(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1337 20060101AFI20230719BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2022536246
(86)(22)【出願日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2021024966
(87)【国際公開番号】W WO2022014345
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2023-05-02
(31)【優先権主張番号】P 2020120867
(32)【優先日】2020-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【氏名又は名称】横井 大一郎
(72)【発明者】
【氏名】豊田 美希
(72)【発明者】
【氏名】原田 佳和
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/093709(WO,A1)
【文献】特開2010-106091(JP,A)
【文献】特開2004-206091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるジアミン(1)を含むジアミン成分を用いて得られるポリイミド前駆体及びそのイミド化物であるポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体(P)を含有することを特徴とする液晶配向剤。
【化1】
(Rは1価の有機基を表し、R
1、R
2は、それぞれ独立して、飽和若しくは不飽和の炭素数1~6の1価の炭化水素基、又は炭素数3~6の脂環式炭化水素基を表す。前記R
1、R
2における炭化水素基が有する水素原子の一部は置換されていても良い。)
【請求項2】
前記式(1)において、Rが芳香環構造を有する1価の有機基、炭素数1~30の1価の鎖状炭化水素基、又は炭素数3~30の1価の脂環式炭化水素基であり、前記鎖状炭化水素基又は脂環式炭化水素基が有する水素原子の一部は置換されていてもよく、また、その有するメチレン基の一部が酸素原子、カルボニル基又は-COO-で置換されていてもよい請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記Rにおける芳香環構造を有する1価の有機基が、下記式(Ar)で表される構造を有する請求項2に記載の液晶配向剤。
【化2】
(R
aは、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、又は炭素数1~9のフルオロアルキル基を表す。mは0~5の整数であり、mが2~5の場合、複数のR
aはそれぞれ独立して上記定義を有する。*は、結合手を表す。)
【請求項4】
前記式(1)において、R、R
1及びR
2が、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基又はtert-ペンチル基である請求項1
または2に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記ジアミン(1)が、下記式(d-1)~(d-4)からなる群から選ばれるいずれかのジアミンである請求項1~4のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【化3】
【請求項6】
前記重合体(P)が、更に、下記式(S1)、(S2)及び(S3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有するジアミン(s)を含むジアミン成分を用いて得られる請求項1~5のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【化4】
(X
1及びX
2は、それぞれ独立して、単結合、-(CH
2)
a-(aは1~15の整数である)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH
3)-、-N(CH
3)CO-、-NH-、-O-、-COO-、-OCO-又は-((CH
2)
a1-A
1)
m1-(a1は1~15の整数であり、A
1は、酸素原子又は-COO-を表し、m
1は1又は2の整数であり、m
1が2である場合の複数のa1及びA
1は同一であってもよく、異なっていてもよい。)を表す。G
1及びG
2は、それぞれ独立して、炭素数6~12の2価の芳香族基及び炭素数3~8の2価の脂環式基から選ばれる2価の環状基を表す。前記環状基上の任意の水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ素含有アルキル基、炭素数1~3のフッ素含有アルコキシ基及びフッ素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。m及びnは、それぞれ独立して、0~3の整数であり、m及びnの合計は1~4である。m及びnが複数の場合、複数のX
1、X
2、G
1及びG
2はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。R
1は炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、又は炭素数2~20のアルコキシアルキル基を表し、R
1を形成する任意の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。)
【化5】
(X
3は、単結合、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH
3)-、-N(CH
3)CO-、-NH-、-O-、-CH
2O-、-COO-又は-OCO-を表す。R
2は炭素数1~20のアルキル基又は炭素数2~20のアルコキシアルキル基を表し、R
2を形成する任意の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。)
【化6】
(X
4は、-CONH-、-NHCO-、-O-、-CH
2O-、-OCH
2-、-COO-又は-OCO-を表す。R
3はステロイド骨格を有する構造を表す。)
【請求項7】
前記ジアミン(s)が、下記式(d1)又は式(d2)で表されるジアミンである請求項6に記載の液晶配向剤。
【化7】
(Xは、単結合、-O-、-C(CH
3)
2-、-NH-、-CO-、-COO-、-CONH-、-(CH
2)
m-、-SO
2-、-O-(CH
2)
m-O-、-O-C(CH
3)
2-、-CO-(CH
2)
m-、-CO-(CH
2)
m-CO-、-NH-(CH
2)
m-、-NH-(CH
2)
m-NH-、-SO
2-(CH
2)
m-、-SO
2-(CH
2)
m-SO
2-、-CONH-(CH
2)
m-、-CONH-(CH
2)
m-NHCO-、又は-COO-(CH
2)
m-OCO-の2価の有機基を表す。mは1~8の整数である。Yは、前記式(S1)~(S3)のいずれかの構造を表す。前記式(d2)において、2個のYは、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項8】
前記式(d1)で表されるジアミンが、下記の式(d1-1)~(d1-18)からなる群から選ばれるいずれかのジアミンである請求項7に記載の液晶配向剤。
【化8】
(nは1~20の整数である。)
【化9】
【請求項9】
前記式(d2)で表されるジアミンが、下記の式(d2-1)~(d2-6)からなる群から選ばれるいずれかのジアミンである請求項7に記載の液晶配向剤。
【化10】
(X
p1~X
p8は、それぞれ独立して、-(CH
2)
a-(aは1~15の整数である。)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH
3)-、-N(CH
3)CO-、-NH-、-O-、-CH
2O-、-CH
2OCO-、-COO-、又は-OCO-を表す。X
s1~X
s4はそれぞれ独立して、-O-、-CH
2O-、-COO-又は-OCO-を表す。X
a~X
fは、単結合、-O-、-NH-、又は-O-(CH
2)
m-O-(mは1~8の整数である。)を表す。R
1a~R
1hはそれぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、又は炭素数2~20のアルコキシアルキル基を表す。)
【請求項10】
前記重合体(P)が、前記ジアミン成分と、下記式(T)で表されるテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体を含有するテトラカルボン酸成分と、の重合反応により得られる請求項1~9のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【化11】
(Xは、下記式(x-1)~(x-13)からなる群から選ばれるいずれかの構造を表す。)
【化12】
(R
1~R
4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、フッ素原子を含有する炭素数1~6の1価の有機基、又はフェニル基を表す。R
5及びR
6は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す。j及びkは、0又は1の整数であり、A
1及びA
2は、それぞれ独立して、単結合、エーテル(-O-)、カルボニル(-CO-)、エステル(-COO-)、フェニレン基、スルホニル基(-SO
2-)又はアミド基(-CONH-)を表し、2個のA
2は同一であっても良く、異なっていても良い。*1は一方の酸無水物基に結合する結合手であり、*2は他方の酸無水物基に結合する結合手である。)
【請求項11】
前記式(T)のXが、(x-1)~(x-7)、(x-11)~(x-13)のいずれかである請求項10に記載の液晶配向剤。
【請求項12】
前記ジアミン(1)が、
重合体(P)の原料である全ジアミン成分中、1~100モル%含有される請求項1~11のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項13】
前記ジアミン(s)が、
重合体(P)の原料である全ジアミン成分中、1~99モル%含有される請求項6~12のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項14】
前記液晶配向剤が、さらに前記ジアミン(1)を含まないジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを用いて得られるポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体(B)を含有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の液晶配向剤を用いて形成されてなる垂直配向用の液晶配向膜。
