(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/13 20060101AFI20230719BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
B60C11/13 B
B60C11/03 100A
(21)【出願番号】P 2019164621
(22)【出願日】2019-09-10
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】名塩 博史
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-219404(JP,A)
【文献】特開2015-074347(JP,A)
【文献】特開2011-105074(JP,A)
【文献】特開2008-105460(JP,A)
【文献】特開昭62-059108(JP,A)
【文献】特開平02-283504(JP,A)
【文献】特開平05-246215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00-11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地端を含む陸部であるショルダー陸部が設けられた空気入りタイヤにおいて、
タイヤ周方向に延びて両端が閉塞した周方向溝が、前記ショルダー陸部にタイヤ周方向に断続的に設けられ、
前記ショルダー陸部の接地幅をAとしたときの、接地端からタイヤ幅方向両側へそれぞれA/2の範囲内に、前記周方向溝が設けられ
、
前記ショルダー陸部の隣に、タイヤ周方向に延びる2本の主溝に挟まれた陸部である主溝間陸部が設けられ、
前記主溝間陸部の接地端側半分の範囲内に、前記周方向溝がタイヤ周方向に断続的に設けられ、
前記主溝間陸部の隣に、タイヤ赤道を含む陸部であるセンター陸部が設けられ、
前記センター陸部の接地端側1/3の範囲内に、前記周方向溝がタイヤ周方向に断続的に設けられた、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
接地端を含む陸部であるショルダー陸部が設けられた空気入りタイヤにおいて、
タイヤ周方向に延びて両端が閉塞した周方向溝が、前記ショルダー陸部にタイヤ周方向に断続的に設けられ、
前記ショルダー陸部の接地幅をAとしたときの、接地端からタイヤ幅方向両側へそれぞれA/2の範囲内に、前記周方向溝が設けられ、
前記周方向溝の閉塞した両端部に、接地面から前記周方向溝の深さ方向へ延びる第1傾斜部と、第1傾斜部から連続してさらに深さ方向へ延びる第2傾斜部とが形成され、第1傾斜部が第2傾斜部よりも接地面に垂直な方向に対する傾斜角が大きい、
空気入りタイヤ。
【請求項3】
タイヤ周方向に延びる2本の主溝に挟まれた陸部である主溝間陸部が設けられた空気入りタイヤにおいて、
タイヤ周方向に延びて両端が閉塞した周方向溝が、前記主溝間陸部にタイヤ周方向に断続的に設けられ、
前記主溝間陸部の幅方向の接地端側半分の範囲内に、前記周方向溝が設けられ、
前記周方向溝の閉塞した両端部に、接地面から前記周方向溝の深さ方向へ延びる第1傾斜部と、第1傾斜部から連続してさらに深さ方向へ延びる第2傾斜部とが形成され、第1傾斜部が第2傾斜部よりも接地面に垂直な方向に対する傾斜角が大きい、
空気入りタイヤ。
【請求項4】
タイヤ赤道を含む陸部であるセンター陸部が設けられた空気入りタイヤにおいて、
タイヤ周方向に延びて両端が閉塞した周方向溝が、前記センター陸部にタイヤ周方向に断続的に設けられ、
前記センター陸部の幅方向の接地端側1/3の範囲内に、前記周方向溝が設けられ、
前記周方向溝の閉塞した両端部に、接地面から前記周方向溝の深さ方向へ延びる第1傾斜部と、第1傾斜部から連続してさらに深さ方向へ延びる第2傾斜部とが形成され、第1傾斜部が第2傾斜部よりも接地面に垂直な方向に対する傾斜角が大きい、
空気入りタイヤ。
【請求項5】
接地端を含む陸部であるショルダー陸部が設けられた空気入りタイヤにおいて、
タイヤ周方向に延びて両端が閉塞した周方向溝が、前記ショルダー陸部にタイヤ周方向に断続的に設けられ、
前記ショルダー陸部の接地幅をAとしたときの、接地端からタイヤ幅方向両側へそれぞれA/2の範囲内に、前記周方向溝が設けられ、
前記ショルダー陸部の隣に、タイヤ周方向に延びる2本の主溝に挟まれた陸部である主溝間陸部が設けられ、
