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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】過酸化水素生成用触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/24 20060101AFI20230719BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20230719BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20230719BHJP
   C01B 32/198 20170101ALI20230719BHJP
【FI】
B01J27/24 M
B01J37/08
B01J37/16
C01B32/198
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022504310
(86)(22)【出願日】2020-07-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 KR2020009589
(87)【国際公開番号】W WO2021015531
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】10-2019-0088615
(32)【優先日】2019-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】509329800
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(73)【特許権者】
【識別番号】515312760
【氏名又は名称】インスティチュート フォー ベーシック サイエンス
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE FOR BASIC SCIENCE
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】ヘヨン,テクァン
(72)【発明者】
【氏名】スン,ヨンウン
(72)【発明者】
【氏名】シン,ヒジョン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ビョンフン
(72)【発明者】
【氏名】チュン,ウイヨン
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-215744(JP,A)
【文献】特開2015-091578(JP,A)
【文献】特開2013-232401(JP,A)
【文献】LI Bo-Quan et. al.,Electrosynthesis of Hydrogen Peroxide Synergistically Catalyzed by Atomic Co-Nx-C sites and Oxygen Functional Groups in Noble-Metal-Free Electrocatalysts,Advanced Materials,2019年04月10日,Volume 31, Issue 35,1808173,https://doi.org/10.1002/adma.201808173
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01B 32/00 - 32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C-O-C結合構造を含む炭素系支持体;及び
前記炭素系支持体に結合され、M-N結合構造(Mは遷移金属原子)を含む触媒部分を含む過酸化水素生成用触媒として、
前記C-O-C結合構造は前記触媒部分付近で配置されて前記M の電荷状態を変化させ、
前記過酸化水素生成用触媒は、
前記C-O-C結合構造を含む前記炭素系支持体を準備するステップ;
前記炭素系支持体に遷移金属原子(M )を提供するステップ;及び
前記炭素系支持体に窒素をドーピングして前記M -N結合構造を含む前記触媒部分を形成するステップ
を含む方法により製造されることを特徴とする過酸化水素生成用触媒
【請求項2】
前記触媒部分はM-N結合構造を含むことを特徴とする、請求項1に記載の過酸化水素生成用触媒。
【請求項3】
前記Mは金属単一原子触媒として機能することを特徴とする、請求項1に記載の過酸化水素生成用触媒。
【請求項4】
前記Mはコバルト(Co)を含み、
前記炭素系支持体は酸化グラフェンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の過酸化水素生成用触媒。
【請求項5】
前記M -N結合構造は、
前記ドーピングされた窒素が前記炭素系支持体の酸素を置換することにより形成されることを特徴とする、請求項1に記載の過酸化水素生成用触媒
【請求項6】
