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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】真空断熱材用外装材及び真空断熱材
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/065 20060101AFI20230719BHJP
   B32B 9/04 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
F16L59/065
B32B9/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019091944
(22)【出願日】2019-05-15
(65)【公開番号】P2020186774
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 香往里
(72)【発明者】
【氏名】後藤 花奈子
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-252618(JP,A)
【文献】特開2005-337405(JP,A)
【文献】国際公開第2017/200020(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/065
B32B 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空断熱材用外装材によりコア材を真空包装し、その後加熱処理を施す、真空断熱材の製造方法であって、
前記外装材は、少なくともガスバリア層とシーラント層とをこの順に積層して構成され、
前記ガスバリア層が蒸着フィルムと被覆層とを積層して構成されており、
この蒸着フィルムが蒸着基材上に無機蒸着膜を積層して成り、
前記被覆層が、ポリカルボン酸系重合体を含むカルボキシ基含有層と、金属化合物を含む金属含有層とで構成されており、
カルボキシ基含有層がポリカルボン酸系重合体とシランカップリング剤とを、99.5:0.5~80.0:20.0の質量比で含有し、加熱処理前の外装材の赤外線吸収スペクトルを透過法によって測定したとき、その赤外線吸収スペクトルにおける波数1490~1659cm-1の範囲内における最大ピーク高さαと波数1660~1750cm-1の範囲内における最大ピーク高さβとの比α/βが1未満であり、
このカルボキシ基含有層が前記無機蒸着膜に隣接しており、
前記シーラント層は前記金属含有層側に設けられていることを特徴とする、
真空断熱材の製造方法。
【請求項2】
前記ガスバリア層の表面に表面保護層が積層されている真空断熱材用外装材を用いたことを特徴とする、請求項1に記載の真空断熱材の製造方法。
【請求項3】
前記ガスバリア層を2層以上備える真空断熱材用外装材を用いたことを特徴とする、請求項1または2に記載の真空断熱材の製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理は、該加熱処理後の外装材の赤外線吸収スペクトルを透過法によって測定したとき、その赤外線吸収スペクトルにおける波数1490~1659cm -1 の範囲内における最大ピーク高さαと波数1660~1750cm -1 の範囲内における最大ピーク高さβとの比α/βが1以上となるような加熱処理である、請求項1~3に記載の真空断熱材の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理が、80℃以上かつ60分以上の条件で行われることを特徴とする、請求項4に記載の真空断熱材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷蔵庫や低温コンテナあるいは住居の外壁材などに取り付けられる真空断熱材の真空断熱材用外装材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷蔵庫や低温コンテナあるいは住居の外壁材などには、従来から種々の断熱材が用いられており、特に、断熱性能の優れた断熱材として、コア材2を外装材1内に封入し、内部を真空排気して外装材1をヒートシールすることにより密封した構成の真空断熱材Aが使用されている(図2参照)。
【0003】
この外装材1は、外部からのガスの侵入を防ぎ、内部を長期間真空状態に保持するために、ガスバリア性に優れたものである必要がある。そこで、従来、高いガスバリア性を持たすために、外装材1のガスバリア層として7~15μm程度の厚さの金属アルミニウム箔や金属又は無機物を蒸着した蒸着フィルムを含む積層フィルムが主として用いられてきた。
【0004】
