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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】RFeB系焼結磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20230719BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230719BHJP
   B22F 3/00 20210101ALN20230719BHJP
【FI】
H01F1/057 170
C22C38/00 303D
C22C38/00 304
B22F3/00 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019009098
(22)【出願日】2019-01-23
(65)【公開番号】P2020013975
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2018129932
(32)【優先日】2018-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 通秀
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-210893(JP,A)
【文献】国際公開第2015/020180(WO,A1)
【文献】特開2010-114200(JP,A)
【文献】国際公開第2006/112403(WO,A1)
【文献】特開2006-210376(JP,A)
【文献】特開2012-074470(JP,A)
【文献】特開2016-115777(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103456452(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057、41/02
B22F 3/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nd、Pr、La及びCeの1種又は2種以上を24~31質量%、Dy及びTbの1種又は2種を0.1~6.5質量%、Bを0.8~1.4質量%、Zr, Ti, Hf及びNbの1種又は2種以上を0.03~0.2質量%、Coを0.8~5.5質量%、Cuを0.1~1.0質量%、Alを0.1~1.0質量%、並びに残部Feから成る組成を有する焼結磁石であって
CuとAlの含有率の合計が0.5質量%を超えており、
前記Cuの含有率及び前記Alの含有率が、前記焼結磁石の表面から内部に向かって漸減する分布を有する
ことを特徴とするRFeB系焼結磁石。
【請求項2】
前記Coの含有率が1.4~2.5質量%であることを特徴とする請求項1に記載のRFeB系焼結磁石。
【請求項3】
粒界にR3(Co, Fe)相を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のRFeB系焼結磁石。
【請求項4】
前記Dy及びTbの1種又は2種が、結晶粒の中心よりも結晶粒の表面の方に、より高い含有率で存在することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のRFeB系焼結磁石。
【請求項5】
さらにGaを0.05~1.0質量%含有することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のRFeB系焼結磁石。
【請求項6】
全ての希土類元素の含有率の合計が32質量%以下であって、保磁力が20kOe以上、角型比が90%以上であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のRFeB系焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素(以下、「R」とする)、Fe(鉄)及びB(ホウ素)を主な構成元素とするRFeB系焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
RFeB系焼結磁石は、1982年に佐川眞人らによって見出されたものであり、残留磁束密度等の多くの磁気特性がそれまでの永久磁石よりもはるかに高いという特長を有する。そのため、RFeB系焼結磁石は、ハイブリッド自動車や電気自動車等の自動車用モータや産業機械用モータ等の各種モータ、スピーカー、ヘッドホン、永久磁石式磁気共鳴診断装置等、様々な製品に使用されている。
【0003】
磁石の磁気特性を示す指標の1つに保磁力がある。保磁力は、磁化の向きとは逆向きの磁界(逆磁界)が磁石に印加されたときに磁化が0になる磁界の強さで示され、保磁力の値が大きいほど逆磁界への耐性が高い。保磁力は特に、各種モータの回転子等、向きや強度が変動する外部磁界中で使用される磁石において高くする必要がある。
【0004】
