12アミノ酸、より好ましくは8~11アミノ酸である。
【0032】
標的とする抗原タンパク質に特に制限はなく、所望のタンパク質を用いることができる。抗原タンパク質は天然のタンパク質であっても人工のタンパク質であってもよいが、好ましくは天然のタンパク質である。また、全長タンパク質を抗原タンパク質として用いてもよく、その部分タンパク質を抗原タンパク質として用いてもよい。また、複数のタンパク質を結合させた融合タンパク質を抗原タンパク質として用いてもよい。本発明において用いられる抗原タンパク質としては、疾患に関連するタンパク質が好ましい。特に、当該抗原タンパク質に対する細胞性免疫の誘導が、疾患の予防および/または治療につながるようなものが好適である。典型的には、標的とする抗原タンパク質としては、所望の病原体、病原性微生物、または寄生生物等のタンパク質またはその断片、癌抗原(腫瘍特異的タンパク質)やがん幹細胞抗原、またはそれらの断片などが挙げられる。腫瘍抗原の例としては、例えば、WT1、サバイビン、サバイビン-B2、MAGE-A3、MEGE-A4、チロシナーゼ、gp100、Melan-A、TRP-2、SNRPD1、CDK4、NY-ESO-1、HER2、MUC-1、CD20、p53などを挙げることができる。がん幹細胞抗原としては、CD44、CD133、LGR5、Dclk1などを挙げることができる。ウイルス抗原としては、肝炎ウイルス(HBV、HCV等)、ヒトパピローマウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、成人T細胞白血病ウイルス等のウイルスの構成タンパク質を挙げることができる。寄生虫抗原としては、マラリア原虫タンパク質等を挙げることができる。
【0033】
抗原タンパク質としては、特に感染性微生物に由来するタンパク質が挙げられ、中でも病原性ウイルス、特にCD4陽性T細胞感染性ウイルスが挙げられる。そのようなウイルスとしては、後天性免疫不全症候群(AIDS)の病原性ウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)、および成人T細胞白血病(ATL)の病原性ウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)が挙げられる。本発明の抗原タンパク質としては、当該ウイルスのタンパク質や、その断片を好適に用いることができる。
【0034】
また本発明は、所望の抗原タンパク質のアミノ酸配列に含まれる12残基以下のアミノ酸配列を有する多種のペプチドを連結したポリペプチドに関する。ここで「12残基以下」は、MHCクラスIエピトープとなり得る長さを有する限り下限値に特に制限はないが、例えば5~12アミノ酸、好ましくは6~12アミノ酸、より好ましくは7~12アミノ酸、より好ましくは8~12アミノ酸、9~12アミノ酸、10~12アミノ酸、または10~11アミノ酸である。また「多種」とは、そこに実際にMHCクラスIエピトープとなるペプチドが含まれると期待される限りは任意の複数の数であってよいが、例えば10種類以上、好ましくは15種類以上、より好ましくは20種類以上、例えば30種以上、40種以上、または50種以上である。
【0035】
具体的には、本発明のポリペプチドは、所望の抗原タンパク質のアミノ酸配列の連続した少なくとも5アミノ酸(好ましくは6、7、8、9、10、または11アミノ酸)を有し、15アミノ酸(好ましくは14、13、または12アミノ酸)は有しない長さとなるように切り出した複数の部分アミノ酸配列(分割アミノ酸配列とも言う)が、当該抗原タンパク質のもとのアミノ酸配列と同一とならないように連結されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。より具体的には、本発明のポリペプチドは、所望の抗原タンパク質のアミノ酸配列の少なくとも8アミノ酸(より好ましくは少なくとも9、10、または11アミノ酸)を有し、13アミノ酸(より好ましくは12アミノ酸)は有しない長さとなるように切り出した複数の部分アミノ酸配列が、当該抗原タンパク質のもとのアミノ酸配列と同一とならないように連結されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであってよい。
【0036】
ここで、当該抗原タンパク質のもとのアミノ酸配列と同一とは、連結されて最終的に生成されたアミノ酸配列が、抗原タンパク質のアミノ酸配列(分割前の抗原タンパク質のアミノ酸配列)と同じであることを言う。もとのアミノ酸配列と同一となることを避けるためには、例えば連結させる順番を変えればよく、例えば飛び飛びに、ランダムに、または順不同に結合させればよい。あるいは、結合させるときに1または複数のアミノ酸からなるスペーサーを挟むようにすれば、例え順番通りに連結しても元のアミノ酸配列と同一になることを避けることができる。あるいは、抗原タンパク質のアミノ酸を分割する際に、数残基ずつ重複するように分割すれば、それを連結させたアミノ酸配列は、もとの抗原タンパク質のアミノ酸配列とは同一とならない。
【0037】
抗原タンパク質のアミノ酸配列からの部分アミノ酸配列の切り出し方に特に制限はなく、すべての断片が同じ長さ(例えば8、9、10、11、12アミノ酸のいずれか1つに統一した長さ)となるように切り出してもよいし、断片によって違う長さ(例えば断片によって8、9、10、11、12アミノ酸のいずれか)となるように切り出してもよいが、典型的には前者のように切り出すことができる。
【0038】
例えば以下のような抗原タンパク質のアミノ酸配列を分割する場合について例示する。
YPVQQIGGNYVHLPLSPRTLNAWVKLIEEKKFGAEVVPGFQALSEGCTPYDINQMLNCVG...(配列番号1)
【0039】
この配列を、例えば11残基のアミノ酸配列に分割する場合、例えば以下のように分割することができる。
【0040】
[例1]
YPVQQIGGNYV(配列番号2)
HLPLSPRTLNA(配列番号3)
WVKLIEEKKFG(配列番号4)
AEVVPGFQALS(配列番号5)
EGCTPYDINQM(配列番号6)
.....
