IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人三重大学の特許一覧

<>
  • 特許-エクソソームの製造方法 図1
  • 特許-エクソソームの製造方法 図2
  • 特許-エクソソームの製造方法 図3
  • 特許-エクソソームの製造方法 図4
  • 特許-エクソソームの製造方法 図5
  • 特許-エクソソームの製造方法 図6
  • 特許-エクソソームの製造方法 図7
  • 特許-エクソソームの製造方法 図8
  • 特許-エクソソームの製造方法 図9
  • 特許-エクソソームの製造方法 図10
  • 特許-エクソソームの製造方法 図11
  • 特許-エクソソームの製造方法 図12
  • 特許-エクソソームの製造方法 図13
  • 特許-エクソソームの製造方法 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】エクソソームの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20230719BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20230719BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
G01N33/48 A
G01N30/88 E
G01N30/02 B
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2020534699
(86)(22)【出願日】2019-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2019029972
(87)【国際公開番号】W WO2020027185
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2018143200
(32)【優先日】2018-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】珠玖 洋
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】金田 次弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 純子
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 一成
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-535665(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0143812(US,A1)
【文献】特表2018-501221(JP,A)
【文献】一木隆範、赤木貴則,ナノ医療を加速するナノ粒子解析プラットフォームの開発,Drug Delivery System,2015年,第30巻第3号,第204-211頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)エクソソームを含む生体試料を限外濾過する工程、及び、
(ii)工程(i)から得ることができる試料を陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに付す工程、
を含む、エクソソームの製造方法であって、限外濾過における限外濾過フィルターが、0.22μmのフィルター孔径及び750 kDaの公称分画分子量(NMWC)を有する、エクソソームの製造方法
【請求項2】
限外濾過における限外濾過フィルターが、タンジェンシャルフローフィルターである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに使用する陰イオン交換体が弱塩基性陰イオン交換体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記弱塩基性陰イオン交換体が、疎水性相互作用及び疎水結合形成の双方に基づき選択性を保持するものである,請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記弱塩基性陰イオン交換体がフェニル基、アミド結合及びカルボキシル基を有するものである、請求項またはに記載の製造方法。
【請求項6】
前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーが、0.15 M~0.8 MのNaClまたはKCl存在下で行わるものである、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーのカラム条件が中性領域のpHで行わるものである、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーのカラム条件がpH7.2~pH7.7 で行わるものである、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
さらに、(iii)前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーの溶出液のゼータ電位を測定する工程を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
生体試料からエクソソームを製造する方法であって、
(i)生体試料に対して遠心分離を行って該試料から夾雑物を除去し、その後上清を得る工程、
(ii)工程(i)で得られた上清を限外濾過し、上清を濃縮する工程、及び、
(iii)工程(ii)で得られた濃縮液を陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに付す工程、
を含み、限外濾過における限外濾過フィルターが、0.22μmのフィルター孔径及び750 kDaの公称分画分子量(NMWC)を有する、エクソソームを製造する方法
【請求項11】
工程(i)が、10,000×gで30分間の遠心分離を行うことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
限外濾過における限外濾過フィルターは、タンジェンシャルフローフィルターである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに使用した陰イオン交換体が、弱塩基性陰イオン交換体である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記弱塩基性陰イオン交換体が、疎水性相互作用及び疎水結合形成の双方に基づき選択性を保持するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記弱塩基性陰イオン交換体が、フェニル基、アミド結合及びカルボキシル基を有するものである、請求項1または1に記載の方法。
【請求項16】
前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーが、0.15 M~0.8 MのNaClまたはKCl存在下で行わるものである、請求項1~1のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
該陰イオン交換カラムクロマトグラフィーのカラム条件が中性領域のpHで行わるものである、請求項116のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
該陰イオン交換カラムクロマトグラフィーのカラム条件がpH7.2~pH7.7で行わるものである、請求項117のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
さらに、(iv)前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーの溶出液のゼータ電位を測定する工程を含む、請求項118のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載の方法により製造されたエクソソームであって、直径が60nm未満の粒子及び220nmより大きい粒子が本質的に排除されているエクソソームを含むエクソソームペレット、または該エクソソームペレットが再懸濁された生理的溶液。
【請求項21】
陰イオン交換カラムクロマトグラフィーおよび限外濾過フィルターを備えることを特徴とする、生体試料からエクソソームを製造するシステムであって、限外濾過フィルターが、0.22μmのフィルター孔径及び750 kDaの公称分画分子量(NMWC)を有する、エクソソームを製造するシステム
【請求項22】
