(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】ケージアンドローラ
(51)【国際特許分類】
F16C 33/46 20060101AFI20230719BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20230719BHJP
F16C 19/46 20060101ALI20230719BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C19/26
F16C19/46
F16C33/66 Z
(21)【出願番号】P 2018059683
(22)【出願日】2018-03-27
【審査請求日】2021-02-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 順司
(72)【発明者】
【氏名】鎌本 繁夫
(72)【発明者】
【氏名】獅子原 祐樹
【合議体】
【審判長】平田 信勝
【審判官】小川 恭司
【審判官】内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-321027(JP,A)
【文献】特開2007-211934(JP,A)
【文献】特開2005-76811(JP,A)
【文献】特開2015-78742(JP,A)
【文献】特開2009-299820(JP,A)
【文献】特開2013-11316(JP,A)
【文献】特開2011-89612(JP,A)
【文献】実開昭50-66059(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/46 - 33/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の外周に設けられた軌道面を転がり接触する複数のころと、当該ころを保持する環状の保持器と、を備え、前記軸の内部に設けられ前記軌道面の軸方向中央領域において開口する給油孔から潤滑油が供給されるケージアンドローラであって、
前記保持器は、前記複数のころが転がり接触する外側部材の内周面に接触可能であるガイド面を有する一対の環状部と、当該一対の環状部を連結すると共に周方向に間隔をあけて配置される複数の柱部と、を有し、前記一対の環状部の間であって周方向で隣り合う前記柱部の間に形成されるポケットに前記ころが収容され、
前記柱部と、前記ポケットに収容された前記ころとの間に形成される隙間は、当該柱部の軸方向両側の端部よりも、当該端部の間の軸方向中央部において広くなっていて、
前記保持器は、前記柱部の径方向内側面に設けられかつ前記環状部を軸方向に貫通する内側凹溝
と、前記柱部の径方向外側部に設けられかつ前記環状部と軸方向に連続して並んで設けられる外側凹溝と、を有
し、当該保持器を軸方向外側から見た場合の当該内側凹溝の溝形状は円弧形状であり、当該保持器を軸方向外側から見た場合の当該外側凹溝の溝形状は円弧形状である、ケージアンドローラ。
【請求項2】
周方向で隣り合う一対の柱部に関して、前記隙間が広くなっている前記軸方向中央部では、当該一対の柱部の径方向内側の端部における間隔は、径方向外側の端部における間隔以上である、請求項1に記載のケージアンドローラ。
【請求項3】
前記隙間が広くなっている前記軸方向中央部では、前記ころの外周面に対向する前記柱部の側面は、前記保持器の中心軸と当該ころの中心軸とを通過する仮想平面に平行な仮想基準面に対して、傾斜している、請求項2に記載のケージアンドローラ。
【請求項4】
前記柱部は、軸方向両側それぞれに、前記ころの端部を径方向の外方及び内方から間隔をあけて挟む外側爪部及び内側爪部を含む脱落防止部を有し、
更に、前記柱部は、軸方向両側の前記脱落防止部の間に、前記ガイド面よりも径方向内側に位置する油溜め底面を径方向外側に含む柱本体部を有し、
前記隙間は、前記脱落防止部よりも前記柱本体部において広くなっている、請求項1~3のいずれか一項に記載のケージアンドローラ。
【請求項5】
前記油溜め底面から前記脱落防止部を通過して前記ガイド面へと潤滑油を流すための通路を構成する外側凹溝が、当該脱落防止部に設けられている、請求項4に記載のケージアンドローラ。
【請求項6】
前記柱部の軸方向中央部では、前記ころの外周面に対向する当該柱部の側面と、前記内側凹溝の溝側面とは、鋭角形状を有する頂部を介して連続する、請求項1~5のいずれか一項に記載のケージアンドローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のころと、複数のころを保持する環状の保持器とを備えたケージアンドローラに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車において、遊星歯車機構を備えるトランスミッションが知られている。
図9は、遊星歯車機構が有する遊星歯車90、及びその支持構造部100を示す断面図である。支持構造部100は、キャリア(支持部材)91、及びケージアンドローラ92を備える。キャリア91は、円盤状である本体部93と、軸94と、抜け止め部材95とを有する。軸94の基部94aが本体部93に固定される。軸94の先部94bに抜け止め部材95が取り付けられている。本体部93と抜け止め部材95との間に、環状である遊星歯車90が設けられている。遊星歯車90は、軸94を中心として回転する。この回転を円滑とするために、遊星歯車90と軸94との間にケージアンドローラ92が設けられている(例えば、特許文献1参照)。ケージアンドローラ92は、軸94の外周に設けられた軌道面94cを転がり接触する複数のころ96と、これらころ96を保持する環状の保持器97とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
遊星歯車90が回転すると、複数のころ96は、軸94の外周に設けられた軌道面94cを転がり接触すると共に、遊星歯車90の内周に設けられた軌道面90cを転がり接触する。これに伴い、保持器97は複数のころ96と共に回転する。この際、保持器97が有する環状部101の外周面101aが、遊星歯車90の内周面90dに滑り接触する。これにより、保持器97は、遊星歯車90によりガイドされ、内周面90dに沿って安定して回転することができる。つまり、保持器97は環状部101の外周面101aによってガイドされることから、この外周面101はガイド面となる。
【0005】
図9に示される遊星歯車機構の場合、ケージアンドローラ92に対する潤滑油の供給は、軸94の内部に設けられ軌道面94cの軸方向中央領域において開口する給油孔99から行われる。
【0006】
前記のとおり、保持器97が有する環状部101の外周面101a、つまり、ガイド面は、遊星歯車90の内周面90dに滑り接触する。このため、前記ガイド面と遊星歯車90の内周面90dとの間に潤滑油が供給される必要がある。しかし、
