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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】百日咳毒素結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230719BHJP
   C07K 16/12 20060101ALI20230719BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230719BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230719BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230719BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230719BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230719BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230719BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230719BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/12
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 N
A61P31/04
G01N33/53 D
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021577588
(86)(22)【出願日】2020-07-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-02
(86)【国際出願番号】 CN2020099691
(87)【国際公開番号】W WO2021000886
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】201910584155.7
(32)【優先日】2019-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518034610
【氏名又は名称】スジョウ・アルファマブ・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SUZHOU ALPHAMAB CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Building C23 BioBay,Xinghu Street,No.218 Suzhou,Jiangsu 215125,P.R.China
(74)【復代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】シー、ティン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、シャオシャオ
(72)【発明者】
【氏名】ワン、リン
(72)【発明者】
【氏名】ジュー、ダンミン
(72)【発明者】
【氏名】ガオ、リー
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-511140(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0118817(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0244144(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108254556(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105039259(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) 配列番号1で示されるCDR1、配列番号2で示されるCDR2及び配列番号3で示されるCDR3;
(2) 配列番号4で示されるCDR1、配列番号5で示されるCDR2及び配列番号6で示されるCDR3;
(3) 配列番号7で示されるCDR1、配列番号8で示されるCDR2及び配列番号9で示されるCDR3;
(4) 配列番号10で示されるCDR1、配列番号11で示されるCDR2及び配列番号12で示されるCDR3;
(5) 配列番号13で示されるCDR1、配列番号14で示されるCDR2及び配列番号15で示されるCDR3;
(6) 配列番号16で示されるCDR1、配列番号17で示されるCDR2及び配列番号18で示されるCDR3;
(7) 配列番号19で示されるCDR1、配列番号20で示されるCDR2及び配列番号21で示されるCDR3;
(8) 配列番号22で示されるCDR1、配列番号23で示されるCDR2及び配列番号24で示されるCDR3;
(9) 配列番号25で示されるCDR1、配列番号26で示されるCDR2及び配列番号27で示されるCDR3;
(10) 配列番号28で示されるCDR1、配列番号29で示されるCDR2及び配列番号30で示されるCDR3;
(11) 配列番号31で示されるCDR1、配列番号32で示されるCDR2及び配列番号33で示されるCDR3;
(12) 配列番号34で示されるCDR1、配列番号35で示されるCDR2及び配列番号36で示されるCDR3;
(13) 配列番号37で示されるCDR1、配列番号38で示されるCDR2及び配列番号39で示されるCDR3;
からなる群から選択される、CDR1、CDR2及びCDR3を含有する免疫グロブリンシングル可変ドメインを少なくとも1つ含み、百日咳毒素に特異的に結合することが可能な百日咳毒素結合タンパク質。
【請求項2】
前記免疫グロブリンシングル可変ドメインはVHHである、請求項1に記載の百日咳毒素結合タンパク質。
【請求項3】
前記VHHはヒト化VHHである、請求項2に記載の百日咳毒素結合タンパク質。
【請求項4】
前記VHHは配列番号40~52のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の百日咳毒素結合タンパク質。
【請求項5】
前記VHHは、配列番号40~52のいずれか1つに示される配列に対して少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項3に記載の百日咳毒素結合タンパク質。
【請求項6】
前記ヒト化VHHは配列番号53~85のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含む、請求項3に記載の百日咳毒素結合タンパク質。
【請求項7】
少なくとも2つの免疫グロブリンシングル可変ドメインを含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の百日咳毒素結合タンパク質。
【請求項8】
前記少なくとも2つの免疫グロブリンシングル可変ドメインは、同じエピトープに結合するか、同じエピトープに対する結合について競合し、例えば、前記少なくとも2つの免疫グロブリンシングル可変ドメインは同一である、請求項7に記載の百日咳毒素結合タンパク質。
【請求項9】
前記少なくとも2つの免疫グロブリンシングル可変ドメインは、異なるエピトープに結合するか、同じエピトープに対する結合について競合しない、請求項7に記載の百日咳毒素結合タンパク質。
【請求項10】
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメイン及び第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインを含有し、前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインのN末端に位置し、かつ、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号4で示されるCDR1、配列番号5で示されるCDR2及び配列番号6で示されるCDR3を含み、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号13で示されるCDR1、配列番号14で示されるCDR2及び配列番号15で示されるCDR3を含むか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号13で示されるCDR1、配列番号14で示されるCDR2及び配列番号15で示されるCDR3を含み、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号4で示されるCDR1、配列番号5で示されるCDR2及び配列番号6で示されるCDR3を含むか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号4で示されるCDR1、配列番号5で示されるCDR2及び配列番号6で示されるCDR3を含み、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号22で示されるCDR1、配列番号23で示されるCDR2及び配列番号24で示されるCDR3を含むか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号22で示されるCDR1、配列番号23で示されるCDR2及び配列番号24で示されるCDR3を含み、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号4で示されるCDR1、配列番号5で示されるCDR2及び配列番号6で示されるCDR3を含むか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号4で示されるCDR1、配列番号5で示されるCDR2及び配列番号6で示されるCDR3を含み、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号37で示されるCDR1、配列番号38で示されるCDR2及び配列番号39で示されるCDR3を含むか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号37で示されるCDR1、配列番号38で示されるCDR2及び配列番号39で示されるCDR3を含み、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号4で示されるCDR1、配列番号5で示されるCDR2及び配列番号6で示されるCDR3を含むか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号7で示されるCDR1、配列番号8で示されるCDR2及び配列番号9で示されるCDR3を含み、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号31で示されるCDR1、配列番号32で示されるCDR2及び配列番号33で示されるCDR3を含むか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号31で示されるCDR1、配列番号32で示されるCDR2及び配列番号33で示されるCDR3を含み、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号7で示されるCDR1、配列番号8で示されるCDR2及び配列番号9で示されるCDR3を含むか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号13で示されるCDR1、配列番号14で示されるCDR2及び配列番号15で示されるCDR3を含み、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号31で示されるCDR1、配列番号32で示されるCDR2及び配列番号33で示されるCDR3を含むか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号13で示されるCDR1、配列番号14で示されるCDR2及び配列番号15で示されるCDR3を含み、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号37で示されるCDR1、配列番号38で示されるCDR2及び配列番号39で示されるCDR3を含むか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号31で示されるCDR1、配列番号32で示されるCDR2及び配列番号33で示されるCDR3を含み、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号37で示されるCDR1、配列番号38で示されるCDR2及び配列番号39で示されるCDR3を含むか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号7で示されるCDR1、配列番号8で示されるCDR2及び配列番号9で示されるCDR3を含み、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号13で示されるCDR1、配列番号14で示されるCDR2及び配列番号15で示されるCDR3を含むか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号13で示されるCDR1、配列番号14で示されるCDR2及び配列番号15で示されるCDR3を含み、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号7で示されるCDR1、配列番号8で示されるCDR2及び配列番号9で示されるCDR3を含むか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号7で示されるCDR1、配列番号8で示されるCDR2及び配列番号9で示されるCDR3を含み、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号37で示されるCDR1、配列番号38で示されるCDR2及び配列番号39で示されるCDR3を含むか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号37で示されるCDR1、配列番号38で示されるCDR2及び配列番号39で示されるCDR3を含み、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号7で示されるCDR1、配列番号8で示されるCDR2及び配列番号9で示されるCDR3を含む、請求項9に記載の百日咳毒素結合タンパク質。
【請求項11】
