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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】窒化物半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20230719BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20230719BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20230719BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L21/20
C23C16/34
C23C16/44 J
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020563106
(86)(22)【出願日】2019-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2019049246
(87)【国際公開番号】W WO2020137667
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2018245213
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100186761
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】眞壁 勇夫
(72)【発明者】
【氏名】中田 健
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-093076(JP,A)
【文献】特開2015-192026(JP,A)
【文献】特開2018-098356(JP,A)
【文献】特開2014-239159(JP,A)
【文献】特開2014-123767(JP,A)
【文献】特開2013-207019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
H01L 21/20
C23C 16/34
C23C 16/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
をキャリアガスとし、TMG(トリメチルガリウム)及びNHを原料として、第1温度に設定された縦型のMOCVD炉を用いてSiC基板上にGaNチャネル層を成長する工程と、
前記第1温度よりも高い第2温度に設定し、Hをキャリアガスとし、NHが供給される前記MOCVD炉内に、前記GaNチャネル層が成長された前記SiC基板を保持する工程と、
をキャリアガスとし、TMI(トリメチルインジウム)、TMA(トリメチルアルミニウム)及びNHを原料として、前記第1温度よりも低い第3温度に設定された前記MOCVD炉を用いて前記GaNチャネル層上にInAlN層を成長する工程と、を備える窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記SiC基板を保持する前記工程では、H、NH及びTMIが前記MOCVD炉内に供給される、請求項1に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記第2温度は、前記第1温度よりも20℃以上高い、請求項1または請求項2に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記SiC基板を保持する前記工程後であって、前記InAlN層を成長する前記工程前に、HもしくはNをキャリアガスとし、TMA及びNHを原料として、前記第1温度よりも低い第4温度に設定された前記MOCVD炉を用いて前記GaNチャネル層上にAlN層を成長する工程をさらに備える、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記第4温度が、前記第3温度と前記第2温度との間で前記第3温度に近い場合にはキャリアガスをNとし、前記第2温度に近い場合にはキャリアガスをHとする、請求項4に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記MOCVD炉は、前記SiC基板を支持する支持部と、前記SiC基板の厚さ方向において前記支持部に対向する原料供給部と、を有し、
前記SiC基板を保持する前記工程では、前記SiC基板と前記原料供給部との間隔を第1間隔に設定し、
前記InAlN層を成長する工程では、前記SiC基板と前記原料供給部との間隔を、前記第1間隔よりも広い第2間隔に設定する、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記第1間隔は、6mm以下であり、
前記第2間隔は、15mm以上である、請求項6に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記MOCVD炉は、原料供給部を有し、
前記SiC基板を保持する前記工程では、前記原料供給部の温度を第1装置温度に設定し、
前記InAlN層を成長する工程では、前記原料供給部の温度を前記第1装置温度よりも低い第2装置温度に設定する、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記第1装置温度は、60℃以上であり、
前記第2装置温度は、30℃以下である、請求項8に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項10】
をキャリアガスとし、TMG(トリメチルガリウム)及びNHを原料として、第1温度に設定された縦型のMOCVD炉を用いてSiC基板上にGaNチャネル層を成長する工程と、
をキャリアガスとし、NH3、およびTMGに代えてTMI(トリメチルインジウム)が供給される前記MOCVD炉内に、1000℃以上であって前記第1温度以下の第2温度で前記GaNチャネル層が成長された前記SiC基板を保持する工程と、
をキャリアガスとし、TMI、TMA(トリメチルアルミニウム)及びNHを原料として、前記第2温度よりも低い第3温度に設定された前記MOCVD炉を用いて前記GaNチャネル層上にInAlN層を成長する工程と、を備える窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記SiC基板を保持する前記工程の後であって前記InAlN層を成長する前記工程の前に、HもしくはNをキャリアガスとし、TMA、NHを原料とし、前記MOCVD炉の温度を前記第2温度よりも低く前記第3温度よりも高い第4温度にて前記GaNチャネル層上にAlN層を成長する工程を備える、請求項10に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項12】
前記第4温度が、前記第1温度と前記第3温度との間で前記第1温度に近い場合にはキャリアガスをNとし、前記第3温度に近い場合にはキャリアガスをHとする、請求項11に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記MOCVD炉は、前記SiC基板を支持する支持部と、前記SiC基板の厚さ方向において前記支持部に対向する原料供給部と、を有し、
