(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】ウイルス不活化組成物、消毒剤、洗浄剤、及び、衛生資材
(51)【国際特許分類】
A01N 37/44 20060101AFI20230719BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230719BHJP
A01N 41/04 20060101ALI20230719BHJP
A01N 43/38 20060101ALI20230719BHJP
C11D 1/02 20060101ALI20230719BHJP
C11D 3/48 20060101ALI20230719BHJP
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A61K 8/46 20060101ALI20230719BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20230719BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20230719BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
A01N37/44
A01P1/00
A01N41/04 Z
A01N43/38
C11D1/02
C11D3/48
C11D1/14
C11D1/29
C11D1/12
C11D3/33
C11D3/34
C11D3/36
A61K8/46
A61K8/44
A61K8/55
A61Q19/10
(21)【出願番号】P 2022098327
(22)【出願日】2022-06-17
【審査請求日】2023-01-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190736
【氏名又は名称】株式会社ニイタカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】朝日 薫
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 恵太
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/097729(WO,A1)
【文献】特表2010-513244(JP,A)
【文献】特表2022-520551(JP,A)
【文献】特表2005-530857(JP,A)
【文献】特開2020-125259(JP,A)
【文献】特開2019-182853(JP,A)
【文献】特開2019-182854(JP,A)
【文献】特開2010-063762(JP,A)
【文献】特開2010-063732(JP,A)
【文献】特開2008-156329(JP,A)
【文献】特開2022-029409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 37/44
A01P 1/00
A01N 41/04
A01N 43/38
C11D 1/02
C11D 3/48
C11D 1/14
C11D 1/29
C11D 1/12
C11D 3/33
C11D 3/34
C11D 3/36
A61K 8/46
A61K 8/44
A61K 8/55
A61Q 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アニオン界面活性剤、及び、
(b)起泡力をもたず、20℃での水への溶解度が0.3g/100ml以上、分子量が500以下の有機化合物を含み、pHが5.0以下である
ウイルス不活化組成物であって、
前記(a)アニオン界面活性剤は、アルキル硫酸(塩)系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸(塩)系界面活性剤、アルカンスルホン酸(塩)系界面活性剤、及び、オレフィンスルホン酸(塩)系界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記(a)アニオン界面活性剤の濃度が0.05質量%以上であり、
前記(b)有機化合物は、アミノ酸、スルホン酸(塩)、及び、ホスホン酸(塩)からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
アルコールの濃度が40質量%未満であり、ノロウイルス不活化組成物であることを特徴とするウイルス不活化組成物。
【請求項2】
pHが2.0~5.0である請求項
1に記載のウイルス不活化組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のウイルス不活化組成物を含む消毒剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のウイルス不活化組成物を含む洗浄剤。
【請求項5】
身体洗浄剤である請求項
4に記載の洗浄剤。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のウイルス不活化組成物を含むことを特徴とする衛生資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス不活化組成物、消毒剤、洗浄剤、及び、衛生資材に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスの中にはヒトに感染するものもあり、感染予防のために従来からウイルス不活化剤が用いられている。
【0003】
近年、ノロウイルス等のウイルスによる感染性胃腸炎あるいは食中毒の発生が一年を通じて多発しており、特に11~3月が発生のピークとなっている。特にノロウイルスは、カリシウイルス科、ノロウイルス属に分類されるエンベロープをもたないRNAウイルス(以下、「ノロウイルス等」と記載する)であり、アルコール(エタノール、イソプロパノール等)、熱、酸性(胃酸等)、又は、乾燥等に対して強い抵抗力を有する。潜伏期間は1~2日であると考えられており、嘔気、嘔吐、下痢の主症状が出るが、腹痛、頭痛、発熱、悪寒、筋痛、咽頭痛、倦怠感等を伴うこともある。
【0004】
