(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】アルカリ電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/06 20060101AFI20230719BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230719BHJP
H01M 6/06 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
H01M4/06 U
H01M4/62 C
H01M6/06 C
(21)【出願番号】P 2019116565
(22)【出願日】2019-06-24
【審査請求日】2022-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡真
(72)【発明者】
【氏名】松井 隼司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄也
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】実公昭48-023624(JP,Y1)
【文献】実公昭46-031078(JP,Y1)
【文献】特開昭61-096665(JP,A)
【文献】特表2013-502026(JP,A)
【文献】特開2007-226967(JP,A)
【文献】特開昭58-163172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/06
H01M 4/62
H01M 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ電解液を保持したセパレータにより隔離された正極及び負極を備えているアルカリ電池において、
前記負極は、ゲル状亜鉛負極合剤を含むゲル状亜鉛負極でおり、
前記ゲル状亜鉛負極合剤は、繊維状炭素材料を含んで
おり、
前記繊維状炭素材料は、前記ゲル状亜鉛負極合剤の重量に対して0.1重量%以上、0.5重量%未満含まれている、アルカリ電池。
【請求項2】
前記繊維状炭素材料は、気相成長炭素繊維である、請求項1に記載のアルカリ電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ電池に関し、詳しくは、負極の導電性が改良されたアルカリ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、デジタルカメラ、ビデオカメラ等の電子機器の高性能化及び小型化が進んでおり、こうした電子機器の電源として用いられるアルカリ電池に対する性能向上の要求が高まっている。
【0003】
従来、アルカリ電池においては、負極として、以下のようなゲル状亜鉛負極が多用されている。このゲル状亜鉛負極は、例えば、以下のようにして製造される。
【0004】
まず、溶融させた亜鉛合金を空気中で噴霧して亜鉛合金粒子を調製し、得られた亜鉛合金粒子を集めて亜鉛合金粉末を準備する。更に、アルカリ電解液と、ポリアクリル酸ナトリウムのようなゲル化剤とを混合して調製したゲル状電解液を準備する。そして、上記した亜鉛合金粉末を上記したゲル状電解液中に投入し、これらを混合する。これにより、亜鉛合金粉末がゲル状電解液に分散したゲル状亜鉛負極が得られる。
【0005】
ところで、亜鉛合金粉末を含むゲル状亜鉛負極においては、亜鉛合金粒子間の接触度合いが少なく、亜鉛合金粒子間の導電性が低い。このため、アルカリ電池においては、早期に放電が不能になるという問題が存在している。
【0006】
そこで、アルカリ電池の性能を改善するために種々の研究がなされており、例えば、特許文献1に示されるように、黒鉛や活性炭からなる炭素粉末をゲル状亜鉛負極に添加することで、亜鉛合金粒子間に黒鉛等を介在させて導電性を高める検討がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記したような電子機器においては、近年、消費する電力が増加しており、それにともない、これらの電子機器に使用されるアルカリ電池には、より高負荷での放電性能の向上が求められている。