前記C-O-C結合構造は生成のためのΔGOOH*を増加させることを特徴とする、請求項に記載の過酸化水素生成用触媒。
【請求項7】
前記窒素のドーピングは400~600℃で前記炭素系支持体をNH で処理して還元することによってなることを特徴とする、請求項1に記載の過酸化水素生成用触媒。
【請求項8】
炭素系支持体を準備するステップ;
前記炭素系支持体に遷移金属原子(M)を提供するステップ;及び
前記炭素系支持体に窒素をドーピングするステップを含む過酸化水素生成用触媒の製造方法。
【請求項9】
前記窒素をドーピングするステップは、前記炭素系支持体に結合し、M-N結合構造を含む触媒部分を形成するステップを含むことを特徴とする、請求項に記載の過酸化水素生成用触媒の製造方法。
【請求項10】
前記触媒部分は、M-N結合構造を含むことを特徴とする、請求項に記載の過酸化水素生成用触媒の製造方法。
【請求項11】
前記窒素をドーピングするステップは、400~600℃で前記炭素系支持体をNHで処理して還元するステップを含むことを特徴とする、請求項に記載の過酸化水素生成用触媒の製造方法。
【請求項12】
前記遷移金属原子は、コバルト(Co)を含むことを特徴とする、請求項に記載の過酸化水素生成用触媒の製造方法。
【請求項13】
前記炭素系支持体は、電子豊富種を含むことを特徴とする、請求項に記載の過酸化水素生成用触媒の製造方法。
【請求項14】
前記電子豊富種は、酸素を含むことを特徴とする、請求項13に記載の過酸化水素生成用触媒の製造方法。
【請求項15】
前記炭素系支持体は、C-O-C結合構造を含むことを特徴とする、請求項に記載の過酸化水素生成用触媒の製造方法。
【請求項16】
前記炭素系支持体は、酸化グラフェンを含むことを特徴とする、請求項に記載の過酸化水素生成用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素(H)生成用触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素(H)は、化学及び医療分野で重要な役割をする重要な化学物質の1つである。Hの工業的生産は、高価なパラジウム触媒を用いた2-アルキル-アントラキノンの水素化を含むエネルギー集約的プロセスであるアントラキノンプロセスに大きく依存する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような問題点を解決するために、本発明は、優れた性能を有する過酸化水素生成用触媒を提供する。
【0004】
本発明は、過酸化水素生成用触媒の製造方法を提供する。
【0005】
本発明の他の目的は以降の詳細な説明及び添付図面から明確になるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施例による過酸化水素生成用触媒は、炭素系支持体及び前記炭素系支持体に結合され、M-N結合構造(Mは遷移金属原子)を含む触媒部分(moiety)を含む。
【0007】
本発明の実施例による過酸化水素生成用触媒の製造方法は、炭素系支持体を準備するステップ、前記炭素系支持体に遷移金属原子(M)を提供するステップ、及び前記炭素系支持体に窒素をドーピングするステップを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施例による過酸化水素生成用触媒は優れた性能を有することができる。例えば、前記過酸化水素生成用触媒は、長時間優れた安定性で高い反応電流密度及び質量活性を有することができる。また、前記過酸化水素生成用触媒は簡単な方法で製造することができ、製造コストが安い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】酸素還元反応によるHO及びH生成のための触媒活性を示す。
図2】コバルト原子の近くに吸着された4H/2H/O/2Oを有するCo-N/グラフェン中のコバルト金属中心の相対電荷状態及びOOH吸着エネルギーを示す。
図3】コバルト原子の近くに吸着された4H/2H/O/2Oを有するCo-N/グラフェンの電荷密度を示す。
図4】Co-NG(O)の製造方法を概略的に示す。
図5】それぞれ異なるNH還元温度で製造されたGO、Co-NG(O)及びCo-NG(R)の酸素含有量を示す。
図6】Co-NG(O)及びCo-NG(R)のデコンボリューションされた(deconvoluted)酸素1sスペクトルを示す。
図7】Co-NG(O)のTEMイメージを示す。
図8】Co-NG(O)の原子能(atomic resolution)ADF-STEMイメージを示す。
図9】Co-NG(O)、Co-NG(R)、Co箔(foil)、Co、及びCoOに対するR空間内のCo K-edge K-weighted FT-EXAFSスペクトルを示す。
図10】GO、Co-NG(O)及びCo-NG(R)のFTIRスペクトルを示す。
図11】HまたはHOを生成する酸素還元反応経路を示す。
図12】0.1M KOH内でNG(O)、Co-NG(O)及びCo-NG(R)に対して1600rpmでのORR性能(実線)とリング電極におけるH感知電流密度を比較して示す。