ノロウイルスに対する不活化作用を発揮できる組成物として、特定のアミン化合物と、アルコールを含む溶媒とを含み、pHが5.0未満である組成物が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
なお、2020年に新型コロナウイルス感染症が発生し、ウイルス不活化剤の需要が増大したことから、ウイルス不活化用途に好適に用いられる組成物のバリエーションを増やすための種々の研究がおこなわれている。
例えば、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)が、経済産業省の要請を受け、新型コロナウイルスの感染拡大に対応し、家庭や職場においてアルコール以外の消毒方法の選択肢を増やすため、各種界面活性剤の有効性評価をおこなっている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】“インフルエンザウイルスを用いた代替消毒候補物資の有効性評価にかかる検証試験の結果について 令和2年4月30日 独立行政法人製品評価技術基盤機構”、[online]、令和2年5月1日発表、独立行政法人製品評価技術基盤機構、インターネット<URL:https://www.nite.go.jp/data/000108456.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような状況下において、ウイルス不活化用途に好適に用いられる新規なウイルス不活化組成物が求められている。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされた発明であり、本発明の目的は、ウイルス不活化用途に好適に用いられる新規なウイルス不活化組成物、消毒剤、洗浄剤、及び、衛生資材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明(1)は、(a)アニオン界面活性剤、及び、(b)起泡力をもたず、20℃での水への溶解度が0.3g/100ml以上、分子量が500以下の有機化合物を含み、pHが5.0以下であることを特徴とするウイルス不活化組成物である。
【0011】
「ウイルス不活化組成物」は、少なくとも1種のウイルスを不活化(不活性化)できる組成物を言い、例えば、ウイルス不活化用途に用いられる「ウイルス不活化剤」であってもよい。
【0012】
本発明(1)のウイルス不活化組成物は、(a)アニオン界面活性剤、及び、(b)起泡力をもたず、20℃での水への溶解度が0.3g/100ml以上、分子量が500以下の有機化合物を含み、pHが5.0以下であることにより、優れたウイルス不活化効果を発揮できる。
本明細書中、pHは、pHメータ F-53(株式会社堀場製作所製)を用い、25℃で、JIS Z-8802:2011「pH測定方法」に準じた方法で測定される値である。
また本明細書中、化合物が「起泡力をもつ」とは、当該化合物の0.5%水溶液20mlをJIS R-3505:1994「ガラス製体積計」に適合した100mlの有栓メスシリンダー(外径3.2cm、長さ25cm)に入れて1回/秒、20℃の条件下で30秒間振とうした10秒後の泡の体積が20ml以上となることをいう。
なお、(a)アニオン界面活性剤は、上記起泡力をもつものであり、少なくともこの点で起泡力をもたない(b)有機化合物とは区別される。
【0013】
本発明(1)のウイルス不活化組成物が優れたウイルス不活化効果を発揮できる理由は、必ずしも定かではないが、以下のように考えられる。
先ず、本発明(1)のウイルス不活化組成物は、pHが5.0以下であることにより、その組成物中ではウイルスは酸性条件下におかれる。
ウイルスのうち、新型コロナウイルスのようなエンベロープウイルスであれば、ウイルス表面にスパイクと呼ばれるタンパク質を有し、ノロウイルスのようなノンエンベロープウイルスであれば、カプシドと呼ばれるタンパク質が集合してできた外殻を有する。
一般的に、タンパク質は構成要素であるアミノ酸のアミノ基やカルボキシ基の電荷がpH条件によって変化を受けるため、等電点より酸性では正に帯電する。そのため、酸性条件下では多くのタンパク質が正に帯電する。
したがって、本発明(1)のウイルス不活化組成物はノンエンベロープウイルス等と接触したとき、そのウイルスの表面を正に帯電させる作用を発揮できる。
上記の作用により、アニオン界面活性剤と、表面が正に帯電したウイルスとは電気的な作用で引き付けあい、接触効率が高まる。
ここで、エンベロープウイルスであれば、非特許文献1のように界面活性剤単体でも不活化し得るが、ノンエンベロープウイルスの場合、カプシドがタンパク質間の水素結合などの相互作用によって強く自己組織化しているため、一般に薬剤抵抗性が高く、界面活性剤単体での不活化は非常に困難である。
ここで、上述した水溶性の有機化合物を組み合わせて用いると、カプシドのタンパク質間の水素結合などの相互作用部位と有機化合物が置き換わることで、自己組織化が弱まるため、アニオン界面活性剤が効果的に作用できるようになると思われる。
上述した作用により、接近したアニオン界面活性剤の疎水基が、ウイルスがもつエンベロープ膜及び/又はカプシドを変性、破壊することでウイルスを不活化する。
なお、本発明(1)のウイルス不活化組成物は、アニオン界面活性剤等を含むことから、洗浄剤として用いた場合に泡立ちも優れたものとすることができる。
【0014】
本発明(2)は、上記(a)アニオン界面活性剤が、アルキル硫酸(塩)系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸(塩)系界面活性剤、アルカンスルホン酸(塩)系界面活性剤、及び、オレフィンスルホン酸(塩)系界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種を含む本発明(1)のウイルス不活化組成物である。