このように断熱材Aはコア材2を外装材1で真空包装して構成されるため、外装材1はコア材2の外形に沿って変形する。このため、図2に示すように、外装材1には微細な凹凸が多数形成され、この凹凸によって屈曲される。外装材1中の金属アルミニウム箔や蒸着膜は、この微細な多数の屈曲によりクラックやピンホールが発生し、ガスバリア性が著しく低下するという問題があり、長期間に亘って断熱材Aの内部を真空状態に保っておくことが難しかった。
【0005】
このクラックやピンホールの発生の低減化をはかり、外装材1の内部の真空状態を長期に渡って維持する試みが行われている。例えば、層構成が、外側から順に、第1の延伸ナイロンフィルム、第2の延伸ナイロンフィルム、金属箔等からなるガスバリア層、熱溶着層であり、前記第1、第2の延伸ナイロンフィルム間に接着層が設けられている外装材1があった(特許文献1)。これら延伸ナイロンフィルムは強靭であるため、前述のような微細な屈曲によってもクラックやピンホールを発生することがないのである。
【0006】
しかしながら、これら2枚の延伸ナイロンフィルムを使用しても、真空断熱材Aの角部xにおいてはこれら延伸ナイロンフィルムが引き延ばされて、アルミニウム箔や蒸着膜にクラックやピンホールが発生することを確実に防ぐことはできず、この結果、外装材1の内部を真空状態に保っておくことが困難であるという問題を残していた。
【0007】
また、例えば、冷蔵庫等に適用する場合には、真空断熱材に溝を付ける必要があり、この溝で屈曲されるため、真空断熱材はこの屈曲に沿って変形させる必要がある。そして、外装材は、この屈曲で部分的に引き伸ばされため、この部分的な伸張によってガスバリア性が低下して真空断熱材の断熱性能が低下することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3482408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、真空断熱材の角部を含めて、高いガスバリア性を発揮する真空断熱
材用外装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、請求項1に記載の発明は、真空断熱材用外装材によりコア材を真空包装し、その後加熱処理を施す、真空断熱材の製造方法であって、
前記外装材は、少なくともガスバリア層とシーラント層とをこの順に積層して構成され、
前記ガスバリア層が蒸着フィルムと被覆層とを積層して構成されており、
この蒸着フィルムが蒸着基材上に無機蒸着膜を積層して成り、
前記被覆層が、ポリカルボン酸系重合体を含むカルボキシ基含有層と、金属化合物を含む金属含有層とで構成されており、
カルボキシ基含有層がポリカルボン酸系重合体とシランカップリング剤とを、99.5:0.5~80.0:20.0の質量比で含有し、加熱処理前の外装材の赤外線吸収スペクトルを透過法によって測定したとき、その赤外線吸収スペクトルにおける波数1490~1659cm-1の範囲内における最大ピーク高さαと波数1660~1750cm-1の範囲内における最大ピーク高さβとの比α/βが1未満であり、
このカルボキシ基含有層が前記無機蒸着膜に隣接しており、
前記シーラント層は前記金属含有層側に設けられていることを特徴とする、
真空断熱材の製造方法である。
【0011】
次に、請求項2に記載の発明は、前記ガスバリア層の表面に表面保護層が積層されている真空断熱材用外装材を用いたことを特徴とする、請求項1に記載の真空断熱材の製造方法である。
【0012】
次に、請求項3に記載の発明は、前記ガスバリア層を2層以上備える真空断熱材用外装材を用いたことを特徴とする、請求項1または2に記載の真空断熱材の製造方法である。
【0013】
次に、請求項4に記載の発明は、前記加熱処理は、該加熱処理後の外装材の赤外線吸収スペクトルを透過法によって測定したとき、その赤外線吸収スペクトルにおける波数1490~1659cm -1 の範囲内における最大ピーク高さαと波数1660~1750cm -1 の範囲内における最大ピーク高さβとの比α/βが1以上となるような加熱処理である、請求項1~3に記載の真空断熱材の製造方法である。
【0014】
次に、請求項5に記載の発明は、前記加熱処理が、80℃以上かつ60分以上の条件で行われることを特徴とする、請求項4に記載の真空断熱材の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の真空断熱材用外装材は、これによってコア材を真空包装した後加熱処理を施すことによって、カルボキシ基含有層に含まれるポリカルボン酸系重合体と金属含有層に含まれる金属とが反応し、ポリカルボン酸系重合体を架橋してガスバリア性の皮膜を形成する。このため、真空包装の際に蒸着フィルムの蒸着膜にクラックが生じた場合にも、その後の加熱処理によって、このクラック又はピンホール部分のガスバリア性を高めることができる。このため、真空断熱材の断熱性能を高め、しかも、長期間にわたって維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は本発明の外装材の例を示す断面説明図である。