前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに使用する陰イオン交換体が弱塩基性陰イオン交換体である、請求項2に記載のシステム。
【請求項23】
前記弱塩基性陰イオン交換体が、疎水性相互作用及び疎水結合形成の双方に基づき選択性を保持するものである、請求項2に記載のシステム。
【請求項24】
前記弱塩基性陰イオン交換体がフェニル基、アミド結合及びカルボキシル基を有するものである、請求項2または2に記載のシステム。
【請求項25】
前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーが、0.15 M~0.8 MのNaClまたはKCl存在下で行わるものである、請求項2~2のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項26】
前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーのカラム条件が中性領域のpHで行わるものである、請求項2~2のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項27】
前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーのカラム条件がpH7.2~pH7.7で行わるものである、請求項226のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項28】
限外濾過フィルターが、タンジェンシャルフローフィルターである、請求項21に記載のシステム。
【請求項29】
さらに、遠心分離装置を備える、請求項228のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項30】
さらに、ゼータ電位測定装置を備える、請求項229のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクソソームの製造方法に関し、より詳細には生体試料からエクソソームを製造する方法及び生体試料からエクソソームを製造するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
免疫細胞を含む多種多様な細胞は、エンドソーム及び細胞膜由来の脂質二重膜小胞を放出し、これらはそれぞれエクソソーム及びマイクロベシクルと呼ばれ、大きさはそれぞれ50~150 nm及び100~1000 nmであることが知られている(非特許文献1及び2)。
【0003】
エクソソームは、エンドリソソーム系で誘導され、HIV発芽と同様に、多胞体(MVBs)の中でESCRT-、Alix-及びTsg101-依存性のソーティングによって生成され、最終的にMVBsと細胞膜の融合によって放出される(非特許文献3及び4)。しかし、細胞外小胞(extracellular vesicles;EVs)には、エクソソーム形成におけるESCRT依存性及び非依存性の経路、ならびに腫瘍細胞株からのEVs中におけるマイクロ(mi)RNAs及びタンパク質の異なるパッケージングが知られている(非特許文献5~7)ため、同じ親細胞から放出されたEVsは構造的に不均一な集団であると考えられる。
【0004】
EVsは、細胞間の情報交換に関する多くの生物学的制御に深く関与している(非特許文献1、2及び8)。様々な病状及び疾患(主にがん)におけるEVsの病態生理学的役割が解明されつつある(非特許文献9~11)。EVs中には様々なタンパク質及び核酸(例えば、受容体、サイトカイン、細胞内シグナル伝達因子、mRNA及びマイクロRNA(miRNA))を含む生物活性物質が見出されるが、EVsは貧食された後、隣接及び遠隔のレシピエント細胞を調節する中心的メディエーターとして作用する(非特許文7、8及び12)
【0005】
最近、本発明者らは、EVsが腫瘍における間葉細胞集団によって優先的に貪食され、CD8+ T細胞のEVsが、その内容物(例えば、miRNA)によって腫瘍間葉細胞に対する細胞傷害性に関与し、腫瘍浸潤及び転移の予防となることを実証した(非特許文献13)。
【0006】
細胞膜が主にリン脂質から構成されるのに対し、エクソソーム膜は、スフィンゴ脂質(例えば、ガングリオシド)が濃縮されている。これは、セラミドの生合成を阻害することによってエンドソームにおけるエクソソームの出芽が阻止されること、ならびにホスファチジルイノシトールアンカー型タンパク質、Gタンパク質共役型受容体及びコレステロールが蓄積することにより示される(非特許文献5、14~16)。さらに、死細胞の膜で示されるように、EVsの膜は、外側に負電荷を有するホスファチジルセリン(PS)を露出させている。これは、生細胞の細胞膜の内側にPSが局在することと対照的である。これは、EVsが負電荷を帯びる主な原因である(非特許文献17及び18)。
【0007】
EVsの生物学的意義を含む特性の決定において、超遠心分離に基づく単離技術が標準法として広く用いられている(非特許文献19及び20)。超遠心分離では、凝集したEVsの他に、培養上清中の不溶性凝集タンパク質もEVsとともに沈殿する(非特許文献21及び22)。このため、EV試験における生物学的活性の信頼性が低下する(非特許文献23)。超遠心分離以外に、ショ糖密度勾配遠心分離、及びテトラスパニン分子特異的モノクローナル抗体(mAb)(例えば、抗CD9、CD63またはCD81 mAb)またはT細胞免疫グロブリン及びムチンドメインを含有する分子-4(TIM-4)を用いた親和性分離が、EVsの精製によく用いられる(非特許文献24~26)。両方の親和性分離方法とも、高純度のEVsを得ることができるが、前者及び後者は、それぞれ、生物学的分析のための大量なEVsを調製することが困難であり、及び低い負電荷を有するEVを調製することが困難である。このように、エクソソームの標準的または機能的な単離方法は存在しない。
【0008】
培養上清から、性質の異なる多様なエクソソームを調製する方法として、現在100,000~120,000 x gによる超遠心法が世界標準になっている。その他に、超遠心法とショ糖密度勾配法や、エクソソーム表面分子のCD9, CD63またはCD81に特異的な抗体やエクソソーム膜のホスファチジルセリン(PS)に特異的なTIM-4を用いたアフィニティ法、分子サイズに着目した限外ろ過法やゲルろ過法、イオン交換樹脂を用いたイオン交換法との併用法が知られている。
【0009】
エクソソームの超遠心法による調製では、培養液中の雑多なタンパク質が大量に(総タンパク量の70%以上)混入し、エクソソーム自身も凝集体となって活性を失うことが知られている。超遠心法とショ糖密度勾配法やエクソソーム表面分子に着目したアフィニティ法との併用法は、精製度は高いが大量のエクソソーム分取が困難である。ゲルろ過法はエクソソームの濃縮には不向きであり、限外ろ過法は精製度が不十分であり、また超遠心後のイオン交換法併用では収率が著しく低下する。さらに、多様なエクソソームから、着目する機能を持ったエクソソームだけを調製する方法は現在のところ存在しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、精製度が高く、機能を維持したままの、目的とするエクソソームを大量に取得する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
T細胞エクソソームのがん浸潤及び転移抑制機能を保ちつつ、雑多な培養液中のエクソソームから生物活性のある有効なエクソソームを分取する方法を開発することが最も重要な課題となる。この課題克服には、超遠心法を使わないエクソソームの調製法を確立することが重要であり、その代用となる最も有効なエクソソーム濃縮法としては、MWCO(molecular weight cut-off、分画分子量)の異なる種々の限外ろ過膜の検討であり、これとエクソソームの物性に着目した分離法を併用することが求められる。
【0013】
上記の状況に鑑み、本発明者らがエクソソームの調製法について鋭意研究を重ねた結果、限外濾過による濃縮及び除タンパク質処理の後に、陰イオン交換樹脂を用いて、培養上清から異なる負電荷を有する高純度で、かつ高機能のEVsを得る新しい方法を開発した。標的細胞に取り込まれた機能的EVsが、ある程度の負電荷を有することが示されていることから、本法を用いれば薬物送達に有用なEVsを単離できる可能性が高い。本発明者らはこれらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、下記〔1〕から〔34〕項に記載の発明を提供することにより、前記課題を解決したものである。
〔1〕(i)エクソソームを含む生体試料を限外濾過する工程、及び、(ii)工程(i)から得ることができる試料を陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに付す工程、を含む、エクソソームの製造方法。
