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<図1A>
  • -表面処理装置 図1A
  • -表面処理装置 図1B
  • -表面処理装置 図2
  • -表面処理装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】表面処理装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/16 20060101AFI20230719BHJP
   C23C 8/02 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
C23C8/16
C23C8/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019216220
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021085082
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000226312
【氏名又は名称】日空工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109553
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】石崎 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 愛
(72)【発明者】
【氏名】近藤 景星
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-005479(JP,A)
【文献】特開2018-150575(JP,A)
【文献】特開2018-172745(JP,A)
【文献】特開2019-187459(JP,A)
【文献】特開2018-103363(JP,A)
【文献】特表2013-530730(JP,A)
【文献】特開2008-116092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 8/00-12/02
C23C 26/00-30/00
B01J 3/00-3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバーと、
チャンバー内で処理対象を保持する処理対象保持部と、
処理対象保持部に保持された処理対象を水で浸漬するためにチャンバーに水を導入するための水導入部と、
チャンバー外に配置されチャンバー内に導入する処理水蒸気を生成する処理蒸気生成部と、
処理蒸気生成部で生成された処理水蒸気をチャンバーに導入する処理水蒸気導入部と、
処理水蒸気導入部の処理水蒸気の導入を制御するための処理水蒸気導入制御部と、
水導入部からチャンバーに導入された処理対象を浸漬するための水及びチャンバーに導入された処理水蒸気によって生じる凝縮水をチャンバー底部からチャンバー外に導出する水導出部と、
水導出部から導出された水をチャンバー内圧力が維持された状態で滞留可能な凝縮槽部と、
を有し、
チャンバーは、外部ジャケットと、外部ジャケットを加熱し又は/及び冷却するジャケット温調部と、をさらに有する表面処理装置。
【請求項2】
チャンバーの雰囲気を検出する検出部をさらに有し、
処理水蒸気導入制御部は、検出部の検出結果に応じて処理水蒸気の導入及びチャンバー内圧力を制御する検出制御手段をさらに有する請求項1に記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記検出部は、温度検出手段及び圧力検出手段である請求項2に記載の表面処理装置。
【請求項4】
導入する処理水蒸気を加熱するための処理水蒸気加熱部をさらに有する請求項1から請求項3のいずれか一に記載の表面処理装置。
【請求項5】
処理対象は金属表面を有するものである請求項1から請求項4に記載の表面処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、アルミニウム合金等の軽金属の表面に防食効果が高い皮膜を形成するのに用いられる表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、処理対象の表面、例えば、上記した軽金属であるアルミニウム合金の表面に防食効果が高い皮膜を形成する表面処理技術として、高圧・中高温(1~3MPaで且つ100~200℃強)の水蒸気下にアルミニウム合金を晒す技術が開発されている。
【0003】
従来、この表面処理において、アルミニウム合金を高圧・中高温の水蒸気下に晒すのに使用する表面処理装置としては、例えば、特許文献1に記載されたがものある。
この表面処理装置は、所謂オートクレーブであり、圧力容器であるチャンバーと、この チャンバー内で処理対象である複数のアルミニウム合金片を吊り下げ保持する合金片保持部と、高圧・中高温の処理水蒸気を生成する処理蒸気生成部を備えている。