【0009】
また、アルカリ電池においては、放電反応の進行にともない亜鉛合金の表面に電気抵抗値の高い亜鉛酸化物の被膜が形成されるため、亜鉛合金粒子同士の接触が阻害され、導電性が低下しやすい。
【0010】
特許文献1に代表されるような従来のアルカリ電池は、ゲル状亜鉛負極に炭素粉末を添加して導電性の改善が図られているが、近年望まれているような高負荷放電性能の向上は未だ十分にはなされていない。特に、放電反応が進行し、亜鉛酸化物が形成されたような状態となったときにアルカリ電池内部の導電性を高い状態で維持することが十分にはできていない。つまり、上記した炭素粉末ではアルカリ電池における導電性を十分に改善できていないのが現状である。
【0011】
本発明は上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、高負荷放電性能に優れるアルカリ電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のアルカリ電池は、アルカリ電解液を保持したセパレータにより隔離された正極及び負極を備えているアルカリ電池において、前記負極は、ゲル状亜鉛負極合剤を含むゲル状亜鉛負極であり、前記ゲル状亜鉛負極合剤は、繊維状炭素材料を含んでいる、ことを特徴とする。
【0013】
また、前記繊維状炭素材料は、気相成長炭素繊維である構成とすることが好ましい。
【0014】
また、前記繊維状炭素材料は、前記ゲル状亜鉛負極合剤の重量に対して0.1重量%以上含まれている構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアルカリ電池によれば、ゲル状亜鉛負極合剤に含まれる繊維状炭素材料が、導電ネットワークを形成し、導電性の向上に貢献する。このため、アルカリ電池の高負荷放電性能の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係るアルカリ電池を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態に係るアルカリ電池1(以下、電池1という)について説明する。本発明が適用される電池1としては、例えば、
図1に示すようなJIS規格のLR6形(単3形又はAA形)のアルカリマンガン電池が挙げられる。
【0018】
図1に示すように、電池1は、上端が開口した有底円筒形状の電池缶(以下、正極缶11という)を備えている。この正極缶11は、金属製であり、導電性を有している。正極缶11の底壁には外側に突出する凸状の正極端子部12が一体的に形成されており、この正極端子部12が電池1の正極端子として機能する。
【0019】
正極缶11の開口部14には、封口体16が固定されている。この封口体16は、負極端子となる負極キャップ32と、この負極キャップ32の中央に固定された負極集電体31と、負極キャップ32に組み合わされた封口ガスケット35とを含む。この封口体16は、封口ガスケット35の部分が正極缶11の開口部14の内側に当接し、この状態で正極缶11の開口縁18がかしめ加工されることにより、正極缶11の開口部14に固定されている。すなわち、封口体16は正極缶11の開口部14を気密に閉塞している。
【0020】
ここで、負極キャップ32は、円盤状の頂壁34と、この頂壁34の周縁から電池1の内部方向へ延びる周壁36と、周壁36の先端部が折り返されて形成されているフランジ部38とを備えている。周壁36においては、フランジ部38との境界付近の所定位置にガス抜き孔40が設けられている。
【0021】