〔2〕限外濾過における限外濾過フィルターが、タンジェンシャルフローフィルターである、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕限外濾過フィルターが、約0.06μm~約0.07μmのフィルター孔径を有する、〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕前記タンジェンシャルフローフィルターが、約750 kDaの公称分画分子量(NMWC)を有する、〔2〕に記載の製造方法。
〔5〕前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに使用する陰イオン交換体が弱塩基性陰イオン交換体である、〔1〕に記載の製造方法。
〔6〕前記弱塩基性陰イオン交換体が、疎水性相互作用及び疎水結合形成の双方に基づき選択性を保持するものである、〔5〕に記載の製造方法。
〔7〕前記弱塩基性陰イオン交換体がフェニル基、アミド結合及びカルボキシル基を有するものである、〔5〕または〔6〕に記載の製造方法。
〔8〕前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーが、0.15 M~0.8 MのNaClまたはKCl存在下で行われるものである、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の製造方法。
〔9〕前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーのカラム条件が中性領域のpHで行わるものである、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の製造方法。
〔10〕前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーのカラム条件がpH7.2~pH7.7で行わるものである、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の製造方法。
〔11〕さらに、(iii)前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーの溶出液のゼータ電位を測定する工程を含む、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の製造方法。
〔12〕生体試料からエクソソームを製造する方法であって、
(i)生体試料に対して遠心分離を行って該試料から夾雑物を除去し、その後上清を得る工程、
(ii)工程(i)で得られた上清を限外濾過し、上清を濃縮する工程、及び、
(iii)工程(ii)で得られた濃縮液を陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに付す工程、
を含む方法。
〔13〕工程(i)が、10,000×gで30分間の遠心分離を行うことを含む、〔12〕に記載の方法。
〔14〕限外濾過における限外濾過フィルターは、タンジェンシャルフローフィルターである、〔12〕に記載の方法。
〔15〕限外濾過フィルターが、約0.06μm~約0.07μmのフィルター孔径を有する、〔12〕に記載の方法。
〔16〕前記タンジェンシャルフローフィルターが、約750 kDaの公称分画分子量(NMWC)を有する、〔12〕に記載の方法。
〔17〕前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに使用した陰イオン交換体が、弱塩基性陰イオン交換体である、〔12〕に記載の方法。
〔18〕前記弱塩基性陰イオン交換体が、疎水性相互作用及び疎水結合形成の双方に基づき選択性を保持するものである、〔17〕に記載の方法。
〔19〕前記弱塩基性陰イオン交換体が、フェニル基、アミド結合及びカルボキシル基を有するものである、〔17〕または〔18〕に記載の方法。
〔20〕前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーが、0.15 M~0.8 MのNaClまたはKCl存在下で行わるものである、〔12〕~〔19〕のいずれかに記載の方法。
〔21〕前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーのカラム条件が中性領域のpHで行わるものである、〔12〕~〔20〕のいずれかに記載の方法。
〔22〕前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーのカラム条件がpH7.2~pH7.7で行わるものである、〔12〕~〔21〕のいずれかに記載の方法。
〔23〕さらに、(iv)前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーの溶出液のゼータ電位を測定する工程を含む、〔12〕~〔22〕のいずれかに記載の製造方法。
〔24〕〔1〕~〔23〕のいずれかに記載の方法により製造されたエクソソームであって、直径が60nm未満の粒子及び220nmより大きい粒子が本質的に排除されているエクソソームを含むエクソソームペレット、または該エクソソームペレットが再懸濁された生理的溶液。
〔25〕陰イオン交換カラムクロマトグラフィーを備えることを特徴とする、生体試料からエクソソームを製造するシステム。
〔26〕前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに使用する陰イオン交換体が弱塩基性陰イオン交換体である、〔25〕に記載のシステム。
〔27〕前記弱塩基性陰イオン交換体が、疎水性相互作用及び疎水結合形成の双方に基づき選択性を保持するものである、〔26〕に記載のシステム。
〔28〕前記弱塩基性陰イオン交換体がフェニル基、アミド結合及びカルボキシル基を有するものである、〔26〕または〔27〕に記載のシステム。
〔29〕前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーが、0.15 M~0.8 MのNaClまたはKCl存在下で行わるものである、〔25〕~〔28〕のいずれかに記載のシステム。
〔30〕前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーのカラム条件が中性領域のpHで行わるものである、〔25〕~〔29〕のいずれかに記載のシステム。
〔31〕前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーのカラム条件がpH7.2~pH7.7で行わるものである、〔25〕~〔30〕のいずれかに記載のシステム。
〔32〕さらに、限外濾過フィルターを備えることを特徴とする、〔25〕~〔31〕のいずれかに記載のシステム。
〔33〕限外濾過フィルターが、タンジェンシャルフローフィルターである、〔32〕に記載のシステム。
〔34〕限外濾過フィルターが、約0.06μm~約0.07μmのフィルター孔径を有する、〔32〕に記載のシステム。
〔35〕前記タンジェンシャルフローフィルターが、約750 kDaの公称分画分子量(NMWC)を有する、〔33〕に記載のシステム。
〔36〕さらに、遠心分離装置を備える、〔25〕~〔35〕のいずれかに記載のシステム。
〔37〕さらに、ゼータ電位測定装置を備える、〔25〕~〔36〕のいずれかに記載のシステム。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法を用いれば、大量かつ精製度が高く、機能を有する目的とするエクソソームを大量に取得できる。
【0016】
従来の方法は、目的とするエクソソームの精製度が悪いことや、大量のエクソソームを取得できないという問題点と、最も重要な機能的なエクソソーム調製という点で不向きであった。本発明の方法を用いれば、精製度が高く、機能を有する目的とするT細胞エクソソームを大量に取得できる。将来、エクソソームを医薬品用途として展開しようとする際には必須の技術となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】500 kDaと750 kDa MWCOの限外濾過を用いたエクソソーム濃縮品と超遠心(UC)によるエクソソーム調製品との比較を示す図である。750 kDa MWCOの限外濾過により、エクソソーム粒子の膜外漏出がなく、凝集体が少ないエクソソームの濃縮ができることを示す。
図2】750 kDa MWCO限外濾過濃縮後のエクソソームについて、DEAEセファロースカラムを用いることにより、タンパク質含量及びCD81発現量などの物性の異なるエクソソームを効率的に分離できることを示す図である。上図は、カラムからの溶出パターンを示し、下図は、分画したフラクションについて、CD81のウェスタンブロット分析(WB)を行った結果を示す。