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号41、53~63のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有し、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号44、64~74のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有するか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号44、64~74のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有し、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号41、53~63のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有するか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号41、53~63のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有し、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号47で示されるアミノ酸配列を含有するか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号47で示されるアミノ酸配列を含有し、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号41、53~63のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有するか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号41、53~63のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有し、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号52、75~85のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有するか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号52、75~85のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有し、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号41、53~63のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有するか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号42で示されるアミノ酸配列を含有し、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号50で示されるアミノ酸配列を含有するか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号50で示されるアミノ酸配列を含有し、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号42で示されるアミノ酸配列を含有するか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号44、64~74のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有し、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号50で示されるアミノ酸配列を含有するか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号44、64~74のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有し、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号52、75~85のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有するか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号50で示されるアミノ酸配列を含有し、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号52、75~85のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有するか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号42で示されるアミノ酸配列を含有し、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号44、64~74のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有するか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号44、64~74のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有し、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号42で示されるアミノ酸配列を含有するか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号42で示されるアミノ酸配列を含有し、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号52、75~85のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有するか、
前記第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号52、75~85のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含有し、前記第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号42で示されるアミノ酸配列を含有する、請求項10に記載の百日咳毒素結合タンパク質。
【請求項12】
免疫グロブリンFc領域を更に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の百日咳毒素結合タンパク質。
【請求項13】
前記免疫グロブリンFc領域は、ヒト免疫グロブリンのFc領域、好ましくはヒトIgG1のFc領域である、請求項12に記載の百日咳毒素結合タンパク質。
【請求項14】
前記免疫グロブリンFc領域のアミノ酸配列は配列番号86で示される、請求項13に記載の百日咳毒素結合タンパク質。
【請求項15】
配列番号106~109から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項12~14のいずれか一項に記載の百日咳毒素結合タンパク質。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の百日咳毒素結合タンパク質をコードする核酸分子。
【請求項17】
発現調節エレメントと動作可能に連結した請求項16に記載の核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項18】
請求項16に記載の核酸分子を含有するか又は請求項17に記載の発現ベクターで形質転換された、百日咳毒素結合タンパク質を発現することが可能な組換え細胞。
【請求項19】
請求項1~15のいずれか一項に記載の百日咳毒素結合タンパク質の製造方法であって、前記方法は、
a) 前記百日咳毒素結合タンパク質の発現を可能にする条件で請求項18に記載の組換え細胞を培養する;
b) 前記組換え細胞が発現した百日咳毒素結合タンパク質を工程a)で得た培養物から回収する;並びに
c) 場合によっては、工程b)で得た百日咳毒素結合タンパク質を更に精製及び/又は修飾する、
工程を含む方法。
【請求項20】
請求項1~15のいずれか一項に記載の百日咳毒素結合タンパク質及び薬学的に許容される添加物を含有する医薬組成物。
【請求項21】
対象の百日咳菌感染症治療に使用するための、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
対象の百日咳菌感染症予防に使用するための、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項23】
生物学的試料中の百日咳毒素の存在及び/又は量を検出する方法であって、前記方法は、
(a) 請求項1~15のいずれか一項に記載の百日咳毒素結合タンパク質と百日咳毒素の複合体を形成することができる条件で、前記生物学的試料及び対照を前記百日咳毒素結合タンパク質と接触させる;
(b) 前記複合体形成を検出する
工程を含み、
前記生物学的試料と前記対照における前記複合体形成の差は、前記試料中の百日咳毒素の存在及び/又は量を示す、方法。
【請求項24】
請求項1~15のいずれか一項に記載の百日咳毒素結合タンパク質を含有するキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物医学の分野に関し、抗百日咳毒素(PT)シングルドメイン抗体及びその誘導体タンパク質を開示する。具体的には、百日咳毒素結合タンパク質とその用途を開示する。
【背景技術】
【0002】
百日咳菌(Bordetella pertussis)は、上気道に感染して制御不能な激しい咳を引き起こすグラム陰性菌である。世界保健機関によれば、百日咳菌感染症は、主にワクチンを接種していない年少幼児の間で、世界中で毎年推定30万人の死亡を引き起こしている。百日咳の赤ちゃんは、しばしば小児集中治療室に入る必要があり、その治療には、通常、人工呼吸器が用いられる。成人の百日咳は、通常、咳が長期間持続する。百日咳の発生率は、ワクチン未接種及びワクチン接種が不十分な人(完全にワクチン接種されていない乳児を含む)、時間の経過とともに免疫力が低下した人及び無症候性キャリアの曝露により増加した。
【0003】
これまでの百日咳ワクチンは、長期的な防御を提供しないことが報告された。承認された百日咳の治療ワクチンはない。抗生物質による処置で百日咳菌を気道から排除することはできるものの、抗生物質は百日咳毒素タンパク質を中和しないので、百日咳の治療で主要な役割を果たさない。さらに、途上国では、既存の百日咳ワクチン(ただし欠陥がある)を継続して入手することができず、非常に困難である。したがって、より効果的に百日咳を治療する必要性が依然としてある。
【発明の概要】
【0004】
ある側面において、本発明は、
(1) 配列番号1で示されるCDR1、配列番号2で示されるCDR2及び配列番号3で示されるCDR3;
(2) 配列番号4で示されるCDR1、配列番号5で示されるCDR2及び配列番号6で示されるCDR3;
(3) 配列番号7で示されるCDR1、配列番号8で示されるCDR2及び配列番号9で示されるCDR3;
(4) 配列番号10で示されるCDR1、配列番号11で示されるCDR2及び配列番号12で示されるCDR3;
(5) 配列番号13で示されるCDR1、配列番号14で示されるCDR2及び配列番号15で示されるCDR3;
(6) 配列番号16で示されるCDR1、配列番号17で示されるCDR2及び配列番号18で示されるCDR3;
(7) 配列番号19で示されるCDR1、配列番号20で示されるCDR2及び配列番号21で示されるCDR3;
(8) 配列番号22で示されるCDR1、配列番号23で示されるCDR2及び配列番号24で示されるCDR3;
(9) 配列番号25で示されるCDR1、配列番号26で示されるCDR2及び配列番号27で示されるCDR3;
(10) 配列番号28で示されるCDR1、配列番号29で示されるCDR2及び配列番号30で示されるCDR3;
(11) 配列番号31で示されるCDR1、配列番号32で示されるCDR2及び配列番号33で示されるCDR3;
(12) 配列番号34で示されるCDR1、配列番号35で示されるCDR2及び配列番号36で示されるCDR3;
(13) 配列番号37で示されるCDR1、配列番号38で示されるCDR2及び配列番号39で示されるCDR3、
からなる群から選択される、CDR1、CDR2及びCDR3を含有する免疫グロブリンシングル可変ドメインを少なくとも1つ含み、百日咳毒素に特異的に結合することが可能な百日咳毒素結合タンパク質を提供する。
【0005】
ある側面において、本発明は、本発明の百日咳毒素結合タンパク質をコードする核酸分子を提供する。
【0006】
ある側面において、本発明は、発現調節エレメントと動作可能に連結した本発明の核酸分子を含む発現ベクターを提供する。
【0007】
ある側面において、本発明は、本発明の核酸分子を含有するか又は本発明の発現ベクターで形質転換され、百日咳毒素結合タンパク質を発現することが可能な組換え細胞を提供する。
【0008】
ある側面において、本発明は、
a) 百日咳毒素結合タンパク質の発現を可能にする条件で本発明の組換え細胞を培養する;
b) 組換え細胞が発現した百日咳毒素結合タンパク質を工程a) で得た培養物から回収する;並びに
c) 場合によっては、工程b) で得た百日咳毒素結合タンパク質を更に精製及び/又は修飾する、
工程を含む、本発明の百日咳毒素結合タンパク質の製造方法を提供する。
【0009】
ある側面において、本発明は、本発明の百日咳毒素結合タンパク質及び薬学的に許容される添加物を含有する医薬組成物を提供する。
【0010】
ある側面において、本発明は、対象の百日咳菌感染症を治療する方法であって、本発明の百日咳毒素結合タンパク質又は本発明の医薬組成物の有効量を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0011】
ある側面において、本発明は、対象の百日咳菌感染症を予防する方法であって、本発明の百日咳毒素結合タンパク質又は本発明の医薬組成物の有効量を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0012】
ある側面において、本発明は、
(a) 百日咳毒素結合タンパク質と百日咳毒素の複合体の形成を可能にする条件で、生物学的試料及び対照、それぞれを本発明の百日咳毒素結合タンパク質と接触させる;
(b) 複合体形成を検出する、
工程を含む、生物学的試料中の百日咳毒素の存在及び/又は量を検出する方法を提供し、ここで、生物学的試料及び対照における複合体形成の差は、試料中の百日咳毒素の存在及び/又は量を示す。
【0013】
ある側面において、本発明は、本発明の百日咳毒素結合タンパク質を含有するキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1はPT毒素に対する20μg/用量の単回投与による生存曲線を示す。
図2図2はPT毒素に対する40μg/用量の単回投与による生存曲線を示す。
図3図3はPT毒素に対する20μg/用量の複数回投与による生存曲線を示す。
図4図4はPT毒素に対する40μg/用量の複数回投与による生存曲線を示す。
図5図5はPT毒素に対する20μg/用量又は40μg/用量の複数回投与による生存曲線を示す。
図6図6はiPT7ヒト化変異体のアミノ酸配列のアラインメントを示す。
図7図7はiPT15ヒト化変異体のアミノ酸配列のアラインメントを示す。
図8図8はiPT42ヒト化変異体のアミノ酸配列のアラインメントを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
特に明記され、また定義されていない限り、使用された全ての用語は、当該技術分野における一般的な意味を有し、当業者は理解する。例えば、Sambrook et al., “Molecular cloning: a laboratory manual” (2nd edition), volumes 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989);Lewin,“Genes IV”, Oxford University Press, New York (1990)及びRoitt et al., “Immunology” (2nd edition), Gover Medical Publishing, London, New York (1989)といった標準的なマニュアル、並びに本明細書中で引用する一般的な先行技術を参照;加えて、特に言及しない限り、具体的に説明していない全ての方法、工程、技術及び操作は、当業者が理解するそれ自体が知られている方法で行うことができ、また行われてきた。また、例えば、標準的なマニュアル、上述した一般的な先行技術及びそこで引用されている他の参考文献も参照。
【0016】
他で特定しない限り、「抗体」と「免疫グロブリン」という用語は、それが本明細書において重鎖抗体又は従来型の4本鎖抗体を意味するか否かにかかわらず、同じ意味で使用され、完全長抗体、その一本鎖、及びその全ての部分、ドメイン又は断片(VHHドメイン若しくはVH/VLドメインといった抗原結合ドメイン又は断片を含むがこれらには限定されない)を含む一般的な用語として使用される。さらに、本明細書における用語「配列」(「免疫グロブリン配列」、「抗体配列」、「シングル可変ドメイン配列」、「VHH配列」又は「タンパク質配列」など)は、明細書中でより限定することが必要な場合を除き、関連するアミノ酸配列のみならず、当該配列をコードする核酸配列又はヌクレオチド配列も含むと一般に理解されるべきである。
【0017】
本明細書において、(ポリペプチド又はタンパク質の)「ドメイン」という用語は、折り畳まれたタンパク質の構造、すなわち、タンパク質の残りの部分から独立してその三次構造を維持することができる構造を指す。一般に、ドメインはタンパク質の個々の機能に関与し、多くの場合、タンパク質及び/又はドメインの残りの機能を失うことなく、他のタンパク質に追加し、除去し、又は移動することができる。
【0018】
本明細書において、用語「免疫グロブリンドメイン」は、抗体鎖(例.従来型の4本鎖抗体又は重鎖抗体の鎖)の球状領域又は基本的にそのような球状領域で構成されたポリペプチドを指す。免疫グロブリンドメインは、抗体分子の免疫グロブリンフォールディング特性が維持されていることを特徴とする。
【0019】
本明細書において、用語「免疫グロブリン可変ドメイン」は、当該技術分野及び本明細書において、「フレームワーク領域1」又は「FR1」、「フレームワーク領域2」又は「FR2」、「フレームワーク領域3」又は「FR3」及び「フレームワーク領域4」又は「FR4」と呼ばれる4つの「フレームワーク領域」から基本的になる免疫グロブリンドメインを指し、これらのフレームワーク領域は、それぞれ、「相補性決定領域1」又は「CDR1」、「相補性決定領域2」又は「CDR2」及び「相補性決定領域3」又は「CDR3」と呼ばれる3つの「相補性決定領域」によって隔てられている。したがって、免疫グロブリン可変ドメインの一般的な構造又は配列は、以下のように表すことができる:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4。免疫グロブリン可変ドメインは、その抗原結合部位により、抗体に抗原に対する特異性を付与する。
