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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】多孔体、およびそれを含む燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0232 20160101AFI20230719BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20230719BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20230719BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20230719BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20230719BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20230719BHJP
【FI】
H01M8/0232
C22C1/08 D
C22C19/03 Z
C22C19/05 Z
C22C19/07 Z
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020533325
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2019050559
(87)【国際公開番号】W WO2021130849
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沼田 昂真
(72)【発明者】
【氏名】真嶋 正利
(72)【発明者】
【氏名】小川 光靖
(72)【発明者】
【氏名】奥野 一樹
(72)【発明者】
【氏名】水原 奈保
(72)【発明者】
【氏名】神田 良子
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/132811(WO,A1)
【文献】特表2017-507452(JP,A)
【文献】特開平08-069799(JP,A)
【文献】国際公開第2019/244480(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/12
H01M 4/00
C25B 11/00
C22C 1/00
C22C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元網目状構造を有する骨格を備えた多孔体であって、
前記骨格の本体は、ニッケル-コバルト合金を含む結晶粒を含み、
前記ニッケル-コバルト合金におけるコバルトの質量割合は、ニッケルおよびコバルトの合計質量に対して、0.2以上0.8以下であり、
前記骨格の本体の断面を200倍の倍率で観察することにより第一観察像を得た場合、前記第一観察像において求められる前記結晶粒の粒子短径は2μm以上である、多孔体。
【請求項2】
前記第一観察像において求められる前記結晶粒の粒子長径は、8μm以上である、請求項1に記載の多孔体。
【請求項3】
前記骨格の本体の厚みは、5μm以上75μm以下である、請求項1または請求項2に記載の多孔体。
【請求項4】
前記骨格の本体は、ケイ素、カルシウム、カリウム、マグネシウム、炭素、スズ、アルミニウム、ナトリウム、鉄、タングステン、チタン、リン、ホウ素、銀、金、銅、亜鉛、クロム、モリブデン、窒素、硫黄、フッ素、及び塩素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を構成元素としてさらに含む、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の多孔体。
【請求項5】
前記骨格の本体は、酸素を構成元素としてさらに含む、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の多孔体。
【請求項6】
前記酸素は、前記骨格の本体において0.1質量%以上35質量%以下含まれる、請求項5に記載の多孔体。
【請求項7】
前記骨格の本体は、スピネル型酸化物を含む、請求項5または請求項6に記載の多孔体。
【請求項8】
前記骨格の本体は、その断面を3000倍の倍率で観察することにより第二観察像を得た場合、前記第二観察像の任意の10μm四方の領域において現われる長径1μm以上の空隙の数が5個以下である、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の多孔体。
【請求項9】
前記骨格は、中空である、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の多孔体。
【請求項10】
前記多孔体は、シート状の外観を有し、厚みが0.2mm以上2mm以下である、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の多孔体。
【請求項11】
空気極用集電体および水素極用集電体を備える燃料電池であって、
前記空気極用集電体および前記水素極用集電体からなる群より選ばれる少なくとも一方は、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の多孔体を含む、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多孔体、およびそれを含む燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から金属多孔体等の多孔体は、気孔率が高く、もって表面積が大きいことから、電池用電極、触媒担持体、金属複合材、フィルターなどの様々な用途に利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-154517号公報
【文献】特開2012-132083号公報
【文献】特開2012-149282号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る多孔体は、三次元網目状構造を有する骨格を備えた多孔体であって、
上記骨格の本体は、ニッケルとコバルトとを構成元素として含む結晶粒を含み、
上記コバルトの質量割合は、上記ニッケルおよび上記コバルトの合計質量に対して、0.2以上0.8以下であり、
上記骨格の本体の断面を200倍の倍率で観察することにより第一観察像を得た場合、上記第一観察像において求められる上記結晶粒の粒子短径は2μm以上である。
【0005】
本開示の一態様に係る燃料電池は、空気極用集電体および水素極用集電体を備える燃料電池であって、上記空気極用集電体および上記水素極用集電体からなる群より選ばれる少なくとも一方は、上記多孔体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、本開示の一態様に係る多孔体における骨格の部分断面の概略を示す概略部分断面図である。
図2図2は、骨格の長手方向に直交する断面を示す概略断面図である。
図3図3は、本実施形態の骨格本体の長手方向に直交する断面に基づいて作成されたカラーマップである。
図4図4は、図3のカラーマップにおいて、骨格本体に含まれる各結晶粒の輪郭を表した模式図である。
図5A図5Aは、本開示の一態様に係る多孔体の三次元網目状構造を説明するため、多孔体におけるセル部の1つに着目した拡大模式図である。
図5B図5Bは、セル部の形状の一態様を示す模式図である。
図6A図6Aは、セル部の形状の他の態様を示す模式図である。
図6B図6Bは、セル部の形状のさらに他の態様を示す模式図である。
図7図7は、接合した2つのセル部の態様を示す模式図である。
図8図8は、接合した4つのセル部の態様を示す模式図である。
図9図9は、複数のセル部が接合することによって形成された三次元網目状構造の一態様を示す模式図である。
図10図10は、本開示の一態様に係る燃料電池を示す模式断面図である。
図11図11は、本開示の一態様に係る燃料電池用セルを示す模式断面図である。
図12図12は、本開示の一態様に係る燃料電池を示す模式断面図である。
図13図13は、本開示の比較例に係る燃料電池を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