前記主溝間陸部の接地端側半分の範囲内に、前記周方向溝がタイヤ周方向に断続的に設けられ、
前記周方向溝の長さ又は幅が、前記主溝間陸部よりも前記ショルダー陸部において大きい、
空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記周方向溝が設けられた陸部にタイヤ幅方向に延びる複数の横溝が設けられ、
タイヤ周方向に隣り合う2本の前記横溝の間隔が陸部の1ピッチとなり、
前記周方向溝が、陸部の1ピッチにつき1本以上設けられ、
1ピッチ内の前記周方向溝のタイヤ周方向長さの合計が、1ピッチの長さの40%以上90%以下である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記周方向溝の長さ又は幅が、前記ショルダー陸部、前記主溝間陸部、前記センター陸部の順に大きい、請求項1に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1~3に示されているように、タイヤ赤道に近いセンター主溝と、接地端に近いショルダー主溝とが設けられ、これらの主溝によってトレッド部が複数の陸部に区分された空気入りタイヤが知られている。また、特許文献1~3の空気入りタイヤには、各陸部のタイヤ赤道側の場所にタイヤ周方向に延びる複数の溝が設けられている。
【0003】
ところで、空気入りタイヤの最大コーナリングフォースが大きすぎると、運転者が大きくハンドルを切ったときに空気入りタイヤに過大な横力が発生してしまう。
図9~
図11にスリップ角の変化に対する横力の分布の変化を示すが、これらの図から、スリップ角が大きくなるほど各陸部の接地端に近い部分(すなわちタイヤ幅方向外側の部分)に大きな横力が発生することがわかる。このような過大な横力は車両の安定性に影響する。そこで、このような過大な横力の発生を防ぐため、空気入りタイヤの最大コーナリングフォースをある程度小さくすることが要求されている。
【0004】
しかし、単純に空気入りタイヤのコーナリングフォースを小さくするような設計をすると、コーナリングパワーも小さくなってしまい、運転者が小さくハンドルを切ったときの車両の反応が悪くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-16839号公報
【文献】特開2015-30412号公報
【文献】特開2015-71373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、コーナリングパワーが大きく最大コーナリングフォースが小さい空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の空気入りタイヤは、接地端を含む陸部であるショルダー陸部が設けられた空気入りタイヤにおいて、タイヤ周方向に延びて両端が閉塞した周方向溝が、前記ショルダー陸部にタイヤ周方向に断続的に設けられ、前記ショルダー陸部の接地幅をAとしたときの、接地端からタイヤ幅方向両側へそれぞれA/2の範囲内に、前記周方向溝が設けられ、前記ショルダー陸部の隣に、タイヤ周方向に延びる2本の主溝に挟まれた陸部である主溝間陸部が設けられ、前記主溝間陸部の接地端側半分の範囲内に、前記周方向溝がタイヤ周方向に断続的に設けられ、前記主溝間陸部の隣に、タイヤ赤道を含む陸部であるセンター陸部が設けられ、前記センター陸部の接地端側1/3の範囲内に、前記周方向溝がタイヤ周方向に断続的に設けられたことを特徴とする。
【0008】
また、実施形態の空気入りタイヤは、接地端を含む陸部であるショルダー陸部が設けられた空気入りタイヤにおいて、タイヤ周方向に延びて両端が閉塞した周方向溝が、前記ショルダー陸部にタイヤ周方向に断続的に設けられ、前記ショルダー陸部の接地幅をAとしたときの、接地端からタイヤ幅方向両側へそれぞれA/2の範囲内に、前記周方向溝が設けられ、前記周方向溝の閉塞した両端部に、接地面から前記周方向溝の深さ方向へ延びる第1傾斜部と、第1傾斜部から連続してさらに深さ方向へ延びる第2傾斜部とが形成され、第1傾斜部が第2傾斜部よりも接地面に垂直な方向に対する傾斜角が大きいことを特徴とする。
また、実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延びる2本の主溝に挟まれた陸部である主溝間陸部が設けられた空気入りタイヤにおいて、タイヤ周方向に延びて両端が閉塞した周方向溝が、前記主溝間陸部にタイヤ周方向に断続的に設けられ、前記主溝間陸部の幅方向の接地端側半分の範囲内に、前記周方向溝が設けられ、前記周方向溝の閉塞した両端部に、接地面から前記周方向溝の深さ方向へ延びる第1傾斜部と、第1傾斜部から連続してさらに深さ方向へ延びる第2傾斜部とが形成され、第1傾斜部が第2傾斜部よりも接地面に垂直な方向に対する傾斜角が大きいことを特徴とする。
