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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】車両の走行制御方法及び走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/10 20060101AFI20230719BHJP
   B60W 40/04 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
B60W30/10
B60W40/04
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021525391
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(86)【国際出願番号】 IB2019000625
(87)【国際公開番号】W WO2020249993
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 弘樹
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-203745(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047261(WO,A1)
【文献】特開2017-001596(JP,A)
【文献】特開2006-252533(JP,A)
【文献】特開平10-105880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律的に走行する自車両の周囲の状況を検出し、前記周囲の状況に基づいて前記自車両の挙動を制御する車両の走行制御方法であって、
走行車線を自律的に走行する前記自車両の予定走行経路に、前記走行車線と異なる他車線が有るか否かを判定し、
前記他車線が有ると判定された場合に、前記他車線の渋滞の有無を判定し、
前記他車線に渋滞が有ると判定された場合に、前記他車線内の他車両の後方において、前記走行車線から前記他車線への分岐に設定された境界線と前記他車両の後端との間に存在する進入スペースの形状を検出し、
前記進入スペースの形状が予め設定した所定条件に合致するか否かを判定し、
前記進入スペースの形状が前記所定条件に合致しないと判定した場合は、前記他車線内の前記他車両の後ろの目標位置における前記自車両の目標姿勢を、前記他車線の車線方向に沿って設定し、
前記進入スペースの形状が前記所定条件に合致すると判定した場合は、前記他車線内の前記他車両の後ろの目標位置における前記自車両の目標姿勢を、前記自車両が前記他車線の境界からはみ出す量が所定値以下になるように、前記進入スペースの形状に基づいて設定し、
前記自車両が前記目標位置で前記目標姿勢を取るように、前記自車両の現在位置から前記目標位置までの目標走行軌跡を生成し、
前記自車両が前記目標走行軌跡に追従して走行するように前記自車両の挙動を制御する、車両の走行制御方法。
【請求項2】
前記進入スペースの形状が前記所定条件に合致すると判定した場合は、前記他車線内の前記他車両の後ろの目標位置における前記自車両の目標姿勢を、前記自車両が前記他車線の境界からはみ出す量が所定値以下になるように、前記他車線の車線方向に対して傾斜させる姿勢に設定する、請求項1に記載の車両の走行制御方法。
【請求項3】
前記進入スペースの形状が前記所定条件に合致する場合、前記自車両の曲率上限を、予め設定された規定曲率上限よりも高く設定して、前記自車両の現在位置から前記目標位置までの目標走行軌跡を生成する、請求項1又は2に記載の車両の走行制御方法。
【請求項4】
前記他車線に渋滞が有ると判定された場合、前記自車両が所定の車速以下に減速した状態で前記進入スペースに車体を傾斜させずに収まるか否かを判定し、
前記進入スペースに前記自車両が前記車体を傾斜させずに収まることができないと判定された場合に、前記進入スペースの形状が前記所定条件に合致すると判定する、請求項1~3のいずれか一項に記載の車両の走行制御方法。
【請求項5】
前記他車線は、前記走行車線と交差する方向に延長する車線である、請求項1~4のいずれか一項に記載の車両の走行制御方法。
【請求項6】
前記自車両の現在位置と前記目標位置との間で、前記自車両が頭を振って旋回走行するために必要な旋回走行領域を検出し、
前記進入スペースの形状及び前記旋回走行領域の形状に基づいて、前記目標位置での前記目標姿勢及び前記目標走行軌跡を設定する、請求項5に記載の車両の走行制御方法。
【請求項7】
前記他車線は、前記走行車線に隣接する分岐路である、請求項1~4のいずれか一項に記載の車両の走行制御方法。
【請求項8】
前記分岐路に渋滞が有ると判定された場合、前記進入スペースに、前記自車両が所定の車速以下に減速した状態で車体を傾斜させずに収まることができる所定の間隔以上の最後尾区間が有るか否かを判定し、
前記進入スペースに前記所定の間隔以上の前記最後尾区間が無いと判定された場合に、前記進入スペースの形状が前記所定条件に合致すると判定する、請求項7に記載の車両の走行制御方法。
【請求項9】
前記分岐路に渋滞が有ると判定された場合、前記自車両が予め設定された規定曲率上限に基づいて走行し、かつ、所定の車速以下に減速した状態で前記進入スペースに進入した時に前記自車両の車体が前記走行車線に所定量以上はみ出すと予測されるか否かを判定し、
前記走行車線に前記自車両の車体が所定量以上はみ出すと予測される場合に、前記進入スペースの形状が前記所定条件に合致すると判定する、請求項7に記載の車両の走行制御方法。
【請求項10】
前記進入スペースの形状が前記所定条件に合致する場合、
前記進入スペースが小さい程、前記進入スペースにおける前記自車両のヨー角を前記分岐路の入口境界線の傾斜角に近づけるように前記自車両の前記目標姿勢を設定する、請求項7~9のいずれか一項に記載の車両の走行制御方法。
【請求項11】
前記進入スペースの形状が前記所定条件に合致する場合、
前記進入スペースが大きい程、前記進入スペースにおける前記自車両のヨー角を0°に近づけるように前記自車両の前記目標姿勢を設定する、請求項7~10のいずれか一項に記載の車両の走行制御方法。
【請求項12】
前記進入スペースの形状が前記所定条件に合致する場合、かつ、前記分岐路の入口境界線の傾斜角が所定の閾値角度以下である場合、
前記進入スペースにおける前記自車両のヨー角が前記入口境界線の傾斜角よりも小さくなるように前記自車両の前記目標姿勢を設定する、請求項7~11のいずれか一項に記載の車両の走行制御方法。
【請求項13】
前記進入スペースの形状が前記所定条件に合致する場合、かつ、前記分岐路の前記入口境界線の傾斜角が前記所定の閾値角度以下である場合、
前記進入スペースにおける前記自車両のヨー角を、前記進入スペースが大きい程、0°に近づけるように前記自車両の前記目標姿勢を設定する、請求項12に記載の車両の走行制御方法。
