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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】自動車の回避経路を求める方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/08 20120101AFI20230719BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
B60W30/08
B60W30/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021577150
(86)(22)【出願日】2020-06-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-01
(86)【国際出願番号】 EP2020065449
(87)【国際公開番号】W WO2021001112
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】1907351
(32)【優先日】2019-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】ブルーノ,ジョフレイ
(72)【発明者】
【氏名】ブランコ,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ドー,アン ラム
(72)【発明者】
【氏名】ハダド,アラン
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-062244(JP,A)
【文献】国際公開第2011/114442(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102012017628(DE,A1)
【文献】米国特許第09227632(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車(1)の回避経路(T1)を求める方法であって、
検出システム(9)を用いて前記自動車(1)の周囲にある少なくとも一つの障害物(15)に関連するデータを取得するステップであって、前記データは前記自動車と前記障害物の間の距離を含む、取得するステップと、
前記障害物(15)の位置及び前記自動車(1)の初期位置(P0)に応じて前記自動車(1)が到達すべき最終位置(Pf)を求めるステップと、
前記初期位置(P0)と前記最終位置(Pf)の間に位置する理論的衝突位置(Pi)を、少なくとも前記回避経路(T1)と前記障害物(15)の間に保たれるべき最小距離(dmin)に応じて計算するステップと、
前記自動車(1)が前記初期位置(P0)及び前記最終位置(Pf)を通過するように、かつ、前記自動車が前記障害物(15)に対して前記理論的衝突位置(Pi)を外側へ回避するように、前記回避経路(T1)を生成するステップと、
を含み、
前記理論的衝突位置(Pi)を求めるために、
予測される回避経路に最も近い前記障害物の第1点(Pa1)の位置が前記検出システム(9)により取得された前記データに基づいて求められ、
前記第1点(Pa1)の位置と、前記最小距離(dmin)と、少なくとも一つの他のデータとに応じて前記理論的衝突位置(Pi)が推定される方法。
【請求項2】
少なくとも一つの前記最小距離(dmin)は、前記自動車(1)の前後方向軸線に対して少なくとも前後方向成分を有し、好ましくは横方向成分も有するように前記自動車(1)に対して方向づけられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記他のデータは、以下のリスト、すなわち
前記検出システム(9)の所定の不確実性
前記障害物(15)の種類、
前記自動車(1)に対する前記障害物(15)の相対速度と、場合によってはその方向、
に属する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記最小距離(dmin)と、場合によっては前記少なくとも一つの他のデータとに応じて、前記少なくとも一つの障害物(15)の周りの安全区域が求められる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
衝突点の位置を求めるために、
前記自動車(1)に対する前記障害物(15)の相対的な前後方向及び横方向の速度が求められ、
それらの速度から前記自動車(1)と前記障害物(15)の間の理論的衝突までの時間が推定され、
前記理論的衝突までの前記時間に対応する時間だけあとの前記障害物(15)の位置が求められ、
前記時間及び前記位置から前記理論的衝突位置(Pi)が推定される、
