(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】ハードコートフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 1/14 20150101AFI20230719BHJP
B05D 7/04 20060101ALI20230719BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230719BHJP
B32B 23/08 20060101ALI20230719BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230719BHJP
B32B 27/16 20060101ALI20230719BHJP
C08J 7/046 20200101ALI20230719BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20230719BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20230719BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230719BHJP
【FI】
G02B1/14
B05D7/04
B05D7/24 301T
B32B23/08
B32B27/30 A
B32B27/16 101
B05D7/24 302Z
B05D7/24 301B
B05D7/24 302P
C08J7/046 A CEP
C09D4/00
C09D7/20
C09D7/63
(21)【出願番号】P 2023518065
(86)(22)【出願日】2022-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2022037194
【審査請求日】2023-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2021171284
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100124936
【氏名又は名称】秦 恵子
(72)【発明者】
【氏名】中山 雄二
(72)【発明者】
【氏名】江草 直樹
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-045718(JP,A)
【文献】特開2003-313242(JP,A)
【文献】特開2012-072275(JP,A)
【文献】国際公開第2015/046225(WO,A1)
【文献】特開2012-234164(JP,A)
【文献】特開2012-234165(JP,A)
【文献】特開2012-234163(JP,A)
【文献】特開2010-217873(JP,A)
【文献】国際公開第2021/193527(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0146978(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G02B 1/10 - 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアセチルセルロースフィルム、混合層、およびハードコート層を有するハードコートフィルムであって、
前記ハードコート層は、3つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(A)、1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)、光重合開始剤(C)、および溶剤(D)を含むハードコート層形成用組成物から形成され、
前記ハードコート層形成用組成物中の化合物(B)/溶剤(D)の質量比が、0.03~0.20であり、
化合物(A)は、
3つ以上のエチレン性不飽和基を有するポリウレタンポリ(メタ)アクリレートと、ペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレートまたは/およびジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレートとを含み、
溶剤(D)は、炭酸ジメチルであり、
前記混合層は、前記トリアセチルセルロースフィルムに、前記ハードコート層形成用組成物が溶解または膨潤されて形成された層であり、
ハードコートフィルムを、走査型電子顕微鏡で厚み方向の断面を観察したとき、前記ハードコート層と前記混合層の合計膜厚に占める前記混合層の膜厚比率が65%以上である、ハードコートフィルム。
【請求項2】
1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有率は、化合物(A)と化合物(B)との合計100質量%中、3~30質量%である請求項1記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
化合物(B)および溶剤(D)の合計の含有率は、前記ハードコート層形成用組成物100質量%中、40~70質量%である、請求項1または2記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)が、アクリロイルモルホリン、4-ヒドロキシブチルアクリレート、またはN-ビニル-ε-カプロラクタムから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1または2記載のハードコートフィルム。
【請求項5】
トリアセチルセルロースフィルム、混合層、およびハードコート層を有するハードコートフィルムの製造方法であって、
トリアセチルセルロースフィルム上に、ハードコート層形成用組成物を塗工し、混合層、およびハードコート層が形成され、
前記ハードコート層形成用組成物は、3つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(A)、1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)、光重合開始剤(C)、及び溶剤(D)を含み、
前記ハードコート層形成用組成物中の化合物(B)/溶剤(D)の質量比が、0.03~0.20であり、
