(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】水系バインダー組成物、電極、及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
C08F 220/26 20060101AFI20230719BHJP
H01M 4/02 20060101ALI20230719BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230719BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230719BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20230719BHJP
【FI】
C08F220/26
H01M4/02 Z
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01G11/38
(21)【出願番号】P 2019180065
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(72)【発明者】
【氏名】進藤 大明
(72)【発明者】
【氏名】大塩 真穂
(72)【発明者】
【氏名】松尾 孝
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/130940(WO,A2)
【文献】特許第6525101(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00
H01M 4/00-4/62
H01G 11/00-11/86
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位(A)、
下記一般式(2)
【化2】
(式中、R
1
は水素、又は炭素数1~4のアルキル基、R
12
は炭素数1~3のアルキレン基、又はカルボニル基、R
13
は-ph-(W)-phである。-phは置換基を有していてもよいフェニル基であり、Wは、単結合、-O-、アルキレン基のいずれかであり、t、uは0~3の整数であり、sは0~1の整数である。)で表わされるモノマーに由来する構成単位(B)を有する重合体
であって、重合体の構成単位(A)の比率30質量%以上70質量%以下であり、重合体の構成単位(B)の比率30質量%以上70質量%以下である重合体を含有する水系バインダー組成物。
【請求項2】
前記重合体の構成単位において、更に下記一般式(3):
【化3】
(式中、R
14は水素原子又は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、xは2~8の整数であり、nは2~30の整数である。)
で表わされる水酸基を有するモノマーに由来する構成単位(C)を含む重合体を含む、
請求項1に記載の水系バインダー組成物。
【請求項3】
前記重合体の構成単位において、更に、5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位(D)を含む重合体を含む、
請求項1又は2に記載の水系バインダー組成物。
【請求項4】
前記構成単位(D)において、前記5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーが、下記一般式(5):
【化4】
(式中、R
15は、それぞれ同一または異なって、水素原子又はメチル基であり、R
16は、5価以下の炭素数2~100の有機基であり、mは5以下の整数である。)で示される化合物である、
請求項3に記載の水系バインダー組成物。
【請求項5】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位(A)は炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位である
請求項1~4のいずれかに記載の水系バインダー組成物。
【請求項6】
請求項1~5いずれかに記載の水系バインダー組成物を用いて作製される電極。
【請求項7】
請求項6に記載の電極を備える、蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池及びニッケル水素二次電池などの二次電池、電気化学キャパシタなどといった蓄電デバイス、特に電解質に有機溶媒などの非水電解質を用いた非水電解質系蓄電デバイスに用いる水系バインダー組成物、水系バインダー組成物を用いて作製される電極、並びに該電極を備える蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池や電気化学キャパシタといった蓄電デバイスは、携帯電話やノートパソコン、カムコーダーなどの電子機器に用いられている。最近では環境保護への意識の高まりや関連法の整備により、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用途や家庭用電力貯蔵用の蓄電池としての応用も進んできている。
【0003】
また、これらの応用が進むと同時に、蓄電デバイスに高性能化が求められており、電極等の部材の改良が進められている。このような蓄電デバイスに使用される電極は、通常、活物質と、導電助剤、バインダー、溶媒からなる電極材料を集電体上に塗布、乾燥して得られる。
【0004】
そこで、近年では、電極に用いられるバインダーの改良が試みられている。バインダーを改良することにより、活物質同士の結着性、活物質と導電助剤との結着性、及び活物質と集電体との結着性を向上させ、電気的特性(例えば、サイクル特性、低温での出力特性、低抵抗化)を向上させたりすることが提案されている。
【0005】
バインダーには、電極に用いられた際の結着性に優れ、蓄電デバイスに優れた電気的特性を付与できることが求められており、例えば特許文献1には新たなバインダーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、芳香族系のバインダーが開示されているが、電極に用いられた際の結着性と蓄電デバイスに用いた際の容量維持率の点で改善の余地があった。本発明は、電極に用いられた際に優れた結着性を備えるとともに、蓄電デバイスに用いた際には、容量維持率に優れる、水系バインダー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために検討を重ねた結果、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位、特定の芳香族基を有するエステルモノマーに由来する構成単位を含む重合体を含有する水系バインダー組成物を用いることにより、電極に用いられた際に優れた結着性、更には蓄電デバイスに用いた際には優れた容量維持率を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に関する。
【0010】
項1 (メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位(A)、
下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1は水素、又は炭素数1~4のアルキル基、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11は水素、ヒドロキシル基、炭素数1~3のアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族基のいずれかであり、R
12は炭素数1~3のアルキレン基、又はカルボニル基、R
13は-ph-(W)-phである。-phは置換基を有していてもよいフェニル基であり、Wは、単結合、-O-、アルキレン基のいずれかであり、q、rは0~3の整数であり、sは0~1の整数である。)
で表わされるモノマーに由来する構成単位(B)を有する重合体を含有する水系バインダー組成物。
項2 構成単位(B)が下記一般式(2)
【化2】
(式中、R
1は水素、又は炭素数1~4のアルキル基、R
12は炭素数1~3のアルキレン基、又はカルボニル基、R
13は-ph-(W)-phである。-phは置換基を有していてもよいフェニル基であり、Wは、単結合、-O-、アルキレン基のいずれかであり、t、uは0~3の整数であり、sは0~1の整数である。)で表わされるモノマーに由来する構成単位である項1記載の水系バインダー組成物。
項3 更に、下記一般式(3):
【化3】
(式中、R
14は水素原子又は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、xは2~8の整数であり、nは2~30の整数である。)
で表わされる水酸基を有するモノマーに由来する構成単位(C)を含む重合体を含む、項1又は2に記載の水系バインダー組成物。
項4 更に、5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位(D)を含む重合体を含む、項1~3いずれかに記載の水系バインダー組成物。
