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特許7315300水産加工食品用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂および水産加工食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】水産加工食品用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂および水産加工食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20230719BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20230719BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23L17/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017254359
(22)【出願日】2017-12-28
(65)【公開番号】P2019118285
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2020-09-10
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】太田 晶
(72)【発明者】
【氏名】北村 陽亜
(72)【発明者】
【氏名】志田 政憲
【合議体】
【審判長】植前 充司
【審判官】磯貝 香苗
【審判官】平塚 政宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-2028(JP,A)
【文献】特開2015-136329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉と油脂組成物とを混合して得られる水産加工食品に使用される水産加工食品用油脂組成物であって、
3つの構成脂肪酸の全てがラウリン酸およびミリスチン酸から選ばれる少なくとも1種である3飽和トリグリセリドS1S1S1を油脂全体の質量に対して1~9質量%含有し、
3つの構成脂肪酸の全てが飽和脂肪酸(S)である3飽和トリグリセリドSSSを油脂全体の質量に対して7~38質量%含有する水産加工食品用油脂組成物。
【請求項2】
魚肉と油脂組成物とを混合して得られる水産加工食品に使用される水産加工食品用油脂組成物であって、
ラウリン系油脂のみを原料とする極度硬化油、または、
前記極度硬化油のみを原料とするエステル交換油脂、
のうちの少なくともいずれかを含有し、
3つの構成脂肪酸の全てが飽和脂肪酸である3飽和トリグリセリドSSSを油脂全体の質量に対して7~38質量%含有する水産加工食品用油脂組成物。
【請求項3】
トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸およびミリスチン酸の含有量が、トリグリセリドの2位に結合された構成脂肪酸全体の質量に対して3.5~25質量%である請求項1または2に記載の水産加工食品用油脂組成物。
【請求項4】
構成脂肪酸のうち2つが飽和脂肪酸(S)であり1つが不飽和脂肪酸(U)である2飽和トリグリセリドのうち、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が1.2以上である請求項1~のいずれか一項に記載の水産加工食品用油脂組成物。
【請求項5】
構成脂肪酸のうち2つが不飽和脂肪酸(U)であり1つが飽和脂肪酸(S)である2不飽和トリグリセリドと、3つの構成脂肪酸の全てが不飽和脂肪酸(U)である3不飽和トリグリセリドとの合計含有量が油脂全体の質量に対して60質量%以上である請求項1~のいずれか一項に記載の水産加工食品用油脂組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の水産加工食品用油脂組成物を含有する水産加工食品用可塑性油脂。
【請求項7】
魚肉と油脂組成物とを混合して得られる水産加工食品であって、
請求項1~のいずれか一項に記載の水産加工食品用油脂組成物または請求項に記載の水産加工食品用可塑性油脂を含有する水産加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水産加工食品の原料の食用油脂として使用される水産加工食品用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂および水産加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
赤身などの脂肪分の少ない魚肉は、マグロのトロのような部位に比べるとコク味がなく、油性感に乏しい。
【0003】
そのため赤身などの脂肪分の少ない魚肉と食用油脂を混合し、脂肪分の多いトロ風の水産加工食品を製造することが行われてきた。例えば、マグロ赤身をフードプロセッサーなどで粉砕し、食用油脂であるショートニングや油中水型乳化物などの可塑性油脂を加えて練り合わせたねぎトロ風の水産加工食品やそれを用いた寿司などの米飯食品は、近年ではスーパーマーケット、コンビニエンスストア、料理店でも商品とされている。