RFeB系焼結磁石の保磁力を高くする方法の1つに、RFeB系焼結磁石を構成する個々の結晶粒の粒径を小さくするという方法がある。これにより、磁化が逆磁界の方向に反転した逆磁区が個々の結晶粒内に形成され難くなるため、保磁力が高くなる。RFeB系焼結磁石の個々の結晶粒の粒径を小さくするために、RFeB系焼結磁石の原料の合金粉末の粒径を小さくすることが行われている。
【0005】
しかし、原料の合金粉末の粒径を小さくしても、合金粉末を焼結する際に一部の結晶粒が異常に成長して粒径が大きくなるという、「異常粒成長」と呼ばれる現象が発生し、保磁力が低くなることがある。そこで特許文献1及び2に記載のRFeB系焼結磁石では、原料合金にZr(ジルコニウム)を含有させることにより、焼結時に結晶粒が成長することを阻止し、異常粒成長が発生することを抑制している。原料合金におけるZrの含有率は、特許文献1では0.03~0.25質量%、特許文献2では0.02~1.5質量%である。また、特許文献2には、Zrの代わりに、又はZrと共に、Nb(ニオブ)及び/又はHf(ハフニウム)を含有させてもRFeB系焼結磁石において同様の効果を奏することが記載されている。
【0006】
また、特許文献1及び2には、RFeB系焼結磁石が上記Zr等と共に、Al及びCuの1種又は2種を含有させることにより、高保磁力化、高耐食性化、温度特性の改善が可能となると記載されている。Al及びCuの含有率は、特許文献1では両者を合わせて0.02~0.5質量%、特許文献2では両者を合わせて0.02~0.6質量%とされている。但し、Al及びCuの個々の含有率は、実施例に示された特定の数値(特許文献1ではAl:0.2質量%、Cu:0.05質量%、又はAl:0.25質量%、Cu:0.07質量%、特許文献2ではAl:0.054質量%、Cu:0.1質量%)を除いて記載されていない。
【0007】
さらに、特許文献2には、CuとCoを複合添加することにより、高い保磁力が得られる時効処理温度範囲が拡大すると記載されている。ここで、特許文献2における時効処理とは、焼結工程の後に、焼結時の温度(特許文献2では1000~1100℃)よりも低い所定の温度範囲(同500~800℃:時効処理温度範囲)内の温度で加熱することをいう。時効処理温度範囲が広くなることにより、時効処理を行う際の温度のバラツキが許容される範囲が大きくなり、複数のRFeB系焼結磁石に対して同時に時効処理するRFeB系焼結磁石の個数を多くすることができるため、生産効率が向上する。但し、特許文献2には、Coの含有率は0.5~5質量%と記載されているものの、Cuの含有率は前述のように実施例に示された特定の数値を除いてAlと合わせた値しか記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-296848号公報
【文献】特開2006-210376号公報
【文献】国際公開WO2006/004014号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
向きや強度が変動する外部磁界中で使用される磁石では、保磁力の他に、角型比を高くすることが求められている。角型比は、磁化曲線の第2象限(減磁曲線)において、磁化が残留磁束密度Brの90%となるときの逆磁界Hkと保磁力(磁化が0となるときの逆磁界)Hcjの比Hk/Hcjで表される。角型比が高いほど、磁界の変動に伴う磁化の変動が小さく、変動磁界中で安定した特性を有することを意味する。特許文献1及び2に記載のRFeB系焼結磁石では、この角型比の値を十分に高くすることができない。
【0010】
また、時効処理温度範囲は、保磁力のみならず角型比も高い値が得られるようにする必要があり、且つその温度範囲を広くする必要がある。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、高い角型比を有し、且つ高い保磁力及び角型比が得られる時効処理温度範囲が広いRFeB系焼結磁石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明に係るRFeB系焼結磁石は、
Nd、Pr、La及びCeの1種又は2種以上(以下、「RL」と呼ぶ)を24~31質量%、Dy及びTbの1種又は2種(以下、「RH」と呼ぶ)を0.1~6.5質量%、Bを0.8~1.4質量%、Zr, Ti(チタン), Hf及びNbの1種又は2種以上を0.03~0.2質量%、Coを0.8~5.5質量%、Cuを0.1~1.0質量%、Alを0.1~1.0質量%、並びに残部Feから成る組成を有する焼結磁石であって
CuとAlの含有率の合計が0.5質量%を超えており、
前記Cuの含有率及び前記Alの含有率が、前記焼結磁石の表面から内部に向かって漸減する分布を有する
ことを特徴とする。
【0013】
なお、RLの含有率は小数第1位で四捨五入した値で示し、それ以外の元素の含有率は小数第2位で四捨五入した値で示す。
【0014】
