(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】弾性クローラ及び弾性クローラ用の芯材
(51)【国際特許分類】
B62D 55/253 20060101AFI20230719BHJP
【FI】
B62D55/253 B
(21)【出願番号】P 2019193710
(22)【出願日】2019-10-24
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】松山 忍
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-2346(JP,A)
【文献】特開平11-171060(JP,A)
【文献】特開2000-159161(JP,A)
【文献】特開平8-198154(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0125119(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 55/253
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体からなる無端帯状のクローラ本体と、クローラ周方向に間隔を空けて前記クローラ本体に埋設された複数の芯材とを含む弾性クローラであって、
前記芯材は、クローラ幅方向の中心線からクローラ幅方向の両外側に延びる芯材本体と、
前記芯材本体に配されるクローラ幅方向の一方側の第1脱輪防止手段と、
前記芯材本体に配されるクローラ幅方向の他方側の第2脱輪防止手段とを含み、
前記第1脱輪防止手段は、前記芯材本体のクローラ周方向の一方側の第1側面から突出する1本の第1脱輪防止突部と、クローラ周方向の他方側の第2側面から突出する1本の第1脱輪防止突部とを含み、
前記第2脱輪防止手段は、前記第1側面から突出しかつクローラ幅方向に互いに隔たる一対の第2脱輪防止突部と、前記第2側面から突出しかつクローラ幅方向に互いに隔たる一対の第2脱輪防止突部とを含み、
クローラ周方向で隣り合う一方の前記芯材の前記第1脱輪防止突部は、他方の前記芯材の前記一対の第2脱輪防止突部間に挟まれて保持される、弾性クローラ。
【請求項2】
前記芯材よりもクローラ外周側で前記クローラ本体に埋設されかつ前記クローラ周方向に延びる抗張体をさらに含み、
前記抗張体は、前記第1脱輪防止突部及び前記一対の第2脱輪防止突部と、クローラ厚さ方向に重複する位置に配される、請求項1記載の弾性クローラ。
【請求項3】
前記一対の第2脱輪防止突部のうちの少なくとも一方の第2脱輪防止突部は、その先端側の突起幅が根元側の突起幅より大である、請求項1又は2記載の弾性クローラ。
【請求項4】
前記芯材は、前記中心線の両側に、前記芯材本体のクローラ内周面から突出する一対のガイド突起を含む、請求項1乃至3の何れか1項に記載の弾性クローラ。
【請求項5】
前記芯材本体は、前記一対のガイド突起よりも前記第1脱輪防止手段が配される側に配される第1翼部と、前記一対のガイド突起よりも前記第2脱輪防止手段が配される側に配される第2翼部とを含み、
前記第2翼部の前記一対のガイド突起からのクローラ幅方向の長さL2は、前記第1翼部の前記一対のガイド突起からのクローラ幅方向の長さL1よりも小である、請求項4記載の弾性クローラ。
【請求項6】
前記第2翼部の厚さt2は、前記第1翼部の厚さt1よりも小である、請求項5記載の弾性クローラ。
【請求項7】
前記第2翼部は、前記第1側面又は前記第2側面から突出し、転輪を支持するためのレール部を具え、
前記一対の第2脱輪防止突部は、前記レール部のクローラ幅方向の内端よりもクローラ幅方向の内側に配される、請求項5又は6に記載の弾性クローラ。
【請求項8】
