(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】熱電モジュール
(51)【国際特許分類】
H10N 10/817 20230101AFI20230719BHJP
H10N 10/17 20230101ALN20230719BHJP
H10N 10/01 20230101ALN20230719BHJP
【FI】
H10N10/817
H10N10/17 A
H10N10/01
(21)【出願番号】P 2019100588
(22)【出願日】2019-05-29
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2018190383
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】590000835
【氏名又は名称】株式会社KELK
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸澤 利彦
(72)【発明者】
【氏名】藤本 慎一
(72)【発明者】
【氏名】石井 学
(72)【発明者】
【氏名】山岸 秀明
(72)【発明者】
【氏名】上野 史貴
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-108958(JP,A)
【文献】特開2003-133599(JP,A)
【文献】特開2009-231317(JP,A)
【文献】国際公開第2010/050455(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/817
H10N 10/17
H10N 10/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極と、2つの前記電極間に配置された熱電変換素子と、前記電極と前記熱電変換素子との間に設けられた接合層とを備え、
前記接合層が、銅含有粒子と、粒子径が30μm以上50μm未満の銅ボールと、銅とスズとの金属間化合物と、樹脂の焼成物とを含
み、
前記接合層の断面において、粒子径が30μm以上の銅含有粒子と銅ボールが存在し、
前記接合層の断面の面積100%のうち、粒子径が30μm以上の銅含有粒子と銅ボールの合計面積割合が、10~55%であり、
前記接合層の断面の面積100%のうち、銅含有粒子と銅ボールの合計面積割合が、35~50%であり、
前記接合層の断面の面積100%のうち、前記金属間化合物の面積割合は、10~30%である、熱電モジュール。
【請求項2】
前記熱電変換素子と前記接合層との間に設けられた拡散防止層をさらに備える、請求項
1に記載の熱電モジュール。
【請求項3】
前記接合層と前記拡散防止層との間に設けられた接合性向上層をさらに備える、請求項
2に記載の熱電モジュール。
【請求項4】
前記接合層の厚さが、50~150μmである、請求項1~
3のいずれか一項に記載の熱電モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
熱電モジュールとしては、例えば、熱電変換素子を高温側熱交換器と低温側熱交換器との間に配置して発電を行う熱電発電モジュールが知られている。熱電変換素子は、ゼーベック効果、ペルチェ効果の熱電効果を応用したものである。熱電材料として半導体材料を用いる場合には、p型の半導体熱電材料で形成された熱電変換素子と、n型の半導体熱電材料で形成された熱電変換素子とを、電極を介して電気的に接続することにより、熱電モジュールが構成される。
【0003】
熱電変換素子と電極との接合に用いる接合材としては、高温による熱応力を繰り返し受けても熱電変換素子と電極との間の電気抵抗が増加しない高融点半田鉛が用いられている(特許文献1)。しかし、最近では、鉛による環境への影響を考慮し、鉛フリーの接合材の使用が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉛フリーの接合材としては、スズを主成分とするスズ合金からなる鉛フリー半田がよく知られている。しかし、鉛フリー半田の融点は、高融点半田鉛に比べ低いため、熱電変換素子と電極との接合に鉛フリー半田を用いた熱電モジュールは、高温(250~300℃)による熱応力を繰り返し受けた場合、熱電変換素子と電極との間の電気抵抗が増加する、すなわち温度サイクル耐性が低い。