項5 前記構成単位(D)において、前記5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーが、下記一般式(5):
【化4】
(式中、R
15は、それぞれ同一または異なって、水素原子又はメチル基であり、R
16は、5価以下の炭素数2~100の有機基であり、mは5以下の整数である。)で示される化合物である、項4に記載の水系バインダー組成物。
項6 (メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位(A)は炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位である項1~5のいずれかに記載の水系バインダー組成物。
項7 項1~6いずれかに記載の水系バインダー組成物を用いて作製される電極。
項8 項7に記載の電極を備える、蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極に用いられた際に優れた結着性を備えるとともに、蓄電デバイスに用いた際には、容量維持率に優れる水系バインダー組成物を提供することができる。また、本発明によれば、該水系バインダー組成物、及び電極、並びに該電極を備える蓄電デバイスを提供することができる。
【0012】
本発明の水系バインダー組成物は、負極に用いる活物質として、シリコン系化合物を用いた場合に、特に顕著な効果が得られる。通常、充放電における体積変化が炭素材料を用いた場合には約10%であるのに対して、シリコン系化合物を用いた場合には200%近くの体積変化を伴うために充放電サイクルによる容量低下が大きいという問題を抱えている。本発明は、負極に用いる活物質として、シリコン系化合物を用いた場合であっても、効果を損なうことなく、高い結着性、高い充放電効率を有するため、有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、蓄電デバイスとは、二次電池(リチウムイオン二次電池及びニッケル水素二次電池等)、電気化学キャパシタを包含するものである。また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレートまたはメタクリレート」を意味し、これに類する表現についても同様である。
【0014】
<1.重合体>
本発明の重合体はバインダーのために用いられ、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位(A)、
下記一般式(1)
【化5】
(式中、R
1は水素、又は炭素数1~4のアルキル基、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11は水素、ヒドロキシル基、炭素数1~3のアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族基のいずれかであり、R
12は炭素数1~3のアルキレン基、又はカルボニル基、R
13は-ph-(W)-phである。-phは置換基を有していてもよいフェニル基であり、Wは、単結合、-O-、アルキレン基のいずれかであり、q、rは0~3の整数であり、sは0~1の整数である。)
で表わされるモノマーに由来する構成単位(B)を含む重合体を含有する。
【0015】
以下に、本発明の重合体の構成単位について、詳細に説明する。
【0016】
構成単位(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位である。
【0017】
構成単位(A)は、炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位であることが好ましく、炭素数1~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位であることがより好ましく、炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位であることが更に好ましく、炭素数2~4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーに由来する構成単位であることが特に好ましい。
【0018】
好ましい構成単位(A)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸イソヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、及び(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を例示することができる。構成単位(A)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0019】
重合体における構成単位(A)の比率の下限は、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、35質量%以上であることが特に好ましい。また、重合体における構成単位(A)の比率の上限は、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、55質量%以下であることが特に好ましい。この範囲とすることでエマルジョンの安定性が向上する点で好ましい。
【0020】
構成単位(B)は、下記一般式(1)
【化6】
(式中、R
1は水素、又は炭素数1~4のアルキル基、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11は水素、ヒドロキシル基、炭素数1~3のアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族基のいずれかであり、R
12は炭素数1~3のアルキレン基、又はカルボニル基、R
13は-ph-(W)-phである。-phは置換基を有していてもよいフェニル基であり、Wは、単結合、-O-、アルキレン基のいずれかであり、q、rは0~3の整数であり、sは0~1の整数である。)
で表わされるモノマーに由来する構成単位である。
【0021】
一般式(1)において、
R1は水素、又は炭素数1~4のアルキル基であり、水素、又は炭素数1~2のアルキル基であることが好ましく、水素、又はメチル基であることが特に好ましい。 R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11は水素、ヒドロキシル基、炭素数1~3のアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族基のいずれかであり、水素、ヒドロキシル基、炭素数1~2のアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族基のいずれかであることが好ましい。
R12は炭素数1~3のアルキレン基、又はカルボニル基であり、炭素数1~2のアルキレン基、又はカルボニル基であることが好ましい。
R13は-ph-(W)-phである。-phは置換基を有していてもよいフェニル基であり、Wは、単結合、-O-、アルキレン基のいずれかであり、アルキレン基としては炭素数1~3のアルキレン基であることが好ましい。
置換基としては、アルキル基、メチル、エチル、イソプロピルなどのアルキル基、ビニルなどの不飽和炭化水素基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲノ基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシル基などが挙げられる。
q、rは0~3の整数であり、0~2の整数であることが好ましく、ともに0であってよい。
sは0又は1の整数である。
【0022】
構成単位(B)は、下記一般式(2)
【化7】
(式中、R
1は水素、又は炭素数1~4のアルキル基、R
12は炭素数1~3のアルキレン基、又はカルボニル基、R
13は-ph-(W)-phである。-phは置換基を有していてもよいフェニル基であり、Wは、単結合、-O-、アルキレン基のいずれかであり、t、uは0~3の整数であり、sは0~1の整数である。)で表わされるモノマーに由来する構成単位であることが好ましい。
【0023】
一般式(2)において、
R1は水素、又は炭素数1~4のアルキル基であり、水素、又は炭素数1~2のアルキル基であることが好ましく、水素、又はメチル基であることが特に好ましい。
R12は炭素数1~3のアルキレン基、又はカルボニル基であり、炭素数1~2のアルキレン基、又はカルボニル基であることが好ましい。
R13は-ph-(W)-phである。-phは置換基を有していてもよいフェニル基であり、Wは、単結合、-O-、アルキレン基のいずれかであり、アルキレン基としては炭素数1~3のアルキレン基であることが好ましい。
置換基としては、アルキル基、メチル、エチル、イソプロピルなどのアルキル基、ビニルなどの不飽和炭化水素基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲノ基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシル基などが挙げられる。