負極集電体31は、金属製の棒状の部材であり、円柱状の本体部42と、本体部42の基端側に位置し、本体部42よりも拡径されている頭部44と、本体部42の先端側に位置し、本体部42よりも先細りとなっているテーパ部46とを有している。この負極集電体31は、頭部44が負極キャップ32の頂壁34の内面に溶接されている。なお、負極集電体31の材質としては、例えば、真鍮が用いられる。この負極集電体31は、後述する負極2としてのゲル状亜鉛負極24に挿入され、負極2(ゲル状亜鉛負極24)と負極端子(負極キャップ32)とを電気的に接続する。
【0022】
封口ガスケット35は、円筒状の中央円筒体48と、この中央円筒体48の周囲から延びる円環状の鍔部50とを備えている。この封口ガスケット35は、絶縁性の樹脂材料、例えば、ポリアミド樹脂により形成されている。中央円筒体48の中心貫通孔52には、負極集電体31の本体部42が嵌め合わされている。負極集電体31の本体部42と中央円筒体48の中心貫通孔52との間は気密性が保たれている。鍔部50の外周縁部は、
図1に示すように、正極缶11の開口部14と負極キャップ32のフランジ部38との間に介在するように折り返されており、円環状の外周壁54を形成している。この鍔部50の外周壁54は、正極缶11の開口部14を気密に閉塞するとともに正極缶11と負極キャップ32との間を電気的に絶縁する。また、鍔部50において、中央円筒体48と外周壁54との間には、薄肉部56が設けられている。この薄肉部56は、正極缶11内でガスが異常発生し、正極缶11内の圧力が上昇した際、破断される。これにより、異常発生したガスは正極缶11の外部へ放出され、電池1の破裂が防止される。つまり、封口ガスケット35は、電池1の安全弁としても機能する。
【0023】
正極缶11の内部には、中空円筒状に成形された複数の正極合剤21が正極缶11の内周面に接触するように収容されている。
【0024】
ここで、正極缶11の内壁には、正極合剤21と正極缶11との電気的な接続を促進させる目的で、導電膜が形成されている。この導電膜は、適切な溶媒に黒鉛を分散させた混合物を正極缶11の内壁に塗布し、乾燥させたものである。
【0025】
正極合剤21は、例えば、以下のようにして製造される。
まず、正極活物質としての二酸化マンガンの粒子、導電材としての黒鉛の粒子、アルカリ電解液、バインダ及び必要に応じて正極添加剤を準備し、これらを混合して混合物を得る。次いで、得られた混合物を圧延、解砕、造粒、分級等の工程にて処理した後、得られた混合物の粉末を圧縮して中空円筒状に成形することにより、正極合剤21が製造される。成形された正極合剤21は、正極活物質粒子及び導電材粒子が相互に結着し、粒子間の粒界にはアルカリ電解液が存在している。
【0026】
円筒形状の正極合剤21は複数個製造され、これら正極合剤21が正極缶11の円筒軸線と同軸となるように、正極缶11の円筒軸線に沿った方向に積層されて正極缶11内に圧入されている。本実施形態の電池1においては、
図1に示すように、正極缶11内に3つの正極合剤21が圧入されており、これら3つの正極合剤21が協働して正極3を形成している。
【0027】
積層された正極合剤21の内周側には、
図1に示すように、有底円筒形状のセパレータ22が配設されている。このセパレータ22は、上記した正極合剤21と後述するゲル状亜鉛負極合剤23との間を電気的に隔離するとともにアルカリ電解液を保持する働きをする。このセパレータ22は、電気絶縁性、保液性及び耐アルカリ性に優れている材料により形成されている。このようなセパレータ22としては、特に限定されるものではないが、例えば、一般的なアルカリ電池に用いられているセパレータを用いることが好ましい。ここで、具体的には、セルロース系繊維と、ポリビニルアルコール系繊維とにより形成されたセパレータを用いることが好ましい。
【0028】
上記したセパレータ22における中央の空間部分58には、
図1に示すように、負極合剤として、ゲル状亜鉛負極合剤23が充填されている。つまり、電池1においては、ゲル状亜鉛負極合剤23が負極2としてのゲル状亜鉛負極24を形成している。