【請求項16】
請求項13に記載の液晶配向膜を具備する液晶表示素子。
【請求項17】
請求項1~14のいずれか1項に記載の液晶配向剤を、導電膜を有する一対の基板上に塗布して塗膜を形成し、液晶分子の層を介して前記塗膜が相対するように対向配置して液晶セルを形成し、前記一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で前記液晶セルに光照射する液晶表示素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向剤、該液晶配向剤から得られた液晶配向膜、及び該液晶配向膜を有する液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示素子としては、電極構造や使用する液晶分子の物性等が異なる種々の駆動方式が開発されており、例えば、TN(Twisted Nematic)型、STN(Super Twisted Nematic)型、VA(Vertical Alignment)型、IPS(In-Plane Switching)型、FFS(Fringe Field Switching)型等の各種表示素子が知られている。
【0003】
なかでも、VA型の液晶表示素子は、視野角が広く、応答速度が速く、コントラストが大きく、また、生産プロセス上もラビング処理が不要にできることから、特に、大型化のニーズが高いテレビ用やモニター用を中心に広く使用されている。該VA方式の液晶表示素子では、予め液晶組成物中に光重合性化合物を添加し、液晶セルに電圧を印加しながら紫外線を照射することで、液晶の応答速度を速くするPSA(Polymer Sustained Alignment)方式(例えば、特許文献1、非特許文献1参照。)が主流となっている。
【0004】
一方、液晶表示素子は、一般的に液晶分子を配向させるための液晶配向膜を有する。液晶配向膜の材料としては、例えば、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミドなどが知られている。
液晶配向膜には液晶配向性に加えて、様々な特性が要求される。例えば、上記PSA方式の液晶表示素子では、静電気が液晶セル内に蓄積されたり、また、駆動によって生じる正負非対称電圧の印加によって液晶セル内に電荷が蓄積されたりすると、これらの蓄積された電荷が液晶配向の乱れや残像として表示に影響を与え、液晶素子の表示品位を著しく低下させることから、静電気の蓄積が抑制され、且つ、残像の少ない液晶配向膜が求められる。このような課題を解決する液晶配向膜として、特許文献2にはピロール構造を有するポリイミド系液晶配向膜が提案されている。
【0005】
また、近年では、大画面で高精細の液晶テレビが広く実用化されており、このような用途に使用される液晶配向膜は従来よりも信頼性の高いものが必要となっている。特に、液晶配向膜の基本特性である電気特性に関してより高い初期特性を示すことが求められている。この課題を解決する液晶配向膜として、特許文献3にはジフェニルアミン構造を有するポリイミド系液晶配向膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本特開2003-307720号公報
【文献】国際公開2019/013339号公報
【文献】国際公開2009/093709号公報
【文献】K.Hanaoka,SID 04 DIGEST、P1200-1202
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記に加えて、近年、4Kや8Kといった超高精細な液晶表示素子では、ブラックマトリクス(BM)やTFTなどの占有率が大きくなり、パネルの開口率が低下してしまうため、表示部の光透過率の向上が重要視されている。
【0008】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、高い電圧保持率及び高い光透過率を有し、また、蓄積された電荷の緩和が早く、残像特性に優れる液晶配向膜を得ることができる液晶配向剤、該液晶配向膜及びそれを用いた液晶表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意研究を行った結果、特定の成分を含有する液晶配向剤が、上記の目的を達成するために有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、下記式(1)で表されるジアミン(1)を含むジアミン成分を用いて得られるポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体(P)を含有することを特徴とする液晶配向剤、該液晶配向剤から得られた液晶配向膜、及び該液晶配向膜を有する液晶表示素子にある。
【化1】
(Rは1価の有機基を表し、R
1、R
2は飽和若しくは不飽和の炭素数1~6の1価の炭化水素基、又は炭素数3~6の脂環式炭化水素基を表す。上記R
1、R
2における炭化水素基が有する水素原子の一部は置換されていても良い。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の液晶配向剤によれば、高い電圧保持率、及び高い光透過率を有し、また、蓄積された電荷の緩和が早く、残像特性に優れる液晶配向膜を得ることができる。
本発明の上記効果が得られるメカニズムは必ずしも明らかではないが、以下に述べることが一因と考えられる。すなわち、本発明の液晶配向剤に用いる重合体成分の原料であるジアミンは、アミノ基のオルト位に置換基があることで、立体障害が発生し電荷移動の形成が抑制されることから、高い光透過率を有する液晶配向膜が得られ、また、上記ジアミンから得られる重合体は共役構造を有するため、蓄積された電荷の緩和が早く、残像特性に優れた液晶配向膜を得ることができると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(重合体(P))
本発明の液晶配向剤は、下記式(1)で表されるジアミン(1)を含むジアミン成分を用いて得られるポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体(P)を含有する。
【0012】
【0013】
上記式(1)において、R、R1及びR2は、それぞれ上記で定義したとおりである。
Rにおける1価の有機基としては、芳香環構造を有する1価の有機基、炭素数1~30の1価の鎖状炭化水素基、又は炭素数3~30の1価の脂環式炭化水素基が好ましい。かかる鎖状炭化水素基又は脂環式炭化水素基が有する水素原子の一部は置換されていてもよく、その有するメチレン基の一部が、酸素原子、カルボニル基又は-COO-で置換されていてもよい。
上記炭素数1~30の1価の鎖状炭化水素基としては、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基等が挙げられる。Rが鎖状炭化水素基又は脂環式炭化水素基である場合、これらの炭化水素基が有する水素原子の一部は置換されていてもよく、該置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、水酸基、シアノ基、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、炭素数1~9のフルオロアルキル基等が挙げられる。中でも炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフルオロアルキル基がより好ましく、炭素数1~6のアルキル基が特に好ましい。
【0014】
上記炭素数3~30の1価の脂環式炭化水素基は、脂環式構造のみで構成されていてもよく、その一部に鎖状構造を含んでいてもよい。脂環式構造としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、ノルボルナン、アダマンタン等が挙げられる。
上記芳香環構造を有する1価の有機基は、芳香環構造のみで構成されていてもよく、その一部に鎖状構造及び上記脂環式構造の少なくとも一方を含んでいてもよい。芳香環構造としては、ベンゼン環であってもよく、ナフタレン環、アントラセン環等の縮合ベンゼン環であってもよく、チオフェン環、ピロール環、フラン環、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環等の複素芳香環であってもよい。上記芳香環構造を有する1価の基は、芳香環構造を1個のみ有していてもよく、複数個有していてもよい。複数個有している場合、それら複数個の芳香環構造が単結合により結合されていてもよく、この場合、具体的にはビフェニルやテルフェニル等が挙げられる。また、複数個の芳香環構造を連結するように鎖状構造又は脂環式構造が存在していてもよい。これら芳香環構造、鎖状構造及び脂環式構造のうち少なくとも1つの構造は、置換基を有していてもよい。該置換基としてはハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、水酸基、シアノ基、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、炭素数1~9のフルオロアルキル基等が挙げられる。
【0015】
Rにおける上記芳香環構造を有する1価の有機基の好ましい例として、下記式(Ar)で表される構造が挙げられる。
【化3】
(R
aは、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、水酸基、シアノ基、炭素数1~9のアルキル基、炭素数1~9のアルコキシ基、又は炭素数1~9のフルオロアルキル基を表す。mは0~5の整数であり、mが2~5の場合、複数のR
aはそれぞれ独立して上記定義を有する。*は、結合手を表す。)
【0016】
R1、R2における飽和若しくは不飽和の炭素数1~6の1価の炭化水素基としては、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基等が挙げられる。また、R1、R2における炭素数3~6の脂環式炭化水素基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。尚、上記R1、R2における炭化水素基が有する水素原子の一部は置換されていても良く、該置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、水酸基が挙げられる。
本発明の効果を効率的に得る観点から、R、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
R、R1、R2における炭素数1~5のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基が挙げられる。なかでも、炭素数1~3のアルキル基が好ましい。
【0017】