【0041】
上記のように分割していけば、最後に残る11残基未満の余り(もしそのようなものが生じればだが)を除けば、抗原タンパク質のアミノ酸配列の全配列(すなわち100%)を11残基ずつのアミノ酸配列に分割することができる。本発明においては、これを抗原タンパク質のアミノ酸配列のカバー率と呼び、上記の例ではほぼ100%となる。本発明のポリペプチドに含まれる連結アミノ酸配列において、抗原タンパク質のアミノ酸配列のカバー率は、例えば50%以上、好ましくは55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、または100%である。
【0042】
これらの分割アミノ酸配列(上の例で言えば配列番号2~6)を連結させる場合、順番通りに連結したのでは元々の抗原タンパク質のアミノ酸配列に戻ってしまう(すなわち元のアミノ酸配列と同一になってしまう)。それを避けるためには、連結する順番を適宜変えればよく、例えば配列番号2、4、3、5、・・・のように連結して行けば、元のアミノ酸配列と同一になることを避けることができる。このような連結に仕方に特に制限はなく、規則的に飛び飛びとなるように連結させてもよく、ランダムに連結させてもよい。ランダムに連結させた場合、確率的に、もともと隣り合う断片が同じように隣り合って連結されることがあるかも知れない。そうした連結がある程度起こることは許容されるが、なるべくそういうことが起こらないように連結させることが好ましい。例えば本発明のポリペプチドに含まれる連結アミノ酸配列において、もともと隣り合う断片が同じように隣り合って連結されることにより、連結された部分のアミノ酸配列が元々の抗原タンパク質のアミノ酸配列と同じになってしまうような連結は、連結アミノ酸配列に含まれる総連結数の例えば10%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下である。そのような連結が含まれないことは、言うまでもなく最も好ましい。
【0043】
例えば連結させて生成された連結アミノ酸配列は、もとの抗原タンパク質のアミノ酸配列の15アミノ酸より長い(好ましくは少なくとも14、13、12、または11アミノ酸より長い)連続した部分アミノ酸配列を実質的に含まないことが好ましい。「実質的に含まない」とは、当該長い連続した部分アミノ酸配列を含まないか、あるいは当該長い連続した部分アミノ酸配列の総残基数が、当該連結アミノ酸配列の総残基数に比べて十分に小さいことを言う。十分に小さいとは、例えば、当該長い連続した部分アミノ酸配列の総残基数が、当該連結アミノ酸配列の総残基数の30%以下であることが好ましく、より好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。例えば連結アミノ酸配列は、もとの抗原タンパク質の12アミノ酸より長い(好ましくは11アミノ酸より長い)連続した部分アミノ酸配列を含まないか、そのような部分アミノ酸配列の総残基数が、当該連結アミノ酸配列の総残基数の10%以下(より好ましくは5%以下)である。
【0044】
また、分割アミノ酸配列を連結させる際にスペーサーを挟んでもよい。スペーサーは、1または複数のアミノ酸残基であってよく、好ましくは1~数個、例えば1、2、3、または4残基の所望のアミノ酸であってよい。スペーサーとするアミノ酸に特に制限はないが、例えばアラニン(A)を用いることができる。例えば、上に例示した分割アミノ酸配列(配列番号2~6)をスペーサーを介して連結させることで、順番通りに連結しても、元々の抗原タンパク質のアミノ酸配列に戻ってしまう(すなわち元のアミノ酸配列と同一になってしまう)ことを避けることができる。もちろん、飛び飛びまたはランダムに連結させる際にもスペーサーを適宜挿入してよい。
【0045】
なお、抗原タンパク質のアミノ酸配列の分割の仕方は上に例示したやり方に限定されず、例えば8~12残基のアミノ配列を、抗原タンパク質のアミノ酸配列中の任意の位置から切り出してよい。例えば上に示した抗原タンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)を、3残基のギャップを取りながら11残基のアミノ酸配列に分割する場合、以下のように分割することができる。
【0046】
[例2]
YPVQQIGGNYV(配列番号2)
LSPRTLNAWVK(配列番号7)
EKKFGAEVVPG(配列番号8)
LSEGCTPYDIN(配列番号9)
.....
【0047】
この場合の抗原タンパク質のアミノ酸配列のカバー率は、最後に残る11残基未満の余りを除けば、11/14、すなわち78.6%となる。これらの分割アミノ酸配列は、所望の順番で連結させることができる。例えばもともとの順番と同じ順番に、飛び飛びに、またはランダムに連結させてよい。連結部分には、適宜スペーサーを挟んでもよく、挟まなくてもよい。
【0048】
また、抗原タンパク質のアミノ酸配列を分割した配列は、互いに重なり合っていてもよい。例えば上に示した抗原タンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)を11残基のアミノ酸配列に分割する際に、互いに3残基重なり合うように分割すると次のようになる。
【0049】
[例3]
YPVQQIGGNYV(配列番号2)
NYVHLPLSPRT(配列番号10)
PRTLNAWVKLI(配列番号11)
KLIEEKKFGAE(配列番号12)
GAEVVPGFQAL(配列番号13)
QALSEGCTPYD(配列番号14)
PYDINQMLNCV(配列番号15)
.....
【0050】
上のように重なり合わせれば、MHCクラスIエピトープとなりうる長さを持つ分割アミノ酸配列を、より多種類、連結アミノ酸配列中に取り込めることになるので有利である。例えば抗原タンパク質のアミノ酸配列を、「例1」のように、ギャップや重なりを設けずに11アミノ酸ずつに分割し、それを連結したポリペプチドを作製する場合、分割の仕方には11種類のフレームが存在する。具体的には、上の「例1」で示されているのは、抗原タンパク質のアミノ酸配列を1番目のアミノ酸から11アミノ酸ずつ分割する場合であるが、それ以外にもフレームの取り方には、2番目のアミノ酸から11アミノ酸ずつ分割する場合、3番目のアミノ酸から11アミノ酸ずつ分割する場合、・・・、11番目のアミノ酸から11アミノ酸ずつ分割する場合が存在する。したがって、11アミノ酸に分割された分割アミノ酸配列を、すべてのフレームにおいて網羅しようとすると11種類の連結アミノ酸配列が必要となる。しかし、「例3」のように3残基が重なるように分割した分割アミノ酸を連結した連結アミノ酸配列を作成する場合、11アミノ酸に分割された分割アミノ酸配列をすべてのフレームにおいて網羅するためには8種類の連結アミノ酸配列で足りる(実施例参照)。したがって、分割アミノ酸配列に重なりを設けることによって、より少ない種類の連結アミノ酸配列で、抗原タンパク質のアミノ酸配列に理論上存在しうる全種類の分割アミノ酸配(すなわちMHCクラスIエピトープとなりうる配列)を網羅することが可能となる。
【0051】
重なり合いを設ける場合、その重なりの長さは特に限定されない。但し、連結ポリペプチドを組み換えタンパク質として発現する際などに、相同組み換えによる望まない配列の欠損や重複等が起きるのを避けるためには、重複する領域はあまり長くしない方が好ましい。分割アミノ酸同士が重複する長さは、例えば1~数残基、具体的には、例えば1~6アミノ酸、より好ましくは1~5アミノ酸、より好ましくは1~4アミノ酸、より好ましくは1~3アミノ酸、より好ましくは1~2アミノ酸である。
【0052】
なお上記に示した例は、抗原タンパク質のアミノ酸配列を、固定した数のアミノ酸(上の例では11アミノ酸)ずつ分割したものであるが、固定した数である必要はない。例えば下記の例では、配列番号1で示した抗原タンパク質のアミノ酸配列を、順に11アミノ酸、8アミノ酸、10アミノ酸、9アミノ酸、11アミノ酸となるように分割した例であって、各分割アミノ酸配列は、ギャップを有することもあれば有しないこともあり、重なりを有することもあれば有しないこともある場合を示している。これらの分割アミノ酸配列を連結するような場合も本発明に包含される。
【0053】
[例4]
YPVQQIGGNYV(配列番号2)
NYVHLPLS(配列番号16)
SPRTLNAWVK(配列番号17)
EEKKFGAEV(配列番号18)
EVVPGFQALSE(配列番号19)
.....
