(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】熱負荷計算装置、熱負荷計算方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20230719BHJP
【FI】
G01N25/18 L
(21)【出願番号】P 2019165499
(22)【出願日】2019-09-11
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相賀 洋
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亜璃砂
(72)【発明者】
【氏名】焼山 誠
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-224014(JP,A)
【文献】特開2005-301487(JP,A)
【文献】特開2013-221772(JP,A)
【文献】特表2018-509613(JP,A)
【文献】特開2016-122358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間を仕切る区画材を通過する熱量を計算する熱負荷計算装置であって、
前記区画材のモデルを仮想空間に配置するために用いる前記モデルの形状データ及び位置データと、前記区画材の属性及び熱貫流率を定義する属性データとを含む設計データを取得する取得手段と、
前記区画材の表面に直交する走査面に対して直交する方向に前記走査面により前記モデルの前記属性データを走査することによって、前記モデルを構成する複数の区画材要素モデルを区切る境界面の位置を特定する走査手段と、
前記走査手段によって特定された前記境界面の位置と、前記形状データ及び前記位置データに基づく前記区画材の寸法とに基づき前記区画材要素モデルの面積を算出する面積算出手段と、
前記面積算出手段によって算出された前記区画材要素モデルの面積を利用して前記区画材要素モデルごとに貫流熱量を算出する貫流熱量算出手段と、
を備える熱負荷計算装置。
【請求項2】
前記属性データは前記区画材要素モデルごとに前記区画材要素モデルの属性及び熱貫流率を定義しており、
前記貫流熱量算出手段が、前記面積算出手段により算出した面積と前記区画材要素モデルの熱貫流率を乗ずることによって貫流熱量を算出する
請求項1に記載の熱負荷計算装置。
【請求項3】
前記区画材が壁であり、
前記区画材要素モデルを区切る境界面が水平であり、
前記走査手段が水平な前記走査面により前記壁の前記モデルの高さ方向に前記壁の前記モデルの前記属性データを走査し、
前記面積算出手段が前記区画材の寸法として前記壁の幅及び高さを利用して前記区画材要素モデルの面積を算出する
請求項1に記載の熱負荷計算装置。
【請求項4】
コンピュータによって実行され、空間を仕切る区画材を通過する熱量を計算する熱負荷計算方法であって、
前記コンピュータが、前記区画材のモデルを仮想空間に配置するために用いる前記モデルの形状データ及び位置データと、前記区画材の属性及び熱貫流率を定義する属性データとを含む設計データを取得する取得ステップと、
前記コンピュータが、前記区画材の表面に直交する走査面に対して直交する方向に前記走査面により前記モデルの前記属性データを走査することによって、前記モデルを構成する複数の区画材要素モデルを区切る境界面の位置を特定する走査ステップと、
前記コンピュータが、前記走査ステップによって特定された前記境界面の位置と、前記形状データ及び前記位置データに基づく前記区画材の寸法とに基づき前記区画材要素モデルの面積を算出する面積算出ステップと、
前記コンピュータが、前記面積算出ステップによって算出された前記区画材要素モデルの面積を利用して前記区画材要素モデルごとに貫流熱量を算出する貫流熱量算出ステップと、
を含む熱負荷計算方法。
【請求項5】
空間を仕切る区画材を通過する熱量を計算するコンピュータに、
前記区画材のモデルを仮想空間に配置するために用いる前記モデルの形状データ及び位置データと、前記区画材の属性及び熱貫流率を定義する属性データとを含む設計データを取得する取得ステップと、
