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  • 特許-クーラント孔付きボールエンドミル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】クーラント孔付きボールエンドミル
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20230719BHJP
   B23C 5/28 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
B23C5/10 B
B23C5/28
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019050082
(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2020151782
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 真貴
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-148072(JP,A)
【文献】特開2003-340631(JP,A)
【文献】特開2000-190122(JP,A)
【文献】特開2011-200940(JP,A)
【文献】特表2016-519003(JP,A)
【文献】特開平10-249627(JP,A)
【文献】特開2011-189463(JP,A)
【文献】実公昭62-012503(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10、28
B23B 47/00
B23B 51/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転されるエンドミル本体のシャンク部の先端に切刃部が形成され、この切刃部の外周には、上記エンドミル本体の先端から後端側に向かうに従いエンドミル回転方向とは反対側に捩れる切屑排出溝が形成されて、この切屑排出溝のエンドミル回転方向を向いてすくい面とされる壁面と上記すくい面に交差する逃げ面との交差稜線部に、上記軸線回りの回転軌跡が上記軸線上に中心を有する球面状をなす切刃が形成されるとともに、上記エンドミル本体にはクーラント孔が形成されたクーラント孔付きボールエンドミルであって、
上記切刃は、上記エンドミル本体の先端側から、上記切刃の回転軌跡の中心において上記軸線に直交する平面を越えて上記エンドミル本体の後端側に向けて延びているとともに、
上記シャンク部の先端縁を上記エンドミル本体の先端側に延長した上記軸線を中心とする円筒面と、上記切刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす球面とは、上記平面よりも先端側と後端側の2つの円で交差し、
上記クーラント孔は、上記シャンク部から上記軸線に沿って延びた後、上記切刃部において分岐して上記エンドミル本体の先端側に向かうに従い外周側に延び、上記切刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす球面において、上記シャンク部の先端縁を上記エンドミル本体の先端側に延長した上記軸線を中心とする円筒面と上記球面とが交差する上記2つの円のうち上記エンドミル本体の先端側の円から、上記切刃の回転軌跡の中心を中心として上記エンドミル本体の後端側に30°までの範囲に該クーラント孔の中心線が交差するように、上記切屑排出溝の内壁面に開口しており、
上記切刃部の後端部は、上記シャンク部の先端縁よりも外径が小さくなるようにくびれて形成されていることを特徴とするクーラント孔付きボールエンドミル。
【請求項2】
上記クーラント孔は、上記切刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす球面において、上記シャンク部の先端縁を上記エンドミル本体の先端側に延長した上記軸線を中心とする円筒面と上記球面とが交差する上記2つの円のうち上記エンドミル本体の先端側の円から、上記切刃の回転軌跡の中心を中心として上記エンドミル本体の後端側に20°までの範囲に該クーラント孔の中心線が交差するように、上記切屑排出溝の内壁面に開口していることを特徴とする請求項1に記載のクーラント孔付きボールエンドミル。
【請求項3】