図13】印加電位の関数として計算されたH選択度を示す。
図14】NG(O)、Co-NG(O)及びCo-NG(R)について0.7VでH電流を比較して示す。
図15】0.1MのPBS(phosphate buffered saline)でNG(O)及びCo-NG(O)の酸素還元反応極性曲線を示す。
図16】0.1MのHClOでNG(O)及びCo-NG(O)の酸素還元反応極性曲線を示す。
図17】Co-NG(O)の反応電流密度を他の触媒と比較して示す。
図18】Co-NG(O)の質量活性を他の触媒と比較して示す。
図19】Co-NG(O)の質量活性を他の触媒と比較して示す。
図20】Co-NG(O)の安定性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明の目的、特徴、利点は以下の実施例から容易に理解できるであろう。本発明は、ここで説明される実施例に限定されず、他の形態に具体化されうる。ここで説明される実施例は、開示された内容が徹底的で完全なものとなるように、かつ本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明の思想が十分に伝達されるようにするために提供されるものである。よって、以下の実施例により本発明が限定されてはならない。
【0011】
本発明の実施例による過酸化水素生成用触媒は、炭素系支持体及び前記炭素系支持体に結合され、M-N結合構造(Mは遷移金属原子)を含む触媒部分(moiety)を含む。
【0012】
前記触媒部分はM-N結合構造を含む。前記Mは金属単一原子触媒として機能する。前記Mはコバルト(Co)を含む。
【0013】
前記過酸化水素生成用触媒は、前記触媒部分付近で前記炭素系支持体に結合される電子豊富種をさらに含み、前記電子豊富種は前記Mの電荷状態を変化させる。前記電子豊富種は、H生成のためのΔGOOH*を増加させる。前記電子豊富種は酸素を含む。
【0014】
前記炭素系支持体は、C-O-C結合構造を含む。前記炭素系支持体は酸化グラフェンを含む。前記炭素系支持体は、窒素がドープされたものである。
【0015】
本発明の実施例による過酸化水素生成用触媒の製造方法は、炭素系支持体を準備するステップ、前記炭素系支持体に遷移金属原子(M)を提供するステップ、及び前記炭素系支持体に窒素をドーピングするステップを含む。
【0016】
前記窒素をドーピングするステップは、前記炭素系支持体に結合し、M-N結合構造を含む触媒部分を形成するステップを含む。前記触媒部分はM-N結合構造を含む。前記窒素をドーピングするステップは、400~600℃で前記炭素系支持体をNHで処理して還元するステップを含む。
【0017】
前記遷移金属原子はコバルト(Co)を含む。
【0018】
前記炭素系支持体は電子豊富種を含む。前記電子豊富種は酸素を含む。前記炭素系支持体は、C-O-C結合構造を含む。前記炭素系支持体は酸化グラフェンを含む。
【0019】
図1から図3は、本発明の一実施例による過酸化水素生成用触媒の構造及び活性を説明するための図面である。
【0020】
図1は、酸素還元反応によるHO及びH生成のための触媒活性を示す。図1において、A点は触媒活性グラフを描くために使用するM-N/グラフェンを示し、B点はコバルト原子付近に吸着された電子豊富種(O/2O)を有するCo-N/グラフェンを示し、C点はコバルト原子付近に吸着された電子不足種(4H/2H)を有するCo-N/グラフェンを示す。
【0021】
図1を参照すると、酸素還元反応活性が、OOH吸着エネルギー(ΔGOOH*)の関数として表すことができる。Ni、Ag及びPtについてH生成がHO生成に比べてエネルギー的に好ましいが、Ru、Fe及びCoについてはその逆である。前者の金属中心は後者のような親酸素性(oxophilic)ではないので、後者の金属中心はOに対するOOH中間体の破壊を好み、HO形成を導くが、前者の金属中心はHに対するOOHプロトン添加を容易に行うことができる。
【0022】
計算結果によれば、M-N/グラフェン触媒のいずれも、H生成のためのグラフのピーク付近には存在しない(ΔGOOH*=4.2eV)。H生成に好ましい触媒(Ni、Ag、及びPt)でさえ、例えば、HOを生成する最大活性であるCo-N/グラフェンと比較して、H生成には比較的高い過電圧(>0.5V)を必要とする。前記M-N/グラフェンにおいて、Mは遷移金属原子を表し、M-Nはグラフェンに結合した触媒部分を表し、グラフェンは前記触媒部分を支持する炭素系支持体を表す。
【0023】
Co-N/グラフェンの触媒活性の大部分をHOではなくH生成に対して維持するように改変することが好ましい。したがって、Co-N部分の金属中心を変えて高い活性のHを生成するための最適なΔGOOH*値に達するとともに、金属中心と周辺原子配列との間の相互作用を微調整する必要がある。
【0024】
