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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/417 20210101AFI20230719BHJP
   H01M 50/491 20210101ALI20230719BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20230719BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20230719BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20230719BHJP
【FI】
H01M50/417
H01M50/491
H01M50/489
H01M50/443 M
H01M50/434
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020548572
(86)(22)【出願日】2019-09-19
(86)【国際出願番号】 JP2019036654
(87)【国際公開番号】W WO2020066808
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2018180162
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悦子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 和成
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/079631(WO,A1)
【文献】特開2007-106992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板の間に介在するセパレータとを備え、
前記セパレータは、
ポリオレフィンとオイルとを含み、
細孔容積Aが0.80cm/g以上1.55cm/g以下であり、
細孔表面積Bが65cm/g以上116cm/g以下であり、
前記細孔容積Aと前記細孔表面積Bとの積Cが、92以上178以下であり、
前記セパレータ中の前記オイルの含有量は、13質量%以上である、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記セパレータは、0.03μm以下の細孔径を有する第1細孔を含み、
前記第1細孔の細孔容積は、0.20cm3/g以上である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記第1細孔の細孔容積の前記細孔容積Aに占める比率は、21%以上である、請求項2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記セパレータは、無機粒子を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
車両の始動用である、請求項1~のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、正極板および負極板と、これらの間に介在するセパレータと、電解液と、を備えている。鉛蓄電池のセパレータには、様々な性能が要求される。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリオレフィン系樹脂と無機粉体と可塑剤を主体とした原料組成物を溶融混練して成形加工により平板状シートの片面に極板当接用リブを突設したフィルム状物に一体成形した後、前記可塑剤の一部を除去してなるリブ付き微多孔質フィルムからなる液式鉛蓄電池用セパレータにおいて、前記リブ付き微多孔質フィルムを、前記平板状シートと前記極板当接用主リブとの境界線(該リブの付け根のライン)にて、フィルム面に対して垂直にかまない部分をベース部としたとき、(1)前記ベース部の空隙率が55~75%であり、前記リブ部の空隙率が前記ベース部の空隙率の0.8倍以下であること、(2)前記ベース部の平均細孔径が0.02~0.2μmであり、前記リブ部の平均細孔径が前記ベース部の平均細孔径の0.8倍以下であること、(3)前記ベース部の最大孔径が0.3~0.8μmであり、前記リブ部の再大孔径が前記ベース部の最大孔径の0.8倍以下であること、のすべてを満たすことを特徴とする液式鉛蓄電池用セパレータが提案されている。
【0004】
また、鉛蓄電池の小型軽量化、高性能化、長寿命化などの観点から、セパレータの低抵抗化も検討されている。
【0005】
特許文献2には、ポリオレフィン系樹脂、無機粉体及び可塑剤を主体とした原料組成物を加熱溶融・混練しながらシート状に成形し、前記可塑剤の一部又は全部を除去して得られた微多孔質膜からなる蓄電池用セパレータにおいて、前記無機粉体がpH6.5以下でsあることを特徴とする蓄電池用セパレータが提案されている
【0006】
特許文献3には、有機エキスパンダを添加された負極板を有する鉛蓄電池において、該負極板は鉱物性オイルを7~20%含有する微孔を有したポリエチレンシートからなる袋状セパレータに内包されていることを特徴とする鉛蓄電池が提案されている。特許文献3には、鉱物オイル量を25wt%とした比較例の電池A5は他のものに比較して放置前後の放電持続時間が短い傾向にあり、この傾向の理由は鉱物オイル量が過剰であるため、袋状セパレータの抵抗が増加したためと推測できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-211115号公報(請求項1)