【0054】
典型的には、抗原タンパク質のアミノ酸配列は、8~12アミノ酸から選択されるいずれかの固定した数で分割される(例えば11アミノ酸を選択するのであれば、すべての分割は11アミノ酸で分割される)。また、分割の際のアミノ酸配列の重なりについても、固定した数で重なりが設けられる(例えば、3アミノ酸の重なりを選択するのであれば、すべての分割アミノ酸配列で、両端が3アミノ酸ずつ重なるように分割される。また、重なりを設けないのであれば、すべての分割で重なりを設けない)。
【0055】
連結させる分割アミノ酸配列の数は、抗原タンパク質の長さにも依存するかも知れない。連結させる分割アミノ酸配列の数に特に制限はないが、なるべく多くの種類の分割アミノ酸配列を連結させることで、抗原タンパク質に特異的なMHCクラスIエピトープとなる配列が含まれる確率やその種類数は上昇することが期待される。連結させる分割アミノ酸配列の数は、例えば10種類以上、好ましくは15種類以上、20種類以上、25種類以上、30種類以上、35種類以上、40種類以上、45種類以上、50種類以上、または55種類以上である。こうして連結されたアミノ酸配列における抗原タンパク質のアミノ酸配列のカバー率は上述の通り高いことが好ましく、分割する際にギャップはなるべく設けないことが好ましい。例えば、抗原タンパク質のアミノ酸配列を11アミノ酸ずつ分割することにし、互いに3残基ずつ重なるようにする場合、分割アミノ酸配列を10種類確保するために必要な抗原タンパク質の長さは83アミノ酸であり、20種類確保するために必要な抗原タンパク質の長さは163アミノ酸である。よって元となる抗原タンパク質の長さは、例えば80アミノ酸以上、好ましくは85アミノ酸以上、好ましくは100アミノ酸以上、より好ましくは150アミノ酸以上、200アミノ酸以上、250アミノ酸以上、300アミノ酸以上、または350アミノ酸以上、より好ましくは400アミノ酸以上のものを選択することが好ましい。また、連結ポリペプチド(連結されたアミノ酸配列)の長さは、例えば100アミノ酸以上、好ましくは120アミノ酸以上、好ましくは150アミノ酸以上、より好ましくは200アミノ酸以上、250アミノ酸以上、300アミノ酸以上、350アミノ酸以上、または400アミノ酸以上、より好ましくは500アミノ酸以上である。
【0056】
連結アミノ酸配列を含むポリペプチドは、標的とする抗原タンパク質の潜在的なMHCクラスIエピトープを含むが、抗原タンパク質の潜在的なMHCクラスIIエピトープは含まれていないことが期待できる。このポリペプチドを抗原として接種することによって、MHCクラスIIを介した標的抗原タンパク質に対する免疫応答はほとんど誘導されないことが期待できる。実際、
図3および4のグラフに示される通り、単にHIVのGagタンパク質やVif/Nefタンパク質を抗原として接種した場合、標的抗原特異的CD4陽性T細胞の頻度は有意に上昇するのに対し、本発明のポリペプチドを抗原として接種した場合、標的抗原特異的CD4陽性T細胞の頻度はほとんど上昇しない。そして本発明のポリペプチドを抗原として接種することによって、標的抗原特異的CD8陽性T細胞の頻度は有意に上昇することが判明した。よって本発明のポリペプチドは、標的抗原タンパク質に対するMHCクラスIを介した免疫反応を選択的に誘導するために有用である。
【0057】
標的抗原タンパク質に対するMHCクラスIおよびMHCクラスIIの免疫応答は、公知の方法で測定することができる。例えば本発明のポリペプチドまたはそれをコードする核酸またはベクターを接種し、血液から末梢血単核球(PBMC)を回収する。得られた細胞に抗原刺激を加え、IFN-γ産生細胞を検出することにより、標的抗原特異的T細胞頻度を測定する。
【0058】
本発明のポリペプチドを抗原として用いた場合、標的抗原タンパク質特異的CD8陽性T細胞頻度は選択的に上昇する。選択的とは、標的抗原タンパク質特異的CD4陽性T細胞頻度の上昇に比べ、標的抗原タンパク質特異的CD8陽性T細胞頻度の上昇が有意に高いことを言う。本発明のポリペプチドによる「標的抗原タンパク質特異的CD8陽性T細胞頻度の上昇倍率/標的抗原タンパク質特異的CD4陽性T細胞頻度の上昇倍率」(CD8 T頻度上昇倍率/CD4 T頻度上昇倍率)は、例えば1.1以上、好ましくは1.2以上、1.3以上、1.5以上、2以上、3以上、5以上、10以上、15以上、20以上、または30以上であってよい。また、本発明のポリペプチドによる「CD8 T頻度上昇倍率/CD4 T頻度上昇倍率」の値は、元の標的抗原タンパク質を抗原として用いる場合に比べ、例えば1.1以上、好ましくは1.2以上、1.3以上、1.5以上、2以上、3以上、5以上、10以上、15以上、20以上、または30以上であってよい。
【0059】
上記の細胞頻度の測定は、接種から5日以降の適当なタイミングで行ってよく、例えば接種から1週間、2週間、3週間、または4週間後に行うことができる。接種を複数回行う場合も、適宜適当なタイミングで測定を行うことができ、例えば最終接種から1週間後に血液を採取して測定することができる。
【0060】
また本発明のポリペプチドを接種した場合、接種後5日以降のいずれかのタイミングにおいて、「標的抗原タンパク質特異的CD8陽性T細胞頻度/標的抗原タンパク質特異的CD4陽性T細胞頻度」(CD8 T頻度/CD4 T頻度)の値は、例えば1.1以上、好ましくは1.2以上、1.3以上、1.5以上、2以上、3以上、5以上、10以上、15以上、20以上、または30以上であってよい。また、本発明のポリペプチドによる「CD8 T頻度/CD4 T頻度」の値は、元の標的抗原タンパク質を抗原として用いる場合に比べ、例えば1.1以上、好ましくは1.2以上、1.3以上、1.5以上、2以上、3以上、5以上、10以上、15以上、20以上、または30以上であってよい。
【0061】
連結アミノ酸配列を含むポリペプチドには、適宜、他のアミノ酸配列が含まれていてもよい。例えばポリペプチドの先頭には、メチオニン(M)を付加することができ、メチオニンと連結アミノ酸配列との間にはスペーサーアミノ酸が含まれていてもよい。スペーサーアミノ酸としてアラニン(A)を用いる場合、当該ポリペプチドの先頭(N末端)はMA(Met-Ala)とすることができる。また当該ポリペプチドのC末端は、適宜タグやスペーサーなどを付加してよい。例えば実験用途においては、C末端にH-2Kd RT2エピトープ(VYYDPSKDLI/配列番号20)などの所望の配列を付加することができる。付加する際にはスペーサーアミノ酸を適宜挟んでもよく、また、C末端にさらにスペーサーアミノ酸(例えばAla)を付加してもよい。
【0062】
また本発明のポリペプチドは、複数の抗原タンパク質のアミノ酸配列から作成して連結アミノ酸配列を含むことができる。例えばある病原体の2つのタンパク質についてそれぞれ作成した連結アミノ酸配列を連結させ一つのポリペプチドすることができる。例えば実施例においては、HIVのGagタンパク質のアミノ酸配列から作成した連結アミノ酸配列と、Vifタンパク質のアミノ酸配列から作成した連結アミノ酸配列をつなぎ合わせ、一つのポリペプチドを作製した。このように、本発明のポリペプチドは、複数の抗原タンパク質から作成した連結アミノ酸配列を含むことができる。
【0063】
また本発明のポリペプチドを抗原として接種する場合、複数の本発明のポリペプチドを組み合わせて用いることもできる。ここで「組み合わせて用いる」とは、同時に用いることに限定されず、一連の使用において、連続的または継時的に用いることであってもよい。上述の通り、抗原タンパク質のアミノ酸配列を例えば11アミノ酸ずつ分割する場合、分割するフレームの取り方は11種類存在する。したがって、標的とする抗原タンパク質のアミノ酸配列に存在しうるMHCクラスIエピトープ(CD8陽性T細胞エピトープ)となりうる配列をすべて網羅しようとすると、例えば分割アミノ酸配列に重なりを設けない場合は、11種類の連結アミノ酸配列が必要となり、3残基の重なりを設ける場合は、8種類の連結アミノ酸配列が必要となる。これらの連結アミノ酸配列は、1つの発現ベクターから複数のポリペプチドとして発現させたり、あるいは複数の連結アミノ酸配列同士を連結させて1つのポリペプチドとして発現させたりすることもできるが、連結アミノ酸配列同士は、数十ベース程度の同一核酸配列が多数共有されることになるので、相同組み換えが起こるリスクがある。それを避けるためには、異なるフレームで作成した複数の連結アミノ酸配列を組み換えポリペプチドとして発現させる場合は、それぞれを別々のポリペプチドとし、別々のベクターから発現させることが好ましい。これらのフレームが異なる連結アミノ酸配列を含むポリペプチドや、それらをコードする核酸またはベクターを適宜組み合わせて接種することにより、理論上存在しうるMHCクラスIエピトープとなり得る配列を広範に網羅することができ、効率よく標的特異的CD8陽性T細胞を誘導することができると考えられる。
