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特許7314616養液栽培用部材、養液栽培方法及び養液栽培システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】養液栽培用部材、養液栽培方法及び養液栽培システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20230719BHJP
【FI】
A01G31/00 601C
A01G31/00 601D
A01G31/00 617
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019094606
(22)【出願日】2019-05-20
(65)【公開番号】P2020036578
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2018164638
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】末松 優
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/098776(WO,A1)
【文献】特開平09-205912(JP,A)
【文献】特開平06-217655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面に勾配をもたせた栽培ベッド槽と、
該栽培ベッド槽の上に配置された、複数の植え穴が穿設された定植パネル板と、
該植え穴の下方の前記栽培ベッド槽の底面に設けられた苗架台と、
該苗架台上の植物の根又は苗架台の上面に養液が掛かるように養液を散水する散水部材とを備え、
該苗架台の下面側と該栽培ベッド槽の底面との間に通気空間が形成され、該苗架台上に植物が配置される養液栽培用部材であって、
該苗架台上に凹部が設けられている養液栽培用部材。
【請求項2】
前記苗架台は、前記栽培ベッド槽の長手方向に延在しており、
前記苗架台の凹部は、該苗架台の延在方向に延在することを特徴とする請求項1に記載の養液栽培部材。
【請求項3】
前記苗架台上に植物の苗根鉢が載置されることを特徴とする請求項1又は2の養液栽培用部材。
【請求項4】
前記凹部の幅は、苗根鉢の底面の幅よりも大きいことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の養液栽培部材。
【請求項5】
前記定植パネル板の下面に、前記散水部材から散水されて該定植パネル板下面に掛かった養液の少なくとも一部を前記苗架台側に伝わって流れるように導く傾斜面が設けられていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の養液栽培用部材。
【請求項6】
底面に勾配をもたせた栽培ベッド槽と、
該栽培ベッド槽の上に配置された、複数の植え穴が穿設された定植パネル板と、
該植え穴の下方の前記栽培ベッド槽の底面に設けられた苗架台と、
該苗架台上の植物の根又は苗架台の上面に養液が掛かるように養液を散水する散水部材とを備え、
該苗架台の下面側と該栽培ベッド槽の底面との間に通気空間が形成され、該苗架台上に植物が配置される養液栽培用部材であって、
前記定植パネル板の下面に、前記散水部材から散水されて該定植パネル板下面に掛かった養液の少なくとも一部を前記苗架台側に伝わって流れるように導く傾斜面が設けられていることを特徴とする養液栽培用部材。
【請求項7】
前記苗架台を覆うように親水性シートが配置されていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の養液栽培用部材。
【請求項8】
前記苗架台を覆うように親水性シートが配置されており、
前記親水性シートは、前記凹部形状に沿うように配置されていることを特徴とする請求項7に記載の養液栽培用部材。
【請求項9】
前記栽培ベッド槽の底板部の上面に凸条が前記栽培ベッド槽の長手方向に延設されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の養液栽培用部材。
【請求項10】
前記凸条が、前記苗架台の両側にそれぞれ同数ずつ設けられている、請求項9に記載の養液栽培用部材。
【請求項11】
前記凸条が、前記苗架台の両側に、それぞれ各1条以上設けられている、請求項10に記載の養液栽培用部材。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の養液栽培用部材を用いた養液栽培方法であって、前記植え穴を通して前記苗架台に植物を配置し、前記散水部材から前記苗架台上の植物の根又は苗架台の上面に養液が直接に又は前記定植パネル板に当ってから掛かるように養液を散水して植物を生育させることを特徴とする養液栽培方法。
【請求項13】
タンク、配管、及びポンプを有する養液循環機構と、請求項1~11のいずれか1項に記載の養液栽培用部材とを有することを特徴とする養液栽培システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の養液栽培用部材と、これを用いた植物の養液栽培方法及び養液栽培システムに関し、特に根が密生する植物の栽培においても根への養液及び酸素の供給が良好となる養液栽培用部材、養液栽培方法及び養液栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、養液などを使用する水耕栽培によって葉菜類や果菜類の栽培を行うことが試みられている。水耕栽培は、天候に左右されない安定した野菜の生産が可能であり、栽培場所が限定されない、肥料の流出が少ない栽培が可能であるなどのメリットを有している。
【0003】
養液栽培においては、植物の根への養液及び酸素の供給を適切に行うことが重要である。例えば、特許文献1には、栽培ベッドの底面に敷設した保水シートを濡らす程度の養液を供給して栽培を行うことにより、安定したキュウリの生育を目的とする養液栽培方法が開示されている。しかしながら、保水シートを濡らす程度の養液では、植物の種類によっては、養液供給が十分でないという問題があった。
【0004】
また、特許文献2には、底面に勾配をもたせた栽培ベッド槽と、該栽培ベッド槽の上に配置された、複数の植え穴が穿設された定植パネル板とを有し、前記栽培ベッド槽の底面に排水溝が設けられている養液栽培用部材において、該排水溝に被さるように親水性シートが配置され、該親水性シートと該排水溝の底面との間に通気スペースが形成されていることを特徴とする養液栽培用部材及び養液栽培方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-136311号公報