上記クーラント孔は、上記軸線に沿って延びる幹孔と、この幹孔から分岐して上記エンドミル本体の先端側に向かうに従い外周側に延びる上記幹孔よりも小径の枝孔とを備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のクーラント孔付きボールエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部外周に、上記軸線回りの回転軌跡が該軸線上に中心を有する球状をなす切刃が形成され、この切刃が、エンドミル本体の先端側から、上記中心において上記軸線に直交する平面を越えて後端側に向けて延びているボールエンドミルであって、エンドミル本体にクーラント孔が形成されたクーラント孔付きボールエンドミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金型等のアンダーカット部の裏面取り加工や5軸加工等の工作機械の主軸を傾斜させる軸傾斜切削に用いられるボールエンドミルとして、特許文献1には、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部に、該軸線回りの回転軌跡が球面状をなす切刃が、上記軸線方向先端側から後端側に向けて、上記球面の中心を通り該軸線に垂直な平面を越えるように延設されており、上記切刃は、上記平面よりも上記軸線方向先端側では後端側に向かうに従いエンドミル回転方向の後方側に捩れるように形成される一方、該平面を越えた上記軸線方向後端側では、上記軸線に対する捩れ角が後端側に向かうに従い漸次小さくなるようにされていて、切刃の軸線方向最後端部においては負角となるようにされたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-030023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなボールエンドミルによる切削加工では、切刃や被削材の切削部位に切削油剤等のクーラントを供給して冷却や潤滑、あるいは切屑の排出を行うが、エンドミル本体の外部からクーラントを供給しようとすると、例えば上述した金型等のアンダーカット部の裏面取り加工などでは被削材に遮られてしまい、クーラントを切刃や切削部位に十分に行き渡らせることができない。
【0005】
そこで、エンドミル本体にクーラント孔を形成して、このクーラント孔を介してクーラントを切刃や切削部位に供給することが行われている。しかしながら、特許文献1に記載されたボールエンドミルのように、上記平面を越えた軸線方向後端側では切刃の軸線に対する捩れ角が後端側に向かうに従い漸次小さくなるようにされていて、特に切刃の軸線方向最後端部においては負角となるようにされていると、エンドミル本体の先端部を下向きにした切削加工では、上記平面の周辺部分や該平面よりも後端側ではクーラントがエンドミル本体の先端側に流れてしまい、切削に使用される切刃や切削部位にクーラントを効率的に供給することができなくなってしまう。
【0006】
本発明は、このような背景の下になされたもので、切刃がエンドミル本体の先端側から切刃の回転軌跡がなす球面の中心において軸線に直交する平面を越えて後端側に向けて延びているクーラント孔付きボールエンドミルにおいて、エンドミル本体の切刃部が形成された先端部を下向きにして金型等のアンダーカット部の裏面取り加工などを行う場合に、上記平面の周辺部分や該平面を越えた後端側の部分の切刃や切削部位にも効率的にクーラントを供給することが可能なクーラント孔付きボールエンドミルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明のクーラント孔付きボールエンドミルは、軸線回りに回転されるエンドミル本体のシャンク部の先端に切刃部が形成され、この切刃部の外周には、上記エンドミル本体の先端から後端側に向かうに従いエンドミル回転方向とは反対側に捩れる切屑排出溝が形成されて、この切屑排出溝のエンドミル回転方向を向いてすくい面とされる壁面と上記すくい面に交差する逃げ面との交差稜線部に、上記軸線回りの回転軌跡が上記軸線上に中心を有する球面状をなす切刃が形成されるとともに、上記エンドミル本体にはクーラント孔が形成されたクーラント孔付きボールエンドミルであって、上記切刃は、上記エンドミル本体の先端側から、上記切刃の回転軌跡の中心において上記軸線に直交する平面を越えて上記エンドミル本体の後端側に向けて延びているとともに、上記シャンク部の先端縁を上記エンドミル本体の先端側に延長した上記軸線を中心とする円筒面と、上記切刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす球面とは、上記平面よりも先端側と後端側の2つの円で交差し、上記クーラント孔は、上記シャンク部から上記軸線に沿って延びた後、上記切刃部において分岐して上記エンドミル本体の先端側に向かうに従い外周側に延び、上記切刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす球面において、上記シャンク部の先端縁を上記エンドミル本体の先端側に延長した上記軸線を中心とする円筒面と上記球面とが交差する上記2つの円のうち上記エンドミル本体の先端側の円から、上記切刃の回転軌跡の中心を中心として上記エンドミル本体の後端側に30°までの範囲に該クーラント孔の中心線が交差するように、上記切屑排出溝の内壁面に開口しており、上記切刃部の後端部は、上記シャンク部の先端縁よりも外径が小さくなるようにくびれて形成されていることを特徴とする。
