(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】車両の電力供給装置
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20230719BHJP
B60R 16/03 20060101ALI20230719BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20230719BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20230719BHJP
H02J 1/00 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
H02J7/00 302D
B60R16/03 A
B60T8/17 B
B60T17/18
H02J1/00 307F
H02J7/00 P
(21)【出願番号】P 2019173866
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 晶太
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-079351(JP,A)
【文献】特開2013-010371(JP,A)
【文献】特開2010-120624(JP,A)
【文献】国際公開第2019/107235(WO,A1)
【文献】特開2012-025193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R16/00-17/02
B60T7/12-8/1769
B60T8/32-8/96
B60T15/00-17/22
H02J1/00-1/16
H02J7/00-7/12
H02J7/34-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主電源からの電力の供給によって駆動するアクチュエータを制御する制御ユニットを有する車両の電力供給装置であって、
前記制御ユニットは、
前記主電源の電圧を取得する主電源電圧取得部と、
前記アクチュエータに供給する電力を制限しない通常モード、および、前記通常モードの場合と比較して前記アクチュエータに供給する電力を制限する縮退モードのうち、一方のモードで前記アクチュエータを駆動させるアクチュエータ駆動部と、
前記主電源の電圧が第1閾値以下となる時間が第1規定時間以上であり、且つ前記アクチュエータの駆動要求があるときには、前記アクチュエータを駆動させる駆動モードとして前記縮退モードを選択する一方で、前記主電源の電圧が前記第1閾値以下となる時間が前記第1規定時間以上であっても、前記アクチュエータの駆動要求がないときには、前記駆動モードとして前記通常モードを選択する選択部と、
前記縮退モードが選択されたときに前記主電源に異常が発生していることを通知するための信号を出力する通知部と、を備え、
前記アクチュエータ駆動部は、前記通常モードおよび前記縮退モードのうち、前記選択部が選択している前記駆動モードによって前記アクチュエータを駆動させる
車両の電力供給装置。
【請求項2】
前記選択部は、前記第1閾値よりも大きい閾値を第2閾値として、前記主電源の電圧が前記第2閾値以下である時間が前記第1規定時間よりも長い第2規定時間以上であり、且つ前記アクチュエータの駆動要求があるときには、前記主電源の電圧が前記第1閾値よりも大きい場合でも前記縮退モードを選択する
請求項1に記載の車両の電力供給装置。
【請求項3】
前記選択部は、前記主電源の電圧が前記第2閾値以下である時間が前記第2規定時間よりも長い第3規定時間以上であるときには、前記アクチュエータの駆動要求がない場合でも前記縮退モードを選択する
請求項2に記載の車両の電力供給装置。
【請求項4】
前記制御ユニットおよび前記アクチュエータに電力を供給可能な補助電源と、
前記制御ユニットおよび前記アクチュエータに接続する電力の供給源を前記主電源または前記補助電源に切り換える切換装置と、を備え、
前記制御ユニットは、前記切換装置を制御する切換部を備え、
前記選択部は、前記第1閾値以上の閾値を第3閾値として、前記主電源の電圧が前記第3閾値以下であるときには、前記供給源として前記補助電源を選択し、
前記切換部は、前記主電源および前記補助電源のうち、前記選択部が前記供給源として選択している電源から前記制御ユニットおよび前記アクチュエータに電力が供給されるように前記切換装置を制御する
請求項1~3のいずれか一項に記載の車両の電力供給装置。
【請求項5】
前記制御ユニットは、前記補助電源の電圧を取得する補助電源電圧取得部を備え、
前記選択部は、前記供給源として前記補助電源を選択している状況下において、前記主電源の電圧と前記補助電源の電圧とを比較して、前記主電源の電圧が前記補助電源の電圧よりも大きいときには、前記供給源として選択する電源を前記補助電源から前記主電源に変更し、
前記選択部は、前記供給源として前記主電源を選択しており,且つ、前記アクチュエータの駆動モードとして前記縮退モードを選択しているときには、前記第1閾値よりも大きい閾値を第4閾値として、
前記主電源の電圧が前記第4閾値以上である場合には、前記アクチュエータの駆動モードを前記縮退モードから前記通常モードに変更する一方で、
前記主電源の電圧が前記第4閾値よりも小さい場合には、前記縮退モードを選択する状態を継続する
請求項4に記載の車両の電力供給装置。
【請求項6】
前記制御ユニットを第1制御ユニットとして、前記主電源電圧取得部を第1主電源電圧取得部として、
前記主電源を供給源とする第2制御ユニットをさらに有し、
前記第2制御ユニットは、前記主電源の電圧を取得する第2主電源電圧取得部を備え、
前記第1制御ユニットにおける前記選択部は、前記第2主電源電圧取得部が取得する前記主電源の電圧が第5閾値以上であるときには、前記第1主電源電圧取得部が取得する前記主電源の電圧にかかわらず、前記縮退モードを選択しない
請求項1~5のいずれか一項に記載の車両の電力供給装置。
【請求項7】
前記選択部は、前記縮退モードで前記アクチュエータが駆動されているときには、前記アクチュエータの駆動モードを前記縮退モードから前記通常モードに変更する条件が成立しても、前記アクチュエータの駆動が停止するまで前記縮退モードを選択する状態を継続する
請求項1~6のいずれか一項に記載の車両の電力供給装置。
【請求項8】
前記制御ユニットは、前記アクチュエータの駆動要求が発生するか否かを車両の周辺情報に基づいて予測する要求予測部を備え、
前記選択部は、前記主電源の電圧が前記第1閾値以下となる時間が前記第1規定時間以上であり、且つ前記アクチュエータの駆動要求の発生が予測されるときには、前記縮退モードを選択する