【請求項14】
前記進入スペースの形状が前記所定条件に合致する場合、
前記進入スペースに進入する時の前記自車両の前方に障害物が設けられているか否かを判定し、
前記障害物が設けられていると判定された場合は、前記障害物が設けられていないと判定された場合よりも、前記進入スペースにおける前記自車両のヨー角が小さくなるように、前記自車両の前記目標姿勢を設定する、請求項1~13のいずれか一項に記載の車両の走行制御方法。
【請求項15】
前記障害物の高さが高い程、前記進入スペースにおける前記自車両のヨー角が小さくなるように、前記自車両の前記目標姿勢を設定する、請求項14に記載の車両の走行制御方法。
【請求項16】
走行車線を自律的に走行する自車両の予定走行経路に、前記走行車線と異なる他車線が有るか否かを判定する他車線判定部と、
前記他車線が有ると判定された場合に、前記他車線の渋滞の有無を判定する渋滞判定部と、
前記他車線に渋滞が有ると判定された場合に、前記他車線内の他車両の後方において、前記走行車線から前記他車線への分岐に設定された境界線と前記他車両の後端との間に存在する進入スペースの形状を検出する進入スペース検出部と、
前記進入スペースの形状が予め設定した所定条件に合致するか否かを判定する進入スペース判定部と、
前記進入スペースの形状が前記所定条件に合致しないと判定した場合は、前記他車線内の前記他車両の後ろの目標位置における前記自車両の目標姿勢を、前記他車線の車線方向に沿って設定するとともに、前記進入スペースの形状が前記所定条件に合致すると判定した場合は、前記他車線内の前記他車両の後ろの目標位置における前記自車両の目標姿勢を、前記自車両が前記他車線の境界からはみ出す量が所定値以下になるように、前記進入スペースの形状に基づいて設定する目標姿勢設定部と、
前記自車両が前記目標位置で前記目標姿勢を取るように、前記自車両の現在位置から前記目標位置までの目標走行軌跡を生成する目標走行軌跡生成部と、
前記自車両が前記目標走行軌跡に追従して走行するように前記自車両の挙動を制御する経路追従制御部とを備える、車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律走行可能な自車両の挙動を制御する車両の走行制御方法及び走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自車両の予定走行経路に分岐路等の他車線が存在する時、分岐路に渋滞が発生し、渋滞車列の最後尾が分岐路の入口付近まで来ている場合がある。特許文献1に記載される走行制御装置は、渋滞車列の車両が分岐路入口から隣接車線に溢れている時には、自車両の路外逸脱抑制制御を緩和し、自車両を路肩に寄せて渋滞車列の後ろに付けるように制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-94960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、渋滞車列が分岐路入口から溢れている場合は想定されているが、分岐路で起こり得る様々な渋滞の状況については想定されていない。例えば、特許文献1では、渋滞車列の最後尾が分岐路入口から溢れてはいないものの、自車両が分岐路に進入できるスペースが小さく、最後尾位置で車体の一部が隣接する走行車線にはみ出してしまう場合や、車体の向きを傾けなければ分岐路に進入することができない場合等については考慮されていない。従って、自車両が車線変更を行う場合、車線変更先の他車線の実際の渋滞の状況にあった適切な走行ができないおそれがあった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、車線変更先の他車線で起こり得る様々な渋滞の状況に合わせて自車両の挙動を制御することができる車両の走行制御方法及び走行制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、予定走行経路上の他車線に渋滞が有ると判定された場合に、他車線内の他車両の後方に存在する進入スペースの形状を検出し、進入スペースの形状が所定条件に合致すると判定した場合に、目標位置における自車両の目標姿勢を、進入スペースの形状に基づいて設定することによって、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、予定走行経路上の他車線への進入スペースの条件に応じて、他車線の渋滞車列の後ろに並ぶ自車両の目標姿勢を設定するため、車線変更先の他車線で起こり得る様々な渋滞の状況に合わせて自車両の挙動を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】この発明の第1実施形態に係る走行制御装置を含む走行制御システムの構成を示すブロック図である。
図2図1に示す走行制御装置による車両の走行制御方法の概要を示すフローチャートである。
図3図1に示す走行制御装置の構成を示すブロック図である。
図4図1に示す走行制御装置を用いて、渋滞時の分岐路での自車両の目標姿勢を設定する手順を示すフローチャートである。
図5図1に示す走行制御装置によって設定される自車両の目標姿勢の一例を示す図である。
図6図1に示す走行制御装置によって設定される自車両の目標姿勢の一例を示す図である。
図7図1に示す走行制御装置によって設定される自車両の目標姿勢の一例を示す図である。
図8図1に示す走行制御装置によって設定される自車両の目標姿勢の一例を示す図である。
図9】この発明の第2実施形態に係る走行制御装置の構成を示すブロック図である。
図10図9に示す走行制御装置によって設定される自車両の目標姿勢の一例を示す図である。
図11図9に示す走行制御装置によって設定される自車両の目標姿勢の一例を示す図である。
図12図9に示す走行制御装置によって設定される自車両の目標姿勢の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
《第1実施形態》
第1実施形態に係る車両の走行制御装置100及び走行制御装置100を用いた車両の走行性制御方法について、図1~8を用いて説明する。
図1は、走行制御装置100を含む走行制御システム101の構成を示すブロック図である。なお、本発明に係る車両の走行制御方法及び車両の走行制御装置100は、自律的に走行する自車両9の周囲の状況に基づいて、自車両9のアクチュエータ21の挙動をコンピュータによって支援するための走行制御方法及び走行制御装置である。
【0010】
走行制御装置100は、一又は複数のコンピュータ及び当該コンピュータにインストールされたソフトウェアにより構成される。走行制御装置100は、自車両9を自律的に走行させるための自動運転制御を実行するためのプログラムを格納したROMと、このROMに格納されたプログラムを実行するCPUと、アクセス可能な記憶装置として機能するRAMとから構成される。なお、動作回路としては、CPUに代えて又はこれとともに、MPU、DSP、ASIC、FPGA等を用いることができる。