【0006】
本発明は、熱電変換素子と電極との接合に鉛フリーの接合材を用いているにもかかわらず、温度サイクル耐性が高い熱電モジュールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の態様を有する。
<1>複数の電極と、2つの前記電極間に配置された熱電変換素子と、前記電極と前記熱電変換素子との間に設けられた接合層とを備え、前記接合層が、銅含有粒子と、粒子径が30μm以上の銅ボールと、銅とスズとの金属間化合物と、樹脂の焼成物とを含む、熱電モジュール。
<2>前記接合層の断面において、粒子径が30μm以上の銅含有粒子と銅ボールが存在し、前記接合層の断面の面積100%のうち、粒子径が30μm以上の銅含有粒子と銅ボールの合計面積割合が、10~55%である、前記<1>の熱電モジュール。
<3>前記接合層の断面の面積100%のうち、銅含有粒子と銅ボールの合計面積割合が、35~50%である、前記<1>または<2>の熱電モジュール。
<4>前記熱電変換素子と前記接合層との間に設けられた拡散防止層をさらに備えた、前記<1>~<3>のいずれかの熱電モジュール。
<5>前記接合層と前記拡散防止層との間に設けられた接合性向上層をさらに備えた、前記<4>の熱電モジュール。
<6>前記接合層の厚さが、50~150μmである、前記<1>~<5>のいずれかの熱電モジュール。
【発明の効果】
【0008】
<1>の態様の熱電モジュールは、熱電変換素子と電極との接合に鉛フリーの接合材を用いているにもかかわらず、温度サイクル耐性が高い。
<2>の態様の熱電モジュールは、前記効果に加え、熱電変換素子と電極との接合時の接合層の潰れが抑えられたものとなる。
<3>の態様の熱電モジュールは、前記効果に加え、熱電変換素子と接合層との間での熱応力の発生が抑えられ、熱電変換素子と接合層との界面での破断が抑えられたものとなる。
<4>の態様の熱電モジュールは、前記効果に加え、接合層や接合性向上層に含まれる元素の熱電変換素子への拡散が抑えられ、熱電変換素子における熱電性能の低下が抑えられたものとなる。
<5>の態様の熱電モジュールは、前記効果に加え、熱電変換素子と接合層との間の接合強度がさらに優れたものとなる。
<6>の態様の熱電モジュールは、前記効果に加え、熱電変換素子と電極との間の接合強度がさらに優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の熱電モジュールの一例を示す斜視図である。
【
図2】本発明の熱電モジュールにおける熱電変換素子と電極との接合部分の一例を示す断面図である。
【
図3】本発明の熱電モジュールにおける接合層の一例を示す断面の光学顕微鏡写真である。
【
図4】温度サイクル試験の様子を示す概略図である。
【
図5】実施例における熱電モジュールの製造過程の一部を示す概略図である。
【
図6】実施例における熱電モジュールの製造過程の一部を示す概略図である。
【
図7】実施例1の熱電モジュールの温度サイクル試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語の定義は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
「鉛フリー」とは、鉛分が0.10質量%以下であることをいう(JIS Z 3282:2006「はんだ-化学成分及び形状」参照)。
「銅含有粒子の粒子径」は、接合層の断面の光学顕微鏡写真において画像処理ソフトを用いて銅含有粒子を検出し、各銅含有粒子について計測された面積から円相当径を算出して求める。
「接合層の断面の面積100%のうち、銅含有粒子と銅ボールの合計面積割合」は、1つの熱電モジュール内から10個の接合層を無作為に選び、各接合層の断面の面積100%のうち、銅含有粒子と銅ボールの合計面積割合を求め、10個の接合層における値を平均して求める。「各接合層の断面の面積100%のうち、銅含有粒子と銅ボールの合計面積割合」は、接合層の断面の光学顕微鏡写真において画像処理ソフトを用いて銅含有粒子と銅ボールを検出し、各銅含有粒子と各銅ボールの面積を計測し、各銅含有粒子と各銅ボールの面積を合計して銅含有粒子と銅ボールの面積を求め、接合層の面積に対する銅含有粒子と銅ボールの面積の百分率を計算して求める。