図3】MSCs(Mesenchymal Stem Cells、間葉系幹細胞)への取り込みに優れたエクソソームが、単一フラクションで得られることを示す図である。
図4】フィルター孔径0.22μm及びMWCO 750 kDaの限外濾過法で、ほぼすべてのサイズのエクソソームを濃縮できることを示す図である。
図5】DUC18マウスから得られたCD8 T細胞由来のエクソソームを、DEAEセファロースカラムから溶出した溶出パターンを示す図である。(A)NaClのリニアグラジエント(0.15 M~0.8 M)で溶出した溶出パターンを示す。図中のバーは、CD90の発現レベルを示す。Fr.20は0.21 M NaClで、Fr.24は0.3 M NaClで、またFr.26は0.38 M NaClで溶出されたフラクションに相当する。(B)0.3 M及び0.5 M NaClのステップワイズで溶出した溶出パターンを示す。
図6】MKN45細胞及び肺がん由来CAFから形成されたスフェロイドに対する陰イオン交換カラムクロマトグラフィーによる分画エクソソームの細胞傷害活性を示す図(蛍光顕微鏡撮影像)である。(A)0.21~0.3 M NaClで溶出されたエクソソーム(Fr.21)の作用を示す蛍光顕微鏡撮影像である。(B)0.38 M NaClで溶出されたエクソソーム(Fr.26)の作用を示す蛍光顕微鏡撮影像である。
図7】陰イオン交換カラムクロマトグラフィーにおける0.3 M NaCl溶出エクソソーム及び0.5 M NaCl溶出エクソソームを、ナノ粒子トラッキング分析(NTA)した結果を示す図である。
図8】陰イオン交換カラムクロマトグラフィーにおける0.3 M NaCl溶出エクソソーム及び0.5 M NaCl溶出エクソソーム、ならびに超遠心分離により調製したエクソソームについて、ゼータ電位を測定した結果を示す図である。
図9】陰イオン交換カラムクロマトグラフィーにおける0.3 M NaCl溶出エクソソーム及び0.5 M NaCl溶出エクソソームを、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析した結果を示す図である。
図10】陰イオン交換カラムクロマトグラフィーにおける0.3 M NaCl溶出エクソソーム及び0.5 M NaCl溶出エクソソームに含まれる全 RNA(miRNA, tRNA, mRNA及びrRNA)の、(A)UV吸収スペクトル、及び(B)バイオアナライザによる分析結果を示す示す図である。
図11】陰イオン交換カラムクロマトグラフィーにおける0.3 M NaCl溶出エクソソーム及び0.5 M NaCl溶出エクソソームに含まれるmiRNAの種類を分析した結果を示す図である。
図12】陰イオン交換カラムクロマトグラフィーにおける0.3 M NaCl溶出エクソソーム及び0.5 M NaCl溶出エクソソーム、ならびに超遠心分離エクソソーム(UC)に含まれるEVの外に存在するDNAと全DNAを分析した結果を示す図である。
図13】MKN45細胞及び肺がん由来CAFから形成されたスフェロイドに対する、陰イオン交換カラム溶出ヒトT細胞エクソソームの細胞傷害活性を示す図(顕微鏡撮影像)である。
図14】間葉系幹細胞およびヒトがん細胞の混合細胞を移植したヌードマウスにおける、陰イオン交換カラム溶出ヒトT細胞エクソソームの抗腫瘍作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、エクソソームを含む生体試料からエクソソームを製造する方法は、該生体試料をろ過する工程を含む。ろ過の手段としては、限外濾過フィルターによる限外濾過が好ましい。限外濾過としては、例えば、濾過される液の流れと濾過のための圧力が同じ方向であるノーマルフロー及び濾過フィルター表面に沿って並行方向に液を流すタンジェンシャルフローによるものが挙げられるが、タンジェンシャルフローによる限外濾過が好ましい。例えば、特定の態様では、限外濾過フィルターはタンジェンシャルフローフィルターである。特定の態様では、限外濾過フィルターが、約0.06μm~約0.07μmのフィルター孔径を有する。また、特定の態様では、タンジェンシャルフローフィルターが、約750 kDaの公称分画分子量(NMWC)を有する。タンジェンシャルフローフィルターを含む限外濾過フィルターは、市販されているものを使用することができる。例えば、スペクトラムラボラトリーズ社の中空糸フィルターMicroKros(登録商標)を使用することができる。
【0019】
本発明において、エクソソームを含む生体試料からエクソソームを製造する方法は、限外濾過から得ることができる試料を陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに付す工程を含む。陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに用いるイオン交換体については特に限定されないが,弱塩基性陰イオン交換体が好ましく、疎水性相互作用及び水素結合に基づく選択性を併せ持つ弱塩基性陰イオン交換体がさらに好ましい。例えば、フェニル基、アミド結合及びカルボキシル基を備え疎水性相互作用及び水素結合に基づく選択性を併せ持つ弱塩基性陰イオン交換体として、CaptoMMC(GEヘルスケア社)等を使用することができる。
【0020】
前記陰イオン交換カラムクロマトグラフィーは、0.15~0.8 MのNaClまたはKCl存在下で行われるものが好ましい。陰イオン交換カラムクロマトグラフィーのカラム条件として、カラム溶出液のpHは中性領域(pH5.8~pH8.6)であることが好ましく、pH7.2~pH7.7で溶出をおこなうことがより好ましく、pH7で溶出をおこなうことが最も好ましい。
【0021】
本発明の一態様において、生体試料からエクソソームを製造する方法は、限外濾過を行うに先立ち、生体試料から、不要な大型の細胞残屑やアポトーシス小体などの夾雑物を除去する工程を含んでもよい。この工程は、通常遠心分離によって行われる。例えば、4℃、10,000×gで20分間の遠心分離を行う。当業者であれば、この遠心分離を行う工程が、市販の適当な実験室用遠心機(例えば、Thermo Scientific(登録商標)製、Cole-Parmer(登録商標)製など)を用いて行われることは十分に理解できるであろう。エクソソームを高純度で単離するために、必要に応じて、遠心分離により得られた上清に対して、追加して遠心分離を行い、細胞残屑及びアポトーシス小体をさらに除去してもよい。
【0022】
細胞残屑やアポトーシス小体などの夾雑物を分離し、上清を得る遠心分離を含む工程は、1回以上実施することができる。この場合、残屑を含む遠心沈渣から上清をデカントまたはピペットを用いた吸引によって分離し、次いで、必要に応じて追加の遠心分離を行うことができる。追加の遠心分離を行う場合、遠心加速度(g)を大きくして、中型サイズ以下の細胞残屑を除去してもよい。
【0023】
本発明の方法により、有利なことに、少なくとも約99.0%、好ましくは少なくとも約99.9%またはそれ以上の純度を有するとともに、生物学的に完全な状態である、哺乳動物及び非哺乳動物のエクソソームが得られる手段が提供される。本明細書における「少なくとも約99%、好ましくは少なくとも約99.9%またはそれ以上の純度」とは、直径が60nm未満及び220nmより大きい細胞残屑、アポトーシス小体及び微小小胞体が「本質的に排除されている」ことを意味する。また、「生物学的に完全な状態」としては、例えば、凝集したり塊状になっておらず、かつ切断されたり、穴が開くなどの破損がない状態が挙げられる。
【0024】
さらに、本発明の製造方法により、エクソソームを大量に取得することができる。例えば、300~500mLの細胞培養液から、総タンパク質の量として約1000~1500μgのエクソソームを得ることができる。したがって、高収量を可能にする本発明の方法により、少なくとも約2μg/μL以上、好ましくは少なくとも約3~5μg/μL以上の濃度のエクソソーム含有溶液を容易に調製することができる。本明細書において、任意の所定の数値に関する「約」という用語は、その数値の±10%であること、すなわちその数値より最大10%大きいか、最大10%小さいことを意味する。
【0025】
本明細書に記載の方法で製造されるエクソソームは、有益なことに、完全性を保持しているとともに、高い純度(直径が60nm未満及び220nmより大きい物質の存在が「本質的に排除されている」状態)、安定性ならびにin vitro及びin vivoの双方の生物活性を有するものであり、このようなエクソソームはこれまで得ることは不可能であった。したがって、本発明のエクソソームは、例えば、診断及び/または治療において、比類なく有用である。また、本発明のエクソソームは非アレルゲン性であることが確認されていることから、自己、同種異系及び異種に対して安全に使用できる。
【0026】
