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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】車両用差動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/11 20120101AFI20230719BHJP
【FI】
F16H48/11
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019050718
(22)【出願日】2019-03-19
(65)【公開番号】P2020094681
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2018224117
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 鶴
(72)【発明者】
【氏名】吉濱 知生
(72)【発明者】
【氏名】浅見 健二
(72)【発明者】
【氏名】李 松杰
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-57949(JP,A)
【文献】特開平6-323373(JP,A)
【文献】特開平7-332466(JP,A)
【文献】特開2009-197976(JP,A)
【文献】特開平10-184851(JP,A)
【文献】特開平10-227348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動力を第1及び第2の出力軸に配分する車両用差動装置であって、
前記第1の出力軸と一体に回転する第1のインナヘリカルギヤと、
前記第1のインナヘリカルギヤの外周に配置された第1のアウタヘリカルギヤと、
前記第2の出力軸と一体に回転する第2のインナヘリカルギヤと、
前記第2のインナヘリカルギヤの外周に配置された第2のアウタヘリカルギヤと、
前記第1及び第2のアウタヘリカルギヤを収容するハウジングと、
前記ハウジングに保持された複数のピニオンギヤ組と、
前記第1のアウタヘリカルギヤと前記第2のアウタヘリカルギヤとの間に配置された摩擦部材と、を備え、
前記ピニオンギヤ組は、前記第1のアウタヘリカルギヤに噛み合う第1のピニオンギヤと、前記第2のアウタヘリカルギヤに噛み合う複数の第2のピニオンギヤとを有し、
前記第1のピニオンギヤは、前記第1のアウタヘリカルギヤに噛み合う軸方向一端側ギヤ部と、前記複数の第2のピニオンギヤに噛み合う軸方向他端側ギヤ部とを一体に有し、
前記複数の第2のピニオンギヤは、前記第2のアウタヘリカルギヤの周方向に離れた位置で前記第2のアウタヘリカルギヤにそれぞれ噛み合い、
前記第1のピニオンギヤの前記軸方向他端側ギヤ部が前記第2のアウタヘリカルギヤの径方向外側にあたる位置で前記複数の第2のピニオンギヤに噛み合っており、
前記第1のインナヘリカルギヤの外周面に形成された外周ヘリカル歯と前記第1のアウタヘリカルギヤの内周面に形成された内周ヘリカル歯とが噛み合い、
前記第2のインナヘリカルギヤの外周面に形成された外周ヘリカル歯と前記第2のアウタヘリカルギヤの内周面に形成された内周ヘリカル歯とが噛み合っており
前記ハウジングには、前記第1のピニオンギヤを収容する第1の収容空間、及び前記第2のピニオンギヤを収容する第2の収容空間が形成され、前記第1の収容空間と前記第2の収容空間とが連通しており、前記第2の収容空間の軸方向長さが前記第1の収容空間の軸方向長さよりも短く、
前記摩擦部材は、前記第1のアウタヘリカルギヤ及び前記第2のアウタヘリカルギヤのそれぞれの軸端面が当接する円環板状の本体部と、前記本体部から径方向外方に突出する複数の嵌合突起とを有し、前記嵌合突起が前記ハウジングに形成された凹嵌部に嵌合することにより前記ハウジングに対して回り止めされており、
前記凹嵌部は、前記第2の収容空間の軸方向の底面から軸方向に窪んで形成されている、
車両用差動装置。
【請求項2】
