(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】多孔質ポリイミド膜、リチウムイオン二次電池用セパレータ、リチウムイオン二次電池、及び全固体電池
(51)【国際特許分類】
C08J 9/26 20060101AFI20230719BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20230719BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230719BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230719BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20230719BHJP
H01M 50/409 20210101ALI20230719BHJP
【FI】
C08J9/26 102
C08J9/26 CFG
C08G73/10
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0565
H01M50/409
(21)【出願番号】P 2019024757
(22)【出願日】2019-02-14
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 耕作
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 保伸
(72)【発明者】
【氏名】菅原 啓
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 英一
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-141110(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021356(WO,A1)
【文献】特開2015-191870(JP,A)
【文献】特開2000-306568(JP,A)
【文献】特開2016-056225(JP,A)
【文献】国際公開第2016/039299(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/041395(WO,A1)
【文献】特開2008-047456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B29C 44/00-44/60、67/20
C08G 73/00-73/26
H01M 10/05-10/0587、10/36-10/39
50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸塩基滴定により求めた多孔質ポリイミド膜の酸価が7mgKOH/g以上20mgKOH/g以下、Liを除くアルカリ金属、アルカリ土類金属、およびケイ素からなる金属群の合計含有量が、前記多孔質ポリイミド膜に対して100ppm以下、前記多孔質ポリイミド膜の吸湿率が
0.2%以下である多孔質ポリイミド膜。
【請求項2】
多孔質ポリイミド膜のポリイミド樹脂を構成するジアミンに由来する構造単位に対するテトラカルボン酸二酸無水物に由来する構造単位のモル比(テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位/ジアミンに由来する構造単位)が1.00以上1.15以下、Liを除くアルカリ金属、アルカリ土類金属、およびケイ素からなる金属群の合計含有量が、前記多孔質ポリイミド膜に対して100ppm以下、前記多孔質ポリイミド膜の吸湿率が
0.2%以下である多孔質ポリイミド膜。
【請求項3】
前記酸価が12mgKOH/g以上20mgKOH/g以下である請求項1に記載の多孔質ポリイミド膜。
【請求項4】
前記モル比が1.06以上1.15以下である請求項2に記載の多孔質ポリイミド膜。
【請求項5】
前記多孔質ポリイミド膜の引張強度が10N/mm
2以上100N/mm
2以下である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の多孔質ポリイミド膜。
【請求項6】
前記多孔質ポリイミド膜の平均膜厚が10μm以上1000μm以下である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の多孔質ポリイミド膜。
【請求項7】
前記多孔質ポリイミド膜の平均膜厚が20μm以上500μm以下である請求項6に記載の多孔質ポリイミド膜。
【請求項8】
前記多孔質ポリイミド膜の透気速度が25秒以下である請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の多孔質ポリイミド膜。
【請求項9】
前記多孔質ポリイミド膜の空隙率が50%以上80%以下である請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の多孔質ポリイミド膜。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の多孔質ポリイミド膜を含むリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項11】
請求項10に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータを備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の多孔質ポリイミド膜を含む全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ポリイミド膜、リチウムイオン二次電池用セパレータ、リチウムイオン二次電池、及び全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、機械的強度、化学的安定性、耐熱性に優れた特性を有する材料であ
り、これらの特性を有する多孔質のポリイミド膜が注目されている。
多孔質ポリイミド膜は、フィルターの用途(濾過フィルター、オイルフィルター、燃料フィルターなど)、二次電池の用途(リチウム二次電池のセパレータ、全固体電池における固体電解質の保持体など)等に適用される場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、「ポリイミド及び/又はポリアミドイミドがカルボキシ基、塩型カルボキシ基及び-NH-結合からなる群より選択される少なくとも1つを有する、ポリイミド及び/又はポリアミドイミド多孔質体」が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、「非水電解質電池に用いられるセパレータであって、前記セパレータが、無機微粒子と樹脂バインダーからなる多孔質層を多孔質セパレータ基材上に設けることにより構成されており、前記樹脂バインダーが、ポリイミド樹脂、及びポリアミドイミド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であって、樹脂中の酸価が5.6KOHmg/g~28.0KOHmg/gで、かつ対数粘度が0.5~1.5dl/gであり、前記多孔質層における前記樹脂バインダーの含有量が5重量%以上であることを特徴とする非水電解質電池用セパレータ」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2016/125832号公報
【文献】特許第5294088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、多孔質ポリイミド膜は、種々の方法で作製されている。ここで、得られた多孔質ポリイミド膜の酸価が低いと、水や有機溶剤等を弾く傾向にある。そのような濡れ性の低い多孔質ポリイミド膜が例えばフィルターとして使用された場合、濾過効率が低下したり、また、例えば電池用セパレータとして使用された場合、電解液の浸透性が低下したりすることがあった。一方、化学エッチング処理(例えば、アルカリ処理)されて得られた多孔質ポリイミド膜は、膜の酸価は高いため、濡れ性は良好であるが、多孔質ポリイミド膜の吸湿性が高くなったり、強度が低下する傾向にある。そのような多孔質ポリイミド膜が例えばフィルターとして使用される場合、製品としての再現性が低下したり、また、例えば電池用セパレータとして使用される場合、電池用途としての適性が低下したりすることがあった。
【0007】
本発明の課題は、多孔質ポリイミド膜が、酸塩基滴定により求めた酸価が7mgKOH/g未満もしくは20mgKOH/g超えの場合、多孔質ポリイミド膜のポリイミド樹脂を構成するジアミンに由来する構造単位に対するテトラカルボン酸二酸無水物に由来する構造単位のモル比(テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位/ジアミンに由来する構造単位)が1.00未満のもしくは1.15超え場合、Liを除くアルカリ金属、アルカリ土類金属、およびケイ素からなる金属群の合計含有量が100ppm超えである場合、又は吸湿率が0.5%超えである場合に比べ、濡れ性が良好で、高強度である多孔質ポリイミド膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
<1>
酸塩基滴定により求めた多孔質ポリイミド膜の酸価が7mgKOH/g以上20mgKOH/g以下、Liを除くアルカリ金属、アルカリ土類金属、およびケイ素からなる金属群の合計含有量が、前記多孔質ポリイミド膜に対して100ppm以下、前記多孔質ポリイミド膜の吸湿率が0.5%以下である多孔質ポリイミド膜。
<2>
多孔質ポリイミド膜のポリイミド樹脂を構成するジアミンに由来する構造単位に対するテトラカルボン酸二酸無水物に由来する構造単位のモル比(テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位/ジアミンに由来する構造単位)が1.00以上1.15以下、Liを除くアルカリ金属、アルカリ土類金属、およびケイ素からなる金属群の合計含有量が、前記多孔質ポリイミド膜に対して100ppm以下、前記多孔質ポリイミド膜の吸湿率が0.5%以下である多孔質ポリイミド膜。
<3>
前記酸価が12mgKOH/g以上20mgKOH/g以下である<1>に記載の多孔質ポリイミド膜。
<4>
前記モル比が1.06以上1.15以下である<2>に記載の多孔質ポリイミド膜。
<5>
前記多孔質ポリイミド膜の引張強度が10N/mm2以上100N/mm2以下である<1>~<4>のいずれか1つに記載の多孔質ポリイミド膜。
<6>
前記多孔質ポリイミド膜の平均膜厚が10μm以上1000μm以下である<1>~<5>のいずれか1つに記載の多孔質ポリイミド膜。
<7>
前記多孔質ポリイミド膜の平均膜厚が20μm以上500μm以下である<6>に記載の多孔質ポリイミド膜。
<8>
前記多孔質ポリイミド膜の透気速度が25秒以下である<1>~<7>のいずれか1つに記載の多孔質ポリイミド膜。
<9>
前記多孔質ポリイミド膜の空隙率が50%以上80%以下である<1>~<8>のいずれか1つに記載の多孔質ポリイミド膜。
<10>
<1>~<9>のいずれか1つに記載の多孔質ポリイミド膜を含むリチウムイオン二次電池用セパレータ。
<11>
<10>に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータを備えるリチウムイオン二次電池。
<12>
<1>~<9>のいずれか1つに記載の多孔質ポリイミド膜を含む全固体電池。
【発明の効果】
【0009】
<1>に係る発明によれば、
酸塩基滴定により求めた酸価が7mgKOH/g未満もしくは20mgKOH/g超えの場合、Liを除くアルカリ金属、アルカリ土類金属、およびケイ素からなる金属群の合計含有量が100ppm超えである場合、又は吸湿率が0.5%超えである場合に比べ、濡れ性が良好で、高強度である多孔質ポリイミド膜が提供される。
<2>に係る発明によれば、
多孔質ポリイミド膜のポリイミド樹脂を構成するジアミンに由来する構造単位に対するテトラカルボン酸二酸無水物に由来する構造単位のモル比(テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位/ジアミンに由来する構造単位)が1.00未満もしくは1.15超えの場合、Liを除くアルカリ金属、アルカリ土類金属、およびケイ素からなる金属群の合計含有量が100ppm超えである場合、又は吸湿率が0.5%超えである場合に比べ、濡れ性が良好で、高強度である多孔質ポリイミド膜が提供される。
<3>に係る発明によれば、
前記酸価が12mgKOH/g未満又は20mgKOH/g超えである場合に比べ、濡れ性が良好で、高強度である多孔質ポリイミド膜が提供される。
<4>に係る発明によれば、
前記モル比が1.06未満又は1.15超えである場合に比べ、濡れ性が良好で、高強度である多孔質ポリイミド膜が提供される。
<5>に係る発明によれば、
多孔質ポリイミド膜の引張強度が10N/mm2未満である場合に比べ、高強度である多孔質ポリイミド膜が提供される。
<6>、<7>に係る発明によれば、