前記SiC基板を保持する前記工程では、前記支持部と前記原料供給部との間隔を第1間隔に設定し、
前記InAlN層を成長する工程では、前記支持部と前記原料供給部との間隔を、前記第1間隔よりも広い第2間隔に設定する、請求項10から請求項12のいずれか一項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記第1間隔は、6mm以下であり、
前記第2間隔は、15mm以上である、請求項13に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項15】
前記MOCVD炉は、原料供給部を有し、
前記SiC基板を保持する前記工程では、前記原料供給部の温度を第1装置温度に設定し、
前記InAlN層を成長する工程では、前記原料供給部の温度を前記第1装置温度よりも低い第2装置温度に設定する、請求項10から請求項14のいずれか一項に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【請求項16】
前記第1装置温度は、60℃以上であり、
前記第2装置温度は、30℃以下である、請求項15に記載の窒化物半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物半導体デバイスの製造方法に関する。
本出願は、2018年12月27日出願の日本出願第2018-245213号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)等の窒化物半導体は、半導体基板上にエピタキシャル成長することによって形成される。このような窒化物半導体は、例えば有機金属化学気相成長法(MOCVD法)によって形成される。下記特許文献1,2には、いわゆる横フロー方式を利用した結晶成長方法が開示される。下記特許文献1では、基板よりも上流側における原料の熱分解及び中間反応を抑制するための結晶成長装置の構成が開示されている。下記特許文献2では、反応室の内壁への堆積物をHClによって除去した後、結晶成長を実施することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開第2008-28270号公報
【文献】特開第2014-55103号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の一側面に係る窒化物半導体デバイスの製造方法は、Hをキャリアガスとし、TMG(トリメチルガリウム)及びNHを原料として、第1温度に設定された縦型のMOCVD炉を用いてSiC基板上にGaNチャネル層を成長する工程と、第1温度よりも高い第2温度に設定し、Hをキャリアガスとし、NHが供給されるMOCVD炉内に、GaNチャネル層が成長されたSiC基板を保持する工程と、Nをキャリアガスとし、TMI(トリメチルインジウム)、TMA(トリメチルアルミニウム)及びNHを原料として、第1温度よりも低い第3温度に設定されたMOCVD炉を用いてGaNチャネル層上にInAlN層を成長する工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、第1実施形態に係る窒化物半導体デバイスに用いられる半導体基板を示す断面図である。
図2図2は、半導体基板が設置される半導体成長装置を示す模式断面図である。
図3図3は、第1実施形態に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明するためのタイムチャートである。
図4A図4Aは、第1実施形態に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明する模式図である。
図4B図4Bは、第1実施形態に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明する模式図である。
図4C図4Cは、第1実施形態に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明する模式図である。
図5A図5Aは、第1実施形態に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明する模式図である。
図5B図5Bは、第1実施形態に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明する模式図である。
図5C図5Cは、第1実施形態に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明する模式図である。
図6A図6Aは、期間D3後における炉内の状態を示す模式断面図である。
図6B図6Bは、期間D4後における炉内の状態を示す模式断面図である。
図7図7は、従来の窒化物半導体デバイスの製造方法を説明するためのタイムチャートである。
図8A図8Aは、従来の製造方法によって成長したバリア層及びスペーサ層のSIMS測定結果を示す図である。
図8B図8Bは、第1実施形態に係る製造方法によって成長したバリア層及びスペーサ層のSIMS測定結果を示す図である。
図9図9は、変形例に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明するためのタイムチャートである。
図10A図10Aは、変形例に係る製造方法によって成長したバリア層及びスペーサ層のSIMS測定結果を示す図である。
図10B図10Bは、従来、第1実施形態、及び変形例のIn組成を示す図である。
図10C図10Cは、従来、第1実施形態、及び変形例のGa組成を示す図である。
図11A図11Aは、第2実施形態に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明する模式図である。
図11B図11Bは、第2実施形態に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明する模式図である。
図11C図11Cは、第2実施形態に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明する模式図である。
図12A図12Aは、第3実施形態に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明する模式図である。
図12B図12Bは、第3実施形態に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明する模式図である。
図12C図12Cは、第3実施形態に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明する模式図である。
図13図13は、従来、第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態、及び第4実施形態のGa組成を示す図である。
図14図14は、吹き出しヘッドの表面に堆積するGaN量の推移を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
【0007】
