(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】栽培支援システム、コントローラ及び制御方法
(51)【国際特許分類】
A01G 27/00 20060101AFI20230719BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
A01G27/00 504B
A01G7/00 603
(21)【出願番号】P 2019220312
(22)【出願日】2019-12-05
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】502150889
【氏名又は名称】有限会社グリーンサム
(74)【代理人】
【識別番号】110002055
【氏名又は名称】弁理士法人iRify国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武久 修
【審査官】竹中 靖典
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 27/00 - 27/06
A01G 7/00
A01G 25/00 - 25/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培対象の農産物の葉に与えられる熱エネルギー量を温度データとして少なくとも計測する計測機構と、
前記農産物が栽培される培地に対する灌水を水源から供給される水を用いて行う灌水機構と、
制御開始時刻から制御終了時刻までの間に複数回実行する灌水の頻度を少なくとも前記農産物の種類に応じて規定する栽培指針情報であって、温度が高いほど灌水の頻度が高く定められた栽培指針情報にしたがって前記灌水機構を制御する第1のコントローラと、を含み、
前記第1のコントローラは、
前記制御開始時刻以降に、農産物の育成について予め定められた適正温度帯内の温度を表す温度データが前記計測機構により計測された時点で前記複数回実行される灌水のうちの1回目の灌水を前記灌水機構に実行させる第1のステップと、
前記複数回実行される灌水のうちの2回目以降の灌水を実行する第2ステップと、を実行し、
前記第2ステップでは、前記第1のコントローラは、
前記適正温度帯に設定される複数の温度帯であって、前記適正温度帯の下限又は前記適正温度帯内に等間隔に設定される複数の温度の各々を下限とし、前記適正温度帯の上限を各々の上限とする複数の温度帯の各々について前回の灌水の終了から次の灌水の開始までの時間区間である灌水間隔を下限の温度及び前記栽培指針情報にしたがって温度帯毎に設定し、温度帯毎にタイマを割り当て、各温度帯の経過時間を前記計測機構により計測される温度データの表す温度を参照しつつタイマにより計測し、前記複数の温度帯の各々に対して設定された各灌水間隔に応じて定まる複数の灌水タイミングのうちで最も早く到来した灌水タイミングに応じて前記灌水機構に灌水を実行させるとともに、前記複数の温度帯の各々に割り当てたタイマをリセットする処理を、前記制御終了時刻まで繰り返す
ことを特徴とする栽培支援システム。
【請求項2】
前記灌水機構は、前記水源から供給される水に液肥を混入する液肥混入器を含む、請求項1に記載の栽培支援システム。
【請求項3】
単位体積の水に対して前記液肥混入器により混入する液肥の量を前記計測機構により計測される温度データの表す温度に応じて調整する第2のコントローラを有する、請求項2に記載の栽培支援システム。
【請求項4】
単位体積の水に対して前記液肥混入器により混入する液肥の量を灌水タイミングの属する時間帯に応じて調整する第2のコントローラを有する、請求項2に記載の栽培支援システム。
【請求項5】
前記培地は露天設置され、
雨センサを含み、
前記第1のコントローラは、
一回当たりの灌水量を前記雨センサによる計測結果に応じて調整する、請求項1から4のうちの何れか1項に記載の栽培支援システム。
【請求項6】
前記計測機構は、日射又は気温を介して栽培対象の農産物の葉に与えられる熱エネルギー量を温度データとして計測する気候センサを含む、請求項1から5のうちの何れか1項に記載の栽培支援システム。
【請求項7】
前記第1のコントローラは、
前記計測機構により計測された温度データの表す温度の積算値から前記農産物の生育段階を推定し、推定された生育段階に応じて灌水の頻度を調整する、請求項1から6のうちの何れか1項に記載の栽培支援システム。
【請求項8】
農産物が栽培される培地に対する灌水を水源から供給される水を用いて行う灌水機構を、制御開始時刻から制御終了時刻までの間に複数回実行する灌水の頻度を季節に応じて規定する少なくとも前記農産物の種類に応じて栽培指針情報であって、温度が高いほど灌水の頻度が高く定められた栽培指針情報にしたがって制御するコントローラであって、
前記制御開始時刻以降に、前記農産物の葉に与えられる熱エネルギー量を温度データとして少なくとも計測する計測機構により、農産物の育成について予め定められた適正温度帯内の温度を表す温度データが計測された時点で、前記複数回実行する灌水のうちの1回目の灌水を前記灌水機構に実行させる第1のステップと、
前記複数回実行される灌水のうちの2回目以降の灌水を実行する第2のステップと、を実行し、
前記第2ステップでは、
前記適正温度帯に設定される複数の温度帯であって、前記適正温度帯の下限又は前記適正温度帯内に等間隔に設定される複数の温度の各々を下限とし、前記適正温度帯の上限を各々の上限とする複数の温度帯の各々について前回の灌水の終了から次の灌水の開始までの時間区間である灌水間隔を下限の温度及び前記栽培指針情報にしたがって温度帯毎に設定し、温度帯毎にタイマを割り当て、各温度帯の経過時間を前記計測機構により計測される温度データの表す温度を参照しつつタイマにより計測し、前記複数の温度帯の各々に対して設定された各灌水間隔に応じて定まる複数の灌水タイミングのうちで最も早く到来した灌水タイミングに応じて前記灌水機構に灌水を実行させるとともに、前記複数の温度帯の各々に割り当てたタイマをリセットする処理を、前記制御終了時刻まで繰り返す