上記のような金属多孔体の製造方法としては、たとえば特開平11-154517号公報(特許文献1)において、発泡樹脂などに導電性を付与する処理を施した後、この発泡樹脂上に金属からなる電気めっき層を形成し、必要に応じて発泡樹脂を焼却し、除去することによって金属多孔体を製造する方法が開示されている。
【0008】
さらに特開2012-132083号公報(特許文献2)には、耐酸化性および耐食性の特性を備えた金属多孔体として、ニッケル-スズ合金を主成分とする骨格を有する金属多孔体が開示されている。特開2012-149282号公報(特許文献3)には、高い耐食性を備えた金属多孔体として、ニッケル-クロム合金を主成分とする骨格を有する金属多孔体が開示されている。
【0009】
このように金属多孔体等の多孔体は様々なものが知られているが、これを電池用電極の集電体、特に固体酸化物型燃料電池(SOFC)の電極の集電体(例えば、空気極用集電体、水素極用集電体)として用いる場合、多孔体の強度(例えば、展性、延性)を調整する等、更なる改善の余地がある。
【0010】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、燃料電池の空気極用集電体および水素極用集電体として適度な強度を有する多孔体、およびそれを含む燃料電池を提供することを目的とする。
【0011】
[本開示の効果]
上記によれば、燃料電池の空気極用集電体および水素極用集電体として適度な強度を有する多孔体、およびそれを含む燃料電池を提供することができる。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
[1]本開示の一態様に係る多孔体は、三次元網目状構造を有する骨格を備えた多孔体であって、
上記骨格の本体は、ニッケルとコバルトとを構成元素として含む結晶粒を含み、
上記コバルトの質量割合は、上記ニッケルおよび上記コバルトの合計質量に対して、0.2以上0.8以下であり、
上記骨格の本体の断面を200倍の倍率で観察することにより第一観察像を得た場合、上記第一観察像において求められる上記結晶粒の粒子短径は2μm以上である。このような特徴を有する多孔体は、燃料電池の空気極用集電体および水素極用集電体として適度な強度を有することができる。
【0013】
[2]上記第一観察像において求められる上記結晶粒の粒子長径は、8μm以上であることが好ましい。このような特徴を有する多孔体は、燃料電池の空気極用集電体および水素極用集電体として更に適度な強度を有することができる。
【0014】
[3]上記骨格の本体の厚みは、5μm以上75μm以下であることが好ましい。このような特徴を有する多孔体は、燃料電池の空気極用集電体および水素極用集電体として更に適度な強度を有することができる。
【0015】
[4]上記骨格の本体は、ケイ素、カルシウム、カリウム、マグネシウム、炭素、スズ、アルミニウム、ナトリウム、鉄、タングステン、チタン、リン、ホウ素、銀、金、銅、亜鉛、クロム、モリブデン、窒素、硫黄、フッ素、及び塩素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を構成元素としてさらに含んでいてもよい。このような特徴を有する多孔体は、更に適度な強度を有することができる。
【0016】
[5]上記骨格の本体は、酸素を構成元素としてさらに含むことが好ましい。この態様は、多孔体が使用により酸化された状態にあることを意味する。上記多孔体は、このような状態においても高温環境下で高い導電性を維持することができる。
【0017】
[6]上記酸素は、上記骨格の本体において0.1質量%以上35質量%以下含まれることが好ましい。この場合、高温環境下で高い導電性をより効果的に維持することができる。
【0018】
[7]上記骨格の本体は、スピネル型酸化物を含むことが好ましい。この場合も、高温環境下で高い導電性をより効果的に維持することができる。
【0019】
[8]上記骨格の本体は、その断面を3000倍の倍率で観察することにより第二観察像を得た場合、上記第二観察像の任意の10μm四方の領域において現われる長径1μm以上の空隙の数が5個以下であることが好ましい。これにより、強度を十分に向上させることができる。
【0020】
[9]上記骨格は、中空であることが好ましい。これにより、多孔体を軽量とすることができ、かつ必要な金属量を低減することができる。
【0021】
[10]上記多孔体は、シート状の外観を有し、厚みが0.2mm以上2mm以下であることが好ましい。これにより従来に比べ、厚みの薄い空気極用集電体および水素極用集電体を形成可能となり、もって必要な金属量を低減すること、及びコンパクトな燃料電池を製造することができる。
【0022】
[11]本開示の一態様に係る燃料電池は、空気極用集電体および水素極用集電体を備える燃料電池であって、上記空気極用集電体および上記水素極用集電体からなる群より選ばれる少なくとも一方は、上記多孔体を含む。このような特徴を有する燃料電池は、高温環境下で高い導電性を維持することができ、もって効率よく発電することができる。
【0023】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。本明細書において「A~Z」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上Z以下)を意味する。Aにおいて単位の記載がなく、Zにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とZの単位とは同じである。
【0024】
≪多孔体≫
本実施形態に係る多孔体は、三次元網目状構造を有する骨格を備えた多孔体である。上記骨格の本体は、ニッケルとコバルトとを構成元素として含む結晶粒を含む。上記コバルトの質量割合は、上記ニッケルおよび上記コバルトの合計質量に対して0.2以上0.8以下である。上記骨格の本体の断面を200倍の倍率で観察することにより第一観察像を得た場合、上記第一観察像において求められる上記結晶粒の粒子短径は2μm以上である。このような特徴を有する多孔体は、燃料電池の空気極用集電体および水素極用集電体として適度な強度を有することができる。ここで、本実施形態における「多孔体」としては、たとえば、金属からなる多孔体、金属の酸化物からなる多孔体、金属および金属の酸化物を含む多孔体が挙げられる。
【0025】
骨格の本体の結晶粒におけるニッケルおよびコバルトの合計質量に対するコバルトの質量割合が0.2以上である多孔体では、強度が高く、SOFCスタック化時に変形したとしても骨格に割れが起きにくい傾向がある。また、骨格の本体の結晶粒におけるニッケルおよびコバルトの合計質量に対するコバルトの質量割合が0.8以下である多孔体では、当該多孔体を空気極用集電体または水素極用集電体として燃料電池を製造しても、燃料電池の構成部材である固体電解質が割れにくい傾向がある。そのため、上記骨格の本体の結晶粒における上記ニッケルおよび上記コバルトの合計質量に対する上記コバルトの質量割合が0.2以上0.8以下であるとき、上記骨格を備える多孔体は燃料電池の空気極用集電体および水素極用集電体として適度な強度を有する。
【0026】
上記多孔体は、その外観がシート状、直方体状、球状および円柱状などの各種の形状を有することができる。なかでも多孔体は、シート状の外観を有し、厚みが0.2mm以上2mm以下であることが好ましい。多孔体の厚みは、0.5mm以上1mm以下であることがより好ましい。多孔体の厚みが2mm以下であることより、従来に比べ厚みの薄い多孔体となっており必要な金属量を低減すること、及びコンパクトな燃料電池を製造することができる。多孔体の厚みが0.2mm以上であることより必要な強度を備えることができる。上記厚みは、たとえば市販のデジタルシックネスゲージによって測定が可能である。
【0027】
<骨格>
多孔体は、上述のとおり三次元網目状構造を有する骨格を備える。骨格の本体は、ニッケルとコバルトとを構成元素として含む結晶粒を含む。上記コバルトの質量割合は、上記ニッケルおよび上記コバルトの合計質量に対して0.2以上0.8以下である。
【0028】
骨格は、図1に示すように、気孔部14を有する三次元網目状構造を有する。三次元網目状構造の詳細については、後述する。骨格12は、本体11(以下、「骨格本体11」と記載する場合がある。)、およびこの骨格本体11に囲まれた中空の内部13からなる。骨格本体11は、後述する支柱部およびノード部を形成している。このように骨格は、中空であることが好ましい。