化合物(A)は、
3つ以上のエチレン性不飽和基を有するポリウレタンポリ(メタ)アクリレートと、ペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレートまたは/およびジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレートとを含み、
溶剤(D)は、炭酸ジメチルであり、
ハードコートフィルムを、走査型電子顕微鏡で厚み方向の断面を観察したとき、前記ハードコート層と前記混合層の合計膜厚に占める前記混合層の膜厚比率が65%以上である、ハードコートフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコートフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビ、コンピューター、カーナビゲーションシステム、車載用計器盤、携帯電話等の画像表示装置として用いられる、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ、リアプロジェクションディスプレイ、CRTディスプレイ等の各種ディスプレイにおいて、ディスプレイ等の表面を保護する目的でハードコートフィルムが用いられている。
【0003】
ハードコートフィルムには、機械的特性、寸法安定性、電気絶縁性などに優れた性質を有することから、光学表示材料をはじめとして包装材料、電気絶縁材料、各種写真材料、グラフィックアーツ材料などの多くの用途の基材として透明なプラスティックが広く使用されている。
透明なプラスティックのなかでも、ディスプレイのような光学表示材料には、透明性、光の屈折率、耐衝撃性、耐熱性、耐久性などの面からトリアセチルセルロース(TAC)フィルムが多く用いられている。
【0004】
通常、ハードコートフィルムは、基材であるトリアセチルセルロースフィルム上に、樹脂組成物を塗工や印刷などの方法でハードコート層を形成して製造される。このようなハードコートフィルムとして、例えば特許文献1には、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を分子中に有する多官能性モノマーを含有する電離放射線硬化型樹脂、光重合開始剤、および溶剤からなるハードコート組成物が開示されている。このハードコート組成物を基材に塗布することによって、基材に混合して形成される混合層と、この混合層に対して基材側とは反対側に形成されるハードコート層との合計膜厚に占める混合層の膜厚比率が32%以上61%以下であるハードコートフィルムが記載されている。
【0005】
また、ハードコートフィルムは、ハードコート層の屈折率と、基材フィルムとなるトリアセチルセルロースの屈折率との屈折率差、或いは界面を境にした屈折率の不連続な変化のために、ハードコート層表面で反射する光と、ハードコート層と基材フィルムの界面で反射する光が干渉し、干渉むら(虹色のムラ)が起き、ディスプレイの視認性を劣化させ、またディスプレイの美観を損なうという問題がある。
【0006】
このような干渉むらの発生を低減させる方法として、特許文献2には、基材を溶解するもしくは膨潤させる溶剤を用いてハードコート層を形成することでハードコート層と基材の界面で微小な凹凸を不連続に形成させる方法が述べられている。特許文献3には、基材を溶解あるいは膨潤させる溶剤と特定範囲の溶解度パラメーター値を有する活性エネルギー線硬化型化合物とを含む組成物を該基材に塗布することによってハードコート層を形成する方法が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-058601号公報
【文献】特開2003-131007号公報
【文献】特開2007-160513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来のハードコートフィルムでは、干渉むらの低減はできても、干渉むらを低減させると、混合層の形成の制御および界面の凹凸等の制御が難しく、塗膜ヘイズの低下および耐擦傷性の悪化が問題となってしまう。すなわち、干渉むらの抑制と、塗膜ヘイズおよび耐擦傷性とをともに満足することはできていないのが現状である。
さらに、トリアセチルセルロースフィルムを基材として用いたハードコートフィルムは透湿度が高いため、高温・高湿度環境下ではフィルムの吸湿によって寸法が変化して歪みが生じたり、密着性が低下するといった問題がある。
【0009】
よって本発明は、トリアセチルセルロースフィルムに特定のハードコート層形成用組成物を浸透させ、特定比率の混合層を形成することにより、塗膜ヘイズ、および耐擦傷性を悪化させずに(実用上問題ない範囲としながら)干渉むらが抑制され、さらに密着性にも優れたハードコートフィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の発明に至った。
[1]: トリアセチルセルロースフィルム、混合層、およびハードコート層を有するハードコートフィルムであって、
前記ハードコート層は、3つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(A)、1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)、光重合開始剤(C)、および溶剤(D)を含むハードコート層形成用組成物から形成され、
前記ハードコート層形成用組成物中の化合物(B)/溶剤(D)の質量比が、0.03~0.20であり、
前記混合層は、前記トリアセチルセルロースフィルムに、前記ハードコート層形成用組成物が溶解または膨潤されて形成された層であり、
ハードコートフィルムを、走査型電子顕微鏡で厚み方向の断面を観察したとき、前記ハードコート層と前記混合層の合計膜厚に占める前記混合層の膜厚比率が65%以上である、ハードコートフィルム。
[2]: 1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)は、短辺2cm×長辺4cm×厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルムの初期の質量(X1)と、前記トリアセチルセルロースフィルムを25℃の環境下、1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)35g中に2時間浸漬した後のトリアセチルセルロースフィルムの質量(X2)との質量変化値[(X2)/(X1)]が1.2以上の、1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(b1)である、[1]記載のハードコートフィルム。