本発明の方法を用いて得られたエクソソームは、薬学的または生理学的に許容される担体と組み合わせて、治療用の製剤として調製してもよい。「薬学的に許容される」または「生理学的に許容される」という表現は、医薬分野及び獣医学分野において使用が許容されていること、すなわち、許容できない毒性を示すなどの生理的使用に不適な点が認められないことを意味する。当業者であれば、エクソソーム製剤の使用目的によって、選択する担体が異なることは十分に理解できるだろう。一実施形態において、エクソソームは、点滴または注射(例えば、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射または静脈内注射)による投与に適した製剤に調製される。よって、発熱物質を含まない滅菌水溶液(必要に応じて緩衝液または等張液としてもよい)などの生理学的に許容される医療グレードの担体に懸濁した懸濁剤として調製される。使用可能な担体としては、蒸留水(RNA分解酵素及びDNA分解酵素をいずれも含まない)、糖(例えば、ショ糖またはデキストロース)を含有する滅菌溶液、または塩化ナトリウムを含む滅菌生理食塩水(必要に応じて緩衝液としてもよい)が挙げられる。好適な生理食塩水は、様々な濃度の塩化ナトリウムを含んでいてもよく、例えば、通常の濃度の生理食塩水(0.9%)、1/2濃度の生理食塩水(0.45%)、1/4濃度の生理食塩水(0.22%)の他、これらより高濃度(例えば、3%~7%またはそれ以上)の塩化ナトリウムを含む溶液も使用できる。必要に応じて、生理食塩水は、塩化ナトリウム以外の成分、例えば、デキストロースなどの糖を含んでいてもよい。塩化ナトリウム以外の成分を含む生理食塩水としては、例えば、リンゲル液(例えば、乳酸リンゲル液または酢酸リンゲル液)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝生理食塩水(TBS)、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)、アール平衡塩類溶液(EBSS)、標準クエン酸生理食塩水(SSC)、HEPES緩衝生理食塩水(HBS)、ゲイ平衡塩類溶液(GBSS)などが挙げられる。
【0027】
他の実施形態において、エクソソームは、以下の投与経路に限定されないが、経口、鼻腔内、腸内、局所、舌下、動脈内、髄内、髄腔内、吸入、眼内、経皮、膣内、直腸内などの経路からの投与に適した製剤に調製され、各製剤はそれぞれの投与経路に適した担体を含む。例えば、局所適用するエクソソーム組成物は、適当な担体を配合して調製することができる。局所適用されるクリーム剤、ローション剤及び軟膏剤は、トリグリセリド基剤などの適当な基剤を用いて調製することができる。このようなクリーム剤、ローション剤及び軟膏剤は、界面活性剤をさらに含有していてもよい。好適な噴射剤を用いたエアロゾル製剤を調製することも可能である。また、本発明における組成物には、投与方法に拘わらず、他の補助剤を配合してもよく、例えば、微生物の増殖及び/または長期保管中の分解を防ぐために、抗菌剤、酸化防止剤及びその他の保存剤を本発明における組成物に配合してもよい。
【0028】
また、エクソソームペレットは、使用前に保存することも可能である。例えば、確立された方法に従って、4℃で冷蔵保存してもよく、凍結または凍結乾燥させて保存してもよい。エクソソームペレットは、任意の生理学的に許容される担体中に保存してもよく、必要に応じて低温安定化剤及び/またはガラス化剤(例えば、DMSO、グリセロール、トレハロース、ポリヒドロキシアルコール(例えば、メトキシグリセロール、プロピレングリコールなど)、M22など)を添加した該担体中に保存してもよい。
【0029】
本発明の方法で製造されるエクソソームは、その比類なき特性(例えば、高純度、完全性及び安定性)から、哺乳動物における疾患またはその他の病的症状の治療に用いるカーゴ(例えば、生体材料、治療用化合物などの物質)を送達するための媒体として使用できる点で有利である。
【0030】
発明の詳細な説明
本発明を以下の実施例及び試験例によりさらに詳細に説明する。これらの実施例及び試験例は説明するためだけのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0031】
マウス及び細胞株
H-2Kd制限及び変異(m)ERK2 136-144ペプチド-特異的TCR(Vα10.1/Jα48及びVβ8.3/Dβ2.1/Jβ2.6)遺伝子を導入したDUC18マウスは、三重大学の実験動物施設で飼育し、8~10週齢で使用した。I-Ab制限及びOVA 323-339ペプチド-特異的TCR-遺伝子を組換えたOT-IIマウスは、Charles River社から購入した。本実験のプロトコールは、三重大学動物実験倫理審査委員会による承認(承認番号:23-8)を得た。HEK293、HEK293.2sus、Jurkat E6.1及びMolt-4は、American Type Culture Collection社から購入した。成人由来の骨髄MSCs(Mesenchymal Stem Cells、間葉系幹細胞)は、Lonza社から購入した。
【0032】
培養上清の調製
EV枯渇ウシ胎児血清(dFCS)及び自己血漿は、超遠心分離(100,000×g、18時間)により調製した。非接着性HEK293.2susは、100 mLの三角フラスコ(Corning社)の中で、293 SFM II培地(ThermoFisher Scientific社)を用い、100 rpm及び8%CO2濃度及び5×105細胞/mLの条件下で培養した。HEK293、Jurkat E6.1及びMolt-4は、70 cm2の培養フラスコ(Corning社)の中、10%dFCSを添加したDMEM培地(和光純薬工業)またはAIM-V培地(Thermofisher Scientific社)を用い、5%CO2濃度の条件下で培養した。3日目または4日目毎に培養液を交換し、得られた培養上清をプールし、EVの調製に用いた。
【0033】
ヒト末梢血単核細胞(PBMCs)は、Picoll-Paque PLUS(GE Healthcare社)を用いた密度分離法により調製した。PBMCsは、5μg/mL抗ヒトCD3 mAb(OKT-3:eBioscience社)及び25μg/mL RetroNectin(Takara Bio社)でコーティングされたプレートの中で、0.6%EV枯渇自己血漿、0.2%ヒト血清アルブミン(CSL-Behring社)及び600 IU/mL組換え体(r)ヒトIL-2を添加したGT-T503培地(Takara Bio社)で、2×105細胞/mLの濃度で2週間培養した。本試験はヘルシンキ宣言の現行版に従って行われ、試験に参加したすべての健康ドナーから書面による同意を得た。本実験手順は、三重大学医学研究科の倫理審査委員会による承認(承認番号:2879)を得た。
【0034】
マウス細胞傷害性Tリンパ球(CTL:CD8+ T細胞)またはヘルパーT(Th)細胞(CD4+ T細胞)は、それぞれDUC18マウスまたはOT-IIマウスの脾細胞から得た。DUC18またはOT-II脾細胞は、それぞれ1μg/mLのmERK2(136-144:QYIHSANVL)またはOVA(323-339:ISQAHAHAAHEINEAGR)ペプチド及び10%dFCSを含有するRPMI-1640培地(Sigma-Aldrich社)で、0.5×106細胞/mLの濃度で3日間培養し、次いで100 IU/mLrIL-2を添加し、さらに4日間培養した。
【0035】
超遠心分離によるEVの調製
培養上清を、まず10,000×gで20分間遠心分離し、得られる上清を0.45μm及び0.22μmのフィルターで濾過した後、濾液を超遠心分離機(SW28ローター:Beckman Coulter社)にかけた。超遠心分離は100,000×gで2時間行った。得られたEVを含有するペレットをPBSに懸濁し、100,000×gで再び遠心分離し、沈渣を0.5~2 mLのPBSに溶解した後、4℃で保存した。
【0036】
培養上清の限外濾過
培養上清の限外濾過は、mPES MidiKrosフィルターモジュール(MWCO 500 kDaまたは750 kDa:スペクトラム社)を用いた接線流濾過システム(KrosFlo Research IIi TIFFシステム、硅素チューブ#16(ACTUE1625N):スペクトラム社)で、約50 mL/分の導入流速で行った。培養上清を20倍以上に濃縮し、200 mL以上のPBSで置換した。得られた濃縮上清/PBSについて、EV数、直径及びタンパク質濃度を測定した後、陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに付した。
【0037】
陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
