(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】受光素子とその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20230719BHJP
【FI】
H01L31/10 A
(21)【出願番号】P 2019204929
(22)【出願日】2019-11-12
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】副島 成雅
(72)【発明者】
【氏名】樹神 雅人
(72)【発明者】
【氏名】石井 栄子
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-339093(JP,A)
【文献】特開平08-056011(JP,A)
【文献】特開2001-345436(JP,A)
【文献】特開2018-078193(JP,A)
【文献】特開2016-111363(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0340538(US,A1)
【文献】米国特許第09191225(US,B2)
【文献】中国特許出願公開第105405916(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/08-31/119
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N型ジャンクションバリア領域とP型領域が表面に形成されているシリコン基板であって、前記P型領域は前記N型ジャンクションバリア領域を間に置いて面内方向の少なくとも一方向に対向するように配置されている、シリコン基板と、
前記シリコン基板の前記表面上に設けられており、前記N型ジャンクションバリア領域と前記P型領域の各々に接しているゲルマニウム層と、
前記N型ジャンクションバリア領域に電気的に接続されているカソード電極と、
前記P型領域に電気的に接続されているアノード電極と、
を備えて
おり、
前記P型領域は、前記N型ジャンクションバリア領域の周囲を取り囲むように配置されている、受光素子。
【請求項2】
前記N型ジャンクションバリア領域は、前記カソード電極と前記アノード電極の間に逆バイアスを印加したときに、前記P型領域が対向する前記一方向において、一方の側の前記P型領域から伸びてくる空乏層と他方の側の前記P型領域から伸びてくる空乏層が繋がる幅を有している、請求項
1に記載の受光素子。
【請求項3】
前記N型ジャンクションバリア領域は、前記カソード電極と前記アノード電極の間にバイアスを印加していないときに、前記P型領域が対向する前記一方向において、一方の側の前記P型領域から伸びてくる空乏層と他方の側の前記P型領域から伸びてくる空乏層が繋がる幅を有している、請求項
2に記載の受光素子。
【請求項4】
N型ジャンクションバリア領域とP型領域が表面に形成されているシリコン基板を準備する工程であって、前記P型領域は前記N型ジャンクションバリア領域を間に置いて面内方向の少なくとも一方向に対向して配置されている、シリコン基板を準備する工程と、
前記シリコン基板の表面上に絶縁層を成膜する第1成膜工程であって、前記絶縁層には前記N型ジャンクションバリア領域と前記P型領域が露出する開口部が形成されている、第1成膜工程と、
前記開口部を埋め込むように非晶質ゲルマニウム層を成膜する第2成膜工程と、
アニール処理を実施することにより、前記シリコン基板を種結晶とした固相結晶成長により、前記シリコン基板の前記表面に接する部分の前記非晶質ゲルマニウム層を単結晶化する工程と、
を備えている、受光素子の製造方法。
【請求項5】
前記アニール処理は、350℃~450℃の範囲内で実施される、請求項
4に記載の受光素子の製造方法。
【請求項6】
N型ジャンクションバリア領域とP型領域が表面に形成されているシリコン基板であって、前記P型領域は前記N型ジャンクションバリア領域を間に置いて面内方向の少なくとも一方向に対向するように配置されている、シリコン基板と、
前記シリコン基板の前記表面上に設けられており、前記N型ジャンクションバリア領域と前記P型領域の各々に接しているゲルマニウム層と、
前記N型ジャンクションバリア領域に電気的に接続されているカソード電極と、
前記P型領域に電気的に接続されているアノード電極と、
を備えており、
