(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用セパレータおよび鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/443 20210101AFI20230719BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20230719BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20230719BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20230719BHJP
H01M 10/06 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
H01M50/443 M
H01M50/489
H01M50/446
H01M50/417
H01M10/06 L
(21)【出願番号】P 2020549229
(86)(22)【出願日】2019-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2019037309
(87)【国際公開番号】W WO2020067031
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2018180163
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】安藤 和成
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悦子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 肇
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/068741(WO,A1)
【文献】特開2017-045539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40
H01M 10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンとシリカとを含み、
Na含有量が1000μg/cm
3以下である、鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項2】
Na含有量が500μg/cm
3以下である、請求項1に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項3】
電極板と対向する要部のベース部の厚みが0.15mm以上、0.25mm以下である、請求項1または2に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項4】
正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板の間に介在するセパレータと、電解液とを備え、
前記セパレータは、ポリオレフィンとシリカとを含み、かつNa含有量が1000μg/cm
3以下である、鉛蓄電池。
【請求項5】
前記電解液がAlイオンを0.02mol/L以上、0.2mol/L以下の濃度で含む、請求項4に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用セパレータおよび鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、負極板および正極板の間に介在するセパレータと、電解液とを含む。
【0003】
一般的に鉛蓄電池用セパレータは、ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを押出成形することにより製造されている(特許文献1)。近年、アイドリングストップ車の普及に伴い、鉛蓄電池に対して高い充電受入性が求められている。充電受入性を高める観点から、特許文献1は、20℃における比重が1.285であり、かつ70℃±2℃に加温した希硫酸に1時間浸漬したときにセパレータから希硫酸に溶出するナトリウム量を、セパレータ1gあたり3000μg以下に低減することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017-068741号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セパレータの物性は、鉛デンドライトによる浸透短絡の発生確率に大きな影響を与えるものと考えられる。一方、従来のセパレータを更に詳細に分析すると、特許文献1が提案するようにナトリウムを希硫酸に十分に溶出させた後においても、依然として多くのナトリウムが含まれていることが判明した。