なお、例えばアルキル硫酸(塩)系界面活性剤とは、アルキル硫酸及び/又はその塩であって、起泡力を有する化合物をいう。塩とは、金属塩、有機アミン塩、アンモニウム塩が挙げられる。金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等の一価の金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等の二価の金属塩が好適なものとして挙げられる。有機アミン塩は、モノ-、ジ-およびトリエタノールアミン塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等の有機アンモニウム塩であってもよい。他のアニオン界面活性剤についても同様である。
【0015】
本発明(3)は、上記(b)有機化合物が、アミノ酸、スルホン酸(塩)、及び、ホスホン酸(塩)からなる群より選択される少なくとも1種を含む本発明(1)又は(2)のウイルス不活化組成物である。
すなわち、上記(b)有機化合物は、起泡力をもたず、20℃での水への溶解度が0.3g/100ml以上、分子量が500以下である、アミノ酸、スルホン酸(塩)、及び、ホスホン酸(塩)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
このような有機化合物を用いることで、本発明のウイルス不活化組成物を低温条件下で保管した後、ポンプフォーマーなどを用いて吐出する際の吐出性(低温吐出性)をより優れたものとすることができる。
【0016】
本発明(4)は、pHが2.0~5.0である本発明(1)~(3)のいずれかとの任意の組合せのウイルス不活化組成物である。
このようなpHであると、手荒れ等の肌荒れをより充分に防止したり、使用対象物への影響をより低減したりしながら、ウイルス不活化効果を発揮できる。
【0017】
本発明(5)は、ノロウイルス不活化組成物である本発明(1)~(4)のいずれかとの任意の組合せのウイルス不活化組成物である。
上記本発明のウイルス不活化組成物は、ノロウイルスに対して高いウイルス不活化効果を示す。
なお、本明細書において、「ノロウイルス不活化組成物」とは、ネコカリシウイルス、マウスノロウイルス、及び、ヒトノロウイルスからなる群より選択される少なくとも1種のウイルスを不活化できるウイルス不活化組成物を意味する。
【0018】
本発明(6)は、本発明(1)~(5)のいずれかのウイルス不活化組成物を含む消毒剤でもある。
本発明の消毒剤は、ウイルス不活化効果を充分に発揮できる。
【0019】
本発明(7)は、本発明(1)~(5)のいずれかのウイルス不活化組成物を含む洗浄剤でもある。
本発明(8)は、身体洗浄剤である本発明(7)の洗浄剤である。
本発明の洗浄剤、特に本発明の身体洗浄剤は、本発明のウイルス不活化組成物を含むため、泡立ちに優れながら、ウイルス不活化効果に優れるものである。
【0020】
本発明(9)は、本発明(1)~(5)のいずれかのウイルス不活化組成物を含む衛生資材である。
本発明の衛生資材は、本発明のウイルス不活化組成物を含むことを特徴とする。
本発明のウイルス不活化組成物は、ウイルス不活性化作用を充分に発揮するので、このようなウイルス不活化組成物を含む衛生資材を用いることにより、ウイルス感染を防ぐことができる。また、本発明のウイルス不活化組成物が低温吐出性に優れることから、本発明の衛生資材は、製造し易いものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のウイルス不活化組成物、消毒剤、洗浄剤、及び、衛生資材は、優れたウイルス不活化効果を発揮できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0023】
本発明のウイルス不活化組成物は、(a)アニオン界面活性剤、及び、(b)起泡力をもたず、20℃での水への溶解度が0.3g/100ml以上、分子量が500以下の有機化合物を含み、pHが5.0以下である。
【0024】
(a)アニオン界面活性剤は、本発明の技術分野においてアニオン界面活性剤として使用されるものを使用できるが、炭素数6以上のアルキル基又はアルケニル基を有することが好ましい。アルキル基又はアルケニル基の炭素数は、8以上がより好ましく、10以上が更に好ましく、12以上が一層好ましい。また、該炭素数は、36以下が好ましく、24以下がより好ましく、18以下が更に好ましい。アルキル基は、第一級アルキル基であってもよく、第二級アルキル基であってもよく、第三級アルキル基であってもよいが、例えば第一級アルキル基又は第二級アルキル基であることが好ましい。
【0025】
(a)アニオン界面活性剤は、例えば、アルキル硫酸(塩)系界面活性剤、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸(塩)系界面活性剤、アルカンスルホン酸(塩)系界面活性剤、及び、オレフィンスルホン酸(塩)系界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0026】
アルキル硫酸(塩)系界面活性剤は、アルキル硫酸及び/又はアルキル硫酸塩であって、上記起泡力を有するものをいう。アルキル基の炭素数は、14以下が特に好ましい。
【0027】
(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸(塩)系界面活性剤は、(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸及び/又は(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩であって、上記起泡力を有するものをいう。アルキル基の炭素数は、14以下が特に好ましい。(ポリ)オキシアルキレン基は、オキシアルキレン基の付加数が1以上であればよい。オキシアルキレン基の付加数は、10以下であることが好ましい。オキシアルキレン基は、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられ、これらが組み合わされたものであってもよいが、オキシエチレン基が特に好ましい。
【0028】
アルカンスルホン酸(塩)系界面活性剤は、アルカンスルホン酸及び/又はアルカンスルホン酸塩であって、上記起泡力を有するものをいう。
【0029】
オレフィンスルホン酸(塩)系界面活性剤は、オレフィンスルホン酸及び/又はオレフィンスルホン酸塩であって、上記起泡力を有するものをいう。アルケニル基の炭素数は、8~18、特に14~16が特に好ましい。なお、オレフィンスルホン酸(塩)系界面活性剤は、ウイルス不活化組成物中又はその原料中で、アルケニル基の二重結合に水が付加反応したものであってもよい。