【0020】
本明細書において、用語「免疫グロブリンシングル可変ドメイン」は、他の免疫グロブリン可変ドメインとペアを形成することなくエピトープに特異的に結合することが可能な免疫グロブリン可変ドメインを指す。免疫グロブリンシングル可変ドメインのVH及びVL(VHドメイン及びVLドメイン)といった「ドメイン抗体」は、本発明における免疫グロブリンシングル可変ドメインの一例である。免疫グロブリンシングル可変ドメインの別の例は、ラクダ科の以下で説明する「VHHドメイン」(又は単に「VHH」)である。
【0021】
重鎖シングルドメイン抗体、VHHドメイン、VHH抗体断片及びVHH抗体としても知られている「VHHドメイン」は、「重鎖抗体(すなわち、軽鎖を欠く抗体)」と呼ばれる抗原結合免疫グロブリンの可変ドメインである(Hamers-Casterman C, Atarhouch T, Muyldermans S, Robinson G, Hamers C, Songa EB, Bendahman N, Hamers R.: “Naturally occurring antibodies devoid of light chains”; Nature 363,446-448(1993))。「VHHドメイン」という用語は、前記可変ドメインを、共に従来型の4本鎖抗体に存在する重鎖可変ドメイン(「VHドメイン」という)及び軽鎖可変ドメイン(「VLドメイン」という)と区別するために用いられる。VHHドメインは、他の抗原結合ドメインなしでエピトープに特異的に結合する(これは、VHドメインとVLドメインの両者によってエピトープを認識する従来型の4本鎖抗体のVH又はVLドメインとは対照的である)。VHHドメインは、単一の免疫グロブリンドメインによって形成される、小さく、安定で、効率的な抗原認識単位である。
【0022】
本発明では、「重鎖シングルドメイン抗体」、「VHHドメイン」、「VHH」、「VHHドメイン」、「VHH抗体断片」及び「VHH抗体」という用語は、同じ意味で用いられる。
【0023】
例えば、Riechmann and Muyldermans, J. Immunol. Methods 231,25-38 (1999)の図2に示すように、ラクダ科のVHHドメインで使用するアミノ酸残基は、Kabatら(Kabat et al. Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))によるVHドメインの一般的なナンバリング方法に従ってナンバリングすることができる。
【0024】
当該技術分野では、VHドメインのアミノ酸残基をナンバリングする別の方法も知られている。例えば、ChothiaのCDRは、構造ループの位置を指す(Chothia and Lesk, J. mol. Biol. 196:901-917 (1987))。AbMのCDRは、Kabatの超可変領域とChothiaの構造ループの間の妥協点で、抗体モデリングソフトウェアであるOxford MolecularのAbMを使用する。「Contact」のCDRは、利用可能な複合体の結晶構造の分析に基づく。各方法におけるCDR残基は以下のとおりである。
【0025】
【表A】
【0026】
しかし、当該技術分野では、VHドメイン及びVHHドメインでよく知られているように、上記CDRのアミノ酸残基の総数は異なる場合があり、Kabatのナンバリングで示されるアミノ酸残基の総数に対応しない場合があることに注意する必要がある(すなわち、Kabatのナンバリングによる1つ以上の位置は、実在する配列では占有されない場合があり、又は、実在する配列では、Kabatのナンバリングよりも多くのアミノ酸残基を含む場合がある)。このことは、一般に、Kabatのナンバリングが、実在する配列のアミノ酸残基のナンバリングに対応する場合と対応しない場合があることを意味する。
【0027】
例えば、CDRには、VLに24~36又は24~34(LCDR1)、46~56又は50~56(LCDR2)及び89~97又は89~96(LCDR3);VHに26~35(HCDR1)、50~65又は49~65(HCDR2)及び93~102、94~102又は95~102(HCDR3)といった拡張したCDRを含めることができる。
【0028】
VHHドメインのアミノ酸残基の総数は通常110~120で、多くの場合112~115である。しかし、本願発明では、これよりも短い配列及び長い配列も適している場合がある点に留意されたい。
【0029】
VHHドメイン及びそれを含むポリペプチドの他の構造的及び機能的な特性は、以下のように要約することができる。
【0030】
VHHドメインは、軽鎖可変ドメインを欠き、軽鎖可変ドメインと相互作用することなく抗原に機能的に結合するように自然に「設計」されており、比較的小さい単一の機能的な抗原に結合する構造単位、ドメイン又はポリペプチドとして使用できる。これにより、通常、それ自体は単一の抗原結合タンパク質又は免疫グロブリンシングル可変ドメインとしての実際の適用には適しておらず、機能的な抗原結合単位(例.Fab断片などの従来型の抗体断片の形態又はVLドメインとVHドメインが共有結合したscFvの形態)を提供するためには、何らかの形又は別の形で組み合わせる必要がある、従来型の4本鎖抗体のVH及びVLドメインと、VHHドメインが区別される。
【0031】
これらのユニークな特性のために、-単独で又は大きなポリペプチドの一部として-VHHドメインを使用することは、従来型のVH及びVLドメイン、scFv、又は従来型の抗体断片(例.Fab断片又はF(ab’)2断片)を使用するよりも非常に優れた多くの利点が得られ:高い親和性と選択性で抗原に結合するために必要なドメインは1つであり、2つの別々のドメインが存在する必要性も、これら2つのドメインが適切な立体配置及び立体配座の関係にあることを確保する必要性もなく(例えば、scFvは通常、特別に設計されたリンカーが必要である);VHHドメインは、翻訳後にフォールディングや修飾されることなく、単一の遺伝子から発現させることができ;VHHドメインは、多価及び多重特異性の形式に容易く変換でき;VHHドメインは、溶解性が高く、凝集する傾向がなく;VHHドメインは、熱、pH、プロテアーゼ及びその他の変性剤又は状態に対して非常に安定しているため、冷却装置を使用せずに製造、保管又は輸送することができ、コスト、時間及び設備の節約につながり;VHHドメインは、生産に必要な規模であっても、製造が簡単で、比較的安価であり;VHHドメインは、従来型の4本鎖抗体及びその抗原結合断片と比較して、小さく(約15kDa又は従来型のIgGの1/10のサイズ)、組織透過性が高く、高用量で投与でき;VHHドメインは、(特に、従来型のVHドメインと比較して拡張したCDR3ループのため)いわゆるキャビティー結合特性を示すことができ、その結果、従来型の4本鎖抗体及びその抗原結合断片が到達できない標的及びエピトープに到達できる。
【0032】
特定の抗原又はエピトープに結合するVHHを得る方法は、以下の文献において説明されている:R. van der Linden et al., Journal of Immunological Methods, 240 (2000) 185-195; Li et al., J Biol Chem., 287 (2012) 13713-13721;Deffar et al., African Journal of Biotechnology Vol. 8 (12), pp. 2645-2652, 17 June, 2009及び国際公開第94/04678号。
【0033】
ラクダ科のVHHドメインは、元のVHH配列のアミノ酸配列の1つ以上のアミノ酸残基を、ヒトの従来型の4本鎖抗体のVHドメインの対応する位置の1つ以上のアミノ酸残基で置換することでヒト化することができる(本明細書では「配列最適化」ともいい、ヒト化に加え、「配列最適化」は、潜在的な翻訳後修飾部位の削除など、VHHの特性を改善する1つ以上の変異による配列の他の修飾も包含できる)。ヒト化VHHドメインは、1つ以上の完全なヒトフレームワーク配列を含むことができる。ヒト化は、タンパク質表面のアミノ酸のヒト化(リサーフェシング)及び/又は実施例で説明するユニバーサルフレームワークへのCDRの移植によって行ってもよい。
【0034】
本明細書において、用語「エピトープ」と「抗原決定基」は同じ意味で用いられ、抗体中の抗原に対する相補的部位が結合する部分を指す。一般に、抗原決定基は、アミノ酸や糖の側鎖といった分子の化学的に活性な表面基を含み、通常、特定の三次元構造と電荷を有している。例えば、エピトープには、通常、立体配座中の少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15個の連続又は不連続なアミノ酸が含まれ、「リニア」エピトープ又は「コンフォメーショナル」エピトープであってもよい。例えば、Epitope mapping protocols in methods in molecular biology, Vol. 66, G.E. Morris, Ed. (1996)を参照。リニアエピトープでは、タンパク質と相互作用分子(抗体など)の間の全ての相互作用点は、タンパク質のアミノ酸の一次配列に沿って直線状に存在する。コンフォメーショナルエピトープでは、相互作用点は、タンパク質のアミノ酸残基全体に互いに離れて存在する。
【0035】
当該技術分野において周知のエピトープマッピング技術を使用して、抗原のエピトープを特定することができる。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, G.E. Morris, Ed. (1996)を参照。例えば、リニアエピトープは、例えば、以下の方法によって決定することができる:固体支持体上でタンパク質分子のさまざまな部分に対応する多数のペプチドを同時に合成し、支持体に結合した状態のペプチドを抗体と反応させる。これらの技術は当該技術分野において公知で、例えば、米国特許第4,708,871号;Geysen et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:3998-4002;Geysen et al. (1986) Molec. Immunol. 23:709-715に記載されている。同様に、コンフォメーショナルエピトープは、例えば、X線結晶及び2次元核磁気共鳴によって、アミノ酸の立体配置を決定することにより特定することができる。例えば、Epitope Mapping Protocols(同上)を参照。
【0036】
当業者に知られている一般的な技術を使用して、同じエピトープに競合的に結合する抗体をスクリーニングすることができる。例えば、競合実験及び交差競合実験を行い、抗原との結合について互いに競合又は交差競合する抗体を得てもよい。交差競合に基づいて同じエピトープに結合する抗体を得るハイスループットな方法は、国際公開第03/48731号に記載されている。したがって、当業者に知られている一般的な技術を使用して、百日咳毒素の同じエピトープに対する結合について本発明の抗体分子と競合する抗体及びその抗原結合断片を得ることができる。
【0037】
一般に、用語「特異性」は、特定の抗原結合分子又は抗原結合タンパク質(本発明の免疫グロブリンシングル可変ドメインなど)が結合することができる異なる抗原又はエピトープの数を指す。抗原結合タンパク質の特異性は、その親和性及び/又は結合力に基づいて決定することができる。抗原と抗原結合タンパク質の間の解離平衡定数(KD)によって表される親和性は、エピトープと抗原結合タンパク質上の抗原結合部位との間の結合強度の尺度であり:KD値が小さいほど、エピトープと抗原結合タンパク質間の結合強度が大きくなる(又は、親和性は、KDの逆数である結合定数(KA)として表すこともできる)。当業者が理解するように、親和性は抗原に応じて、既知の方法で決定することができる。親和性は、抗原結合タンパク質(例.免疫グロブリン、抗体、免疫グロブリンシングル可変ドメイン又はこれらを含むポリペプチド)と抗原との間の結合強度の尺度である。親和性は、抗原結合タンパク質上の抗原結合部位の間の親和性と、抗原結合タンパク質上に存在する結合部位の数の両者に関連している。
【0038】
本明細書において、用語「百日咳毒素結合タンパク質」は、百日咳毒素に特異的に結合することが可能な任意のタンパク質を意味する。百日咳毒素結合タンパク質は、本明細書で説明する百日咳毒素に対する抗体を含んでいてもよい。百日咳毒素結合タンパク質は、免疫グロブリンスーパーファミリー抗体(IgSF)又はCDRグラフト化分子も包含する。
【0039】
「百日咳毒素」は、百日咳菌(Bordetella pertussis、B. pertussis)に由来するマルチサブユニットタンパク質毒素で、Gタンパク質に特異的に作用し、シグナル伝達経路におけるGタンパク質の機能を阻害する可能性がある。百日咳毒素は、サブユニットS1、サブユニットS2、サブユニットS3、サブユニットS4及びサブユニットS5から成り、そのアミノ酸配列はUniProtKBデータベースにあり、対応するアクセッション番号は、それぞれP04977、P04978、P04979、P0A3R5及びP04981である。
【0040】
本発明の「百日咳毒素結合タンパク質」は、少なくとも1つの百日咳毒素に結合する免疫グロブリンシングル可変ドメイン(例.VHH)を含んでいてもよい。いくつかの態様では、本発明の「百日咳毒素結合タンパク質」は、2、3、4又はそれ以上の百日咳毒素に結合する免疫グロブリンシングル可変ドメイン(例.VHH)を含んでもいてもよい。百日咳毒素に結合する免疫グロブリンシングル可変ドメインに加え、本発明の百日咳毒素結合タンパク質は、リンカー、半減期延長部分(例.血清アルブミンに結合する免疫グロブリンシングル可変ドメイン)のような部分、融合パートナー(例.血清アルブミン)、共役ポリマー(例.PEG)及び/又はFc領域も含んでいてもよい。いくつかの態様では、本発明の「百日咳毒素結合タンパク質」は、別の抗原に結合する免疫グロブリンシングル可変ドメインを含む二重特異性抗体も包含する。
【0041】
一般に、本発明の百日咳毒素結合タンパク質は、Biacore、KinExA又はFortibioアッセイで測定した場合、好ましくは10-7~10-10mol/L(M)、より好ましくは10-8~10-10mol/L、さらにより好ましくは10-9~10-10mol/L若しくはそれ以下の解離定数(KD)で、及び/又は、少なくとも10-1、好ましくは少なくとも10-1、より好ましくは少なくとも10-1、さらにより好ましくは少なくとも1010-1の会合定数(KA)で、抗原(百日咳毒素)に結合する可能性がある。10-4mを超えるKDの値は、一般に非特異的な結合の指標と見なされる。抗原結合タンパク質の抗原又はエピトープへの特異的な結合は、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイ、スキャッチャードアッセイ及び/又は本明細書で説明した競合的結合アッセイ(例.ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素イムノアッセイ(EIA)並びにサンドイッチ及び競合アッセイ)を含む公知の適切な方法で確認することができる。
【0042】
アミノ酸残基は、当該技術分野において周知かつ合意されている標準的な3文字又は1文字のアミノ酸コードに従って表される。2つのアミノ酸配列を比較する場合、用語「アミノ酸差」は、別の配列と比較した、参照配列の特定の位置での特定の数のアミノ酸残基の付加、欠失又は置換を指す。置換の場合、これは好ましくは保存的アミノ酸置換で、アミノ酸残基が同様の化学構造を有する別のアミノ酸残基に置き換えられていることを意味し、ポリペプチドの機能、活性又は他の生物学的特性に、ほとんど又はまったく影響を及ぼさない。保存的アミノ酸置換は当該技術分野において周知で、例えば、保存的アミノ酸置換は、好ましくは、以下の(i)~(v)の群の1つのアミノ酸が同じ群の別のアミノ酸残基で置換されることである:(i) 脂肪族で非極性又は弱い極性の小さな残基:Ala、Ser、Thr、Pro及びGly;(ii) 負に帯電した残基及びその(非帯電)アミド:Asp、Asn、Glu及びGln;(iii) 正に帯電した残基:His、Arg及びLys;(iv) 脂肪族で非極性の大きな残基:Met、Leu、Ile、Val及びCys;並びに (v) 芳香族残基:Phe、Tyr及びTrp。特に好ましい保存的アミノ酸置換は以下のとおり:AlaからGly/Serへの置換;ArgからLysへの置換;AsnからGln/Hisへの置換;AspからGluへの置換;CysからSerへの置換;GlnからAsnへの置換;GluからAspへの置換;Gly-Ala/Proへの置換;HisからAsn/Glnへの置換;IleからLeu/Valへの置換;LeuからIle/Valへの置換;LysからArg/Gln/Gluへの置換;MetからLeu/Tyr/Ileへの置換;PheからMet/Leu/Tyrへの置換;SerからThrへの置換;ThrからSerへの置換;TrpからTyrへの置換;TyrからTrp/Pheへの置換;ValからIle/Leuへの置換。
【0043】