本発明に係るRFeB系焼結磁石では、Cu及びAlの含有率を共に0.1質量%以上とすると共にCuとAlの含有率の合計を0.5質量%を超える値とし、さらにCoを0.8質量%以上含有させることにより、角型比が高くなり、且つ高い保磁力及び角型比が得られる時効処理温度範囲が広くなる。これは、Co, Cu及びAlの含有率をこのように定めることにより、RFeB系焼結磁石にCo, Cu及びAlを含有する粒界が形成され、この粒界が結晶粒同士の磁気的相互作用を遮断する効果を奏し、それによって保磁力が向上すると共に角型比も向上することによると考えられる。また、ある時効処理温度において従来よりも高い保磁力及び角型比が得られれば、その温度の近傍の温度においても保磁力及び角型比が高くなり、その結果として高い保磁力及び角型比が得られる時効処理温度範囲も広くなる。
【0015】
ここで結晶粒同士の磁気的相互作用を遮断する効果は、主にCoとCuが奏する。但し、CoとCuが粒界で互いに相分離しやすいため、Co及びCuのみでは十分な効果を奏しない。そこで、CoとCuと共にAlを添加することにより、CoとCuが相分離することが抑えられ、結晶粒同士の磁気的相互作用を十分に遮断することができると考えられる。なお、前述のように、特許文献2では、Alが(本発明における下限値である0.1質量%よりも低い)0.054質量%という少量のみ添加されており、時効処理温度範囲を広くする効果を奏する元素としてはCo及びCuのみが挙げられている。
【0016】
但し、Alの含有率が高すぎると、粒界拡散処理を用いたとしても、RFeB系焼結磁石の主相のFeの一部がAlに置換されることにより、残留磁束密度が低下する。そのため、RFeB系焼結磁石におけるAlの含有率は1.0質量%以下とする。また、Cuの含有率が高すぎると、残留磁束密度が低下すると共に、粒界にCuが過剰に存在することとなって角型比も低下してしまう。そのため、RFeB系焼結磁石におけるCuの含有率は1.0質量%以下とする。
【0017】
一方、Coはそれ自身が磁性を有するため、結晶粒内のFeをCoである程度置換しても差し支えがない。そのため、Coは、結晶粒内よりも粒界に、より高い含有率で存在する、という必要はない。Coの含有率は、上記効果を奏するのに必要な量だけ粒界に存在し、且つFeをCoで置換しても差し支えがないように、0.8~5.5質量%の範囲内とする。この範囲内において、Coの含有率は0.8~3.0質量%の範囲内であることが、保磁力の低下を抑えるために好ましい。また、Coの含有率は1.4~2.5質量%の範囲内とすることが、時効処理温度範囲をより一層広くすることとなるため、好ましい。
【0018】
Cu及びAlは非磁性であることから、それらが結晶粒内に存在すると磁化が低下する原因となる。そのため、本発明に係るRFeB系焼結磁石において、Cu及びAlは結晶粒内よりも粒界に、より高い含有率で存在することが望ましい。そのようなRFeB系焼結磁石は、Cu及びAlを含有しないか、又は最終的に得ようとするRFeB系焼結磁石よりも低い含有率でCu及びAlの一方又は両方を含有する(一方のみを含有する場合には他方を含有しない)RFeB系の焼結体を用意し、その焼結体の表面にCu及びAlを含有する付着物を付着させたうえで加熱して、該表面のCu及びAlを主に粒界を通して該焼結体内に拡散させる、という処理を用いることにより得ることができる。このような処理を粒界拡散処理と呼ぶ。このような粒界拡散処理を行ったRFeB系焼結磁石では、Cuの含有率及びAlの含有率が、該RFeB系焼結磁石の表面から内部に向かって漸減するような分布を有する。
【0019】
本発明に係るRFeB系焼結磁石は、粒界にR3(Co, Fe)相を含有していることが望ましい。R3(Co, Fe)相は、格子欠損がない場合に、希土類元素Rの原子と、CoとFeを合わせた原子により組成比3:1で構成されている。R3(Co, Fe)相は室温において常磁性である。このように常磁性のR3(Co, Fe)相が粒界に存在することにより、強磁性であるCoやFeが単体で粒界に存在する場合よりも、結晶粒同士の磁気的相互作用を遮断しやすくなり、保磁力及び角型比が向上すると共に、高い保磁力及び角型比が得られる時効処理温度範囲も広くなる。また、本発明に係るRFeB系焼結磁石を作製する際の焼結時に、粒界にR3(Co, Fe)相が生成されると共に、粒界にCuが存在することによって、R3(Co, Fe)相の融点が低下し、粒界の全体にR3(Co, Fe)相が行き亘る。このことも、保磁力及び角型比が向上すること並びに高い保磁力及び角型比が得られる時効処理温度範囲が広くなることに寄与する。
【0020】
本発明に係るRFeB系焼結磁石は、Zr, Ti, Hf及びNbの1種又は2種以上を含有することにより、異常粒成長が生じることで保磁力が低下することを防止する。なお、特許文献2には、異常粒成長を防止するために添加する元素としてZr, Hf及びNbのうちの1種又は2種以上が挙げられているが、本発明では、それらの代わりに、又はそれらと共に、Tiを用いてもよい。Zr, Ti, Hf及びNbの1種又は2種以上の含有率は、上記効果を奏するのに必要な量だけRFeB系焼結磁石内に存在し、且つRFeB系焼結磁石の残留磁束密度を低下させないために、0.03~0.2質量%の範囲内とする。
【0021】