【文献】特開2017-104023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
植物の根圏環境は生育ステージにより大きく異なる。根圏環境とは、例えば、根の長さ・発達領域・密生状況などである。特に、根の生長が早い植物や、栽培期間が長い植物においては、植物の根の生長によって根の生育スペースが密生状態となることがある。その場合、播種・定植から間もない栽培初期の根圏環境と、収穫期が近づく栽培後期における根圏環境とは大きく異なる。従って、これを考慮した栽培用部材を設計する必要がある。
【0007】
本発明は、栽培初期の未発達な根圏環境においても、栽培後期の密生状態となる根圏環境においても、養液及び酸素の供給を適切に行うことを可能とする養液栽培用部材、養液栽培方法及び養液栽培システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(第1発明)の養液栽培用部材は、底面に勾配をもたせた栽培ベッド槽と、該栽培ベッド槽の上に配置された、複数の植え穴が穿設された定植パネル板と、該植え穴の下方の前記栽培ベッド槽の底面に設けられた苗架台と、該苗架台上の植物の根又は苗架台の上面に養液が掛かるように養液(水)を散水する散水部材とを備え、該苗架台の下面側と該栽培ベッド槽の底面との間に通気空間が形成され、該苗架台上に植物が配置される養液栽培用部材であって、該苗架台上に凹部が設けられている。
【0009】
本発明の一態様では、前記苗架台は、前記栽培ベッド槽の長手方向に延在しており、前記苗架台の凹部は、該苗架台の延在方向に延在する。
【0010】
本発明の一態様では、前記苗架台上に植物の苗根鉢が載置される。
【0011】
本発明の一態様では、前記凹部の幅は、苗根鉢の底面の幅よりも大きい。
【0012】
本発明の一態様では、前記定植パネル板の下面に、前記散水部材から散水されて該定植パネル板下面に掛かった養液の少なくとも一部を前記苗架台側に伝わって流れるように導く傾斜面が設けられている。
【0013】
本発明(第2発明)の養液栽培用部材は、底面に勾配をもたせた栽培ベッド槽と、該栽培ベッド槽の上に配置された、複数の植え穴が穿設された定植パネル板と、該植え穴の下方の前記栽培ベッド槽の底面に設けられた苗架台と、該苗架台上の植物の根又は苗架台の上面に養液が掛かるように養液を散水する散水部材とを備え、該苗架台の下面側と該栽培ベッド槽の底面との間に通気空間が形成され、該苗架台上に植物が配置される養液栽培用部材であって、前記定植パネル板の下面に、前記散水部材から散水されて該定植パネル板下面に掛かった養液の少なくとも一部を前記苗架台側に伝わって流れるように導く傾斜面が設けられている。
【0014】
本発明の一態様では、前記苗架台を覆うように親水性シートが配置されている。
【0015】
本発明の一態様では、前記苗架台を覆うように親水性シートが配置されており、前記親水性シートは、前記凹部形状に沿うように配置されている。
【0016】
本発明の養液栽培方法は、本発明の養液栽培用部材を用いた養液栽培方法であって、前記植え穴を通して前記苗架台に植物を配置し、前記散水部材から前記植物の根又は苗架台の上面に養液が直接に又は前記定植パネル板に当ってからかかるように養液を散水して植物を生育させることを特徴とする。
【0017】
本発明の養液栽培システムは、タンク、配管、及びポンプを有する養液循環機構と、本発明の養液栽培用部材とを有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明(第1発明)の養液栽培用部材は、苗架台上に凹部が設けられている。この凹部に養液が溜まることにより、植物の根への養液供給能が高まる。これにより、植物の根の活着を促進することができる。
【0019】
本発明(第2発明)では、定植パネル板の下面に掛った養液が、定植パネル板の下面の傾斜面を伝わって該苗架台上へ滴下するため、植物の根への養液供給能を高めることができる。これにより、植物の根の活着を促進することができる。
【0020】
また、本発明の養液栽培方法及び養液栽培システムは、前記養液栽培用部材を用いることにより、栽培初期から栽培後期まで、植物に養液と酸素を適切に供給することができる。これにより、葉菜類や果菜類の収穫量を向上されることができる。
【0021】
さらに、本発明の一態様によると、散水部材から散水を行うことにより、根の生育空間内の湿度を適切に高めることができる。これにより、根の生育空間内の湿度が高く維持され、栽培される植物の湿気中根の発達を促し、根からの酸素取り込み量を多くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施の形態に係る養液栽培用部材の概略的な断面斜視図である。
図2】実施の形態に係る養液栽培用部材の断面図である。
図3】栽培ベッド槽の斜視図である。
図4】苗架台の斜視図である。
図5図4のV-V線断面図である。
図6】苗架台の断面図である。
図7】苗架台の斜視図である。
図8】苗架台の斜視図である。
図9】苗架台の斜視図である。
図10】苗架台の断面図である。
図11】定植パネル板の断面図である。
図12】実施の形態に係る養液栽培システムの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は、下記実施形態に制限されるものではない。また、本発明において、「下方」「上方」「下面」「上面」など、「上」または「下」を含む各用語は、鉛直方向における上下方向を意味するものである。
【0024】
本発明において、「養液」とは、植物の栽培に用いられる水であれば特に限定されないが、例えば、窒素、リン、カリウムなど何れかの肥料成分を含有する水であることが好ましい。また、本発明において、原水とは、例えば、水道水、雨水、井戸水などを意味する。本発明において、水は、養液と原水を包括的に意味する場合がある。
【0025】
図1は、本発明の一実施の形態に係る養液栽培用部材を示す断面斜視図、図2はその拡大断面図である。図3,4は、栽培ベッド槽及び苗架台の斜視図、図5は苗架台の断面図である。
【0026】
この養液栽培用部材1は、それぞれ発泡スチロール等の発泡プラスチック製の栽培ベッド槽2及び定植パネル板3と、苗架台4と、防水性シート5と、親水性シート6と、散水部材(散水チューブ7)とを有する。そして、苗架台4の上に植物(苗根鉢9)が載置される。なお、この養液栽培用部材1を構成する栽培ベッド槽、定植パネル板、苗架台等の素材は、特に限定されるものではなく、植物を載置することが可能な程度の強度を有する素材であれば、何れも使用できる。