【0004】
水産加工食品に使用される油脂には、魚肉と容易かつ均一に混合する分散性と、製造した水産加工食品からの染み出しを抑えることを考慮した物性が要求されている。こうした点から、分散性の良い液状油と、保形性を与え液状油の染み出しを抑える極度硬化油を併用する技術が提案されている(特許文献1~3)。従来、極度硬化油としては主にハイエルシン菜種極度硬化油が検討されている。
【0005】
それ以外の技術として、本出願人は、ラウリン系油脂とパーム系油脂とを組み合わせた原料をエステル交換反応したエステル交換油脂を配合した油脂組成物を提案している(特許文献4)。
【0006】
このような水産加工食品は、長期保存の観点から、魚肉と油脂とを混合して水産加工食品とした後、冷凍し、冷凍のまま流通し、小売店舗や家庭において解凍後、喫食することが行なわれている。
【0007】
しかし、マグロのような赤身は、-3~-10℃程度の時に酸化しやすく、特に、家庭の冷凍庫では、前記温度になりやすく長期保存した場合には酸化により褐変などの変色が起きやすいという問題がある。
【0008】
そのため、冷凍保存時における変色を抑制する技術が望まれていた。従来、このような問題に対処するものとして、特許文献5には抗酸化性の色素であるリコピンを添加することが提案されているが、油脂の観点から冷凍保存時における変色を抑制する技術改良はなされていない。
【0009】
また、赤身などの魚肉を冷凍すると、冷凍時に生成する氷結晶により赤身の組織が破壊され、解凍後に喫食する際に滑らかな食感が得られないという問題があった。
【0010】
さらに、特許文献1~3のようにハイエルシン菜種極度硬化油のような融点の高い油脂を用いると、口に入れた際に速やかに溶ける口溶け感は得られにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2016-063772号公報
【文献】特開2013-215171号公報
【文献】特開2015-070813号公報
【文献】特開2015-136329号公報
【文献】特開2014-007975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、冷解凍後の色と食感が、冷凍前と遜色のない水産加工食品を得ることができる水産加工食品用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂および水産加工食品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の水産加工食品用油脂組成物は、第1の態様において、3つの構成脂肪酸の全てがラウリン酸およびミリスチン酸から選ばれる少なくとも1種である3飽和トリグリセリドSを油脂全体の質量に対して1~9質量%含有し、3つの構成脂肪酸の全てが飽和脂肪酸(S)である3飽和トリグリセリドSSSを油脂全体の質量に対して7~38質量%含有することを特徴としている。
【0014】
本発明の水産加工食品用油脂組成物は、第2の態様において、ラウリン系油脂のみを原料とする極度硬化油であってエステル交換処理がされていてもよいラウリン系極度硬化油を含有し、3つの構成脂肪酸の全てが飽和脂肪酸である3飽和トリグリセリドSSSを油脂全体の質量に対して7~38質量%含有することを特徴としている。
【0015】
本発明の水産加工食品用可塑性油脂は、上記の水産加工食品用油脂組成物を含有することを特徴としている。
【0016】
本発明の水産加工食品は、上記の水産加工食品用油脂組成物または水産加工食品用可塑性油脂を含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、冷解凍後の色と食感が、冷凍前と遜色のない水産加工食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の水産加工食品用油脂組成物は、第1の態様において、3つの構成脂肪酸の全てがラウリン酸およびミリスチン酸から選ばれる少なくとも1種である3飽和トリグリセリドSを油脂全体の質量に対して1~9質量%含有する。
【0020】
3飽和トリグリセリドSは、ラウリン酸およびミリスチン酸が豊富なラウリン系油脂に多く含まれている。3飽和トリグリセリドSを上記の量で含むことによって、全ての3飽和トリグリセリドSSSの量が多い特徴と相俟って、冷解凍後も赤身などの魚肉は酸化が抑制され変色しにくく、かつ冷解凍後も滑らかな食感が得られる。さらに、ラウリン酸およびミリスチン酸は炭素数が比較的小さいことから、ハイエルシン菜種極度硬化油のような長鎖飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするものに比べて融点が低く、ラウリン酸やミリスチン酸を構成脂肪酸とする3飽和トリグリセリドSを用いると口溶けが良好である。これらの点を考慮すると、3飽和トリグリセリドSの含有量は、油脂全体の質量に対して1.1質量%以上が好ましく、1.3質量%以上がより好ましい。また、8質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましい。
【0021】