また、本発明に係るRFeB系焼結磁石は、RHを含有させることによっても、保磁力を高くすることができる。但し、RHはRFeB系焼結磁石の保磁力を高くする一方で、結晶粒内に存在すると残留磁束密度を低下させることも知られている。さらに、RHは、結晶粒の表面付近にさえあれば保磁力を高くする効果を奏することも知られている。そのため、本発明に係るRFeB系焼結磁石では、RHは、含有率が0.1~6.5質量%の範囲内であって、且つ結晶粒の中心よりも結晶粒の表面の方に、より高い含有率で存在することが望ましい。そのためには、RHを含有しないか又はRHの含有率が本発明のRFeB系焼結磁石よりも低いRFeB系の焼結体を用意し、その焼結体の表面にRHを含有する付着物を付着させたうえで加熱して、該表面のRHを該焼結体の粒界を介して該結晶粒の表面付近に拡散させる粒界拡散処理を行うことによりRFeB系焼結磁石を製造すればよい。粒界拡散処理によってRHをRFeB系焼結磁石内に導入した場合、Al及びCuと同様に、RFeB系焼結磁石全体でのRHの含有率は、該RFeB系焼結磁石の表面から内部に向かって漸減する分布を有する。
【0022】
本発明に係るRFeB系焼結磁石において、さらにGa(ガリウム)を0.05~1.0質量%含有させることが好ましい。GaとCoを組み合わせることにより、保磁力を高くすることができる。
【0023】
一般に、希土類元素の含有率が高い方が、RFeB系焼結磁石の主相よりも希土類元素の含有率が高く融点が低い希土類リッチ相が粒界に多く形成され、粒界拡散処理の際に希土類リッチ相が溶融することによってRHがRFeB系焼結磁石の粒界全体に行き亘り易くなるため、保磁力及び角型比が高くなる。一方、希土類元素は高価であるため、その含有率を高くするとコストが上昇する。本発明に係るRFeB系焼結磁石では、全ての希土類元素の含有率の合計が32質量%以下という比較的低い場合であっても、保磁力が20kOe以上、角型比が90%以上となり、コストを抑えつつ高い保磁力及び角型比を実現することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、高い角型比を有し、且つ高い保磁力及び角型比が得られる時効処理温度範囲が広いRFeB系焼結磁石を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係るRFeB系焼結磁石を製造する方法の一例を説明する概略図。
図2】本発明に係るRFeB系焼結磁石の実施例1、2における製造時の時効処理温度と保磁力の測定値の関係を示すグラフ。
図3】実施例1、2における製造時の時効処理温度と角型比の測定値の関係を示すグラフ。
図4】実施例1、2における製造時の時効処理温度と残留磁束密度の測定値の関係を示すグラフ。
図5】実施例3、4における製造時の時効処理温度と保磁力の測定値の関係を示すグラフ。
図6】実施例3、4における製造時の時効処理温度と角型比の測定値の関係を示すグラフ。
図7】実施例3の試料における表面から深さ方向のAl(a)、Cu(b)、Nd(c)及びTb(d)の含有率の分布を測定した結果を示すグラフ。
図8】本発明に係るRFeB系焼結磁石の実施例3、5~7及び比較例1における製造時の時効処理温度と保磁力の測定値の関係を示すグラフ。
図9】実施例3、比較例2、3における製造時の時効処理温度とHk95/Hcjの測定値の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1図9を用いて、本発明に係るRFeB系焼結磁石の実施形態を説明する。
【0027】
(1) 組成
本実施形態のRFeB系焼結磁石は、RLを24~31質量%、RHを0.1~6.5質量%、Bを0.8~1.4質量%、Zr, Ti, Hf及びNbの1種又は2種以上を0.03~0.2質量%、Coを0.8~5.5質量%、Cuを0.1~1.0質量%、Alを0.1~1.0質量%、残部としてFeを含有する。但し、CuとAlの含有率の合計は0.5質量%を超えている必要がある。また、本実施形態のRFeB系焼結磁石は、これら各元素の他に、Gaを0.05~1.0質量%含有していてもよい。
【0028】
本実施形態のRFeB系焼結磁石では、Cu及びAlは、結晶粒内よりも粒界に、より高い含有率で存在させるために、(2)で述べる粒界拡散処理によりRFeB系焼結磁石内に導入することが好ましい。それにより、Cuの含有率及びAlの含有率は、表面の少なくとも一部の位置において最も高くなる分布を有する。また、RHは、Cu及びAlと同様に粒界拡散処理によりRFeB系焼結磁石内に導入することが好ましい。但し、Cu、Al及びRHのうちの少なくとも1種(全ての場合を含む)を、粒界拡散処理以外の方法でRFeB系焼結磁石内に導入してもよい。例えば、Cu、Al及びRHのうちの少なくとも1種を焼結体の原料に予め添加しておいてもよい。
【0029】
本実施形態のRFeB系焼結磁石はその他に、不可避的不純物として、Cr(クロム)を0.1質量%以下、Mn(マンガン)を0.1質量%以下、Niを0.1質量%以下、O(酸素)を3500ppm以下、N(窒素)を2000ppm以下、C(炭素)を2000ppm以下、それぞれ含有していてもよい。Oの含有率は1500ppm以下、Nの含有率は1000ppm以下、Cの含有率は1000ppm以下であることが望ましい。