「接合層の断面の面積100%のうち、粒子径が30μm以上の銅含有粒子と銅ボールの合計面積割合」は、1つの熱電モジュール内から10個の接合層を無作為に選び、各接合層の断面の面積100%のうち、粒子径が30μm以上の銅含有粒子と銅ボールの合計面積割合を求め、10個の接合層における値を平均して求める。「各接合層の断面の面積100%のうち、粒子径が30μm以上の銅含有粒子と銅ボールの合計面積割合」は、接合層の断面の光学顕微鏡写真において画像処理ソフトを用いて銅含有粒子と銅ボールを検出し、検出された銅含有粒子と銅ボールのうち、円相当径が30μm以上の銅含有粒子と銅ボールのみの合計面積を求め、接合層の面積に対する円相当径が30μm以上の銅含有粒子と銅ボールの合計面積の百分率を計算して求める。
図1、
図2、
図4、
図5および
図6における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なったものである。
【0011】
<熱電モジュール>
図1は、本発明の熱電モジュールの一例を示す斜視図であり、
図2は、熱電変換素子と電極との接合部分の一例を示す断面図である。
熱電モジュール1は、同一平面上に整列された複数の高温側電極11と;高温側電極11から離間して同一平面上に整列された複数の低温側電極12と;高温側電極11と低温側電極12との間に配置された、p型の半導体熱電材料で形成された複数の熱電変換素子(p型素子21)と;高温側電極11と低温側電極12との間に配置された、n型の半導体熱電材料で形成された複数の熱電変換素子(n型素子22)と;電極と熱電変換素子との間に設けられた接合層30と;熱電変換素子と接合層30との間に設けられた拡散防止層40と;接合層30と拡散防止層40との間に設けられた接合性向上層50とを備える。
【0012】
熱電モジュール1においては、高温側電極11および低温側電極12が、半身ずつずらしながら互いに離間して対向配置される。また、高温側電極11と低温側電極12との間には、p型素子21およびn型素子22が交互に配置される。このようにして、p型素子21およびn型素子22が、高温側電極11または低温側電極12を介して電気的に接続されてpn素子対が構成されるとともに、複数のpn素子対が、低温側電極12または高温側電極11を介して直列に接続されて直列回路が構成される。
直列回路の始端のn型素子22には、低温側電極12を介してリード線61が電気的に接続される。直列回路の終端のp型素子21には、低温側電極12を介してリード線62が電気的に接続される。
【0013】
熱電モジュール1においては、面方向に整列された複数のpn素子対の周囲を囲むように樹脂製の枠体(図示略)が設けられる。
熱電モジュール1においては、高温側基板71および低温側基板72が、面方向に整列された複数のpn素子対および枠体を挟み込むように、電極の熱電変換素子とは反対側の表面に熱伝導性グリースを介して配置される。高温側基板71および低温側基板72は、電極および枠体を覆う大きさを有しており、枠体は、熱電モジュール1が熱源に取り付けられた際に熱源に直接接触しない。
【0014】
高温側基板71の側に熱を加え、低温側基板72の側を冷却水等で冷やすと、熱電モジュール1に起電力が発生して、リード線61とリード線62との間に負荷(図示略)を接続したときに電流が流れる。すなわち、熱電モジュール1の両側(図中の上下)に温度差を与えることによって、電力を取り出すことができる。
【0015】
高温側基板71および低温側基板72のいずれか一方または両方を省略して、電気絶縁性を有する熱交換器の表面に、高温側電極11および低温側電極12のいずれか一方または両方を接触させてもよい。熱交換器と電極とを接触させることによって、熱電変換効率が向上する。高温側基板71および低温側基板72のいずれか一方が省略された熱電モジュールは、ハーフスケルトン構造と呼ばれ、高温側基板71および低温側基板72の両方が省略された熱電モジュールは、フルスケルトン構造と呼ばれる。