[3]: 溶剤(D)は、短辺10cm×長辺10cm×厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルムの初期のヘイズ値(Y1)と、前記トリアセチルセルロースフィルムを25℃の環境下で、溶剤(D)を0.1g滴下し、2分間放置した後に60℃で1分間加熱した後のトリアセチルセルロースフィルムのヘイズ値(Y2)とのヘイズ変化値[(Y2)-(Y1)]が0.10以上の、溶剤(d1)である、[1]または[2]記載のハードコートフィルム。
[4]: 1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)の含有率は、化合物(A)と化合物(B)との合計100質量%中、3~30質量%である[1]~[3]いずれか記載のハードコートフィルム。
[5]: 化合物(B)および溶剤(D)の合計の含有率は、ハードコート層形成用組成物100質量%中、40~70質量%である、[1]~[4]いずれか記載のハードコートフィルム。
[6]: トリアセチルセルロースフィルム、混合層、およびハードコート層を有するハードコートフィルムの製造方法であって、
トリアセチルセルロースフィルム上に、ハードコート層形成用組成物を塗工し、混合層、およびハードコート層が形成され、
前記ハードコート層形成用組成物は、3つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(A)、1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)、光重合開始剤(C)、及び溶剤(D)を含み、
前記ハードコート層形成用組成物中の化合物(B)/溶剤(D)の質量比が、0.03~0.20であり、
ハードコートフィルムを、走査型電子顕微鏡で厚み方向の断面を観察したとき、前記ハードコート層と前記混合層の合計膜厚に占める前記混合層の膜厚比率が65%以上である、ハードコートフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のハードコート層形成用組成物を用いることによって、塗膜ヘイズおよび耐擦傷性を悪化させずに(実用上問題ない範囲としながら)干渉むらが抑制され、さらに優れた密着性を有するハードコートフィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態のハードコートフィルムの構成の一例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。また、本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値の範囲として含むものとする。また、本明細書において「フィルム」や「シート」は、厚みによって区別されないものとする。換言すると、本明細書の「シート」は、厚みの薄いフィルム状のものも含まれ、本明細書の「フィルム」は、厚みのあるシート状のものも含まれるものとする。
【0014】
尚、本明細書では、「(メタ)アクリル」、と表記した場合には、特に断りがない限り、それぞれ「アクリルまたはメタクリル」を表す。
また、「3つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(A)」を「化合物(A)」と、「1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)」を「化合物(B)」と、「1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(b1)」を「化合物(b1)」と、それぞれ称することがある。
本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0015】
《ハードコートフィルム》
本発明のハードコートフィルムは、トリアセチルセルロースフィルム、混合層、およびハードコート層を有するハードコートフィルムである。前記ハードコート層は、3つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(A)、1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)、光重合開始剤(C)、および溶剤(D)を含むハードコート層形成用組成物から形成される。ハードコート層形成用組成物中の化合物(B)/溶剤(D)の質量比を0.03~0.20とする。前記混合層は、前記トリアセチルセルロースフィルムに、前記ハードコート層形成用組成物が溶解または膨潤されて形成された層であり、走査型電子顕微鏡でハードコートフィルムの厚み方向の断面を観察したとき、ハードコート層と混合層の合計膜厚に占める前記混合層の膜厚比率が65%以上である。
【0016】
<トリアセチルセルロースフィルム>
本発明で用いるトリアセチルセルロースフィルムは、偏光板などの基材として使用できる光学的に透明なグレードであればよく、トリアセチルセルロースフィルムの厚さは特に制限はないが、一般には強度や取り扱い等の作業性、薄層性等の点より10~500μm程度である。特に20~250μmが好ましい。
【0017】
<ハードコート層および混合層>
本発明のハードコート層は、3つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(A)、1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)、光重合開始剤(C)、および溶剤(D)を含むハードコート層形成用組成物から形成される。また、混合層は、トリアセチルセルロースフィルムに、ハードコート層形成用組成物が溶解または膨潤されて形成された層である。さらに、ハードコートフィルムを、走査型電子顕微鏡で、厚み方向の断面を観察したとき、ハードコート層と混合層の合計膜厚に占める前記混合層の膜厚比率が65%以上である。