ことを特徴とするコントローラ。
【請求項9】
農産物が栽培される培地に対する灌水を水源から供給される水を用いて行う灌水機構を、制御開始時刻から制御終了時刻までの間に複数回実行する灌水の頻度を季節に応じて規定する少なくとも前記農産物の種類に応じて栽培指針情報であって、温度が高いほど灌水の頻度が高く定められた栽培指針情報にしたがって制御するための制御方法であって、
前記制御開始時刻以降に、前記農産物の葉に与えられる熱エネルギー量を温度データとして少なくとも計測する計測機構により、農産物の育成について予め定められた適正温度帯内の温度を表す温度データが計測された時点で、前記複数回実行する灌水のうちの1回目の灌水を前記灌水機構に実行させる第1のステップと、
前記複数回実行される灌水のうちの2回目以降の灌水を実行する第2のステップと、を含み、
前記第2ステップでは、
前記適正温度帯に設定される複数の温度帯であって、前記適正温度帯の下限又は前記適正温度帯内に等間隔に設定される複数の温度の各々を下限とし、前記適正温度帯の上限を各々の上限とする複数の温度帯の各々について前回の灌水の終了から次の灌水の開始までの時間区間である灌水間隔を下限の温度及び前記栽培指針情報にしたがって温度帯毎に設定し、温度帯毎にタイマを割り当て、各温度帯の経過時間を前記計測機構により計測される温度データの表す温度を参照しつつタイマにより計測し、前記複数の温度帯の各々に対して設定された各灌水間隔に応じて定まる複数の灌水タイミングのうちで最も早く到来した灌水タイミングに応じて前記灌水機構に灌水を実行させるとともに、前記複数の温度帯の各々に割り当てたタイマをリセットする処理を、前記制御終了時刻まで繰り返す
ことを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栽培支援システム、コントローラ及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜や果物、穀物などの農産物の生産者は、品質の高い生産物を大量に収穫できるようにするために、農業試験場や農業技術センタなどの研究機関から提供される栽培指針にしたがって農産物を栽培することが一般的である。栽培指針とは、品質の高い生産物を大量に収穫できるようにするための灌水や施肥のタイミング等の所謂「農産物を栽培する際の勘」を、栽培する品種、栽培する地域、及び栽培する時期毎に文書化したものである。また、農産物の栽培を支援するための技術が種々提案されており、その一例としては特許文献1に開示の技術が挙げられる。特許文献1には、植物の栽培に必要な養液の給液量を、時刻により又は時刻に係わりなく光合成に必要な光線量及び根の呼吸で消費する溶存酸素量などの消長に応じ調整し、栽培ベットに供給する、養液栽培植物の肥培管理技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、栽培指針にしたがって農産物の栽培を行っても、根腐れが起きたり、しおれが出たり、病気で枯れたりする等により、期待した収穫量を得られない場合や、高い品質の生産物を得られない場合があった。農産物を栽培する培地が露天設置される露地栽培の場合には、根腐れやしおれ、病気が発生する原因は日々変化する天候や気温に適応した灌水及び施肥ができていないことと考えられる。農産物の生産者は、栽培指針に定められている灌水や施肥のタイミング等を試行錯誤的にずらして行う等で対処しようとするが、かえって状況を悪化させる場合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、栽培対象の農産物の葉に与えられる熱エネルギー量を温度データとし、少なくともその温度データを加味して農産物の栽培支援を行うことを可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、栽培対象の農産物の葉に与えられる熱エネルギー量を温度データとして少なくとも計測する計測機構と、前記農産物が栽培される培地に対する灌水を水源から供給される水を用いて行う灌水機構と、制御開始時刻から制御終了時刻までの間に複数回実行する灌水の頻度を少なくとも前記農産物の種類に応じて規定する栽培指針情報であって、温度が高いほど灌水の頻度が高く定められた栽培指針情報にしたがって前記灌水機構を制御する第1のコントローラと、を含み、前記第1のコントローラは、前記制御開始時刻以降に、農産物の育成について予め定められた適正温度帯内の温度を表す温度データが前記計測機構により計測された時点で前記複数回実行される灌水のうちの1回目の灌水を前記灌水機構に実行させる第1のステップと、前記複数回実行される灌水のうちの2回目以降の灌水を実行する第2ステップと、を実行し、前記第2ステップでは、前記第1のコントローラは、前記適正温度帯に設定される複数の温度帯であって、前記適正温度帯の下限又は前記適正温度帯内に等間隔に設定される複数の温度の各々を下限とし、前記適正温度帯の上限を各々の上限とする複数の温度帯の各々について前回の灌水の終了から次の灌水の開始までの時間区間である灌水間隔を下限の温度及び前記栽培指針情報にしたがって温度帯毎に設定し、温度帯毎にタイマを割り当て、各温度帯の経過時間を前記計測機構により計測される温度データの表す温度を参照しつつタイマにより計測し、前記複数の温度帯の各々に対して設定された各灌水間隔に応じて定まる複数の灌水タイミングのうちで最も早く到来した灌水タイミングに応じて前記灌水機構に灌水を実行させるとともに、前記複数の温度帯の各々に割り当てたタイマをリセットする処理を、前記制御終了時刻まで繰り返すことを特徴とする栽培支援システムを提供する。例えば露地栽培であれば、培地の設置される地域における日の出の時刻を制御開始時刻とし、培地の設置される地域における日没の時刻を制御終了時刻とすることが考えられる。本発明によれば、栽培対象の農産物の葉に与えられる熱エネルギー量を温度データとし、当該農産物に対する灌水の頻度を当該温度データの表す温度に応じて調整することが可能になり、少なくとも温度を加味して農産物の栽培支援を行うことが可能になる。