酸塩基滴定により求めた酸価が7mgKOH/g未満もしくは20mgKOH/g超えの場合、多孔質ポリイミド膜のポリイミド樹脂を構成するジアミンに由来する構造単位に対するテトラカルボン酸二酸無水物に由来する構造単位のモル比(テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位/ジアミンに由来する構造単位)が1.00未満もしくは1.15超えの場合、Liを除くアルカリ金属、アルカリ土類金属、およびケイ素からなる金属群の合計含有量が100ppm超えである場合、又は吸湿率が0.5%超えである場合に比べ、多孔質ポリイミド膜の平均膜厚が10μm以上1000μm以下であり、濡れ性が良好で、高強度である多孔質ポリイミド膜が提供される。
<8>に係る発明によれば、
酸塩基滴定により求めた酸価が7mgKOH/g未満もしくは20mgKOH/g超えの場合、多孔質ポリイミド膜のポリイミド樹脂を構成するジアミンに由来する構造単位に対するテトラカルボン酸二酸無水物に由来する構造単位のモル比(テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位/ジアミンに由来する構造単位)が1.00未満もしくは1.15超えの場合、Liを除くアルカリ金属、アルカリ土類金属、およびケイ素からなる金属群の合計含有量が100ppm超えである場合、又は吸湿率が0.5%超えである場合に比べ、多孔質ポリイミド膜の透気速度が25秒以下であり、濡れ性が良好で、高強度である多孔質ポリイミド膜が提供される。
<9>に係る発明によれば、
多孔質ポリイミド膜の空隙率が80%超えである場合に比べ、高強度である多孔質ポリイミド膜が提供される。
<10>~<12>に係る発明によれば、
酸塩基滴定により求めた酸価が7mgKOH/g未満もしくは20mgKOH/g超えの場合、多孔質ポリイミド膜のポリイミド樹脂を構成するジアミンに由来する構造単位に対するテトラカルボン酸二酸無水物に由来する構造単位のモル比(テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位/ジアミンに由来する構造単位)が1.00未満もしくは1.15超えの場合、Liを除くアルカリ金属、アルカリ土類金属、およびケイ素からなる金属群の合計含有量が100ppm超えである場合、又は吸湿率が0.5%超えである場合に比べ、濡れ性が良好で、高強度である多孔質ポリイミド膜を含むリチウムイオン二次電池用セパレータ、前記リチウムイオン二次電池用セパレータを備えるリチウムイオン二次電池、又は濡れ性が良好で、高強度である多孔質ポリイミド膜を含む全固体電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜の形態の一例を示す模式図である。
【
図2】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の一例を表す部分断面模式図である。
【
図3】本実施形態に係る全固体電池の一例を示す部分断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本実施形態の多孔質ポリイミド膜について、好ましい2形態([第1実施形態]、[第2実施形態])を挙げて説明する。また、上記の2形態を合わせて、「本実施形態」とも称する。
【0012】
<多孔質ポリイミド膜>
[第1実施形態]
第1実施形態に係る多孔質ポリイミド膜は、酸塩基滴定により求めた多孔質ポリイミド膜の酸価が7mgKOH/g以上20mgKOH/g以下、Liを除くアルカリ金属、アルカリ土類金属、およびケイ素からなる金属群(以下、「特定金属群」とも称す。)の合計含有量が、多孔質ポリイミド膜に対して100ppm以下、多孔質ポリイミド膜の吸湿率が0.5%以下である。
【0013】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る多孔質ポリイミド膜は、多孔質ポリイミド膜のポリイミド樹脂を構成するジアミンに由来する構造単位に対するテトラカルボン酸二酸無水物に由来する構造単位のモル比(テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位/ジアミンに由来する構造単位)が1.00以上1.15以下、Liを除くアルカリ金属、アルカリ土類金属、およびケイ素からなる金属群(以下、「特定金属群」とも称す。)の合計含有量が、前記多孔質ポリイミド膜に対して100ppm以下、前記多孔質ポリイミド膜の吸湿率が0.5%以下である。
【0014】
本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜は、上記構成とすることで、濡れ性が良好で、高強度である多孔質ポリイミド膜が得られる。その理由は定かではないが、以下のように推測される。
なお、本明細書中において、ppmは質量基準である。
【0015】
本実施形態の多孔質ポリイミド膜は、多孔質ポリイミド膜の酸価が7mgKOH/g以上、又は、多孔質ポリイミド膜のポリイミド樹脂を構成するジアミンに由来する構造単位に対するテトラカルボン酸二酸無水物に由来する構造単位のモル比が1.00以上であるため、多孔質ポリイミド膜は酸基が十分に露出し、濡れ性が良好であると考えられる。また、特定金属群の合計含有量が100ppm以下であるため、本実施形態の多孔質ポリイミド膜は、高強度であると考えられる。
さらに、本実施形態の多孔質ポリイミド膜は、吸湿率が0.5%以下であるため、多孔質ポリイミド膜の使用時に膨潤しにくく、特に多湿環境下においても強度が安定するものと考えられる。
【0016】
ここで、従来の多孔質ポリイミド膜において、特定金属群の合計含有量が100ppmを超える場合の理由としては、例えば、次のことが考えられる。
例えば、濡れ性の向上のため、多孔質ポリイミド膜の表面のイミド結合を開環させ、膜の表面に酸基をより多く露出させるように、多孔質ポリイミド膜の表面が化学エッチング法により処理されることがある。この化学エッチング法では、無機アルカリ溶液又は有機アルカリ溶液等の化学エッチング液が使用されるため、多孔質ポリイミド膜の表面のイミド結合の開環処理後に、化学エッチング液中に含まれる特定金属群が多孔質ポリイミド膜に残留する。
【0017】
これに対して本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜は、特定金属群の合計含有量が、多孔質ポリイミド膜に対して、100ppm以下である。多孔質ポリイミド膜の強度向上の観点から、好ましくは50ppm以下であり、より好ましくは20ppm以下である。多孔質ポリイミド膜に対する特定金属群の合計含有量は、少ないほどよく、0ppmであることが好ましい。下限値は、1.0ppm以上であってもよい。なお、0ppmとは、検出限界以下を示す。
例えば、本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜が電池用のセパレータ(例えば、リチウムイオン二次電池用セパレータ)として適用される場合は、特定金属群の合計含有量を上記の範囲とすることで、多孔質ポリイミド膜中を透過するイオン流の乱れを生じると考えられる金属種の含有量が少ないため、サイクル特性の低下が抑制されると推測される。
なお、多孔質ポリイミド膜に含有する特定金属群の合計含有量は、測定対象となる多孔質ポリイミド膜を原子吸光分析装置により測定する。
【0018】
多孔質ポリイミド膜に含有する特定金属群の合計含有量を調整する方法は特に限定されないが、化学エッチングにより膜に特定金属群が混入することが考えられるので、少なとも化学エッチングが施されないことで、特定金属群の含有量を100ppm以下に抑えられると考えられる。また、例えば後述のポリイミド前駆体溶液に用いる樹脂粒子に含まれる特定金属群の合計含有量を低減させる方法も挙げられる
【0019】
以下、本実施形態の多孔質ポリイミド膜についてさらに詳細に説明する。
本実施形態において、「膜」は、一般的に「膜」と呼ばれているものだけでなく、一般的に「フィルム」及び「シート」と呼ばれているものをも包含する概念である。
【0020】
第1実施形態に係る多孔質ポリイミド膜は、酸塩基滴定により求めた多孔質ポリイミド膜の酸価が7mgKOH/g以上20mgKOH/g以下である。
多孔質ポリイミド膜の強度向上及び濡れ性向上の観点から、多孔質ポリイミド膜の酸価は、10mgKOH/g以上20mgKOH/g以下であることが好ましく、12mgKOH/g以上20mgKOH/g以下であることがより好ましい。
なお、多孔質ポリイミド膜を形成する酸基を含むモノマーの配合割合を調整することで、多孔質ポリイミド膜における酸価を上記の範囲に調整し得る。
【0021】
本実施形態における多孔質ポリイミド膜の酸価を上記の範囲とすることで、多孔質ポリイミド膜の表面の酸価だけでなく、膜の孔内の壁面の酸価も同様の範囲になると考えられる。多孔質ポリイミド膜の酸価は、以下の測定方法により定義される。
酸価は、多孔質ポリイミド膜1gを完全に中和するのに要するKOHの質量(mg)で定義され、JIS規格(JISK0070、1992)記載の方法により測定される値を採用する。多孔質ポリイミド膜は溶剤に溶解しないため膜の懸濁状態で測定する。
また、中和剤の中和度はカルボキシル基の全当量に対して使用される塩基性化合物の割合として求める。
【0022】
第2実施形態に係る多孔質ポリイミド膜は、多孔質ポリイミド膜のポリイミド樹脂を構成するジアミンに由来する構造単位に対するテトラカルボン酸二酸無水物に由来する構造単位のモル比(テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位/ジアミンに由来する構造単位)が1.00以上1.15以下である。
多孔質ポリイミド膜の強度向上及び濡れ性向上の観点から、多孔質ポリイミド膜の前記モル比(以下、「α値」とも称する。)は、1.04以上1.15以下であることが好ましく、1.06以上1.15以下であることがより好ましい。
【0023】
本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜中の酸基は、強度向上の観点から、多孔質ポリイミド膜を形成する多孔質ポリイミドの側鎖よりも末端に導入されることのほうが好ましい。
例えば、多孔質ポリイミド膜を形成する酸基を含むモノマーの配合割合を、上記の酸価又は上記のモル比(α値)を満たすように調製することにより、ポリイミド前駆体の末端に酸基を導入することができる。また、ポリイミド鎖の末端の酸基は、製膜した際に表面に露出しやすいため、濡れ性向上の観点からも有利である。
【0024】
(多孔質ポリイミド膜の特性)
-吸湿率-
本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜の吸湿率は、0.5%以下であることが好ましく、0.2%以下であることがより好ましい。また、多孔質ポリイミド膜の吸湿率の下限値として、0.01%以上でもよい。
本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜の吸湿率の測定方法については、後述する実施例で説明する。
【0025】
-引張強度-
本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜の引張強度は、10N/mm2以上100N/mm2以下であることが好ましい。高強度である多孔質ポリイミド膜を得る観点から、15N/mm2以上であることがより好ましく、20N/mm2以上であることが更に好ましい。
本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜の引張強度の測定方法については、後述する実施例で説明する。
【0026】
-平均膜厚-
本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜の平均膜厚は、特に限定されず、用途に応じて選択されるもので、例えば10μm以上1000μm以下であってもよい。平均膜厚は、20μm以上であってもよく、30μm以上であってもよく、また、500μm以下であってもよく、400μm以下であってもよい。
本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜の平均膜厚の測定方法については、後述する実施例で説明する。
【0027】
-透気速度-
本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜は、物質透過性の観点で、透気速度が25秒以下であることが好ましく、20秒以下であることがより好ましく、15秒以下であることが更に好ましい。下限値として5秒以上であってもよい
例えば、本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜が電池用のセパレータとして適用される場合は、透気速度を上記の範囲とすることで、サイクル特性の低下が抑制される。透気速度は、小さいほどサイクル特性に優れるため、0に近い値であるほど好ましい。
本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜の透気速度の測定方法については、後述の実施例で説明する。
【0028】
-空隙率-
本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜は、空隙率を50%以上80%以下とすることが、十分な膜の強度の維持の観点から好ましい。空隙率の下限は55%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましい。空孔率の上限は75%以下であることがより好ましく、70%以下であることが更に好ましい。