図9に示されるように、ケージアンドローラ92に対する潤滑油の供給が、その内周の軸94側から行われるため、環状部101のガイド面(外周面101a)に潤滑油が到達し難く、潤滑油不足となる場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、ケージアンドローラの内周側から供給された潤滑油が、ケージアンドローラの外周側に供給されやすくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、軸の外周に設けられた軌道面を転がり接触する複数のころと、当該ころを保持する環状の保持器と、を備え、前記軸の内部に設けられ前記軌道面の軸方向中央領域において開口する給油孔から潤滑油が供給されるケージアンドローラであって、前記保持器は、前記複数のころが転がり接触する外側部材の内周面に接触可能であるガイド面を有する一対の環状部と、当該一対の環状部を連結すると共に周方向に間隔をあけて配置される複数の柱部と、を有し、前記一対の環状部の間であって周方向で隣り合う前記柱部の間に形成されるポケットに前記ころが収容され、前記柱部と、前記ポケットに収容された前記ころとの間に形成される隙間は、当該柱部の軸方向両側の端部よりも、当該端部の間の軸方向中央部において広くなっている。
【0009】
ケージアンドローラが回転すると、保持器が有する環状部のガイド面が、前記外側部材の内周面に接触可能となる。このため、ガイド面と外側部材の内周面との間に潤滑油が供給される必要がある。しかし、ケージアンドローラに対する潤滑油の供給は、その内周の軸側から行われる。ケージアンドローラでは、軸の軌道面の軸方向中央領域において開口する給油孔から供給された潤滑油は、保持器の柱部ところとの間を通過して、径方向外側へ流れることができる。この際、柱部ところとの間に形成される隙間は、軸方向中央部において広くなっていることから、前記給油孔から供給された潤滑油は、保持器の外周側へ到達しやすい。このように、潤滑油は、ケージアンドローラの内周側に供給されても、保持器を径方向に通過して、保持器の外周側に到達し、その潤滑油は、前記ガイド面と外側部材の内周面との間に供給されやすくなる。
【0010】
また、周方向で隣り合う一対の柱部に関して、前記隙間が広くなっている前記軸方向中央部では、当該一対の柱部の径方向内側の端部における間隔は、径方向外側の端部における間隔以上であるのが好ましい。この構成によれば、ポケットにおける径方向内側の開口が広くなり、軸側から供給された潤滑油は、保持器の内周側から受け入れられやすい。この結果、潤滑油は、より一層、保持器の外周側へ到達しやすい。
また、このケージアンドローラにおいて、前記隙間が広くなっている前記軸方向中央部では、前記ころの外周面に対向する前記柱部の側面は、前記保持器の中心軸と当該ころの中心軸とを通過する仮想平面に平行な仮想基準面に対して、傾斜しているのが好ましい。この構成により、周方向で隣り合う一対の柱部に関して、前記隙間が広くなっている軸方向中央部では、一対の柱部の径方向内側の端部における間隔は、径方向外側の端部における間隔よりも、広くなる。つまり、ポケットにおける径方向内側の開口が、径方向外側の開口よりも広くなる。このため、軸側から供給された潤滑油は、より一層、保持器の内周側から受け入れられやすい。
【0011】
また、前記柱部は、軸方向両側それぞれに、前記ころの端部を径方向の外方及び内方から間隔をあけて挟む外側爪部及び内側爪部を含む脱落防止部を有し、更に、前記柱部は、軸方向両側の前記脱落防止部の間に、前記ガイド面よりも径方向内側に位置する油溜め底面を径方向外側に含む柱本体部を有し、前記隙間は、前記脱落防止部よりも前記柱本体部において広くなっているのが好ましい。この場合、脱落防止部では、前記の外側爪部及び内側爪部によって、ころとの間を通じて潤滑油が径方向に流れにくい。そこで、脱落防止部を除く柱本体部において、ころとの間に形成される隙間を広くすることで、前記給油孔から供給された潤滑油は、保持器の外周側へ到達しやすい。
【0012】
また、前記油溜め底面から前記脱落防止部を通過して前記ガイド面へと潤滑油を流すための通路を構成する外側凹溝が、当該脱落防止部に設けられているのが好ましい。この構成によれば、油溜め底面と前記外側部材の内周面との間に潤滑油が溜められ、この潤滑油が、外側凹溝を通じてガイド面に供給され易くなる。
【0013】
また、前記保持器は、前記柱部の径方向内側面に設けられかつ前記環状部を軸方向に貫通する内側凹溝を有し、前記柱部の軸方向中央部では、前記ころの外周面に対向する当該柱部の側面と、前記内側凹溝の溝側面とは、鋭角形状を有する頂部を介して連続するのが好ましい。この構成によれば、前記給油孔から供給された潤滑油は、内側凹溝を通って軸方向に誘導され、環状部の側面に到達しやすい。このため、保持器が、その軸方向隣に位置する相手部材と接触する場合であっても、環状部の側面に到達した潤滑油によって、昇温を抑えたり摩擦抵抗を低減したりすることが可能となる。また、回転途中で内側凹溝から潤滑油の一部が脱落すると、その一部の潤滑油は、鋭角部を経由して直ぐに柱部の側面に沿って径方向外側に流れることができ、保持器の外周側へ到達しやすい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のケージアンドローラによれば、潤滑油はケージアンドローラの内周側に供給されても、保持器を径方向に通過して、保持器の外周側に到達し、その潤滑油は、ガイド面と外側部材の内周面との間に供給されやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】遊星歯車、及びその支持構造部を示す断面図である。
【
図7】柱本体部における柱部(他の形態)の断面図である。
【
図8】柱部の軸方向中央部、及びころを示す断面図である。
【
図9】従来の遊星歯車、及びその支持構造部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔全体構成について〕
本発明のケージアンドローラは、様々な回転機器に適用される。ここで説明する形態では、ケージアンドローラ20は、遊星歯車機構が備える遊星歯車10を支持する支持構造部9に含まれる。
図1は、遊星歯車10、及びその支持構造部9を示す断面図である。
【0017】
支持構造部9は、キャリア(支持部材)11、及びケージアンドローラ20を備える。キャリア11は、円盤状である本体部12と、断面円形の軸13と、抜け止め部材14とを有する。軸13の基部13aが本体部12に固定される。軸13の先部13bに抜け止め部材14が取り付けられている。本体部12と抜け止め部材14との間に、環状である遊星歯車10が設けられている。遊星歯車10は、軸13を中心として回転する。この回転を円滑とするために、遊星歯車10と軸13との間にケージアンドローラ20が設けられている。ケージアンドローラ20の中心軸と、軸13の中心軸とが一致する。軸13は、軸方向に沿って断面形状が一定である直線状の部材である。本実施形態において「軸方向」とは、ケージアンドローラ20(軸13)の中心軸C0に沿った方向であり、また、この中心軸C0に平行な方向についても軸方向と呼ぶ。