前記N型ジャンクションバリア領域は、前記カソード電極と前記アノード電極の間に逆バイアスを印加したときに、前記P型領域が対向する前記一方向において、一方の側の前記P型領域から伸びてくる空乏層と他方の側の前記P型領域から伸びてくる空乏層が繋がる幅を有している、受光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、受光素子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、シリコン基板の表面上に受光層としてゲルマニウム層を結晶成長させたヘテロ接合フォトダイオード型の受光素子を開示する。ゲルマニウム層は、シリコン基板の表面に形成されているN型領域とP型領域の各々に接している。カソード電極がN型領域に電気的に接続しており、アノード電極がP型領域に電気的に接続している。
【0003】
この受光素子は、カソード電極とアノード電極の間において、N型領域とゲルマニウム層とP型領域が直列に接続された構成を有している。ゲルマニウムは、不純物を添加していなくても格子欠陥がアクセプタとして働くため、P型半導体となる。したがって、この受光素子では、ゲルマニウム層とN型領域によってヘテロPN接合が構成されている。
【0004】
カソード電極とアノード電極の間に逆バイアスを印加すると、ゲルマニウム層とN型領域のヘテロPN接合近傍に空乏層が広がる。この状態でゲルマニウムのバンドギャップよりも大きなエネルギーを持つ光が照射されると、空乏層内で電子・正孔対が生成され、電子はN型領域を介してカソード電極に流れ、正孔はゲルマニウム層とP型領域を介してアノード電極に流れ、カソード電極とアノード電極の間に光電流が流れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ゲルマニウムのバンドギャップは約0.67eVと小さい。約0.67eVのバンドギャップは、波長に換算すると約1850nmに相当する。このため、ゲルマニウム層を受光層とする受光素子は、約1850nmの赤外光まで検知することができる。このように、ゲルマニウム層を受光層とする受光素子は、シリコンを受光層とする受光素子に比して、長波長の赤外光を検出することができる。一方、ゲルマニウムのバンドギャップが小さいことから、ゲルマニウム層を受光層とする受光素子では、暗状態のリーク電流が大きいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示する受光素子は、シリコン基板と、ゲルマニウム層と、カソード電極と、アノード電極と、を備えることができる。前記シリコン基板の表面には、N型ジャンクションバリア領域とP型領域が形成されている。前記P型領域は、前記N型ジャンクションバリア領域を間に置いて面内方向の少なくとも一方向に対向するように配置されている。前記ゲルマニウム層は、前記シリコン基板の前記表面上に設けられており、前記N型ジャンクションバリア領域と前記P型領域の各々に接している。前記カソード電極は、前記N型ジャンクションバリア領域に電気的に接続されている。前記アノード電極は、前記P型領域に電気的に接続されている。この受光素子では、前記N型ジャンクションバリア領域が前記P型領域によって挟まれるように構成されている。このため、前記P型領域が対向する前記一方向において、一方の側と他方の側の各々の前記P型領域から前記N型ジャンクションバリア領域に空乏層が伸びてくる。これにより、前記N型ジャンクションバリア領域が良好に空乏化され、暗状態のリーク電流が抑えられる。
【0008】
上記受光素子では、前記P型領域が、前記N型ジャンクションバリア領域の周囲を取り囲むように配置されていてもよい。このような形態であると、前記N型ジャンクションバリア領域の周囲の全方向から前記N型ジャンクションバリア領域に空乏層が伸びてくるので、前記N型ジャンクションバリア領域が良好に空乏化され、暗状態のリーク電流が抑えられる。
【0009】
上記受光素子では、前記N型ジャンクションバリア領域が、前記カソード電極と前記アノード電極の間に逆バイアスを印加したときに、前記P型領域が対向する前記一方向において、一方の側の前記P型領域から伸びてくる空乏層と他方の側の前記P型領域から伸びてくる空乏層が繋がる幅を有していてもよい。この受光素子では、前記N型ジャンクションバリア領域の幅が狭く形成されているので、前記N型ジャンクションバリア領域が良好に空乏化され、暗状態のリーク電流が抑えられる。
【0010】