図2は、コバルト原子の近くに吸着された4H/2H/O/2Oを有するCo-N/グラフェン中のコバルト金属中心の相対電荷状態及びOOH吸着エネルギーを示し、図3はコバルト原子の近くに吸着した4H/2H/O/2Oを有するCo-N/グラフェンの電荷密度を示す。
【0025】
図2及び図3を参照すると、Co-N部分付近に官能基を付着させることによってΔGOOH*を調節することができる。例えば、Oなどの電子豊富種がCo-N部分(Co-N(O))の近くに吸着すると、ΔGOOH*は、H生成のための最適値に最も近い3.9から4.1eVに増加する。ΔGOOH*は、2つのOがCo-N部分(Co-N(2O))の近くに吸着されるとき、4.5eVまでさらに増加することができる。Co-N(O)は、1個のOがCo-N部分付近に吸着されたことを示し、Co-N(2O)は、2個のOがCo-N部分付近に吸着されたことを示す。
【0026】
他の電子豊富種OHがCo-N部分の近くに吸着しても同様のことが示された。一方、Hのような電子不足種がCo-N部分の近くに吸着すると、ΔGOOH*はCo-N(2H)では3.9から3.8eVに減少し、Co-N(4H)では3.1eVに減少する。別の電子不足元素である炭素が導入されても同様の傾向が観察される。
【0027】
ΔGOOH*に対する官能基のこの効果は、コバルト原子の電荷状態の違いとして説明することができる。Co-N(O)とCo-N(2O)の場合、コバルト原子の電荷状態は0.05e-と0.10e-とさらに正となる。一方、Co-N(2H)とCo-N(4H)の場合、それぞれ0.21e-と0.35e-だけ負になる。H生成のための単一原子触媒を製造するためには、コバルト原子の電荷状態をわずかに増加させることができるように、Co-N部分の近くに酸素などの電子豊富種を生成することによって、Co-N/グラフェンのΔGOOH*をわずかに増加させる。したがって、炭素系支持体として酸化グラフェン(GO)を使用することが好ましい。また、酸化グラフェン中のエポキシドは、低温で脱着するヒドロキシル基のような他の官能基より熱安定性があることが示された。
【0028】
図4から図10は、本発明の一実施例による過酸化水素生成用触媒の構造的特徴を説明するための図面である。
【0029】
図4は、Co-NG(O)の製造方法を概略的に示す。図4を参照すると、コバルト原子は含浸法によって酸化グラフェンの表面に吸着される。コバルトが吸着された酸化グラフェンは、NH/Ar雰囲気下、500℃で穏やかに還元される。このように、前記Co-NG(O)は、窒素がドープされた酸化グラフェンにCo-N(O)部分が結合したもので、500℃で熱処理されたことを示す。
【0030】
図5は、それぞれ異なるNH還元温度で製造されたGO、Co-NG(O)及びCo-NG(R)の酸素含有量を示す。Co-NG(R)は、反応温度が900℃であることを除いて、Co-NG(O)と同様の方法で製造される。図5を参照すると、約500℃の還元温度で高い酸素比(約6.6%)を維持することができる。さらに、低いアニーリング温度にもかかわらず、比較的高い割合の窒素を組み込むことができる(5.87%)。
【0031】
図6は、Co-NG(O)及びCo-NG(R)のデコンボリューションされた(deconvoluted)酸素1sスペクトルを示す。図6を参照すると、Co-NG(O)のC-O-C含量は3.22%で、Co-NG(R)のC-O-C含量(0.72%)より高く示されている。
【0032】
図7はCo-NG(O)のTEMイメージを示し、図8はCo-NG(O)の原子能(atomic resolution)ADF-STEMイメージを示す。
【0033】
熱還元工程で多くの空隙が形成され、窒素原子の固定部位と金属原子の優先結合部位が得られる。Co-NG(O)の原子構造は、ADF-STEM(annular dark-field scanning transmission electron microscope)によってイメージングすることができる。
【0034】
図8を参照すると、個々のコバルト原子はグラフェンマトリックス全体に均一に分散される。最適化されたCo-NG(O)単一原子触媒は、単一金属原子濃度が高い(1.4wt%)。
【0035】
他のM-NG(O)(M=Fe、Ni)も同じ方法で製造することができ、電気化学的測定によって確認された活性表面積は同様であることが示された。
【0036】
図9は、Co-NG(O)、Co-NG(R)、Co箔(foil)、Co、及びCoOに対するR空間内のCo K-edge K-weighted FT-EXAFS(Fourier transform extended X-ray absorption fine structure)スペクトルを示し、図10は、GO、Co-NG(O)及びCo-NG(R)のFTIR(Fourier-transform infrared spectroscopy)スペクトルを示す。Co-NG(O)の原子構造は、X線吸収分光法によって分析することができる。
【0037】
