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特許7314489フェノール樹脂及びその製造方法、並びにエポキシ樹脂組成物及びその硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】フェノール樹脂及びその製造方法、並びにエポキシ樹脂組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/02 20060101AFI20230719BHJP
   C08G 59/62 20060101ALI20230719BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20230719BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
C08G61/02
C08G59/62
H01L23/30 R
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018174805
(22)【出願日】2018-09-19
(65)【公開番号】P2020045423
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】岡本 慎司
(72)【発明者】
【氏名】藤永 匡敏
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-283536(JP,A)
【文献】特開2006-273897(JP,A)
【文献】特開平11-021426(JP,A)
【文献】特開2017-110198(JP,A)
【文献】特開2004-277717(JP,A)
【文献】特開2006-056970(JP,A)
【文献】特開2015-189925(JP,A)
【文献】特開平09-034108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/02
C08G 59/62
H01L 23/29
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量が1200以上1600以下の範囲であり、軟化点が60℃を超えて80℃以下であり、2核体の割合が20.0重量%以上25.0重量%以下であるフェノール樹脂。
【化1】

(一般式(1)中、Rは、炭素数1以上6以下の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基又は炭素数1若しくは2のアルコキシ基を表し、それぞれ同一又は異なっていてもよい。nは、0以上10以下の整数を表す。)
【請求項2】
150℃での溶融粘度が、0.2Pa・s以下である請求項1に記載のフェノール樹脂。
【請求項3】
下記一般式(2)で示されるフェノール化合物と、下記一般式(3)で示される芳香族化合物とを、酸触媒、又は無触媒下で反応温度100℃以上180℃以下で縮重合反応させる、請求項1に記載のフェノール樹脂の製造方法。
【化2】

(一般式(2)中、Rは、炭素数1以上6以下の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基又は炭素数1若しくは2のアルコキシ基を表す。)
【化3】

(一般式(3)中、Xは、ハロゲン原子又はアルコキシ基を示す。)
【請求項4】
請求項1又は2に記載のフェノール樹脂とエポキシ樹脂とを含むエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
更に硬化促進剤を含む請求項4に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
更に無機充填剤を含む請求項4又は5に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物。
【請求項8】
請求項7に記載の硬化物を含む半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェノール樹脂及びその製造方法に関する。また本発明は、該フェノール樹脂を含むエポキシ樹脂組成物及び該エポキシ樹脂組成物の硬化物に関する。更に本発明は、該硬化物を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は作業性及びその硬化物の優れた電気特性、耐熱性、接着性、耐湿性等により電気・電子部品、構造用材料、接着剤、塗料等の分野で幅広く用いられている。
近年の半導体パッケージの軽薄短小化が進んでいる。これに伴い、基盤実装のリフロー工程による加熱でパッケージが高温にさらされるようになった。パッケージが吸湿した場合に、リフロー工程で、クラックが発生し半導体の信頼性に影響を与える。このため、半田耐熱性(耐リフロー性)に優れた封止材料の開発が望まれている。したがって、封止材料として、低吸水に加えて、熱時の応力が低く、密着性の高い封止材料が求められる。従来、そのような封止材料の一つに、硬化剤にフェノールアラルキル樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物が用いられている。しかしながら、フェノールアラルキル樹脂を硬化剤として用いたエポキシ樹脂組成物は、吸水性が高く半田耐熱性(耐リフロー性)が十分でない。また、特許文献1には、硬化剤がクレゾールアラルキル樹脂であるエポキシ樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-100678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のクレゾールアラルキル樹脂を硬化剤として用いたエポキシ樹脂組成物は、硬化性、成形性(成型における成形性という意味で成型性と呼ばれる場合もある)、難燃性、熱時弾性率等の点で改善の余地があった。