2つのポリペプチドの配列間の「配列同一性」は、2つの配列の間で同一のアミノ酸の割合を示す。「配列類似性」は、同一又は保存的アミノ酸置換であるアミノ酸の割合を示す。アミノ酸又はヌクレオチド間の配列同一性の程度を評価する方法は、当業者間で公知である。例えば、アミノ酸配列の同一性は、通常、配列分析ソフトウェアを使用して算出される。例えば、NCBIのデータベースのBLASTプログラム用いて、同一性を決定できる。配列同一性の決定については、例えば、Computational Molecular Biology, Lesk, A.M., ed., Oxford University Press, New York, 1988;Biocomputing: Informatics and Genome Projects, Smith, D.W., ed., Academic Press, New York, 1993;Computer Analysis of Sequence Data, Part I, Griffin, A.M., and Griffin, H.G., eds., Humana Press, New Jersey, 1994;Sequence Analysis in Molecular Biology, von Heinje, G., Academic Press, 1987及びSequence Analysis Primer, Gribskov, M. and Devereux, J., eds., M Stockton Press, New York, 1991を参照。
【0044】
ポリペプチド若しくは核酸分子の天然の供給源及び/又はポリペプチド若しくは核酸分子を得るために用いる反応培地若しくは培養培地と比較して、ポリペプチド又は核酸分子が、供給源又は培地(培養培地)中の少なくとも1つの他の通常関連する成分(別のタンパク質/ポリペプチド、別の核酸、別の生物学的成分若しくは高分子、又は少なくとも1つの汚染物質、不純物若しくは微量成分など)から分離されている場合、ポリペプチド又は核酸分子は「単離された」と見なされる。特に、ポリペプチド又は核酸分子は、少なくとも2回、特に少なくとも10回、より具体的には少なくとも100回又は最大1000回以上精製された場合に「単離された」と見なされる。「単離された」ポリペプチド又は核酸分子は、適切な技術(例.ポリアクリルアミドゲル電気泳動などの適切なクロマトグラフィー技術)で確認した場合、好ましくは実質的に均質である。
【0045】
「有効量」とは、本発明の百日咳毒素結合タンパク質又は医薬組成物の量が、重症度を低下させ、発症していない時間と頻度を増加させ、又は怪我若しくは障害を予防する可能性があることを意味する。
【0046】
本明細書において、用語「対象」は、哺乳動物、特に霊長類、とりわけヒトを指す。
【0047】
本発明の百日咳毒素結合タンパク質
本発明は、百日咳毒素に特異的に結合することが可能な免疫グロブリンシングル可変ドメインを少なくとも1つ含む百日咳毒素結合タンパク質を提供する。
【0048】
いくつかの態様では、少なくとも1つの免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号40~52のいずれか1つで示されるVHH中のCDR1、CDR2及びCDR3を含む。CDRは、KabatのCDR、AbMのCDR、ChothiaのCDR又はContactのCDRである可能性がある。いくつかの態様では、CDRはKabatのCDRである。
【0049】
いくつかの態様では、少なくとも1つの免疫グロブリンシングル可変ドメインは、
(1) 配列番号1で示されるCDR1、配列番号2で示されるCDR2及び配列番号3で示されるCDR3(iPT3のCDRに対応);
(2) 配列番号4で示されるCDR1、配列番号5で示されるCDR2及び配列番号6で示されるCDR3(iPT7のCDRに対応);
(3) 配列番号7で示されるCDR1、配列番号8で示されるCDR2及び配列番号9で示されるCDR3(iPT12のCDRに対応);
(4) 配列番号10で示されるCDR1、配列番号11で示されるCDR2及び配列番号12で示されるCDR3(iPT13のCDRに対応);
(5) 配列番号13で示されるCDR1、配列番号14で示されるCDR2及び配列番号15で示されるCDR3(iPT15のCDRに対応);
(6) 配列番号16で示されるCDR1、配列番号17で示されるCDR2及び配列番号18で示されるCDR3(iPT20のCDRに対応);
(7) 配列番号19で示されるCDR1、配列番号20で示されるCDR2及び配列番号21で示されるCDR3(iPT21のCDRに対応);
(8) 配列番号22で示されるCDR1、配列番号23で示されるCDR2及び配列番号24で示されるCDR3(iPT22のCDRに対応);
(9) 配列番号25で示されるCDR1、配列番号26で示されるCDR2及び配列番号27で示されるCDR3(iPT26のCDRに対応);
(10) 配列番号28で示されるCDR1、配列番号29で示されるCDR2及び配列番号30で示されるCDR3(iPT28のCDRに対応);
(11) 配列番号31で示されるCDR1、配列番号32で示されるCDR2及び配列番号33で示されるCDR3(iPT35のCDRに対応);
(12) 配列番号34で示されるCDR1、配列番号35で示されるCDR2及び配列番号36で示されるCDR3(iPT36のCDRに対応);
(13) 配列番号37で示されるCDR1、配列番号38で示されるCDR2及び配列番号39で示されるCDR3(iPT42のCDRに対応)
からなる群から選択されるCDR1、CDR2及びCDR3を含む。
【0050】
いくつかの態様では、本発明の百日咳毒素結合タンパク質における免疫グロブリンシングル可変ドメインの少なくとも1つは、VHHである。いくつかの態様では、VHHは配列番号40~52で示されるアミノ酸配列のいずれか1つを含む。
【0051】
いくつかの態様では、本発明の百日咳毒素結合タンパク質における免疫グロブリンシングル可変ドメインの少なくとも1つは、ヒト化VHHである。
【0052】
いくつかの態様では、本発明の百日咳毒素結合タンパク質における免疫グロブリンシングル可変ドメインの少なくとも1つは、配列番号40~52で示される配列のいずれか1つに対して配列同一性が少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも99%のアミノ酸配列を含むヒト化VHHである。いくつかの態様では、ヒト化VHHは、配列番号40~52で示されるアミノ酸配列のいずれか1つに対して、1つ以上のアミノ酸置換を含む。例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の保存的アミノ酸置換が含まれる。
【0053】
いくつかの態様では、本発明の百日咳毒素結合タンパク質における免疫グロブリンシングル可変ドメインの少なくとも1つはヒト化VHHであり、前記ヒト化VHHは配列番号53~85で示されるアミノ酸配列のいずれか1つを含む。
【0054】
いくつかの態様では、百日咳毒素結合タンパク質は、百日咳毒素に特異的に結合する免疫グロブリンシングル可変ドメインを1つ含む。
【0055】
いくつかの態様では、百日咳毒素結合タンパク質は、百日咳毒素に特異的に結合する免疫グロブリンシングル可変ドメインを少なくとも2つ、例えば、2、3、4又はそれ以上、含む。
【0056】
いくつかの態様では、少なくとも2つの免疫グロブリンシングル可変ドメインは、同じエピトープに結合するか、又は、同じエピトープに対する結合について競合するか、部分的に競合し、例えば、少なくとも2つの免疫グロブリンシングル可変ドメインは同一である。
【0057】
いくつかの態様では、少なくとも2つの免疫グロブリンシングル可変ドメインは、異なるエピトープに結合するか、又は、同じエピトープに対する結合について競合しない。
【0058】
2つの抗体若しくは免疫グロブリンシングル可変ドメインが同じエピトープに結合するか、又は、同じエピトープに対する結合について競合するかどうかは、本発明の実施例に示されたバイオレイヤー干渉法(BLI)によるエピトープビニングで決定することができる。
【0059】
いくつかの態様では、百日咳毒素に特異的に結合する少なくとも2つの免疫グロブリンシングル可変ドメインは、直接連結している。
【0060】
いくつかの態様では、百日咳毒素に特異的に結合する少なくとも2つの免疫グロブリンシングル可変ドメインは、リンカーを介して相互に連結している。リンカーは、二次構造及び上記構造を含まない1~20以上のアミノ酸長の非機能的アミノ酸配列であってもよい。例えば、リンカーは、GGGGS、GS、GAP、(GGGGS)×3などのフレキシブルなリンカーである。
【0061】
いくつかの態様では、百日咳毒素結合タンパク質は、第一の免疫グロブリンシングル可変ドメイン及び第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインを含み、第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインのN末端に位置し、かつ、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号4で示されるCDR1、配列番号5で示されるCDR2及び配列番号6で示されるCDR3を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号13で示されるCDR1、配列番号14で示されるCDR2及び配列番号15で示されるCDR3を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号13で示されるCDR1、配列番号14で示されるCDR2及び配列番号15で示されるCDR3を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号4で示されるCDR1、配列番号5で示されるCDR2及び配列番号6で示されるCDR3を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号4で示されるCDR1、配列番号5で示されるCDR2及び配列番号6で示されるCDR3を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号22で示されるCDR1、配列番号23で示されるCDR2及び配列番号24で示されるCDR3を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号22で示されるCDR1、配列番号23で示されるCDR2及び配列番号24で示されるCDR3を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号4で示されるCDR1、配列番号5で示されるCDR2及び配列番号6で示されるCDR3を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号4で示されるCDR1、配列番号5で示されるCDR2及び配列番号6で示されるCDR3を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号37で示されるCDR1、配列番号38で示されるCDR2及び配列番号39で示されるCDR3を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号37で示されるCDR1、配列番号38で示されるCDR2及び配列番号39で示されるCDR3を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号4で示されるCDR1、配列番号5で示されるCDR2及び配列番号6で示されるCDR3を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号7で示されるCDR1、配列番号8で示されるCDR2及び配列番号9で示されるCDR3を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号31で示されるCDR1、配列番号32で示されるCDR2及び配列番号33で示されるCDR3を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号31で示されるCDR1、配列番号32で示されるCDR2及び配列番号33で示されるCDR3を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号7で示されるCDR1、配列番号8で示されるCDR2及び配列番号9で示されるCDR3を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号13で示されるCDR1、配列番号14で示されるCDR2及び配列番号15で示されるCDR3を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号31で示されるCDR1、配列番号32で示されるCDR2及び配列番号33で示されるCDR3を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号13で示されるCDR1、配列番号14で示されるCDR2及び配列番号15で示されるCDR3を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号37で示されるCDR1、配列番号38で示されるCDR2及び配列番号39で示されるCDR3を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号31で示されるCDR1、配列番号32で示されるCDR2及び配列番号33で示されるCDR3を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号37で示されるCDR1、配列番号38で示されるCDR2及び配列番号39で示されるCDR3を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号7で示されるCDR1、配列番号8で示されるCDR2及び配列番号9で示されるCDR3を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号13で示されるCDR1、配列番号14で示されるCDR2及び配列番号15で示されるCDR3を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号13で示されるCDR1、配列番号14で示されるCDR2及び配列番号15で示されるCDR3を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号7で示されるCDR1、配列番号8で示されるCDR2及び配列番号9で示されるCDR3を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号7で示されるCDR1、配列番号8で示されるCDR2及び配列番号9で示されるCDR3を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号37で示されるCDR1、配列番号38で示されるCDR2及び配列番号39で示されるCDR3を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号37で示されるCDR1、配列番号38で示されるCDR2及び配列番号39で示されるCDR3を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは配列番号7で示されるCDR1、配列番号8で示されるCDR2及び配列番号9で示されるCDR3を含む。
【0062】
