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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】摺動部材用被膜組成物及び摺動部材
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20230719BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230719BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230719BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230719BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/65
C09D7/61
B32B27/30 D
F16C33/20 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021123245
(22)【出願日】2021-07-28
(65)【公開番号】P2023018885
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2022-12-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008822
【氏名又は名称】アート金属工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594143433
【氏名又は名称】アクロス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136113
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】山川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】宮下 貴晴
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】牧野 真
(72)【発明者】
【氏名】宮本 圭資
(72)【発明者】
【氏名】藤井 恭平
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/074150(WO,A1)
【文献】特開平05-065666(JP,A)
【文献】特開2015-124311(JP,A)
【文献】国際公開第2021/014901(WO,A1)
【文献】特開2004-084656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 7/65
C09D 7/61
B32B 27/30
F16C 33/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車エンジンのピストンの表面に被膜を形成するための摺動部材用被膜組成物であって、
バインダー樹脂と、固体潤滑剤と、摩耗抑制材とを含有し、
ポリオレフィンワックスを含まず、
前記バインダー樹脂100重量部に対して、前記固体潤滑剤を0.5~6重量部、摩耗抑制材を5~30重量部含有し、
前記固体潤滑剤が少なくともポリテトラフルオロエチレンであり、
前記摩耗抑制材が少なくともシリカであり、
(ポリテトラフルオロエチレン/シリカ)で計算される前記ポリテトラフルオロエチレンと前記シリカとの粒径比が0.8~80である、摺動部材用被膜組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の摺動部材用被膜組成物により形成された被膜を表面に備える、自動車エンジンのピストン
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材の表面に被膜を形成するための摺動部材用被膜組成物と、この摺動部材用被膜組成物により形成された被膜を表面に備える摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部材の一例としては、例えば自動車エンジンの軸受けやピストン、及び斜板式コンプレッサーの斜板などが挙げられる。例えばピストンは、ピストンスカートが摺動相手材であるシリンダボアと摺接する。このとき、ピストンスカートとシリンダボアとの間の潤滑性が重要となる。ピストンスカートとシリンダボア間での潤滑性が低いと、焼付き現象が生じてエンジンが停止してしまう。そのため、シリンダボアと摺接するピストンスカートの表面(摺動面)には、被膜を付与することが従来から行われている。
【0003】
このような摺動部材用の被膜には、潤滑性に直接寄与する低摩擦係数や耐焼付き性のみならず、耐摩耗性及び低相手攻撃性が求められる。耐摩耗性が低いと、相手材と繰り返し摺接することで早期に被膜が劣化し、その機能を維持できなくなる。また、相手攻撃性が高いと、被膜との摺接により相手材が損傷し易くなってしまう。