上記受光素子では、前記N型ジャンクションバリア領域が、前記カソード電極と前記アノード電極の間にバイアスを印加していないときに、前記P型領域が対向する前記一方向において、一方の側の前記P型領域から伸びてくる空乏層と他方の側の前記P型領域から伸びてくる空乏層が繋がる幅を有していてもよい。この受光素子では、前記N型ジャンクションバリア領域の幅が極めて狭く形成されているので、前記N型領域が良好に空乏化され、暗状態のリーク電流が抑えられる。
【0011】
また、本明細書が開示する受光素子の製造方法は、シリコン基板を準備する工程と、第1成膜工程と、第2成膜工程と、単結晶化する工程と、を備えることができる。前記シリコン基板を準備する工程は、N型ジャンクションバリア領域とP型領域が表面に形成されているシリコン基板を準備する工程であって、前記P型領域は前記N型ジャンクションバリア領域を間に置いて面内方向の少なくとも一方向に対向して配置されている。前記第1成膜工程は、前記シリコン基板の表面上に絶縁層を成膜する工程であって、前記絶縁層には前記N型領域と前記P型領域が露出する開口部が形成されている。前記第2成膜工程は、前記開口部を埋め込むように非晶質ゲルマニウム層を成膜する。前記単結晶化する工程は、アニール処理を実施することにより、前記シリコン基板を種結晶とした固相結晶成長により、前記シリコン基板の前記表面に接する部分の前記非晶質ゲルマニウム層を単結晶化する。
【0012】
前記アニール処理は、350℃~450℃の範囲内で実施されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態の受光素子であって、(A)受光素子の要部平面図であり、(B)受光素子の要部断面図であって(A)のB-B線に対応した要部断面図である。
【
図2】本実施形態の受光素子の製造工程を説明する図である。
【
図3】本実施形態の受光素子の製造工程を説明する図である。
【
図4】本願明細書に開示する技術の効果を検証するための構造であって、(I)比較例の構造の要部断面図であり、(II)本実施例の構造の要部断面図であり、(III)比較例の構造の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示されるように、受光素子1は、ヘテロ接合フォトダイオードと称される種類の受光素子であり、シリコン基板10、第1絶縁層20、第2絶縁層25、ゲルマニウム層30、アノード電極40及びカソード電極50を備えている。シリコン基板10は、P型領域11、N型ジャンクションバリア領域12、N型コンタクト領域13及びN型層14を有している。
図1(A)の平面図では、P型領域11とN型コンタクト領域13の輪郭を破線で示し、N型ジャンクションバリア領域12の範囲をグレーで示している。
【0015】
シリコン基板10は、N型のシリコン単結晶基板である。N型の不純物はリンであり、その濃度は1×1017cm-2以下である。P型領域11とN型ジャンクションバリア領域12とN型コンタクト領域13は、シリコン基板10の表面に露出する位置に配置されている。N型ジャンクションバリア領域12とN型層14は、シリコン基板10の表面にP型領域11とN型コンタクト領域13を形成した残部であり、シリコン基板10と同一の不純物濃度である。なお、N型ジャンクションバリア領域12は、シリコン基板10の面内方向(シリコン基板10の表面に平行な方向であり、この例ではXY平面に平行な方向である)において、P型領域11によって囲まれた範囲として画定される領域である。
【0016】
P型領域11は、N型層14上に設けられており、シリコン基板10を垂直上方(+Z方向)から見たときに、N型ジャンクションバリア領域12の周囲を取り囲むとともに、その取り囲む領域から一方の向き(-X方向)に向けて延びるように配置されている。また、P型領域11は、シリコン基板10の面内方向においてN型ジャンクションバリア領域12隣接している。P型領域11は、イオン注入技術を利用してシリコン基板10の表面にP型不純物(例えはボロン)を導入して形成された領域であり、その濃度は1×1018cm-2以上である。
【0017】
N型ジャンクションバリア領域12は、N型層14上に設けられており、垂直上方から見たときに、円形状の形態を有している。この例に代えて、N型ジャンクションバリア領域12は、垂直上方から見たときに、楕円形状、多角形状又は適宜調整された様々な形状であってもよい。また、複数のN型ジャンクションバリア領域12が設けられていてもよい。
【0018】