【0011】
走行制御装置100は、ナビゲーション装置1、地図データベース2、自車両位置検出器3、カメラ4、レーダー装置5、車速センサ6及び入力部7からの情報に基づき、現在地から目的地までの自車両9の目標走行軌跡を演算して決定する。走行制御装置100によって決定された目標走行軌跡は、1つ以上の車線、直線状のライン、曲率を有するカーブ若しくは進行方向を含む進路、又はこれらの組み合わせを含むデータとして出力される。さらに、走行制御装置100は、目標走行軌跡の情報に基づき、自車両9に対して出力すべき制御指令値Fを、所定の時間間隔で演算して出力する。走行制御装置100は、制御指令値Fに基づいて自車両9のアクチュエータ21の挙動を制御する。
【0012】
ナビゲーション装置1は、自車両9の現在位置に関する情報や目的地までの走行ルート等の情報を表示可能なディスプレイと、入力された目的地及び自車両位置検出器3により検出された現在地から、選択された経路演算モードに応じた走行経路を演算するプログラムが実装されたコンピュータとを備える。
【0013】
地図データベース2には、データ取得用車両を用いて実際の道路を走行した際に検出された道路形状に基づく三次元高精細地図情報が格納されている。この地図データベース2が記憶する三次元高精細地図情報には、地図情報とともに、各地図座標における境界情報、二次元位置情報、三次元位置情報、道路情報、道路属性情報、上り情報、下り情報、レーン識別情報、接続先レーン情報等が含まれている。道路情報及び道路属性には、道路幅、曲率半径、路肩構造物、道路交通法規(制限速度、車線変更の可否)、道路の合流地点、分岐地点、料金所、車線数の減少位置、サービスエリア/パーキングエリア等の情報が含まれている。
【0014】
自車両位置検出器3は、GPSユニット、ジャイロセンサ、及び車速センサ等から構成される。自車両位置検出器3は、GPSユニットにより複数の衛星通信から送信される電波を検出し、自車両9の位置情報を周期的に取得するとともに、取得した自車両9の位置情報と、ジャイロセンサから取得した角度変化情報と、車速センサから取得した車速とに基づいて、自車両9の現在の位置情報を周期的に検出する。
【0015】
カメラ4は、CCD広角カメラ等のイメージセンサからなり、自車両9に前方、後方及び必要に応じて両側方に設けられ、自車両9の周囲を撮像して画像情報を取得する。カメラ4は、ステレオカメラや全方位カメラであってもよく、複数のイメージセンサを含むようにしてもよい。カメラ4は、取得した画像データから、自車両9の前方に存在する道路及び道路周辺の構造物、道路標示、標識、他車両、二輪車、自転車、歩行者等を自車両9の周囲状況として検出する。
【0016】
レーダー装置5は、自車両9の前方、後方及び両側方に設けられ、ミリ波又は超音波を自車両9の周囲に照射して自車両9の周囲の所定範囲を走査し、自車両9の周囲に存在する他車両、二輪車、自転車、歩行者、路肩の縁石、ガードレール、壁面、盛り土等の障害物を検出する。例えば、レーダー装置5は、障害物と自車両9との相対位置(方位)、障害物の相対速度、自車両9から障害物までの距離等を自車両9の周囲状況として検出する。
【0017】
車速センサ6は、ドライブシャフト等の自車両9の駆動系アクチュエータの回転速度を計測し、これに基づいて自車両9の走行速度を検出する。入力部7は、機械的スイッチや、ディスプレイに表示された電子的スイッチ等から構成され、ドライバによって、目的地等の情報及び自動運転を行うか否かの決定が入力される。
【0018】
次に、走行制御装置100による全体的な制御の概要について、図2を用いて説明する。
まず、走行制御装置100は、自車両位置検出器3によって得られた自車両9の位置情報及び地図データベース2の地図情報により、自己位置の推定を行う(ステップS1)。また、走行制御装置100は、カメラ4及びレーダー装置5によって、自車両9の周囲の歩行者その他の障害物を認識する(ステップS2)。そして、ステップS1で推定された自己位置の情報と、ステップS2で認識された障害物等の情報とが、地図データベース2の地図上に展開されて表示される(ステップS3)。
【0019】
さらに、入力部7から目的地が入力され、自律走行制御の開始指示が入力されると、地図データベース2の地図上に目的地が設定され(ステップS4)、ナビゲーション装置1及び地図データベース2を用いて、現在地から目的地までのルートプランニングがなされる(ステップS5)。そして、地図上に展開された情報に基づいて、自車両9の行動が決定される(ステップS6)。具体的には、たとえばプラニングされたルートに存在する複数の交差点の各位置において、自車両9がどの方向に曲がるか等が決定される。そして次に、カメラ4又はレーダー装置5により認識された障害物等の情報に基づき、地図データベース2の地図上において、ドライブゾーンプランニングが行われる(ステップS7)。具体的には、障害物との関係を考慮すると、ルート上の所定位置又は所定間隔において、自車両9がどの車線を走行するべきか等が適宜設定される。そして、走行制御装置100は、入力された現在地及び目的地の位置情報、設定されたルート情報、自車両9の行動及びドライブゾーンの情報に基づいて、自車両9の目標走行軌跡を設定する(ステップS8)。さらに、走行制御装置100は、目標走行軌跡に自車両9が追従するように、自車両9の挙動を制御する(ステップS9)。
【0020】
次に、図3に示す走行制御装置100の構成に基づいて、渋滞時の分岐路における自車両9の挙動の制御の手順を説明する。走行制御装置100は、車線計画部10、走路境界取得部11、分岐判定部12、周囲状況検出部13、渋滞判定部14、走路境界選択部15、進入スペース検出部16a、進入スペース判定部16b、周囲障害物検出部17、目標姿勢設定部18、目標走行軌跡生成部19及び経路追従制御部20を有する。
【0021】
まず、走行制御装置100の車線計画部10は、図2のステップS7のドライブゾーンプランニングに基づき、自車両9の車線計画を設定する。走路境界取得部11は、この車線計画に基づき、自車両9が走行すべき予定走行経路の各車線の境界を取得する。分岐判定部12は、自車両9の予定走行経路に分岐路が有るか否かを判定する。なお、分岐判定部12は、他車線判定部を構成する。
【0022】
周囲状況検出部13は、カメラ4及びレーダー装置5を含み、自車両9の周囲の状況及び他車両の存在を検出する。渋滞判定部14は、自車両9の予定走行経路に分岐路が有ると判定された場合に、自車両9の周囲の他車両の存在又は受信した渋滞情報に基づいて、分岐路に渋滞が発生しているか否かを判定する。走路境界選択部15は、走路境界取得部11によって取得された予定走行経路の各車線の境界と、渋滞判定部14によって判定された分岐路の渋滞状況とに基づいて、最終的に自車両9が走行する車線を選択する。
【0023】