【0018】
ケージアンドローラ20は、複数のころ(ローラ)21と、これら複数のころ21を保持する環状の保持器(ケージ)22とを備える。遊星歯車10と保持器22との軸方向の寸法は略同じである。ケージアンドローラ20及び遊星歯車10と、本体部12との間にサイドワッシャ15が設けられ、ケージアンドローラ20及び遊星歯車10と、抜け止め部材14との間に別のサイドワッシャ15が設けられている。サイドワッシャ15が、保持器22の側面27が接触可能となる相手部材となる。
【0019】
軸13には、軸方向に延びる第一孔16と、第一孔16の一部から径方向に延びる第二孔17とが設けられている。第二孔17は、軸13の外周面において開口する。軸13の外周面に、ころ21が転がり接触する軌道面18が含まれる。以下、この軌道面18を「内軌道面18」と呼ぶ。遊星歯車10の内周面は、ころ21が転がり接触する軌道面19となる。以下、この軌道面19を「外軌道面19」と呼ぶ。図示しないが、遊星歯車10の内周に筒状の部材(ブッシュ)が設けられていてもよい。この場合、前記円筒の部材の内周面が外軌道面19となる。第一孔16に潤滑油(オイル)が供給され、この潤滑油は、第二孔17を通じて流れ、軸13の内軌道面18の開口18aからケージアンドローラ20に供給される。この潤滑油が、ケージアンドローラ20の潤滑に用いられる。つまり、ケージアンドローラ20は、軸13の内部に設けられ内軌道面18において開口する給油孔(第一孔16及び第二孔17)から潤滑油が供給される。第二孔17(開口18a)は、内軌道面18の軸方向中央領域において開口する。この軸方向中央領域は、ケージアンドローラ20の軸方向中央部と、軸方向について同じ位置にある。
【0020】
〔ケージアンドローラ20について〕
ケージアンドローラ20は、前記のとおり、複数のころ21と保持器22とを備える。本実施形態のケージアンドローラ20は、一般的な転がり軸受(例えば円筒ころ軸受)が有するような内輪及び外輪を含まない。ケージアンドローラ20が回転すると、各ころ21は、軸13の外周に設けられた内軌道面18、及び遊星歯車10の内周に設けられた外軌道面19を転がり接触する。なお、図示しないが、本発明のケージアンドローラは、外輪を含む構成であってもよい。
【0021】
図2は、
図1に示されるケージアンドローラ20の斜視図である。ころ21は、細長い円柱形状を有する針状ころ(ニードルローラ)である。保持器22は、軸方向に離れて設けられた一対の環状部23,23と、複数の柱部24とを有する。柱部24は、周方向に間隔をあけて配置され、一対の環状部23,23を連結する。一対の環状部23,23の間であって周方向で隣り合う柱部24,24の間がポケット25であり、各ポケット25に一つのころ21が収容される。ころ21は、鋼製(例えば軸受鋼)である。保持器22は、樹脂製(例えばポリフェニレンサルファイド樹脂:PPS)である。
【0022】
軸方向一方側の環状部23と、軸方向他方側の環状部23とは、左右(軸方向の一方と他方)で対称であるが、同じ形状を有する。柱部24もすべて同じ形状を有する。各環状部23において、軸方向についてポケット25側を「軸方向内側」と呼び、軸方向についてポケット25と反対側を「軸方向外側」と呼ぶ。
図3は、保持器22の一部(
図2の右側部)を示す断面図である。環状部23の軸方向外側(
図3では右側)に、環状凹部26が形成される。環状凹部26は環状部23の径方向内側に形成される。このため、環状部23は、径方向外側に環状凸部28を有する。環状凹部26及び環状凸部28は全周にわたって連続して形成される。環状凸部28の軸方向外側の側面27(第一の側面27)が、サイドワッシャ15と接触可能となる接触面となる。環状凹部26の軸方向外側の側面29(第二の側面29)は、サイドワッシャ15と非接触である。第一の側面27と第二の側面29とは共に円環状の面である。第一の側面27と第二の側面29との間に円筒面が設けられ、この円筒面は、環状凸部28の内周面30である。
【0023】
保持器22が有するポケット25(
図2参照)と、ころ21との間には、隙間が設けられており、保持器22ところ21とは相対的に径方向について僅かに変位可能である。軸13と遊星歯車10との間にケージアンドローラ20が取り付けられた状態で、保持器22が径方向について変位すると、環状部23の外周面31が、遊星歯車10(
図3参照)の内周面32(外軌道面19)に接触する。これに対して、環状部23の内周面33は、軸13の外周面34(内軌道面18)に接触不能である。この構成とするために、遊星歯車10と保持器22とを同心状に配置した状態で、遊星歯車10の内周面32と環状部23の外周面31との間に形成される径方向の隙間e1は、環状部23の内周面33と軸13の外周面34との間に形成される径方向の隙間e2よりも小さく設定される(e1<e2)。隙間e2は0.5ミリメートル以下であり、隙間e1はこの隙間e2よりも小さい(0.5ミリメートル≧e2>e1)。この構成により、ケージアンドローラ20が回転すると、環状部23の外周面31が遊星歯車10の内周面32に滑り接触する。このため、保持器22は、遊星歯車10によりガイドされ、内周面32に沿って安定して回転することができる。つまり、本実施形態の保持器22の案内方式(ガイド方式)は、保持器22の径方向外方の部材(遊星歯車10)によって案内される方式となる。環状部23の外周面31によって保持器22はガイドされることから、以下の説明において、この外周面31を「ガイド面31」と呼ぶ。
【0024】
ここで、例えば、遊星歯車10の内周側にケージアンドローラ20を取り付ける作業を行なう際、及び、ケージアンドローラ20を単独で搬送する際などにおいて、ポケット25(
図2参照)に収容されたころ21が、ポケット25から径方向外側及び径方向内側に脱落しないようにする必要がある。そこで、保持器22の各柱部24は、ポケット25からころ21が脱落するのを防止する脱落防止部41を有する。脱落防止部41は、柱部24の軸方向両側それぞれに設けられている。なお、各柱部24は、軸方向両側の脱落防止部41,41の間に柱本体部42を有する。柱本体部42は、径方向外側に油溜め底面43を有する。油溜め底面43の機能については、後に説明する。
図2において、柱本体部42の軸方向長さがJ1であり、脱落防止部41の軸方向長さがJ2である。柱本体部42は、軸方向両側に位置する脱落防止部41の軸方向長さの和よりも、軸方向に長い(J1>2×J2)。脱落防止部41の一部が、ころ21の端部に対して径方向外方及び径方向内方から接触することで、ころ21の脱落が防止される。