【0004】
この表面処理装置の処理蒸気生成部には、間接加熱方式及び直接加熱方式のいずれかの方式が採用されている。間接加熱方式は、チャンバー外に配置したヒータに通電して、チャンバー外殻を介してチャンバーの下部に注入した純水を加熱する方式であり、一方、直接加熱方式は、チャンバー外に配置したヒータに通電して、このヒータのチャンバー内に位置させた発熱部でチャンバー下部の純水を直接加熱する方式である。
【0005】
この表面処理装置を用いてアルミニウム合金片の表面に皮膜を形成するに際しては、処理蒸気生成部として間接加熱方式を採用した場合、複数のアルミニウム合金片を合金片保持部に吊り下げてセットした後、チャンバー外のヒータに通電して、このチャンバーの外殻を介してチャンバー下部の純水を加熱することで、チャンバー内において処理水蒸気を生成する。
また、処理蒸気生成部として直接加熱方式を採用した場合、同じく、複数のアルミニウム合金片を合金片保持部に吊り下げてセットした後、チャンバー外のヒータに通電して、そのチャンバー内に位置する発熱部でチャンバー下部の純水を直接加熱することで、チャンバー内において処理水蒸気を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】W02017/135363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記した従来の表面処理装置において、処理蒸気生成部が間接加熱方式の場合には、チャンバー外のヒータに通電して処理蒸気を生成するので、チャンバー外から加熱する分だけチャンバー内温度を上げるのに時間がかかるうえ、熱容量が大きい分だけ制御の応答性がよくなく、表面処理を行うのに十分な処理雰囲気になるまでにはさらに多くの時間がかかるといった問題がある。
【0008】
また、上記した従来の表面処理装置において、処理蒸気生成部が間接加熱方式の場合だけでなく直接加熱方式の場合も含めて、チャンバー内で処理蒸気を生成する都合上、上述のように、表面処理を行うのに十分な処理蒸気雰囲気を得るまでには時間がかかり、加えて、生成する処理蒸気の量の制御性がよくなく、その結果、緻密な温度コントロールを行うことができないという問題を有しており、これらの問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0009】
本発明は、上記した従来の課題を解決するために成されたものであり、例えば、アルミニウム合金等の軽金属の表面に皮膜を形成するにあたって、処理時間の短縮を実現可能であり、加えて、処理蒸気の生成量の制御が容易であると共に緻密な温度コントロールを行うことができるので、高品質の皮膜を形成することが可能である表面処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の表面処理装置を提供する。
すなわち、本発明の第一の態様は、チャンバーと、チャンバー内で処理対象を保持する処理対象保持部と、処理対象保持部に保持された処理対象を水で浸漬するためにチャンバーに水を導入するための水導入部と、チャンバー外に配置されチャンバー内に導入する処理水蒸気を生成する処理蒸気生成部と、処理蒸気生成部で生成された処理水蒸気をチャンバーに導入する処理水蒸気導入部と、処理水蒸気導入部の処理水蒸気の導入を制御するための処理水蒸気導入制御部と、水導入部からチャンバーに導入された処理対象を浸漬するための水及びチャンバーに導入された処理水蒸気によって生じる凝縮水をチャンバー底部からチャンバー外に導出する水導出部と、水導出部から導出された水をチャンバー内圧力が維持された状態で滞留可能な凝縮槽部と、を有する構成としている。
【0011】
また、本発明の第二の態様は、チャンバーの雰囲気を検出する検出部をさらに有し、処理水蒸気導入制御部は、検出部の検出結果に応じて処理水蒸気の導入及びチャンバー内圧力を制御する検出制御手段をさらに有する構成としている。
【0012】
さらに、本発明の第三の態様において、前記検出部は、温度検出手段及び圧力検出手段である構成としている。
【0013】
さらにまた、本発明の第四の態様は、導入する処理水蒸気を加熱するための処理水蒸気加熱部をさらに有する構成としている。
【0014】
さらにまた、本発明の第五の態様において、処理対象は金属表面を有するものである構成としている。
【0015】
さらにまた、本発明の第六の態様において、チャンバーは、外部ジャケットと、外部ジャケットを加熱し又は/及び冷却するジャケット温調部と、をさらに有する構成としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る表面処理装置によれば、軽金属、例えば、アルミニウム合金の表面に皮膜を形成するに際して、処理時間の短縮を実現したうえで、高品質の皮膜を形成することが可能であるという非常に優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】実施形態1に係る表面処理装置の全体斜視図