例えば、本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜が電池用のセパレータとして適用される場合は、サイクル特性に優れる観点で、上記と同様の範囲とすることがよい。
【0029】
本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜の空隙率は、多孔質ポリイミド膜の見かけ密度と真密度から求める値である。見かけの密度とは、多孔質ポリイミド膜の質量(g)を、空孔を含めた多孔質ポリイミド膜全体の体積(cm3)で除した値である。真密度ρとは、多孔質ポリイミド膜の質量(g)を、空孔を除く多孔ポリイミド膜の体積(cm3)で除した値である。多孔質ポリイミド膜の空隙率は、下記式で計算される。
(式) 空隙率(%)={1-(d/ρ)}×100=[1-{(w/t)/ρ)}]×100
d:多孔質ポリイミド膜の見かけ密度(g/cm3)
ρ:多孔質ポリイミド膜の真密度(g/cm3)
w:多孔質ポリイミド膜の単位面積当たりの重量(g/m2)
t:多孔質ポリイミド膜の厚み(μm)
【0030】
<多孔質ポリイミド膜の製造方法>
多孔質ポリイミド膜に含有するポリイミドは、具体的には、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合してポリイミド前駆体を生成し、ポリイミド前駆体の溶液を得て、イミド化反応させて得られる。より具体的には、ポリイミドは、水を含む水性溶剤に、ポリイミド前駆体と有機アミン化合物とが溶解しているポリイミド前駆体溶液を用いてイミド化反応させて得られる。例えば、水性溶剤中で、有機アミン化合物の存在下、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂(ポリイミド前駆体)を生成してポリイミド前駆体溶液を得る方法が挙げられる。
【0031】
なお、有機アミン化合物の存在下、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂(ポリイミド前駆体)を生成してポリイミド前駆体溶液を得ることを挙げたが、この例に限定されるものではない。例えば、有機アミン化合物が溶解していないポリイミド前駆体溶液を用いる方法が挙げられる。具体的には、水溶性エーテル系溶剤、水溶性ケトン系溶剤、水溶性アルコール系溶剤及び水から選ばれる水性混合溶剤(例えば、水溶性エーテル系溶剤と水、又は水溶性ケトン系溶剤と水等の混合溶剤、水溶性アルコール系溶剤との組合せ等)中でテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合してポリイミド前駆体を生成してポリイミド前駆体溶液を得る方法も挙げられる。
【0032】
以下、本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜の好適な製造方法の一例について説明する。
本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜の製造方法は、下記に挙げる第1の工程、第2の工程、及び第3の工程を有する。
なお、製造方法の説明において、参照する
図1中では、同じ構成部分には、同じ符号を付している。
図1中の符号において31は基板、51は剥離層、10Aは空孔、及び10は多孔質ポリイミド膜を表す。
【0033】
第1の工程は、水性溶剤、樹脂粒子、有機アミン化合物、およびポリイミド前駆体を含有するポリイミド前駆体溶液(以下、「樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液」とも称する。)を塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜を乾燥して、前記ポリイミド前駆体及び前記樹脂粒子を含む被膜を形成する工程である。
【0034】
第2の工程は、被膜を加熱して、ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド膜を形成する第2の工程であって、樹脂粒子を除去する処理を含む工程である。
なお、樹脂粒子を除去する処理が、樹脂粒子を溶解する有機溶剤により樹脂粒子を除去する場合、樹脂が架橋しているために除去性が低いときであっても、加熱により除去することができる。
【0035】
第3の工程は、第2の工程で得られた多孔質ポリイミド膜を酸処理する工程である。
具体的には、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などの酸を使用して、第2の工程で得られた多孔質ポリイミド膜から特定金属群を除去する工程である。
第3の工程を行うことにより、得られた多孔質ポリイミド膜の吸湿率を目的とする値に低減させることができる。
【0036】
(第1の工程)
第1の工程は、まず、水性溶剤、樹脂粒子、有機アミン化合物、およびポリイミド前駆体を含有するポリイミド前駆体溶液(以下、「樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液」と称することがある。)を作製する。
ポリイミド前駆体溶液は、まず、樹脂粒子と、水性溶剤にポリイミド前駆体が溶解しているポリイミド前駆体溶液とを準備する。ポリイミド前駆体が溶解しているポリイミド前駆体溶液としては、ポリイミド前駆体及び有機アミン化合物が溶解しているポリイミド前駆体溶液である。
そして、樹脂粒子と、ポリイミド前駆体及び有機アミン化合物が溶解しているポリイミド前駆体溶液とを混合して、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液とする。
次に、得られた樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液を、基板上に塗布して塗膜を形成する。この塗膜には、ポリイミド前駆体溶液と、樹脂粒子と、を含んでいる。そして、この塗膜中の樹脂粒子は、凝集が抑制された状態で分布している。その後、基板上に形成された塗膜を乾燥して、ポリイミド前駆体及び前記樹脂粒子を含む被膜を形成する。
【0037】
ポリイミド前駆体及び樹脂粒子を含む被膜が形成される基板としては、特に制限されない。例えば、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂製基板;ガラス製基板;セラミック製基板;鉄、ステンレス鋼(SUS)等の金属基板;これらの材料が組み合わされた複合材料基板等が挙げられる。また、基板には、必要に応じて、例えば、シリコーン系やフッ素系の剥離剤等による剥離処理を行って剥離層を設けてもよい。また、基材の表面を樹脂粒子の粒子径程度の大きさに粗面化し、基材接触面での樹脂粒子の露出を促進することも効果的である。
【0038】
基板上に、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液を塗布する方法としては、特に限定されない。例えば、スプレー塗布法、回転塗布法、ロール塗布法、バー塗布法、スリットダイ塗布法、インクジェット塗布法等の各種の方法が挙げられる。
【0039】
なお、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液を基板上に形成する場合には、樹脂粒子が塗膜の表面から露出する量の樹脂粒子を加え、形成することがよい。
【0040】
そして、以上の方法により得られたポリイミド前駆体溶液と樹脂粒子とを含む塗膜を形成した後、乾燥して、ポリイミド前駆体及び樹脂粒子を含む被膜が形成される。具体的には、ポリイミド前駆体溶液と樹脂粒子とを含む塗膜を、例えば、加熱乾燥、自然乾燥、真空乾燥等の方法により乾燥させて、被膜を形成する。より具体的には、被膜に残留する溶剤が、被膜の固形分に対して50%以下(好ましくは30%以下)となるように、塗膜を乾燥させて、被膜を形成する。この被膜は、ポリイミド前駆体が、水に溶解できる状態である。
また、塗膜を得た後、乾燥して被膜を形成する過程で、樹脂粒子を露出させる処理を行って、樹脂粒子を露出させた状態にしてもよい。この樹脂粒子を露出させる処理を行うことによって、多孔質ポリイミド膜の開孔率が高められる。
【0041】
樹脂粒子を露出させる処理としては、具体的には、例えば、次に示す方法が挙げられる。
【0042】
ポリイミド前駆体溶液及び樹脂粒子を含む塗膜を得た後、塗膜を乾燥して、ポリイミド前駆体及び樹脂粒子を含む被膜を形成する過程では、前述のように、被膜は、ポリイミド前駆体が、水に溶解できる状態である。被膜がこの状態のときに、例えば、拭き取る処理、又は水に浸漬する処理等により、樹脂粒子を露出させることができる。具体的には、例えば、水拭きにより樹脂粒子層を露出させる処理を行うことで、樹脂粒子層上に存在していたポリイミド前駆体溶液が除去される。そして、樹脂粒子層の上部の領域(つまり、樹脂粒子層の基板から離れた側の領域)に存在する樹脂粒子が、被膜の表面から露出される。
【0043】
なお、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液を用いて基板上に被膜を形成する場合において、樹脂粒子が埋没した被膜を形成した場合にも、被膜に埋没している樹脂粒子を露出させる処理として、前述の樹脂粒子を露出させる処理と同様の処理を採用し得る。
【0044】
樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液を作製する方法は、前述の作製方法に限られない。工程簡略化の観点で、ポリイミド前駆体溶液に溶解しない樹脂粒子が予め水性溶剤に分散されている水性溶剤分散液中で、ポリイミド前駆体を合成するのも好ましい。例えば、具体的には、次の方法が挙げられる。
水を含む水性溶剤中で、樹脂粒子を造粒した樹脂粒子分散液とする。そして、この樹脂粒子分散液中で、有機アミン化合物の存在下、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂(ポリイミド前駆体)を生成してポリイミド前駆体溶液とする。
【0045】
樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液の作製方法としては、さらに、例えば、ポリイミド前駆体溶液と乾燥状態の樹脂粒子とを混合する方法、ポリイミド前駆体溶液と、樹脂粒子が予め水性溶剤に分散されている分散液とを混合する方法等が挙げられる。
なお、樹脂粒子が予め水性溶剤に分散されている分散液としては、予め樹脂粒子を水性溶剤に分散させた樹脂粒子の分散液を作製してもよい。樹脂粒子が予め水性溶剤に分散されている市販品の分散液を用意してもよい。市販品の分散液を用いる場合、多孔質ポリイミド膜に含有する金属群の合計含有量が、多孔質ポリイミド膜に対して100ppm以下となる分散液がよい。なお、予め分散させた樹脂粒子の分散液を作製する場合、特定金属群の金属を含まない界面活性剤をあらかじめ加え、樹脂粒子の分散性を高めてもよい。
【0046】
そして、上記のようにして得られた樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液を、前述の方法によって基板上に塗布して塗膜を形成する。その後、この塗膜を乾燥して、被膜が基板上に形成される。
【0047】
(第2の工程)
第2の工程は、第1の工程で得られたポリイミド前駆体及び樹脂粒子を含む被膜を加熱して、ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド膜を形成する工程である。そして、第2の工程には、樹脂粒子を除去する処理を含んでいる。樹脂粒子を除去する処理を経て、多孔質ポリイミド膜が得られる。
【0048】
第2の工程において、ポリイミド膜を形成する工程は、具体的に、第1の工程で得られたポリイミド前駆体及び樹脂粒子を含む被膜を加熱して、イミド化を進行させ、さらに加熱して、ポリイミド膜が形成される。なお、イミド化が進行し、イミド化率が高くなるにしたがい、有機溶剤に溶解し難くなる。
【0049】
そして、第2の工程において、樹脂粒子を除去する処理を行う。樹脂粒子の除去は、被膜を加熱して、ポリイミド前駆体をイミド化する過程において除去してもよく、イミド化が完了した後(イミド化後)のポリイミド膜から除去してもよい。
なお、本実施形態において、ポリイミド前駆体をイミド化する過程とは、第1の工程で得られたポリイミド前駆体及び樹脂粒子を含む被膜を加熱して、イミド化を進行させ、イミド化が完了した後のポリイミド膜となるよりも前の状態となる過程を示す。
【0050】
具体的には、第1の工程で得られた樹脂粒子が露出した塗膜を加熱し、ポリイミド前駆体をイミド化する過程の被膜(以下、この状態の被膜を「ポリイミド膜」と称することがある)から、樹脂粒子を除去する。又はイミド化が完了した後のポリイミド膜から、樹脂粒子を除去してもよい。そして、樹脂粒子が除去された多孔質ポリイミド膜が得られる(
図1参照)。
【0051】
なお、樹脂粒子を除去する過程で、樹脂粒子の樹脂成分が、ポリイミド樹脂以外の樹脂として、多孔質ポリイミド膜に含有され場合がある。図示はしないが、多孔質ポリイミド膜には、ポリイミド樹脂以外の樹脂を含有してもよい。
【0052】
樹脂粒子を除去する処理は、樹脂粒子の除去性等の点で、ポリイミド前駆体をイミド化する過程において、ポリイミド膜中のポリイミド前駆体のイミド化率が10%以上であるときに行うことが好ましい。イミド化率が10%以上になると、有機溶剤に溶解し難い状態となりやすく、形態を維持しやすい。
【0053】