また、実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ赤道を含む陸部であるセンター陸部が設けられた空気入りタイヤにおいて、タイヤ周方向に延びて両端が閉塞した周方向溝が、前記センター陸部にタイヤ周方向に断続的に設けられ、前記センター陸部の幅方向の接地端側1/3の範囲内に、前記周方向溝が設けられ、前記周方向溝の閉塞した両端部に、接地面から前記周方向溝の深さ方向へ延びる第1傾斜部と、第1傾斜部から連続してさらに深さ方向へ延びる第2傾斜部とが形成され、第1傾斜部が第2傾斜部よりも接地面に垂直な方向に対する傾斜角が大きいことを特徴とする。
【0009】
また、実施形態の空気入りタイヤは、接地端を含む陸部であるショルダー陸部が設けられた空気入りタイヤにおいて、タイヤ周方向に延びて両端が閉塞した周方向溝が、前記ショルダー陸部にタイヤ周方向に断続的に設けられ、前記ショルダー陸部の接地幅をAとしたときの、接地端からタイヤ幅方向両側へそれぞれA/2の範囲内に、前記周方向溝が設けられ、前記ショルダー陸部の隣に、タイヤ周方向に延びる2本の主溝に挟まれた陸部である主溝間陸部が設けられ、前記主溝間陸部の接地端側半分の範囲内に、前記周方向溝がタイヤ周方向に断続的に設けられ、前記周方向溝の長さ又は幅が、前記主溝間陸部よりも前記ショルダー陸部において大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
実施形態の空気入りタイヤは、従来の空気入りタイヤと比較して、最大コーナリングフォースが小さく、またコーナリングパワーが大きいまま維持されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態の空気入りタイヤのトレッドパターン。
【
図3】変更例のトレッドパターン。ショルダー陸部のみに周方向溝が設けられている例。
【
図4】変更例のトレッドパターン。ショルダー陸部及び主溝間陸部のみに周方向溝が設けられている例。
【
図5】変更例のトレッドパターン。3本の主溝が設けられ、ショルダー陸部及び主溝間陸部に周方向溝が設けられている例。
【
図6】変更例のトレッドパターン。3本の主溝が設けられ、ショルダー陸部のみに周方向溝が設けられている例。
【
図7】変更例のトレッドパターン。ショルダー陸部の2ピッチの長さが主溝間陸部の1ピッチの長さに相当している例。
【
図9】4本の主溝が形成された従来の空気入りタイヤの、スリップ角が0°のときの横力の分布を示す図。色が濃い部分ほど横力が大きい。
【
図10】4本の主溝が形成された従来の空気入りタイヤの、スリップ角が1°のときの横力の分布を示す図。色が濃い部分ほど横力が大きい。
【
図11】4本の主溝が形成された従来の空気入りタイヤの、最大コーナリングフォース発生時のスリップ角のときの横力の分布を示す図。色が濃い部分ほど横力が大きい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.空気入りタイヤの全体構造
実施形態の空気入りタイヤは、トレッド部の構造を除き一般的なラジアルタイヤと同様の構造を有する。実施形態の空気入りタイヤの大まかな構造を例示すると、次の通りである。
【0013】
まず、タイヤ幅方向両側にビード部が設けられている。ビード部は、円形に巻かれた鋼線からなるビードコアと、ビードコアの径方向外側に設けられたゴム製のビードフィラーとからなる。タイヤ幅方向両側のビード部にはカーカスプライが架け渡されている。カーカスプライはタイヤ周方向に直交する方向に並べられた多数のプライコードがゴムで被覆されたシート状の部材である。カーカスプライは、タイヤ幅方向両側のビード部の間で空気入りタイヤの骨格形状を形成するとともに、ビード部の周りでタイヤ幅方向内側から外側に折り返されることによりビード部を包んでいる。カーカスプライの内側には空気の透過性の低いゴムからなるシート状のインナーライナーが貼り付けられている。
【0014】