前記第2脱輪防止突部は、前記一対のガイド突起のうちで、前記第2脱輪防止突部が配される側のガイド突起のクローラ幅方向内側面よりもクローラ幅方向の外側に配される、請求項4乃至7の何れか1項に記載の弾性クローラ。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかに記載の弾性クローラに用いられる、芯材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無端帯状の弾性クローラ及び弾性クローラ用の芯材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、弾性体からなる無端帯状のクローラ本体に、複数の芯材と抗張体とを埋設した弾性クローラが知られている。芯材は、クローラ幅方向の補強材として機能し、クローラ周方向に間隔を空けて配されている。また抗張体は、クローラ周方向の補強材として機能し、前記芯材よりもクローラ外周側を通ってクローラ周方向にのびる補強コードから構成されている。
【0003】
この種の弾性クローラでは、隣り合う芯材間で横ずれ(クローラ幅方向のずれ)が発生し易い。そして横ずれが原因し、芯材側のガイド突起から、車体側の転輪が外れて、脱輪を起こすという問題が生じる。
【0004】
下記の特許文献1には、
図8に概念的に示されるように、脱輪防止のために、芯材aに、そのクローラ周方向の一方側の側面s1から突出する一対の第1突起b、bと、他方側の側面s2から突出する一対の第2突起c、cとを設けたものが記載されている。この弾性クローラでは、クローラ周方向で隣り合う一方の芯材の第1突起b、bが、他方の芯材の第2突起c、c間に挟まれることで、芯材a、a間の横ずれが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
他方、弾性クローラの軽量化を図るために、
図9(a)に概念的に示されるように、2種類の芯材a1、a2をクローラ周方向に交互に千鳥状に配置することが望まれる。芯材a1では、クローラ幅方向の両側の翼部d、dのうちの一方側の翼部d1のみ短く、芯材a2では、両側の翼部d、dのうちの他方側の翼部d2のみ短い。
【0007】
このような、2種類の芯材a1、a2を用いた場合、翼部d1、d2が短いことにより、弾性クローラの軽量化を図ることが可能になる。
【0008】
しかしその反面、芯材の種類数が2種類に増えるため、芯材の製造コスト及び管理コストの増大を招く。また
図9(b)に概念的に示されるように、誤って、芯材a1のみ、或いは芯材a2のみを連続して配置してしまうという誤組みが発生する危険性がある。この誤組みは、芯材aによる補強効果を、クローラ幅方向の左右でアンバランスとし、弾性クローラの耐久性を著しく低下させるという問題を招く。
【0009】
そこで本発明者は、1種類の芯材a1(又は芯材a2)のみを用い、その芯材a1を、クローラ幅方向の左右を交互に反転しながら配置することを提案した。しかしこの場合にも、脱輪防止を行いながら誤組を防止しうる新たな脱輪防止構造が必要となる。
【0010】
本発明は、1種類の芯材を、そのクローラ幅方向の左右を交互に反転しながら配置することを前提とし、脱輪防止を行いながら誤組を防止しうる弾性クローラ及び弾性クローラ用の芯材を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、弾性体からなる無端帯状のクローラ本体と、クローラ周方向に間隔を空けて前記クローラ本体に埋設された複数の芯材とを含む弾性クローラであって、
前記芯材は、クローラ幅方向の中心線からクローラ幅方向の両外側に延びる芯材本体と、
前記芯材本体に配されるクローラ幅方向の一方側の第1脱輪防止手段と、
前記芯材本体に配されるクローラ幅方向の他方側の第2脱輪防止手段とを含み、
前記第1脱輪防止手段は、前記芯材本体のクローラ周方向の一方側の第1側面から突出する1本の第1脱輪防止突部と、クローラ周方向の他方側の第2側面から突出する1本の第1脱輪防止突部とを含み、
前記第2脱輪防止手段は、前記第1側面から突出しかつクローラ幅方向に互いに隔たる一対の第2脱輪防止突部と、前記第2側面から突出しかつクローラ幅方向に互いに隔たる一対の第2脱輪防止突部とを含み、