上記式(1)で表されるジアミン(1)の好ましい具体例としては、下記式(d-1)~(d-4)が挙げられる。
【化4】
【0018】
本発明の液晶配向剤に含有される重合体(P)は、特に、TN方式、STN方式、VA方式、PSA方式、SC-PVAモードの液晶表示素子用の液晶配向剤に適用する場合、上記式(1)で表されるジアミンに加えて、下記式(S1)、(S2)及び(S3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有するジアミン(s)を含有するジアミン成分を用いて得られるポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体であるのが好ましい。
【化5】
【0019】
式(S1)において、X1及びX2は、それぞれ独立して、単結合、-(CH2)a-(aは1~15の整数である)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH3)-、-N(CH3)CO-、-NH-、-O-、-COO-、-OCO-、又は-((CH2)a1-A1)m1-(a1は1~15の整数であり、A1は酸素原子又は-COO-を表し、m1は1~2であり、m1が2である場合の複数のa1及びA1は同一であってもよく、異なっていてもよい。)を表す。G1及びG2は、それぞれ独立して、炭素数6~12の2価の芳香族基及び炭素数3~8の2価の脂環式基から選ばれる2価の環状基を表す。前記環状基上の任意の水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ素含有アルキル基、炭素数1~3のフッ素含有アルコキシ基及びフッ素原子からなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。m及びnは、それぞれ独立して、0~3の整数であり、m及びnの合計は1~4である。m及びnが複数の場合、複数のX1、X2、G1及びG2はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。R1は炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、又は炭素数2~20のアルコキシアルキル基を表し、R1を形成する任意の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。
【0020】
また、G1、G2における2価の環状基としては、シクロヘキシレン基、フェニレン基等が挙げられる。これらの環状基上の任意の水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ素含有アルキル基、炭素数1~3のフッ素含有アルコキシ基又はフッ素原子で置換されてもよい。m、nは、それぞれ独立して、0~3の整数であって、m及びnの合計は1~4である。液晶配向性を高める観点から、m及びnの合計は、2~4がより好ましい。
【0021】
【化6】
式(S2)において、X
3は、単結合、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH
3)-、-N(CH
3)CO-、-NH-、-O-、-CH
2O-、-COO-又は-OCO-を表す。R
2は炭素数1~20のアルキル基又は炭素数2~20のアルコキシアルキル基を表し、R
2を形成する任意の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。
また、R
2は、液晶配向性を高める観点から、炭素数3~20のアルキル基又は炭素数2~20のアルコキシアルキル基が好ましい。
【0022】
【化7】
式(S3)において、X
4は、-CONH-、-NHCO-、-O-、-CH
2O-、-OCH
2-、-COO-又は-OCO-を表す。R
3はステロイド骨格を有する構造を表す。また、R
3はコレスタニル基、コレステリル基又はラノスタニル基を含む構造が好ましい。
【0023】
式(S1)の好ましい具体例としては、下記式(S1-x1)~(S1-x7)を挙げることができる。
【化8】
【0024】
上記式(S1-x1)~(S1-x7)中、R1は、上記で定義したとおりである。Xpは、-(CH2)a-(aは1~15の整数である)、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH3)-、-N(CH3)CO-、-NH-、-O-、-CH2O-、-CH2OCO-、-COO-、又は-OCO-を表す。A1は、酸素原子又は-COO-*(但し、「*」を付した結合手が(CH2)a2と結合する)を表し、A2は、酸素原子又は*-COO-(但し、*を付した結合手が(CH2)a2と結合する)を表す。a1、a3は、それぞれ独立して、0又は1の整数であり、a2は1~10の整数であり、Cyは1,4-シクロへキシレン基又は1,4-フェニレン基を表す。
【0025】
式[S2]の好ましい態様として、X3が、-O-、-CH2O-、-COO-又は-OCO-のいずれかであり、R2が炭素数3~20のアルキル基又は炭素数2~20のアルコキシアルキル基である場合が好ましく、R2が炭素数3~20のアルキル基である場合が更に好ましく、R2を形成する任意の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。
【0026】
上記式(S3)の好ましい具体例として、下記式(S3-x)が挙げられる。なお、式(S3-x)中、Xは、式(X1)、式(X2)、又は-CH2O-を表し、Colは、式(Col1)、式(Col2)又は式(Col3)を表し、Gは、式(G1)、式(G2)、式(G3)又は式(G4)を表す。式中、Meはメチル基を表し、*は結合手を表す。
【0027】
【0028】
上記式(S1)~(S3)のいずれかで表される構造を有する好ましいジアミン(s)としては、上記式(S1)~(S3)で表される構造を有し、且つ少なくとも一つのベンゼン環を有するジアミンが好ましい。ジアミン(s)の好ましい例として、下記式(d1)又は式(d2)で表されるジアミンが挙げられる。
【化10】
【0029】
式(d1)、(d2)において、Yは、上記式(S1)~(S3)で表される側鎖構造を表す。また、Xは、単結合、-O-、-C(CH3)2-、-NH-、-CO-、-COO-、-CONH-、-(CH2)m-、-SO2-、-O-(CH2)m-O-、-O-C(CH3)2-、-CO-(CH2)m-、-CO-(CH2)m-CO-、-NH-(CH2)m-、-NH-(CH2)m-NH-、-SO2-(CH2)m-、-SO2-(CH2)m-SO2-、-CONH-(CH2)m-、-CONH-(CH2)m-NHCO-、又は-COO-(CH2)m-OCO-を表す。mは1~8の整数である。上記式(d2)において、2個のYは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0030】
上記式(d1)で表されるジアミンの好ましい具体例としては、下記式(d1-1)~(d1-18)が挙げられる。
【化11】
(nは1~20の整数である。)
【0031】
【0032】
上記式(d2)で表されるジアミンの好ましい具体例としては、下記式(d2-1)~(d2-6)が挙げられる。
【化13】
【0033】
上記式(d2-1)~(d2-6)中、Xp1~Xp8は、それぞれ独立して、上記式(S1-x1)~(S1-x6)におけるXpと同義であり、Xs1~Xs4はそれぞれ独立して、-O-、-CH2O-、-COO-又は-OCO-を表す。Xa~Xfは、単結合、-O-、-NH-、又は-O-(CH2)m-O-(mは1~8の整数である。)を表し、R1a~R1hはそれぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、又は炭素数2~20のアルコキシアルキル基を表す。
【0034】
(重合体(P)の製造)
本発明の液晶配向剤に含有される重合体(P)は、1成分又は2成分以上のポリイミド前駆体及び/又は該ポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドで構成されてもよい。ここにおいて、ポリイミド前駆体は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステルなどのイミド化にすることによりポリイミドを得ることができる重合体である。重合体(P)の好ましい具体的な態様として、以下の2つのタイプが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
上記ジアミン(1)と上記ジアミン(s)とを含むジアミン成分を用いて得られるポリイミド前駆体、及び該ポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体(以下、共重合体ともいう)。
上記ジアミン(1)を含むジアミン成分を用いて得られるポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体(p-1)と、上記ジアミン(s)を含むジアミン成分を用いて得られるポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体(p-2)との混合物(以下、重合体ブレンドともいう。)。
上記共重合体又は重合体ブレンドは単独で使用してもよく、両者を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
<ジアミン成分>
上記重合体(P)のポリイミド前駆体であるポリアミック酸(P)は、上記ジアミン(1)を含有するジアミン成分、好ましくは上記ジアミン(1)に加えてジアミン(s)を含有するジアミン成分とテトラカルボン酸成分との重合反応により得ることができる。
この場合、ジアミン(1)の使用量は、テトラカルボン酸成分と反応させるジアミン成分に対して、1~100モル%が好ましく、1~99モル%がより好ましく、5~95モル%がさらに好ましい。
【0037】
上記ジアミン(1)に加えてジアミン(s)を使用する場合、ジアミン(s)の使用量は、テトラカルボン酸成分と反応させるジアミン成分に対して、1~99モル%が好ましく、1~95モル%がより好ましい。
【0038】