前記区画材の表面に直交する走査面に対して直交する方向に前記走査面により前記モデルの前記属性データを走査することによって、前記モデルを構成する複数の区画材要素モデルを区切る境界面の位置を特定する走査ステップと、
前記走査ステップによって特定された前記境界面の位置と、前記形状データ及び前記位置データに基づく前記区画材の寸法とに基づき前記区画材要素モデルの面積を算出する面積算出ステップと、
前記面積算出ステップによって算出された前記区画材要素モデルの面積を利用して前記区画材要素モデルごとに貫流熱量を算出する貫流熱量算出ステップと、を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間を仕切る区画材を通過する熱量を計算する熱負荷計算装置及び熱負荷計算方法に関するとともに、その熱負荷計算装置のコンピュータが実行するプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物内の空調設備の省エネルギー化を実現するためには、空調設備のエネルギー消費量を評価・検証することが有効的である。空調設備のエネルギー消費量の評価・検証のために、動的熱負荷計算・空調システム計算プログラムとして「HASP」が開発されている(例えば、非特許文献1参照)。「HASP」は部屋又は室等の空間の温度・湿度及び熱負荷を算出するとともに、空調に係るエネルギー消費量を評価することを目的として整備されたプログラムである。
【0003】
ところで、建物内の空間は壁等の区画材によって仕切られている。区画材を通過する熱量は屋内空間の熱負荷の要因となるため、その熱量の計算が必要となる。以降、定常熱負荷計算理論に基づいて説明するが、動的熱負荷計算理論についても同様である。区画材を通過する単位温度差当たり・単位時間当たりの熱量は、その区画材の面積にその区画材の熱貫流率を乗ずることによって得られる。壁の場合、平面図から壁の幅を取得し、断面図から天井高を取得し、幅及び天井高から壁の面積を算出し、その面積に熱貫流率を乗ずる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】一般社団法人建築設備技術者協会,“動的熱負荷計算・空調システム計算方法”,[2019年8月29日検索],インターネット<URL:http://www.jabmee.or.jp/hasp/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、壁が床面から天井面にかけて単一の素材で構成されていないこともある。つまり、壁が上下に分かれた複数の壁要素材から構成され、これら壁要素材の熱貫流率が互いに異なることもある。このような場合、従来の計算手法では、壁用素材ごとに面積を算出することができないため、平面図に示されている壁要素材の熱貫流率を壁全体の面積に乗ずることになる。そのため、平面図に示されている壁要素材以外の壁要素材の熱貫流率が考慮されていないので、その壁全体を通過する熱量が正確に計算されない。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、壁等の区画材が複数の要素から構成されている場合、要素ごとに面積を算出できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するために、空間を仕切る区画材を通過する熱量を計算する熱負荷計算装置は、前記区画材のモデルを仮想空間に配置するために用いる前記モデルの形状データ及び位置データと、前記区画材の属性及び熱貫流率を定義する属性データとを含む設計データを取得する取得手段と、前記区画材の表面に直交する走査面に対して直交する方向に前記走査面により前記モデルの前記属性データを走査することによって、前記モデルを構成する複数の区画材要素モデルを区切る境界面の位置を特定する走査手段と、前記走査手段によって特定された前記境界面の位置と、前記形状データ及び前記位置データに基づく前記区画材の寸法とに基づき前記区画材要素モデルの面積を算出する面積算出手段と、前記面積算出手段によって算出された前記区画材要素モデルの面積を利用して前記区画材要素モデルごとに貫流熱量を算出する貫流熱量算出手段と、を備える。