【0016】
高温側基板71および低温側基板72は、例えば、電気絶縁材料で構成される。電気絶縁材料としては、例えば、セラミックス(窒化アルミニウム等)が挙げられる。
高温側電極11および低温側電極12は、例えば、電気伝導性および熱伝導性の高い銅で構成される。
【0017】
p型素子21およびn型素子22は、ビスマス、テルル、アンチモンおよびセレンからなる群から選ばれる少なくとも2種の元素を主成分とする熱電材料で構成される。熱電材料としては、モジュール高温側の温度が最高で250~300℃となるような温度環境においては、ビスマスおよびテルルを含むBi-Te系熱電材料が好ましい。p型素子21を構成するBi-Te系熱電材料としては、例えば、ビスマス、テルルおよびアンチモンを含む熱電材料が挙げられる。n型素子22を構成するBi-Te系熱電材料としては、例えば、ビスマス、テルルおよびセレンを含む熱電材料が挙げられる。
【0018】
接合層30は、銅含有粒子と、粒子径が30μm以上の銅ボールと、銅とスズとの金属間化合物(Cu-Sn金属間化合物)と、樹脂の焼成物とを含む。接合層30は、例えば、後述する、銅含有粒子、銅ボール、スズ含有粒子および樹脂を含む接合材の焼成物である。
図3は、本発明の熱電モジュールにおける接合層の一例を示す断面の光学顕微鏡写真である。接合層30においては、銅含有粒子31を覆うようにCu-Sn金属間化合物32が存在し、銅含有粒子31およびCu-Sn金属間化合物32からなる金属部分内に樹脂の焼成物33が分散している。
【0019】
銅含有粒子は、250~300℃の高温でも溶融して消失せず、かつ電気抵抗が低い。そのため、接合層30が銅含有粒子を含むことによって、熱電変換素子と電極との間で電流を効率よく流すことができる。
銅含有粒子としては、例えば、銅粒子、銅合金粒子、銅粒子または銅合金粒子の表面にめっきを施したものが挙げられる。
銅含有粒子は、他の元素を含んでいてもよい。他の元素としては、例えば、リン、銀、マンガン、アンチモン、ケイ素、カリウム、ナトリウム、リチウム、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム、ベリリウム、亜鉛、鉛、カドミウム、タリウム、バナジウム、スズ、アルミニウム、ジルコニウム、タングステン、モリブデン、チタン、コバルト、ニッケル、金が挙げられる。銅含有粒子中の他の元素の含有率は、10質量%以下が好ましい。
【0020】
接合層30は、その断面において粒子径が30μm以上の銅含有粒子と銅ボールが存在することが好ましい。接合層30に粒子径が30μm以上の銅含有粒子と銅ボールが存在することによって、圧力が作用する接合や高温環境下での使用の際に接合層30の潰れが抑えられる。そのため、接合層30の厚さを十分に維持することができ、十分な接合強度を確保できる。また、接合層30のはみ出しが抑えられるため、はみ出した接合材が熱電変換素子の側面に接触することが抑えられる。そのため、接合材に含まれる銅やスズの熱電変換素子への拡散が抑えられ、熱電変換素子における熱電性能の低下が抑えられる。
接合層30の断面における銅含有粒子と銅ボールの粒子径は、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。銅含有粒子と銅ボールの粒子径が前記範囲の上限値以下であれば、接合層30が厚くなりすぎず、接合層30の電気抵抗の上昇が抑えられる。
【0021】
接合層30の断面の面積100%のうち、粒子径が30μm以上の銅含有粒子と銅ボールの合計面積割合は、10~55%が好ましく、15~50%がより好ましい。接合層30の断面の面積100%のうち、粒子径が30μm以上の銅含有粒子と銅ボールの合計面積割合が前記範囲の下限値以上であれば、接合層30の潰れが十分に抑えられる。接合層30の断面の面積100%のうちの粒子径が30μm以上の銅含有粒子と銅ボールの合計面積割合が前記範囲の上限値以下であれば、接合層30が厚くなりすぎないため、界面の電気抵抗が高くならずに電力損失が抑えられる。