膜厚比率は、より好ましくは67%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。また、ハードコート性の観点から、好ましくは、90%以下である。混合層の膜厚比率65%以上であることで、干渉むらを低減させ、塗膜ヘイズおよび耐擦傷性の低下がなく、密着性も良好とできる。すなわち、塗膜ヘイズおよび耐擦傷性を実用可能範囲としながら、干渉むらを低減させ、更に密着性も優れたものとすることができる。干渉むらの低減に優れる点で前記膜厚比率は高い方が好ましい。
【0018】
前記混合層の膜厚比率を65%以上とするために、3つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(A)、1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)、光重合開始剤(C)、および溶剤(D)を含むハードコート層形成用組成物を用いることが重要である。さらに化合物(B)および溶剤(D)の種類、並びにこれらの含有量により制御することが可能である。化合物(B)が後述する化合物(b1)である場合、または/および溶剤(D)が後述する溶剤(d1)である場合、特に混合層の膜厚比率を65%以上としやすくなるために好ましい。化合物(B)が化合物(b1)であり、かつ溶剤(D)が溶剤(d1)であることが特に好ましい。
また、ハードコート層形成用組成物の不揮発分濃度の調整、またはトリアセチルセルロースフィルムにハードコート層形成用組成物を塗工後に静置させる、などの製造方法によって基材浸透性を向上させることによっても、混合層の膜厚比率を65%以上にすることが可能である。
【0019】
(ハードコート層形成用組成物)
ハードコート層形成用組成物は、3つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(A)、1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)、光重合開始剤(C)、および溶剤(D)を含む。
また、化合物(B)は、後述する質量変化値[(X2)/(X1)]が1.2以上である1つのエチレン性不飽和基を有する化合物であることが好ましい。
また、溶剤(D)は、後述するヘイズ変化値[(Y2)-(Y1)]が0.10以上である溶剤であることが好ましい。
特に好ましくは、化合物(B)が、質量変化値[(X2)/(X1)]が1.2以上の1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(b1)であり、溶剤(D)が、ヘイズ変化値[(Y2)-(Y1)]が0.10以上の溶剤(d1)であることが好ましい。
これにより基材浸透性が向上し、干渉むら低減に効果的である。
【0020】
ハードコート層形成用組成物の不揮発分濃度は、基材浸透性を向上させる観点から、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。塗膜ヘイズの低下を抑制する観点から、不揮発分25質量%以上が好ましく、35質量%以上がさらに好ましい。ハードコート層形成用組成物の不揮発分を調整することで、混合層の膜厚比率を65%以上に制御しやすくなる。
【0021】
[化合物(A)]
化合物(A)は、3つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物である。化合物(A)としては、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3-シクロヘキサンテトラ(メタ)アクリレート等の、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化合物;
ポリウレタンポリ(メタ)アクリレート、ポリエステルポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルポリ(メタ)アクリレート、ポリアクリルポリ(メタ)アクリレート、ポリアルキッドポリ(メタ)アクリレート、ポリエポキシポリ(メタ)アクリレート、ポリスピロアセタールポリ(メタ)アクリレート、ポリブタジエンポリ(メタ)アクリレート、ポリチオールポリエンポリ(メタ)アクリレート、ポリシリコンポリ(メタ)アクリレート等の多官能化合物のポリ(メタ)アクリレート化合物;
多価アルコールと多塩基酸および(メタ)アクリル酸とから合成されるエステル化合物、例えばトリメチロールエタン/コハク酸/アクリル酸=2/1/4(モル比)から合成されるエステル化合物等が挙げられる。
【0022】
化合物(A)は密着性、耐擦傷性、および信頼性の面から、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ポリウレタンポリ(メタ)アクリレート、ポリエステルポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルポリ(メタ)アクリレート、およびポリアクリルポリ(メタ)アクリレートが好ましく、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ポリウレタンポリ(メタ)アクリレート、およびポリエステルポリ(メタ)アクリレートがより好ましい。これらは任意に組み合わせられる。特に、ウレタンを有するポリウレタンポリ(メタ)アクリレートと、ペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレートまたは/およびジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレートと、を組み合わせることが好ましい。
【0023】
化合物(A)の含有率は、ハードコート層形成用組成物100質量%中、25~60質量%であることが好ましく、35~55質量%がより好ましい。この範囲であることで、塗膜強度が向上し、耐擦傷性や信頼性に耐え得る塗膜が形成できるために好ましい。
【0024】
[化合物(B)]
化合物(B)は、1つのエチレン性不飽和基を有する化合物である。