【0005】
本発明の課題は、エポキシ樹脂の硬化剤としたときに得られる硬化物が、低吸水性であり、熱時の弾性率が低く、更には良好な硬化性、成形性、難燃性を有する、フェノール樹脂を提供することにある。また、該フェノール樹脂を含む半田耐熱性(耐リフロー性)に優れたエポキシ樹脂組成物及びその硬化物を提供することにある。更に該硬化物を有する半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の事項に関する。
1.下記一般式(1)で示される、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量が1200以上1600以下の範囲であるフェノール樹脂。
【化1】
(一般式(1)中、Rは、炭素数1以上6以下の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基又は炭素数1若しくは2のアルコキシ基を表し、それぞれ同一又は異なっていてもよい。nは、0以上10以下の整数を表す。)
【0007】
2.下記一般式(2)で示されるフェノール化合物と、下記一般式(3)で示される芳香族化合物とを、酸触媒、又は無触媒下で反応温度100℃以上180℃以下で縮重合反応させる、前記フェノール樹脂の製造方法。
【化2】
(一般式(2)中、Rは、炭素数1以上6以下の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基又は炭素数1若しくは2のアルコキシ基を表す。)
【化3】
(一般式(3)中、Xは、ハロゲン原子又はアルコキシ基を示す。)
【0008】
3.フェノール樹脂とエポキシ樹脂とを含むエポキシ樹脂組成物及びその硬化物、並びに該硬化物を含有する半導体装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、エポキシ樹脂の硬化剤としたときに得られる硬化物が、低吸水性であり、熱時の弾性率が低く、更には良好な硬化性、成形性、難燃性を有する、フェノール樹脂を得ることができる。また、該フェノール樹脂を含む半田耐熱性(耐リフロー性)に優れたエポキシ樹脂組成物及びその硬化物を得ることが出来る。更に該硬化物を有する半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例2で得られたフェノール樹脂Bのゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)分析のチャートである。
図2図2は、実施例2で得られたフェノール樹脂Bの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析のチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[フェノール樹脂]
本発明のフェノール樹脂は、o-位置換型フェノールアラルキル樹脂であり、上記一般式(1)で示される。
【0012】
本発明のフェノール樹脂は、フェノール性水酸基に対しオルソ位(o-位)に置換基Rを有する。そのため、本発明のフェノール樹脂を硬化剤とするエポキシ樹脂組成物の硬化物は、吸水性、成形性に優れ、優れた半田耐熱性(耐リフロー性)を有する。
【0013】
本発明のフェノール樹脂において置換基Rは、炭素数1以上6以下の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基又は炭素数1若しくは2のアルコキシ基である。炭素数1以上6以下の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基が挙げられる。炭素数1若しくは2のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基が挙げられる。本発明のフェノール樹脂を硬化剤とするエポキシ樹脂組成物の硬化物の吸水性を低くし、成形性及び硬化性を優れたものとする観点からは、置換基Rは好ましくは、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基であり、より好ましくはメチル基、メトキシ基であり、最も好ましくはメチル基である。
【0014】
本発明のフェノール樹脂において、nは繰り返し数であり、0以上10以下の整数を表す。本発明のフェノール樹脂は様々な繰り返し数nを持つ分子の集合体である。この集合体は、nの平均値n'を有する。ここで平均値n'は後述する重量平均分子量(Mw)が1200以上1600以下となるような値であり、より好ましくは重量平均分子量(Mw)が1200以上1500以下となるような値であり、更に好ましくは重量平均分子量(Mw)が1300以上1500以下となるような値である。
【0015】