3飽和トリグリセリドSは、トリグリセリドの1位、2位、3位の全てにラウリン酸および/またはミリスチン酸が結合したものであれば特に限定されず、トリグリセリドの3つの脂肪酸結合部位のうち1位と2位と3位、1位と2位(3位と2位)、1位もしくは3位にラウリン酸が結合し、その他の部位にミリスチン酸が結合したトリグリセリドや、1位と2位と3位にミリスチン酸が結合したトリグリセリド、1位と2位(3位と2位)、1位もしくは3位にミリスチン酸が結合し、その他の部位にラウリン酸が結合したトリグリセリドが挙げられる。本発明の水産加工食品用油脂組成物において3飽和トリグリセリドSは、これらのうち2種以上の混合物である。
【0022】
3飽和トリグリセリドSの含有量は、ラウリン系油脂やそれを原料に含む加工油で調整できるが、3飽和トリグリセリドSSSの量を本発明の範囲にする点などから、ラウリン系極度硬化油を主な配合成分として調整するのが好ましい。
【0023】
本発明の水産加工食品用油脂組成物は、第2の態様において、ラウリン系油脂のみを原料とする極度硬化油であってエステル交換処理がされていてもよいラウリン系極度硬化油を含有する(以下、単に「ラウリン系極度硬化油」とも表記する。)。
【0024】
ラウリン系極度硬化油の原料であるラウリン系油脂は、全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30質量%以上、好ましくは40~55質量%、より好ましくは45~50質量%である。このようなラウリン系油脂としては、例えば、パーム核油、ヤシ油、これらの分別油などが挙げられる。また、精製(脱酸、脱臭、脱色など)したものであってもよい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
その中でも、ラウリン系油脂は、炭素数18の脂肪酸の含有量が、構成脂肪酸全体の質量に対して12~30質量%であることが好ましい。ここで炭素数18の脂肪酸の含有量とは、ステアリン酸(18:0)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)の合計値(質量%)をいう。このような条件を満足するラウリン系油脂を原料とするラウリン系極度硬化油を用いることで、冷解凍後の変色を特に抑制できる。このようなラウリン系油脂としては、例えば、パーム核油とその分別油などが挙げられる。その中でも、パーム核油が好ましい。
【0026】
ラウリン系極度硬化油のヨウ素価は、4以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。下限は特に限定されないが、例えば0.1以上である。
【0027】
ラウリン系極度硬化油は、例えば、常法に従って、ニッケル触媒などの触媒を用いて油脂に水素添加し、加温、攪拌しながら反応を進め、トリグリセリドを構成する不飽和脂肪酸の二重結合部分に水素を結合させ飽和化することによって行うことができる。
【0028】
上記第1および第2の態様において、本発明の水産加工食品用油脂組成物は、ラウリン系油脂のみを原料とする極度硬化油であってエステル交換処理がされているラウリン系極度硬化油を含有することが好ましい。このラウリン系極度硬化油は、ラウリン系油脂のみを原料として、極度硬化処理と、エステル交換処理がされていればよく、これら2つの処理の順序は任意であり、極度硬化処理を行った後にエステル交換処理を行ったものでも、エステル交換処理を行った後に極度硬化処理を行ったものでもよい。このエステル交換処理されたラウリン系極度硬化油を用いることで、冷解凍後の変色を特に抑制できる。
【0029】
エステル交換反応には、エステル交換触媒として化学触媒や酵素触媒が用いられる。化学触媒としてはナトリウムメチラートや水酸化ナトリウムなどが用いられ、酵素触媒としてはリパーゼなどが用いられる。リパーゼとしてはアスペルギルス属、アルカリゲネス属などのリパーゼが挙げられ、イオン交換樹脂、ケイ藻土、セラミックなどの担体上に固定し固定化したものを用いても、粉末の形態として用いてもよい。また位置選択性のあるリパーゼ、位置選択性のないリパーゼのいずれも用いることができるが、位置選択性のないリパーゼを用いることが好ましい。
【0030】
エステル交換反応に化学触媒を用いる場合、触媒を油脂質量の0.05~0.15質量%添加し、減圧下で80~120℃に加熱し、0.5~1.0時間攪拌することでエステル交換反応が平衡状態となって完了し、エステル交換油脂を得ることができる。また酵素触媒を用いる場合、リパーゼ等の酵素触媒を油脂質量の0.01~10質量%添加し、40~80℃でエステル交換反応を行うことによりエステル交換反応が平衡状態となって完了し、エステル交換油脂を得ることができる。エステル交換反応はカラムによる連続反応、バッチ反応のいずれの方法で行うこともできる。エステル交換反応後、必要に応じて脱色、脱臭等の精製を行うことができる。
【0031】
ラウリン系極度硬化油のうち、炭素数18の脂肪酸の含有量が構成脂肪酸全体の質量に対して12~30質量%であるラウリン系油脂のみを原料とする極度硬化油であってエステル交換処理がされているラウリン系極度硬化油の含有量は、特に限定されないが、ラウリン系極度硬化油全体の質量に対して50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。この範囲内であると、冷解凍後の変色を特に抑制できる。