図2図2は断熱材の例に係り、図2(a)はその斜視説明図、図2(b)はその断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る外装材は、コア材を真空包装して断熱材を製造する際に使用するもので、完成した真空断熱材の外面を構成する。この外装材は、ガスバリア層及びシーラント層を必須の構成要素とするもので、このほか、各層を接着する接着層やアンカーコート層、あるいは保護層等を有していてもよい。また、2層以上の前記ガスバリア層を備えていても
よい。
【0018】
図1はこの外装材1の例を示す断面図で、この外装材1は、外面側から順に、保護層11、ガスバリア層12及びシーラント層13を積層して構成されている。
【0019】
保護層11は、断熱材の外表面を構成して、磨耗や損傷から防ぐものである。このような保護層11としては、任意の樹脂フィルムを使用することができる。無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムのいずれでもよい、寸法安定性に優れる点から、一軸延伸フィルムや二軸延伸フィルムを好適に利用できる。
【0020】
この保護層11に利用できる樹脂フィルムを例示すると、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリアミド系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、ビニルアルコール系樹脂フィルム等を挙げることができる。ポリエステル系樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のフィルムを例示できる。ポリアミド系樹脂フィルムとしては、ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12等のフィルムを挙げることができる。また、ポリオレフィン系樹脂フィルムとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等のフィルムを例示できる。ビニルアルコール系樹脂フィルムとしては、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のフィルムが挙げられる。
【0021】
次に、ガスバリア層12は蒸着フィルム121と被覆層122とを積層して構成されている。
【0022】
次に、蒸着フィルム121は、蒸着基材121aの上に無機蒸着膜121bを積層して構成されたものである。
【0023】
蒸着基材121aとしては任意の樹脂フィルムを使用することができる。単層構造のフィルムでもよいし、複数の樹脂フィルムを積層した多層構造の積層フィルムであってもよい。また、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムのいずれでもよい、寸法安定性に優れる点から、一軸延伸フィルムや二軸延伸フィルムを好適に利用できる。
【0024】
この蒸着基材121aに利用できる樹脂フィルムを例示すると、ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリアミド系樹脂フィルム、ポリイミド系樹脂フィルム、ビニルアルコール系樹脂フィルム等を挙げることができる。ポリオレフィン系樹脂フィルムとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等のフィルムを例示できる。ポリエステル系樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のフィルムを例示できる。ポリアミド系樹脂フィルムとしては、ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12等のフィルムを挙げることができる。また、ビニルアルコール系樹脂フィルムとしては、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のフィルムが挙げられる。
【0025】
次に、無機蒸着膜121bを構成する無機物としては、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化錫等の無機酸化物を例示できる。これらの中でも、透明性とガスバリア性に優れることから、酸化アルミニウム、酸化珪素又は酸化マグネシウムが望ましい。
【0026】