本発明のフェノール樹脂において、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算値での重量平均分子量(Mw)は、1200以上1600以下であり、より好ましくは1200以上1500以下であり、更に好ましくは1300以上1500以下である。上記範囲の重量平均分子量(Mw)であることで、本発明のフェノール樹脂を硬化剤とするエポキシ樹脂組成物の硬化物は、熱時弾性率が低く、優れた半田耐熱性(耐リフロー性)を有し、更には高い難燃性を示す上に、フェノール樹脂のブロッキングが防止され取り扱い性の良好なものとなる。
重量平均分子量(Mw)は例えば後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
【0016】
本発明のフェノール樹脂を硬化剤としたエポキシ樹脂の硬化物は、熱時の弾性率(270℃における貯蔵弾性率)が低くなる。熱時の弾性率(270℃における貯蔵弾性率)は好ましくは0.2GPa以上0.7GPa以下であり、より好ましくは0.3GPa以上0.6GPa以下である。硬化物の270℃における貯蔵弾性率が前記範囲であることで、優れた半田耐熱性(耐リフロー性)を有し、更には高い難燃性を達成することが出来る。
貯蔵弾性率は例えば後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
【0017】
本発明のフェノール樹脂において、本発明のフェノール樹脂自体のブロッキングを抑制し、エポキシ樹脂組成物にしたときの取り扱い性を向上し、且つ、エポキシ樹脂組成物の硬化物の熱時弾性率を低くし、難燃性を優れたものとする観点からは、本発明のフェノール樹脂の軟化点は、好ましくは60℃を超えて80℃以下であり、より好ましくは61℃以上70℃以下である。
軟化点は、例えば後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
【0018】
前記一般式(1)で表されるフェノール樹脂の好ましい水酸基当量は180g/eq以上190g/eq以下であり、特に好ましくは180g/eq以上185g/eq以下である。
【0019】
本発明のフェノール樹脂において、本発明のフェノール樹脂を硬化剤とするエポキシ樹脂組成物の硬化物の成形性や硬化性を優れたものとする観点からは、本発明のフェノール樹脂の150℃における溶融粘度は、好ましくは0.05Pa・s以上0.2Pa・s以下であり、より好ましくは0.05Pa・s以上0.1Pa・s以下である。
150℃における溶融粘度は、例えば後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
【0020】
本発明のフェノール樹脂は、1つの水酸基と該水酸基に対してo-位(オルソ位)に1つの置換基Rとを有するベンゼン環が、キシリレン基(-CH2-C6H4-CH2-)で連結された構造を有する。架橋基であるキシリレン基(-CH2-C6H4-CH2-)としては、1,2-キシリレン基(o-キシリレン基ともいう)、1,3-キシリレン基(m-キシリレン基ともいう)、及び1,4-キシリレン基(p-キシリレン基ともいう)が挙げられるが、なかでも、入手のし易さや取り扱い等の観点からは、1,4-キシリレン基が好ましい。
【0021】
本発明のフェノール樹脂において、好ましい態様の一つは、下記一般式(4)で示される。
【0022】
【化4】
(一般式(4)中、R及びnは前記一般式(1)における定義と同じである。)
【0023】
本発明のフェノール樹脂において、一般式(1)においてn=0である成分(以下フェノールの数に基づき「2核体(n=0)」又は単に「2核体」ともいう)、及び、一般式(1)においてn=1である成分(以下「3核体(n=1)」又は単に「3核体」ともいう)の割合は、本発明のフェノール樹脂自体のブロッキングを抑制し、エポキシ樹脂組成物にしたときの取り扱い性を向上し、且つ、エポキシ樹脂組成物の硬化物の熱時弾性率を低くし、難燃性を優れたものとする観点から特定の範囲であることが好ましい。具体的には、2核体の割合は本発明のフェノール樹脂中、好ましくは15.0重量%以上25.0重量%以下であり、より好ましくは20.0重量%以上25.0重量%以下であり、最も好ましくは22.0重量%以上である。3核体の割合は本発明のフェノール樹脂中、好ましくは15.0重量%以上22.0重量%以下であり、より好ましくは18.0重量%以上21.0重量%以下であり、最も好ましくは20.0重量%以上21.0重量%以下である。2核体(n=0)及び3核体(n=1)の割合は例えば後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
【0024】
本発明のフェノール樹脂の2核体(n=0)成分において、1つの水酸基(フェノール性水酸基)と該水酸基に対してo-位(オルソ位)に1つの置換基Rとを有するベンゼン環に対するキシリレン基(-CH2-C6H4-CH2-)の結合位置は、フェノール性水酸基に対するオルソ位結合とパラ位結合との比(オルソ/パラ比)が好ましくは1.05を超えて1.20以下であり、より好ましくは1.06以上1.15以下であり、最も好ましくは1.06以上1.10以下である。
フェノール性水酸基に対するオルソ位結合とパラ位結合との比(オルソ/パラ比)が上記範囲であることが、本発明のフェノール樹脂自体のブロッキングを抑制し、エポキシ樹脂組成物にしたときの取り扱い性を向上し、且つ、エポキシ樹脂組成物の硬化物の熱時弾性率を低くし、難燃性を優れたものとする観点からは好ましい。
