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特許7314451シートのレーザ溶着装置、シートのレーザ溶着方法、シートをレーザ溶着した構造物、ポリイミドシートのレーザ溶着装置、ポリイミドシートのレーザ溶着方法、ポリイミドシートをレーザ溶着した構造物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】シートのレーザ溶着装置、シートのレーザ溶着方法、シートをレーザ溶着した構造物、ポリイミドシートのレーザ溶着装置、ポリイミドシートのレーザ溶着方法、ポリイミドシートをレーザ溶着した構造物
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/24 20060101AFI20230719BHJP
   B29C 65/16 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
B29C65/24
B29C65/16
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021566704
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2019051261
(87)【国際公開番号】W WO2021130993
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000195649
【氏名又は名称】精電舎電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 公彦
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-149390(JP,A)
【文献】特表2004-509788(JP,A)
【文献】国際公開第2017/145269(WO,A1)
【文献】特開2004-142225(JP,A)
【文献】特開2013-256133(JP,A)
【文献】特開2013-071282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートの下面を線状領域で支持する線状領域支持部材と、
前記シートの上面を覆う発熱部材と、
前記発熱部材を前記シートに押圧する押圧部と、
前記発熱部材にレーザ光線を照射して発熱させるレーザ光線照射部と、
制御部と、を有し、
前記シートの上面の第1の領域を前記発熱部材で覆い、前記第1の領域と対向する前記シートの下面の第2の領域の任意の位置を前記線状領域支持部材の線状領域で支持し、前記押圧部で前記発熱部材を前記シートの上面に押圧して密着させた状態で、
前記制御部により、前記レーザ光線照射部から前記発熱部材にレーザ光線を照射して発熱させ、前記発熱部材で生じた熱を前記線状領域支持部材の線状領域に向けて伝えることにより、前記シートを加熱して溶着する制御をするように構成した、ことを特徴とするシートのレーザ溶着装置。
【請求項2】
請求項1のシートのレーザ溶着装置に、更に、前記線状領域支持部材を加熱する加熱部を設け、
前記シートの上面の前記第1の領域を前記発熱部材で覆い、前記シートの下面の前記第2の領域の任意の位置を前記線状領域支持部材の線状領域で支持し、前記押圧部で前記発熱部材を前記シートの上面に押圧して密着させた状態で、
前記制御部により、前記レーザ光線照射部から前記発熱部材にレーザ光線を照射して発熱させ、前記発熱部材で生じた熱を前記線状領域支持部材の線状領域に向けて伝えるとともに、
前記加熱部で前記線状領域支持部材の線状領域を発熱させ、線状領域で生じた熱を前記シートへ伝えることにより、前記シートを加熱して溶着する制御をするように構成した、ことを特徴とするシートのレーザ溶着装置。
【請求項3】
請求項1のシートのレーザ光線照射部に、レーザ光線照射位置を移動させるレーザ光線照射位置移動部を設け、
前記レーザ光線照射位置を、前記シートを前記線状領域支持部材の線状領域が支持している支持位置に沿って移動させるように構成し、
前記シートの上面の前記第1の領域を前記発熱部材で覆い、前記シートの下面の前記第2の領域の任意の位置を前記線状領域支持部材の線状領域で支持し、前記押圧部で前記発熱部材を前記シートの上面に押圧した状態で、
前記制御部により、前記レーザ光線照射部から前記発熱部材にレーザ光線を照射して発熱させ、前記発熱部材で生じた熱を前記線状領域支持部材の線状領域に向けて伝えることにより前記シートを加熱して溶着するとともに、
前記レーザ光線照射位置を移動させ、前記シートを前記線状領域支持部材の線状領域に沿った一定範囲を溶着する制御をするように構成した、ことを特徴とするシートのレーザ溶着装置。
【請求項4】
請求項2のシートのレーザ溶着装置に、レーザ光線照射部のレーザ光線照射位置を移動させるレーザ光線照射位置移動部を設け、
更に、加熱部を移動させる加熱位置移動部を設け、
前記レーザ光線照射位置と前記加熱部による加熱位置を、前記シートを前記線状領域支持部材の線状領域が支持している支持位置に沿って移動させるように構成し、
前記シートの上面の前記第1の領域を前記発熱部材で覆い、前記シートの下面の前記第2の領域の任意の位置を前記線状領域支持部材の線状領域で支持し、前記押圧部で前記発熱部材を前記シートの上面に押圧して密着させた状態で、
前記制御部により、前記レーザ光線照射部から前記発熱部材にレーザ光線を照射して発熱させて前記発熱部材で生じた熱を前記線状領域支持部材の線状領域に向けて伝え、前記加熱部で前記線状領域支持部材の線状領域を発熱させて線状領域で生じた熱を前記シートへ伝え、前記シートを加熱して溶着するとともに、
前記レーザ光線照射位置と加熱部の加熱位置を移動させ、前記シートを前記線状領域支持部材の線状領域に沿った一定範囲を溶着する制御をするように構成した、ことを特徴とするシートのレーザ溶着装置。
【請求項5】
シートの下面を線状領域で支持する前記線状領域支持部材に代えて、シートの下面の前記第2の領域の任意の位置を点状領域で支持する点状領域支持部材を用いたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のシートのレーザ溶着装置。
【請求項6】
シートの下面を線状領域で支持する線状領域支持部材と、
前記シートの上面を覆う発熱部材と、
前記発熱部材を前記シートに押圧する押圧部と、
前記発熱部材にレーザ光線を照射して発熱させるレーザ光線照射部と、
制御部と、を有するレーザ溶着装置を用いて、
前記シートの上面の第1の領域を前記発熱部材で覆い、前記第1の領域と対向する前記シートの下面の第2の領域の任意の位置を前記線状領域支持部材の線状領域で支持し、前記押圧部で前記発熱部材を前記シートの上面に押圧して密着させた状態で、