【0029】
上記したゲル状亜鉛負極合剤23は、負極活物質としての亜鉛合金と、導電材としての炭素材料と、アルカリ電解液と、ゲル化剤とを含んでいる。このゲル状亜鉛負極合剤23は、ゲル化剤とアルカリ電解液とを混合することにより調製されたゲル状電解液に、亜鉛合金の粉末及び炭素材料を添加し混合することにより形成される。
【0030】
ここで、ゲル化剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリアクリル酸やポリアクリル酸ナトリウムが用いられる。また、アルカリ電解液としても、特に限定されるものではなく、例えば、KOH水溶液や、KOH水溶液にZnOを添加したアルカリ性水溶液が用いられる。
【0031】
亜鉛合金についても、アルカリ電池の負極活物質として用いられている亜鉛合金を採用することが好ましい。ここで、亜鉛合金粒子の集合体である亜鉛合金粉末を調製する手順について説明する。まず、所定の組成の亜鉛合金が得られるように金属原材料を計量して混合し、この混合物を例えば誘導溶解炉で溶解する。得られた溶湯に対しガスアトマイズ法や遠心噴霧法を適用し亜鉛合金の粒子を製造する。そして、得られた亜鉛合金粒子を集めて分級し、所望粒径の亜鉛合金粉末を得る。このとき、亜鉛合金を構成する原材料としては、亜鉛の他にビスマス、アルミニウム、インジウム等を用いることが好ましい。
【0032】
ここで、ビスマスが0.005~0.02質量%、アルミニウムが0.0035~0.015質量%、インジウムが0.01~0.06質量%含まれている亜鉛合金を採用することが好ましい。この組成の亜鉛合金は、水素ガス発生の抑制効果がある。また、インジウム及びビスマスは電池の放電性能を向上させる。このようなビスマス、アルミニウム及びインジウムを含む亜鉛合金を負極活物質として用いた場合、亜鉛合金のアルカリ電解液中での自己溶解速度は適度な値になり、水素ガスの発生も抑制されて、電池内部からの漏液防止に効果がある。
【0033】
本発明のゲル状亜鉛負極合剤23においては、導電材の炭素材料として、繊維状炭素材料が用いられる。好ましくは、気相成長炭素繊維を用いる。
【0034】
この繊維状炭素材料が果たす役割は、亜鉛合金粒子の相互接触度合いが少ないということに基づく電気伝導性の低下を解消することである。すなわち、繊維状炭素繊維は、それ自体が優れた電気伝導体であるので、上記した亜鉛合金粒子間に介在することにより電気伝導性を媒介的に高める。この効果は特許文献1に示されるように、黒鉛などの炭素粉末でも得られるが、気相成長炭素繊維などの繊維状炭素材料は黒鉛の粉末より10倍程度の電子伝導率を持つため、この効果も大きい。
【0035】
また、アルカリ電池の負極における化学反応は、以下の(I)式で表される。
Zn+2OH-→ZnO+H2O+e-・・・(I)
【0036】
アルカリ電池の負極では、放電反応によって亜鉛表面に電気抵抗値の高い亜鉛酸化物の被膜が形成されるために、全ての亜鉛が効率的に反応し得ない。また、セパレータ側から優先的に反応が進み、中心部の亜鉛が未反応の状態のまま、分極増大により放電が終了する。このような状況であっても、繊維状炭素材料によれば、初期の電気伝導性が向上されるばかりでなく、放電が進み亜鉛酸化物の被膜が生じたとしても、繊維状の形態のために亜鉛合金粒子間の電気的接触状態を効果的に維持することができる。
【0037】
本発明において用いられる繊維状炭素材料としては、繊維径が100nm~200nm、繊維長が5~20μmの炭素の微細繊維を用いることが好ましい。より好ましくは、微細繊維でチューブ構造をしている気相成長炭素繊維を用いる。
【0038】
繊維状炭素材料は、繊維状であることから亜鉛合金の粒子の表面に網目状に張り巡らされ、亜鉛合金の粒子と広い範囲で接触する。しかも繊維状炭素材料は導電性が高いので、高密度の導電ネットワークが形成される。このため、繊維状炭素材料を含む本発明に係るアルカリ電池は、従来のアルカリ電池に比べ導電性が高く、大電流放電が可能となる。