【0027】
苗架台に配置される植物とは、植物の種または植物の苗である。本発明においては、前記苗架台上の植物の根又は苗架台の上面に養液が掛かるように散水する散水部材を備えることにより、発芽前の種や、植物の根の発達領域が小さい栽培初期の苗に対する直接散水を可能とし、植物への養液供給を確実に行うことができる。したがって、散水部材は、苗架台上の植物の根又は苗架台の上面に直接養液が掛かるよう散水を行うものであるが、好ましくは、苗架台上の植物の根に直接散水を行うものである。ただし、少なくとも一部の養液が定植パネル板3に当ってから苗架台上の植物の根又は苗架台の上面に掛かるものであってもよい。なお、苗架台に配置される植物は、例えば、育苗装置などで栽培される植物の苗であることが好ましい。これによれば、本発明の養液栽培部材を使用する期間、すなわち、本発明の養液栽培システムにおける栽培期間を短期化できる。したがって、栽培圃場面積を有効活用でき、年間を通じて収穫期を長く配分できることや、限られた圃場面積における収穫量の増加が可能となる。
【0028】
本発明において、散水部材は特に限定されないが、例えば、散水チューブである。また、本発明において、散水部材は、栽培ベッド槽と定植パネル板とで囲まれた根の生育空間内であれば特に限定されることなく、何処に備えることもできる。散水部材の設置場所は、例えば、苗架台上、栽培ベッド槽の底面、または定植パネル板の下面などが挙げられるが、根が苗架台上から栽培ベッド槽底面へと生長することを妨げづらいことから、苗架台に触れないように栽培ベッド槽の底面に載置されることが好ましい。
【0029】
前記植物の苗の形態は、特に限定されないが、例えば、苗根鉢である。苗根鉢とは、個別のポットやセルトレイで育苗される植物の根が、培地を抱え込むように網状に生長したものである。根が十分に生長し、十分に培地を抱え込んだ状態では、苗をポットやセルトレイから抜いても、根鉢に守られて培地が崩れにくい状態となり、苗を定植することが可能である。本発明の一態様において、植物の根は苗根鉢を形成したものであることが好ましい。この態様においては、根の活着が植物の生産性に大きく影響するため、本発明による効果が表れやすく好ましい。
【0030】
なお、本発明において、植物の根とは、発芽・発根前の種の場合、種そのものを含み、苗根鉢の場合、根鉢全体の何処かを意味する。
【0031】
また、本発明において、直接散水とは、苗架台上に、好ましくは種や苗根鉢の何処かに、養液が直接かかることを意味する。
【0032】
図3に明示の通り、本発明の一実施形態においては、栽培ベッド槽2は、上面が開放した一方向に延在する長函状であり、1対の長側壁2a,2aと底板部2bとを有している。
【0033】
長側壁2a,2aの上端面と内側面との交差角縁部は切欠状の段部2dとなっており、この段部2dに定植パネル板3の側縁が係合する。
【0034】
底板部2bの上面(栽培ベッド槽2の底面)の幅方向中央部(長側壁2a,2a間の中央部)に苗架台4が配置されている。苗架台4と各長側壁2a,2aとの間の底板部2bの上面にそれぞれ複数条の凸条2tが栽培ベッド槽2の長手方向に延設されている。なお、図1では、凸条2tの図示は省略されている。
【0035】
この実施の形態では、凸条2tは苗架台4の両側にそれぞれ3条ずつ計6条が設けられている。本発明において、凸条2tは必ずしも必要ではないが、凸条2tを形成する場合、凸条2tの本数は、例えば、苗架台4の少なくとも片側に1条以上設けることが好ましく、少なくとも片側に2条以上設けることがより好ましく、3条以上設けることが特に好ましい。また、凸条2tの本数は、苗架台4の両側にそれぞれ同数ずつ設けることがより好ましく、例えば、苗架台4の両側に1条ずつ計2条以上、2条ずつ計4条以上、3条ずつ計6条以上とすることができる。凸条2tの本数は、底板部2bの幅寸法に応じて適宜設定することができる。
【0036】
なお、図2及び図3において、凸条2tの側面は、凸条の下面に対して傾斜している。凸条2tの側面は、傾斜せず栽培ベッド槽底面に対して垂直であっても、傾斜しても良い。凸条2tの側面が傾斜する場合、凸条の側面は、凸条の上面が下面よりも小さくなるように傾斜することが好ましく、その傾斜角は20度以上であることが好ましく、30度以上であることがより好ましい。また、該傾斜角は、80度以下であることが好ましく、60度以下であることがより好ましい。凸条2tの側面が傾斜すること、また、その傾斜角を当該範囲とすることにより、凸条と親水性シートとの密着性を向上させ、凸条と親水性シートとの間に気泡が発生することを防ぐことができ好ましい。
【0037】
凸条2tは、散水チューブ7の位置決め及び転動防止の機能を有するほか、底板部2b上を流れる養液を案内する機能も有する。底板部2bからの凸条2tの高さは0mm以上、好ましくは1.0mm以上、より好ましくは3.0mm以上である。また、底板部2bからの凸条2tの高さは10mm以下が好ましく、10mm未満であることがより好ましく、8.0mm以下であることが特に好ましい。
【0038】
苗架台4の一側辺に複数の凸条2t(例えば、図3では3条ずつ)が設けられる場合、凸条2t同士の間隔は10mm以上が好ましく、20mm以上であることがより好ましい。また、該凸条2t同士の間隔は、50mm以下であることが好ましく、30mm以下であることがより好ましいなお、凸条2tの側面が、図2及び図3のように傾斜する場合、上述の凸条2t同士の間隔は、凸条2tの底部における間隔を意味する。
【0039】
苗架台4と最も苗架台4側の凸条2tとの隙間は小さい方が好ましく、苗架台の片側につき、10mm以下であることが好ましく、7mm以下であることがより好ましい。一方で、苗架台4と最も苗架台4側の凸条2tとの隙間の幅を、片側につき0mm超とすることが好ましく、1mm以上であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、通気空間Tと根の生育空間Sとの養液及び空気の連通がスムーズとなり、また、苗架台4を栽培ベッド槽底面における適切な位置に設置することが容易となる。なお、通気空間Tは、空気が循環する空間である一方、養液を流下させる空間である。特に、根の生育空間Sにおいて、根が発達し水深が高くなるにつれ、通気空間Tへ流入する養液の量が多くなる。これにより、根の生育空間上部に空気の層(湿気空間)を確保することができ、植物における湿気中根の発達や酸素の吸収が行いやすくなる。
