(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 9/30 20060101AFI20230719BHJP
【FI】
H01Q9/30
(21)【出願番号】P 2020182000
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000227205
【氏名又は名称】NECプラットフォームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】三浦 健
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-046681(JP,A)
【文献】特開2019-047183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00- 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノポールアンテナと,電子回路を備える基板と,前記基板の一面に設けられたGND導電パターンとを備え,
前記GND導電パターンの周縁部にスプリットリング共振部形状を有
し,
前記スプリットリング共振部形状の開口から前記GND導電パターンの周縁を経由してアンテナの端部までの長さが通信周波数の半波長であり,
前記GND導電パターンは,少なくとも平行な2辺を有する形状であり,
前記GND導電パターンの前記2辺に対になるように,それぞれ前記スプリットリング共振部形状を有する
アンテナ装置。
【請求項2】
モノポールアンテナと,電子回路を備える基板と,前記基板の一面に設けられたGND導電パターンとを備え,
前記GND導電パターンの周縁部にスプリットリング共振部形状を有し,
前記スプリットリング共振部形状の開口から前記GND導電パターンの周縁を経由してアンテナの端部までの長さが通信周波数の半波長であり,
前記GND導電パターンは,少なくとも直交する2辺を有する形状であり,
前記直交する2つの辺にそれぞれ
前記スプリットリング共振部形状を有す
る
アンテナ装置。
【請求項3】
前記直交する2辺のうちの1辺は
前記スプリットリング共振部形状の開口から
前記GND導電パターンの周縁を経由してアンテナの端部までの長さは通信周波数の半波長であり、
もう1辺の
前記スプリットリング共振部形状の開口から
前記GND導電パターンの周縁を経由してアンテナの端部までの長さは通信周波数の半波長より短い
請求項
2に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
逆L,逆Fアンテナ,T字型アンテナのような基板GND上にモノポールアンテナを実装するアンテナがある。これらのアンテナの利点は,ダイポールアンテナと比べて小型化できることである。例えば特許文献1には,逆L型のモノポールアンテナが記載されている。
【0003】
しかし,これらのアンテナは,基板GNDの大きさにより指向性が変わるため,特定方向に指向性を持たせたることが難しかった。
【0004】
以下,モノポールアンテナの指向性変化について,ダイポールアンテナと比較して説明する。
【0005】
図11及び
図12は,装置基板上にダイポールアンテナを実装したモデルの一例を示す斜視図である。
図12に示すアンテナは
図11に示すアンテナよりZ方向のGND長が長い。
【0006】
図13は,
図11のアンテナのXY面における垂直偏波の放射パターンを示す図である。また,
図14は,
図12のアンテナのXY面における垂直偏波の放射パターンを示す図である。
【0007】
図13の放射パターンと
図14の放射パターンの差はほとんどない。これは,ダイポールアンテナの場合,
図15及び
図16に示すように,アンテナ電流11はアンテナ部12に支配的に流れ,基板GND13にはほとんど流れないためである。
図15は,
図11のアンテナ装置におけるアンテナ電流を示す図である。また,
図16は,
図12のアンテナ装置におけるアンテナ電流を示す図である。
【0008】
次に,モノポールアンテナの放射パターン及びアンテナ電流について説明する。
図17及び
図18は,装置基板上にモノポールアンテナを実装したモデルの一例を示す斜視図である。
図17及び
図18では,モノポールアンテナの一つであるT字型アンテナ21を装置基板22上に実装している。
図18に示すアンテナは
図17に示すアンテナよりZ方向のGND長が長い。
【0009】
図19は,
図17のアンテナのXY面における垂直偏波の放射パターンを示す図である。また,
図20は,
図18のアンテナのXY面における垂直偏波の放射パターンを示す図である。
【0010】
図13及び
図14のダイポールアンテナの放射パターンとは異なり,
図20の放射パターンは
図19の放射パターンより小さくなっている。
【0011】
モノポールアンテナの場合,基板GND23にアンテナ電流24が流れることにより,放射パターンが変化している。
図21は,
図17のアンテナ装置におけるアンテナ電流を示す図である。また,
図22は,
図18のアンテナ装置におけるアンテナ電流を示す図である。
【0012】
図21に示すように,使用周波数に対してアンテナと基板GNDを含めた長さがλ/2となっている場合は,アンテナ電流24が一方向に流れる。したがって,XY面の放射パターンは,
図19に示すように,ダイポールアンテナとほぼ同じ放射パターンが得られる。
【0013】
しかし,
図18に示すように基板GNDの長さがλ/2から変化すると,
図22に示すように基板GND23に逆相のアンテナ電流25が発生する。この結果,
図16のアンテナのXY面の放射パターンは,