sは0又は1の整数である。
t、uは0~3の整数であり、0~2の整数であることが好ましく、ともに0であってよい。
【0024】
好ましい構成単位(B)の具体例としては、フェニルベンジルアクリレート、フェノキシベンジルアクリレート等由来の構成単位を例示することができる。構成単位(B)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0025】
重合体における構成単位(B)の比率の下限は、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、35質量%以上であることが特に好ましい。また、重合体における構成単位(B)の比率の上限は、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。この範囲とすることで電極に使用した際に、集電箔と活物質との親和性が向上する点で好ましい。
【0026】
重合体において、下記一般式(3):
【化8】
(式中、R
14は水素原子又は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、xは2~8の整数であり、nは2~30の整数である。)
で表わされる水酸基を有するモノマーに由来する構成単位(C)を含むことが電極に使用した際にイオン伝導性が向上する点で好ましい。
【0027】
一般式(3)において、R14としては、好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、およびイソブチル基などが挙げられる。好ましくは水素原子またはメチル基である。すなわち、構成単位(C)において、水酸基を有するモノマーは、(R14が水素原子又はメチル基である)(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0028】
一般式(3)において、(CxH2xO)としては、直鎖もしくは分岐のアルキルエーテル基であり、xは2~8の整数であり、好ましくは2~7の整数であり、より好ましくは2~6の整数である。
【0029】
一般式(3)において、nは2~30の整数であり、好ましくは2~25の整数であり、より好ましくは2~20の整数である。
【0030】
構成単位(C)は、以下、一般式(4)で表わされる水酸基を有するモノマーに由来することが好ましい。
【化9】
一般式(4)において、R
14は水素原子又は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、oは0~30の整数であり、pは0~30の整数であり、o+pは2~30である。ここで、o、およびpは、当該構成単位の構成比を表しているのみであって、(C
2H
4O)の繰り返し単位のブロックと(C
3H
6O)の繰り返し単位のブロックからなる化合物のみを意味するものではなく、(C
2H
4O)の繰り返し単位と、(C
3H
6O)の繰り返し単位が交互・ランダムに配置された、又はランダム部とブロック部が混在する化合物であってもよい。
【0031】
一般式(4)において、R14としては、好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、およびイソブチル基などが挙げられる。好ましくは水素原子またはメチル基である。すなわち、構成単位(C)において、水酸基を有するモノマーは、R14が水素原子又はメチル基である)(メタ)アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0032】
一般式(4)において、oは0~30の整数であり、pは0~30の整数であり、o+pは2~30であり、oは0~25の整数であり、pは0~25の整数であり、o+pは2~25であることが好ましく、oは0~20の整数であり、pは0~20の整数であり、o+pは2~20であることが特に好ましい。
【0033】
一般式(3)で表わされる水酸基を有するモノマーの具体例としては、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、およびポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-プロピレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-テトラメチレングリコール-モノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上併用できる。これらの中でも、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0034】
構成単位(C)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0035】
重合体が構成単位(C)を含む場合、重合体において、構成単位(C)の比率の下限は0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることが特に好ましい。重合体における構成単位(C)の比率の上限は、15質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0036】
重合体において、5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位(D)を含むことがバインダー粒子を安定化させる点で好ましい。(メタ)アクリレートモノマーにおける「官能(基)」に示される数字は(メタ)アクリロイル基の数を指す。
【0037】
構成単位(D)は、下記一般式(5)に由来する構成単位であることが好ましい。
【化10】
【0038】
一般式(5)において、R15は、それぞれ同一または異なって、水素原子又はメチル基であり、R16は、5価以下の炭素数2~100の有機基であり、mは5以下の整数である。
【0039】
一般式(5)において、mは2~5(すなわち、構成単位(D)が2官能から5官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位)であることが好ましく、3~5(すなわち、構成単位(D)が3官能から5官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位)であることがより好ましく、3~4(すなわち、構成単位(D)が3官能から4官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位)であることが特に好ましい。
【0040】
構成単位(D)において、2官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の具体例としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート等の2官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。
【0041】
構成単位(D)において、3官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO付加トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2,2,2-トリス(メタ)アクリロイロキシメチルエチルコハク酸、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、グリセリンEO付加トリ(メタ)アクリレート、グリセリンPO付加トリ(メタ)アクリレート及びトリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート等の3官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。これらの中でも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートから選択される3官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が好ましい。
【0042】
構成単位(D)において、4官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の具体例としては、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールEO付加テトラ(メタ)アクリレート等の4官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。
【0043】
構成単位(D)において、5官能(メタ)アクリレートに由来する構成単位の具体例としては、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートに由来する構成単位が挙げられる。