【0008】
このように構成されたクーラント孔付きボールエンドミルでは、切刃部外周の切屑排出溝がエンドミル本体の先端から後端側に向かうに従いエンドミル回転方向とは反対側に捩れているので、クーラント孔から切屑排出溝に吐出したクーラントは、エンドミル本体の回転に伴って切刃部の後端側に流れ込み、上記平面の周辺部分や該平面よりも後端側の切刃や切削部位に供給される。
【0009】
そして、このクーラント孔は、上記切刃の軸線回りの回転軌跡がなす球面において、シャンク部の先端縁をエンドミル本体の先端側に延長した上記軸線を中心とする円筒面と上記球面とが交差する円のうちエンドミル本体の先端側の円から、上記切刃の回転軌跡の中心を中心としてエンドミル本体の後端側に30°までの範囲に該クーラント孔の中心線が交差するように、切屑排出溝の内壁面に開口しているので、上記平面の周辺部分や該平面を越えた後端側の部分の切刃や切削部位に効率的にクーラントを供給することができる。
【0010】
すなわち、このような切刃の軸線回りの回転軌跡が切刃の回転軌跡の中心において軸線に直交する平面を越えて上記エンドミル本体の後端側に向けて延びる球面状をなすボールエンドミルでは、金型等のアンダーカット部の裏面取り加工や5軸加工等の工作機械の主軸を傾斜させる軸傾斜切削に専ら使用されるのは、切刃のうちシャンク部の先端縁の外径を越えた、上記平面の周辺部分や該平面よりも後端側の部分である。
【0011】
ここで、このクーラント孔の中心線が、シャンク部の先端縁をエンドミル本体の先端側に延長した上記軸線を中心とする円筒面と上記球面とが交差する円のうちエンドミル本体の先端側の円よりもエンドミル本体の先端側において該球面と交差するようにクーラント孔が開口していると、このクーラント孔の開口部から、上述のように切削加工に専ら使用される上記平面の周辺部分や該平面よりも後端側の切刃や切削部位までの距離が長くなりすぎ、クーラントがこれらの部分の切刃や切削部位に到達する前に飛散してしまうおそれがある。
【0012】
また、このクーラント孔の中心線が、シャンク部の先端縁をエンドミル本体の先端側に延長した上記軸線を中心とする円筒面と上記球面とが交差する円のうちエンドミル本体の先端側の円から上記切刃の回転軌跡の中心を中心として上記エンドミル本体の後端側に30°を越える範囲で該球面と交差するように、クーラント孔が開口していると、切刃のうちシャンク部の先端縁の外径を越えた部分のうちエンドミル本体の先端側の部分や、この部分により切削される被削材の切削部位にクーラントを行き渡らせることができず、効率的な冷却、潤滑、あるいは切屑の排出を図ることができなくなるおそれがある。
【0013】
これに対して、上記構成のクーラント孔付きボールエンドミルでは、クーラント孔の中心線が、上記切刃の軸線回りの回転軌跡がなす球面において、シャンク部の先端縁をエンドミル本体の先端側に延長した上記軸線を中心とする円筒面と上記球面とが交差する円のうちエンドミル本体の先端側の円から、上記切刃の回転軌跡の中心を中心としてエンドミル本体の後端側に30°までの範囲に該クーラント孔の中心線が交差するように、クーラント孔が開口しているので、上述のように切削加工に専ら使用される部分の切刃や切削部位に効率的にクーラントを供給することが可能となり、これらの部分の切刃や切削部位の確実な冷却、潤滑を図るとともに、切屑を排出して噛み込みを防ぐことができ、エンドミル寿命を延長することができる。
【0014】
なお、こうして金型等のアンダーカット部の裏面取り加工や5軸加工等の工作機械の主軸を傾斜させる軸傾斜切削に専ら使用される切刃や切削部位をより効率的に冷却、潤滑するには、上記クーラント孔は、上記切刃の上記軸線回りの回転軌跡がなす球面において、上記シャンク部の先端縁を上記エンドミル本体の先端側に延長した上記軸線を中心とする円筒面と上記球面とが交差する上記2つの円のうち上記エンドミル本体の先端側の円から、上記切刃の回転軌跡の中心を中心として上記エンドミル本体の後端側に20°までの範囲に該クーラント孔の中心線が交差するように、上記切屑排出溝の内壁面に開口していることが望ましい。