クローラ周方向で隣り合う一方の前記芯材の前記第1脱輪防止突部は、他方の前記芯材の前記一対の第2脱輪防止突部間に挟まれて保持される。
【0012】
本発明の弾性クローラにおいて、前記芯材よりもクローラ外周側で前記クローラ本体に埋設されかつ前記クローラ周方向に延びる抗張体をさらに含み、
前記抗張体は、前記第1脱輪防止突部及び前記一対の第2脱輪防止突部と、クローラ厚さ方向に重複する位置に配されるのが望ましい。
【0013】
本発明の弾性クローラにおいて、前記一対の第2脱輪防止突部のうちの少なくとも一方の第2脱輪防止突部は、その先端側の突起幅が根元側の突起幅より大であるのが望ましい。
【0014】
本発明の弾性クローラにおいて、前記芯材は、前記中心線の両側に、前記芯材本体のクローラ内周面から突出する一対のガイド突起を含むのが望ましい。
【0015】
本発明の弾性クローラにおいて、前記芯材本体は、前記一対のガイド突起よりも前記第1脱輪防止手段が配される側に配される第1翼部と、前記一対のガイド突起よりも前記第2脱輪防止手段が配される側に配される第2翼部とを含み、
前記第2翼部の前記一対のガイド突起からのクローラ幅方向の長さL2は、前記第1翼部の前記一対のガイド突起からのクローラ幅方向の長さL1よりも小であるのが望ましい。
【0016】
本発明の弾性クローラにおいて、前記第2翼部の厚さt2は、前記第1翼部の厚さt1よりも小であるのが望ましい。
【0017】
本発明の弾性クローラにおいて、前記第2翼部は、前記第1側面又は前記第2側面から突出し、転輪を支持するためのレール部を具え、
前記一対の第2脱輪防止突部は、前記レール部のクローラ幅方向の内端よりもクローラ幅方向の内側に配されるのが望ましい。
【0018】
本発明の弾性クローラにおいて、前記第2脱輪防止突部は、前記一対のガイド突起のうちで、前記第2脱輪防止突部が配される側のガイド突起のクローラ幅方向内側面よりもクローラ幅方向の外側に配されるのが望ましい。
【0019】
本発明は、上述の弾性クローラに用いられる、芯材であるのが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の弾性クローラにおいて、芯材の芯材本体は、クローラ幅方向の一方側の第1脱輪防止手段と、他方側の第2脱輪防止手段とを含む。前記第1脱輪防止手段は、前記芯材本体の第1側面から突出する1本の第1脱輪防止突部と第2側面から突出する1本の第1脱輪防止突部とを含む。前記第2脱輪防止手段は、前記第1側面から突出しかつクローラ幅方向に互いに隔たる一対の第2脱輪防止突部と、前記第2側面から突出しかつクローラ幅方向に互いに隔たる一対の第2脱輪防止突部とを含む。
【0021】
このような弾性クローラは、芯材を、そのクローラ幅方向の左右(一方側と他方側)を交互に反転しながら配置することで、クローラ周方向で隣り合う芯材間において、第1側面同士が互いに向き合い、かつ、第2側面同士が互いに向き合う。これにより、第1脱輪防止手段と第2脱輪防止手段とを対向させることができる。
【0022】
そしてこの対向状態において、クローラ周方向で隣り合う一方の芯材の第1脱輪防止突部は、他方の芯材の一対の第2脱輪防止突部間に挟まれて保持される。これにより、脱輪防止機能を発揮することができる。
【0023】
また芯材では、そのクローラ幅方向の左右を反転させないで配置した場合には、クローラ周方向で隣り合う芯材間において、第1脱輪防止手段同士(1本の第1脱輪防止突部同士)が対向し、かつ第2脱輪防止手段同士(一対の第2脱輪防止突部同士)が対向してしまう。ここで、第1脱輪防止手段同士は互いに係合できず、又第2脱輪防止手段同士は互いに係合できないため、誤組みを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の弾性クローラの一実施形態を示す部分斜視図である。
【
図2】クローラ本体を省略して弾性クローラを示す部分斜視図である。
【
図3】芯材をクローラ周方向の一方側から見た側面図である。
【