前記摩擦部材は、前記本体部から径方向外方に突出する複数の当接突起を前記複数の嵌合突起の間に有し、前記複数の当接突起が前記ハウジングの内周面に当接することにより前記ハウジングに対して径方向に位置決めされている、
請求項に記載の車両用差動装置。
【請求項3】
前記第2のアウタヘリカルギヤのピッチ円直径が前記第1のアウタヘリカルギヤのピッチ円直径よりも小さい、
請求項1に記載の車両用差動装置。
【請求項4】
前記第1のピニオンギヤ及び前記第2のピニオンギヤは、その外周面にヘリカル歯を有し、
前記第1のピニオンギヤは、前記軸方向他端側ギヤ部のピッチ円直径が前記軸方向一端側ギヤ部のピッチ円直径よりも小さく、かつ前記軸方向他端側ギヤ部における前記ヘリカル歯の歯筋の捩れ角が前記軸方向一端側ギヤ部における前記ヘリカル歯の歯筋の捩れ角よりも小さい、
請求項1乃至の何れか1項に記載の車両用差動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力される駆動力を一対の出力軸に差動を許容して配分することが可能な車両用差動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入力される駆動力を左右のドライブシャフトに差動を許容して配分することが可能な差動装置には、左右のドライブシャフトのそれぞれと一体に回転する左右のサイドギヤと、左右のサイドギヤと軸平行に配置された一対のピニオンギヤを互いに噛み合わせてなる複数のピニオンギヤ組と、複数のピニオンギヤ組の各ピニオンギヤを自転可能に保持するハウジングと、左右のサイドギヤの軸端面に対向して配置されたワッシャと、を備えたものがある。このような差動装置は、左右のサイドギヤ及び各ピニオンギヤがヘリカル歯(捩れ歯)を有しており、これらのヘリカル歯同士の噛み合いによって左右のサイドギヤ及び各ピニオンギヤに軸方向のスラスト力が発生する。そして、このスラスト力によって発生する摩擦抵抗力が、左右のサイドギヤの差動を制限して車輪のスリップを抑制し、例えば悪路走行時の走破性を高めることを可能とする差動制限力となる。
【0003】
本出願人は、小型化が可能な差動装置として、特許文献1に記載の差動装置を提案している。この差動装置は、一対のピニオンギヤのうち一方のピニオンギヤがピッチ円直径の異なる大小2つのギヤ部を有し、大径のギヤ部が左右のサイドギヤのうち左側のサイドギヤに噛み合い、小径のギヤ部が右側のサイドギヤの外周側で他方のピニオンギヤに噛み合っている。他方のピニオンギヤは、周方向の一部において一方のピニオンギヤの小径のギヤ部に噛み合うと共に、周方向の他の一部において右側のサイドギヤに噛み合っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-197976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の差動装置では、左右のサイドギヤの相対回転の方向によっては一方のピニオンギヤの小径のギヤ部が右側のサイドギヤに向かう径方向の力を受けるので、特許文献1の図2及び図3に符号20Fで示されるギヤ支持部をハウジング(デフケース)に形成し、このギヤ支持部を一方のピニオンギヤの小径のギヤ部と右側のサイドギヤとの間に介在させる必要があり、デフケースの加工工数が増大していた。また、他方のピニオンギヤは、周方向の2箇所で一方のピニオンギヤの小径のギヤ部及び右側のサイドギヤに噛み合うので駆動力伝達時の負担が大きく、このことが小型化の制約となっていた。
【0006】
また、装置の小型化のために左右のサイドギヤの直径を小さくすると、左右のサイドギヤとワッシャとの摩擦摺動径が小さくなり、大きな差動制限力を発生させることが困難になる場合があった。
【0007】