【0022】
接合層30の断面の面積100%のうち、銅含有粒子と銅ボールの合計面積割合は、35~50%が好ましく、38~47%がより好ましい。接合層30の断面の面積100%のうち、銅含有粒子と銅ボールの合計面積割合が前記範囲内であれば、熱電変換素子の線膨張係数と接合層30の線膨張係数との差が小さくなり、熱電変換素子と接合層30との間での熱応力の発生が抑えられる。そのため、熱電変換素子と接合層30との界面での破断が抑えられる。
【0023】
Cu-Sn金属間化合物は、後述する、銅含有粒子およびスズ含有粒子を含む接合材を焼成した際に固体の銅含有粒子と溶融スズとが反応し、銅とスズとが遷移的液相焼結(TLPS)して形成されたものである。すなわち、銅含有粒子およびスズ含有粒子を含む接合材を用いることによって、鉛フリーはんだと同じ条件(スズが溶融する260℃)で熱電変換素子と電極との接合が可能であり、接合後は融点が高い(400℃以上である)Cu-Sn金属間化合物が再溶融しない。そして、接合層30がCu-Sn金属間化合物を含むことによって、熱電モジュール1の温度サイクル耐性が高くなる。
Cu-Sn金属間化合物としては、例えば、Cu6Sn5、Cu3Snが挙げられる。Cu-Sn金属間化合物には、銅およびスズ以外の他の元素が含まれていてもよい。
【0024】
接合層30の断面の面積100%のうち、Cu-Sn金属間化合物の面積割合は、10~30%が好ましく、14~25%がより好ましい。接合層30の断面の面積100%のうち、Cu-Sn金属間化合物の面積割合が前記範囲の下限値以上であれば、十分な接合強度を確保できる。接合層30の断面の面積100%のうち、Cu-Sn金属間化合物の面積割合が前記範囲の上限値以下であれば、接合層30の潰れが十分に抑えられる。
【0025】
樹脂の焼成物は、後述する、樹脂を含む接合材を焼成した際に樹脂が熱分解して形成されたものである。銅含有粒子、銅ボールおよびCu-Sn金属間化合物からなる金属部分内に樹脂の焼成物が分散していることによって、接合層30に熱応力が発生した際に、樹脂の焼成物が変形し、熱応力を緩和できる。そのため、熱電モジュール1の温度サイクル耐性がさらに高くなる。
【0026】
接合層30の断面の面積100%のうち、樹脂の焼成物の面積割合は、30~50%が好ましく、34~45%がより好ましい。接合層30の断面の面積100%のうち、樹脂の焼成物の面積割合が前記範囲の下限値以上であれば、熱応力を十分に緩和できる。接合層30の断面の面積100%のうち、樹脂の焼成物の面積割合が前記範囲の上限値以下であれば、熱電変換素子と電極との間で電流を効率よく流すことができる。
【0027】
接合層30の厚さは、50~150μmが好ましく、50~120μmがより好ましい。接合層30の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、熱電変換素子と電極との間の接合強度がさらに優れたものとなる。接合層30の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、接合層30の電気抵抗の上昇が抑えられる。
【0028】
拡散防止層40は、接合層30や接合性向上層50に含まれる元素の熱電変換素子への拡散を抑えることによって、熱電変換素子における熱電性能の低下を抑える。
拡散防止層40は、例えば、ニッケル、モリブデン、タングステン、ニオブおよびタンタルからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属から構成される。
拡散防止層40の厚さは、0.5~20μmが好ましく、2.7~13μmがより好ましい。
【0029】
接合性向上層50は、接合層30と拡散防止層40との接合性を高める。
接合性向上層50は、例えば、スズ、ニッケル、銅、銀、金、白金、アルミニウム、クロムおよびコバルトからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属から構成される。
接合性向上層50の厚さは、0.1~5μmが好ましく、0.2~3μmがより好ましい。
【0030】
<熱電モジュールの製造方法>