進入スペース検出部16aは、走路境界選択部15によって選択された予定走行経路の各車線の境界の形状に基づいて、分岐路の進入スペースを検出する。進入スペースとは、車線変更先の他車線内で自車両9に先行する他車両の後方に存在するスペースであり、自車両9は、進入スペースを介して他車線に進入することができる。例えば、図5~8に示す例では、各々、分岐路30の入口境界線35,135と先行する他車両8の後端8aとの間の領域を進入スペースA1~A4とする。なお、入口境界線35,135とは、分岐路30と走行車線40との分岐部で、走行車線40から分岐路30に入ろうとしている車両を分岐路30に案内する境界線である。また、進入スペース判定部16bは、進入スペースA1~A4が予め設定した所定条件に合致するか否かを判定する。
【0024】
ここで、所定条件とは、例えば、進入スペースA1~A4に、所定の間隔以上の最後尾区間が有ることをいう。図5及び6に示す例では、分岐路30の渋滞車列に並んでいる先行車である他車両8の後端8aと分岐路30の入口側車線端部36aとの間の区間が最後尾区間L1,L2である。ここで、分岐路30の入口側車線端部36aとは、互いにほぼ平行に延びる一対の境界33,34に囲まれた分岐路30の領域の入口側の端部をいう。また、この実施形態において「所定の間隔」とは、分岐路30の車線方向の間隔であり、自車両9が車線方向に沿った姿勢で傾かずに停車することが可能な程度の間隔である。
【0025】
なお、進入スペース判定部16bは、分岐路30の進入スペースA1~A4に最後尾区間が有る場合であっても、最後尾区間が所定の間隔よりも短い場合は、「所定の間隔以上の最後尾区間」は無く、進入スペースA1~A4は所定条件に合致するものと判定する。図5及び6に示す例では、最後尾区間L1,L2の長さは自車両9の全長よりも短いため、進入スペースA1,A2には「所定の間隔以上の最後尾区間」は無い。従って、進入スペースA1,A2は所定条件に合致すると判定される。
【0026】
さらに、図3に示す目標姿勢設定部18は、進入スペースA1~A4の形状に基づいて、渋滞車列の最後尾の目標位置P1~P4における自車両9の目標姿勢を設定する。目標姿勢は、分岐路30の車線方向に対して所定のヨー角θy1~θy4で自車両9の車体の向きが傾斜する姿勢として設定される。
【0027】
また、周囲障害物検出部17は、周囲状況検出部13と同様に、カメラ4及びレーダー装置5を含み、自車両9の周囲の障害物を検出する。また、目標走行軌跡生成部19は、自車両9の目標姿勢、目標位置及び周囲障害物の情報に基づいて、目標走行軌跡R1~R4を生成する。そして、経路追従制御部20は、自車両9が目標走行軌跡R1~R4に追従して走行するように、アクチュエータ21を制御する。
【0028】
次に、目標姿勢設定部18による自車両9の目標姿勢の設定方法について、図4~8を参照して、さらに詳細に説明する。
図5~8に示すように予定走行経路に分岐路30が有る場合、まず、図4に示すように、ステップS21において、走行制御装置100の渋滞判定部14は、分岐路30に渋滞が発生しているか否かを判定する。ここで、分岐路30が渋滞していない場合は、自車両9の目標姿勢の設定は不要であるため、制御は終了する。
【0029】
次に、分岐路30に渋滞が発生している場合、制御はステップS22に移り、進入スペース判定部16bは、図5~8に示す分岐路30の進入スペースA1~A4が所定条件に合致するか否かを判定する。具体的には、進入スペース判定部16bは、分岐路30の入口側車線端部36a,136aから他車両8の後端8aまでの間で、所定の間隔以上の最後尾区間が無い場合を「進入スペースA1~A4が所定条件に合致する」と判定する。ここで、分岐路30に所定の間隔以上の最後尾区間が有る時、すなわち、進入スペースが所定条件に合致しない場合、自車両9は所定の車速以下に減速した状態で車体を傾斜させずに進入スペースに収まることができる。なお、「自車両9が所定の車速以下に減速した状態」には、自車両9が一時停止している状態も含まれる。従って、分岐路30に所定の間隔以上の最後尾区間が有り、進入スペースが所定条件に合致しない時は、自車両9の目標姿勢の設定は不要であるため、制御は終了する。具体的には、進入スペースが所定条件に合致しない場合は、走行制御装置100は、自車両9の曲率上限を変更せず、予め設定された標準的な規定曲率上限に維持し、自車両9が分岐路30の車線方向に沿って真っ直ぐな姿勢で走行するように自車両9の挙動を制御する。
【0030】
次に、分岐路30の進入スペースA1~A4が所定条件に合致する場合、制御はステップS23に移り、分岐路30の入口境界線の傾斜角が所定の閾値角度X以下か否かを判定する。ここで、分岐路30の入口境界線35,135とは、図5~8に示すように、分岐路30と走行車線40との分岐部で、走行車線40から分岐路30に入ろうとしている車両を分岐路30に案内する境界線である。入口境界線35は、分岐路30の車線方向に対して傾斜している。なお、所定の閾値角度Xは、例えば、10°である。
【0031】
ステップS23で、分岐路30の入口境界線35の傾斜角が閾値角度Xよりも大きいと判定された場合、制御はステップS24に移り、分岐路30に沿って走行車線40とは反対側に、図8に示すような障害物50が設けられているか否かが判定される。障害物50は、例えば、分岐路30に沿って設けられるガードレール、植栽等である。なお、分岐路30に沿って走行車線40とは反対側に障害物50が設けられている場合は、渋滞車列の最後尾の目標位置P4において自車両9の前方に障害物50が設けられている状態となる。
【0032】
そして、ステップS24で、障害物が設けられていないと判定された場合、制御はステップS26に移り、目標姿勢設定部18は、図5及び6の例に示すような第1目標姿勢を、目標位置P1,P2での自車両9の目標姿勢として設定する。また、ステップS23で、入口境界線35の傾斜角の大きさが閾値角度X以下であると判定された場合、制御はステップS25に移り、目標姿勢設定部18は、図7の例に示すような第2目標姿勢を、目標位置P3での自車両9の目標姿勢として設定する。さらに、ステップS24で、分岐路30に沿って障害物50が設けられていると判定された場合、制御はステップS27に移り、目標姿勢設定部18は図8の例に示すような第3目標姿勢を、目標位置P4での自車両9の目標姿勢として設定する。なお、第1目標姿勢、第2目標姿勢及び第3目標姿勢は、各々、異なる設定方法に基づいて設定される目標姿勢である。
【0033】
次に、ステップS28において、ステップS25~S27の各々で設定された目標姿勢に基づき、目標走行軌跡生成部19は、目標走行軌跡R1~R4を生成する。そして、経路追従制御部20は、ステップS29において、自車両9の曲率上限を引き上げ、ステップS30において、目標走行軌跡R1~R4に合わせて自車両9の挙動を制御する。
【0034】