陰イオン交換クロマトグラフィーの担体として、DEAE-sepharose Fast Flow(GEヘルスケア社)を使用した。DEAE-sepharoseカラム(ベッド容量8 cm3)を0.15 M NaClを含有する10 mM Tris-HCl(pH7.5)で平衡化した。MWCO 750 kDa限外濾過で濃縮したEV含有PBS溶液をカラムに充填し、カラム容積の3倍以上のTBSで洗浄した。NaClのリニアグラジエント(グラジエントメーカーにより作成した0.15 Mから0.8 Mまでの濃度勾配)によりDEAE-sepharoseと結合したEVを溶出し、各3.5 mLで分画した。次に、LAQUAtwin(Horiba Scientific社)を用いて各画分の電気伝導度を測定し、精確なNaCl濃度を算出した後、直ちに10 mM Tris-HCl(pH7.5)を含む生理食塩水溶液(0.15 M)に戻した。分画されたEV溶液を、粒子数及び粒子直径、タンパク質濃度、CD81発現のフローサイトメトリー解析、CD81のウェスタンブロット分析ならびにMSC貪食の測定に供した。
【0038】
EVsの特徴づけ
EVsのタンパク質濃度は、ビシンコニン酸(BCA)タンパク質アッセイキット(Pierce社)により、メーカー使用説明書に従って測定した。精製されたEVsの平均粒子数及び直径は、ナノ粒子トラッキング分析(NTA; LM10-HS:NanoSight社)により測定した。EV表面タンパク質は、フルオレセインフィコエリトリン(PE)結合抗CD81 mAb(5A6:Biolegend社)で染色したラテックスビーズ結合EVsの、FACS Cant II(BD)によるフローサイトメトリー解析により検出した。ポリスチレンラテックスビーズ(直径10μm)を、EV溶液と、0.1M 2-モルホリノエタンスルホン酸緩衝液中で、EV 3粒子/ビーズの比で混合し、回転シェーカーで2時間インキュベートした後、400 mMグリシンでブロックした。得られたラテックスビーズ結合EVsを、2%dFCS含むPBSで2回洗浄した。
【0039】
表面タンパク質を含むEVタンパク質を検出するために、次のようにウェスタンブロット分析を実施した。メーカーの使用説明書に従い、細胞溶解緩衝液(Cell Signaling Technology社)で細胞タンパク質を抽出した。EVs及び細胞タンパク質を、Laemmliサンプル緩衝液(Bio-Rad社)(パーフォリン、グランザイムB、Alix及びTsg101の検出には5%2-メルカプトエタノール(ME)をさらに含むサンプル緩衝液を使用し、またCD9検出のためには5%2-MEを含まないサンプル緩衝液を使用した。)に溶解し、5分間煮沸した。SDSランニングバッファー(Bio-Rad社)を用いた10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(e-PAGEL E-R10L:ATTO Corporation社)で、5μgの各タンパク質試料及び分子量マーカー(MagicMark XP Standard:Thermo Fisher Scientific社)を40 mAで60分間分離した。生成したゲルをトランスファー緩衝液(Bio-Rad社)に3回浸漬し、Trans-Blot SDセミドライトランスファーセル(Bio-Rad社)を用いて、タンパク質をImmobilon-Pポリビニリデンフルオライド膜(Merck社)に1 mA/cm2で1時間トランスファーし、0.05%TTBS(0.05%Tween20を含むTBS)中で5%スキムミルク(和光純薬工業)によりブロッキングした後、4℃でそれぞれCD9(eBioKMC8:eBioscience社)、パーフォリン(eBioOMAK-D:ThermoFisher Scientific社)、Granzyme B(21631:R&D Systems社)、Alix(3A9:Biolegend社)、またはTsg101(EPR7130:Abcam社)に特異的な一次mAbと共に終夜処理した。0.05%TTBSで3回洗浄した後、膜を、それぞれマウスIgG(GE Healthcare社)、ラットIgG(R&D Systems社)またはウサギIgG(MBL International Corporation社)特異的西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体により、室温で1時間インキュベートした。0.05%TTBSで4回洗浄した後、ECL plus(GE Healthcare社)で膜を処理し、LAS-4000(富士フィルム)を用いて可視化した。
【0040】
Bioanalyzer 2100(Agilent社)を用いたモニタリングによりEV RNAsの相対量を測定した。miRNeasyミニキット(Qiagen社)を用いて5×108個のEVs中のRNAsを抽出した。RNAの濃度をNanoDrop 2000(ThermoFisher社)で測定した後、メーカーの使用説明書に従い、スモールRNAキット(Agilent社)を用いたBioanalyzer 2100(Agilent社)により、miRNAsを含むEV由来のRNAsを分析した。
【0041】
マウスMSCs(Mesenchymal Stem Cells、間葉系幹細胞)の調製
メーカー(StemCell Technologies社)の使用説明書に従って、骨髄細胞フラッシュ大腿骨(大腿骨)からMSCを調製した。BALB/cマウスの10本の大腿骨の両端を切断し、乳鉢中の5 mL PBSに移し、乳棒で5分間穏やかに撹拌して粉砕し、できるだけ多くの赤色骨髄細胞を除去した。同様にして赤色骨髄細胞を5回除去した後、断片化した白色の大腿骨を集め、0.2%コラゲナーゼI型(シグマ社)を添加したPBSと共にインキュベートした。37℃の水浴中で40分間激しく振盪した後、MSCsを含む上清をPBSで3回洗浄した。ディッシュに接着したMSCsを、20%MSC刺激補助剤(StemCell Technology社)を添加したマウスMesenCult MSC基礎培地で30日間培養した。培地は隔日で交換した。20%の脂肪生成及び骨形成刺激補充剤を添加したMesenCult MSC基礎培地中で、2週間で70%コンフルエントとなったMSCを使用し、次いでOil Red O(Sigma-Aldrich社)で脂肪細胞を;Alizarin Red S(和光純薬工業)で骨細胞をそれぞれ染色し、得られたMSCsが脂肪細胞及び骨細胞に分化する可能性を測定した。ギムザ(和光純薬工業)で染色した後、MSC刺激補充剤を含有する培地で培養した一次MSCにおけるコロニー形成が観察された。PE結合抗CD140a及びFITC結合抗Sca-1 mAbs(いずれもBiolegend社)の両方を用いたフローサイトメトリー解析(FACScant II:BD、Biosciences社)により、培養された骨由来MSCsの純度は95%以上と確認された。
【0042】
間葉系幹細胞のEV貪食能の測定
メーカーの使用説明書に従い、EVs (1 mg/mL タンパク質濃度)をPKH26 (Sigma-Aldrich社)で標識した。ヒト間葉系幹細胞(Lonza社)を12ウェルプレートの中で培養し、そこへPKH26で染色したEVs(5 μg/mL EV濃度)を加えて2時間培養した。フローサイトメトリー解析(FACS Cant II:BD)及び蛍光顕微鏡検査(DP73カメラを備え付けたBX53、オリンパス社)により、PKH26で染色したEVsの細胞による貪食を調べた。
【0043】
(結果)
効率的なEVsの濃縮における限外濾過及び培養上清からの不要タンパク質の除去
図4は、Spectrum Lab社より入手した孔径チャートを示す。これは、分子生物学的及び微生物学的スケールで共通事項を比較するための相対スケールを提供している。また、該チャートは、2次元のメトリック単位(μm及びnm)を3次元の分子量単位(kDa)に相関させる。エクソソームの直径は50 nmから200 nmと言われている。0.22 μmフィルター処理後の750 kDa MWCOの限外濾過膜で濃縮したエクソソームは、図で示すように、直径が50 nm-220 nmのすべてのエクソソームをカバーしうる。500 kDa MWCO限外濾過膜の使用での濃縮では、アポトーシス小体に含まれる、径が小さく機能性を持たない小胞の混在を避けられない。培養上清中の様々なEVsからエクソソームを濃縮するには、フィルター孔径約50 nm相当のMWCO 750 kDaフィルターでの限外濾過は非常に有用であろう。臨床においてMWCO 500 kDaフィルターを用いた限外濾過により、培養上清からEVを濃縮できることが他のグループから報告されている。そのため、我々は、750 kDaポア評価mPESフィルターモジュール(スペクトラム社)を用いて、エクソソームの漏出なしに220 nmで濾過した培養上清から不要な不溶性タンパク質を除去しながら、EVsを効果的に濃縮することができるかどうかについて調べた。
【0044】