無機蒸着膜121bは真空蒸着法やスパッタリング法等の薄膜形成手段により形成することができる。また、無機蒸着膜121bの形成に先立って、蒸着基材12a1の表面を表面処理したり、あるいはアンカーコート層を形成することも可能である。表面処理とし
てはコロナ放電処理、プラズマ処理、リアクティブイオンエッチング処理、オゾン処理等を例示できる。また、アンカーコート層はウレタン系アンカーコート剤を塗布して形成することができる。また、金属アルコキシドやシランカップリング剤と水溶性高分子との混合物を塗布してアンカーコート層とすることも可能である。
【0027】
次に、被覆層122はカルボキシ基含有層122aと金属含有層122bとで構成される必要がある。
【0028】
カルボキシ基含有層122aはポリカルボン酸系重合体を含む層である。この層は、ポリカルボン酸系重合体を含むコーティング組成物(C122a)を前記無機蒸着膜121bの上に塗布乾燥することにより、このカルボキシ基含有層122aが前記無機蒸着膜121bに隣接するようにて形成することができる。なお、カルボキシ基含有層122aを形成する前記コーティング組成物(C122a)には、さらにシランカップリング剤が配合されていてもよい。
【0029】
ポリカルボン酸系重合体は分子内に2個以上のカルボキシ基を有する重合体である。このようなポリカルボン酸系重合体としては、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸をモノマーの一部又は全部とする重合体を例示できる。また、カルボキシ基を有する多糖類であってもよい。このような多糖類としては、カルボキシメチルセルロース、あるいはペクチン等が例示できる。
【0030】
なお、エチレン性不飽和カルボン酸をモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げることができる。また、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーと共に、これに共重合してポリカルボン酸系重合体を形成する他のモノマーとしては、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等の飽和カルボン酸ビニルエステル類、アルキルアクリレート類、アルキルメタクリレート類、アルキルイタコネート類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、アクリルアミド、アクリロニトリル等を例示できる。
【0031】
次に、このカルボキシ基含有層122aを形成する前記コーティング組成物(C122a)にはシランカップリング剤が含まれているため、カルボキシ基含有層122aの耐水性を向上させることができる。また、カルボキシ基含有層122aと無機蒸着膜121bとが隣接して配置されているため、カルボキシ基含有層122aと無機蒸着膜121bとの密着性を向上させることが可能である。
【0032】
シランカップリング剤としては、例えば、アミンシランカップリング剤、ビニルシランカップリング剤、アクリルシランカップリング剤等を使用することができる。また、イソシアネート基やエポキシ基を持つシランカップリング剤であってもよい。
【0033】
なお、シランカップリング剤は加水分解が容易に生じ、また、酸の存在下では容易に縮合反応が起こるため、前記コーティング組成物(C122a)中に、シランカップリング剤のみ、その加水分解物のみ、あるいはこれらの縮合物のみが単独で存在することは稀であり、一般にはこれらシランカップリング剤、その加水分解物及びこれらの縮合物が混在している。
【0034】
そして、前記コーティング組成物(C122a)を塗布乾燥して形成したカルボキシ基含有層122aでもこの事情は同様であり、このカルボキシ基含有層122aには、シランカップリング剤、その加水分解物及びこれらの縮合物が混在している。このため、シランカップリング剤を含むコーティング組成物(C122a)で形成したカルボキシ基含有層122aを、その構造又は特性により直接特定することは不可能であるか、そうでなく
ても非実際的である。
【0035】
シランカップリング剤の配合量は、前記シランカップリング剤、その加水分解物及びこれらの縮合物をシランカップリング剤に換算したときの重量比で、ポリカルボン酸系重合体:シランカップリング剤が99.5:0.5~80.0:20.0となる量であることが必要である。
【0036】
これらポリカルボン酸系重合体やシランカップリング剤を適当な溶媒に溶解又は分散して前記コーティング組成物(C122a)とすることができる。溶媒としては、水、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン等を例示できる。
【0037】
そして、このコーティング組成物(C122a)を塗布乾燥することによって、カルボキシ基含有層122aを形成することができる。塗布方法は任意でよく、例えば、バーコート法、グラビアコート法、ロールコート法等を利用することができる。