このような残留ナトリウムが浸透短絡の発生確率等に与える影響を調べたところ、明確な相関性が見られることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記知見を発端として達成されたものであり、その一側面は、ポリオレフィンとシリカとを含み、Na含有量が1000μg/cm3以下である、鉛蓄電池用セパレータに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の上記側面に係る鉛蓄電池用セパレータを用いることで、鉛デンドライトによる浸透短絡の発生確率を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る袋状セパレータの外観の平面模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す一部切り欠き斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るセパレータのLog微分細孔容積分布を示すグラフである。
【
図4】従来のセパレータのLog微分細孔容積分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータは、ポリオレフィンとシリカとを含むシート状の微多孔膜である。シリカは粒子状であり、耐酸性を有するポリオレフィンのマトリックス中に分散している。
【0010】
セパレータに含まれるNa含有量は1000μg/cm3以下である。すなわち、セパレータの見かけの体積1cm3あたりのNa含有量は、1000μg以下に制限されている。セパレータには、通常、造孔剤が含まれている。セパレータに含まれる造孔剤量は、電池内で徐々に減少し得るが、セパレータの見かけの体積はほとんど変化しない。よって、セパレータ中の造孔剤量の変化がセパレータの見かけの体積1cm3あたりのNa含有量に与える影響は無視できる。
【0011】
セパレータに含まれるNaは、主にシリカに由来すると考えられる。Na含有量が1000μg/cm3を超えて存在すると、過放電時にNaイオンが溶出しやすくなる。シリカは、中性からアルカリ性の領域で溶解する傾向があり、特にアルカリ性領域では溶解しやすい。中でもセパレータに含まれるシリカ粒子は微細であるため、比較的容易に溶解され得る。鉛蓄電池が過放電状態になると、電解液中の硫酸イオン(SO4
2-)が減少し、電解液のpHが7付近になることがあり、シリカの溶解が始まる。従来のセパレータの場合、シリカが溶解すると、シリカに結合していたNaイオンが溶出し、溶出したNaイオンによってOHイオンが生成するため、セパレータ近傍のpHが局所的に上昇してアルカリ性になる。アルカリ性の電解液によってセパレータからのシリカ溶出が更に促進され、次第にセパレータの構造が劣化し、浸透短絡の発生確率が大きくなるものと推定される。
【0012】
一方、セパレータにおけるNa含有量を1000μg/cm3以下に低減する場合、過放電時においても電解液のpHの局所的な上昇が抑制されるため、セパレータの劣化が抑制される。その結果、浸透短絡の発生確率が低減する。Na含有量が1000μg/cm3以下にまで低減された状態においても、なお残留するNaは、相対的に強固なシリカのマトリックスに固定されており、長期的に見ても過放電時にも溶出しにくくなるものと考えられる。よって、Na含有量が1000μg/cm3の場合と、それを超える場合との間には、浸透短絡の発生確率に臨界性が生じるものと考えられる。セパレータ中に残留するNa含有量を500μg/cm3以下にまで低減すると、浸透短絡の発生確率は更に顕著に低減される。
【0013】
電池に組み込まれる前、もしくは化成前の電池内における従来のセパレータに含まれるNa含有量は約3500μg/cm3である。このセパレータを20℃における比重が1.285であり、かつ70℃±2℃に加温した希硫酸に1時間浸漬すると、Na含有量は約1500μg/cm3に低減する。セパレータを20℃における比重が1.285であり、かつ70℃±2℃に加温した希硫酸に1時間浸漬することと、鉛蓄電池の化成条件とは概ね対応しているため、従来の既化成の鉛蓄電池に含まれているセパレータのNa含有量は約1500μg/cm3程度であると考えられる。
【0014】
化成時に溶出するNaイオンは、主として、セパレータに浸透性を付与する浸透剤(界面活性剤)に由来するものと考えられる。浸透剤由来のNaイオンは、セパレータが加温された希硫酸と接触することで容易に希硫酸に溶出する。一方、シリカ由来のNaイオンは、例えばSi-O-Na結合を形成しているため、セパレータ中に残留しやすい。化成後にセパレータ中に残留するシリカ由来のNaイオン量は、化成前の約半分程度である。
【0015】