請求項1~7のいずれか一項に記載の車両の電力供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の電力供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、電源とアクチュエータとを接続する車両の電力供給装置が知られている。特許文献1に開示されている電力供給装置では、電源の電圧が低下した場合には、電源に異常が発生している可能性があるため、ブレーキアクチュエータに供給する電力を制限している。
【0003】
また、このようにブレーキアクチュエータに供給する電力を制限するときに、車両の運転者に対して、電源に異常が発生していることの通知または電力の制限を実施することの通知が一般的に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電源の電圧を検出する場合、ノイズの影響によって、検出される電圧が一時的に変動することがある。特許文献1のような電力供給装置では、一時的な電圧低下によっても電力が制限されることがある。この場合、実際には電源に異常が発生していないにもかかわらず、不要な電力制限が行われたり、運転者への通知が行われたりすることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための車両の電力供給装置は、主電源からの電力の供給によって駆動するアクチュエータを制御する制御ユニットを有する車両の電力供給装置であって、前記制御ユニットは、前記主電源の電圧を取得する主電源電圧取得部と、前記アクチュエータに供給する電力を制限しない通常モード、および、前記通常モードの場合と比較して前記アクチュエータに供給する電力を制限する縮退モードのうち、一方のモードで前記アクチュエータを駆動させるアクチュエータ駆動部と、前記主電源の電圧が第1閾値以下となる時間が第1規定時間以上であり、且つ前記アクチュエータの駆動要求があるときには、前記アクチュエータを駆動させる駆動モードとして前記縮退モードを選択する一方で、前記主電源の電圧が前記第1閾値以下となる時間が前記第1規定時間以上であっても、前記アクチュエータの駆動要求がないときには、前記駆動モードとして前記通常モードを選択する選択部と、前記縮退モードが選択されたときに前記主電源に異常が発生していることを通知するための信号を出力する通知部と、を備え、前記アクチュエータ駆動部は、前記通常モードおよび前記縮退モードのうち、前記選択部が選択している前記駆動モードによって前記アクチュエータを駆動させることをその要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、主電源の電圧が第1閾値以下となる時間が第1規定時間以上であり、アクチュエータの駆動要求があるときには、縮退モードでアクチュエータが駆動されるとともに、主電源に異常が発生していることが通知される。一方で、主電源の電圧が第1閾値以下となる時間が第1規定時間以上であっても、アクチュエータの駆動要求がないときには、通常モードから縮退モードへの切り換えが行われない。このため、主電源に異常が発生していることが通知されない。これによって、主電源の電圧が低下しても、アクチュエータの駆動が要求されない限りは縮退モードへの切り換えが行われず、異常の発生を示す通知も行われなくなる。したがって、主電源の電圧低下が一時的なものであった場合に通知が行われることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の車両の電力供給装置を示すブロック図。
【
図2】第1実施形態の車両の電力供給装置において実施される、ブレーキアクチュエータの駆動モードを選択する処理の流れを示すフローチャート。
【
図3】第1実施形態の車両の電力供給装置において実施される電源切換処理を示すフローチャート。
【
図4】第1実施形態の車両の電力供給装置において実施される、駆動モードの復帰処理を示すフローチャート。
【
図5】第1実施形態の車両の電力供給装置における電圧の変化に基づく作用を説明するタイミングチャート。
【
図6】第1実施形態の車両の電力供給装置における電圧の変化に基づく作用を説明するタイミングチャート。
【
図7】第2実施形態の車両の電力供給装置を示すブロック図。
【
図8】変更例の車両の電力供給装置を示すブロック図。
【
図9】同変更例の車両の電力供給装置において実施される駆動モード選択処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、車両の電力供給装置の第1実施形態について、
図1~
図6を参照して説明する。
図1は、電力の供給源である主電源81と、ブレーキアクチュエータを構成するソレノイド92およびモータ93と、主電源81とブレーキアクチュエータとを接続する電力供給装置100と、を示している。主電源81は、車両に搭載されるバッテリである。
【0010】
図1に示すように、電力供給装置100には、補助電源82が接続されている。補助電源82は、主電源81からの電力を蓄電可能なキャパシタによって構成されている。補助電源82は、主電源81とキャパシタとの接続または遮断を切換可能なスイッチSW5を備えている。
【0011】
電力供給装置100は、ソレノイド駆動部12とモータ駆動部13とを備えている。アクチュエータの駆動要求としてブレーキ要求がある場合、ソレノイド駆動部12はソレノイド92を駆動させ、モータ駆動部13はモータ93を駆動させる。これによって、車両の車輪に制動力を付与することができる。ソレノイド駆動部12およびモータ駆動部13がアクチュエータ駆動部であり、ソレノイド92およびモータ93がアクチュエータである。アクチュエータ駆動部は、後述する駆動モードに応じてアクチュエータに電力を供給する。アクチュエータ駆動部は、車両に付与する制動力を導出する制動制御装置からの指令に基づいて、アクチュエータを駆動させる。
【0012】
電力供給装置100には、ブレーキストロークセンサ91からの信号が入力される。ブレーキストロークセンサ91は、ブレーキペダルの操作量を検出するためのセンサである。ブレーキストロークセンサ91からの信号は、ブレーキペダルを操作する車両の運転者による、ブレーキアクチュエータを駆動するための要求を示している。電力供給装置100は、演算装置としてのマイクロコンピュータ30(以下、「マイコン30」という。)を備えている。ブレーキストロークセンサ91からの信号は、アクチュエータの駆動要求としてマイコン30に入力されて、運転者によるブレーキ要求として処理される。
【0013】
電力供給装置100は、電源回路を備えている。電源回路には、主電源81および補助電源82が接続されている。また、電源回路には、ソレノイド駆動部12およびモータ駆動部13が接続されている。さらに、電源回路には、マイコン30が接続されている。電源回路は、ソレノイド駆動部12、モータ駆動部13およびマイコン30に対して、主電源81または補助電源82を電力の供給源として接続する。電源回路には、ソレノイド駆動部12、モータ駆動部13およびマイコン30への電力の供給源を主電源81または補助電源82に切り換えるスイッチSW1~SW4、SW6、SW7およびダイオードD1~D5が設けられている。各ダイオードD1~D5は、主電源81または補助電源82側から電流が流れるように配置されている。たとえば、各スイッチSW1~SW7は、MOSFETを用いている。各スイッチSW1~SW7は、ボディダイオードを備えている。