【文献】特開2005-268006号公報(請求項1)
【文献】特開2006-114313号公報(請求項1、段落[0033])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
セパレータには、造孔剤としてオイルが含まれることがある。セパレータがオイルを含む場合、セパレータの抵抗が大きくなる。セパレータからオイルを除去すると、セパレータの抵抗を小さくなるが、鉛蓄電池の高温過充電寿命が短くなる。特許文献2のように、セパレータに含まれる無機粉体のpHを6.5以下にすると、セパレータの電解液に対する濡れ性をある程度高まると考えられる。しかし、セパレータに含まれる無機粉体のpHを6.5以下にしても、充放電の条件によっては、十分に低抵抗化することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板の間に介在するセパレータとを備え、
前記セパレータは、
ポリオレフィンとオイルとを含み、
細孔容積Aが0.80cm/g以上1.55cm/g以下であり、
細孔表面積Bが65cm/g以上116cm/g以下であり、
前記細孔容積Aと前記細孔表面積Bとの積Cが、92以上178以下である、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0010】
鉛蓄電池において、セパレータの抵抗を低く抑えながら、優れた高温過充電寿命を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る袋状セパレータの外観の平面模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す一部切り欠き斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係るセパレータのLog微分細孔容積分布を示すグラフである。
図4】従来のセパレータのLog微分細孔容積分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、正極板および負極板の間に介在するセパレータとを備える。セパレータは、ポリオレフィンとオイルとを含み、細孔容積Aが0.80cm/g以上1.55cm/g以下であり、細孔表面積Bが65cm/g以上116cm/g以下であり、細孔容積Aと細孔表面積Bとの積Cが92以上178以下である。
【0013】
一般に、セパレータには、造孔剤または添加剤などとしてオイルが含まれることがある。セパレータにオイルが含まれると、絶縁性のオイルが細孔を塞ぐため、セパレータの抵抗は大きくなる傾向がある。セパレータの抵抗が大きくなり過ぎると、始動性などの鉛蓄電池の特性が低下する。セパレータからオイルを除去すると、電解液の拡散性が高まるため、セパレータの抵抗は低減するが、高温過充電試験におけるセパレータの酸化劣化が顕著になり、寿命が短くなる。
【0014】
本発明では、ポリオレフィンとオイルとを含むセパレータにおいて、細孔容積Aと、細孔表面積Bとを調節し、、かつこれらの積Cを所定の範囲に制御する。これにより、セパレータの細孔構造が最適化され、セパレータ内にオイルを保持し、かつ電解液の拡散性が高まり、セパレータの抵抗が低減する。セパレータ内に保持されたオイルにより、高温で過充電する場合においても、セパレータを構成するポリオレフィンの酸化劣化が抑制されるため、優れた高温過充電寿命となる。また、セパレータが低抵抗化になるため、鉛蓄電池の始動性が高まる。
【0015】
積Cは、電解液の拡散性に関係する数値であり、単位はcm/gである。積Cが92未満では、セパレータ内の電解液の拡散性を十分に確保することができず、セパレータの抵抗が大きくなる。積Cが178を超えると、電解液の拡散性が高くなりすぎて、セパレータの酸化劣化が顕著になる。また、セパレータの物理的強度が弱まり、高温過充電試験時にはセパレータの酸化劣化の影響もあって、破損し易くなる。その結果、高温過充電寿命が短くなる。
【0016】
細孔容積Aおよび細孔表面積Bは、それぞれ、未使用のセパレータか、または使用初期の鉛蓄電池から取り出したセパレータについて、水銀圧入法により測定される。
なお、本明細書中、使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0017】
上記セパレータに含まれるオイルの含有量は、細孔容積Aと相関関係にある。一方、セパレータがある程度の量のオイルを含有する場合であっても、細孔構造によって、充放電によりオイルがセパレータから抜け出てしまったり、電解液の拡散性が高すぎたり、またはセパレータの強度が低かったりして、高温過充電寿命が短くなることがある。本発明では、細孔容積Aに加え、細孔表面積Bおよび積Cを上記の範囲に制御することで、充放電によりオイルが抜け出ることが低減されるとともに、電解液の適度な拡散性およびセパレータの物理強度を確保できる。つまり、本発明では、セパレータ中に、オイルの保持および電解液の拡散に適した、サイズの小さな細孔が多く形成される。このような細孔構造により、セパレータの抵抗を低く抑えながらも、優れた高温過充電寿命を確保できると考えられる。
【0018】
より具体的には、細孔容積Aおよび細孔表面積Bは、セパレータを縦20mm×横5mmのサイズにカットしたサンプルについて、水銀ポロシメータ((株)島津製作所製、オートポアIV9510)を用いて測定される。なお、測定の圧力範囲は、4psia(≒27.6kPa)以上60,000psia(≒414MPa)以下とする。また、細孔分布は、細孔径0.01μm以上50μm以下の範囲を用いる。