なお、化成中にセパレータから電解液に溶出するNaイオンは浸透短絡の発生確率に大きな影響を与えない。化成中には電解液のpHが7付近になることがなく、シリカの溶解は生じない。セパレータから溶出するNaイオンにより仮にOHイオンが生成しても、電解液中の硫酸により直ちに中和されるため、セパレータ近傍のpHが局所的に上昇することもない。なお、元来、充電受入性を確保する観点等から、化成後の電解液にNaイオンが一定濃度で含まれるように、電解液にNa塩を添加するなどして電解液の組成が設計されている。電解液の組成の設計においては、化成時にセパレータを含む各部品から溶出するNaイオン濃度の上昇分も既に考慮されている。これらのNaイオンの電解液中での分布は通常均一である。均一に分布するNaイオンによって、セパレータ近傍のpHが局所的に上昇することはないと考えられる。
【0016】
セパレータ中のNa含有量は、シリカの製造プロセスに大きく依存する。セパレータに用いるシリカは、通常、湿式法で製造される。湿式法で製造されたシリカは、比表面積が大きく、表面にOH基を多く含むことから、セパレータ材料として適している。湿式法では、シリカを高温のアルカリ性溶液中で成長させることが多い。溶液のpHを酸性にシフトさせるとシリカ粒子の成長が停止する。より高いアルカリ性寄りのpHで粒子成長を止めると、シリカ表面は-Si-ONa構造もしくは-Si-O-Si-構造を多く含み得る。一方、より低い酸性寄りのpHで成長を止めると、シリカ表面は-Si-OH構造を多く含み得る。すなわち、溶液のpHを制御することで、-Si-ONa構造が少なく、-Si-OH構造を多く含むシリカを得ることができる。
【0017】
セパレータ中のNa含有量を1000μg/cm3以下に低減することで、鉛蓄電池の内部抵抗も低減する。その結果、コールドクランキング電流(CCA)が向上する。CCAは、鉛蓄電池の性能を示す指標の1つであり、例えば、定格電圧12Vの鉛蓄電池の場合、マイナス18℃±1℃の温度で放電したときに30秒後の電圧が7.2Vになる放電電流をいう。鉛蓄電池の内部抵抗が低減するメカニズムは明確ではないが、Na含有量を1000μg/cm3以下に低減すると、セパレータのLog微分細孔容積分布において、0.03μm以下(例えば0.02μm付近)の領域に特有のピークが見られるようになる。その結果、そのようなピークを有さない従来のセパレータと比較して全細孔容積が10%程度増加する。このような細孔容積分布の変化が、セパレータの抵抗成分の低減に関連しているものと推測される。
【0018】
セパレータは、例えば、二つ折りにされて袋状に形成されており、電極板と対向する要部と、折り目と交わるように要部の両側に設けられた溶着部とを有する。二つ折りにすることで対面させた溶着部同士は互いに溶着されている。要部は、ベース部と、ベース部の少なくとも一方の面(袋の内面と外面の少なくとも一方)に設けられた複数のリブとを有してもよい。浸透短絡の抑制と十分なCCAの確保を両立する観点から、ベース部の厚みは、例えば0.15mm以上、0.25mm以下であり、0.15mm以上、0.20mm以下であってもよい。ベース厚みを0.25mm以下とすることで、浸透短絡を抑制する効果を十分に確保しつつ、セパレータの抵抗成分の増大を抑制することができ、十分なCCAを確保しやすくなる。また、ベース厚みを0.15mm以上とすることで、セパレータの抵抗成分を十分に小さくするとともに、浸透短絡の発生を抑制する十分な効果を得やすくなる。
【0019】
次に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、正極板および負極板の間に介在する上記セパレータと、電解液とを備える。すなわち、セパレータは、ポリオレフィンとシリカとを含み、セパレータに含まれるNa含有量は1000μg/cm3以下である。
【0020】
電解液中には、Alイオンを0.02mol/L以上、0.2mol/L以下含有させてもよい。これにより、浸透短絡を抑制する効果が更に大きくなる。Alイオンを電解液に添加すると、Alイオンに水分子が配位するため、電解液のpHを弱酸性から微酸性にしようとする作用が働く。よって、電解液中の硫酸イオンがほとんどなくなる過放電状態でも、セパレータ近傍のpHの局所的な上昇が抑制されやすくなる。このようなAlイオンの効果は、セパレータに含まれるNa含有量が1000μg/cm3以下にまで低減されることで顕在化する。セパレータ中のNa含有量が1000μg/cm3を超えると、シリカの溶解によるNaイオンの溶出量とOHイオンの生成量が多くなり、Alイオンの作用が追いつかず、結局、セパレータ近傍のpHの局所的な上昇を抑制することが困難になる。
【0021】
なお、鉛蓄電池は、部分充電状態(PSOC)と呼ばれる充電不足状態で使用されることがある。例えば、アイドリングストップ(IS)車では、鉛蓄電池がPSOCで使用されることになる。IS車では、放電時の電解液中の硫酸濃度の低下が顕著になり、浸透短絡が起こり易い。上記側面に係るセパレータまたは鉛蓄電池では、セパレータのNa含有量が低減されているため、浸透短絡が起こり易いIS用電源に利用しても浸透短絡を効果的に抑制できる。
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池用セパレータの具体例について、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