N型コンタクト領域13は、N型層14上に設けられており、シリコン基板10を垂直上方から見たときに、P型領域11から一方の向き(+X方向)に離れた位置に設けられている。N型コンタクト領域13は、イオン注入技術を利用してシリコン基板10の表面にN型不純物(例えはリン又はヒ素)を導入して形成された領域であり、その濃度は1×1018cm-2以上である。
【0019】
第1絶縁層20は、シリコン基板10の表面上に設けられており、その材料が酸化シリコンである。第2絶縁層25は、第1絶縁層20の表面上に設けられており、その材料が酸化シリコンである。第1絶縁層20には、受光層開口部21が形成されている。第1絶縁層20と第2絶縁層25の各々には、アノード電極開口部22とカソード電極開口部23が形成されている。アノード電極開口部22とカソード電極開口部23の各々は、第1絶縁層20と第2絶縁層25を連通するように形成されている。
【0020】
第1絶縁層20の受光層開口部21は、シリコン基板10を垂直上方から見たときに、N型ジャンクションバリア領域12を中心とした円形状であり、P型領域11がN型ジャンクションバリア領域12を取り囲む領域の範囲内に形成されている。これにより、受光層開口部21は、P型領域11の一部を露出させるとともに、N型ジャンクションバリア領域12も露出させるように形成されている。受光層開口部21には、ゲルマニウム層30が埋め込まれている。
【0021】
アノード電極開口部22は、シリコン基板10を垂直上方から見たときに、P型領域11がN型ジャンクションバリア領域12を取り囲む領域から延びるように形成されたP型領域11の範囲内に形成されており、P型領域11の一部を露出させるように形成されている。アノード電極開口部22には、アノード電極40が埋め込まれている。このように、アノード電極40は、第2絶縁層25の表面上にコンタクト部を提供するとともに、アノード電極開口部22を介してP型領域11と電気的に接続している。アノード電極40はアルミニウム(Al)であり、P型領域11とオーミック接触している。アノード電極40は、シリコン基板10を垂直上方から見たときに、ゲルマニウム層30と重複しないように配置されている。
【0022】
カソード電極開口部23は、シリコン基板10を垂直上方から見たときに、N型コンタクト領域13が形成されている範囲内に形成されており、N型コンタクト領域13の一部を露出させるように形成されている。カソード電極開口部23には、カソード電極50が埋め込まれている。このように、カソード電極50は、第2絶縁層25の表面上にコンタクト部を提供するとともに、カソード電極開口部23を介してN型コンタクト領域13と電気的に接続している。カソード電極50はアルミニウム(Al)であり、N型コンタクト領域13とオーミック接触している。カソード電極50は、シリコン基板10を垂直上方から見たときに、ゲルマニウム層30と重複しないように配置されている。
【0023】
ゲルマニウム層30は、受光層開口部21に埋め込まれるように設けられているとともに、その表面が第2絶縁層25によって覆われている。ゲルマニウム層30は、第1絶縁層20及び第2絶縁層25によってアノード電極40とカソード電極50の各々から隔てられている。ゲルマニウム層30は、シリコン基板10を垂直上方から見たときに、N型ジャンクションバリア領域12を中心とした円形状である。
【0024】
ゲルマニウム層30は、意図的に不純物が導入されていない真性半導体である。しかしながら、ゲルマニウムは、不純物が添加されていなくても格子欠陥がアクセプタとして働く。後述するように、ゲルマニウム層30はシリコン基板10を種結晶とした固相結晶成長により形成されることから、シリコンとゲルマニウムの格子不整合に起因して、ゲルマニウム層30の欠陥密度は高い。このため、ゲルマニウム層30は、ホール密度が1017cm-3後半から1018cm-3台の、高濃度のP型半導体として機能する。
【0025】
ゲルマニウム層30は、受光層開口部21の底部において、P型領域11とN型ジャンクションバリア領域12の双方に接触している。上記したように、ゲルマニウム層30はP型半導体として機能していることから、ゲルマニウム層30とP型領域11はオーミック接触しており、ゲルマニウム層30とN型ジャンクションバリア領域12はヘテロPN接合を構成している。ゲルマニウム層30は、少なくともN型ジャンクションバリア領域12と接する部分において、単結晶である。なお、N型ジャンクションバリア領域12と接する部分から離れた領域のゲルマニウム層30は、多結晶であってもよい。
【0026】