そこで、本発明は、加工工数の増大を抑制し、かつ差動制限力の低下を抑制しながら小型化を図ることが可能な車両用差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するため、車両の駆動力を第1及び第2の出力軸に配分する車両用差動装置であって、前記第1の出力軸と一体に回転する第1のインナヘリカルギヤと、前記第1のインナヘリカルギヤの外周に配置された第1のアウタヘリカルギヤと、前記第2の出力軸と一体に回転する第2のインナヘリカルギヤと、前記第2のインナヘリカルギヤの外周に配置された第2のアウタヘリカルギヤと、前記第1及び第2のアウタヘリカルギヤを収容するハウジングと、前記ハウジングに保持された複数のピニオンギヤ組と、前記第1のアウタヘリカルギヤと前記第2のアウタヘリカルギヤとの間に配置された摩擦部材と、を備え、前記ピニオンギヤ組は、前記第1のアウタヘリカルギヤに噛み合う第1のピニオンギヤと、前記第2のアウタヘリカルギヤに噛み合う複数の第2のピニオンギヤとを有し、前記第1のピニオンギヤは、前記第1のアウタヘリカルギヤに噛み合う軸方向一端側ギヤ部と、前記複数の第2のピニオンギヤに噛み合う軸方向他端側ギヤ部とを一体に有し、前記複数の第2のピニオンギヤは、前記第2のアウタヘリカルギヤの周方向に離れた位置で前記第2のアウタヘリカルギヤにそれぞれ噛み合い、前記第1のピニオンギヤの前記軸方向他端側ギヤ部が前記第2のアウタヘリカルギヤの径方向外側にあたる位置で前記複数の第2のピニオンギヤに噛み合っており、前記第1のインナヘリカルギヤの外周面に形成された外周ヘリカル歯と前記第1のアウタヘリカルギヤの内周面に形成された内周ヘリカル歯とが噛み合い、前記第2のインナヘリカルギヤの外周面に形成された外周ヘリカル歯と前記第2のアウタヘリカルギヤの内周面に形成された内周ヘリカル歯とが噛み合っており前記ハウジングには、前記第1のピニオンギヤを収容する第1の収容空間、及び前記第2のピニオンギヤを収容する第2の収容空間が形成され、前記第1の収容空間と前記第2の収容空間とが連通しており、前記第2の収容空間の軸方向長さが前記第1の収容空間の軸方向長さよりも短く、前記摩擦部材は、前記第1のアウタヘリカルギヤ及び前記第2のアウタヘリカルギヤのそれぞれの軸端面が当接する円環板状の本体部と、前記本体部から径方向外方に突出する複数の嵌合突起とを有し、前記嵌合突起が前記ハウジングに形成された凹嵌部に嵌合することにより前記ハウジングに対して回り止めされており、前記凹嵌部は、第2の収容空間の軸方向の底面から軸方向に窪んで形成されている車両用差動装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両用差動装置によれば、加工工数の増大を抑制し、かつ差動制限力の低下を抑制しながら小型化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る差動装置の断面図である。
図2】差動装置の分解斜視図である。
図3】第1のピニオンギヤを単体で示す側面図である。
図4】(a)はセンタワッシャ及び第1のハウジング部材を示す斜視図であり、(b)はセンタワッシャ及び第1のハウジング部材を軸方向から見た構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図1乃至図4を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る差動装置の断面図である。図2は、差動装置の分解斜視図である。
【0013】
この差動装置1は、車両に搭載され、リングギヤ10から入力されたエンジン等の車両の駆動源の駆動力(トルク)を第1及び第2の出力軸11,12に差動を許容して配分するために用いられる。図1では、リングギヤ10ならびに第1及び第2の出力軸11,12を仮想線(二点鎖線)で示している。図2では、車両の前進時の差動装置1の回転方向を矢印Aで示し、後退時の差動装置1の回転方向を矢印Aで示している。なお、本実施の形態では、第1及び第2の出力軸11,12が左右の車輪にそれぞれ連結されたドライブシャフトである場合について説明するが、差動装置1を四輪駆動車に搭載し、前後のプロペラシャフトに駆動力を配分するセンターデファレンシャルとして用いることも可能である。
【0014】