化合物(B)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロオキシエチルアシッドホスフェートなどのエステル化合物;スチレン、α-メチレンなどのスチレン系化合物;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのシラン化合物;2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-ビニル-ε-カプロラクタム、アクリロイルモルホリンなどの窒素含有化合物;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレートなどのフッ素含有化合物;ポリマーの主鎖がシリコーン成分であり片末端が(メタ)アクリレート基で修飾された重合性シリコーン化合物等が挙げられる。
【0025】
化合物(B)は、短辺2cm×長辺4cm×厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルムの初期の質量(X1)と、前記トリアセチルセルロースフィルムを25℃の環境下、1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)35g中に2時間浸漬した後のトリアセチルセルロースフィルムの質量(X2)との質量変化値[(X2)/(X1)]が1.2以上である化合物(b1)とすることが、混合層の膜厚比率を65%以上に制御しやすく、干渉むら低減に優れたものとできる点で好ましい。
質量変化値[(X2)/(X1)]は、より好ましくは、2.0~10.0であり、さらに好ましくは5.0以下である。これを満たす化合物(B)により、干渉むらの低減をより優れたものとすることができる。[(X2)/(X1)]の更に好適な範囲は3.5~4.5である。
【0026】
化合物(B)の質量変化値[(X2)/(X1)]を例示すると、アクリロイルモルホリン(3.9)、4-ヒドロキシブチルアクリレート(2.9)、テトラヒドロフルフリルアクリレート(1.5)、N-ビニル-ε-カプロラクタム(4.3)、ジエチルアクリルアミド(5.2)、ラウリルアクリレート(1.0)、イソボルニルアクリレート(1.0)、フェノキシエチルアクリレート(1.1)であり、化合物(b1)である、アクリロイルモルホリン、4-ヒドロキシブチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、N-ビニル-ε-カプロラクタム、ジエチルアクリルアミド等を用いることが好ましい。
基材浸透性が向上し、干渉むらの低減に効果的である観点から、より好ましくは、アクリロイルモルホリン、4-ヒドロキシブチルアクリレート、またはN-ビニル-ε-カプロラクタムであり、さらに好ましくは、アクリロイルモルホリンである。
【0027】
化合物(B)の含有率の下限値は、化合物(A)と化合物(B)との合計100質量%中、3質量%であることが好ましく、より好ましくは4質量%、更に好ましくは5質量%である。また、化合物(B)の含有率の上限値は、化合物(A)と化合物(B)との合計100質量%中、30質量%であることが好ましく、25質量%がより好ましく、20質量%であることが更に好ましい。化合物(B)の含有率が、3質量%以上であることで、基材浸透による干渉むらの低減効果が大きくなり、30質量%以下であることで、耐擦傷性がより優れるために好ましい。
【0028】
[光重合開始剤(C)]
光重合開始剤(C)は、光励起によってラジカル重合を開始できる機能を有するものであれば特に限定はなく、例えばアセトフェノン化合物、ベンゾイン化合物、ベンゾフェノン化合物、ホスフィンオキシド化合物、ケタール化合物、アントラキノン化合物、チオキサントン化合物等が挙げられる。具体的には、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシド、N,N-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン等が挙げられる。また、増感剤として公知の有機アミンを加えることもできる。
【0029】
光重合開始剤(C)の使用量は、化合物(A)と化合物(B)との合計100質量部に対し、0.1~20質量部が好ましく、1~10質量部がより好ましい。この範囲であることで、十分な重合開始効果が得られ、密着性や耐擦傷性の向上に効果的である。
【0030】
本発明におけるハードコート層形成用組成物には、光重合開始剤(C)に増感剤を併用できる。
増感剤は、アミン系増感剤、アントラセン系増感剤、チオキサントン系増感剤等が挙げられる。増感剤は、単独または2種類以上を併用できる。
アミン系増感剤は、例えばトリメチルアミン、メチルジメタノールアミン、トリエタノールアミン、p-ジエチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N-ジメチルベンジルアミン、4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等が挙げられる。
アントラセン系増感剤は、例えば9,10-ジブトキシアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、9,10-ジプロポキシアントラセン、9,10-ビス(2-エチルヘキシルオキシ)アントラセン等が挙げられる。
チオキサントン系増感剤は、例えば2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系増感剤を挙げることができる。市販品の代表例としては、アミン系増感剤では、EPA(日本化薬社製)、アントラセン系増感剤では、DBA、DEA(川崎化成工業社製)、チオキサントン系増感剤では、DETX、ITX(Lambson社製)等が例示できる。
増感剤は、チオキサントン系増感剤等が好ましい。
【0031】
増感剤を用いる場合、その含有量は、化合物(A)と化合物(B)との合計100質量部に対し、0.1~10質量部であることが好ましい。
【0032】
[溶剤(D)]
溶剤(D)は、例えばジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、1,3,5-トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;
蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル、γ-ブチロラクトン等のエステル類;