【0025】
前記のとおり、柱部24のうち、両側の端部(脱落防止部41,41)の間の軸方向中央部が柱本体部42である。柱本体部42ところ21との間には広い隙間G1(
図4参照)が形成される。これに対して、脱落防止部41ところ21との間には、前記隙間G1よりも狭い隙間G2(
図5参照)が形成される。このため、ころ21と保持器22とが相対的に移動すると、ころ21は脱落防止部41,41に接触し、柱本体部42に非接触である。
図4は、柱本体部42における柱部24の断面図である。
図5は、脱落防止部41における柱部24の断面図である。
【0026】
図2及び
図5に示されるように、脱落防止部41は、径方向外側部41aにおいて、柱本体部42よりも径方向外方に突出しかつ周方向に突出する外側爪部40aを有する。外側爪部40aが周方向に突出することで、径方向外側部41aは、柱本体部42と比較して周方向に拡大した形状を有する。また、脱落防止部41は、径方向内側部41bにおいて、周方向に突出する内側爪部40bを有する。内側爪部40bが周方向に突出することで、径方向内側部41bは、柱本体部42と比較して周方向に拡大した形状を有する。ポケット25を挟んで周方向一方側の外側爪部40aと周方向他方側の外側爪部40aとの間隔B1は、ころ21の直径Dよりも小さい(B1<D)。ポケット25を挟んで周方向一方側の内側爪部40bと周方向他方側の内側爪部40bとの間隔B2は、ころ21の直径Dよりも小さい(B2<D)。外側爪部40aとその径方向内側の内側爪部40bとの間に、ころ21が、間隔をあけて挟まれた状態となる。このため、ころ21はポケット25から径方向外側及び径方向内側に脱落しない。なお、ポケット25にころ21を収容するためには、ころ21をポケット25に径方向外側から接近させ、更に、ころ21を押圧し、外側爪部40aを弾性変形させる。
図2に示されるように、外側爪部40aと環状部23との間に凹部47が設けられており、外側爪部40aは環状部23と不連続にある(環状部23と繋がっていない)。この構成により、外側爪部40aの弾性変形が容易となる。
【0027】
外側爪部40aを含む径方向外側部41aは、柱本体部42の油溜め底面43よりも径方向外側に隆起している。この隆起している領域が、脱落防止部41の範囲であり、その軸方向長さがJ2である。本実施形態では、外側爪部40aを含む径方向外側部41aと、内側爪部40bを含む径方向内側部41bとは、軸方向について同じ長さを有する。
【0028】
図4に示されるように、柱本体部42の断面形状(軸方向に直行する断面における断面形状)は、径方向外側が長辺となる台形である。柱本体部42の径方向外側面は、ガイド面31(
図2参照)よりも径方向内側に位置する油溜め底面43となる。油溜め底面43の機能については後にも説明するが、
図3に示されるように、油溜め底面43と遊星歯車10の外軌道面19との間に空間Kが形成され、この空間Kに潤滑油を溜めることができる。
【0029】
図4及び
図5は、ころ21のピッチ円の中心軸と保持器22の中心軸とが一致し、更に、周方向で隣り合う一対の柱部24の間(ポケット25)の周方向についての中間点に、ころ21(ころ21の中心軸C1)が位置した状態を示す。この状態を「基準状態」と呼ぶ。基準状態から、保持器22ところ21とが周方向について相対移動すると、ころ21は柱部24の一部と接触する。柱部24のうちのころ21が接触する前記一部は、脱落防止部41である。前記相対移動しても、ころ21は柱本体部42には接触しない。すなわち、保持器22のポケット25においてころ21がスキューしたり進み遅れが生じたりすると、ころ21は軸方向の端部において脱落防止部41に接触する。ころ21は、軸方向の両側の端部において姿勢が保持されるため、ポケット25においてころ21の姿勢は安定する。
【0030】
本実施形態のケージアンドローラ20は、軸13(
図1参照)の内軌道面18の開口18aから供給された潤滑油を、保持器22の径方向内側面に沿って、軸方向両側へ導き、軸方向両側の側面(27,29)に供給するための第一の軸方向誘導構造を備える。また、本実施形態のケージアンドローラ20は、前記開口18aから供給された潤滑油を、保持器22の柱部24ところ21との間から径方向外側へ通過させ、柱部24と遊星歯車10との間の前記空間K(
図3参照)に供給するための径方向誘導構造を備える。更に、本実施形態のケージアンドローラ20は、前記空間Kの潤滑油を、環状部23のガイド面31と遊星歯車10の内周面32との間に供給するための第二の軸方向誘導構造を備える。以下、これらの誘導構造について説明する。
【0031】
〔第一の軸方向誘導構造について〕
図2及び
図3に示されるように、柱部24の径方向内側面35に内側凹溝36が形成される。内側凹溝36は柱部24の全長にわたって設けられ、更に、環状部23の内周面33にも形成される。径方向内側面35と内周面33とは、共通する仮想円筒面に沿った形状を有する。内側凹溝36は、径方向内側面35から連続し、環状部23の内周部(内周面33を含む部分)を軸方向に貫通する。このため、内側凹溝36は、第二の側面29において開口する。第二の側面29において内側凹溝36が開口している位置が、開口端37である。本実施形態では、柱本体部42において、その径方向内側面35の略全体に内側凹溝36が形成されていることから、前記径方向内側面35は仮想の面となる。
【0032】
図6は、保持器22を軸方向外側から見た図である。
図6では、遊星歯車10の内周面32、及び軸13の外周面34が二点鎖線で示されている。内側凹溝36の溝形状(断面形状)は円弧形状である。第二の側面29における内側凹溝36(開口端37)の溝形状も円弧形状である。
図6に示される一点鎖線は、複数の内側凹溝36それぞれの溝底を通過する仮想外接円Q1である。環状凸部28の内周面30の直径L2は、仮想外接円Q1の直径L1よりも大きい(L2>L1)。このため、第二の側面29は、開口端37の周方向両側に(第一の)平坦面部39を有する他に、内側凹溝36の開口端37の径方向外方に(第二の)平坦面部38を有する。前記直径L1及び前記直径L2は、第二の側面29上における値である。なお、内側凹溝36の溝形状は、円弧形状以外であってもよい。
【0033】
環状凸部28の第一の側面27の径方向寸法T1は、環状部23の径方向寸法T0の50%以上である。なお、径方向寸法T1の上限は径方向寸法T0の75%である。つまり、前記径方向寸法T1は、前記径方向寸法T0の50%以上であり、75%以下である。第一の側面27の径方向寸法T1は、環状部23の外周面(ガイド面)31の半径と、環状凸部28の内周面30の半径との差である。環状部23の径方向寸法T0は、外周面(ガイド面)31の半径と内周面33の半径との差である。