2核体(n=0)成分の(オルソ/パラ比)は、例えば後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
【0025】
上記の重量平均分子量(Mw)、水酸基当量、軟化点、2核体及び3核体の割合、オルソ/パラ比を有するフェノール樹脂は、後述する好適の製造方法により得ることができる。
[フェノール樹脂の製造方法]
以下、本発明のフェノール樹脂の好適な製造方法について説明する。
【0026】
<フェノール化合物>
本製造方法は、下記一般式(2)で示されるフェノール化合物と下記一般式(3)で示される芳香族化合物とを、酸性触媒下又は無触媒下で反応温度100℃以上180℃以下で縮重合反応させて本発明のフェノール樹脂を得るものである。
【0027】
本発明のフェノール樹脂の製造方法において、使用されるフェノール化合物は、下記一般式(2)で示される。
【0028】
【化5】
(一般式(2)中、Rは、前記一般式(1)における定義と同じである。)
【0029】
一般式(2)で示されるフェノール化合物の例としては、特に限定はないが、2-メチルフェノール、2-エチルフェノール、2-プロピルフェノール、2-sec-ブチルフェノール、2-tert-ブチルフェノール、2-メトキシフェノール、2-エトキシフェノールなどが挙げられる。好ましくは、2-メチルフェノール、2-メトキシフェノールであり、より好ましくは2-メチルフェノールである。
これらのフェノール化合物は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
<芳香族化合物>
本発明のフェノール樹脂の製造方法において、使用される芳香族化合物は、下記一般式(3)で示される。
【0031】
【化6】
(一般式(3)中、Xは、ハロゲン原子はアルコキシ基を示す。)
【0032】
一般式(3)で示される芳香族化合物の例としては、特に限定はないが、1,2-ビス(クロロメチル)ベンゼン、1,2-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、1,2-ビス(メトキシメチル)ベンゼン、1,2-ビス(エトキシメチル)ベンゼン、1,3-ビス(クロロメチル)ベンゼン、1,3-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、1,3-ビス(メトキシメチル)ベンゼン、1,3-ビス(エトキシメチル)ベンゼン、1,4-ビス(クロロメチル)ベンゼン、1,4-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、1,4-ビス(メトキシメチル)ベンゼン、1,4-ビス(エトキシメチル)ベンゼン、などが挙げられる。好ましくは、1,4-ビス(クロロメチル)ベンゼン、1,4-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、1,4-ビス(メトキシメチル)ベンゼン、1,4-ビス(エトキシメチル)ベンゼン、であり、より好ましくは1,4-ビス(クロロメチル)ベンゼン、1,4-ビス(メトキシメチル)ベンゼンである。
これらの芳香族化合物は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
<フェノール化合物(a1)と芳香族化合物(a2)とのモル比(a1/a2)>
フェノール樹脂の製造方法において、一般式(2)で表されるフェノール化合物(a1)と一般式(3)で表される芳香族化合物(a2)とを反応させる際には、芳香族化合物(a2)1モルに対して、フェノール化合物(a1)を、好ましくは1.8モル以上2.3モル以下、より好ましくは1.9モル以上2.2モル以下とする。
本発明の製造方法を採用し、フェノール化合物(a1)と芳香族化合物(a2)とのモル比を上記範囲とすることで、本発明のフェノール樹脂の重量平均分子量(Mw)を所定の範囲とすることができる。
【0034】
<酸触媒>
フェノール樹脂の製造方法において、縮重合反応は酸性触媒下又は無触媒下で行う事が出来る。酸触媒を用いる場合、酸触媒としては、特に限定はなく、塩酸、蓚酸、硫酸、リン酸、パラトルエンスルホン酸など公知のものを単独であるいは2種以上併用して使用することができる。一方、無触媒で行うことは、得られるフェノール樹脂中のイオン性不純物を低減出来る点で好ましい。
【0035】
<反応温度>
フェノール樹脂の製造方法において、縮重合反応の反応温度は、100℃以上180℃以下、好ましくは130℃以上170℃以下である。反応温度を上記範囲とすることで、(キシリレン基(-CH2-C6H4-CH2-)の結合位置を、フェノール性水酸基に対するオルソ位結合とパラ位結合との比(オルソ/パラ比)で上記の範囲とすることができ、本発明のフェノール樹脂をエポキシ樹脂組成物の硬化剤として用いたときに、エポキシ樹脂組成物の硬化性を優れたものとすることができる。
<反応溶媒>
フェノール樹脂の製造方法において、反応を円滑にする目的で溶媒を使用する場合もある。この時の溶媒としては、水の他、低級アルコール(炭素数1~6の脂肪族アルコール)が挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールやシクロヘキサノールも挙げられる。溶媒の使用量については特に制限はないが、溶媒の除去コストや回収コストからフェノール化合物に対し50質量%以下共存させることが好ましく、30質量%未満がより好ましく、10質量%未満が更に好ましい。一方、溶媒の量はフェノール化合物に対し0.1質量%以上であることが、溶媒を使用することによる効果を十分発揮する点で好ましい。