【0007】
より好ましい態様においては、前記灌水機構は、前記水源から供給される水に液肥を混入する液肥混入器を含む、ことを特徴とする。本態様によれば、栽培対象の農産物に対する灌水の頻度を温度に応じて調整することが可能になるとともに、灌水と同時に農産物に対する施肥を行うことが可能になる。
【0008】
さらに好ましい態様においては、単位体積の水に対して前記液肥混入器により混入する液肥の量を前記計測機構により計測される温度データの表す温度に応じて調整する第2のコントローラを有する、ことを特徴とする。本態様によれば、栽培対象の農産物に対する灌水の頻度を温度に応じて調整することが可能になるとともに、単位体積の水に混入する液肥の量、すなわち肥料濃度を温度に応じて調整しつつ施肥を行うことが可能になる。
【0009】
別のさらに好ましい態様においては、単位体積の水に対して前記液肥混入器により混入する液肥の量を灌水タイミングの属する時間帯に応じて調整する第2のコントローラを有することを特徴とする。本態様によれば、栽培対象の農産物に対する灌水の頻度を温度に応じて調整することが可能になるとともに、灌水を行う時間帯に応じて肥料濃度を調整しつつ施肥を行うことが可能になる。
【0010】
より好ましい態様においては、前記培地は露天設置され、雨センサを含み、前記第1のコントローラは、一回当たりの灌水量を前記雨センサによる計測結果に応じて調整する、ことを特徴とする。本態様によれば、栽培対象の農産物に対する灌水の頻度を温度に応じて調整することが可能になるとともに、一回当たりの灌水量を雨センサの計測結果に応じて調整することが可能になる。具体的には、上記雨センサとして感雨センサを用い、一回当たりの灌水量を雨の有無に応じて調整すればよい。また、雨量を考慮する必要がある場合には上記雨センサとして雨量センサを用い、一回当たりの灌水量を雨量に応じて調整すればよい。
【0011】
より好ましい態様においては、前記計測機構は、日射又は気温を介して栽培対象の農産物の葉に与えられる熱エネルギー量を温度データとして計測する気候センサを含むことを特徴とする。本態様によれば、日射又は気温を介して栽培対象の農産物の葉に与えられる熱エネルギー量を加味して農産物の栽培支援を行うことが可能になる。
【0012】
別の好ましい態様においては、前記栽培対象の農産物の葉に対して熱又は光を介して熱エネルギーを供給する熱エネルギー供給機構を含み、前記計測機構は、前記熱エネルギー供給機構により供給される熱エネルギー量を温度に換算して温度データを計測することを特徴とする。熱エネルギー供給機構の具体例としては、農産物に人工光を照射する投光器、培地或いは農産物を温める暖房機器が挙げられる。本態様によれば、熱エネルギー供給機から栽培対象の農産物の葉に与えられる熱エネルギー量を加味して農産物の栽培支援を行うことが可能になる。
【0013】
より好ましい態様においては、前記第1のコントローラは、前記計測機構により計測された温度データの表す温度の積算値から前記農産物の生育段階を推定し、推定された生育段階に応じて灌水の頻度を調整する、ことを特徴とする。本態様によれば、栽培対象の農産物に対する灌水の頻度を温度及び当該農産物の生育段階に応じて調整することが可能になる。
【0014】
また、上記課題を解決するために本発明は、農産物が栽培される培地に対する灌水を水源から供給される水を用いて行う灌水機構を、制御開始時刻から制御終了時刻までの間に複数回実行する灌水の頻度を季節に応じて規定する少なくとも前記農産物の種類に応じて栽培指針情報であって、温度が高いほど灌水の頻度が高く定められた栽培指針情報にしたがって制御するコントローラであって、前記制御開始時刻以降に、前記農産物の葉に与えられる熱エネルギー量を温度データとして少なくとも計測する計測機構により、農産物の育成について予め定められた適正温度帯内の温度を表す温度データが計測された時点で、前記複数回実行する灌水のうちの1回目の灌水を前記灌水機構に実行させる第1のステップと、前記複数回実行される灌水のうちの2回目以降の灌水を実行する第2のステップと、を実行し、前記第2ステップでは、前記適正温度帯に設定される複数の温度帯であって、前記適正温度帯の下限又は前記適正温度帯内に等間隔に設定される複数の温度の各々を下限とし、前記適正温度帯の上限を各々の上限とする複数の温度帯の各々について前回の灌水の終了から次の灌水の開始までの時間区間である灌水間隔を下限の温度及び前記栽培指針情報にしたがって温度帯毎に設定し、温度帯毎にタイマを割り当て、各温度帯の経過時間を前記計測機構により計測される温度データの表す温度を参照しつつタイマにより計測し、前記複数の温度帯の各々に対して設定された各灌水間隔に応じて定まる複数の灌水タイミングのうちで最も早く到来した灌水タイミングに応じて前記灌水機構に灌水を実行させるとともに、前記複数の温度帯の各々に割り当てたタイマをリセットする処理を、前記制御終了時刻まで繰り返すことを特徴とするコントローラ、を提供する。本発明によっても、栽培対象の農産物に対する灌水の頻度を温度に応じて調整することが可能になる。
【0015】