なお、曲率上限とは、自車両9の旋回走行の曲率を制限するために設定される上限値である。曲率上限を引き上げることにより、自車両9は、通常の走行軌跡とは異なる目標走行軌跡R1~R4に沿って走行し、目標位置P1~P4で様々なヨー角に応じた目標姿勢を取ることができるようになる。
【0035】
ここで、目標走行軌跡R1~R4は、各々、進入スペースA1~A4の形状に基づいて設定された目標姿勢に応じて生成されてもよく、または、複数の曲率に応じてシミュレートされた走行軌跡の中から最適な目標姿勢を実現し得る軌跡が目標走行軌跡R1~R4として選択されてもよい。なお、「最適な目標姿勢」とは、例えば、自車両9が進入スペースA1~A4にある時に、車体が走行車線40にはみ出さないか、又は、走行車線40にはみ出す量が所定量以下となるような姿勢をいう。
【0036】
自車両9の第1目標姿勢、第2目標姿勢及び第3目標姿勢の設定方法について、各々、図5~8を参照して、さらに詳細に説明する。
まず、図5に示す例では、最後尾区間L1が所定の間隔よりも短く、進入スペースA1は所定条件に合致し、かつ、分岐路30の入口境界線35の傾斜角θ1が所定の閾値角度Xよりも大きく、かつ、分岐路30に沿って障害物は設けられていない。また、他車両8の後ろの目標位置P1での自車両9の第1目標姿勢は、車体の向きが分岐路30の車線方向に対してヨー角θy1で傾斜する姿勢となる。また、走行制御装置100の目標走行軌跡生成部19は、自車両9の現在位置から目標位置P1までの目標走行軌跡R1を生成する。経路追従制御部20は、自車両9の曲率上限を引き上げて、自車両9が目標走行軌跡R1に追従し、目標位置P1で第1目標姿勢を取るように自車両9の挙動を制御する。
なお、自車両9の目標位置P1は、進入スペースA1の中に設定される。
【0037】
一方、図6に示す例では、図5と同様に、最後尾区間L2は所定の間隔よりも短く、進入スペースA2は所定条件に合致し、かつ、入口境界線35の傾斜角θ1は所定の閾値角度Xよりも大きく、かつ、分岐路30に沿って障害物が設けられていない。また、図6に示す進入スペースA2の最後尾区間L2は、図5に示す進入スペースA1の最後尾区間L1よりも間隔が小さいため、進入スペースA2は進入スペースA1よりもスペースが小さいと判断される。図5に示すように、他車両8と入口境界線35との間の進入スペースA1が大きい程、目標位置P1での自車両9の第1目標姿勢のヨー角θy1は0°に近づく。一方、図6に示すように、進入スペースA2が小さい程、目標位置P2での自車両9の第1目標姿勢のヨー角θy2は大きくなり、入口境界線35の傾斜角θ1に近似する。さらに、進入スペースA2が所定のスペースよりも小さくなると、目標位置P2での自車両9の第1目標姿勢のヨー角θy2は、入口境界線35の傾斜角θ1と同一の角度となり、第1目標姿勢の自車両9は入口境界線35に沿うように傾斜する。すなわち、自車両9に第1目標姿勢が設定される場合は、自車両9の第1目標姿勢のヨー角は、分岐路30の進入スペースA1,A2の大きさに応じて変化する。
【0038】
図6に示す例では、走行制御装置100の目標走行軌跡生成部19は、自車両9の現在位置から目標位置P2までの目標走行軌跡R2を生成する。経路追従制御部20は、自車両9の曲率上限を引き上げて、自車両9が目標走行軌跡R2に追従し、目標位置P2で第1目標姿勢を取るように自車両9の挙動を制御する。
【0039】
なお、進入スペースA1,A2の大きさの判断基準は、最後尾区間L1,L2の長さのみならず、進入スペースA1,A2の面積又は幅によって判断してもよい。なお、進入スペースA1,A2の幅とは、分岐路30の車線方向に対して垂直な方向、すなわち分岐路30の幅方向における進入スペースA1,A2の長さである。また、図5及び6に示すように、走行制御装置100は、進入スペースA1,A2の間口長さE1,E2に基づいて進入スペースA1,A2の大きさを判断してもよい。進入スペースA1,A2の間口長さE1,E2とは、他車両8の後端8aと分岐路30の分岐点36bとの間の車線方向の長さである。すなわち、第1目標姿勢は、進入スペースA1,A2の形状に基づいて設定される。
【0040】
ここで、第1目標姿勢の設定の基準となる進入スペースA1,A2の形状には、進入スペースA1,A2の面積、幅、最後尾区間L1,L2の間隔及び間口長さE1,E2の他に、最後尾区間L1,L2の縦横比及び入口境界線35の傾斜角θ1も含まれる。また、入口境界線35が曲線形状である場合は、入口境界線35の始点と終点とを結ぶ直線の傾きも、進入スペースA1,A2の形状に含まれる。
【0041】
次に、自車両9の第2目標姿勢の例を図7に示す。
図7に示す例では、他車両8の後端8aが入口側車線端部36aよりも後方に下がった位置にあるため、他車両8の後端8aと入口境界線135との間の進入スペースA3に最後尾区間は存在しない。また、分岐路30の入口境界線135の傾斜角θ2は、所定の閾値角度Xよりも小さい。また、渋滞車列の他車両8の後ろの目標位置P3に一時停止する時の自車両9の目標姿勢は、車体の向きが分岐路30の車線方向に対してヨー角θy3で傾斜する姿勢となる。ここで、自車両9の目標姿勢のヨー角θy3は、入口境界線135の傾斜角θ2よりも小さくなるように設定される。
【0042】
図7に示すように、走行制御装置100の目標走行軌跡生成部19は、自車両9の現在位置から目標位置P3までの目標走行軌跡R3を生成する。経路追従制御部20は、自車両9が目標走行軌跡R3に追従し、目標位置P3で目標姿勢を取るように自車両9の挙動を制御する。
【0043】
次に、自車両9の第3目標姿勢の例を図8に示す。
図8に示す例では、最後尾区間L3が所定の間隔よりも短く、かつ、分岐路30の入口境界線35の傾斜角θ1が所定の閾値角度Xよりも大きく、かつ、分岐路30の左側の境界33に沿って障害物50が設けられている。障害物50は、ガードレールであるものとする。最後尾区間L3が所定の間隔よりも短いため、進入スペースA4は所定条件に合致する。また、渋滞車列の他車両8の後ろの目標位置P4に一時停止する時の自車両9の目標姿勢は、車体の向きが分岐路30の車線方向に対してヨー角θy4で傾斜する姿勢となる。進入スペースが同形状の場合において、第3目標姿勢のヨー角θy4は、図5及び6に示すような障害物50が無い場合のヨー角よりも小さくなるように設定される。なお、障害物50の高さが高い程、第3目標姿勢のヨー角θy4は小さくなるように設定される。
【0044】
図8に示すように、走行制御装置100の目標走行軌跡生成部19は、自車両9の現在位置から目標位置P4までの目標走行軌跡R4を生成する。経路追従制御部20は、自車両9が目標走行軌跡R4に追従し、目標位置P4で目標姿勢を取るように自車両9の挙動を制御する。
【0045】
以上より、この実施形態に係る走行制御装置100は、走行車線40に隣接する分岐路30に渋滞が有ると判定された場合、かつ、分岐路30の進入スペースA1~A4が所定条件に合致する場合、他車両8の後ろの目標位置P1~P4での自車両9の目標姿勢を設定する。これにより、走行制御装置100は、分岐路30で起こり得る様々な渋滞の状況に合わせて自車両9の挙動を制御することができる。