カーカスプライのタイヤ径方向外側には1枚又は複数枚のベルトが設けられ、ベルトのタイヤ径方向外側にはベルト補強層が設けられている。ベルトはスチール製の多数のコードがゴムで被覆されて出来た部材である。ベルト補強層は有機繊維製の多数のコードがゴムで被覆されて出来た部材である。ベルト補強層のタイヤ径方向外側にはトレッド部が設けられている。また、カーカスプライのタイヤ幅方向両側にはサイドウォールが設けられている。これらの部材の他にも、タイヤの機能上の必要に応じて、ベルト下パッドやチェーハー等の部材が設けられている。
【0015】
2.トレッドパターン
次に、トレッド部に形成されているトレッドパターンについて説明する。
図1に示すように、トレッド部にはタイヤ周方向に延びる4本の主溝が設けられている。タイヤ赤道CL(
図1に一点鎖線で示す、タイヤ幅方向の中心線)の両側においてタイヤ赤道CLに最も近い主溝が、センター主溝10である。また、タイヤ幅方向両側のそれぞれにおいて接地端E(
図1に破線で示す)に最も近い主溝がショルダー主溝11である。
【0016】
ここで、接地端Eとは、正規リムに装着され正規内圧が充填された空気入りタイヤが接地し、そこへ正規荷重が負荷された条件下での、接地面のタイヤ幅方向端部のことである。
【0017】
ここで、正規リムとは、JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、又はETRTO規格における「Measuring Rim」のことである。また、正規内圧とは、JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、又はETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」のことである。ただし空気入りタイヤが乗用車用である場合は、正規内圧は180kPaである。また、正規荷重とは、JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、又はETRTO規格における「LOAD CAPACITY」のことである。ただし空気入りタイヤが乗用車用である場合は、正規荷重は、内圧180kPaの対応荷重の85%である。
【0018】
これら4本の主溝10、11によって、タイヤ周方向に延びる陸部が5つ形成されている。具体的には、ショルダー主溝11よりタイヤ幅方向外側のショルダー陸部12と、センター主溝10とショルダー主溝11とに挟まれた主溝間陸部13と、2本のセンター主溝10に挟まれたセンター陸部14とが形成されている。本実施形態の主溝間陸部13はいわゆるメディエイト陸部である。
【0019】
ショルダー陸部12は接地端Eを含む陸部である。つまり、ショルダー陸部12の範囲内に接地端Eが存在している。またセンター陸部14はタイヤ赤道CLを含む陸部である。つまり、センター陸部14の範囲内にタイヤ赤道CLが存在している。
【0020】
なお、主溝間陸部13とセンター陸部14とは、2本の主溝に挟まれている点で共通している。しかし、主溝間陸部13はタイヤ赤道CLを含まないのに対し、センター陸部14はタイヤ赤道CLを含む点で相違している。
【0021】
3.ショルダー陸部の構造
ショルダー陸部12にはタイヤ幅方向に延びる横溝15が設けられている。横溝15は、直線状で、タイヤ幅方向に対して若干傾斜した方向へ延びている。横溝15のタイヤ赤道CL側の端部はショルダー主溝11に開口し、横溝15のタイヤ赤道CLと反対側の端部はタイヤ幅方向外側に開口している。
【0022】
複数の横溝15がタイヤ周方向に周期的に設けられることにより、タイヤ周方向に周期的なパターンがショルダー陸部12に形成されている。そして、タイヤ周方向に隣り合う2本の横溝15の間隔が前記パターンの1ピッチとなっている。
【0023】
また、ショルダー陸部12には、タイヤ周方向に延びる周方向溝20が設けられている。周方向溝20の延長方向(すなわちタイヤ周方向)の両端部は陸部内で閉塞している。複数のこのような周方向溝20がタイヤ周方向に断続的に設けられている。
【0024】
周方向溝20は接地端Eに近い場所又は接地端E上に設けられている。具体的には、ショルダー陸部12の接地幅をAとしたときの、接地端Eからタイヤ幅方向両側へそれぞれA/2の範囲内に、周方向溝20が設けられている。言い換えれば、接地端EからA/2の距離だけタイヤ赤道CL側の位置から、接地端EからA/2の距離だけタイヤ幅方向外側の位置までの範囲内に、周方向溝20が設けられている。なお接地幅とは、ショルダー陸部12のショルダー主溝11側の端部から接地端Eまでの幅のことである。
【0025】