【0029】
さらに骨格12は、図2に示すように、その長手方向に直交する断面の形状が三角形であることが好ましい。しかし骨格12の断面形状は、これに限定されるべきではない。骨格12の断面形状は、四角形、六角形などの三角形以外の多角形であってもよい。本実施形態において「三角形」とは、幾何学的な三角形のみならず、略三角形の形状(例えば、頂角が面取りされている形状、頂角にアールが付与されている形状等)も含む概念である。他の多角形についても同様である。
【0030】
すなわち骨格12は、骨格本体11に囲まれた内部13が中空の筒形状を有し、長手方向に直交する断面が三角形またはその他の多角形であることが好ましい。骨格12は、筒形状であるので骨格本体11において筒の内側面をなす内壁、および筒の外側面をなす外壁を有している。骨格12は、骨格本体11に囲まれた内部13が中空であることにより、多孔体を非常に軽量とすることができる。ただし骨格は、中空であることに限定されず、中実であってもよい。上記内部13が中実である場合、多孔体の強度を向上することができる。
【0031】
本実施形態において、上記骨格の本体の断面を200倍の倍率で観察することにより第一観察像を得た場合、上記第一観察像において求められる上記結晶粒の粒子短径は2μm以上であり、2μm以上15μm以下であることが好ましく、2μm以上10μm以下であることがより好ましい。ここで、「結晶粒の粒子短径」とは、後述する骨格本体の厚み方向における当該結晶粒の一方の界面から他方の界面までの距離を意味する。なお、上記粒子短径が骨格本体の厚みを超えることはない。
【0032】
骨格本体の断面の観察は、電子線後方散乱回折装置(EBSD装置)を備えた電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いることにより行うことができる。具体的には、まず測定対象の多孔体を、骨格本体の長手方向に対して垂直な骨格本体の断面が少なくとも1視野分得られるように切断する。その後、得られた断面を耐水研磨紙(研磨剤としてSiC砥粒研磨剤を含むもの)等で機械研磨する。
【0033】
次に、機械研磨した上記断面をArイオンによるイオンミーリング処理によりさらに平滑化する。イオンミーリング処理の条件は以下の通りである。
加速電圧:6kV
照射角度:骨格本体の上記断面の法線方向から0°
照射時間:6時間
観察面:断面加工面
【0034】
次に、上記の平滑化処理された断面(鏡面)を、EBSD装置(例えば、AMETEK社製、商品名:「OIM7.7.0」)を備えた電界放出型走査FE-SEM(例えば、ZEISS社製、製品名:「SUPRA35VP」)を用いて観察し、得られた第一観察像に対してEBSD解析を行う。このときのFE-SEMの観察倍率は200倍とする。
【0035】
またEBSD解析に関し、データは、集束電子ビームを各ピクセル上へ個別に位置させることによって順に収集する。サンプル面(平滑化処理された断面)の法線は、入射ビームに対して70°傾斜させ、解析は、15kVにて行なう。帯電効果を避けるために、10Paの圧力を印加する。開口径60μmまたは120μmと合わせて高電流モードを用いる。データ収集は、断面上、420μm×1250μmの面領域(観察領域)にて行なう。このときの測定視野数は、10視野以上であることが好ましく、15視野以上であることがより好ましい。ただし、上述の観察領域を選択するにあたり、一見して異常値を示す観察領域は除外する。
【0036】
上記EBSD解析結果を、市販のソフトウェア(商品名:「orientation Imaging microscopy Ver 6.2」、EDAX社製)を用いて分析し、上記第一観察像のカラーマップを作成する。具体的には、まず上記平滑処理された断面に含まれる各結晶粒の結晶方位を特定する。そして、特定された結晶方位に基づいてカラーマップを作成する。作成されたカラーマップにおいて、各結晶粒の粒界が判別可能となる。該カラーマップの作成には、上記ソフトウェアに含まれる「Cristal Direction MAP」の手法を用いることができる。
【0037】
図3は、本実施形態の骨格本体の断面に基づいて作成されたカラーマップである。図4は、図3のカラーマップにおいて、骨格本体に含まれる各結晶粒の輪郭(粒界を含む)を表した模式図である。
【0038】
そして本実施形態の上記結晶粒の粒子短径は、上記カラーマップにおいて、以下のようにして求める。まず、対象の結晶粒に着目して、上記骨格本体の厚み方向に対して垂直な方向における上記結晶粒の中点を定める。次に、上記結晶粒の中点を通りかつ上記骨格本体の厚み方向に平行な直線と、上記結晶粒における互いに向き合う2つの界面とが交差する二点間の距離を求める(例えば、図4のR1)。この方法で1視野につき少なくとも6個の結晶粒の粒子短径を求め、これらの算術平均値をその視野における粒子短径とする。このような方法によって、複数の視野分(例えば、10視野分)の上記粒子短径を求め、これらの算術平均値を当該多孔体における「結晶粒の粒子短径」とする。
【0039】
本実施形態において、上記第一観察像において求められる上記結晶粒の粒子長径は、8μm以上であることが好ましく、8μm以上20μm以下であることがより好ましく、8μm以上15μm以下であることが更に好ましい。ここで、「結晶粒の粒子長径」とは、後述する骨格本体の厚み方向に対して垂直な方向における当該結晶粒の一方の界面から他方の界面までの距離を意味する。上記粒子長径は上述のように定義されることから、結晶粒の形状によっては、粒子長径が粒子短径よりも短い場合があり得る。上記結晶粒の粒子長径は、上述のEBSD解析によって得られたカラーマップから求めることが可能である。すなわち、まず、対象の結晶粒に着目して、上記骨格本体の厚み方向における上記結晶粒の中点を定める。次に、上記結晶粒の中点を通りかつ上記骨格本体の厚み方向に垂直な直線と、上記結晶粒における互いに向き合う2つの界面とが交差する二点間の距離距離を求める(例えば、図4のR2)。この方法で1視野につき少なくとも6個の結晶粒の粒子長径を求め、これらの算術平均値をその視野における粒子長径とする。このような方法によって、複数の視野分(例えば、10視野分)の上記粒子長径を求め、これらの算術平均値を当該多孔体における「結晶粒の粒子長径」とする。なお、骨格本体の断面において、扇形の形状をしている結晶粒は、上記粒子短径及び上記粒子長径を求める際には除外するものとする。
【0040】
骨格は、ニッケルおよびコバルトの合計の目付量が200g/m以上1000g/m以下であることが好ましい。上記目付量は、250g/m以上900g/m以下であることがより好ましい。後述するように、上記目付量は、導電性を付与する導電化処理を施した導電性樹脂成形体上にニッケル-コバルト合金めっきを行なうときなどに、その量を適宜調整することができる。
【0041】
上述したニッケルおよびコバルトの合計の目付量を、骨格の単位体積当たりの質量(骨格の見かけの密度)に換算すると次のとおりとなる。すなわち上記骨格の見かけの密度は、0.14g/cm以上0.75g/cm以下であることが好ましく、0.18g/cm以上0.65g/cm以下であることがより好ましい。ここで「骨格の見かけの密度」は、次式で定義される。
骨格の見かけの密度(g/cm)=M(g)/V(cm
M:骨格の質量[g]
V:骨格における外観の形状の体積[cm]。
【0042】
骨格は、その気孔率が40%以上98%以下であることが好ましく、45%以上98%以下であることがより好ましく、50%以上98%以下であることが最も好ましい。骨格の気孔率が40%以上であることにより、多孔体を非常に軽量なものとすることができ、かつ多孔体の表面積を大きくすることができる。骨格の気孔率が98%以下であることにより、多孔体に十分な強度を備えさせることができる。
【0043】
骨格の気孔率は、次式で定義される。
気孔率(%)=[1-{M/(V×d)}]×100
M:骨格の質量[g]
V:骨格における外観の形状の体積[cm
d:骨格を構成する物質自体の密度[g/cm]。
【0044】
骨格は、その平均気孔径が60μm以上3500μm以下であることが好ましい。骨格の平均気孔径が60μm以上であることにより、多孔体の強度を高めることができる。骨格の平均気孔径が3500μm以下であることにより、多孔体の曲げ性(曲げ加工性)を高めることができる。これらの観点から、骨格の平均気孔径は60μm以上1000μm以下であることがより好ましく、100μm以上850μm以下であることが最も好ましい。