上述したMOCVD法によって成長したGaN層をチャネル層とした高電子移動度トランジスタ(HEMT)においては、高周波特性のさらなる改善が求められている。HEMTの高周波特性を改善する手法として、例えば、バリア層の薄化、2次元電子ガス(2DEG)の高濃度化等が挙げられる。AlGaN結晶からなるバリア層を薄化する場合、当該バリア層のシートキャリア密度の減少が大きくなる傾向にある。このバリア層のシートキャリア密度を確保するためには、チャネル層に対する当該バリア層のひずみを大きくすることが挙げられる。当該ひずみを大きくする手段の一つとして、例えば、AlGaNバリア層のAl組成を高めることが挙げられる。理論上、AlGaN結晶では、その両端の組成であるGaNからAlNまで、相分離することなく混晶を作ることが可能である。しかしながら、実際には、Al組成が0.3を超えるAlGaN結晶は、GaN層上には成長できない。よって、ひずみを利用したAlGaNバリア層のシートキャリア密度の調整には、限界がある。
【0008】
ここで、バリア層の抵抗低減の観点から、バリア層にインジウム(In)を含ませることが注目されている。例えば、In組成が0.17であるInAlN(すなわち、In0.17Al0.83N)は、GaNと格子整合する。このInAlN結晶をバリア層としたとき、2次元電子ガスはピエゾ電荷よりも自発分極による電荷が支配的になる。このため、InAlNバリア層を薄化した場合であっても、高電子密度が得られる。なお、InAlGaNは、AlGaN系化合物ともInAlN系化合物とも分類され得るが、以下ではInAlN系化合物とする。
【0009】
また、In0.17Al0.83Nバリア層と、Al0.3Ga0.7Nバリア層とのシートキャリア密度が同一である場合、前者のバリア層の厚さは、後者のバリア層の厚さの半分以下に設定できる。例えば、バリア層に要求されるシートキャリア密度が1.4×1013cm-2である場合、Al0.3Ga0.7Nバリア層の厚さは18nm程度まで設定する必要がある。一方、バリア層がIn0.17Al0.83Nバリア層である場合、4nmの厚さにて上記シートキャリア密度が得られる。加えて、バリア層の厚さが薄いほど、HEMTの増幅特性が高まる傾向にある。これらの事項に鑑みれば、InAlNバリア層は有用である。
【0010】
しかしながら、GaN層上にInAlN結晶を成長するとき、多量のGaがInAlN結晶内に混入してしまう傾向にある。この場合、バリア層の格子定数が意図した値にならず、膜中に内在する歪量が大きくなってしまう。このような課題に鑑みた本開示の目的は、良質なInAlN系化合物を含むバリア層を成長できる窒化物半導体デバイスの製造方法を提供することである。
【0011】
[本開示の効果]
本開示によれば、良質なInAlN系化合物を含むバリア層を成長できる窒化物半導体デバイスの製造方法を提供できる。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。本開示の一実施形態は、Hをキャリアガスとし、TMG(トリメチルガリウム)及びNHを原料として、第1温度に設定された縦型のMOCVD炉を用いてSiC基板上にGaNチャネル層を成長する工程と、第1温度よりも高い第2温度に設定し、Hをキャリアガスとし、NHが供給されるMOCVD炉内に、GaNチャネル層が成長されたSiC基板を保持する工程と、Nをキャリアガスとし、TMI(トリメチルインジウム)、TMA(トリメチルアルミニウム)及びNHを原料として、第1温度よりも低い第3温度に設定されたMOCVD炉を用いてGaNチャネル層上にInAlN層を成長する工程と、を備える窒化物半導体デバイスの製造方法である。
【0013】
この製造方法では、第1温度よりも高い第2温度に設定し、Hをキャリアガスとし、NHが供給されるMOCVD炉内に、GaNチャネル層が成長されたSiC基板を保持する工程が実施されている。これにより、InAlN層を成長する前に、MOCVD炉内のGaを含む堆積物を良好に除去できる。よって、InAlN層内におけるGaの組成を従来よりも低減できる。換言すると、InAlN層内におけるInの組成を従来よりも高くできる。このため、InAlN層内における各原子の組成比を安定化できるので、良質なInAlN系化合物を含むバリア層を成長できる。
【0014】
SiC基板を保持する工程では、H、NH及びTMIがMOCVD炉内に供給されてもよい。この場合、SiC基板を保持する工程において、MOCVD炉内のGaを含む堆積物をより良好に除去できる。
【0015】
第2温度は、第1温度よりも20℃以上高くてもよい。この場合、SiC基板を保持する工程において、MOCVD炉内のGaを含む堆積物をより良好に除去できる。
【0016】
上記製造方法は、SiC基板を保持する工程後であって、InAlN層を成長する工程前に、HもしくはNをキャリアガスとし、TMA及びNHを原料として、第1温度よりも低い第4温度に設定されたMOCVD炉を用いてGaNチャネル層上にAlN層を成長する工程をさらに備えてもよい。この場合、InAlN層のキャリア密度低下を抑制できる。
【0017】
第4温度が、第3温度と第2温度との間で第3温度に近い場合にはキャリアガスをNとし、第2温度に近い場合にはキャリアガスをHとしてもよい。
【0018】
MOCVD炉は、SiC基板を支持する支持部と、SiC基板の厚さ方向において支持部に対向する原料供給部と、を有し、SiC基板を保持する工程では、SiC基板と原料供給部との間隔を第1間隔に設定し、InAlN層を成長する工程では、SiC基板と原料供給部との間隔を、第1間隔よりも広い第2間隔に設定してもよい。加えて、第1間隔は、6mm以下であり、第2間隔は、15mm以上でもよい。これらの場合、InAlN層を成長する工程では、堆積物に含まれるGaがInAlN層まで到達しにくくなる。このため、より良質なInAlN系化合物を含むバリア層を成長できる。
【0019】
MOCVD炉は、原料供給部を有し、SiC基板を保持する工程では、原料供給部の温度を第1装置温度に設定し、InAlN層を成長する工程では、原料供給部の温度を第1装置温度よりも低い第2装置温度に設定してもよい。加えて、第1装置温度は、60℃以上であり、第2装置温度は、30℃以下でもよい。これらの場合、SiC基板を保持する工程にて、Gaを含む堆積物が良好に除去される。
【0020】
本開示の別の一実施形態は、Hをキャリアガスとし、TMG(トリメチルガリウム)及びNHを原料として、第1温度に設定された縦型のMOCVD炉を用いてSiC基板上にGaNチャネル層を成長する工程と、Hをキャリアガスとし、NH3、およびTMGに代えてTMI(トリメチルインジウム)が供給されるMOCVD炉内に、1000℃以上であって第1温度以下の第2温度でGaNチャネル層が成長されたSiC基板を保持する工程と、Nをキャリアガスとし、TMI、TMA(トリメチルアルミニウム)及びNHを原料として、第2温度よりも低い第3温度に設定されたMOCVD炉を用いてGaNチャネル層上にInAlN層を成長する工程と、を備える窒化物半導体デバイスの製造方法である。
【0021】