また、上記課題を解決するために本発明は、農産物が栽培される培地に対する灌水を水源から供給される水を用いて行う灌水機構を、制御開始時刻から制御終了時刻までの間に複数回実行する灌水の頻度を季節に応じて規定する少なくとも前記農産物の種類に応じて栽培指針情報であって、温度が高いほど灌水の頻度が高く定められた栽培指針情報にしたがって制御するための制御方法であって、前記制御開始時刻以降に、前記農産物の葉に与えられる熱エネルギー量を温度データとして少なくとも計測する計測機構により、農産物の育成について予め定められた適正温度帯内の温度を表す温度データが計測された時点で、前記複数回実行する灌水のうちの1回目の灌水を前記灌水機構に実行させる第1のステップと、前記複数回実行される灌水のうちの2回目以降の灌水を実行する第2のステップと、を含み、前記第2ステップでは、前記適正温度帯に設定される複数の温度帯であって、前記適正温度帯の下限又は前記適正温度帯内に等間隔に設定される複数の温度の各々を下限とし、前記適正温度帯の上限を各々の上限とする複数の温度帯の各々について前回の灌水の終了から次の灌水の開始までの時間区間である灌水間隔を下限の温度及び前記栽培指針情報にしたがって温度帯毎に設定し、温度帯毎にタイマを割り当て、各温度帯の経過時間を前記計測機構により計測される温度データの表す温度を参照しつつタイマにより計測し、前記複数の温度帯の各々に対して設定された各灌水間隔に応じて定まる複数の灌水タイミングのうちで最も早く到来した灌水タイミングに応じて前記灌水機構に灌水を実行させるとともに、前記複数の温度帯の各々に割り当てたタイマをリセットする処理を、前記制御終了時刻まで繰り返すことを特徴とする制御方法、を提供する。本発明によっても、栽培対象の農産物に対する灌水の頻度を温度に応じて調整することが可能になる。
【0016】
本発明の別の態様としては、CPU(Central Processing Unit)などの一般的なコンピュータに上記第1のステップと上記第2のステップとを実行させるプログラム、すなわち上記コンピュータを本発明のコントローラとして機能させるプログラムを提供する態様が考えられる。本態様によっても、栽培対象の農産物に対する灌水を、温度を加味して行うことが可能になる。なお、上記プログラムの具体的な提供態様としては、CD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory)又はフラッシュROM(Read Only Memory)などのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に上記プログラムを書き込んで配布する態様、又はインターネットなどの電気通信回線経由のダウンロードにより上記プログラムを配布する態様が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態による栽培支援システム1Aの構成例を示す図である。
【
図2】栽培支援システム1Aに含まれる灌水制御コントローラ30が実行する制御方法の流れを示すフローチャートである。
【
図3】ハウス内の様々な場所に気候センサ10を設置した場合に気候センサ10により計測される温度変化の履歴の表示例を示す図である。
【
図4】一日のうちの灌水起動回数の履歴の表示例を示す図である。
【
図5】本発明の第2実施形態による栽培支援システム1Bの構成例を示す図である。
【
図6】本発明の第3実施形態による栽培支援システム1Cの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。
(A:第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態の栽培支援システム1Aの構成例を示すブロック図である。栽培支援システム1Aは、例えばトマトなどの農産物の養液栽培を支援するためのコンピュータシステムである。
図1に示すように、栽培支援システム1Aは、気候センサ10と、灌水機構20Aと、灌水制御コントローラ30と、を含む。気候センサ10及び灌水機構20Aは、各々信号線を介して灌水制御コントローラ30に接続されている。本実施形態では、気候センサ10及び灌水機構20Aは灌水制御コントローラ30に有線接続されているが、気候センサ10及び灌水機構20Aは例えば無線LAN(Local Area Network)を介して灌水制御コントローラ30に無線接続されてもよい。
【0019】
図1において符号CFは、養液栽培における培地を指す。培地CFは、農業用水を貯めたタンク等の水源WSから水路WCを介して供給される水であってもよく、またロックウールなど当該水を供給され固形培地であってもよい。培地CFはビニールハウス等の温室内に設置されてもよく、また露天設置されてもよい。本実施形態では、農産物の養液栽培への本発明への適用例を説明するが、培地CFとして土壌を用いる露地栽培の支援に本発明を適用しても勿論よい。
【0020】
気候センサ10は培地CFの近傍に設けられる。気候センサ10は、培地CFの周辺の温度を検出する温度センサを少なくとも含む。より具体的には、気候センサ10は、培地CFがハウス内に設置される場合又は露天設置される場合には直射日光の影響を受ける位置に設置される必要があり、培地CFが遮光環境に設置される場合には遮光下の日射量の影響を受ける位置に設置される必要がある。栽培対象の農産物の葉が気温又は日射を介して受ける熱エネルギー量を温度データとして計測するためである。気候センサ10には、温度センサの他に、湿度を計測する湿度センサ、日射エネルギーを計測する日射センサ等が含まれてもよい。気候センサ10は、栽培対象の農産物の葉に与えられる熱エネルギー量を温度データとして少なくとも計測する計測機構の一例である。気候センサ10は、計測した温度を示す温度データを灌水制御コントローラ30に出力する。
【0021】
灌水機構20Aは、水源WSから培地CFに至る水路WCに設けられる。灌水機構20Aは、灌水制御コントローラ30による制御の下、水路WCを介して供給される水を用いて培地CFに対して灌水を行う。