【0034】
ケージアンドローラ20のサイズの具体例を説明する。本実施形態では、保持器22の外径(環状部23の外径)L3が10ミリメートルである。環状凸部28の第一の側面27の径方向寸法T1は、1ミリメートルである。なお、保持器22のサイズ(外径L3)は変更自在である。保持器22のサイズが変更されても、第一の側面27の径方向寸法T1は、1ミリメートル以上であるのが好ましい。つまり、L3-L2は2ミリメートル以上であるのが好ましい(L3-L2≧2ミリメートル)。
【0035】
前記のとおり(
図3参照)、柱部24の径方向内側面35と、環状部23の内周面33とは、共通する仮想円筒面に沿った形状を有する。複数の柱部24それぞれの径方向内側面35を通過する仮想内接円の半径r1と、軸13の半径r2との差(r1-r2)は、前記隙間e2と同じ値である。前記仮想内接円の半径r1と軸13の半径r2との差(r1-r2)は、0.5ミリメートル以下である。つまり、柱部24の径方向内側面35と軸13との間に形成される隙間e2は、遊星歯車10側の前記隙間e1よりも広いが(
図3及び
図6参照)、0.5ミリメートル以下であり(e2≦0.5ミリメートル)、この隙間e2は狭い。
【0036】
以上のように、本実施形態のケージアンドローラ20が備える保持器22は(
図2及び
図3参照)、内側凹溝36を有し、内側凹溝36は、柱部24の径方向内側面35に設けられかつ環状部23(の内周部)を軸方向に貫通する。このケージアンドローラ20によれば、軸13(
図1参照)の内軌道面18において開口する給油孔16,17から供給された潤滑油は、内側凹溝36を通って軸方向に誘導され、環状部23の側面27,29に到達する。このため、保持器22が、その軸方向隣に位置するサイドワッシャ15と接触しても、環状部23の側面27に到達した潤滑油によって、昇温を抑えたり摩擦抵抗を低減したりすることが可能となる。
【0037】
また、保持器22は、軸方向端部に環状凹部26と環状凸部28とを有する。環状凹部26は、環状部23の軸方向外側かつ径方向内側に設けられ内側凹溝36が開口する。環状凸部28は、環状凹部26の径方向外方に設けられ、保持器22の軸方向隣に位置するサイドワッシャ15と接触可能な第一の側面27を有する。この構成により、内側凹溝36を通って軸方向に誘導された潤滑油は、環状凹部26に入り、環状凹部26において溜められる。環状凹部26の潤滑油は、第一の側面27とサイドワッシャ15との間に徐々に浸入することができ、潤滑に用いられる。潤滑油が環状凹部26において溜められることから、保持器22とサイドワッシャ15との間における潤滑性能を、長期にわたって安定させることが可能となる。
【0038】
また、
図6に示されるように、環状凸部28の内周面30の直径L2は、複数の内側凹溝36それぞれの溝底を通過する仮想外接円Q1の直径L1よりも大きい(L2>L1)。このため、内側凹溝36が開口する第二の側面29は、内側凹溝36の開口端37の径方向外方に平坦面部38を有する。内側凹溝36を通って軸方向に誘導され環状凹部26に入った潤滑油は、遠心力によって、径方向外方へ流れようとする。この潤滑油は、
図6において矢印F1で示されるように、平坦面部38に沿って径方向外側に向かって流れ、環状凸部28の内周面30に当たり、周方向に向きを変えて流れる(
図6において矢印F2)。このため、本実施形態の保持器22では、潤滑油が環状凹部26に溜められやすい。
【0039】
なお、環状凹部26に潤滑油を溜めるためには、内側凹溝36が、第二の側面29において開口すればよく、図示しないが、前記直径L1と前記直径L2とが同じであってもよい(L1=L2)。しかし、本実施形態のように、L2>L1とするのが好ましい。仮に、前記直径L1と前記直径L2とが同じである場合(L1=L2)、第二の側面29において、開口端37の周方向両側に第一の平坦面部39は形成されるが、開口端37の径方向外方に平坦面部38が形成されない。開口端37の径方向外方に平坦面部38が形成されない場合、内側凹溝36から供給された潤滑油の一部が、環状凹部26に溜められる前に、直接的に環状凸部28の内周面30を経て、第一の側面27に流れやすくなる。よって、内側凹溝36を通って環状凹部26に到達した潤滑油を周方向に向かわせ(広がらせ:矢印F2)、環状凹部26において潤滑油を溜める機能を高めるためには、L2>L1(L2≠L1)とするのが好ましい。
【0040】
また、本実施形態では、環状凸部28の第一の側面27の径方向寸法T1は、環状部23の径方向寸法T0の50%以上である。この構成によれば、サイドワッシャ15(
図3参照)と接触可能である第一の側面27が、狭くならない。つまり、環状部23において、サイドワッシャ15との接触面積が確保される。特に本実施形態では、保持器22は樹脂製であり、サイドワッシャ15が金属製であると、これらの接触による保持器22の摩耗が問題となる。しかし、前記構成により、保持器22(環状部23)の摩耗が抑制される。
【0041】
また、本実施形態では(
図3及び
図6参照)、柱部24の径方向内側面35を通過する仮想内接円の半径r1と、軸13の半径r2との差(r1-r2)は、0.5ミリメートル以下である。この構成によれば、柱部24の径方向内側面35と軸13との間に形成される隙間e2が狭くなる。このため、内側凹溝36を通過する潤滑油を、軸13の外周面34が径方向内方側から覆うような構成となり、内側凹溝36と軸13の外周面34との間に形成される空間が、潤滑油の通路となる。この通路により潤滑油が、軸方向に誘導され、より一層、環状部23の側面27,29に到達しやすい。
【0042】
以上のように、内側凹溝36を含む第一の軸方向誘導構造によれば、内軌道面18(
図1参照)の開口18aから供給された潤滑油を、保持器22の径方向内側面に沿って、軸方向両側へ導き、軸方向両側の側面(27,29)に供給することが可能となる。このため、保持器22とサイドワッシャ15との間の摺動抵抗を低下させることができ、発熱の発生を抑えることができる。よって、ケージアンドローラ20は高い回転性能を有することが可能となる。本実施形態では、遊星歯車10(
図1参照)を支持する支持構造部9に前記構成を備えるケージアンドローラ20が用いられている。よって、ケージアンドローラ20において低昇温化が可能となり、また、摩擦抵抗が低減されることで、遊星歯車機構の低トルク化が可能となる。
【0043】
〔径方向誘導構造について〕
図4は、柱本体部42における柱部24の断面図である。
図5は、脱落防止部41における柱部24の断面図である。
図4において、前記基準状態で、柱本体部42と、この柱本体部42の周方向隣に位置するころ21との間に、第一の隙間G1が形成される。
図5において、前記基準状態で、脱落防止部41と、この脱落防止部41の周方向隣に位置するころ21との間に、第二の隙間G2が形成される。