【0030】
(a)アニオン界面活性剤が塩である場合、塩としては、特に限定されず、金属塩、有機アミン塩、アンモニウム塩が挙げられる。金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等の一価の金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等の二価の金属塩が好適なものとして挙げられる。有機アミン塩は、モノ-、ジ-およびトリエタノールアミン塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等の有機アンモニウム塩であってもよい。
【0031】
中でも、(a)アニオン界面活性剤は、アルキル硫酸(塩)系界面活性剤を含むことが好ましい。
【0032】
本発明のウイルス不活化組成物中の(a)アニオン界面活性剤の濃度は、ウイルス不活化組成物100質量%中、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることが更に好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましい。該濃度は、30質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。本発明のウイルス不活化組成物は、(a)アニオン界面活性剤の濃度が高くても、優れたウイルス不活化効果を発揮でき、洗浄剤に特に好適に適用できるものである。(a)アニオン界面活性剤は、複数種類含まれていてもよく、本発明のウイルス不活化組成物が(a)アニオン界面活性剤を複数種類含む場合は、(a)アニオン界面活性剤の濃度はそれらの合計の濃度として定める。
【0033】
(b)有機化合物は、起泡力をもたず、20℃での水への溶解度が0.3g/100ml以上、分子量が500以下の有機化合物であればよいが、中でも、アミノ酸、スルホン酸(塩)、及び、ホスホン酸(塩)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これにより、本発明のウイルス不活化組成物の低温吐出性がより優れる。また、(b)有機化合物は、フェニル基、並びに/又は、炭素数5以下のアルキル基及び/若しくはアルケニル基を有することが好ましく、フェニル基、並びに/又は、炭素数3以下のアルキル基及び/若しくはアルケニル基を有することがより好ましい。
【0034】
アミノ酸は、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリン、アスパラギン、グルタミン、チロシン等の中性アミノ酸;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸;アルギニン、ヒスチジン、リジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸;これらアミノ酸が有するアルキル基に置換基を導入したもの等が挙げられる。置換基としては置換もしくは非置換のアルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、フェニル基等が挙げられる。なかでも、中性アミノ酸、酸性アミノ酸が好ましい。
【0035】
スルホン酸(塩)は、スルホン酸基(-SO3H)を有する有機化合物及び/又はその塩であり、例えば、タウリン;メタンスルホン酸;フェノールスルホン酸(塩)、キシレンスルホン酸(塩)、ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸等の芳香族スルホン酸(塩)が挙げられ、中でも、芳香族スルホン酸(塩)が好ましい。
【0036】
ホスホン酸(塩)は、ホスホン酸基(-PO(OH)2)を有する有機化合物及び/又はその塩であり、例えば、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
【0037】
以上をまとめると、(b)有機化合物は、例えば、中性アミノ酸、酸性アミノ酸、芳香族スルホン酸(塩)、及び、ホスホン酸(塩)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0038】
本発明のウイルス不活化組成物の(b)有機化合物の20℃での水への溶解度は、その上限値は特に限定されず、水と任意に混和するものであってもよい。該溶解度は、3.5g/100ml以上であることが好ましい。
【0039】
本発明のウイルス不活化組成物の(b)有機化合物の分子量は、その下限値は特に限定されないが、通常は50以上であり、70以上であることが好ましい。該分子量は、400以下であることが好ましい。
【0040】
本発明のウイルス不活化組成物中の(b)有機化合物の濃度は、ウイルス不活化組成物100質量%中、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることが更に好ましく、0.2質量%以上であることが特に好ましい。該濃度は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。(b)有機化合物は複数種類含まれていてもよく、本発明のウイルス不活化組成物が(b)有機化合物を複数種類含む場合は、(b)有機化合物の濃度はそれらの合計の濃度として定める。
【0041】
本発明のウイルス不活化組成物中、(a)アニオン界面活性剤と(b)有機化合物の質量比は、1/10以上であることが好ましく、1/5以上であることがより好ましく、1/3以上であることが更に好ましい。該質量比は、10/1以下であることが好ましく、8/1以下であることがより好ましく、5/1以下であることが更に好ましい。
【0042】
本発明のウイルス不活化組成物は、更に、硫酸、塩酸、スルファミン酸等の酸剤や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のアルカリ剤を含んでいてもよい。
酸剤やアルカリ剤の量は、所望のpHに応じて適宜調整することができる。
【0043】