【0032】
本発明の水産加工食品用油脂組成物におけるラウリン系極度硬化油の含有量は、特に限定されないが、本発明の効果を得る点から、油脂全体の質量に対して3~30質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましい。
【0033】
上記第1および第2の態様において、本発明の水産加工食品用油脂組成物は、3つの構成脂肪酸の全てが飽和脂肪酸(S)である3飽和トリグリセリドSSSを油脂全体の質量に対して7~38質量%含有する。3飽和トリグリセリドSSSの含有量をこの範囲内とすることで、冷解凍後も赤身などの魚肉は酸化が抑制され変色しにくく、かつ冷解凍後も滑らかな食感が得られる。さらに口溶けも良好である。このような点を考慮すると、3飽和トリグリセリドSSSの含有量は8質量%以上が好ましく、9質量%以上がより好ましい。また35質量%以下が好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、27質量%以下が特に好ましい。
【0034】
ラウリン系極度硬化油は、その全てが3飽和トリグリセリドであり、ラウリン系極度硬化油の3飽和トリグリセリドSSSに対する質量比(ラウリン系極度硬化油/SSS)は、0.5以上が好ましい。
【0035】
3飽和トリグリセリドSの3飽和トリグリセリドSSSに対する質量比(S/SSS)は、0.1~0.3が好ましい。
【0036】
以下、上記第1および第2の態様に係る本発明を具体的に説明する。
【0037】
本発明の水産加工食品用油脂組成物において、構成脂肪酸のうち2つが飽和脂肪酸(S)であり1つが不飽和脂肪酸(U)である2飽和トリグリセリドのうち、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)は、1.2以上が好ましく、1.2~3.0がより好ましい。トリグリセリドSUSとSSUは、後述の油脂I~IIIのうち油脂Iに多く含まれるが、その大部分がパーム分別軟質油やパーム油のエステル交換油脂であると、SUS/SSUが小さくなるが、非エステル交換油脂の配合量を高める等の方法によってSUS/SSUを上記範囲内とすることで、冷解凍後の滑らかな食感がより良好となる傾向がある。
【0038】
本発明の水産加工食品用油脂組成物において、構成脂肪酸のうち2つが不飽和脂肪酸(U)であり1つが飽和脂肪酸(S)である2不飽和トリグリセリドと、3つの構成脂肪酸の全てが不飽和脂肪酸(U)である3不飽和トリグリセリドとの合計含有量は、油脂全体の質量に対して50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。また、85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。水産加工食品用油脂組成物を魚肉と混合して水産加工食品を製造する際には、魚肉の鮮度を保持するため、冷蔵温度帯(10℃)よりも低い温度条件下で加工されることが多い。そこで使用される油脂組成物は、このような温度条件下でも油脂組成物を魚肉に素早くなじませ、全体に油が分散した状態にする作業性が基本特性として求められるが、2不飽和トリグリセリドや3不飽和トリグリセリドは、液状油の大部分を占める低融点トリグリセリドであり、2不飽和トリグリセリドと3不飽和トリグリセリドとの合計含有量が上記範囲内であると、低温で混合する際の作業性に適している。
【0039】
本発明において、飽和脂肪酸Sは、油脂中に含まれるすべての飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つまたは3つの飽和脂肪酸Sは、同一の飽和脂肪酸であってもよいし、異なる飽和脂肪酸であってもよい。飽和脂肪酸Sとしては、特に限定されないが、例えば、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)などが挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数である。
【0040】
本発明において、不飽和脂肪酸Uは、油脂中に含まれるすべての不飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つまたは3つの不飽和脂肪酸Uは、同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。不飽和脂肪酸Uとしては、特に限定されないが、例えば、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、ヒラゴン酸(16:3)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エイコセン酸(20:1)、エルカ酸(22:1)、セラコレイン酸(24:1)などが挙げられる。なお、上記不飽和脂肪酸についての括弧内の数値表記は、左側が脂肪酸の炭素数であり、右側が二重結合数を意味する。
【0041】
本発明において、油脂中のトリグリセリドとは、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有するものである。トリグリセリドの1位、2位、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。