【0014】
図1に示すように、電源回路において主電源81とソレノイド駆動部12とを繋ぐ第1配線71には、スイッチSW1とダイオードD1とが直列に設けられている。スイッチSW1は、ダイオードD1と主電源81との間に配置されている。電源回路は、第1配線71における主電源81とスイッチSW1との間の部分とマイコン30とを繋ぐ第2配線72を備えている。第2配線72には、スイッチSW2とダイオードD2とが直列に設けられている。スイッチSW2は、ダイオードD2と主電源81との間に配置されている。電源回路は、第2配線72におけるスイッチSW2とダイオードD2との間の部分とマイコン30とを繋ぐ第3配線73を備えている。第3配線73には、ダイオードD3が設けられている。また、電源回路は、主電源81とモータ駆動部13とを繋ぐ第4配線74を備えている。第4配線74には、スイッチSW3とスイッチSW4とが直列に設けられている。スイッチSW3は、スイッチSW4と主電源81との間に配置されている。
【0015】
電源回路は、補助電源82と、第1配線71におけるダイオードD1とソレノイド駆動部12との間の部分と、を繋ぐ第5配線75を備えている。電源回路は、第2配線72におけるダイオードD2とマイコン30との間の部分と、第5配線75と、を繋ぐ第6配線76を備えている。また、電源回路は、第3配線73におけるダイオードD3とマイコン30との間の部分と、第5配線75とを繋ぐ第7配線77を備えている。第5配線75において、第7配線77との接続部分は、第6配線76との接続部分よりも補助電源82側に位置している。そして、第6配線76にダイオードD4が設けられており、第7配線77にダイオードD5が設けられている。
【0016】
電源回路は、第4配線74と第5配線75とを繋ぐ第8配線78を備えている。第5配線75において、第8配線78との接続部分は、第7配線77が接続されている部分と補助電源82との間に位置している。第4配線74において、第8配線78との接続部分は、スイッチSW4とモータ駆動部13との間に位置している。そして、第8配線78には、スイッチSW6とスイッチSW7とが直列に設けられている。スイッチSW6は、スイッチSW7と補助電源82との間に配置されている。
【0017】
スイッチSW1~SW4、SW6、SW7およびダイオードD1~D5を備える電源回路と、補助電源82に設けられているスイッチSW5とによって、電力の供給源を切り換える切換装置11が構成されている。たとえば、スイッチSW1~SW4がオンであり、スイッチSW5~SW7がオフのとき、主電源81が電力の供給源としてソレノイド駆動部12、モータ駆動部13およびマイコン30に接続される。この状態でソレノイド92およびモータ93を駆動させる場合、主電源81から供給される電力によってソレノイド92およびモータ93が駆動する。一方、スイッチSW1~SW4がオフであり、スイッチSW5~SW7がオンのとき、補助電源82が電力の供給源としてソレノイド駆動部12、モータ駆動部13およびマイコン30に接続される。この状態でソレノイド92およびモータ93を駆動させる場合、補助電源82から供給される電力によってソレノイド92およびモータ93が駆動する。
【0018】
図1には、制御ユニット10が備えるマイコン30の機能部として、主電源電圧取得部31と、補助電源電圧取得部32と、切換部33と、選択部34と、入力部35と、通知部36と、を示している。
【0019】
主電源電圧取得部31は、主電源81の電圧を監視して、主電源81の電圧を主電源電圧Vmとして取得する。
補助電源電圧取得部32は、補助電源82の電圧を監視して、補助電源82の電圧を補助電源電圧Vsとして取得する。
【0020】
切換部33は、切換装置11を制御して各スイッチSW1~7の状態をオンまたはオフに切り換えることによって、電力の供給源を主電源81または補助電源82に切り換える。
【0021】
選択部34は、主電源81の状態に基づいて、ブレーキアクチュエータの駆動モードを選択する。選択部34は、後述する駆動モード移行処理および復帰処理を実施することによって、駆動モードとして通常モードまたは縮退モードを選択する。通常モードは、ブレーキアクチュエータに供給する電力を制限しない駆動モードである。縮退モードは、通常モードの場合と比較してブレーキアクチュエータに供給する電力を制限する駆動モードである。たとえば、縮退モードでブレーキアクチュエータを駆動させる場合は、通常モードでブレーキアクチュエータを駆動させる場合と比較して、ソレノイド92およびモータ93への供給電力の上限を低くする。すなわち、選択部34は、主電源81に異常が発生している可能性がある場合には縮退モードを選択して電力の消費の抑制を図る。
【0022】
また、選択部34は、主電源81の状態および補助電源82の状態に基づいて、電力の供給源の選択を行う。選択部34は、後述する電源切換処理を実施することによって、電力の供給源として主電源81または補助電源82を選択する。選択部34は、主電源81の電圧が低下した場合には、電力の供給源として補助電源82を選択する。選択部34は、電力の供給源として補助電源82を使用しているとき、主電源電圧Vmと補助電源電圧Vsとを比較する。選択部34は、主電源電圧Vmが補助電源電圧Vsよりも大きい場合、主電源81を選択する。選択部34は、主電源電圧Vmが補助電源電圧Vs以下の場合、補助電源82を選択する。
【0023】
選択部34は、主電源81の状態を判定するための閾値として、第1閾値Vth1、第2閾値Vth2、第3閾値Vth3および第4閾値Vth4を設定している。各閾値は、予め実験等によって算出された値が記憶されている。
【0024】
第1閾値Vth1および第2閾値Vth2としては、主電源電圧Vmが閾値よりも大きい場合にはブレーキアクチュエータの駆動を保障できる電圧の値が設定されている。第2閾値Vth2は、第1閾値Vth1よりも大きい値である。第1閾値Vth1および第2閾値Vth2によって二段階の閾値が設定されている。第3閾値Vth3としては、主電源電圧Vmが第3閾値Vth3以下に低下すると主電源81の能力が低下していると判定できる電圧の値が設定されている。第3閾値Vth3は、第1閾値Vth1よりも大きい値である。第4閾値Vth4は、主電源電圧Vmが回復しているか否かの判定に用いられる。第4閾値Vth4は、主電源電圧Vmが第4閾値Vth4以上であれば、電力の供給源として主電源81の能力が十分であると判定できる値である。
【0025】