図4】芯材をクローラ内周側から見た平面図である。
【
図6】駆動輪に巻き掛けられた弾性クローラの側面模式図である。
【
図7】(a)は、第2脱輪防止突部の他の例を示す部分平面図、(b)は第2脱輪防止手段の他の例を示す部分平面図である。
【
図9】(a)、(b)は本発明が解決しようとする課題を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は、本実施形態の弾性クローラ1を示す斜視図である。
図1に示されるように、本実施形態の弾性クローラ1は、ゴム等の弾性体からなる無端帯状のクローラ本体2と、クローラ本体2に埋設される複数の芯材3と、クローラ本体2に埋設される抗張体4とを含む。
【0026】
本明細書において、クローラ周方向は、弾性クローラ1の回転方向であり、
図1の符号Xで示される方向に相当する。クローラ幅方向は、弾性クローラ1が車両に装着されるときの駆動輪の軸方向であり、
図1の符号Yで示される方向に相当する。クローラ厚さ方向は、クローラ周方向X及びクローラ幅方向Yに直交する方向であり、
図1の符号Zで示される方向に相当する。クローラ厚さ方向Zのうち、無端帯状の弾性クローラ1の内側はクローラ内周側Zi、外側はクローラ外周側Zoとされる。
【0027】
クローラ本体2は、クローラ外周側Zoの外周面2oとクローラ内周側Ziの内周面2iとを有する。外周面2oには、クローラ周方向Xに間隔を隔てて配列する複数本のラグ5が突設している。ラグ5は、例えばクローラ幅方向Yにのび、不整地走行時のトラクション性を高める。
【0028】
芯材3は、クローラ幅方向Yの補強材として機能し、クローラ周方向Xに間隔を隔てて配されている。芯材3は、前記弾性体よりも硬質の材料からなり、この硬質の材料として、例えば鋼、鋳鉄等の金属材料が好適に採用される。芯材3は、その全体が、クローラ本体2に埋設される必要はなく、その一部分、例えば、後述するガイド突起8及びレール部9がクローラ本体2から露出していても良い。
【0029】
図2は、クローラ本体2を省略して弾性クローラ1を示す部分斜視図である。
図2に示されるように、芯材3は、クローラ幅方向Yの中心線CLからクローラ幅方向Yの両外側に延びる芯材本体7と、この芯材本体7に配される第1脱輪防止手段11と、第2脱輪防止手段12とを含む。第1脱輪防止手段11は、中心線CLよりもクローラ幅方向Yの一方側に配され、また第2脱輪防止手段12は、中心線CLよりもクローラ幅方向Yの他方側に配される。
【0030】
芯材3は、そのクローラ幅方向Yの一方側と他方側とを交互に反転しながら、即ち、中心線CLに対して180°向きを違えて配される。これにより、クローラ周方向Xで隣り合う芯材3、3間において、第1脱輪防止手段11と第2脱輪防止手段12とが対向して配される。
【0031】
図3、4は、芯材3の側面図及び平面図である。
図3、4に示されるように、芯材3は、中心線CLの両側に、芯材本体7の内周面7ziから突出する一対のガイド突起8、8を具える。ガイド突起8、8間で、車体側の駆動輪、遊動輪などのクローラ幅方向Yの位置が規制され。またガイド突起8、8間には、例えばスプロケットである駆動輪D(
図6に示す)の歯溝部Daと噛み合って駆動力を伝えるための駆動部分10が形成される。
【0032】
芯材本体7は、一対のガイド突起8、8から、クローラ幅方向Yの外側に延びる第1翼部13Aと第2翼部13Bとを具える。第1翼部13Aは、第1脱輪防止手段11が配される側に設けられる。第2翼部13Bは、第2脱輪防止手段12が配される側に設けられる。
【0033】
第2翼部13Bの、一対のガイド突起8、8からのクローラ幅方向Yの長さL2は、第1翼部13Aの、一対のガイド突起8、8からのクローラ幅方向Yの長さL1よりも小である。厳密には、長さL1は、第1翼部13Aに近い側のガイド突起8Aの根元から、第1翼部13Aのクローラ幅方向Yの外側端部までの長さである。また、長さL2は、第2翼部13Bに近い側のガイド突起8Bにおける根元(付け根)から、第2翼部13Bのクローラ幅方向Yの外側端部までの長さである。