【0039】
ここで、上記した繊維状炭素材料は、ゲル状亜鉛負極合剤23の重量に対し、0.1重量%以上含まれている構成とすることが好ましい。繊維状炭素材料の含有量を0.1重量%以上とすれば負極の導電性の向上を図ることができ、アルカリ電池の高負荷放電性能の向上に貢献する。繊維状炭素材料の含有量は多いほど導電性を高める効果が期待できる。しかし、繊維状炭素材料の含有量を多くし過ぎるとゲル状亜鉛負極合剤23の粘度が高くなり過ぎ、セパレータ22における中央の空間部分58への注入作業が困難となることがある。ゲル状亜鉛負極合剤23のセパレータ22における中央の空間部分58への注入作業のやり易さを考慮した場合、繊維状炭素材料は、ゲル状亜鉛負極合剤23の重量に対し、0.5重量%未満とすることが好ましい。
【0040】
次いで、電池1の組み立て手順について説明する。
まず、準備された正極缶11の内部に中空円筒形状の正極合剤21を圧入する。その後、有底円筒形状のセパレータ22を正極合剤21の中空部分に挿入する。そして、アルカリ電解液をセパレータ22の内部に供給し、当該アルカリ電解液をセパレータ22に染みこませる。ここで、セパレータ22に染みこませるアルカリ電解液としては、特に限定されるものではなく、例えば、KOH水溶液が用いられる。
【0041】
次いで、セパレータ22における中央の空間部分58に、上記のようにして準備されたゲル状亜鉛負極合剤23が注入される。これにより、セパレータ22における中央の空間部分58にゲル状亜鉛負極合剤23が充填されゲル状亜鉛負極24が形成される。
【0042】
次に、封口体16の負極集電体31をゲル状亜鉛負極24の中に挿入させていく。そして、封口ガスケット35の鍔部50がセパレータ22の上端と接するとともに、封口ガスケット35の外周壁54の部分が正極缶11の開口部14付近に到達したところで負極集電体31の挿入を止める。このとき、正極缶11の開口部14の所定位置に封口体16が配置される。この状態で、正極缶11の開口縁18をかしめ加工する。これにより、正極缶11の開口部14は気密に閉塞され、電池1が形成される。
【0043】
この電池1は、電池缶(正極缶11)が正極側であり、封口体16が負極側となっている構造、いわゆるインサイドアウト構造をなしている。そして、正極合剤21、セパレータ22及びゲル状亜鉛負極合剤23は、電池1の発電要素20を構成している。
【0044】
[実施例]
1.アルカリマンガン電池の製造
(実施例1)
【0045】
(1)正極合剤の製造
電解二酸化マンガン90.80重量部に対して、黒鉛5.96重量部、アルカリ電解液(40質量%KOH水溶液)2.83重量部、ポリアクリル酸0.18重量部、シリカ0.02重量部を混合し、その混合物を圧延装置に投入し圧延した。次に、圧延されて一塊となった混合物を解砕機に投入し、細かく粉砕して原料粉末を得た。次に、得られた原料粉末を造粒機に投入することにより原料粉末を構成する粒子を互いに結合させて、ある程度以上の大きさの粒子を形成した。このような造粒工程を経た原料粉末を分級機に投入して分級し、60mesh以下の粒子が30%以下となるような原料粉末を得た。分級後の原料粉末にステアリン酸カルシウムを0.20重量部混合し、原料粉末における粒子の表面にステアリン酸カルシウムを塗布した。このような原料粉末を圧縮して円筒形状に成形し正極合剤21を得た。円筒形状の正極合剤21は、複数個製造した。
【0046】
(2)ゲル状亜鉛負極合剤の製造
Zn、Bi、Al、Inを計量し、これらが質量比で次の(II)式の割合で含まれる混合物を準備した。
Zn:Bi:Al:In=99.9:0.012:0.010:0.020・・・(II)
【0047】
得られた混合物を、アルゴンガス雰囲気中にて高周波誘導溶解炉で溶解し、亜鉛合金の溶湯を得た。次いで、その溶湯をタンディッシュと呼ばれる坩堝に流し込み、この坩堝の底面に設けられた孔から流れ出た溶湯流に、高圧のガスを吹き付けて溶湯を飛散させると同時に凝固させた。これにより亜鉛合金の粉末を得た。