選択部34は、主電源電圧Vmが第1閾値Vth1以下であるとき、主電源電圧Vmが第1閾値Vth1以下である時間を第1低下時間T1として計測する。すなわち、第1低下時間T1は、主電源電圧Vmが第1閾値Vth1以下である状態の継続時間である。そのため、主電源電圧Vmが第1閾値Vth1よりも大きくなると、第1低下時間T1は「0」にリセットされる。また、選択部34は、主電源電圧Vmが第2閾値Vth2以下であるとき、主電源電圧Vmが第2閾値Vth2以下である時間を第2低下時間T2として計測する。すなわち、第2低下時間T2は、主電源電圧Vmが第2閾値Vth2以下である状態の継続時間である。そのため、主電源電圧Vmが第2閾値Vth2よりも大きくなると、第2低下時間T2は「0」にリセットされる。
【0026】
選択部34には、主電源電圧Vmの低下が継続しているか否かを判定するための閾値として、第1規定時間Tth1、第2規定時間Tth2および第3規定時間Tth3が設定されている。第2規定時間Tth2は、第1規定時間Tth1よりも長い値が設定されている。第3規定時間Tth3は、第2規定時間Tth2よりも長い値が設定されている。
【0027】
選択部34は、第1低下時間T1を第1規定時間Tth1および第3規定時間と比較することによって、主電源電圧Vmが第1閾値Vth1以下となっている時間が継続しているか否かを判定する。選択部34は、第2低下時間T2を第2規定時間Tth2および第3規定時間と比較することによって、主電源電圧Vmが第2閾値Vth2以下となっている時間が継続しているか否かを判定する。
【0028】
入力部35は、制御ユニット10の外部からの信号が入力される。たとえば、ブレーキストロークセンサ91等の車両に搭載されている各種センサおよび車両に搭載されている他の制御装置から出力される信号が入力部35に入力される。
【0029】
通知部36は、駆動モードとして縮退モードが選択部34によって選択された場合に通知処理を実施する。通知処理が実施されると、主電源81に異常が発生したことを示す信号が出力される。たとえば、当該信号は、運転者に異常を報知するための警告灯を点灯させる信号である。
【0030】
次に、
図2~4を用いて、選択部34が実施する駆動モード移行処理、復帰処理および電源切換処理について説明する。
まず、
図2を用いて、選択部34が実施する駆動モード移行処理の処理ルーチンについて説明する。本処理ルーチンは、所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0031】
本処理ルーチンが開始されると、まず、ステップS101において、主電源電圧Vmが第1閾値Vth1以下であるか否かが判定される。主電源電圧Vmが第1閾値Vth1以下である場合(S101:YES)、処理がステップS102に移行される。
【0032】
ステップS102では、第1低下時間T1が第3規定時間Tth3以上であるか否かが判定される。第1低下時間T1が第3規定時間Tth3以上である場合(S102:YES)、処理がステップS103に移行される。ステップS103では、選択部34によって、駆動モードとして縮退モードが選択される。さらに、選択部34によって、通知処理の実施が通知部36に要求される。その後、通知部36によって通知処理が実施される。ステップS103の処理が実行されると、本処理ルーチンが終了される。
【0033】
一方、ステップS102の処理において、第1低下時間T1が第3規定時間Tth3よりも短い場合(S102:NO)、処理がステップS104に移行される。ステップS104では、第1低下時間T1が第1規定時間Tth1以上であるか否かが判定される。第1低下時間T1が第1規定時間Tth1よりも短い場合(S104:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。すなわち、この時点で選択されている駆動モードが選択部34によって引き続き選択される。一方、第1低下時間T1が第1規定時間Tth1以上である場合(S104:YES)、処理がステップS105に移行される。
【0034】
ステップS105では、ブレーキ要求があるか否かが判定される。ブレーキ要求があるということは、ブレーキアクチュエータの駆動要求があるということを意味する。ブレーキ要求がない場合(S105:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。すなわち、この時点で選択されている駆動モードが選択部34によって引き続き選択される。一方、ブレーキ要求がある場合(S105:YES)、処理がステップS103に移行される。すなわち、縮退モードが選択され、通知処理の実施が通知部36に要求される。その後、通知部36によって通知処理が実施される。ステップS103の処理が実行されると、本処理ルーチンが終了される。
【0035】
一方、ステップS101の処理において主電源電圧Vmが第1閾値Vth1よりも大きい場合(S101:NO)、処理がステップS106に移行される。ステップS106では、主電源電圧Vmが第2閾値Vth2以下であるか否かが判定される。主電源電圧Vmが第2閾値Vth2よりも大きい場合(S106:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。すなわち、この時点で選択されている駆動モードが選択部34によって引き続き選択される。一方、主電源電圧Vmが第2閾値Vth2以下である場合(S106:YES)、処理がステップS107に移行される。
【0036】
ステップS107では、第2低下時間T2が第3規定時間Tth3以上であるか否かが判定される。第2低下時間T2が第3規定時間Tth3以上である場合(S107:YES)、処理がステップS103に移行される。すなわち、縮退モードが選択され、通知処理の実施が通知部36に要求される。その後、通知部36によって通知処理が実施される。ステップS103の処理が実行されると、本処理ルーチンが終了される。
【0037】
一方、ステップS107の処理において、第2低下時間T2が第3規定時間Tth3よりも短い場合(S107:NO)、処理がステップS108に移行される。ステップS108では、第2低下時間T2が第2規定時間Tth2以上であるか否かが判定される。第2低下時間T2が第2規定時間Tth2よりも短い場合(S108:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。すなわち、この時点で選択されている駆動モードが選択部34によって引き続き選択される。
【0038】
一方、第2低下時間T2が第2規定時間Tth2以上である場合(S108:YES)、処理がステップS105に移行される。すなわち、ブレーキ要求があるか否かが判定され、ブレーキ要求がない場合(S105:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。すなわち、この時点で選択されている駆動モードが選択部34によって引き続き選択される。一方、ブレーキ要求がある場合(S105:YES)、処理がステップS103に移行される。すなわち、縮退モードが選択され、通知処理の実施が通知部36に要求される。その後、通知部36によって通知処理が実施される。ステップS103の処理が実行されると、本処理ルーチンが終了される。