好ましくは、前記属性データは前記区画材要素モデルごとに前記区画材要素モデルの属性及び熱貫流率を定義しており、前記貫流熱量算出手段が、前記面積算出手段により算出した面積と前記区画材要素モデルの熱貫流率を乗ずることによって貫流熱量を算出する。
【0008】
以上の課題を解決するため、コンピュータによって実行され、空間を仕切る区画材を通過する熱量を計算する熱負荷計算方法であって、前記コンピュータが、前記区画材のモデルを仮想空間に配置するために用いる前記モデルの形状データ及び位置データと、前記区画材の属性及び熱貫流率を定義する属性データとを含む設計データを取得する取得ステップと、前記コンピュータが、前記区画材の表面に直交する走査面に対して直交する方向に前記走査面により前記モデルの前記属性データを走査することによって、前記モデルを構成する複数の区画材要素モデルを区切る境界面の位置を特定する走査ステップと、前記コンピュータが、前記走査ステップによって特定された前記境界面の位置と、前記形状データ及び前記位置データに基づく前記区画材の寸法とに基づき前記区画材要素モデルの面積を算出する面積算出ステップと、前記コンピュータが、前記面積算出ステップによって算出された前記区画材要素モデルの面積を利用して前記区画材要素モデルごとに貫流熱量を算出する貫流熱量算出ステップと、を含む熱負荷計算方法が提供される。
【0009】
空間を仕切る区画材を通過する熱量を計算するコンピュータに、前記区画材のモデルを仮想空間に配置するために用いる前記モデルの形状データ及び位置データと、前記区画材の属性及び熱貫流率を定義する属性データとを含む設計データを取得する取得ステップと、前記区画材の表面に直交する走査面に対して直交する方向に前記走査面により前記モデルの前記属性データを走査することによって、前記モデルを構成する複数の区画材要素モデルを区切る境界面の位置を特定する走査ステップと、前記走査ステップによって特定された前記境界面の位置と、前記形状データ及び前記位置データに基づく前記区画材の寸法とに基づき前記区画材要素モデルの面積を算出する面積算出ステップと、前記面積算出ステップによって算出された前記区画材要素モデルの面積を利用して前記区画材要素モデルごとに貫流熱量を算出する貫流熱量算出ステップと、を実行させるプログラムが提供される。
【0010】
以上によれば、走査面による走査中に、その走査面が境界面を通過すると、通過前の区画材要素モデルの属性データから通過後の区画材要素モデルの属性データに切り替わるため、境界面の位置を特定することができる。その境界面の位置と区画材の寸法から区画材要素モデルごとに面積を求めることができる。よって、区画材要素モデルごとに貫流熱量を算出することができ、その区画材全体を通過する貫流熱量を正確に算出することができる。
【0011】
好ましくは、前記区画材が壁であり、前記区画材要素モデルを区切る境界面が水平であり、前記走査手段が水平な前記走査面により前記壁の前記モデルの高さ方向に前記壁の前記モデルの前記属性データを走査し、前記面積算出手段が前記区画材の寸法として前記壁の幅及び高さを利用して前記区画材要素モデルの面積を算出する。
【0012】
以上によれば、壁要素モデルごとに面積を求めることができる。よって、壁要素モデルごとに貫流熱量を算出することができ、その壁全体を通過する貫流熱量を正確に算出することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、区画材要素モデルごとに面積及び貫流熱量を算出することができ、その区画材全体を通過する貫流熱量を正確に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】熱負荷計算装置の演算処理によって仮想空間に配置される部屋モデルを示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0016】
1.熱負荷計算装置の構成
図1は、本発明の一実施形態である熱負荷計算装置10のブロック図である。