【0048】
得られた亜鉛合金粉末を分級し、粒径が75μm以下の粒子を30質量%含む亜鉛合金粉末を準備した。
【0049】
次に、導電材として、気相成長炭素繊維を準備した。この気相成長炭素繊維は、チューブ構造をなしている微細繊維である。この準備した気相成長炭素繊維の物性値は、次の通りである。すなわち、繊維径が150nm、繊維長が10μm、真密度が2.1g/cm3、比表面積が13m2/g、熱伝導率が1200W/(m・K)、比抵抗が1×10-4Ωcmである。
【0050】
更に、ゲル化剤として、ポリアクリル酸及び架橋型ポリアクリル酸ナトリウムを準備するとともに、アルカリ電解液として、KOHが35質量%含まれる水溶液にZnOが2.6質量%添加されたアルカリ電解液を準備した。
【0051】
次に、上記のようにして準備したポリアクリル酸、架橋型ポリアクリル酸ナトリウム及びアルカリ電解液を混合してゲル状電解液を調製し、このゲル状電解液に亜鉛合金粉末及び気相成長炭素繊維を更に混合してゲル状亜鉛負極合剤23を調製した。このとき、亜鉛合金粉末は66.44重量部、気相成長炭素繊維は0.10重量部、ポリアクリル酸は0.37重量部、架橋型ポリアクリル酸ナトリウムは0.20重量部、アルカリ電解液は32.89重量部とした。ここで、気相成長炭素繊維の含有量は、ゲル状亜鉛負極合剤の重量に対して0.1重量%である。
【0052】
(3)アルカリマンガン電池の組み立て
JIS規格のLR6形(単3形又はAA形)のアルカリマンガン電池用の正極缶11の中に上記した円筒形状の正極合剤21を3個圧入した。この正極缶11としては、ニッケルメッキ鋼板をプレス加工して得られた有底円筒形状をなしており、上端に開口部14を有し、底壁に凸状の正極端子部12を有している缶を用いた。正極合剤は正極缶11の内壁と接触しており、正極缶11及び正極端子部12は、正極合剤21と同電位となっている。なお、正極缶11の内壁には、黒鉛を含む導電膜が形成されている。
【0053】
次に、3個の正極合剤21により形成された中央の空間部分60に有底円筒形状のセパレータ22を挿入した。このセパレータ22は、セルロース系繊維と、ポリビニルアルコール系繊維とにより形成されており、その厚みは0.12mm(目付量39.0g/m2)であった。
【0054】
次に、セパレータ22にアルカリ電解液を供給し、セパレータ22にアルカリ電解液を染みこませた。ここで用いたアルカリ電解液は、KOHが37質量%含まれる水溶液が用いられた。
【0055】
次に、セパレータ22の中央の空間部分58に上記のようにして準備したゲル状亜鉛負極合剤23を充填した。これによりゲル状亜鉛負極24が形成された。
【0056】
次に、正極缶11に封口体16を装着した。このとき、封口体16の負極集電体31をゲル状亜鉛負極24の中に挿入させていき、正極缶11の開口部14の所定位置に封口体16を配置した。ここで、封口体16の負極キャップ32は、負極集電体31を介してゲル状亜鉛負極24と同電位となっている。その後、正極缶11の開口縁18をかしめ加工し、正極缶11の開口部14を気密に閉塞することにより、電池1を組み立てた。
【0057】
(比較例1)
導電材(気相成長炭素繊維)を添加しないでゲル状亜鉛負極合剤23を調製したことを除いて実施例1と同様にして電池1を組み立てた。
【0058】
(比較例2)
気相成長炭素繊維の代わりにD90が22μm、比表面積が8m2/gの黒鉛の粉末を添加してゲル状亜鉛負極合剤23を調製したことを除いて実施例1と同様にして電池1を組み立てた。
【0059】
(比較例3)
気相成長炭素繊維を0.5重量部添加させ、気相成長炭素繊維をゲル状亜鉛負極合剤23の重量に対して0.5重量%含むゲル状亜鉛負極合剤23を調製したことを除いて実施例1と同様にして電池1の組み立てを試みた。しかしながら、ゲル状亜鉛負極合剤23の粘度が高くなり過ぎ、ゲル状亜鉛負極合剤23を正極缶11内のセパレータの中央の空間部分58に充填することが困難となり、電池の生産性が著しく低下した。なお、比較例3については、電池の評価を省略した。