【0039】
次に、
図3を用いて、選択部34が実施する電源切換処理の処理ルーチンについて説明する。本処理ルーチンは、所定の周期毎に繰り返し実行される。
本処理ルーチンが開始されると、まず、ステップS201において、電力の供給源として主電源81を使用中であるか否かが判定される。主電源81を使用中である場合(S201:YES)、処理がステップS202に移行される。
【0040】
ステップS202では、主電源電圧Vmが第3閾値Vth3以下であるか否かが判定される。主電源電圧Vmが第3閾値Vth3よりも大きい場合(S202:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0041】
一方、主電源電圧Vmが第3閾値Vth3以下である場合(S202:YES)、処理がステップS203に移行される。ステップS203では、電力の供給源として補助電源82が選択される。これによって、切換部33によって切換装置11が制御され、補助電源82がソレノイド駆動部12、モータ駆動部13およびマイコン30に接続される。その後、処理がステップS204に移行される。
【0042】
また、ステップS201の処理において主電源81を使用中ではない場合(S201:NO)、すなわち補助電源82を使用中である場合にも、処理がステップS204に移行される。
【0043】
ステップS204では、主電源電圧Vmが補助電源電圧Vs以上であるか否かが判定される。主電源電圧Vmが補助電源電圧Vsよりも小さい場合(S204:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。すなわち、補助電源82の使用が継続される。
【0044】
一方、主電源電圧Vmが補助電源電圧Vs以上である場合(S204:YES)、処理がステップS205に移行される。ステップS205では、電力の供給源として主電源81が選択される。これによって、切換部33によって切換装置11が制御され、主電源81がソレノイド駆動部12、モータ駆動部13およびマイコン30に接続される。その後、本処理ルーチンが終了される。
【0045】
なお、主電源電圧Vmが第3閾値Vth3以下であるときに、主電源電圧Vmが補助電源電圧Vs以上であると、ステップS203およびS205の処理によって、電力の供給源の切り換えが繰り返される場合がある。このため、選択部34は、主電源電圧Vmが第3閾値Vth3以下であり、主電源電圧Vmが補助電源電圧Vs以上であるときには、電力の供給源として主電源81を選択することによって、頻繁な電源の切り換えを抑制することができる。あるいは、電力の供給源を切り換えてから再び切り換えを行う場合には、規定の待機期間をあけるようにすることもできる。他には、電力の供給源を切り換えてから再び切り換えを行う場合に、ヒステリシスを設けるようにしてもよい。
【0046】
続いて、
図4を用いて、選択部34が実施する復帰処理の処理ルーチンについて説明する。本処理ルーチンは、所定の周期毎に繰り返し実行される。
本処理ルーチンが開始されると、まず、ステップS301において、駆動モードとして縮退モードを選択中であるか否かが判定される。縮退モードが選択されていない場合(S301:NO)、すなわち通常モードが選択されている場合には、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0047】
一方、縮退モードが選択されている場合(S301:YES)、処理がステップS302に移行される。ステップS302では、主電源81を使用中であるか否かが判定される。主電源81を使用中ではない場合(S302:NO)、すなわち補助電源82を使用中である場合には、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0048】
一方、主電源81を使用中である場合(S302:YES)、処理がステップS303に移行される。ステップS303では、主電源電圧Vmが第4閾値Vth4以上であるか否かが判定される。主電源電圧Vmが第4閾値Vth4よりも小さい場合(S303:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0049】
一方、主電源電圧Vmが第4閾値Vth4以上である場合(S303:YES)、処理がステップS304に移行される。ステップS304では、アクチュエータが停止中であるか否かが判定される。ブレーキアクチュエータが停止中である場合(S304:YES)、処理がステップS305に移行される。ステップS305では、駆動モードとして通常モードが選択される。その後、本処理ルーチンが終了される。
【0050】
一方で、ステップS304の処理において、ブレーキアクチュエータが停止中ではない場合、すなわち、ブレーキアクチュエータが縮退モードで駆動されている場合(S304:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。この場合には、ステップS305の処理が実行されない。このため、主電源電圧Vmが第4閾値Vth4以上であるという、駆動モードを縮退モードから通常モードに変更する条件が成立していても、ブレーキアクチュエータの駆動が停止するまでは、縮退モードの選択が継続される。
【0051】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
図5および
図6を用いて、電力供給装置100の作用を説明する。
図5は、主電源電圧Vmが変動する例と、主電源電圧Vmが変動した際に選択部34によって選択される電源および駆動モードの例を示す。
【0052】
図5の(a)に示すように、主電源電圧Vmは、タイミングt11以前では、第3閾値Vth3よりも大きい。主電源電圧Vmは、タイミングt11において、第1閾値Vth1よりも大きく第3閾値Vth3よりも小さい値に低下する。主電源電圧Vmは、タイミングt12において、タイミングt11以前と同様の値まで回復する。主電源電圧Vmは、タイミングt13において、再び第1閾値Vth1よりも大きく第3閾値Vth3よりも小さい値に低下する。主電源電圧Vmは、タイミングt14において、タイミングt13以降よりもさらに低下して第1閾値Vth1よりも小さい値となっている。なお、
図5に示す例では、補助電源電圧Vsは、
図5の(a)に示すように、第3閾値Vth3よりも大きく主電源電圧Vmの最大値よりも小さい値で推移している。
【0053】
図5に示す例の場合、タイミングt11以前では、
図5の(c)に示すように電力の供給源として主電源81が選択されており、
図5の(d)に示すように駆動モードとして通常モードが選択されている。また、
図5の(b)に実線で示すように、タイミングt15において、ブレーキペダルが操作されて、ブレーキ要求が検出される。そして、タイミングt14からタイミングt15までの期間は、第1規定時間Tth1よりも長い。
【0054】
タイミングt11において、