図1に示すように、灌水機構20Aは、液肥混入器210Aと、弁220と、を含む。液肥混入器210Aは、水路WCを介して供給される水に液肥を混入する。弁220は、灌水制御コントローラ30によって開閉が切り替えられる。弁220が閉状態から開状態に切り替えられると、液肥混入器210Aにより液肥を混入済みの水が培地CFに供給される。
【0022】
図1では詳細な図示を省略したが、液肥混入器210Aは、水路WCを介して水源WSから水を引き込むポンプを含む。当該ポンプが水源WSから引き込む単位時間(例えば、1分)当たりの水量は予め定められている。栽培支援システム1Aのユーザは、単位体積(例えば、単位時間内にポンプが引き込む水量)の水に混入させる液肥の量(換言すれば、培地CFに供給する水における肥料濃度)を液肥混入器210Aに対して設定することができる。なお、栽培支援システム1Aのユーザとは、栽培支援システム1Aによる支援を受けつつ、培地CFで農産物を栽培する生産者のことをいう。
【0023】
詳細については後述するが本実施形態では、日の出から日没までの間に複数回の灌水が行われる。複数回の灌水の各々は以下の要領で行われる。液肥混入器210Aは、弁220が閉状態から開状態に切り替えられるのに同期させて上記ポンプを作動させ、単位時間当たりに引き込まれる水に上記ユーザにより設定された量の液肥を混入させて放出する。これにより、1回分の灌水が開始される。そして、液肥混入器210Aは、弁220が開状態から閉状態に切り替えられるのに同期させて上記ポンプを停止させる。これにより、1回分の灌水が終了する。以下では、1回の灌水の開始時刻から終了時刻までの時間を「灌水時間」と呼ぶ。本実施形態において、灌水機構20Aから培地CFに供給される単位時間当たりの水の量は一定であるから、1回の灌水により培地CFに供給される水の量は灌水時間の長さに応じて定まる。栽培支援システム1Aのユーザは、後述する灌水制御コントローラ30に対して灌水時間を設定することができる。また、以下では、灌水の終了時刻から次の灌水の開始時刻までの時間区間を「灌水間隔」と呼ぶ。
【0024】
灌水制御コントローラ30は、例えばパーソナルコンピュータ等のコンピュータ装置であり、灌水機構20Aを制御する第1のコントローラの一例である。
図1では詳細な図示を省略したが、灌水制御コントローラ30は、CPUと、RAM(Random Access Memory)などの揮発性メモリと、ハードディスクなどの不揮発性メモリと、液晶ディスプレイ及びキーボードなどを含むユーザインタフェース部と、NIC(Network Interface Card)などの通信インタフェース部と、を含む。灌水制御コントローラ30の通信インタフェース部は、ルータ等の中継装置を介して電気通信回線NWに接続されている。灌水制御コントローラ30は、電気通信回線NWに接続されている各種サーバ装置と電気通信回線NWを介してデータ通信を行う。なお、本実施形態では、灌水制御コントローラ30がパーソナルコンピュータである場合について説明するが、灌水制御コントローラ30はPLC(Programmable Logic Controller)であってもよい。灌水制御コントローラ30としてPLCを用いる場合、データの保存先としてローカルではSDカードを用い、クラウドではクラウド上のデータベースサーバを用いるようにすればよく、保存したデータの確認にはパーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートホン等を用いるようにすればよい。
【0025】
電気通信回線NWに接続されている各種サーバ装置の具体例としては、培地CFが設けられている地域を管轄とする気象台等より運用管理され、当該地域における日の出の時刻及び日没の時刻を示す情報を配信する第1のサーバ装置と、上記地域を管轄とする農業試験センタ等により運用管理され、栽培指針を表す栽培指針情報を配信する第2のサーバ装置とが挙げられる。栽培指針情報では、栽培対象の農産物の種類及び培地の設けられる地域に応じて日の出から日没までの間に実行するべき灌水の回数が季節に応じて規定されている。植物の生育制御理論では、植物の生育速度は気温又は日射を介して葉に与えられる熱エネルギー量(換言すれば、温度)により大きく変わると言われており、栽培指針はこの生育制御理論に基づいて定められていることが一般的である。育成速度が速いほど高い頻度で灌水を行うことが好ましい。このため、栽培指針情報では、温度が高いほど灌水回数が多く定められている。
【0026】
灌水制御コントローラ30は、電気通信回線NWを介してデータ通信により、培地CFが設けられている地域における日の出の時刻及び日没の時刻を示す時刻情報を第1のサーバ装置から取得する。また、灌水制御コントローラ30は、電気通信回線NWを介してデータ通信により、栽培対象の農産物及び培地CFが設けられている地域に対応する栽培指針情報を取得する。
【0027】
灌水制御コントローラ30の不揮発性メモリには、本発明の特徴を顕著に示す制御方法を実現する制御プログラムが予めインストールされている。灌水制御コントローラ30の揮発性メモリは、制御プログラムを実行する際のワークエリアとして利用される。灌水制御コントローラ30のCPUは、ユーザインタフェース部を介して制御プログラムの実行指示を与えられると、制御プログラムを不揮発性メモリから揮発性メモリに読み出し、その実行を開始する。制御プログラムにしたがって作動している灌水制御コントローラ30のCPUは、栽培対象の農産物の品種及び培地CFの設けられている地域の設定をユーザに促し、これらの設定が為されると該当する栽培指針情報を第2のサーバ装置から取得する。以降、灌水制御コントローラ30のCPUは、日毎に、日の出のよりも充分に前の時刻であると推測される所定の時刻(例えば、午前0時など)に時刻情報を第1のサーバ装置から日毎に取得し、上記制御方法を実行する。
【0028】