【0046】
また、走行制御装置100は、分岐路30に渋滞が有ると判定された場合、進入スペースA1~A4に、自車両9が所定の車速以下に減速した状態で車体を傾斜させずに収まることができる所定の間隔以上の最後尾区間が有るか否かを判定する。そして、進入スペースA1~A4に所定の間隔以上の前記最後尾区間が無いと判定された場合に、走行制御装置100は、進入スペースA1~A4が前記所定条件に合致すると判定する。これにより、走行制御装置100は、進入スペースA1~A4に十分な最後尾区間がない場合であっても、目標位置P1~P4での自車両9の最適な目標姿勢を設定することができる、
【0047】
また、図6に示すように、走行制御装置100は、進入スペースA2が所定条件に合致する場合、進入スペースA2が小さい程、自車両9のヨー角θy2を入口境界線35の傾斜角θ1に近づけるように自車両9の目標姿勢を設定する。これにより、図6に示すように、分岐路30の最後尾区間L2が所定の間隔よりも短い場合であっても、自車両9は車体を大きく傾けた目標姿勢を取ることが可能になり、走行車線40にはみ出さずに分岐路30の渋滞車列の最後尾に並ぶことができる。
【0048】
さらに、図5に示すように、走行制御装置100は、進入スペースA1が所定条件に合致する場合、進入スペースA1が大きい程、ヨー角θy1を0°に近づけるように自車両9の目標姿勢を設定する。これにより、他車両8の位置に応じて、自車両9の目標姿勢をより適切に設定することができる。また、進入スペースが大きい程、すなわち、他車両8の位置がより前方である程、自車両9の目標姿勢のヨー角を0°に近づけるため、他車両8が前進した時に、自車両9も他車両8に追従して、よりスムーズに分岐路30に沿って移動することができるようになる。
【0049】
また、図7に示すように、進入スペースA3が所定条件に合致し、かつ、分岐路30の入口境界線135の傾斜角θ2が閾値角度X以下である場合に、走行制御装置100は、進入スペースA3における自車両9のヨー角θy3が入口境界線135の傾斜角θ2よりも小さくなるように自車両9の目標姿勢を設定する。ここで、分岐路30の入口境界線135の傾斜角θ2が閾値角度X以下である場合、自車両9の目標位置P3における進入スペースA3の幅が狭く、自車両9の車体の傾きを大きくしてしまうと車体が走行車線40にはみ出してしまうおそれがある。そのため、走行制御装置100は、自車両9のヨー角θy3が入口境界線135の傾斜角θ2よりも小さくなるように自車両9の目標姿勢を設定することにより、自車両9の車体が過度に傾いた姿勢で他車両8の後ろに停車することを防止し、自車両9の車体のうち走行車線40に出る部分が最小となるようにしている。
【0050】
さらに、図7に示すように、進入スペースA3が所定条件に合致し、かつ、入口境界線135の傾斜角θ2が閾値角度X以下である場合に、走行制御装置100は、進入スペースA3が大きい程、自車両9のヨー角θy3を0°に近づける。これにより、走行制御装置100は、自車両9の車体のうち走行車線40にはみ出す可能性がある部分をなるべく小さくすることができるとともに、他車両8の位置に合わせて自車両9の目標姿勢を設定することができる。
【0051】
また、図8に示すように、進入スペースA4が所定条件に合致し、かつ、分岐路30の左側の境界33に障害物50が設けられている場合に、走行制御装置100は、障害物が設けられていないと判定された場合よりも自車両9のヨー角θy4が小さくなるように、自車両9の目標姿勢を設定する。ここで、自車両9の前方に障害物50等の障害物が有る時に、図6の例に示すように自車両9の車体の傾きを大きくしてしまうと、自車両9が障害物に正対することとなり、自車両9の乗員は圧迫感や衝突の可能性に対する不安を感じてしまう。そこで、走行制御装置100は、目標位置P4で自車両9が傾斜するように目標姿勢を設定する一方で、過度な傾斜姿勢を抑制する。よって、自車両9の乗員が障害物50に対して感じる圧迫感や不安感が軽減される。
【0052】
また、走行制御装置100は、障害物50の高さが高い程、自車両9のヨー角θy4が小さくなるように目標姿勢を設定する。ここで、一般的に、前方に設けられた障害物50の高さが高い程、自車両9の乗員は障害物50に対してより圧迫感を感じやすくなる。これに対して、障害物50の高さが高い程、自車両9の目標姿勢のヨー角θy4を小さくすることで、自車両9の乗員が感じる圧迫感を軽減させることができる。
【0053】
また、走行制御装置100は、進入スペースA1~A4が所定条件に合致する場合、自車両9の曲率上限を、予め設定された規定曲率上限よりも高く設定して、自車両9の現在位置から目標位置P1~P4までの目標走行軌跡R1~R4を生成する。これにより、自車両9は、通常の走行軌跡とは異なる目標走行軌跡R1~R4に沿って走行し、目標位置P1~P4で様々なヨー角に応じた目標姿勢を取ることができるようになる。
【0054】
なお、様々な基準に基づいて、所定の車速以下に減速した自車両9が車体を傾斜させずに進入スペースA1~A4に収まることができないと判定された場合、走行制御装置100は、進入スペースA1~A4が所定条件に合致すると判定してもよい。ここで、最後尾区間L1~L3が所定の間隔よりも短い場合に限らず、進入スペースA1~A4の面積が所定の面積以下の場合又は進入スペースA1~A4の幅が所定の長さ以下の場合にも、「自車両9が車体を傾斜させずに進入スペースA1~A4に収まることができない」と判定される。これにより、走行制御装置100は、進入スペースA1~A4に十分なスペースがない場合に対応して、自車両9の様々な目標姿勢を設定することができる。
【0055】
また、走行制御装置100は、自車両9が規定曲率上限に基づいて走行し、かつ、所定の車速以下に減速した状態で進入スペースA1~A4に進入した時に、自車両9の車体が走行車線40に所定量以上はみ出すと予測されるか否かを判定してもよい。そして、走行制御装置100は、走行車線40に自車両の車体が所定量以上はみ出すと予測される場合に、進入スペースA1~A4が所定条件に合致すると判定する。これにより、走行制御装置100は、自車両9の車体が走行車線40に所定量以上はみ出さないように、予め自車両9の目標姿勢を設定することができる。
【0056】
なお、走行制御装置100は、自車両9が規定曲率上限に基づいて走行し、かつ、所定の車速以下に減速した状態で進入スペースA1~A4に進入した時に、自車両9の車体が走行車線40にはみ出すと予測されるか否かを判定してもよい。すなわち、この場合、走行制御装置100は、「所定量」を0と定め、自車両9の車体が走行車線40にはみ出すと予測される量が所定量=0以上となるか否かを判定する。これにより、走行制御装置100は、自車両9の車体が走行車線40にはみ出すことをより確実に防止することができるように、自車両9の目標姿勢を設定することができる。