【0040】
なお、本実施形態の一態様において、栽培ベッド槽2は、底板部2bの上面(栽培ベッド槽2の底面)には、勾配を設けておらず、栽培ベッド槽2を勾配をもたせて設置する形態としている。この勾配は、長手方向の一端部から他端部に向かう流水勾配であることが好ましく、例えば、1/50~1/200程度である。本実施形態の別の態様においては、底板部2bの上面(栽培ベッド槽2の底面)に勾配をもたせ、栽培ベッド槽2を水平に設置する形態としてもよい。
【0041】
栽培ベッド槽2及び定植パネル板3の長手方向の長さは限定されないが、例えば、5.0m以上が好ましく、10m以上がより好ましい。また、該長さは、50m以下が好ましく、30m以下がより好ましい。さらに、栽培ベッド槽2及び定植パネル板3の幅は、0.1m以上が好ましく、0.3m以上がより好ましい。また、該幅は、2.0m以下が好ましく、1.0m以下がより好ましい。
【0042】
本発明において、定植パネル板は、栽培ベッド槽の上に配置され、長手方向に間隔をおいて複数の植え穴が設けられる。本実施形態の一態様において、定植パネル板3には、長手方向に間隔をおいて複数の植え穴3aが一列に設けられている。植え穴3a同士の間隔は、栽培される植物の種類などにより適宜設計することができ限定されないが、例えば200mm以上800mm以下であり、特には、400mm以上600mm以下が好ましい。植え穴3aは苗架台4の上方に位置している。図示の実施の形態では、苗架台4が1本だけ設けられ、植え穴3aの列も1列となっているが、苗架台4を平行に複数本設け、また植え穴3aも複数列設けてもよい。
【0043】
また、植え穴3aの形状は、図示するような、円筒形状のほか、角柱形状や、その他のいかなる形状であってもよい。本発明において、使用する苗根鉢が円筒形状の場合、植え穴も円筒形状であることが好ましく、苗根鉢が角柱形状である場合は、植え穴も角柱形状であることが好ましい。このように、苗根鉢の平面形状と、植え穴の平面形状を同様とすることで、植え穴における苗根鉢との隙間を小さくすることができ、散水された養液の飛び出しを抑制することができる。さらに、これにより、飛び出した養液が栽培される植物に当たったり、定植パネル板上に落液して、藻を発生させることを抑制することができる。また、植え穴3aの形状は、苗根鉢の形状より若干(例えば、1mm~2mm程度)大きくするにすることが好ましい。これにより、苗架台の凹部の中央に苗を定植し易くすることができる。
【0044】
この実施の形態においては、定植パネル板3の幅方向中央付近の下面は、該幅方向中央に向って下り勾配の傾斜面3fとなっている。この傾斜面3fを設けたことにより、散水部材7から放出されて、定植パネル板3の下面に掛かった養液が、該傾斜面3fを伝わって定植パネル板3の幅方向中央に集まり、該苗架台4上へ滴下するため、植物の根への養液供給能を高めることができる。これにより、植物の根の活着を促進することができる。
【0045】
なお、この実施の形態では、定植パネル板3の幅方向中央付近にのみ傾斜面3fを設けているが、傾斜面3fを定植パネル板3下面の全体に設けてもよい。また、図11の定植パネル板3Aのように、幅方向中央付近を幅方向中央に向って下り勾配となる傾斜面3fとし、それ以外は定植パネル板3Aの側方に向って下り勾配となる傾斜面3gとしてもよい。定植パネル板3Aのその他の構成は定植パネル板3と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0046】
防水性シート5は、栽培ベッド槽2の長側壁2a,2aの上端面及び内側面、及び底板部2b上面を覆うように設けられている。
【0047】
なお、本発明において、防水性シート5は、さらに、栽培ベッド槽の長側壁の上端面を超えて折り返され、前記定植パネル板3の側端面から上面を覆うように配置されてもよい。このように防水性シート5で定植パネル板3を覆うことにより、根の生育空間Sへの光の射しこみを低減し、藻の発生を防止することができる。この場合、防水シートは遮光機能を有するものであることが好ましい。さらに、防水性シート5が光反射性を有する素材の場合、防水性シートで定植パネル板を覆うことによる防虫効果も奏される。
【0048】
長側壁2a,2a間の中央に、栽培ベッド槽2の長手方向に延在するように苗架台4が設けられている。図1~5の実施の形態では、苗架台4は、天頂部4cと、天頂部4cの両側の脚部4dとを有している。各脚部4dに開口4bが長手方向に間隔をあけて複数個設けられている。
【0049】
苗架台4の天頂部4cの上面に凹部4mが設けられている。この実施の形態では、凹部4mは、苗架台4の長手方向に延在する凹条(溝)である。凹部4mの底面は、凹部4mの両側の土手状凸部4tから所定深さ低位の平坦面となっている。
【0050】
凹部4mを設けたことにより、凹部4mに養液が貯留し、植物の根への養液供給能が高まるため、植物の根の活着を促進することができる。本発明において、苗架台の天頂部上面に形成される凹部は、養液が貯留するものであれば、特に形状が限られるものではない。本発明における、凹部の別の実施の形態では、例えば、植物1体に対して1つの凹部が形成されてもよい。
【0051】
凹部4mの幅は、使用する苗根鉢底面の幅よりも大きいことが好ましい。具体的には、凹部4mの幅は、使用する苗根鉢底面の幅よりも1mm以上大きいことがより好ましく、使用する苗根鉢底面の幅よりも5mm以上大きいことが特に好ましい。また、凹部4mの幅は、使用する苗根鉢底面の幅に50mm加えた幅より小さいことが好ましく、苗根鉢底面の幅に45mm加えた幅より小さいことがより好ましく、使用する苗根鉢底面の幅に40mm加えた幅より小さいことが特に好ましい。前記苗架台上の凹部の幅をこのような範囲とすることにより、前記苗架台上の凹部の中に、苗根鉢を安定した姿勢にて収めることができる。これにより、苗転び(苗が傾くこと)を防ぎ、苗の直立姿勢が保たれやすいため、苗の根の活着率を高めたり、根の活着にかかる時間を縮めることができる。さらに、前記苗架台上の凹部内の底面は平坦とすることが好ましい。
【0052】
なお、苗根鉢底面の幅は、使用する苗根鉢が円形の場合、苗根鉢底面の直径を意味する。また、使用する苗根鉢が円形でない場合(例えば、正方形、長方形、ひし形など角形等)は、苗根鉢底面の最も大きい方向の一辺の長さを意味する。本発明の一態様では、上述のとおり、前記苗架台上の凹部の幅は、使用する苗根鉢底面の幅より大きいことにより、前記苗架台上の凹部の中に、苗根鉢を収めることができる。これにより、凹部4m内に溜った養液中に苗根鉢の下端部分が浸るようになり、養液が効率よく植物に吸収される。