【0038】
次に、金属含有層122bは金属化合物を含む層である。この金属化合物は、カルボキシ基含有層122aに含まれるポリカルボン酸系重合体のカルボキシ基と反応できるものである必要がある。
【0039】
この金属化合物は、溶剤中に溶解したものであってもよいが、微粉末であってもよい。金属元素としては多価金属元素が望ましく、例えば、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、銅、アルミニウム等が例示できる。また、その化合物としては、例えば、酸化物、水酸化物、炭酸塩等が例示できる。望ましくは、酸化亜鉛の微粉末である。
【0040】
金属含有層122bは、この金属化合物を溶剤に溶解又は分散させたコーティング組成物(C122b)をカルボキシ基含有層122aの上に塗布乾燥することによって、これらカルボキシ基含有層122aと金属含有層122bとが隣接するように形成することができる。
【0041】
この金属含有層122bの製膜性、耐水性、密着性を向上させるため、コーティング組成物(C122b)にはイソシアネート化合物を配合することが望ましい。イソシアネート化合物としては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニレンメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素添加ジフェニレンメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、水素添加リレンジイソシアネート等が例示できる。また、市販品としては、ヘンケル社製:Liofol HAERTER UR 5889-21を使用することができる。
【0042】
なお、前記コーティング組成物(C122b)の塗布方法も任意でよく、例えば、バーコート法、グラビアコート法、ロールコート法等を利用することができる。
【0043】
次に、シーラント層13は、外装材1によってコア材2を真空包装する際に互いにヒートシールして真空断熱材Aを密封する役割を果すものである。
【0044】
シーラント層13としては、ポリオレフィン系樹脂が使用できる。例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EAA)、アイオノマー、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂である。
【0045】
なお、この外装材1は、これの赤外線吸収スペクトルを透過法によって測定したとき、その赤外線吸収スペクトルにおける波数1490~1659cm-1の範囲内における最大ピーク高さαと波数1660~1750cm-1の範囲内における最大ピーク高さβとの比α/βが1未満であることが望ましい。
【0046】
なお、この外装材1の赤外線吸収スペクトルにおける波数1490~1659cm-1の範囲内におけるピークは、カルボキシ基含有層122aに含まれるカルボキシ基(-COOH)が金属元素Mと反応して、カルボン酸の金属塩(-COOM)を形成していることを示すものである。また、波数1660~1750cm-1の範囲内におけるピークは、カルボキシ基含有層122aに含まれる未反応のカルボキシ基(-COOH)に由来するピークである。このため、波数1490~1659cm-1の範囲内における最大ピーク高さαと波数1660~1750cm-1の範囲内における最大ピーク高さβとの比α/βが1未満であることは、未反応のカルボキシ基(-COOH)が多量に残存していることを示している。
【0047】
この外装材1は、図2に示すように、真空断熱材Aの外装材として使用できる。すなわち、この外装材1の内部にコア材2を封入し、内部を真空排気し、外装材1をヒートシールして密封することにより、密封包装体を製造することができる。コア材2としては、パーライト等の多孔質粉末やグラスウール等を使用できる。
【0048】
そして、このように密封包装体を製造した後、これを加熱処理することにより真空断熱材Aを製造することができる。加熱処理によりカルボキシ基含有層122aに含まれるポリカルボン酸系重合体のカルボキシ基と金属含有層122bに含まれる金属とを反応し、ポリカルボン酸系重合体を架橋してガスバリア性を高める。この反応の有無は、外装材1の赤外線吸収スペクトルを透過法によって測定して、その赤外線吸収スペクトルにおける波数1490~1659cm-1の範囲内における最大ピーク高さαと波数1660~1750cm-1の範囲内における最大ピーク高さβとの比α/βを測定することによって確認することができる。すなわち、ポリカルボン酸系重合体のカルボキシ基と金属含有層に含まれる金属とが反応した場合には、カルボキシ基(-COOH)が減少し、カルボン酸の金属塩(-COOM)が増大する。この比α/βが1.5以上となるように加熱処理することが望ましい。なお、この加熱処理は、例えば、温度80℃以上のボイル処理でよい。また、100℃以上のレトルト処理であってもよい。