いくつかの態様では、百日咳毒素結合タンパク質は、第一の免疫グロブリンシングル可変ドメイン及び第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインを含み、第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインのN末端に位置し、かつ、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号41、53~63のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号44、64~74のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号44、64~74のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号41、53~63のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号41、53~63のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号47で示されるアミノ酸配列を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号47で示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号41、53~63のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号41、53~63のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号52、75~85のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号52、75~85のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号41、53~63のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号42で示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号50で示されるアミノ酸配列を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号50で示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号42で示されるアミノ酸配列を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号44、64~74のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号50で示されるアミノ酸配列を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号44、64~74のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号52、75~85のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号50で示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号52、75~85のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号42で示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号44、64~74のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号44、64~74のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号42で示されるアミノ酸配列を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号42で示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号52、75~85のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号52、75~85のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号42で示されるアミノ酸配列を含む。
【0063】
いくつかの態様では、百日咳毒素結合タンパク質は、第一の免疫グロブリンシングル可変ドメイン及び第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインを含み、第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインのN末端に位置し、かつ、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号63で示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号70で示されるアミノ酸配列を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号63で示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号74で示されるアミノ酸配列を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号80で示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号74で示されるアミノ酸配列を含むか、
第一の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号80で示されるアミノ酸配列を含み、第二の免疫グロブリンシングル可変ドメインは、配列番号63示されるアミノ酸配列を含む。
【0064】
いくつかの態様では、本発明の百日咳毒素結合タンパク質は、配列番号87~105から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0065】
いくつかの態様では、本発明の百日咳毒素結合タンパク質は、少なくとも1つの百日咳毒素に特異的に結合することが可能な免疫グロブリンシングル可変ドメインに加え、免疫グロブリンFc領域を含む。本発明の百日咳毒素結合タンパク質に免疫グロブリンFc領域を含めることにより、結合タンパク質の二量体の形成が可能になり、in vivoにおいて、結合タンパク質の半減期が延長される。Fc領域は、免疫グロブリンのさまざまなサブタイプ、例えば、IgG(例.IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4)、IgA1、IgA2、IgD、IgE又はIgMのものである可能性がある。免疫グロブリンFc領域は、通常、ヒンジ領域又はヒンジ領域の一部、免疫グロブリン定常領域のCH2領域及びCH3領域を含む。
【0066】
いくつかの態様では、野生型Fc配列に変異を導入して、Fcが仲介する関連する活性を変化させることができる。変異には以下のものが含まれるが、これらに限定されない:a) Fcを介したCDC活性を変化させる変異;b) Fcを介したADCC活性を変化させる変異;又は c) FcRnが仲介するin vivoでの半減期を変化させる変異。このような変異は、以下の文献に記載されている:Leonard G Presta, Current Opinion in Immunology 2008, 20:460-470;Esohe E. Idusogie et al., J Immunol 2000, 164: 4178-4184;RAPHAEL A. CLYNES et al., Nature Medicine, 2000, Volume 6, Number 4: 443-446;Paul R. Hinton et al., J Immunol, 2006, 176:346-356。例えば、CH2領域における1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10のアミノ酸の変異により、Fcを介したADCC若しくはCDC活性を増加若しくは除去することができ、又はFcRnの親和性を増加若しくは減少させることができる。さらに、ヒンジ領域における1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10のアミノ酸の変異により、タンパク質の安定性を増加させることができる。
【0067】
いくつかの態様では、Fc配列に変異を導入して、変異したFcがホモ二量体又はヘテロ二量体を形成しやすくすることができる。例えば、Ridgway、Presta et al. 1996及びCarter 2001に記載のknob-holeモデルは、Fc接触界面におけるアミノ酸側鎖の立体的効果を利用して、異なるFc変異体の間でヘテロ二量体を形成しやすくし;別の例として、中国特許出願公開第102558355号又は中国特許出願公開第103388013号では、Fc接触界面におけるアミノ酸の電荷を変更してFc接触界面間のイオン相互作用を変更することにより、異なるFc変異体の間でヘテロ二量体を形成しやすくし(中国特許出願公開第102558355号)、又は同じ変異を有するFcの間でホモ二量体を形成する(中国特許出願公開第103388013号)。
【0068】
免疫グロブリンFc領域は、好ましくはヒト免疫グロブリンFc領域であり、より好ましくはヒトIgG1のFc領域である。いくつかの態様では、免疫グロブリンFc領域のアミノ酸配列は配列番号86で示される。
【0069】
いくつかの態様では、本発明の百日咳毒素結合タンパク質中、少なくとも1つの百日咳毒素に特異的に結合することが可能な免疫グロブリンシングル可変ドメインは、免疫グロブリンFc領域と直接又はリンカーを介して結合する。リンカーは、二次構造及び上記構造を含まない1~20以上のアミノ酸長の非機能的アミノ酸配列であってもよい。例えば、リンカーは、GGGGS、GS、GAPなどのフレキシブルなリンカーである。いくつかの態様では、免疫グロブリンFc領域は、少なくとも1つの百日咳毒素に特異的に結合する免疫グロブリンシングル可変ドメインのC末端に位置している。
【0070】
いくつかの態様では、本発明の百日咳毒素結合タンパク質は、配列番号40~85及び87~105の1つから選択される第一のアミノ酸配列、及び、第一のアミノ酸配列に直接又はリンカーを介して結合した配列番号86で示される第二のアミノ酸配列を含み、第二のアミノ酸配列は第一のアミノ酸配列のC末端に位置している。
【0071】
いくつかの態様では、本発明の百日咳毒素結合タンパク質は、配列番号106~109から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0072】
いくつかの態様では、本発明の百日咳毒素結合タンパク質は、当該タンパク質が2つの百日咳毒素結合ドメインを含む二量体分子を形成することを可能にする免疫グロブリンFc領域に直接連結するか、又はリンカーを介して連結する、百日咳毒素に特異的に結合する免疫グロブリンシングル可変ドメインを含む。このような百日咳毒素結合タンパク質は、二価の百日咳毒素結合タンパク質とも呼ばれる。いくつかの態様では、上記二量体はホモ二量体である。
【0073】
いくつかの態様では、本発明の百日咳毒素結合タンパク質は、相互に直接連結するか、又は相互にリンカーを介して連結する2つの百日咳毒素に特異的に結合する免疫グロブリンシングル可変ドメインと、当該タンパク質が4つの百日咳毒素結合ドメインを含む二量体分子を形成することを可能にする免疫グロブリンFc領域を含む。このような百日咳毒素結合タンパク質は、四価の百日咳毒素結合タンパク質とも呼ばれる。いくつかの態様では、上記二量体はホモ二量体である。
【0074】
核酸、ベクター及び宿主細胞
別の側面において、本発明は、本発明の百日咳毒素結合タンパク質をコードする核酸分子に関する。本発明の核酸は、RNA、DNA又はcDNAであてもよい。本発明のある態様によれば、本発明の核酸は本質的に単離されている。
【0075】
本発明の核酸はまた、例えば、プラスミド、コスミド又はYACといったベクターの形態であってもよく、その中に存在してもよく、及び/又はその一部であってもよい。ベクターは、特に発現ベクター、すなわち、in vitro及び/又はin vivoで(すなわち、適切な宿主細胞、宿主生物及び/又は発現系において)百日咳毒素結合タンパク質を発現することができるベクターであってもよい。そのような発現ベクターは、一般に、プロモーター、エンハンサー、ターミネーターなどの1つ以上の適切な調節エレメントと動作可能に連結した少なくとも1つの本発明の核酸を含む。そのようなエレメントと特定の宿主における特定の配列の発現を考慮したその選択は、当業者の常識である。本発明の百日咳毒素結合タンパク質を発現するために必要又は有用な調節エレメント及び他のエレメントの例には、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、組込因子、選択マーカー、リーダー配列、レポーター遺伝子などが含まれる。
【0076】
本発明の核酸は、本明細書に記載の本発明のポリペプチドのアミノ酸配列の情報に基づいて、公知の方法(例.自動DNA合成及び/又は組換えDNA技術)で製造若しくは入手してもよく、及び/又は適切な天然物から単離することができる。
【0077】
別の側面において、本発明は、1種以上の本発明の百日咳毒素結合タンパク質を発現する、若しくは発現することが可能な、及び/又は本発明の核酸を含有する組換え宿主細胞に関する。特に好ましい態様によれば、前記宿主細胞は細菌細胞であり;他の有用な細胞は、酵母細胞、真菌細胞又は哺乳動物細胞である。
【0078】
適切な細菌細胞には、大腸菌、プロテウス属(Proteus)及びシュードモナス属(Pseudomonas)の菌株といったグラム陰性菌、並びにバチルス属(Bacillus)、ストレプトミセス属(Streptomyces)、ブドウ球菌及びラクトコッカス属(Lactococcus)の菌株といったグラム陽性菌株の細胞が含まれる。
【0079】
適切な真菌細胞には、トリコデルマ属(Trichoderma)、ニューロスポラ属(Neurospora)及びアスペルギルス属(Aspergillus)の細胞が含まれる。適切な酵母細胞には、サッカロミケス属(Saccharomyces)(例.サッカロミケス・セレビシエ(S. cerevisiae))、シゾサッカロミケス属(Schizosaccharomyces)(例.シゾサッカロミケス・ポンベ(S. pombe))、ピキア属(Pichia)(例.ピキア・パストリス(P. pastoris)及びピキア・メタノリカ(P. methanolica))及びハンセヌラ属(Hansenula)の細胞が含まれる。
【0080】
適切な哺乳動物細胞には、例えば、HEK293細胞、CHO細胞、BHK細胞、HeLa細胞、COS細胞などが含まれる。
【0081】
しかし、両生類細胞、昆虫細胞、植物細胞及び異種タンパク質を発現するために当該技術分野で用いられる他の細胞も使用することができる。
【0082】
本発明は、さらに、本発明の百日咳毒素結合タンパク質の製造方法を提供し、そのような方法は、一般に、以下の工程を含む:
- 本発明の百日咳毒素結合タンパク質の発現を可能にする条件で本発明の宿主細胞を培養する;
- 宿主細胞が発現した百日咳毒素結合タンパク質を培養物から回収する;並びに
- 場合によっては、本発明の百日咳毒素結合タンパク質を更に精製及び/又は修飾する。
【0083】
本発明の百日咳毒素結合タンパク質は、いずれかの細胞の細胞内(例.細胞質ゾル、ペリプラズム又は封入体)で上述したように産生され、次いで宿主細胞から単離され、場合によっては、更に精製されてもよく;又は、それらを細胞外(例.宿主細胞が培養される培地)で産生され、次いで培地から単離され、場合によっては更に精製されてもよい。
【0084】
特定の適切な発現ベクター、形質転換法、トランスフェクション法、選択マーカー、タンパク質の発現を誘導する方法、培養条件などの、ポリペプチドの組換え生産で用いる方法及び試薬は、当該技術分野において公知である。同様に、本発明の百日咳毒素結合タンパク質の製造方法において有用なタンパク質の単離・精製技術は、当業者間で周知である。
【0085】
しかし、本発明の百日咳毒素結合タンパク質は、また、固相又は液相合成を含む化学合成など、当該技術分野において公知のタンパク質を製造するための他の方法によっても得ることができる。
【0086】
医薬組成物
別の側面において、本発明は、薬学的に許容される添加物と共に製剤化された、本発明の百日咳毒素結合タンパク質の1つ又は組合せを含有する組成物、例えば医薬組成物を提供する。そのような組成物は、本発明の百日咳毒素結合タンパク質の1つ又は(例えば、2つ以上の異なる)タンパク質の組合せであってもよい。例えば、本発明の医薬組成物は、標的抗原(百日咳毒素)上の異なるエピトープに結合する抗体分子の組合せを含むことができる。
【0087】
本明細書において、「薬学的に許容される添加物」には、生理学的に適合性を有している、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤、抗真菌剤、等張化剤及び吸収遅延剤などが含まれる。好ましくは、添加物は、(例えば、注射又は注入による)静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄又は表皮投与に適している。投与経路に応じて、活性化合物、すなわち抗体又は免疫複合体はコーティングされ、化合物を不活性化する可能性のある酸及び他の自然条件の作用から保護されてもよい。
【0088】
本発明の医薬化合物は、1つ以上の薬学的に許容される塩を含んでいてもよい。「薬学的に許容される塩」は、親化合物の生物学的活性を維持し、毒性を与えない塩を指す(例えばBerge, S.M., et al. (1977) J. Pharm. Sci. 66:1-19参照)。そのような塩の例には、酸付加塩及び塩基付加塩が含まれる。酸付加塩には、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸といった非毒性の無機酸に由来するもの、脂肪族モノ及びジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族及び芳香族スルホン酸といった非毒性の有機酸に由来するものが含まれる。塩基付加塩には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムといったアルカリ土類金属に由来するもの、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン、N-メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカインといった非毒性の有機アミンに由来するものが含まれる。