図1に、本発明の一実施形態に係る袋状のセパレータ100の外観を示す平面模式図である。袋状セパレータ100は、袋の2倍の面積を有するシート状の微多孔膜を折り目101で二つ折りにした形状を有する。すなわち、シート状の微多孔膜は、折り目101によって互いに対面する第1部分と第2部分とに区画されている。
【0024】
第1部分および第2部分は、それぞれ電極板と対向する要部106と、要部106と折り目101の両側に設けられた端部108a、108bとを有する。要部106および端部108a、108bの大部分は、それぞれベース部102で構成されている。要部106のベース部102の外面には複数の主リブ104aが設けられ、端部108a、108bのベース部102の外面には、主リブ104aよりも突出高さの小さい複数のミニリブ104bが設けられている。
【0025】
主リブ104aおよびミニリブ104bは、例えば電極板近傍における電解液の拡散性を高める作用を有する。
【0026】
なお、主リブ104aおよびミニリブ104bは、いずれも必須ではない。また、主リブ104aおよびミニリブ104bの少なくとも一方をベース部102(袋)の内面に設けてもよく、内面と外面の両方に設けてもよい。
【0027】
第1部分および第2部分の端部108a、108bは、それぞれ溶着部109a、109bを有する。溶着部109a、109bでは、互いに対向する第1部分と第2部分とが溶着により接合されている。
【0028】
ベース部101の厚みは、例えば0.15mm以上、0.25mm以下もしくは0.15mm以上、0.20mm以下である。ベース部の厚みは、セパレータの断面写真において、任意に選択した5箇所についてベース部の厚みを計測し、平均化することにより求められる。
【0029】
主リブ104aの高さは、例えば0.4mm以上、0.8mm以下であればよい。ミニリブ104bの高さは、例えば0.05mm以上、0.3m以下であればよい。各リブの高さは、ベース部の一方の主面において、リブの任意に選択される10箇所において計測したリブのベース部からの高さを平均化することにより求められる。
【0030】
ベース部の厚み、各リブの高さは、既化成で満充電状態の鉛蓄電池から取り出して洗浄、真空乾燥(大気圧より低い圧力下で乾燥)したセパレータについて求めるものとする。
【0031】
なお、
図1に示す実施形態は、本発明の一態様に過ぎず、例えば袋状ではないシート状のセパレータを負極板と正極板との間に挟んでもよい。
【0032】
セパレータは、例えば、ポリオレフィンと、シリカ粒子と、造孔剤と、浸透剤(界面活性剤)とを含む樹脂組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を部分的に除去することにより得られる。造孔剤を除去することで、ポリオレフィンのマトリックス中に微細孔が形成される。
【0033】
一般に、残存する造孔剤の量によってセパレータの細孔容積は変化する。セパレータ中に残存する造孔剤が少ないと、セパレータの細孔数は多くなり、セパレータの抵抗は低くなるが、高温での耐久性は低下する。一方、セパレータ中に残存する造孔剤が多いと、セパレータの細孔数は少なくなり、抵抗が大きくなるが、高温耐久性は良化する。そのため、造孔剤を一部除去する際、除去量を制御することが重要である。
【0034】
ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが好ましく、ポリエチレンがより好ましい。造孔剤は、ポリマー粉末などの固形造孔剤および/またはオイル(鉱物オイル、合成オイル等)などの液状造孔剤を用い得る。セパレータ中のシリカ粒子量は、ポリオレフィン100質量部あたり、例えば120質量部以上、200質量部以下である。セパレータ中の造孔剤量は、経時的に変化するために一概にはいえないが、ポリオレフィン100質量部あたり、例えば30質量部以上、60質量部以下である。
【0035】
リブは、押出成形する際にシートに形成してもよく、シート状に成形した後または造孔剤を除去した後に、リブに対応する溝を有するローラでシートを押圧することにより形成してもよい。
【0036】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、Alイオンを含んでもよい。電解液は、必要に応じてゲル化させてもよい。また、電解液は、Naイオンを含んでもよく、その他の添加剤を含んでもよい。
【0037】
電解液中のAlイオン濃度は、例えば0.02mol/L以上、0.2mol/L以下である。Alイオン濃度を0.02mol/L以上とすることで、浸透短絡を抑制する効果が顕著に増加する。また、Alイオン濃度を0.2mol/L以下とすることで、過放電後の高い充電受入性を確保し得る。
【0038】
Alイオンは、例えば、アルミニウム化合物を電解液に溶解させることにより電解液に含有させることができる。アルミニウム化合物は、硫酸水溶液に溶解するものであればよく、例えば無機酸のアルミニウム塩などが使用され、中でも硫酸アルミニウムが好ましい。