図5の(a)に示すように主電源電圧Vmが第3閾値Vth3よりも小さくなると、
図5の(c)に示すように補助電源82が選択される(S203)。すなわち、電力の供給源が主電源81から補助電源82に切り換えられる。
【0055】
タイミングt12において、
図5の(a)に示すように主電源電圧Vmが補助電源電圧Vsよりも大きい値に回復すると、
図5の(c)に示すように主電源81が選択される(S205)。すなわち、電力の供給源が補助電源82から主電源81に切り換えられる。
【0056】
タイミングt13において、
図5の(a)に示すように主電源電圧Vmが第3閾値Vth3よりも小さくなると、
図5の(c)に示すように補助電源82が選択される(S203)。すなわち、電力の供給源が主電源81から補助電源82に切り換えられる。タイミングt13以降では、主電源電圧Vmが第3閾値Vth3よりも小さいため、補助電源82の使用が継続される。
【0057】
タイミングt14において、
図5の(a)に示すように主電源電圧Vmが第1閾値Vth1よりも小さくなっている。しかし、タイミングt14の時点では、
図5の(b)に示すように、ブレーキ要求がない。さらに、タイミングt14の時点では、第1低下時間T1が第1規定時間Tth1よりも短い。このため、タイミングt14以降ではタイミングt15まで、
図5の(d)に示すように、通常モードの選択が継続されている。その後、タイミングt15においてブレーキ要求がなされると、第1低下時間T1が第1規定時間Tth1以上であり(S104:YES)、ブレーキ要求があることによって(S105:YES)、
図5の(d)に実線で示すように、駆動モードとして縮退モードが選択される(S103)。すなわち、駆動モードが通常モードから縮退モードに変更される。その後、通知処理が実施される。
【0058】
なお、
図5に示す例では、主電源電圧Vmが第1閾値Vth1よりも低下するタイミングt14からタイミングt16までの間の期間が、第3規定時間Tth3である。このため、
図5の(b)に二点鎖線で示すようにタイミングt15以降においてもブレーキが要求されない場合には、第3規定時間Tth3が経過するタイミングt16において、第1低下時間T1が第3規定時間Tth3に達し(S102:YES)、
図5の(d)に二点鎖線で示すように、駆動モードとして縮退モードが選択される(S103)。その後、通知処理が実施される。
【0059】
電力供給装置100によれば、主電源電圧Vmが第1閾値Vth1以下となり、第1低下時間T1が第1規定時間Tth1以上であり、ブレーキ要求があるときには、縮退モードによってソレノイド92およびモータ93が駆動されるとともに、主電源81に異常が発生していることが通知される。一方で、主電源電圧Vmが第1閾値Vth1以下となり、第1低下時間T1が第1規定時間Tth1以上であっても、ブレーキ要求がないときには、通常モードから縮退モードへの切り換えが行われない。このため、主電源81に異常が発生していることが通知されない。これによって、主電源電圧Vmが低下しても、ブレーキアクチュエータの駆動が要求されない限りは縮退モードへの切り換えが行われず、異常の発生を示す通知も行われなくなる。主電源電圧Vmが第1閾値Vth1以下となっても主電源電圧Vmが回復すれば異常が通知されないため、主電源81の電圧低下が一時的なものであった場合に通知が行われることを抑制できる。
【0060】
さらに、電力供給装置100によれば、主電源電圧Vmが第1閾値Vth1以下となり、第1低下時間T1が第3規定時間Tth3以上であるときには、ブレーキ要求がなくても、駆動モードとして縮退モードが選択されるため、主電源81に異常が発生していることが通知される。主電源電圧Vmが低下している期間が長い場合、主電源81に異常が発生している蓋然性が高い。こうした場合に、電力供給装置100によれば、駆動モードを縮退モードに切り換えて電力供給が制限されるとともに、運転者に異常が通知される。これによって、主電源81の電圧低下が一時的なものである場合には異常の通知を抑制しつつ、主電源81に異常が発生している場合の異常の検出漏れおよび通知漏れを抑制できる。
【0061】
また、電力供給装置100によれば、主電源電圧Vmが第3閾値Vth3よりも小さくなると、電力の供給源が主電源81から補助電源82に切り換えられる。これによって、主電源81の電圧が低下した場合に、補助電源82を使用してソレノイド92およびモータ93を駆動させることができる。なお、電力供給装置100では、電力の供給源が補助電源82に切り換えられた場合でも主電源81の方が電圧が高い場合には、電力の供給源が再び主電源81に切り換えられる。これによって、主電源電圧Vmの一時的な低下などによって補助電源82への切り換えが行われたとしても、主電源81の電圧が回復すれば、主電源81を使用することができる。
【0062】
さらに、電力供給装置100では、第1閾値Vth1と第3閾値Vth3とが異なる大きさの閾値として設定されている。これによって、主電源電圧Vmが変動したとき、電力の供給源が補助電源82に切り換えられるタイミングと、駆動モードが縮退モードに切り換えられるタイミングと、が異なるようになる。たとえば、
図5に示す例におけるタイミングt11からタイミングt12までの期間では、主電源電圧Vmが一時的に第3閾値Vth3以下に低下して電力の供給源が補助電源82に切り換えられるが、その後、主電源電圧Vmが補助電源電圧Vsよりも大きい値に回復して、電力の供給源が再び主電源81に切り換えられている。電力供給装置100によれば、こうした主電源電圧Vmの一時的な低下の場合に、電力の供給源が補助電源82に切り換えられるだけであり、主電源81に異常が発生していることを示す通知が行われない。すなわち、主電源81の電圧低下が一時的なものである場合に異常の通知が行われることを抑制できる。
【0063】
また、電力供給装置100では、縮退モードを選択中であり、主電源81を使用中であり、主電源電圧Vmが第4閾値Vth4以上になるまで主電源81の電圧が回復すると(S303:YES)、駆動モードとして通常モードが選択される。これによって、主電源81の電圧が回復している場合には、駆動モードを通常モードに復帰させることで、ブレーキアクチュエータに供給する電力の制限を緩和することができる。なお、ブレーキアクチュエータの駆動中に電力の制限が緩和されると、アクチュエータの出力が不意に上昇する虞がある。ブレーキアクチュエータの出力が変動するということは、車両の制動力が変動する虞があるということであり、制動力の変動によって車両の搭乗者に違和感を与える虞がある。そこで、電力供給装置100では、縮退モードでブレーキアクチュエータが駆動されているときには(S304:NO)、駆動モードを縮退モードから通常モードに変更する条件が成立しても、ブレーキアクチュエータの駆動が停止するまで縮退モードを選択する状態が継続される。これによって、駆動モードを通常モードに復帰させる際における車両挙動の急な変化の発生を抑制でき、車両の搭乗者に違和感を与えることを抑制できる。