上記ポリアミック酸(P)の製造に用いられるジアミン成分は、ジアミン(1)及びジアミン(s)以外のジアミン(以下、その他のジアミンともいう。)を含んでいてもよい。以下にその他のジアミンの例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4-(2-(メチルアミノ)エチル)アニリン、2,4-ジアミノ安息香酸、2,5-ジアミノ安息香酸、3,5-ジアミノ安息香酸、下記式(3b-1)~式(3b-4)などのカルボキシ基を有するジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル;1,2-ビス(4-アミノフェニル)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ブタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、1,2-ビス(4-アミノ-2-メチルフェノキシ)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ブタン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)へキサン、4-(2-(4-アミノフェノキシ)エトキシ)-3-フルオロアニリン、ジ(2-(4-アミノフェノキシ)エチル)エーテル、4-アミノ-4’-(2-(4-アミノフェノキシ)エトキシ)ビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、1,4-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,7-ジアミノナフタレン、下記式(nh-1)~(nh-6)で表されるジアミン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、1,3-ビス(4-アミノフェネチル)ウレアなどのウレア結合を有するジアミン、メタクリル酸2-(2,4-ジアミノフェノキシ)エチル、2,4-ジアミノ-N,N-ジアリルアニリンなどの光重合性基を末端に有するジアミン、下記式(R1)~(R5)などのラジカル開始機能を有するジアミン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンなどの光照射により増感作用を示す光増感機能を有するジアミン、2,6-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリミジン、3,6-ジアミノカルバゾール、N-メチル-3,6-ジアミノカルバゾール、下記式(z-1)~(z-18)などの複素環を有するジアミン、下記式(Dp-1)~(Dp-9)などのジフェニルアミン骨格を有するジアミン、下記式(5-1)~(5-10)などの基「-N(D)-」(Dは加熱によって脱離し水素原子に置き換わる保護基を表し、好ましくはt-ブトキシカルボニル基である。)を有するジアミン、下記式(Ox-1)~(Ox-2)などのオキサゾリン構造を有するジアミン、国際公開第2016/125870号に記載のジアミンなど。
【0040】
【0041】
(式(3b-1)中、A1は単結合、-CH2-、-C2H4-、-C(CH3)2-、-CF2-、-C(CF3)2-、-O-、-CO-、-NH-、-N(CH3)-、-CONH-、-NHCO-、-CH2O-、-OCH2-、-COO-、-OCO-、-CON(CH3)-又は-N(CH3)CO-を示し、m1及びm2はそれぞれ独立して、0~4の整数を示し、かつm1+m2は1~4の整数を示す。式(3b-2)中、m3及びm4はそれぞれ独立して、1~5の整数を示す。式(3b-3)中、A2は炭素数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を示し、m5は1~5の整数を示す。式(3b-4)中、A3及びA4はそれぞれ独立して、単結合、-CH2-、-C2H4-、-C(CH3)2-、-CF2-、-C(CF3)2-、-O-、-CO-、-NH-、-N(CH3)-、-CONH-、-NHCO-、-CH2O-、-OCH2-、-COO-、-OCO-、-CON(CH3)-又は-N(CH3)CO-を示し、m6は1~4の整数を示す。)
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【化18】
(式(R3)~(R5)中、nは1~6の整数である。)
【0046】
【化19】
(Bocは、tert-ブトキシカルボニル基である。本発明では、以下でも同じである。)
【0047】
【0048】
【0049】
上記その他のジアミンとしては、なかでも、本発明の効果を好適に得る観点から,p-フェニレンジアミン、3,5-ジアミノ安息香酸、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、メタクリル酸2-(2,4-ジアミノフェノキシ)エチル、2,4-ジアミノ-N,N-ジアリルアニリン、上記式(R1)~(R5)で表されるジアミン、上記式(z-1)~(z-18)で表されるジアミン、上記式(5-1)~(5-10)で表されるジアミン、上記式(Ox-1)~(Ox-2)で表されるジアミンが好ましい。
【0050】
上記ジアミン(1)に加えてその他のジアミンを使用する場合、その他のジアミンの使用量は、使用される全ジアミン成分に対して、好ましくは1~99モル%であり、より好ましくは5~95モル%である。
上記ジアミン(1)及びジアミン(s)に加えてその他のジアミンを使用する場合、ジアミン(s)の使用量は、テトラカルボン酸成分と反応させるジアミン成分に対して、98モル%以下が好ましく、94モル%以下がより好ましい。
【0051】
上記式(5-1)~(5-10)で表されるジアミンの使用量は、ポリアミック酸(P)の製造に使用される全ジアミン成分に対して、好ましくは5~40モル%であり、より好ましくは10~40モル%である。
【0052】
PSA方式やSC-PVAモードを用いる液晶表示素子では、応答速度を高める点から、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、光重合性基を末端に有するジアミン、上記式(R1)~(R5)のいずれかで表されるジアミン、及び上記式(z-1)~(z-18)で表されるジアミンは、ポリアミック酸(P)を製造する場合に1種以上用いることができ、その使用量は、ポリアミック酸(P)の製造に使用される全ジアミン成分に対して、好ましくは1~40モル%であり、より好ましくは5~40モル%である。
【0053】
<テトラカルボン酸成分>
上記ポリアミック酸(P)を製造する場合、ジアミン成分と反応させるテトラカルボン酸成分は、テトラカルボン酸二無水物だけでなく、テトラカルボン酸、テトラカルボン酸ジハライド、テトラカルボン酸ジアルキルエステル、又はテトラカルボン酸ジアルキルエステルジハライドなどのテトラカルボン酸二無水物の誘導体を用いることもできる。
【0054】
上記テトラカルボン酸二無水物又はその誘導体は、芳香族、脂肪族若しくは脂環式テトラカルボン酸二無水物、又はこれらの誘導体が挙げられる。ここで、芳香族テトラカルボン酸二無水物は、芳香環に結合する少なくとも1つのカルボキシ基を含めて4つのカルボキシ基が分子内脱水することにより得られる酸二無水物である。脂肪族テトラカルボン酸二無水物は、鎖状炭化水素構造に結合する4つのカルボキシ基が分子内脱水することにより得られる酸二無水物である。但し、鎖状炭化水素構造のみで構成されている必要はなく、その一部に脂環式構造や芳香環構造を有していてもよい。
【0055】
また、脂環式テトラカルボン酸二無水物は、脂環式構造に結合する少なくとも1つのカルボキシ基を含めて4つのカルボキシ基が分子内脱水することにより得られる酸二無水物である。但し、これら4つのカルボキシ基はいずれも芳香環には結合していない。また、脂環式構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状炭化水素構造や芳香環構造を有していてもよい。
【0056】
なかでも、上記テトラカルボン酸二無水物又はその誘導体は、下記式(T)で表されるもの又はその誘導体が好ましい。
【化22】
但し、式(T)中、Xは、下記式(x-1)~(x-13)からなる群から選ばれる構造を表す。
【0057】
【0058】
上記式(x-1)~(x-13)中、R1~R4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、フッ素原子を含有する炭素数1~6の1価の有機基、又はフェニル基を表す。R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す。j及びkは、0又は1の整数であり、A1及びA2は、それぞれ独立して、単結合、エーテル(-O-)、カルボニル(-CO-)、エステル(-COO-)、フェニレン基、スルホニル基(-SO2-)又はアミド基(-CONH-)を表す。*1は一方の酸無水物基に結合する結合手であり、*2は他方の酸無水物基に結合する結合手である。前記式(x-13)において、2個のA2は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0059】
上記式(x-1)のより好ましい具体例として、下記式(X1-1)~(X1-6)が挙げられる。式中、*は結合手を表す。
【化24】
【0060】
上記式(x-12)、(x-13)の好ましい具体例としては、下記式(x-14)~(x-29)が挙げられる。*は結合手を表す。
【化25】
【0061】
【0062】
上記式(T)で表されるテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体の好ましい具体例としては、Xが、上記式(x-1)~(x-7)、(x-11)~(x-13)から選ばれるものが挙げられる。
【0063】
上記式(T)で表されるテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体の使用割合は、使用される全テトラカルボン酸成分1モルに対して、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましい。
ポリアミック酸(P)の製造に用いられるテトラカルボン酸二無水物及びその誘導体は、上記式(T)以外のテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体を含有していてもよい。
【0064】
ポリアミック酸(P)の製造は、上記ジアミン成分と、テトラカルボン酸成分と、を溶媒中で(縮重合)反応させることにより行われる。溶媒としては、生成した重合体が溶解するものであれば特に限定されない。
上記溶媒の具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが挙げられる。また、重合体の溶媒溶解性が高い場合は、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、又は下記式[D-1]~[D-3]で示される溶媒を用いることができる。
【0065】
【化27】
(式[D-1]中、D
1は炭素数1~3のアルキル基を示し、式[D-2]中、D
2は炭素数1~3のアルキル基を示し、式[D-3]中、D
3は炭素数1~4のアルキル基を表す。)。
【0066】
上記のこれら溶媒は単独で使用しても、混合して使用してもよい。さらに、重合体を溶解させない溶媒であっても、生成した重合体が析出しない範囲で、上記溶媒に混合して使用してもよい。
ジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを溶媒中で反応させる際には、反応は任意の濃度で行うことができるが、上記溶媒に対するジアミン成分とテトラカルボン酸成分の濃度は、好ましくは1~50質量%、より好ましくは5~30質量%である。反応初期は高濃度で行い、その後、溶媒を追加することができる。
反応においては、ジアミン成分の合計モル数とテトラカルボン酸成分の合計モル数との比(ジアミン成分の合計モル数/テトラカルボン酸成分の合計モル数)は0.8~1.2であることが好ましい。通常の重縮合反応同様、このモル比が1.0に近いほど生成する重合体の分子量は大きくなる。
【0067】
ポリイミド前駆体であるポリアミック酸エステルは、例えば、[I]上記合成反応により得られたポリアミック酸とエステル化剤とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルとジアミンとを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミンとを反応させる方法、などの既知の方法によって得ることができる。
【0068】
[ポリイミド]
本発明の液晶配向剤に含有されるポリイミドは上記ポリイミド前駆体を閉環させて得られるポリイミドである。ポリイミドにおいては、アミック酸基の閉環率(イミド化率ともいう)は必ずしも100%である必要はなく、用途や目的に応じて任意に調整することができる。
【0069】
ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミドを得る方法としては、ポリイミド前駆体の溶液をそのまま加熱する熱イミド化、又はポリイミド前駆体の溶液に触媒を添加する触媒イミド化が挙げられる。ポリイミド前駆体を溶液中で熱イミド化させる場合の温度は、100~400℃、好ましくは120~250℃であり、イミド化反応により生成する水を系外に除きながら行う方が好ましい。
【0070】
ポリイミド前駆体の触媒イミド化は、ポリイミド前駆体の溶液に、塩基性触媒と酸無水物とを添加し、-20~250℃、好ましくは0~180℃で撹拌することにより行うことができる。塩基性触媒の量はアミック酸基の0.5~30モル倍、好ましくは2~20モル倍であり、酸無水物の量はアミック酸基の1~50モル倍、好ましくは3~30モル倍である。塩基性触媒としてはピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミントリオクチルアミンなどを挙げることができ、なかでも、ピリジンは反応を進行させるのに適度な塩基性を持つので好ましい。酸無水物としては、無水酢酸、無水トリメリット酸無水ピロメリット酸などを挙げることができ、なかでも、無水酢酸を用いると反応終了後の精製が容易となるので好ましい。触媒イミド化によるイミド化率は、触媒量と反応温度、反応時間を調節することにより制御することができる。
【0071】
ポリイミド前駆体のイミド化の反応溶液から、生成したポリイミドを回収する場合には、反応溶液を溶媒に投入して沈殿させればよい。沈殿に用いる溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、ベンゼン、水などを挙げることができる。溶媒に投入して沈殿させたポリマーは濾過して回収した後、常圧あるいは減圧下で、常温あるいは加熱して乾燥することができる。また、沈殿回収した重合体を、溶媒に再溶解させ、再沈殿回収する操作を2~10回繰り返すと、重合体中の不純物を少なくすることができる。この際の溶媒として、例えば、アルコール類、ケトン類炭化水素などが挙げられる。これらの内から選ばれる3種類以上の溶媒を用いると、より一層精製の効率が上がるので好ましい。
【0072】
ポリイミド前駆体及びポリイミドのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5,000~1,000,000であり、より好ましくは10,000~150,000である。また、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは15以下であり、より好ましくは10以下である。かかる分子量範囲にあることで、液晶表示素子の良好な配向性を確保することができる。
【0073】
<末端封止剤>
本発明における重合体(P)は、その製造に際して、上記テトラカルボン酸成分、及びジアミン成分とともに、適当な末端封止剤を用いて末端封止型の重合体としてもよい。末端封止型の重合体は、塗膜によって得られる液晶配向膜の膜硬度の向上や、シール剤と液晶配向膜の密着特性の向上という効果を有する。
本発明における重合体(P)の末端の例としては、アミノ基、カルボキシ基、酸無水物基又はこれらの誘導体が挙げられる。アミノ基、カルボキシ基、酸無水物基、又はこれらの誘導体は通常の縮合反応或いは以下の末端封止剤を用いて得ることができ、前記誘導体は、例えば、以下の末端封止剤を用いて得ることができる。
【0074】
末端封止剤としては、例えば、無水酢酸、無水マレイン酸、無水ナジック酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、3-ヒドロキシフタル酸無水物、トリメリット酸無水物、下記式(m-1)~(m-6)のいずれかで表される化合物、3-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-3,4-ジヒドロフラン-2,5-ジオン、4,5,6,7-テトラフルオロイソベンゾフラン-1,3-ジオン、4-エチニルフタル酸無水物などの酸無水物;
【0075】
【0076】
二炭酸ジ-tert-ブチル、二炭酸ジアリルなどの二炭酸ジエステル化合物;アクリロイルクロリド、メタクリロイルクロリド、ニコチン酸クロリドなどのクロロカルボニル化合物;アニリン、2-アミノフェノール、3-アミノフェノール、4-アミノサリチル酸、5-アミノサリチル酸、6-アミノサリチル酸、2-アミノ安息香酸、3-アミノ安息香酸、4-アミノ安息香酸、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミンなどのモノアミン化合物;エチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどのモノイソシアネート化合物などを挙げることができる。
【0077】
末端封止剤の使用割合は、使用するジアミン成分の合計100モル部に対して、0.01~20モル部とすることが好ましく、0.01~10モル部とすることがより好ましい。
【0078】
(液晶配向剤)
本発明の液晶配向剤は、重合体(P)、及び必要に応じて使用されるその他の成分が、好ましくは適当な溶媒中に分散又は溶解してなる液状の組成物である。
本発明の液晶配向剤においては、例えば電気特性(例:高い電圧保持率特性)、垂直配向性や溶液特性を改善することなどを目的として、重合体(P)のほかに、それ以外の重合体(以下、その他の重合体ともいう。)を含有させてもよい。
その他の重合体の含有割合は、液晶配向剤中に含まれる重合体の合計100質量部に対して、90質量部以下が好ましく、10~90質量部がより好ましく、20~80質量部が更に好ましい。
【0079】
その他の重合体は特に限定されず、例えば、上記ジアミン(1)を含まないジアミン成分とテトラカルボン酸成分とを用いて得られるポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化物であるポリイミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体(B)、ポリシロキサン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレア、ポリオルガノシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン誘導体、ポリ(スチレン-フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどの主骨格が挙げられる。なかでも、上記重合体(B)、ポリアミド、ポリウレア、ポリオルガノシロキサン、ポリ(メタ)アクリレート及びポリエステルよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。なお、その他の重合体は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0080】
(重合体(B))
上記重合体(B)として、電気特性を高める観点から、上記ジアミン(s)を含有するジアミン成分を用いて得られるポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体が、より好ましい。上記重合体(B)を得るために用いられるジアミン(s)の好ましい態様は、重合体(P)で例示したジアミン(s)と同様である。また、重合体(B)を得るために用いられるジアミン成分として、上記ジアミン(s)の他、上記重合体(P)で例示したその他のジアミンを用いることもできる。その他のジアミンは、中でも、上記ラジカル開始機能を有するジアミン、上記光照射により増感作用を示す光増感機能を有するジアミン、上記基「-N(D)-」を有するジアミン、を好ましく用いることができる。
重合体(B)を製造するために用いられるジアミン(s)は、重合体(B)を製造する場合に1種以上用いることができ、その使用量は、重合体(B)の製造に使用される全ジアミン成分に対して、好ましくは5~90モル%であり、より好ましくは10~90モル%である。
重合体(B)を製造するために用いられるテトラカルボン酸成分は、ポリアミック酸(P)を製造するために用いられるテトラカルボン酸成分として例示した化合物を挙げることができる。中でも、上記式(T)で表されるテトラカルボン酸二無水物又はその誘導体が好ましい。
重合体(B)を製造するために用いられる上記式(T)で表されるもの又はその誘導体は、重合体(B)を製造する場合に1種以上用いることができ、その使用量は、重合体(B)の製造に使用される全テトラカルボン酸成分に対して、好ましくは10モル以上%であり、より好ましくは20モル%以上である。
【0081】
本発明の液晶配向剤は、その他、必要に応じて上記以外の成分を含有していてもよい。かかる成分としては、例えば、エポキシ基、イソシアネート基、オキセタン基、シクロカーボネート基、ブロックイソシアネート基、ヒドロキシ基及びアルコキシ基から選ばれる少なくとも1種の置換基を有する架橋性化合物、並びに重合性不飽和基を有する架橋性化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、官能性シラン化合物、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、酸化防止剤、増感剤、防腐剤、液晶配向膜の誘電率や電気抵抗を調整するための化合物などが挙げられる。
【0082】
架橋性化合物の好ましい具体例としては、下記式(CL-1)~(CL-11)のいずれかで表される化合物が挙げられる。