【0039】
既化成で満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.10g/cm3以上1.35g/cm3以下である。
【0040】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板には、ペースト式とクラッド式がある。
ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いたものである。正極集電体は、負極集電体と同様に形成すればよく、鉛または鉛合金の鋳造や、鉛または鉛合金シートの加工により形成することができる。
【0041】
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。クラッド式正極板では、正極電極材料は、正極板から、チューブ、芯金、および連座を除いたものである。
【0042】
正極集電体に用いる鉛合金は、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は複数でもよい。芯金には、Pb-Ca系合金やPb-Sb系合金を用いることが好ましい。
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0043】
未化成のペースト式正極板は、負極板の場合に準じて、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。その後、未化成の正極板を化成する。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸を練合することで調製される。
クラッド式正極板は、芯金が挿入されたチューブに鉛粉または、スラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。
【0044】
(負極板)
鉛蓄電池の負極板は、負極集電体と、負極電極材料とで構成されている。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法は、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として負極格子を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0045】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。
【0046】
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含んでおり、防縮剤、カーボンブラックのような炭素質材料、硫酸バリウムなどを含んでもよく、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0047】
充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0048】
負極板は、負極集電体に、負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成工程では、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0049】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0050】
(繊維マット)
鉛蓄電池は、さらに、正極板と負極板との間に介在する繊維マットを備えていてもよい。繊維マットは、セパレータとは異なり、シート状の繊維集合体を含む。このような繊維集合体は、電解液に不溶な繊維が絡み合ったシートが使用される。このようなシートには、例えば、不織布、織布、編み物などがある。繊維マットの例えば60質量%以上が繊維で形成されている。
【0051】
繊維は、ガラス繊維、ポリマー繊維、パルプ繊維などを用いることができる。ポリマー繊維の中では、ポリオレフィン繊維が好ましい。
【0052】
図2に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0053】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0054】
以下、各分析方法について説明する。
なお、本明細書中、鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2006の定義によって定められる。より具体的には、鉛蓄電池を、定格容量に記載の数値の1/20の電流で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧または温度換算した電解液密度が3回連続して一定値を示すまで充電した状態を満充電状態とする。なお、充電は、鉛蓄電池の電解液が規定の液面まで満たされた状態で行われる。