【0089】
本発明の医薬組成物は、薬学的に許容される抗酸化剤も含んでいてもよい。薬学的に許容される抗酸化剤の例には、(1) アスコルビン酸、システイン塩酸塩、硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどの水溶性抗酸化剤;(2) パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α-トコフェロールなどの油溶性抗酸化剤;及び(3) クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などの金属キレート剤が含まれる。
【0090】
これらの組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤及び分散剤などの補助剤も含んでいてもよい。
【0091】
微生物の存在の防止を、上記滅菌手順並びにパラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸といったさまざまな抗菌剤及び抗真菌剤の配合の両者により確実にしてもよい。糖類、塩化ナトリウムといった等張化剤を組成物に配合することも望ましい場合がある。さらに、モノステアリン酸アルミニウムやゼラチンなどの吸収を遅らせる薬剤を含めることにより、注射可能な剤形の吸収を遅らせてもよい。
【0092】
薬学的に許容される添加物には、滅菌された注射用溶液又は分散液を即時調製するための、滅菌水溶液又は分散液及び滅菌粉末が含まれる。薬学的に活性な物質のためのそのような溶媒と薬剤の使用は、当該技術分野において公知である。従来の溶媒又は薬剤が活性化合物と適合しない場合を除き、本発明の医薬組成物におけるそれらの使用が予定されている。補足的な活性化合物も組成物に組み込むことができる。
【0093】
治療用組成物は、通常、製造及び保管の際に無菌で安定でなければならない。組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム又は他の高薬物濃度に適した秩序だった構造として製剤化することができる。添加物は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例.グリセロール、プロピレングリコール及び液状のポリエチレングリコール)及びそれらの適切な混合物を含む溶媒又は分散媒の場合がある。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングを使用することにより、分散に必要な粒子のサイズを維持することにより、及び界面活性剤を使用することにより、維持することができる。
【0094】
滅菌された注射用溶液は、上述した成分の1つ以上を必要に応じて含む適切な溶媒と必要な量の活性化合物を混合し、続いて滅菌精密濾過することよって調製することができる。一般に、分散液は、基本的な分散媒及び上述した他の必要な成分を含む滅菌した媒体と活性化合物を混合することによって調製する。滅菌された注射用溶液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、事前に滅菌濾過した溶液から有効成分及び追加の成分の粉末を得る真空乾燥及び凍結乾燥(freeze-drying, lyophilization)である。
【0095】
添加物質と組み合わせて単一の製剤を製造することができる有効成分の量は、治療される対象及び投与方法に応じて変化する。添加物質と組み合わせて単一の製剤を製造することができる有効成分の量は、一般に、治療効果を生み出す組成物のその量である。一般に、この量は、薬学的に許容される添加物と組み合わせて、有効成分の約0.01%~約99%、好ましくは約0.1%~約70%、最も好ましくは約1%~約30%である。
【0096】
投与計画は、最適な反応(例.治療反応)を提供するように調整される。例えば、投与は一度に行ってもよく、複数回に分けて、時間をかけて投与してもよく、又は治療状況の緊急性によって、投与量を比例的に減少若しくは増加させてもよい。投与を容易にし、そして、投薬量を均一にするために、一回分の薬剤の剤形を非経口の組成物とすることは特に有利である。本明細書において、一回分の薬剤の剤形は、治療する対象のための一回分の投与単位として適した物理的に区別できる単位を指し;各単位は、必要な医薬添加物と共に所望の治療効果を生み出すように計算された量の活性化合物を含む。本発明の一回分の薬剤の剤形は、(a) 活性化合物に特有の特性及び達成される治療効果、並びに(b) 個々の感受性の治療における当該活性化合物を配合する技術的な限界、によって決まり、また、これらに直接依存する。
【0097】
抗体分子の投与では、投与量は、対象の体重1kg当たり約0.0001~100mg、より一般的には0.01~20mgである。例えば、投与量は、0.3mg/kg体重、1mg/kg体重、3mg/kg体重、5mg/kg体重、10mg/kg体重、20mg/kg体重又は30mg/とするか、1~30mg/kgとすることができる。代表的な治療計画は、週に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、1か月に1回、3か月に1回若しくは3~6か月に1回の投与、又は最初は短い間隔(例.週に1回から3週間に1回)で投与し、その後は長い間隔(例.月に1回から3~6か月に1回)で投与するというものである。
【0098】
あるいは、抗体は徐放性製剤として投与でき、その場合、投与の頻度は少なくなる。投与する量と頻度は、患者における抗体の半減期で異なる。一般に、ヒト抗体の半減期は最も長く、次いで、ヒト化抗体、キメラ抗体、非ヒト抗体と続く。投与する量と頻度は、処置が予防目的であるか治療目的であるかによって異なることができる。予防目的の場合、長期間にわたり、長期の間隔をおいて低用量を投与する。一部の患者は、一生治療を受け続ける。治療目的の場合、疾患の進行が軽減するか進行しなくなるまで、好ましくは患者の病状が部分的又は完全に改善するまで、短い間隔で高用量の投与が必要になることがある。その後、患者は予防的投与に移行することができる。
【0099】
本発明の医薬組成物中の有効成分の実際の投与量は、患者に毒性を与えることなく、特定の患者、組成物及び投与方法で、所望の治療応答を達成するのに有効な有効成分の量が得られるように変化させてもよい。選択する投与量は、使用する本発明の組成物の活性、又は、そのエステル、塩若しくはアミド、投与経路、投与スケジュール、使用する化合物の排泄率、治療期間、使用する組成物と組み合わせる他の薬物、化合物及び/若しくは材料、治療を受けている患者の年齢、性別、体重、症状、一般的な健康状態及び既往歴を含むさまざまな薬物動態学的要因、並びに医学でよく知られている同様の要因によって異なる。
【0100】
本発明の組成物は、当該技術分野において公知のさまざまな方法の1つ以上を使用して、1つ以上の投与経路により投与することができる。当業者が理解するように、投与経路及び/又は投与方法は、望まれる結果に応じて変化する。本発明の百日咳毒素結合タンパク質の好ましい投与経路には、例えば注射又は注入による、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、皮下、脊髄内又は他の非経口投与経路が含まれる。本明細書において、「非経口投与」という用語は、経腸投与以外の投与方法、及び局所投与(通常は注射)による投与方法を意味し、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、被膜内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節腔内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外及び胸骨内の注射及び注入が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0101】
あるいは、本発明の百日咳毒素結合タンパク質は、局所投与、表皮への投与、又は、例えば、鼻腔、口内、膣内、直腸内、舌下又は局所の粘膜への投与といった非経口経路で投与することができる。
【0102】
疾患の予防及び治療
本発明は、対象の百日咳菌感染症を治療する方法であって、本発明の百日咳毒素結合タンパク質又は本発明の医薬組成物を(例えば有効量で)対象に投与することを含む方法に関する。
【0103】
別の側面において、本発明は、対象の百日咳菌感染症を予防する方法であって、本発明の百日咳毒素結合タンパク質又は本発明の医薬組成物を(例えば有効量で)対象に投与することを含む方法に関する。いくつかの態様では、対象は百日咳菌感染症の危険性がある。(例えば、患者はワクチン接種前の乳児であり、及び/又は、患者は百日咳毒素にさらされている。)
【0104】
別の側面において、本発明は、対象における百日咳毒素を中和する方法に関し、本発明の百日咳毒素結合タンパク質又は本発明の医薬組成物を(例えば有効量で)対象に投与することを含む。いくつかの態様では、対象は百日咳菌に感染している。
【0105】
別の側面において、本発明は、対象の百日咳菌感染症に関連する疾患又は障害を治療する方法であって、本発明の百日咳毒素結合タンパク質又は本発明の医薬組成物を(例えば有効量で)対象に投与することを含む方法に関する。
【0106】
百日咳菌感染症は、白血球増加症又は白血球数の増加を特徴とする。ある態様では、本発明の方法は、患者の白血球数を減らすことを含む。ある態様では、本発明の方法は、白血球増加症の軽減を加速させる。別の態様では、本発明の方法は、感染の際に最大白血球数を減少させる。
【0107】
ある態様では、本発明の方法は、百日咳毒素タンパク質を中和(阻害又は拮抗)する。例えば、本発明の百日咳毒素結合タンパク質は、百日咳毒素タンパク質に結合して、百日咳毒素タンパク質の1つ以上の生物学的な活性を部分的に又は完全に阻害することができる。中和抗体によって阻害又は遮断することができる百日咳毒素タンパク質の生物学的活性の1つは、百日咳毒素タンパク質の細胞受容体結合能である。百日咳毒素タンパク質の受容体結合領域は、それぞれサブユニットS2、サブユニットS3、サブユニットS4及びサブユニットS5と呼ばれる4つのポリペプチドのサブユニットからなる。百日咳毒素タンパク質のサブユニットS2、S3、S4及びS5が結合する細胞受容体の例は、フェトプロテイン、ハプトブロビン及びトランスフェリンといったN結合型シアロ糖タンパク質ファミリーである。代表的な態様では、本発明の百日咳毒素結合タンパク質は、百日咳毒素タンパク質が細胞受容体に結合するのを防ぐ。別の態様では、本発明の百日咳毒素結合タンパク質は、百日咳毒素の細胞内輸送を変化させて、毒素が細胞質に到達しないようにする。本発明の百日咳毒素結合タンパク質によって阻害される可能性のある百日咳毒素タンパク質の別の重要な活性は、Gタンパク質に対するADPリボシル化酵素としての百日咳毒素タンパク質の酵素活性である。ADPリボシル化酵素として酵素活性を有する百日咳毒素タンパク質のサブユニットはサブユニットS1である。いくつかの態様では、百日咳毒素タンパク質は百日咳ホロツリンである。本明細書において百日咳毒素タンパク質と呼ばれる百日咳ホロツリンは、5つの百日咳毒素タンパク質サブユニットの全てを含む。他の態様では、百日咳毒素タンパク質は、切断型百日咳毒素タンパク質である。本明細書で言及される切断型百日咳タンパク質は、百日咳毒素タンパク質のサブユニット(すなわち、S1、S2、S3、S4及びS5)の少なくとも1つを含む。百日咳毒素タンパク質のさまざまな形態が先行技術に記載されている。
【0108】
さまざまな態様では、本発明の組成物及び方法は、百日咳感染を治療又は予防するあらゆる段階に適している。例えば、百日咳の潜伏期間は、通常7~10日で、4~21日であり、42日になることはまれである。さまざまな態様では、本発明の組成物及び方法は、感染が生じるのを困難にすることにより、潜伏期間を長くする。疾患の臨床経過は3段階に分かれる。カタル期としても知られる最初の段階は、潜行性の鼻炎、くしゃみ、微熱、時折の軽い咳嗽といった風邪様の症状から始まる。咳嗽は徐々に悪化し、1~2週間後、第2段階である発作期が始まる。さまざまな態様では、本発明の組成物及び方法は、カタル期を短縮し、場合によっては、それが発作期に進行するのを防ぐ。さまざまな態様では、本発明の組成物及び方法は、鼻炎、くしゃみ、微熱及び咳嗽の1つ以上を治療するために使用される。これは、通常診断が疑われる百日咳の発作期である。通常、患者は、気管気管支樹から粘稠な粘液を出することが困難であるため、発作性の咳嗽を示す。発作性の咳嗽の終わりに、深い吸気が、通常、高調の笛声(whoop音)を伴う。この咳嗽発作の間に、患者はチアノーゼになる可能性がある。特に子供や幼児は非常に不快で痛みを感じる。咳嗽後、通常、嘔吐や倦怠感が生じることがある。さまざまな態様では、本発明の組成物及び方法は、発作の程度及び/又は頻度を低減する。さまざまな態様では、本発明の組成物及び方法は、患者のチアノーゼを防ぐ。発作性の咳嗽は、夜間に頻繁に発生する可能性があり、24時間ごとに平均15回生じる。この段階の最初の1~2週間で、発作の頻度が増加し、2~3週間継続し、その後徐々に減少する。発作期は通常1~6週間続き、10週間も続くこともある。さまざまな態様では、本発明の組成物及び方法は、この段階を短縮する。回復期では、回復は段階的である。発作性咳嗽は減少し、2~3週間で消えることがある。さまざまな態様では、本発明の組成物及び方法は、この段階の開始を早め、及び/又はその期間を短縮する。さらに、さまざまな態様では、本発明の組成物及び方法は、その後の呼吸器感染症で生じる可能性のある発作の再発を予防又は低減する。さまざまな態様では、本発明の組成物及び方法は、以下の発作の1つ以上を予防又は軽減する:続発性細菌性肺炎、てんかんや脳症といった神経学的合併症、低酸素症、中耳炎、脱水症、気胸、鼻出血、硬膜下血腫、ヘルニア、直腸脱、睡眠障害、尿失禁、肺炎及び肋骨骨折。さらに、いくつかの態様では、本発明の組成物及び方法は、壊死性気管支炎、肺炎(例.百日咳菌由来)、肺水腫、肺高血圧症及び死亡を軽減又は予防する。
【0109】
別の態様では、この方法は、本発明の百日咳毒素結合タンパク質又は本発明の医薬組成物と抗菌剤の組合せを対象に投与することを含む。本発明の百日咳毒素結合タンパク質又は本発明の医薬組成物と抗菌剤の組合せの併用により、相乗効果が期待できる。本発明に適した代表的な抗菌剤には、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、トリメトプリム-スルファメトキサゾール、ロキシスロマイシン、ケトライド(例.テリスロマイシン)、アンピシリン、アモキシシリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、フルオロキノロン(例.シプロフロキサシン、レボフロキサシン、オフロキサシン、モキシフロキサシン)及びセファロスポリンが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0110】
さまざまな態様では、本発明の方法で処置される対象はヒトである。ある態様では、対象は小児である。ある態様では、対象は新生児である。別の態様では、対象は4週未満、3週未満、2週未満、1週未満、6日未満、5日未満、4日未満、3日未満、2日未満又は1日未満の新生児である。いくつかの態様では、ヒトは生後1か月、生後2か月、生後3か月、生後4か月、生後5か月又は生後6か月である。いくつかの態様では、ヒトは約0.5~約1.5才、約1.5~約3才、約1~約5才、約5~約10才、約10~約15才、約15~約20才、約20~約25才、約25~約30才、約30~約35才、約35~約40才、約40~約45才、約45~約50才、約50~約55才、約55~約60才、約60~約65才、約65~約70才、約70~約75才、約75~約80才、約80~約85才、約85~約90才、約90~約95才又は約95~約100才である。
【0111】
他方、本発明の方法は、本発明の百日咳毒素結合タンパク質又は本発明の医薬組成物を対象に投与することを含む、これまでに百日咳菌に曝露された対象の百日咳菌感染症を予防する。さまざまな態様では、この方法は、百日咳菌に曝露された対象の百日咳菌感染症の予防に効果的な予防的処置を提供する。
【0112】
いくつかの態様では、本発明の百日咳毒素結合タンパク質又は本発明の医薬組成物は、これまでに細菌に対するワクチンを受けたことがない対象の予防に使用される。
【0113】
本発明の百日咳毒素結合タンパク質又は本発明の医薬組成物は、DtaPやTdapなどのワクチンのアジュバントとして役立つことも期待されている。さらに、さまざまな態様では、本発明の方法は、これまでに百日咳菌のワクチンを受けていない対象の百日咳菌感染症を治療又は予防する。
【0114】
検出
他方、本発明は、生物学的試料中の百日咳毒素の存在及び/又は量を検出する方法も提供し、この方法は、百日咳毒素結合タンパク質と百日咳毒素の複合体の形成を可能にする条件で、生物学的試料及び対照を本発明の百日咳毒素結合タンパク質と接触させる工程を含む。次いで、複合体の検出を行い、ここで、生物学的試料及び対照における複合体形成の差は、試料中の百日咳毒素の存在及び/又は量を示す。
【0115】
いくつかの態様では、本発明の百日咳毒素結合タンパク質は、検出に使用でき、又は他の試薬で検出できる蛍光色素、化学物質、ポリペプチド、酵素、同位体、標識などとも結合する。