【0015】
また、上記クーラント孔は、上記軸線に沿って延びる幹孔と、この幹孔から分岐して上記エンドミル本体の先端側に向かうに従い外周側に延びる上記幹孔よりも小径の枝孔とを備えていることが、例えば切屑排出溝の捩れに合わせた螺旋状のクーラント孔を形成する場合などに比べ、クーラント孔の長さを短くしてクーラントの圧力損失を低減するためには望ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、切刃がエンドミル本体の先端側から切刃の回転軌跡がなす球面の中心において軸線に直交する平面を越えて後端側に向けて延びているクーラント孔付きボールエンドミルにおいて、金型等のアンダーカット部の裏面取り加工や5軸加工等の工作機械の主軸を傾斜させる軸傾斜切削に専ら使用されるこの平面の周辺部分や該平面よりも後端側の切刃や切削部位にクーラントを効率的に供給して確実な冷却、潤滑、切屑の排出を図ることができ、エンドミル寿命を延長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態を示すエンドミル本体の先端部の斜視図である。
図2図1に示す実施形態の正面図である。
図3図1に示す実施形態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1図3は、本発明の一実施形態を示すものである。本実施形態において、エンドミル本体1は、超硬合金等の硬質材料によって軸線Oを中心とした概略円柱状に一体に形成されている。このエンドミル本体1の後端部(図1において右上側の部分。図3においては右側部分)の部分は円柱状のままのシャンク部2とされるとともに、エンドミル本体1の先端部(図1において左下側の部分。図3においては左側部分)は切刃部3とされている。なお、切刃部3の後端部には、シャンク部2との間に外径が僅かに一段小さくなるようにくびれた首部3aが形成されている。
【0019】
このようなクーラント孔付きボールエンドミルは、シャンク部2が工作機械の主軸に把持されて軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転されつつ、切刃部3によって被削材に切削加工を施し、金型等のアンダーカット部の裏面取り加工や5軸加工等の工作機械の主軸を傾斜させる軸傾斜切削に用いられる。そして、この切削加工の際には、後述するクーラント孔に切削油剤等のクーラントが供給される。
【0020】
切刃部3には、エンドミル本体1の先端から後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に捩れる複数条の切屑排出溝4が、周方向に間隔をあけて、シャンク部2の先端部にまで達するように形成されている。本実施形態では4条の切屑排出溝4が周方向に等間隔に形成されている。そして、切刃部3において、これらの切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向いてすくい面とされる壁面と、周方向に隣接する切屑排出溝の間を切刃部3の先端内周部から後端外周部に延びてこのすくい面に交差する逃げ面との交差稜線部には、切刃5がそれぞれ形成されている。
【0021】
これらの切刃5は、互いの軸線O回りの回転軌跡Rが重なり合うとともに、この軸線O回りの回転軌跡Rが軸線O上に中心Cを有する球面状をなすように形成されている。さらにまた、これらの切刃5が軸線O回りになす球面状の上記回転軌跡Rは、切刃部3の先端から後端側に向けて上記中心Cを通り軸線Oに直交する平面Pを越える範囲にまで形成されている。
【0022】
すなわち、通常の底刃の回転軌跡が半球状となるボールエンドミルでは、切刃の軸線回りの回転軌跡の軸線に沿った断面においては、この回転軌跡が半球状の底刃の後端とその中心とを結ぶ直線が上記中心からエンドミル本体の先端側に延びる軸線に対してなす挟角は90°である。
【0023】
これに対して、本実施形態では、切刃5の後端と上記中心Cとを結ぶ直線が中心Cからエンドミル本体1の先端側に延びる軸線Oに対してなす挟角が例えば120°とされている。従って、円柱状のシャンク部2の先端縁2aの外径(直径)は、切刃5の最大外径(直径)である上記中心Cに垂直な平面Pの位置における外径(直径)よりも小さくされている。なお、このシャンク部2の先端縁2aは、切刃部3の後端側の上記首部3aを含まないシャンク部2の先端縁である。
【0024】