【0064】
次に、
図6を用いて、主電源電圧Vmが変動するものの第1閾値Vth1以下まで主電源電圧Vmが低下しない場合に選択部34によって選択される電源および駆動モードの例について説明する。なお、
図6に示す例においても、
図5に示す場合と同様に、主電源電圧Vmの変動に応じて選択される電源が主電源81または補助電源82に切り換えられる。電源の切り換えに関しては
図5を用いて説明した例と同様であるため、
図6では、補助電源電圧Vsの表示を省略し、選択されている電源の表示についても省略している。
【0065】
図6の(a)に示すように、主電源電圧Vmは、タイミングt21からタイミングt22までの期間において一時的に低下しているが、その低下幅が小さく主電源電圧Vmが第2閾値Vth2よりも大きい。主電源電圧Vmは、タイミングt23において再び低下しているが、依然として第2閾値Vth2よりも大きい値である。その後、タイミングt24において、主電源電圧Vmは、さらに低下して、第2閾値Vth2よりも小さい値となる。タイミングt24以降では、主電源電圧Vmは、第2閾値Vth2よりも小さく第1閾値Vth1よりも大きい値となっている。
【0066】
図6に示す例では、
図6の(b)に実線で示すように、タイミングt25において、ブレーキペダルが操作されて、ブレーキ要求が検出される。タイミングt24からタイミングt25までの期間は、第2規定時間Tth2よりも長い。
【0067】
タイミングt24において、
図6の(a)に示すように主電源電圧Vmが第2閾値Vth2よりも低下しているが、タイミングt24の時点では、
図6の(b)に示すように、ブレーキ要求がない。
【0068】
さらに、タイミングt24の時点では、第2低下時間T2が第2規定時間Tth2よりも短い。このため、タイミングt24からタイミングt25までの期間においても、
図6の(d)に示すように、通常モードの選択が継続されている。その後、タイミングt25においてブレーキ要求がなされると、第2低下時間T2が第2規定時間Tth2以上であり(S108:YES)、ブレーキ要求があることによって(S105:YES)、
図6の(d)に実線で示すように、駆動モードとして縮退モードが選択される(S103)。すなわち、駆動モードが通常モードから縮退モードに変更される。その後、通知処理が実施される。
【0069】
図6に示す例では、主電源電圧Vmが第2閾値Vth2よりも低下するタイミングt24からタイミングt26までの間の期間が、第3規定時間Tth3である。このため、
図6の(b)に二点鎖線で示すようにタイミングt25以降においてもブレーキが要求されない場合には、第3規定時間Tth3が経過するタイミングt26において、第2低下時間T2が第3規定時間Tth3に達し(S107:YES)、
図6の(d)に二点鎖線で示すように、駆動モードとして縮退モードが選択される(S103)。その後、通知処理が実施される。
【0070】
電力供給装置100によれば、主電源電圧Vmが第1閾値Vth1よりも大きい第2閾値Vth2以下となり、第2低下時間T2が第2規定時間Tth2以上であり、ブレーキ要求があるときには、縮退モードでソレノイド92およびモータ93が駆動されるとともに、主電源81に異常が発生していることが通知される。一方で、主電源電圧Vmが第2閾値Vth2以下となり、第2低下時間T2が第2規定時間Tth2以上であっても、ブレーキ要求がないときには、通常モードから縮退モードへの切り換えが行われない。すなわち、このときに通知処理が実施されることはない。
【0071】
ここで、主電源電圧Vmが第1閾値Vth1よりも大きい場合、すなわち、主電源電圧Vmの低下幅が小さい場合でも、主電源電圧Vmが低下している期間が長い場合、主電源81に異常が発生している蓋然性が高い。そこで、電力供給装置100では、主電源電圧Vmが第2閾値Vth2以下となり、第2低下時間T2が第3規定時間Tth3以上であるときには、ブレーキ要求がなくても、駆動モードとして縮退モードが選択されるため、主電源81に異常が発生していることが通知される。これによって、主電源81の電圧低下が一時的なものである場合には異常の通知を抑制しつつ、主電源81に異常が発生している場合の異常の検出漏れを抑制できる。
【0072】
(第2実施形態)
車両の電力供給装置の第2実施形態について、
図7を参照して説明する。
図7に示すように、電力供給装置200は、第1実施形態における電力供給装置100と同様に、主電源81および補助電源82に接続された制御ユニット10を備えている。電力供給装置200は、主電源81からの電力の供給によって駆動するアクチュエータを制御する制御ユニットとして、さらに、第2制御ユニット20を備えている。
【0073】
第2実施形態では、制御ユニット10を第1制御ユニット10という。また、主電源電圧取得部31を第1主電源電圧取得部31といい、第1主電源電圧取得部31によって取得される主電源81の電圧を第1主電源電圧Vm1とする。
【0074】
第2制御ユニット20は、主電源81に接続されている。第2制御ユニット20は、第1制御ユニット10によって電力が供給されるアクチュエータとは別のアクチュエータに対して、主電源81から電力を供給する。第2制御ユニット20は、第2主電源電圧取得部41を備えている。第2主電源電圧取得部41は、主電源81の電圧を第2主電源電圧Vm2として取得する。
【0075】
電力供給装置200では、第1制御ユニット10の選択部34は、第1実施形態と同様に、駆動モード移行処理、復帰処理および電源切換処理を実施して、主電源81の電圧および補助電源82の電圧に応じて駆動モードおよび電源の切り換えを行う。さらに、第1制御ユニット10の選択部34は、第2制御ユニット20の第2主電源電圧取得部41が取得する第2主電源電圧Vm2を用いて、第2主電源電圧Vm2が第5閾値Vth5以上であるときには、駆動モードとして縮退モードを選択しない。すなわち、第1制御ユニット10の選択部34は、第2主電源電圧Vm2が第5閾値Vth5以上であるときには、第1主電源電圧Vm1の値にかかわらず、縮退モードを選択しない。
【0076】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
電力供給装置200が備える第1制御ユニット10では、第2主電源電圧Vm2が第5閾値Vth5以上であるときには、第1主電源電圧Vm1の値にかかわらず、縮退モードが選択されない。たとえば、第1主電源電圧Vm1が低下していても、第1制御ユニット10とは別の制御ユニットである第2制御ユニット20において取得される第2主電源電圧Vm2が主電源81の電圧として正常な範囲の値を示している場合、主電源81の実際の電圧は正常であるが、第1主電源電圧Vm1が異常な値である可能性がある。こうした場合に、電力供給装置200によれば、アクチュエータの駆動モードの切り換えが誤った値である可能性のある第1主電源電圧Vm1に基づいて行われることを抑制できる。すなわち、主電源81が正常である可能性があるときに、主電源81の異常の発生が通知されることを抑制できる。