ここで、ショルダー陸部12のうち接地端EからA/2の距離だけタイヤ幅方向外側の位置までの部分は、非旋回時には接地しないが、旋回時には接地する部分である。
【0026】
このような周方向溝20は、ショルダー陸部12の前記パターンの1ピッチにつき1本以上(
図1の場合は1本)の割合で設けられている。そして、好ましい形態としては、1ピッチ内の周方向溝20のタイヤ周方向長さの合計が、その1ピッチの長さの40%以上90%以下である。例えば、1ピッチにつき1本の周方向溝20が設けられている場合は、その1本の周方向溝20のタイヤ周方向の長さが、1ピッチの長さの40%以上90%以下であることが好ましい。また、1ピッチにつき2本の周方向溝20が設けられている場合は、その2本の周方向溝20のタイヤ周方向の長さの合計が、1ピッチの長さの40%以上90%以下であることが好ましい。
【0027】
4.主溝間陸部の構造
主溝間陸部13にはタイヤ幅方向に延びる横溝16が設けられている。横溝16は、直線状で、タイヤ幅方向に対して若干傾斜した方向へ延びている。横溝16のタイヤ赤道CL側の端部はセンター主溝10に開口し、横溝16の接地端E側の端部はショルダー主溝11に開口している。
【0028】
複数の横溝16がタイヤ周方向に周期的に設けられることにより、タイヤ周方向に周期的なパターンが主溝間陸部13に形成されている。そして、タイヤ周方向に隣り合う2本の横溝16の間隔が前記パターンの1ピッチとなっている。主溝間陸部13の1ピッチの長さはショルダー陸部12の1ピッチの長さと同じである。
【0029】
また、主溝間陸部13には、タイヤ周方向に延びる周方向溝21が設けられている。周方向溝21の延長方向(すなわちタイヤ周方向)の両端部は陸部内で閉塞している。複数のこのような周方向溝21がタイヤ周方向に断続的に設けられている。
【0030】
周方向溝21は、主溝間陸部13の幅方向の接地端E側半分の範囲内に設けられている。言い換えれば、主溝間陸部13の幅方向の長さをBとしたときの、接地端E側の幅B/2の範囲内に、周方向溝21が設けられている。
【0031】
このような周方向溝21は、主溝間陸部13の前記パターンの1ピッチにつき1本以上(
図1の場合は1本)の割合で設けられている。そして、好ましい形態としては、1ピッチ内の周方向溝21のタイヤ周方向長さの合計が、その1ピッチの長さの40%以上90%以下である。例えば、1ピッチにつき1本の周方向溝21が設けられている場合は、その1本の周方向溝21のタイヤ周方向の長さが、1ピッチの長さの40%以上90%以下であることが好ましい。また、1ピッチにつき2本の周方向溝21が設けられている場合は、その2本の周方向溝21のタイヤ周方向の長さの合計が、1ピッチの長さの40%以上90%以下であることが好ましい。
【0032】
5.センター陸部の構造
センター陸部14にはタイヤ幅方向に延びる横溝17が設けられている。横溝17は、直線状で、タイヤ幅方向に対して若干傾斜した方向へ延びている。横溝17のタイヤ赤道CL側の端部はセンター陸部14内で閉塞し、横溝17の接地端E側の端部はセンター主溝10に開口している。このような横溝17はノッチとも呼ばれる。このような横溝17がセンター陸部14の幅方向両側に設けられている。
【0033】
複数の横溝17がタイヤ周方向に周期的に設けられることにより、タイヤ周方向に周期的なパターンがセンター陸部14に形成されている。そして、タイヤ周方向に隣り合う2本の横溝17の間隔が前記パターンの1ピッチとなっている。センター陸部14の1ピッチの長さはショルダー陸部12及び主溝間陸部13の1ピッチの長さと同じである。
【0034】
また、センター陸部14には、タイヤ周方向に延びる周方向溝22が設けられている。周方向溝22の延長方向(すなわちタイヤ周方向)の両端部は陸部内で閉塞している。複数のこのような周方向溝22がタイヤ周方向に断続的に設けられている。
【0035】
周方向溝22は、センター陸部14の幅方向の接地端E側1/3の範囲内に設けられている。言い換えれば、センター陸部14の幅方向の長さをCとしたときの、センター陸部14の幅方向一方側の幅C/3の範囲と、センター陸部14の幅方向他方側の幅C/3の範囲とに、周方向溝22が設けられている。
【0036】
6.周方向溝の構造
上記のような各周方向溝20、21、22の幅の広さは限定されない。周方向溝20、21、22は、サイプであっても良いし、サイプより幅の広い溝であっても良い。なおサイプとは幅の狭い溝のことである。詳細には、サイプとは、正規リムに装着され正規内圧が充填された空気入りタイヤが接地し、そこへ正規荷重が負荷された条件下で、接地面への開口部が閉じる溝のことである。