この製造方法では、1000℃以上であって第1温度以下の高い第2温度に設定し、Hをキャリアガスとし、NH及びTMIが供給されるMOCVD炉内に、GaNチャネル層が成長されたSiC基板を保持する工程が実施されている。これにより、InAlN層を成長する前に、MOCVD炉内の堆積物に含まれるGaが、Inに置換される。そして、置換されたInが昇華されることによって、MOCVD炉内の堆積物を良好に除去できる。よって、InAlN層内におけるGaの組成を従来よりも低減できる。換言すると、InAlN層内におけるInの組成を従来よりも高くできる。このため、InAlN層内における各原子の組成比を安定化できるので、良質なInAlN系化合物を含むバリア層を成長できる。
【0022】
上記製造方法は、SiC基板を保持する工程の後であってInAlN層を成長する工程の前に、HもしくはNをキャリアガスとし、TMA、NHを原料とし、MOCVD炉の温度を第2温度よりも低く第3温度よりも高い第4温度にてGaNチャネル層上にAlN層を成長する工程を備えてもよい。この場合、InAlN層のキャリア密度低下を抑制できる。
【0023】
第4温度が、第1温度と第3温度との間で第1温度に近い場合にはキャリアガスをNとし、第3温度に近い場合にはキャリアガスをHとしてもよい。
【0024】
MOCVD炉は、SiC基板を支持する支持部と、SiC基板の厚さ方向において支持部に対向する原料供給部と、を有し、SiC基板を保持する工程では、SiC基板と原料供給部との間隔を第1間隔に設定し、InAlN層を成長する工程では、SiC基板と原料供給部との間隔を、第1間隔よりも広い第2間隔に設定してもよい。加えて、第1間隔は、6mm以下であり、第2間隔は、15mm以上でもよい。これらの場合、InAlN層を成長する工程では、堆積物に含まれるGaがInAlN層まで到達しにくくなる。このため、より良質なInAlN系化合物を含むバリア層を成長できる。
【0025】
MOCVD炉は、原料供給部を有し、SiC基板を保持する工程では、原料供給部の温度を第1装置温度に設定し、InAlN層を成長する工程では、原料供給部の温度を第1装置温度よりも低い第2装置温度に設定してもよい。加えて、第1装置温度は、60℃以上であり、第2装置温度は、30℃以下でもよい。これらの場合、SiC基板を保持する工程にて、Gaを含む堆積物が良好に除去される。
【0026】
[本開示の実施形態の説明]
本開示の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。以下、添付図面を参照して、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る窒化物半導体デバイスに用いられる半導体基板を示す断面図である。図1に示すように、窒化物半導体デバイスの一例である高電子移動度トランジスタ(以下、「HEMT」とする)に用いられる半導体基板1は、基板10、バッファ層12、チャネル層14、スペーサ層16、バリア層18、及びキャップ層20を備えている。半導体基板1においては、基板10上に窒化物半導体層であるバッファ層12、チャネル層14、スペーサ層16、バリア層18、及びキャップ層20が、この順に積層されている。バッファ層12、チャネル層14、スペーサ層16、バリア層18、及びキャップ層20のそれぞれは、例えばMOCVD法によって成長する。
【0028】
基板10は、半絶縁性のSiC基板(炭化ケイ素基板)である。バッファ層12は、チャネル層14に対するバッファ層及びシード層として機能し、基板10上にエピタキシャル成長したAlN層である。バッファ層12の厚さは、例えば10nm以上30nm以下である。
【0029】
チャネル層14は、キャリア走行層として機能し、バッファ層12上にエピタキシャル成長したi型GaN層(GaNチャネル層)である。GaNは、SiCに対する濡れ性に起因して、基板10上に直接成長できない。このため、チャネル層14は、バッファ層12のAlNを介して成長している。チャネル層14の厚さは、例えば300nm以上1000nm以下である。
【0030】
スペーサ層16は、チャネル層14とバリア層18との間に位置する層であり、チャネル層14上にエピタキシャル成長したAlN層である。スペーサ層16の厚さは、例えば0.5nm以上2nm以下である。
【0031】
バリア層18は、キャリア生成層として機能し、スペーサ層16上にエピタキシャル成長した窒化物半導体層である。バリア層18は、例えばIn(インジウム)を含む窒化物半導体層である。バリア層18は、例えばInAlN系化合物を含む。第1実施形態では、バリア層18はInAlN層である。このInAlN層に含まれるガリウム(Ga)は、少ない方が望ましい。バリア層18の厚さは、例えば3nm以上10nm以下である。チャネル層14とバリア層18との間には、自発分極が発生する。これにより、チャネル層14とスペーサ層16との界面であってチャネル層14側に2次元電子ガス(2DEG)が生じ、チャネル層14内にチャネル領域が形成される。
【0032】
キャップ層20は、バリア層18上にエピタキシャル成長したGaN層である。キャップ層20の厚さは、例えば0nm以上5nm以下である。すなわち、キャップ層20は、必ずしも設けられなくてもよい。キャップ層20は、n型化していてもよい。
【0033】
半導体基板1上には、保護膜が設けられてもよい。保護膜は、例えばSiN膜等の絶縁膜である。保護膜は、例えば減圧CVD法(Low Pressure Chemical Vapor Deposition;LPCVD)、MOCVD法、CVD法等によって形成される。MOCVD法を用いる場合、半導体基板1を成長した装置にて保護膜を形成してもよい。この場合、半導体基板1を空気等に曝すことなく保護膜を形成できる。
【0034】
次に、図2図3図4A図4C図5A図5C、及び図6A,6Bを用いながら、半導体基板1の製造方法について説明する。図2は、半導体基板が設置される半導体成長装置を示す模式断面図である。図3は、第1実施形態に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明するためのタイムチャートである。図4A図4C及び図5A図5Cは、第1実施形態に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明する模式図である。図6Aは、後述する期間D3後における炉内の状態を示す模式断面図であり、図6Bは、後述する期間D4後における炉内の状態を示す模式断面図である。なお、図3において、横軸は時間を示し、縦軸は温度を示す。また、図6A,6Bにおいて、基板10上に成長した半導体は省略されている。
【0035】
まず、図2に示すように、基板10を半導体成長装置30の炉31内に収容する。第1実施形態では、半導体成長装置30はいわゆる縦フロー方式のMOCVD装置である。よって炉31は、縦型のMOCVD炉である。このため、炉31内に収容された基板10上には、MOCVD法にて半導体層が成長する。炉31は、基板10を載置(支持)するサセプタ32(支持部)と、原料を炉31内に噴出する吹き出しヘッド33(原料供給部)とを備える。サセプタ32において吹き出しヘッド33に対向する領域には、基板10が載置される凹部32aが設けられる。吹き出しヘッド33は、例えば複数の噴出穴33aを有するシャワーヘッドである。噴出穴33aの出口は、基板10の厚さ方向においてサセプタ32に対向している。サセプタ32と吹き出しヘッド33との間隔Sは、例えば8mm以上12mm以下である。
【0036】