請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記障害物(15)の前記位置を求めるステップは、前記理論的衝突までの前記時間が所定の閾値より小さい場合のみ実行される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記回避経路(T1)は、その微分係数、特にその一次微分係数、二次微分係数、及び三次微分係数が所定の不等式制約を満たすように生成される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記回避経路(T1)は、前記理論的衝突位置(Pi)の外側の前記回避経路(T1)の通過に関連する制約を満たすように生成される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記微分係数が前記不等式制約を満たす回避経路(T1)が見つからない場合、前記自動車(1)の前記最終位置(Pf)を調整するステップ、そして前記回避経路(T1)を生成する新しいステップが提供される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記回避経路(T1)は凸最適化法を用いて、特に、平方和方式を用いて、又はサンプリングにより生成される、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記自動車(1)は前記初期位置(P0)に到着したら当初の経路(T0)上を動かされ、前記自動車(1)が前記当初の経路(T0)へ戻れるようにする前記回避経路(T1)の第2部分を求める操作が行われ、前記操作は、
前記自動車(1)に対する前記少なくとも一つの障害物(15)の前記位置と前記最終位置(Pf)とに応じて第2最終位置(Pf2)を求めるステップと、
前記最終位置(Pf)と前記第2最終位置(Pf2)の間に位置する第2理論的衝突位置(Pi2)を少なくとも前記回避経路(T1)と前記障害物(15)の間に保たれるべき最小距離に応じて求めるステップと、
前記自動車(1)が前記第2最終位置(Pf2)を通過して、前記障害物(15)に対して前記第2理論的衝突位置(Pi2)を外側へ回避するように前記回避経路(T1)の前記第2部分を求めるステップと、
を含む、
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
自動車(1)の周囲にある障害物(15)に関連するデータを取得可能な検出システム(9)と、
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を実行可能なコンピュータ(5)と、
を備える、自動車の回避経路を求めるシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して自動車運転者支援システム及び自律走行車両に関する。
【0002】
より詳細には、自動車の回避経路をこの車両の経路上に障害物が検出された後に求める方法に関する。
【0003】
また、そのような方法の実行を可能とする装置に関する。
【背景技術】
【0004】
自動車の安全性を高めることに関し、現在は自動車に運転者支援システム又は自律操縦システムが取り付けられている。
【0005】
これらのシステムの中では、AESシステム(AESは「自動回避操舵」(automatic evasive steering)、又は「自動緊急操舵」(automatic emergency steering)を表す)が特に知られており、これらは、車両の操舵に作用する、又は車両の差動ブレーキシステムに作用することで車両をその経路から逸らし、障害物の回避を可能とする。
【0006】
独国特許出願公開第102013009252号明細書は、回避経路の計算を可能とするシステム、及び車両がこの回避経路を辿るように制御される車両の制御部材について記載している。
【0007】
本明細書では、回避経路は車両の初期位置及び望ましい最終位置、並びに経路の多項式モデルに基づいて計算される。
【0008】
しかし、出願者は、このように計算された回避経路は充分に快適ではない、又は充分な安心感を与えない可能性があることに気づいた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
先行技術の前述の欠点のすべて、又は一部を修正するため、本発明は、回避経路の新しい計算方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
より詳細には、本発明によれば、自動車の回避経路を求める方法が提供され、この方法は、
-検出システムを用いて自動車の周囲にある少なくとも一つの障害物に関連するデータを取得するステップであって、前記データは車両と障害物の間の理論的衝突位置の距離を含む、取得するステップと、
-障害物の位置及び自動車の初期位置に応じて自動車が到達すべき最終位置を求めるステップと、
-初期位置と最終位置の間に位置する理論的衝突位置を、少なくとも回避経路と障害物の間に保たれるべき最小距離に応じて計算するステップと、