【0037】
また、周方向溝20、21、22の長さ又は幅が、ショルダー陸部12、主溝間陸部13、センター陸部14の順に大きいことが好ましい。また、周方向溝20、21、22の長さ及び幅の両方が、ショルダー陸部12、主溝間陸部13、センター陸部14の順に大きくても良い。また、周方向溝20、21、22の長さ及び幅が、全ての陸部12、13、14で同じであっても良い。
【0038】
ショルダー陸部12の周方向溝20の深さ方向の形状を
図2に示す。上記のように周方向溝20の延長方向の両端部は陸部内で閉塞しているが、それら両端部は、周方向溝20の深さ方向に対して傾斜している。詳細には、周方向溝20の両端部には、接地面(タイヤ外周面)から深さ方向へ延びる第1傾斜部24と、第1傾斜部24から連続してさらに深さ方向へ延びる第2傾斜部25とが形成されている。さらに、第2傾斜部25は、R部26を介して溝底27に連結されている。
【0039】
そして、第1傾斜部24が、第2傾斜部25よりも、周方向溝20の深さ方向(接地面に垂直な方向)に対する傾斜角が大きい。すなわち、接地面に垂直な方向に対する第1傾斜部24の傾斜角をα、接地面に垂直な方向に対する第2傾斜部25の傾斜角をβとすると、α>βが成立する。α及びβの具体的数値は、次の(1)及び(2)を充足することが好ましい。
【0040】
40°≦α≦70° ・・・(1)
β>tan-1(tanα-0.7143) ・・・(2)
主溝間陸部13の周方向溝21及びセンター陸部14の周方向溝22も、ショルダー陸部12の周方向溝20と同じ断面形状を有している。
【0041】
なお、図示省略するが、第2傾斜部25から連続してさらに深さ方向へ延びる第3傾斜部が形成されていても良い。その場合も上記と同様に第1傾斜部24の傾斜角αは第2傾斜部25の傾斜角βより大きい。しかし第3傾斜部の傾斜角は限定されない。
【0042】
7.作用効果
上記のように本実施形態では、タイヤ周方向に延びて両端が閉塞した周方向溝20が、ショルダー陸部12にタイヤ周方向に断続的に設けられている。そして、周方向溝20が、ショルダー陸部12の接地幅をAとしたときの、接地端Eからタイヤ幅方向両側へそれぞれA/2の範囲内に設けられている。
【0043】
ここで、接地端Eからタイヤ幅方向両側へそれぞれA/2の範囲は、運転者が大きくハンドルを切ったときに大きな横力が発生しやすい部分である。しかし、その部分にタイヤ周方向(すなわち横力の方向に直交する方向)へ延びる周方向溝20が設けられているため、その分横力が小さくなり最大コーナリングフォースが小さくなる。詳細に説明すると、周方向溝20があるために、その周囲のゴムが倒れるように動き、周方向溝20の周囲の接地性が悪くなる。その結果、周方向溝20の周囲において摩擦力が発生しにくくなり、横力が小さくなる。それにより空気入りタイヤの最大コーナリングフォースが小さくなる。
【0044】
また、接地端Eからタイヤ幅方向両側へそれぞれA/2の範囲は、運転者が小さくハンドルを切ったときは、接地圧が比較的小さいか接地しない範囲である。そのため、周方向溝20が設けられていても接地性への影響が小さく、コーナリングパワーへの影響が非常に小さい。
【0045】
これらのことから、本実施形態の空気入りタイヤはコーナリングパワーが大きく最大コーナリングフォースが小さい。
【0046】
さらに本実施形態では、周方向溝21が主溝間陸部13の幅方向の接地端E側半分の範囲内にも設けられている。主溝間陸部13の幅方向の接地端E側半分の範囲は、運転者が大きくハンドルを切ったときに大きな横力が発生しやすい部分である。しかし、ショルダー陸部12の場合と同様に、周方向溝21が設けられていることにより、周方向溝21の周囲の横力が小さくなり空気入りタイヤの最大コーナリングフォースが小さくなる。また、運転者が小さくハンドルを切ったときは横力が小さいため、周方向溝21のコーナリングパワーへの影響が非常に小さい。
【0047】
さらに本実施形態では、周方向溝22がセンター陸部14の幅方向両側の接地端E側1/3の範囲内にも設けられている。ショルダー陸部12や主溝間陸部13の場合と同様に、周方向溝22が設けられていることにより空気入りタイヤの最大コーナリングフォースが小さくなるが、周方向溝22のコーナリングパワーへの影響は非常に小さい。