【0045】
骨格の平均気孔径は、次の方法により求めることができる。すなわち、まず顕微鏡を用いて骨格の表面を3000倍の倍率で拡大した観察像を少なくとも10視野準備する。次に、この10視野のそれぞれにおいて上記骨格における1インチ(25.4mm=25400μm)あたりの気孔の数を求める。さらに、この10視野における気孔の数を平均値(n)とした上で、これを次式に代入することより算出される数値を、骨格の平均気孔径とする。
平均気孔径(μm)=25400μm/n
【0046】
ここで、上記骨格の気孔率および平均気孔径は、多孔体の気孔率および平均気孔径と把握することもできる。
【0047】
骨格の本体は、その断面を3000倍の倍率で観察することにより第二観察像を得た場合、上記第二観察像の任意の10μm四方の領域において現われる長径1μm以上の空隙の数が5個以下であることが好ましい。この空隙の数は、3個以下であることがより好ましい。これにより多孔体の強度を十分に向上させることができる。さらに骨格の本体は、上記空隙の数が5個以下であることにより、微粉を焼結してなる成形体とは異なることが理解される。観察される空隙の数の下限は、たとえば0個である。ここで「空隙の数」とは、骨格本体の断面における複数(例えば、10か所)の「10μm四方の領域」をそれぞれ観察することにより求められる空隙の数平均を意味する。
【0048】
骨格の断面の観察は、電子顕微鏡を用いることにより行うことができる。具体的には、10視野において骨格本体の断面の観察を行なうことにより、上述の「空隙の数」を求めることが好ましい。骨格本体の断面は、骨格の長手方向に直交する断面(例えば図2)であってもよく、骨格の長手方向と平行な断面(例えば図1)であってもよい。観察像において空隙は、色のコントラスト(明暗の差)によってその他の部分と区別することができる。空隙の長径の上限は制限されるべきではないが、たとえば10000μmである。
【0049】
骨格本体の厚みは、5μm以上75μm以下であることが好ましく、5μm以上60μm以下であることがより好ましく、20μm以上60μm以下であることが更に好ましい。ここで「骨格本体の厚み」とは、上記骨格の内部の中空との界面である内壁から骨格の外側の外壁までの最短距離を意味する。複数箇所で求めた値の平均値を「骨格本体の厚み」とする。骨格本体の厚みは、骨格の断面を電子顕微鏡で観察することにより求めることができる。
【0050】
骨格本体の厚みは、具体的には以下の方法により求めることができる。まずシート状の多孔体を、骨格本体の断面が現れるように切断する。切断された断面を一つ選択し、これを3000倍の倍率で拡大して電子顕微鏡により観察することにより観察像を得る。次に、上記観察像に現れた1個の骨格を形成する多角形(たとえば、図2の三角形)のうちの任意の1辺の厚みを、その1辺の中央部において測定し、これを骨格本体の厚みとする。さらに、このような測定を10枚(10視野)の観察像に対して行なうことにより、10点の骨格本体の厚みを得る。最後に、これらの平均値を算出することにより、骨格本体の厚みを求めることができる。
【0051】
(三次元網目状構造)
多孔体は、三次元網目状構造を有する骨格を備える。本実施形態において「三次元網目状構造」とは、立体的な網目状の構造を意味する。三次元網目状構造は、骨格によって形成される。以下、三次元網目状構造について詳細に説明する。
【0052】
三次元網目状構造30は、図9に示すように、セル部20を基本の単位としており、複数のセル部20が接合することによって形成される。セル部20は、図5Aおよび図5Bに示すように、支柱部1と、複数の支柱部1を繋ぐノード部2とを備える。支柱部1とノード部2とは、便宜上その用語について分けて説明されるが、両者の間に明確な境界はない。すなわち複数の支柱部1と複数のノード部2とが一体となってセル部20が形成され、このセル部20を構成単位として三次元網目状構造30が形成される。以下、理解を容易にするため、図5Aのセル部を図5Bの正十二面体に見立てて説明する。
【0053】
まず支柱部1およびノード部2は、それぞれが複数存在することによって、平面状の多角形構造体であるフレーム部10を形成する。図5Bにおいて、フレーム部10の多角形構造体は正五角形であるが、三角形、四角形、六角形などの正五角形以外の多角形であってもよい。ここでフレーム部10の構造について、複数の支柱部1と複数のノード部2とによって平面多角形状の孔が形成されていると把握することもできる。本実施形態において、平面多角形状の孔の孔径は、フレーム部10によって画定する平面多角形状の孔に外接する円の直径を意味する。フレーム部10は、その複数が組み合わせられることによって、立体状の多面体構造体であるセル部20を形成する。このとき、1個の支柱部1および1個のノード部2は、複数のフレーム部10で共有される。
【0054】
支柱部1は、上述した図2の模式図で示すように、中空の筒形状を有し、断面が三角形であることが好ましいが、これに限定されるべきではない。支柱部1は、断面形状が四角形、六角形などの三角形以外の多角形であってもよい。ノード部2の形状は、頂点を有するようなシャープエッジの形状であってもよいし、当該頂点が面取りされているような平面状であってもよいし、当該頂点にアールが付与されたような曲面状であってもよい。
【0055】
セル部20の多面体構造体は、図5Bにおいて十二面体であるが、立方体、二十面体(図6A)、切頂二十面体(図6B)などの他の多面体であってもよい。ここでセル部20の構造について、複数のフレーム部10のそれぞれによって画定する仮想平面Aによって囲まれた立体状の空間(気孔部14)が形成されていると把握することもできる。本実施形態において、上記立体状の空間の孔径(以下、「気孔径」とも記す。)は、セル部20によって画定する上記立体状の空間に外接する球の直径と把握することができる。ただし、本実施形態における多孔体の平均気孔径は、便宜的に上述した計算式に基づいて算出される。すなわちセル部20によって画定する立体状の空間の孔径(気孔径)の平均値は、上記骨格の平均気孔径であるとみなす。
【0056】
セル部20は、これが複数組み合わせられることによって三次元網目状構造30を形成する(図7図9)。このとき、フレーム部10は2つのセル部20で共有されている。三次元網目状構造30は、フレーム部10を備えると把握することもできるし、セル部20を備えると把握することもできる。
【0057】
多孔体は、上述したように平面多角形状の孔(フレーム部)と立体状の空間(セル部)とを形成する三次元網目状構造を有している。このため平面状の孔のみを有する二次元網目状構造体(たとえばパンチングメタル、メッシュなど)と明確に区別することができる。さらに多孔体は、複数の支柱部と複数のノード部とが一体となって三次元網目状構造を形成しているため、構成単位である繊維同士が絡み合わされて形成された不織布などのような構造体と明確に区別することができる。多孔体は、このような三次元網目状構造を有することから、連通気孔を有することができる。
【0058】
本実施形態において三次元網目状構造は、上述の構造に限定されない。たとえばセル部は、その大きさおよび平面的形状がそれぞれ異なる複数のフレーム部によって形成されていてもよい。さらに三次元網目状構造は、その大きさおよび立体的形状がそれぞれ異なる複数のセル部によって形成されていてもよい。三次元網目状構造は、平面多角形状の孔が形成されていないフレーム部を一部に含んでいてもよいし、立体状の空間が形成されていないセル部(内部が中実であるセル部)を一部に含んでいてもよい。
【0059】
(ニッケルおよびコバルト)
骨格本体における結晶粒は、上述のとおりニッケルとコバルトとを構成元素として含む。骨格本体における結晶粒は、本開示の多孔体が有する作用効果に影響を与えない限り、ニッケル及びコバルト以外の他の成分を含むことを除外するものではない。本実施形態の一側面において、骨格本体における結晶粒は、金属成分として上記の2成分(ニッケル及びコバルト)からなることが好ましい。具体的には、骨格本体における結晶粒は、ニッケルおよびコバルトからなるニッケル-コバルト合金を含むことが好ましい。ニッケル-コバルト合金は、骨格本体における結晶粒の主成分であることが好ましい。ここで上記結晶粒における「主成分」とは、上記結晶粒において占める質量割合が最も多い成分をいう。より具体的には、上記結晶粒における質量割合が50質量%を超える成分をいう。