図9を参照すると、Co-NG(O)に対するFT-EXAFS曲線は、Co-N配位に起因し得るメインピーク(1.4Å)のみを示し、Co-Coピーク(2.2Å)は検出されなかった。EXAFSフィッティングを実行してコバルト原子の構造パラメータを分析することができる。フィッティングされたパラメータの配位数は約4である。同様に、他のM-NG(O)単一原子触媒のFT-EXAFS曲線もフィッティングされており、配位数は4であり、これは周囲に4個のN原子で囲まれた金属原子の存在を示す。
【0038】
XPS(X-ray photoelectron spectroscopy)によると、窒素は500℃でグラフェンマトリックスに容易に組み込まれ、Co-NG(O)ではピリジンNが支配的である。Co-NG(R)は、典型的な炭化温度である900℃でアンモニア処理によって製造され、Co-NG(O)の製造温度(500℃)よりはるかに高い。
【0039】
Co-NG(O)のCo2pスペクトルはCo-NG(R)と比較して高い結合エネルギーへの上向き移動を示し、Co-NG(O)のスピン-軌道分裂(15.875 eV)はCo-NG(R)のスピン-軌道分裂(15.504eV)よりも大きく、これはコバルト原子の低い電荷密度状態を示す。したがって、Co-NG(O)は高度に酸化されたコバルト原子中心を有するが、Co-NG(R)は比較的電子豊富なコバルト単一原子からなる。
【0040】
また図面には示されていないが、O K-edge NEXAFS(near edge X-ray absorption fine structure)スペクトルによると、Co-NG(R)と比較して、Co-NG(O)単一原子触媒は、C-O結合(例えば、C-O-Cエポキシド)から、π状態及びσ状態に対するO1sコアレベルの遷移として割り当てることができる535及び540.4eVでより強く鋭いピークを有する。これは、図10のFTIRスペクトルによって確認することができる。
【0041】
このように、XPS、NEXAFS、及びFTIRの包括的な分析は、近いC-O-C原子構造によってコバルト中心が比較的電子を欠いていることを示す。このようなC-O-C基は、DFT分析によって支持される500℃の穏やかな還元温度で熱力学的に安定である。したがって、高い活性のHを生成するために、Co-N部分の近くに酸素種(C-O-Cエポキシド)が存在することが好ましい。900℃還元では、C-O-C基を含むほとんどの酸素種が脱着する。
【0042】
図11から図16は、本発明の一実施例による過酸化水素生成用触媒の電気化学的酸素還元反応性能を説明するための図面である。
【0043】
図11は、HまたはHOを生成する酸素還元反応経路を示す。図11を参照すると、酸素還元反応速度論は2e-経路または4e-経路を介して進行することができ、選択性は酸素還元反応プロセス中にO-O結合を破壊する傾向によって決定される。
【0044】
図12は、0.1MのKOH内でNG(O)、Co-NG(O)及びCo-NG(R)に対して1600rpmでのORR性能(実線)及びリング電極におけるH感知電流密度を比較して示す。図12を参照すると、酸素飽和された0.1MのKOH電解質で、1600rpmで回転するリングディスク電極を用いて形成されたHの量を定量化することができる。リング電極を1.2Vに維持してディスク電極に形成されたHのみを酸化させ、リング電極における他の酸素還元反応電流を回避した。Co-NG(O)触媒は、周囲酸素種(例えば、C-O-Cエポキシド)によって誘導された電子不足コバルト中心を有し、2e-酸素還元反応を触媒することができ、H生成に対する優れた活性を示す。
【0045】
図13は、印加電位の関数として計算されたH選択度を示す。図13を参照すると、Co-N部位の電子構造は近くのC-O-Cエポキシドによって修飾され、O-O結合を切断することが困難であり、Hに対する高い選択性を保証する(約82%)。一方、主にCo-N部位からなるCo-NG(R)は水を大部分生成し、これはDFT結果とよく一致する(図1参照)。
【0046】
図14は、NG(O)、Co-NG(O)及びCo-NG(R)について0.7VでH電流を比較して示す。図14を参照すると、Co-NG(O)触媒は、Co-NG(R)またはNG(O)よりもはるかに高いH生成電流を伝達し、これはH生成に対する優れた活性および選択性を示す。
【0047】
また、図には示されていないが、窒素原子が結合していないCo金属中心から構成されるCo-G(O)は、Co量の増加とともに開始電位及び酸素還元反応動力学でのいかなる変化もほとんど示さない。これは、酸素還元反応性能がCo-N部分と関連していることを示す。
【0048】
図15は、0.1MのPBS(phosphate buffered saline)でNG(O)及びCo-NG(O)の酸素還元反応極性曲線を示し、図16は0.1MのHClOでNG(O)及びCo-NG(O)の酸素還元反応極性曲線を示す。図15及び図16を参照すると、Co-NG(O)は、酸性(0.1M HClO)、中性(0.1M リン酸塩)及び塩基性(0.1M KOH)電解質でかなりの量のH生成を示す。
【0049】