【0048】
このように周方向溝21、22が主溝間陸部13及びセンター陸部14にも設けられていることにより、コーナリングパワーがあまり小さくならないにもかかわらず最大コーナリングフォースがさらに小さくなる。
【0049】
このような周方向溝20、21、22は、各陸部12、13、14の1ピッチにつき1本以上設けられていることにより、タイヤ全体に対して効果を発揮する。また、1ピッチ内の周方向溝20、21、22のタイヤ周方向長さの合計が、1ピッチの長さの40%以上であることにより、最大コーナリングフォースを小さくする効果が大きくなる。また、1ピッチ内の周方向溝20、21、22のタイヤ周方向長さの合計が、1ピッチの長さの90%以下であることにより、コーナリングパワーへの影響が抑えられる。
【0050】
また、上記のように、周方向溝20、21、22の両端部に、接地面から周方向溝20、21、22の深さ方向へ延びる第1傾斜部24と、第1傾斜部24から連続して深さ方向へ延びる第2傾斜部25とが形成され、第1傾斜部24が第2傾斜部25よりも接地面に垂直な方向に対する傾斜角が大きくなっている。つまり、第1傾斜部24の方が接地面に対して平行に近い方向に延び、第2傾斜部25の方が周方向溝20、21、22の深さ方向へ向かって延びている。
【0051】
第1傾斜部24が接地面に対して平行に近い方向に延びていることにより、周方向溝20、21、22の両端部近傍で周方向溝20、21、22が浅くなっており、両端部の強度が高く保たれている。周方向溝20、21、22の両端部の強度が高いことにより、両端部からクラックが生じにくく、またコーナリングパワーが小さくなりにくい。
【0052】
また、第2傾斜部25が周方向溝20、21、22の深さ方向へ向かって延びていることにより、第1傾斜部24が存在するにもかかわらず周方向溝20、21、22が深くなっており、また周方向溝20、21、22の深い範囲が広く確保されている。そのため最大コーナリングフォースを小さくする効果が大きい。
【0053】
ここで、第1傾斜部24の傾斜角α及び第2傾斜部25の傾斜角βが上記の(1)及び(2)を充足していれば、コーナリングパワーを適度に維持しつつ最大コーナリングフォースを適度に小さくすることができる。
【0054】
また、周方向溝20、21、22が空気入りタイヤの最大コーナリングフォースに及ぼす影響は、周方向溝20、21、22が接地端Eに近いほど大きい、つまりショルダー陸部12、主溝間陸部13、センター陸部14の順に大きい。そのため、周方向溝20、21、22の長さ又は幅が、ショルダー陸部12、主溝間陸部13、センター陸部14の順に大きければ、最大コーナリングフォースを効果的に小さくすることができる。
【0055】
8.変更例
以上の実施形態は例示であり、発明の範囲は以上の実施形態に限定されない。以上の実施形態に対し、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、様々な変更を行うことができる。
【0056】
以下では複数の変更例について説明するが、上記実施形態に対して、複数の変更例のうちいずれか1つを適用しても良いし、複数の変更例のうちいずれか2つ以上を組み合わせて適用しても良い。
【0057】
(1)周方向溝の配置の変更例
ショルダー陸部12、主溝間陸部13及びセンター陸部14が設けられたトレッドパターンにおいて、周方向溝20、21、22は、少なくともいずれか1つの陸部に設けられていれば良い。
【0058】
例えば、
図3に示すようにタイヤ幅方向両側のショルダー陸部12のみに周方向溝20が設けられていても良い。また、タイヤ幅方向両側の主溝間陸部13のみに周方向溝21が設けられていても良い。また、センター陸部14のみに周方向溝22が設けられていても良い。
【0059】
また、
図4に示すように、ショルダー陸部12及び主溝間陸部13のみに周方向溝20、21が設けられていても良い。
【0060】
これらのいずれの場合も、周方向溝20、21、22が設けられていることにより空気入りタイヤの最大コーナリングフォースが小さくなるが、周方向溝20、21、22のコーナリングパワーへの影響は非常に小さい。
【0061】
(2)トレッドパターンの変更例
変更例のトレッドパターンを
図5に示す。このトレッドパターンでは、タイヤ周方向に延びる主溝が3本設けられている。具体的には、タイヤ赤道CLと一致するセンター主溝110と、タイヤ幅方向両側のそれぞれにおいて接地端Eに最も近いショルダー主溝111とが設けられている。