【化29】
【0083】
上記液晶配向膜の誘電率や電気抵抗を調整するための化合物としては、3-ピコリルアミンなどの窒素含有芳香族複素環を有するモノアミンが挙げられる。窒素含有芳香族複素環を有するモノアミンを使用する場合は、液晶配向剤に含まれる重合体成分100質量部に対して0.1~30質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~20質量部である。
【0084】
官能性シラン化合物の好ましい具体例としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン、2-アミノプロピルトリメトキシシラン、2-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。官能性シラン化合物を使用する場合、その使用量は、液晶配向剤に含まれる重合体成分100質量部に対して0.1~30質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~20質量部である。
【0085】
液晶配向剤に含有される有機溶媒は、重合体成分が均一に溶解するものであれば特に限定されない。その具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルラクトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N-(n-プロピル)-2-ピロリドン、N-イソプロピル-2-ピロリドン、N-(n-ブチル)-2-ピロリドン、N-(tert-ブチル)-2-ピロリドン、N-(n-ペンチル)-2-ピロリドン、N-メトキシプロピル-2-ピロリドン、N-エトキシエチル-2-ピロリドン、N-メトキシブチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン(これらを総称して「良溶媒」ともいう)などを挙げられる。なかでも、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド又はγ-ブチロラクトンが好ましい。良溶媒の含有量は、液晶配向剤に含まれる溶媒全体の20~99質量%であることが好ましく、20~90質量%がより好ましく、特に好ましいのは、30~80質量%である。
【0086】
また、液晶配向剤に含有される有機溶媒は、上記溶媒に加えて液晶配向剤を塗布する際の塗布性や塗膜の表面平滑性を向上させる溶媒(貧溶媒ともいう。)を併用した混合溶媒の使用が好ましい。併用する貧溶媒の具体例を下記するが、これらに限定されない。
【0087】
例えば、ジイソプロピルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジイソブチルカルビノール(2,6-ジメチル-4-ヘプタノール)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、1,2-ブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、3-エトキシブチルアセタート、1-メチルペンチルアセタート、2-エチルブチルアセタート、2-エチルヘキシルアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノイソアミルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、1-(2-ブトキシエトキシ)-2-プロパノール、2-(2-ブトキシエトキシ)-1-プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアセタート、ジエチレングリコールアセタート、プロピレングリコールジアセテート、酢酸n-ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸プロピル、3-メトキシプロピオン酸ブチル、乳酸n-ブチル、乳酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジイソブチルケトン(2,6-ジメチル-4-ヘプタノン)などを挙げることができる。
【0088】
なかでも、ジイソブチルカルビノール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、又はジイソブチルケトンが好ましい。貧溶媒の含有量は、液晶配向剤に含まれる溶媒全体の1~80質量%が好ましく、10~80質量%がより好ましく、20~70質量%が特に好ましい。貧溶媒の種類及び含有量は、液晶配向剤の塗布装置、塗布条件、塗布環境などに応じて適宜選択される。
【0089】
良溶媒と貧溶媒との好ましい溶媒の組み合わせとしては、N-メチル-2-ピロリドンとエチレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとエチレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとプロピレングリコールモノブチルエーテル、N-エチル-2-ピロリドンとプロピレングリコールモノブチルエーテル、N-エチル-2-ピロリドンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、N-エチル-2-ピロリドンとプロピレングリコールジアセテート、N,N-ジメチルラクトアミドとジイソブチルケトン、N-メチル-2-ピロリドンと3-エトキシプロピオン酸エチル、N-エチル-2-ピロリドンと3-エトキシプロピオン酸エチル、N-メチル-2-ピロリドンとエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、N-エチル-2-ピロリドンとジプロピレングリコールジメチルエーテル、N,N-ジメチルラクトアミドとエチレングリコールモノブチルエーテル、N,N-ジメチルラクトアミドとプロピレングリコールジアセテート、N-エチル-2-ピロリドンとジエチレングリコールジエチルエーテル、N,N-ジメチルラクトアミドとジエチレングリコールジエチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとジエチレングリコールジエチルエーテル、N-エチル-2-ピロリドンとN-メチル-2-ピロリドンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、N-エチル-2-ピロリドンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとプロピレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとジイソブチルケトン、N-メチル-2-ピロリドンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとジプロピレングリコールモノメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとプロピレングリコールモノブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとプロピレングリコールジアセテート、γ-ブチロラクトンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとジイソブチルケトン、γ-ブチロラクトンと4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンとプロピレングリコールジアセテート、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとジイソブチルケトン、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとジイソプロピルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとジイソブチルカルビノール、N-メチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとジプロピレングリコールジメチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとジプロピレングリコールジメチルエーテル、N-エチル-2-ピロリドンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとジプロピレングリコールモノメチルエーテル、N-エチル-2-ピロリドンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとプロピレングリコールジアセテート、N-エチル-2-ピロリドンとプロピレングリコールモノブチルエーテルとジイソブチルケトン、N-エチル-2-ピロリドンとγ-ブチロラクトンとジイソブチルケトン、N-エチル-2-ピロリドンとN,N-ジメチルラクトアミドとジイソブチルケトンなどを挙げることができる。
【0090】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%である。特に好ましい固形分濃度は、基板に液晶配向剤を塗布する際に用いる方法によって異なる。例えばスピンコート法による場合、固形分濃度は1.5~4.5質量%が特に好ましい。印刷法による場合には、固形分濃度を3~9質量%とし、それにより溶液粘度を12~50mPa・sとすることが特に好ましい。インクジェット法による場合には、固形分濃度を1~5質量%とし、それにより、溶液粘度を3~15mPa・sとすることが特に好ましい。
【0091】
<液晶配向膜・液晶表示素子>
本発明の液晶配向膜は、上記液晶配向剤から得られる。本発明の液晶配向膜は、水平配向型若しくは垂直配向型の液晶配向膜に用いることができるが、中でもVA方式又は後述するPSAモード等の垂直配向型の液晶表示素子に好適である。本発明の液晶表示素子は、上記液晶配向膜を具備するものである。
本発明の液晶表示素子は、例えば、以下の工程(1)~(3)又は工程(1)~(4)を含む方法により製造することができる。
【0092】
工程(1):液晶配向剤を基板上に塗布する工程
パターニングされた透明導電膜が設けられている基板の一面に、本発明の液晶配向剤を、例えばロールコーター法、スピンコート法、印刷法、インクジェット法などの適宜の塗布方法により塗布する。ここで基板としては、透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、窒化珪素基板とともに、アクリル基板やポリカーボネート基板等のプラスチック基板等を用いることもできる。また、反射型の液晶表示素子では、片側の基板のみにならば、シリコンウエハー等の不透明な物でも使用でき、この場合の電極にはアルミニウム等の光を反射する材料も使用できる。
【0093】
工程(2):塗膜を焼成する工程