【0030】
(2) 製造方法
図1を参照しつつ、本実施形態のRFeB系焼結磁石を製造する方法の例を説明する。まず、RFeB系の焼結体から成る基材11を、以下の方法により作製する。この基材11は、作製しようとする当該基材11の組成に対応した含有率で各元素を含有する原料の合金を用意する。その際、後述の粒界拡散処理を行う場合には、原料には、Cu、Al及びRHのうちの少なくとも1種(全ての場合を含む)を含有することなく他の元素を上記範囲内の含有率で含有するか、又は最終的に得ようとするRFeB系焼結磁石よりも低い含有率でCu、Al及びRHのうちの少なくとも1種(同上)を含有するものを用いる。一方、粒界拡散処理を行わない場合には、Cu、Al及びRH、並びに最終的に得ようとするRFeB系焼結磁石が含有するその他の各元素を上記範囲内の含有率で含有する原料を用いる。
【0031】
基材11は、上記原料の合金を粉砕することにより原料粉末111を作製し(a)、その原料粉末111を磁界中で配向させると共に圧縮成形することにより圧縮成形体112を作製したうえで(b)、その圧縮成形体112を加熱して原料粉末111を焼結する(c)ことにより得ることができる(プレス法)。あるいは、前記と同様に原料粉末111を作製した後、作製しようとする基材11に対応した形状を有する容器113に該原料粉末を収容し(b')、該原料粉末を磁界中で配向させたうえで、圧縮成形を行うことなく加熱して原料粉末を焼結する(c')ことにより基材11を得ることもできる(PLP(press-less process)法。特許文献3参照。)。原料粉末111の粒径や、焼結時の加熱温度等は、従来のRFeB系焼結磁石を製造する際に用いられている条件をそのまま用いることができる。例えば、製造されるRFeB系焼結磁石中の結晶粒の粒径を小さくするために、原料粉末の粒径は小さい方が望ましく、例えばレーザ法で測定される粒径の中央値(D50)が3μm以下となるようにすることが望ましい(特許文献3参照)。また、焼結時の温度は、例えば、プレス法では1000~1100℃(特許文献1、2参照)、PLP法では900~1050℃(特許文献3参照)の範囲内の温度とすることができる。
【0032】
作製した基材11に対する粒界拡散法による処理は、以下のように行う。まず、RH、Cu及びAlのうち粒界拡散処理によって導入する元素を含有する付着物12を作製する。付着物12の原料には、例えば、RH、Cu及びAlの合金及びシリコーングリース122を好適に用いることができる。具体的には、この合金を粉砕することにより粒界拡散処理用粉末121を作製したうえで、粒界拡散処理用粉末121にシリコーングリース122を添加して混合することによりペースト状の付着物12を作製する(d)。なお、RH、Cu及びAlの合金の代わりに、それら3種のそれぞれの単体金属の粉末を用いてもよいし、それら3種のうちの2種の合金と残り1種の単体金属の粉末を用いてもよい。RHには、DyとTbのうちの1種のみでもよいし、それらを両方用いてもよい。RH、Cu及びAlのうち2種以下の元素のみを粒界拡散処理で導入する場合には、それら導入対象の元素のみを含有する合金を用いる。
【0033】
続いて、基材11の表面に付着物12を塗布し、所定の温度に加熱する(e)ことにより、付着物12中の粒界拡散処理の対象の元素を基材の粒界内に拡散させる。その際の温度は、例えば700~1000℃の範囲内の温度とすることができる。
【0034】
以上のように粒界拡散処理を行うことにより、時効処理前RFeB系焼結磁石13が得られる。一方、粒界拡散処理を行わない場合には、得られた基材11をそのまま、時効処理前RFeB系焼結磁石13として用いる。次に、得られた時効処理前RFeB系焼結磁石13を焼結時よりも低い温度で加熱することにより、時効処理を行う(f)。時効処理の温度は、例えば460~560℃の範囲内とする。また、時効処理の回数は1回のみでよいが、2回以上行っても差し支えはない。以上の操作により、本実施形態のRFeB系焼結磁石10が得られる(g)。
【0035】
(3) 本実施形態のRFeB系焼結磁石の実施例
以下、本実施形態のRFeB系焼結磁石を製造した実施例を示す。
【0036】
(3-1)実施例1、2
表1に記載した組成(実測値)を有する合金1、2をそれぞれ原料として、PLP法により基材を製造した。次に、基材を厚み4.8mmの板状に成形したうえで、その表裏2面に、Tbを75.3質量%、Cuを18.8質量%、Alを5.9質量%含有するTbCuAl合金を粉砕した粒界拡散処理用粉末にシリコーングリースを添加した付着物を塗布し、900℃で15時間加熱することにより粒界拡散処理を行い、時効処理前RFeB系焼結磁石を作製した。得られた時効処理前RFeB系焼結磁石の各々に対して、460~560℃の範囲内の温度で加熱することにより時効処理を行い、合金1から作製した実施例1のRFeB系焼結磁石、及び合金2から作製した実施例2のRFeB系焼結磁石を得た。実施例1、2共に、基材及び時効処理前RFeB系焼結磁石を複数個作製し、時効処理では、複数個の時効処理前RFeB系焼結磁石に対してそれぞれ異なる温度(460~560℃の範囲内で20℃ずつ異なる温度)で加熱を行った。実施例1、2の各々につき、得られたRFeB系焼結磁石のうちの1個の組成を分析した実測値を表2に示す。