【0049】
そして、このように製袋後の加熱処理によってガスバリア性を高めることができるから、仮に真空包装時に角部や溝等の屈曲部において無機蒸着膜にクラックやピンホールが発生したとしても、このクラック又はピンホール部分のガスバリア性を高めることができる。そして、このため、真空断熱材Aの断熱性能を長期間にわたって維持することが可能となるのである。
【実施例
【0050】
蒸着基材121aとして厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、まず、この上にアンカーコート剤を塗布乾燥してアンカーコート層を形成した。
【0051】
アンカーコート層に使用したコーティング液は、酢酸エチルを希釈溶媒としてγ―イソシアネートプロピルトリメトキシシランとアクリルポリオールとを配合し、次にトリレンジイソシアネートを配合した後、さらに希釈溶媒を加えて濃度2質量%に調整したものである。なお、γ―イソシアネートプロピルトリメトキシシランとアクリルポリオールとの配合比はγ―イソシアネートプロピルトリメトキシシラン1質量部に対してアクリルポリオール5質量部である。また、トリレンジイソシアネートは、そのNCO基とアクリルポ
リオールのOH基とが当量となるように配合した。また、このコーティング液の塗布方法はバーコート法で、塗布後150℃、1分間乾燥させた。
【0052】
次に、このアンカーコート層上に酸化アルミニウムを真空蒸着して、厚さ20nmの無機蒸着膜121bを形成することにより、蒸着フィルム121を製造した。
【0053】
次に、この無機蒸着膜121bの上に、この無機蒸着膜121bに直接接するように、厚さ1μmのカルボキシ基含有層122aを形成した。
【0054】
カルボキシ基含有層122aに使用したコーティング組成物(C122a)は、蒸留水にポリアクリル酸を溶解し、次にアミノプロピルトリメトキシシランを添加して均一な溶液としたものである。なお、ポリアクリル酸としては、東亞合成(株)製アロンA-10H(固形分濃度25質量%)を使用し、蒸留水58.9質量部に対し、アロンA-10Hを20質量部溶解させた。また、アミノプロピルトリメトキシシランとしては、アルドリッチ社製APTMSを使用し、前記溶液78.9質量部に対し、APTMS0.44質量部添加した。また、このコーティング組成物(C13a)の塗布方法はバーコート法で、塗布後80℃で1分間乾燥し、その後50℃で3日間熟成した。
【0055】
なお、こうして形成されたカルボキシ基含有層122aの赤外線吸収スペクトルを透過法によって測定したとき、波数1490~1659cm-1の範囲内においてはピークが認められなかった。すなわち、波数1490~1659cm-1の範囲内における最大ピーク高さαと波数1660~1750cm-1の範囲内における最大ピーク高さβとの比α/βは0.0である。
【0056】
次に、このカルボキシ基含有層122aの上に、このカルボキシ基含有層122aに直接接するように、厚さ1μmの金属含有層122bを形成した。
【0057】
金属含有層122bに使用したコーティング組成物(C122b)は、酸化亜鉛微粒子を分散した分散液にイソシアネート化合物を混合したものである。酸化亜鉛微粒子を分散した分散液としては、住友大阪セメント(株)製ZE143を使用した。また、イソシアネート化合物としては、ヘンケル社製Liofol HAERTER UR 5889-21を使用し、前記分散液100質量部に対し、イソシアネート化合物1質量部混合した。また、コーティング組成物(C122b)の塗布方法はバーコート法で、塗布後90℃で2分間乾燥させた。
【0058】
次に、金属含有層122b上に金属蒸着フィルムを積層した。この金属蒸着フィルムは、厚さ15μmのエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムに金属アルミニウムを真空蒸着したものである。
【0059】
そして、最後に、前記金属蒸着フィルムの上にシーラント層13を積層すると共に、その反対側、すなわち、蒸着基材121aの上に表面保護層11を積層して、実施例1に係る外装材1を製造した。シーラント層13は厚さ50μmの直鎖状低密度ポリエチレンフィルムである。また、表面保護層11は厚さ25μmのポリアミドフィルムである。
【0060】
(実施例2)
酸化アルミニウムに代えて酸化ケイ素を真空蒸着して無機蒸着膜121bを形成したほかは、実施例1と同様に実施例2に係る外装材1を製造した。なお、無機蒸着膜121bの厚さは実施例1と同じ20nmである。また、カルボキシ基含有層122aの赤外線吸収スペクトルを透過法によって測定したとき、波数1490~1659cm-1の範囲内における最大ピーク高さαと波数1660~1750cm-1の範囲内における最大ピ