【0116】
いくつかの態様では、生物学的試料は、例えば、百日咳毒素を含有する、百日咳菌感染症を予防するワクチンである。
【0117】
キット
本発明の範囲には、本発明の方法で使用するキットも含み、これは、本発明の百日咳毒素結合タンパク質及び説明書を含有する。キットは、さらに、少なくとも1つの検出用試薬を含有してもよい。キットは通常、キットの内容物の使用目的を示すラベルを含む。ラベルという用語は、キット上に貼付されているか、キット内に含まれているか、さもなければキットに付随している、印刷された又は録音された資料を含む。
【実施例
【0118】
以下の実施例は、本発明を更に説明するためのものであるが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されない。
【0119】
実施例1 百日咳毒素(PT)に対する重鎖シングルドメイン抗体のスクリーニング
1.1 ライブラリーの構築
免疫を行う前に、フタコブラクダの動脈血5mLを真空採血管に採取し、上清を免疫前血清として回収した。新疆の健康な2歳のフタコブラクダを免疫の対象とし、300μgの組換え百日咳毒素タンパク質を抗原として、これを完全に乳化するために、等量の完全フロイントアジュバントと混合し、次いで、フタコブラクダの首の筋肉の複数の部位に注射した;免疫化の後期では、同量の抗原と不完全フロイントアジュバントが均一に混合されたものを、毎回、等量使用した;免疫は週1回行い、後期は合計6回行った。最後の免疫の終了後、5mLの動脈血を真空採血管に採取し、上清を免疫後血清として回収し、免疫前後の血清中の抗体の変化をELISAによって検出したところ、免疫後の血清中の抗体が明らかに増加したので、抗原によって引き起こされた免疫効果は実験の要件を満たしていると判断した。
【0120】
リンパ球を密度勾配遠心分離で分離し、QIAGEN社のRNA抽出キットを用いて全てのRNAを抽出し、抽出された全てのRNAを、SuperScript III FIRST STRANDSUPERMIXキットを用い、その指示書に従ってcDNAに逆転写し、重鎖抗体の可変領域をコードする核酸断片を、ネステッドPCRで増幅した。
【0121】
標的である重鎖シングルドメイン抗体の核酸断片を回収し、制限酵素PstI及びNotI(NEBから購入)を用いてファージディスプレイベクターpMECSにクローニングした。続いて、生成物を大腸菌のエレクトロポレーション用コンピテントセルTG1にエレクトロトランスフォーメーションし、抗PT毒素免疫シングルドメイン抗体のファージディスプレイライブラリーを構築して検証した。勾配希釈によるプランキング(planking)でライブラリーの容量は1.2×10と計算された。ライブラリーの挿入率を検出するためにランダムに50個のクローンを選択してシーケンシングしたところ、正しい外来フラグメントが挿入された50個のクローンが見つかり、精度は100%であった。配列決定されたクローンのDNA及びアミノ酸配列の分析とアラインメントにより、それぞれ、全ての配列がラクダのVHH配列であると推定されることが確認され、多様性は95%以上であると推定された。
【0122】
1.2 百日咳毒素(PT)に対する抗体のパンニング
1ウェル当たり10μgの組換え百日咳毒素タンパク質PTをプレートにコーティングし、4℃で一晩放置した。翌日、2%スキムミルクを用いて室温で2時間ブロックした後、実施例1.1で構築したファージライブラリーの100μLのファージ(約1010PFU)を添加し、室温で2時間機能化した。その後、得られたものをPBST(PBSに溶かした0.05% Tween(登録商標)20)で25回洗浄し、結合していないファージを洗い流した。次いで、PTタンパク質に特異的に結合するファージをグリシン(100mM、pH2.0)で解離させて対数増殖期の大腸菌TG1に感染させ、細菌溶液を遠心分離によって回収し、2TYAGプレートにコーティングして37℃で一晩培養した。翌日、プレート上の大腸菌を溶出させて回収し、約50mLの細菌溶液を得た。OD値から、約1011個の大腸菌が得られた。
【0123】
1.3 ハイスループットシーケンシングによる抗PT重鎖シングルドメイン抗体の配列のスクリーニング
実施例1.2で得た2mLの大腸菌のハイスループットシーケンシングをSuzhou Hongxun Technology Co., Ltd.に委託した。
【0124】
このハイスループットシーケンシングでは、合計286,521の抗PTシングルドメイン抗体の配列が解析され、その中から、存在量が多い上位50の配列を選択し、次いで、抗PTシングルドメイン抗体のCDR1、CDR2及びCDR3領域、それぞれの量、並びにペアとなる組合せの量に応じ、32の配列を候補配列として更に選択した。
【0125】
実施例2 哺乳動物細胞によるPTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質の製造
2.1 PTシングルドメイン抗体のFc融合プラスミドの調製
実施例1.3で得た32の候補配列について、その両端に酵素消化部位が付加された遺伝子の合成をSuzhou Hongxun Biotechnology Co., Ltd.に委託した。
【0126】
PTシングルドメイン抗体のVHH断片を酵素消化し、ヒトIgG1 FcをコードするDNA断片と融合し、従来型の哺乳動物発現ベクターにクローン化して、哺乳動物でPTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質を発現させるための組換えプラスミドを得た。
【0127】
2.2 PTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質の製造
2.1で構築したベクターを、抗体を一過性で発現させるためにHEK293細胞にトランスフェクトした。組換え発現プラスミドをFreestyle293培地で希釈して形質転換に必要なPEI(ポリエチレンイミン)溶液を加え、各プラスミド/PEI混合物をHEK293細胞懸濁液に加え、37℃、5%COで130rpmの条件下で培養した。4時間後、EXCELL293培地、2mMのグルタミンを加え、130rpmで培養した。24時間後に3.8mMのVPAを加え、72時間後に4g/Lのグルコースを加えた。5~6日間の培養後、一過性発現培養物の上清を回収し、プロテインAによるアフィニティークロマトグラフィーで精製して、標的PTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質を得た。タンパク質の純度を、SDS PAGE及びSEC HPLCで調べた。一部のタンパク質の発現及び純度の分析結果を以下の表1に示した。
【0128】
【表1】
【0129】
表1のとおり、PTモノクローナル抗体のFc融合タンパク質の発現レベルは全て200mg/Lを超えており、プロテインAのアフィニティークロマトグラフィーカラムによるワンステップ精製後、Fc融合タンパク質の濃度は、ほぼ1.0mg/mLを超え、純度も非常に高かった。
【0130】
選択したPTシングルドメイン抗体の可変領域の配列情報は以下のとおり(各配列中のボックスは、左から右にそれぞれCDR1、CDR2及びCDR3を示す)。
【0131】
【化1-1】
【0132】
【化1-2】
【0133】
実施例3 PTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質の機能の検証
3.1 PTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質の親和性の検出(バイオレイヤー干渉法、BLI)
上記実施例で得たPTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質の、組換えヒトPTタンパク質に対する結合動力学を、分子相互作用装置を使用するバイオレイヤー干渉法(BLI)で測定した。実施例2.2で得たPTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質を最終濃度2.5μg/mLに希釈し、動力学測定のためにAHCバイオセンサーに直接固定し、PTを0.02%PBST20で、それぞれ、濃度100nM、50nM、25nM、12.5nM及び6.25nMに希釈し、試料注入時間は120秒、解離時間は600秒とし、10mMグリシン-塩酸(pH1.7)で5秒再生した。結合速度(kon)及び解離速度(kdis)を、単純な1対1のLanguir結合モデル(Octet K2データ分析ソフトウェアversion 9.0(Data analysis 9.0))を使用して計算した。解離定数(kD)は、比kdis/konとして計算した。
【0134】
PTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質画分のPTに対する親和性の測定結果を表2に示した。候補抗体の一部は、親和性が低いため除外した(データは示していない)。
【0135】
【表2】
【0136】
3.2 PTモノクローナル抗体のFc融合タンパク質の百日咳毒素に対する中和活性の確認
濃度434.3μg/mLのPT毒素を、10%FBS+F12K+10%FBSで12ng/mLとして1ウェルにつき50μLを加え、10%FBS+F12Kで元の濃度の2倍希釈を行う親和性が良好なPTモノクローナル抗体のFc融合タンパク質を実施例3.1の結果に従って選択し、濃度を10段階に変化させ、それらの50μLを各ウェルに加え、37℃で1時間静置後、CHOK1細胞を回収して計数し、細胞数を3×10細胞/mLに調整して、96ウェルプレートの各ウェルに溶液50μLを加え、24時間後、100%アルコール固定と0.1%クリスタルバイオレット染色を続けて行い、PBSで洗浄後、顕微鏡下で観察と写真撮影を行った。
【0137】
結果を以下の表3に示した:iPT13Fc、iPT21Fc、iPT28Fc及びiPT36Fcは、濃度100μg/mLにおいて部分的な中和活性を示し、iPT3Fc、iPT7Fc、iPT12Fc、iPT15Fc、iPT20Fc、iPT22Fc、iPT26Fc、iPT35Fc及びiPT42Fcは、比較的高い中和活性を示した。候補抗体の一部は、中和活性が低いため除外した(データは示していない)。
【0138】
【表3】
【0139】
3.3 PTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質の別のPT結合エピトープの検出(バイオレイヤー干渉法(BLI):エピトープビニング)
インタンデム法により、PT-ビオチンを0.02%PBST20で10μg/mLに希釈し、120秒間SAbiosensorに固定した。PTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質を0.02%PBST20で100nMに希釈して2つの群に分け、300秒の抗体結合時間で、再生溶液が10mMグリシン-塩酸(pH1.7)とし、一次抗体(飽和抗体)が飽和するまでセンサーに結合させ、次いで、二次抗体(競合抗体)が同じ濃度で一次抗体と競合させ、その後、割合を計算した。割合は、以下の式で計算した:
Ab1を有するAb2/Ab1を有さないAb2。
【0140】
これらの測定結果を表4及び表5に示した。iPT13、iPT20及びiPT36の間で競合が生じる可能性があり、iPT7とiPT12、iPT26とiPT35及びiPT22とiPT15の間で競合が生じる可能性があり、他の抗体には明らかな競合関係はなく、抗原結合エピトープが異なるという結果が示された。
【0141】
【表4】
【0142】
【表5】
【0143】
3.4 PTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質の空の細胞に対する非特異的結合の検出
CHOK1空細胞及び293F空細胞を3%BSA PBSに再懸濁し、6×10細胞/mLに調整し、実施例2.2で得たPTモノクローナル抗体のFc融合タンパク質を最終濃度100μg/mLとなるように添加し、一方、陰性対照とブランクを設定して、それぞれを30分間氷冷した。洗浄後、ブースター二次抗体FITCウサギ抗ヒトIgG抗体を添加して、30分間氷冷した。洗浄後、細胞を300μLの1%PBS BSAバッファーに再懸濁し、フローサイトメトリーで検出した。抗体、陰性対照及びブランクの間でMFIに著しい差はなく、非特異的結合は生じないという結果を表6に示した。
【0144】
【表6】
【0145】
3.6 PTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質の熱安定性の検出
UNCHAINED LABSのタンパク質熱安定性検出器を使用して微量のタンパク質試料を測定した。加熱プログラム:初期温度15℃、昇温速度0.3℃/分、最終温度95℃。各温度及び波長における試料の蛍光吸光度を記録し、信頼波長BCMの次導関数の最高点として変性温度Tmをソフトウェアを使用してフィッティングし、初期重合温度Taggは、473nmにおける静的光散乱SLSの次導関数の10分の1であった。Tmの値が大きいほど、タンパク質は安定であった。結果を以下の表7に示したが、各抗体のTmは基本的に60℃以上で安定性は良好であった。
【0146】
【表7】
【0147】
実施例4 哺乳動物細胞によるPT四価抗体のFc融合タンパク質の製造
4.1 PT四価抗体のFc融合プラスミドの調製
7つの抗体iPT7、iPT12、iPT15、iPT22、iPT26、iPT35及びiPT42を、抗原認識エピトープの重複(エピトープビニングの結果)に従って4つの群に分け、抗原認識エピトープの重複が少ない配列をペアにして直列に組み合わせて、ヒトIgG1 FcをコードするDNA断片と融合し、従来型の哺乳動物発現ベクターにクローン化して、哺乳動物でPTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質を発現させるための組換えプラスミドを得たが、この組合せは、活性が高まると予想した;さらに、それぞれ、2つの同一のiPT12又はiPT15配列を直列に組み合わせてiPT12diFc及びiPT15diFcを形成し、かつ、それぞれをヒトIgG1 Fc断片と融合して、対照として使用した。
【0148】
4.2 PT四価抗体のFc融合タンパク質の製造
4.1で構築したベクターを、抗体を一過性で発現させるためにHEK293細胞にトランスフェクトした。組換え発現プラスミドをFreestyle293培地で希釈して形質転換に必要なPEI(ポリエチレンイミン)溶液を加え、各プラスミド/PEI混合物をHEK293細胞懸濁液に加え、37℃、5%CO2で130rpmの条件下で培養した。4時間後、EXCELL293培地、2mMのグルタミンを加え、130rpmで培養した。24時間後に3.8mMのVPAを加え、72時間後に4g/Lのグルコースを加えた。5~6日間の培養後、一過性発現培養物の上清を回収し、プロテインAによるアフィニティークロマトグラフィーで精製して、標的PT四価抗体のFc融合タンパク質を得た。タンパク質の純度を、SDS PAGE及びSEC HPLCで調べた。各タンパク質の発現及び純度の分析結果を以下の表8に示したが、この表のとおり、PT四価抗体のFc融合タンパク質の発現レベルは全て200mg/Lを超えており、プロテインAのアフィニティークロマトグラフィーカラムによるワンステップ精製後、それらのほとんどは濃度が1.0mg/mLを超え、SECの結果が示すように純度も非常に高かった。
【0149】
【表8】
【0150】
実施例5 PT四価抗体のFc融合タンパク質の機能の検証
5.1 PT四価抗体のFc融合タンパク質の親和性の検出(バイオレイヤー干渉法、BLI)
実施例4.2で製造したPT四価抗体のFc融合タンパク質を2.5μg/mLに希釈し、バイオセンサーに60秒間、高さ約0.8nmで固定した。PTpuriは、100nM、50nM、25nM、12.5nM及び6.25nMの5段階に希釈し、ベースラインは60秒、結合は120秒、解離は600秒とした。希釈剤は0.02%PBST20、再生溶液はグリシン-塩酸(pH1.7)、中和溶液は希釈剤、バイオセンサーはAHCを使用した。表9のとおり、全ての抗体は高い親和性を示し、特に抗体iPT15n7Fcが最も高い親和性を示した。
【0151】
【表9】
【0152】
5.2 PT四価抗体のFc融合タンパク質の百日咳毒素に対する中和活性の確認
濃度434.3μg/mLのPT毒素を、10%FBS+F12K+10%FBSで12ng/mLとし、1ウェルにつき50μLを加え、実施例4.2で製造した親和性が良好なPT四価抗体のFc融合タンパク質を10%FBS+F12Kで元の濃度の2倍希釈を行って濃度を10段階に変化させ、50μLを各ウェルに加え、37℃で1時間静置後、CHOK1細胞を回収して計数し、細胞数を3×10細胞/mLに調整し、次いで、96ウェルプレートの各ウェルに50μL加え、24時間後、100%アルコール固定と0.1%クリスタルバイオレット染色を続けて行い、PBSで洗浄後、顕微鏡下で観察と写真撮影を行った。表10に示した結果のとおり、四価抗体、iPT7n15Fc、iPT42n7Fc、iPT12n15Fc、iPT12n42Fc、iPT12diFc、iPT15n12Fc及びiPT42n12Fcは、全て良好な中和活性を示し、PT7n15Fc、iPT42n7Fc、iPT12n15Fc、iPT12n42Fc、iPT15n12Fc及びiPT42n12Fcの中和活性は、iPT15diFc及びiPT12diFcの中和活性よりも高く、また、二価抗体iPT12Fcよりもさらに高く、異なるエピトープを認識するシングルドメイン抗体の組合せにより中和活性が改善された。