【0004】
そこで、このような被膜に要求される各種物性を向上するために、例えば下記特許文献1~特許文献6のように、従来から摺動部材用被膜組成物の改良が行われている。この種の摺動部材用被膜組成物は、一般的にバインダー樹脂と、固体潤滑剤と、無機充填材(フィラー)である摩耗抑制材と、必要に応じてその他の添加剤からなるが、特許文献1~特許文献6では、各成分の配合量を調整したり、被膜の表面粗さを調整したり、各成分の粒径を調整したり、特殊な材料を使用したりするなどして、この種の被膜に要求される各種物性のうち、いずれかの物性を特化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-97517号公報
【文献】特開2004-149622号公報
【文献】特開2018-21673号公報
【文献】特開2015-124338号公報
【文献】再表2012-111774号公報
【文献】特開2018-188621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~特許文献6では、低摩擦係数、耐焼付き性、耐摩耗性、及び低相手攻撃性のうち、いずれかの物性を特化させているが、逆に言えば、その他の物性を犠牲にしており、低摩擦係数、耐焼付き性、耐摩耗性、及び低相手攻撃性の全てを満足できるものではなかった。また、特殊な材料を使用する場合は、入手や製造が困難であったり、材料コストが嵩んでしまう。
【0007】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、従来から公知の材料を使用したシンプルな配合でありながら、低摩擦係数、耐焼付き性、耐摩耗性、及び低相手攻撃性の全ての物性を同時に満足できる被膜を形成可能な摺動部材用被膜組成物と、これにより形成された被膜を表面に備える摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのための手段として、本発明は、摺動部材の表面に被膜を形成するための摺動部材用被膜組成物であって、バインダー樹脂と、固体潤滑剤と、摩耗抑制材とを含有する。前記バインダー樹脂100重量部に対して、前記固体潤滑剤を0.5~6重量部、摩耗抑制材を5~30重量部配合する。前記固体潤滑剤としては少なくともポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用し、前記摩耗抑制材としては少なくともシリカを使用する。そのうえで、(PTFE/シリカ)で計算される前記PTFEと前記シリカとの粒径比が、0.8~80であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明によれば、上記摺動部材用被膜組成物により形成された被膜を表面に備える、摺動部材を提供することもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の摺動部材用被膜組成物は、バインダー樹脂に対して、この種の摺動部材用被膜組成物において従来から一般的に使用されている公知の材料であるPTFEとシリカを必須成分としたシンプルな配合でありながら、低摩擦係数、耐焼付き性、耐摩耗性、及び低相手攻撃性の全ての物性を同時に満足できる被膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】耐焼付き性試験の模式図である。
図2】耐摩耗性試験の模式図である。
図3】相手攻撃性試験の模式図である。
図4】摩擦係数試験の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
《摺動部材用被膜組成物》
本発明の摺動部材用被膜組成物は、摺動部材の少なくとも摺動面を被覆するための被膜を形成するための組成物であって、バインダー樹脂と、固体潤滑剤と、摩耗抑制材とを含有する。
【0013】
<バインダー樹脂>
バインダー樹脂は被膜のベースとなる成分であって、添加成分を含んだ状態で被膜を形成できるものであれば特に限定されない。例えば、従来からこの種の摺動部材用被膜組成物において使用されている公知の有機系バインダーを使用できる。具体的には、ポリアミドイミド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、ナイロン、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂などの熱可塑性樹脂や、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、アクリル樹脂、ポリアミノアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ビニルエステル樹脂、フラン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、全芳香族ポリエステルなどの熱硬化性樹脂を例示できる。熱可塑性樹脂の中では、ポリアミドイミド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、熱可塑性ポリイミドが好ましい。