hPBMC細胞またはJurkat E6.1細胞からの培養上清をMWCO 750 kDaフィルターで限外濾過し、EVsを濃縮したものを、MWCO 500 kDaフィルターにより限外濾過したもの、または100,000xgで超遠心分離したものと比較した。それらの粒子径はNTAにより比較した。その結果、500 kDa限外濾過膜濃縮と超遠心法で調製したエクソソームには、径の大きな凝集体が多数認められるのに対し、750 kDa MWCO限外濾過膜濃縮によるものでは、凝集体の出現が抑えられ、エクソソームを150 nm前後の単一粒子に保ちながら濃縮できることがわかった。750 kDaのカットオフフィルターを用いると、500 kDaのカットオフフィルターを使用した場合と比べ、小胞の漏出がほとんど認められず、両種の細胞株の上清は短時間で効率よく20倍以上に濃縮された。また、MWCO 750 kDa濾過で得られたEVsの純度は、超遠心分離法により得られる純度99%以上には到達しなかったが、培養上清のナノサイトによる粒子数測定で得られる全粒指数の97%以上であった(図1)。さらに、750 kDa MWCO限外濾過膜を用いて濃縮すると、エクソソーム粒子の膜外漏出がほとんど起こらないことも判明した。
【0045】
EVsの負電荷の程度に基づく高純度なEVの分画
HEK293.3sus細胞は、数多く(1×1010粒子/mL培地)のEVsを生成した。そこで、まず、HEK293.2sus細胞の培養上清から得られた大量のEVsについてイオン交換カラムクロマトグラフィーを行った。該EV分離の過程において、最大2~5×1011のEVs粒子が8 cm3のDEAE-sepharose樹脂と結合することができることを明らかにした。NaClリニアグラジェントのデータを用いて、タンパク質濃度、粒子数、CD81発現及びRNA含量に基づくHEK293sus EVsの溶出プロファイルを図2に示す。付加された3×1011のEVsのほとんどすべてがカラムに結合し、100%回収された、これは、すべてのEVが負に帯電したものであることを示唆する。また、溶出液は、粒子数で4つのピークを持って溶出し、それぞれ画分I(フラクション(Fr).4~Fr.9)、画分II(Fr.10~12)、画分III(Fr.13~Fr.15)及び画分IV(Fr.16~Fr.18)とした。これらの画分I、II、III及びIVは、それぞれNaCl濃度:0.15 M~0.17 M、0.18 M~0.36 M、0.37 M~0.45 M及び0.46 M~0.52 Mの領域に対応した。EVマーカーとしてのCD81は、ピークIのEVsで強く発現し、画分II、III及びIVからのEVsは、CD81の発現は中程度であった。驚くべきことに、画分IIのEVs中には大量のRNAが含まれるが、これとは対照的に、画分I、III及びIVのEVsにはほとんどRNAが含まれないことが判明した。画分II の108 個のEVs当たりのRNA量は2.8 ngであった。これは、他の3画分よりも6~20倍高かった。マウスCD8+T細胞、マウスCD4+T細胞、hPBMCs、Jurkat細胞及びMolt-4細胞の培養上清を用いた別のクロマトグラフィーでも、HEK293.2sus EVsと類似した溶出プロファイルが得られた。以上のように、これまでエクソソームマーカーとして知られていたCD81の発現強度や、RNA含量、タンパク質含量は各フラクションで全く異なることが判明した (図2)。
【0046】
図3は、MSCへの取り込みに優れたエクソソームフラクションの分取を示す。HEK293.2sus細胞の培養上清から、エクソソームを750 kDa MWCO限外濾過膜で濃縮後、DEAEイオン交換カラムで分離し、得られたフラクションについて、各フラクションに含まれるエクソソームをPKH26蛍光物質で染色し、その標識エクソソームの培養MSCへの取り込みについて検討した。その結果、強いMSC取り込みが観察される機能性を持つと思われるエクソソームは、Fr.12の単一フラクションで得られることが分かった。このように本エクソソーム製造方法は、有効なエクソソームだけを抽出する手段として利用できる。
【0047】
負電荷に依存したMSCsによるEVsの優先的貧食
粒子数、タンパク質濃度、CD81発現及びRNA含量の変動と同様に、MSCsのEV貪食容量は負の電荷によって異なる可能性がある。そのため、イオン交換クロマトグラフィーで得られた各画分からのHEK293.2sus EVsをPKH26で染色し、5×108粒子/mLの濃度でMSC培養液に添加した。驚くべきことに、Fr.12中のEVsのみがMSCsに積極的に貧食されたが、Fr.18中の EVを使用した場合にも、かなりの摂取が示された。これらの結果は、MSCsに容易に取り込まれるEV膜構造が一定のEV負電荷と相関することを示している。さらに、約0.4 MのNaCl(Fr.12)で溶出されたEVsは、細胞間の情報交換のためにRNAを大量に含む機能性エクソソームであると考えられる。一方、FR.18からのEVsは、強力な負電荷によりスカベンジャー受容体発現マクロファージによって分解される可能性がある。したがって、本エクソソーム製造方法では、機能を発現する前に分解されるエクソソームと、機能を発現するエクソソームを分離することが可能である。
【実施例2】
【0048】
〔ヒトPBMCエクソソーム及びマウスCD8+ T細胞エクソソームの分画と生物学的特徴の分析〕
エクソソームの分画
実施例1に記載された方法に従って、ヒトPBMCを11日間培養した培養上清からEVを調整した。得られたEVは、実施例1と同様に、フィルター孔径約50 nm相当のMWCO 750 kDaフィルターによる限外濾過により濃縮後、100 mLのDEAE-sepharose Fast Flow(GEヘルスケア社)を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画した。DEAEセファロースカラムからのEVの溶出は、NaClのリニアグラジエント(0.15 M~0.8 M)で行い、0.15 M~0.5 Mで溶出される全フラクションをプールした。実施例1に記載された方法に従って、DUC18マウスから得られたCD8 T細胞を、7日間培養したの培養上清(4 L)よりEVを調製した。得られたEVは、実施例1と同様に、フィルター孔径約50 nm相当のMWCO 750 kDaフィルターによる限外濾過により濃縮後、100 mLのDEAE-sepharose Fast Flow(GEヘルスケア社)を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画した。DEAEセファロースカラムからのEVの溶出は、NaClのリニアグラジエント(0.15 M~0.8 M)または0.3 M及び0.5 M NaClのステップワイズで行った。リニアグラジエントでEVを溶出した溶出パターンを図5Aに、またステップワイズで溶出した溶出パターンを図5Bに示す。
【0049】
NaClリニアグラジエント分画エクソソームのがん間質傷害活性
図5A(NaClリニアグラジエント溶出)におけるFr.21(0.21~0.3 M NaClで溶出された画分)及びFr.26(0.38 M NaClで溶出された画分)のマウスCD8+ T細胞エクソソームのがん間質傷害活性を比較した。BALB/cマウスに皮下移植した2週間目のCMS5a腫瘍にそれぞれのフラクションのエクソソームを投与し、投与から3日後のCD140a+ Sca-1+の間葉系細胞で構成されるがん間質の存在を免疫組織染色で検討した。その結果、Fr.21(0.21~0.3 Mの間のNaCl濃度で溶出された画分)投与腫瘍は、間葉系のがん間質を失っていたが(図6A)、Fr.26(0.38 M NaClで溶出された画分)投与腫瘍は、間葉系のがん間質が保持されていた(図6B)。この結果から、陰イオン交換カラムクロマトグラフィーにおける溶出塩濃度によって、生物活性を保持するエクソソームと保持しないエクソソームを分離できることが示される。すなわち、上記限外濾過による濃縮後、濃縮液を陰イオン交換カラムクロマトグラフィーに付して分画することにより、機能性エクソソームと非機能性エクソソームとを分離することが可能であることが示される。
【0050】
NaClステップワイズ分画エクソソームの生物学的特徴
上記の結果に基づき、溶出操作が容易なNaClステップワイズ溶出により分画したエクソソームについて、生物学的特徴を比較した。使用したエクソソームは、図5Bにおいて、0.3 M NaCl溶出エクソソーム(0.3 M-Fr.3及び4)及び0.5 M NaCl溶出エクソソーム(0.5 M-Fr.3)である。
【0051】
(ナノ粒子トラッキング分析)