【0034】
抗張体4は、芯材3よりもクローラ外周側Zoに配される。抗張体4は、例えば、クローラ周方向Xに延びるコード層15を含む。本例のコード層15では、クローラ周方向Xに延びる複数の補強コード15aがクローラ幅方向Yに配列している。
【0035】
この抗張体4は、第1翼部13Aに対向して配置される第1抗張体4Aと、第2翼部13Bに対向して配置される第2抗張体4Bとを含む。第1翼部13Aは、第1抗張体4Aから抗張力を受けるように第1抗張体4Aに接近して配されるのが好ましい。これに対して、第2翼部13Bは、第2抗張体4Bから実質的に抗張力を受けないように第2抗張体4Bから離間して配されるのが好ましい。そのために、本例では、第2翼部13Bの厚さt2を、第1翼部13Aの厚さt1よりも小に設定されている。厳密には、厚さt1は、第1翼部13Aに設けるレール部9Aにおいて測定されるクローラ厚さ方向Zの厚さである。また厚さt2は、第2翼部13Bに設けるレール部9Bにおいて測定されるクローラ厚さ方向Zの厚さである。この厚さt1、t2は、本例では、第1翼部13A及び第2翼部13Bの最大厚さでもある。
【0036】
このような弾性クローラ1は、第2翼部13Bが抗張力を受けないので、弾性クローラ1に大きな外力が作用した場合にも、第2抗張体4Bのクローラ内周側Ziに位置する弾性体が収縮することで芯材3に作用する力を緩和することができる。このため、芯材3の折損や抗張体4(補強コード15a)の破断が発生しにくくなり、弾性クローラ1の耐久性を向上させることが可能になる。また、芯材3では、第2翼部13Bの長さL2が第1翼部13Aの長さL1よりも小である。そのため、弾性クローラ1を軽量化することができる。
【0037】
また芯材3は、第1翼部13Aが長いため、クローラ本体2との接触面積が大きい。そのため、弾性体との接着力を確保でき、弾性クローラ1の耐久性を向上させ得る。このため、本例の弾性クローラ1では、軽量化と耐久性とを両立させることができる。
【0038】
図6は、駆動輪Dに巻き掛けられた弾性クローラ1の側面模式図である。
図6では、クローラ本体2が省略されて描かれる。
図6に示されるように、弾性クローラ1が駆動輪Dに巻き掛けられたとき、第2翼部13Bのクローラ外周側Zoに位置する第2抗張体4Bは、第1翼部13Aのクローラ外周側Zoに位置する第1抗張体4Aよりも、クローラ内周側Ziに位置している。すなわち、駆動輪Dに巻き掛けられたとき、駆動輪Dの中心と第2翼部13Bのクローラ外周側Zoに位置する第2抗張体4Bとの距離L6は、駆動輪Dの中心と第1翼部13Aのクローラ外周側Zoに位置する第1抗張体4Aとの距離L5よりも小さい。
【0039】
距離L5と距離L6との差(L5-L6)は、駆動輪Dに巻き掛けられていないときの第2翼部13Bの外周面と第2抗張体4Bとの距離L4(
図3に示す)よりも小さいのが望ましい。この差(L5-L6)は、第2抗張体4Bのクローラ内周側Ziに位置する弾性体が収縮する量に相当する。このような弾性クローラ1は、駆動輪Dに巻き掛けられたときにも第2翼部が抗張力を受けないので、芯材3に作用する力をより緩和することができ。
【0040】
図3、4に示されるように、本例では、転輪(図示省略)を支持するために、第1翼部13Aにはレール部9Aが設けられ、第2翼部13Bにはレール部9Bが設けられる。レール部9Aは、芯材本体7の第1側面S1または第2側面S2の何れか一方から突出する。またレール部9Bは、第1側面S1または第2側面S2の他方から突出する。即ち、レール部9Aとレール部9Bは、クローラ周方向Xに互い違いに形成される。これにより、芯材3、3間での転輪の滑らかな乗り継ぎを可能にする。レール部9Aの内周面は、第1翼部13Aの内周面と協働して、平滑な転輪通過面16を形成している。またレール部9Bの内周面も、第2翼部13Bの内周面と協働して、平滑な転輪通過面16を形成している。
【0041】