【0055】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電したものをいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0056】
(1)セパレータの分析
(i)サンプルの採取
まず、既化成の満充電状態の鉛蓄電池を解体し、セパレータを回収する。次に、回収したセパレータを純水中に1時間浸漬し、セパレータ中の硫酸を除去する。その後、セパレータを25℃環境下で16時間以上静置し、乾燥させる。乾燥後のセパレータを所定サイズに裁断して測定試料とする。
【0057】
(ii)セパレータ中のNa含有量
セパレータ中のNa含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)により分析することで得られる。具体的には、まず、約15cm2の測定試料を白金坩堝中に入れ、ブンゼンバーナーで白煙が出なくなるまで加熱する。次に、電気炉(酸素気流中、550℃)で、試料を約1時間加熱して灰化する。灰化後の試料に、30%硝酸溶液を5mL加え、更に50%フッ化水素酸溶液を2mL加えて攪拌し、灰分を酸に完全に溶解させる。次に、灰分の酸溶液にイオン交換水を加え、定容後、ICP発光分析装置でNa濃度を測定する。測定装置には、例えばサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のiCAP7400を用い得る。なお、測定試料の質量、使用酸量等は、セパレータに含まれるNa含有量により適宜変更してよい。
【0058】
(iii)セパレータのLog微分細孔容積分布
短冊状(20mm×5mm)に切断したセパレータ(測定試料)を用いて、水銀圧入法によって細孔分布を測定する。測定装置には、例えば株式会社島津製作所製のオートポアIV9510を用い得る。
【0059】
(2)電解液中のAlイオン濃度
電解液中のAlイオン濃度は、既化成の満充電状態の鉛蓄電池から取り出した電解液をICP-AESにより分析することで求められる。具体的には、既化成の満充電状態の電池から電解液を計量採取し、イオン交換水を加えて希釈し、ICP発光分析装置でAlイオン濃度を求める。
【0060】
(3)CCA
定格電圧12Vの鉛蓄電池を準備し、JIS D5301:2006に準じて測定する。具体的には、充電完了後、1~5時間休止させた電池を、最低25時間または中央にあるいずれかのセルの電解液温度が-18℃±1℃になるまで、-18℃±1℃の冷却室に置いて冷却する。冷却終了後2分以内に、電池を予め定められた「定格コールドクランキング電流(Icc)」で30秒間放電する。放電電流は、放電の間、Icc±0.5%の範囲内で一定に保つ。放電開始後30秒目の端子電圧(V1)が7.2V~8.0Vであることを確認する。このとき、コールドクランキング電流(CCA)は、以下の式で求められる(日本蓄電池工業会規格:SBA1003-1991参照)。
【0061】
CCA=(11.5-7.2)/(11.5-V1)×Icc
【0062】
(4)耐浸透短絡性
定格電圧12Vの鉛蓄電池を、25℃の恒温水槽中で、下記工程1~4で示す手順で充放電するサイクル(約1月)を繰り返す。
次いで、鉛蓄電池の開回路電圧(OCV)を測定する。浸透短絡が発生していなければ、開回路電圧(OCV)は試験開始時まで戻るが、浸透短絡が発生すると開回路電圧が低下するので、浸透短絡の発生を確認できる。開回路電圧が11Vを下回るまでのサイクル数を比較することにより、耐浸透短絡性を評価する。
【0063】
工程1:0.05CA(定格容量に記載の数値の1/20の電流)で、電圧が1.0V/セルになるまで定電流放電する。なお、CAとは、定格容量に記載の数値の電流である。例えば、定格容量が30Ahの電池であれば、1CAは30Aであり、1mCAは30mAである。
【0064】
工程2:電池の端子間に10Ωの抵抗を接続して28日間放置する。
【0065】
工程3:最大電流50A、充電電圧2.4V/セルで、10分間定電圧充電する。
【0066】
工程4:0.05CAで、27時間、定電流充電する。
【0067】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
《鉛蓄電池A1~A24およびB1~B5》
(1)負極板の作製
鉛酸化物、カーボンブラック、硫酸バリウム、リグニン、補強材(合成樹脂繊維)、水および硫酸を混合して負極ペーストを調製した。負極ペーストをアンチモンフリーのPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、幅100mm、高さ110mm、厚さ1.3mの未化成の負極板を得た。カーボンブラック、硫酸バリウム、リグニンおよび合成樹脂繊維の量は、既化成の満充電の状態で測定したときに、それぞれ0.3質量%、2.1質量%、0.1質量%および0.1質量%になるように調節した。
【0069】
(2)正極板の作製