【0062】
これら3本の主溝110、111によって、タイヤ周方向に延びる陸部が4つ形成されている。具体的には、ショルダー主溝111よりタイヤ幅方向外側のショルダー陸部112と、センター主溝110とショルダー主溝111とに挟まれた主溝間陸部113とが形成されている。ショルダー陸部112は接地端Eを含む陸部である。上記実施形態と同様に、ショルダー陸部112及び主溝間陸部113には横溝15、16が設けられ、これらの陸部112、113にタイヤ周方向に周期的なパターンが形成されている。
【0063】
このようなトレッドパターンにおいて、ショルダー陸部112には上記実施形態のものと同じ周方向溝20が設けられ、さらに、主溝間陸部113にも上記実施形態のものと同じ周方向溝21が設けられている。
【0064】
これらの周方向溝20、21は、それぞれの陸部112、113の1ピッチにつき1本以上設けられている。そして、1ピッチのタイヤ周方向の長さに対して、1ピッチ内の周方向溝20、21の長さの合計が、40%以上90%以下であることが好ましい。また、周方向溝20、21の長さ又は幅が、主溝間陸部113よりもショルダー陸部112において大きいことが好ましい。
【0065】
なお、ショルダー陸部112又は主溝間陸部113のいずれか一方のみに周方向溝20、21が設けられていても良い。例えば
図6に示すようにショルダー陸部112のみに周方向溝20が設けられていても良い。
【0066】
(3)トレッドパターンの変更例
別の変更例のトレッドパターンを
図7に示す。この変更例では、ショルダー陸部12の2本の横溝15に対し、主溝間陸部213の横溝16が1本だけ設けられている。それにより、ショルダー陸部12の2ピッチの長さが主溝間陸部213の1ピッチの長さに相当している。
【0067】
この変更例の主溝間陸部213では、1ピッチに(つまり横溝16と横溝16との間に)2本の周方向溝21が設けられている。この場合、2本の周方向溝21のタイヤ周方向長さの合計が、1ピッチの長さの40%以上90%以下であることが好ましい。
【0068】
この変更例のように、陸部の1ピッチの長さは陸部ごとに異なっても良い。また、陸部の1ピッチに対して2本以上の周方向溝が設けられていても良く、その場合は1ピッチ内の周方向溝のタイヤ周方向長さの合計が、1ピッチの長さの40%以上90%以下であることが好ましい。
【0069】
(4)横溝の変更例
ショルダー陸部12や主溝間陸部13に設けられる横溝は、
図1等ではタイヤ幅方向に対して若干傾斜しているが、タイヤ幅方向に対して傾斜せず延びていても良い。また、横溝の少なくとも一端部が陸部内で閉塞していても良い。
【0070】
また、横溝はサイプであっても良い。サイプとは幅の狭い溝のことである。詳細には、サイプとは、正規リムに装着され正規内圧が充填された空気入りタイヤが接地し、そこへ正規荷重が負荷された条件下で、接地面への開口部が閉じる溝のことである。
【0071】
9.実施例及び比較例
実施例及び比較例の空気入りタイヤのコーナリングパワー及び最大コーナリングフォースの測定を行った。実施例の空気入りタイヤとして
図1のトレッドパターンのものを使用した。また比較例の空気入りタイヤとして
図8のトレッドパターンのものを使用した。なお
図8において、
図1のトレッドパターンと同じ部分には
図1と同じ符号を付してある。2つのトレッドパターンの相違点は、
図1のトレッドパターンでは周方向溝20、21、22があるのに対し、
図8のトレッドパターンでは周方向溝がない点である。
【0072】
測定結果を表1に示す。表1では、実施例の測定値を、比較例の測定値を100としたときの指数で表してある。指数が大きいほどコーナリングパワー及び最大コーナリングフォースが大きいことを意味している。表1からわかるように、実施例では比較例よりも最大コーナリングフォースが小さくなった。また、実施例では比較例よりもコーナリングパワーが僅かに小さくなったが、その変化量は許容範囲内であった。
【0073】
【符号の説明】
【0074】
CL…タイヤ赤道、E…接地端、10…センター主溝、11…ショルダー主溝、12…ショルダー陸部、13…主溝間陸部、14…センター陸部、15…横溝、16…横溝、17…横溝、20…周方向溝、21…周方向溝、22…周方向溝、24…第1傾斜部、25…第2傾斜部、26…R部、27…溝底、110…センター主溝、111…ショルダー主溝、112…ショルダー陸部、113…主溝間陸部、213…主溝間陸部