その他、2-メトキシ酢酸メチル、2-エトキシ酢酸メチル、2-エトキシ酢酸エチル、2-エトキシプロピオン酸エチル、2-メトキシエタノール、2-プロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1,2-ジアセトキシアセトン、アセチルアセトン、ジアセトンアルコール、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等が挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
溶剤(D)は、短辺10cm×長辺10cm×厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルムの初期のヘイズ値(Y1)と、前記トリアセチルセルロースフィルムを25℃の環境下、溶剤(D)を0.1g滴下して2分間放置し、その後、60℃で1分間加熱し、その後のトリアセチルセルロースフィルムのヘイズ値(Y2)を測定する。得られたヘイズ変化値[(Y2)-(Y1)]が0.10以上であることで、混合層の膜厚比率を65%以上に制御しやく、干渉むら低減に優れたものとできる点で好ましい。
ヘイズ変化値[(Y2)-(Y1)]は、より好ましくは、0.10以上0.80以下であり、さらに好ましくは0.45以下である。これを満たす溶剤(D)により、塗膜のヘイズ、または耐擦傷性を低下させることなく、基材浸透性が向上し、干渉むらの低減に効果的である。
【0034】
溶剤(D)のヘイズ変化値[(Y2)-(Y1)]を例示すると、炭酸ジメチル(0.15)、酢酸エチル(0.47)、アセトン(0.81)、メチルエチルケトン(0.42)、1,3-ジオキソラン(0.48)、メチルイソブチルケトン(0.01)、イソプロピルアルコール(0.04)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(0.00)であり、溶剤(d1)である、炭酸ジメチル、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、または1,3-ジオキソランを用いることが好ましい。
塗膜のヘイズ、または耐擦傷性を低下させることなく、基材浸透性が向上し、干渉むらの低減に効果的であることから、より好ましくは、炭酸ジメチル、メチルエチルケトン、1,3―ジオキソラン、または酢酸エチルであり、さらに好ましくは、炭酸ジメチル、またはメチルエチルケトンである。
【0035】
化合物(B)および溶剤(D)の合計の含有率は、ハードコート層形成用組成物100質量%中、40~80質量%であることが好ましく、40~70質量%であることがより好ましく、45~65質量%がさらに好ましい。40質量%以上であると、基材浸透性が高いことで、密着性がより向上し、80質量%以下であると、基材浸透性が高すぎず、塗膜ヘイズ、または耐擦傷性の悪化をより抑制できる。
【0036】
化合物(B)/溶剤(D)の質量比は、0.03~0.20が好ましく、0.05~0.15がより好ましい。0.03以上であると、基材浸透性が十分であり、干渉むらの低減効果がより向上し、0.20以下であると、耐擦傷性がより向上する。
【0037】
本発明におけるハードコート層形成用組成物には、必要に応じてその他の添加剤を含むことができる。その他の添加剤は、例えば、可塑剤、表面調整剤、光安定化剤、酸化防止剤、重合禁止剤が挙げられる。
【0038】
<ハードコートフィルムの製造>
ハードコートフィルムの製造方法は、トリアセチルセルロースフィルム上にハードコート層形成用組成物を塗工する等の、従来公知の方法で製造することができ、特に制限されない。
例えば、本発明のハードコート層形成用組成物をトリアセチルセルロースフィルムに塗工した後、必要に応じ溶剤を乾燥させる。そこへ活性エネルギー線を照射することにより、塗工したハードコート層形成用組成物を架橋硬化させ、トリアセチルセルロースフィルム、混合層、およびハードコート層を有するハードコートフィルムが得られる。
これにより走査型電子顕微鏡でハードコートフィルムの断面を観察したとき、ハードコート層と混合層の合計膜厚に占める前記混合層の膜厚比率が65%以上である、ハードコートフィルムが得られる。
また、トリアセチルセルロースフィルムにハードコート層形成用組成物を塗工し、静置させることで基材浸透性が向上し、混合層の膜厚比率を65%以上にしやすくなるために好ましい。
【0039】
塗工方法としては、バーコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、リバースコーティング、ダイコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、リップコーティング、エアーナイフコーティング、ディッピング法等が挙げられる。
【0040】
活性エネルギー線としては、電子線や、キセノンランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ等の光源から発せられる紫外線を用いることができる。
【0041】
ハードコート層の膜厚はハードコート性を保有していれば特に限定されず、通常1~20μm、好ましくは2~15μmである。ハードコート層と混合層を合わせた膜厚も特に制限されないが、干渉むらの低減のために0.5~100μmが好ましく、より好ましくは1.1~30μm、さらに好ましくは1.2~25μmである。
ハードコートフィルムの膜厚は、特に制限されないが、50~300μmが好ましく、より好ましくは81~100μm、さらに好ましくは82~95μmである。
【実施例】
【0042】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を意味する。また、表中の配合量は、質量部であり、溶剤以外は、不揮発分換算値である。尚、表中の空欄は配合していないことを表す。また、実施例6~9、19は、特許請求の範囲に整合させることを目的として参考例6~9、19と読み替えるものとする。
【0043】
<化合物(B)の質量変化値[(X2)/(X1)]>
化合物(B)の質量変化値[(X2)/(X1)]は、下記の方法で求めた。