-自動車が初期位置及び最終位置を通過するように、かつ、自動車が障害物に対して理論的衝突位置を外側へ回避するように、回避経路を生成するステップと、
を含む。
【0011】
したがって、本発明により、車両と1つ又は複数の障害物のそれぞれとの間の最小安全距離を遵守しながら、障害物へぶつかるのを回避するために通過を禁止される限界位置である、衝突点と呼ばれる理論的な点の動的な位置が検出される。加えて、本発明により、回避すべき仮の回避経路の計算が可能となる。
【0012】
好ましくは、前記少なくとも一つの最小安全距離は、自動車の前後方向軸線に対して少なくとも前後方向成分を有し、好ましくは横方向成分も有するように自動車に対して方向づけられる。
【0013】
したがって、本発明により、前記最小安全距離が前後方向及び横方向の速度を用いて標的の移動に応じて計算されて、これにより、センサにおける安全半径の取り得る誤差にも関わらず、障害物を回避する目的でこの安全距離をより堅固にすることができる。
【0014】
以下は、本発明に係る方法の非限定的な他の有利な特徴であり、これらの特徴は場合によっては個々に、又は技術的に取り得る任意の組み合わせで実装される。
-衝突位置を求めるために、予測される回避経路に最も近い障害物の第1点の位置が検出システムにより取得されたデータに基づいて求められ、前記第1点の位置及び少なくとも一つの他のデータに応じて理論的衝突位置が推定される。
-前記他のデータは、以下のリストに属する:検出システムの所定の不確実性、障害物の種類、自動車に対する障害物の相対速度。
-最小距離と、場合によっては前記少なくとも一つの他のデータとに応じて、前記少なくとも一つの障害物の周りの安全区域が求められる。
-衝突点の位置を求めるために、自動車に対する障害物の相対的な前後方向及び横方向の速度が求められ、それらの速度から自動車と障害物の間の理論的衝突までの時間が推定され、理論的衝突までの時間に対応する時間だけあとの障害物の位置が求められて、この位置から理論的衝突位置が推定される。
-障害物の位置を求めるステップは、理論的衝突までの時間が所定の閾値より小さい場合のみ実行される。
-回避経路は、その微分係数、特にその一次微分係数、二次微分係数、又はさらに三次微分係数が所定の不等式制約を満たすように生成される。
-所定の不等式制約の少なくとも一つは、理論的衝突位置の外側の回避経路の通過に関連する。
-前記不等式制約を満たす微分係数を有する回避経路が見つからない場合、自動車の最終位置を調整するステップ、そして回避経路を生成する新しいステップが提供される。
-回避経路は凸最適化法を用いて、特に、平方和方式を用いて、又はサンプリングにより生成される。
-自動車は初期位置に到着したら当初の経路上を動かされ、自動車が当初の経路へ戻れるようにする回避経路の第2部分を求める操作が行われ、この操作は、自動車に対する障害物の位置と前記最終位置とに応じて第2最終位置を求めるステップと、最終位置と第2最終位置の間に位置する第2理論的衝突位置を少なくとも回避経路と障害物の間に保たれるべき最小距離に応じて求めるステップと、自動車が第2最終位置を通過して、障害物に対して第2理論的衝突位置を外側へ回避するように回避経路の第2部分を求めるステップと、を含む。
【0015】
また、本発明は自動車の回避経路を求めるシステムに関し、このシステムは、
-自動車の周囲にある障害物に関連するデータを取得可能な検出システムと、
-前述したような方法を実行可能なコンピュータと、
を備える。
【0016】
もちろん、本発明の様々な特徴、変形、及び実施形態は、互いに相いれない、あるいは互いに排他的である、ということでなければ、様々な組み合わせで互いに関連しうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
非限定的な例として与えられる添付の図面を参照してなされる以下の説明により、本発明を構成するもの、及び本発明がどのように実施されうるかの理解が容易になるであろう。
【0018】
添付の図面において、
【0019】
図1】上方からの自動車の模式図である。
図2】障害物を回避する回避経路の第1部分の略図である。
図3】上方からの図2の障害物及び障害物の周りの様々な安全区域の模式図である。
図4】上方からの図2の障害物及び別の安全区域の別の模式図である。
図5】障害物回避経路全体の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は自動車1を示す。ここで示される車両は乗用車であるが、もちろん、別の種類の車両、典型的にはトラックとすることもできる。
【0021】
この自動車1は、操舵される2つの前輪3を備える。
【0022】
自動車1は、車両の方向を変えられるように、前輪3の方位へ作用するのを可能とする従来の操舵システムをさらに備える。
【0023】