図2は、上記制御方法の流れを示すフローチャートである。
図2に示すように、この制御方法は、第1のステップSA100と、第2のステップSA110と、を含む。第1のステップSA100及び第2のステップSA110の各々の処理内容は次の通りである。
【0029】
第1のステップSA100は、日の出の時刻に実行される処理である。この第1のステップSA100では、灌水制御コントローラ30のCPUは、気候センサ10により計測された温度データの表す温度が農産物の育成について予め定められた適正温度帯内の温度であるか否かを判定する。上記適正温度帯は栽培対象の農産物の種類に応じて異なり得るが、例えば10℃~30°Cの温度帯である。温帯の植物の生育適正温度は10°C~30°Cの範囲内で最適値は25°Cであると言われており、これは経験とも概ね一致する。このため、本実施形態では、栽培対象の農産物の育成についての適正温度帯は10℃~30°Cの温度帯と定められている。
【0030】
上記判定結果が“Yes”である場合には、灌水制御コントローラ30のCPUは、前述した灌水時間に亙って弁220を開状態にし、1回目の灌水を灌水機構20Aに実行させる。これに対して、判定結果が“No”である場合には、灌水制御コントローラ30のCPUは、所定時間の待機を行った後に再度上記判定を実行する。日の出の時刻において上記判定結果が“Yes”である場合には、日の出の時刻に1回目の灌水が実行される。これに対して、日の出の時刻において上記判定結果が“No”である場合には、1回目の灌水は日の出の時刻には実行されず、温度が上記適正温度帯まで上昇するのを待って実行される。
【0031】
第2のステップSA110は、日の出から日没までの間に複数回実行される灌水のうちの2回目以降の灌水を実行するステップである。第2のステップSA110では、灌水制御コントローラ30のCPUは、まず、適正温度帯に複数の温度帯を設定する。より詳細に説明すると、灌水制御コントローラ30のCPUは、適正温度帯の下限又は適正温度帯内に等間隔に設定される複数の温度の各々を下限とし、適正温度帯の上限を各々の上限とする複数の温度帯を設定する。例えば、適正温度帯が10°C~30°Cの温度帯であり、当該適正温度帯内に等間隔に設定される複数の温度の間隔が5°Cである場合、すなわち、正温度帯内に等間隔に設定される複数の温度が、15°C、20°C、及び25°Cである場合、灌水制御コントローラ30のCPUは、以下の4つの温度帯を設定する。すなわち、第1の温度帯は10°Cから30°Cの温度帯である。第2の温度帯は15°Cから30°Cの温度帯である。第3の温度帯は20°Cから30°Cの温度帯である。そして、第4の温度帯は25°Cから30°Cの温度帯である。次いで、灌水制御コントローラ30のCPUは、複数の温度帯の各々について前回の灌水の終了から次の灌水の開始までの時間区間である灌水間隔、すなわち次の灌水タイミングまでの灌水間隔を下限の温度及び栽培指針情報にしたがって温度帯毎に設定する。より詳細には、灌水制御コントローラ30のCPUは、日の出から日没までの時間間隔を、上記下限の温度に応じて栽培指針情報に規定されている灌水の頻度に応じて分割して各温度帯の灌水間隔を設定する。本実施形態では、上記第1~第4の温度帯の各々について夫々別個の灌水間隔が設定される。前述したように、栽培指針情報では温度が高いほど灌水の頻度が高く定められているので、下限の温度が高い温度帯ほど灌水間隔が短く設定される。
【0032】
灌水制御コントローラ30のCPUは、複数の温度帯の各々の経過時間を気候センサ10により計測される温度データの表す温度を参照しつつタイマにより計測する。具体的には、灌水制御コントローラ30のCPUは、気候センサ10により計測される温度データの表す温度を含む温度帯に対応するタイマに計時を行わせる。例えば、気候センサ10により計測される温度データの表す温度が18°Cであれば、第1の温度帯に割り当てたタイマと第2の温度帯に割り当てたタイマとに計時を開始させる。そして、灌水制御コントローラ30のCPUは、複数の温度帯の各々に対して設定された各灌水間隔に応じて定まる複数の灌水タイミングのうちで最も早く到来した灌水タイミングに応じて灌水機構20Aに灌水を実行させるとともに、タイマをリセットする処理を、日没まで繰り返す。このため、本実施形態においては、気候センサ10により計測される温度が高いほど灌水間隔は短くなり、多頻度で灌水が行われる。
【0033】
例えば、温度が次第に上昇する午前の間は灌水が実行される毎に灌水間隔が次第に短くなって灌水の頻度が高くなる一方、温度が次第に下降する午後の間は灌水間隔が次第に長くなって灌水の頻度が低くなる。つまり、本実施形態の栽培支援システム1Aは、植物の生育制御理論にしたがって自律的に灌水を実行するAIとして機能し、栽培対象の農産物に対する灌水の頻度を温度に応じて調整することが可能になる。このように、本実施形態によれば、気候の変化に的確に対応した灌水を行うことができ、人為的な失敗を削減することができる。その結果、本実施形態によれば、根腐れ又はしおれの発生を回避し、収穫量の減少を防ぐことが可能になる。
【0034】
栽培支援システム1Aのユーザは、栽培支援システム1Aの動作を監督し、潅水時間(換言すれば、1回の潅水量)を微調整することで地域、ハウス毎の栽培条件を調整することができる。なお、栽培支援システム1Aの灌水機構20Aには液肥混入器210Aが含まれていたが、液肥混入器210Aを省略してもよい。また、ハウス内の様々な場所に気候センサ10を設置した場合に気候センサ10により計測される温度変化の履歴と一日のうちの灌水起動回数の履歴とを記録し、ユーザの指示に応じて、
図3又は
図4のようにグラフ化して灌水制御コントローラ30のユーザインタフェース部に表示させるようにしてもよい。
図3は、ハウス内の様々な場所に気候センサ10を設置した場合に、気候センサ10により計測される温度変化の履歴の表示例を示す図であり、