【0044】
重合体が構成単位(D)を含む場合、重合体における構成単位(D)の比率の下限は0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることが特に好ましい。構成単位(D)の比率の上限は、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。
【0045】
重合体において、(メタ)アクリル酸モノマーに由来する構成単位(E)を含むことが電極に使用した際に活物質との親和性が向上する点で好ましい。
【0046】
構成単位(E)としては、アクリル酸、メタクリル酸から選択される化合物に由来する構成単位を例示することができる。重合体が有する構成単位(E)は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0047】
重合体における構成単位(E)の比率の下限は1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが特に好ましい。また、構成単位(E)の比率の上限は、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、7質量%以下であることが特に好ましい。
【0048】
重合体としては、上記以外にも、その他のモノマー由来の構成単位として、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、クロトンニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-シアノアクリレート、シアン化ビニリデン、フマロニトリルから選択されるモノマー由来の構成単位を有することできる。
【0049】
重合体を得る方法としては、一般的な乳化重合法、ソープフリー乳化重合法等を使用することができる。具体的には、攪拌機、及び加熱装置付きの密閉容器に室温でモノマー、乳化剤、重合開始剤、水、必要に応じて分散剤、連鎖移動剤、pH調整剤等を含んだ組成物を不活性ガス雰囲気下で攪拌することでモノマー等を水に乳化させる。乳化の方法は撹拌、剪断、超音波等による方法等が適用でき、撹拌翼、ホモジナイザー等を使用することができる。次いで、攪拌しながら温度を上昇させて重合を開始させることで、重合体が水に分散した球形の重合体のラテックスを得ることができる。重合時のモノマーの添加方法は、一括仕込みの他に、モノマー滴下やプレエマルジョン滴下等でもよく、これらの方法を2種以上併用してもよい。尚、プレエマルジョン滴下とは先にモノマー、乳化剤、水等を予め乳化させておき、その乳液を滴下していく添加方法を指す。
【0050】
本発明で用いられる乳化剤は特に限定されない。乳化剤は界面活性剤であり、この界面活性剤には反応性基を有する反応性界面活性剤が含まれる。乳化重合法おいて一般的に用いられるノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤等を使用することができる。
【0051】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられ、反応性のノニオン性界面活性剤としては、ラテムルPD-420、430、450(花王社製)、アデカリアソープER(アデカ社製)、アクアロンRN(第一工業製薬社製)、アントックスLMA(日本乳化剤社製)、アントックスEMH(日本乳化剤社製)等が挙げられる。
【0052】
アニオン性界面活性剤としては、硫酸エステル型、カルボン酸型、又はスルホン酸型の金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、リン酸エステル型の界面活性剤等を挙げることができる。硫酸エステル型、スルホン酸型、リン酸エステル型が好ましく、硫酸エステル型が特に好ましい。硫酸エステル型のアニオン性界面活性剤の代表例としてはドデシル硫酸等のアルキル硫酸金属塩、アンモニウム、又はアルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル硫酸、ポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸金属塩、アンモニウム塩、又はポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩(アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩)、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルカルボン酸塩(アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩)、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルスルホン酸塩(アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩)、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル塩(アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩)が挙げられ、硫酸エステル型の反応性アニオン性界面活性剤の具体例としては、ラテムルPD-104、105(花王社製)、アデカリアソープSR(アデカ社製)、アクアロンHS(第一工業製薬社製)、アクアロンKH(第一工業製薬社製)、アクアロンAR-10(第一工業製薬社製)が挙げられる。好ましくは、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸アンモニウム、ドデシル硫酸トリエタノールアミン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラテムルPD-104等が挙げられる。
【0053】
これらノニオン性界面活性剤及び/又はアニオン性界面活性剤は1種または2種以上用いてもよい。
【0054】
反応性界面活性剤の反応性とは、反応性二重結合を含有し、重合時にモノマーと重合反応することを意味する。すなわち、反応性界面活性剤は、重合体を作製する重合の際にモノマーの乳化剤として働くと共に、重合後は重合体の一部に共有結合して取り込まれた状態となる。そのため、乳化重合及び作製した重合体の分散が良好であり、バインダーとしての物性(屈曲性、結着性)が優れている。
【0055】
乳化剤の構成単位の量は乳化重合法おいて一般的に用いられる量であればよい。具体的には、仕込みのモノマー量(100質量%)に対して、0.01~25質量%の範囲であり、好ましくは0.05~20質量%、更に好ましくは0.1~20質量%である。
【0056】
本発明で用いられる重合開始剤は特に限定されず、乳化重合法、懸濁重合法おいて一般的に用いられる重合開始剤を使用することができる。好ましくは乳化重合法である。乳化重合法では水溶性の重合開始剤、懸濁重合法では油溶性の重合開始剤が使われる。
【0057】
その水溶性の重合開始剤の具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩に代表される水溶性の重合開始剤、2-2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、またはその塩酸塩または硫酸塩、2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2'-アゾビス(2-メチルプロパンアミジン)、又はその塩酸塩又は硫酸塩、3,3'-[アゾビス[(2,2-ジメチル-1-イミノエタン-2,1-ジイル)イミノ]]ビス(プロパン酸)、2,2'‐[アゾビス(ジメチルメチレン)]ビス(2‐イミダゾリン)などの水溶性のアゾ化合物の重合開始剤が好ましい。
【0058】
油溶性の重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、アセチルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル) などの油溶性のアゾ化合物の重合開始剤、レドックス系開始剤が好ましい。これら重合開始剤は1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0059】
重合開始剤の使用量は乳化重合法または懸濁重合法おいて一般的に用いられる量であればよい。具体的には、仕込みのモノマー量(100質量%)に対して、0.01~10質量%の範囲であり、好ましくは0.01~5質量%、更に好ましくは0.02~3質量%である。
【0060】