図1B図1Aの表面処理装置による処理対象の浸漬要領を示した全体斜視図
図2】実施形態2の表面処理装置の全体斜視図
図3】実施形態3の表面処理装置の全体斜視図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態を説明する。実施形態と請求項の相互の関係は以下のとおりである。実施形態1は主に請求項1~請求項3,請求項5に関し、実施形態2は主に請求項4に関し、実施形態3は主に請求項6に関する。なお、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
<実施形態1>
<概要>
【0019】
本実施形態は、圧力容器であるチャンバー外に処理蒸気生成部を配置して、この処理蒸気生成部で生成した処理水蒸気を処理水蒸気導入部によりチャンバーに導入し、この処理水蒸気の導入を処理水蒸気導入制御部によりコントロールすることを主たる特徴とする。
【0020】
この表面処理装置を、軽金属、例えば、アルミニウム合金の表面に皮膜を形成するのに用いた場合には、処理時間の短縮を実現したうえで、高品質の皮膜を形成することが可能であるという効果を奏する。
<構成>
【0021】
すなわち、図1Aに示すように、本実施形態の表面処理装置0100は、軽金属であるアルミニウム合金から成る試験片(処理対象)Wの表面に皮膜を形成する装置であり、圧力容器である円筒形状を成すチャンバー0110と、このチャンバー0110の外部に配置されて飽和水蒸気(処理水蒸気)を生成するボイラ(処理蒸気生成部)0120と、このボイラ0120で生成された飽和水蒸気をチャンバー0110に導入する処理水蒸気導入部0130と、この処理水蒸気導入部0130を介しての飽和水蒸気の導入を制御する集中制御盤(処理水蒸気導入制御部)0140と、チャンバー0110内で試験片Wを保持する処理対象保持部0150を備えている。
【0022】
チャンバー0110は、少なくとも3MPaまでの内部圧力に耐え得ると共に少なくとも250℃までの内部温度に耐え得る圧力容器である。なお、本実施形態では、円筒形状を成すチャンバー0110を採用しているが、処理圧力が高くない場合には、チャンバー内の空間占有の効率化を図るために、チャンバーに角型等の形状を採用してもよい。
【0023】
このチャンバー0110の外部に配置したボイラ0120は、燃料を燃焼させる燃焼室と、この燃焼室内の燃焼による燃焼ガスの熱を水に伝えて飽和水蒸気を発生する熱交換機を有しており、図示しない燃料及び水を適宜供給することで、飽和水蒸気を安定して生成することができるようになっている。
【0024】
処理水蒸気導入部0130は、チャンバー0110の外殻0111の下部に台座0112を介して配置されており、この処理水蒸気導入部0130は、ボイラ0120と配管0121を介して連通している。
この場合、チャンバー0110内の下部には、多数のノズル0131及びこれらの多数のノズル01310と連通する図1Aに破線で示す流路0132が形成されたノズルプレート0133が配置されており、このノズルプレート0133の流路0132を処理水蒸気導入部0130に連通させることで、ボイラ0120で生成された飽和水蒸気を多数のノズル0131からチャンバー0110内に導入するようになっている。
【0025】
本実施形態による表面処理装置0100は、チャンバー0110内の雰囲気を検出する検出部0160をさらに有している。この検出部0160は、チャンバー0110の外殻0111に台座0113を介して配置された温度センサ(温度検出手段)0161及び圧力センサ(圧力検出手段)0162で構成されており、これらのセンサ0161,0162は、各々の先端(図示せず)がチャンバー0110内に露出するようにして配置されている。
【0026】
この際、集中制御盤0140は、上記した温度センサ0161及び圧力センサ0162に対応する検出制御手段である温度コントローラ0141及び圧力コントローラ0142を有している。
【0027】
温度コントローラ0141は、温度センサ0161の検出結果に応じて、配管0121上に配置された流量調節器0143を適宜開閉動作させることで、飽和水蒸気のチャンバー0110内への導入量を制御する。
一方、圧力コントローラ0142は、圧力センサ0162の検出結果に応じて、後述する圧力調整器0144を適宜開閉動作させることで、チャンバー0110内の圧力が所定高さの圧力となるように制御する。
【0028】
処理対象保持部0150は、試験片Wを吊り下げ保持するフック0151をチャンバー0110の軸方向及び径方向に複数有する保持プレート0152を具備しており(図1では径方向に1列に並ぶフック0151のみ示す)、この保持プレート0152は、図示しないプレート駆動機構によって、チャンバー0110内に配置されたレール0153に沿って上昇・下降するようになっている。つまり、フック0151を介して保持プレート0152に保持された複数の試験片Wをまとめて昇降させることができるようになっている。