【0019】
測定用の上記サンプルは、未使用のセパレータか、または解体した鉛蓄電池から取り出し、洗浄および乾燥したセパレータを、上記のサイズにカットすることにより作製される。鉛蓄電池から取り出したセパレータの洗浄および乾燥は、次の手順で行われる。鉛蓄電池から取り出したセパレータを純水中に1時間浸漬し、セパレータ中の硫酸を除去する。次いでセパレータを浸漬していた液体から取り出して、25℃環境下で、16時間以上静置し、乾燥させる。なお、セパレータを鉛蓄電池から取り出す場合、セパレータは、満充電状態の鉛蓄電池から取り出される。
【0020】
本明細書中、鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2006の定義によって定められる。より具体的には、鉛蓄電池を、定格容量に記載の数値の1/20の電流で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧または温度換算した電解液密度が3回連続して一定値を示すまで充電した状態を満充電状態とする。なお、充電は、鉛蓄電池の電解液が規定の液面まで満たされた状態で行われる。
【0021】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電したものをいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。
【0022】
セパレータは、0.03μm以下の細孔径を有する細孔(以下、第1細孔と称する。)を含むことが好ましい。セパレータが、このように細孔径が小さな第1細孔を有することで、充放電によりセパレータからオイルが抜け出るのを低減できるとともに、電解液の拡散性をある程度確保できる。第1細孔の細孔容積(以下、細孔容積A1と称する。)は、0.20cm/g以上であることが好ましい。また、第1細孔の細孔容積A1の細孔容積Aに占める比率(=A1/A×100)は、21%以上であることが好ましい。細孔容積A1および/またはA1の比率がこのような範囲である場合、充放電におけるオイルの高い保持性を確保しながら、電解液の高い拡散性を確保できる。
【0023】
セパレータ中のオイルの含有量は、13質量%以上が好ましい。この場合、セパレータの酸化劣化を抑制する効果がさらに高まり、優れた高温過充電寿命を確保し易くなる。
【0024】
セパレータ中のオイルの含有量は、未使用のセパレータ、または上記と同様の手順で鉛蓄電池から取り出し、洗浄および乾燥させたセパレータについて測定される値である。
未使用または上記の乾燥後のセパレータからは、下記の手順でオイルの含有量が算出される。まず、未使用または乾燥後のセパレータを短冊状にカットしたサンプルを、0.5g(初期のサンプルの質量:m)秤量し、採取する。セパレータがリブ部を有する場合、サンプルは、リブ部を有さない領域から採取される。サンプルを、適当な大きさのガラス製ビーカーに入れ、n-ヘキサン50mLを加える。次いで、ビーカーごと、サンプルに約30分間、超音波を付与することにより、サンプル中に含まれるオイル分をn-ヘキサン中に溶出させる。サンプルを取り出し、大気中、室温(20℃以上35℃以下の温度)で乾燥させた後、秤量して、オイル除去後のサンプルの質量(m)を求める。そして、下記式により、オイルの含有量を算出する。
オイルの含有量(質量%)=(m-m)/m×100
【0025】
セパレータは、無機粒子を含んでもよい。セパレータが無機粒子を含むことで、セパレータ中の細孔構造を最適化し易くなり、比較的容易に、細孔容積A、細孔表面積B、および積Cを上記の範囲に調節できる。その結果、セパレータの低抵抗と、高温過充電寿命とのバランスを取り易くなる。
【0026】
本発明の鉛蓄電池は、セパレータの抵抗が低く抑えられるため、大きな電流が必要となる用途に適している。車両を始動する際には、最初に大きな電流が必要となる。そのため、鉛蓄電池は、車両の始動用として用いるのに特に適している。
【0027】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータの具体例について、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係る袋状のセパレータ100の外観を示す平面模式図である。袋状セパレータ100は、袋の2倍の面積を有するシート状の微多孔膜を折り目101で二つ折りにした形状を有する。すなわち、シート状の微多孔膜は、折り目101によって互いに対面する第1部分と第2部分とに区画されている。
【0029】
第1部分および第2部分は、それぞれ電極板と対向する要部106と、要部106と折り目101の両側に設けられた端部108a、108bとを有する。要部106および端部108a、108bの大部分は、それぞれベース部102で構成されている。要部106のベース部102の外面には複数の主リブ104aが設けられ、端部108a、108bのベース部102の外面には、主リブ104aよりも突出高さの小さい複数のミニリブ104bが設けられている。
【0030】
主リブ104aおよびミニリブ104bは、例えば電極板近傍における電解液の拡散性を高める作用を有する。
【0031】
なお、主リブ104aおよびミニリブ104bは、いずれも必須ではない。また、主リブ104aおよびミニリブ104bの少なくとも一方をベース部102(袋)の内面に設けてもよく、内面と外面の両方に設けてもよい。
【0032】