【表1】

【表2】
【0037】
実施例1、2共に、得られたRFeB系焼結磁石の各元素の含有率は本発明の範囲内に含まれている。実施例1のRFeB系焼結磁石はAl及びCuの含有率が実施例2のRFeB系焼結磁石よりも高い。一方、実施例2のRFeB系焼結磁石は、Coの含有率が実施例1のRFeB系焼結磁石よりも高い。なお、実施例1及び2のRFeB系焼結磁石には、基材の原料には無いDyが0.03質量%含まれているが、これはTbCuAl合金中にDyが不純物として僅かに含まれていることによると考えられる。
【0038】
実施例1及び2について、異なる時効処理温度で製造したRFeB系焼結磁石の各々に対して、保磁力Hcj、角型比SQ及び残留磁束密度Brを測定した。図2に保磁力Hcjの測定結果を、図3に角型比SQの測定結果を、図4に残留磁束密度Brの測定結果を、それぞれ示す。
【0039】
保磁力Hcjは、実施例1では22.5~23.3kOeの範囲内、実施例2では22.3~23.2kOeの範囲内であり、20kOeを超える十分に高い値が得られている。これは、基材の原料の合金がZrを含有していることによって異常粒成長の発生が抑えられること、及び、粒界拡散処理によってTbがRFeB系焼結磁石の結晶粒の中心よりも結晶粒の表面の方に、より高い含有率で存在することによると考えられる。
【0040】
また、保磁力Hcjは、実験を行った時効処理温度の範囲内において、中央値(実施例1では22.9kOe、実施例2では22.8kOe)から±2%の範囲内に収まっており、時効処理温度が上昇又は下降するのに伴って低下する傾向は見られない。
【0041】
角型比SQは、実施例1では96.1~96.7(中央値96.4)%、実施例2では95.5~96.3(同95.9)%の範囲内であり、95%を超える十分に高い値が得られている。その理由は、前述した保磁力Hcjが高い理由と同じであると考えられる。また、角型比SQは、実験を行った時効処理温度の全範囲において、中央値から±0.4%の範囲内に収まっており、時効処理温度が上昇又は下降するのに伴って低下する傾向は見られない。
【0042】
このように、実施例1及び2では、460~560℃という100℃の幅に亘る時効処理温度の範囲内において、保磁力Hcj及び角型比SQの値を十分に大きくすることができ、且つ、時効処理温度の相違に関わらず均一に近い値が得られている。そのため、多数の時効処理前RFeB系焼結磁石に対して同時に時効処理を行っても、その際に時効処理前RFeB系焼結磁石毎に数十℃の幅で生じる温度の相違の影響を受けることなく、均質に近いRFeB系焼結磁石を得ることができ、RFeB系焼結磁石の製造効率を高くすることができる。
【0043】
なお、残留磁束密度Brについても、実施例1及び2共に、時効処理温度の相違に関わらず均一に近い値が得られている。
【0044】
(3-2)実施例3、4(Gaの有無)
次に、表3に記載した組成(実測値)を有する合金3を原料として作製した、Gaを含有する基材に実施例1、2と同様の方法で粒界拡散処理を行ったRFeB系焼結磁石(実施例3)と、表3に記載した合金4を原料として作製した、Gaを含有しない基材に上記と同様の方法で粒界拡散処理を行うことによりGaを除く各元素の含有率を実施例3に近い値としたRFeB系焼結磁石(実施例4)を作製した。実施例3、4の各々につき、得られたRFeB系焼結磁石のうちの1個の組成を分析した実測値を表4に示す。
【表3】

【表4】
【0045】
実施例3及び4につき、異なる時効処理温度で製造したRFeB系焼結磁石の各々に対して、保磁力Hcj及び角型比SQを測定した。図5に保磁力Hcjの測定結果を、図6に角型比SQの測定結果を、それぞれ示す。実施例3では、実施例1、2と同様に、保磁力は20kOeを超える十分に高い値が得られていると共に、実験を行った時効処理温度の範囲内において中央値(23.28kOe)から±2%の範囲内に収まっている。また、実施例3では、角型比は96.5~97.4(中央値97.0)%の範囲内であり、95%を超える十分に高い値が得られている。さらに、各温度における保磁力及び角型比の値は、実施例4よりも実施例3の方が高くなっており、本発明に係るRFeB系焼結磁石においてGaを添加することにより、保磁力及び角型比の値が高くなることが確認された。
【0046】
次に、実施例3の試料につき、表面から深さ方向に向かってAl、Cu、Nd及びTbの含有率の分布を測定した結果を説明する。測定結果を図7に示す。図7の各グラフでは、板状である試料の一方の表面の位置を0として、そこから深さ方向の位置における含有率の分布を示している。試料の厚みが4.8mmであることから、各グラフの「2.4mm」の位置が深さ方向の中央に該当する。Al、Cu及びTbでは、試料の両方の表面から内部に向かって、含有率が漸減しているのに対して、Ndではそのような傾向が見られない。これは、Al、Cu及びTbを粒界拡散処理によって試料内に導入したことを反映している。