本発明のウイルス不活化組成物は、更に、水を含有することが好ましい。水は、特に限定されないが、例えば水道水、蒸留水、精製水、純水、イオン交換水等が挙げられる。本発明のウイルス不活化組成物中、水の質量濃度は、10~99.9質量%であることが好ましく、40~99.5質量%であることがより好ましく、70~99質量%であることが更に好ましく、90~98.5質量%であることが特に好ましい。
【0044】
(その他の成分)
本発明のウイルス不活化組成物は、上記の成分以外に、アニオン界面活性剤以外の界面活性剤、アルコール、アルコール以外の有機溶剤、可溶化剤、増粘剤、酵素、香料、色素染料等が含まれていてもよい。
【0045】
上記アニオン界面活性剤以外の界面活性剤としては、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等を用いることができる。
【0046】
本発明のウイルス不活化組成物中、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、及び、両性イオン界面活性剤の合計濃度が10質量%以下であることが好ましい。
上記アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、及び、両性イオン界面活性剤の合計濃度は、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましいく、0質量%であることが特に好ましい。
【0047】
本発明のウイルス不活化組成物は、低級アルコールを含んでいても良いが、低級アルコールの濃度が40質量%未満であることが好ましい。上記低級アルコールの濃度は、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以下であることが一層好ましく、1質量%以下であることがより特に好ましく、0質量%であることが最も好ましい。低級アルコールの濃度は、低級アルコールを複数種用いる場合は、複数種の低級アルコールの合計の濃度である。なお、本明細書中、低級アルコールの濃度が40質量%未満であるとは、本発明のウイルス不活化組成物が低級アルコールを含まず、低級アルコールの濃度が0質量%であってもよいものである。本発明のウイルス不活化組成物は、低級アルコールを低濃度としたり配合しないものとした場合であっても、優れたウイルス不活化効果を示すことができる。
【0048】
また本発明のウイルス不活化組成物中、低級アルコール、高級アルコールを含むアルコールの濃度が40質量%未満であることが好ましい。上記アルコールの濃度は、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以下であることが一層好ましく、1質量%以下であることがより特に好ましく、0質量%であることが最も好ましい。本明細書中、アルコールは、低級アルコールとは異なり、炭素数が限定されないアルコールをいう。なお、アルコールの価数も特に限定されない。アルコールの濃度は、アルコールを複数種用いる場合は、複数種のアルコールの合計の濃度である。なお、アルコールの濃度が40質量%未満であるとは、本発明のウイルス不活化組成物がアルコールを含まず、アルコールの濃度が0質量%であってもよいものである。
【0049】
更に、本発明のウイルス不活化組成物中、溶剤(有機溶剤)の濃度が40質量%未満であることが好ましい。
上記溶剤の濃度は、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以下であることが一層好ましく、1質量%以下であることがより特に好ましく、0質量%であることが最も好ましい。本明細書中、溶剤は、有機溶剤をいう。溶剤の濃度は、溶剤を複数種用いる場合は、複数種の溶剤の合計の濃度である。
なお、溶剤の濃度が40質量%未満であるとは、本発明のウイルス不活化組成物が溶剤を含まず、溶剤の濃度が0質量%であってもよいものである。
【0050】
本発明のウイルス不活化組成物は、pHが4.5以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.5以下であることが更に好ましい。
このようなpHであると、本発明のウイルス不活化組成物のウイルス不活化効果がより向上する。pHは、その下限値は特に限定されないが、通常は1.0以上であり、手荒れ等の肌荒れをより充分に防止したり、使用対象物への影響をより低減したりする観点からは、3.0以上であることが好ましい。
例えば、ウイルス不活化効果を特に優れたものとする観点からは、ウイルス不活化組成物のpHが2.0以上、3.0未満であることが本発明における好ましい実施形態の1つである。また、ウイルス不活化効果と、手荒れ等の肌荒れをより充分に防止したり、使用対象物への影響をより低減したりする効果をバランス良く発揮する観点からは、pHが3.0以上、4.0未満であることもまた本発明における好ましい実施形態の1つである。更に、手荒れ等の肌荒れをより充分に防止したり、使用対象物への影響をより低減したりする効果を特に優れたものとする観点からは、pHが4.0以上、5.0以下であることもまた本発明における好ましい実施形態の1つである。
なお、pHは、上述したように、例えば硫酸、塩酸、スルファミン酸等の酸剤や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のアルカリ剤の量を制御することにより調整することができる。
【0051】
次に、本発明のウイルス不活化組成物の用途を説明する。
本発明のウイルス不活化組成物は、ノロウイルス不活化組成物であることが好ましい。
本発明のウイルス不活化組成物は、後述する実施例に示すように、ネコカリシウイルスとマウスノロウイルスの両方に対して不活化効果を発揮できるものであることが好ましい。これにより、ヒトノロウイルスの不活化により好適に適用できる。
なお、本発明のウイルス不活化組成物は、ノロウイルスよりも薬剤抵抗性が低いインフルエンザウイルスやコロナウイルスなどのエンベロープウイルスに対しても、高いウイルス不活化効果を示す。
【0052】
本発明のウイルス不活化組成物は、消毒剤に加えてもよい。また本発明のウイルス不活化組成物又は本発明の消毒剤を、衛生資材に用いてもよい。