第1部分および第2部分の端部108a、108bは、それぞれ溶着部109a、109bを有する。溶着部109a、109bでは、互いに対向する第1部分と第2部分とが溶着により接合されている。
【0033】
ベース部101の厚みは、例えば0.15mm以上0.25mm以下もしくは0.15mm以上0.20mm以下である。ベース部の厚みは、セパレータの断面写真において、任意に選択した5箇所についてベース部の厚みを計測し、平均化することにより求められる。
【0034】
主リブ104aの高さは、例えば0.4mm以上0.8mm以下である。ミニリブ104bの高さは、例えば0.05mm以上0.3mm以下である。各リブの高さは、ベース部の一方の主面において、リブの任意に選択される10箇所において計測したリブのベース部からの高さを平均化することにより求められる。
【0035】
ベース部の厚み、各リブの高さの測定には、未使用のセパレータまたは、上述の手順で鉛蓄電池から取り出して洗浄および乾燥したセパレータを用いる。
【0036】
なお、図1に示す実施形態は、本発明の一態様に過ぎず、例えば袋状ではないシート状のセパレータを負極板と正極板との間に挟んでもよい。
【0037】
セパレータは、例えば、ポリオレフィンと、造孔剤と、浸透剤(界面活性剤)とを含む樹脂組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去することにより得られる。少なくとも一部の造孔剤を除去することで、ポリオレフィンのマトリックス中に微細孔が形成される。樹脂組成物は、さらに無機粒子を含んでもよい。
【0038】
ポリオレフィンは、例えば、少なくともエチレンおよび/またはプロピレンをモノマー単位として含む重合体が好ましい。ポリオレフィンは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンおよび/またはプロピレンをモノマー単位として含む共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体など)がより好ましく、特に、ポリエチレンが好ましい。
【0039】
無機粒子は、例えば、シリカ、アルミナ、チタニアなどのセラミックス粒子などが好ましい。
セパレータ中の無機粒子量は、ポリオレフィン100質量部あたり、例えば100質量部以上300質量部以下であり、120質量部以上200質量部以下であってもよい。
【0040】
セパレータ中に占める無機粒子の含有量は、例えば、40質量%以上80質量%以下であり、50質量%以上75質量%以下であってもよく、50質量%以上70質量%以下であってもよい。
【0041】
なお、セパレータ中に占める無機粒子の含有量は、上述の手順で、鉛蓄電池から取り出し、洗浄および乾燥したセパレータを測定試料として用いて、下記の手順で求められる。測定試料を正確に秤量した後、白金坩堝中に入れ、ブンゼンバーナーで白煙が出なくなるまで加熱する。次に、電気炉(酸素気流中、550℃)で、試料を約1時間加熱して灰化し、灰化物を秤量する。上記の測定試料の質量に占める灰化物の質量の比率を算出し、上記の無機粒子の含有量(質量%)とする。
【0042】
造孔剤は、オイルなどの液状造孔剤を用いることができる。造孔剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。造孔剤は、液状造孔剤と、固形造孔剤とを併用してもよい。液状造孔剤は、鉱物オイル、合成オイルなどが好ましい。液状造孔剤は、例えば、パラフィンオイル、シリコーンオイルなどが挙げられる。固形造孔剤は、例えば、ポリマー粉末などが挙げられる。
【0043】
セパレータ中の造孔剤量は、ポリオレフィン100質量部あたり、例えば30質量部以上60質量部以下である。
【0044】
セパレータ中のオイルの含有量は、例えば、10質量%以上であり、13質量%以上が好ましい。オイルの含有量がこのような範囲である場合、優れた高温過充電寿命を確保し易い。セパレータ中のオイルの含有量は、例えば、20質量%以下であり、18.0質量%以下であることが好ましく、17.5質量%以下であることがさらに好ましい。オイルの含有量がこのような範囲である場合、セパレータは低抵抗になる。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。セパレータ中のオイルの含有量は、既述の手順で測定される。
【0045】
リブは、押出成形する際にシートに形成してもよく、シート状に成形した後または造孔剤を除去した後に、リブに対応する溝を有するローラでシートを押圧することにより形成してもよい。
【0046】
セパレータの細孔容積Aは、0.80cm/g以上であり、1.0cm/g以上としてもよい。細孔容積Aが0.80cm/g未満では、セパレータの低抵抗化が不十分である。セパレータの細孔容積Aは、1.55cm/g以下であり、1.2cm/g以下としてもよい。細孔容積Aが1.55cm/gを超えると、セパレータの物理強度が弱まり、高温過充電試験中に破れるため、高温過充電寿命が短くなる。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0047】
細孔容積Aは、ポリオレフィンと造孔剤および/または浸透剤との親和性を調節したり、無機粒子の種類および/または粒子径を選択したり、浸透剤の量を調節したり、ならびに/もしくは造孔剤の除去量を調節したりすることにより、調節できる。一般に、残存する造孔剤の量によってセパレータの細孔容積Aは変化する。セパレータ中に残存する造孔剤が少ないと、セパレータの細孔数は多くなり、セパレータの抵抗は低くなるが、高温での耐久性は低下する。一方、セパレータ中に残存する造孔剤が多いと、セパレータの細孔数は少なくなり、抵抗が大きくなるが、高温耐久性は良化する。そのため、造孔剤を一部除去する際、除去量を制御することが好ましい。