【0044】
図4及び
図5において、一点鎖線は、保持器22の中心軸ところ21の中心軸C1とを通過する仮想平面Q2を示す。
図4において、二点鎖線は、この仮想平面Q2に平行な仮想基準面Q3を示す。
図4の形態では、柱本体部42の側面44は、仮想基準面Q3に沿って設けられている。前記隙間G1の最小値は、仮想基準面Q3からころ21までの最小距離g1である。
図5に示されるように、脱落防止部41は、柱本体部42の側面(第一の側面)44よりも、ころ21側に位置する第二の側面55を有する。このため、隙間G2は隙間G1よりも狭い。更に説明すると、脱落防止部41ところ21との間に形成される隙間G2の最小値(最小距離)がg2であると、この最小値g2は、隙間G1の最小値(g1)よりも小さい(g2<g1)。つまり、柱部24と、この柱部24の周方向隣に位置するころ21との間に形成される隙間(最小値)は、柱部24の軸方向両側の端部に設けられている脱落防止部41よりも、軸方向中央部の柱本体部42において広い。前記最小距離g1は、0.3ミリメートル以上に設定されるのが好ましい。なお、前記最小距離g1の最大値は、1ミリメートルである。
【0045】
図4において、周方向で隣り合う一対の柱部24,24のうち、一方の柱部24が有する柱本体部42の径方向外側の端部46と、他方の柱部24が有する柱本体部42の径方向外側の端部46との間隔を「A1」とする。前記一対の柱部24,24のうち、一方の柱部24が有する柱本体部42の径方向内側の端部45と、他方の柱部24が有する柱本体部42の径方向内側の端部45との間隔を「A2」とする。
図4の形態では、両側の柱本体部42の側面44は、仮想平面Q2に平行な二つの仮想基準面Q3に沿って設けられており、前記間隔A1と前記間隔A2とは同じである(A1=A2)。なお、前記間隔A1は、ポケット25の径方向外側における周方向についての広さであり、前記間隔A2は、ポケット25の径方向内側における周方向についての広さであると言える。
【0046】
前記間隔A1と前記間隔A2とが同じである以外に、前記間隔A2の方が前記間隔A1よりも大きくてもよい(A2>A1)。つまり、周方向で隣り合う一対の柱部24,24に関して、前記隙間G1が広くなっている柱本体部42では、径方向内側の端部45,45における間隔A2は、径方向外側の端部46,46における間隔A1以上であればよい(A2≧A1)。
【0047】
このように、本実施形態のケージアンドローラ20では、柱本体部42,42の間隔を径方向内側において広くする。つまり、前記間隔A2の最小値が、間隔A1であればよい。柱本体部42,42の間隔を径方向内側において広くするために、つまり、間隔A2を大きくするために、
図7に示されるように、柱本体部42の側面44は、前記仮想基準面Q3に対して傾斜していてもよい。仮想基準面Q3に対する側面44の傾斜角度がθ(θ>0)である。この場合、径方向内側の間隔A2の方が、径方向外側の間隔A1よりも大きくなる(A2>A1)。このように、
図7の形態の柱本体部42では、ころ21の外周面に対向する側面44は、仮想基準面Q3に対して傾斜する。また、
図4及び
図7の形態それぞれの各柱部24において、周方向両側の側面44それぞれの延長面が交差して得られる交線は、保持器22の中心軸よりも径方向外側に位置する。
【0048】
図8は、柱部24の軸方向中央部(つまり柱本体部42)及びころ21を示す断面図である。前記のとおり、柱本体部42の径方向内側面35には、内側凹溝36が形成される。内側凹溝36は、溝底面48と溝側面49とを有する。溝底面48は、内側凹溝36の奥側(径方向外側)の面であり、溝側面49は、溝底面48から径方向内側に延びて設けられている面である。本実施形態の場合、内側凹溝36の溝形状は円弧形状であり、溝底面48と、その両側の溝側面49,49とは滑らかに連続する。柱本体部42では、内側凹溝36の溝幅は、その径方向内側面35の周方向の幅寸法と(略)同一である。なお、内側凹溝36の溝幅とは、溝側面49,49間の最大距離である。このため、一方の溝側面49と、一方の柱本体部42の側面44との間には、鋭角形状を有する頂部50が介在し、他方の溝側面49と、他方の柱本体部42の側面44との間には、鋭角形状を有する頂部50が介在する。側面44と溝側面49とは鋭角で交差する。なお、この交差する部分(頂部50)は、面取り形状又はアール形状を有していてもよく、この場合、側面44の延長面と溝側面49の延長面とが鋭角で交差する。このように、柱本体部42では、ころ21の外周面に対向する側面44と、内側凹溝36の溝側面49とは、鋭角形状を有する頂部50を介して連続する。
【0049】
以上のように、本実施形態のケージアンドローラ20では(
図4及び
図5参照)、柱部24と、ポケット25に収容されたころ21との間に形成される隙間(最小値)は、軸方向の端部(脱落防止部41、
図5参照)よりも、これら端部の間の軸方向中央部(柱本体部42、
図4参照)において広い(G1>G2)。
【0050】
ケージアンドローラ20が回転すると、保持器22が有する環状部23のガイド面31が、遊星歯車10の内周面32に接触可能となる。このため、ガイド面31と遊星歯車10の内周面32との間に潤滑油が供給される必要がある。本実施形態では(
図1参照)ケージアンドローラ20に対する潤滑油の供給は、その内周の軸13側から行われる。本実施形態のケージアンドローラ20では、軸13の内軌道面18の軸方向中央領域において開口する給油孔(第二孔17)から供給された潤滑油は、柱部24ところ21との間を通過して、径方向外側へ流れることができる。この際、前記のとおり、柱部24ところ21との間に形成される隙間は、軸方向中央部において広いことから、給油孔(第二孔17)から供給された潤滑油は、保持器22の外周側へ到達しやすい。
【0051】
更に具体的に説明すると、本実施形態では(
図2参照)、柱部24は、軸方向両側それぞれに脱落防止部41を有する。脱落防止部41は、ころ21の端部を径方向の外方及び内方から間隔をあけて挟む外側爪部40a及び内側爪部40bを有する。脱落防止部41では、外側爪部40a及び内側爪部40bによって、ころ21との間を通じて潤滑油が径方向に流れにくい。そこで、本実施形態では、前記のとおり、脱落防止部41を除く柱本体部42において(
図4参照)、脱落防止部41(
図5参照)よりも、ころ21との間に形成される隙間が広い(G1>G2)。このため、軸13(
図1参照)において軸方向中央領域で開口する給油孔(第二孔17)から供給された潤滑油は、保持器22の外周側へ到達しやすい。
【0052】
以上より、潤滑油がケージアンドローラ20の内周側に供給されても、保持器22を径方向に通過して、保持器22の外周側(前記空間K、