【0060】
2.アルカリマンガン電池の評価
(1)内部抵抗
実施例1、比較例1、2の各電池につき、次の(III)式に基づき内部抵抗Rを求めた。
R=(E-Ei)/I・・・(III)
【0061】
ここで、Eは開回路電圧を表し、Eiは1Aの電流を0.1秒間流したときの閉回路電圧を表し、Iは1Aの電流を表す。つまり、各電池につき、開回路電圧と、1Aの電流を0.1秒間流したときの閉回路電圧を測定し、その測定値から内部抵抗Rを求めた。そして、比較例1の内部抵抗Rの値を100とし、各電池の内部抵抗Rと比較例1の内部抵抗Rとの比を求め、その結果を内部抵抗比として表1に示した。
【0062】
(2)放電容量
実施例1、比較例1、2の各電池につき、750mAで2分間放電し、その後58分間休止するサイクルを8回繰り返し、その後16時間休止させることを行い、終止電圧(1.1V)に至るまでの放電容量を計測し放電容量を求めた。そして、比較例1の放電容量の値を100とし、各電池の放電容量と比較例1の放電容量との比を求め、その結果を放電容量比として表1に示した。
【0063】
【0064】
(3)考察
ゲル状亜鉛負極合剤に気相成長炭素繊維を含んでいる実施例1は、ゲル状亜鉛負極合剤に炭素材料を全く含まない比較例1だけではなく、ゲル状亜鉛負極合剤に炭素材料として黒鉛の粉末を添加している従来例に相当する比較例2と比べても、内部抵抗値は低下し、放電容量が向上していることがわかる。つまり、ゲル状亜鉛負極合剤に気相成長炭素繊維を含有させると、アルカリ電池における導電性が大幅に改善され、その結果、高負荷放電性能が向上すると言える。これは、繊維状の炭素が亜鉛合金粒子間において複雑に絡み合い導電ネットワークを形成し、良好な電気的接触を保つことができるので、高負荷放電性能の向上が図れたものと考えられる。
【0065】
なお、本発明は上記した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記した実施形態及び実施例において、アルカリマンガン電池について説明したが、本発明は、正極活物質としてマンガンを用いるアルカリ電池の他に、オキシ水酸化ニッケル化合物を正極活物質として用いるアルカリ電池に適用することも可能である。
【0066】
<本発明の態様>
本発明の第1の態様は、アルカリ電解液を保持したセパレータにより隔離された正極及び負極を備えているアルカリ電池において、前記負極は、ゲル状亜鉛負極合剤を含むゲル状亜鉛負極であり、前記ゲル状亜鉛負極合剤は、繊維状炭素材料を含んでいる、アルカリ電池である。
【0067】
この第1の態様によれば、繊維状炭素材料が絡み合って高密度の導電ネットワークを形成するので、負極における導電性の向上が図れ、アルカリ電池の高負荷放電性能を高めることができる。
【0068】
本発明の第2の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記繊維状炭素材料は、気相成長炭素繊維である、アルカリ電池である。
【0069】
この第2の態様によれば、気相成長炭素繊維は、電子伝導率が高いので、負極における導電性をより高めることができる。
【0070】
本発明の第3の態様は、上記した本発明の第1又は第2の態様において、前記繊維状炭素材料は、前記ゲル状亜鉛負極合剤の重量に対して0.1重量%以上含まれている、アルカリ電池である。
【0071】
この第3の態様によれば、負極における導電性の向上効果をより確実に発揮させることができる。
【符号の説明】
【0072】
1 アルカリ電池(電池)
2 負極
3 正極
11 正極缶
12 正極端子部
14 開口部
16 封口体
20 発電要素
21 正極合剤
22 セパレータ
23 ゲル状亜鉛負極合剤
24 ゲル状亜鉛負極
31 負極集電体
32 負極キャップ
35 封口ガスケット