本実施形態の一側面において、本開示の多孔体が有する作用効果に影響を与えない限り、上記骨格本体は、ニッケルを構成元素として含みかつコバルトを構成元素として含まない結晶粒、又はコバルトを構成元素として含みかつニッケルを構成元素として含まない結晶粒を含んでいてもよい。
【0060】
上記結晶粒におけるニッケルの質量とコバルトの質量との合計の割合は、たとえば多孔体をSOFCの空気極用集電体または水素極用集電体として用いる前の状態、すなわち多孔体を700℃以上の高温に曝す前の状態において、上記結晶粒全体の質量に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。ニッケルの質量とコバルト質量との合計の割合の上限は、上記結晶粒全体の質量に対して、100質量%未満であってもよいし、99質量%以下であってもよいし、95質量%以下であってもよい。
【0061】
ニッケルおよびコバルトは、これらの質量の合計の割合が高いほど、多孔体をSOFCの空気極用集電体および水素極用集電体などに用いた場合、生成される酸化物がニッケルおよびコバルトの少なくとも一方と酸素とからなるスピネル型酸化物となる割合が高まる傾向がある。これにより多孔体は、高温環境下で使用された場合にも高い導電性を維持することができる。
【0062】
(ニッケルおよびコバルトの合計質量に対するコバルトの質量割合)
コバルトの質量割合は、ニッケルおよびコバルトの合計質量に対して、0.2以上0.8以下である。このような組成を有する骨格を備える多孔体をSOFCの空気極用集電体または水素極用集電体などに用いた場合、酸化によってNi3-xCo(ただし、0.6≦x≦2.4)、典型的にはNiCoまたはNiCoOの化学式で示されるスピネル型酸化物が骨格中に生成される。骨格本体の酸化によりCoCoの化学式で示されるスピネル型酸化物が生成される場合もある。スピネル型酸化物は、高い導電性を示し、もって多孔体は、高温環境下での使用によって骨格本体の全体が酸化された場合にも高い導電性を維持することができる。
【0063】
上記コバルトの質量割合は、ニッケルおよびコバルトの合計質量に対して、0.2以上0.45以下又は、0.6以上0.8以下であることが好ましく、0.2以上0.45以下であることがより好ましく、0.25以上0.4以下であることが更に好ましい。上記骨格の本体において、ニッケルおよびコバルトの合計質量に対するコバルトの質量割合が0.6以上0.8以下である場合、上記多孔体は強度が更に高く、SOFCのスタック化時に変形したとしても骨格の本体に割れが更に起きにくい傾向がある。また、上記骨格の本体において、ニッケルおよびコバルトの合計質量に対するコバルトの質量割合が0.2以上0.45以下である場合、当該多孔体を空気極用集電体または水素極用集電体として燃料電池を製造しても、燃料電池の構成部材である固体電解質が割れにくい傾向がある。
【0064】
(酸素)
骨格の本体は、酸素を構成元素としてさらに含むことが好ましい。具体的には、酸素は、上記骨格の本体において0.1質量%以上35質量%以下含まれることがより好ましい。本実施形態の一側面において、骨格の本体は、上記結晶粒において酸素を構成元素としてさらに含むことがより好ましい。骨格本体中の酸素は、たとえば多孔体をSOFCの空気極用集電体または水素極用集電体として用いた前の状態で含まれていてもよい。本実施形態の一側面において、骨格本体中の酸素は、たとえば多孔体をSOFCの空気極用集電体または水素極用集電体として用いた後に検出され得る。すなわち多孔体を700℃以上の高温に曝した後の状態で、酸素は、上記骨格の本体において0.1質量%以上35質量%以下含まれることが好ましい。酸素は、上記骨格の本体において10質量%以上30質量%以下含まれることがより好ましく、25質量%以上28質量%以下含まれることがさらに好ましい。
【0065】
上記骨格の本体において構成元素として酸素が0.1質量%以上35質量%以下含まれる場合、多孔体が700℃以上の高温に曝されたという熱履歴を伺い知ることができる。さらに、多孔体がSOFCの空気極用集電体または水素極用集電体などに用いられることにより700℃以上の高温に曝され、骨格中にニッケルおよびコバルトの少なくとも一方、ならびに酸素からなるスピネル型酸化物が生成された場合、上記骨格の本体には、酸素が構成元素として0.1質量%以上35質量%以下含まれる傾向がある。
【0066】
すなわち骨格の本体は、スピネル型酸化物を含むことが好ましい。本実施形態の一側面において、骨格の本体は、上記結晶粒においてスピネル型酸化物を含むことがより好ましい。これにより多孔体は、酸化された場合にも高い導電性をより効果的に維持することができる。上記骨格の本体において酸素の質量割合が上述の範囲を外れる場合、多孔体は、酸化された場合において高い導電性をより効果的に維持する性能が、所望のとおりに得られない傾向がある。
【0067】
(第3の成分)
骨格の本体は、本開示の多孔体が有する作用効果に影響を与えない限り、上述のように第3の成分を構成元素として含むことができる。骨格の本体は、第3の成分としてたとえば、ケイ素、カルシウム、カリウム、マグネシウム、炭素、スズ、アルミニウム、ナトリウム、鉄、タングステン、チタン、リン、ホウ素、銀、金、銅、亜鉛、クロム、モリブデン、窒素、硫黄、フッ素、及び塩素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を構成元素としてさらに含んでいてもよい。本実施形態の一側面において、骨格の本体は、上記結晶粒において上記第3の成分として挙げられている少なくとも1種の元素を構成元素としてさらに含んでいてもよい。これらの成分は、たとえば後述する製造方法において混入が不可避となる不可避不純物として含まれる場合がある。たとえば不可避不純物の一例として、後述の導電化処理により形成される導電被覆層に含まれる元素などを挙げることができる。骨格本体中において第3の成分は、これら単独で5質量%以下であることが好ましく、2種以上を含む場合は、その合計で10質量%以下であることが好ましい。上記第3の成分それぞれの質量割合は、後述するEDX装置(エネルギー分散型X線分析装置)で求めることが可能である。
【0068】
本実施形態の一側面において、上記骨格の本体は、窒素、硫黄、フッ素、及び塩素からなる群より選ばれる少なくとも1つの非金属元素を構成元素として更に含んでいてもよい。本実施形態の一側面において、骨格の本体は、上記結晶粒において上記非金属元素を構成元素として更に含んでいてもよい。上記非金属元素は、その質量の合計の割合が上記骨格の本体の質量に対して5ppm以上10000ppm以下であってもよい。好ましくは、上記非金属元素はその質量の合計の割合が上記骨格の本体の質量に対して10ppm以上8000ppm以下である。
【0069】
また、上記骨格の本体は、リンを構成元素として更に含んでいてもよい。本実施形態の一側面において、骨格の本体は、上記結晶粒においてリンを構成元素として更に含んでいてもよい。このとき、リンの質量割合は、上記骨格の本体の質量に対して5ppm以上50000ppm以下であってもよい。好ましくは、上記リンの質量割合は、上記骨格の本体の質量に対して10ppm以上40000ppm以下である。
【0070】
本実施形態の他の一側面において、上記骨格の本体は、窒素、硫黄、フッ素、塩素、及びリンからなる群より選ばれる少なくとも2つの非金属元素を構成元素として更に含んでいてもよい。本実施形態の一側面において、骨格の本体は、上記結晶粒において上述の少なくとも2つの非金属元素を構成元素として更に含んでいてもよい。上記非金属元素は、その質量の合計の割合が上記骨格の本体の質量に対して5ppm以上50000ppm以下であってもよい。好ましくは、上記非金属元素は、その質量の合計の割合が上記骨格の本体の質量に対して10ppm以上10000ppm以下である。
【0071】
上記多孔体を燃料電池の空気極用集電体または水素極用集電体として用いた場合、上述のように700℃以上の高温環境に曝されるが、上記骨格の本体が上述の非金属元素を構成元素として含んでいることにより、適度な強度を維持することができる。
【0072】
(各元素の質量割合の測定方法)