図3における各グラフ曲線は気候センサ10の設置場所の相違に対応する。
【0035】
本実施形態では、培地CFの設けられている地域における日の出の時刻を灌水制御コントローラ30による制御開始時刻とし、日没の時刻を制御終了時刻とした。しかし、日の出よりも前の時刻を制御開始時刻としてもよく、また、日没より後の時刻を制御終了時刻としてもよい。要は、制御開始時刻は前日の制御終了時刻よりも後の時刻、かつ当日の制御終了時刻よりも前の時刻であればよく、制御終了時刻は翌日の制御開始時刻よりも前の時刻であればよい。一日のうちの制御開始時刻から制御終了時刻までの間に日射のない夜間の時間帯が含まれていてもよい。一日のうちの制御開始時刻から制御終了時刻までの間に夜間の時間帯を含めておけば、光合成できるエネルギー量を与えられている間だけでは無く、暗反応時に潅水が必要な時にも、時間帯と温度と温度帯の経過時間により植物の成長に応じたアルゴリズムをプログラムすることが可能になる。
【0036】
(B:第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態の栽培支援システム1Bの構成例を示すブロック図である。
図5では、
図1におけるものと同じ構成要素には同一の符号が付されている。
図5と
図1とを比較すれば明らかように、栽培支援システム1Bと栽培支援システム1Aの相違点は以下の2つである。第1に、灌水機構20Aに代えて灌水機構20Bを設けた点である。そして、第2に、施肥制御コントローラ40を設けた点である。また、本実施形態では、栽培指針情報にて、農産物の種類及び培地CFの設けられる地域に応じて、日の出から日没までの間に実行するべき灌水の頻度が季節に応じて規定されており、かつ肥料濃度の最適値が規定されている点が第1実施形態と異なる。
【0037】
灌水機構20Bは、液肥混入器210Aに代えて液肥混入器210Bを有する点において灌水機構20Aと異なる。液肥混入器210Bは、水源WSから供給される単位体積当たりの水に対して混入する液肥の量を施肥制御コントローラ40からの指示に応じて変動させる点において液肥混入器210Aと異なる。
【0038】
施肥制御コントローラ40は、灌水制御コントローラ30と同様にパーソナルコンピュータである。
図5に示すように、施肥制御コントローラ40は、液肥混入器210Bに接続されているとともに、灌水制御コントローラ30に接続されている。灌水制御コントローラ30は栽培支援システム1Bに含まれる第1のコントローラの一例であり、施肥制御コントローラ40は栽培支援システム1Bに含まれる第2のコントローラの一例である。施肥制御コントローラ40には、灌水制御コントローラ30を介して温度データが与えられる。
【0039】
施肥制御コントローラ40は、水源WSから供給される単位体積当たりの水に対して混入する液肥の量を、気候センサ10により計測される温度データの表す温度に応じて液肥混入器210Bに指示する。具体的には、施肥制御コントローラ40は、栽培指針情報にて定められた肥料濃度の最適値を基準とし、気候センサ10により計測される温度データの表す温度が低い時には肥料濃度を上げ、同温度が高い時には肥料濃度を下げる。なお、温度に応じた肥料濃度の上げ幅及び下げ幅の好適値が栽培指針情報に規定されている場合には、施肥制御コントローラ40には、栽培指針情報と気候センサ10により計測される温度とに応じて肥料濃度を増減させるようにすればよい。
【0040】
本実施形態によれば、栽培対象の農産物に対する灌水の頻度を温度に応じて調整することが可能になることに加えて、栽培対象の農産物に対する施肥を温度に応じて調整することが可能になる。なお、本実施形態における制御開始時刻も日の出の時刻であってもよく、また日の出よりも前の時刻であってもよい。同様に、制御終了時刻も日没の時刻であってもよく、また日没よりも前の時刻であってもよい。一日のうちの制御開始時刻から制御終了時刻までの間に日射のない夜間の時間帯を含めておけば、光合成できるエネルギー量を与えられている間だけでは無く、暗反応時に潅水及び施肥が必要な時にも、時間帯と温度と温度帯の経過時間により植物の成長に応じたアルゴリズムをプログラムすることが可能になる。本実施形態では、気候センサ10により計測される温度に応じて肥料濃度を調整したが、灌水が行われる時間帯に応じて肥料濃度を調整してもよい。具体的には、午前中に実行される灌水の際には肥料濃度を低くし、午後に実行される灌水の際には肥料濃度を高くし、夜間に実行される灌水の際にはさらに肥料濃度を高くすることが考えられる。このようにすることで、裂果、軟化玉の発生を軽減することができた。また、本実施形態では、灌水制御コントローラ30と施肥制御コントローラ40とが各々別個の装置であったが、1つのコントローラに灌水制御コントローラ30の役割と施肥制御コントローラ40の役割とを担わせてもよい。
【0041】
(C:第3実施形態)
上記第1実施形態では、栽培対象の農産物に対して自然光により熱エネルギーが与えられた。これに対して、本実施形態では、自然光から隔離された屋内に培地CFが設置され、農産物を育成するための熱エネルギーが人工光により供給される点が第1実施形態と異なる。
【0042】
図6は、本実施形態の栽培支援システム1Cの構成例を示すブロック図である。
図6では、
図1におけるものと同じ構成要素には同一の符号が付されている。
図6と
図1とを比較すれば明らかように、栽培支援システム1Cと栽培支援システム1Aの相違点は、栽培対象の農産物に対して人工光により熱エネルギーを供給する熱エネルギー供給機構50を含む点である。熱エネルギー供給機構50は人工光を農産物に照射する投光器である。栽培支援システム1Cでは、熱エネルギー供給機構50により供給される熱エネルギーが気候センサ10により温度データとして計測される。本実施形態では、農産物を育成するための熱エネルギーが人工光により供給されるため、制御開始時刻は日の出の時刻とは無関係に定められ、制御終了時刻も日没の時刻と無関係に定められる。制御開始時刻は前日の制御終了時刻よりも後の時刻、かつ当日の制御終了時刻よりも前の時刻であればよく、制御終了時刻は翌日の制御開始時刻よりも前の時刻であればよい。