図3参照)に到達することが容易となる。そして、この潤滑油は、ガイド面31と遊星歯車10の内周面32との間に供給される。よって、ケージアンドローラ20は高い回転性能を有することが可能となる。
【0053】
また、柱本体部42は、軸方向両側に位置する脱落防止部41の軸方向長さ(J2、
図2参照)の和よりも、軸方向に長い(J1>2×J2)。このため、ころ21との間の前記隙間が広くなっている範囲が、軸方向に長く設けられている。よって、給油孔(第二孔17)から供給された潤滑油は、保持器22の外周側へ到達しやすい。
【0054】
そして、本実施形態では、後の第二の軸方向誘導構造において説明するが、
図2に示されるように、脱落防止部41に外側凹溝51が設けられている。外側凹溝51は、油溜め底面43から脱落防止部41の径方向外側部41aを通過して環状部23のガイド面31へと潤滑油を流すための通路となる。この外側凹溝51によれば、油溜め底面43と遊星歯車10の内周面32との間(前記空間K、
図3参照)に溜められた潤滑油が、外側凹溝51を通じてガイド面31に供給され易くなる。
【0055】
また、周方向で隣り合う一対の柱部24,24に関して、隙間G1(
図4、
図7参照)が広くなっている軸方向中央部(柱本体部42)では、径方向内側の端部45,45における間隔A2は、径方向外側の端部46,46における間隔A1以上である(A2≧A1)。この構成によれば、ポケット25における径方向内側の開口が広くなり、軸13側から供給された潤滑油は、保持器22の内周側から受け入れられやすい。この結果、潤滑油は、より一層、保持器22の外周側へ到達しやすい。
【0056】
特に、
図7に示される形態では、隙間G1が広くなっている軸方向中央部(柱本体部42)では、側面44が前記仮想基準面Q3に対して傾斜する。この構成により、周方向で隣り合う一対の柱部24,24に関して、隙間G1が広くなっている軸方向中央部(柱本体部42)では、前記間隔A2は前記間隔A1よりも、広くなっている(A2>A1)。つまり、ポケット25における径方向内側の開口が、径方向外側の開口よりも広くなる。このため、軸13側から供給された潤滑油は、より一層、保持器22の内周側から受け入れられやすい。
【0057】
図7において、前記仮想基準面Q3に対する側面44の傾斜角度はθであり、この傾斜角度θが大きくなれば、保持器22がポケット25において潤滑油を受け入れる性能を高めることができる。ただし、傾斜角度θが大きくなりすぎると、柱本体部42の断面積が小さくなり、強度が低下する場合がある。また、保持器22は、図示しないが割金型を用いた射出成形により製造される。割金型には、ポケット25を形成するために径方向に(放射状に)移動する金型部品が含まれる。傾斜角度θが大きくなると、脱型の際、この金型部品を径方向に移動させるのが困難となる場合がある(無理抜きとなる)。したがって、θの上限値は、5°程度とするのが好ましい(0≦θ<5°)。
【0058】
また、本実施形態では、保持器22の内周側に内側凹溝36が設けられている。
図8により説明したように、柱本体部42では、ころ21の外周面に対向する側面44と、内側凹溝36の溝側面49とは、鋭角形状を有する頂部50を介して連続する。この構成によれば、ケージアンドローラ20の回転途中で、内側凹溝36から潤滑油の一部が脱落すると、その一部の潤滑油は、鋭角形状を有する頂部50を経由して、遠心力により、直ぐに側面44に沿って径方向外側に流れることができ、保持器22の外周側へ到達しやすい。つまり、内側凹溝36から出た潤滑油は、側面44に沿って径方向外方へ容易に流れることができる。
【0059】
以上のように、保持器22が有する柱部24の軸方向中央部(柱本体部42)においてころ21との隙間G1(
図4,
図7参照)を広くした構成を含む径方向誘導構造によれば、ケージアンドローラ20の内周側から供給された潤滑油を、柱部24ところ21との間から径方向外側へ通過させ、柱部24と遊星歯車10の内周面32との間の前記空間K(
図3参照)に供給することが可能となる。そして、その潤滑油は、ガイド面31と遊星歯車10の内周面32との間に供給され、摺動抵抗を低下させすることができ、発熱の発生を抑えることができる。よって、ケージアンドローラ20は高い回転性能を有することが可能となる。
【0060】
〔第二の軸方向誘導構造〕
前記のとおり(
図3参照)、保持器22において、柱本体部42の径方向外側に油溜め底面43が設けられ、油溜め底面43と遊星歯車10の内周面32との間の空間Kに潤滑油が溜められる。油溜め底面43と、環状部23のガイド面31との間に、脱落防止部41の径方向外側部41aが設けられている。径方向外側部41aは、油溜め底面43より遊星歯車10の内周面32側へ隆起した部分である。このため、前記空間Kに溜められガイド面31側に向かって流れようとする潤滑油にとって、径方向外側部41aが障壁となる。そこで、前記空間Kからガイド面31へと潤滑油を流すための通路として、径方向外側部41aに外側凹溝51が設けられている(
図2及び
図3参照)。本実施形態の外側凹溝51の溝形状(断面形状)は円弧形状である。なお、外側凹溝51の溝形状は、円弧形状以外であってもよい。
【0061】
柱部24において、油溜め底面43と外側凹溝51とは軸方向に連続して並んで設けられ、また、外側凹溝51と環状部23とが軸方向に連続して並んで設けられている。油溜め底面43と外側凹溝51の底部51a(
図3参照)とは、径方向について同じ位置にある。ガイド面31は、外側凹溝51の底部51aと比較して、径方向について外側に位置する。外側凹溝51の範囲において、底部51aとガイド面31との間に傾斜面53が設けられている。つまり、外側凹溝51の底部51aからガイド面31へ繋がる面は、傾斜面53となる。傾斜面53は、環状部23に向かうにしたがって径方向外側へ向かう面である。
【0062】
外側凹溝51が形成される径方向外側部41aについて説明する。径方向外側部41aは外側爪部40aを有する。外側爪部40aは、油溜め底面43よりも径方向外側に位置すると共に周方向に突出し、ころ21の一部を径方向の外方から覆う。このように、外側爪部40aを含む径方向外側部41aは、径方向外側寄りに位置するが、その位置は制限される。つまり、径方向外側部41aの径方向外側面52は、ガイド面31よりも径方向内側に位置する。外側凹溝51は、このような径方向外側面52から凹んで設けられている。
【0063】
前記のとおり、本実施形態のケージアンドローラ20は、次の構成を備える。
例えば保持器22と複数のころ21とを一体として搬送する際、保持器22のポケット25からころ21が脱落しないようにする必要がある。そこで、保持器22の柱部24の軸方向両側に脱落防止部41が設けられている。脱落防止部41は、ころ21の一部を径方向の外方から覆う外側爪部40aを有する。