【0057】
《第2実施形態》
第2実施形態に係る車両の走行制御装置200及び走行制御装置200を用いた車両の走行性制御方法について、図9~12を用いて説明する。なお、図1~8に記載されている符号と同一の符号は、同一又は同様の構成を示しているため、詳細な説明は省略する。
【0058】
図9に示すように、走行制御装置200は、第2実施形態に係る走行制御装置100の分岐判定部12に替えて他車線判定部112を有する。他車線判定部112は、予め算出された予定走行経路に、走行車線140と交差する方向に延長する右折車線130aが有るか否かを判定する(図10~12参照)。また、走行制御装置200は、旋回走行領域検出部118を有している。旋回走行領域検出部118は、カメラ4又はレーダー装置5を含む。
【0059】
走行制御装置200による自車両9の目標姿勢及び目標走行軌跡の設定方法の例を、図10~12に示す。
まず、図10は、自車両9が交差点を右折する例を示している。自車両9は、現在の走行車線140から、左折車線130bを横切って、他車線である右折車線130aに車線変更を行う。右折車線130a及び左折車線130bは、走行車線140と交差する方向に延長する車線である。右折車線130aには渋滞車列が有り、自車両9は、渋滞車列の最後尾の他車両8の後ろの目標位置P5に移動する。
【0060】
ここで、走行制御装置200の進入スペース検出部16aは、右折車線130aの進入スペースA5を検出する。なお、進入スペースA5は、走行車線140の左側境界線140aの位置と他車両8の後端8aとの間の領域として設定される。すなわち、進入スペースA5の形状は、他車両8の後端8aの位置によって変化する。図10に示す例では、進入スペースA5は、右折車線130aの車線方向に所定以上の長さを有しており、自車両9は目標位置P5の進入スペースA5に、右折車線130aの車線方向に沿って真っ直ぐな姿勢で並ぶことができる。
【0061】
また、進入スペース判定部16bは、進入スペースA5が予め設定した所定条件に合致するか否かを判定する。図10に示す例における所定条件とは、進入スペースA5の一端を規定する他車両8の後端8aが所定位置よりも後方にあることをいう。なお、この場合の所定位置とは、例えば、走行車線140の隣接対向車線160の右側境界線140bの位置である。
【0062】
ここで、自車両9が頭を振って旋回走行するために必要な左折車線130bの領域を旋回走行領域H1とする。旋回走行領域検出部118は、自車両9の現在位置と目標位置P5との間で、自車両9が頭を振って旋回走行するために必要な旋回走行領域H1を検出する。図10に示す例では、旋回走行領域H1には、別の他車両又は障害物は存在しないため、旋回走行領域H1は、自車両9が頭を振って旋回走行するために必要なスペースが充分に確保可能な形状となっている。
【0063】
進入スペースA5の形状及び旋回走行領域H1の形状に基づいて、目標姿勢設定部18は、自車両9の目標姿勢のヨー角を0°に設定する。そして、目標走行軌跡生成部19は、自車両9が目標位置P5で右折車線130aの車線方向に沿った目標姿勢を取るように、自車両9の現在位置から目標位置P5までの目標走行軌跡R5を生成する。
【0064】
そして、経路追従制御部20は、自車両9の曲率上限を引き上げるとともに、自車両9が目標走行軌跡R5に追従して走行するように自車両9の挙動を制御する。目標走行軌跡R5に沿って走行する自車両9は、旋回走行領域H1を利用して頭を振って急旋回をしながら右折車線130aの進入スペースA5に進入することができる。
【0065】
次に、図11にも、図10と同様に、自車両9が交差点を右折する例を示す。自車両9は、右折車線130aの渋滞車列の最後尾の他車両8の後ろの目標位置P6に移動する。
【0066】
走行制御装置200の進入スペース検出部16aは、右折車線130aの進入スペースA6を検出する。ここで、他車両8の後端8aは予め定められた所定の位置、すなわち隣接対向車線160の右側境界線140bよりも後方にあるため、進入スペース判定部16bは、進入スペースA6は所定条件に合致すると判定する。また、図11に示す例では、自車両9は、車体を傾けた姿勢でないと進入スペースA6に収まることができない。
【0067】
ここで、図11に示す例では、左折車線130bにおいて、自車両9の左側に別の他車両108が停車している。そのため、旋回走行領域H2は、図10に示す旋回走行領域H1よりも狭くなる。
【0068】
進入スペースA6の形状と旋回走行領域H2の形状とに基づき、目標姿勢設定部18は、自車両9の目標姿勢を、右折車線130aの車線方向に対して傾いた姿勢として設定する。自車両9の目標姿勢のヨー角は、進入スペースA6に収まることができる最大角度以下の角度として設定される。目標走行軌跡生成部19は、自車両9が目標位置P6で、右折車線130aの車線方向に対して傾いた目標姿勢を取るように、自車両9の現在位置から目標位置P6までの目標走行軌跡R6を生成する。
【0069】
そして、経路追従制御部20は、自車両9の曲率上限を引き上げるとともに、自車両9が目標走行軌跡R6に追従して走行するように自車両9の挙動を制御する。目標走行軌跡R6に沿って走行する自車両9は、旋回走行領域H2を利用して頭を振って旋回をしながら右折車線130aの進入スペースA6に進入することができる。なお、目標走行軌跡R6に沿って走行する自車両9は、図10に示す目標走行軌跡R5に沿って走行する自車両9に比べて、緩やかに旋回走行を行う。
【0070】
次に、図12に、自車両9がT字路を右折する例を示す。自車両9は、右折車線130aの渋滞車列の最後尾の他車両8の後ろの目標位置P7又はP8に移動する。なお、右折車線130aの歩道側には縁石150が設けられており、周囲障害物検出部17は、縁石150を障害物として検出する。
【0071】
走行制御装置200の進入スペース検出部16aは、右折車線130aの進入スペースA7又はA8を検出する。ここで、進入スペース検出部16aによる進入スペースの検出基準の設定の違いに基づいて、進入スペースA7と進入スペースA8とは互いに異なる形状を有する。具体的には、進入スペースA7は、走行車線140と隣接対向車線160との境界線140cの位置と他車両8の後端8aとの間の領域として設定される。一方、進入スペースA8は、走行車線140の左側境界線140aの位置と他車両8の後端8aとの間の領域として設定される。すなわち、進入スペースの検出基準の違いに応じて、進入スペースの形状は異なる。
【0072】
次に、他車両8の後端8aは予め定められた所定の位置、例えば、左折車線130bの停止線130cの位置よりも後方にあるため、進入スペース判定部16bは、進入スペースA7又はA8は所定条件に合致すると判定する。自車両9は、車体を傾けた姿勢でないと進入スペースA7に収まることができないが、進入スペースA8には右折車線130aの車線方向に沿った真っ直ぐな姿勢で収まることができる。
【0073】