前記制御部により、前記レーザ光線照射部から前記発熱部材にレーザ光線を照射して発熱させ、前記発熱部材で生じた熱を前記シートから前記線状領域支持部材の線状領域に向けて伝え、前記シートを加熱して溶着するようにした、ことを特徴とするシートのレーザ溶着方法。
【請求項7】
請求項6のシートのレーザ溶着装置に、更に、前記線状領域支持部材を加熱する加熱部を設け、
前記シートの上面の前記第1の領域を前記発熱部材で覆い、前記シートの下面の前記第2の領域の任意の位置を前記線状領域支持部材の線状領域で支持し、前記押圧部で前記発熱部材を前記シートの上面に押圧して密着させた状態で、
前記制御部により、前記レーザ光線照射部から前記発熱部材にレーザ光線を照射して発熱させ、前記発熱部材で生じた熱を前記線状領域支持部材の線状領域に向けて伝えるとともに、
前記加熱部で前記線状領域支持部材の線状領域を発熱させ、線状領域で生じた熱を前記シートへ伝えることにより、前記シートを加熱して溶着するようにした、ことを特徴とするシートのレーザ溶着方法。
【請求項8】
請求項のシートのレーザ光線照射部に、レーザ光線照射位置を移動させるレーザ光線照射位置移動部を設け、
前記レーザ光線照射位置を、前記シートを前記線状領域支持部材の線状領域が支持している支持位置に沿って移動させるように構成したレーザ溶着装置を用いて、
前記シートの上面の前記第1の領域を前記発熱部材で覆い、前記シートの下面の前記第2の領域の任意の位置を前記線状領域支持部材の線状領域で支持し、前記押圧部で前記発熱部材を前記シートの上面に押圧して密着させた状態で、
前記制御部により、前記レーザ光線照射部から前記発熱部材にレーザ光線を照射して発熱させ、前記発熱部材で生じた熱を前記線状領域支持部材の線状領域に向けて伝えることにより前記シートを加熱して溶着するとともに、
前記レーザ光線照射位置を移動させ、前記シートを前記線状領域支持部材の線状領域に沿った一定範囲を溶着する制御をするように構成した、ことを特徴とするシートのレーザ溶着方法。
【請求項9】
請求項のシートのレーザ溶着装置に、レーザ光線照射部のレーザ光線照射位置を移動させるレーザ光線照射位置移動部を設け、
更に、加熱部を移動させる加熱位置移動部を設け、
前記レーザ光線照射位置と前記加熱部による加熱位置を、前記シートを前記線状領域支持部材の線状領域が支持している支持位置に沿って移動させるように構成したレーザ溶着装置を用いて、
前記シートの上面を前記第1の領域を前記発熱部材で覆い、前記シートの下面の前記第2の領域の任意の位置を前記線状領域支持部材の線状領域で支持し、前記押圧部で前記発熱部材を前記シートの上面に押圧して密着させた状態で、
前記制御部により、前記レーザ光線照射部から前記発熱部材にレーザ光線を照射して発熱させて前記発熱部材で生じた熱を前記線状領域支持部材の線状領域に向けて伝え、前記加熱部で前記線状領域支持部材の線状領域を発熱させて線状領域で生じた熱を前記シートへ伝え、前記シートを加熱して溶着するとともに、
前記レーザ光線照射位置と加熱部の加熱位置を移動させ、前記シートを前記線状領域支持部材の線状領域に沿った一定範囲を溶着する制御をするように構成した、ことを特徴とするシートのレーザ溶着方法。
【請求項10】
シートの下面を線状領域で支持する前記線状領域支持部材に代えて、シートの下面の前記第2の領域の任意の位置を点状領域で支持する点状領域支持部材を用いたレーザ溶着装置でレーザ溶着を行うようにしたことを特徴とする請求項6から9のいずれかに記載のシートのレーザ溶着方法。
【請求項11】
請求項6から10のいずれかに記載のシートのレーザ溶着方法を用いて、芳香族ポリイミドシートを溶着するようにした、ことを特徴とするポリイミドシートのレーザ溶着方法。
【請求項12】
前記線状領域支持部材を柱体として、シートの下面を線状に接して支持する柱体の母線の近傍を前記線状領域支持部材の線状領域とした、ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のシートのレーザ溶着装置。
【請求項13】
前記発熱部材を平板とした、ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のシートのレーザ溶着装置。
【請求項14】
前記加熱部として通電加熱部を用いたことを特徴とする請求項2または4に記載のシートのレーザ溶着装置。
【請求項15】
前記加熱部として熱線照射部を用いたことを特徴とする請求項2または4に記載のシートのレーザ溶着装置。
【請求項16】
前記加熱部として前記レーザ光線照射部とは別のレーザ光線照射部を用いたことを特徴とする請求項2または4に記載のシートのレーザ溶着装置。
【請求項17】
更に、前記発熱部材の温度を測定する発熱温度測定部を設け、
当該発熱温度測定部からの発熱温度情報を前記制御部にフィードバックして、溶着動作を行うように構成したことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のシートのレーザ溶着装置。
【請求項18】
更にシートの温度を測定するシート温度測定部を有し、
当該シート温度測定部からのシート温度情報を前記制御部にフィードバックして、溶着動作を行うように構成したことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のシートのレーザ溶着装置。
【請求項19】
更に、前記線状領域支持部材の温度を測定する支持温度測定部を設け、
当該支持温度測定部からの支持温度情報を前記制御部にフィードバックして、溶着動作を行うように構成したことを特徴とする請求項2または4に記載のシートのレーザ溶着装置。
【請求項20】
前記発熱部材と線状領域支持部材の一方または両方の周囲を断熱部材で囲んだことを特徴とする請求項2または4に記載のシートのレーザ溶着装置。
【請求項21】
袋型の溶着部分を形成することにより耐熱性密封袋を溶着する請求項3から5のいずれかに記載のシートのレーザ溶着装置。
【請求項22】
請求項1から5及び12から21のいずれかに記載のシートのレーザ溶着装置を用いて、芳香族ポリイミドシートを溶着するようにした、ことを特徴とするポリイミドシートのレーザ溶着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シートのレーザ溶着装置、シートのレーザ溶着方法、シートをレーザ溶着した構造物、に係り、特に、ポリイミドシートのレーザ溶着装置、ポリイミドシートのレーザ溶着方法、ポリイミドシートをレーザ溶着した構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリイミドシート(以下、「ポリイミドシート」と略す)は、機械的強度と耐熱性に優れ、更に宇宙空間で使用する場合の耐放射線に優れており、人工衛星用のハニカムコア、耐熱性密封袋、その他の構造物への利用が検討されてきた。
【0003】