本発明のウイルス不活化組成物は、優れたウイルス不活化効果を発揮するので、このようなウイルス不活化組成物を含む消毒剤を用いることにより、ウイルス感染を充分に防ぐことができる。
【0053】
本発明の衛生資材は、特に限定されるものではないが、例えば、ウェットティッシュ、マスク、使い捨て手袋、使い捨て布巾、ティッシュペーパー等があげられる。
【0054】
本発明のウェットティッシュは基布と基布に含浸させた上述のウイルス不活化組成物からなる。本発明のウェットティッシュにおける基布は、1枚のみであってもよく、2枚以上が積層したものであってもよい。
基布の構成繊維としては、例えば、合成繊維、再生繊維、天然繊維等が挙げられ、これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
合成繊維としては、例えば、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維が特に好ましい)、ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維等が挙げられ、これらの1種以上を使用できる。
再生繊維としては、例えば、レーヨン繊維、ポリノジック繊維、キュプラ繊維、及びリヨセル繊維等が挙げられ、これらの1種以上を使用できる。
天然繊維としては、例えば、セルロース繊維(綿繊維など)等が挙げられ、これらの1種以上を使用できる。
保存安定性や強度の面からレーヨン繊維とポリエチレンテレフタレート繊維の2種を併用した繊維が特に好ましい。
基布の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、織布、不織布、及び編物等が挙げられ、不織布が特に好ましい。
基布の目付(単位面積当たりの質量)は、特に限定されるものではないが、例えば、20g/m2以上、60g/m2以下が特に好ましい。
基布に含浸させるウイルス不活化組成物の量は、基布の質量に対して1倍以上、3倍以下の量が好ましい。
本発明のウェットティッシュとしては、例えば、バケツ容器等の容器にロール状になった不織布等の基布を入れ、ウイルス不活化組成物を投入、含浸させたものが挙げられる。なお、容器に、予めウイルス不活化組成物を含浸させた基布を入れたものであってもよい。
【0055】
なお、本発明のウイルス不活化組成物は、洗浄剤に加えてもよい。中でも、本発明の洗浄剤は、身体洗浄剤であることが好ましい。本発明のウイルス不活化組成物は、界面活性剤の濃度を高めにしてもウイルス不活化効果を充分に発揮できるため、身体洗浄剤のような良い泡立ちが求められる用途に好適に使用できる。
本発明のウイルス不活化組成物や、本発明のウイルス不活化組成物を含む消毒剤や洗浄剤は、ポンプボトルやスプレーボトルに詰められて用いられることが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下に本発明をより具体的に説明する実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例において、特に断らない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0057】
(実施例1~46)及び(比較例1~4)
表1~表4に記載の配合により実施例1~46及び比較例1~4に係るウイルス不活化組成物を作製した。
なお、表1~表4中、化合物の製造元等は以下の通りである。
【0058】
<(a)アニオン界面活性剤>
ラウリル硫酸TEA:ラウリル硫酸トリエタノールアミン、花王(株)製 エマールTD、濃度40%
POE(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム:ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、花王(株)製 エマール270J、濃度70%(オキシエチレン基の平均付加モル数2)
α-オレフィンスルホン酸ナトリウム:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製 、リポランJ-441、濃度37%(オレフィンの平均炭素数14~16)
アルカンスルホン酸ナトリウム:クラリアントジャパン社製 HOSTAPUR SAS 30SB、濃度30%
【0059】
<(a)’ アニオン界面活性剤以外の界面活性剤>
ラウリルヒドロキシスルホベタイン:花王(株)製 アンヒトール 20HD、濃度30%
ミリスチルジメチルアミンオキシド:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製 カデナックス DM14D-N、濃度25%
ラウリルグルコシド:花王(株)製 マイドール 12、濃度40%
ポリオキシエチレンラウリルエーテル:三洋化成工業株式会社製 エマルミン NL-110、濃度100%
塩化ベンザルコニウム:三洋化成工業株式会社製 塩化ベンザルコニウム(GEM)、濃度53%
【0060】
<(b)起泡力をもたず、20℃での水への溶解度が0.3g/100ml以上、分子量が500以下の有機化合物>
グリシン:富士フイルム和光純薬(株)製、濃度99%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度22.5g/100ml、分子量75)
アラニン:富士フイルム和光純薬(株)製 L-アラニン、濃度99%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度15.8g/100ml、分子量89)
バリン:富士フイルム和光純薬(株)製 L-バリン、濃度99%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度8.5g/100ml、分子量117)
ロイシン:富士フイルム和光純薬(株)製 L-ロイシン、濃度99%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度2.2g/100ml、分子量131)
イソロイシン:富士フイルム和光純薬(株)製 L-イソロイシン、濃度99%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度4.0g/100ml、分子量131)