樹脂粒子を除去する処理としては、多孔質ポリイミド膜が得られるのであれば、特に限定されない。例えば、樹脂粒子を加熱により分解除去する方法、樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法、樹脂粒子をレーザ等による分解により除去する方法等が挙げられる。
この樹脂粒子の除去は、例えば、イミド化の工程も兼ねて熱による分解除去のみで行ってもよいが、加熱による分解除去と樹脂粒子を溶解する有機溶剤による除去とを併用してもよい。残留応力をより緩和しやすくなり、多孔質ポリイミド膜の亀裂の発生を抑制する点から、樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する処理を含む方法が好ましい。なお、この作用は、有機溶剤により除去する処理では、有機溶剤に溶解した樹脂成分がポリイミド樹脂中に移行し易くなるためと推測される。
【0054】
例えば、加熱により除去する方法では、樹脂粒子の種類によっては、加熱による分解ガスが発生する場合がある。そして、この分解ガスに起因して、多孔質ポリイミド膜には、破断や亀裂等が発生する場合があり得る。そのため、亀裂の発生を抑制する点で、樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法を採用するほうが好ましい。
なお、樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去した後に、さらに加熱を行い、除去率を上げることも効果的である。
【0055】
また、樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法によって樹脂粒子を除去する場合、樹脂粒子を除去する過程で、有機溶剤に溶解した樹脂粒子の樹脂成分が、ポリイミド膜中に浸入する場合がある。そのため、この方法を採用することで、得られた多孔質ポリイミド膜中には、ポリイミド樹脂以外の樹脂を積極的に含有させ得る。ポリイミド樹脂以外の樹脂を含有させる点でも、樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法を採用するほうが好ましい。さらに、この方法による樹脂粒子の除去は、ポリイミド樹脂以外の樹脂を含有させる点で、ポリイミド前駆体をイミド化する過程の被膜(ポリイミド膜)に対して行うことが好ましい。ポリイミド膜の状態で、樹脂粒子を溶解する溶剤により、樹脂粒子を溶解することで、よりポリイミド膜中に浸入しやすくなる場合がある。
【0056】
樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法としては、例えば、樹脂粒子が溶解する有機溶剤と接触(例えば、溶剤中に浸漬、又は溶剤蒸気と接触)させ、樹脂粒子を溶解して除去する方法が挙げられる。この状態のときに、溶剤中に浸漬すると、樹脂粒子の溶解効率が高まる点で好ましい。
【0057】
樹脂粒子を除去するための樹脂粒子を溶解する有機溶剤としては、ポリイミド膜、及びイミド化が完了したポリイミド膜を溶解せず、樹脂粒子が可溶な有機溶剤であれば、特に限定されるものではない。例えば、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン等の芳香族類;アセトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;が挙げられる。
これらの中でも、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン等の芳香族類が好ましく、テトラヒドロフラン、トルエンを用いることがさらに好ましい。
樹脂粒子を溶解する際に水性溶剤が残留している場合には、水性溶剤が非架橋樹脂粒子を溶解する溶剤中に溶解し、ポリイミド前駆体が析出し、いわゆる湿式相転換法と類似の状態となり、空孔径の制御が困難となる場合があるため、残留している水性溶剤量は、ポリイミド前駆体質量に対して20質量%以下、好ましくは10質量%以下に低減した後に有機溶剤で非架橋樹脂粒子を溶解除去することが好ましい。
【0058】
第2の工程において、第1の工程で得た被膜を加熱して、イミド化を進行させてポリイミド膜を得るための加熱方法としては、特に限定されない。例えば、2段階以上の多段階で加熱する方法が挙げられる。例えば、2段階で加熱する場合、具体的には、例えば、以下に示す加熱条件が挙げられる。
【0059】
第1段階の加熱条件としては、樹脂粒子の形状が保持される温度であることが望ましい。具体的には、例えば、50℃以上150℃以下の範囲がよく、60℃以上140℃以下の範囲が好ましい。また、加熱時間としては、10分間以上60分間以下の範囲がよい。加熱温度が高いほど加熱時間は短くてよい。
【0060】
第2段階の加熱条件としては、例えば、150℃以上450℃以下(好ましくは200℃以上400℃以下)で、20分間以上120分間以下の条件で加熱することが挙げられる。この範囲の加熱条件とすることで、イミド化反応がさらに進行し、ポリイミド膜が形成され得る。加熱反応の際、加熱の最終温度に達する前に、温度を段階的、又は一定速度で徐々に上昇させて加熱することがよい。
【0061】
なお、加熱条件は上記の2段階の加熱方法に限らず、例えば、1段階で加熱する方法を採用してもよい。1段階で加熱する方法の場合、例えば、上記の第2段階で示した加熱条件のみによってイミド化を完了させてもよい。
【0062】
なお、第1の工程で、樹脂粒子を露出させる処理を施さない場合、開孔率を高める点で、第2の工程において、樹脂粒子を露出させる処理を行って樹脂粒子を露出させた状態としてもよい。第2の工程において、樹脂粒子を露出させる処理は、ポリイミド前駆体のイミド化を行う過程、又はイミド化後、且つ、樹脂粒子を除去する処理よりも前で行うことが好ましい。
【0063】
樹脂粒子を露出させる処理は、例えば、ポリイミド膜が次に示す状態であるときに施すことが挙げられる。
ポリイミド膜中のポリイミド前駆体のイミド化率が10%未満であるとき(すなわち、ポリイミド膜が水に溶解できる状態)に樹脂粒子を露出させる処理を行う場合、上記のポリイミド膜中に埋没している樹脂粒子を露出させる処理としては、拭き取る処理、水に浸漬する処理等が挙げられる。
【0064】
また、ポリイミド膜中のポリイミド前駆体のイミド化率が10%以上であるとき(すなわち、有機溶剤に溶解し難い状態)、及びイミド化が完了したポリイミド膜となった状態であるときに樹脂粒子を露出させる処理を行う場合には、紙やすり等の工具類で機械的に切削して樹脂粒子を露出させる方法、ポリイミド樹脂を溶解するアルカリ溶液などでエッチングする方法、レーザ等で分解して樹脂粒子を露出させる方法が挙げられる。
例えば、機械的に切削する場合には、ポリイミド膜に埋没している樹脂粒子層の上部の領域(つまり、樹脂粒子層の基板から離れた側の領域)に存在する樹脂粒子の一部分が、樹脂粒子の上部に存在しているポリイミド膜とともに切削され、切削された樹脂粒子がポリイミド膜の表面から露出される。
【0065】
その後、樹脂粒子が露出されたポリイミド膜から、既述の樹脂粒子の除去処理により樹脂粒子を除去する。そして、樹脂粒子が除去された多孔質ポリイミド膜が得られる。
【0066】
なお、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液を用いて基板上に被膜を形成する場合、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液を基板上に塗布し、樹脂粒子が埋没した塗膜を形成する。この塗膜を乾燥して被膜を形成する過程で、樹脂粒子を露出させる処理を行わずに、ポリイミド前駆体及び樹脂粒子を含む被膜を形成すると、樹脂粒子が埋没した被膜が形成される場合がある。例えば、樹脂粒子が埋没した被膜を加熱すると、イミド化する過程の被膜(ポリイミド膜)は、樹脂粒子層が埋没されている状態となる。開孔率を高めるために、第2の工程において行う、樹脂粒子を露出させる処理としては、既述の樹脂粒子を露出させる処理と同様の処理を採用し得る。そして、樹脂粒子の上部に存在しているポリイミド膜とともに切削され、樹脂粒子がポリイミド膜の表面から露出される。
【0067】
その後、樹脂粒子が露出されたポリイミド膜から、既述の樹脂粒子の除去処理により樹脂粒子を除去する。そして、樹脂粒子が除去された多孔質ポリイミド膜が得られる。
【0068】
なお、第2の工程において、第1の工程で使用した上記の被膜を形成するための基板は、乾燥した被膜となったときに剥離してもよく、ポリイミド膜中のポリイミド前駆体が、有機溶剤に溶解し難い状態となったときに剥離してもよく、イミド化が完了したフィルムになった状態のときに剥離してもよい。
【0069】
(第3の工程)
第3の工程は、第2の工程で得られた多孔質ポリイミド膜を酸処理する工程である。
具体的には、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などの酸を使用して、酸処理を行う工程である。
酸処理の条件として、温度は5℃~70℃(より好ましくは10℃~50℃)で、時間は10秒~60分(より好ましくは30秒~30分)の条件で処理することがよい。この酸処理する工程を行うことで、多孔質ポリイミド膜の吸湿率を、0.5%以下に制御することができる。
また、酸処理後の多孔質ポリイミド膜に対して、水、アルコール、水溶性エーテル類などを用いて、洗浄を行ってもよい。洗浄の条件として、温度は5℃~70℃(より好ましくは10℃~50℃)で、時間は10秒~60分(より好ましくは30秒~30分)の条件で行うことがよい。この洗浄する工程を行うことで、ポリイミド膜に含まれる特定金属群の合計含有量を低減させることができる。
【0070】
以上の工程を経て、ポリイミド樹脂とポリイミド樹脂以外の樹脂とを含有する多孔質ポリイミド膜が得られる。そして、多孔質ポリイミド膜は、使用目的によって後加工してもよい。
【0071】
ここで、ポリイミド前駆体のイミド化率について説明する。
一部がイミド化したポリイミド前駆体は、例えば、下記一般式(I-1)、下記一般式(I-2)、及び下記一般式(I-3)で表される繰り返し単位を有する構造の前駆体が挙げられる。
【0072】
【0073】
一般式(I-1)、一般式(I-2)、及び一般式(I-3)中、Aは4価の有機基を示し、Bは2価の有機基を示す。lは1以上の整数を示し、m及びnは、各々独立に0又は1以上の整数を示す。
【0074】
なお、A及びBは、後述の一般式(I)中のA及びBと同義である。
【0075】
ポリイミド前駆体のイミド化率は、ポリイミド前駆体の結合部(テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との反応部)において、イミド閉環している結合部数(2n+m)の全結合部数(2l+2m+2n)に対する割合を表す。つまり、ポリイミド前駆体のイミド化率は、「(2n+m)/(2l+2m+2n)」で示される。
【0076】
なお、ポリイミド前駆体のイミド化率(「(2n+m)/(2l+2m+2n)」の値)は、次の方法により測定される。
【0077】
-ポリイミド前駆体のイミド化率の測定-
・ポリイミド前駆体試料の作製
(i)測定対象となるポリイミド前駆体溶液を、シリコーンウェハー上に、膜厚1μm以上10μm以下の範囲で塗布して、塗膜試料を作製する。
(ii)塗膜試料をテトラヒドロフラン(THF)中に20分間浸漬させて、塗膜試料中の溶剤をテトラヒドロフラン(THF)に置換する。浸漬させる溶剤は、THFに限定されることなく、ポリイミド前駆体を溶解せず、ポリイミド前駆体溶液に含まれている溶剤成分と混和し得る溶剤より選択できる。具体的には、メタノール、エタノールなどのアルコール溶剤、ジオキサンなどのエーテル化合物が使用できる。
(iii)塗膜試料を、THF中より取り出し、塗膜試料表面に付着しているTHFにN2ガスを吹き付け、取り除く。10mmHg以下の減圧下、5℃以上25℃以下の範囲にて12時間以上処理して塗膜試料を乾燥させ、ポリイミド前駆体試料を作製する。
【0078】
・100%イミド化標準試料の作製
(iv)上記(i)と同様に、測定対象となるポリイミド前駆体溶液をシリコーンウェハー上に塗布して、塗膜試料を作製する。
(v)塗膜試料を380℃にて60分間加熱してイミド化反応を行い、100%イミド化標準試料を作製する。
【0079】
・測定と解析
(vi)フーリエ変換赤外分光光度計(堀場製作所製、FT-730)を用いて、100%イミド化標準試料、ポリイミド前駆体試料の赤外吸光スペクトルを測定する。100%イミド化標準試料の1500cm-1付近の芳香環由来吸光ピーク(Ab’(1500cm-1))に対する、1780cm-1付近のイミド結合由来の吸光ピーク(Ab’(1780cm-1))の比I’(100)を求める。
(vii)同様にして、ポリイミド前駆体試料について測定を行い、1500cm-1付近の芳香環由来吸光ピーク(Ab(1500cm-1))に対する、1780cm-1付近のイミド結合由来の吸光ピーク(Ab(1780cm-1))の比I(x)を求める。
【0080】
そして、測定した各吸光ピークI’(100)、I(x)を使用し、下記式に基づき、ポリイミド前駆体のイミド化率を算出する。
・式: ポリイミド前駆体のイミド化率=I(x)/I’(100)
・式: I’(100)=(Ab’(1780cm-1))/(Ab’(1500cm-1))
・式: I(x)=(Ab(1780cm-1))/(Ab(1500cm-1))
【0081】