ゲルマニウム層30の膜厚T1は、厚いほど受光効率が高くなるが、素子を作成する際の段差が大きくなり配線の段切れ問題を起こしやすくなる。従って、受光効率と配線の信頼性とのバランスを考慮して、膜厚T1を定めればよい。本実施形態では、膜厚T1は1μm程度である。
【0027】
このように、受光素子1は、アノード電極40とカソード電極50の間において、P型領域11とゲルマニウム層30とN型ジャンクションバリア領域12とN型層14とN型コンタクト領域13が直列に接続されたヘテロ接合型フォトダイオードとして構成されている。
【0028】
(受光素子1の受光時の動作)
受光素子1は、アノード電極40とカソード電極50の間に逆バイアスを印加した状態で使用される。具体的には、受光素子1は、アノード電極40に0~-50V(例えば-1V)を印加し、カソード電極50に0Vを印加した状態で使用される。アノード電極40とカソード電極50の間に逆バイアスが印加されると、ゲルマニウム層30とN型ジャンクションバリア領域12のヘテロPN接合近傍に空乏層が広がる。この状態でゲルマニウム層30の上面にアイセーフ帯光(例:1550nm、エネルギー:0.8eV)が入射されると、光がゲルマニウム層30で吸収され、空乏層内で電子と正孔が発生する。なお、このようなアイセーフ帯光は、シリコン基板10では吸収されず、ゲルマニウム層30で選択的に吸収される。N型ジャンクションバリア領域12とゲルマニウム層30のヘテロPN接合近傍の空乏層の内部電界により、正孔はゲルマニウム層30とP型領域11を介してアノード電極40に流れ、電子はN型ジャンクションバリア領域12とN型層14とN型コンタクト領域13を介してカソード電極50に流れる。このように、受光素子1では、入射したアイセーフ帯光量に応じた光電流がアノード電極40とカソード電極50の間を流れる。
【0029】
(受光素子1の製造方法)
次に、
図2及び
図3を参照し、受光素子1を製造する方法を説明する。まず、
図2に示されるように、P型領域11とN型ジャンクションバリア領域12とN型コンタクト領域13とN型層14が形成されたシリコン基板10を準備する。次に、シリコン基板10の表面上に、熱酸化等により、第1絶縁層20を成膜する。次に、受光層開口部21とアノード電極開口部22とカソード電極開口部23に対応する領域が開口しているマスク(不図示)を形成し、異方性エッチングを行う。これにより、
図2に示すように、開口部21,22,23が形成された第1絶縁層20がシリコン基板10の表面上に成膜される。
【0030】
次に、開口部21,22,23の各々の内部及び第1絶縁層20の表面上に、非晶質ゲルマニウム層30aを成膜する。この成膜工程には、例えば蒸着やスパッタなどを用いることができる。成膜時の基板温度は200℃以下が好ましい。200℃以上では多結晶ゲルマニウム層が成膜されてしまう場合があるためである。これにより、
図3に示す構造が形成される。
図3では、非晶質ゲルマニウム層30aをグレーで示している。
【0031】
次に、
図3の構造に対してアニール処理を実施する。アニール温度は400℃以上が好適であるが、高温であるほど非晶質ゲルマニウム層30a中に微結晶核が発生するため500℃以下が好ましい。本実施形態では、350℃~450℃の範囲内の温度を用いた。アニール雰囲気は、窒素などの非酸化雰囲気が好ましい。
【0032】
アニール処理を実施することにより、単結晶のシリコン基板10を種結晶として、固相結晶成長を行うことができる。固相結晶成長では、ゲルマニウムの結晶構造をシリコン基板10の結晶面にそろえることができるため、非晶質ゲルマニウム層30aを単結晶化することができる。固相結晶成長は、
図3の矢印Y1に示すように、非晶質ゲルマニウム層30aとシリコン基板10との界面(開口部21,22,23の各々の底部)を起点として、除々に進んでいく。また、開口部21,22,23の各々の底部から十分に離れている領域R1では、非晶質ゲルマニウム層30aが多結晶化する。これは、単結晶化の固相結晶成長(矢印Y1)が領域R1まで到達する前に、アニール処理中にランダムに発生する微結晶核を種結晶として、領域R1内で固相結晶成長が行われ多結晶化するためである。なお、アニール処理を所定時間以上行うことで、非晶質ゲルマニウム層30aの全体に対して、固相結晶成長を行うことができる。結晶化後のゲルマニウム層30では、開口部21,22,23の各々の底部の近傍領域は単結晶であり、領域R1は多結晶である。単結晶化する領域の広さは、アニール時間やアニール温度などの各種パラメータによって制御することができる。なお、ゲルマニウム層30の全体が単結晶化されてもよい。