液晶配向剤塗布後、塗布した配向剤の液垂れ防止等の目的で、好ましくは先ず予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、より好ましくは40~150℃であり、特に好ましくは40~100℃である。プレベーク時間は好ましくは0.25~10分であり、より好ましくは0.5~5分である。そしてさらに加熱(ポストベーク)工程が実施されることが好ましい。このポストベーク温度は好ましくは80~300℃であり、より好ましくは120~250℃である。ポストベーク時間は好ましくは5~200分であり、より好ましくは10~100分である。このようにして形成される膜の膜厚は、5~300nmが好ましく、10~200nmがより好ましい。
【0094】
上記工程(1)で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、該塗膜に対し配向能付与処理を施してもよい。配向能付与処理としては、塗膜を例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦るラビング処理、塗膜に対して偏光又は非偏光の放射線を照射する光配向処理などが挙げられる。
【0095】
光配向処理において、塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。また、用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線を照射する場合には、照射の方向は斜め方向とする。
【0096】
工程(3);液晶層を形成する工程
(3-1)VA型液晶表示素子の場合
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置する。具体的には以下の2つの方法が挙げられる。
第一の方法は、従来から知られている方法である。先ず、それぞれの液晶配向膜が対向するように間隙(セルギャップ)を介して2枚の基板を対向配置する。次いで、2枚の基板の周辺部を、シール剤を用いて貼り合わせ、基板表面及びシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶組成物を注入充填して膜面に接触した後、注入孔を封止する。
【0097】
また、第二の方法は、ODF(One Drop Fill)方式と呼ばれる手法である。液晶配向膜を形成した2枚の基板のうちの一方の基板上の所定の場所に、例えば紫外光硬化性のシール剤を塗布し、更に液晶配向膜面上の所定の数箇所に液晶組成物を滴下する。その後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせて液晶組成物を基板の全面に押し広げて膜面に接触させる。次いで、基板の全面に紫外光を照射してシール剤を硬化する。いずれの方法による場合でも、更に、用いた液晶組成物が等方相をとる温度まで加熱した後、室温まで徐冷することにより、液晶充填時の流動配向を除去することが望ましい。
【0098】
本発明の液晶配向剤は、電極を備えた一対の基板の間に液晶層を有してなり、一対の基板の間に活性エネルギー線及び熱の少なくとも一方により重合する重合性化合物を含む液晶組成物を配置し、電極間に電圧を印加しつつ、活性エネルギー線の照射及び加熱の少なくとも一方により、重合性化合物を重合させる工程を経て製造される液晶表示素子(PSA型液晶表示素子)にも好ましく用いられる。
また、本発明の液晶配向剤は、電極を備えた一対の基板の間に液晶層を有してなり、上記一対の基板の間に活性エネルギー線及び熱の少なくとも一方により重合する重合性基を含む液晶配向膜を配置し、電極間に電圧を印加する工程を経て製造される液晶表示素子(SC-PVAモード型の液晶表示素子)にも好ましく用いられる。
【0099】
(3-2)PSA型液晶表示素子の場合
重合性化合物を含有する液晶組成物を注入又は滴下する点以外は上記(3-1)と同様にする。重合性化合物としては、例えば下記式(M-1)~(M-7)で表されるような重合性化合物を挙げることができる。
【0100】
【0101】
(3-3)SC-PVAモード型の液晶表示素子の場合
上記(3-1)と同様にした後、後述する紫外線を照射する工程を経て液晶表示素子を製造する方法を採用してもよい。この方法によれば、前記PSA型液晶表示素子を製造する場合と同様に、少ない光照射量で応答速度に優れた液晶表示素子を得ることができる。重合性基を有する化合物は、上記式(M-1)~(M-7)で表されるようなアクリレート基やメタクリレート基などの重合性不飽和基を分子内に1個以上有する化合物であってもよく、その含有量は、全ての重合体成分100質量部に対して0.1~30質量部であることが好ましく、より好ましくは1~20質量部である。また、前記重合性基は液晶配向剤に用いる重合体が有していてもよく、このような重合体としては、例えば前記光重合性基を末端に有するジアミンを含むジアミン成分を反応に用いて得られる重合体が挙げられる。
【0102】
工程(4):紫外線を照射する工程
上記(3-2)又は(3-3)で得られた一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する。ここで印加する電圧は、例えば5~50Vの直流又は交流とすることができる。また、照射する光としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができるが、300~400nmの波長の光を含む紫外線が好ましい。照射光の光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザーなどを使用することができる。光の照射量としては、好ましくは1,000~200,000J/m2であり、より好ましくは1,000~100,000J/m2である。
【0103】
そして、液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせることにより液晶表示素子を得ることができる。液晶セルの外側表面に貼り合わされる偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板を挙げることができる。
【実施例】
【0104】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下における化合物の略号及び各特性の測定方法は、次のとおりである。また、「Me」は、メチル基を表す。
【0105】
(テトラカルボン酸二無水物)
BODA:ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸二無水物
CBDA:1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
【0106】
【0107】
【0108】
(有機溶媒)
NMP:N-メチル-2-ピロリドン、 BCS:ブチルセロソルブ
THF:テトラヒドロフラン、 DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
【0109】
<1H-NMRの測定>
装置:フーリエ変換型超伝導核磁気共鳴装置(FT-NMR)「AVANCE III」(BRUKER社製)500MHz。
溶媒:重水素化ジメチルスルホキシド([D6]-DMSO)。標準物質:テトラメチルシラン(TMS)。
【0110】
<分子量の測定>
測定装置:島津製作所社製GPC(LC-20シリーズ)、カラム温度:50℃、溶離液:N,N-ジメチルホルムアミド(添加剤として、臭化リチウム一水和物(LiBr・H2O)が30mmol/L、リン酸・無水結晶(o-リン酸)が30mmol/L、テトラヒドロフラン(THF)が10mL/L)、流速:1.0mL/分、検量線作成用標準サンプル:東ソー社製 TSK 標準ポリエチレンオキサイド(分子量約900,000、150,000、100,000、30,000)、及び、ポリマーラボラトリー社製 ポリエチレングリコール(分子量 約12,000、4,000、1,000)。
【0111】
<イミド化率の測定>
ポリイミド粉末20mgをNMRサンプル管(草野科学社製 NMRサンプリングチューブスタンダード φ5)に入れ、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6、0.05%テトラメチルシラン(TMS)混合品)1.0mLを添加し、超音波をかけて完全に溶解させた。この溶液をフーリエ変換型超伝導核磁気共鳴装置(FT-NMR)「AVANCE III」(BRUKER社製)にて500MHzのプロトンNMRを測定した。
【0112】
(化学)イミド化率は、イミド化前後で変化しない構造に由来するプロトンを基準プロトンとして決め、このプロトンのピーク積算値と、9.5~10.0ppm付近に現れるアミック酸のNH基に由来するプロトンピーク積算値とを用い以下の式によって求めた。なお、式中、xはアミック酸のNH基由来のプロトンピーク積算値であり、yは基準プロトンのピーク積算値であり、αはポリアミック酸(イミド化率が0%)の場合におけるアミック酸のNH基のプロトン1個に対する基準プロトンの個数割合である。
イミド化率(%)=(1-α・x/y)×100
【0113】
<化合物(DA-1)の合成>
下記に示す経路に従って化合物(DA-1)を合成した。
(化合物1の合成)
【化33】
【0114】
5-フルオロ-2-ニトロアニソール(15.0g、87.6mmol)に対し、メタノール(45.0g)を加え、室温にてメチルアミン(9.8mol/L メタノール溶液、89.4mL、876mmol)を加えた。24時間撹拌後、水(270g)を加えて結晶を析出させた。結晶を濾別した後、水(45g)で2回結晶を洗浄し、乾燥させて化合物1を得た(15.3g、84.0mmol、収率95.9%)。
【0115】
【0116】
化合物1(8.40g、46.1mmol)、DMAc(84.0g)、及び水酸化カリウム(3.88g、69.2mmol)を加えた溶液に、5-フルオロ-2-ニトロアニソール(7.89g、46.1mmol)とDMAc(42.0g)の混合液を加えた後、60℃に加温し1時間加熱撹拌を行った。反応終了後に水(378g)を加えて結晶を析出させた。結晶を濾別した後、水(50.0g)で2回、メタノール(50.0g)で2回の順で洗浄し、乾燥させて粗物(17.0g)を得た。この粗物をDMF(136g)に加熱溶解させた後に冷却して、析出した結晶を濾過により回収し、化合物2を得た(14.3g、42.9mmol、収率93.0%)。
【0117】
【0118】
化合物2(14.3g、42.9mmol)に対し、THF(420g)及びカーボン担持パラジウム(5%Pdカーボン粉末(含水品)Kタイプ、エヌ・イー・ケムキャット社製、1.43g)を加え、水素雰囲気下でニトロ還元を行った。還元終了後、メンブレンフィルターにてカーボン担持パラジウムを濾過し、得られた溶液を濃縮した後にイソプロパノール(70g)を加えたところ結晶が析出した。0℃に冷却した後に結晶をろ過にて回収し、イソプロパノール(30.0g)で2回ケーキ洗浄後に乾燥させて固体DA-1を得た(9.6g、35.1mmol、収率82.0%)。なお、以下に示す1H-NMRの結果から、上記固体がDA-1であることを確認した。