差動装置1は、リングギヤ10と共に回転軸線Oを中心として回転するハウジング2と、ハウジング2に収容され、回転軸線Oに沿って並んで配置された第1及び第2のヘリカルギヤ対3,4と、ハウジング2に保持された複数のピニオンギヤ組5と、第1のヘリカルギヤ対3と第2のヘリカルギヤ対4との間に配置された摩擦部材としてのセンタワッシャ6と、センタワッシャ6との間に第1及び第2のヘリカルギヤ対3,4を挟む第1及び第2のサイドワッシャ71,72と、隙間調整用のシム73とを有している。以下、回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。センタワッシャ6ならびに第1及び第2のサイドワッシャ71,72は、ハウジング2に対する回転が規制されている。
【0015】
第1のヘリカルギヤ対3は、第1の出力軸11と一体に回転する第1のインナヘリカルギヤ31と、第1のインナヘリカルギヤ31の外周に配置された第1のアウタヘリカルギヤ32からなる。第1のインナヘリカルギヤ31には、内周面に第1の出力軸11との連結のためのスプライン歯311が形成されており、外周面に外周ヘリカル歯312が形成されている。第1のアウタヘリカルギヤ32には、内周面に内周ヘリカル歯321が形成されており、外周面に外周ヘリカル歯322が形成されている。
【0016】
第1のインナヘリカルギヤ31の外周ヘリカル歯312と第1のアウタヘリカルギヤ32の内周ヘリカル歯321とは、互いに噛み合っており、第1のアウタヘリカルギヤ32から第1のインナヘリカルギヤ31にトルクが伝達される際、第1のインナヘリカルギヤ31にはトルク伝達による軸方向のスラスト力が作用し、第1のアウタヘリカルギヤ32にはその反作用としてのスラスト力が作用する。
【0017】
図2に示すように、第1のアウタヘリカルギヤ32の外周ヘリカル歯322の歯筋の捩じれ方向と、第1のインナヘリカルギヤ31の外周ヘリカル歯312の歯筋の捩じれ方向とは、互いに逆方向である。本実施の形態では、車両の前進時に第1のアウタヘリカルギヤ32がセンタワッシャ6に向かって押し付けられ、かつ第1のインナヘリカルギヤ31が第1のサイドワッシャ71に向かって押し付けられるように、それぞれの歯筋の捩じれ方向が設定されている。車両の後退時には、第1のアウタヘリカルギヤ32が第1のサイドワッシャ71に向かって押し付けられ、かつ第1のインナヘリカルギヤ31がセンタワッシャ6に向かって押し付けられる。
【0018】
第2のヘリカルギヤ対4は、第2の出力軸12と一体に回転する第2のインナヘリカルギヤ41と、第2のインナヘリカルギヤ41の外周に配置された第2のアウタヘリカルギヤ42からなる。第2のインナヘリカルギヤ41には、内周面に第2の出力軸12との連結のためのスプライン歯411が形成されており、外周面に外周ヘリカル歯412が形成されている。第2のアウタヘリカルギヤ42には、内周面に内周ヘリカル歯421が形成されており、外周面に外周ヘリカル歯422が形成されている。
【0019】
第2のインナヘリカルギヤ41の外周ヘリカル歯412と第2のアウタヘリカルギヤ42の内周ヘリカル歯421とは、互いに噛み合っており、第2のアウタヘリカルギヤ42から第2のインナヘリカルギヤ41にトルクが伝達される際、第2のインナヘリカルギヤ41にはトルク伝達による軸方向のスラスト力が作用し、第2のアウタヘリカルギヤ42にはその反作用としてのスラスト力が作用する。
【0020】
第2のアウタヘリカルギヤ42の内周ヘリカル歯421の歯筋の捩じれ方向と、第2のインナヘリカルギヤ41の外周ヘリカル歯412の歯筋の捩じれ方向とは、互いに逆方向である。本実施の形態では、車両の前進時に第2のアウタヘリカルギヤ42がセンタワッシャ6に向かって押し付けられ、かつ第2のインナヘリカルギヤ41が第2のサイドワッシャ72に向かって押し付けられるように、それぞれの歯筋の捩じれ方向が設定されている。車両の後退時には、第2のアウタヘリカルギヤ42が第2のサイドワッシャ72に向かって押し付けられ、かつ第2のインナヘリカルギヤ41がセンタワッシャ6に向かって押し付けられる。
【0021】