【0047】
(3-3)実施例3、5~7、比較例1(Coの濃度の相違)
次に、上記の実施例3と共に、Coの濃度が異なる複数のRFeB系焼結磁石から成る実施例5~7及び比較例1の試料について説明する。これら実施例5~7及び比較例1の試料の作製方法は、基材に含まれるCo等の濃度が相違する点を除いて、実施例3と同様である。実施例5~7及び比較例1の試料の各々につき、用いた原料の合金の組成の実測値を表5に、得られたRFeB系焼結磁石のうちの1個の組成を分析した実測値を表6に、それぞれ示す(実施例3は表3に示したデータの再掲)。合金5~7はそれぞれ実施例5~7の試料の原料であり、合金Aは比較例1の試料の原料である。
【表5】

【表6】
【0048】
これら実施例3、5~7につき、異なる時効処理温度で製造したRFeB系焼結磁石の各々に対して、保磁力Hcjを測定した結果を図8に示す。これら実施例3、5、6(Co含有率が2.46、0.93、1.57)の試料では、時効処理温度が460~560℃(実施例6では460~580℃)という全測定範囲内において、保磁力Hcjは20kOeを超える十分に高い値が得られている。実施例7における保磁力Hcjは、時効処理温度が最低(460℃)及び最高(580℃)の場合のみ20kOeをわずかに下回っているものの、それ以外では20kOeを超えている。また、時効処理温度の全測定範囲内における中央値(実施例3:23.2kOe、実施例5:22.5kOe、実施例6:22.9kOe、実施例7:19.9kOe)からのずれは、実施例3では±1.5%、実施例5では±2.7%、実施例6では±1.9%、実施例7では±3.8%であり、いずれも±5%未満の範囲内に収まっている。それに対して比較例1では、保磁力Hcjは時効処理温度の全体に亘って13.9~17.3kOeという低い値に抑えられており、中央値(15.6kOe)からのずれも±11.1%という、絶対値が5%以上という高い値となっている。
【0049】
このように、実施例3、5~7のRFeB系焼結磁石は、比較例1よりも時効温度の相違による保磁力の相違が小さいため、時効処理温度範囲が広い。これら実施例の中でも特に、Coの含有率が1.4~2.5質量%の範囲内にある実施例3及び6のRFeB系焼結磁石は、実施例5及び7よりも保磁力が高いうえに、時効温度の相違による保磁力の相違が小さいという点で、実施例5及び7よりも優れている。
【0050】
Coの濃度は、RFeB系焼結磁石のキュリー温度にも影響を及ぼす。例えば、キュリー温度は、実施例5(Coの含有率が0.93質量%)では317℃であるのに対して、実施例3(同2.46質量%)では335℃である。
【0051】
(3-3)実施例3、6、7、比較例1における粒界の組成
次に、実施例3、6及び7、並びに比較例1のRFeB系焼結磁石につき、粒界における組成を測定した結果を示す。この測定では、RFeB系焼結磁石の断面を電子顕微鏡で観察した画像中で、粒界の位置を任意に11~15点指定し、各点における組成をEPMAで測定した。その結果を表7(実施例3)、表8(実施例6)、表9(実施例7)及び表10(比較例1)に示す。各表では、Nd, Pr, Tb(以上3種が希土類元素Rに該当), Fe, Co, Al, Cu及びGaの組成を原子百分率で示した。なお、これら実施例及び比較例のRFeB系焼結磁石には、上記した8種の元素以外の元素も微量に含まれているため、これら8種の元素の組成の値の合計は必ずしも100(原子%)にはならない。
【表7】

【表8】

【表9】

【表10】
【0052】
表7~10中の備考欄に「主相」と記載した測定点の組成は、RFeB系磁石の主相(R2Fe14B)に近い値を有している。また、同欄に「O, C-rich」と記載した測定点では、表中には示していないがO又はCの含有率が他の測定点よりも高く、酸化物又は炭化物が形成されていると考えられる。これら「主相」及び「O, C-rich」の測定点ではいずれも、他の測定点よりもCoの含有率が低い。
【0053】
以下では、「主相」及び「O, C-rich」以外の、Coの含有率がより高い測定点における結果を検討する。これら各点につき、表7~10に挙げた8種の元素をNd, Pr, Tb(希土類元素R)、Fe, Co(鉄族元素)、並びにAl, Cu, Gaの3つのグループに分け、グループ毎に含有率の和を求めた。さらに、Nd, Pr, TbのグループとFe, Coのグループの含有率の比を求めた。その結果を表11(実施例3)、表12(実施例6)、表13(実施例7)及び表14(比較例1)に示す。
【表11】

【表12】

【表13】

【表14】
【0054】
これら表11~14の結果によれば、実施例3、6及び7のRFeB系焼結磁石は、上記3つのグループの各々における対象元素の含有率の和が、Nd, Pr, Tbのグループでは60~70原子%、Fe, Coのグループでは20~35原子%、Al, Cu, Gaのグループでは6~10原子%の範囲内に含まれる。それに対して比較例1のRFeB系焼結磁石は、これら3つのグループの1つ又は複数において対象元素の含有率の和が上記範囲内に含まれない。