従来、ポリイミドシートを用いてハニカムコアやその他の構造物を作るには、ポリイミドシート同士を接着剤で接着する方法が提案されていた。しかし、ポリイミドシートの各層間に耐熱性の接着剤を塗布した積層体を積層方向に圧着・加熱した状態で一定時間保持する時間のかかる作業が必要であった。接着剤の重量が人工衛星の軽量化を阻害していた。また、耐熱製密封袋を作るには信頼性の高い接着作業を必要としていた(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0004】
一方、接着剤を用いないでポリイミドシート同士を一体にして所定の強度の実用的構造物をつくる方法は確立されていなかった。一つの方法として、接着剤を用いずにプラスチックシートを加熱して一体に溶着する方法はあるが、ポリイミドシートは溶着に適する温度範囲が狭く、加熱途中でポリイミドシートが熱で変形したり、炭化したり、高温になった部分が溶けて孔があいたりする。
【0005】
例えば、従来のレーザ溶着方法によりレーザ光線をポリイミドシートに直接照射しても、(1)レーザ光線の吸収が悪い。(2)発熱が鈍い。(3)温度が上がるとレーザ光線を吸収しやすくなるが、吸収し始めると急に温度が上がる。(4)急に温度が上がって熱変形する。(5)炭化する。(6)孔が開く。(7)変化が急激である。(8)温度コントロールがきかない、という諸課題があった。従来のレーザ溶着方法で最適な溶着条件を探しても、これら複数の課題すべてを同時に解決するのは困難と言われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平1-228832号公報
【文献】特開2016-13667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、接着剤を用いないでシート同士を溶着する、シートのレーザ溶着装置、シートのレーザ溶着方法、シートをレーザ溶着した構造物、を提供することを課題とし、特に、接着剤を用いないでポリイミドシート同士を溶着する、シートのレーザ溶着装置、シートのレーザ溶着方法、シートをレーザ溶着した構造物、を提供することを課題としている。
【0008】
より具体的には、シート同士を溶着する際に、シートが熱変形せず、炭化せず、高温部分が溶けて孔があかない、密封性(水密性)に優れた溶着ができる、安定的な溶着作業ができる、シートのレーザ溶着装置、シートのレーザ溶着方法、シートをレーザ溶着した構造物、を提供することを課題としている。
【0009】
更に本開示は、接着剤なしでレーザ溶着したポリイミドシートを用いた構造物を提供すること、例えば軽量化した人工衛星等の構造物を提供すること、耐熱性密封袋を提供すること、を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、シートを局所的に支持するとともに、局所的に支持しているシートの部分を集中的に加熱してレーザ溶着する、言い換えれば、熱と圧力を局所的に支持しているシートの部分に集中してレーザ溶着することにより、シートの熱変形、炭化、孔あき、密封性の確保、という諸課題を解決している。
【0011】
課題を解決するための手段としては、シートの下面を線状領域または点状領域で局所的に支持する支持部材と、シートの上面を覆う発熱部材と、発熱部材をシートに押圧する押圧部と、発熱部材にレーザ光線を照射して発熱させるレーザ光線照射部と、制御部と、を有し、シートの上面の第1の領域を発熱部材で覆い、前記第1の領域と対向する前記シートの下面の第2の領域の任意の位置を前記線状領域支持部材の線状領域で支持し、押圧部で発熱部材をシートの上面に押圧して密着させた状態で、制御部により、レーザ光線照射部から発熱部材にレーザ光線を照射して発熱させ、発熱部材で発生させた熱をシートの上面から下面へ、そして支持部材の線状領域または点状領域に向けて、伝えている。このことにより、局所的に支持しているシートの部分を集中的に加熱して溶着している。
【0012】
本開示は更に、支持部材を加熱する加熱部を設け、レーザ光線照射部からレーザ光線を照射して発熱部材で生じた熱を支持部材の線状領域または点状領域で支持したシート部分に伝えるとともに、加熱部で支持部材を加熱して生じた熱を支持部材の線状領域または点状領域で支持したシート部分へ伝えることにより、局所的に支持しているシートの部分を集中的に加熱して溶着している。
【0013】
本開示は更に、シートのレーザ光線照射部に、レーザ光線照射位置を移動させるレーザ光線照射位置移動部を設け、レーザ光線照射位置を、シートを支持部材の線状領域が支持している支持位置に沿って移動させるように構成し、発熱部材で生じた熱を支持部材の線状領域に向けて伝えることにより、局所的に支持しているシートの部分を集中的に加熱して溶着するとともに、レーザ光線照射位置を移動させ、シートを支持部材の線状領域に沿った一定範囲を溶着している。
【0014】
本開示は更に、レーザ光線照射部のレーザ光線照射位置を移動させるレーザ光線照射位置移動部を設け、更に、加熱部を移動させる加熱位置移動部を設け、レーザ光線照射位置と加熱部の加熱位置を、シートを支持している支持部材の線状領域に沿って移動させるように構成し、発熱部材と支持部材で生じた熱により、局所的に支持しているシートの部分を集中的に加熱して溶着するとともに、レーザ光線照射位置と加熱部の加熱位置を移動させ、シートを支持部材の線状領域に沿った一定範囲を溶着している。
【0015】
本開示は、支持部材で局所的に支持した部分を溶着して耐熱性密封袋を溶着している。
【発明の効果】
【0016】
本開示は、シートを局所的に支持するとともに、局所的に支持しているシートの部分を集中的に加熱してレーザ溶着することにより、接着剤を用いないでシート同士を溶着する、シートのレーザ溶着装置、シートのレーザ溶着方法、シートをレーザ溶着した構造物、を提供する。特に、接着剤を用いないでポリイミドシート同士を溶着する、シートのレーザ溶着装置、シートのレーザ溶着方法、シートをレーザ溶着した構造物、を提供できる効果がある。
【0017】
本開示によれば、シートが、急激に発熱しない、熱で変形しない、炭化しない、高温部分が溶けて孔が開かない、密封性に優れた溶着ができる、安定的な溶着作業ができる、シートのレーザ溶着装置およびシートのレーザ溶着方法を提供できる効果がある。
【0018】
また本開示によれば、接着剤なしでレーザ溶着したポリイミドシートを用いた構造物を提供すること、例えば軽量化した人工衛星等の構造物を提供すること、耐熱性密封袋を提供すること、ができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一実施形態に係るレーザ溶着装置の原理的な構成を示した概略構成図。
図2】(a)~(f)本発明の第一実施形態に係るレーザ溶着方法の作業手順を示した遷移図。
図3】本発明の第一実施形態の変形例に係るレーザ溶着装置の原理的な構成を示した概略構成図