第2のアウタヘリカルギヤ42のピッチ円直径P42図2参照)は、第1のアウタヘリカルギヤ32のピッチ円直径P32図2参照)よりも小さく形成されている。第1のアウタヘリカルギヤ32の外周ヘリカル歯322の歯筋の捩じれ方向と、第2のアウタヘリカルギヤ42の外周ヘリカル歯422の歯筋の捩じれ方向とは、互いに逆方向である。
【0022】
それぞれのピニオンギヤ組5は、1つの第1のピニオンギヤ51及び2つの第2のピニオンギヤ52,52によって構成されている。第1のピニオンギヤ51は、第1のアウタヘリカルギヤ32に噛み合う軸方向一端側ギヤ部511と、2つの第2のピニオンギヤ52に噛み合う軸方向他端側ギヤ部512とを一体に有している。第2のピニオンギヤ52は、第1のピニオンギヤ51の軸方向他端側ギヤ部512に噛み合うと共に、第2のアウタヘリカルギヤ42に噛み合っている。
【0023】
第1のピニオンギヤ51の軸方向他端側ギヤ部512は、第2のアウタヘリカルギヤ42の径方向外側にあたる位置で2つの第2のピニオンギヤ52に噛み合っている。第1のピニオンギヤ51の軸方向他端側ギヤ部512と第2のアウタヘリカルギヤ42との間は空間となっており、この部位に第1のピニオンギヤ51を支持する支持部は形成されていない。軸方向他端側ギヤ部512が第2のアウタヘリカルギヤ42に接近する方向への第1のピニオンギヤ51の傾動は、2つの第2のピニオンギヤ52との噛み合いによって抑制されている。2つの第2のピニオンギヤ52は、第2のアウタヘリカルギヤ42の周方向に離れた位置で、第2のアウタヘリカルギヤ42にそれぞれ噛み合っている。
【0024】
図3は、第1のピニオンギヤ51を単体で示す側面図である。第1のピニオンギヤ51は、その外周面に螺旋状に形成された6つのヘリカル歯513を有している。それぞれのヘリカル歯513は、軸方向一端側ギヤ部511及び軸方向他端側ギヤ部512にわたって歯筋513a及び歯溝513bが連続して形成されている。ヘリカル歯513の歯先面513cは、第1のピニオンギヤ51の周方向に所定の幅を有している。
【0025】
軸方向一端側ギヤ部511は、軸方向他端側ギヤ部512よりも外径が大きく形成されている。軸方向一端側ギヤ部511のピッチ円直径をPとし、軸方向他端側ギヤ部512のピッチ円直径をPとすると、PはPよりも大きく、Pに対するPの比率(P/P)は例えば1.05~1.15である。図3の図示例では、この比率が約1.1に設定されている。また、軸方向一端側ギヤ部511における歯筋513aの捩れ角をθとし、軸方向他端側ギヤ部512における歯筋513aの捩れ角をθとすると、θはθよりも大きく、その比率は例えば両ギヤ部511,512のピッチ円直径の比率と同じである。
【0026】
また、第1のピニオンギヤ51の中央部510では、応力が集中しないように、軸方向一端側ギヤ部511から軸方向他端側ギヤ部512にかけてピッチ円直径及び捩れ角が徐々に小さくなっている。なお、第2のピニオンギヤ52は、第1のピニオンギヤ51の軸方向他端側ギヤ部512におけるヘリカル歯513と噛み合う6つのヘリカル歯521を有しており、そのピッチ円直径はPと等しく、捩れ角はθと等しい。
【0027】
このように、軸方向他端側ギヤ部512のピッチ円直径Pが軸方向一端側ギヤ部511のピッチ円直径Pよりも小さく、かつ軸方向他端側ギヤ部512における歯筋の捩れ角θが軸方向一端側ギヤ部511における歯筋の捩れ角θよりも小さいことにより、第1のヘリカルギヤ対3が第2のヘリカルギヤ対4よりも速く回転する場合(例えば右旋回時)のTBR(トルクバイアスレシオ)と、第2のヘリカルギヤ対4が第1のヘリカルギヤ対3よりも速く回転する場合(例えば左旋回時)のTBRとが均等化されている。
【0028】
つまり、本実施の形態では、第1のアウタヘリカルギヤ32のピッチ円直径P32が第2のアウタヘリカルギヤ42のピッチ円直径P42よりも大きいので、仮に軸方向一端側ギヤ部511の歯筋の捩れ角θと軸方向他端側ギヤ部512の歯筋の捩れ角θとが等しいと、第1のアウタヘリカルギヤ32と第2のアウタヘリカルギヤ42との径差に起因して、車両の右旋回時と左旋回時とで第1及び第2のアウタヘリカルギヤ32,42の差動回転を制限する差動制限力に差が生じてしまうが、本実施の形態では、第1のピニオンギヤ51が上記のように構成されていることにより、このようなTBRのアンバランスが抑制されている。