次に、図3に示される期間D1において、基板10がサセプタ32に載置された状態にて炉31内を加熱する。これにより、基板10の表面及び炉31内のクリーニングを実施する。期間D1の工程では、例えば、水素(H)を炉31内に供給して水素雰囲気に設定する。また、例えば、炉31内の圧力を減圧し、且つ、1100℃以上に設定した状態にて、炉31内を数十分加熱する。炉31内の温度は、後に実施される半導体層の成長温度よりも高い温度に設定される。第1実施形態では、期間D1における炉31内の温度は1100℃であり、炉31内の圧力は100Torrであり、Hの流量は20L/minである。
【0037】
次に、図3に示される期間D2にて、図4Aに示すように基板10上にバッファ層12を成長する。期間D2の工程では、まず、炉31内の温度を期間D1よりも低い温度に設定する。そして、キャリアガスとしてHを炉31内に引き続き供給すると共に、原料としてトリメチルアルミニウム(TMA)及びアンモニア(NH)を炉31内に供給する。これにより、基板10上にバッファ層12として機能するAlN層を成長する。期間D2における炉31内の温度は、例えば1000℃以上1100℃以下である。第1実施形態では、期間D2における炉31内の温度は1080℃であり、炉31内の圧力は100Torrであり、TMAの流量は25cc/minであり、NHの流量は10L/minである。これにより、厚さ20nmのバッファ層12を成長する。
【0038】
次に、図3に示される期間D3にて、図4Bに示すようにバッファ層12上にチャネル層14を成長する。期間D3の工程では、まず、炉31内の温度を期間D2よりも低い温度(第1温度)に設定する。そして、Hをキャリアガスとし、TMG(トリメチルガリウム)及びNHを原料として、これらを炉31内に供給する。これにより、基板10上にチャネル層14として機能するGaN層を成長する。期間D3における炉31内の温度は、例えば1000℃以上1100℃以下である。第1実施形態では、期間D3における炉31内の温度は1010℃であり、炉31内の圧力は100Torrであり、TMGの流量は30cc/minであり、NHの流量は20L/minである。これにより、厚さ1μmのチャネル層14を成長する。
【0039】
上述したように、炉31内におけるサセプタ32と吹き出しヘッド33との間隔Sが狭いので、期間D3中に噴出穴33aの出口等にGa原子が付着する傾向にある。これにより図6Aに示すように、吹き出しヘッド33の表面にGa原子、Gaクラスタ、GaN多結晶等の堆積物41が形成されることがある。堆積物41が形成される場合、チャネル層14上に成長する半導体層(例えば、スペーサ層16及びバリア層18)にGaが混入してしまう。この場合、当該半導体層の膜質が低下してしまう。このような問題を防ぐため、図3に示される期間D4にて、期間D3よりも高い温度(第2温度)に炉31内を所定期間保持する。これにより、図6Bに示すように、堆積物41を炉31内から除去する。期間D4では、まず、TMGの供給を停止した後、炉31内の温度を上昇させる。期間D4における炉31の温度は、期間D3における炉31の温度よりも20℃以上高く設定される。そして、例えば10分間、炉31内にH及びNHを供給した状態にて、炉31内にチャネル層14が成長された基板10を保持する。第1実施形態では、期間D4における炉31内の温度は1030℃であり、炉31内の圧力は200Torrであり、NHの流量は10L/minである。
【0040】
期間D4においては、炉31内に供給されるHによって堆積物41がエッチングされる。このとき、チャネル層14の一部もまたエッチングされる(図4Cを参照)。よって、期間D3においては、設定された厚さよりも大きいチャネル層14を予め成長することが好ましい。なお、期間D4においてNHは、チャネル層14の窒素抜けを抑制するために炉31内に供給される。
【0041】
次に、図3に示される期間D5にて、図5Aに示すようにチャネル層14上にスペーサ層16を成長する。期間D5の工程では、まず、炉31内の温度を期間D4よりも低い温度(第4温度)に設定する。そして、Hをキャリアガスとし、TMA及びNHを原料として、これらを炉31内に供給する。これにより、チャネル層14上にスペーサ層16として機能するAlN層を成長する。期間D5における炉31内の温度は、例えば900℃以上1050℃以下である。第1実施形態では、期間D5における炉31内の温度は980℃であり、炉31内の圧力は50Torrであり、TMAの流量は40cc/minであり、NHの流量は10L/minである。これにより、厚さ1nmのスペーサ層16を成長する。
【0042】
次に、図3に示される期間D6にて、図5Bに示すようにスペーサ層16上にバリア層18を成長する。期間D6の工程では、まず、スペーサ層16上に堆積するInが除去されることを防ぐために、キャリアガスをHから窒素(N)に切り換える。また、炉31内の温度を期間D5よりも低い温度(第3温度)に設定する。そして、Nをキャリアガスとし、TMA、TMI(トリメチルインジウム)及びNHを原料として、これらを炉31内に供給する。これにより、スペーサ層16上にバリア層18として機能するInAlN層を成長する。このInAlN層には、堆積物41等に起因したGaは、期間D4を設けない従来の工程に比較して半分から15%程度しか含まれない。期間D6における炉31内の温度は、例えば600℃以上800℃以下である。第1実施形態では、期間D6における炉31内の温度は700℃であり、炉31内の圧力は50Torrであり、TMAの流量は5cc/minであり、TMIの流量は50cc/minであり、NHの流量は4L/minである。これにより、厚さ8nmのバリア層18を成長する。
【0043】
次に、図3に示される期間D7にて、図5Cに示すようにバリア層18上にキャップ層20を成長する。期間D7の工程では、まず、炉31内の温度を期間D6よりも高い温度に設定する。そして、Nをキャリアガスとし、TMG及びNHを原料として、これらを炉31内に供給する。これにより、バリア層18上にキャップ層20として機能するGaN層を成長する。期間D7における炉31内の温度は、例えば700℃以上900℃以下である。第1実施形態では、期間D7における炉31内の温度は800℃であり、炉31内の圧力は50Torrであり、TMGの流量は10cc/minであり、NHの流量は4L/minである。これにより、厚さ3nmのキャップ層20を成長する。
【0044】
以上の期間D1~D7を経ることによって、基板10上に半導体基板1が形成される。この半導体基板1を用いて、窒化物半導体デバイスであるHEMT等を形成できる。
【0045】
以上に説明した窒化物半導体デバイスの製造方法によって得られる作用効果について、図7及び図8A,8Bを参照しながら説明する。図7は、従来の窒化物半導体デバイスの製造方法を説明するためのタイムチャートである。図8Aは、従来の製造方法によって成長したバリア層及びスペーサ層のSIMS測定結果を示す図であり、図8Bは、第1実施形態に係る製造方法によって成長したバリア層及びスペーサ層のSIMS測定結果を示す図である。図8A,8Bにおいて、横軸はバリア層表面からの距離を示し、縦軸は構成元素の組成を示す。また、プロット51,61はAlの測定結果を示し、プロット52,62はGaの測定結果を示し、プロット53,63はInの測定結果を示す。なお、図8A,8Bでは、縦軸はリニアスケールにて示されており、AlとGaとInとの組成の合計を1としている。