鉛酸化物、補強材である合成樹脂繊維、水および硫酸を混合して正極ペーストを調製した。正極ペーストをアンチモンフリーのPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、幅100mm、高さ110mm、厚さ1.6mmの未化成の正極板を得た。
【0070】
(3)セパレータ
ポリエチレン100質量部と、Na含有量を制御したシリカ粒子160質量部と、造孔剤(パラフィン系オイル)80質量部と、微量の浸透剤を含む樹脂組成物をシート状に押し出し成形する。造孔剤を部分的に除去することにより、様々なベース厚み(下記表1では「T」と表示する)と、様々なNa含有量を有する微多孔膜を準備した。次に、シート状の微多孔膜を二つ折りにして袋を形成し、端部に溶着部を形成して、
図1に示すような袋状セパレータA1~A24およびB1~B5を得た。
【0071】
造孔剤は、概ねポリエチレン100質量部あたりの造孔剤量が50質量部になるまで除去した。なお、ポリエチレン、シリカ、造孔剤および浸透剤を含む樹脂組成物の組成は、セパレータの設計、製造条件、鉛蓄電池の使われ方等により、任意に変更され得る。
【0072】
袋状セパレータの外面には、突出高さ0.5~0.65mmおよび0.18mmのストライプ状の複数の主リブとミニリブを設けた。主リブのピッチは9.8mm、ミニリブのピッチは1mmとした。セパレータの総厚は0.8mmになるように主リブの高さを固定した。なお、セパレータのベース部の厚み、リブの突出高さ等は鉛蓄電池の作製前のセパレータについて求めた値であるが、作製後の鉛蓄電池から取り出したセパレータについて既述の手順で測定した値とほぼ同じである。
【0073】
(4)鉛蓄電池の作製
未化成の各負極板を、袋状セパレータに収容し、セル当たり未化成の負極板7枚と未化成の正極板6枚とで極板群を形成した。正極板の耳同士および負極板の耳同士をそれぞれキャストオンストラップ(COS)方式で正極棚部および負極棚部と溶接した。極板群をポリプロピレン製の電槽に挿入し、電解液を注液して、電槽内で化成を施して、定格電圧12Vおよび定格容量が30Ah(定格容量に記載の数値の1/5の電流で放電するときの容量)の液式の鉛蓄電池A1~A24およびB1~B5を組み立てた。なお、電槽内では6個の極板群が直列に接続されている。
【0074】
化成後の電解液の20℃における比重は1.285であり、必要に応じて硫酸アルミニウムを所定濃度で溶解させた。
【0075】
[評価1:Log微分細孔容積分布]
記述の手順で、実施例9の電池A9のセパレータのLog微分細孔容積分布を求めた。結果(Log微分細孔容積(dV/dlogD)と細孔径(Pore diameter)との関係)を
図3に示す。また、比較例3の電池B3のセパレータのLog微分細孔容積分布を求めた。結果を
図4に示す。
【0076】
[評価2:耐浸透短絡性]
記述の手順で、A1~A24およびB1~B5のそれぞれについて浸透短絡が発生するまでのサイクル数を求め、比較例3の電池B3を基準値100として指数化した。
【0077】
[評価3:CCA]
記述の手順で、A1~A24およびB1~B5のそれぞれについてCCAを求め、比較例3の電池B3を基準値100として指数化した。
【0078】
評価2、3の結果を表1に示す。なお、表1中の指数は、比較例3の電池B3を100とした場合の指数である。
【0079】
【0080】
比較例1~2のB1、B2と実施例1~5のA1~A5を対比すると、セパレータのベース部の厚みが0.15mmと非常に薄い場合でも、Na含有量を1000μg/cm3以下とすることで、耐浸透短絡性が大幅に改善することがわかる。また、A1~A5では、CCAが非常に優れている。一方、比較例3~5のB3~B5は、ベース部の厚みが0.2mmであるにもかかわらず、Na含有量が1500μg/cm3であるため、耐浸透短絡性が十分ではない。ベース部の厚みを大きくすると、耐浸透短絡性は更に向上するが、ベース部の厚みが0.3mmになると、CCAがやや低下する傾向がある。よって、ベース部の厚みは0.3mm未満が好ましい。また、電解液にAlイオンを添加すると、耐浸透短絡性が更に向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る鉛蓄電池用セパレータは、制御弁式および液式の鉛蓄電池に適用可能である。例えば、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源に好適に利用できる。また、PSOC条件下で充放電されるIS用鉛蓄電池にも適している。
【符号の説明】
【0082】
1:鉛蓄電池、2:負極板、3:正極板、4:セパレータ、5:正極棚部、6:負極棚部、7:正極柱、8:貫通接続体、9:負極柱、11:極板群、12:電槽、13:隔壁、14:セル室、15:蓋、16:負極端子、17:正極端子、18:液口栓、100:セパレータ、101:折り目、102:ベース部、104a:主リブ、104b:ミニリブ、106:要部、108a、108b:端部、109a、109b:溶着部