【0029】
ハウジング2は、有底円筒状の第1のハウジング部材21と、第1のハウジング部材21の開口側に固定された第2のハウジング部材22とを有している。第1のハウジング部材21は、第1及び第2のピニオンギヤ対3,4を収容している。また、第1のハウジング部材21には、第1のピニオンギヤ51及び2つの第2のピニオンギヤ52を保持するピニオンギヤ収容空間としてのボア20が形成されている。本実施の形態では、図2に示すように差動装置1が4組のピニオンギヤ組5を有しているので、第1のハウジング部材21には4つのボア20が形成されている。
【0030】
ボア20は、第1のピニオンギヤ51を収容する第1の収容空間201と、2つの第2のピニオンギヤ52をそれぞれ収容する2つの第2の収容空間202とが互いに連通している。2つの第2の収容空間202は、第1のハウジング部材21の周方向において、ボア20の周方向両端部に形成されている。第1の収容空間201は、2つの第2の収容空間202の間に形成されている。第1の収容空間201及び2つの第2の収容空間202は、共に第1のハウジング部材21の開口側の端部が開放されている。
【0031】
第1のピニオンギヤ51がボア20内で回転するとき、第1のピニオンギヤ51のヘリカル歯513の歯先面513cが第1の収容空間201の内面201aを摺動する。また、第2のピニオンギヤ52がボア20内で回転するとき、第2のピニオンギヤ52のヘリカル歯521の歯先面521cが第2の収容空間202の内面202aを摺動する。これらの摺動により第1及び第2のピニオンギヤ51,52の歯先面513c,521cに発生する摩擦力は、第1及び第2の出力軸11,12の差動を制限する差動制限力となる。
【0032】
第1のハウジング部材21は、4つのボア20が形成された円筒部211と、円筒部211の一端部から内方に突出して形成された底部212と、円筒部211の他端部から外方に突出して形成されたフランジ部213と、底部212の中央部から軸方向に突出して第1の出力軸11を挿通させる導管部214とを一体に有している。導管部214の内面には、潤滑油を流動させる油溝214aが形成されている。
【0033】
第1の収容空間201及び第2の収容空間202は、円筒部211における第1のハウジング部材21の開口側の端部から底部212に向かって軸方向に延在している。第2の収容空間202の軸方向長さは、第1の収容空間201の軸方向長さよりも短く形成されている。底部212には、第1の収容空間201とハウジング2の外部との間で潤滑油を流通させるための油孔212aが形成されている。
【0034】
第1のハウジング部材21における円筒部211の中心部には、第1のヘリカルギヤ対3を収容する収容空間である第1の中空部203、及び第2のヘリカルギヤ対4を収容する収容空間である第2の中空部204が軸方向に並んで形成されている。第1の中空部203は、第1のハウジング部材21の奥側(底部212側)に設けられ、第2の中空部204は、第1のハウジング部材21の開口側に設けられている。第1の中空部203は、ボア20の第1の収容空間201に連通し、第2の収容空間202には連通していない。第2の中空部204は、ボア20の第1の収容空間201及び第2の収容空間202に連通している。第1のサイドワッシャ71は、第1のインナヘリカルギヤ31と第1のハウジング部材21の底部212との間に配置されている。
【0035】
第2のハウジング部材22は、第1のハウジング部材21の開口側におけるボア20の一端を閉塞する環板部221と、第1のハウジング部材21のフランジ部213に付き合てられるフランジ部222と、環板部221から軸方向に突出して第2の出力軸12を挿通させる導管部223とを一体に有している。導管部223の内面には、潤滑油を流動させる油溝223aが形成されている。第2のサイドワッシャ72は、第2のインナヘリカルギヤ41と第2のハウジング部材22の環板部221との間に配置されている。環板部221には、潤滑油を流通させるための油孔221aが軸方向に貫通して形成されている。