【0036】
<反応時間>
フェノール樹脂の製造方法において、反応時間は0.5~20時間、好ましくは1~15時間である。反応時間を0.5時間、特に1時間以上とすることで、縮合をより確実に完結できる。また20時間超と反応時間が長くなっても生成するフェノール樹脂に悪影響は与えないが、縮合は完結しておりなんらメリットはない。反応は全原料を一括投入したのち、決められた反応温度まで徐々に昇温すればよく、途中激しい発熱もなく、簡便に行うことが出来る。
【0037】
<後処理>
フェノール樹脂の製造方法において、原料の芳香族化合物としてハロゲノメチル芳香族化合物を用いる場合、反応の進行に伴ってハロゲン化水素ガスが発生するが、このガスは窒素ガス等の不活性ガスを通気させて系外へ除去するか、減圧状態にして除去する方法が採られる。反応後、未反応のフェノール化合物や低級アルコール、及び使用する触媒によっては水を減圧下に留去する等の方法で除去することにより、本発明のフェノール樹脂を得ることができる。
【0038】
[エポキシ樹脂組成物及びその硬化物]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、本発明のフェノール樹脂を、エポキシ樹脂の硬化剤として含む。
【0039】
エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂など分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂が挙げられる。これらエポキシ樹脂は単独若しくは2種以上を混合して使用しても何ら問題ない。
好ましいエポキシ樹脂としては、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられ、特に好ましいエポキシ樹脂としては、ビフェニル型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0040】
フェノール樹脂は、本発明のエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂の硬化剤の役割を有するところ、本発明のエポキシ樹脂組成物は、本発明のフェノール樹脂以外の他の硬化剤を含んでもよい。本発明のフェノール樹脂以外の他の硬化剤の種類に特に限定はなく、エポキシ樹脂組成物の使用目的に応じて種々の硬化剤を用いることができる。例えば、一般式(1)以外の他のフェノール樹脂、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、酸無水物系硬化剤などを用いることができる。
【0041】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、全ての硬化剤に占める、本発明のフェノール樹脂の割合は、該エポキシ樹脂組成物から得られる硬化物の熱時弾性率及び成型収縮率を十分に高くする観点から、より高い割合であることが好ましい。具体的には、全ての硬化剤に占める、本発明のフェノール樹脂の割合は、好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、一層好ましくは70質量%以上、更に一層好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
【0042】
フェノール樹脂を硬化剤とするエポキシ樹脂組成物において、フェノール樹脂の水酸基当量数と、エポキシ樹脂のエポキシ基当量数との比(水酸基当量数/エポキシ基当量数)が0.5以上2.0以下の範囲であることが好ましく、0.8以上1.2以下の範囲であることが更に好ましく、1であることが最も好ましい。なお、水酸基当量数やエポキシ基当量数などの官能基当量数は、当該官能基当量をA(g/eq)、仕込み量をB(g)としたときに、B/A(当該化合物の純度がC%の場合には[B×C/100]/A)によって求めることができる。すなわち、水酸基当量やエポキシ基当量などの官能基当量とは、官能基1個当たりの化合物の分子量を表し、官能基当量数とは、化合物質量(仕込み量)当たりの官能基の個数(当量数)を表す。
【0043】
硬化促進剤としては、エポキシ樹脂をフェノール樹脂で硬化させるための公知の硬化促進剤を用いることができる。例えば、有機ホスフィン化合物及びそのボロン塩、3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール類及びのテトラフェニルボロン塩などを挙げることができるが、この中でも硬化性や耐湿性の面からトリフェニルホスフィンが好ましい。また、より高流動性するためには、加熱処理にて活性が発現する熱潜在性の硬化促進剤が好ましく、テトラフェニルホスフォニウム・テトラフェニルボレートなどのテトラフェニルホスフォニウム誘導体が好ましい。エポキシ樹脂組成物への硬化促進剤の添加の割合は、公知のエポキシ樹脂組成物における割合と同様とすることができ、例えばエポキシ樹脂100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下の量が挙げられる。