【0046】
図7に示されるように、従来においては、期間D4の工程が実施されていない。このため従来では、期間D3にて吹き出しヘッド33に堆積物41が形成された状態にて、スペーサ層、バリア層及びキャップ層が成長される。この場合、TMIに含まれるIn原子が、堆積物41中のGa原子と置換する傾向にある。よって、期間D3後にバリア層として機能するInAlN層を成長する場合、Inを含むAlGaN層(すなわち、多量のGaを含むInAlN系結晶)が成長してしまう。実際、図8Aに示されるように、バリア層内におけるGaの組成はInの組成よりも明らかに高い。なお、In原子とGa原子との置換は、炉31内にて吹き出しヘッド33及び堆積物41が加熱されることによって促進されると推察される。
【0047】
半導体成長装置30内にGaN基板を収容し、当該GaN基板上に直接InAlN層を成長した場合、実質的にGaを含まないInAlN層が成長する。このことからも、堆積物41の存在によって、バリア層等に多量のGaが混入することがわかる。加えて、堆積物41は、単にHの供給だけでは完全に除去されないこともわかる。
【0048】
これに対して第1実施形態に係る製造方法では、期間D4の工程が実施されている。これにより、スペーサ層16及びバリア層18の成長前に、堆積物41を良好に除去できる。実際、図8Bに示されるように、バリア層18内のGaの組成は従来よりも低くなっており、且つ、バリア層18内のInの組成は従来よりも明らかに高くなっている。また、半導体基板1の厚さ方向に沿ったバリア層18内における各原子の組成比が安定化する。したがって第1実施形態によれば、良質なInAlN系化合物を含むバリア層18を成長できる。
【0049】
一般に、InAlN系結晶においてGa濃度が高まるほど、当該結晶のa軸がGaNから乖離する傾向にある。この場合、Gaを含むInAlN系結晶中の歪みが大きくなる。当該歪みが大きくなると、InAlN系結晶中におけるクラックの発生、並びに、表面ピットの増加に繋がる傾向にある。このようなInAlN系結晶を用いて窒化物半導体デバイス(HEMT、FET)を製造した場合、当該デバイスのリーク電流が大きくなる傾向にある。このため、InAlN系結晶にGaが含まれるほど、窒化物半導体デバイスの性能及び信頼性が低下する傾向にある。したがって、第1実施形態に係る製造方法を適用することによって、良質なInAlN系化合物をふくむバリア層18を成長することは有用であると言える。
【0050】
期間D4では、Hがチャネル層14の一部をエッチングする。しかしながら、エッチングされたチャネル層14のシート抵抗は、エッチング前のチャネル層14のシート抵抗と実質的に同一である。加えて、半導体基板1の表面モフォロジには、大きな欠陥が見られない傾向にある。さらには、上記特許文献2に記載されるようにHClガスを供給する場合よりも、チャネル層14にダメージが加わりにくい。
【0051】
第1実施形態のように、期間D4において設定される第2温度は、期間D3において設定される第1温度よりも20℃以上高くてもよい。この場合、堆積物41を良好に除去できる。
【0052】
第1実施形態のように、期間D4の工程後であって期間D6の工程前に、Nをキャリアガスとし、TMA及びNHを原料として、上記第1温度よりも低い温度に設定されたMOCVD炉を用いてチャネル層14上にAlN層を成長してもよい。この場合、チャネル層14とバリア層18との界面における合金散乱の発生を防止できる。これにより、半導体基板1を用いたHEMTの移動度低下を抑制できる。また、バリア層18のキャリア密度低下も抑制できる。
【0053】
第1実施形態のように、炉31は、基板10を載置するサセプタ32と、原料を噴出する吹き出しヘッド33とを備え、サセプタ32と吹き出しヘッド33との間隔Sは、8mm以上12mm以下でもよい。この場合、原料の熱分解等の発生前に原料が基板10に到達できるので、基板10上に半導体層を効率よくエピタキシャル成長できる。一方、間隔Sを上記範囲に設定する場合、Gaが吹き出しヘッド33等に付着しやすくなる。すなわち、間隔Sを上記範囲に設定する場合、堆積物41が形成されやすくなる。しかしながら第1実施形態によれば、期間D4にて堆積物41が良好に除去されるので、バリア層18の膜質劣化を抑制しつつ、半導体層を効率よくエピタキシャル成長できる。
【0054】
以下では、図9及び図10A図10Cを参照しながら、第1実施形態の変形例について説明する。なお、以下の変形例において、第1実施形態と重複する箇所の説明は省略する。したがって以下では、第1実施形態と異なる箇所を主に説明する。
【0055】
図9は、変形例に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明するためのタイムチャートである。図9に示されるように、変形例のタイムチャートは、第1実施形態の期間D4とは異なる期間D14を示す。期間D14は、期間D3,D5の間に位置しており、期間D4と同様の温度に設定される。また、期間D14では、H、NH及びTMIが炉31内に供給される。TMIの流量は、例えば500ccである。
【0056】
この変形例では、TMIが炉31に供給されることによって、堆積物41(図6Aを参照)のGaがInに置換される。これにより、Gaが除去されやすくなる。加えて、炉31内の温度は1000℃を超えており、且つ、炉31内にはHが供給されている。よって、置換されたInは昇華し、且つ、チャネル層14上にInが堆積しない。このため、期間D14においては、堆積物41がより良好に除去される。したがって、変形例によれば、より良質なInAlN系化合物を含むバリア層18を成長できる。但し、炉31の温度はこれに限定されない。TMIとHを同時に供給することにより、炉31の温度を、例えば、1000℃以上であって、直前のGaN層を成長する期間D3における温度以下としても、堆積物41を良好に除去することができる。
【0057】
図10Aは、上記変形例に係る製造方法によって成長したバリア層及びスペーサ層のSIMS測定結果を示す図である。図10Aにおいて、プロット71はAlの測定結果を示し、プロット72はGaの測定結果を示し、プロット73はInの測定結果を示す。図10Aに示されるように、上記変形例におけるバリア層18内のGaの組成は、第1実施形態よりもさらに小さくなっている。具体的には、上記変形例におけるバリア層18内のGaの組成は、0.04以下になっている。
【0058】
図10Bは、従来、第1実施形態、及び上記変形例のIn組成を示す図である。図10Bにおいて、符号81は従来のバリア層におけるIn組成を示し、符号82は第1実施形態のバリア層におけるIn組成を示し、符号83は上記変形例のバリア層におけるIn組成を示す。図10Bに示されるように、上記変形例におけるバリア層のIn組成が最も高く、従来のバリア層のIn組成が最も低い。
【0059】
図10Cは、従来、第1実施形態、及び上記変形例のGa組成を示す図である。図10Cにおいて、符号91は従来のバリア層におけるGa組成を示し、符号92は第1実施形態のバリア層におけるGa組成を示し、符号93は上記変形例のバリア層におけるGa組成を示す。図10Cに示されるように、従来のバリア層のGa組成(約27%)が最も高く、上記変形例におけるバリア層のGa組成が最も低い。これらの結果からも、第1実施形態及び上記変形例のいずれにおいても、従来よりもバリア層の膜質を向上できる。