【0064】
例えば上の「例3」で言えば、フレームの異なる連結アミノ酸配列を含む8種類のポリペプチドを組み合わせることで、理論上存在しうるMHCクラスIエピトープとなり得る配列(抗原タンパク質のアミノ酸配列から選択しうる11アミノ酸の組み合わせ)をすべて(すなわち100%)網羅することができる。本発明においては、これを抗原タンパク質の分割配列のカバー率と呼ぶ。当該カバー率は、抗原タンパク質に存在する潜在的なMHCクラスIエピトープのカバー率に対応する。上の「例1」の場合、1つの連結アミノ酸配列の分割配列のカバー率(11残基で分割する場合。これを11アミノ酸のウィンドウ幅における分割配列カバー率という。)は 1/11、すなわち9.1%であり、フレームの異なるn個の連結アミノ酸配列を組み合わせた場合は (1/11)*n %である。上の「例3」の場合、1つの連結アミノ酸配列の分割配列のカバー率(11残基で分割する場合)は 1/8、すなわち12.5%であり、フレームの異なるn個の連結アミノ酸配列を組み合わせた場合は (1/8)*n %である。本発明のポリペプチドを複数組み合わせる場合、その組み合わせとしては、抗原タンパク質の分割配列のカバー率が、例えば20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、または100%となるようにしてよい。当該カバー率は、分割するアミノ酸の長さに応じて算出される。アミノ酸の長さ(すなわちウィンドウ幅)は、例えば8アミノ酸、好ましくは9アミノ酸、より好ましくは10アミノ酸、より好ましくは11アミノ酸である。例えば上の「例3」(11アミノ酸ごとに分割し、3残基の重なりあり)の場合、抗原タンパク質の分割配列のカバー率が60%以上となるためには、フレームの異なる6種類の連結アミノ酸配列を組み合わせればよい。
【0065】
例えば本発明の連結アミノ酸配列を含むポリペプチドは、分割のフレームが異なるポリペプチドを少なくとも2種類、好ましくは2種類、より好ましくは4種類、より好ましくは5種類、6種類、7種類、8種類、9種類、10種類、または11種類組み合わせることができる。これらのポリペプチドは、別々のワクチン組成物として調製してもよいし、1つの組成物中に混合して調製してもよい。
【0066】
また本発明は、本発明の連結アミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸に関する。ここで核酸には特に制限はなく、DNAであってもRNAであってもよい。また、後述するマイナス鎖RNAウイルスベクターは、アンチセンスの一本鎖RNAをゲノムに有するウイルスであって、タンパク質はアンチセンスとしてコードされている。このように、本発明の核酸には、ポリペプチドをセンス鎖としてコードしているもののみならず、アンチセンス鎖としてコードしているものも含まれる。また核酸は、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。核酸の塩基配列の設計にあたっては、ポリペプチドを発現させる宿主に合わせて、適宜コドンを最適化することができる。
【0067】
本発明の核酸は、本発明のポリペプチドをコードする限り、他のポリペプチドをコードしていてもよく、その他の配列、例えば複製開始点やプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等の配列やスペーサー等を含んでもよい。
【0068】
また本発明は、当該核酸を含むベクターを提供する。本発明のベクターは、本発明の核酸を保持する限り特に制限はない。例えばプラスミドベクター、ファージーベクター、コスミド、ウイルスベクター、あるいは人工染色体等であってよい。特に本発明のベクターとしては発現ベクターが挙げられ、動物にインビボで投与可能な発現ベクターを用いることで、本発明のポリペプチドを動物体内で発現させ、ワクチンとして機能させることができる。
【0069】
このようなベクターとしては、非ウイルスベクターおよびウイルスベクターが含まれ、例えばプラスミドベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター(レンチウイルスベクターを含む)、アデノ随伴ウイルスベクター、ワクチニアウイルスベクター、サイトメガロウイルスベクター、ポックスウイルスベクター(Wilson NA. et al., J Virol. 80:5875-5885, 2006; Hansen SG. et al., Nature. 473:523-527, 2011; Barouch DH. et al., Nature. 482:89-93, 2012)等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0070】
特に本発明のベクターとしては、マイナス鎖RNAウイルスベクターが挙げられる。発明者らによるサルエイズモデルの研究では、マイナス鎖RNAウイルスベクターの一つであるセンダイウイルス(SeV)ベクターを用いた研究において、単独CD8陽性T細胞SIVエピトープ発現SeVベクターワクチンで、SIV特異的CD4陽性T細胞誘導は認められず、有効なSIVエピトープ特異的CD8陽性T細胞が誘導されることが示されている(Tsukamoto T. et al., J Virol. 83:9339-9346, 2009; Ishii H. et al., J Virol. 86:738-745, 2012)。したがって、マイナス鎖RNAウイルスベクターを用いて本発明のポリペプチドを発現させることによって、抗原特異的CD4陽性T細胞誘導をできるだけ抑え、有効な抗原特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導する効果はより高まることが期待できる。
【0071】
上述の通り、マイナス鎖RNAウイルスベクターは染色体非組み込み型ウイルスベクターであってベクターは細胞質中で発現されるので、搭載遺伝子が宿主の染色体(核由来染色体)に組み込まれる危険性がない。従って安全性が高く、また感染細胞からベクターは容易に除去される。センダイウイルス(SeV)ベクター(Matano T. et al., J Exp Med. 199:1709-1718, 2004; Nyombayire J. et al., J Infect Dis. 215:95-104, 2017)をはじめとするマイナス鎖RNAウイルスは、効率よいCD8陽性T細胞誘導能を有するベクターとして有用である。
【0072】
本発明においてマイナス鎖RNAウイルスベクターには、感染性ウイルス粒子の他、ウイルスコア、ウイルスゲノムとウイルス蛋白質との複合体、または非感染性ウイルス粒子などからなる複合体であって、細胞に導入することにより搭載する遺伝子を発現する能力を持つ複合体が含まれる。例えばマイナス鎖RNAウイルスにおいて、ウイルスゲノムとそれに結合するマイナス鎖RNAウイルス蛋白質(例えばNP、P、およびL蛋白質)からなるリボヌクレオ蛋白質(ウイルスのコア部分)は、細胞に導入することにより細胞内で導入遺伝子を発現することができる(WO00/70055)。細胞への導入は、適宜トランスフェクション試薬等を用いて行えばよい。このようなリボヌクレオ蛋白質(RNP)も本発明においてマイナス鎖RNAウイルスベクターに含まれる。本発明においてマイナス鎖RNAウイルスベクターは、好ましくは上記のRNPが細胞膜由来の生体膜に包まれた粒子である。