なお、このポリイミド前駆体のイミド化率の測定は、芳香族系ポリイミド前駆体のイミド化率の測定に適用される。脂肪族ポリイミド前駆体のイミド化率を測定する場合、芳香環の吸収ピークに代えて、イミド化反応前後で変化のない構造由来のピークを内部標準ピークとして使用する。
【0082】
次に、実施形態に係る多孔質ポリイミド膜を製造するためのポリイミド前駆体における各成分について説明する。
【0083】
〔ポリイミド前駆体溶液〕
ポリイミド前駆体溶液は、水性溶剤、樹脂粒子、有機アミン化合物、およびポリイミド前駆体を含有する。
【0084】
-ポリイミド前駆体-
ポリイミド前駆体は、一般式(I)で表される繰り返し単位を有する樹脂(ポリイミド前駆体)である。
【0085】
【0086】
(一般式(I)中、Aは4価の有機基を示し、Bは2価の有機基を示す。)
【0087】
ここで、一般式(I)中、Aが表す4価の有機基としては、原料となるテトラカルボン酸二無水物より4つのカルボキシル基を除いたその残基である。
一方、Bが表す2価の有機基としては、原料となるジアミン化合物から2つのアミノ基を除いたその残基である。
【0088】
つまり、一般式(I)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合体である。
【0089】
テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も挙げられるが、芳香族系の化合物であることがよい。つまり、一般式(I)中、Aが表す4価の有機基は、芳香族系有機基であることがよい。
【0090】
芳香族系テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’-パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルメタン二無水物等を挙げられる。
【0091】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシノルボナン-2-酢酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]-オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族又は脂環式テトラカルボン酸二無水物;1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン等の芳香環を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0092】
これらの中でも、テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族系テトラカルボン酸二無水物がよく、具体的には、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物がよく、更に、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物がよく、特に、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がよい。
【0093】
なお、テトラカルボン酸二無水物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。
また、2種以上を組み合わせて併用する場合、芳香族テトラカルボン酸二無水物、又は脂肪族テトラカルボン酸を各々併用しても、芳香族テトラカルボン酸二無水物と脂肪族テトラカルボン酸二無水物とを組み合わせてもよい。
【0094】
一方、ジアミン化合物は、分子構造中に2つのアミノ基を有するジアミン化合物である。ジアミン化合物としては、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も挙げられるが、芳香族系の化合物であることがよい。つまり、一般式(I)中、Bが表す2価の有機基は、芳香族系有機基であることがよい。
【0095】
ジアミン化合物としては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,5-ジアミノナフタレン、3,3-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、5-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、6-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,5-ジアミノ-3’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,5-ジアミノ-4’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,7-ジアミノフルオレン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)、2,2’,5,5’-テトラクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジクロロ-4,4’-ジアミノ-5,5’-ジメトキシビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)-ビフェニル、1,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4’-(p-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’-(m-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチル)フェノキシ]-オクタフルオロビフェニル等の芳香族ジアミン;ジアミノテトラフェニルチオフェン等の芳香環に結合された2個のアミノ基と当該アミノ基の窒素原子以外のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン;1,1-メタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4-ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、イソフォロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6,2,1,02.7]-ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂肪族ジアミン及び脂環式ジアミン等が挙げられる。
【0096】
これらの中でも、ジアミン化合物としては、芳香族系ジアミン化合物がよく、具体的には、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンがよく、特に、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、p-フェニレンジアミンがよい。
【0097】
なお、ジアミン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。また、2種以上を組み合わせて併用する場合、芳香族ジアミン化合物、又は脂肪族ジアミン化合物を各々併用しても、芳香族ジアミン化合物と脂肪族ジアミン化合物とを組み合わせてもよい。
【0098】
ポリイミド前駆体の数平均分子量は、1000以上150000以下であることがよく、より好ましくは5000以上130000以下、更に好ましくは10000以上100000以下である。
ポリイミド前駆体の数平均分子量を上記範囲とすると、ポリイミド前駆体の溶剤に対する溶解性の低下が抑制され、製膜性が確保され易くなる。
【0099】
ポリイミド前駆体の数平均分子量は、下記測定条件のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法で測定される。
・カラム:東ソーTSKgelα-M(7.8mm I.D×30cm)
・溶離液:DMF(ジメチルホルムアミド)/30mMLiBr/60mMリン酸
・流速:0.6mL/min
・注入量:60μL
・検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0100】
ポリイミド前駆体の含有量(濃度)は、全ポリイミド前駆体溶液に対して、0.1質量%以上40質量%以下であることがよく、好ましくは0.5質量%以上25質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下である。
【0101】
〔有機アミン化合物〕
有機アミン化合物は、ポリイミド前駆体(そのカルボキシル基)をアミン塩化して、その水性溶剤に対する溶解性を高めると共に、イミド化促進剤としても機能する化合物である。具体的には、有機アミン化合物は、分子量170以下のアミン化合物であることがよい。有機アミン化合物は、ポリイミド前駆体の原料となるジアミン化合物を除く化合物であることがよい。
なお、有機アミン化合物は、水溶性の化合物であることがよい。水溶性とは、25℃において、対象物質が水に対して1質量%以上溶解することを意味する。
【0102】
有機アミン化合物としては、1級アミン化合物、2級アミン化合物、3級アミン化合物が挙げられる。
これらの中でも、有機アミン化合物としては、2級アミン化合物、及び3級アミン化合物から選択される少なくとも一種(特に、3級アミン化合物)がよい。有機アミン化合物として、3級アミン化合物又は2級アミン化合物を適用すると(特に、3級アミン化合物)、ポリイミド前駆体の溶剤に対する溶解性が高まり易くなり、製膜性が向上し易くなり、また、ポリイミド前駆体溶液の保存安定性が向上し易くなる。
【0103】
また、有機アミン化合物としては、1価のアミン化合物以外にも、2価以上の多価アミン化合物も挙げられる。2価以上の多価アミン化合物を適用すると、ポリイミド前駆体の分子間に疑似架橋構造を形成し易くなり、また、ポリイミド前駆体溶液の保存安定性が向上し易くなる。
【0104】
1級アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、2-エタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、などが挙げられる。
2級アミン化合物としては、例えば、ジメチルアミン、2-(メチルアミノ)エタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、モルホリンなどが挙げられる。
3級アミン化合物としては、例えば、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノプロパノール、ピリジン、トリエチルアミン、ピコリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、N-メチルピペリジン、N-エチルピペリジンなどが挙げられる。
ポリイミド前駆体溶液のポットライフ、フィルム膜厚均一性の観点で、3級アミン化合物が好ましい。この点で、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノプロパノール、ピリジン、トリエチルアミン、ピコリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、N-メチルピペリジン、N-エチルピペリジンからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。特にN-アルキルモルホリンが好ましく用いられる。
【0105】
ここで、有機アミン化合物としては、製膜性の点から、窒素を含有する複素環構造を有する脂肪族環状構造または芳香族環状構造のアミン化合物(以下、「含窒素複素環アミン化合物」と称する)も好ましい。含窒素複素環アミン化合物としては、3級アミン化合物であることがより好ましい。
含窒素複素環アミン化合物としては、例えば、イソキノリン類(イソキノリン骨格を有するアミン化合物)、ピリジン類(ピリジン骨格を有するアミン化合物)、ピリミジン類(ピリミジン骨格を有するアミン化合物)、ピラジン類(ピラジン骨格を有するアミン化合物)、ピペラジン類(ピペラジン骨格を有するアミン化合物)、トリアジン類(トリアジン骨格を有するアミン化合物)、イミダゾール類(イミダゾール骨格を有するアミン化合物)、モルホリン類(モルホリン骨格を有するアミン化合物)、ポリアニリン、ポリピリジン、ポリアミンなどが挙げられる。
【0106】
含窒素複素環アミン化合物としては、製膜性の点から、モルホリン類、ピリジン類、ピペリジン類、およびイミダゾール類よりなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、モルホリン類(モルホリン骨格を有するアミン化合物)であることがより好ましい。これらの中でも、N-メチルモルホリン、N-メチルピペリジン、ピリジン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、およびピコリンよりなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましく、N-メチルモルホリンであることがより好ましい。
【0107】