【0077】
第2実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・上記第2実施形態では、第1制御ユニット10および第2制御ユニット20を制御ユニットとして備える電力供給装置200を例示した。電力供給装置としては、三つ以上の制御ユニットを備えていてもよい。
【0078】
上記各実施形態に共通して変更可能な要素としては次のようなものがある。各実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0079】
・上記各実施形態では、駆動モード移行処理において、ブレーキ要求があるか否かを、ブレーキストロークセンサ91からの検出信号に基づいて判定した。車両の運転者によってブレーキアクチュエータの駆動が要求されるか否かは、車両が走行する道路の状況等によって予測することが可能である。ブレーキ要求が予測されるか否かを判定する処理を駆動モード移行処理における処理ルーチンに加えてもよい。
図8および
図9を用いて、上記構成の例について説明する。
【0080】
図8に示す電力供給装置300は、機能部として要求予測部137を有するマイコン130を備えている点で、第1実施形態における電力供給装置100と異なる。また、電力供給装置300には、外部情報取得装置95からの情報が入力される。
【0081】
外部情報取得装置95は、車両の周辺情報を取得する機能を有している。外部情報取得装置95は、たとえば、車両の進行方向における交通信号機の状態を取得する。外部情報取得装置95は、車両の進行方向に交通渋滞が発生している場合、当該渋滞の情報を取得することもできる。
【0082】
要求予測部137は、外部情報取得装置95が取得する情報に基づいて、運転者がブレーキアクチュエータの作動を要求するか否かを予測する。たとえば、車両の進行方向における最も手前の交通信号機が停止を示している場合には、ブレーキ要求を予測する。
【0083】
図9は、電力供給装置300における選択部34が実施する駆動モード移行処理の処理ルーチンを示す。本処理ルーチンは、所定の周期毎に繰り返し実行される。本処理ルーチンは、
図2を用いて説明した駆動モード移行処理におけるステップS105の処理の直前にステップS109の処理を加えている点が異なる。
図2に示す処理ルーチンと共通の処理については、説明を適宜省略する。
【0084】
図9に示すように、ステップS104の処理において第1低下時間T1が第1規定時間Tth1よりも短い場合(S104:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、第1低下時間T1が第1規定時間Tth1以上である場合(S104:YES)、処理がステップS109に移行される。
【0085】
また、ステップS108の処理において第2低下時間T2が第2規定時間Tth2よりも短い場合(S108:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、第2低下時間T2が第2規定時間Tth2以上である場合(S108:YES)、処理がステップS109に移行される。
【0086】
ステップS109では、要求予測部137によるブレーキ要求の予測があるか否かが選択部34によって判定される。要求予測がある場合(S109:YES)、処理がステップS103に移行される。すなわち、縮退モードが選択され、通知処理の実施が通知部36に要求される。その後、通知部36によって通知処理が実施される。ステップS103の処理が実行されると、本処理ルーチンが終了される。一方、要求予測がない場合(S109:NO)、処理がステップS105に移行される。ステップS105では、ブレーキ要求があるか否かが判定される。ブレーキ要求がない場合(S105:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。すなわち、この時点で選択されている駆動モードが選択部34によって引き続き選択される。一方、ブレーキ要求がある場合(S105:YES)、処理がステップS103に移行される。すなわち、縮退モードが選択され、通知処理の実施が通知部36に要求される。その後、通知部36によって通知処理が実施される。ステップS103の処理が実行されると、本処理ルーチンが終了される。
【0087】
電力供給装置300によれば、主電源電圧Vmが低下しており、ブレーキ要求が予測されるとき、ブレーキ要求が実際に発生するよりも前に駆動モードを縮退モードに変更することができる。これによって、ブレーキ要求が実際に発生するよりも前に、主電源81に異常が生じていることを運転者に通知することができる。
【0088】
・上記各実施形態では、第3閾値Vth3を第1閾値Vth1よりも大きい値としている。第3閾値Vth3は、第1閾値Vth1と同じ値でもよい。この場合でも、主電源電圧Vmが第3閾値Vth3(=第1閾値Vth1)以下に低下したときに補助電源82が使用されるようになるが、縮退モードが選択されるのは、最も早いタイミングでも、主電源電圧Vmが第1閾値Vth1以下に低下してから第1低下時間T1が第1規定時間Tth1に達したときである。すなわち、上記各実施形態と同様に、電源が切り換えられるタイミングと、駆動モードが切り換えられるタイミングと、をずらすことができる。
【0089】
・上記各実施形態において、
図1に示した切換装置11の構成は一例である。切換装置としては、ソレノイド駆動部12、モータ駆動部13およびマイコン30に接続する電力の供給源を主電源81または補助電源82に切り換えることができるのであれば、
図1に示した切換装置11とは別の構成であってもよい。
【0090】
・上記各実施形態では、ブレーキアクチュエータに電力を供給するアクチュエータ駆動部を備える電力供給装置を例示した。電力供給装置が電力を供給するアクチュエータは、ブレーキアクチュエータに限らない。たとえば、電力供給装置としては、車両の操舵装置が備えるアクチュエータに電力を供給するアクチュエータ駆動部を備えていてもよい。この場合、ステアリングホイールの操作に基づいてステアリング要求を検出し、上記各実施形態におけるブレーキ要求とステアリング要求とを置き換えるとよい。
【0091】
なお、第2実施形態のように複数の制御ユニットを備える場合には、ブレーキアクチュエータに電力を供給する制御ユニットと、操舵装置が備えるアクチュエータに電力を供給する制御ユニットと、のように、異なるアクチュエータに電力を供給する制御ユニットを組み合わせることもできる。
【符号の説明】
【0092】
10…制御ユニット、11…切換装置、12…ソレノイド駆動部、13…モータ駆動部、31…主電源電圧取得部、32…補助電源電圧取得部、33…切換部、34…選択部、35…入力部、36…通知部、81…主電源、82…補助電源、91…ブレーキストロークセンサ、92…ソレノイド、93…モータ、100…電力供給装置、SW1~SW7…スイッチ。