ーク高さβとの比α/βは0.0である。
【0061】
(実施例3)
蒸着基材121aとして、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに代えて、厚さ15μmのポリアミドフィルムを使用した。また、無機蒸着膜121bを構成する無機物として、酸化アルミニウムに代えて酸化ケイ素を使用したほかは、実施例1と同様に実施例3に係る外装材1を製造した。なお、無機蒸着膜121bの厚さは実施例1と同じ20nmである。また、カルボキシ基含有層122aの赤外線吸収スペクトルを透過法によって測定したとき、波数1490~1659cm-1の範囲内における最大ピーク高さαと波数1660~1750cm-1の範囲内における最大ピーク高さβとの比α/βは0.0である。
【0062】
(比較例1)
この例は、蒸着フィルム121として金属蒸着フィルムを使用し、かつ、被覆層を省略した外装材の例である。
【0063】
すなわち、まず、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上に金属アルミニウムを蒸着して、金属蒸着フィルムを製造し、一方、厚さ15μmのエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムに金属アルミニウムを真空蒸着して金属蒸着フィルムを製造し、この2枚の金属蒸着フィルムを互いに積層した。
【0064】
そして、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムを基材とする金属蒸着フィルムの上にシーラント層を積層すると共に、その反対側、すなわち、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを基材とする金属蒸着フィルムの上に表面保護層を積層して、比較例1に係る外装材1を製造した。シーラント層厚さ50μmの直鎖状低密度ポリエチレンフィルムである。また、表面保護層は厚さ25μmのポリアミドフィルムである。
【0065】
(比較例2)
この例も、蒸着フィルム121として金属蒸着フィルムを使用し、かつ、被覆層を省略した外装材の例である。
【0066】
すなわち、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上に金属アルミニウムを蒸着して、金属蒸着フィルムを製造する代わりに、厚さ15μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム上に金属アルミニウムを蒸着して、金属蒸着フィルムを製造した。そのほかは比較例1と同様に、比較例2に係る外装材1を製造した。
【0067】
(評価・考察)
実施例1~3及び比較例1~2の各外装材1を使用して三方シール袋を作成した。三方シール袋の大きさは縦横いずれも200mmである。コア材2として縦横190mmのガラス織物を使用し、これを三方シール袋に収容し、真空包装装置を使用して袋内の圧力を1.0Paとした後、開口部をヒートシールして密封包装体とした。この密封包装体の大きさは、縦200mm、横200mm、厚さ5mmである。
【0068】
次に、これら密封包装体を、80℃、60分の条件で熱処理して真空断熱材Aとした。
【0069】
こうして熱処理した真空断熱材Aの外装材1の赤外線吸収スペクトルを透過法によって測定したとき、実施例1の外装材1においては、波数1490~1659cm-1の範囲内における最大ピーク高さαと波数1660~1750cm-1の範囲内における最大ピーク高さβとの比α/βは1.9であった。また、実施例2~3の外装材1においても、同様に比α/βは1.9であった。
【0070】
これら実施例1~3及び比較例1~2の各外装材を使用して製造した真空断熱材Aの熱伝導率(W/m・K)を表1に示す。この熱伝導率(W/m・K)は、それぞれ、真空断熱材Aの製造直後、2週間保存後、1ヶ月保存後のものである。
【0071】
この結果から、カルボキシ基含有層と金属含有層とを反応させた実施例1~3の各外装材を使用して製造した真空断熱材Aは、これらの層を持たない比較例1~2の各外装材に比較して、製造直後から断熱性能に優れており、しかも、保存による断熱性能の低下も少ないことが分かる。
【0072】
【表1】
【符号の説明】
【0073】
1:真空断熱材用外装材
11:表面保護層
12:ガスバリア層
121:蒸着フィルム 121a:蒸着基材 121b:無機蒸着膜
122:被覆層 122a:カルボキシ基含有層 122b:金属含有層含有層
13:シーラント層
2:コア材
A:真空断熱材
図1
図2