1H-NMR(500MHz,[D6]-DMSO):δ=6.52(d,2H,J=8.3Hz),6.43(d,2H,J=2.4Hz),6.30(dd,2H,J=8.3,2.3Hz),4.29(s,4H),3.66(s,6H),3.07(s,3H)
【0119】
<ポリアミック酸の合成>
(合成例1)
BODA(2.50g、10.0mmol)、DA-1(2.19g、8.0mmol)、DA-4(1.94g、8.0mmol)及びDA-5(1.58g、4.0mmol)をNMP(32.8g)中で混合し、60℃で3時間反応させたのち、CBDA(1.90g、9.7mmol)とNMP(7.6g)を加え、40℃で4時間反応させポリアミック酸溶液(1)を得た。このポリアミック酸の数平均分子量(Mn)は、12,100、重量平均分子量(Mw)は39,700であった。
【0120】
(合成例2)
BODA(2.50g、10.0mmol)、DA-2(1.59g、8.0mmol)、DA-4(1.94g、8.0mmol)及びDA-5(1.58g、4.0mmol)をNMP(30.4g)中で混合し、60℃で3時間反応させたのち、CBDA(1.90g、9.7mmol)とNMP(7.6g)を加え、40℃で4時間反応させポリアミック酸溶液(2)を得た。このポリアミック酸のMnは10,700、Mwは26,600であった。
【0121】
(合成例3)
BODA(2.50g、10.0mmol)、DA-3(1.71g、8.0mmol)、DA-4(1.94g、8.0mmol)及びDA-5(1.58g、4.0mmol)をNMP(30.9g)中で混合し、60℃で3時間反応させたのち、CBDA(1.90g、9.7mmol)とNMP(7.6g)を加え、40℃で4時間反応させポリアミック酸溶液(3)を得た。このポリアミック酸のMnは10,500、Mwは31,600であった。
(合成例4)
BODA(2.50g、10.0mmol)、DA-6(0.99g、3.0mmol)、DA-7(1.19g、5.0mmol)、DA-8(1.19g、6.0mmol)及びDA-9(2.61g、6.0mmol)をNMP(33.9g)中で混合し、60℃で3時間反応させたのち、CBDA(1.90g、9.7mmol)とNMP(7.6g)を加え、40℃で4時間反応させポリアミック酸溶液(4)を得た。このポリアミック酸のMnは11,400、Mwは29,300であった。
【0122】
上記合成例で得られた各重合体の仕様は、下記の表1に示すとおりである。
【表1】
【0123】
<液晶配向剤の調製>
(実施例1)
合成例1で得られたポリアミック酸溶液(1)(6.0g)にNMP(6.0g)とBCS(8.0g)を加え室温で2時間撹拌することにより液晶配向剤(A-1)を得た。
(実施例2)
合成例1で得られたポリアミック酸溶液(1)(1.8g)および合成例4で得られたポリアミック酸溶液(4)(4.2g)にNMP(6.0g)とBCS(8.0g)を加え室温で2時間撹拌することにより液晶配向剤(A-2)を得た。
【0124】
(比較例1、2)
ポリアミック酸溶液(1)の代わりにそれぞれポリアミック酸溶液(2)、(3)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1、2の液晶配向剤(B-1)、(B-2)を得た。
(比較例3、4)
ポリアミック酸溶液(1)の代わりにそれぞれポリアミック酸溶液(2)、(3)を用いた以外は、実施例2と同様にして、比較例3、4の液晶配向剤(B-3)、(B-4)を得た。
【0125】
【0126】
上記で得られた液晶配向剤(A-1)、(A-2)、(B-1)~(B-4)には、濁りや析出などの異常は見られず、均一な溶液であることが確認された。得られた液晶配向剤を用いて、透過率、電圧保持率、残留DC電圧、及び残像特性の評価を行った。
【0127】
<(光)透過率の評価>
上記で得られた液晶配向剤(A-1)、(A-2)、(B-1)~(B-4)をそれぞれ石英基板にスピンコートし、70℃のホットプレート上で90秒間乾燥させた。その後、230℃のIR式オーブンで20分間焼成を行い、膜厚100nmの塗膜を形成させて、液晶配向膜付き基板を得た。この液晶配向膜付き基板を内側にし、もう一枚石英基板を用いて光の干渉を防ぐ目的で接触液(島津デバイス製造社製)を挟んだ。透過率の評価には、測定装置にUV-3600(島津製作所社製)を用い、温度25℃、スキャン波長を380~800nmで測定した。その際、リファレンスには塗膜していない2枚の石英基板で接触液を挟んだものを用いた。評価は、590nmの波長の透過率を基準とし、その値を下記の表3に示す。
【0128】
<電圧保持率・残留DC電圧評価用の液晶表示素子の作製>
上記で得られた液晶配向剤(A-1)、(A-2)、(B-1)~(B-4)を用いて下記に示すような手順で液晶セルの作製を行った。液晶配向剤をITO電極付きガラス基板にスピンコートし、70℃のホットプレート上で90秒間乾燥した後、230℃のIR式オーブンで20分間焼成を行い、膜厚100nmの液晶配向膜を形成した。この液晶配向膜付き基板を2枚用意し、その1枚の液晶配向膜上に直径4μmのビーズスペーサー(日揮触媒化成社製、真絲球、SW-D1)を塗布し、液晶注入口を残して周囲に熱硬化性シール剤(協立化学産業社製 XN-1500T)を印刷した。次いで、もう一方の基板の液晶配向膜が形成された側の面を内側にして、先の基板と貼り合せた後、シール剤を硬化させて空セルを作製した。
【0129】
この空セルに液晶MLC-3023(メルク社製)を減圧注入法によって注入し、液晶セルを作製した。次に、この液晶セルに15VのDC電圧を印加した状態で、液晶セルの外側から波長325nm以下のカットフィルターを通したUVを10J/cm2照射した。なお、UVの照度は、ORC社製UV-MO3Aを用いて測定した。その後、液晶セル中に残存している未反応の重合性化合物を失活させる目的で、電圧を印加していない状態で東芝ライテック社製UV-FL照射装置を用いてUV(UVランプ:FLR40SUV32/A-1)を30分間照射した。
【0130】
<電圧保持率の評価>
UV照射後の電圧保持率評価用の液晶セルを用いて電圧保持率を測定した。60℃の熱風循環オーブン中で1Vの電圧を60μsec間印加し、その後16.67msec後の電圧を測定し、電圧がどのくらい保持できているかを電圧保持率として計算した。電圧保持率の測定には、東陽テクニカ社製のVHR-1を使用した。その値を下記の表3に示す。値が高いほど良好である。
【0131】
<残留DC電圧の評価>
上記で作製した残留DC電圧評価用の液晶セルに対し、直流2Vを重畳した30Hz、7.8Vppの矩形波を25℃で100時間印加し、直流電圧を切って1時間後の液晶セル内に残留した電圧(残留DC電圧)をフリッカー消去法により求めた。この値はDC蓄積により発生する残像の指標となり、この値が50mV以下であるとき、残像特性に優れている、即ち「良好」とし、50mVよりも大きい場合は「不良」と定義して評価を行った。結果を下記の表3に示す。
【0132】
<残像特性評価用液晶表示素子の作製>
上記で得られた液晶配向剤(A-1)、(A-2)、(B-1)~(B-4)を用いて下記に示すような手順で液晶セルの作製を行った。液晶配向剤を画素サイズが200μm×600μmでライン/スペースがそれぞれ3μmのITO電極パターンが形成されているITO電極基板(縦:35mm、横:30mm、厚さ:0.7mm)と、高さ3.2μmのフォトスペーサーがパターニングされているITO電極付きガラス基板(縦:35mm、横:30mm、厚さ:0.7mm)のITO面上にそれぞれスピンコートし、ホットプレート上にて70℃で90秒間乾燥した後、230℃のIR式オーブンで20分間焼成を行い、膜厚100nmの液晶配向膜を形成した。なお、このITO電極パターンが形成されているITO電極基板は、クロスチェッカー(市松)模様に4分割されており4つのエリアごとで別々に駆動ができるようになっている。
【0133】
次に、液晶配向膜が塗布されたライン/スペースがそれぞれ3μmのITO電極パターンが形成されているITO電極基板に、液晶注入口を残して周囲にシール剤(協立化学産業社製 XN-1500T)を印刷した。次いで、もう一方の基板の液晶配向膜が形成された側の面を内側にして、先の基板と張り合わせた後、シール剤を硬化させて空セルを作製した。この空セルに液晶MLC-3023(メルク社製)を減圧注入法によって注入し、液晶セルを作製した。この液晶セルに15VのDC電圧を印加した状態で、この液晶セルの外側から325nm以下カットフィルターを通したUVを10J/cm2照射した。なお、UVの照度は、ORC社製UV-MO3Aを用いて測定した。その後、液晶セル中に残存している未反応の重合性化合物を失活させる目的で、電圧を印加していない状態で東芝ライテック社製UV-FL照射装置を用いてUV(UVランプ:FLR40SUV32/A-1)を30分間照射した。
【0134】
<残像特性の評価>
上記で作製した残像特性評価用の液晶セルを用いて、4つの画素エリアのうち対角線の2つのエリアに60Hz、20Vp-pの交流電圧を印加し、25℃の温度下で168時間駆動させた。その後、4つの画素エリアすべてを5Vp-pの交流電圧で駆動させ、画素の輝度差を目視で観察した。輝度差がほぼ確認できない状態を「良好」とし、輝度差が容易に確認できる状態を「不良」と定義して評価を行った。結果を下記の表3に示す。
【0135】
【0136】
表3に示されるように、実施例1の液晶配向剤(A-1)を用いて得られる液晶配向膜は対応する比較例1、2の液晶配向剤(B-1)、(B-2)を用いて得られる液晶配向膜と比較し、高い透過率が得られた。さらに、実施例2の液晶配向剤(A-2)を用いて得られる液晶配向膜は、対応する比較例3、4の液晶配向剤(B-3)、(B-4)を用いて得られる液晶配向膜と比較し、高い透過率が得られた。なお、透過率における0.5%の差は当技術分野においては顕著な差である。
また、実施例で得られる液晶配向剤を用いると、電圧保持率評価においても高い電圧保持率を有する液晶配向膜が得られることが分かる。また、残留DC電圧の評価及び残像特性評価においても、良好な特性を示す液晶配向膜が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の液晶配向剤から得られる液晶配向膜は、例えば、時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイなど、特に、4K、8Kなどの超高精細の液晶表示装置に広く適用できる。
【0138】
なお、2020年7月14日に出願された日本特許出願2020-120867号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。