熱電モジュール1は、例えば、下記ステップS1~S4を有する方法にて製造できる。
【0031】
(ステップS1)
あらかじめ所定の形状に成形された熱電材料を用意し、必要に応じて前処理を行う。
熱電材料は、素子状に成形されたものであってもよく、板状のものであってもよい。
前処理としては、例えば、アルゴンガス雰囲気中における逆スパッタが挙げられる。逆スパッタとは、ドライエッチングの一種であり、アルゴンイオンで熱電材料の表面をスパッタすることによって、熱電材料の表面に形成された酸化膜や表面に付着した汚れが除去される。
【0032】
(ステップS2)
モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル等の金属材料を用いてイオンプレーティングまたはスパッタを行うことによって、熱電材料の上面および下面に拡散防止層40を形成する。
【0033】
(ステップS3)
ニッケル、銅、銀、金、白金、アルミニウム、クロム、コバルト等の金属材料を用いてイオンプレーティングまたはスパッタを行うことによって、拡散防止層40の表面に接合性向上層50を形成する。
【0034】
ステップS1~S3は、同一の真空チャンバ内において連続的に行うことが好ましい。
熱電材料が板状の場合、ステップS3の後、板状の熱電材料を素子状に切断する。
このようにして、上面および下面に拡散防止層40および接合性向上層50が形成された熱電変換素子(p型素子21またはn型素子22)が得られる。
【0035】
(ステップS4)
表面加工済みの熱電変換素子と電極との間に、ペースト状の接合材を挟持し、圧力を加えた状態にて焼成することによって、接合層30を介して熱電変換素子と電極とを接合する。
【0036】
接合材としては、例えば、比較的粒子径の小さい銅含有粒子(以下、「銅微粒子」とも記す。)、スズ含有粒子、樹脂、溶剤、添加剤等を含む市販の金属ペーストに、比較的粒子径の大きい銅含有粒子と銅ボールを配合したものが挙げられる。
接合材における各成分の含有率は、接合層30における各成分の面積割合(合計面積割合)が上述した範囲内となるように適宜調整すればよい。
【0037】
銅微粒子の形態および材質としては、接合層30における銅含有粒子の形態および材質と同様のものが挙げられる。
銅微粒子の、レーザー回折・散乱法によって求められる体積基準累積50%径(以下、「D50」とも記す。)は、0.4~10μmが好ましく、1~7μmがより好ましい。
【0038】
スズ含有粒子としては、例えば、スズ粒子、スズ合金粒子が挙げられる。
スズ粒子におけるスズの純度は、95質量%以上が好ましく、97質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましい。
スズ合金粒子におけるスズの含有率は、1質量%以上が好ましく、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。
スズ合金粒子としては、例えば、Sn-3.5Ag、Sn-0.7Cu、Sn-3.0Ag-0.5Cu、Sn-3.2Ag-0.5Cu、Sn-4Ag-0.5Cu、Sn-2.5Ag-0.8Cu-0.5Sb、Sn-2Ag-7.5Bi、Sn-3Ag-5Bi、Sn-58Bi、Sn-3.5Ag-3In-0.5Bi、Sn-3Bi-8Zn、Sn-9Zn、Sn-52In、Sn-40Pbが挙げられる。
スズ含有粒子のD50は、0.5~20μmが好ましく、1~15μmがより好ましい。
【0039】
市販の金属ペーストは、銀粒子を含んでいてもよい。
銀粒子は、他の元素を含んでいてもよい。銀粒子中の他の元素の含有率は、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
銀粒子のD50は、0.4~10μmが好ましく、1~7μmがより好ましい。
【0040】
樹脂としては、例えば、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アクリル樹脂、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、ブチラール樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ロジンエステル樹脂、熱可塑性ポリイミドが挙げられる。
溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤、塩素化炭化水素系溶剤、環状エーテル系溶剤、アミド系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、多価アルコールのエステル系溶剤、多価アルコールのエーテル系溶剤、テルペン系溶剤が挙げられる。
添加剤としては、例えば、チキソ剤、酸化防止剤、フラックス、可塑剤、分散剤、界面活性剤、無機結合剤、金属酸化物、セラミックス、有機金属化合物が挙げられる。
【0041】
銅ボールは、粒子径が30μm以上の銅製のボール状の物体である。なお、銅ボールの形態および材質としては、接合層30における銅含有粒子の形態および材質と同様のものでもよい。
銅ボールのD50は、20~38μmが好ましい。
【0042】
接合材を高温(260℃)で焼成すると、固体の銅含有粒子と溶融スズとが反応し、銅とスズとが遷移的液相焼結(TLPS)してCu-Sn金属間化合物が形成される。接合材に含まれる銅ボールは、表面が溶融スズと反応するものの、多くの部分が粒子のまま残り、接合層30において粒子径が30μm以上の銅含有粒子を構成する。接合材に含まれる樹脂は、焼成によって熱分解されて、一部が樹脂の焼成物として接合層30中に残存する。接合材に含まれる溶剤は、焼成によって揮発する。
【0043】
<熱電モジュールの使用方法>
熱電モジュールは、高温側(高温側基板または高温側電極)および低温側(低温側基板または低温側電極)のいずれか一方又は両方に熱源(熱交換器等)を接触させて用いられる。
例えば、フルスケルトン構造の熱電モジュールを用いる場合、熱電モジュールと熱交換器との間に熱伝導性グリースが存在する状態で、熱電モジュールと熱交換器との間に、面方向に直交する方向に圧力を加える。
熱電モジュールと熱交換器との間に加える圧力は、熱電モジュールと熱交換器との間の熱抵抗を小さくする点から、196kN/m2以上が好ましい。接合層における粒子径が30μm以上の銅含有粒子の面積割合が10%以上であれば、196kN/m2以上の圧力が加わっても、接合層の潰れが抑えられる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0045】
(接合層の断面における各成分の面積割合)
接合層の断面における各成分の面積割合は、下記のようにして求めた。
1つの熱電モジュール内から10箇所の接合部分を無作為に選んだ。各接合部分の断面を、光学顕微鏡(キーエンス社製、VHX-6000)を用い、倍率1000倍で観察した。接合部分の断面の光学顕微鏡写真においてVHX-6000付属の画像処理ソフトを用いて接合層を選択し、接合層の面積を計測した。
接合部分の断面の光学顕微鏡写真において画像処理ソフトを用いて接合層内の銅含有粒子と銅ボールを自動検出し、各銅含有粒子と各銅ボールの面積を計測し、各銅含有粒子と各銅ボールの円相当径を求め、各銅含有粒子と各銅ボールの面積を合計して銅含有粒子と銅ボールの合計面積を求め、接合層の面積に対する銅含有粒子と銅ボールの合計面積の百分率を計算して求めた。検出された銅含有粒子と銅ボールのうち、円相当径が30μm以上の銅含有粒子と銅ボールのみの合計面積を求め、接合層の面積に対する円相当径が30μm以上の銅含有粒子と銅ボールの合計面積の百分率を計算して求めた。
接合部分の断面の光学顕微鏡写真において画像処理ソフトを用いて接合層内のすべての黒色部分(樹脂の焼成物等)を自動検出し、黒色部分の面積を求め、接合層の面積に対する黒色部分の面積の百分率を計算して求めた。
銅含有粒子と銅ボールおよび黒色部分以外の面積を、接合層の面積-(銅含有粒子の面積+銅ボールの面積+黒色部分の面積)から求め、これをCu-Sn金属間化合物の面積とした。接合層の面積に対するCu-Sn金属間化合物の面積の百分率を計算して求めた。