また、4つの切刃5のうち、軸線Oを間にして反対側に位置する2つの切刃5は、切刃部3先端の軸線O近傍から延びる長切刃5aとされている。これに対して、残りの2つの切刃5は、その逃げ面の切刃部3における先端側部分(軸線Oの周辺部分)が切り欠かれることにより、軸線Oから外周側に間隔をあけた位置から後端側に延びる短切刃5bとされている。なお、エンドミル本体1の切刃部3は、軸線Oに関して180°回転対称形状とされている。
【0025】
さらに、切屑排出溝4には、切刃部3の先端側の部分に、上記すくい面から切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tとは反対側を向く壁面を切り欠くようにして、凹溝状のギャッシュ4aが形成されている。従って、切刃部3の先端側、例えば上記挟角が90°以下の範囲では、切刃5は、このギャッシュ4aのエンドミル回転方向Tを向く壁面をすくい面として、このすくい面と上記逃げ面との交差稜線部に形成される。
【0026】
さらにまた、本実施形態では、切屑排出溝4が上述のようにエンドミル本体1の先端から後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に捩れていて、すくい面も切刃部3の先端内周部から後端外周部に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に延びていることから、切刃5もエンドミル本体1の先端から後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に捩れている。これにより、切刃5には正角のすくい角が与えられている。
【0027】
一方、エンドミル本体1内にはシャンク部2の後端から先端側に向けてクーラント孔6が形成されている。このクーラント孔6は、本実施形態では、シャンク部2の後端面から軸線Oに沿って延びる軸線Oを中心とした一定内径の断面円形の幹孔6aと、この幹孔6aから4つに分岐して先端側に向かうに従い外周側に放射状に延び、それぞれ切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tとは反対側を向く内壁面に開口する幹孔6aよりも小径の一定内径で中心線Sを中心とする断面円形の枝孔6bとを備えている。枝孔6bの数は、本実施形態では切屑排出溝4と同数の4つである。
【0028】
ここで、幹孔6aは、切刃5の軸線O回りの回転軌跡Rがなす球面の中心Cよりも僅かにエンドミル本体1の先端側にまで延びている。また、各枝孔6bは、それぞれの中心線Sが直線状をなして上記中心Cよりも僅かに後端側で軸線Oと1点で交差し、軸線Oに対して互いに等しい傾斜角でエンドミル本体1の先端側に向かうに従い外周側に向かうように放射状に延びている。これらの枝孔6bの周方向の間隔も、本実施形態では等間隔である。
【0029】
そして、これらのクーラント孔6の枝孔6bは、その上記中心線Sが、切刃5の軸線O回りの上記回転軌跡Rがなす球面において、シャンク部2の上記先端縁2aをエンドミル本体1の先端側に延長した軸線Oを中心とする円筒面Mと上記回転軌跡Rがなす球面とが交差する円のうちエンドミル本体1の先端側の円Nから、上記切刃5の回転軌跡Rの中心Cを中心としてエンドミル本体1の後端側に30°までの範囲(図3においてハッチングを付けた範囲)βに交差するように、切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tとは反対側を向く内壁面のすくい面とされる壁面側に開口している。
【0030】
このように構成されたクーラント孔付きボールエンドミルにおいては、まず切刃部3の外周の切屑排出溝4がエンドミル本体1の先端から後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tとは反対側に捩れているので、クーラント孔6の枝孔6bから切屑排出溝4に吐出したクーラントは、エンドミル本体1の回転に伴って切刃部3の後端側に流れ込み、上述した金型等のアンダーカット部の裏面取り加工や5軸加工等の工作機械の主軸を傾斜させる軸傾斜切削の際に使用される上記平面Pの周辺部分や該平面Pよりも後端側の切刃5や切削部位に供給される。
【0031】
そして、このクーラント孔6の枝孔6bは、切刃5の軸線O回りの回転軌跡Rがなす球面において、シャンク部2の先端縁2aをエンドミル本体1の先端側に延長した軸線Oを中心とする円筒面Mと上記球面とが交差してなす円のうちエンドミル本体1の先端側の円Nから、切刃5の回転軌跡Rの中心Cを中心としてエンドミル本体1の後端側に30°までの範囲βにクーラント孔6の枝孔6bの中心線Sが交差するように、切屑排出溝4の内壁面に開口している。
【0032】