【0033】
その後、
図1に示すように、受光層開口部21を中心とした円形状のマスクを形成し、ドライエッチングにより不要なゲルマニウム層を除去する。また、アノード電極40およびカソード電極50を形成する。これにより、
図1に示す受光素子1が完成する。
【0034】
(効果)
自律走行車やADAS(Advanced driver-assistance systems)では、周辺環境認識のために、赤外線カメラやLiDAR(Light Detection and Ranging)システムを用いる。これらのシステムでは、安全上、アイセーフ帯光(1300nm~1600nm光)を用いることが好ましい。しかしアイセーフ帯光は、シリコンのバンドギャップエネルギーよりも低いエネルギーの光であるため、ナローバンドギャップ半導体(例:ゲルマニウム)を用いて受光素子を作成する必要があった。受光素子はゲルマニウム基板等を用いて作成し、信号処理回路はシリコン基板を用いて作成すると、受光システムに複数チップを搭載する必要があるため、コスト増に繋がる。本実施形態の受光素子1は、シリコンプロセスにゲルマニウム膜を堆積する工程やアニールする工程を追加するだけで、ゲルマニウムの受光膜を形成できる。受光膜と信号処理回路を、Si基板にモノリシックに集積化することができる。アイセーフ帯光に対応した受光システムの製造コストを、削減することが可能となる。
【0035】
受光層としてゲルマニウム層が用いられる場合、ゲルマニウム結晶のバンドギャップが小さいので、暗状態のリーク電流が多くなってしまう。本実施形態の受光素子1は、垂直上方から見たときに、N型ジャンクションバリア領域12の面積が、ゲルマニウム層30の面積よりも小さい構造を備えている。リーク電流密度はN型ジャンクションバリア領域12とゲルマニウム層30のヘテロPN接合の面積に依存するため、ヘテロPN接合の面積を小さくすることにより、リーク電流を低減することができる。また、ゲルマニウム層30の面積をヘテロPN接合の面積に比して大きくすることで、感度の低下を抑制することができる。なお、ヘテロPN接合の面積の値は、リーク電流の許容値に応じて適宜定めることができる。また、ヘテロPN接合の面積に対するゲルマニウム層30の面積の比を大きくすることに従って感度が上昇するが、ある所定比を超えると感度の上昇は飽和する。従って、感度の飽和点を超えない程度に、面積比を高めればよい。
【0036】
また、本実施形態の受光素子1では、N型ジャンクションバリア領域12を取り囲むようにP型領域11が設けられている。この受光素子1では、アノード電極40とカソード電極50の間に逆バイアスを印加した使用状態において、P型領域11から伸びてくる空乏層によってN型ジャンクションバリア領域12が実質的に空乏化されるように構成されている。換言すると、N型ジャンクションバリア領域12の幅W1(
図1参照)が、アノード電極40とカソード電極50の間に逆バイアスを印加した使用状態において、P型領域11から伸びてくる空乏層によってN型ジャンクションバリア領域12が実質的に空乏化される大きさに設定されている。これにより、P型領域11が設けられていない場合に比してヘテロPN接合近傍の空乏層の厚みが大きくなり、この結果、ヘテロPN接合直下のN型ジャンクションバリア領域12の電位が低下し、暗状態のリーク電流が抑えられる。
【0037】
ここで、N型ジャンクションバリア領域12の幅W1について詳細する。本実施形態では、シリコン基板10を垂直上方から見たときに、N型ジャンクションバリア領域12が円形状であり、そのN型ジャンクションバリア領域12を取り囲むようにP型領域11が設けられている。このため、本実施形態では、N型ジャンクションバリア領域12の幅W1は、シリコン基板10を垂直上方から見たときに、円形状のN型ジャンクションバリア領域12の直径となる。N型ジャンクションバリア領域12の形状は、円形状に限られない。N型ジャンクションバリア領域12の広範囲に空乏層が広がるようにP型領域11が配置されていれば、N型ジャンクションバリア領域12に様々な形状を採用することができる。N型ジャンクションバリア領域12の広範囲に空乏層を広げるためには、P型領域11がN型ジャンクションバリア領域12を間に置いて面内方向の少なくとも一方向に対向するように配置されていればよい。これにより、N型ジャンクションバリア領域12の両側から空乏層が伸びてくることができ、N型ジャンクションバリア領域12の広範囲に空乏層が広がることができる。例えば、シリコン基板10を垂直上方から見たときに、長方形状のN型ジャンクションバリア領域の各々の長辺に接するようにP型領域11が配置されていてもよい。この場合、N型ジャンクションバリア領域12の幅は、N型ジャンクションバリア領域12の短手方向の幅、即ち、P型領域11が対向する方向の幅となる。このように、N型ジャンクションバリア領域12の幅W1は、P型領域11が対向する方向の幅として定義される。