【0073】
本発明において用いられるマイナス鎖RNAウイルスベクターとしては、特にパラミクソウイルスベクターが挙げられる、パラミクソウイルスとはパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)に属するウイルスまたはその誘導体を指す。パラミクソウイルス科はパラミクソウイルス亜科(Paramyxovirinae)(レスピロウイルス属(パラミクソウイルス属とも言う)、ルブラウイルス属、およびモービリウイルス属を含む)およびニューモウイルス亜科(Pneumovirinae)(ニューモウイルス属およびメタニューモウイルス属を含む)を含む。パラミクソウイルス科ウイルスに含まれるウイルスとして、具体的にはセンダイウイルス(Sendai virus)、ニューカッスル病ウイルス(Newcastle disease virus)、おたふくかぜウイルス(Mumps virus)、麻疹ウイルス(Measles virus)、RSウイルス(Respiratory syncytial virus)、牛疫ウイルス(rinderpest virus)、ジステンパーウイルス(distemper virus)、サルパラインフルエンザウイルス(SV5)、ヒトパラインフルエンザウイルス1, 2, 3型等が挙げられる。より具体的には、例えば Sendai virus (SeV)、human parainfluenza virus-1 (HPIV-1)、human parainfluenza virus-3 (HPIV-3)、phocine distemper virus (PDV)、canine distemper virus (CDV)、dolphin molbillivirus (DMV)、peste-des-petits-ruminants virus (PDPR)、measles virus (MeV)、rinderpest virus (RPV)、Hendra virus (Hendra)、Nipah virus (Nipah)、human parainfluenza virus-2 (HPIV-2)、simian parainfluenza virus 5 (SV5)、human parainfluenza virus-4a (HPIV-4a)、human parainfluenza virus-4b (HPIV-4b)、mumps virus (Mumps)、およびNewcastle disease virus (NDV) などが含まれる。ラブドウイルスとしては、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)の水疱性口内炎ウイルス(Vesicular stomatitis virus)、狂犬病ウイルス(Rabies virus)等が含まれる。
【0074】
なお上述の通りマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAはネガティブ鎖であり、タンパク質のアミノ酸配列はゲノムRNAの相補配列を持つアンチゲノムにコードされている。本発明においては便宜上、ゲノムもアンチゲノムもゲノムと称することがある。
【0075】
本発明のウイルスベクターは、好ましくはパラミクソウイルス亜科(レスピロウイルス属、ルブラウイルス属、およびモービリウイルス属を含む)に属するウイルスまたはその誘導体であり、より好ましくはレスピロウイルス属(genus Respirovirus)(パラミクソウイルス属(Paramyxovirus)とも言う)に属するウイルスまたはその誘導体である。誘導体には、ウイルスによる遺伝子導入能を損なわないように、ウイルス遺伝子が改変されたウイルス、および化学修飾されたウイルス等が含まれる。本発明を適用可能なレスピロウイルス属ウイルスとしては、例えばヒトパラインフルエンザウイルス1型(HPIV-1)、ヒトパラインフルエンザウイルス3型(HPIV-3)、ウシパラインフルエンザウイルス3型(BPIV-3)、センダイウイルス(Sendai virus; マウスパラインフルエンザウイルス1型とも呼ばれる)、麻疹ウイルス、サルパラインフルエンザウイルス(SV5)、およびサルパラインフルエンザウイルス10型(SPIV-10)などが含まれる。本発明においてパラミクソウイルスは、最も好ましくはセンダイウイルスである。
【0076】
パラミクソウイルスは、一般に、エンベロープの内部にRNAとタンパク質からなる複合体(リボヌクレオプロテイン; RNP)を含んでいる。RNPに含まれるRNAはマイナス鎖RNAウイルスのゲノムである(-)鎖(ネガティブ鎖)の一本鎖RNAであり、この一本鎖RNAが、NPタンパク質、Pタンパク質、およびLタンパク質と結合し、RNPを形成している。このRNPに含まれるRNAがウイルスゲノムの転写および複製のための鋳型となる(Lamb, R.A., and D. Kolakofsky, 1996, Paramyxoviridae: The viruses and their replication. pp.1177-1204. In Fields Virology, 3rd edn. Fields, B. N., D. M. Knipe, and P. M. Howley et al. (ed.), Raven Press, New York, N. Y.)。
【0077】
またウイルスベクターは、天然株、野生株、変異株、ラボ継代株、および人為的に構築された株などのウイルスに由来してもよい。例えばセンダイウイルスであればZ株が挙げられるがそれに限定されるものではない(Medical Journal of Osaka University Vol.6, No.1, March 1955 p1-15)。例えば、野生型ウイルスが持ついずれかの遺伝子に変異や欠損があるものであってよい。例えば、ウイルスのエンベロープ蛋白質または外殻蛋白質をコードする少なくとも1つの遺伝子に欠損あるいはその発現を抑制するストップコドン変異などの変異を有するウイルスを好適に用いることができる。このようなエンベロープ蛋白質を発現しないウイルスは、例えば感染細胞においてはゲノムを複製することはできるが、感染性ウイルス粒子を形成できないウイルスである。このような伝搬能欠損型のウイルスは、特に安全性の高いベクターとして好適である。例えば、FまたはHNのいずれかのエンベロープ蛋白質(スパイク蛋白質)の遺伝子、あるいはFおよびHNの遺伝子をゲノムにコードしないウイルスを用いることができる (WO00/70055 および WO00/70070; Li, H.-O. et al., J. Virol. 74(14) 6564-6569 (2000))。少なくともゲノム複製に必要な蛋白質(例えば N、P、およびL蛋白質)をゲノムRNAにコードしていれば、ウイルスは感染細胞においてゲノムを増幅することができる。エンベロープ蛋白質欠損型でありかつ感染性を持つウイルス粒子を製造するには、例えば、欠損している遺伝子産物またはそれを相補できる蛋白質をウイルス産生細胞において外来的に供給する(WO00/70055 および WO00/70070; Li, H.-O. et al., J. Virol. 74(14) 6564-6569 (2000))。一方、欠損するウイルス蛋白質を全く相補しないことによって、非感染性ウイルス粒子を回収することができる(WO00/70070)。
【0078】
また、本発明のウイルスの生産において、変異型のウイルス蛋白質遺伝子を搭載するウイルスを用いることも好ましい。例えば、ウイルスの構造蛋白質(NP, M)やRNA合成酵素(P, L)において弱毒化変異や温度感受性変異を含む多数の変異が知られている。これらの変異蛋白質遺伝子を有するパラミクソウイルスベクターなどを本発明において目的に応じて好適に用いることができる。
【0079】
