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  • 特許-アルカリ電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】アルカリ電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/06 20060101AFI20230719BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230719BHJP
   H01M 6/06 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
H01M4/06 U
H01M4/62 C
H01M6/06 C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019116566
(22)【出願日】2019-06-24
(65)【公開番号】P2021002500
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡真
(72)【発明者】
【氏名】松井 隼司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄也
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-020687(JP,A)
【文献】特開平07-240202(JP,A)
【文献】特開平03-049153(JP,A)
【文献】特開平03-280356(JP,A)
【文献】国際公開第2008/013115(WO,A1)
【文献】特開昭57-101351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/06
H01M 4/62
H01M 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極端子を兼ねる正極缶と、前記正極缶の内面と接する正極と、前記正極よりも内側に配設され且つ前記正極と接しており、アルカリ電解液を保持しているセパレータと、前記セパレータよりも内側に配設され且つ前記セパレータと接している負極とを備えており、
前記負極は、ゲル状亜鉛負極合剤を含むゲル状亜鉛負極であり、
前記ゲル状亜鉛負極合剤は、塩化物を含んでおり、
前記塩化物は、塩化カリウムであり、
前記塩化カリウムは、前記ゲル状亜鉛負極合剤の重量に対して7.4重量%以上含まれている、アルカリ電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ電池に関し、詳しくは、ゲル状亜鉛負極を含むアルカリ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、デジタルカメラ、ビデオカメラ等の電子機器の高性能化及び小型化が進んでおり、こうした電子機器の電源として用いられるアルカリ電池に対する性能向上の要求が高まっており、特に高負荷放電性能の向上が望まれている。
【0003】
アルカリ電池においては、負極として、以下のようなゲル状亜鉛負極が多用されている。このゲル状亜鉛負極は、例えば、以下のようにして製造される。
【0004】
まず、溶融させた亜鉛合金を空気中で噴霧して亜鉛合金粒子を調製し、得られた亜鉛合金粒子を集めて亜鉛合金粉末を得る。更に、アルカリ電解液と、ポリアクリル酸ナトリウムのようなゲル化剤とを混合して調製したゲル状電解液を準備する。そして、上記した亜鉛合金粉末を上記したゲル状電解液中に投入し、混合する。これにより、亜鉛合金粉末がゲル状電解液に分散したゲル状亜鉛負極が得られる。
【0005】
このゲル状亜鉛負極を含むアルカリ電池においては、放電が進むにつれ亜鉛の表面に電気抵抗値の高い亜鉛酸化物の被膜が形成される。このため、アルカリ電池においては、良好な導電性を維持できず、高負荷放電性能の向上は難しい。更に、亜鉛酸化物の被膜により亜鉛合金の表面が閉塞されてしまうので、亜鉛合金が電解液と接触できなくなり、亜鉛イオンの拡散が阻害され、分極が増大する。そして、最終的には、放電が不能になり、早期に電池の寿命が尽きるという問題が存在している。
【0006】
ところで、アルカリ電池が実用化される以前、マンガン乾電池が主流の乾電池であった頃、電解液として塩化アンモニウム(NHCl)を用いる塩化アンモニウム型マンガン乾電池における高負荷放電性能の向上を図る検討がなされ、その結果、電解液として塩化亜鉛(ZnCl)を用いる塩化亜鉛型マンガン乾電池が開発された経緯がある(非特許文献1等参照)。
【0007】
ここで、塩化アンモニウム型マンガン乾電池及び塩化亜鉛型マンガン乾電池について具体的に説明する。
【0008】
まず、塩化アンモニウム型マンガン乾電池の放電反応は以下の通りである。