熱硬化性樹脂の中では、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、アクリル樹脂、ポリアミノアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂が好ましい。これらは取り扱いが容易で、後述のPTFEを良好に分散させながら塗料状態で被膜を形成できるからである。さらには、接着性、耐薬品性、強度などの点から、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、又はポリイミド樹脂がより好ましい。これらのバインダー樹脂は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を混合使用してもよい。
【0014】
<固体潤滑剤>
固体潤滑剤としては、少なくともポリテトラフルオロチエチレン(PTFE)粒子を必須成分として使用する。固体潤滑剤の中でもPTFEは潤滑性に優れており、被膜の潤滑性能を主体的に発揮する。PTFEの平均粒子径は、0.1~50μm、好ましくは0.2~40μmであればよい。なお、本明細書でいう「平均粒子径」とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定した体積累積平均粒子径(D50)を意味する。
【0015】
PTFEの配合量は、バインダー樹脂100重量部に対して0.5~6重量部、好ましくは1~4重量部とする。PTFEの配合量がバインダー樹脂100重量部に対して0.5重量部より少ないと、潤滑性不足から摩耗抑制材による相手材への攻撃性が高くなってしまう。一方、6重量部より多いと、相対的にバインダー樹脂の含有量が低下して、耐摩耗性や耐焼付き性が低下する。
【0016】
その他の固体潤滑剤としては、例えばテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、及びポリクロロトリフルオロエチレンなどのフッ素化合物、二硫化モリブデン(MoS)及び二硫化タングステンなどの硫化物、グラファイト(GP)、フッ化グラファイト、窒化硼素、マイカなどの層状鱗片状物質、鉛、亜鉛、銅などの軟質金属、メラミンシアヌレートなどの粒子が挙げられる。これらその他の固体潤滑剤は、本発明の効果を阻害しない範囲(PTFEの配合量以下)で1種又は2種以上を添加してもよいが、PTFEのみを配合することが好ましい。
【0017】
<摩耗抑制材>
摩耗抑制材としては、少なくともシリカ粒子を必須成分として使用する。摩耗抑制材の中でも、シリカはPTFEとの相性が良く、主として被膜の耐摩耗性を向上すると共に、相手攻撃性も低い。シリカの平均粒子径は、0.001~20μm、好ましくは0.015~10μmであればよい。
【0018】
シリカの配合量は、バインダー樹脂100重量部に対して5~30重量部、好ましくは10~25重量部とする。PTFEの配合量がバインダー樹脂100重量部に対して5重量部より少ないと耐摩耗性が低下し、これに基づき耐焼付き性も低下する。一方、30重量部より多いと、相手材への攻撃性が高くなると共に、耐焼付き性も低下する。
【0019】
その他の摩耗抑制材としては、例えば酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミナホワイト、シリカアルミナなどのアルミナ類のほか、硫酸バリウム、ジルコニア、炭化タングステン、炭化チタン、炭化ケイ素、二酸化チタン、酸化鉄、長石、軽石、正長石、イリジウム、石英、酸化ベリリウム、酸化ジルコニウム、クロム、ボロンカーバイト、タングステンカーバイト、金属タングステン、シリコーンカーバイト等が挙げられる。これらその他の摩耗抑制材は、本発明の効果を阻害しない範囲(シリカの配合量以下)で1種又は2種以上を添加してもよいが、シリカのみを配合することが好ましい。
【0020】
そのうえで、(PTFE/シリカ)で計算されるPTFEとシリカとの粒径比(平均粒子径の比)は0.8~80とする。(PTFE/シリカ)の粒径比が0.8より小さいと、PTFEに対してシリカが大きすぎて、相手攻撃性が高くなってしまう。一方、(PTFE/シリカ)の粒径比が80を超えると、PTFEに対してシリカが小さすぎて、耐摩耗性が低下してしまう。
【0021】
また、摺動部材用被膜組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の一般的な添加剤を配合することもできる。例えば、PTFE等の分散性を向上する分散剤、接着性を向上させるシランカップリング剤、表面張力をコントロールするレベリング剤や界面活性剤、及びチキソトロピー性をコントロールする増粘剤などを挙げることができる。
【0022】
《摺動部材》
このような摺動部材用被膜組成物を摺動部材の表面(摺動面)へ塗布し、硬化させることで、表面に被膜を有する摺動部材が得られる。
【0023】