【0042】
本発明の水産加工食品用油脂組成物において、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸およびミリスチン酸の含有量は、トリグリセリドの2位に結合された構成脂肪酸全体の質量に対して3.5~28.5質量%が好ましく、3.5~25質量%より好ましく、3.5~20質量%がさらに好ましい。3飽和トリグリセリドの組成として、ラウリン系極度硬化油や3飽和トリグリセリドSおよび3飽和トリグリセリドSSSを上記のように特定するとともに、3飽和トリグリセリド以外の油脂も含めた本発明の水産加工食品用油脂組成物全体のトリグリセリド組成として、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸およびミリスチン酸の含有量が上記範囲内であると、冷解凍後の色や食感の変化がより少なくなる傾向がある。
【0043】
2位にラウリン酸またはミリスチン酸が結合されたトリグリセリドの1位、3位の構成脂肪酸は、飽和脂肪酸Sまたは不飽和脂肪酸Uのいずれであってもよい。2位がラウリン酸であるトリグリセリドとしては、SLS型トリグリセリド、SLU型トリグリセリド(位置異性体も含む)、ULU型トリグリセリドが挙げられる。なお、「S」とは、飽和脂肪酸を意味する。「U」とは、不飽和脂肪酸を意味する。「L」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸であるラウリン酸を意味する。2位がミリスチン酸であるトリグリセリドとしては、例えば、SMS型トリグリセリド、SMU型トリグリセリド(位置異性体も含む)、UMU型トリグリセリドが挙げられる。なお、「M」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸であるミリスチン酸を意味する。各トリグリセリド分子の1位と3位に結合している脂肪酸がいずれも飽和脂肪酸Sであるか、いずれも不飽和脂肪酸Uである場合、これらは同一の飽和脂肪酸S(不飽和脂肪酸U)であってもよいし、互いに異なる飽和脂肪酸S(不飽和脂肪酸U)であってもよい。
【0044】
本発明の水産加工食品用油脂組成物において、ラウリン系極度硬化油以外に配合される油脂としては、特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、コーン油、綿実油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、シア脂、サル脂、マンゴー油、イリッペ脂、カカオ脂、豚脂(ラード)、牛脂、乳脂、それらの1種または2種以上を原料として加工(硬化、エステル交換反応、分別のうち1つ以上の処理)、精製(脱酸、脱臭、脱色など)したものなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
これらのうち、パーム油由来の油脂としては、パーム油、パーム分別油、これらの硬化油、エステル交換油脂などが挙げられる。パーム分別油としては、パーム分別硬質油(パームステアリン等)、パーム分別軟質油(パームオレイン、パームスーパーオレイン等)、中融点油(PMF等)などが挙げられる。
【0046】
本発明の水産加工食品用油脂組成物において、ラウリン系極度硬化油以外に配合される油脂としては、例えば、次の油脂I~IIIを用いることができる。
【0047】
油脂Iは、3飽和トリグリセリドSSSの含有量が油脂I全体の質量に対して3質量%超45質量%以下である。油脂Iとしては、例えば、植物油脂、動物油脂、これらの分別油、硬化油、エステル交換油脂などが挙げられる。植物油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油などが挙げられる。動物油脂としては、例えば、豚脂(ラード)、牛脂などが挙げられる。その中でも、パーム油、パーム分別油のうち低融点画分(パーム分別軟質油:ヨウ素価54~58のパームオレイン)、パーム油由来の油脂のエステル交換油脂(パーム油のエステル交換油脂、パーム分別軟質油のエステル交換油脂など)、ラウリン系油脂やその硬化油とパーム油由来の油脂とを原料とするエステル交換油脂が好ましい。油脂Iは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
油脂IIは、3飽和トリグリセリドSSSの含有量が油脂II全体の質量に対して3質量%以下である(但し、パーム分別軟質油のうちパームオレインやそのエステル交換油脂を除く。)。油脂IIは主に、25℃において流動状を呈する液状油である。油脂IIとしては、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、米油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油、オリーブ油、パーム分別軟質油のうち低融点部であるヨウ素価58超66以下のスーパーオレインなどが挙げられる。油脂IIは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