骨格の本体における各元素の質量割合(質量%)については、切断された骨格の断面の観察像(電子顕微鏡像)に対し、電子顕微鏡(SEM)に付帯のEDX装置(たとえばSEM部分:商品名「SUPRA35VP」、カールツァイスマイクロスコピー株式会社製、EDX部分:商品名「octane super」、アメテック株式会社製)を用いて分析することにより求めることができる。上記EDX装置により、骨格本体の結晶粒におけるニッケル、コバルトの質量割合を求めることも可能である。具体的には、上記EDX装置により検出された各元素の原子濃度に基づいて、骨格本体の結晶粒におけるニッケル、コバルトの質量%、質量比などをそれぞれ求めることができる。骨格の本体に酸素が含まれる場合には、骨格本体における酸素の質量%も同様の方法で求めることができる。さらに、上記骨格の本体がニッケルおよびコバルトの少なくとも一方、ならびに酸素からなるスピネル型酸化物を有するか否かについては、上記断面に対してX線を照射し、その回折パターンを解析するX線回折(XRD)法を用いることによって特定することができる。
【0073】
上記骨格の本体がスピネル型酸化物を有するか否かを特定する測定装置については、たとえばX線回折装置(たとえば商品名(型番):「Empyrean」、スペクトリス株式会社製、解析ソフト:「統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL」)を用いることができる。測定条件は、たとえば次のとおりとすればよい。
【0074】
(測定条件)
X線回折法: θ-2θ法
測定系: 平行ビーム光学系ミラー
スキャン範囲(2θ): 10~90°
積算時間: 1秒/ステップ
ステップ: 0.03°。
【0075】
≪燃料電池≫
本実施形態に係る燃料電池は、空気極用集電体および水素極用集電体を備える燃料電池である。上記空気極用集電体および上記水素極用集電体からなる群より選ばれる少なくとも一方は、上記の多孔体を含む。上記空気極用集電体または水素極用集電体は、上述のように燃料電池用の集電体として適度な強度を有する多孔体を含む。そのため上記空気極用集電体または水素極用集電体は、SOFCの空気極用集電体またはSOFCの水素極用集電体として好適である。上記燃料電池は、多孔体がニッケルとコバルトとを含む結晶粒を含むため、上記多孔体を空気極用集電体として用いることがより好適である。
【0076】
図10は、本開示の一態様に係る燃料電池を示す模式断面図である。燃料電池150は、水素極用集電体110と、空気極用集電体120と、燃料電池用セル100とを備える。上記燃料電池用セル100は、上記水素極用集電体110と、上記空気極用集電体120との間に設けられている。ここで「水素極用集電体」とは、燃料電池において水素を供給する側の集電体を意味する。「空気極用集電体」とは、燃料電池において酸素を含むガス(例えば、空気)を供給する側の集電体を意味する。
【0077】
図11は、本開示の一態様に係る燃料電池用セルを示す模式断面図である。上記燃料電池用セル100は、空気極102と、水素極108と、上記空気極102と上記水素極108との間に設けられている電解質層106と、上記電解質層106と上記空気極102との反応を防ぐため、それらの間に設けられる中間層104とを備える。空気極としては、例えば、LaSrCoの酸化物(LSC)が用いられる。電解質層としては、例えば、YがドープされたZrの酸化物(YSZ)が用いられる。中間層としては、例えば、GdがドープされたCeの酸化物(GDC)が用いられる。水素極としては、例えば、YSZとNiOとの混合体が用いられる。
【0078】
上記燃料電池150は、燃料流路114を有する第一インターコネクタ112と、酸化剤流路124を有する第二インターコネクタ122とを更に備える。燃料流路114は、水素極108に燃料(例えば、水素)を供給するための流路である。燃料流路114は、第一インターコネクタ112における主面であって水素極用集電体110と向かい合っている主面に設けられている。酸化剤流路124は、空気極102に酸化剤(例えば、酸素)を供給するための流路である。酸化剤流路124は、第二インターコネクタ122における主面であって空気極用集電体120と向かい合っている主面に設けられている。
【0079】
さらに、上記燃料電池150は、空気極用集電体120及び燃料電池用セル100それぞれの側面において、第一インターコネクタ112と第二インターコネクタ122との間に、第一スペーサー130と第二スペーサー131とが配置されている(図12)。上記第一スペーサー130及び上記第二スペーサー131が配置されていることで、酸化剤流路124に供給された空気等が燃料電池150の外部に漏れることを防止している。
【0080】
以上、本開示に係る多孔体について説明した。上述の構成を備える本開示の多孔体は、適度な強度、特に適度な展性を有する。
【0081】
通常、燃料電池150を製造する際には、まず各部材を所定の位置となるように積み重ねてから第一インターコネクタ112及び第二インターコネクタ122を互いに向き合う方向に押し込むことで気密性を維持している。このとき、空気極用集電体120は、第一スペーサー130の厚みよりも少し厚いものを準備して燃料電池150を製造する。第一インターコネクタ112及び第二インターコネクタ122を押し込む際に上記空気極用集電体120が第一スペーサー130の厚みにまで押しつぶされるため、上述の気密性を維持しつつ、第一インターコネクタ112及び燃料電池用セル100に対する空気極用集電体120の接触性を担保することができる。
【0082】
これに対し、従来の多孔体は硬すぎるため、この多孔体を空気極用集電体として用いて燃料電池を製造した場合、空気極用集電体120が第一スペーサー130の厚みまで押しつぶされて変形することが困難であった。そのため、第二インターコネクタ122と第一スペーサー130との間の気密性及び第一スペーサー130と第二スペーサー131との間の気密性が十分担保されず、改善の余地があった(例えば、図13)。本開示に係る多孔体は、適度な展性を有するため、当該多孔体を空気極用集電体として用いて燃料電池を製造した場合、例えば、第一スペーサー130の厚みまで柔軟に変形する。そのため第二インターコネクタ122と第一スペーサー130との間の気密性及び第一スペーサー130と第二スペーサー131との間の気密性が保たれており、空気等のガスのリークが起こらない(例えば、図12)。その結果、燃料電池の出力性能が優れたものになる。
【0083】
≪多孔体の製造方法≫
本実施形態に係る多孔体の製造方法は、
三次元網目状構造を有する樹脂成形体に導電被覆層を形成することにより導電性樹脂成形体を得る工程(第1工程)と、
上記導電性樹脂成形体上にニッケル-コバルト合金めっきを行なうことにより多孔体の第一前駆体を得る工程(第2工程)と、
上記第一前駆体に対して熱処理を行なって、導電性樹脂成形体中の樹脂成分を焼却し、これを除去することにより多孔体の第二前駆体を得る工程(第3工程)と、
還元雰囲気下で上記第二前駆体に対して熱処理を更に行うことにより多孔体を得る工程(第4工程)とを含む。ここで、本実施形態において「ニッケル-コバルト合金」とは、ニッケル及びコバルトを主成分とする合金であって、他の元素を含みうる合金(例えば、ニッケル及びコバルトを主成分とし、かつ上記第3の成分の元素を含む合金)を意味する。
【0084】
<第1工程>
まず、三次元網目状構造を有する樹脂成形体(以下、単に「樹脂成形体」とも記す。)のシートを準備する。樹脂成形体としてポリウレタン樹脂、メラミン樹脂などを用いることができる。さらに、樹脂成形体に導電性を付与する導電化処理として、樹脂成形体の表面に導電被覆層を形成する。この導電化処理としては、たとえば以下の方法を挙げることができる。
(1)カーボン、導電性セラミックなどの導電性粒子およびバインダーを含有した導電性塗料を塗布、含浸などの手段により樹脂成形体の表面に含ませること、
(2)無電解めっき法によってニッケルおよび銅などの導電性金属による層を樹脂成形体の表面に形成すること、
(3)蒸着法またはスパッタリング法によって導電性金属による層を樹脂成形体の表面に形成すること。これにより、導電性樹脂成形体を得ることができる。
【0085】
<第2工程>
次に、上記導電性樹脂成形体上にニッケル-コバルト合金めっきを行なうことにより多孔体の第一前駆体を得る。ニッケル-コバルト合金めっきの方法は、無電解めっきを適用することもできるが、効率の観点から電解めっき(所謂、合金の電気めっき)を用いることが好ましい。ニッケル-コバルト合金の電解めっきでは、導電性樹脂成形体をカソードとして用いる。
【0086】
ニッケル-コバルト合金の電解めっきに用いるめっき浴としては、公知のものを使用することができる。たとえばワット浴、塩化浴、スルファミン酸浴などを用いることができる。ニッケル-コバルト合金の電解めっきの浴組成は、たとえば以下の例を挙げることができる。