なお、プレート駆動機構としては、モータを駆動源とするチェーンを用いた駆動機構やラックアンドピニオン式の駆動機構を採用し得るほか、シリンダを駆動源とするプッシュプル式の駆動機構を採用し得る。
【0029】
また、本実施形態による表面処理装置0100は、チャンバー0110に導入された飽和水蒸気によって生じる凝縮水をチャンバー0110外部に導出する水導出部と、この水導出部から配管0114を介して導出された凝縮水を滞留可能な凝縮槽部0170をさらに有しており、水導出部は、チャンバー0110の底部に形成した水導出孔0115としている。
【0030】
凝縮水を滞留可能な凝縮槽部0170には、凝縮水を排出するための凝縮水排出管0171が連通させてあり、この凝縮水排出管0171上には、上流側からドレーンコック0172,上記した圧力調整器0144及び逆止弁0173が順次配置してある。つまり、この凝縮水排出管0171上の圧力調整器0144を閉じた場合には、凝縮槽部0170において、チャンバー内圧力を維持しつつ、水導出孔0115から流れ出た凝縮水を滞留することができるようになっている。
【0031】
すなわち、凝縮槽部0170は、表面処理が長時間にわたる場合において、チャンバー0110の底部に溜まる飽和水蒸気の凝縮水に試験片Wが水没するのを防ぐために受け皿として機能するようになっている。
【0032】
さらに、本実施形態による表面処理装置0100は、処理対象保持部0150の保持プレート0152に保持された試験片Wを水で浸漬するためにチャンバー0110に水を導入する水導入部0180をさらに有しており、この水導入部0180は、チャンバー0110の外殻0111の上部に台座0116を介して配置されている。
【0033】
この試験片Wを水に浸漬する処理は、アルミニウム合金から成る試験片Wを高圧・中高温の飽和水蒸気に晒すのに先立って行う処理である。この浸漬処理は、軽金属の表面に防食効果が高い皮膜を形成するための研究を重ねてきた本発明者らの知見に基づいて行う処理であり、この浸漬処理を行うことで、処理時間のより一層の短縮、及び、高品質皮膜の形成が可能となる。
【0034】
すなわち、本実施形態による表面処理装置0100では、図1Bに黒太矢印で示すように、水導入部0180からチャンバー0110内に水を導入し、チャンバー0110内に水を溜めると共に、上述したようにして処理対象保持部0150の保持プレート0152に保持された複数の試験片Wをまとめて下降させることで、試験片Wを水に浸漬するようにしている。
【0035】
なお、本実施形態では、処理対象保持部0150の保持プレート0152に保持された複数の試験片Wをプレート駆動機構によってまとめて下降させることで、複数の試験片Wをチャンバー0110内に溜めた水に浸けるようにしているが、これに限定されるものではなく、他の構成として、例えば、チャンバー0110内において処理対象保持部0150の保持プレート0152に吊り下げ保持されている試験片Wが没するまで、チャンバー0110の内部に水を溜めることで、試験片Wを浸漬する構成を採用してもよい。
【0036】
そして、本実施形態による表面処理装置0100では、浸漬処理の終了後において、複数の試験片Wを所定位置に戻した状態で、配管0114上に配置した図示しないバルブを開いてチャンバー0110に溜めた浸漬用の水を水導出孔0115及び配管0114を介して凝縮槽部0170側に排出するようにしている。
<処理の流れ>
【0037】
この表面処理装置0100を用いてアルミニウム合金から成る試験片Wの表面に皮膜を形成するに際しては、まず、チャンバー0110内において、処理対象保持部0150の保持プレート0152にフック0151を介して複数の試験片Wを吊り下げる。
この際、表面処理に供する試験片が小さく且つ個数が多い場合は、これらの小試験片を絶縁材やこれに類する材料で被覆された容器に収容して表面処理を行うようにする。
【0038】
次いで、チャンバー0110の図示しない蓋を閉じると共に、チャンバー0110及び凝縮槽部0170を連通する配管0114上のバルブを閉じて、チャンバー0110を水密的に閉塞する。
【0039】
これに続いて、水導入部0180からチャンバー0110内に水を導入し、チャンバー0110の約下側半分に水を溜めると共に、処理対象保持部0150の保持プレート0152を下降させることで、この保持プレート0152に保持された複数の試験片Wをまとめて水に浸漬する(図1Bに示す状態)。
【0040】
そして、処理対象保持部0150の保持プレート0152を上昇させて複数の試験片Wを所定位置で吊り下げ保持する一方で、配管0114上のバルブを開いてチャンバー0110に溜めた浸漬用の水を水導出孔0115及び配管0114を介して凝縮槽部0170側に排出し、これにより浸漬処理を終了する。この浸漬処理はほぼ大気圧雰囲気で行われる。なお、この浸漬用の水の排出後には、配管0114上のバルブを開いておく。