図4】本発明の第二実施形態に係るレーザ溶着装置の原理的な構成を示した概略構成図。
図5】(a)~(f)本発明の第二実施形態に係るレーザ溶着方法の作業手順を示した遷移図。
図6】(a)本発明の第二実施形態の第一変形例に係るレーザ溶着装置の原理的な構成を示した概略構成図、(b)本発明の第二実施形態の第二変形例に係るレーザ溶着装置の原理的な構成を示した概略構成図。
図7】本発明の第二実施形態の第三変形例に係るレーザ溶着装置の原理的な構成を示した正面図。
図8】本発明の第三実施形態に係るレーザ溶着装置の原理的な構成を示した概略構成図。
図9】本発明の第三実施形態に係るレーザ溶着装置の要部を示した斜視図。
図10】本発明の第三実施形態に係るレーザ溶着装置の発熱部材と支持部材の温度が上昇し始めたときの状態を示した斜視図。
図11】本発明の第三実施形態に係るレーザ溶着装置の発熱部材と支持部材とこれらに挟まれたシートの温度が所定温度以上になり、発熱部材と支持部材まで連なる高温領域ができた状態を示した斜視図。
図12】本発明の第四実施形態に係るレーザ溶着装置の発熱温度測定部と支持温度測定部を付けたときの構成を示した図。
図13】本発明の第四実施形態に係るレーザ溶着方法の溶着動作のフロー図。
図14】本発明の第四実施形態に係るレーザ溶着方法の溶着動作に速度調節動作を加えたときのフロー図。
図15】本発明の第四実施形態の第一の変形例にかかるハーフミラーを用いたレーザ溶着装置の支持部材と発熱部材の温度を測定する手段を付けたときの構成を示した図。
図16】本発明の第四実施形態の第二の変形例にかかるレーザ溶着装置のシートの溶着対象範囲の温度を測定する手段を付けたときのレーザ溶着装置の構成を示した図。
図17】本発明の第五実施形態に係るレーザ溶着装置の発熱部材と支持部材に熱を発生させる手段としてレーザ光線照射部を用いたときの断面図。
図18】本発明の第五実施形態に係るレーザ溶着装置の斜視図。
図19】本発明の第五実施形態の第一の変形例に係るレーザ溶着装置の発熱部材と支持部材の肉厚を薄くしたときの図。
図20】本発明の第五実施形態の第二の変形例に係るレーザ溶着装置で、発熱部材と支持部材の外周面を断熱材で囲んだときの図。
図21】本発明の第六実施形態に係るレーザ溶着装置で、三枚のシートを溶着するときの図。
図22】本発明の第七実施形態に係るレーザ溶着装置で、シートの端面を突き合せ溶着しているときの図。
図23】本発明の第八実施形態に係るレーザ溶着装置で溶着している状態を示した外観斜視図。
図24】本発明の第八実施形態に係るレーザ溶着装置で溶着している状態を示した平面図。
図25】本発明の第八実施形態に係るレーザ溶着装置で溶着したシートの平面図。
図26】本発明の第八実施形態に係るレーザ溶着装置で溶着したシートの斜視図。
図27】本発明の第八実施形態に係るレーザ溶着装置で溶着した耐熱性密封袋の平面図。
図28】本発明の第八実施形態に係るレーザ溶着装置で溶着した耐熱性密封袋の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明者は、芳香族ポリイミドシートのようにレーザ溶着することが困難とされてきたシートについて、シートを局所的に支持するとともに、局所的に支持しているシートの部分を集中的に加熱してレーザ溶着するレーザ溶着装置、レーザ溶着方法、そしてシートをレーザ溶着した構造物の発明を完成した。
【0021】
本開示により、シートを急激に発熱させず、熱変形させず、炭化させず、孔を開けず、密封性に優れた溶着ができる。以下、本発明の第一実施形態から第八実施形態までと、それらの変形例について説明する。
【0022】
(第一実施形態)
図1に、本発明の第一実施形態に係るレーザ溶着装置の原理的な概略構成図を示した。本発明の第一実施形態では、上下に重ねた芳香族ポリイミドのシート1、2を下側(一側)のシート1の下面(一側面)に支持部材3を当てて局所的に支持し、シート1、2の局所的に支持している部分を上側(他側)のシート2の上面(他側面)に乗せた発熱部材4で発生させた熱により加熱し、溶着している。
【0023】
詳しく説明すると、図1で、支持部材3は、円柱の柱体であり、柱体がシート1と線状に接する母線とその近傍を線状領域3aとして、上下に重ねたシート1、2のシート1の下面を支持している。
【0024】
本開示の効果を確認した装置構成としては、支持部材3の材質をステンレス鋼として、直径1mm程度の棒状ものを用いた。支持部材3の下には、厚さ10mm程度のアルミニュウム板10を台座として配置した。
【0025】
上下に重ねたシート1、2の上には、溶着対象範囲、つまり、支持部材3で局所的に支持したシート1、2の部分を覆うように、上側のシート2の上面に発熱部材4を置いている。発熱部材4は、0.3mm程度の厚さのステンレス鋼シートを用いた。図1で、発熱部材4の大きさは大きく描いているが、線状領域3aの長さと幅をカバーする程度の大きさにした。
【0026】
発熱部材4の上には、押圧部として厚さ5mm程度の透明ガラス板5を載せた。透明ガラス板5は後述するレーザ光線6aを透過する。なお、図示しない他の押圧部を用いて、透明ガラス板5を発熱部材4に所定の押圧力で押圧した。
【0027】
押圧部としての透明ガラス板5の上方には、レーザ光線照射部6を配置している。レーザ光線照射部6からは、近赤外のレーザ光線6aを集光して発熱部材4に照射している。レーザ光線照射部6のレーザ光線照射制御は、制御部7が行う。なお、レーザ光線6aは、近赤外のレーザ光を照射し、発熱部材4を発熱させるとともに、発熱部材4の材質に応じて最適なレーザ光線を用いる。
【0028】
発明理解のために、図2(a)~(f)では、本発明の第一実施形態のレーザ溶着作業手順を遷移図として示した。なお、発熱部材4の内、発熱している範囲がイメージとして把握できるように、交差した細線(ハッチング)を付けた範囲を発熱範囲(H)として、符号「H」で図示した。
【0029】
図2(a)では、重ねたシート1、2を、シート1の下面に、支持部材3の最上部の線状領域3aを当接して支持している。図2(a)では、押圧部である透明ガラス板5と発熱部材4が、シート1、2に向けて一体的に下降する直前の位置関係を示した。
【0030】
図2(b)では、シート1、2を発熱部材4と支持部材3で挟んだ状態で、制御部7がレーザ光線照射部6でレーザ光線6aを発熱部材4に照射して、発熱部材4の発熱が始まった状態を示している。発熱部材4の上部に小さい発熱範囲Hが出来ている。
【0031】
図2(c)では、レーザ光線照射部6からレーザ光線6aを発熱部材4に照射し続けることにより、発熱範囲Hが下方に拡大してシート2からシート1に達した状態を示した。図2(c)の状態は、発熱部材4の熱がシート2からシート1に伝わり始めた状態である。
【0032】
図2(d)では、発熱部材4からの熱が、シート1、2を突き抜けて支持部材3に伝わり、発熱範囲Hはシート1、2から支持部材3内部に達している。シート1、2が接している面の内、支持部材3で局所的に支持されている部分に対応する部分(溶着部分K)が発熱部材4からの熱で溶融し溶着する。