次に、第1脱輪防止手段11は、芯材本体7の第1側面S1から突出する1本の第1脱輪防止突部20と、第2側面S2から突出する1本の第1脱輪防止突部21とを含む。また、第2脱輪防止手段12は、第1側面S1から突出しかつクローラ幅方向Yに互いに隔たる一対の第2脱輪防止突部22A、22Bと、第2側面S2から突出しかつクローラ幅方向Yに互いに隔たる一対の第2脱輪防止突部23A、23Bとを含む。
【0042】
図5に示されるように、芯材3は、そのクローラ幅方向Yの一方側と他方側を交互に反転しながらクローラ周方向Xに配置される。即ち、クローラ周方向Xで隣り合う芯材3、3間において、第1側面S1、S1同士が互いに向き合い、かつ、第2側面S2、S2同士が互いに向き合う配置となる。これにより、隣り合う芯材3、3間において、第1脱輪防止手段11と第2脱輪防止手段12とを対向させることができる。
【0043】
この対向状態において、隣り合う一方の芯材3の第1脱輪防止突部20は、他方の芯材3の一対の第2脱輪防止突部22A、22B間に挟まれて保持される。同様に、隣り合う一方の芯材3の第1脱輪防止突部21は、他方の芯材3の一対の第2脱輪防止突部23A、23B間に挟まれて保持される。これにより、脱輪防止機能が発揮される。
【0044】
他方、反転させないで配置した場合には、隣り合う芯材3、3間において、第1脱輪防止手段11、11同士が対向し、かつ第2脱輪防止手段12、12同士が対向するため、誤組みを防止することができる。
【0045】
また、長さL2が小な第2翼部13Bの側に、一対の第2脱輪防止突部22A、22B(23A、23B)が配される。そのため、芯材3の単体における左右の重量バランスを均等に近付けることができ、走行の円滑性を高めることも可能となる。
【0046】
図4に示されるように、第2脱輪防止手段12において、第2脱輪防止突部22Aの内向き面22Aiと、第2脱輪防止突部23Aの内向き面23Aiとは、同一面i2上に位置するのが好ましい。また、第2脱輪防止突部22Bの内向き面22Biと、第2脱輪防止突部23Bの内向き面23Biとは、同一面o2上に位置するのが好ましい。なお内向き面22Ai、22Biとは、第2脱輪防止突部22A、22Bが互いに向き合う側面であり、内向き面23Ai、23Biとは、第2脱輪防止突部23A、23Bが互いに向き合う側面である。
【0047】
また第1脱輪防止手段11において、第1脱輪防止突部20の外側面20oと、第1脱輪防止突部21の外側面21oとは、同一面o1上に位置するのが好ましい。また、第1脱輪防止突部20の内側面20iと、第1脱輪防止突部21の内側面21iとは、同一面i1上に位置するのが好ましい。なお外側面20o、21oとは第1脱輪防止突部20、21のクローラ幅方向Yの外側の側面であり、内側面20i、21iとは第1脱輪防止突部20、21のクローラ幅方向Yの内側の側面である。
【0048】
本例では、第1脱輪防止突部20と第1脱輪防止突部21とが、クローラ周方向Xの幅中心線Jに対して線対称に形成される。また一対の第2脱輪防止突部22A、22Bと一対の第2脱輪防止突部23A、23Bとが、幅中心線Jに対して線対称に形成される場合が示される。
【0049】
図3に示されるように、本例では、第1脱輪防止突部20(21)、及び一対の第2脱輪防止突部22A、22B(23A、23B)は、抗張体4(補強コード15a)とクローラ厚さ方向Zに重複する位置に配されている。言い換えると、第1脱輪防止突部20(21)及び一対の第2脱輪防止突部22A、22B(23A、23B)は、抗張体4とクローラ厚さ方向Zに重複する重複領域Gを具える。なお重複領域Gは、抗張体4の一部と重複する場合を含む。
【0050】
ここで、弾性クローラ1において芯材3、3間に屈曲や捻れ等が生じたとき、抗張体4が非伸張であるため、この抗張体4に近いほど変形による変位は小さくなる。即ち、重複領域Gを具える場合、第1脱輪防止突部20(21)及び一対の第2脱輪防止突部22A、22B(23A、23B)が、芯材3、3間の屈曲や捻れ等に合わせて動く範囲が小さくなる。そのため、第1脱輪防止突部20(21)と一対の第2脱輪防止突部22A、22B(23A、23B)との間の外れが発生し難く、また弾性体切れに有利となる。