【0041】
この浸漬処理の後、集中制御盤0140の温度コントローラ0141からの指令により配管0121上の流量調節器0143が開き、ボイラ0120で生成されている飽和水蒸気のチャンバー0110への供給が開始される。
【0042】
ボイラ0120から供給される飽和水蒸気は、処理水蒸気導入部0130を介してチャンバー0110内に導入され、ノズルプレート0133の流路0132及び多数のノズル0131を通してチャンバー0110の処理空間に放出されることで、表面処理が開始される。
【0043】
この際、温度センサ0161がチャンバー0110内の温度を測定しており、温度コントローラ0141は、この温度センサ0161で測定される温度に基づいて流量調節器0143を動作させることで、チャンバー0110内の温度が所定の温度に到達するまでの時間を、すなわち温度勾配をコントロールしている。
【0044】
この表面処理は、チャンバー0110内の水蒸気雰囲気が所定の雰囲気において行われ、所定の時間が経過するまで飽和水蒸気の供給が継続して行われる。
【0045】
この表面処理を行っている間に、温度センサ0161によりチャンバー0110内温度の低下が検出された場合には、温度コントローラ0141からの指令により配管0121上の流量調節器0143が開放度を増す動作を行うことで、飽和水蒸気のチャンバー0110内への導入量が増加するようにコントロールされる。
【0046】
この温度制御と同様にして、表面処理の間には、圧力センサ0162がチャンバー0110内の圧力を測定しており、この圧力センサ0162によって所定値を超える圧力上昇が検出された場合には、圧力コントローラ0142からの指令により圧力調整器0144が圧力開放動作を行うことで、チャンバー0110内の圧力が所定の高さとなるようにコントロールされる。
【0047】
また、この表面処理の間、チャンバー0110の底部に溜まる飽和水蒸気の凝縮水は、水導出孔0115及び配管0114を介してチャンバー0110外の凝縮槽部0170に向けて排出される。この凝縮水をチャンバー0110外の凝縮槽部0170に排出させる場合において、圧力調整器0144を閉状態として行うことで、チャンバー0110内の圧力は所定圧力に維持される。
【0048】
そして、所定の時間が経過した時点において、チャンバー0110に対する飽和水蒸気の供給を停止すると共に、圧力調整器0144を開状態としてチャンバー0110内の圧力を下げることで、チャンバー0110内の温度を下げて表面処理を終了する。この冷却時には、圧力コントローラ0142による圧力調整器0144の圧力開放動作の制御を行うことで、冷却速度をコントロールしている。
【0049】
本実施形態による表面処理装置0100では、アルミニウム合金から成る試験片Wの表面に皮膜を形成するに際して、チャンバー0110外のボイラ0120で生成されている飽和水蒸気をチャンバー0110へ供給するので、チャンバー0110内で飽和水蒸気を生成する場合と比べて、少ない時間でチャンバー0110内の雰囲気を表面処理に必要で且つ十分な飽和水蒸気雰囲気にし得るのに加えて、チャンバー0110内に満たす飽和水蒸気の量の制御が容易なものとなる。
【0050】
また、本実施形態による表面処理装置0100において、チャンバー0110外のボイラ0120で生成されている飽和水蒸気をチャンバー0110へ供給するようにしている分だけ、飽和水蒸気の供給量制御の応答性がよく、その結果、緻密な温度コントロールを行い得ることとなる。
【0051】
さらに、本実施形態による表面処理装置0100では、チャンバー0110内への飽和水蒸気の導入を集中制御盤0140で制御している、すなわち、温度センサ0161及び圧力センサ0162に対応する検出制御手段である温度コントローラ0141及び圧力コントローラ0142で制御しているので、チャンバー0110内の温度及び圧力のより緻密なコントロールを行い得ることとなる。
【0052】
さらにまた、本実施形態による表面処理装置0100では、表面処理の間にチャンバー0110の底部に溜まる飽和水蒸気の凝縮水は、圧力調整器0144を閉状態にすることで、チャンバー0110内の圧力を所定圧力に維持したまま凝縮槽部0170に排出されるようにしている。そして、チャンバー0110内の圧力が所定値を超えた場合や、チャンバー0110内の温度を下げる冷却工程の場合の圧力調整器0144による圧力開放時にのみ、凝縮槽部0170から凝縮水を排出するようにしているので、チャンバー0110内を所定の水蒸気雰囲気に戻す処理を極力減らし得る分だけ、運転コストの低減及び省エネ化が図られることとなる。
【0053】
さらにまた、本実施形態による表面処理装置0100では、水導入部0180からチャンバー0110内に水を導入して、チャンバー0110内に溜まった水に試験片Wを浸漬するようにしているので、この浸漬処理を行わない場合とほぼ同等の厚みの高品質皮膜を得ようとする際には、処理時間の短縮が図られることとなる。