【0033】
図2(e)では、制御部7がレーザ光線照射部6のレーザ光線照射を止めたとき、発熱部材4の発熱が止まり、溶融していたシート1、2の局所的に支持されている部分が冷却し、溶着部分Kが固化するときの状態を示した。
【0034】
なお、シート1、2の局所的に支持されている部分が溶着されて溶着部分Kとなるので、支持部材3の線状領域3aの曲率半径等の形状により、溶着部分Kの幅を1mm以下の細い溶着幅にすることもできる。
【0035】
図2(f)では、シート1、2から発熱部材4と支持部材3を、それぞれ上下に離した状態を示している。このようにして、ポリイミドシートのシート1、2を溶着している。
【0036】
上述の通り、本実施形態では、シート1、2を支持部材3の線状領域3aで局所的に支持し、レーザ光線照射部6のレーザ光線6aを発熱部材4に集中して照射し、発熱部材4で生じた熱を、支持部材3の線状領域3aで局所的に支持している部分に流して、シート1、2を発熱・溶融して溶着している。
【0037】
本実施形態に係るシートのレーザ溶着装置と、シートのレーザ溶着方法では、シート1の下面を線状領域3aで支持する支持部材3と、シート2の上面を覆う発熱部材4と、発熱部材4をシート2に押圧する透明ガラス板5と、発熱部材4にレーザ光線6aを照射して発熱させるレーザ光線照射部6と、制御部7と、を用い、シート1の下面を支持部材3の線状領域3aで局所的に支持し、シート2の上面を発熱部材4で覆い、透明ガラス板5で発熱部材4をシート2の上面に押圧して密着させた状態で、制御部7により、レーザ光線照射部6から発熱部材4にレーザ光線6aを照射して発熱させ、発熱部材4で生じた熱を支持部材3の線状領域3aに向けて伝えることにより、シート1、2の局所的に支持している部分を加熱して溶着する制御をしている。
【0038】
本実施形態では、シート1、2を局所的に支持して、レーザ光線照射部6のレーザ光線6aを発熱部材4に照射して、レーザ光線6aを一定量、一定速度で所定量まで供給することにより、発熱部材4で発生した熱を支持部材3の線状領域3aに向けてシート1、2の局所的に支持した部分に流している。この熱でシート1、2の局所的に支持した部分は発熱し、溶融して、溶着する。
【0039】
このように、レーザ光線6aを一定量、一定速度で所定量まで供給することで、シート1、2が溶着するのに必要な熱量で溶着するので、シート1、2を急激に発熱させず、熱変形させず、炭化させず、孔を開けない、という安定的な溶着を行っている。
【0040】
従来のレーザ溶着技術では、炭化し、孔が開き、きれいな溶着ができないとされていたポリイミドシートの溶着を、熱変形させず、炭化させず、孔を開けず、溶着することを本実施形態は可能とした。
【0041】
そして、接着剤なしで溶着したポリイミドシートを用いた構造物を提供することで、例えば人工衛星等の構造物の軽量化を実現することが可能にした。
なお、本発明の第一実施形態の支持部材3は、局所的な加熱を可能とするものであれば、その他の柱体、例えば角柱であっても良い。角柱の角の部分、つまり稜線部分はシートに線状に接するので本開示の支持部材として用いることが出来る。なお、線状領域が真っすぐな直線でなく、屈折した直線や曲線でできた線状領域であっても良い。
【0042】
(第一実施形態の変形例)
図3に、本発明の第一実施形態の変形例に係るレーザ溶着装置の原理的な概略構成図を示した。本発明の第一実施形態の変形例では、支持部材30の形状を変えている。
【0043】
本発明の第一実施形態の支持部材3は、図1のように、短い円柱の軸を水平(シート1、2と平行)にした形であった。シート1の下面に接する母線は直線であり、直線とその近傍という線状領域3aでシート1を支持していた。円柱の軸方向の長さを短くして薄い円板にすれば、シート1の下面に接する線状領域の長さは短くなり、点状領域に近づくが、支持部材3を薄い円板にすると、強度が弱くなるという問題があった。
【0044】
第一実施形態の変形例では、図3に示したように、支持部材30の形を、短い円柱の周面の直径を軸方向(厚さ方向)の中央で最大にした形、つまり2つの円錐の底面同士を合わせた形状、例えとしては、算盤珠(そろばんだま)のような形にしている。シート1の下面に接する領域30aが小さくなっても、支持部材30自体は一定の厚みがある。そのため、支持部材30としての一定の強度を保った状態で、周面の直径が最大の所でシート1の下面を支持できる。支持部材30は、シート1の下面を、点とその近傍という点状領域30aでシート1の下面を支持している。レーザ光線6aの照射により発熱部材4で生じた熱は、シート1の下面を支持している支持部材30の点状領域30aに集中するので、シート1、2は、発熱部材4からの熱により、効率よく発熱し、溶融し、溶着する。
【0045】
本発明の第一実施形態の変形例では、レーザ光線照射部6のレーザ光線6aを照射して発熱部材4で生じた熱を、シート1、2の支持部材30の点状領域30aで局所的に支持した部分に集中させて流すことができる。これにより、レーザ光線を一定量、一定速度で所定量まで供給することで、シート1、2が溶着するのに必要な熱量で溶着するので、シート1、2が急激に発熱しないように、シート1、2の支持部材30の点状領域30aで局所的に支持した部分が熱変形せず、炭化せず、孔を開けず、安定的に溶着される。
【0046】
(第二実施形態)
図4に、本発明の第二実施形態に係るレーザ溶着装置の原理的な概略構成図を示した。第二実施形態では、支持部材3を加熱する加熱部11を更に設け、加熱部11により支持部材3を加熱し、支持部材3で生じた熱を支持部材3の線状領域3aからシート1、2に伝えている。
【0047】
すなわち、図4では、制御部7に接続した加熱部11をアルミニュウム板10の下に配置し、制御部7による制御のもと、加熱部11でアルミニュウム板10を加熱し、アルミニュウム板10の上の支持部材3を加熱するようにしている。
【0048】
このことにより、発熱部材4からの熱と、支持部材3からの熱がシート1、2の局所的に支持している部分に伝わり、シート1、2の局所的に支持している部分は溶融する。その後、制御部7で、レーザ光線照射部6のレーザ光線照射を止め、シート1、2から発熱部材4と支持部材3を離すと、溶融していたシート1、2の局所的に支持している部分は冷却、固化し、溶着を完成する。
【0049】
なお、加熱部11としては、通電加熱装置、電磁誘導加熱装置、輻射加熱装置、レーザ光線照射加熱装置など、各種の加熱方法を用いることが出来る。加熱部11にレーザ光線照射加熱装置を用いた例は、後述する。
【0050】
図5(a)~(f)では、本発明の第二実施形態の発明理解のため、支持部材3と発熱部材4の加熱を始めるタイミングを同時にしたときのレーザ溶着作業手順を遷移図として示した。