【0044】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、有機又は無機充填剤を好適に含有することができる。充填剤としては、特に限定するものではなく用途に応じて選択されるが、例えば非晶性シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、硫酸バリウム、酸化マグネシウムなどの無機充填剤を好適に挙げることができる。特にエポキシ樹脂組成物を半導体封止材として用いる場合には、無機充填剤として非晶性シリカや結晶性シリカなどが好適に用いられる。無機充填剤を配合する場合のエポキシ樹脂組成物中の配合割合[無機充填剤の質量/無機充填剤を含むエポキシ樹脂組成物の質量]は、限定するものではないが、30~98質量%、好ましくは40~95質量%程度が好適である。半導体素子の封止材として用いる場合などの用途では、60~95質量%、好ましくは70~95質量%、より好ましくは75~90質量%、更に好ましくは80~90質量%である。
無機充填剤の割合が前記範囲の下限以上であるとエポキシ樹脂組成物の硬化物の吸水率を低下させることができる。また、無機充填剤の割合が前記範囲の上限以下であることで半導体封止用エポキシ樹脂組成物の流動性が得やすい。
【0045】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、更に通常のエポキシ樹脂組成物で用いられる離型剤、着色剤、カップリング剤、難燃剤等の添加剤、更に溶媒などを含有することができる。
【0046】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、少なくともエポキシ樹脂とフェノール樹脂とを、例えば二軸ニーダや二本ロールなどの混合装置を用い、必要に応じて溶融して、混合することによって好適に得ることができる。得られたエポキシ樹脂組成物は、粉砕機によって好適に粉末化される。
【0047】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、例えば100℃~350℃で0.01~20時間加熱処理することによって硬化反応させて、その硬化物を得ることができる。硬化反応の温度は、100℃以上とすることで容易に硬化でき、350℃以下とすることで熱分解による性能低下を防止できる。また、硬化反応の時間は0.01時間以上とすることで反応を完結しやすく、20時間以下とすることで生産性を向上できる。
【0048】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、無機充填剤を高い割合で配合でき、流動性、成形性が優れ、その硬化物が、優れた低吸水性、低弾性率(特に熱時低弾性率)、及び難燃性を有する。このため、本発明のエポキシ樹脂組成物は、表面実装方式の半導体装置において、半導体封止材として特に好適に用いることができる。
【実施例
【0049】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0050】
[1]フェノール樹脂の合成及び評価
以下のフェノール樹脂の評価で用いた分析方法及び評価方法について説明する。
[軟化点の測定]
以下の機器を用いて軟化点を測定した。
使用機器:FP83HT滴点・軟化点測定システム メトラー・トレド株式会社製
測定条件:昇温速度 2℃/分
測定方法:FP83HTのマニュアルに沿って測定する。具体的には、サンプルカップに溶融した試料を注ぎ入れ、冷やし固める。カ-トリッジをサンプルの充填したカップの上下をはめ込み、炉に挿入する。レジンが軟化してオリフィスを流下し、レジンの下端が光路を通過したときの温度を軟化点としてフォトセルで検出する。
【0051】
[溶融粘度の測定]
以下の機器を用いて150℃溶融粘度を測定した。
使用機器:BROOKFIELD製B型粘度計 DV2T 英弘精機株式会社
測定温度:150℃
測定方法:B型粘度計の炉内温度を150℃に設定し、カップに試料を所定量秤量する。
炉内に試料を秤量したカップを投入して樹脂を溶融させ、上部からスピンドルを入れる。スピンドルを回転させて、表示された粘度値が安定になったところを溶融粘度として読み取る。
【0052】
[重量平均分子量(Mw)]
以下の機器を用いてポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を求めた。
使用機器:Waters Alliance 2695 (ゲル浸透クロマトグラフ分析)
カラム: SHODEX製LF-804
ガードカラム:SHODEX製KF-G
溶解液:テトラヒドロフラン(THF)
検出器:UV計 波長254nm
フローレート:1mL/分
カラムオーブン温度:40℃
【0053】
[2、3核体の組成比]
以下のゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)分析により、得られる2核体、3核体の面積割合(面積%)を解析ソフト Empower3 Waters社製を用いて算出した。2核体、3核体の面積割合(面積%)の算出は、ピーク前後の直線部分をベースライン(0値)とし、各成分のピーク間は最も低くなるところでの縦切りでピークを分けた。得られた2核体、3核体の面積割合(面積%)をフェノール樹脂中の2核体、3核体の組成比とした。
使用機器:Waters Alliance 2695 (ゲル浸透クロマトグラフ分析) カラム:以下のSHODEX製カラム5本を、上流から下流に向けて下記の順序となるように直列に連結して用いた。