操舵システムは制御部材を備え、より正確には、ハンドルの方位に応じて、及び/又はコンピュータ5から受信した要求に応じて、前輪の方位(すなわち操舵角)へ作用することを可能とする作動装置(actuator)を備える。このコンピュータ5は、例えば、運転者支援専用のコンピュータである。
【0024】
加えて、自動車は、自動車を旋回させながら減速させるために、同じコンピュータ5、又は別のコンピュータにより制御されて複数の前輪の回転率に対する異なる作用を可能とする差動ブレーキシステムを備えうる。
【0025】
コンピュータ5は、パワーステアリング作動装置と、場合によっては差動ブレーキ作動装置も制御するようプログラムされる。このため、コンピュータ5は、少なくとも一つのプロセッサと、少なくとも一つのメモリと、様々な入力/出力インタフェースを備える。
【0026】
その入力インタフェースのおかげで、コンピュータ5は検出システム9から入力信号を受信するのに適している。
【0027】
この場合のこの検出システム9は、様々なセンサを備える。
【0028】
これらのセンサの中で、ここでは特に前面カメラ11が提供され、自動車1の車線に対するその位置の特定を可能とする。
【0029】
さらに、自動車1の前部に設置される少なくとも一つの遠隔測定センサ(RADAR、LIDAR、SONAR)を備える遠隔測定装置13が提供される。遠隔測定装置13はさらに、車両の側面に設置されて自動車1の各側面の周囲の観察を可能とする、複数の遠隔測定センサを備えうる。
【0030】
そして、検出システム9は、自動車1に関連するデータのセンサ、例えば自動車1の(縦方向軸線に対する)ヨー(yaw)回転率を判定可能とするジャイロメータなどと、ハンドルの位置及び/又は角速度のセンサとを備える。
【0031】
その出力インタフェースのおかげで、コンピュータ5は、設定点をパワーステアリング作動装置と、場合によっては差動ブレーキ作動装置にも送信するのに適している。
【0032】
コンピュータ5は、以下で説明される方法に関連して使用されるデータが記憶されるメモリを備える。
【0033】
メモリは、特に、プロセッサにより実行されることでコンピュータが以下で説明される方法を実行できるようにする命令を含むコンピュータプログラムから成るコンピュータアプリケーションを記憶する。
【0034】
これらの様々な構成要素が組み合わされて、障害物回避経路を求めるシステム7を形成する。
【0035】
図2は、障害物15を回避する回避経路T1に沿って位置する5つの連続する位置で示される、上方からの図1の自動車1の模式図である。
【0036】
回避経路T1は、固定座標系(XY)に対して説明される。座標系のX軸は、自動車1の車線17と、前記車線が直線的である場合は好ましくは平行である。そうでなければ、X軸は、好ましくは自動車の位置における(コンピュータが回避経路を計算する瞬間の)この経路の接線である。
【0037】
ここで、このX軸は、2つの車線21を分離する地面上のマーキング線23と平行に延びるよう選ばれる。
【0038】
変形として、X軸は自動車1の移動軸線、すなわち、回避操作を始める前の車両の前後方向軸線と平行に延びるよう選ぶこともできる。
【0039】
Y軸は水平で、X軸に対して垂直である。
【0040】
図2は、障害物が検出されて回避操作が開始される前に自動車1が辿っていた自動車10の当初の経路T0を示す。
【0041】
ここで示される例では、この当初の経路T0は直線状であり、地面上のマーキング線23と平行である。
【0042】
この段階では、本明細書における問題である当初の経路T0の経路は、自動車1の重心CGが辿る経路であることがわかるであろう。
【0043】
ここで検討されている例では、障害物15は自動車1の車線17内で自動車1の前に位置する。障害物15は、例えば別の車両、自転車、歩行者、又は実際に静止した物体である。それゆえ、この障害物15は動いている、又は静止していることがある。
【0044】
他の障害物19、21が自動車1の周囲で見つかることがある。ここで検討されている例では、これらの他の障害物は、自動車1が利用しているものとは異なる、隣接する車線内に位置する。
【0045】
本発明によれば、コンピュータ5は、自動車1の経路上に位置する障害物15を検出した場合に、回避経路T1を求める方法を実行する。
【0046】
これを行うため、第1ステップa)において、検出システム9は障害物15に関連するデータを取得する。
【0047】
ここで、この障害物は、検出システム9により、その形状、その種類、自動車1に対するその位置(及び、特に自動車への距離d)、並びに、自動車1の速度に対する(X軸に沿った)その前後方向の速度及び(Y軸に沿った)横方向の速度により、特徴付けられる。
【0048】
障害物の形状は、ここでは様々なセンサからのデータを融合することにより得られる。したがって、形状は、場合によっては長さ、幅、及びその後に計算で使用される基準点により規定される。以下で充分説明されるように、この基準点は、例えば、回避経路に最も近い障害物の角部である。