【0048】
セパレータの細孔表面積Bは、65cm/g以上であり、70cm/g以上または80cm/g以上としてもよい。細孔表面積Bが65cm/g未満の場合、電解液の拡散性が低く、セパレータの低抵抗化が不十分である。セパレータの細孔表面積Bは、116cm/g以下であり、115cm/g以下であってもよい。細孔表面積Bが、116cm/gを超えると、電解液の拡散性が高くなり過ぎて、高温過充電寿命が短くなる。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0049】
細孔容積Aと細孔表面積Bとの積Cは、92以上であり、95以上であってもよく、100以上であってもよい。積Cは、178以下であり、160以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。積Cがこのような範囲であることで、セパレータの低抵抗化と、優れた高温過充電寿命とを両立できる。
【0050】
セパレータ内の細孔構造および細孔表面積Bは、ポリオレフィンと造孔剤または浸透剤との親和性を調節したり、造孔剤の分散性を調節したり、無機粒子の種類または粒子径を選択したり、浸透剤の種類を選択したり、浸透剤の量を調節したり、もしくは、無機粒子の表面に存在する官能基おまたは原子などの量を調節したりすることにより、調節できる。例えば、無機粒子の表面の-ONa基の量を低減すると(例えば、セパレータ中のNa含有量にして1000μg/cm以下または500μg/cm以下に低減すると)、理由は定かではないが、セパレータの細孔構造を制御し易い。より具体的には、セパレータのLog微分細孔容積分布において、0.03μm以下(好ましくは0.03μm未満(例えば、0.02μm付近))の領域に特有のピークが見られるようになる。その結果、そのような範囲に明確なピークが見られない従来のセパレータと比較して、全細孔容積が10%程度増加される。このような細孔容積分布の変化が、セパレータの抵抗成分の低減に関連していると推測される。-ONa基の量を調節し易くできるため、無機粒子として、シリカ粒子を用いることが好ましい。
【0051】
セパレータのLog微分細孔容積分布は、細孔容積Aおよび細孔表面積Bと同様にして測定される細孔分布から求められる。
【0052】
無機粒子中のNaの含有量を低減すると、セパレータ中のNa含有量も低下するため、鉛蓄電池から取り出したセパレータについてNa含有量を測定すれば、無機粒子中のNa含有量をある程度見積もることができる。セパレータ中のNa含有量とは、セパレータの見かけの体積1cmあたりのNa含有量(μg)である。
【0053】
セパレータ中のNa含有量の測定は、上述の手順で鉛蓄電池から取り出して洗浄および乾燥したセパレータを測定試料として用いて行われる。セパレータ中のNa含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)により分析することで得られる。具体的には、まず、約15cmの面積を有する測定試料を白金坩堝中に入れ、ブンゼンバーナーで白煙が出なくなるまで加熱する。次に、電気炉(酸素気流中、550℃)で、試料を約1時間加熱して灰化する。灰化後の試料に、30質量%濃度の硝酸水溶液を5mL加え、更に50質量%濃度のフッ化水素酸水溶液を2mL加えて攪拌し、灰分を酸に完全に溶解させる。次に、灰分の酸溶液にイオン交換水を加え、定容後、ICP発光分析装置でNa濃度を測定する。測定装置には、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のiCAP7400が用いられる。なお、測定試料の質量、使用酸量等は、セパレータに含まれるNa含有量により適宜変更してよい。
【0054】
このように、本発明に係る鉛蓄電池において、セパレータは、細孔構造が最適化され、小さな細孔(例えば、0.03μm以下(または0.03μm未満)の細孔径を有する第1細孔)を含むことができる。第1細孔がセパレータ中に形成されることで、セパレータの低抵抗と優れた高温過充電寿命とを両立し易くなる。
【0055】
第1細孔の細孔容積A1が大きくなると、オイルを保持し易くなるとともに、電解液の高い拡散性を確保し易くなる。第1細孔の細孔容積A1は、0.20cm/g以上であることが好ましく、0.23cm/g以上または0.24cm/g以上であることがさらに好ましい。同様の理由で、第1細孔の細孔容積A1の細孔容積Aに占める比率は、21%以上であることが好ましく、22%以上であることがさらに好ましい。なお、第1細孔の細孔容積A1の上限は、特に制限されず、細孔容積Aの上限以下であればよく、1cm/g以下または0.5cm/g以下であってもよい。細孔容積A1の細孔容積Aに占める比率の上限も特に制限されず、100%以下であればよく、50%以下または30%以下であってもよい。細孔容積A1およびその比率のそれぞれについて、これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。細孔容積A1は、細孔分布における細孔径0.03μm以下(または0.03μm未満)の範囲を用いて、細孔容積Aの場合に準じて測定される。この測定値が細孔容積Aに占める比率を計算することにより、細孔容積A1の比率(%)が得られる。
【0056】
浸透剤としての界面活性剤は、イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれであってもよい。界面活性剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