セリン:富士フイルム和光純薬(株)製 L-セリン、濃度99%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度4.3g/100ml、分子量105)
トレオニン:富士フイルム和光純薬(株)製 L-トレオニン、濃度99%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度9.0g/100ml、分子量119)
システイン:富士フイルム和光純薬(株)製 L-システイン、濃度98%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度16.0g/100ml、分子量121)
メチオニン:富士フイルム和光純薬(株)製 L-メチオニン、濃度99%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度4.8g/100ml、分子量149)
フェニルアラニン:富士フイルム和光純薬(株)製 L-フェニルアラニン、濃度99%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度2.7g/100ml、分子量165)
トリプトファン:富士フイルム和光純薬(株)製 L-トリプトファン、濃度99%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度1.06g/100ml、分子量204)
プロリン:富士フイルム和光純薬(株)製 L-プロリン、濃度99%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度155g/100ml、分子量115)
アスパラギン:東京化成工業(株)製 L-アスパラギン、濃度98%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度2.0g/100ml、分子量132)
グルタミン:富士フイルム和光純薬(株)製 L-グルタミン、濃度99%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度3.7g/100ml、分子量146)
アスパラギン酸:富士フイルム和光純薬(株)製 L-アスパラギン酸、濃度99%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度0.4g/100ml、分子量133)
グルタミン酸:富士フイルム和光純薬(株)製 L-グルタミン酸、濃度99%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度0.7g/100ml、分子量147)
アルギニン:富士フイルム和光純薬(株)製 L-アルギニン、濃度98%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度14.8g/100ml、分子量174)
ヒスチジン:富士フイルム和光純薬(株)製 L-ヒスチジン、濃度98%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度3.8g/100ml、分子量155)
リジン:富士フイルム和光純薬(株)製 L-リジン、濃度95%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度147g/100ml、分子量146)
タウリン:富士フイルム和光純薬(株)製、濃度95%以上(起泡力無し、20℃での水への溶解度6.25g/100ml、分子量125)
パラフェノールスルホン酸ナトリウム:東京化成工業(株)製 パラフェノールスルホン酸ナトリウム二水和物、濃度98%以上(起泡力無し、水と混和性、分子量196)
キシレンスルホン酸ナトリウム:テイカ株式会社製 テイカトックス N1140、濃度40%(起泡力無し、水と混和性、分子量208)
キシレンスルホン酸:テイカ株式会社製、テイカトックス 110、濃度94%(起泡力無し、水と混和性、分子量186)
ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸:BASF社製 ユビナール MS40、濃度100%(起泡力無し、25℃での水への溶解度25g/100ml、分子量308)
1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸:キレスト株式会社製 キレスト PH-210SD、濃度60%(起泡力無し、20℃での水への溶解度69g/100ml、分子量206)
2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸:キレスト株式会社製 キレスト PH-430、濃度50%(起泡力無し、水と混和性、分子量270)
ニトリロトリス(メチレンホスホン酸):キレスト株式会社製 キレスト PH-320、濃度50%(起泡力無し、水と混和性、分子量299)
【0061】
(酸剤)
10%硫酸:10%硫酸水溶液
10%塩酸:10%塩酸水溶液
【0062】
(アルカリ剤)
5%水酸化ナトリウム:5%水酸化ナトリウム水溶液
なお、表1~表4における組成の数値は、ウイルス不活化組成物中の各成分の純分の割合となる。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
<pHの測定>
各組成物の原液のpHを、pHメータ F-53(株式会社堀場製作所製)を用い、25℃で、JIS Z-8802:2011「pH測定方法」に準じた方法で測定した。結果を、表1~表4に示した。
【0068】
<ウイルス不活化試験>
(マウスノロウイルス不活化効果)
(1)マウスノロウイルスを、マウスのマクロファージ由来細胞株であるRAW 264.7細胞(ATCC TIB-71)に感染させて細胞を培養した。
(2)次に、マウスノロウイルスが感染したかどうかを細胞変性効果(Cytopathic effect:CPE)により確認した。
細胞変性効果を確認した後、培養細胞の凍結融解を繰り返すことにより、培養細胞を破砕した。
(3)培養細胞破砕液を遠心分離し、上清を回収しウイルス溶液とした。