連鎖移動剤は、必要に応じて用いることができる。連鎖移動剤の具体例としては、n-ヘキシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、t-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2,4-ジフェニル-4-メチル-2-ペンテン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、ターピノレン、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α-ベンジルオキシスチレン、α-ベンジルオキシアクリロニトリル、α-ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-エチルヘキシルチオグリコレート等が挙げられ、これらを1種または2種以上用いてもよい。これらの連鎖移動剤の量は特に限定されないが、通常、仕込みモノマー量100質量部に対して0~5質量部にて使用される。
【0061】
重合体の製造においては、重合温度及び重合時間は特に限定されない。使用する重合開始剤の種類等から適宜選択できるが、一般的に、重合温度は20~100℃であり、重合時間は0.5~100時間である。
【0062】
本発明の重合体は、水分、又は乳化剤等の他の物質が重合体の内部に含有され、又は外部に付着されていてもよい。内部に含有される、又は外部に付着される物質の量は、重合体100質量部に対して、7質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることが特に好ましい。
【0063】
<2.水系バインダー組成物>
本発明の水系バインダー組成物は、先述の「1.重合体」の欄で説明した本発明の重合体を水とともに含有するものであり、本発明の重合体が水に分散されたものであってよい。
【0064】
本発明の水系バインダー組成物は、重合体を得る際に製造されるエマルジョンを用いたエマルジョンであってもよい。
【0065】
本発明の水系バインダー組成物における、重合体の含有量は特に限定されないが、溶媒以外の固形分(以下、単に「固形分」ということがある。)において、固形分濃度が0.2~80質量%となるように含有することが好ましく、0.5~70質量%となるように含有することがより好ましく、0.5~60質量%となるように含有することが特に好ましい。
【0066】
本発明の水系バインダー組成物は、必要に応じてpH調整剤として塩基を用いることでpHを調整することができる。塩基の具体例としては、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)水酸化物、アンモニア、無機アンモニウム化合物、有機アミン化合物等が挙げられる。pHの範囲はpH2~11、好ましくはpH3~10、更に好ましくはpH4~9の範囲である。
【0067】
<3.電極材料>
本発明の電極材料は、本発明の「2.水系バインダー組成物」の欄で説明した本発明の水系バインダー組成物を用いて作製される。電極用スラリーと記載することもできる。電極材料は、水系バインダー組成物、活物質を少なくとも含有する。具体的には、リチウムイオン電池においては、正極に用いる正極材料としては正極活物質、及び本発明の水系バインダー組成物を含有し、更に導電助剤を含有していてもよく、負極に用いる負極材料としては負極活物質、本発明の水系バインダー組成物を含有し、更に導電助剤を含有していてもよく、電気二重層キャパシタ(電気化学キャパシタ)においては、正極に用いる正極材料としては活物質として活性炭、及び本発明の水系バインダー組成物を含有し、更に導電助剤を含有していてもよく、負極に用いる負極材料としては活物質として活性炭、本発明の水系バインダー組成物を含有し、更に導電助剤を含有していてもよい。
【0068】
リチウムイオン電池に用いる正極活物質は、AMO2、AM2O4、A2MO3、AMBO4のいずれかの組成からなるアルカリ金属含有複合酸化物である。Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい。BはP、Siまたはその混合物からなる。なお正極活物質は粉末が好ましく、その粒子径には、好ましくは50ミクロン以下、より好ましくは20ミクロン以下のものを用いる。これらの活物質は、3V(vs. Li/Li+)以上の起電力を有するものである。
【0069】
リチウムイオン電池に用いる正極活物質の好ましい具体例としては、LixCoO2,LixNiO2,LixMnO2,LixCrO2,LixFeO2,LixCoaMn1-aO2,LixCoaNi1-aO2,LixCoaCr1-aO2,LixCoaFe1-aO2,LixCoaTi1-aO2,LixMnaNi1-aO2,LixMnaCr1-aO2,LixMnaFe1-aO2,LixMnaTi1-aO2,LixNiaCr1-aO2,LixNiaFe1-aO2,LixNiaTi1-aO2,LixCraFe1-aO2,LixCraTi1-aO2,LixFeaTi1-aO2,LixCobMncNi1-b-cO2,LixNiaCobAlcO2,LixCrbMncNi1-b-cO2,LixFebMncNi1-b-cO2,LixTibMncNi1-b-cO2,LixMn2O4,LixMndCo2-dO4,LixMndNi2-dO4,LixMndCr2-dO4,LixMndFe2-dO4,LixMndTi2-dO4,LiyMnO3,LiyMneCo1-eO3,LiyMneNi1-eO3,LiyMneFe1-eO3,LiyMneTi1-eO3,LixCoPO4,LixMnPO4,LixNiPO4,LixFePO4,LixCofMn1-fPO4,LixCofNi1-fPO4,LixCofFe1-fPO4,LixMnfNi1-fPO4,LixMnfFe1-fPO4,LixNifFe1-fPO4,LiyCoSiO4,LiyMnSiO4,LiyNiSiO4,LiyFeSiO4,LiyCogMn1-gSiO4,LiyCogNi1-gSiO4,LiyCogFe1-gSiO4,LiyMngNi1-gSiO4,LiyMngFe1-gSiO4,LiyNigFe1-gSiO4,LiyCoPhSi1-hO4,LiyMnPhSi1-hO4,LiyNiPhSi1-hO4,LiyFePhSi1-hO4,LiyCogMn1-gPhSi1-hO4,LiyCogNi1-gPhSi1-hO4,LiyCogFe1-gPhSi1-hO4,LiyMngNi1-gPhSi1-hO4,LiyMngFe1-gPhSi1-hO4,LiyNigFe1-gPhSi1-hO4などのリチウム含有複合酸化物をあげることができる。(ここで、x=0.01~1.2,y=0.01~2.2,a=0.01~0.99,b=0.01~0.98,c=0.01~0.98 但し、b+c=0.02~0.99,d=1.49~1.99,e=0.01~0.99,f=0.01~0.99,g=0.01~0.99,h=0.01~0.99である。)
【0070】
また、前記の好ましい正極活物質のうち、より好ましい正極活物質としては、具体的には、LixCoO2,LixNiO2,LixMnO2,LixCrO2,LixCoaNi1-aO2,LixMnaNi1-aO2,LixCobMncNi1-b-cO2,LixNiaCobAlcO2,LixMn2O4,LiyMnO3,LiyMneFe1-eO3,LiyMneTi1-eO3,LixCoPO4,LixMnPO4,LixNiPO4,LixFePO4,LixMnfFe1-fPO4を挙げることができる。(ここで、x=0.01~1.2,y=0.01~2.2,a=0.01~0.99,b=0.01~0.98,c=0.01~0.98 但し、b+c=0.02~0.99,d=1.49~1.99,e=0.01~0.99,f=0.01~0.99である。なお、上記のx,yの値は充放電によって増減する。)
【0071】
リチウムイオン電池に用いる負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な構造(多孔質構造)を有する炭素材料(天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素等)か、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なリチウム、アルミニウム系化合物、スズ系化合物、シリコン系化合物、チタン系化合物等の金属からなる粉末である。粒子径は10nm以上100μm以下が好ましく、更に好ましくは20nm以上20μm以下である。また、金属と炭素材料との混合活物質として用いてもよい。なお負極活物質にはその気孔率が、70%程度のものを用いるのが望ましい。
【0072】
本発明の水系バインダー組成物においては、特にリチウムイオン電池の負極に用いる活物質として、シリコン系化合物を用いた際に、より顕著な効果が得られる。
【0073】
シリコン系化合物としては、Si元素、Siとの合金、Siを含む酸化物、Siを含む炭化物等であり、Si、SiB4、SiB6、Mg2Si、Ni2Si、TiSi2、MoSi2、CoSi2、NiSi2、CaSi2、CrSi2、Cu5Si、FeSi2、MnSi2、NbSi2、TaSi2、VSi2、WSi2、ZnSi2、SiC、Si3N4、Si2N2O、SiOx(0<x≦2)、SnSiOx、LiSiOを例示することができ、SiOx(0<x≦2)であることが好ましく、一酸化ケイ素(SiO)等である。
【0074】