【0049】
また、障害物の種類もデータ融合により得ることができる。以下で充分説明されるように、この種類(歩行者、トラック、乗用車など)は、障害物と回避経路の間に保つことが望ましい安全距離(この距離は、例えば、その挙動の予測が概してより困難な歩行者に対してはより大きい)を調整するのに使用される。
【0050】
第2ステップb)において、コンピュータ5は、自動車1と障害物15が衝突する潜在的な危険性を取得したデータに基づいて検出する。
【0051】
この危険性を検出するために、コンピュータ5は自動車1に関連するデータを使用することができる。これらのデータには、例えば、自動車の直線速度、車両のヨーレート、ハンドルの位置及び角速度が含まれる。
【0052】
潜在的な衝突の危険性が検出された場合、コンピュータは第3ステップc)を実行する。
【0053】
このステップc)において、コンピュータ5は、回避操作の開始時に自動車1の初期位置P0を取得する。その座標が(X0、Y0)で示されるこの初期位置P0は、座標系(X、Y)における現時点での自動車1の重心CGの現在位置により正確に対応する。
【0054】
ステップd)において、コンピュータは、その座標が(Xf、Yf)で示される、自動車1が回避経路T1の第1部分の終点で到達する必要がある第1最終位置Pfを求める。この第1部分は、回避経路T1のうちの自動車1がその当初の経路T0から逸れる区間に対応する。回避経路T1の一部に対する第2部分は、自動車1がその当初の経路T0へと戻る区間に対応する。
【0055】
このステップd)において、コンピュータ5は、例えば、障害物15の現在位置の横座標に対応する値が横座標Xfに起因するとみなす。
【0056】
さらに、コンピュータ5は、障害物15の最も大きな縦座標より大きく限界値Ylimより小さい値が、縦座標Yfに起因するとみなす。
【0057】
この限界値Ylimは、例えば、検出システム9により撮影される周囲の状況に関連するデータに基づいて判定される。限界値Ylimは、例えば地面上のマーキング線23の縦座標でありえて、あるいはさらに、自動車1の周囲に存在する他の障害物19、21の最も小さい縦座標でありうる(場合によっては安全マージンがさらに想定される)。
【0058】
ステップe)において、コンピュータ5はその座標が(Xi、Yi)で示される理論的衝突位置Piを求める。理論的衝突位置Piは、障害物15の周りにある安全区域の、完全に安全な状態で障害物15を回避するためには自動車1が通ることは望ましくない、最も端の位置に対応する。それゆえ、この衝突点Piは、予測される回避経路から最小距離にある、この安全区域の外縁に位置する点である。この衝突点は、車両がこの点を通過した場合に車両と障害物が衝突しないという意味で理論的であるとみなされる。具体的には、障害物の前後方向及び横方向の速度、センサの測定誤差などの多くのパラメータを考慮するためにこの衝突点が計算される。
【0059】
この理論的衝突位置Piの横座標は、初期位置P0の横座標と最終位置Pfの横座標の間に位置する。この理論的衝突位置Piの縦座標は、初期位置P0の縦座標と最終位置Pfの縦座標の間に位置する。
【0060】
この衝突点Piの座標を計算するため、検出システム9が座標系(X、Y)における障害物15の輪郭の複数の点の座標を求める。それらのデータは、自動車1の前面カメラ及び/又は遠隔測定装置に由来する。ここでは、これらの2つのセンサからのデータが融合される。
【0061】
次に、図3に示されるように、検出システムが障害物15の追跡対象の点Pa1、Pa2、Pa3、Pa4の座標を求める。追跡対象の点Pa1、Pa2、Pa3、Pa4は、障害物15の外縁に位置する、障害物15の「注目すべき」点である。それゆえ、これらの点は、(例えば画像処理により)容易に検出可能な点である。例えば、障害物15が乗用車により形成される場合は、追跡対象の点はこの乗用車をモデル化する矩形の4つの角に対応する。
【0062】
そして、コンピュータ5は、これらの追跡対象の点のうちのどれが回避操作中に自動車1に最も近くなるかを判定する。コンピュータ5は、自動車が障害物を左又は右のどちらへ回避するかを示す、予測される回避経路に基づいてこの判定を行う。
【0063】
この予測される回避経路を得るため、コンピュータ5は、障害物15が左、又は右のどちらへ回避されるべきかを環境データに基づいて判断する。例として、障害物15と地面上のマーキング23の間の隙間が、これら2つの要素の間を自動車1が通れるほど充分大きければ、障害物は左へ回避可能である。
【0064】
「右」及び「左」という用語は、車両の進行方向に対する通常の意味で理解されるべきであり、X軸の方向に対して規定される。
【0065】
図示される例では、障害物15は、左へ回避するのが望ましい別の車両である。そして、回避すべき追跡対象の点は障害物15の後部左側角のPa1である。
【0066】