さらに、旋回走行領域検出部118は、自車両9の現在位置と目標位置P7又はP8との間で、自車両9が頭を振って旋回走行するために必要な旋回走行領域H1を検出する。
【0074】
進入スペース検出部16aが進入スペースA7を検出した場合、進入スペースA7の形状に基づき、目標姿勢設定部18は、目標位置P7での自車両9の目標姿勢を、右折車線130aの車線方向に対して傾いた姿勢として設定する。ここで、目標位置P7での自車両9の目標姿勢のヨー角は、縁石150に対する角度がなるべく小さくなるように、縁石150が無い場合の目標姿勢のヨー角よりも小さくなるように設定される。そして、目標走行軌跡生成部19は、自車両9の現在位置から目標位置P7までの目標走行軌跡R7を生成する。
【0075】
経路追従制御部20は、自車両9の曲率上限を引き上げるとともに、自車両9が目標走行軌跡R7に追従して走行するように自車両9の挙動を制御する。なお、自車両9が目標走行軌跡R7に沿って走行する場合は、頭を振る程の急旋回走行は行わないため、自車両9の曲率上限を引き上げなくともよい。
【0076】
一方、進入スペース検出部16aが進入スペースA8を検出した場合、進入スペースA8の形状に基づき、目標姿勢設定部18は、目標位置P8での自車両9の目標姿勢を、右折車線130aの車線方向に真っ直ぐ沿う姿勢として設定する。ここで、目標位置P8での自車両9の目標姿勢のヨー角は0°として設定される。そして、目標走行軌跡生成部19は、自車両9の現在位置から目標位置P8までの目標走行軌跡R8を生成する。
【0077】
経路追従制御部20は、自車両9の曲率上限を引き上げるとともに、自車両9が目標走行軌跡R8に追従して走行するように自車両9の挙動を制御する。従って、自車両9は、旋回走行領域H1を利用して頭を振って旋回をしながら右折車線130aの進入スペースA8に進入することができる。
【0078】
以上より、この実施形態に係る走行制御装置200は、予定走行経路上の右折車線130aに渋滞が有ると判定された場合、かつ、右折車線130aの進入スペースA5~A8が所定条件に合致する場合、他車両8の後ろの目標位置P5~P8での自車両9の目標姿勢を設定する。これにより、第1実施形態に係る走行制御装置100と同様に、走行制御装置200は、車線変更先の右折車線130aで起こり得る様々な渋滞の状況に合わせて自車両9の挙動を制御することができる。
【0079】
また、走行制御装置200の他車線判定部112は、走行車線と交差する方向に延長する車線を、予定走行経路上の他車線として判定する。これにより、自車両9が走行車線140に隣接する分岐路に車線変更を行う場合のみならず、交差点やT字路で右折又は左折する場合に起こり得る様々な渋滞の状況に対応して、自車両9の挙動を制御することができる。なお、この実施形態において、他車線判定部112は、右折車線130aを予定走行経路上の他車線として判定しているが、これに限定されず、自車両9が左折する場合、左折車線130bを予定走行経路上の他車線として判定してもよい。
【0080】
また、旋回走行領域検出部118は、自車両9の現在位置と目標位置P5~P8との間で、自車両9が頭を振って旋回走行するために必要な旋回走行領域H1,H2を検出する。そして、目標姿勢設定部18及び目標走行軌跡生成部19は、進入スペースA5~A8の形状及び旋回走行領域H1,H2の形状に基づいて、目標位置P5~P8での目標姿勢及び目標走行軌跡R5~R8を設定する。これにより、走行制御装置200は、自車両9が走行車線140から右折車線130aの渋滞車列の最後尾に移動する際、道路の状況及び周囲の状況に応じて、より最適な目標姿勢及び目標走行軌跡R5~R8を設定することができる。
【0081】
また、図12に示すように、進入スペースA7が所定条件に合致し、かつ、右折車線130aの歩道側の境界に縁石150が設けられている場合に、走行制御装置200は、縁石が設けられていない場合よりも自車両9の目標姿勢のヨー角が小さくなるように、目標姿勢を設定する。これにより、自車両9をなるべく縁石150に正対させず、自車両9の乗員の、縁石150に乗り上げてしまうかもしれないという不安を軽減させることができる。なお、周囲障害物検出部17が検出する障害物は、縁石150に限定されず、ガードレール、壁等であってもよい。
【0082】
また、図12に示すように、進入スペース検出部16aが進入スペースA8を検出した場合は、自車両9の目標姿勢のヨー角は0°である。すなわち、進入スペース検出部16aが検出する進入スペースが大きい程、自車両9の目標姿勢のヨー角は小さくなる。そのため、右折車線130aの歩道側の境界に縁石150が設けられている場合は、縁石150に対する自車両9の角度をなるべく小さくするために、進入スペースの検出基準の設定を適宜変えてもよい。
【0083】
また、走行制御装置200は、走行制御装置100と同様に、進入スペースA5~A8が所定条件に合致する場合、自車両9の曲率上限を、予め設定された規定曲率上限よりも高く設定する。これにより、自車両9は、通常の走行軌跡とは異なる目標走行軌跡R5~R8に沿って走行し、目標位置P5~P8で様々なヨー角に応じた目標姿勢を取ることができるようになる。
【0084】
なお、この実施形態では、進入スペース判定部16bは、他車両8の後端8aの位置に基づいて、進入スペースA5~A8が所定条件に合致するか否かを判定しているが、これに限定されない。すなわち、右折車線130aに渋滞が有ると判定された場合、進入スペース判定部16bは、自車両9が所定の車速以下に減速した状態で進入スペースA5~A8に車体を傾斜させずに収まるか否かを判定し、進入スペースA5~A8に自車両9が車体を傾斜させずに収まることができないと判定した場合に、進入スペースA5~A8が所定条件に合致すると判定してもよい。
【0085】
上記の分岐路30及び右折車線130aは本発明に係る他車線に相当する。また、上記の分岐判定部12は、本発明に係る他車線判定部に相当する。
【符号の説明】
【0086】
100,200…走行制御装置
8…他車両
9…自車両
12…分岐判定部(他車線判定部)
14…渋滞判定部
16a…進入スペース検出部
16b…進入スペース判定部
18…目標姿勢設定部
19…目標走行軌跡生成部
20…経路追従制御部
30…分岐路(他車線)
35,135…入口境界線
40,140…走行車線
50…障害物
112…他車線判定部
130a…右折車線(他車線)
A1,A2,A3,A4,A5,A6,A7,A8…進入スペース
H1,H2…旋回走行領域
L1,L2,L3…最後尾区間
P1,P2,P3,P4,P5,P6,P7,P8…目標位置
R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8…目標走行軌跡
θ1,θ2…入口境界線の傾斜角
θy1,θy2,θy3,θy4…ヨー角
X…閾値角度
図1
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図12