【0053】
上記説明では、凹部4mは苗架台4の長手方向に連続して延在する溝状となっているが、該長手方向に連続しない凹穴状であってもよい。
【0054】
図4,5の苗架台4では、凹部4mを天頂部4cから凹陥する形状としているが、図6の苗架台4Aのように、天頂部4cの両側辺から凸部4tを立ち上げ、凸部4t,4t間に凹部4mを形成した形状としてもよい。
【0055】
前記苗架台上に形成される凹部4mの深さは1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましく、3mm以上であることが特に好ましい。凹部4mの深さをこのような範囲とすることにより、苗転び(苗が傾くこと)を防ぎ、苗の直立姿勢を保つ効果が得られやすい。また、凹部4mの深さは25mm以下であることが好ましく、20mm以下であることがより好ましく、15mm以下であることが特に好ましい。凹部4mの深さをこのような範囲とすることにより、植物の根が伸長し、苗架台の下の水膜に到達しやすくなる。これにより、水中根からの養液吸収を促進することができ、植物の生産性を高めることができる。
【0056】
上記実施の形態では、苗架台は、苗根鉢の下部を凹部4m内に収容するよう構成されているが、図7のように、細幅の溝状凹部4mを天頂部4cに設けた苗架台4Bを用いてもよい。この場合、苗根鉢は、その底面が凹部4mに沿う凸部4t上に着座するように配置される。苗根鉢の根が凹部4m内に伸長することにより、養液が植物に効率よく吸収される。
【0057】
図7では、凹部4mが2条示されているが、1条又は3条以上であってもよい。
【0058】
苗架台4は、根の生育空間における通気空間を構成するために、内部に空間を有する形状である。本発明においては、苗架台の下面側と該栽培ベッド槽の底面との間に通気空間Tを有するため、根の生育空間下方に通気空間が形成される。これにより、生長が著しい根の下層部(根群発達層)に、効果的に酸素が供給され、植物の生育が促進される。
【0059】
苗架台4は、開口4bが設けられていることが好ましい。これによれば、根の生育空間Sと通気空間Tにおける養液及び酸素の透過が行われやすい。したがって、苗架台の素材は特に限定されないが、多数の開口が設けられたプラスチックなどの硬質部材であることが好ましい。
【0060】
苗架台に形成された開口4b同士の間隔(配列ピッチ)は、限定されるものではないが、植え穴3aの配列ピッチよりも小さいことが好ましい。具体的には、苗架台の開口の配列ピッチは、200mm以下であることが好ましく、特に100mm以下であることが好ましい。これにより、植物1体あたりに対する苗架台の開口4b数を確保でき、根の生育空間Sと通気空間Tにおける養液及び酸素の通過が行われやすく、より確実に植物の根へ養分及び酸素を供給することが可能となる。したがって、植物1体あたりに対する苗架台の開口数は、4以上であることが好ましく、より好ましくは8以上である。あるいは、苗架台の開口の配列ピッチは、植え穴の配列間隔の50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。
【0061】
また、本発明では、苗架台が浸水しないように、苗架台の開口の配列ピッチを設定することが好ましい。これにより、植物の根が発達し水深が高くなる栽培後期においても、根の生育空間内に湿気空間(酸素供給領域)を確保し、植物における湿気中根の発達と酸素の吸収を行うことができる。
【0062】
なお、開口4b同士の間隔とは、苗架台の片側の脚部に形成された開口同士の間隔を意味する。ただし、植物1体あたりに対する苗架台の開口数は、苗架台の両側の脚部に形成された開口数である。
【0063】
苗架台4では、開口4bは1つの脚部4dにおいて、苗架台4の長手方向にジグザク状に設けられているが、図8に示す苗架台4Cのように一直線上に配列されてもよい。また、開口4bは、苗架台の両側の脚部にそれぞれ形成されることが好ましい。
【0064】
開口4bの形状は、養液と空気を通過させることができる形状であれば特に限定することは無く、たとえば、円形状、楕円形状またはスリット形状であっても良い。また、開口4bの位置(高さ)は、特に限定されないが、脚部4dの下縁から高さ5~50mm、特に5~40mm、とりわけ5~30mmの間に設置することが好ましい。
【0065】
苗架台は、図10の苗架台4Eのように脚部4d,4dが平板状となった台形などの断面形状のものであってもよい。脚部4dは天頂部4cと直角に設けられてもよい。
【0066】
苗架台4は、防水性シート5を敷設した後、該防水性シート5の上側に配置される。脚部4dの下縁と、その下側の防水性シート5との間には、苗架台4の撓みや防水性シート5の皺などにより、養液及び空気が通過する連通部が形成される。なお、連通部を大きくするために、図9の苗架台4Dのように、脚部4dの下端縁に切り欠き部よりなる連通部4kを設けてもよい。また、スペーサを配置したり、脚部4dから下方に突起を設けたりしてもよい。この苗架台4で囲まれる内部のスペースが通気空間Tとなっている。
【0067】
苗架台4の高さは、特に限定されることはなく、栽培ベッド槽2の底板部2bと定植パネル板3との間の空間の高さHと、栽培する植物とによって適宜設定することができる。苗架台4の天頂部から定植パネル板3の下面までの高さHは20~100mm、特に20~80mm程度が好ましい。
【0068】
苗架台4の底部の幅は、特に限定されないが、例えば、栽培ベッド槽の幅の10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましい。また、該幅は、栽培ベッド槽の幅の50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。これによれば、根の生育空間Sと通気空間Tいずれの領域も、適切に確保することができる。したがって、苗架台4の幅は、例えば、30mm以上であることが好ましく50mm以上であることがより好ましい。また、該幅の値は、500mm以下であることが好ましく、300mm以下であることがより好ましい。なお、ここでいう「苗架台の底部の幅」は、苗架台の脚部4d,4dの下端同士の距離を意味する。
【0069】
栽培ベッド槽2の底板部2bと定植パネル板3との間の高さHは、栽培する植物の種類や、栽培する期間によって適宜設定することができるが、生産性や材料のコストを考慮すると、50mm~150mm程度とすることが好ましい。
【0070】