回避すべき追跡対象の点Pa1は、座標系(X、Y)で座標(Xa、Ya)を有する。
【0067】
それゆえ、以下の計算は、回避経路によって車両が障害物15を左へ回避することができる状況を記述している。他の異なる場合では、提示される計算はそれに応じて変更する必要があるであろう。
【0068】
障害物15の任意の速度、自動車1の幅、ありうる検出誤差、及び他の取り得るパラメータを考慮し、回避経路T1は、この追跡対象の点Pa1から少し離れたところを通らなければいけない。
【0069】
それゆえ、衝突点Piは追跡対象の点Pa1の位置に応じて判定されるが、この追跡対象の点Pa1から少し離れたところに位置する。
【0070】
測定誤差を考慮し、コンピュータ5は、公式を用いて、シフトされた第1の点Pa_eの座標(Xa_e、Ya_e)を求める。
【0071】
【数1】
【0072】
【数2】
【0073】
ここで、exは検出手段9のX軸に沿った測定誤差であり、eyは検出手段9の横方向のY軸に沿った測定誤差である。データ融合が用いられる場合、測定誤差にはデータ融合に由来する誤差も考慮される。測定誤差ex、eyはあらかじめ定められ、コンピュータのメモリに記憶される。
【0074】
図3において、四角形C1は障害物15の周りの安全区域に対応し、障害物15にぶつからないためには、場合によっては検出手段9により行われた測定に影響した可能性のある誤差を考慮して、この区域を通過しないのが賢明である。
【0075】
障害物15が行いうる移動を考慮して、コンピュータはまず最初に、自動車がその当初の経路T0から逸れない場合に障害物15と衝突するまでの時間に対応する、衝突までの時間τを求める。
【0076】
衝突までの時間τが自動回避操作の最大継続時間(この継続時間は回避システムによって決まり、例えば3秒又は4秒である)より小さい場合、プロセスは以下のように続く。
【0077】
障害物15の移動速度を考慮し、車両の経路と障害物の間の安全距離を調整するために、コンピュータ5は公式を用いてシフトされた第2の点Pa_evの座標(Xa_ev、Ya_ve)を求める。
【0078】
【数3】
【0079】
【数4】
【0080】
これらの公式において、障害物15の移動は(dVx、dVy)で示される座標を持ち、この座標は障害物15の速度ベクトルの前後方向及び横方向の座標(Vx、Vy)と衝突までの時間τに基づいて、以下の公式により得られる。
【0081】
【数5】
【0082】
【数6】
【0083】
図3において、四角形C2は障害物15の周りの安全区域に対応し、障害物15にぶつからないためには、場合によっては検出手段9により行われた測定に影響した可能性のある誤差、及び障害物15の速度を考慮して、この区域を通過しないのが賢明である。
【0084】
そして、図4に示されるように、コンピュータはシフトされた第2の点Pa_evの座標に基づき、回避経路T1と障害物15の間に保たれるべき最小安全距離dminに応じて衝突点Piの座標(Xi、Yi)を求める。
【0085】
この距離には、まず第一に、自動車1の半分の幅を考慮に入れる。具体的には、計算された経路は車両の重心が辿ることを意図した経路であることが思い出されるであろう。それゆえ、車両の大きさを考慮に入れる必要がある。
【0086】
回避半径に対応する最小安全距離dminは、それゆえ車両の最大幅の半分以上となるように選ばれる。
【0087】
最小安全距離dminは不変となるように選ぶことができる。
【0088】
ここでは、最小安全距離dminはむしろ回避すべき障害物15の種類(例えば、車両、自転車、歩行者)に応じて決定されて、この種類は検出システム9が取得したデータに基づいて既知の方法で判定される。また、最小安全距離dminは道路の滑りやすさ(雨、雪、氷上、など)などの他の要因に依存しうる。
【0089】
したがって、歩行者や固定障害物に対してよりも自転車に対して、より大きな安全間隔へ配慮することが可能となる。
【0090】
この最小安全距離dminは、前記距離がX軸に沿った前後方向成分とY軸に沿った横方向成分を有するように、車両に対して、ひいては障害物に対して方向づけられる。
【0091】
したがって、衝突点Piの座標(Xi、Yi)は次式を用いて計算される。
【0092】
【数7】
【0093】
【数8】
【0094】
ここで、αはX軸と障害物15の前後方向軸線の間の角度である。
【0095】
次にステップf)において、コンピュータ5は回避経路T1を生成する。この経路は、車両が初期位置P0を通過して最終位置Pfを通過するように、かつ、障害物に対して理論的衝突位置Piを外側へ(つまり、障害物が左へ回避される場合は理論的衝突位置の左へ、逆もまた同様)回避するように、生成される。
【0096】
ここでは、回避経路T1は多項式形式を有するように選ばれ、これは次のように書くことができる:
【0097】
【数9】
【0098】
ここで、fは回避経路の多項式関数であり、xはX軸に沿った横座標であり、Nは多項式の次数(例えば、4から6の間から成る)である。