【0087】
(浴組成)
塩(水溶液): スルファミン酸ニッケルおよびスルファミン酸コバルト(NiおよびCoの合計量として350~450g/L)
ただし、Ni及びCoそれぞれの質量比については、所望するNiおよびCoの合計質量に対するCoの質量割合により、Co/(Ni+Co)=0.2~0.8から調整する。
ホウ酸: 30~40g/L
pH: 4~4.5。
【0088】
ニッケル-コバルト合金の電解めっきの電解条件は、たとえば以下の例を挙げることができる。
(電解条件)
温度: 40~60℃
電流密度: 0.5~10A/dm
アノード: 不溶性陽極。
【0089】
以上により、導電性樹脂成形体上にニッケル-コバルト合金がめっきされた多孔体の第一前駆体を得ることができる。また、窒素、硫黄、フッ素、塩素、リンといった非金属元素を添加する場合は、めっき浴中に各種添加物を投入することで、上記第一前駆体中に含有させることができる。各種添加物の例として、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウムが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、各非金属元素が含まれていればよい。
【0090】
<第3工程>
続いて、上記第一前駆体に対して熱処理を行なって、導電性樹脂成形体中の樹脂成分を焼却し、これを除去することにより多孔体の第二前駆体を得る。上記樹脂成分を除去するための熱処理の温度、熱処理の時間および熱処理の雰囲気は、たとえば600℃以上で1時間とし、大気などの酸化雰囲気とすればよい。
【0091】
<第4工程>
最後に、還元雰囲気下で上記第二前駆体に対して熱処理を更に行うことにより多孔体を得る。これにより、三次元網目状構造を有する骨格を備えた多孔体を得ることができる。上記第4工程を行うことで、骨格本体に含まれる結晶粒が粗大化し、所望の効果が奏されると本発明者らは考えている。
【0092】
第4工程における「還元雰囲気」は、還元性ガスが存在する雰囲気であれば特に制限されない。還元性ガスとしては、例えば、水素ガス、一酸化炭素ガス、硫化水素ガス等が挙げられる。上記還元雰囲気は、還元性ガスの他に、窒素ガスなどの不活性ガスが存在してもよい。上記還元雰囲気における還元性ガスの体積割合は、50体積%以上100体積%以下であることが好ましく、75体積%以上100体積%以下であることがより好ましい。
【0093】
第4工程における熱処理の温度は、650℃以上1200℃以下であることが好ましく、700℃以上1200℃以下であることがより好ましく、800℃以上1100℃以下であることが更に好ましい。
【0094】
第4工程における熱処理の時間は、5分以上60分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。
【0095】
ここで上記の方法により得た多孔体の平均気孔径は、樹脂成形体の平均気孔径とほぼ等しくなる。このため多孔体を適用する用途に応じ、多孔体を得るために用いる樹脂成形体の平均気孔径を適宜選択すればよい。多孔体の気孔率は、最終的にはめっきされる金属量(目付量)で決定されるため、最終製品である多孔体において求められる気孔率に応じ、めっきするニッケル-コバルト合金の目付量を適宜選択すればよい。樹脂成形体の気孔率および平均気孔径は、上述した骨格の気孔率および平均気孔径と同様に定義され、かつ「骨格」を「樹脂成形体」に読み替えて適用することにより、上述の計算式に基づいて求めることができる。
【0096】
以上の工程を経ることより、本実施形態に係る多孔体を製造することができる。上記多孔体は、三次元網目状構造を有する骨格を備え、上記骨格の本体は、ニッケルとコバルトとを構成元素として含む結晶粒を含む。さらに上記コバルトの質量割合は、ニッケルおよびコバルトの合計質量に対して、0.2以上0.8以下である。また、上記多孔体は、上記骨格の本体の断面を200倍の倍率で観察することにより第一観察像を得た場合、上記第一観察像において求められる上記結晶粒の粒子短径は2μm以上である。もって多孔体は、燃料電池の空気極用集電体または水素極用集電体として適度な強度を有することができる。
【0097】
以上の説明は、以下に付記する特徴を含む。
(付記1)
三次元網目状構造を有する骨格を備えた多孔体であって、
上記骨格の本体は、ニッケルとコバルトとを構成元素として含む結晶粒を含み、
上記コバルトの質量割合は、上記ニッケルおよび上記コバルトの合計質量に対して、0.2以上0.8以下であり、
上記骨格の本体の断面を200倍の倍率で観察することにより第一観察像を得た場合、上記第一観察像において求められる上記結晶粒の粒子短径は2μm以上である、多孔体。
(付記2)
上記コバルトの質量割合は、上記ニッケルおよび上記コバルトの合計質量に対して、0.2以上0.45以下又は0.6以上0.8以下である、付記1に記載の多孔体。
(付記3)
上記第一観察像において求められる上記結晶粒の粒子短径は2μm以上15μm以下である、付記1に記載の多孔体。
(付記4)
上記第一観察像において求められる上記結晶粒の粒子長径は8μm以上20μm以下である、付記1に記載の多孔体。
(付記5)
上記骨格の本体の厚みは、5μm以上60μm以下である、付記1に記載の多孔体。
(付記6)
上記結晶粒における上記ニッケルおよび上記コバルトの合計の質量割合は、80質量%以上100質量%未満である、付記1に記載の多孔体。
【実施例
【0098】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0099】
≪多孔体の作製≫
<試料1>
以下の手順で試料1の多孔体を作製した。
(第1工程)
まず三次元網目状構造を有する樹脂成形体として1.5mm厚のポリウレタン樹脂製シートを準備した。このポリウレタン樹脂製シートの気孔率および平均気孔径を上述の計算式に基づいて求めたところ、上記気孔率は96%であり、上記平均気孔径は450μmであった。
【0100】
次に、導電性塗料(カーボンブラックを含むスラリー)を上記樹脂成形体に含浸し、その後ロールで絞って乾燥させることにより、樹脂成形体の表面に導電被覆層を形成した。これにより導電性樹脂成形体を得た。
【0101】
(第2工程)
上記導電性樹脂成形体をカソードとし、下記の浴組成および電解条件の下で電解めっきを行なった。これにより、導電性樹脂成形体上にニッケル-コバルト合金を660g/m付着させ、もって多孔体の第一前駆体を得た。
【0102】
〈浴組成〉
塩(水溶液):スルファミン酸ニッケル及びスルファミン酸コバルトの水溶液 NiおよびCoの合計量を400g/Lとした。
Co/(Ni+Co)の質量割合を0.34とした。
ホウ酸: 35g/L
pH: 4.5。
【0103】
〈電解条件〉
温度: 50℃
電流密度: 5A/dm
アノード: 不溶性陽極。
【0104】
(第3工程)
上記第一前駆体に対して熱処理を行なって、導電性樹脂成形体中の樹脂成分を焼却し、これを除去することにより多孔体の第二前駆体を得た。上記樹脂成分を除去するための熱処理の温度を650℃とし、その雰囲気を大気雰囲気とした。なお、試料1の多孔体の作製では、還元雰囲気下における熱処理(第4工程)を行わなかった。そのため、上記第二前駆体を試料1の多孔体とした。
【0105】
<試料2>
第1工程~第3工程は、<試料1>と同じ操作を行うことで、多孔体の第二前駆体を得た。
【0106】
(第4工程)
還元雰囲気下(水素ガス雰囲気下)で上記第二前駆体に対して熱処理を更に行うことで試料2の多孔体を得た。第4工程における熱処理の温度は650℃とし、熱処理の時間は10分とした。
【0107】
<試料3>
第4工程において熱処理の温度を700℃としたこと以外は<試料2>と同じ操作を行うことで試料3の多孔体を得た。
【0108】
<試料4>
第2工程において導電性樹脂成形体上にニッケル-コバルト合金を300g/m付着させ、多孔体の第一前駆体を得たこと以外は<試料3>と同じ操作を行うことで試料4の多孔体を得た。
【0109】
<試料5>
第2工程において導電性樹脂成形体上にニッケル-コバルト合金を1300g/m付着させ、多孔体の第一前駆体を得たこと以外は<試料3>と同じ操作を行うことで試料5の多孔体を得た。
【0110】
<試料6>