活物質全量(100質量%)に対するシリコン系化合物の含有量は、下限は1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることが特に好ましく、上限は80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。
【0075】
本発明のバインダーにおいては、負極に用いる活物質として、シリコン系化合物を用いた際に、活物質として炭素材料を併用することが好ましい。
【0076】
炭素材料としては、グラファイト、低結晶性カーボン(ソフトカーボン、ハードカーボン)、カーボンブラック(ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック等)、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリルなどの炭素材料を例示することができ、グラファイトであることが好ましい。
【0077】
活物質全量(100質量%)に対する炭素材料の含有量は、下限は20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが特に好ましく、上限は99質量%以下であることが好ましく、98質量%以下であることがより好ましく、96質量%以下であることが特に好ましい。
【0078】
電気二重層キャパシタ(電気化学キャパシタ)に用いる活物質としては活性炭を例示することができる。一般的には、活性炭とは賦活化された炭化物を指し、市販の活性炭を用いてもよく、公知の製法に従って製造された活性炭を用いてもよい。活性炭の製造法としては、木材、ヤシ殻、パルプ廃液、石炭、重質油、フェノール樹脂等の原料を炭化し、得られた炭化物を賦活化することにより得られる。
【0079】
賦活化は、公知の賦活法であればよく、ガス賦活法または薬品賦活法等により行うことができる。ガス賦活法では、炭化物を、加熱下で、水蒸気、炭酸ガス、酸素などのガスと接触させることにより、賦活化させる。薬品賦活法では、炭化物を、公知の賦活薬品と接触させた状態で加熱することにより賦活化させる。賦活薬品としては、例えば、塩化亜鉛、燐酸、および/またはアルカリ化合物(水酸化ナトリウムなどの金属水酸化物など)などが挙げられる。水蒸気で賦活化した活性炭(本願においては水蒸気賦活性炭と記載する)、および/またはアルカリで賦活化した活性炭(本願においてはアルカリ賦活活性炭と記載する)を用いることが好ましい。
【0080】
電極材料中の活物質の含有量としては、特に制限されず、水等のスラリーにするための成分を除いた電極材料(100質量%)に対して、例えば99.9~50質量%程度、より好ましくは99.5~70質量%程度、さらに好ましくは99~85質量%程度が挙げられる。活物質は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0081】
電極材料に用いる本発明の水系バインダー組成物は、水系バインダーに含まれる固形分が活物質100質量部に対して、0.1質量部以上となるように含有することが好ましく、0.2質量部以上となるように含有することがより好ましく、0.5質量部以上となるように含有することが特に好ましく、10質量部以下となるように含有することが好ましく、5質量部以下となるように含有することがより好ましく、3質量部以下となるように含有することが特に好ましい。
【0082】
導電助剤を用いる場合には、公知の導電助剤を用いることができ、黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの炭素繊維、または金属粉末等が挙げられる。これら導電助剤は1種または2種以上用いてもよい。
【0083】
導電助剤を用いる場合には、導電助剤の含有量は特に制限されないが、活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下が挙げられる。なお、電極材料中に導電助剤が含まれる場合、導電助剤の含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上、2質量部以上を例示することができる。
【0084】
本発明の電極材料は、必要に応じて増粘剤を含有させても良い。増粘剤の種類は、特に限定されないが、好ましくは、セルロース系化合物のナトリウム塩、アンモニウム塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸およびその塩等である。
【0085】
セルロース系化合物のナトリウム塩もしくはアンモニウム塩としては、セルロース系高分子を各種誘導基により置換されたアルキルセルロースのナトリウム塩もしくはアンモニウム塩などが挙げられる。具体例としては、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)のナトリウム塩、アンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩等が挙げられる。カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩もしくはアンモニウム塩が特に好ましい。これらの増粘剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0086】
増粘剤を用いる場合には、増粘剤の含有量は特に制限されないが、活物質100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下が挙げられる。なお、増粘剤が含まれる場合、増粘剤の含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上を例示することができる。
【0087】
本発明の電極材料は、スラリー状とするために水を更に含有してもよい。水は特に限定されず、一般的に用いられる水を使用することができる。その具体例としては水道水、蒸留水、イオン交換水、及び超純水などが挙げられる。その中でも、好ましくは蒸留水、イオン交換水、及び超純水である。
【0088】
本発明の電極材料をスラリー状として用いる場合には、スラリーの固形分濃度は、10~90質量%であることが好ましく、20~85質量%であることがより好ましく、20~80質量%であることが特に好ましい。
【0089】
本発明の電極材料をスラリー状として用いる場合には、スラリーの固形分中の重合体量の割合は、0.1~15質量%であることが好ましく、0.2~10質量%であることがより好ましく、0.3~7質量%であることが特に好ましい。
【0090】
電極材料の調製方法としては特に限定されず、正極活物質あるいは負極活物質、本発明の水系バインダー組成物、導電助剤、水等を通常の攪拌機、分散機、混練機、遊星型ボールミル、ホモジナイザーなど用いて分散させればよい。分散の効率を上げるために材料に影響を与えない範囲で加温してもよい。
【0091】
<4.電極>
本発明の電極は、前述の「3.電極材料」の欄で説明した本発明の電極材料を集電体上に塗布・乾燥することにより作製される。本発明の電極材料の詳細については、前述の通りであり、即ち、本発明の水系バインダー組成物を用いて作製される。
【0092】
本発明の電極については、公知の集電体を用いることができる。具体的には、正極としては、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン等の金属が使用される。負極としては、銅、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン、アルミニウム等の金属が使用される。
【0093】
電極の作製方法は、特に限定されず一般的な方法が用いられる。電池材料をドクターブレード法やアプリケーター法、シルクスクリーン法などにより集電体(金属電極基板)表面上に適切な厚さに均一に塗布することより行われる。
【0094】
例えばドクターブレード法では、電極用スラリーを金属電極基板に塗布した後、所定のスリット幅を有するブレードにより適切な厚さに均一化する。電極は活物質塗布後、余分な有機溶剤及び水を除去するため、例えば、100℃の熱風や80℃真空状態で乾燥する。乾燥後の電極はプレス装置によってプレス成型することで電極材が製造される。プレス後に再度熱処理を施して水、溶剤、乳化剤等を除去してもよい。
【0095】
<5.蓄電デバイス>
本発明の蓄電デバイスは、前述の「4.電極」の欄で説明した正極と、負極と、電解液とを備えることを特徴としている。本発明の電極の詳細については、前述の通りである。尚、本発明の蓄電デバイスについては、正極と、負極の少なくとも一方に、本発明の重合体を含んだ電極材料を用いた電極を使用していればよく、本発明の重合体を含んだ電極材料を用いていない電極については、公知の電極を用いることができる。
【0096】
電解液としては、特に制限されず、公知の電解液を用いることができる。電解液の具体例としては、電解質と溶媒とを含む溶液が挙げられる。電解質及び溶媒は、それぞれ、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0097】