摺動部材としては、潤滑油やグリース等の潤滑剤を使用した潤滑状態で相手材と摺接する部材のほか、潤滑剤を使用しない無潤滑状態で相手材と摺接する部材にも適用できる。具体的には、自動車エンジンのピストン、湿式クラッチ、ギヤ、スプライン、ワッシャー、動弁系部品、斜板式コンプレッサーの斜板、半球シュー、摺動式スプラインシャフト、すべり軸受用オーバーレイ、転がり軸受用保持器などが挙げられる。
【0024】
摺動部材の材質は特に限定されず、典型的にはアルミニウムや鉄などの金属ないし合金が挙げられるが、他にもゴム、プラスチック、セラミックなどでもよい。摺動被膜組成物は、摺動部材の少なくとも摺動面に塗布すればよいが、全体的に塗布してもよい。
【0025】
摺動被膜組成物を塗布する際は、必要に応じて有機溶剤によって粘度を調整しておく。有機溶剤は、バインダー樹脂を溶解することができる有機溶媒であれば特に制限なく用いることができる。代表的な樹脂で例示すると、エポキシ樹脂の場合、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、キシレン、トルエン等の芳香族系の溶剤などを用いることができる。ポリアミドイミド樹脂の場合、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)を用いることができ、また、NMPにキシレン等の芳香族系溶剤や、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤などを加えた混合溶剤を用いることができる。
【0026】
摺動被膜組成物の塗装方法は、従来から公知の一般的な塗装方法を採用できる。具体的には刷毛、ローラー、ロールコーター、エアスプレー、エアレススプレー、浸漬塗装、スクリーン印刷、パット印刷、グラビアコートなどが挙げられる。摺動部材の摺動面には、必要に応じてアルカリ脱脂や溶剤脱脂、エッチング、化成処理等の前処理を施しておいてもよい。
【0027】
摺動被膜組成物を塗布した後は、乾燥・硬化させることで被膜を形成できる。被膜の膜厚は、従来から一般的な5~50μm、好ましくは10~45μm程度とすればよい。
【実施例
【0028】
表1,2に記載の材料を表1,2に示す割合で混合し、必要に応じて有機溶剤で粘度を調整した摺動部材用被膜組成物を調製した。なお、表1,2に示す各材料の配合量は重量部である。各実施例及び比較例の摺動部材用被膜組成物を用いて下記試験を行い、被膜の各物性を評価した。
【0029】
(耐焼付き性試験)
図1に示すスラスト試験機1(エーアンドデイ社製)を用いて焼付き荷重を測定した。被膜形成対象である摺動部材として、板形状の試験板10(t5×30×30mm,材質AC8A,粗さRz=0.5μm)を用いた。試験板10の摺動面11には、前処理として溶剤脱脂を施した。この摺動面11に、各組成物をスプレーで塗付し、乾燥・硬化させて膜厚15μmの被膜を形成した。なお、バインダー樹脂をポリアミドイミド樹脂(PAI)及びフェノール樹脂(PF)とした組成物の乾燥・硬化条件は180℃、90分であり、ポリイミド樹脂(PI)とした組成物は350℃、10分であり、エポキシ樹脂とした組成物は200℃、30分である。後述する他の試験でも同様である。
【0030】
相手材12として、中空円筒形状の部材(外径φ25.6mm,内径φ20mm,材質FC250,粗さRz=1μm)を用いた。この相手材12を、被膜が塗付された摺動面11上に配置した。この状態で、図1の矢印15方向に試験板10を回転数1000rpmにて回転させた。そして、馴らし回転(245Nの押付け荷重を10分間かける)の後、図1の矢印16方向から押付け荷重を相手材12にかけて、一定の周期(245N/2min)で押し付け荷重を上昇させていった。試験は、潤滑油(鉱油;0W-20)の潤滑下で行い、潤滑油は80℃とした。被膜がなくなり焼付く荷重(N)を測定し、次の基準で評価した。その結果も表1,2に示す。
◎:焼付き荷重が3920N以上
○:焼付き荷重が3500N以上3920N未満
△:焼付き荷重が3200N以上3500N未満
×:焼付き荷重が3200N未満
【0031】
(耐摩耗性試験)
図2に示すブロックオンリング試験機2(「FALEX LFW-1」 FALEX CORPORATION社製)を用いて、被膜の耐摩耗性を評価した。被膜形成対象である摺動部材として、ブロック状の試験材20(6×16×10mm、材質AC8A、表面粗さRz=1μm)を用いた。図2で見て試験材20の摺動面21には、前処理として溶剤脱脂を施した。この摺動面21に、各試験用組成物をスプレーで塗付したのち、乾燥・硬化させて膜厚15μmの被膜を形成した。
【0032】
相手材22として、リング形状の部材(外径φ35mm、厚み8mm、材質FC250(ねずみ鋳鉄)、表面粗さRz=1μm)を用いた。この相手材22を摺動面21に当接させた。この状態で、図2の矢印25方向に相手材22を回転速度20rpmで回転させていき、図2の矢印26方向から押付け荷重45Nを試験材20にかけた。試験は、潤滑油(鉱油;0W-20)の潤滑下で行い、潤滑油の油温は80℃とした。試験開始から15分経過した時の被膜の摩耗量(μm)をレーザー顕微鏡(「VK-X100」、キーエンス社製)にて測定し、次の基準で評価した。その結果も表1,2に示す。