このため、金型等のアンダーカット部の裏面取り加工や5軸加工等の工作機械の主軸を傾斜させる軸傾斜切削に専ら使用される、切刃5のうちでもシャンク部2の先端縁2aの外径を越えた上記平面Pの周辺部分や該平面Pを越えた後端側の部分に、効率的にクーラントを供給することが可能となる。従って、これらの部分の切刃5や被削材の切削部位を確実に冷却、潤滑することができるとともに、切屑を効率的に排出して噛み込みを防ぐことができ、エンドミル寿命を延長することができる。
【0033】
ここで、このクーラント孔6の枝孔6bの中心線Sが、シャンク部2の先端縁2aをエンドミル本体1の先端側に延長した軸線Oを中心とする上記円筒面Mと切刃5の回転軌跡Rがなす上記球面とが交差する円のうちエンドミル本体1の先端側の円Nよりもエンドミル本体1の先端側において該球面と交差するように、クーラント孔6の枝孔6bが開口していると、このクーラント孔6の枝孔6bの開口部から上記平面Pの周辺部分や該平面Pよりも後端側の切刃5や切削部位までの距離が長くなりすぎてしまう。このため、クーラントがこれらの部分の切刃5や切削部位に達する前に、エンドミル本体1の回転によって飛散してしまうおそれがある。
【0034】
また、このクーラント孔6の枝孔6bの中心線Sが、シャンク部2の先端縁2aをエンドミル本体1の先端側に延長した軸線Oを中心とする上記円筒面Mと切刃5の回転軌跡Rがなす上記球面とが交差する円のうちエンドミル本体1の先端側の円Nから切刃5の回転軌跡Rの中心Cを中心としてエンドミル本体1の後端側に30°を越える範囲で該球面と交差するように、クーラント孔6の枝孔6bが開口していると、切刃5のうちシャンク部2の先端縁2aの外径を越えた部分のうちエンドミル本体1の先端側の部分や、この部分により切削される被削材の切削部位にクーラントを行き渡らせることができなくなるおそれがあり、これらの部分の切刃5や切削部位の効率的な冷却、潤滑、あるいは切屑の排出が困難となる。
【0035】
なお、このように金型等のアンダーカット部の裏面取り加工や5軸加工等の工作機械の主軸を傾斜させる軸傾斜切削に専ら使用される切刃5や被削材の切削部位をより効率的に冷却、潤滑するには、上記クーラント孔6の枝孔6bは、切刃5の軸線O回りの回転軌跡Rがなす上記球面において、シャンク部2の先端縁2aをエンドミル本体1の先端側に延長した軸線Oを中心とする円筒面Mと上記球面とが交差する円のうちエンドミル本体1の先端側の円Nから、切刃5の回転軌跡Rの中心Cを中心としてエンドミル本体1の後端側に20°までの範囲にクーラント孔6の枝孔6bの中心線Sが交差するように、切屑排出溝4の内壁面に開口していることが望ましい。
【0036】
また、本実施形態では、クーラント孔6は、軸線Oに沿って延びる幹孔6aと、この幹孔6aから分岐してエンドミル本体1の先端側に向かうに従い外周側に延びる幹孔6aよりも小径の枝孔6bとを備えている。このため、例えば切屑排出溝4の捩れに合わせた螺旋状のクーラント孔を形成する場合などに比べて、クーラント孔6の長さを短くしてクーラントの圧力損失を低減することができる。
【0037】
なお、本実施形態では、このクーラント孔6の枝孔6bの中心線Sが、切刃5の回転軌跡Rがなす球面の上記範囲βだけに交差するように、1つの切屑排出溝4について1つずつクーラント孔6の枝孔6bが形成されているが、例えば切刃部3の先端部を用いて被削材の荒加工を行うような場合には、この枝孔6bとは別に切刃部3の先端部に開口する他の枝孔が幹孔6aから延びるように形成されていてもよい。
【0038】
また、本実施形態では、エンドミル本体1の切刃5が形成された切刃部3がシャンク部2と一体に形成されたソリッドタイプのボールエンドミルに本発明を適用した場合について説明したが、例えば切刃部3が形成されたヘッド部材が超硬合金や鋼材により形成されたシャンク部2の先端部に着脱可能に取り付けられたヘッド交換式のボールエンドミルに本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 エンドミル本体
2 シャンク部
2a シャンク部2の先端縁
3 切刃部
4 切屑排出溝
5 切刃
6 クーラント孔
6a 幹孔
6b 枝孔
O エンドミル本体1の軸線
T エンドミル回転方向
R 切刃5の軸線O回りの回転軌跡
C 回転軌跡Rがなす球面の中心
P 中心Cを通り軸線Oに直交する平面
M シャンク部2の先端縁2aをエンドミル本体1の先端側に延長した軸線Oを中心とする円筒面
N 円筒面Mと切刃5の軸線O回りの回転軌跡Rがなす球面とが交差する円のうちエンドミル本体1の先端側の円
S クーラント孔6の枝孔6bの中心線
β 中心線Sが切刃5の軸線O回りの回転軌跡Rがなす球面と交差する範囲
図1
図2
図3