保持器22の回転をガイドするために、環状部23のガイド面31が、遊星歯車10の内周面32に接触可能となる。このため、ガイド面31と遊星歯車10の内周面32との間に潤滑油が供給される必要がある。
柱部24の柱本体部42は、径方向外側に、ガイド面31よりも径方向内側に位置する油溜め底面43を有する。この構成によれば、油溜め底面43と遊星歯車10の内周面32との間に、潤滑油が溜められる。
このようなケージアンドローラ20では、油溜め底面43の軸方向両側に脱落防止部41が設けられている。この脱落防止部41の存在によって、油溜め底面43に溜められた潤滑油がガイド面31に供給され難くなる可能性がある。
【0064】
そこで、前記第二の軸方向誘導構造として、脱落防止部41に外側凹溝51が設けられている。外側凹溝51によって、油溜め底面43から脱落防止部41の径方向外側部41aを通過してガイド面31へと潤滑油を流すための通路が構成される。このため、油溜め底面43と遊星歯車10の内周面32との間に溜められた潤滑油が、外側凹溝51を通じてガイド面31に供給される。この結果、ケージアンドローラ20は高い回転性能を有することが可能となる。
【0065】
また、前記のとおり、本実施形態のケージアンドローラ20では、軸13(
図1参照)が有する内軌道面18の軸方向中央領域において開口する給油孔(第二孔17)から潤滑油が供給される。給油孔(第二孔17)から供給された潤滑油は、保持器22の柱部24ところ21との間を通過して、径方向外側へ流れることができる。ここで、前記径方向誘導構造について説明したように、柱部24と、ポケット25に収容されたころ21との間に形成される隙間(最小値)は、軸方向両側の脱落防止部41よりも、軸方向中央の柱本体部42において広い。このため、給油孔(第二孔17)から供給された潤滑油は、柱本体部42ところ21との間を通過して、保持器22の外周側へ到達しやすい。以上のように、潤滑油は、ケージアンドローラ20の内周側に供給されても、保持器22を径方向に通過して、保持器22の外周側に到達することができる。その潤滑油は、油溜め底面43と遊星歯車10の内周面32との間に溜められる。そして、この溜められる潤滑油が、外側凹溝51を通じてガイド面31に供給される。
【0066】
また、
図3に示されるように、油溜め底面43と外側凹溝51の底部51aとは、径方向について同じ位置にある、つまり、油溜め底面43と外側凹溝51の底部51aとは、同一直線上に位置する。このため、油溜め底面43と遊星歯車10の内周面32との間に溜められる潤滑油が、油溜め底面43から底部51aに沿って流れやすくなる、つまり、外側凹溝51に入りやすくなる。また、外側凹溝51は、軸方向外側の溝終端面として傾斜面53を有し、傾斜面53は、環状部23に向かうにしたがって径方向外側へ向かう形状を有する。このため、外側凹溝51に存在する潤滑油が、ガイド面31に供給されやすくなる。
【0067】
前記のとおり(
図2及び
図3参照)脱落防止部41において、外側爪部40aの径方向外側面52は、ガイド面31よりも径方向内側に位置していて、外側凹溝51は、この径方向外側面52から凹んで設けられている。この構成により、外側凹溝51の潤滑油の一部が、ころ21の端部の潤滑に用いられる。すなわち、ころ21の軸方向中央部の周囲には、前記油溜め底面43により、潤滑剤は比較的多く存在する。しかし、ころ21の軸方向端部では、脱落防止部41が設けられていることから、潤滑油が流れにくい。このため、ころ21の軸方向端部では、軸方向中央部と比較して潤滑油が少なくなりそうである。しかし、前記構成によれば、外側凹溝51から、潤滑油を、外側爪部40aの径方向外側面52を経由して、ころ21の軸方向端部に導入させることが容易となる。つまり、保持器22が例えば高速で回転すると、外側凹溝51に存在する潤滑油の一部が、この外側凹溝51から離脱することがある。このように潤滑油の一部が、外側凹溝51から離脱して周方向に流れると、前記構成によれば、外側爪部40aの径方向外側面52と遊星歯車10の内周面32との間を通過することができる。このように通過した潤滑油の一部は、ころ21の端部の潤滑に用いられる。このため、ころ21の端部側においても、潤滑性を高めることが可能となる。
【0068】
脱落防止部41が有する径方向外側部41aがガイド面31よりも径方向内側に位置することで、更に、別の利点が得られる。すなわち、前記のとおり、ケージアンドローラ20の組み立てにおいて、ポケット25にころ21を収容するためには、外側爪部40aを弾性変形させる。このように、外側爪部40aを弾性変形させると、外側爪部40aの一部において弾性域を超えて塑性変形してしまう場合がある。なお、実際の現象として、ポケット25に対してころ21を径方向外側から外側爪部40aを変形させて組み入れた場合でも、外側爪部40aの一部が、径方向外側に向かって反った塑性変形が生じることがある。このように、外側爪部40aの一部が塑性変形しても、前記構成によれば、外側爪部40aがガイド面31よりも径方向外側に位置するのを抑制することが可能となる。このため、保持器22において、ガイド面31以外の部分が遊星歯車10の内周面32に接触するのを防ぐことが可能となる。
【0069】
以上のように、外側凹溝51を含む第二の軸方向誘導構造によれば、前記空間K(
図3参照)の潤滑油を、ガイド面31と遊星歯車10の内周面32との間に供給することが容易となる。この結果、ガイド面31と遊星歯車10の内周面32との間の摺動抵抗を低下させすることができ、発熱の発生を抑えることができる。よって、ケージアンドローラ20は高い回転性能を有することが可能となる。本実施形態では、遊星歯車10(
図1参照)を支持する支持構造部9に前記構成を備えるケージアンドローラ20が用いられている。よって、ケージアンドローラ20において低昇温化が可能となり、また、摩擦抵抗が低減されることで、遊星歯車機構の低トルク化が可能となる。
【0070】
〔その他について〕
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
前記実施形態では、ケージアンドローラ20が、遊星歯車機構が備える遊星歯車10を支持する支持構造部9に含まれる場合について説明した。これに限らず、本発明のケージアンドローラは、その他の機器にも適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
10:遊星歯車(外側部材) 13:軸
16:第一孔(給油孔) 17:第二孔(給油孔)
18:内軌道面 20:ケージアンドローラ
21:ころ 22:保持器
23:環状部 24:柱部
25:ポケット 31:ガイド面
32:内周面 35:径方向内側面
36:内側凹溝 40a:外側爪部
40b:内側爪部 41:脱落防止部
42:柱本体部 43:油溜め底面
44:側面 49:溝側面
50:頂部 51:外側凹溝
G1:隙間 G2:隙間
Q2:仮想平面 Q3:仮想基準面