【0060】
第1実施形態、及び上記変形例では、スペーサ層16を980℃、キャリアガスとしてHを採用する場合を示したが、スペーサ層16の成長条件はこの例に限定されない。例えば、キャリアガスをNとすることも可能である。スペーサ層16の成長温度がチャネル層14の成長温度に近い場合には、キャリアガスとして窒素(N)を用いることも可能であり、また、バリア層18の成長温度に近い場合にはHとすることも可能である。
【0061】
(第2実施形態)
以下では、図11A図11Cを参照しながら、第2実施形態について説明する。第2実施形態において、第1実施形態と重複する箇所の説明は省略する。したがって以下では、第1実施形態と異なる箇所を主に説明する。
【0062】
図11A図11Cは、第2実施形態に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明する模式図である。図11Aは、第2実施形態における期間D3後における炉内の状態を示す模式断面図であり、図11Bは、第2実施形態における期間D4における炉内の状態を示す模式断面図であり、図11Cは、第2実施形態における期間D6における炉内の状態を示す模式断面図である。図11Aに示されるように、第2実施形態では、サセプタ32において吹き出しヘッド33に対向する表面32bと、基板10において吹き出しヘッド33に対向する表面10aとは、同一平面とみなされる。このため、基板10の厚さ方向において、サセプタ32と吹き出しヘッド33との間隔は、基板10と吹き出しヘッド33との間隔に相当する。期間D3後において、基板10と吹き出しヘッド33との間隔S1は、例えば8mm以上12mm以下である。第2実施形態の期間D3では、例えば第1実施形態と同様の条件にて、厚さ1μmのGaN層を成長する。
【0063】
図11Bに示されるように、期間D4における基板10と吹き出しヘッド33との間隔S2(第1間隔)は、間隔S1よりも狭まっている。すなわち、期間D4では、基板10と吹き出しヘッド33との間隔は、間隔S1よりも狭い間隔S2に設定される。例えばアクチュエータ等を用いて吹き出しヘッド33がサセプタ32側に移動することによって、期間D4においてサセプタ32と吹き出しヘッド33とが近接する。吹き出しヘッド33の移動は、例えば期間D4中に実施される。吹き出しヘッド33は、炉31内を昇温中に移動してもよいし、昇温する前に移動してもよいし、昇温後に移動してもよい。間隔S2は、例えば2mm以上6mm以下である。間隔S2が6mm以下である場合、吹き出しヘッド33の表面温度が高くなりやすく、このため堆積物41が除去されやすくなる。第2実施形態の期間D4では、間隔S2以外は第1実施形態と同様の条件にて、堆積物41が除去される。
【0064】
図11Cに示されるように、期間D6における基板10と吹き出しヘッド33との間隔S3(第2間隔)は、間隔S1よりも広がっている。すなわち、期間D6では、基板10と吹き出しヘッド33との間隔は、間隔S1よりも広い間隔S3に設定される。例えばアクチュエータ等を用いて吹き出しヘッド33がサセプタ32から遠ざかるように移動することによって、期間D6において吹き出しヘッド33がサセプタ32に対して離れる。吹き出しヘッド33の移動は、例えば期間D6中に実施される。吹き出しヘッド33は、炉31内を降温中に移動してもよいし、降温する前に移動してもよいし、降温後に移動してもよい。また、吹き出しヘッド33は、TMIが炉31内に供給される前に移動してもよいし、炉31内にTMIを供給中に移動してもよい。間隔S3は、例えば15mm以上20mm以下である。間隔S3が15mm以上である場合、吹き出しヘッド33に残存したGaがサセプタ32まで到達しにくいので、InAlN層にGaが含まれにくくなる。また、間隔S3が20mm以下である場合、InAlN層の成長速度の顕著な低下を防止できる。第2実施形態の期間D6では、間隔S3以外は第1実施形態と同様の条件にて、厚さ8nmのInAlN層を成長する。
【0065】
以上に説明した第2実施形態に係る製造方法においても、上記第1実施形態と同様の作用効果が奏される。加えて、期間D4にて基板10と吹き出しヘッド33との間隔を狭くすることによって、堆積物41が除去されやすくなる。例えば、期間D4にて基板10と吹き出しヘッド33との間隔を6mm以下にすることによって、堆積物41が良好に除去されやすくなる。さらには、期間D6にて基板10と吹き出しヘッド33との間隔を広くすることによって、吹き出しヘッド33上に残存する堆積物41に含まれるGaがInAlN層まで到達しにくくなる。このため、InAlN層にはGaがより含まれにくくなる。例えば、期間D6にて基板10と吹き出しヘッド33との間隔を15mm以上にすることによって、InAlN層にはGaがより含まれにくくなる。
【0066】
第2実施形態では、期間D5における基板10と吹き出しヘッド33との間隔は、間隔S2に設定されるが、これに限られない。例えば、期間D5における基板10と吹き出しヘッド33との間隔は、間隔S2よりも広くてもよい。この場合、期間D5における基板10と吹き出しヘッド33との間隔は、間隔S1に再設定されてもよいし、間隔S3に設定されてもよい。例えば、期間D5における基板10と吹き出しヘッド33との間隔は、15mmに設定されてもよい。
【0067】
(第3実施形態)
以下では、図12A~12Cを参照しながら、第3実施形態について説明する。第3実施形態において、第1及び第2実施形態と重複する箇所の説明は省略する。したがって以下では、第1及び第2実施形態と異なる箇所を主に説明する。
【0068】
図12A~12Cは、第3実施形態に係る窒化物半導体デバイスの製造方法を説明する模式図である。図12Aは、第3実施形態における期間D1における炉内の状態を示す模式断面図であり、図12Bは、第3実施形態における期間D4における炉内の状態を示す模式断面図であり、図12Cは、第3実施形態における期間D6における炉内の状態を示す模式断面図である。図12A~12Cに示されるように、第3実施形態では、半導体成長装置30Aの炉31Aは、サセプタ32と、複数の噴出穴33a及び複数の冷却通路34が設けられる吹き出しヘッド33Aとを有する。冷却通路34は、冷媒が通過する空洞であり、噴出穴33aよりも基端側(噴出穴33aを介してサセプタ32の反対側)に設けられる。冷媒は、吹き出しヘッド33Aの温度を所定範囲に維持するために用いられ、例えば気体もしくは液体である。冷媒の温度は、可変である。第3実施形態では、冷媒として水が用いられるがこれに限られない。
【0069】
第3実施形態では、吹き出しヘッド33Aの表面温度は、吹き出しヘッド33Aの装置温度に相当するが、これに限られない。例えば、冷却通路34に供給される冷媒の温度を吹き出しヘッド33Aの表面温度(装置温度)とみなしてもよい。この場合、冷却通路34に供給される冷媒の温度が50℃である場合、吹き出しヘッド33Aの装置温度は50℃とみなされる。冷却通路34に供給される冷媒の温度は、冷却通路34に導入される直前の冷媒の温度に相当する。
【0070】