【0099】
このステップf)において、コンピュータ5は多項式の係数aiの値を求めようとする。
【0100】
これを行うため、回避経路T1は安全であること、及び理論的衝突位置を通過することなく初期位置及び最終位置を通過することを満たさなければいけないという制約が設定される。
【0101】
第1の制約は、回避経路T1は初期位置を通過するということで、これは次のように書くことができる:
【0102】
f(X0)=Y0
【0103】
第2の制約は、回避経路T1は最終位置Pfを通過するということで、これは次のように書くことができる:
【0104】
f(Xf)=Yf
【0105】
第3の制約は、回避経路T1は理論的衝突位置Piを望ましい側へ回避するということで、これは次のように書くことができる:
【0106】
f(Xi)>Yi
【0107】
あるいは、右へ回避するには、
【0108】
f(Xi)<Yi
【0109】
第4の制約は、回避経路T1の一次微分係数(これは車両の横方向速度に対応する)は第1係数α以下であるということで、この条件は公式により表現される:
【0110】
【数10】
【0111】
第5の制約は、回避経路T1の二次微分係数(これは車両の横方向加速度に対応する)は第2係数β以下であるということで、この条件は公式により表現される:
【0112】
【数11】
【0113】
第6の制約は、回避経路T1の三次微分係数(これは車両の「加加速度」に対応する)は第3係数γ以下であるということで、この条件は公式により表現される:
【0114】
【数12】
【0115】
2つの係数α、βは、システム及び車両の作動装置の可制御性限界に関連する。第3係数は、本質的に車両内で感じられる心地良さに関連する。
【0116】
これらの制約により、安全上の理由から、特に運転者が回避操作中にいつでも車両制御を取り戻すことができるように、作動装置を作動させるシステムの能力を制限することが可能となる。
【0117】
3つの係数α、β、γの値は、車両の動的容量を考慮してあらかじめ定められている。
【0118】
前述の最初の3つの制約は線形であり、数値最適化ツールを用いて容易に解ける。
【0119】
他の3つの不等式制約は、満たすことがより困難である。
【0120】
満たすためには、例えば以下に記載される2つの解法のどちらかを使用することができる。
【0121】
第1の方法によれば、問題は、凸最適化法を用いて、好ましくは平方和方式を用いて解かれる。この方法の原理は広く知られており、詳細には説明されない。この方法をこの場合へどのように適用するべきかのみが説明される。
【0122】
あらかじめ、計算式を簡単にするために、以下の2つのパラメータを導入しうる。
【0123】
【数13】
【0124】
【数14】
【0125】
第4の制約は、例えば二次の2つの多項式Pα1(x)及びPα2(x)が存在する場合に保証され、以下のようになる:
【0126】
【数15】
【0127】
【数16】
【0128】
【数17】
【0129】
【数18】
【0130】
換言すれば、前述の4つの式が平方和形式で書くことができる場合に第4制約を満たす回避経路T1を見つけることができる。
【0131】
そして、第5及び第6の制約に対して類似の式を書くことができる。
【0132】
したがって、第5の制約は、例えば二次の2つの多項式Pβ1(x)及びPβ2(x)が存在する場合に保証され、以下のようになる:
【0133】
【数19】
【0134】
【数20】
【0135】
【数21】
【0136】
【数22】
【0137】
同様に、第6の制約は、例えば二次の2つの多項式Pγ1(x)及びPγ2(x)が存在する場合に保証され、以下のようになる:
【0138】
【数23】
【0139】
【数24】
【0140】
【数25】
【0141】
【数26】
【0142】
6つの制約のすべてを満たすことを可能とする回避経路T1があるとコンピュータが判定した場合、回避操作を最終ステップで開始することができる。
【0143】
そうでなければ、6つの制約を満たす経路が見つかるまで最終位置Pfを調整しようと考える。
【0144】
そうするために、横座標Xfは、コンピュータが回避経路T1を見つけるまで、所定の値Δxだけインクリメントされることがある。
【0145】
また、最終位置の縦座標Yfを、例えばインクリメントする、又は減少させることで、上で詳細に説明されたように限界値以内に留めながらも調整することもできる。
【0146】
変形として(又はさらに、最終位置を変更しても適切な回避経路T1が見つからない場合)、第6の制約は無視しうる。具体的には、この制約は、乗客にとって不快となる加加速度を回避するために自動車が急に方向を変えるのを阻止するという意味で、乗客の心地よさに関連し、乗客の安全には関連しない。
【0147】
したがって、この第1の解法は常に適切な回避経路T1を見つけることを可能とする。
【0148】