(4)各実施例及び各比較例に係るウイルス不活化組成物と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合し、室温で30秒経過後、10%牛胎児血清含有DMEM培地で100倍希釈することにより、ウイルス不活化組成物のウイルスに対する作用を停止させた。
この工程により得られた溶液をウイルス不活化組成物30秒作用ウイルス溶液とした。
(5)10%牛胎児血清含有DMEM培地と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合した直後、10%牛胎児血清含有DMEM培地で100倍希釈することにより、得られた溶液をウイルス不活化組成物0秒作用ウイルス溶液とした。
(6)ウイルス不活化組成物0秒作用ウイルス溶液及びウイルス不活化組成物30秒作用ウイルス溶液を、それぞれ、10%牛胎児血清含有DMEM培地により、10倍段階希釈した。RAW 264.7細胞を培養した96wellマイクロプレートの培地を捨て、段階希釈液を100μLずつ加えた。
(7)ウイルス不活化組成物0秒作用ウイルス溶液及びウイルス不活化組成物30秒作用ウイルス溶液の段階希釈液が加えられたRAW 264.7細胞を37℃、5%CO2の条件で、4日間培養した。
(8)培養したRAW 264.7細胞のCPEを指標にTCID50(Tissue Culture Infectious Dose 50%)により各ウイルス溶液のウイルス感染力価(対数)を定量した。
(9)上記(1)~(8)の工程を3回独立に行い、ウイルス不活化組成物0秒作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間0秒におけるウイルス感染力価とし、ウイルス不活化組成物30秒作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間30秒におけるウイルス感染力価の値とした。
評価基準は以下の通りである。結果を表1~表4に示す。
○:4.0以上の感染力価の減少
△:2.0以上、4.0未満の感染力価の減少
×:2.0未満の感染力価の減少
なお、感染力価の減少が2.0以上(評価が△以上)であれば、マウスノロウイルス不活化効果は良好である。
【0069】
(ネコカリシウイルス不活化効果)
(1)ネコカリシウイルスを、ネコ腎由来株化細胞であるCRFK細胞(ATCC CCL-94)に感染させて細胞を培養した。
(2)次に、ネコカリシウイルスが感染したかどうかを細胞変性効果(Cytopathic effect:CPE)により確認した。
細胞変性効果を確認した後、培養細胞の凍結融解を繰り返すことにより、培養細胞を破砕した。
(3)培養細胞破砕液を遠心分離し、上清を回収しウイルス溶液とした。
(4)各実施例及び各比較例に係るウイルス不活化組成物と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合し、室温で30秒経過後、OPTI-MEM培地で100倍希釈することにより、各ウイルス不活化組成物のウイルスに対する作用を停止させた。
この工程により得られた溶液をウイルス不活化組成物30秒作用ウイルス溶液とする。
(5)OPTI-MEM培地と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合した直後、OPTI-MEM培地で100倍希釈することにより、得られた溶液をウイルス不活化組成物0秒作用ウイルス溶液とした。
(6)ウイルス不活化組成物0秒作用ウイルス溶液、ウイルス不活化組成物30秒作用ウイルス溶液を、それぞれ、OPTI-MEM培地により10倍段階希釈した。CRFK細胞を培養した96wellマイクロプレートの培地を捨て、段階希釈液を100μLずつ加えた。
(7)ウイルス不活化組成物0秒作用ウイルス溶液及びウイルス不活化組成物30秒作用ウイルス溶液の段階希釈液が加えられたCRFK細胞を37℃、5%CO2の条件で、4日間培養した。
(8)培養したCRFK細胞のCPEを指標にTCID50(Tissue Culture Infectious Dose 50%)により各ウイルス溶液のウイルス感染力価(対数)を定量した。
(9)上記(1)~(8)の工程を3回独立に行い、ウイルス不活化組成物0秒作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間0秒におけるウイルス感染力価とし、ウイルス不活化組成物30秒作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間30秒におけるウイルス感染力価の値とした。
評価基準は以下の通りである。結果を表1~表4に示す。
○:4.0以上の感染力価の減少
△:2.0以上、4.0未満の感染力価の減少
×:2.0未満の感染力価の減少
なお、感染力価の減少が2.0以上(評価が△以上)であれば、ネコカリシウイルス不活化効果は良好である。
【0070】
<低温吐出性>
試験方法
ポンプフォーマー(手で押すと内容液を泡で吐出するディスペンサー)を付けた容器に試料を入れ、-5℃で保管し、2~3日おきに室温に戻してから数度プッシュし、再び-5℃で保管するサイクルを1週間繰り返した時のポンプの吐出性を評価した。
評価基準は以下の通りである。結果を表1~表4に示す。
○:ポンプの動作に変化は無く、吐出に問題なし
△:ポンプが少し重くなるが、吐出に問題なし
×:ポンプが重くなり、吐出不良が発生する
なお、低温吐出性の評価が△以上であれば、低温吐出性は良好である。
【0071】
表1~表4より、実施例に係るウイルス不活化組成物は優れたウイルス不活化効果を奏することが判明した。
また実施例に係るウイルス不活化組成物は、低温吐出性に優れることから、ディスペンサーなどにウイルス不活化組成物を入れて使用する場合に、非常に好適に使用できるものである。
【要約】
【課題】ウイルス不活化用途に好適に用いられる新規なウイルス不活化組成物を提供する。
【解決手段】本開示に係るウイルス不活化組成物は、(a)アニオン界面活性剤、及び、(b)起泡力をもたず、20℃での水への溶解度が0.3g/100ml以上、分子量が500以下の有機化合物を含み、pHが5.0以下であることを特徴とする。
【選択図】 なし