【0051】
図5(a)では、加熱部11の上にアルミニュウム板10を載せ、アルミニュウム板10の上に支持部材3を載せ、支持部材3の線状領域3aをシート1の下面に当接して支持し、押圧部である透明ガラス板5と発熱部材4を、シート1、2に向けて一体的に下降させる直前の位置関係を示した。
【0052】
図5(b)では、発熱部材4と支持部材3の発熱が始まった状態を示した。発熱部材4は第一実施形態と同様にレーザ光線照射部6からのレーザ光線6aにより発熱し始め、支持部材3は加熱部11により発熱し始める。発熱している範囲がイメージとして把握できるように、交差した細線(ハッチング)を付けた範囲を発熱範囲(H)として図示した。
【0053】
図5(c)では、発熱部材4と支持部材3の熱がそれぞれシート1、2に伝わり始めた状態を示した。図5(d)では、発熱部材4からの熱と、支持部材3からの熱とがシート1、2の局所的に支持した部分に伝わり、シート1、2の局所的に支持された部分が溶融する状態を示した。図5(e)では、発熱部材4と支持部材3の発熱を止め、局所的に支持した部分(溶着部分K)が冷却し、固化していく状態を示した。図5(f)では、シート1、2から発熱部材4と支持部材3を、それぞれ上下に離した状態を示した。このようにして、ポリイミドシートのシート1、2を溶着している。
【0054】
第二実施形態では、支持部材3を加熱する加熱部11を更に設け、発熱部材4の熱に加えて、加熱部11により加熱した支持部材3で生じた熱を支持部材3の線状領域3aからシート1、2に伝えている。そのため、シート1、2の局所的に支持された部分は、発熱部材4からの熱と支持部材3からの熱により、効率よく発熱し、溶融し、溶着する。そして、第一実施形態と同じく、シート1、2の局所的に支持した部分が熱変形せず、炭化せず、孔を開けず、安定的に溶着される。
【0055】
(第二実施形態の第一変形例)
図6(a)に、本発明の第二実施形態の第一変形例に係るレーザ溶着装置の概略構成図を示した。本発明の第二実施形態の第一変形例では、支持部材31として、断面が半円である半円柱にしている。支持部材31の上の母線は直線であり、線状領域31aでシート1の下面を支えている。支持部材31の下側は、平面なので、面接触しているアルミニュウム板10を経由して、加熱部11の熱が迅速に伝わる。支持部材31が早く加熱される利点がある。
【0056】
(第二実施形態の第二変形例)
図6(b)に、本発明の第二実施形態の第二変形例に係るレーザ溶着装置の概略構成図を示した。本発明の第二実施形態の説明では、支持部材32として、断面がほぼ三角形である三角柱にしている。支持部材32の上の母線は直線であり、線状領域32aでシート1の下面を支えている。支持部材32の下側は、平面なので、面接触しているアルミニュウム板10を経由して、加熱部11の熱が迅速に伝わる。支持部材32が早く加熱される利点がある。
【0057】
(第二実施形態の第三変形例)
図7に、本発明の第二実施形態の第三変形例に係るレーザ溶着装置の原理的な概略構成図を示した。本発明の第二実施形態の説明では、支持部材3としてステンレス製の短い円柱、半円柱、三角柱を用いた例を説明したが、本発明の第二実施形態の第三変形例では、支持部材33としてステンレス製の球体を用いて、シート1、2を球体の最上部の点状領域33aで支持している。局所的に支持している部分を小さな点(スポット)として溶着出来る。
【0058】
必要により、球体の代わりに三角錐や円錐のような錐体を支持部材としても良い。錐体を支持部材とすれば、シート1の下面を点状領域で支持できるからであり、レーザ光線によるスポット溶着ができるからである。
【0059】
シート1、2の局所的に支持された部分は、発熱部材4からの熱と支持部材3からの熱により、効率よく発熱し、溶融し、溶着する。そして、第一実施形態と同じく、シート1、2の局所的に支持した部分が熱変形せず、炭化せず、孔を開けず、安定的に溶着される。
【0060】
(第三実施形態)
先に説明した第一実施形態と第二実施形態では、支持部材で局所的に支持している部分のシートを溶着しているが、溶着する位置は変わらない。支持部材の線状領域、あるいは点状領域で局所的に支持している点状領域部分または短い線状領域部分のシートをスポット的に溶着するにとどまっていた。
【0061】
第三実施形態では、シート1、2を溶着部分が連続した長い線状になるようにしている。すなわち、第三実施形態では、シート1、2を支持部材34で局所的に支持している部分(線状領域34a)に沿って所定方向にレーザ光線照射部6を移動自在に構成している。レーザ光線6aを照射する局所的に支持している部分が移動するので、シート1、2を線状に溶着する長さが長く延長される。そのため、発熱部材4からの熱と、支持部材34からの熱とがシート1、2の内部に支持部材34である長尺の円柱の長手方向に移動していくので、溶着範囲が連続的につながり、シート1、2を長さの長い線状に溶着する。
【0062】
図8に、本発明の第三実施形態に係るレーザ溶着装置の原理的な概略構成図を示した。図8では、支持部材34を長尺の円柱、すなわち「棒材」にしている。また、発熱部材4と透明ガラス板5の長さは、支持部材34に対応した長さにしている。
【0063】
図9は、本発明の第三実施形態に係るレーザ溶着装置の要部の斜視図である。図9では、想像線で示した側面視コの字状の移動フレーム50(レーザ光線照射位置移動部)を新たに用い、移動フレーム50の上部にレーザ光線照射部6を、下部に加熱部11とアルミニュウム板10を取り付け、移動フレーム50を支持部材34の長手方向にシート1、2に対して相対的に移動自在にしている。移動フレーム50の移動に伴い、レーザ光線照射部6と、加熱部11が支持部材34の長手方向に移動する。そのため、支持部材34で支持されたシート1、2の内、発熱部材4からの熱と、支持部材34からの熱が付与されて溶着される部分、つまり局部的に支持され、加熱、溶着される部分が、支持部材34の長手方向に連続的に移動する。移動フレーム50の移動速度を、シート1、2を連続溶着するのに必要な速度にすると、レーザ光線を一定量、一定速度で所定量供給することで、シート1、2が溶着するのに必要な熱量で溶着することができる。シート1、2は急激に発熱せず、溶着部分が熱変形せず、炭化せず、孔が開かない溶着を連続的にする。溶着する点状領域あるいは線状領域が連続的につながり、シート1、2の局所的に支持した部分を連続した長さの長い線状に溶着する。
【0064】
その他の構成は、第一実施形態のレーザ溶着装置の構成と同じなので、同一部分に同一符号を付して、説明を省略する。
【0065】
図10では、発熱部材4と支持部材34の発熱が始まった状態を示した。図11では、発熱部材4からの熱と、支持部材34からの熱とがシート1、2の局所的に支持した部分に伝わり、シート1、2の局所的に支持した部分が溶融する状態を示した。
【0066】