本発明の一形態において、苗架台4の上面を覆うように親水性シートが配置されることが好ましい。これにより、苗架台の上面に直接散水された養液が親水性シートの含水率を上げ、植物の根への養液供給を促進することができる。親水性シートは、含水機能を有し、毛管作用によって液を汲み上げることができる素材であれば特に限定されず、いずれも使用できる。また、空気を透過させる機能や、根を通過させない素材であればより好ましい。親水性シートとしては、例えば、不織布、織布、紙などが挙げられ、特に、親水性不織布が好ましい。
【0071】
また、本発明の一態様においては、苗架台4の上面を覆うように遮根シートが配置されることが好ましい。遮根シートは、さらに、この栽培ベッド槽2の長側壁2a,2aの上端面及び内側面、底板部2b上面、並びに苗架台4の上面を覆うように設けられることが好ましい。このように、本発明の一態様において、苗架台の上面を覆うように遮根シートを設けることにより、苗架台の下面に植物の根が入り込むことを防ぎ、下面から根に酸素を供給可能な通気空間を確保しやすくなる。
【0072】
また、本発明の一形態において、親水性シートは遮根機能を有する親水遮根シートを使用することができる。あるいは、親水性シートと別に、遮根シートを使用することができる。親水性シートと遮根シートとを重ねて使用する場合、親水性シートの上に遮根シートを配置することが好ましい。
【0073】
本発明の一形態において、遮根シート、親水遮根シート、または親水性シートはいずれも、図2の親水性シート(6)として示すように、苗架台上の凹部形状に沿うように配置されることが好ましい。
【0074】
この親水性シート6に、幅方向の中央位置を示す識別部を設けてもよい。親水性シート6を栽培ベッド槽2上に敷くときに、識別部を長側壁2a,2a間に中央に配置させるようにすることにより、親水性シート6の敷設作業効率が向上する。
【0075】
この実施の形態では、苗架台4の両側において、散水チューブ7が設置されていることが好ましい。また、散水チューブは、親水性シート6の上側に設置されていることが好ましい。さらに、本発明の一態様において、図2に示すように、散水チューブ7は斜め上方に養液を放出する散水孔7a,7bを有している。この実施の形態では、散水孔7aは、右斜め上方に養液を放出させるように設けられ、散水孔7bは、左斜め上方に養液を放出させるように設けられている。散水孔7a,7bをこのように互いに反対方向に養液を放出させるように設けることにより、散水孔7a,7bからの放出水の反力によって散水チューブ7が回転することが防止される。
【0076】
この実施の形態では、前述の通り、底板部2bの上面に複数条の凸条2tが設けられており、散水チューブ7は、凸条2t同士の間の溝状部分に嵌った状態で配置されている。これにより、散水チューブ7は苗架台4と平行に位置決めされた状態にて設置されており、放出水圧や外部からの振動によって回転や位置ずれが防止される。
【0077】
図2の左側の散水チューブ7の散水孔7a及び右側の散水チューブ7の散水孔7bから放出される養液が苗根鉢9又は天頂部4cの上面に掛かるように散水孔7a,7bの指向方向が設定されると共に、散水孔7a,7bの内径及び散水チューブ7への養液供給圧が設定されている。
【0078】
なお、散水チューブ7に散水孔7a,7bを設けているので、散水チューブ7を苗架台4の左側及び右側のいずれに配置した場合でも、散水孔7a,7bのいずれか一方から苗架台4上の苗根鉢9又は天頂部4aに養液を掛けることができる。
【0079】
本発明の一態様では、散水チューブは苗架台と平行方向に延設されることが好ましい。そして、散水チューブ7の散水孔7a,7bの配列ピッチ(長手方向における散水孔7a,7a間及び散水孔7b,7b間の間隔)を植え穴3aの配列ピッチ(すなわち苗根鉢9の配列ピッチ)よりも小さくすることが好ましい。散水孔7a,7bの配列間隔は、限定されないが、植え穴3aの配列間隔の30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、特には、10%以下であることが好ましい。これにより、散水が植物の根に掛かり易くなり、植物の(特には苗の)根の発達を向上させることができる。同様に、散水孔7a,7bの配列間隔は、50mm未満であることが好ましく、40mm以下であることがさらに好ましく、30mm以下であることがより好ましい。
【0080】
散水チューブ7としては、特に限定されないが、例えば、筒状体の内部が仕切壁により分割され、2つの流路を形成するものや、散水チューブの筒状体における一部が、不織布にて構成されるものを使用することが好ましい。
【0081】
本発明においては、なかでも、2つの流路(A)と(B)が形成され、流路(A)の外気と接する筒状体の部位及び仕切壁をフィルムにて構成し、流路(B)の外気と接する筒状体の部位を不織布にて構成し且つ仕切壁には通水孔を設け、入口継手の配管を介して流路(A)に通水され、その際、仕切壁が流路(B)の不織布に接触しない様に形成されている散水チューブを使用することが好ましい。これによれば、散水チューブの長手方向において、より均一に散水することができる。また、散水チューブは、散水型、霧状潅水型、根元潅水型、点滴潅水型など、いずれも使用することができるが、植物の根又は苗架台の上面に直接潅水を行うとともに、根の生育空間の湿度を向上させる観点から、散水型の散水チューブを使用することが好ましい。
【0082】
本発明において、散水チューブが栽培ベッド槽の底面に載置される場合、散水チューブは、前記苗架台からの距離(M:散水チューブと苗架台との隙間距離)が50mm以下であることが好ましく、30mm以下であることがより好ましい。これによれば、苗架台上の植物の根又は苗架台の上面に、直接散水される養液量が確保され、栽培初期の根の発達領域において、確実に養液供給を行い、根の発達を向上させることができる。
【0083】
このように構成された養液栽培用部材1は、複数個繋ぎ合わされ、長さ10~100mの栽培ベッド槽列10(図12)とされる。防水性シート5は各栽培ベッド槽2に跨って連続して敷設される。これにより、栽培ベッド槽2同士の繋ぎ合わせ面からの漏水が防止される。
【0084】
本発明の一つの実施形態においては、各栽培ベッド槽2に被せられた定植パネル板3の植え穴3aを通して苗根鉢9を苗架台4の上に載せ、栽培ベッド槽2の底面2bに養液を流して流水路を形成する(流水機構を有する)と共に、散水チューブ7から養液を苗根鉢9及び天頂部4c上面に掛ける。すなわち、本発明の一つの実施形態は、流水機構と散水機構の2つの養液給水システムを有するものである。これにより、栽培初期には、散水機構により、苗根鉢9へ効果的に給液することができる。また、栽培中期から栽培後期には、流水機構により、大きく広がった根域全体に効果的に給液することができる。なお、流水機構とは、栽培ベッド槽の長手方向における上流から下流にかけて形成される流水路を意味する。さらに、流水機構は好ましくは、薄膜水耕栽培機構である。また、散水チューブ7から放出され、定植パネル板3の下面に掛かった養液の少なくとも一部は、傾斜面3fを伝って定植パネル板3の幅方向中央に向って流れ、苗架台4(4A~4E)又はその上の苗根鉢9上に滴下する。