第2工程において導電性樹脂成形体上にニッケル-コバルト合金を1500g/m付着させ、多孔体の第一前駆体を得たこと以外は<試料3>と同じ操作を行うことで試料6の多孔体を得た。
【0111】
<試料7>
第4工程において熱処理の温度を750℃としたこと以外は<試料2>と同じ操作を行うことで試料7の多孔体を得た。
【0112】
<試料8>
第2工程において導電性樹脂成形体上にニッケル-コバルト合金を450g/m付着させ、多孔体の第一前駆体を得たこと、及び第4工程において熱処理の温度を800℃としたこと以外は<試料2>と同じ操作を行うことで試料8の多孔体を得た。
【0113】
<試料9>
第2工程において浴組成のCo/(Ni+Co)の質量割合を0.87としたこと、第2工程において導電性樹脂成形体上にニッケル-コバルト合金を420g/m付着させ、多孔体の第一前駆体を得たこと、及び第4工程において熱処理の温度を800℃としたこと以外は<試料2>と同じ操作を行うことで試料9の多孔体を得た。
【0114】
<試料10>
第2工程において浴組成のCo/(Ni+Co)の質量割合を0.15としたこと以外は<試料2>と同じ操作を行うことで試料10の多孔体を得た。
【0115】
以上の手順で、試料1~試料10の多孔体を得た。ここで、試料2~試料8は実施例に相当し、試料1、試料9及び試料10は比較例に相当する。
【0116】
≪多孔体の性能評価≫
<多孔体の物性分析>
上述の方法により得た試料1~試料10の多孔体に関し、これらの骨格の本体におけるニッケルおよびコバルトの合計質量に対するコバルトの質量割合を、それぞれ上記SEMに付帯のEDX装置(SEM部分:商品名「SUPRA35VP」、カールツァイスマイクロスコピー株式会社製、EDX部分:商品名「octane super」、アメテック株式会社製)を用いて調べた。具体的には、まず各試料の多孔体を切断した。次に切断された多孔体の骨格の断面を、上記EDX装置によって観察し、検出された各元素の原子濃度に基づいて当該コバルトの質量割合を求めた。その結果、試料1~試料10の多孔体の骨格本体におけるニッケルおよびコバルトの合計質量に対するコバルトの質量割合はいずれも、これらを作製するのに用いためっき浴に含まれるニッケルおよびコバルトの合計質量に対するコバルトの質量割合(Co/(Ni+Co)の質量比)と一致した。
【0117】
さらに試料1~試料10の多孔体に対し、上述した計算式に従って骨格の平均気孔径および気孔率を求めた。その結果、上記樹脂成形体の気孔率および平均気孔径と一致し、気孔率は96%であり、平均気孔径は450μmであった。さらに試料1~試料10の多孔体は、厚みが1.4mmであった。
【0118】
<粒子短径、粒子長径の算出>
まず、以下の手順で骨格本体の断面のEBSD解析を行った。具体的には、測定対象の多孔体を、骨格本体の長手方向に対して垂直な骨格本体の断面が少なくとも1視野分得られるように切断した。その後、得られた断面を耐水研磨紙(粒度:#800、#2000)で機械研磨した。
【0119】
次に、機械研磨した上記断面をArイオンによるイオンミーリング処理によりさらに平滑化した。イオンミーリング処理の条件は以下の通りである。
加速電圧:6kV
照射角度:骨格本体の上記断面の法線方向から0°
照射時間:6時間
観察面:断面加工面
【0120】
次に、上記の平滑化処理された断面(鏡面)を、EBSD装置(AMETEK社製、商品名:「OIM7.7.0」)を備えた電界放出型走査FE-SEM(ZEISS社製、製品名:「SUPRA35VP」)を用いて200倍の倍率で観察し、得られた第一観察像に対してEBSD解析を行い、カラーマップを作成した(例えば、図3)。このときのEBSD解析の条件は以下の通りである。
加速電圧 :15kV
Exposure time :0.01s
Binning :8×8
WD :15mm
Tilt :70°
分析領域 :420μm×1250μm
【0121】
作成したカラーマップに基づいて、結晶粒の粒子短径及び粒子長径を上述の方法を用いて求めた。1視野につき6個の粒子の粒子短径及び粒子長径をそれぞれ求め、それらの平均値をその視野における粒子短径及び粒子長径とした。さらにこれを10視野について行い、各視野で求められた値の算術平均を当該多孔体における粒子の粒子短径及び粒子長径とした。結果を表1に示す。
【0122】
<骨格本体の厚み>
各試料における骨格本体の厚みを以下の手順で求めた。まず、試料である多孔体を、骨格本体の断面が現れるように切断した。切断された断面を一つ選択し、これを3000倍の倍率で拡大して電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名:Flex SEM1000II)により観察することで観察像を得た。次に、上記観察像に現れた1個の骨格を形成する三角形のうちの任意の1辺の厚みを、その1辺の中央部において測定し、これを骨格本体の厚みとした。さらに、このような測定を10枚(10視野)の観察像に対して行なうことにより、10点の骨格本体の厚みを得た。最後に、これらの平均値を算出することにより、当該骨格本体の厚みを求めた。結果を表1に示す。
【0123】
<発電評価>
さらに試料1~試料10の多孔体を空気極用集電体として、エルコーゲン社製のYSZセル(図11)と共に燃料電池を作製し(図10)、以下の発電性能評価を行った。
【0124】
動作温度を700℃として、作製された燃料電池の水素極用集電体に燃料ガスとして水素を0.3L/分で流し、空気極用集電体に空気を1.0L/分で流した時の出力性能(最大の出力密度)を求めた。結果を表1に示す。
【0125】
【表1】
【0126】
<考察>
表1における実施例の結果によれば、骨格の本体がニッケル及びコバルトを所定割合で含み、骨格の本体における結晶粒の粒子短径が2μm以上である多孔体を空気極用集電体として用いて燃料電池を製造した場合、当該燃料電池は、出力性能が300mW/cm以上であり良好であることがわかった。
以上のことから、実施例に係る多孔体は、燃料電池の空気極用集電体および水素極用集電体として適度な強度を有することが分かった。
【0127】
一方、表1における比較例の結果によれば、骨格の本体がニッケル及びコバルトを所定割合で含むが、骨格の本体における結晶粒の粒子短径が2μm未満である多孔体を空気極用集電体として用いて燃料電池を製造した場合、当該燃料電池は、出力性能が250mW/cmであり、実施例の燃料電池よりも下回った(試料1)。このような多孔体は、硬すぎるため燃料電池を作製した際に、スペーサー間の気密性が十分担保されず(例えば、図13)、空気等がリークしたためであると考えられた。また、骨格の本体におけるコバルトの含有割合が所定の割合を超える多孔体を空気極用集電体として用いて燃料電池を製造した場合、当該燃料電池は、出力性能が285mW/cmであり、実施例の燃料電池よりも下回った(試料9)。このような多孔体も、硬すぎるため燃料電池を作製した際に、スペーサー間の気密性が十分担保されず、空気等がリークしたためであると考えられた。
骨格の本体におけるコバルトの含有割合が所定の割合に満たない多孔体を空気極用集電体として用いて燃料電池を製造した場合、当該燃料電池は、出力性能が240mW/cmであり、実施例の燃料電池よりも下回った(試料10)。このような多孔体は硬度が十分ではないため、燃料電池を作製した際に、当該多孔体に割れが発生したためであると考えられた。
【0128】
以上のように本発明の実施形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態および各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0129】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0130】
1 支柱部、 2 ノード部、 10 フレーム部、 11 骨格本体、 12 骨格、 13 内部、 14 気孔部、 20 セル部、 30 三次元網目状構造、 100 燃料電池用セル、 102 空気極、 104 中間層、 106 電解質層、 108 水素極、 110 水素極用集電体、 112 第一インターコネクタ、 114 燃料流路、 120 空気極用集電体、 122 第二インターコネクタ、 124 酸化剤流路、 130 第一スペーサー、 131 第二スペーサー、 150 燃料電池、 A 仮想平面、 R1 粒子短径、 R2 粒子長径
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13