電解質としては、リチウム塩化合物を例示することができ、具体的には、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2,LiN(C2F5SO2)2,LiN[CF3SC(C2F5SO2)3]2などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0098】
リチウム塩化合物以外の電解質としては、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルモノメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート等が挙げられる
【0099】
電解液に用いる溶媒としては、有機溶剤、又は常温溶融塩を例示することができる。
【0100】
有機溶剤としては、非プロトン性有機溶剤を挙げることができ、具体的にはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、γ-ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、ジプロピルカーボネート、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、アニソール、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、ジエチルエーテルなどの直鎖エーテルを使用することができ、2種類以上混合して使用してもよい。
【0101】
常温溶融塩はイオン液体とも呼ばれており、イオンのみ(アニオン、カチオン)から構成される「塩」であり、特に液体化合物をイオン液体という。
【0102】
本発明での常温溶融塩とは、常温において少なくとも一部が液状を呈する塩をいい、常温とは電池が一般的に作動すると想定される温度範囲をいう。電池が通常作動すると想定される温度範囲とは、上限が120℃程度、場合によっては80℃程度であり、下限は-40℃程度、場合によっては-20℃程度である。
【0103】
常温溶融塩のカチオン種としては、ピリジン系、脂肪族アミン系、脂環族アミン系の4級アンモニウム有機物カチオンが知られている。4級アンモニウム有機物カチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウム、トリアルキルイミダゾリウム、などのイミダゾリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオンなどが挙げられる。特に、イミダゾリウムイオンが好ましい。
【0104】
なお、テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルプロピルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、トリエチルメチルアンモニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0105】
また、アルキルピリジニウムイオンとしては、N-メチルピリジウムイオン、N-エチルピリジニウムイオン、N-プロピルピリジニウムイオン、N-ブチルピリジニウムイオン、1-エチル-2メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-2,4ジメチルピリジニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0106】
イミダゾリウムイオンとしては、1,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3-トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0107】
常温溶融塩のアニオン種としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、AsF6
-、PF6
-などの無機酸イオン、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8-テトラシアノ-p-キノジメタンイオンなどの有機酸イオンなどが例示される。
【0108】
なお、常温溶融塩は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0109】
電解液には必要に応じて種々の添加剤を使用することができる。添加剤としては、難燃剤、不燃剤、正極表面処理剤、負極表面処理剤、過充電防止剤などが挙げられる。難燃剤、不燃剤としては、臭素化エポキシ化合物、ホスファゼン化合物、テトラブロムビスフェノールA、塩素化パラフィン等のハロゲン化物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸エステル、ポリリン酸塩、及びホウ酸亜鉛等が例示できる。正極表面処理剤としては、炭素や金属酸化物(MgОやZrO2等)の無機化合物やオルト-ターフェニル等の有機化合物等が例示できる。負極表面処理剤としては、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ポリエチレングリコールジメチルエーテル等が例示できる。過充電防止剤としては、ビフェニルや1-(p-トリル)アダマンタン等が例示できる。
【0110】
本発明の蓄電デバイスの製造方法は、特に限定されず、正極、負極、電解液、必要に応じて、セパレータなどを用いて、公知の方法にて製造される。例えば、コイン型の場合、正極、必要に応じてセパレータ、負極を外装缶に挿入する。これに電解液を入れ含浸する。その後、封口体とタブ溶接などで接合して、封口体を封入し、カシメることで蓄電デバイスが得られる。蓄電デバイスの形状は限定されないが、例としてはコイン型、円筒型、シート型などが挙げられる。
【0111】
セパレータは、正極と負極が直接接触して蓄電池内でショートすることを防止するものであり、公知の材料を用いることができる。セパレータとしては、具体的には、ポリオレフィンなどの多孔質高分子フィルム、紙等が挙げられる。多孔質高分子フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのフィルムが、電解液による影響が少ないため、好ましい。
【実施例】
【0112】
本発明を実施するための具体的な形態を以下に実施例を挙げて説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0113】
[作製した電極の特性評価]
作製した電極の結着性の評価は以下の通り行った。
評価結果を表2にまとめて示した。
<結着性試験>
(測定装置)
剥離強度試験機:ストログラフE3-L(東洋精機株式会社)
(結着性試験方法)
結着性試験は180°剥離試験にて行った。具体的には電極を幅2cm×長さ5cmに切り、テープ(粘着テープ:ニチバン製、幅1.8cm、長さ5cm)を貼り付け、電極の長さ方向の片端をストログラフE3-Lに固定した状態でテープを180°方向に試験速度50mm/min、荷重レンジ5Nで引き剥がした。試験は3回実施し、その加重平均値を求めた。評価結果を表2にまとめて示した。
【0114】
[作製した電池の特性評価]
作製したコイン電池の特性評価としては、容量維持率の測定を行った。評価結果を表2にまとめて示した。
<充放電効率の測定>
(測定装置)
充放電評価装置:TOSCAT-3100(東洋システム株式会社)
(測定方法)
容量維持率
作製したコイン電池を、0.1Cで定電流放電を行い、0Vまで放電した後に、0.05C定電圧放電を実施した。放電後、電池を10分間休止させた。次いで1Cでの定電流充電を実施し、1.5Vまで充電させた。上記のサイクルを1サイクルとし、30サイクル後の電池容量を0サイクルにおける電池容量で割り、100分率した値を評価した。評価結果を表2にまとめて示した。
【0115】
<平均粒子径の測定>
重合体の平均粒子径は以下の条件で測定した。
(測定装置)
動的光散乱を用いた粒度分布測定装置:ゼータサイザーナノ(スペクトリス株式会社)
(測定方法)
1.合成したエマルジョン溶液50μLをサンプリングする。
2.サンプリングしたエマルジョン溶液にイオン交換水700μLを3回添加して希釈する。
3.希釈液から液を2100μL抜き取る。
4.残った50μLのサンプルに700μLイオン交換水を添加・希釈して測定する。
【0116】
<凝集物の測定>
重合体の凝集物は以下のようにして測定した。
重合したエマルジョン溶液を150メッシュステンレス金網(関西金網株式会社製)で用いてろ過を行い、攪拌翼およびビーカーに付着している凝集物を掻き取る。その後、回収した凝集物をイオン交換水で洗浄し、24時間乾燥させ凝集物の質量を測定する。測定した凝集物量をエマルジョン収量で割り百分率した値を凝集物量(質量%)とし評価した。
【0117】
[実施合成例1]