熱負荷計算装置10は、コンピュータ11、表示デバイス12、入力デバイス13及び記憶部14等を備える。
【0017】
コンピュータ11は、CPU、GPU、ROM、RAM、システムバス及びハードウェアインタフェース等を有する。
表示デバイス12は、例えば液晶ディスプレイデバイス、有機ELディスプレイデバイス又はプロジェクタである。コンピュータ11が演算処理によって映像信号を生成し、その映像信号を表示デバイス12に出力する。そうすると、映像信号に従った画面が表示デバイス12によって表示される。表示デバイス12とコンピュータ11が一体化されていてもよいし、別体であってもよい。
入力デバイス13は、例えばスイッチ、キーボード若しくはポインティングデバイス又はこれらの組み合わせである。入力デバイス13は、表示デバイス12の表面に設けられたタッチパネルであってもよい。入力デバイス13は、操作されると操作内容に応じた信号をコンピュータ11に出力する。
【0018】
記憶部14は、半導体メモリ又はハードディスクドライブ等からなる記憶装置である。記憶部14は、コンピュータ11に内蔵されたものでもよいし、コンピュータ11に外付けされたものでもよい。記憶部14には、コンピュータ11によって読取可能且つ実行可能な設計プログラム20が格納されている。設計プログラム20は、BIM(Building Information Modeling:ビルディング インフォメーション モデリング)及びCAD(Computer-Aided Design)を実現する設計用ソフトウェアである。コンピュータ11が設計プログラム20を実行することによってBIM及びCADが実現される。
【0019】
記憶部14には、BIM及びCADを実現する設計用ソフトウェアによって作成された建物の設計データ30が記憶されている。設計データ30は、建物の構成要素(例えば、基礎、柱、梁、壁、スラブ、壁、床、天井、配管等)ごとに形状データ31、位置データ32及び属性データ33が含まれている。形状データ31は、建物の構成要素の形状をローカル座標系で表現するデータである。位置データ32は、建物の構成要素の設置位置及び設置向きをワールド座標系で表現するデータである。属性データ33は、建物の構成要素の属性を定義するデータである。属性データ33は、建物の構成要素の素材、品番、性能及び価格等のデータからなる。
【0020】
構成要素が空間を区切る区画材である場合、属性データ33には、区画材の熱特性のデータが含まれている。区画材とは、壁、床又は天井のことをいう。窓又は扉等の建具が区画材に設置されている場合、その建具は区画材の一部とする。熱特性としては、熱貫流率、熱伝導率及び熱抵抗値がある。熱貫流率とは、温度差のある空間を隔てた区画材の熱の伝えやすさを表す。熱貫流率は、単位温度差当たり・単位時間当たりに単位面積を通過する熱量である。熱貫流率の単位は、「W/(m2・K)」、「(J/sec)/(m2・K)」又は「J(熱量ジュール)/(m2・K・sec)」である。熱伝導率は、区画材の熱の伝わりやすさを表す物性値であり、熱抵抗値は、区画材の熱の伝わりにくさを表す値である。熱抵抗値は、区画材の厚みを区画材の熱伝導率で除することによって得られた値である。
【0021】
コンピュータ11が設計プログラム20を実行して、設計データ30を読み込む。そうすると、コンピュータ11が、設計データ30の形状データ31及び位置データ32に従って建物の各構成要素のモデルをワールド座標系の仮想空間に配置して、各構成要素のモデルをレンダリング処理によって表示デバイス12に表示させる。これにより、各構成要素のモデルからなる建物のモデルが表示デバイス12に表示される。ワールド座標系が直交座標系であり、仮想空間における位置がX座標、Y座標及びZ座標によって表現され、X軸、Y軸及びZ軸が互いに直交する。X軸及びY軸は水平面に対して平行であり、Z軸は水平面に対して直交する。
【0022】
図2には、設計データ30に基づいて仮想空間にモデリングされる部屋のモデル90の一例が示されている。この部屋のモデル90は四方の壁モデル91~94、下側の床モデル95及び上側の天井モデル96からなる。これらモデル91~96は何れも矩形状である。