接合層の断面の面積100%のうちの銅含有粒子と銅ボールの合計面積割合、接合層の断面の面積100%のうちの粒子径が30μm以上の銅含有粒子と銅ボールの合計面積割合については、10箇所の接合部分における値を平均して求めた。接合層の断面の面積100%のうちのCu-Sn金属間化合物の面積割合、接合層の断面の面積100%のうちの黒色部分の面積割合については、5箇所の接合部分における値を平均して求めた。
【0046】
(温度サイクル試験)
図4に示すように、熱電モジュール1を、測温のための窒化アルミ基板91および窒化アルミ基板92を介してヒーター81と冷却プレート82とで上下から挟み、2MPa程度で加圧した。高温側の温度は熱電対93を用いて窒化アルミ基板91の温度を測定し、低温側の温度は熱電対94を用いて窒化アルミ基板92の温度を測定した。
熱電モジュール1について、大気中にて、低温側温度を50℃に固定し、高温側を70℃から250℃まで5分間で昇温し、250℃で10分間保持し、250℃から70℃まで5分間で降温するサイクルを15000回繰り返した。250℃で10分間保持している間、開放起電力および最大出力を測定した。50サイクル毎に、250℃における熱電モジュール1の電気抵抗および60℃における熱電モジュール1の電気抵抗を計測した。熱電モジュール1の電気抵抗は、リード線61とリード線62との間で計測した。
【0047】
(実施例1)
p型素子用の熱電材料として、ビスマス、テルルおよびアンチモンを主成分とする板状の熱電材料を用意した。n型素子用の熱電材料として、ビスマス、テルルおよびセレンを主成分とする板状の熱電材料を用意した。
各熱電材料の上面および下面に、イオンプレーティング法によって、ニッケルからなる拡散防止層およびスズからなる接合性向上層を順次形成した。
板状の熱電材料を素子状に切断して、表面加工済みのp型素子およびn型素子を得た。
【0048】
D50が3μmの銅微粒子を15.7質量%、D50が25μmの銅粒子を62.9質量%、D50が3μmのスズ合金粒子(Sn-3.0Ag-0.5Cu)を14.2質量%、D50が25μmのスズ合金粒子(Sn-3.0Ag-0.5Cu)を1.5質量%、エポキシ樹脂を0.7質量%、ロジンを1.5質量%、チキソ剤を0.4質量%、活性剤を1.5質量%、酸化防止剤を0.1質量%、溶剤を1.5質量%で混合し、金属ペーストを得た。
前記金属ペーストに、D50が29μmの銅ボールを7.5質量%となるように添加し、撹拌してペースト状の接合材を得た。
【0049】
図5に示すように、低温側基板72の表面に低温側電極12を接着したものを用意した。これと同様に、高温側基板71の表面に高温側電極11を接着したものを用意した。低温側電極12および高温側電極11の表面にペースト状の接合材100を塗布した。
図6に示すように、ペースト状の接合材100の上に、表面加工済みのp型素子21およびn型素子22を載置した。ペースト状の接合材100を塗布した高温側電極11を表面加工済みのp型素子21およびn型素子22の上に配置した。
上下から0.01MPaの圧力を加えた状態で、250℃で1~2分間加熱し、電極と熱電変換素子とを接合材の焼成物からなる接合層で接合した。pn素子対が199対である
図1に示すような熱電モジュールを得た。
接合層の厚さは118μmであった。熱電変換素子と電極との接合時の接合層の潰れ、および熱電変換素子と接合層との界面での破断は見られなかった。
接合層の断面における各成分の面積割合を表1に示す。
温度サイクル試験の結果を
図7に示す。15000サイクル経過後も出力の低下は見られなかった。
【0050】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の熱電モジュールは、温度差を利用して発電を行う熱電発電に用いることできる。
【符号の説明】
【0052】
1…熱電モジュール、11…高温側電極、12…低温側電極、21…p型素子、22…n型素子、30…接合層、31…銅含有粒子、32…Cu-Sn金属間化合物、33…樹脂の焼成物、40…拡散防止層、50…接合性向上層、61…リード線、62…リード線、71…高温側基板、72…低温側基板、81…ヒーター、82…冷却プレート、91…窒化アルミ基板、92…窒化アルミ基板、93…熱電対、94…熱電対、100…ペースト状の接合材。