【0153】
【表10】
【0154】
5.3 PT四価抗体のFc融合タンパク質の空の細胞に対する非特異的結合の検出
CHOK1空細胞及び293F空細胞を3%BSA PBSに再懸濁し、6×10細胞/mLに調整し、実施例4.2で得たPTモノクローナル抗体のFc融合タンパク質を最終濃度100μg/mLとなるように添加し、一方、陰性対照とブランクを設定して、それぞれを30分間氷冷した。洗浄後、ブースター二次抗体FITCウサギ抗ヒトIgG抗体を添加して、30分間氷冷した。洗浄後、細胞を300μLの1%PBS BSAバッファーに再懸濁し、フローサイトメトリーで検出した。非特異的な結合は認められなかったことを示す結果を表11に示した。
【0155】
【表11】
【0156】
実施例6 PT四価抗体のFc融合タンパク質のin vivoにおける有効性の調査
6.1 百日咳毒素に対する保護実験
NIHマウスを各群10匹に分け、1マウスにつき5μgの用量でPT毒素を腹腔内に注射して、PT毒素抗体を評価するためのチャレンジマウスモデルを確立した。
【0157】
この実験では、PT四価抗体のFc融合タンパク質iPT7n15Fc、iPT42n7Fc、iPT15n12Fc、iPT42n12Fc及びiPT12diFcをチャレンジマウスモデルに腹腔内に注射し、マウスの死亡率を毎日記録した。チャレンジの2時間後、単回投与の場合には、それぞれ20μg及び40μgの投与量で、複数回投与の場合、20μg及び40μgを5回、PT四価抗体のFc融合タンパク質を注入し、各群に分けた日を第0日として記録し、同時に、陰性対照を設定し、次いで、マウスの体重、白血球数及びリンパ球数を、それぞれ第0日、第5日、第10日及び第15日に測定し、マウスの生存率を毎日記録した。
【0158】
結果を以下の表12に示し、陰性対照と比較して、全ての抗体は保護効果を示し;単回投与及び複数回投与とも、iPT15n12Fc及びiPT12diFcでは、用量が20μgの場合と比較して40μgでは、マウスの生存率が著しく増加したが、他の抗体では著しい差はなかった。用量20μg及び40μgの単回投与の生存曲線を、それぞれ図1及び図2に示し、用量20μg及び40μgの複数回投与の生存曲線をそれぞれ図3及び図4に示した。
【0159】
【表12】
【0160】
6.2 細菌に対する保護実験
雌で体重1622gのNIHマウスを各群10匹に分け、各群に分けた日を第0日として記録し、マウスの体重、白血球数及びリンパ球数を測定し、百日咳菌をNIHマウスの腹腔内に注射し、百日咳菌の腹腔内注射によるPT毒素抗体を評価するためのチャレンジマウスモデルを確立した。
【0161】
この実験では、PT四価抗体のFc融合タンパク質iPT7n15Fc、iPT42n7Fc、iPT15n12Fc、iPT42n12Fc及びiPT12diFcをチャレンジマウスモデルに腹腔内に注射し、マウスの死亡率を毎日記録した。チャレンジの2時間後、PT四価抗体のFc融合タンパク質、それぞれ、20μg及び40μgを5回の複数回投与し、各群に分けた日を第0日として記録し、同時に、陰性対照を設定し、次いで、マウスの体重、白血球数及びリンパ球数を、それぞれ第0日、第5日、第10日及び第15日に測定し、マウスの生存率を毎日記録した。
【0162】
結果を以下の表13に示し、陰性対照と比較して、全ての抗体は保護効果を示し、中でも抗体iPT7n15Fc及びiPT42n7Fcが良好な保護効果を示し、マウスの生存率は、iPT7n15Fc及びiPT15n12Fcでは、用量が20μgの場合と比較して40μgの場合に著しく高かった。生存曲線を図5に示した。
【0163】
【表13】
【0164】
実施例7 PTシングルドメイン抗体のヒト化
ヒト化は、タンパク質表面のアミノ酸のヒト化(リサーフェシング)及びVHHヒト化ユニバーサルフレームワーク移植法(ユニバーサルフレームワークへのCDRの移植)により行った。
【0165】
ヒト化の手順は以下のとおり:ソフトウェアModeller 9を使用して抗体株iPT7、iPT15及びiPT42を相同モデリングし、参照配列としてNbBcII10抗体(PDB番号:3DWT)を用い、タンパク質の三次構造に基づいてアミノ酸の相対的な溶媒接近可能性を計算した。抗体株iPT7、iPT15及びiPT42のアミノ酸を溶媒にさらした場合、参照ヒト化抗体10HQ配列の同じ位置のアミノ酸に置き換えられ、最終的に全ての置換が行われた。
【0166】
VHHヒト化ユニバーサルフレームワーク移植法の具体的な手順は以下のとおり:最初に、Cecile Vinckeらによる配列相同性に従って設計し作製された、ユニバーサルヒト化VHHフレームワークhNbBcII10FGLA(PDB番号:3EAK)を得、ナノ抗体NbBcII10抗体(PDB番号:3DWT)をベースに設計し、ヒト化抗体10HQを参考にタンパク質表面のアミノ酸をヒト化し、VHH配列フレーム1(フレームワーク1)のアミノ酸VLPの一部、VHH配列フレーム2(フレームワーク2)のアミノ酸GLの一部、VHHシーケンスフレーム3(フレームワーク3)のアミノ酸RSKRAAVの一部及びVHH配列フレーム4(フレームワーク4)のアミノ酸Lの修飾を行った。フレームワークとしてhNbBcII10FGLAを用いることで、CDRを抗体株iPT7、iPT15及びiPT42のCDR領域に置き換えて、抗体のヒト化を達成した。
【0167】
抗体株iPT7、iPT15及びiPT42をヒト化して、抗体株huPTの11種類のヒト化変異体を得た。これらのヒト化変異体の配列のナンバリング及びその中のアミノ酸残基のナンバリングは、Kabatに従って行い、ヒト化配列を比較した結果を図6~8に示す。
【0168】
実施例8 哺乳動物細胞によるhuPTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質の製造
8.1 huPTシングルドメイン抗体のFc融合プラスミドの調製
実施例7のhuPTシングルドメイン抗体のコード配列について、両端に酵素消化部位が付加された遺伝子の合成をSuzhou Hongxun Biotechnology Co., Ltd.に委託した。
【0169】
huPTシングルドメイン抗体のVHH断片を酵素消化し、ヒトIgG1 FcをコードするDNA断片と融合し、従来型の哺乳動物発現ベクターにクローン化して、哺乳動物でPTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質を発現させるための組換えプラスミドを得た。
【0170】
8.2 huPTシングルドメイン抗体のFc融合プラスミドの調製
8.1で構築したベクターを、抗体を一過性で発現させるためにHEK293細胞にトランスフェクトした。組換え発現プラスミドをFreestyle293培地で希釈して形質転換に必要なPEI(ポリエチレンイミン)溶液を加え、各プラスミド/PEI混合物をHEK293細胞懸濁液に加え、37℃、5%CO2で130rpmの条件下で培養した。4時間後、EXCELL293培地、2mMのグルタミンを加え、130rpmで培養した。24時間後に3.8mMのVPAを加え、72時間後に4g/Lのグルコースを加えた。5~6日間の培養後、一過性発現培養物の上清を回収し、プロテインAによるアフィニティークロマトグラフィーで精製して、標的huPTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質を得た。タンパク質の純度を、SDS PAGE及びSEC HPLCで調べた。各タンパク質の発現及び純度の分析結果を以下の表14に示した。iPT7及びiPT15の全てのヒト化変異体で、発現量と純度に有意差はなく、許容の範囲内であるという結果が示された。しかし、iPT42のヒト化変異体の安定性には一定の違いが示された。一方、ヒト化変異体v1、v2、v7、v8、v10及びv11は、発現量及び製品純度のいずれも望ましくなかった。
【0171】
【表14】
【0172】
実施例9 ヒト化huPTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質の機能の検証
9.1 huPTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質のPT結合能の確認(ELISA)
組換えヒトPTタンパク質をプレートに0.3μg/ウェルでコーティングして4℃で一晩維持し、実施例8.2で得たhuPTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質の勾配希釈系列と室温で2時間反応させた。洗浄後、二次抗体ヤギ抗ヒトIgGFc西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗体(Sigma)を添加し、室温で2時間反応させた。洗浄後、現像液を加え、450nmと650nmの吸光度を測定し、450nmの値から650nmの値を引いて最終的な吸光度値を得た。データ処理とマッピング分析にソフトウェアSotfMax Pro v5.4を用い、4パラメーターフィッティングにより、FIXに対する抗体の親和性を反映するPTタンパク質に対するhuPT抗体の結合曲線とEC50を得た。結果を以下の表15に示した。この表のとおり、全てのヒト化変異体は、PT毒素タンパク質と同様の結合能力を有していた。
【0173】
【表15】
【0174】
9.2 ヒト化PTモノクローナル抗体のFc融合タンパク質の百日咳毒素に対する中和活性の確認
濃度434.3μg/mLのPT毒素を、10%FBS+F12K+10%FBSで12ng/mLとし、1ウェルにつき50μLを加え、PT抗体のFc融合タンパク質10%FBS+F12Kで元の濃度の2倍希釈を行って濃度を10段階に変化させ、50μLを各ウェルに加え、37℃で1時間静置後、CHOK1細胞を回収して計数し、細胞数を3×10細胞/mLに調整し、96ウェルプレートの各ウェルに50μL加え、24時間後、100%アルコール固定と0.1%クリスタルバイオレット染色を続けて行い、PBSで洗浄後、顕微鏡下で観察と写真撮影を行った。中和活性を調査するために、iPT7、iPT15及びiPT42のヒト化変異体それぞれから3種を、ランダムに選択した。iPT42の変異体のうち、安定性の低いv1、v2、v7、v8、v10及びv11を破棄した。
【0175】
結果を以下の表16に示すが、選択したヒト化変異体の細胞毒性中和活性は、母体抗体と同等であるか、わずかに優れていた。
【0176】
【表16】
【0177】
9.3 huPTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質の空の細胞に対する非特異的結合の検出
CHOK1空細胞及び293F空細胞を3%BSA PBSに再懸濁し、6×10細胞/mLに調整し、実施例8.2で得たhuPTモノクローナル抗体のFc融合タンパク質をそれぞれ最終濃度100μg/mL及び10μg/mLとなるように添加し、一方、陰性対照とブランクを設定して、それぞれを30分間氷冷した。洗浄後、ブースター二次抗体FITCウサギ抗ヒトIgG抗体を添加して、30分間氷冷した。洗浄後、細胞を300μLの1%PBS BSAバッファーに再懸濁し、フローサイトメトリーで検出した。非特異的な結合は認められなかったことを示す結果を表17に示した。
【0178】
【表17】
【0179】
9.4 huPTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質の熱安定性の検出
UNCHAINED LABSのタンパク質熱安定性検出器を使用して微量のタンパク質試料を測定した。加熱プログラム:初期温度15℃、昇温速度0.3℃/分、最終温度95℃。各温度及び波長における試料の蛍光吸光度を記録し、信頼波長BCMの次導関数の最高点として変性温度Tmをソフトウェアを使用してフィッティングし、初期重合温度Taggは、473nmにおける静的光散乱SLSの次導関数の10分の1であった。Tmの値が大きいほど、タンパク質は安定であった。結果を以下の表18に示したが、各抗体のTmは基本的に60℃以上で安定性は良好であった。
【0180】
【表18】
【0181】
実施例10 四価のヒト化PT抗体のFc融合タンパク質の製造
実施例4の方法に従い、実施例7~9で製造し検討したヒト化抗体配列、huPT7v11、huPT15v7c及びhuPT42v6について、抗体の抗原認識エピトープの重複(エピトープビニングの結果)に従って、ペアで直列に組み合わせるように選択し、ヒトIgG1 FcをコードするDNA断片と融合して、四価の二重特異性抗体huPT7v11n15v7c-Fc、huPT7v11n15v11c-Fc、huPT42v6n15v11c-Fc及びhuPT42v6n7v11-Fcを得た。
【0182】
HEK293細胞を直ちに発現させ、精製して、標的PT四価抗体のFc融合タンパク質を得た。
【0183】
実施例11 四価のヒト化PT抗体のFc融合タンパク質の活性のさらなる精査
11.1 PT毒素の親和性の精査
実施例10で製造したPT四価抗体のFc融合タンパク質を2.5μg/mLに希釈し、バイオセンサーに60秒間、高さ約0.8nmで固定した。PTpuriは、100nM、50nM、25nM、12.5nM及び6.25nMの5段階に希釈し、ベースラインは60秒、結合は120秒、解離は600秒とした。希釈剤は0.02%PBST20、再生溶液はグリシン-塩酸(pH1.7)、中和溶液は希釈剤、バイオセンサーはAHCを使用し、結果を以下の表19に示した。1B7及び11E6はPT毒素に結合し中和効果を示し、対照抗体として使用した。自己クローニング及び製造は、米国特許第10035846号の順に従って行った。
【0184】
【表19】
【0185】
11.2 四価のヒト化PT抗体のFc融合タンパク質の中和活性の精査と対照抗体との比較
濃度434.3μg/mLのPT毒素を、10%FBS+F12K+10%FBSで12ng/mLとして1ウェルにつき50μLを加え、実施例4.2で得た親和性が良好なPT四価抗体のFc融合タンパク質を、10%FBS+F12Kで元の濃度の2倍希釈を行って濃度を10段階に変化させ、それらの50μLを各ウェルに加え、37℃で1時間静置後、CHOK1細胞を回収して計数し、細胞数を3×10細胞/mLに調整して、96ウェルプレートの各ウェルに50μLを加え、24時間後、100%アルコール固定と0.1%クリスタルバイオレット染色を続けて行い、PBSで洗浄後、顕微鏡下で観察と写真撮影を行った。1B7及び11E6は対照抗体で、PT毒素に結合し中和効果を示した。自己クローニング及び製造は、米国特許第10035846号の順に従って行った。
【0186】
結果を表20に示し、四価抗体huPT7n15-Fc、huPT42n7-Fc、huPT42n15-Fc、iPT12n42-Fc、iPT12di-Fc、iPT15n12-Fc及びiPT42n12-Fcは、より優れた中和活性を示し、iPT7n15-Fc、iPT42n7-Fc、iPT12n15-Fc、iPT12n42-Fc、iPT15n12-Fc及びiPT42n12-Fcの中和活性は、iPT15di-Fc及びiPT12di-Fcよりも高く、かつ、二価抗体iPT12-Fcよりも高く、表20のとおり、中和活性は、異なるエピトープを認識するシングルドメイン抗体を組み合わせた後に改善した。
【0187】
【表20】
【0188】
実施例12 PTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質と対照抗体のエピトープの比較
この実施例では、本発明のPTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質と対照抗体の結合エピトープを、バイオレイヤー干渉法(BLI)によるエピトープビニングで比較した。
【0189】
具体的には、インタンデム法により、PT-ビオチンを0.02%PBST20で10μg/mLに希釈し、120秒間SAbiosensorに固定した。PTシングルドメイン抗体のFc融合タンパク質を0.02%PBST20で100nMに希釈して2つの群に分け、300秒の抗体結合時間で、再生溶液が10mMグリシン-塩酸(pH1.7)とし、一次抗体(飽和抗体)が飽和するまでセンサーに結合させ、次いで、二次抗体(競合抗体)が同じ濃度で一次抗体と競合させ、その後、割合を計算した。割合は、以下の式で計算した:
Ab1を有するAb2/Ab1を有さないAb2
(式中、Ab1は対照抗体(米国特許第10035846号の11E6、1B7)で、Ab2はその後の抗体である)
【0190】
同時に、抗原性エピトープの完全な重複の参照として、Ab2群に対照抗体も加えた。結果を以下の表21に示した。iPT12のエピトープが11E6対照抗体のエピトープと重複し、iPT7のエピトープが11E6対照抗体のエピトープと部分的に重複していることを除き、全ての抗体は2つの対照抗体と明らかに競合関係がなく、完全に重複しない抗原結合エピトープを有していたという結果が示された。
【0191】
【表21】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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