【0055】
さらに、実施例3及び6では、複数(実施例3では6点中3点、実施例6では7点中5点)の測定点において希土類元素Rと鉄族元素の含有率の比が2.5を超え3.2未満の範囲内にあるのに対して、実施例7及び比較例1では当該含有率の比が上記範囲内にある点は存在しない。希土類元素Rと鉄族元素の含有率の比がこのような2.5を超え3.2未満という3前後の値を有している測定点(粒界)では、R3(Co, Fe)相が存在すると考えられる。この結果と、図8に示した製造時の時効処理温度と保磁力の測定値の関係を対比すると、当該含有率の比が上記範囲内にある実施例3及び6は、上記範囲外にある実施例7及び比較例1よりも、いずれの時効処理温度で作製したRFeB系焼結磁石においても保磁力が高く、且つ、時効処理温度の相違による保磁力の相違が小さいため時効処理温度範囲が広い。すなわち、RFeB系焼結磁石において粒界にR3(Co, Fe)相が存在することは、保磁力を高くし、且つ時効処理温度範囲を広くすることに寄与する。
【0056】
(3-4)実施例3、比較例2、3(粒界拡散処理に用いる合金の組成の相違)
次に、実施例3と同じロットで作製した基材に対して、Alを含有しないTbCu合金を用いて粒界拡散処理を行った比較例2と、Cuを含有しないTbAl合金を用いて粒界拡散処理を行った比較例3について説明する。比較例2で使用したTbCu合金はTbを85.4質量%、Cuを14.6質量%含有するものであり、比較例3で使用したTbAl合金はTbを95.4質量%、Alを4.6質量%含有するものである。こらら各合金を1種ずつ含有する3つの付着物を、付着物に含まれるTbが同じ含有量になるようにそれぞれ基材に塗布した(TbAlCu合金は実施例3が該当)。実際の塗布量は、各合金の量が、板状の基材の片面(17mm×17mm)あたり、実施例3(TbAlCu合金)では73g、比較例2(TbCu合金)では64g、比較例3(TbAl合金)では57gとなるようにした。そのうえで、実施例1等と同じ条件で加熱することにより、粒界拡散処理を行った。作製した比較例2、3の試料の各々につき、得られたRFeB系焼結磁石のうちの1個の組成を分析した実測値を表15に示す。
【表15】
【0057】
Cu及びAlの含有率に着目すると、比較例2、3では、Cu及びAlの個々の含有率は本発明の範囲(いずれも0.1~1.0質量%)内に含まれているものの、CuとAlの含有率の合計は比較例2では0.49質量%、比較例3では0.35質量%であって、本発明の範囲(0.5質量%を超える)内に含まれていない。従って、比較例2及び3の試料は本発明のRFeB系焼結磁石ではない。
【0058】
また、実施例3、比較例2、3では上記のように同じ作製ロットの基材に対してTbが同じ含有量である付着物を用いて粒界拡散処理を行っているにも関わらず、得られたRFeB系焼結磁石におけるTbの含有率は、実施例3の方が、比較例2、3よりも高くなっている。すなわち、粒界拡散処理において、CuとAlの双方を含有するTbCuAl合金を用いた方が、CuとAlのうちの一方のみを含有するTbCu合金又はTbAl合金を用いるよりも、Tbを基材の粒界全体に拡散させやすくすることができる。
【0059】
これら実施例3、比較例2、3につき、異なる時効処理温度で製造したRFeB系焼結磁石の各々に対して、以下に定義するHk95/Hcjの値を求めた。Hk95/Hcjは、減磁曲線において磁化が残留磁束密度Brの95%となるときの逆磁界の値(これを"Hk95"とする)と保磁力Hcjの比で定義される。Hk95/Hcjは、上記角型比SQと同様に減磁曲線の角型性を示す指標であって、SQの定義中で「磁化が残留磁束密度Brの90%となるときの逆磁界」の「90%」を「95%」に置き換えたものである。SQよりもHk95/Hcjの方が、角型性の良否による数値の相違が顕著に現れる。Hk95/Hcjの測定結果を図9に示す。この結果は、測定を行った時効処理温度の全範囲において、比較例2、3よりも実施例3の方が、Hk95/Hcjの値が高く、角型性が優れていることを示している。
【0060】
本発明は上記実施形態には限定されず、いうまでもなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態ではRLとしてNd及びPrを含有する例を示したが、NdとPrのいずれか一方のみ含有していてもよく、Nd及び/若しくはPrに加えて、又はそれらの代わりにLa及び/若しくはCeを含有していてもよい。また、上記実施形態ではRHとしてTb及びDyを含有する例を示したが、TbとDyのいずれか一方のみ含有していてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10…RFeB系焼結磁石
11…基材
111…原料粉末
112…圧縮成形体
113…容器
12…付着物
121…粒界拡散処理用粉末
122…シリコーングリース
13…時効処理前RFeB系焼結磁石
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9