セパレータ中の浸透剤量は、ポリオレフィン100質量部あたり、例えば、0.1量部以上10質量部以下であり、0.5質量部以上5質量部以下であってもよい。
【0057】
セパレータ中に占める浸透剤の含有量は、例えば、0.01質量%以上10質量%以下であり、0.1質量%以上5質量%以下であってもよい。
【0058】
なお、セパレータ中に占める浸透剤の含有量は、未使用のセパレータまたは、上述の手順で鉛蓄電池から取り出し、洗浄および乾燥したセパレータを測定試料として用いて、下記の手順で求められる。まず、約15cmの面積を有する測定試料を正確に秤量した後、室温(20℃以上35℃以下の温度)で大気圧より低い減圧環境下で、12時間以上乾燥させる。乾燥物を白金セルに入れて、熱重量測定装置にセットし、昇温速度10K/分で、室温から800℃まで昇温する。室温から250℃まで昇温させたときの重量減少量を浸透剤の質量とし、上記の測定試料の質量に占める浸透剤の質量の比率を算出し、上記の浸透剤の含有量(質量%)とする。熱重量測定装置は、T.A.インスツルメント社製のQ5000IRが使用される。
【0059】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液である。また、電解液は、Alイオン、および/またはNaイオンを含んでもよい。電解液は、その他の添加剤を含んでもよい。電解液は、必要に応じてゲル化させてもよい。
【0060】
電解液が、Alイオンを含む場合、浸透短絡を抑制できる。電解液中のAlイオン濃度は、例えば0.02mol/L以上0.2mol/L以下である。Alイオンは、例えば、アルミニウム化合物(例えば、硫酸アルミニウムなどの無機酸のアルミニウム塩など)を電解液に溶解させることにより電解液に含有できる。
【0061】
電解液中のAlイオン濃度は、既化成の満充電状態の鉛蓄電池から取り出した電解液のICP-AES原子吸光分析法により求められる。より具体的には、鉛蓄電池から電解液を計量採取し、イオン交換水を加えて定容後、ICP発光分析装置でAlイオン濃度を測定する。測定装置には、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のiCAP7400が用いられる。
【0062】
既化成で満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.10g/cm3以上1.35g/cm3以下である。
【0063】
(負極板)
鉛蓄電池の負極板は、負極集電体と、負極電極材料とで構成されている。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法は、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として負極格子を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0064】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。
【0065】
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含んでおり、防縮剤、カーボンブラックのような炭素質材料、硫酸バリウムなどを含んでもよく、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0066】
未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0067】
負極板は、負極集電体に、負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成工程では、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0068】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0069】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板には、ペースト式とクラッド式がある。
ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いたものである。正極集電体は、負極集電体と同様に形成することができ、鉛または鉛合金の鋳造や、鉛または鉛合金シートの加工により形成できる。
【0070】
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。クラッド式正極板では、正極電極材料は、正極板から、チューブ、芯金、および連座を除いたものである。
【0071】
正極集電体に用いる鉛合金は、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は複数でもよい。芯金には、Pb-Ca系合金やPb-Sb系合金を用いることが好ましい。
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0072】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。その後、未化成の正極板を化成する。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸を練合することで調製される。