これらの中でも、有機アミン化合物としては、沸点が60℃以上(好ましくは60℃以上200℃以下、より好ましくは70℃以上150℃以下)の化合物であることがよい。有機アミン化合物の沸点を60℃以上とすると、保管するときに、ポリイミド前駆体溶液から有機アミン化合物が揮発するのを抑制し、ポリイミド前駆体の溶剤に対する溶解性の低下が抑制され易くなる。
【0108】
有機アミン化合物は、ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体のカルボキシル基(-COOH)に対して、50モル%以上500モル%以下で含有することがよく、好ましくは80モル%以上250モル%以下、より好ましくは90モル%以上200モル%以下で含有することである。
有機アミン化合物の含有量を上記範囲とすると、ポリイミド前駆体の溶剤に対する溶解性が高まり易くなり、製膜性が向上し易くなる。また、ポリイミド前駆体溶液の保存安定性も向上し易くなる。
【0109】
上記の有機アミン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0110】
〔水を含む水性溶剤〕
水を含む水性溶剤は、具体的には、全水性溶剤に対して水を50質量%以上含有する溶剤であることがよい。水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、限外濾過水、純水等が挙げられる。
【0111】
水の含有量は、全水性溶剤に対して、50質量%以上100質量%以下が好ましく、70質量%以上100質量%以下がより好ましく、80質量%以上100質量%以下が更に好ましい。
【0112】
なお、水性溶剤が水以外の溶剤を含む場合、水以外の溶剤としては、例えば、水溶性有機溶剤が挙げられる。水以外の溶剤としては、ポリイミド成形体の透明性、機械的強度等の点から、水溶性の有機溶剤が好ましい。ここで、水溶性とは、25℃において、対象物質が水に対して1質量%以上溶解することを意味する。
【0113】
上記水溶性の有機溶剤は、1種単独で用いてもよいが、2種以上併用してもよい。
【0114】
水溶性エーテル系溶剤は、一分子中にエーテル結合を持つ水溶性の溶剤である。水溶性エーテル系溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、トリオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、水溶性エーテル系溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジオキサンが好ましい。
【0115】
水溶性ケトン系溶剤は、一分子中にケトン基を持つ水溶性の溶剤である。水溶性ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。これらの中でも、水溶性ケトン系溶剤としては、アセトンが好ましい。
【0116】
水溶性アルコール系溶剤は、一分子中にアルコール性水酸基を持つ水溶性の溶剤である。水溶性アルコール系溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールのモノアルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールのモノアルキルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールのモノアルキルエーテル、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、グリセリン、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール等が挙げられる。これらの中でも、水溶性アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールのモノアルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールのモノアルキルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールのモノアルキルエーテルが好ましい。
【0117】
非プロトン性極性溶剤は、具体的には、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド(DEAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチレンホスホルアミド(HMPA)、N-メチルカプロラクタム、N-アセチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、1,3-ジメチル-イミダゾリドン等が挙げられる。
【0118】
なお、水性溶剤として水以外の溶剤を含有する場合、併用される溶剤は、沸点が270℃以下であることがよく、好ましくは60℃以上250℃以下、より好ましくは80℃以上230℃以下である。併用される溶剤の沸点を上記範囲とすると、水以外の溶剤がポリイミド成形体に残留し難くなり、また、機械的強度の高いポリイミド成形体が得られ易くなる。
【0119】
ここで、ポリイミド前駆体が溶剤に溶解する範囲は、水の含有量、有機アミン化合物の種類及び量によって制御される。水の含有量が低い範囲では、有機アミン化合物の含有量が少ない領域でポリイミド前駆体は溶解し易くなる。逆に、水の含有量が高い範囲では、有機アミン化合物の含有量が多い領域でポリイミド前駆体は溶解し易くなる。また、有機アミン化合物が水酸基を有するなど親水性が高い場合は、水の含有量が高い領域でポリイミド前駆体は溶解し易くなる。
【0120】
また、非プロトン性極性溶剤等(例えば、N-メチルピロリドン(NMP)等)の有機溶剤で合成したポリイミド前駆体を水や、アルコール等の貧溶剤に添加、析出させ、分離したものを、ポリイミド前駆体としてもよい。
【0121】
〔樹脂粒子〕
樹脂粒子は、水を含む水性溶剤に溶解しないものである。また、樹脂粒子は、ポリイミド前駆体溶液に溶解しないものである。
樹脂粒子としては、特に限定されるものではないが、ポリイミド以外の樹脂からなる樹脂粒子である。例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等の重合性単量体を重縮合して得られた樹脂粒子、ビニル樹脂、オレフィン樹脂等の重合性単量体をラジカル重合して得られた樹脂粒子が挙げられる。ラジカル重合して得られた樹脂粒子としては、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン・(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂の樹脂粒子等が挙げられる。
樹脂粒子としては、前述の第2工程で行う樹脂粒子の除去の点から、ポリイミド樹脂を溶解しない溶剤に可溶な樹脂粒子であることが好ましい。
また、これらの中でも、樹脂粒子としては、粒子形状の制御、除去性の観点から、ラジカル重合性のモノマーを用いた樹脂が好ましく、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン・(メタ)アクリル樹脂、及びポリスチレン樹脂からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0122】
ここで、本明細書中において、「溶解しない」とは、25℃において、対象となる物質が、対象となる液体に対して溶解しないことに加え、3質量%以下の範囲内で溶解することも含む。
例えば、「水を含む水性溶剤に溶解しない」とは、対象となる樹脂粒子が、25℃において、水を含む水性溶剤に実質的に溶解しない樹脂粒子であることを意味し、樹脂粒子が水を含む水性溶剤に対して溶解しないことに加え、3質量%以下の範囲内で溶解することも含む。また、「ポリイミド前駆体溶液に溶解しない」とは、25℃において、対象となる樹脂粒子が、ポリイミド前駆体溶液に実質的に溶解しない樹脂粒子であることを意味し、樹脂粒子がポリイミド前駆体溶液に対して溶解しないことに加え、3質量%以下の範囲内で溶解することも含む。
「有機溶剤に可溶」とは、25℃において、対象となる樹脂粒子が対象となる有機溶剤に対して質量基準で10%以上溶解することを意味する。
【0123】
なお、本明細書中において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」および「メタクリル」のいずれをも含むことを意味するものである。
【0124】
樹脂粒子は、多孔質ポリイミド膜に含有する多孔質ポリイミド膜に対する特定金属群の合計含有量、及びポリイミド前駆体溶液に含有するポリイミド前駆体溶液に対する特定金属群の合計含有量を既述の範囲に制御する点で、樹脂粒子中に含まれる特定金属群の合計含有量は、例えば、200ppm以下(好ましくは150ppm以下)に減少させることがよい。樹脂粒子中に含まれる特定金属群の合計含有量は、少ないほうがよく、下限値は特に限定されないが、0ppmであることがよい。なお、0ppmとは、検出限界以下を示す。また、樹脂粒子中に含まれる特定金属群の合計含有量は、原子吸光法によって測定される。
【0125】
樹脂粒子中に含まれる特定金属群の合計含有量を上記範囲に調整する方法としては、特に限定されない。樹脂粒子が、例えば、ビニル樹脂粒子である場合には、その合成方法は、特に限定されず、公知の重合法(乳化重合、ソープフリー乳化重合、懸濁重合、ミニエマルション重合、マイクロエマルション重合等のラジカル重合法)が適用され得る。
【0126】
中でも、例えば、樹脂粒子中に含まれる特定金属群の合計含有量を上記範囲に調整する点で、特定金属群を含有しない界面活性剤を使用して乳化重合する方法、界面活性剤を使用しないソープフリー乳化重合による方法、乳化重合法で得られた樹脂粒子を洗浄する方法によって樹脂粒子を得ることが好ましい。
つまり、樹脂粒子は、特定金属群を含有しない界面活性剤乳化重合粒子、ソープフリー乳化重合粒子、洗浄樹脂粒子のうちの少なくとも一つであることが好ましい。これらの樹脂粒子は1種単独、又は2種以上を併用してもよい。
なお、本明細書中において、洗浄樹脂粒子とは、樹脂粒子を洗浄して、樹脂粒子中に含まれる特定金属群の合計含有量を上記範囲に調整した樹脂粒子のことを表す。
【0127】
例えば、ビニル樹脂粒子の製造に乳化重合法を適用する場合、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤を溶解させた水中に、スチレン類、(メタ)アクリル酸類等の単量体を加え、界面活性剤を使用しないで重合(ソープフリー乳化重合)することで、樹脂粒子中に含まれる特定金属群の合計含有量が上記範囲であるビニル樹脂粒子が得られる。
また、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤を溶解させた水中に、スチレン類、(メタ)アクリル酸類等の単量体を加え、さらに、必要に応じて、特定金属群を含まない界面活性剤を添加し、攪拌を行いながら加熱することにより重合を行うことで、樹脂粒子中に含まれる特定金属群の合計含有量が上記範囲であるビニル樹脂粒子が得られる。
また、得られたビニル樹脂粒子を洗浄することで、樹脂粒子中に含まれる特定金属群の合計含有量が上記範囲であるビニル樹脂粒子が得られる。特に、界面活性剤として、特定金属群の金属を含む界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤など)を用いた場合は、得られたビニル樹脂粒子を洗浄すると、特定金属群の合計含有量が上記範囲であるビニル樹脂粒子が得られる。
【0128】
乳化重合法によるビニル樹脂粒子の製造において、界面活性剤を使用する場合、界面活性剤は特に限定されるものではないが、得られた樹脂粒子を洗浄する工程を省略できる点で、特定金属群の金属を含まない界面活性剤を用いることがよい。
特定金属群の金属を含まない界面活性剤としては、例えば、スルホン酸塩型等のアンモニウム塩のアニオン界面活性剤;エーテル型、エステル型、エステル・エーテル型等の非イオン界面活性剤;4級アンモニウム塩型等のカチオン界面活性剤;ベタイン型等の両性界面活性剤;などが挙げられる。
【0129】
ビニル樹脂の単量体としては、例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン等)、ハロゲン置換スチレン(例えば2-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4-クロロスチレン等)、ビニルナフタレン等のスチレン骨格を有するスチレン類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等のビニル基を有するエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル類;ビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソプロペニルケトン等のビニルケトン類;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、ケイ皮酸、フマル酸、ビニルスルホン酸等の酸類;エチレンイミン、ビニルピリジン、ビニルアミン等の塩基類;等の単量体を重合体させたビニル樹脂単位が挙げられる。
その他の単量体として、酢酸ビニルなどの単官能単量体、エチレングリコールジメタクリレート、ノナンジアクリレート、デカンジオールジアクリレートなどの二官能単量体、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の多官能単量体を併用してもよい。