【0038】
N型ジャンクションバリア領域12の幅W1は、アノード電極40とカソード電極50の間に逆バイアスを印加していない状態において、P型領域11から伸びてくる空乏層によってN型ジャンクションバリア領域12が実質的に空乏化される大きさに設定されていてもよい。この例では、N型ジャンクションバリア領域12の幅W1が極めて狭く構成されており、N型ジャンクションバリア領域12が良好に空乏化され、暗状態のリーク電流が抑えられる。
【0039】
本明細書に記載の技術では、シリコン基板10を種結晶とした固相結晶成長によりゲルマニウム層30を形成する。これにより、少なくともN型ジャンクションバリア領域12とゲルマニウム層30のヘテロPN接合近傍において、ゲルマニウム層30を単結晶にすることができる。多結晶でヘテロPN接合を形成する場合に比して、リーク電流を抑制できるため、受光素子1の特性を高めることができる。
【0040】
ゲルマニウム層30は、P型領域11を介してアノード電極40に電気的に接続されている。これにより、ゲルマニウム層30とアノード電極40とが直接に接触せずに、互いに離れている構造を実現することができる。よって、アノード電極40の製造プロセス中に、ゲルマニウム層30を保護膜等で保護することができる。アノード電極40の形成時に、各種の薬液等によってゲルマニウム層30にダメージが与えられてしまうことが防止できる。また、ゲルマニウム層30の上面がアノード電極40によって覆われてしまうことがない。ゲルマニウム層30の全面を受光層として機能させることができるため、感度を高めることが可能となる。
【実施例1】
【0041】
図4に示す構造体を用いて、本明細書が開示する技術の効果を検証した。なお、上記した実施形態と実質的に対応する構成要素に共通の符号を付し、その説明を省略する。構造Iは比較例であり、P型領域11及びN型ジャンクションバリア領域12が形成されていない例である。構造IIIも比較例であり、構造Iに比して、ゲルマニウム層30の幅及びヘテロPN接合の幅を広げた例である。構造IIは本実施形態に対応した実施例であり、P型領域11及びN型ジャンクションバリア領域12が形成されている例である。なお、構造Iと構造IIのヘテロPN接合の幅は1μmであり、構造IIと構造IIIのゲルマニウム層30の幅は12μmである。また、各半導体領域の不純物濃度は、上記した実施形態と同一である。
【0042】
表1に、各構造の暗状態と明状態のそれぞれで流れる電流、S/N比(暗状態の電流に対する明状態の電流の比)、電流比(構造Iの電流に対する各構造の電流の比)を示す。なお、逆バイアス電圧は-1Vであり、明状態で入射するアイセーフ帯光の波長が1550nmであり、光量が0.01W/cm2である。
【0043】
【0044】
暗状態の電流(リーク電流に相当する)については、構造IIIが最も大きい。ヘテロPN接合の面積が増加することにより、リーク電流が増加したと考えられる。一方、構造IIの暗状態の電流は、構造IIIよりも小さく、構造Iと略等しい。P型領域11及びN型ジャンクションバリア領域12が形成されたことにより、リーク電流が抑えられたと考えられる。
【0045】
明状態の電流については、構造III>構造II>構造Iの順である。構造IIの電流は、構造IIIよりも小さいものの、構造Iよりも十分に大きい。
【0046】
S/N比については、構造IIが最も大きくなる。また、電流比については、構造IIが構造Iに対して2.47倍となっており、受光感度が向上している。このように、本実施例の構造IIは、S/N比が高く、高感度な構造であることが確認された。
【0047】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0048】
1:受光素子 10:シリコン基板 11:P型領域 12:N型ジャンクションバリア領域 13:N型コンタクト領域 14:N型層 20、25:絶縁層 21:受光層開口部 30:ゲルマニウム層 40:アノード電極 50:カソード電極