図20に示すようにXY面の垂直偏波が小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように,モノポールアンテナでは,基板の長さによりアンテナの指向性が変化してしまうという問題があった。また,装置設計上基板の長さをアンテナに合わせることは困難である。
【0016】
仮に,基板の長さを合わせることができたとしても,
図23のようにケーブル等を引き出すと,ケーブルの長さによっては
図24に示すように逆相のアンテナ電流が発生してしまう。
図23のアンテナ装置のXY面における垂直偏波の放射パターンを
図25に示す。
図25に示すように,
図18と同様にXY面の放射パターンが小さくなっている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
位置実施形態のアンテナ装置は,モノポールアンテナと,電子回路を備える基板と,前記基板の一面に設けられたGND導電パターンとを備え,前記GND導電パターンの周縁部にスプリットリング共振部形状を有するようにした。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアンテナ装置によれば,基板上にモノポールアンテナを実装する場合でも,スプリットリング共振部を,基板サイズ,ケーブル等の導体等を気にすることなく,希望のアンテナ指向性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態1にかかるアンテナ装置の一例を示す斜視図である。
【
図2】実施の形態1にかかるアンテナ装置のスプリットリング部の形状を示す図である。
【
図3】実施の形態1にかかるアンテナ装置におけるアンテナ電流を示す図である。
【
図4】実施の形態1にかかるアンテナ装置の放射パターンを示す図である。
【
図6】アンテナ装置におけるアンテナ電流を示す図である。
【
図7】アンテナ装置の放射パターンを示す図である。
【
図8】実施の形態2にかかるアンテナ装置の一例を示す斜視図である。
【
図9】実施の形態2にかかるアンテナ装置におけるアンテナ電流を示す図である。
【
図10】実施の形態2にかかるアンテナ装置の放射パターンを示す図である。
【
図11】装置基板上にダイポールアンテナを実装したモデルの一例を示す斜視図である。
【
図12】装置基板上にダイポールアンテナを実装したモデルの一例を示す斜視図である。
【
図13】
図11のアンテナのXY面における垂直偏波の放射パターンを示す図である。
【
図14】
図12のアンテナのXY面における垂直偏波の放射パターンを示す図である。
【
図15】
図11のアンテナ装置におけるアンテナ電流を示す図である。
【
図16】
図12のアンテナ装置におけるアンテナ電流を示す図である。
【
図17】装置基板上にモノポールアンテナを実装したモデルの一例を示す斜視図である。
【
図18】装置基板上にモノポールアンテナを実装したモデルの一例を示す斜視図である。
【
図19】
図17のアンテナのXY面における垂直偏波の放射パターンを示す図である
【
図20】
図18のアンテナのXY面における垂直偏波の放射パターンを示す図である。
【
図21】
図17のアンテナ装置におけるアンテナ電流を示す図である。
【
図22】
図18のアンテナ装置におけるアンテナ電流を示す図である。
【
図23】ケーブル等を引き出すアンテナの一例を示す斜視図である。
【
図24】
図23のアンテナ装置におけるアンテナ電流を示す図である。
【
図25】
図23のアンテナ装置のXY面における垂直偏波の放射パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施の形態1)
以下,図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は,実施の形態1にかかるアンテナ装置の一例を示す斜視図である。
図1において,アンテナ装置100は,アンテナ部101と,基板102と,GND導電パターン103とを備える。
【0021】
アンテナ部101は,給電点から棒状の導電体を延伸したモノポールアンテナである。アンテナ部101は,1つの給電点104に接続し,モノポールアンテナとして機能する。アンテナ部101は,分岐や折曲等があってもよい。
図1では,アンテナ部101は2つの直線形状が交差するT字形状である。
【0022】
基板102は,一面にGND導電パターン103を有する基板である。基板102は例えばプリント基板であってもよい。また,基板102は,電子回路を有していてもよい。例えば,基板102は,アンテナ部101と接続し,アンテナ部101が受信した無線信号を処理する回路を有する基板であってもよい。また,基板102は,アンテナ部101から送信する無線信号を処理する回路を有する基板であってもよい。基板102は,アンテナ101の端部から開口までが通信周波数の半波長以上の長さとなる大きさであることが望ましい。
【0023】
GND導電パターン103は,例えば基板102の一面に形成された方形の金属層であり,基準電位の層である。また,GND導電パターン103は,積層基板のいずれかの層に形成されてもよい。
【0024】
GND導電パターン103は,第1スプリットリング部131と,第2スプリットリング部132とを有する。第1スプリットリング部131及び第2スプリットリング部132の開口からGND導電パターン103の周縁を経由してアンテナ部101の端部111までの長さが通信周波数の半波長である。すなわち
図22でアンテナ電流が反転した位置,アンテナ部101を含めておよそλ/2の位置に第1スプリットリング部131及び第2スプリットリング部132の開口を配置する。
図1の例では,GND導電パターン103は長方形の形状を有しており,GND導電パターン103の平行な2辺にそれぞれ第1スプリットリング部131と,第2スプリットリング部132が形成されている。
【0025】