図11の状態のように、発熱部材4からの熱と、支持部材34からの熱でシート1、2の局所的に支持した部分を溶融させている状態で、移動フレーム50を支持部材34の軸方向に移動することで、シート1、2の局所的に支持した部分を連続した線状に溶着する。
【0067】
なお上記の説明では、レーザ光線照射位置移動部として、移動フレーム50にレーザ光線照射部6と、加熱部11とアルミニュウム板10を取り付け、支持部材34の長手方向に移動する例を示したが、レーザ光線照射部6については、レーザ光線6aを反射するミラーを取り付け、ミラー角度を動かしてレーザ光線6aを照射する位置を移動させるなど、他の方法を用いてレーザ光線照射位置を移動しても良い。
【0068】
(第四実施形態)
図12に、本発明の第四実施形態に係るレーザ溶着方法の原理を示した。本発明の第四実施形態では、発熱部材4と支持部材34の両方の温度を測定する発熱温度測定部20、支持温度測定部21と支持部材34と発熱部材4の両方の温度を制御する温度制御部25を設けている。
【0069】
発熱温度測定部20、支持温度測定部21は、非接触式温度計で発熱部材4、支持部材34それぞれから放射される赤外線を検出し、発熱部材4、支持部材34の温度を検出する。発熱部材4、支持部材34の温度情報は、温度制御部25に集められ、温度制御部25からの温度制御情報を得た制御部7が、発熱部材4を発熱させるレーザ光線照射部6と、発熱部材4を発熱させる加熱部のそれぞれの発熱量を制御する。
【0070】
図13に、本発明の第四実施形態に係るレーザ溶着方法の動作手順の一例をフロー図として示した。まず、重ねたシート1、2のシート1の下面に、支持部材34の、線状領域34aを当てて局所的に支持した状態で、シート2の上面に平板状の発熱部材4を置き、透明ガラス板5で発熱部材4を押圧し、発熱部材4と支持部材34でシート1、2を局所的に所定の圧力で密着させる(ステップST1)。レーザ溶着装置の図示しない溶着動作開始スイッチを入れて、制御部7による溶着動作を開始する(ステップST2)。
【0071】
そして、本実施形態のレーザ溶着装置のレーザ光線照射部6と加熱部11を起動して、レーザ光線照射部6からレーザ光線6aを発熱部材4に照射し、発熱部材4で熱を発生させる。発熱部材4の厚さは、0.3mm程度であり、レーザ光線6aを受けると一定の面積に広がり、発生した熱をシート2の上面から、シート1、2の局所的に支持した部分に伝える。加熱部11は、通電加熱により発熱し、熱はアルミニュウム板10を介して、支持部材34の線状領域34aの熱を、シート1の下面からシート1、2の局所的に支持した部分に伝える。そして、レーザ光線照射部6と加熱部11を所定の移動速度(mm/秒)で支持部材34に沿って移動させ、局所的に支持したシート1、2の部分を加熱する(ステップST3)。
【0072】
発熱温度測定部20により検出した発熱部材4の温度(T1)と支持温度測定部21により検出した支持部材34の温度(T4)がそれぞれ、予め定めた温度(基準T1aとT4a)、例えばポリイミドシートであれば、ポリイミドの融点温度(565℃)を基準として比較し(ステップST4)、基準に対して一定範囲より低いときは加熱量を増やし(ステップST5)、基準に対して一定範囲より高いときは加熱量を減らし(ステップST6)、図示しない空気吹付部により冷却空気をシート1、2に吹き付ける(ステップST19)。融点温度を基準に一定範囲内であるときは、加熱を継続する(ステップST7)。融点温度を基準に一定範囲内の温度で、所定時間加熱した時は、加熱完了であるか否かの判断をする(ステップST8)。加熱が完了していないときはステップST4に戻り(ステップST8のNO)、加熱を継続する。加熱を完了したときは(ステップST8のYES)、加熱を止め、発熱部材4と支持部材34のシート1、2への密着を解除する(ステップST9)。発熱部材4と支持部材34の温度が、ポリイミドの融点温度を基準に一定範囲より小さくなれば、ブザーを鳴らして溶着作業を終了する(ステップST11)。なお、融点温度を基準とした一定範囲とは、ポリイミドシートが熱変形しない、炭化しない、孔が開かない、温度範囲である。
【0073】
上記では、レーザ光線照射部の移動速度(mm/秒)を所定の一定値とした場合を説明した。動作制御のフローに含まれる上記の温度調節に、移動速度調節を組み合わせて制御するようにしてもよい。例えば、図13のフロー図は、図14のようになる。図14では、ステップST4で発熱部材4の温度(T1)と支持部材34の温度(T4)をそれぞれ基準と比較し、温度(T1、T4)が基準に対して一定範囲より低いときは移動速度(mm/秒)を減速し(ステップST20)、温度(T1、T4)が基準に対して一定範囲より高いときは移動速度(mm/秒)を増速する(ステップST21)、という動作ステップを追加しておいて、必要により移動速度(mm/秒)を可変するようにしても良い。
【0074】
(第四実施形態の第一変形例)
図15に、本発明の第四実施形態の第一変形例にかかるレーザ溶着装置の支持部材34と発熱部材4の温度を測定する手段である支持温度測定部21と発熱温度測定部22を付けたときの構成を示した。
【0075】
本発明の第二施形態の第一の変形例にかかるレーザ溶着装置では、レーザ光線照射部6のレーザ光線6aを水平方向に出力した後、ハーフミラー6bで90度進行方向を変え、発熱部材4を照射して発熱させている。発熱部材4の温度を測定する発熱温度測定部22は、発熱部材4の上方にあって、ハーフミラー6bを透過して到達する発熱部材4からの熱線をキャッチして温度検出している。発熱部材4の厚さは薄いので、発熱部材4から上方に向かう熱線がハーフミラー6bを透過するのをキャッチすることで、より正確な温度検出ができる。
【0076】
支持温度測定部21で支持部材34からの熱線をキャッチして温度を検出しているのは図12の本発明の第四実施形態と同じである。
【0077】
第四実施形態の第一変形例として、発熱部材4の温度を測定する経路22aとレーザ光線照射経路を同軸に配置したときのレーザ溶着装置の構成を説明した。
【0078】
(第四実施形態の第二変形例)
図16に、本発明の第四実施形態の第二変形例にかかるレーザ溶着装置のシート1、2の溶着対象範囲の温度を測定するシート温度測定部23を付けたときの構成を示した。
【0079】
本発明の第四実施形態の第二変形例では、シート温度測定部23の検出ターゲットを、支持部材34で局所的に支持したシート1、2の重なり部分にしている。本発明の第四実施形態の第二変形例では、一つのシート温度測定部23でレーザ溶着装置の局所的に支持したシート1、2の重なり部分の温度制御をすることができる。
【0080】
(第五実施形態)