油脂IIIは、3飽和トリグリセリドSSSの含有量が油脂III全体の質量に対して80~100質量%である(但し、ラウリン系極度硬化油を除く。)。油脂IIIとしては、例えば、植物油脂、動物油脂、これらの分別油、エステル交換油脂の極度硬化油などが挙げられる。また、このような極度硬化油のエステル交換油脂であってもよい。
【0050】
本発明の水産加工食品用油脂組成物は、例えば、油脂全体の質量に対して、ラウリン系極度硬化油が5~25質量%、油脂Iが5~35質量%、油脂IIが55~80質量%、油脂IIIが0~25質量%となるように配合して調製することができる。
【0051】
本発明の水産加工食品用油脂組成物は、トリグリセリドの構成脂肪酸としてトランス脂肪酸を含んでもよく、含まなくてもよいが、トランス脂肪酸の摂取量が多くなると、血液中におけるLDLコレステロール量が増加しうる。よって、これを抑制しやすい点から、本発明においては、トリグリセリドの構成脂肪酸中のトランス脂肪酸の含有量は、トリグリセリドの構成脂肪酸全体の質量に対して10質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましく、3質量%未満であることが最も好ましい。
【0052】
ここでトランス脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.4.3-2013トランス脂肪酸含量(キャピラリーガスクロマトグラフ法)」)で測定することができる。なお、トランス脂肪酸の含有量は、添加量既知の内部標準物質(ヘプタデカン酸)との面積比により算出する。
【0053】
本発明の水産加工食品用油脂組成物は、上記のトランス脂肪酸量とするために、部分硬化油を含有しないことが好ましい。
【0054】
本発明の水産加工食品用油脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、乳化剤、着色料、フレーバー、酸化防止剤、調味料、食塩などのその他の成分を配合してもよい。
【0055】
本発明の水産加工食品用油脂組成物は、可塑性油脂として作製し、これを水産加工食品の原料に用いることができる。この可塑性油脂は、水相を実質的に含有しない形態と、水相を含有する形態をとることができる。水相を実質的に含有しない形態としてはショートニングが挙げられる。水相を含有する形態としては油中水型、水中油型、油中水中油型、水中油中水型が挙げられ、油相の含有量は、好ましくは60~99.4質量%、より好ましくは65~98質量%であり、水相の含有量は、好ましくは0.6~40質量%、より好ましくは2~35質量%である。これらの中でも、ショートニングは好ましい態様である。
【0056】
この可塑性油脂は、公知の方法により製造することができる。例えば水相を含有しない形態のものは、本発明の油脂組成物を含む油相を加熱した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサスなどの冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。水相を含有する形態のものは、本発明の油脂組成物を含む油相と水相とを適宜に加熱し混合して乳化した後、冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。冷却混合機において、必要に応じて窒素ガスなどの不活性ガスを吹き込むこともできる。また急冷捏和後に熟成(テンパリング)してもよい。
【0057】
本発明の水産加工食品は、魚肉などの水産物を粉砕などにより加工し、これに本発明の水産加工食品用油脂組成物を均一に混合することにより製造することができる。例えば魚肉の赤身をミンチ状に粉砕し、これに本発明の水産加工食品用油脂組成物を均一に混合することにより、脂肪分の少ないたん白な風味の赤身にコク味を与え、脂身のような風味と食感に向上させることができる。
【0058】
本発明の水産加工食品において対象となる水産物としては、特に限定されないが、魚肉、特に脂肪分の少ない赤身などの部位を使用した場合には、本発明の水産加工食品用油脂組成物によって、冷解凍後の色と食感が、冷凍前と遜色のない水産加工食品を得ることができるという効果がより顕著に発現する。
【0059】
水産加工食品は、長期保存の観点から、製造後に冷凍し、冷凍のまま流通し、小売店舗や家庭において解凍後、喫食することが行なわれているが、マグロのような赤身は、酸化により褐変などの変色が起きやすいという問題がある。赤身の色が変色する現象は、血液中の成分であるミオグロビンが空気に触れ、酸化することにより起こる。この酸化作用は-3~-10℃の温度帯で最も急速に進み、特に、家庭の冷凍庫では、前記温度になりやすく長期保存した場合には変色が起きやすい。また、赤身などの魚肉を冷凍すると、氷結晶により赤身の組織が破壊され、解凍後喫食する際に、滑らかな食感が得られなくなる場合がある。例えば、冷凍時に凍っていた赤身の細胞内の水分は、冷解凍時に氷結晶が成長し、細胞膜が破壊され、ドリップとなって流出する。ドリップが起こると身が縮み、食感にバサバサになって赤身に特有のねっとりした滑らかな食感が損なわれる場合がある。しかし本発明の水産加工食品用油脂組成物を用いることで、冷解凍によるこれらの色や食感の変化が抑制され、冷凍前と遜色のない水産加工食品を得ることができる。また口溶けも良好である。