KF-804×1本
KF-803×1本
KF-802.5×1本
KF-802×1本
KF-801×1本
また、ガードカラムとしてSHODEX製KF-Gを1本用いた。
カラムオーブン温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:1.00mL/分
検出器:Waters 2487 Dual λAbsorbance Detector
検出波長:254nm
例として、実施例2で得られたフェノール樹脂Bのゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)分析のチャートを図1に示す。図1の(1)、(2)がそれぞれ2核体、3核体に由来するピークである。
【0054】
[2核体のオルソ/パラ比]
下記の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析し、フェノール樹脂の2核体の異性体のピーク面積から下記式によりオルソ/パラ比を求めた。
オルソ/パラ比=[o-p体のピーク面積+(o-o'体のピーク面積)×2]/[ o-p体のピーク面積+(p-p'体のピーク面積)×2]
使用機器:日本分光株式会社製 RHPLC
カラム:Unifinepak C18
溶離液:水/アセトニトリル(容量比80/20)から25分で水/アセトニトリル(0/100)へ濃度変更
流量:0.5mL/分
波長:280nm
例として、実施例2で得られたフェノール樹脂Bの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析のチャートを図2に示す。図2の(1)、(2)、(3)がそれぞれp-p'体,o-p体,o-o'体に由来するピークである。
【0055】
[水酸基当量]
JIS K0070に準じた水酸基当量測定によって求めた。
【0056】
[樹脂のブロッキングテスト]
シリカバリアを施した袋に表1の樹脂を入れ、密閉した後、20℃で24hr放置した。その後、樹脂同士の結着がみられないものを○とし、樹脂が結着したものを×とした。
【0057】
〔実施例1〕
[樹脂Aの合成]
温度計、仕込み・留出口、冷却器及び攪拌機を備えた容量1000mLのガラス製フラスコに、2-メチルフェノール216g(2.0モル)、α,α’-ジクロロ-p-キシレン160.70g(0.91モル)、水1.08gを入れた。脱塩酸を行いながら、160℃まで昇温し、160℃で4hr反応させた。尚、発生した塩酸は系外のガラス洗浄瓶中でアルカリ水溶液トラップした。反応終了後、反応液を95℃に降温し水洗を行った後、160℃まで昇温し、減圧-スチーミング処理を行い、未反応成分を除去することで、樹脂A233gを得た。
【0058】
〔実施例2〕
[樹脂Bの合成]
実施例1で使用したα,α’-ジクロロ-p-キシレンの量を180.03g(1.03モル)にした以外は、全て合成例1と同様の操作にて樹脂B255gを得た。
【0059】
〔比較例1〕
[樹脂Cの合成]
実施例1で使用したα,α’-ジクロロ-p-キシレンの量を218.23g(1.23モル)にした以外は、全て合成例1と同様の操作にて樹脂C283gを得た。
【0060】
〔比較例2〕
[樹脂Dの合成]
実施例1で使用したα,α’-ジクロロ-p-キシレンの量を242.15g(1.37モル)にした以外は、全て合成例1と同様の操作にて樹脂D321gを得た。
【0061】
〔比較例3〕
[樹脂Eの合成]
実施例1で使用したα,α’-ジクロロ-p-キシレンの量を135.98g(0.77モル)にした以外は、全て合成例1と同様の操作にて樹脂E200gを得た。
【0062】
〔比較例4〕
[樹脂Fの合成]
温度計、仕込み・留出口、冷却器及び攪拌機を備えた容量1000mLのガラス製フラスコに、3-メチルフェノール432g(4.0モル)、α,α’-ジクロロ-p-キシレン168.35g(0.95モル)、水7.66gを入れた。100℃で1時間反応させた後に、内温を130℃まで昇温し、更に1時間反応させた。発生した塩酸は系外のガラス洗浄瓶中でアルカリ水溶液トラップした。反応終了後、反応液を95℃に降温し水洗を行った後、160℃まで昇温し、減圧-スチーミング処理を行い、未反応成分を除去することで、樹脂F268gを得た。
【0063】
〔比較例5〕
[樹脂Gの合成]
温度計、仕込み・留出口、冷却器及び攪拌機を備えた容量1000mLのガラス製フラスコに、4-メチルフェノール432g(4.0モル)、α,α’-ジクロロ-p-キシレン186.07g(1.05モル)、水8.47gを入れた。100℃で1時間反応させた後に、内温を130℃まで昇温し、更に1時間反応させた。発生した塩酸は系外のガラス洗浄瓶中でアルカリ水溶液トラップした。反応終了後、反応液を95℃に降温し水洗を行った後、160℃まで昇温し、減圧-スチーミング処理を行い、未反応成分を除去することで、樹脂G281gを得た。
【0064】
〔比較例6〕
[樹脂Hの合成]
温度計、仕込み・留出口、冷却器及び攪拌機を備えた容量1000mLのガラス製フラスコに、フェノール282g(3.0モル)、α,α’-ジクロロ-p-キシレン216.49g(1.24モル)、水9.84gを入れた。100℃で1時間反応させた後に、内温を130℃まで昇温し、更に1時間反応させた。発生した塩酸は系外のガラス洗浄瓶中でアルカリ水溶液トラップした。反応終了後、反応液を95℃に降温し水洗を行った後、160℃まで昇温し、減圧-スチーミング処理を行い、未反応成分を除去することで、樹脂H289gを得た。