【0054】
これと逆の見方をすれば、浸漬処理を行わない場合とほぼ等しい時間をかけて表面処理を行う際には、より厚みのある高品質皮膜を形成し得ることとなる。
<効果>
【0055】
本実施形態によれば、アルミニウム合金から成る試験片Wの表面に皮膜を形成するにあたって、処理時間の短縮を実現できるのに加えて、飽和水蒸気の生成量の制御が容易であると共に緻密な温度コントロールを行うことができるので、高品質の皮膜を形成することが可能であるという非常に優れた効果が得られる。
<実施形態2>
<概要>
【0056】
本実施形態は実施形態1を基本とし、チャンバーに導入する100℃程度の飽和水蒸気を加熱して、これにより生成される200℃強の過熱水蒸気をチャンバーに導入することを特徴としている。
このように、チャンバーに導入する飽和水蒸気をさらに加熱して過熱水蒸気とすることで、処理時間のより一層の短縮及びより高品質の皮膜の形成が可能であるというという効果を奏する。
<構成>
【0057】
図2に示すように、本実施形態の表面処理装置0200が、先の実施形態の表面処理装置と相違するところは、チャンバー0210の外殻0211に台座0212を介して配置された処理水蒸気導入部0230とボイラ0220とを連通する配管0221上に、加熱器0222(処理水蒸気加熱部)を設けた点にあり、他の構成は先の実施形態の表面処理装置と同じである。
【0058】
配管0221上に配置した加熱器0222は、ボイラ0220で生成された飽和水蒸気を加熱して200℃強の過熱水蒸気にするためのものであり、この加熱器0222によって生成された過熱水蒸気をチャンバー0210に導入することで、飽和水蒸気をチャンバー0210に導入する場合と比較して、処理時間のより一層の短縮化が図られると共に、試験片Wの表面上により高品質の皮膜を形成し得ることとなる。
<効果>
【0059】
本実施形態によれば、アルミニウム合金から成る試験片Wの表面に皮膜を形成するにあたって、処理時間のより一層の短縮を実現できるうえ、より高品質の皮膜の形成をも実現することが可能であるという非常に優れた効果が得られる。
<実施形態3>
<概要>
【0060】
本実施形態は実施形態1を基本とし、ジャケット温調部によって、外部ジャケットを介してチャンバーを加熱し又は/及び冷却するようにしたことを特徴としている。
このように、外部ジャケット及びジャケット温調部を用いて、チャンバーを加熱し又は/及び冷却するように成すことで、処理時間のより一層の短縮が可能であるという効果を奏する。
<構成>
【0061】
図3に示すように、本実施形態の表面処理装置0300が、先の実施形態1の表面処理装置と相違するところは、チャンバー0310の外殻0311に対して、これを取り巻くようにして外部ジャケット0390を装着すると共に、チャンバー0310の外部に、外部ジャケット0390を加熱し又は/及び冷却するジャケット温調部0391を設けた点にあり、他の構成は先の実施形態1の表面処理装置と同じである。
【0062】
このジャケット温調部0391は、配管0392を介して加熱用媒体及び冷却用媒体を選択的に外部ジャケット0390に供給し得るものであり、加熱用媒体及び冷却用媒体の選択は、集中制御盤0340によりコントロールされ、外部ジャケット0390に対する加熱用媒体及び冷却用媒体のいずれかの供給は、集中制御盤0340により制御される配管0392上のバルブ0393の開閉により行われるようになっている。
【0063】
本実施形態の表面処理装置0300では、ボイラ0320で生成されている飽和水蒸気のチャンバー0310への供給を開始するのに先立って、外部ジャケット0390に対してジャケット温調部0391から加熱用媒体を供給して、チャンバー0310がこの外部ジャケット0390を介して加熱されるようにしておくことで、チャンバー0310内において所定の水蒸気雰囲気を効率よく形成し得ることとなる。
【0064】
一方、表面処理後において、チャンバー0310に対する飽和水蒸気の供給を停止してチャンバー0310内の温度を下げる時点で、外部ジャケット0390に対してジャケット温調部0391から冷却用媒体を供給して、チャンバー0310がこの外部ジャケット0390を介して冷却されるようにしておくことで、チャンバー0310内を効率よく冷却し得ることとなり、処理時間のより一層の短縮化が図られることとなる。
<効果>
【0065】
本実施形態では、処理時間のより一層の短縮が可能であるという効果が得られる。
【符号の説明】
【0066】
0100 表面処理装置
0115 水導出孔(水導出部)
0120 ボイラ(処理蒸気生成部)
0130 処理水蒸気導入部
0140 集中制御盤(処理水蒸気導入制御部)
0150 処理対象保持部
0160 検出部
0161 温度センサ(温度検出手段)
0162 圧力センサ(圧力検出手段)
0170 凝縮槽部
0180 水導入部
図1A
図1B
図2
図3