【0060】
魚肉としては、例えば、赤身、具体的には、マグロ、カツオなどの赤身を使用することができ、マグロとしては、クロマグロ、メバチマグロ、キハダマグロ、ミナミマグロ、ビン長、タイセイヨウマグロなどの種類があるが、特に制限なく使用することができる。マグロの赤身をミンチ状にし、これに本発明の水産加工食品用油脂組成物を均一に混合することにより、ねぎトロ風食品として好適に使用できる。
【0061】
その他、本発明の水産加工食品用油脂組成物が使用される魚肉としては、例えば、サバ、サンマ、イワシ、ニシン、シイラ、サワラ、アジ、ブリ、ハマチ、カンパチ、ヒラマサ、サケなどの魚肉などが挙げられる。
【0062】
本発明の水産加工食品における水産加工食品用油脂組成物の使用量は、特に限定されないが、本発明の効果を得る点を考慮すると、例えば全量に対して5~30質量%である。
【0063】
本発明の水産加工食品には、本発明の効果を損なわない範囲において、着色料、フレーバー、酸化防止剤、調味料、食塩、pH調整剤などのその他の成分を配合してもよい。
【0064】
本発明の水産加工食品は、そのまま喫食に供されてもよいが、米飯食品など他の食品と組み合わせて喫食に供されてもよい。例えば、小売店舗などで単独で小分けして販売される商品(ねぎトロなど)、小売店舗や料理店で商品とされる軍艦巻きや手巻き寿司などの寿司種、おにぎりやのり巻きなどの具材、丼物(ねぎトロ丼など)の材料として使用できる。
【実施例
【0065】
以下に、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)測定方法
油脂のヨウ素価は、基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1-2013ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」で測定した。
【0066】
油脂におけるSSS、Sの各含有量およびUUU、USU、UUSの合計量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2-2013 2位脂肪酸組成」)で測定し、脂肪酸量を用いて計算にて求めた。
【0067】
対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2-2013 2位脂肪酸組成」により求めたSUS型トリグリセリドとSSU型トリグリセリドの質量より算出した。
【0068】
油脂におけるトリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸、ミリスチン酸の合計量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2-2013 2位脂肪酸組成」)で測定した。なお、これらの含有量は、上記試験法のとおり、リパーゼ溶液で処理後のモノアシルグリセリン画分をガスクロマトグラフィーで測定した全ピーク面積である、トリグリセリドの2位構成脂肪酸全体の質量を基準としている。
【0069】
(2)油脂組成物と水産加工食品の作製
(極度硬化油の作製)
ラウリン系油脂を原料として極度硬化油を作製した。
パーム核油に、ニッケル触媒を油脂に対して0.25質量%添加し、反応温度140~170℃でヨウ素価が2になるまで水素添加を行った。その後ニッケル触媒をろ過により除去し、脱色、脱臭を行ないパーム核極度硬化油を得た。
ヤシ油についても同様の条件で、水素添加を行ない、ヤシ極度硬化油を得た。
尚、原料のパーム核油の炭素数18の脂肪酸含有量は、20.7質量%、ヤシ油の炭素数18の脂肪酸含有量は、11.1質量%であった。
【0070】
(エステル交換油脂1~5の作製)
エステル交換油脂1は次の方法で作製した。表1に示す原料油脂のパーム核極度硬化油を110℃に加熱し、十分に脱水させた後、化学触媒としてナトリウムメチラートを油脂量の0.08質量%添加し、減圧下、100℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、活性白土を用いて脱色し、更に脱臭を行ってエステル交換油脂を得た。
【0071】
エステル交換油脂2~5は、表1に示す原料油脂を1種単独でまたは2種以上を混合して用い、エステル交換油脂1の製法に準じて作製した。
【0072】
エステル交換油脂1~5の原料油脂とその配合量(質量%)を表1に示す。また、エステル交換油脂1~3とパーム核極度硬化油およびヤシ極度硬化油における、3つの構成脂肪酸の全てがラウリン酸およびミリスチン酸から選ばれる少なくとも1種である3飽和トリグリセリドSの含有量を表2に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
(水産加工食品用油脂組成物および可塑性油脂の作製)
表3に示す油脂を75℃に調温して、表3に記載の割合(質量%)で混合タンクに添加し水産加工食品用油脂組成物を得た。その後、プロペラ撹拌機で撹拌しながら均一に分散させた混合物をパーフェクターによって急冷捏和してショートニングの可塑性油脂を得た。
【0076】
(水産加工食品の作製)