【0085】
このように養液を供給することにより植物を生育させる。これにより、長側辺2a,2a、底板部2b、定植台4及び定植パネル板3で囲まれる根の生育空間Sに苗根鉢9から根9r(図2)が伸びる。
【0086】
なお、凹部4mから養液が溢れる程度に十分な量の養液を散水することが好ましい。
【0087】
本発明の養液栽培部材においては、栽培ベッド槽の長手方向における上流から下流にかけて流水路を有することが好ましい。流水路は、例えば、栽培ベッド槽の長手方向における上流に設置される給液パイプを起点として、栽培ベッド槽底面に形成された勾配により形成される。これにより、植物の水中根への養液の供給は、散水部材または流水路により行われることができる。さらに、本発明の養液栽培部材は、薄膜水耕栽培部材であることが好ましい。薄膜水耕とは、根の生育空間に養液の層と空気の層とのいずれも有するものである。これにより、根の生育空間において、栽培ベッド槽の底板部2b上に水膜が形成される。この水膜の上方は空気の層であり、湿気中根に酸素を供給することが可能である。また、この水膜の下方は養液の層であり、水中根に養分及び水分を供給することが可能である。なお、本発明の一態様において、養液栽培部材は養液循環型であることが好ましい。
【0088】
本発明の一態様においては、流水路は、苗架台の両側に有することが好ましい。すなわち、苗架台は、栽培ベッド槽の短手方向における略中央に設けられることが好ましい。また、栽培ベッド槽底面の底板部2bは、苗架台の両側において、水膜状の流水路が形成されることが好ましい。より具体的には、苗架台の両側に、流水路を有するように、給液パイプの吐出口が苗架台の両側に向けて設置されることが好ましい。これにより、より早く植物の水中根が伸長し、苗架台の下の水膜に到達し養液を吸収することができる。
【0089】
なお、薄膜水耕の反対概念として、湛液水耕(DFT)がある。湛液水耕は養液に根を浸す方式である。すなわち、根の生育空間内に湿気空間が無い。そのため、湛液水耕における根への酸素の供給は、養液中の溶存酸素を吸収することによる。本発明において、薄膜水耕とは、水深によらず、根の生育空間内に、湿気空間を有するものである。
【0090】
本発明の一態様においては、散水部材は苗架台の両側に有することが好ましい。これによれば、根の育成空間における湿気度や水温を適切に維持することが可能となる。
【0091】
生育当初は、根9rが短く、植物は散水チューブ7から注ぎかけられる養液から養液や、凹部4m内に溜った養液を吸収する。この実施の形態では、苗架台4に凹部4mを設けており、養液の一部が凹部4mに滞留するので、この滞留液が植物の根に効率よく吸収される。
【0092】
植物の根が次第に伸びて底板部2b上の水膜にまで達すると、この水膜からも養液を吸収する。
【0093】
苗架台4又は4A~4Eを使用することで、栽培ベッド槽2と定植パネル板3との間の根の生育空間S内に通気空間Tを形成することができ、特に、栽培後期における、植物の根への酸素の供給を効果的に行うことができる。また、苗架台4又は4A~4Eを使用することで、苗根鉢9が養液の流れに洗われないので、苗根鉢9の培地が崩れたり、培地が流出することが抑制される。
【0094】
苗架台4,4A~4E及び親水性シート6を配置すると共に、凸条2tを設けたことで、栽培ベッド槽2の底板部2bを流れる養液の流れが、栽培する植物の根の生長によって阻害されたり、養液が滞留したりすることを抑制することができる。
【0095】
また、苗架台4,4A~4Eと親水性シート6との間の連通部を介して、苗架台4,4A~4Eの両側の親水性シート6上の液が苗架台4,4A~4E内に流入し、苗架台4内の通気空間Tを通って流下する。このようにして、養液の滞留を抑制することができ、栽培する植物の根が養液に水没して酸素不足になることを抑制し、かつ、植物の根に適度な量の養液を供給することが可能となる。
【0096】
また、通気空間Tから連通部及び開口4b並びに親水性シート6を通して、通気空間T内の酸素(空気)を、根の生育空間Sで生長して密集した根の根群発達層に対しても、効率よく供給することが可能となる。
【0097】
本発明の養液栽培方法によると、主に水中で生育し、分枝の少ない水中根と、湿気中に維持し多数の根毛を有する湿気中根の2つの異なった形態・機能を持った根を生長させることができる。水中根は主に養液中の肥料と水を吸収し、湿気中根は主に湿気中から直接酸素を吸収する。
【0098】
また、散水チューブによると、長手方向に均一な養液、具体的には、養分濃度及び水温が均一である養液を植物に供給できるため、植物の植生箇所による栽培環境のムラが防止され、生長速度を統一しやすく、葉菜類や果菜類の収穫量を安定化させることができる。さらに、本発明の養液栽培方法において、養液の水温を適温に制御して24時間散水を行うことが好ましい。これによれば、栽培装置周囲の温度が大きく変化しても、根圏温度(根の生育空間の温度)を適切な範囲に維持することができる。散水チューブによる養液の供給は、栽培初期にとどめ、根が栽培ベッド底面に到達した時点で止めることも可能である。ただし、上述のように、長手方向に均一な養液を供給できることや、周囲の温度変化による根圏温度への影響を抑えることができる点から、植物の根が発達し、栽培ベッド底面に到達した後も、散水チューブによる養液の供給は続けることが好ましい。
【0099】
この実施の形態で採用した薄膜水耕方式は、湿気空間を保持しつつ、水中根の生育空間を確実に確保し、水中根からの養分や水分の取り込みを確実に行うことができる。さらに養液の供給が流動式であるため、水質の汚染(微生物の繁殖など)が起こりづらく、安定した栽培を実現することができる。なお、本発明の養液栽培部材は、養液温度の制御装置を有することが好ましい。具体的には、給水の配管周囲やタンク内に、温度調整機構を付加することなどが挙げられる。また、本発明の養液栽培方法は、養液の供給温度を制御することが好ましい。これによれば、根の生育空間に適温に供給される養液の温度が制御されることにより、根圏温度が適切に維持され、根の生育が促進される。養液の供給温度は、天候や季節、植物の種類により適宜設定され、限定されるものではないが、例えば、10℃以上30℃以下が好ましく、15℃以上25℃以下がより好ましく、特には18℃以上23℃以下である。