また、ビニル樹脂は、これらの単量体を単独で用いた樹脂でもよいし、2種以上の単量体を用いた共重合体である樹脂であってもよい。
【0130】
ビニル樹脂粒子を構成する樹脂に使用される単量体がスチレンを含有する場合、全単量体成分に占めるスチレンの割合は20質量%以上100質量%以下が好ましく、40質量%以上100質量%以下が更に好ましい。
【0131】
樹脂粒子の平均粒径としては、特に限定されない。例えば、0.1μm以上0.5μm以下であることがよく、0.25μm以上0.5μm以下であることが好ましく、0.25μm以上0.4μm以下であることがより好ましい。樹脂粒子の平均粒径が、この範囲であると、樹脂粒子の生産性が向上し、凝集性が抑制されやすくなる。
なお、樹脂粒子の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(例えば、コールターカウンターLS13(ベックマン・コールター社製)の測定によって得られた粒度分布を用い、分割された粒度範囲(チャンネル)に対し、体積について小粒径側から累積分布を引き、全粒子に対して累積50%となる粒径を体積平均粒径D50vとして測定される。
【0132】
ポリイミド樹脂を溶解しない溶剤に可溶なポリイミド樹脂以外の樹脂の樹脂粒子としては、例えば、非架橋構造である架橋されていない(非架橋)樹脂粒子が好ましいが、前述の溶解性を有する範囲で架橋されていてもよい。樹脂粒子としては、具体的には、例えば、ポリメタクリル酸メチル(MB-シリーズ、積水化成品工業社製)、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体(FS-シリーズ:日本ペイント社製)、ポリスチレン等が挙げられる。これらの樹脂粒子を用いる場合、洗浄して用いてもよい。
【0133】
また、必要に応じて、ポリビニルブチラール樹脂等のアセタール樹脂;ナイロン等のポリアミド樹脂;アクリル樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂等のビニル樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、等で水溶性のものなどを加えてもよい。
【0134】
樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液において、樹脂粒子の含有量としては、ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体固形分100質量部に対して、20質量%以上600質量%以下(好ましくは25質量%以上500質量%以下、より好ましくは30質量%以上400質量%以下)の範囲であることがよい。
【0135】
〔その他の添加剤〕
本実施形態に係る多孔質フィルムの製造方法において、ポリイミド前駆体溶液には、イミド化反応促進のための触媒や、製膜品質向上のためのレベリング材などを含んでもよい。
イミド化反応促進のための触媒には、酸無水物など脱水剤、フェノール誘導体、スルホン酸誘導体、安息香酸誘導体などの酸触媒などを使用してもよい。
【0136】
また、ポリイミド前駆体溶液には、多孔質ポリイミド膜の使用目的に応じて、例えば、導電性付与のために添加される導電材料(導電性(例えば、体積抵抗率107Ω・cm未満)もしくは半導電性(例えば、体積抵抗率107Ω・cm以上1013Ω・cm以下))を含有していてもよい。
導電剤としては、例えば、カーボンブラック(例えばpH5.0以下の酸性カーボンブラック);金属(例えばアルミニウムやニッケル等);金属酸化物(例えば酸化イットリウム、酸化錫等);イオン導電性物質(例えばチタン酸カリウム、LiCl等);等が挙げられる。これら導電材料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0137】
また、ポリイミド前駆体溶液には、多孔質ポリイミド膜の使用目的に応じて、機械強度向上のため添加される無機粒子を含有していてもよい。無機粒子としては、シリカ粉、アルミナ粉、硫酸バリウム粉、酸化チタン粉、マイカ、タルクなどの粒子状材料が挙げられる。また、リチウムイオン電池の電極として用いられるLiCoO2、LiMn2Oなどを含んでもよい。
【0138】
-ポリイミド前駆体溶液の製造方法-
ポリイミド前駆体溶液の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に示す製造方法が挙げられる。
【0139】
一例としては、水性溶剤中で、有機アミン化合物の存在下、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂(ポリイミド前駆体)を生成してポリイミド前駆体溶液を得る方法が挙げられる。
この方法によれば、水性溶剤を適用するため、生産性も高く、ポリイミド前駆体溶液が1段階で製造される点で工程の簡略化の点で有利である。
【0140】
他の例としては、非プロトン性極性溶剤等(例えば、N-メチルピロリドン(NMP)等)の有機溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂(ポリイミド前駆体)を生成した後、水や、アルコール等の水性溶剤に投入して樹脂(ポリイミド前駆体)を析出させる。その後、水性溶剤に、ポリイミド前駆体と有機アミン化合物とを溶解させポリイミド前駆体溶液を得る方法が挙げられる。
【0141】
<リチウムイオン二次電池のセパレータ及びリチウムイオン二次電池>
次に、本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜を適用した、リチウムイオン二次電池のセパレータとともに、リチウムイオン二次電池について説明する。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池のセパレータは、本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜を含む。また、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜を含む。以下、
図2を参照して説明する。
【0142】
図2は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の一例を表す部分断面模式図である。
図2に示すように、リチウムイオン二次電池100は、図示しない外装部材の内部に収容された、正極活物質層110と、セパレータ層510と、負極活物質層310と、を備えている。正極活物質層110は、正極集電体130上に設けられており、負極活物質層310は、負極集電体330上に設けられている。セパレータ層510は、正極活物質層110と負極活物質層310とを隔てるように設けられており、正極活物質層110及び負極活物質層310が互いに対向するように、正極活物質層110と負極活物質層310との間に配置されている。セパレータ層510は、セパレータ511とセパレータ511の空孔の内部に充填された電解液513とを備える。セパレータ511は、本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜が適用されている。なお、正極集電体130及び負極集電体330は、必要に応じて設けられる部材である。
【0143】
(正極集電体130及び負極集電体330)
正極集電体130及び負極集電体330に用いられる材料としては、特に限定されず、公知の導電性の材料であればよい。例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン等の金属を用いることができる。
【0144】
(正極活物質層110)
正極活物質層110は、正極活物質を含む層である。必要に応じて、導電助剤、結着樹脂等の公知の添加剤を含んでいてもよい。正極活物質としては、特に限定されず、公知の正極活物質が用いられる。例えば、リチウムを含む複合酸化物(LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiFeMnO4、LiV2O5等)、リチウムを含む燐酸塩(LiFePO4、LiCoPO4、LiMnPO4及びLiNiPO4等)、導電性高分子(ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等)などが挙げられる。正極活物質は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0145】
(負極活物質層310)
負極活物質層310は、負極活物質を含む層である。必要に応じて、結着樹脂等の公知の添加剤を含んでいてもよい。負極活物質としては、特に限定されず、公知の正極活物質が用いられる。例えば、炭素材料(黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノチューブ、黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等)、金属(アルミニウム、シリコン、ジルコニウム、チタン等)、金属酸化物(二酸化スズ、チタン酸リチウム等)などが挙げられる。負極活物質は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0146】
(電解液513)
電解液513は、例えば、電解質及び非水溶媒を含有する非水電解質溶液を挙げることができる。
電解質としては、例えば、リチウム塩の電解質(LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiClO4、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)、LiC(CF3SO2)3等)が挙げられる。電解質は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
非水溶媒としては、環状カーボネート(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネート等)、鎖状カーボネート(ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等)などが挙げられる。非水溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0147】
(リチウムイオン二次電池100の製造方法)
リチウムイオン二次電池100を製造する方法の一例について説明する。
正極活物質を含む正極活物質層110形成用塗布液を、正極集電体130に塗布及び乾燥して、正極集電体130上に設けられた正極活物質層110を備える正極を得る。
同様に、負極活物質を含む負極活物質層310形成用塗布液を、負極集電体330に塗布及び乾燥して、負極集電体330上に設けられた負極活物質層310を備える負極を得る。正極と負極とは、それぞれ必要に応じて圧縮加工を行ってもよい。
次に、正極の正極活物質層110と、負極の負極活物質層310とが、互いに対向するように、正極活物質層110と、負極の負極活物質層310との間にセパレータ511を配置して、積層構造体を得る。積層体構造は、正極(正極集電体130、正極活物質層110)、セパレータ層510、負極(負極活物質層310、負極集電体330)が、この順で積層されている。このとき、必要に応じて圧縮加工を行ってもよい。
次に、積層構造体を外装部材に収容した後、積層構造体の内部に、電解液513が注入される。注入された電解液513は、セパレータ511の空孔にも浸透する。
このようにして、リチウムイオン二次電池100が得られる。
【0148】
以上、
図2を参照して、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を説明したが、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、これに限定されるものではない。本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜が適用されるのであれば、その形態は特に限定されない。
【0149】
<全固体電池>
次に、本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜を適用した、全固体電池について説明する。以下、
図3を参照して説明する。
【0150】
図3は、本実施形態に係る全固体電池の一例を表す部分断面模式図である。
図3に示すように、全固体電池200は、図示しない外装部材の内部に収容された、正極活物質層220と、固体電解質層620と、負極活物質層420と、を備えている。正極活物質層220は、正極集電体240上に設けられており、負極活物質層420は、負極集電体440上に設けられている。固体電解質層620は、正極活物質層220及び負極活物質層420が互いに対向するように、正極活物質層220と負極活物質層420との間に配置されている。固体電解質層620は、固体電解質624と、固体電解質624を保持する保持体622とを備えており、保持体622の空孔の内部に、固体電解質624が充填されている。固体電解質624を保持する保持体622は、本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜が適用されている。なお、正極集電体240及び負極集電体440は、必要に応じて設けられる部材である。
【0151】
(正極集電体240及び負極集電体440)