図3には、壁モデル91の縦断面が示されている。壁モデル91,93はZX平面に対して平行であり、壁モデル92,94はYZ平面に対して平行であり、床モデル95及び天井モデル96はXY平面に対して平行である。壁モデル91は、属性データ33及びそれに含まれる熱特性データが互いに異なる下側の壁要素モデル91a及び上側の壁要素モデル91bからなる。従って、壁モデル91の属性データ33及び熱特性データは、壁要素モデル91a,91bごとに壁要素モデル91a,91bの属性及び熱特性を定義している。
【0023】
壁要素モデル91aと壁要素モデル91bを区切る境界面91cは水平であって、XY平面に対して平行である。また、境界面91cは、壁モデル91が成す矩形の下辺91p及び上辺91qにも平行である。
【0024】
壁モデル92~94は単一の壁要素モデルからなるか、或いは、壁モデル91と同様に、上下に分割されるとともに属性データ33及び熱特性データが互いに異なる複数の壁要素モデルからなる。
【0025】
床モデル95は単一の床要素モデルからなるか、分割されるとともに属性データ33及び熱特性データが互いに異なる複数の床要素モデルからなる。床要素モデルを区切る境界面は、床面に対して直交するとともに、ZX平面又はYZ平面に対して平行である。
【0026】
天井モデル96は単一の天井要素モデルからなるか、分割されるとともに属性データ33及び熱特性データが互いに異なる複数の天井要素モデルからなる。天井要素モデルを区切る境界面は、天井面に対して直交するとともに、ZX平面又はYZ平面に対して平行である。
【0027】
熱負荷計算プログラム21には、部屋の壁、天井及び床を通じて出入りする熱量、つまり熱負荷を計算するための熱負荷計算プログラム21が含まれている。熱負荷計算プログラム21が以下に説明する処理をコンピュータ11に実行させて、部屋の熱負荷がコンピュータ11によって設計される。
【0028】
2.コンピュータが実行する処理
コンピュータ11が設計プログラム20及び熱負荷計算プログラム21に従って行う処理について説明する。
【0029】
(1)設計データの取得及びモデルの表示
まず、コンピュータ11が記憶部14を読んで、記憶部14から設計データ30を取得する。そして、コンピュータ11が設計データ30の形状データ31及び位置データ32に従って建物の各構成要素のモデルをワールド座標系の仮想空間に配置して、各構成要素のモデルをレンダリング処理によって表示デバイス12に表示させる。設計データ30には、壁モデル91~94、床モデル95及び天井モデル96の形状データ31、位置データ32及び属性データ33も含まれているので、これらの壁モデル91~94、床モデル95及び天井モデル96も表示デバイス12に表示される。
【0030】
(2)区画材ごとの貫流熱量の算出
次に、コンピュータ11は、壁モデル91~94、床モデル95及び天井モデル96ごとにこれらの貫流熱量を算出する。以下、壁モデル91の貫流熱量の算出について具体的に説明する。
ここで、壁モデル91の貫流熱量とは、単位温度差当たり・単位時間当たりに壁モデル91全体を通過する熱量である。壁モデル92~94、床モデル95及び天井モデル96の貫流熱量についても同様である。
【0031】
(2-1)境界面の高さの特定
コンピュータ11が設計データ30に含まれる壁モデル91の形状データ31、位置データ32及び属性データ33をスキャンして、境界面91cの高さ、つまりZ座標値を特定する。具体的には、コンピュータ11が、壁モデル91の表面たる壁面91dに直交する水平な走査面91zをワールド座標系に設定し、その走査面91zに直交する方向に所定ピッチで走査面91zにより壁モデル91の属性データ33を走査する。その走査中に走査面91zが壁要素モデル91aから壁要素モデル91bに移り変わると、属性データ33が変化する。そのため、コンピュータ11は、走査中に属性データ33の変化を認識する。そうすると、コンピュータ11は、壁モデル91を複数の壁要素モデル91a,91bからなるものとして認識する。更に、コンピュータ11は、属性データ33の変化が生じた時の走査面91zのZ座標値を境界面91cの高さとして認識する。走査のピッチが細かいほど、境界面91cの高さが正確に求まる。