図17に、本発明の第五実施形態に係るレーザ溶着方法の原理を示した。本発明の第五実施形態に係るレーザ溶着方法では、発熱部材4で熱を発生させるための手段としてレーザ光線照射部6を用いるとともに、支持部材34で熱を発生させるための加熱部としても別のレーザ光線照射部60を用いて、発熱部材4と支持部材34で挟んだ状態で、二以上のシート1、2を発熱部材4と支持部材34で発生するそれぞれの熱を用いて溶着するように構成している。
【0081】
図18に、本発明の第五実施形態に係るレーザ溶着方法の原理を示した斜視図を示した。支持部材34は、ステンレス製の円柱(ステンレス棒)であり、円柱の母線が線状領域34aとしてシート1の下面を支持している。支持部材34の下には、透明ガラス板5Dを配置している。そして、透明ガラス板5Dの下方には、レーザ光線照射部60を配置して、レーザ光線照射部60からレーザ光線60aを支持部材34に照射して発熱させ、支持部材34の上の線状領域34aからシート1の下面に熱を伝えるようにしている。
【0082】
(第五実施形態の第一の変形例)
図19に、本発明の第五実施形態の第一の変形例に係るレーザ溶着方法の原理を示した。本発明の第五実施形態の第一の変形例では、発熱部材40と支持部材35のそれぞれがシート1、2と当接する部分の裏側に空間部40Air、35Airを形成して肉厚を薄くしている。シート1、2と当接する部分の熱容量を小さくすると、同じレーザ光線照射量でも早く昇温するので、レーザ光線照射量を有効に使うことができる。
【0083】
(第五実施形態の第二の変形例)
図20に、本発明の第五実施形態に係るレーザ溶着装置の第二の変形例で、発熱部材41と支持部材36の外周側面を断熱材70U、70Dで囲んだ構成を示した。発熱部材41と支持部材36で発生した熱は、それぞれ断熱材70U、70Dで囲まれているため、熱量が蓄積されて早く昇温するため、レーザ光線照射量を有効に使うことができる。
【0084】
(第六実施形態)
図21に、本発明の第四実施形態に係るレーザ溶着方法の原理を示した。本発明の第六実施形態では、発熱部材4と支持部材37の間に三枚のシート1a、1b、2を挟み、三枚のシート1a、1b、2を一度に溶着する構成を示した。第六実施形態では、シートの溶着は、一対のシートだけでなく、三枚を超えるシートの溶着が可能であることを示した。
【0085】
(第七実施形態)
図22に、本発明の第七実施形態に係るレーザ溶着方法の原理を示した。本発明の第七実施形態では、シート2a、2bの端面を突き合せ、シート2a、2bの突き合せ面の上に発熱部材4を載せ、シート2a、2bの突き合せ面の下にステンレスシート製の発熱シート42を配置して、その下を支持部材39で支持している。
【0086】
これは、シート2a、2bの突き合せ面の下を直接支持部材39の線状領域39aで支えると、シート2a、2bの突き合せ面が離れてしまうので、シート2a、2bの突き合せ面の下をステンレスシート製の発熱シート42の平面を当てて、突き合せ面が離れないようにしているためである。
【0087】
なお、同様の効果を得る方法として、支持部材39の線状領域39aの線の太さを太くして「一定の太さのある線状領域」としても良いし、支持部材39とステンレスシート製の発熱シート42を一体化しても良い。
【0088】
発熱部材4と支持部材39で発生した熱は、シート2a、2bの突き合せ合せ面を加熱し、溶融させる。その後、発熱部材4と支持部材39で熱の発生を止めると、支持部材39で支持されているシート2a、2bの突き合せ面は、冷却、固化して、溶着される。
【0089】
第七実施形態では、ポリイミドシートなどのシートを突き合せ溶着することが出来ることを説明した。
【0090】
(第八実施形態)
図23に、本発明の第八実施形態に係るレーザ溶着装置で溶着している状態を外観斜視図で示した。
【0091】
第一実施形態から第七実施形態では、支持部材として主として円柱を水平にした状態で、所定位置に固定して、あるいは、支持部材としての円柱の軸に沿って、円柱の長手方向に直線状に溶着する実施例を説明した。
【0092】
本発明の第八実施形態では、支持部材3としての円柱をシート1、2に対して軸回りに転動する動作をさせて、直線でない任意の形に溶着する実施例を説明する。
【0093】
本発明の第八実施形態では、支持部材39としての円柱を回転自在に支持し、図示しない転動駆動手段で時計方向回転、あるいは反時計方向に回転させ、支持部材39としての円柱の表面がシート1の下面を転動して、支持位置を移動できるようにしている。
【0094】
また、レーザ光線照射部6も、支持部材39としての円柱の転動動作に連動して、円柱の軸方向(図24のY方向)の移動(Y1、Y2)、と、円柱の軸に対して直角方向(図24のX方向)の移動(X1、X2)ができるようにしている。つまり、レーザ光線照射部6は、発熱部材4と支持部材39でシート1、2を挟んだ形で、任意の形状の軌跡で移動することができる。
【0095】
例えば図24では本発明の第八実施形態に係るレーザ溶着装置によりシートを五角形の軌跡でレーザ光線照射位置を移動させた平面図を示しており、図24のように2枚のシート1、2を溶着して五角形の溶着部分を作ることができる。図24では、五角形の溶着部分の溶着強度増加と密封性(水密性)向上のため、内側と中央と外側に五角形の溶着部分K1、K2を作っている。
【0096】
その後、図24に示したシート1、2から溶着した五角形の袋(S)の周囲(W)を切り取れば、図25図26のように、五角形の袋(S)ができる。他に、四角形、六角形、七角形、八角形など任意の多角形の袋や円形の袋を作ることができる。
【0097】
また、図27図28のように、レーザ溶着する際に、五角形の袋(Sa)部分に内容物入れるための通路(P)を形成すれば、通路(P)から五角形の袋部分に高温の内容物を収納できる。つまり、ポリイミドシートを用いた耐熱性密封袋を作ることができる。
【0098】
以上説明したとおり、本開示は、ポリイミドシートなどのシートを溶着できる、新しいレーザ溶着方法とレーザ溶着装置を実現している。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本開示は、シートの材料がレーザ光線の吸収が悪い。そのため、発熱が鈍い。温度が上がるとレーザ光線を吸収しやすくなるが、吸収し始めると急に温度が上がる。急に温度が上がると炭化してしまう。孔が開く。レーザ光線を照射したときシートの変化が急激に起きる。そのため、温度コントロールがきかない。と言う、ポリイミドシートのようなシートを溶着するのに適用することが出来る。
【符号の説明】
【0100】
1 第一のシート
2 第二のシート
3 支持部材
3a 線状領域
4 発熱部材
5 透明ガラス板
6、60 レーザ光線照射部
6a、60a レーザ光線
6b レーザ光線半反射ミラー(レーザ光線ハーフミラー)
7 制御部
20、22 発熱温度測定部
21 支持温度測定部
23 シート温度測定部
25 温度制御部
70U、70D 断熱材
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