本発明のポリペプチドをコードする核酸を含むウイルスベクターの構築については、公知の方法を用いて行うことができる(WO97/16539;WO97/16538;WO00/70070;WO01/18223;WO2005/071092;Hasan, MK et al.J Gen Virol 78:2813-2820, 1997; Kato A et al. EMBO J 16: 578-587, 1997; Yu D et al. Genes Cells 2: 457-466, 1997; Kato A et al., Genes Cells 1;569-579, 1996;Tokusumi T et al. Virus Res 86:33-38, 2002; Li HO et al., J Virol 74: 6564-6569, 2000)。
【0080】
また本発明は、本発明のポリペプチドまたは該ポリペプチドをコードする核酸またはベクターを含む組成物を提供する。当該組成物は、所望の担体および/または媒体を含んでよい。担体や媒体としては、薬学的に許容できる所望の担体や媒体が挙げられ、例えば滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、緩衝液、培養液などが挙げられる。また、グリコール、グリセロール、オリーブオイルなどのオイル、有機エステルなどを添加してもよく、懸濁液、乳化剤、希釈剤、賦形剤等の添加剤を適宜混合させて製剤化してもよい。製剤化の方法および使用可能な添加剤は、医薬製剤の分野において周知である。製剤の形態に特に制限はなく、例えば注射剤、吸引剤、カプセル剤などとして製剤化することができる。また本発明は、本発明のポリペプチドまたは該ポリペプチドをコードする核酸またはベクターを含むワクチン製剤に関する。本発明の組成物またはワクチン製剤は、標的とする抗原タンパク質特異的CD4陽性T細胞の誘導を抑えつつ、抗原タンパク質特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導するために有用である。本発明の組成物またはワクチン製剤は、例えば本発明のポリペプチドまたは該ポリペプチドをコードする核酸またはベクターと、所望の担体とを含む組成物として調製することができる。本発明の組成物またはワクチン製剤は、例えばHVJリポソームなどのリポソームとすることもできる。また本発明の組成物またはワクチン製剤は所望のアジュバントをさらに含んでもよい。アジュバントとしては、例えばオイルアジュバントやアルミニウムアジュバントが挙げられ、具体的には、Alum(アルミニウム塩)、MF59(オイルエマルジョン)、モンタナイド(Montanide ISA 51VGなど、オイルエマルジョン)が挙げられる。
【0081】
本発明の組成物またはワクチン製剤は、1または複数種の本発明のポリペプチドを含むことができる。上述の通り、同じ抗原タンパク質のアミノ酸配列から作成した本発明のポリペプチドであって、分割のフレームが異なるポリペプチドを組み合わせることで、より効率的に標的抗原特異的CD8陽性T細胞を誘導することができる。例えば本発明の組成物またはワクチン製剤は、同じ抗原タンパク質を標的とするが分割のフレームが異なる本発明のポリペプチドを、例えば2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上、6種類以上、7種類以上、8種類以上、9種類以上、10種類以上、または11種類以上と併用するためのものであってよく、また、それらを含んでいてもよい。分割のフレームが異なる本発明のポリペプチドを複数組み合わせる場合、その組み合わせとしては、抗原タンパク質の分割配列のカバー率が、例えば20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、または100%となるようにしてよい。また本発明の組成物またはワクチン製剤は、異なる抗原タンパク質を標的とする本発明のポリペプチドと併用するためのものであってよく、また、それらをさらに含んでもよい。
【0082】
本発明のワクチン製剤を使用する場合、その接種形態に特に制限はなく、例えば単回接種や複数回接種に使用することができる。複数回の接種においては、本発明のワクチンを複数回接種してもよく、あるいは、別のタイプのワクチンと組み合わせて用いることもできる。例えば複数回の接種を行う場合、同じポリペプチドまたは同じ組み合わせの接種を繰り返すのではなく、接種するポリペプチドまたはその組み合わせを変えることが有用でありうる。また、投与経路を変えたり、あるいは複数の投与経路で接種することが有用でありうる。具体的には、8種類のポリペプチドで理論上存在しうる全種類の分割アミノ酸配(すなわちMHCクラスIエピトープとなりうる配列)を網羅することができる場合であれば、一回の接種に例えば4種類のポリペプチドを接種し、接種ごとに4種類の組み合わせを変えることができる(実施例4、
図3参照)。また、プライマリー接種あるいは初めの数回の接種では非ウイルスベクターを用いて(例えばポリペプチドやDNAベクターを用いて)接種を行い、その後、本発明のポリペプチドをコートするウイルスベクターを用いて接種を行ってもよい。用いるウイルスベクターに特に制限はないが、例えばセンダイウイルスベクターなどのパラミクソウイルスベクターを好適に使用することができる。
【0083】
また本発明のポリペプチド、核酸およびベクターは、他の抗原やそれをコードする核酸やベクターと併用することができる。例えばプライマリー接種あるいは初めの数回の接種では、本発明のポリペプチドのように分割を行っていない標的抗原やそれをコードする核酸またはベクターを用いて接種を行い、追加接種において本発明のポリペプチド、核酸またはベクターを接種することができる(実施例4および5参照)。プライマリー接種においては、例えば本発明のポリペプチドのように分割を行っていない標的抗原をコードするDNAベクターを用いることができるが、それに限定されるものではない。
【0084】
本発明の組成物またはワクチン製剤を動物に接種する場合、その投与量は、疾患、患者の体重、年齢、性別、症状、投与目的、投与組成物の形態、投与方法等に応じて適宜決定することが可能である。投与経路は適宜選択することができ、例えば経鼻投与、腹腔内投与、筋肉内投与、感染や腫瘍などの病変部位への局所投与などが挙げられるが、それらに限定されない。また投与量は、対象動物、投与部位、投与回数などに応じて適宜調整してよい。例えば、1 ng/kg~1000mg/kg、5 ng/kg~800mg/kg、10 ng/kg~500mg/kg、0.1 mg/kg~400mg/kg、0.2 mg/kg~300mg/kg、0.5 mg/kg~200mg/kg、または 1 mg/kg~ 100mg/kgが挙げられるが、それらに限定されない。また、例えばウイルスベクターであれば、1x104 ~ 1x1015 CIU/kg、1x105 ~ 1x1014 CIU/kg、1x106 ~ 1x1013 CIU/kg、1x107 ~ 1x1012 CIU/kg、1x108 ~ 5x1011 CIU/kg、1x109 ~ 5x1011 CIU/kg、または1x1010 ~ 1x1011 CIU/kgで投与すること、ならびに、1x106 ~ 1x1017 particles/kg、1x107 ~ 1x1016 particles/kg、1x108 ~ 1x1015 particles/kg、1x109 ~ 1x1014 particles/kg、1x1010 ~ 1x1013 particles/kg、1x1011 ~ 5x1012 particles/kg、または5x1011 ~ 5x1012 particles/kgで投与することが挙げられるが、それらに限定されない。
【0085】
本発明の組成物またはワクチン製剤の投与対象に特に制限はないが、好ましくは哺乳動物(ヒトおよび非ヒト哺乳類を含む)である。具体的には、ヒト、サル等の非ヒト霊長類、マウス、ラットなどのげっ歯類、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、イヌ、ネコなどその他の全ての哺乳動物が含まれる。
【0086】
また本発明の組成物またはワクチン製剤は、他の医薬品と組み合わせて用いることができる。例えば、腫瘍抗原に対して設計された本発明のポリペプチドを用いる場合は、他の抗がん剤と組み合わせて用いることができる。また感染症に対して設計された本発明のポリペプチドを用いる場合は、当該感染症に対する他の医薬と組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。なお、本明細書中に引用された文献及びその他の参照は、すべて本明細書の一部として組み込まれる。