図12Aにおいては、吹き出しヘッド33Aの装置温度が温度T1になるように、冷却通路34には冷媒が供給される。温度T1は、例えば40℃以上60℃以下である。第3実施形態では、温度T1は50℃に設定される。このため、温度T1を50℃に設定可能な温度の冷媒が冷却通路34に供給される。当該冷媒は、例えば期間D1から期間D3まで供給される。
【0071】
図12Bにおいては、吹き出しヘッド33Aの装置温度が温度T2になるように、冷却通路34には冷媒が供給される。温度T2は、温度T1よりも高く、例えば60℃以上90℃以下である。この場合、吹き出しヘッド33A上に位置する堆積物41が除去されやすくなる。すなわち、堆積物41に含まれるGaが脱離する傾向にある。第3実施形態では、期間D4における吹き出しヘッド33Aの装置温度(第1装置温度)である温度T2は、70℃に設定される。このため、温度T2が70℃に設定可能な温度の冷媒が冷却通路34に供給される。当該冷媒は、例えば期間D4から期間D5まで供給される。
【0072】
図12Cにおいては、吹き出しヘッド33Aの装置温度が温度T3になるように、冷却通路34には冷媒が供給される。温度T3は、温度T2よりも低く、例えば20℃以上40℃以下である。この場合、吹き出しヘッド33A上に残存する堆積物41が除去されにくくなる。すなわち、堆積物41に含まれるGaが脱離しない傾向にある。期間D6における吹き出しヘッド33Aの装置温度(第2装置温度)である温度T3は、温度T1よりも低くてもよい。第3実施形態では、温度T3は30℃に設定される。このため、温度T3が30℃に設定可能な温度の冷媒が冷却通路34に供給される。当該冷媒は、例えば期間D6から期間D7まで供給される。
【0073】
以上に説明した第3実施形態に係る製造方法においても、上記第1実施形態と同様の作用効果が奏される。加えて、堆積物41におけるGaの脱離量は、吹き出しヘッド33Aの装置温度と比例関係にある。このため、期間D4にて吹き出しヘッド33Aの装置温度を高くすることによって、堆積物41が除去されやすくなる。例えば、期間D4にて吹き出しヘッド33Aの装置温度を60℃以上にすることによって、堆積物41が良好に除去されやすくなる。さらには、期間D6にて吹き出しヘッド33Aの装置温度を低くすることによって、吹き出しヘッド33A上に残存する堆積物41に含まれるGaがInAlN層まで到達しにくくなる。このため、InAlN層にはGaがより含まれにくくなる。例えば、期間D6にて吹き出しヘッド33Aの装置温度を30℃以下にすることによって、InAlN層にはGaがより含まれにくくなる。
【0074】
第3実施形態では、期間D5における吹き出しヘッド33Aの装置温度は温度T2に設定されるが、これに限られない。例えば、期間D5における吹き出しヘッド33Aの装置温度は、温度T2よりも低くてもよい。この場合、期間D5における吹き出しヘッド33Aの装置温度は、温度T1に再設定されてもよいし、温度T3に設定されてもよい。
【0075】
(第4実施形態)
以下では、第4実施形態について説明する。第4実施形態において、第1~第3実施形態と重複する箇所の説明は省略する。したがって以下では、第1~第3実施形態と異なる箇所を主に説明する。
【0076】
第4実施形態は、上記第2実施形態と上記第3実施形態とを組み合わせた実施形態である。このため期間D4においては、吹き出しヘッド33Aと基板10との間隔が間隔S2に設定され、且つ、吹き出しヘッド33Aの装置温度が温度T2に設定される。また、期間D6においては、吹き出しヘッド33Aと基板10との間隔が間隔S3に設定され、且つ、吹き出しヘッド33Aの装置温度が温度T3に設定される。
【0077】
以上に説明した第4実施形態に係る製造方法においても、上記第1実施形態と同様の作用効果が奏される。加えて、InAlN層にはGaがより良好に含まれにくくなる。
【0078】
図13は、従来、第1実施形態、第2実施形態、第3実施形態、及び第4実施形態のGa組成を示す図である。図13において、符号101は従来のバリア層におけるGa組成を示し、符号102は第1実施形態のバリア層におけるGa組成を示し、符号103は第2実施形態のバリア層におけるGa組成を示し、符号104は第3実施形態のバリア層におけるGa組成を示し、符号105は第4実施形態のバリア層におけるGa組成を示す。図13に示されるように、第2実施形態におけるバリア層のGa組成(約9%)と、第3実施形態におけるバリア層のGa組成(約8%)とは、いずれも第1実施形態におけるバリア層のGa組成(約15%)よりも低い。加えて、第4実施形態におけるバリア層のGa組成は、約3%である。このため、吹き出しヘッドとサセプタとの間隔調整と、吹き出しヘッドの温度調整との少なくとも一方を実施することによって、バリア層の膜質をより向上できる。また、上記調整の両方を実施することによって、バリア層の膜質をより良好に向上できる。
【0079】
図14は、吹き出しヘッドの表面に堆積するGaN量の推移を示す表である。図14において、横軸は時間を示し、縦軸は吹き出しヘッドの表面に堆積するGaN量を示す。また、符号111は期間D4,D5における第1実施形態の堆積物のGaN量の推移を示し、符号112は期間D4,D5における第2実施形態の堆積物のGaN量の推移を示し、符号113は期間D4,D5における第4実施形態の堆積物のGaN量の推移を示す。また、符号121は期間D6における第1実施形態の堆積物のGaN量の推移を示し、符号122は期間D6における第2実施形態の堆積物のGaN量の推移を示し、符号123は期間D6における第4実施形態の堆積物のGaN量の推移を示す。図14に示されるように、期間D4,D5において、第2実施形態及び第4実施形態の堆積物のGaN量は、いずれも第1実施形態よりも低減する傾向にある。このことからも、吹き出しヘッドとサセプタとの間隔調整と、吹き出しヘッドの温度調整とが、吹き出しヘッド上に堆積するGaNの除去に有効であることがわかる。
【0080】
本開示による窒化物半導体デバイスの製造方法は、上述した実施形態及び変形例に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば上記実施形態及び変形例における半導体基板は、バッファ層、チャネル層、スペーサ層、バリア層、及びキャップ層以外の層を含んでもよい。もしくは、半導体基板は、スペーサ層を備えなくてもよい。
【0081】
図6Aに示される堆積物41は層形状を呈しているが、これに限られない。吹き出しヘッドに付着する堆積物は、局所的に設けられることがある。例えば、堆積物は、噴出穴の出口及びその周辺にのみ設けられることがある。また、堆積物は、炉の内壁にも設けられることがある。
【符号の説明】
【0082】
1…半導体基板、10…基板、10a…表面、12…バッファ層、14…チャネル層、16…スペーサ層、18…バリア層、20…キャップ層、30,30A…半導体成長装置、31,31A…炉(MOCVD炉)、32…サセプタ(支持部)、32a…凹部、32b…表面、33,33A…吹き出しヘッド(原料供給部)、33a…噴出穴、34…冷却通路、41…堆積物、S,S1…間隔、S2…間隔(第1間隔)、S3…間隔(第2間隔)。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C
図13
図14