ビーカーに、アクリル酸n-ブチル173.77g、m-フェノキシベンジルアクリレート(共栄社化学製:ライトアクリレートPOB-A)183.47g、アクリル酸4.73g、メタクリル酸3.31g、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油製:ブレンマーPE-90)12.57g、トリメチロールプロパントリメタクリレート(共栄社化学製:ライトエステルTMP)12.21g、乳化剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(ハイテノールNF-13 第一工業製薬社製)5.60g、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(ノイゲンEA-157第一工業製薬社製)2.40g、イオン交換水200gを加え、超音波ホモジナイザーを用いて、十分攪拌し乳液とした。重合用のセパラブルフラスコにイオン交換水を360g加え、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.48g、還元剤として(+)-L-アスコルビン酸0.48gを加え、攪拌機付き反応容器を窒素雰囲気下、55℃に加温し2時間かけて乳液を添加した。乳液の添加後、更に1時間重合し、その後冷却した。冷却後、28%アンモニア水溶液を用いて、重合液のpHを2.2から7.9に調整し、エマルジョン溶液であるバインダー組成物A(重合転化率97%以上、固形分濃度39.1質量%、凝集量:0.03質量%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.205μmであった。重合体における質量部(質量%)を表1に示す。
【0118】
[実施合成例2]
ビーカーに、アクリル酸n-ブチル169.57g、エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート(新中村化学製:A-LEN-10)188.70g、アクリル酸1.15g、メタクリル酸3.23g、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油製:ブレンマーPE-90)3.07g、トリメチロールプロパントリメタクリレート(共栄社化学製:ライトエステルTMP)2.98g、乳化剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(ハイテノールNF-13 第一工業製薬社製)5.60g、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(ノイゲンEA-157第一工業製薬社製)2.40g、イオン交換水200gを加え、超音波ホモジナイザーを用いて、十分攪拌し乳液とした。重合用のセパラブルフラスコにイオン交換水を360g加え、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.48g、還元剤として(+)-L-アスコルビン酸0.48gを加え、攪拌機付き反応容器を窒素雰囲気下、55℃に加温し2時間かけて乳液を添加した。乳液の添加後、更に1時間重合し、その後冷却した。冷却後、28%アンモニア水溶液を用いて、重合液のpHを2.1から8.0に調整し、エマルジョン溶液であるバインダー組成物B(重合転化率99%以上、固形分濃度40.1質量%、凝集量:0.01質量%以下)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.242μmであった。重合体における質量部(質量%)を表1に示す。
【0119】
[比較合成例1]
ビーカーに、アクリル酸n-ブチル207.31g、ベンジルアクリレート(共栄社化学製:ライトエステルBz)151.68g、アクリル酸5.64g、メタクリル酸15.81g、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油製:ブレンマーPE-90)14.99g、トリメチロールプロパントリメタクリレート(共栄社化学製:ライトエステルTMP)14.56g、乳化剤としてドデシル硫酸ナトリウム(花王製:エマール2FG)8.00g、イオン交換水200gを加え、超音波ホモジナイザーを用いて、十分攪拌し乳液とした。重合用のセパラブルフラスコにイオン交換水を360g加え、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.492g、還元剤として(+)-L-アスコルビン酸0.492gを加え、攪拌機付き反応容器を窒素雰囲気下、55℃に加温し2時間かけて乳液を添加した。乳液の添加後、更に1時間重合し、その後冷却した。冷却後、28%アンモニア水溶液を用いて、重合液のpHを2.2から7.9に調整し、エマルジョン溶液であるバインダー組成物C(重合転化率98%以上、固形分濃度39.5質量%、凝集量:0.01質量%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.241μmであった。重合体における質量部(質量%)を表1に示す。
【0120】
【0121】
<電極の作製例>
[電極の実施作製例1]
活物質としてグラファイト85質量部、シリコン系化合物としてSiOを10質量部に、導電助剤としてアセチレンブラック2質量部、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩2質量部、バインダー組成物の実施合成例1で得られたバインダー組成物Aをバインダー組成物A中の固形分として1質量部となるように加え、さらにスラリーの固形分濃度が68質量%となるように水を加えてプラネタリーミキサーを用いて十分に混合してスラリーを得た。
【0122】
得られたスラリーを厚さ10μmの銅集電体上にベーカー式アプリケーターを用いて塗布し、80℃で粗乾燥を行った後、ロールプレス機にてプレスを行い、110℃真空状態で10時間以上乾繰後、厚さ36μmの電極を作製した。結着性試験の評価結果を表2の実施例1に示す。
【0123】
[電極の実施作製例2]
活物質としてグラファイト85質量部、シリコン系化合物としてSiOを10質量部に、導電助剤としてアセチレンブラック2質量部、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩2質量部、バインダー組成物の実施合成例2で得られたバインダー組成物Bをバインダー組成物B中の固形分として1質量部となるように加え、さらにスラリーの固形分濃度が68質量%となるように水を加えてプラネタリーミキサーを用いて十分に混合してスラリーを得た以外は電極の実施例1と同様にして電極を作製し、得られた電極の厚みは38μmであった。結着性試験の評価結果を表2の実施例2に示す。
【0124】
[電極の比較作製例1]
活物質としてグラファイト85質量部、シリコン系化合物としてSiOを10質量部に、導電助剤としてアセチレンブラック2質量部、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩2質量部、バインダー組成物の比較合成例1で得られたバインダー組成物Cをバインダー組成物C中の固形分として1質量部となるように、さらにスラリーの固形分濃度が68質量%となるように水を加えてプラネタリーミキサーを用いて十分に混合してスラリーを得た以外は電極の実施例2と同様にして電極を作製し、得られた電極の厚みは41μmであった。結着性試験の評価結果を表2の比較例1に示す。
【0125】
[コイン電池の実施製造例1]
アルゴンガスで置換されたグローブボックス内において、金属リチウムを正極、セパレータとして18μmのポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン多孔質膜を1枚、更に実施作製例1で得た電極を負極として用い、電解液として1mol/Lの6フッ化リン酸リチウムのエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジエチルカーボネート(体積比30:50:20、キシダ化学社製)を十分に含浸させてかしめ、試験用2032型コイン電池を製造した。容量維持率の評価結果を表2の実施例1に示す。
【0126】
[コイン電池の実施製造例2]
電極の実施作製例2で得た負極を用いた以外は、コイン電池の実施製造例1と同様にしてコイン電池を作製した。容量維持率の評価結果を表2の実施例2に示す。
【0127】
[コイン電池の比較製造例1]
電極の比較作製例1で得た負極を用いた以外は、コイン電池の実施製造例1と同様にしてコイン電池を作製した。容量維持率の評価結果を表2の比較例1に示す。
【0128】
表2に実施例及び比較例の電極の物性評価結果および電池の特性評価を示す。
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の水系バインダー組成物は、電極に用いられた際に活物質に対して優れた結着性を備え、蓄電デバイスに用いた際には、サイクル特性に優れるために電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用途や家庭用電力貯蔵用の蓄電池等の蓄電デバイスにおいて、有用に用いられる。