【0051】
本例では、一対の第2脱輪防止突部22A、22B(23A、23B)は、レール部9Bのクローラ幅方向Yの内端9Beよりもクローラ幅方向の内側に距離gaを隔てて配されるのが好ましい。これにより、外側の第2脱輪防止突部22B(23B)に対する弾性体の付着量を確保することができ、クローラ本体2の内周面2i側での弾性体切れに有利となる。
【0052】
第2脱輪防止突部22A、22B(23A、23B)は、ガイド突起8Bのクローラ幅方向Yの内側面8Beよりもクローラ幅方向Yの外側に距離gbを隔てて配されるのが好ましい。距離gbは、厳密には、内側面8Beの根元からの距離である。これにより、内側の第2脱輪防止突部22A(23A)に対する弾性体の付着量を確保することができ、クローラ本体2の内周面2i側での弾性体切れに有利となる。
【0053】
図7(a)に示されるように、一対の第2脱輪防止突部22A、22B(23A、23B)のうちの少なくとも一方の第2脱輪防止突部は、その先端側の突起幅Waが根元側の突起幅Wbより大であるのが好ましい。本例では、外側の第2脱輪防止突部22B(23B)において、先端側の突起幅Waを、根元側の突起幅Wbより大としている。これにより第2脱輪防止突部22B(23B)の先端側での接地面積を増やすことで、面圧を下げることができる。その結果、屈曲時の弾性体切れに有利となる。
【0054】
図7(b)に第2脱輪防止手段12の他の例が示される。図において、第2脱輪防止手段12は、第1側面S1及び第2側面から突出する基部30の先端側が二股状に分割されている。そして、この二股部分が一対の第2脱輪防止突部22A、22B(23A、23B)を形成している。
【0055】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0056】
本発明の効果を確認するために、
図1~4に示す構造を有する弾性クローラが、表1の仕様に基づいて試作された。そして各試供品に対し、誤組防止性、耐脱輪性能、異物噛み込み時の耐久性、屈曲によるゴム切れ性についてテストした。
【0057】
表1の仕様に記載以外、各弾性クローラともに実質的に同構成である。抗張体として、スチールコードが使用されている。
【0058】
<誤組防止性>
弾性クローラを製造する際の、芯材の誤組の発生状況を比較した。評価は、比較例1を100とする指数で表示し、数値が大きい方が優れている。
【0059】
<耐脱輪性能>
路面上に配した所定の高さの突起部を乗り上げた状態にて旋回させ、芯材の横ずれの程度を比較した。評価は、比較例1を100とする指数で表示し、数値が大きい方が優れている。
【0060】
<異物噛み込み時の耐久性>
所定形状の金属を、駆動輪であるスプロケットと芯材との間に噛み合わせ、急発進をしたときの、スチールコードの破断や芯材の折損の発生状況を比較した。評価は、比較例1を100とする指数で表示し、数値が大きい方が優れている。
【0061】
<屈曲によるゴム切れ>
トレッドミル試験を用い、各弾性クローラを一定期間走行させたときの脱輪防止突部付近のゴムの折損状況を比較した。評価は、比較例1を100とする指数で表示し、数値が大きい方が優れている。
【0062】
【0063】
表に示されるように、実施例は、脱輪防止高めながら誤組を防止しうるのが確認できる。
【符号の説明】
【0064】
1 弾性クローラ
2 クローラ本体
3 芯材
4 抗張体
7 材本体
8、8A、8B ガイド突起
9、9A、9B レール部
11 第1脱輪防止手段
12 第2脱輪防止手段
13A 第1翼部
13B 第2翼部
20 第1脱輪防止突部
21 第1脱輪防止突部
22A、22B 一対の第2脱輪防止突部
23A、23B 一対の第2脱輪防止突部
CL 中心線
S1 第1側面
S2 第2側面
Wa、Wb 突起幅
X クローラ周方向
Y クローラ幅方向