まず、短辺2cm×長辺4cm×厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルムの初期の質量(X1)を測定した。次いで、このトリアセチルセルロースフィルムを25℃の環境下、1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)35g中に2時間浸漬した。その後、トリアセチルセルロースフィルムを取り出し、キムタオルで軽く拭いた後、トリアセチルセルロースフィルムの質量(X2)を測定した。なお、トリアセチルセルロースフィルムとしては、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム(株)製)を用いた(後述するヘイズもこのフィルムを用いた)。
【0044】
<溶剤(D)のヘイズ変化値[(Y2)-(Y1)]>
溶剤(D)のヘイズ変化値[(Y2)-(Y1)]は、下記の方法で求めた。
まず、短辺10cm×長辺10cm×厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルムの初期のヘイズ値(Y1)を求めた。次いで、このトリアセチルセルロースフィルムを25℃の環境下、溶剤(D)を0.1g滴下し、2分間放置した。その後に60℃1分間加熱し、常温に戻してからトリアセチルセルロースフィルムのヘイズ値(Y2)を測定した。
【0045】
表1で使用した成分A~Dについて下記に示す。
<3つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(A)>
・UA-306H:(共栄社化学(株)製:6官能ウレタンアクリレート)
・M405:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(東亞合成(株)製:アロニックスM405、6官能モノマー)
・PET30:ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬(株)製:KAYARAD PET30、3官能モノマー)
【0046】
<1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)>
なお、カッコ内の数値は、質量変化値[(X2)/(X1)]である。
(1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(b1))
・ACMO:アクリロイルモルホリン(KJケミカルズ(株)製:ACМO、単官能モノマー、3.9)
・4-HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート(三菱ケミカル(株)製:4HBA、単官能モノマー、2.9)、
・THF-A:テトラヒドロフルフリルアクリレート(共栄社化学(株)製:ライトアクリレートTHF-A、単官能モノマー、1.5)
・NVP:N―ビニルカプロラクタム(ASHLAND製:V-Cap/RC、単官能モノマー、4.3)
・DEAA:ジエチルアクリルアミド(KJケミカルズ(株)製:DEAA、単官能モノマー、5.2)
(その他1つのエチレン性不飽和基を有する化合物)
・LA:ラウリルアクリレート(共栄社化学(株)製:ライトアクリレートL-A、単官能モノマー、1.0)
・IBXA:イソボルニルアクリレート(大阪有機化学工業(株)製:IBXA、単官能モノマー、1.0)
・PEA:フェノキシエチルアクリレート(共栄社化学(株)製:ライトアクリレートPO-A、単官能モノマー、1.1)
【0047】
<光重合開始剤(C)>
・APO:ジフェニルー2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィンオキサイド(大同化成工業(株)製:DAIDO UV-CURE APO)
【0048】
<溶剤(D)>
なお、カッコ内の数値は、ヘイズ変化値[(Y2)-(Y1)]である。
(1つのエチレン性不飽和基を有する溶剤(d1))
・DMC:炭酸ジメチル(宇部興産(株)製、0.15)
・酢酸エチル((株)ダイセル製、0.47)
・アセトン(三菱ケミカル(株)製、0.81)
・MEK:メチルエチルケトン(丸善石油化学(株)製、0.42)
・1,3-ジオキソラン(東邦化学工業(株)製、0.48)
(その他溶剤)
・MIBK:メチルイソブチルケトン(三菱ケミカル(株)製、0.01)
・IPA:イソプロピルアルコール(キシダ化学(株)製、0.04)
・PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル(大伸化学(株)製、0.00)
【0049】
<実施例1>
化合物(A)として、ペンタエリスリトールトリアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートとの2:1付加物を主成分とするウレタンプレポリマー(共栄社化学(株)製:UA-306H、6官能ウレタンアクリレート)50部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(東亞合成(株)製:アロニックスM405、6官能モノマー)30部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬(株)製:KAYARAD PET30、3官能モノマー)10部、化合物(B)として、アクリロイルモルホリン(KJケミカルズ(株)製:ACМO、単官能モノマー)10部、光重合開始剤(C)として、ジフェニルー2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィンオキサイド(大同化成工業(株)製:DAIDO UV-CURE APO)3部、溶剤(D)として、炭酸ジメチル(宇部興産(株)製:DМC)100部を混合して、ハードコート層形成用組成物を得た。
【0050】
続いて、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム(株)製)上に、得られたハードコート層形成用組成物をバーコーターNo.10を用いて塗布し、熱風オーブンで1分間乾燥した。その後、出力80w/cmの高圧水銀ランプで紫外線を照射し、塗布層を硬化させて、トリアセチルセルロースフィルム、混合層、およびハードコート層を有するハードコートフィルムを得た。ハードコート層と混合層の合計膜厚は9.0μm、ハードコートフィルムの膜厚は87.0μmであった。またハードコート層と混合層の合計膜厚に占める前記混合層の膜厚比率は、70.5%であった。
【0051】
<実施例2~20、比較例1~11>