◎:被膜の摩耗量が3μm未満
○:被膜の摩耗量が3μm以上4μm未満
△:被膜の摩耗量が4μm以上6μm未満
×:被膜の摩耗量が6μm以上
【0033】
(相手攻撃性試験)
図3に示す摩擦摩耗試験機3(HEIDON TYPE20,新東科学社製)を用いて、被膜の相手攻撃性を評価した。被膜形成対象である摺動部材として、板形状の試験材30(t0.5×35×70mm,材質SPCC(冷間圧延鋼板))を用いた。試験材30の摺動面31には、前処理として溶剤脱脂を施した。この摺動面31に、各組成物をスプレーで塗付したのち、乾燥・硬化させて膜厚15μmの被膜を形成した。
【0034】
相手材32として、ボール形状の部材(外径φ3/8in,材質SUJ2(高炭素クロム軸受鋼鋼材)を用いた。この相手材を摺動面31に当接させた。この状態で、図の矢印35方向に相手材32を回転速度200rpmにて回転させていき、図の矢印36方向から押付け荷重(0.98N)を試験材30にかけた。試験は、無潤滑・室温下で行った。試験開始から10分経過した時の相手材32の摩耗量(μm)をレーザー顕微鏡(「VK-X100」、キーエンス社製)にて測定し、次の基準で評価した。その結果も表1,2に示す。
◎:相手材の摩耗量が8μm未満(摩耗量が判断できない)
○:相手材の摩耗量が8μm以上20μm未満
△:相手材の摩耗量が20μm以上30μm未満
×:相手材の摩耗量が30μm以上
【0035】
(摩擦係数試験)
図4に示す摩擦摩耗試験機4(HEIDON TYPE14,新東科学社製)を用いて、被膜の摩擦係数を評価した。被膜形成対象である摺動部材として、板形状の試験材40(t0.5×35×70mm,材質SPCC(冷間圧延鋼板))を用いた。試験材40の摺動面41には、前処理として溶剤脱脂を施した。この摺動面41に、各試験用組成物をスプレーで塗付したのち、乾燥・硬化させて膜厚15μmの被膜を形成した。
【0036】
相手材42として、ボール形状の部材(外径φ3/8in,材質SUJ2(高炭素クロム軸受鋼鋼材)を用いた。この相手材42を摺動面41に当接させた。この状態で、図4の矢印45方向に相手材42を摺動(1mm/s)させ、図4の矢印46方向から押付け荷重(0.98N)を試験材40にかけた。試験は、無潤滑・室温下で行った。その際の静止摩擦係数(μs)および動摩擦係数(μk)を測定し、次の基準で評価した。その結果も表1,2に示す。
(静止摩擦係数 μs)
◎:0.20未満
○:0.20以上0.25未満
×:0.25以上
(動摩擦係数 μk)
◎:0.15未満
○:0.15以上0.20未満
×:0.20以上
【0037】
上記各試験に用いた表1に示す実施例1~15、及び表2に示す比較例1~9におけるPTFEの平均粒子径は3.5μmであり、シリカの平均粒子径は0.3μmである。表1及び表2に示す試験結果において、耐摩耗性(摩耗深さ)、相手攻撃性(相手材摩耗量)、及び摩擦係数はできるだけ低いことが好ましく、耐焼付き性(焼き付き荷重)はできるだけ高いことが好ましい。
【0038】
表1に示す各材料の含有量は重量部である。
【表1】
【0039】
表2に示す各材料の含有量は重量部である。
【表2】
【0040】
表1の結果から、実施例1~15は、摩擦係数、耐焼付き性、耐摩耗性、及び低相手攻撃性の全てが良好な結果となっていた。一方、表2の結果から、比較例1~4はPTFEやシリカの含有量が過小又は過多のため、低摩擦係数、耐焼付き性、耐摩耗性、又は低相手攻撃性のうち、いずれかの物性に問題があった。また、比較例5~9の結果から明らかなように、固体潤滑剤としてPTFEを、摩耗抑制材としてシリカをそれぞれ必須成分として含有していなければ、摩擦係数、耐焼付き性、耐摩耗性、及び低相手攻撃性の全てを満足することはできないことが確認された。
【0041】
(粒径比試験)
上記試験から、固体潤滑剤としてPTFEを、摩耗抑制材としてシリカをそれぞれ必須成分とすべきことが確認されたことに続いて、PTFFとシリカとの平均粒子径の粒径比について検討した。具体的には、被膜組成物中の各材料の含有量は、実施例1のバインダー樹脂100重量部に対してPTFE3重量部、シリカ18重量部で固定し、PTFEとシリカの平均粒子径を種々変更した場合について、上記各試験と同じ方法で摩擦係数、耐焼付き性、耐摩耗性、及び低相手攻撃性について測定した。その結果を表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
表3の結果から、PTFE/シリカの粒径比が0.8~80の範囲にある実施例16~17は、摩擦係数、耐焼付き性、耐摩耗性、及び低相手攻撃性の全てが良好な結果となっていた。これに対し比較例10~11は、PTFE/シリカ粒径比のバランスが悪いため、低摩擦係数、耐焼付き性、耐摩耗性、又は低相手攻撃性のうち、いずれかの物性に問題があった。
【符号の説明】
【0044】
1・2・3・4 試験機
10・20・30・40 試験材
11・21・31・41 摺動面
12・22・32・42 相手材



図1
図2
図3
図4