【0065】
樹脂A~Hの評価結果を下記表1に示す。
【表1】
【0066】
[2]エポキシ樹脂組成物及び硬化物の調製及び評価
以下のエポキシ樹脂組成物及び硬化物の評価で用いた分析方法及び評価方法について説明する。
【0067】
[成形性の評価]
エポキシ樹脂組成物を対象として、以下の評価基準にて評価した。
〇:トランスファー成形で寸法通りの成形体が得られた。
×:トランスファー成形で寸法通りの成形体が得られなかった。
【0068】
[流動性の測定]
エポキシ樹脂組成物を対象として、以下の機器を用いて流動性を測定した。
使用機器:株式会社多加良製作所製 60tトランスファー成形機
測定条件:金型温度175℃、注入圧力6.8MPa、保持時間120秒
測定方法:エポキシ樹脂組成物をEMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用金型に注入し、流動長(cm)を測定した。
【0069】
[硬化性の測定]
以下の機器を用いて硬化性を測定した。
使用機器:オリエンテック株式会社製 JSRキュラストメーターWP型
測定条件:175℃
測定方法:ゲル化TSX、最大トルク、硬化速度(tc(80))を測定した。
【0070】
[機械特性(曲げ弾性率・曲げ強度)の測定]
エポキシ樹脂組成物の硬化物の試験片を対象として、JIS K 7171に準拠して曲げ弾性率(GPa)、曲げ強度(MPa)を測定した。
試験片サイズ:80mm×10mm×4mm
[耐水性(吸水率)の測定]
エポキシ樹脂組成物の硬化物の試験片を対象として、JIS C6481に準拠して吸水率(%)を測定した。
試験片サイズ:直径50mm×厚さ3mm
[燃焼性の測定]
エポキシ樹脂組成物の硬化物の試験片を対象として、UL-94に準拠して判定した。
試験片サイズ:127mm×13mm×1mm
【0071】
[貯蔵弾性率の測定]
エポキシ樹脂組成物の硬化物の試験片を対象として、以下の機器を用いて貯蔵弾性率を測定した。
使用機器:TAインスツルメント社製 RSA-G2
測定条件:30℃~270℃ 昇温速度3℃/分
測定方法:寸法が40mm×12mm×1mmのエポキシ樹脂硬化物の試験片を用いて動的粘弾性測定装置にて測定を行い、30℃及び270℃での貯蔵弾性率(GPa)を求めた。
【0072】
〔実施例3、4〕及び〔比較例7~11〕
上記のブロッキングテストで結着を生じなかった実施例1、2及び比較例1、2、4~6のフェノール樹脂A~D、F~Hを硬化剤としてエポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製 YX-4000,エポキシ当量:187g/eq)とフィラー(龍森株式会社製キクロスMSR-2212)、硬化促進剤(北興化学工業株式会社製 TPP)を表2に示す割合にて配合、2軸ニーダで混練、冷却、粉砕することにより、エポキシ樹脂組成物を得た。このエポキシ樹脂組成物を使用し、流動性及び硬化性の測定を行った。また、得られたエポキシ樹脂組成物を用いて作成した40Φタブレットを用いてトランスファー成形機にて試験片を作成した。この際の成形性を上記評価基準にて評価した。試験片について180℃×8時間ポストキュアを行うことでエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物を用いて物性評価を行った。
これら評価結果を表3に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
表3に示す結果から明らかなとおり、2位に置換基を有し、特定の分子量で調整された本発明のフェノール樹脂を用いることで、置換基を有しないフェノール樹脂を用いた比較例11(特許文献1の硬化剤5相当)と比較して低吸水率、熱時低弾性率に優れており、成形性、難燃性、耐熱性等の諸物性を満足している。一方、本発明と同様に2位の置換基を有していても本発明の範囲を超える分子量を有する比較例1(特許文献1の硬化剤4相当)及び比較例2のフェノール樹脂を用いた比較例7、8では、高分子化により熱時高弾性率化及び難燃性を損なう結果が得られた。また上述した通り、本発明と同様に2位の置換基を有していても本発明の範囲未満の分子量を有する比較例3のフェノール樹脂は、フェノール樹脂自体が互いに結着しやすく取り扱い性の悪いものであった。また、本発明と異なる3位あるいは4位に置換基を有するフェノール樹脂を使用した比較例4(特許文献1の硬化剤2相当)及び比較例5(特許文献1の硬化剤3相当)のフェノール樹脂では、著しく成形性が低下し、一部のエポキシ樹脂硬化物を得ることができなかった(比較例9、10)。エポキシ樹脂硬化物を得るためには高分子量化の必要があるため、比較例4及び5のフェノール樹脂を用いた場合は、粘度・軟化点の上昇により高流動性エポキシ樹脂組成物を得ることは出来ない。
【0076】
以上の通り、本発明のフェノール樹脂は取り扱い性が良好であり、また本発明のフェノール樹脂を用いることで、本発明のフェノール樹脂を用いることで、成形性、硬化物性が良好で且つ低吸水率、難燃性、熱時低弾性率を併せ持つエポキシ樹脂組成物及びその硬化物を得ることができる。したがって本発明によれば、リフロー信頼性に優れた半導体封止材用のエポキシ樹脂組成物に好適に用いることができるフェノール樹脂を提供することができる。
図1
図2