クラッド式正極板は、芯金が挿入されたチューブに鉛粉または、スラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。
【0073】
(繊維マット)
鉛蓄電池は、さらに、正極板と負極板との間に介在する繊維マットを備えていてもよい。繊維マットは、セパレータとは異なり、シート状の繊維集合体を含む。このような繊維集合体は、電解液に不溶な繊維が絡み合ったシートが使用される。このようなシートには、例えば、不織布、織布、編み物などがある。繊維マットの例えば60質量%以上が繊維で形成されている。
【0074】
繊維は、ガラス繊維、ポリマー繊維、パルプ繊維などを用いることができる。ポリマー繊維の中では、ポリオレフィン繊維が好ましい。
【0075】
図1に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0076】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0077】
上記側面に係る鉛蓄電池では、セパレータが低抵抗化されるとともに、優れた高温過充電寿命が得られる。セパレータの抵抗は、鉛蓄電池の始動性の評価により評価することができる。鉛蓄電池の始動性および高温過充電寿命は、下記の手順で評価される。
【0078】
(1)鉛蓄電池の始動性
JIS D 5301:2006に準拠して、次の手順で、放電開始後5秒目の端子電圧を測定し、この端子電圧に基づいて鉛蓄電池の始動性を評価する。端子電圧が高いほど始動性が高く、セパレータの抵抗が低いことを意味する。
(a)満充電が完了後、最低16時間、蓄電池を-15℃±1℃の冷却室に置く。
(b)中央にあるいずれかのセルの電解液温度が-15℃±1℃であることを確認後、蓄電池を放電電流150Aで、端子電圧が6Vに低下するまで放電する。
(c)放電開始後 5秒目の端子電圧を記録する。
【0079】
(2)高温過充電寿命
下記の手順で、高温過充電耐久試験を行い、鉛蓄電池の寿命を測定する。
(a)全試験期間を通して、蓄電池を75℃±3℃の気槽中に置く。
(b)蓄電池を寿命試験装置に接続し、連続的に次に示す放電及び充電のサイクルを繰り返す。この放電と充電とのサイクルを寿命1回(1サイクル)とする。
放電:放電電流25.0A±0.1Aで60秒±1秒
充電:充電電圧14.80V±0.03V(制限電流25.0A±0.1A)で600秒±1秒
(c)試験中、480サイクルごとに56時間放置し、その後定格コールドクランキング電流390Aで30秒間連続放電を行い、30秒目電圧を記録する。その後、(b)の充電を行う。なお、この放電及び充電も寿命回数(サイクル数)に加算する。
(d)試験の終了は、(c)の試験で測定した30秒目電圧が7.2V以下となり、再び上昇しないことを確認したときを電池寿命とする。
なお、定格コールドクランキング電流とは、エンジン始動性能を表す尺度で、-18℃±1℃の温度で放電し、30秒目電圧が7.2V以上となるように定められた放電電流のことである。
【0080】
[実施例]
以下、本発明を、実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
《鉛蓄電池A1~A12およびR1~R14》
(1)負極板の作製
鉛酸化物、カーボンブラック、硫酸バリウム、リグニン、補強材(合成樹脂繊維)、水および硫酸を混合して負極ペーストを調製した。負極ペーストをアンチモンフリーのPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、幅100mm、高さ110mm、厚さ1.3mの未化成の負極板を得た。カーボンブラック、硫酸バリウム、リグニンおよび合成樹脂繊維の量は、既化成の満充電の状態で測定したときに、それぞれ0.3質量%、2.1質量%、0.1質量%および0.1質量%になるように調節した。
【0082】
(2)正極板の作製
鉛酸化物、補強材(合成樹脂繊維)、水および硫酸を混合して正極ペーストを調製した。正極ペーストをアンチモンフリーのPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、幅100mm、高さ110mm、厚さ1.6mmの未化成の正極板を得た。
【0083】
(3)セパレータ
ポリエチレン100質量部と、シリカ粒子160質量部と、造孔剤としてのパラフィン系オイル80質量部と、2質量部の浸透剤を含む樹脂組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤の一部を除去することにより、既述の手順で求められる細孔容積Aおよび細孔表面積Bが表1に示す値である微多孔膜を作製した。次に、各シート状の微多孔膜を二つ折りにして袋を形成し、端部に溶着部を形成して、図1に示すような袋状セパレータを得た。
【0084】
なお、ポリエチレン、シリカ粒子、造孔剤および浸透剤を含む樹脂組成物の組成は、セパレータの設計、製造条件、および/または鉛蓄電池の使われ方等により、任意に変更され得る。また、必要に応じて、セパレータ中のNa含有量、浸透剤の量、および/または造孔剤の除去量などが調節される。
【0085】
袋状セパレータの外面には、突出高さ0.5mmおよび0.18mmのストライプ状の複数の主リブとミニリブを設けた。主リブのピッチは9.8mm、ミニリブのピッチは1mmとした。セパレータの総厚は0.8mmとした。セパレータ中に占めるシリカ粒子の含有量は、60質量%であった。なお、セパレータの総厚み、リブの突出高さ、リブのピッチ、およびシリカ粒子の含有量は、鉛蓄電池の作製前のセパレータについて求めた値であるが、作製後の鉛蓄電池から取り出したセパレータについて既述の手順で測定した値とほぼ同じである。