【0036】
第1のハウジング部材21のフランジ部213と、第2のハウジング部材22のフランジ部222とは、複数のボルト23によって締結されている。ハウジング2は、図略の軸受によってデフキャリアに回転可能に支持されて回転軸線O周りに回転する。第1及び第2のハウジング部材21,22のフランジ部213,222には、リングギヤ10を固定するためのボルト100の軸部を挿通させるボルト挿通孔213a,222aがそれぞれ形成されている。
【0037】
図4(a)はセンタワッシャ6及び第1のハウジング部材21を示す斜視図であり、図4(b)はセンタワッシャ6及び第1のハウジング部材21を軸方向から見た構成図である。
【0038】
センタワッシャ6は、第1のアウタヘリカルギヤ32と第2のアウタヘリカルギヤ42との間に配置されている。また、センタワッシャ6は、前進時に第1のアウタヘリカルギヤ32及び第2のアウタヘリカルギヤ42のそれぞれの軸端面32a,42aが当接する円環板状の本体部61と、本体部61から径方向外方に突出する複数の嵌合突起62及び複数の当接突起63とを一体に有している。本体部61には、中心部に貫通孔610が形成されている。
【0039】
第1のハウジング部材21には、センタワッシャ6の複数の嵌合突起62がそれぞれ嵌合する複数の凹嵌部215が形成されている。本実施の形態では、センタワッシャ6が4つの嵌合突起62を有しており、第1のハウジング部材21には同数の凹嵌部215が形成されている。また、本実施の形態では、凹嵌部215が第2の収容空間202の底面202bから軸方向に窪んで形成されている。センタワッシャ6は、嵌合突起62が凹嵌部215に嵌合することにより、ハウジング2に対して回り止めされている。
【0040】
センタワッシャ6の複数の当接突起63は、本体部61の周方向において、複数の嵌合突起62の間に設けられている。当接突起63は、その先端面63aが第1のハウジング部材21における第1の中空部203の内周面203aの曲率に対応する曲率で円弧状に形成されている。センタワッシャ6は、複数の当接突起63が第1の中空部203の内周面203aに当接することにより、ハウジング2に対して径方向に位置決めされている。
【0041】
センタワッシャ6の本体部61は、その一部が第1のアウタヘリカルギヤ32の環状突起323と第2のアウタヘリカルギヤ42の環状突起423との間に配置されており、貫通孔610の内径は、第1のアウタヘリカルギヤ32の環状突起323の内径ならびに第2のアウタヘリカルギヤ42の環状突起423の内径よりも小さい。これにより、例えば第1及び第2のアウタヘリカルギヤ32,42が環状突起323,423を有していない場合に比較して、第1のアウタヘリカルギヤ32及び第2のアウタヘリカルギヤ42のそれぞれの軸端面32a,42aとセンタワッシャ6との接触面積が大きくなり、これらの面の摩耗が抑制されている。
【0042】
(差動装置1の動作)
リングギヤ10から入力される駆動力によってハウジング2が回転すると、その駆動力が第1のハウジング部材21の円筒部211に保持されたピニオンギヤ組5に伝達され、第1のピニオンギヤ51から第1のアウタヘリカルギヤ32に、また第2のピニオンギヤ52から第2のアウタヘリカルギヤ42に、それぞれ駆動力が配分される。そして、第1のアウタヘリカルギヤ32から第1のインナヘリカルギヤ31を介して第1の出力軸11に駆動力が出力され、第2のアウタヘリカルギヤ42から第2のインナヘリカルギヤ41を介して第2の出力軸12に駆動力が出力される。
【0043】
車両の前進時において、第1のアウタヘリカルギヤ32は、第1のピニオンギヤ51との噛み合いによりセンタワッシャ6側へのスラスト力を受けると共に、第1のインナヘリカルギヤ31との噛み合いによってもセンタワッシャ6側へのスラスト力を受ける。これらのスラスト力により、第1のアウタヘリカルギヤ32の軸端面32aとセンタワッシャ6との間に摩擦力が発生する。また、第1のインナヘリカルギヤ31は、第1のアウタヘリカルギヤ32との噛み合いによって第1のサイドワッシャ71へのスラスト力を受け、第1のインナヘリカルギヤ31の軸端面31aと第1のサイドワッシャ71との間に摩擦力が発生する。