正極集電体240及び負極集電体440に用いられる材料としては、前述のリチウムイオン二次電池で説明した材料と同様の材料が挙げられる。
【0152】
(正極活物質層220及び負極活物質層420)
正極活物質層220及び負極活物質層420に用いられる材料としては、前述のリチウムイオン二次電池で説明した材料と同様の材料が挙げられる。
【0153】
(固体電解質624)
固体電解質624は、特に限定されず、公知の固体電解質が挙げられる。例えば、高分子固体電解質、酸化物固体電解質、硫化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、窒化物固体電解質などが挙げられる。
【0154】
高分子固体電解質としては、フッ素樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等の単独重合体、これらを構成単位として持つ共重合体等)、ポリエチレンオキサイド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアクリレート樹脂などが挙げられる。リチウムイオン伝導性に優れる点で、硫化物固体電解質を含むことが好ましい。同様の点で、硫黄と、リチウム及びリンの少なくとも一方とを構成元素として含む硫化物固体電解質を含有することが好ましい。
【0155】
酸化物固体電解質としては、リチウムを含む酸化物固体電解質粒子が挙げられる。例えば、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2などが挙げられる。
硫化物固体電解質としては、硫黄と、リチウム及びリンの少なくとも一方とを構成元素として含む硫化物固体電解質が挙げられる。例えば、8Li2O・67Li2S・25P2S5、Li2S、P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li3PO4-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li2S-B2S3などが挙げられる。
ハロゲン化物固体電解質は、例えば、LiI等が挙げられる。
窒化物固体電解質は、例えば、Li3N等が挙げられる。
【0156】
(全固体電池200の製造方法)
全固体電池200を製造する方法の一例について説明する。
正極活物質を含む正極活物質層220形成用塗布液を、正極集電体240に塗布及び乾燥して、正極集電体240上に設けられた正極活物質層220を備える正極を得る。
同様に、負極活物質を含む負極活物質層420形成用塗布液を、負極集電体440に塗布及び乾燥して、負極集電体440上に設けられた負極活物質層420を備える負極を得る。
正極と負極とは、それぞれ必要に応じて圧縮加工を行ってもよい。
次に、固体電解質層620形成用の固体電解質624を含む塗布液を基材上に塗布、乾燥して、層状の固体電解質を形成する。
次に、正極の正極活物質層220上に、固体電解質層620形成用材料として、保持体622としての多孔質ポリイミド膜と、層状の固体電解質624とを重ね合わせる。さらに、固体電解質層620形成用材料上に、負極の負極活物質層420が、正極活物質層220側になるように、負極を重ね合わせて、積層構造体とする。積層体構造は、正極(正極集電体240、正極活物質層220)、固体電解質層620、負極(負極活物質層420、負極集電体440)が、この順で積層されている。
次に、積層構造体に圧縮加工を施して、保持体622である多孔質ポリイミド膜の空孔内に、固体電解質624を含浸させ、固体電解質624を保持させる。
次に、積層構造体を外装部材に収容する。
このようにして、全固体電池200が得られる。
【0157】
以上、
図3を参照して、本実施形態に係る全固体電池を説明したが、本実施形態に係る全固体電池は、これに限定されるものではない。本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜が適用されるのであれば、その形態は特に限定されない。
【実施例】
【0158】
以下に実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0159】
<樹脂粒子の作製方法>
-樹脂粒子(1-1)-
スチレン300質量部、界面活性剤Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)11.9質量部、脱イオン水150質量部を混合し、ディゾルバーにより、1,500回転で30分間攪拌、乳化を行い、単量体乳化液を作製した。続いて、Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)0.9質量部、脱イオン水446.8質量部を反応容器に投入した。窒素気流下、75℃に加熱した後、モノマー乳化液のうち24質量部を添加した。その後、過硫酸アンモニウム5.4質量部を脱イオン水25質量部に溶解させた重合開始剤溶液を10分かけて滴下した。滴下後50分間反応させた後に、残りの単量体乳化液を180分かけて滴下し、さらに180分間反応させたのち、冷却して、樹脂粒子分散液(1-1)を得た。樹脂粒子分散液(1-1)の固形分濃度は36.0質量%であった。また、この樹脂粒子の平均粒径は0.38μmであった。
【0160】
<実施例1~4、比較例1~3>
(ポリイミド前駆体の作製)
-ポリイミド前駆体溶液(2-1)-
3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、「BPDA」とも称す。)と、p-フェニレンジアミン(以下、「PDA」とも称す。)と、脱イオン水とを表1に示す割合となるように添加し、50℃に昇温し攪拌した。ついで、N-メチルモルホリン(以下、「MMO」とも称す。)を1時間かけて滴下し、24時間攪拌して溶解、反応を行い、ポリイミド前駆体溶液(2-1)を得た。
【0161】
-樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-1)-
樹脂粒子分散液(1-1)47.1部、ポリイミド前駆体溶液(2-1)47.3部、脱イオン水5.6部を混合し、50℃にて30分間、超音波分散することにより樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-1)を得た。
得られた樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-1)の組成の結果を表1に示す。
【0162】
-樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-2)-
表1に示す配合割合となるように調製した以外は、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-1)と同様にして、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-2)を得た。
【0163】
-樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-3)-
表1に示す配合割合となるように調製した以外は、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-1)と同様にして、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-3)を得た。
【0164】
-樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-4)-
表1に示す配合割合となるように調製した以外は、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-1)と同様にして、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-4)を得た。
【0165】
-樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-5)-
表1に示す配合割合となるように調製した以外は、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-1)と同様にして、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-5)を得た。
【0166】
【0167】
(多孔質ポリイミド膜の作製)
-多孔質ポリイミド膜(3-1)-
ガラス板に、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-2)を、100μm厚みとなるように塗布して乾燥した。その後、390℃で1時間焼成し、粒子除去を行って多孔質ポリイミド膜を作製した。
得られた多孔質ポリイミド膜に対して、0.3規定硝酸で、室温10分間浸漬の後、脱イオン水で室温10分間浸漬洗浄処理し、排風乾燥することにより、多孔質ポリイミド膜(3-1)を得た。
【0168】
得られた多孔質ポリイミド膜(3-1)の特定金属群の合計含有量を原子吸光法により測定した。結果を表2に示す。
また、多孔質ポリイミド膜(3-1)の吸湿率については、後述する方法により測定した。結果を表2に示す。
【0169】
-多孔質ポリイミド膜(3-2)-
樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-3)を使用した以外は、多孔質ポリイミド膜(3-1)と同様に多孔質ポリイミド膜(3-2)を作製した。結果を表2に示す。
【0170】
-多孔質ポリイミド膜(3-3)-
樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-4)を使用した以外は、多孔質ポリイミド膜(3-1)と同様に多孔質ポリイミド膜(3-3)を作製した。結果を表2に示す。
【0171】
-多孔質ポリイミド膜(3-4)-
樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-5)を使用した以外は、多孔質ポリイミド膜(3-1)と同様に多孔質ポリイミド膜(3-4)を作製した。結果を表2に示す。
【0172】
-多孔質ポリイミド膜(4-1)-
樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(2-1)を使用した以外は、多孔質ポリイミド膜(3-1)と同様に多孔質ポリイミド膜(4-1)を作製した。結果を表2に示す。
【0173】
-多孔質ポリイミド膜(4-2)-
多孔質ポリイミド膜(3-1)を1規定水酸化ナトリウム水溶液に10分間浸漬した後に脱イオン水で10分間洗浄処理を行うことで、多孔質ポリイミド膜(4-2)を作製した。結果を表2に示す。
【0174】
-多孔質ポリイミド膜(4-3)-
多孔質ポリイミド膜に対して酸処理を行わなかった以外は、多孔質ポリイミド膜(3-1)と同様に多孔質ポリイミド膜(4-3)を作製した。結果を表2に示す。
【0175】
<評価>
(吸湿率)
各例で得られた多孔質ポリイミド膜を用いて、150℃で真空乾燥した直後の重量と、28℃、湿度80%で24時間保管後の重量を測定し、重量の増加率(%)を算出することにより、それぞれの多孔質ポリイミド膜の吸湿率を測定した。結果を表2に示す。
【0176】
(引張強度)
各例で得られた多孔質ポリイミド膜からそれぞれ、5mm×100mmに調製したサンプルを用意し、引張試験機(東洋精機社製、ストログラフVI-C)を用い、チャック間距離60mmの条件で、それぞれの多孔質ポリイミド膜の引張強度を測定し、下記の基準で評価した。結果を表2に示す。
A:20N/mm2以上
B:10N/mm2以上20N/mm2未満
C:10N/mm2未満
【0177】
(プロピレンカーボネート浸透性)
各例で得られた多孔質ポリイミド膜上にプロピレンカーボネート(「PC」ともいう。)を0.02mL滴下し、30秒放置後に浸透部の直径を測定することにより、それぞれの多孔質ポリイミド膜のプロピレンカーボネート(PC)に対する浸透性を調べ、下記の基準で評価した。結果を表2に示す。
A:直径12mm以上
B:直径6mm以上12mm未満
C:直径6mm未満
【0178】
(電解液注液性)
各例で得られた多孔質ポリイミド膜上に、電解質濃度が1mol/Lとなるように調整した電解液(電解質;LiPF6、溶媒;体積比率で「炭酸エチレン/炭酸プロピレン」が3/7であるもの)を0.02mL滴下し、5分放置後に浸透部の直径を測定することにより、それぞれの多孔質ポリイミド膜の電解液に対する注液性を調べ、下記の基準で評価した。結果を表2に示す。
A:直径8mm以上
B:直径4mm以上8mm未満
C:直径4mm未満
【0179】
(サイクル特性)
各例で得られた多孔質ポリイミド膜を用いて、リチウムイオン電池を作製し、500回繰り返し充放電(25℃における1C充電と1C放電)したときの電池容量の低減率を調べた。低減率が小さいほどサイクル特性が良好であり、下記の基準で評価した。結果を表2に示す。
良好:低減率が15%未満
不良:低減率が15%以上
【0180】
【0181】
表2に示された結果から、本実施例で得られた多孔質ポリイミド膜は、濡れ性が良好で、高強度であることがわかる。一方、比較例で得られた多孔質ポリイミド膜は、濡れ性及び強度のいずれか一方が劣っていた。
【符号の説明】
【0182】
31 基板
51 剥離層
10A 空孔
10 多孔質ポリイミド膜
100 リチウムイオン二次電池
200 全固体電池