【0088】
[実施例1] SCaV11抗原遺伝子搭載プラスミドの構築
SIVmac239感染サルエイズモデルでの評価のため、SIVmac239 (GenBank Accession No.M33262) のGag CA およびVifタンパクを標的抗原として TCT11(SCaV11と呼ぶ)抗原を設計した。SIVmac239のGag CA(アミノ酸配列 Accession:AAA47632.1 (配列番号21))およびVif(アミノ酸配列 Accession:AAA47634.1 (配列番号22))タンパクのアミノ酸配列をもとにして、これら抗原タンパクのアミノ酸配列を、互いに3アミノ酸が重複する11 merのペプチドに断片化し、これらのペプチド群の順序を並び替えた上で、アラニンをスペーサーとしてタンデムに連結した(SCaV11)(
図1)。3アミノ酸の重複は相同組換えを防ぐためである。同様の手順で、標的抗原領域のペプチド開始アミノ酸位置を1アミノ酸ずつシフトさせたタンデム連結抗原を計8種類(SCaV11A~H)設計した(順に配列番号:23~30)。次にこれら抗原の塩基配列のコドンをヒト用に最適化し、さらに相同組換えを防ぐための変異を導入した上で遺伝子全体を化学合成し(Eurofins Genomics社)、プラスミドに搭載した。これらプラスミドをpSCaV11A~H(順に配列番号:31~38)と名付けた。
【0089】
[実施例2] SCaV11抗原遺伝子搭載センダイウイルス(SeV)ベクターの構築
(1)SCaV11抗原遺伝子搭載F欠失型センダイウイルス作製用プラスミドの構築
SCaV11A抗原遺伝子搭載プラスミドを鋳型として、Not1_SCaV11A_N(5’-ATATgcggccgcgacgccaccATGGCCTACCCTGTGCAGCAG-3’(配列番号:39))及びSCaV11A_EIS_Not1_C (5’-ATATGCGGCCGCgatgaactttcaccctaagtttttcttactacggTCAGGCTTTGCCTCCCCTCTGC-3’(配列番号:40))をプライマーとし、KOD-Plus-Ver.2 kitを使用し、94℃ 2分、(98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 2.5分)のサイクルを30サイクル行い、その後68℃ 7分で反応させた後、4℃ で維持する条件でPCRを行い、増幅されたSCaV11Aフラグメントをアガロースゲル電気泳動で分離した後、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up kit(タカラバイオ)にて精製した。なお、上記プライマーの配列中の大文字はSCaV11抗原遺伝子の配列、小文字はSeVベクターの配列を表す(以下同様)。
【0090】
次に、F遺伝子欠失型のセンダイウイルスベクターをコードするpSeV18+/ΔFプラスミド(WO00/070070)のNotI切断部位に、NotI処理した上記のSCaV11Aフラグメント(両端にNotIサイトを有する)をライゲーションし、大腸菌にトランスフォーメーション後にクローニングを行い、シークエンスにより塩基配列の正しいクローンを選択して、pSeV18+SCaV11A/ΔFプラスミドを得た。
【0091】
同様に、SCaV11B抗原遺伝子搭載プラスミドを鋳型として、Not1_SCaV11B_N(5’-ATATgcggccgcgacgccaccATGGCCCCTGTGCAGCAGATCG-3’(配列番号:41))及びSCaV11B_EIS_Not1_C (5’-ATATGCGGCCGCgatgaactttcaccctaagtttttcttactacggTCAGGCGGGCTTCCCTCCCCTC-3’(配列番号:42))をプライマーとしたPCRによって増幅したフラグメントをpSeV18+/ΔFプラスミドのNotIサイトに挿入してpSeV18+SCaV11B/ΔFプラスミドを得た。
同様に、SCaV11C抗原遺伝子搭載プラスミドを鋳型として、Not1_SCaV11C_N(5’-ATATgcggccgcgacgccaccATGGCCGTGCAGCAGATCGGAG-3’(配列番号:43))及びSCaV11C_EIS_Not1_C (5’-ATATGCGGCCGCgatgaactttcaccctaagtttttcttactacggTCAAGCAGGAGGTTTCCCTCCCC-3’(配列番号:44))をプライマーとしたPCRによって増幅したフラグメントをpSeV18+/ΔFプラスミドのNotIサイトに挿入してpSeV18+SCaV11C/ΔFプラスミドを得た。
同様に、SCaV11D抗原遺伝子搭載プラスミドを鋳型として、Not1_SCaV11D_N(5’-ATATgcggccgcgacgccaccATGGCCCAGCAGATCGGAGGC-3’(配列番号:45))及びSCaV11D_EIS_Not1_C (5’-ATATGCGGCCGCgatgaactttcaccctaagtttttcttactacggTCAGGCTGTTGGGGGTTTCCCTC-3’(配列番号:46))をプライマーとしたPCRによって増幅したフラグメントをpSeV18+/ΔFプラスミドのNotIサイトに挿入してpSeV18+SCaV11D/ΔFプラスミドを得た。
同様に、SCaV11E抗原遺伝子搭載プラスミドを鋳型として、Not1_SCaV11E_N(5’-ATATgcggccgcgacgccaccATGGCCCAGATCGGAGGCAATTATG-3’(配列番号:47))及びSCaV11E_EIS_Not1_C (5’-ATATGCGGCCGCgatgaactttcaccctaagtttttcttactacggTCAGGCCTTGGTAGGGGGTTTCC-3’(配列番号:48))をプライマーとしたPCRによって増幅したフラグメントをpSeV18+/ΔFプラスミドのNotIサイトに挿入してpSeV18+SCaV11E/ΔFプラスミドを得た。
同様に、SCaV11F抗原遺伝子搭載プラスミドを鋳型として、Not1_SCaV11F_N(5’-ATATgcggccgcgacgccaccATGGCCATCGGAGGCAATTATG-3’(配列番号:49))及びSCaV11F_EIS_Not1_C (5’-ATATGCGGCCGCgatgaactttcaccctaagtttttcttactacggTCAGGCGCCTTTTGTAGGGGG-3’(配列番号:50))をプライマーとしたPCRによって増幅したフラグメントをpSeV18+/ΔFプラスミドのNotIサイトに挿入してpSeV18+SCaV11F/ΔFプラスミドを得た。
同様に、SCaV11G抗原遺伝子搭載プラスミドを鋳型として、Not1_SCaV11G_N(5’-ATATgcggccgcgacgccaccATGGCCGGAGGCAATTATGTG-3’(配列番号:51))及びSCaV11G_EIS_Not1_C (5’-ATATGCGGCCGCgatgaactttcaccctaagtttttcttactacggTCAGGCGGCGCCCTTTGTAGGGG-3’(配列番号:52))をプライマーとしたPCRによって増幅したフラグメントをpSeV18+/ΔFプラスミドのNotIサイトに挿入してpSeV18+SCaV11G/ΔFプラスミドを得た。
同様に、SCaV11H抗原遺伝子搭載プラスミドを鋳型として、Not1_SCaV11H_N(5’-ATATgcggccgcgacgccaccATGGCCGGAGGCAATTATGTG-3’(配列番号:53))及びSCaV11H_EIS_Not1_C (5’-ATATGCGGCCGCgatgaactttcaccctaagtttttcttactacggTCAGGCGGCGCCCTTTGTAGGGG-3’(配列番号:54))をプライマーとしたPCRによって増幅したフラグメントをpSeV18+/ΔFプラスミドのNotIサイトに挿入してpSeV18+SCaV11H/ΔFプラスミドを得た。