【0032】
(2-2)面積の算出
次に、コンピュータ11は、壁モデル91の形状データ31及び位置データ32から壁モデル91の幅及び高さを取得する。次に、コンピュータ11は、壁モデル91の幅及び高さ並びに境界面91cの高さから壁要素モデル91a,91bごとにこれらの面積を算出する。つまり、コンピュータ11は、境界面91cの高さに壁モデル91の幅を乗じ、その積を壁要素モデル91aの面積として取得する。また、コンピュータ11は、壁モデル91の高さから境界面91cの高さを減じ、その差に壁モデル91の幅を乗じ、その積を壁要素モデル91bの面積として算出する。
【0033】
(2-3)貫流熱量及び熱負荷の算出
次に、コンピュータ11は、壁要素モデル91a.91bの熱特性データ及び面積に基づいて、壁要素モデル91a,91bごとにこれらの貫流熱量を算出する。具体的には、コンピュータ11は、壁要素モデル91aの熱貫流率に壁要素モデル91aの面積を乗ずることによって、壁要素モデル91aの貫流熱量を算出する。また、コンピュータ11は、壁要素モデル91bの熱貫流率に壁要素モデル91bの面積を乗ずることによって、壁要素モデル91bの貫流熱量を算出する。
【0034】
コンピュータ11は、壁要素モデル91a,91bの貫流熱量の和を算出し、その和を壁モデル91の貫流熱量として取得する。壁モデル91の貫流熱量とは、単位温度差当たり・単位時間当たりに壁モデル91全体を通過する熱量である。更に、コンピュータ11が壁モデル91の貫流熱量に壁モデル91の内側表面と外側表面との温度差を乗ずるが、その積が壁モデル91を通じた熱貫流による部屋のモデル90への熱負荷を表す。
【0035】
(2-4)
コンピュータ11は、壁モデル91の貫流熱量の算出手法と同様の算出手法で壁モデル92~94、床モデル95及び天井モデル96ごとに貫流熱量及び熱負荷を算出する。
ここで、床モデル95の貫流熱量及び熱負荷の算出の場合、床モデル95を走査する際に用いる走査面は床面に直交するとともに、床モデル95の辺に対して平行であり、走査方向が走査面に対する直交方向である。床モデル95が複数の床要素モデルからなる場合、走査面の走査方向における床モデル95の長さとその走査方向における境界面の位置とから床要素モデルの長さを求め、走査面の走査方向の直交方向における床モデル95の幅と床要素モデルの長さとを乗ずることによって床要素モデルの面積を求める。
【0036】
また、天井モデル96の貫流熱量及び熱負荷の算出の場合、天井モデル96を走査する際に用いる走査面は床面に直交するとともに、天井モデル96の辺に対して平行であり、走査方向が走査面に対する直交方向である。天井モデル96が複数の天井要素モデルからなる場合、走査面の走査方向における天井モデル96の長さとその走査方向における境界面の位置とから天井要素モデルの長さを求め、走査面の走査方向の直交方向における天井モデル96の幅と天井要素モデルの長さとを乗ずることによって天井要素モデルの面積を求める。
【0037】
(3)総熱負荷
コンピュータ11は、壁モデル91~94、床モデル95及び天井モデル96の熱負荷の総和を算出する。その総和は、壁モデル91~94、床モデル95及び天井モデル96を通じた熱貫流による部屋のモデル90への熱負荷を表す。
【0038】
3.有利な効果
走査面91zによる走査中に、その走査面91zが境界面91cを通過すると、通過前の壁要素モデル91aの属性データ33から通過後の壁要素モデル91bの属性データ33に切り替わるため、境界面91cの位置を特定することができる。その境界面91cの位置と壁モデル91の寸法から壁要素モデル91a,91bごとに面積を求めることができる。よって、壁要素モデル91a,91bごとに貫流熱量を算出することができ、その壁モデル91を通過する貫流熱量及び熱負荷を正確に算出することができる。
【符号の説明】
【0039】
10…熱負荷計算装置
11…コンピュータ(走査手段、面積算出手段、貫流熱量算出手段)
14…記憶部(記憶手段)
91…壁モデル
91a,91b…壁要素モデル
91c…境界面
91z…走査面