例えば,通信周波数が2.4GHzである場合,第1スプリットリング部131及び第2スプリットリング部132は,2.4GHzで共振するようサイズ,スリット長を調整してもよい。
【0026】
図2は,実施の形態1にかかるアンテナ装置のスプリットリング部の形状を示す図である。第1スプリットリング部131及び第2スプリットリング部132の形状は
図2に示す形状を有する。
【0027】
第1スプリットリング部131は,第1スプリットリング部131は,GND導電パターン103の金属層が存在しない空間133を囲む環状形状であり,GND導電パターン103の辺134に開口135を有する形状である。第2スプリットリング部132も第1スプリットリング部131と同様の形状を有する。
【0028】
図3は,実施の形態1にかかるアンテナ装置におけるアンテナ電流を示す図である。
図3において,第1スプリットリング部131及び第2スプリットリング部132を配置しているので,逆向きのアンテナ電流141,142が大きく低減される。
【0029】
図4は,実施の形態1にかかるアンテナ装置の放射パターンを示す図である。
図4に示すように,XY面の垂直偏波は,大きく改善され,
図13,
図14に近い放射パターンが得られるようになる。
【0030】
以上のように,実施の形態1のアンテナ装置は,スプリットリング共振部を,基板GNDのアンテナ電流を制御したい位置に置くことで,逆相に流れるアンテナ電流を抑える。
【0031】
この結果,給電アンテナに関わらず,基板上を流れるアンテナ電流をスプリットリング共振部により調整し,アンテナ利得を制御できる。
【0032】
このように実施の形態1のアンテナ装置によれば,基板上にモノポールアンテナを実装する場合でも,スプリットリング共振部を,アンテナを含めλ/2離れた位置に実装することにより,基板サイズ,ケーブル等の導体等を気にすることなく,希望のアンテナ指向性を得ることができる。
【0033】
(実施の形態2)
実施の形態2では,モノポールアンテナを逆Lアンテナとした例について説明する。まず,
図5に示すように基板上にモノポールアンテナの一つである逆Lアンテナを配置すると,XZ面における水平偏波の放射パターンは
図6の形状となる。
図5のアンテナを矢印で示す範囲に安定した利得を持つことが条件のアンテナ,例えばZ方向を天空方向としたGPSアンテナとして使用することを想定した場合は不向きであることが分かる。
【0034】
図6の放射パターンが形成される原因は,
図7に示すように逆走のアンテナ電流である。
【0035】
図8は,実施の形態2にかかるアンテナ装置の一例を示す斜視図である。
図8において,アンテナ装置200は,アンテナ部201と,基板102と,GND導電パターン203とを備える。GND導電パターン203は,第1スプリットリング部231と,第2スプリットリング部232とを有する。第1スプリットリング部231の開口からGND導電パターン103の周縁を経由してアンテナ部201の端部までの長さが通信周波数の半波長である。また,第2スプリットリング部232からGND導電パターン103の周縁を経由してアンテナ部201の端部までの長さは,通信周波数の半波長より短い。
【0036】
アンテナ部201は,給電点からZ軸方向に延伸し,その端部がX軸方向に延伸する形状を有する。アンテナ部201は,1つの給電点に接続し,モノポールアンテナとして機能する。
【0037】
アンテナ装置200のアンテナ電流のイメージを
図9に示す。
図9は,実施の形態2にかかるアンテナ装置におけるアンテナ電流を示す図である。
図9に示すように,X方向には逆相となる電流成分が小さくなり,Z方向への電流も小さくなっている。
【0038】
図10は,実施の形態2にかかるアンテナ装置の放射パターンを示す図である。
図10の放射パターンは,
図6の放射パターンに比べて,
【0039】
このように実施の形態2のアンテナ装置によれば,GND導電パターンが直交する2つの辺にそれぞれスプリットリング共振部形状を有するようにしても,基板サイズ,ケーブル等の導体等を気にすることなく,希望のアンテナ指向性を得ることができる。
【0040】
また,実施の形態2のアンテナ装置によれば,アンテナを含めてλ/2の距離を離さなくても,スプリットリング共振部を実装して希望の指向性を得る新たな効果をもたらす。
【0041】
なお,本発明は上記実施の形態に限られたものではなく,趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば,スプリットリング共振部を形成する開環形状は,開いた端部を有していれば特に限定されず,円,楕円,方形,多角形またはこれらの組み合わせ形状であってもよい。
【0042】
また,T字型,逆L型のようなモノポールアンテナを例に挙げて説明したが,基板GND上のアンテナ電流をスプリットリング共振部で制御するアンテナ装置であれば,給電アンテナはいずれも適用できる。
【0043】
また,基板は他の電子回路を更に備えても良い。たとえば,アンテナと接続する通信回路を備えるようにしても良い。また複層基板に適用しても良い。
【0044】
また,スプリットリング共振部の2つの開口が,それぞれスプリットリング共振部形状の開口からGND導電パターンの周縁を経由してアンテナの端部までの長さを確保できない場合,一方の開口を,開口からGND導電パターンの周縁を経由してアンテナの端部までの長さとなる位置に設け,他方の開口をモノポールアンテナの給電点に近傍に設けるようにしてもよい。この場合,基板の大きさは,一方の開口を,開口からGND導電パターンの周縁を経由してアンテナの端部までの長さとできる大きさであればよい。
【符号の説明】
【0045】
100,200 アンテナ装置200
101,201 アンテナ部
102 基板
103,203 GND導電パターン
131,231 第1スプリットリング部
132,232 第2スプリットリング部