これより、制約問題を解く第2の方法を詳細に説明することができる。第2の方法は、サンプリングを用いた凸最適化法であり、この方法は規定された数の問題を処理することで得られる解に基づいており(線形計画法)、各問題は回避経路T1上の複数の点をサンプリングした時点における制約の表現に対応する
【0149】
この方法を実行するため、その横座標が初期点の横座標X0と最終点の横座標Xfの間に規則的に分布している(M+1)個の点の系列Sxが検討される。数Mは、厳密に2より大きくなるように選ばれる。
【0150】
複数の点の系列Sxは以下の形式で書くことができる:
【0151】
【数27】
【0152】
次に、6つの制約がこの系列の(M+1)個の点xjに対して満たされる必要がある。
【0153】
したがって、多項式関数fの一次微分係数が系列Sxのすべての点に対して次式を満足する場合に、第4の不等式制約が満たされることがわかるであろう。
【0154】
【数28】
【0155】
多項式関数fの二次微分係数が系列Sxのすべての点に対して次式を満足する場合に、第5の不等式制約が満たされる。
【0156】
【数29】
【0157】
多項式関数fの三次微分係数が系列Sxのすべての点に対して次式を満足する場合に、第6の不等式制約が満たされる。
【0158】
【数30】
【0159】
次に、これらの式のすべてを満たすことを可能とする回避経路T1があるとコンピュータ5が判定した場合、回避操作をこの経路に対して開始することができる。
【0160】
そうでなければ、上で説明したように、適切な回避経路T1を見つけるために最終点Pfを移動させる、及び/又は第6の制約を考慮しないことが可能である。
【0161】
この方法では、平方和法よりも解かれるべき式が多く存在する。しかし、すべての条件は線形であり、それゆえ解くのがより容易である。また、この解法は、自動車1のコンピュータ5によりリアルタイムで容易に実行することができる。
【0162】
上で説明したように、初期位置P0と最終位置Pfの間から成る回避経路T1の区間は、実際にはこの経路の第1部分に過ぎない。
【0163】
運転者が車両を再び制御するのでない限り、自動車1がその当初の経路T0へ戻れるようにする回避経路T1の第2部分も計算することが好ましい。
【0164】
第2部分の計算は、この回避操作をできるだけ早く実行しうるように、回避操作を開始した後に始めることができる。
【0165】
回避経路の第2部分の計算は、第1部分の計算と実質的に同一である。それゆえ、ここではこれらの計算操作がどのように異なるかについてのみ説明する。
【0166】
この場合、図5に示されるように、回避経路T1の第2部分の初期位置は、以下では第2初期位置P02と呼ばれるが、次のように求められる。
【0167】
第2初期位置P02を最終位置Pfと一致させることもできる。しかし、当初の経路T0へあまりに早く戻って障害物15とぶつかるのを防ぐため、第2初期位置P02を最終位置Pfから少し離れたところに置くのが好ましい。
【0168】
この場合、第2初期位置P02の横座標X02は障害物15の長さ以上となるように選ばれる。さらに、横座標X02は車両が所定の時間にわたって一直線で進むことで安定する時間を有するように選ばれる。
【0169】
乗客の心地良さを優先するため、第2初期位置P02の縦座標Y02は最終位置Pfの縦座標と等しくなるように選ばれる。
【0170】
したがって、以下のように書くことができる:
【0171】
【数31】
【0172】
【数32】
【0173】
これらの式において、τstabは車両を安定させるのに必要な時間であり、Lcibleは障害物15の長さであり、Vは自動車1の速度であり、Δxは所定の安全マージンである。パラメータτstab及びΔxは、自動車の速度に応じて設定することができる。
【0174】
(回避経路T1の最後に位置する)第2最終位置Pf2の横座標の選択はかなり自由である。この横座標は、望ましい動態(スポーティな操縦スタイルやスムーズな操縦スタイル)に応じて設定することができる。
【0175】
回避経路T1の一部に対する第2理論的衝突位置Pi2の選択に関しては、最小安全距離dminが場合によってはより大きくなるように選ばれることがあることを除いては衝突点Piに対してと同様に行われる。
【0176】
他の計算に関しては、前述したものと一致する方法で実行される。
【0177】
同じ方法で、複数の障害物が同時に考慮されることがあり、この場合、例えば複数の固定障害物(例えば道路縁、道路の防護柵、柱など)、又は複数の移動する障害物(同一方向、又は対向する方向に動いているかに関わらず、隣接する車線内の車両)に対して複数の理論的衝突点が生成される。こうした障害物は、場合によっては経路の予測の有無に関わらず考慮される。移動する障害物に関しては、(所与の継続時間に対する)その経路は、場合によっては、例えば限界値Ylimを状況に応じて調整するために推定される。
図1
図2
図3
図4
図5