【0100】
本発明の養液栽培方法で生育させた植物の根群は、水中根が多く占める領域と、湿気中根が多く占める領域と、水中根と湿気中根が混在する領域の3つの領域を有する根群とすることができる。更に、水中根と湿気中根が混在する領域と、水中根が多く占める領域に効率よく酸素を供給することで、根が密生した状態においても溶存酸素が不足することを抑制することができ、葉菜類や果菜類の収穫量を増加さることが可能となる。
【0101】
本発明の養液栽培用部材は、根の生育空間に湿気空間を形成し、根への酸素供給が容易である薄膜水耕栽培(以後「NFT」ともいう。)に特に適している。
【0102】
また、本発明は、根が多く発達する果菜類の栽培に好ましく、より好ましくはウリ科の植物の栽培に使用することができ、更に好ましくはキュウリの栽培に好適に使用することができる。
【0103】
上記実施の形態では散水チューブを栽培ベッド槽2上に配置しているが、これに限定されない。例えば、散水チューブは定植パネル板に吊支されてもよい。
【0104】
上記実施の形態では栽培ベッド槽2に凸条2tを設けているが、凸条以外の凸部を設けてもよい。
【0105】
図1~5の実施の形態では、定植パネル板3又は3Aに傾斜面3fを設ける構成と、苗架台4,4A~4Fに凹部4mを設ける構成との双方を採用しているが、本発明では、いずれか一方の構成のみを備えてもよい。
【0106】
本発明の養液栽培部材に、タンク、配管、ポンプなどを有する養液循環機構を配置することにより、養液栽培システムとすることができる。図12は、本発明の実施の形態に係る養液栽培システムの一例を示す平面図である。
【0107】
図12では、ハウス内に複数の栽培ベッド槽2を複数個直列に接続して栽培ベッド槽列10とし、この栽培ベッド槽列10を複数列(図示では4列)配列して栽培ベッド槽群20としている。なお、1つの栽培ベッド槽列10にあっては、複数個の栽培ベッド槽2を直列に配列し、各栽培ベッド槽2に跨って防水性シート5を敷いている。これにより、栽培ベッド槽2同士の繋ぎ合わせ面からの漏水を防止している。1つの栽培ベッド槽列10を構成する栽培ベッド槽2の数は5~100個程度であるが、これに限定されない。
【0108】
各々の栽培ベッド槽列10は、長手方向の一端部から他端部に向けて流水勾配を有するように、1/50~1/200程度の勾配で設置されることが好ましい。これにより、本発明の養液栽培部材は、該栽培ベッド槽の長手方向における上流から下流にかけて流水路を有するものとなる。このように、本発明の養液栽培部材及び養液栽培システムは、養液の供給及び循環において、薄膜水耕栽培方式とすることにより、根の生育空間における酸素供給領域を確保しやすく、植物の根による酸素吸収が行われやすいため好ましい。すなわち、本発明の養液栽培方法は、苗架台が浸水しないように、栽培ベッド槽における長手方向の一端部から他端部に向けての勾配を設定することが好ましい。これにより、植物の根が発達し水深が高くなる栽培後期においても、根の生育空間内に湿気空間(酸素供給領域)を確保し、植物における湿気中根の発達と酸素の吸収を行うことができる。
【0109】
1つの栽培ベッド槽群20に1個のタンク33が付随して設置されている。この養液栽培システムには、循環する養液を貯留するタンク33があり、タンク33内の養液は、ポンプ34、配管35及び弁36を介して各栽培ベッド槽列10に供給される。タンク33には、植物が吸水した養液量に相当する水量を補給する水を供給する系統が配されている。そして、水を供給する系統は、該水を供給するための原水タンク(図省略)、供給制御弁25a、及び配管25を有し、水が常時補給されるものであることが好ましい。タンク33は、貯留される養液量が常に一定となるように、フロートバルブであるボールタップ31にて、タンク33への水の流水量が制御されるものであることがより好ましい。
【0110】
本発明の養液栽培システムは、液肥を供給する系統が配置されることが好ましい。液肥を供給する系統は、濃厚液肥を貯留するタンク(図省略)や、該液肥を供給するための供給制御弁24aや配管24を有する。循環養液の総肥料濃度(EC)は、常時供給される水によって小さくなる。そのため、本発明の養液栽培システムには、例えばタンクに、EC値を計測するセンサー部が装備されることが好ましく、本発明の養液栽培方法は、一定範囲のECとなるように養液の総肥料濃度を常時制御することが好ましい。タンク内の養液のECが一定値以下に下回った場合には、濃厚液肥が補給される。なお、本発明の養液栽培システムの液肥を供給する系統は、2種以上の濃厚液肥を貯留する2つのタンクから液肥が補給されることが好ましい。
【0111】
本発明においては、植物に供給される水(養液)のpHを一定の範囲に保持することが好ましい。例えば、pHが特定値以上に上昇した場合には酸などを補給し、pHが一定値以下に下降した場合にはアルカリなどを補給することでpH値を好適に維持することができる。なお、本発明においては、循環水(養液)のpHを計測するセンサーを装備すればなお良い。これによれば、一定範囲に養液pHを制御することも可能である。
【0112】
この水(養液)を貯留するタンクから、ポンプ、配管及び弁を介して各栽培ベッド槽列に水(養液)が供給され、各栽培ベッド槽列の末端部から吸収されなかった水(養液)がタンクに戻るように配管されている。
【0113】
以上、本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2018年9月3日付で出願された日本特許出願2018-164638に基づいており、その全体が引用により援用される。また、本出願における「苗架台」の語は、日本特許出願2018-164638における、「植物載置台」の語を意味し、置き換え可能である。
【符号の説明】
【0114】
S 根の生育空間
T 通気空間
M 散水部材(散水チューブ)と苗架台との距離
1 養液栽培用部材
2 栽培ベッド槽
2b 底板部
2t 凸条
3,3A 定植パネル板
3a 植え穴
4,4A~4E 苗架台
4b 開口
4c 天頂部
4d 脚部
4k 連通部
4m 凹部
4t 凸部
5 防水性シート
6 親水性シート
7 散水チューブ
7a,7b 散水孔
9 苗根鉢
10 栽培ベッド槽列
20 栽培ベッド槽群
31 ボールタップ
40 桶状部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12