表1~3に示すように、組成および配合量(質量部)を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~20、比較例1~11のハードコート層形成用組成物を製造し、ハードコートフィルムを得た。得られたハードコートフィルムのハードコート層と混合層の合計膜厚、ハードコートフィルムの膜厚、ハードコート層と混合層の合計膜厚に占める前記混合層の膜厚比率を、表1~3に示した。
【0052】
[評価]
各実施例、比較例で得られたハードコートフィルムについて以下の方法にて測定および、評価を行った。結果を表1~3に示す。
【0053】
[混合層の膜厚比率評価]
得られたハードコートフィルムの厚み方向の断面をウルトラミクロトーム(ライカマイクロシステムズ社製、型式:EM UC7)を用いてダイヤモンドナイフで数回削って平滑にした後、走査電子顕微鏡(日本電子社製、型式:JSM―7800F)で加圧電圧5kVにて断面観察した。混合層の膜厚比率は、下記式から算出した。
混合層の膜厚比率(%)=混合層の膜厚(μm)/(ハードコート層の膜厚(μm)+混合層の膜厚(μm))×100
【0054】
[ハードコートフィルムの膜厚評価]
得られたハードコートフィルムの膜厚(μm)は、デジマイクロ(Nikоn社製、型式:MH―15M)を用いて測定した。
【0055】
[密着性評価1]
得られたハードコートフィルムを用いて、テープ密着試験を実施した。テープ密着試験はJISK5600に準拠して実施した。
ハードコートフィルムを基材に達するが切断しない程度の深さで幅1mm間隔に10マス×10マスの計100マス目を形成するようにカッターナイフを入れ、セロハンテープ(25mm幅、ニチバン社製)を塗膜表面に貼り付けた後、セロハンテープを手で急速に剥離することで、残ったマス目の状態を評価した。
・評価基準
+++:剥離無し(非常に良好)。
++:マスの端がわずかに欠ける(良好)。
+:1~5マスの剥離が観察される(実用上問題ない)。
NG:6マス以上の剥離が観察される(実用不可)。
【0056】
[干渉むら評価]
ハードコートフィルムを5cm×5cmにカットし、塗工面とは反対側のTAC基材表面を紙やすりで10往復程度こすり、表面を平滑にした後、黒色マット塗料を滴下し70℃2分乾燥した。これを分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、型式:U-4100)にて5°絶対反射率を測定し、反射曲線のリップルの有無を観察した。
・評価基準
+++:リップルが観察されない(非常に良好)。
++:上記基準未満。リップルがほとんど観察されない(良好)。
+:上記基準未満。リップルがやや観察される(実用上問題ない)。
NG:上記基準未満。リップルが観察される(実用不可)。
【0057】
[塗膜ヘイズ評価1]
ハードコートフィルムを10cm×10cmにカットし、分光ヘイズメーター(日本電色工業社製、SH7000)を用いて、ヘイズ値を測定した。
・評価基準
++:0.5%未満(良好)。
+:0.5%以上1.0%未満(実用上問題ない)。
NG:1.0%以上(実用不可)。
【0058】
[耐擦傷性評価]
#0000のスチールウールを装着した1平方センチメートルの角形パッドを試料表面上に置き、荷重500gで10回往復させた後、外観を目視で評価し、傷の本数を測定した。
・評価基準
++:傷0本(良好)。
+:傷1本以上5本未満(実用上問題ない)。
NG:傷5本以上(実用不可)。
【0059】
[耐擦傷性評価2]
耐擦傷性評価1の荷重500gを荷重1kgに変更した以外は同様の方法にて試験を行った。
・評価基準
++++:傷0本(優れている)。
+++:傷3本以下(良好)。
++:傷4本以上6本以下(良好)。
+:傷7本以上9本以下(実用上問題ない)。
NG:傷10本以上(実用不可)。
【0060】
[密着性評価2]
前述の密着性評価1を行った後、更に、同様の箇所に、追加で2回(合計3回)、セロハンテープの剥離試験を実施し、以下の基準で残ったマス目の状態を評価した。
・評価基準
+++:剥離無し(非常に良好)。
++:マスの端がわずかに欠ける(良好)。
+:1~5マスの剥離が観察される(実用上問題ない)。
NG:6マス以上の剥離が観察される(実用不可)。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
表1~3の結果から、3つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(A)、1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)、光重合開始剤(C)、および溶剤(D)を含むハードコート層形成用組成物から形成されるハードコート層および混合層を有し、ハードコート層形成用組成物中の化合物(B)/溶剤(D)の質量比が、0.03~0.20であり、かつハードコート層と混合層の合計膜厚に占める前記混合層の膜厚比率が65%以上である、本ハードコートフィルムによれば、これまで両立が難しかった塗膜ヘイズ、耐擦傷性、干渉むら、および密着性を兼ね備えた、優れたハードコートフィルムが得られることを確認できた。
【0065】
この出願は、2021年10月20日に出願された日本出願特願2021-171284を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0066】
1 トリアセチルセルロースフィルム
2 混合層
3 ハードコート層
【要約】
トリアセチルセルロースフィルム(1)、混合層(2)、およびハードコート層(3)を有するハードコートフィルムであって、ハードコート層(3)は、3つ以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(A)、1つのエチレン性不飽和基を有する化合物(B)、光重合開始剤(C)、および溶剤(D)を含むハードコート層形成用組成物から形成され、前記ハードコート層形成用組成物中の化合物(B)/溶剤(D)の質量比が、0.03~0.20であり、混合層(2)は、トリアセチルセルロースフィルム(1)に、前記ハードコート層形成用組成物が溶解または膨潤されて形成された層であり、ハードコートフィルムを、走査型電子顕微鏡で厚み方向の断面を観察したとき、ハードコート層(3)と混合層(2)の合計膜厚に占める混合層(2)の膜厚比率が65%以上である、ハードコートフィルムにより解決される。