【0086】
(4)鉛蓄電池の作製
未化成の各負極板を、袋状セパレータに収容し、セル当たり未化成の負極板7枚と未化成の正極板6枚とで極板群を形成した。正極板の耳同士および負極板の耳同士をそれぞれキャストオンストラップ(COS)方式で正極棚部および負極棚部と溶接した。極板群をポリプロピレン製の電槽に挿入し、電解液を注液して、電槽内で化成を施して、定格電圧12Vおよび定格容量が30Ah(5時間率容量(定格容量に記載の数値の1/5の電流で放電するときの容量))の液式の鉛蓄電池A1~A12およびR1~R14を組み立てた。なお、電槽内では6個の極板群が直列に接続されている。
【0087】
電解液は硫酸水溶液に硫酸アルミニウムを溶解させたものを用いた。化成後の電解液の20℃における比重は1.285であり、Alイオン濃度は0.2質量%であった。
【0088】
[評価1:鉛蓄電池の始動性]
既述の手順で、各鉛蓄電池の放電開始後5秒目の端子電圧(V)を求めた。
【0089】
[評価2:高温過充電寿命]
既述の手順で、各鉛蓄電池の高温過充電耐久試験における寿命サイクル数を測定した。
【0090】
[評価3:セパレータ中のオイルの含有量]
作製後の鉛蓄電池から取り出したセパレータについて、オイルの含有量を既述の手順で求めた。
【0091】
[評価4:Log微分細孔容積分布]
既述の手順で、電池A7のセパレータのLog微分細孔容積分布を求めた。結果を図3(Log微分細孔容積(dV/dlogD)と細孔径(Pore diameter)との関係)に示す。また、同様にして、電池R4のセパレータのLog微分細孔容積分布を求めた。結果を図4に示す。
【0092】
評価1~3の結果を表1に示す。表1には、細孔容積Aおよび最高表面積Bの積Cについても記載している。
【0093】
【表1】
【0094】
表1に示されるように、細孔容積Aが0.80cm/g以上1.55cm/g以下であり、細孔表面積Bが65cm/g以上116cm/g以下であり、積Cが、92以上180以下である鉛蓄電池Aは、鉛蓄電池の始動性が高く(つまり、セパレータの抵抗が低い)かつ、優れた高温過充電寿命を確保できている。それに対し、細孔容積A、細孔表面積B、および積Cのいずれかが上記の範囲外である鉛蓄電池Rでは、高い始動性と優れた高温過充電寿命とを両立できていない。Cが92未満である場合、AおよびBが上記の範囲内であっても、始動性が低くなった。これは、電解液の拡散性が不十分で、セパレータを低抵抗化することが困難であったためと考えられる。Cが178を超えると、高温過充電寿命が短くなる。また、Cが上記の範囲内でも、Bが116cm/gを超えると、高温過充電寿命が短くなる。これらは、電解液の拡散性が高くなりすぎて、セパレータの酸化劣化が顕著になったことによるものと考えられる。Cが上記の範囲内でも、Bが65cm/g未満では、始動性が低下する。これは、セパレータ中の電解液の拡散性が低いことで、セパレータの抵抗が高くなったことによるものと考えられる。また、Aが0.80cm/g未満の場合、始動性が低下する。これは、セパレータ中の電解液の拡散性が低いために、セパレータの抵抗が高くなったためと考えられる。Aが1.55cm/gを超えると、高温過充電寿命が短くなるが、これは、セパレータの物理強度が弱まり、高温過充電寿命中に破損したためと考えられる。
【0095】
Cが、上記の範囲である場合に、高い始動性と、優れた高温過充電寿命とを両立できるのは、セパレータの細孔構造が最適化されているためと考えられる。図3に示すように、Cが上記の範囲である場合には、セパレータのLog微分細孔容積分布において、細孔径が0.03μm以下(好ましくは0.03μm未満)の領域に特有のピークが得られる。それに対し、Cが上記の範囲外である場合には、このようなピークはほとんど確認できない。このように、Cが上記の範囲である場合には、このような小さな細孔径の孔が多く形成されることで、セパレータの低抵抗を確保しながら、優れた高温過充電寿命を確保できると考えられる。鉛蓄電池A10と鉛蓄電池R7とについて、セパレータの第1細孔の細孔容積A1、および細孔容積A1が細孔容積Aに占める比率を既述の手順で求めたところ、鉛蓄電池R7のセパレータでは、細孔容積A1は、0.19cm/gであり、細孔容積A1の細孔容積Aに占める比率は、20%であった。一方、鉛蓄電池A10のセパレータでは、細孔容積A1は、0.24cm/g、細孔容積A1の細孔容積Aに占める比率は、22%と、いずれも鉛蓄電池R7に比べて大きくなっている。そして、これらの数値の違いが、セパレータの抵抗および鉛蓄電池の高温過充電寿命に大きく影響していると考えられる。なお、これらの細孔容積A1およびその比率の数値は、0.03μm未満の細孔径を有する細孔を第1細孔として求めた値である。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明に係る鉛蓄電池用セパレータは、制御弁式および液式の鉛蓄電池に適用可能である。例えば、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0097】
1:鉛蓄電池、2:負極板、3:正極板、4:セパレータ、5:正極棚部、6:負極棚部、7:正極柱、8:貫通接続体、9:負極柱、11:極板群、12:電槽、13:隔壁、14:セル室、15:蓋、16:負極端子、17:正極端子、18:液口栓、100:セパレータ、101:折り目、102:ベース部、104a:主リブ、104b:ミニリブ、106:要部、108a、108b:端部、109a、109b:溶着部

図1
図2
図3
図4