【0092】
(2)SCaV11抗原遺伝子搭載F欠失型センダイウイルスの作製(再構成)と増幅
上記のように作製したSCaV11抗原遺伝子搭載F欠失型センダイウイルス作製用プラスミドpSeV18+SCaV11A/ΔF~pSeV18+SCaV11H/ΔFからのSCaV11抗原遺伝子搭載F欠失型センダイウイルスの作製(再構成)と増幅は、公知の方法(例えばWO2005/071092)を用いて行い、得られたウイルスの名称をそれぞれSeV18+SCaV11A/ΔF、SeV18+SCaV11B/ΔF、SeV18+SCaV11C/ΔF、SeV18+SCaV11D/ΔF、SeV18+SCaV11E/ΔF、SeV18+SCaV11F/ΔF、SeV18+SCaV11G/ΔF、SeV18+SCaV11H/ΔFとした。
【0093】
[実施例3] SIV Controller(SIV複製制御サル)へのSIV CA-Vif TCT11抗原発現ワクチン接種試験
単独エピトープ(Gag CA)を発現するワクチン接種後のSIVmac239経静脈接種で、SIV複製が制御されたアカゲサル(SIV controller)の慢性期において、本SCaV11発現センダイウイルス(SeV)ベクターを接種し、誘導されるSIV Gag・Vif抗原特異的T細胞反応を調べた。
【0094】
SCaV11A, SCaV11B, SCaV11FおよびSCaV11Hを発現するF欠失型センダイウイルスベクター(SeV18+SCaV11A/ΔF, SeV18+SCaV11B/ΔF, SeV18+SCaV11F/ΔF, SeV18+SCaV11H/ΔF、各6 x 10
9 CIU)を経鼻接種および筋注した。ワクチン接種前および接種後1週の血液より末梢血単核球(PBMC)を分離し、SIV Gag・Vif抗原特異的T細胞反応を解析した。具体的には、SIVmac239 Gag・Vif領域を網羅するoverlappingペプチドプールを用いた抗原刺激後、細胞内サイトカイン染色にてIFN-γ産生細胞をフローサイトメーターを用いて検出することにより、SIV Gag・Vif抗原特異的T細胞頻度を測定した。その結果、ワクチン接種後のGag・Vif抗原特異的CD8陽性T細胞頻度は、ワクチン接種前と比べて10倍以上増加したが、Gag・Vif抗原特異的CD4陽性T細胞頻度はワクチン接種前後で変化しなかった(
図2)。したがって、SCaV11抗原発現SeVベクターワクチンは、SIV Gag・Vif抗原特異的CD8陽性T細胞反応を選択的に誘導することが示された。
【0095】
[実施例4] 非感染サルへのSCaV11ワクチン接種試験
非感染アカゲザル6頭に、SCaV11抗原発現ワクチンを接種し、誘導されるSIV抗原特異的T細胞反応を調べた。
サル6頭に、SCaV11A~H抗原(8種類)を各々発現するプラスミドDNA(pcDNA-SCaV11A~H、各5 mg)ワクチンを各々2回ずつ筋注した後、SCaV11A~H抗原(8種類)を各々発現するF欠失型SeVベクター(SeV18+SCaV11A/ΔF~SeV18+SCaV11H/ΔF、各6 x 10
9 CIU)ワクチンを各々1回ずつ経鼻接種および筋注した(
図3)。最後のワクチン接種後1週の血液よりPBMCを分離し、実施例3と同様の方法でSIV Gag・Vif抗原特異的T細胞反応を解析した。
【0096】
以前の報告では、SIV Gag抗原あるいはVif・Nef抗原を発現するDNA/SeVベクターワクチン接種により、Gag・Vif抗原特異的CD8陽性T細胞反応のみならず、Gag・Vif特異的CD4陽性T細胞反応が効率よく誘導されている(Iwamoto N. et al., J Virol. 88:425-433, 2014)。一方、本SCaV11抗原発現DNA/SeVベクターワクチン接種では、非常に効率のよいGag・Vif抗原特異的CD8陽性T細胞反応が誘導されたものの、Gag・Vif特異的CD4陽性T細胞反応は認められないかあるいは非常に低いレベルであった(
図3)。以上の結果より、SCaV11抗原発現DNAプライム・SeVベクターワクチンは、SIV Gag・Vif抗原特異的CD4陽性T細胞反応はほとんど誘導せず、Gag・Vif抗原特異的CD8陽性T細胞を効率よく選択的に誘導することが示された。
【0097】
[実施例5] 非感染サルへのSCaV11ワクチン接種試験2
非感染アカゲザル8頭に、SCaV11抗原発現ワクチンを接種し、誘導されるSIV抗原特異的T細胞反応を調べた。
サル8頭に、SCaV11A~H抗原(8種類)を各々発現するプラスミドDNA(pcDNA-SCaV11A~H、各5 mg)ワクチンを各々2回ずつ筋注した後、SCaV11A~H抗原(8種類)を各々発現するF欠失型SeVベクター(SeV18+SCaV11A/ΔF~SeV18+SCaV11H/ΔF、各1x 10
9 CIU)ワクチンを各々1回ずつ経鼻接種および筋注した(
図4)。最後のワクチン接種後1週の血液よりPBMCを分離し、実施例3と同様の方法でSIV Gag・Vif抗原特異的T細胞反応を解析した。また、リンパ節における免疫誘導能を評価するため、3回目のSeVベクターワクチン接種後2週においてリンパ節生検を実施し、同様にSIV Gag・Vif抗原特異的T細胞反応を解析した。
【0098】
SCaV11抗原発現DNA/SeVベクターワクチン接種では、非常に効率のよいGag・Vif抗原特異的CD8陽性T細胞反応が誘導され、Gag・Vif特異的CD4陽性T細胞反応は認められないかあるいは非常に低いレベルであった(
図4)。抗原特異的CD4陽性T細胞反応とCD8陽性T細胞反応の比較においても、Gag・Vif特異的T細胞ともに抗原特異的CD8陽性T細胞頻度が抗原特異的CD4陽性T細胞頻度よりも有意に高値を示した(Gag; p = 0.0078, Vif; p = 0.0156 by Wilcoxon matched-pairs signed rank test)。以上の結果より、SCaV11抗原発現ワクチンによるGag・Vif特異的CD8陽性T細胞反応の選択的誘導の再現性が確認され、標的11mer連結抗原TCT11ワクチンの選択的抗原特異的CD8陽性T細胞反応誘導能が検証・確認された。
【0099】
ワクチン接種後のリンパ節における抗原特異的T細胞反応を解析した結果、リンパ節においてもGag・Vif特異的CD8陽性T細胞反応が選択的に誘導され、Gag・Vif特異的CD4陽性T細胞反応は1個体を除いて検出限界以下であった(
図5)。リンパ節はHIV・SIV増殖の主要組織の一つであり、リンパ節における選択的抗原特異的CD8陽性T細胞反応は、HIV・SIV複製制御に貢献しうるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
有効なCD8陽性T細胞誘導のための抗原の最適化研究においては、HIV感染者およびサルエイズモデルの解析により、GagおよびVif抗原を標的とするCD8陽性T細胞反応が強いウイルス複製抑制能を有することが示されてきている。また、多様なHIV株で比較的保存されている抗原領域は、逃避変異選択が生じにくいCD8陽性T細胞標的と考えられることから、これら保存領域を連結した抗原が設計されている(Letourneau S. et al.,PLoS One. 2:e984, 2007)。さらに、低いウイルス量と相関する(HIV複製抑制能の高い)CD8陽性T細胞標的を含む領域を連結した抗原も設計されている(Mothe B. et al., J Transl Med. 9:208, 2011)。これらはいずれもGag CAおよびVif領域を主領域としているが、HIV抗原特異的CD4陽性T細胞誘導をできるだけ抑え、有効なHIV抗原特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導するという観点での抗原設計はこれまでなされておらず、本発明の新規性・独創性・優位性は極めて高い。さらに本抗原の設計理論を上記の保存領域連結抗原やHIV複製抑制能の高いCD8陽性T細胞標的連結抗原設計に応用することも可能である。本発明によって、AIDSに対するより効果的なワクチン療法への道が開かれることが期待される。
【配列表】