10℃に調温したマグロの赤身肉900gをフードプロセッサーに入れ、粉砕しミンチ状にした。ミンチ状の赤身肉に対して、上記で作製しておいた実施例および比較例の可塑性油脂100gをフードプロセッサーに加え均一に分散するまで混合し水産加工食品を得た。
【0077】
(3)評価
実施例および比較例の各試料について次の評価を行った。
[色相]
上記で得た水産加工食品100gをポリ袋に入れ、ショックフリーザーで1日冷凍し、その後-10℃で10日間保存後、10℃に調温した恒温器内で6時間解凍した。冷凍前の色相と冷解凍後の色相を目視にて確認し、以下の基準で評価した。
評価基準
◎:冷凍前と冷解凍後の色相に変化は見られない。
○:冷凍前と冷解凍後の色相は、やや赤味が薄れている。
△:冷解凍後の色相は、若干褐色となっている。
×:冷解凍後の色相は、褐色となる。
【0078】
次に、上記で得た水産加工食品100gをポリ袋に入れ、ショックフリーザーで1日冷凍し、その後-20℃で2週間保存後、10℃に調温した恒温器内で6時間解凍し、水産加工食品の食感、口溶けを以下の基準で評価した。
【0079】
なお、パネルは、五味(甘、酸、塩、苦、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準嗅覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判断された20~40代の男性4名、女性6名を選抜した。
【0080】
[食感]
冷凍前と冷解凍後の水産加工食品の食感(滑らかさ)の変化をパネル10名により以下の基準で評価した。
評価基準
◎:パネル10名中8名以上が、冷凍前と冷解凍後の食感に変化がないと評価した。
○:パネル10名中7~5名が、冷凍前と冷解凍後の食感に変化がないと評価した。
△:パネル10名中4~3名が、冷凍前と冷解凍後の食感に変化がないと評価した。
×:冷凍前と冷解凍後の食感に変化がないと評価したのはパネル10名中2名以下であった。
【0081】
[口溶け]
冷解凍後の水産加工食品の口溶けをパネル10名により以下の基準で評価した。
評価基準
◎:パネル10名中8名以上が、口溶けが良好であると評価した。
○:パネル10名中7~5名が、口溶けが良好であると評価した。
△:パネル10名中4~3名が、口溶けが良好であると評価した。
×:口溶けが良好であると評価したのはパネル10名中2名以下であった。
【0082】
以上の評価の結果を表3に示す。また油脂組成物の分析値も表3に併せて示した。表中、各油脂の配合量は質量%で示す。SSSは、3飽和トリグリセリドの油脂全体の質量に対する含有量(質量%)、Sは、3つの構成脂肪酸の全てがラウリン酸およびミリスチン酸から選ばれる少なくとも1種である3飽和トリグリセリドの油脂全体の質量に対する含有量(質量%)、2位ラウリン酸+2位ミリスチン酸は、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸およびミリスチン酸の、トリグリセリドの2位に結合された構成脂肪酸全体の質量に対する含有量(質量%)、SUS/SSUは、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比、UUU+USU+UUSは、2不飽和トリグリセリド(USU、UUS)と、3不飽和トリグリセリド(UUU)との、油脂全体の質量に対する合計含有量(質量%)を示す。
【0083】
表3の評価においては、◎もしくは〇が課題解決上特に望ましく、3つの評価の全てが◎もしくは〇であることを最も望ましい課題解決の指標としている。3つの評価のうち×が1つでもある場合は、課題解決不可と判断した。
【0084】
【表3】
【0085】
表3より、実施例1~14は、ラウリン系油脂のみを原料とする極度硬化油を配合し、また油脂組成においては3飽和トリグリセリドSと3飽和トリグリセリドSSSの含有量を特定範囲とした。実施例1~14は、極度硬化油としてハイエルシン菜種極度硬化油やパーム極度硬化油を用いた比較例1~4、6、7、3飽和トリグリセリドSや3飽和トリグリセリドSSSの含有量が範囲外となる比較例4、5と対比しても、水産加工食品は冷凍前と冷解凍後の色相の変化が少なく褐変しないことが確認された。また冷解凍後も水産加工食品の食感は滑らかで、口溶けも良好であった。
【0086】
ラウリン系油脂のみを原料とする極度硬化油として、エステル交換油脂を用いた実施例1~7、10、13は、水産加工食品の冷凍前と冷解凍後の色相の変化が特に少ない傾向がある。
【0087】
ラウリン系油脂の原料を比較すると、パーム核油とヤシ油のうち、パーム核極度硬化油を用いた場合、ヤシ極度硬化油を用いた実施例8、9、14との対比等より、水産加工食品の冷凍前と冷解凍後の色相の変化が特に少ない傾向がある。
【0088】
全体の油脂組成の点では、実施例1~13と実施例14の対比より、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸およびミリスチン酸の含有量が特定範囲であると、冷凍前と冷解凍後の色相や食感の変化を抑える点においてより望ましい傾向がある。エステル交換油脂1を同一配合量とした実施例13と実施例5の対比等より、SUS/SSUが1.2以上であると冷凍前と冷解凍後の食感の変化を抑える点においてより望ましい傾向がある。