【0044】
同様に、第2のアウタヘリカルギヤ42は、第2のピニオンギヤ52との噛み合いによりセンタワッシャ6側へのスラスト力を受けると共に、第2のインナヘリカルギヤ41との噛み合いによってもセンタワッシャ6側へのスラスト力を受ける。これらのスラスト力により、第2のアウタヘリカルギヤ42の軸端面42aとセンタワッシャ6との間に摩擦力が発生する。また、第2のインナヘリカルギヤ41は、第2のアウタヘリカルギヤ42との噛み合いによって第2のサイドワッシャ72へのスラスト力を受け、第2のインナヘリカルギヤ41の軸端面41aと第2のサイドワッシャ72との間に摩擦力が発生する。
【0045】
これらの摩擦力は、第1及び第2の出力軸11,12の差動を制限する差動制限力となり、左右輪のスリップが抑制されて悪路走行時の走破性が高められる。
【0046】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、第1のアウタヘリカルギヤ32と第1のインナヘリカルギヤ31との噛み合いにより発生するスラスト力、及び第2のアウタヘリカルギヤ42と第2のインナヘリカルギヤ41との噛み合いにより発生するスラスト力によって、前進走行時の差動制限力が高められる。
【0047】
また、第1のピニオンギヤ51と第2のピニオンギヤ52とが第2のアウタヘリカルギヤ42の外周側で噛み合うので、装置サイズを軸方向に小型化することができる。また、1つの第1のピニオンギヤ51に2つの第2のピニオンギヤ52が噛み合うので、駆動力伝達時においてそれぞれの第2のピニオンギヤ52の負担を軽減することができ、第2のピニオンギヤ52を小型化することが可能となる。
【0048】
またさらに、特許文献1に記載の差動装置において必要であったギヤ支持部20Fに相当する構成(第1のピニオンギヤ51と第2のアウタヘリカルギヤ42との間に介在する部材)を要することなく、第1のピニオンギヤ51と第2のアウタヘリカルギヤ42との干渉を回避することができるので、ハウジング2の加工工数の増大を抑制することができる。
【0049】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、この実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0050】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、差動装置1が4組のピニオンギヤ組5を有する場合について説明したが、これに限らず、差動装置1が2組又は3組あるいは5組以上のピニオンギヤ組5を有していてもよい。
【0051】
また、第1のピニオンギヤ51と第2のアウタヘリカルギヤ42との干渉を回避できるのであれば、第2のアウタヘリカルギヤ42のピッチ円直径を第1のアウタヘリカルギヤ32のピッチ円直径と同じにしてもよく、あるいは第1のピニオンギヤ51における軸方向他端側ギヤ部512のピッチ円直径を軸方向一端側ギヤ部511のピッチ円直径と同じにしてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…差動装置 11…第1の出力軸
12…第2の出力軸 2…ハウジング
31…第1のインナヘリカルギヤ 312…外周ヘリカル歯
32…第1のアウタヘリカルギヤ 321…内周ヘリカル歯
323…環状突起 32a…軸端面
41…第2のインナヘリカルギヤ 412…外周ヘリカル歯
42…第2のアウタヘリカルギヤ 421…内周ヘリカル歯
423…環状突起 42a…軸端面
5…ピニオンギヤ組 51…第1のピニオンギヤ
511…軸方向一端側ギヤ部 512…軸方向他端側ギヤ部
513…ヘリカル歯 52…第2のピニオンギヤ
521…ヘリカル歯 6…センタワッシャ(摩擦部材)
61…本体部 62…嵌合突起
63…当接突起
図1
図2
図3
図4