【0043】
栽培指針情報については、人工光での栽培指針を示す栽培指針情報を入手可能であれば、当該人工光での栽培指針を示す栽培指針情報を灌水制御コントローラ30に取得させればよい。人工光での栽培指針がない場合、或いは当該栽培指針を示す栽培指針情報を入手できない場合には、自然光での栽培指針を示す栽培指針情報の示す灌水頻度等に応じて灌水間隔或いは一回当たりの灌水量等のパラメータの初期値を設定し、農産物の育成状況に応じて各種パラメータをユーザが適宜調整することで、最適なパラメータを見つけ出すようにすればよい。パラメータの設定値と栽培成績のデータを蓄積することで、AIによる栽培支援が有効に機能するようになる。
【0044】
本実施形態によれば、栽培対象の農産物に対して人工光により供給される熱エネルギーに的確に対応した灌水を行うことが可能になり、ユーザの試行錯誤に起因する失敗等の人為的な失敗を削減することができる。その結果、人工光を用いた農産物の栽培において、根腐れ又はしおれの発生を回避し、収穫量の減少を防ぐことが可能になる。なお、本実施形態における熱エネルギー供給機構50は投光器であったが、暖房機器を含んでいてもよい。熱エネルギー供給機構50に暖房機器が含まれる場合には、当該暖房機器により供給される熱量を暖房機器の燃料消費量或いは消費電力から算出する機器と気候センサ10とにより計測機構を構成してもよい。また、本実施形態では、栽培支援システム1Aに熱エネルギー供給機構50を組み合わせて栽培支援システム1Cを構成したが、第2実施形態の栽培支援システム1Bに熱エネルギー供給機構50を組み合わせても勿論よい。
【0045】
(D:変形)
以上本発明の各実施形態について説明したが、これら実施形態に以下の変形を加えても勿論よい。
(1)上記各実施形態における灌水制御コントローラ30は、気候センサ10等の計測機構により計測される温度データの表す温度に応じて灌水間隔を調整したが、農産物の生育段階(育成期であるか、栽培期であるか)に応じて、灌水間隔又は灌水時間の少なくとも一方を調整してもよい。育苗期の植物は葉数が少なく、多頻度の灌水は必要ないため、育苗期における水のやりすぎは根腐れに直結するからである。具体的には、農産物の葉数の初期値(例えば、栽培開始時の葉数)を灌水制御コントローラ30に対してユーザに入力させ、以降、灌水制御コントローラ30は、日毎に、計測機構により計測される温度データの表す温度についての栽培開始からの積算値を算出し、当該積算値に応じた葉数を算出する。そして、灌水制御コントローラ30は、算出された葉数に応じて灌水間隔又は灌水時間の少なくとも一方を調整する。例えば育苗期には灌水間隔が広くなるように調整する。また、灌水間隔を温度に応じて調整し、灌水時間を葉数に応じて調整してもよい。なお、ユーザが摘葉を行った場合は、葉数を摘葉後の値に手動でユーザに修正させ、以降、灌水制御コントローラ30には、栽培対象の農産物の葉数を、摘心の行われた時点の葉数に固定させるようにすればよい。
【0046】
(2)培地CFが露天設置されている場合には、晴天の場合の灌水時間と雨天の場合の灌水時間とをユーザに別箇に設定させてもよい。特に露地栽培の場合には、植物が根を張る培地量が多く、多頻度の灌水は必要ないため、晴天時と雨天時とで同様に灌水を行うと根腐れに直結するからである。また、この場合、雨量を計測する雨量センサを雨センサとして灌水制御コントローラ30に接続し、雨センサによる計測結果(すなわち、計測された雨量)に応じて1回当たりの灌水時間、換言すれば一回当たりの灌水量を灌水制御コントローラ30に調整させるようにしてもよい。また、培地CFがハウス内に設置される場合も、雨の有無を計測する感雨センサを雨センサとして灌水制御コントローラ30に接続し、雨センサにより計測された雨の有無に応じて、1回当たりの灌水時間を灌水制御コントローラ30に調整させてもよい。
【0047】
(3)灌水制御コントローラ30、又は灌水制御コントローラ30の機能と施肥制御コントローラ40の機能とを兼ね備えたコントローラを単体で製造し、販売してもよい。また、CPUなどの一般的なコンピュータを、灌水制御コントローラ30として機能させるプログラム、又は灌水制御コントローラ30及び施肥制御コントローラ40として機能させるプログラムを単体で製造し、販売してもよい。
【0048】
(4)上記各実施形態では、少なくとも栽培対象の農産物の種類から栽培指針に応じて定まる灌水間隔を一日のうちの温度変化に応じて調整しつつ灌水を行った。しかし、栽培指針の基となる生育制御理論を微調整したい場合には、午前、午後、夜という時間帯毎に潅水回数を増減できるように制御プログラムを作成しておいてもよい。また、栽培環境、栽培状況、収穫量などのデータを正確に入力及び蓄積できるように本発明の栽培支援システムを構築し、多数の栽培支援システムの各々をランダムな数値で駆動させて各システムのデータを収集して機械学習等を行うことにより、新たな生育制御理論に基づくAIを作成してもよい。植物の育成には時間がかかるため、1つのシステムでは多くのデータを収集するまでに多大な時間を要するが、複数のシステムを並列に可動させることで、失敗データも含めより多くの有益なデータを短期間に収集し蓄積することが可能になる。
【符号の説明】
【0049】
1A、1B…栽培支援システム、10…気候センサ、20A、20B…灌水機構、210A、210B…液肥混入器、220…弁、30…灌水制御コントローラ、40…施肥制御コントローラ、50…熱エネルギー供給機構。