ナノ粒子トラッキング分析(NTA)により比較すると、平均粒子径は、0.3 M NaCl溶出エクソソームが155.8 nmであり、0.5 M NaCl溶出エクソソームは196 nmであった。また、0.3 M NaCl溶出エクソソームは粒子凝集が少ないのに対し、0.5 M NaCl溶出エクソソームでは粒子凝集が多いという結果が得られた(図7)。陰イオン交換クロマトグラフィーにおいて、溶出塩濃度を選ぶことにより、取得されるエクソソームの品質管理が可能であることが示される。適切な塩濃度は、エクソソームが由来する細胞種、動物種、及びイオン交換クロマトグラフィー条件などによって異なる可能性があるが、当業者であれば、溶出塩濃度と得られるエクソソーム品質とを予備的に検討することにより、容易に設定することができる。
【0052】
(ゼータ電位測定)
ゼータ電位測定装置を用いて、陰イオン交換クロマトグラフィーカラム溶出エクソソーム粒子のゼータ電位を、超遠心分離により調製したエクソソーム粒子(実施例1に記載の方法に従って調製)のゼータ電位と比較した。結果を図8に示す。陰イオン交換クロマトグラフィーカラム溶出エクソソームに比較して、超遠心分離により調製したエクソソームはゼータ電位幅が小さく凝集しやすい粒子であることが分かった(図8)。さらに陰イオン交換クロマトグラフィーにより溶出したエクソソームでは、上記の通り、0.3 M NaCl溶出エクソソームは凝集体が少なく、ゼータ電位幅が大きい。一方、0.5 M NaCl溶出エクソソームは、超遠心エクソソームと比較してゼータ電位幅が大きいが、0.3M NaCl溶出エクソソームと比較してゼータ電位幅が小さく、0.3M NaCl溶出エクソソームより凝集しやすいEVであることが示された(図8)。すなわち、エクソソームの粒子凝集の多さは、超遠心分離エクソソーム>0.5 M NaCl溶出エクソソーム>0.3 M NaCl溶出エクソソームとなり、この関係は、ゼータ電位の値と相関することが示される。すなわち、ゼータ電位閾値を予め設定することにより、エクソソームの品質管理または所要のエクソソームの選別が可能であることが示される。
【0053】
(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)による分析)
陰イオン交換クロマトグラフィーカラム溶出エクソソームに含まれるタンパク質を、SDS-PAGEにより分析した結果を図9に示す。SDS-PAGEによる分析法は、当業者には周知である。図9より、0.3 M NaCl溶出エクソソームと0.5 M NaCl溶出エクソソームとを比較すると、エクソソームに含まれるタンパク質の分布が明らかに相違した。この事実は、両エクソソームが、お互いに異なる物性を有することを示唆する。
【0054】
(エクソソームに含まれるRNAの分析)
陰イオン交換クロマトグラフィーカラム溶出エクソソームについて、RMAの存在を検討した結果を図10に示す。図10Aは、0.3 M NaCl溶出エクソソーム及び0.5 M NaCl溶出エクソソーム中に含まれる全RNA(miRNA, tRNA, mRNA及びrRNA)のUV吸収スペクトルである。いずれのエクソソーム画分でも260 nm~270 nmにUV吸収が認められ、RNAが含まれることが示された。バイオアナライザ(Agilent社)によりRNAを分析した。その結果、0.3 M NaCl溶出エクソソーム及び0.5 M NaCl溶出エクソソームとも、低分子RNAを含むことが示された(図10B)。
【0055】
陰イオン交換クロマトグラフィーカラム溶出エクソソームには低分子RNAが含まれることより、カラム溶出エクソソームに含まれるmiRNAの分析を行った(図11)。その結果、0.3 M NaCl溶出エクソソームには、0.5 M NaCl溶出エクソソームと比較し、Let-7類及びmiRNA番号が小さい(2桁の番号)miRNAが多く含まれていることが分かった。これらのmiRNAは機能を有するものが多い。一方、0.5 M NaCl溶出エクソソームには、miRNA番号が大きく(4桁の番号)、未知または機能を持たないmiRNAが多く含まれる。この結果は、0.3 M NaCl溶出エクソソームががん間質傷害という点で機能性エクソソームであり、0.5 M NaCl溶出エクソソームは非機能性エクソソームであることと一致する。陰イオン交換クロマトグラフィーにおけるNaClステップワイズ分画により、機能性エクソソームと非機能性エクソソームとを分離することが可能であることが示される。
【0056】
(エクソソームに含まれるDNAの分析)
陰イオン交換クロマトグラフィーカラム溶出エクソソーム(0.3 M NaCl溶出エクソソーム及び0.5 M NaCl溶出エクソソーム)ならびに超遠心分離エクソソーム(UC)を、DNase I処理した後、Exosomal DNA Extraction kit(101 Bio社)を用いてDNAを抽出し、UV吸収スペクトルを分析した。DNase Iで処理しないエクソソームについても同様にDNAを抽出し、UV吸収スペクトルを分析した。結果を図12に示す。DNase I処理したエクソソームは、「DNase I」で表示し、DNase Iで処理しないエクソソームは「-」で表示した。0.3 M NaCl溶出エクソソームと超遠心分離エクソソームには、DNase I処理に関わらず、260 nm~270 nmにUV吸収が認められず、DNAがほとんど含まれないことが示される。一方、0.5 M NaCl溶出エクソソーム及び超遠心分離エクソソームには、260 nm~270 nmにUV吸収が認められ、またDNase I処理の影響をほとんど受けないことから、0.5 M NaCl溶出エクソソーム及び超遠心分離エクソソームの外側にはDNAがほとんど存在せず、DNAは、エクソソーム内に含まれていることが示される。0.3 M NaCl溶出エクソソームにDNAがほとんど含まれないことは、DNAに対する自己抗体が生じるリスクが低いことを示す。
【実施例3】
【0057】
(ヒトT細胞(PBMC)エクソソームの生物活性)
細胞傷害活性
実施例1に記載された方法に従って、ヒトPBMCsの培養上清を調製し、本発明の方法に従って、イオン交換カラム溶出ヒトT細胞(PBMC)エクソソーム(0.15 M~0.5 M NaClで溶出する全エクソソーム)を調製した。同様にして、ヒトがん細胞(MKN45)由来のイオン交換カラム溶出エクソソームを調製した。比較のために、実施例1に従って、ヒトPBMCsの培養上清より超遠心分離エクソソームを調製した。それぞれ2×10個のMKN45細胞及び肺がん由来CAF(cancer-associated fibroblast;がん間質線維芽細胞)を混合し、非付着性の24ウェルプレートに添加した(Day 0)。翌日(Day 1)に、腫瘍微小環境を模倣したスフェロイドが形成された。Day 1に、上記3種類のエクソソームをそれぞれ2μg/ウェルで添加し、Day 10でスフェロイドが崩壊するかどうか、すなわちCAF領域が消失するかどうかを観察した。結果を図13に示す。イオン交換カラム溶出ヒトT細胞エクソソームを添加すると、スフェロイドが崩壊した。しかしながら、イオン交換カラム溶出ヒトがん細胞エクソソームではスフェロイドの崩壊は認められず、また超遠心分離ヒトT細胞エクソソームでは、スフェロイドの崩壊は弱く認められるのみであった。細胞傷害活性において、イオン交換カラム溶出ヒトT細胞エクソソームは活性を維持しているが、超遠心分離ヒトT細胞エクソソームの活性は大幅に低下していることが分かる。
【0058】
マウスにおける抗腫瘍作用
上記のイオン交換カラム溶出ヒトT細胞エクソソーム、イオン交換カラム溶出ヒトがん細胞エクソソームおよび超遠心分離エクソソームのマウスにおけるヒト腫瘍増殖抑制効果を比較した。それぞれ1.5×10個のNW-MEL-38がん細胞及びhTERT-MSC(Mesenchymal Stem Cells、間葉系幹細胞)と、上記と同様にして調製したイオン交換調製がん細胞(MKN45)エクソソーム、超遠心調製ヒトPBMCエクソソーム、またはイオン交換調製ヒトPBMCエクソソーム5μgとを混合し、ヌードマウスに皮下投与した。エクソソームを投与しない対照群として、NW-MEL-38がん細胞及びhTERT-MSC混合細胞移植群ならびにNW-MEL-38がん細胞のみの移植群を設定した。腫瘍増殖は、皮下移植後26日まで経時的に測定した。結果を図14に示す。NW-MEL-38がん細胞及びhTERT-MSCの混合細胞に基づく腫瘍増殖に対して、イオン交換カラム溶出ヒトがん細胞エクソソームは抑制作用を全く示さなかった。超遠心分離ヒトT細胞エクソソームを投与した場合では、弱い腫瘍増殖抑制作用が認められた。一方、イオン交換カラム溶出ヒトT細胞エクソソームを投与すると、腫瘍増殖速度は、がん細胞単独移植時の腫瘍増殖速度と同程度となり、強い腫瘍増殖抑制効果が観察された。これらの結果より、ヒトT細胞の培養上清を、MWCO 750 kDaフィルターによる限外濾過により濃縮後、陰イオン交換カラムから溶出することにより、機能的なエクソソームを調製できることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14