Co原子がなければ、NG(O)は酸性媒体において悪い活性を示す。しかしながら、電子不足コバルト金属中心はグラファイト炭素マトリックス上のO吸着部位として機能し、O分子の吸着を促進しながら酸素の4e-還元を効果的に防止する。さらに、Co-NG(O)は、H生成に対する活性がNG(O)、Fe-NG(O)またはNi-NG(O)より著しく高く、約0.8Vの開始電位を有する。これは、Co-NG(O)が広範囲のpHレベルでH生成に対して高い活性を有する一方で、HOへのHの電気化学的解離を効果的に防止することを示す。
【0050】
図17から図20は、本発明の一実施例による過酸化水素生成用触媒のH生成活性及び安定性を説明するための図面である。
【0051】
図17は、Co-NG(O)の反応電流密度を他の触媒と比較して示す。比較のために、H生成のための反応電流密度は、Koutecky-Levich方程式を用いて物質輸送限界を補正することによって導かれた。図17を参照すると、H生成に対するCo-NG(O)の計算された反応電流密度は、0.65Vで2.84mA/cmで最先端の電気触媒を超えるH生成活性を示す。
【0052】
図18及び図19は、Co-NG(O)の質量活性を他の触媒と比較して示す。図18は0.65Vで質量活性を示し、図19は0.75Vで質量活性を示す。図18を参照すると、Co-NG(O)は、277.3A/g(0.65V、2500rpm)の高い質量活性でHを生成する。図19を参照すると、若干の層を成して、やや還元された酸化グラフェン(F-mrGO)が最も高い質量活性を示すことが知られているが、Co-NG(O)はF-mrGOより4倍高いH生成活性を示す。
【0053】
さらに、実際の装置で生成されたHの量を評価するために、1mg/cmのローディングでCo-NG(O)触媒をカーボンペーパーに準備し、カスタマイズされた電気化学H型セルで試験した。また、アルカリ電解質でCo-NG(O)触媒の電気化学H生成を行った。Co-NG(O)は、418(±19)mmol/gcath(50mA)の非常に高いH生産性を示した。これは、Au-Pd触媒によって生成されたHの量よりも2倍以上大きい。
【0054】
図20は、Co-NG(O)の安定性を示す。図20を参照すると、初期電流密度の98.7%が110時間経過後に維持された。Co-NG(O)は、Hの長期生成のために全pHレベルで安定であり、特にアルカリ性条件下で110時間を超えても活性損失はほとんどない。Co-NG(O)の高い安定性は、活性の高いCo-N(O)部分がアルカリ性または酸性環境で非常に安定であることを示す。広いpH範囲での優れた安定性及び向上したH生成活性は、周囲原子配置によって修飾された電子不足コバルト金属中心によって達成することができる。また、広いpH範囲でHを生成するための不均一触媒活性の微調整により、高い反応電流密度(0.65Vで2.84mA/cm)及び質量活性(0.65Vで277.3A/g)を達成することができる。
【0055】
[Co-NG(O)の製造例]
酸化グラフェンをHCl溶液及びアセトンで洗浄して、酸化グラフェンの形成中に残存する金属不純物(例えば、マンガン)を除去する。洗浄した酸化グラフェンを40℃の電気オーブンで一晩乾燥する。乾燥した酸化グラフェン30mgを水30mlに分散させる。CoCl・6HOを水に3mg/mlで分散させ、この溶液202μlを酸化グラフェン溶液に添加する。混合溶液を1時間超音波処理し、次いで2日間凍結乾燥する。このようにして製造された金属が吸着されたグラフェン酸化物フォームをアルミナるつぼに入れ、チューブ炉の中央に配置する。アンモニア(50sccm)とアルゴン(150sccm)ガスを連続的に供給しながらチューブ炉を5℃/minの昇温速度で500℃まで加熱し、500℃で1時間保持した後、アルゴンの連続流(150sccm)下で自然冷却する。これにより、暗褐色のCo-NG(O)触媒が製造される。
【0056】
以上、本発明の具体的な実施例について考察した。本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明が本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲で変形した形態で具現できることを理解することができるであろう。したがって、開示された実施例は限定的な観点ではなく、説明的な観点で考慮されるべきである。本発明の範囲は前述した説明ではなく、特許請求の範囲に示されており、それと同等の範囲内にあるすべての差異点は本発明に含まれるものと解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の実施例による過酸化水素生成用触媒は優れた性能を有することができる。例えば、過酸化水素生成用触媒は、長時間優れた安定性で高い反応電流密度及び質量活性を有することができる。また、前記過酸化水素生成用触媒は簡単な方法で製造することができ、製造コストが安い。
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