負極の亜鉛(Zn)が溶解して亜鉛イオン(Zn2+)となる。正極の二酸化マンガン(MnO)は塩化アンモニウム(NHCl)の水溶液の水素イオン(H)と反応し、オキシ水酸化マンガン(MnOOH)になると共に、アンモニア(NH)を生成する。電池の反応が継続すると、正極で生じたアンモニア(NH)が、負極から溶解した亜鉛イオン(Zn2+)と反応して、亜鉛とアンモニウムの塩であるZn(NHClを形成し析出する。Zn(NHClの結晶化した析出物は、亜鉛缶に面した正極合剤側にできはじめ、この析出物ができると、負極から溶解してきた亜鉛イオン(Zn2+)の拡散に障害となり、亜鉛缶近傍の亜鉛イオン(Zn2+)の濃度が高まり、生成物の析出がさらに進むことになる。このような現象は、高負荷放電を行うときほど著しくなる。つまり、反応生成物であるZn(NHClの析出が正極合剤と亜鉛缶の界面で増加すると、分極が増大し放電作動電圧が低下してくるという問題が生じていた。
【0009】
一方、塩化亜鉛型マンガン乾電池の放電生成物は、ZnCl・4Zn(OH)である。正極の放電反応は、塩化アンモニウム型マンガン乾電池と同じで、MnOOHを生じる。負極で溶解したZn2+はOHイオンおよびClイオンと反応してZnCl・4Zn(OH)となる。ZnCl・4Zn(OH)は、合剤表面に析出しても、塩化アンモニウム電解液中で強固に結晶成長する反応生成物であるZn(NHClとは異なり、Zn2+イオンの合剤内部への拡散の障害にはならない。したがって正極合剤の内部に亜鉛イオンが拡散して析出が起こるために、高負荷放電でも、塩化アンモニウム電解液のような急激な分極増大が発生しない。
【0010】
そこで、高負荷放電性能を向上させるため、上記したような手法をアルカリ電池にも適用することができないか検討を行った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】吉田和正著・独立行政法人 国立科学博物館 産業技術史資料情報センター編 「技術の系統化調査報告第9集 一次電池技術発展の系統化調査」独立行政法人 国立科学博物館 発行 2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、塩化亜鉛(ZnCl)をアルカリ電池に適用すると、正極缶の腐食が生じ、正極缶内のガス圧が増大して、漏液につながるという問題がある。
【0013】
そこで、正極缶の腐食を抑え、正極缶内のガス圧の増大を抑制しつつ高負荷での放電性能の向上が図れるアルカリ電池の開発が望まれている。
【0014】
本発明は上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、高負荷放電性能に優れるアルカリ電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明のアルカリ電池は、正極端子を兼ねる正極缶と、前記正極缶の内面と接する正極と、前記正極よりも内側に配設され且つ前記正極と接しており、アルカリ電解液を保持しているセパレータと、前記セパレータよりも内側に配設され且つ前記セパレータと接している負極とを備えており、前記負極は、ゲル状亜鉛負極合剤を含むゲル状亜鉛負極であり、前記ゲル状亜鉛負極合剤は、塩化物を含んでいる、ことを特徴とする。
【0016】
また、前記塩化物は、塩化カリウムである構成とすることが好ましい。
【0017】
また、前記塩化物は、前記ゲル状亜鉛負極合剤の重量に対して7.4重量%以上含まれている構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアルカリ電池は、正極端子を兼ねる正極缶と、前記正極缶の内面と接する正極と、前記正極よりも内側に配設され且つ前記正極と接しており、アルカリ電解液を保持しているセパレータと、前記セパレータよりも内側に配設され且つ前記セパレータと接している負極とを備えており、前記負極は、ゲル状亜鉛負極合剤を含むゲル状亜鉛負極であり、前記ゲル状亜鉛負極合剤は、塩化物を含んでいることから、放電の際の生成物としてZnOの代わりにZnCl・4Zn(OH)が生じるので、負極の導電性を良好な状態に維持できる。よって、本発明によれば、高負荷放電性能に優れるアルカリ電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係るアルカリ電池を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態に係るアルカリ電池1(以下、電池1という)について説明する。本発明が適用される電池1としては、例えば、図1に示すようなJIS規格のLR6形(単3形又はAA形)のアルカリマンガン電池が挙げられる。
【0021】
図1に示すように、電池1は、上端が開口した有底円筒形状の電池缶(以下、正極缶11という)を備えている。この正極缶11は、金属製であり、導電性を有している。正極缶11の底壁には外側に突出する凸状の正極端子部12が一体的に形成されており、この正極端子部12が電池1の正極端子として機能する。
【0022】
正極缶11の開口部14には、封口体16が固定されている。この封口体16は、負極端子となる負極キャップ32と、この負極キャップ32の中央に固定された負極集電体31と、負極キャップ32に組み合わされた封口ガスケット35とを含む。この封口体16は、封口ガスケット35の部分が正極缶11の開口部14の内側に当接し、この状態で正極缶11の開口縁18がかしめ加工されることにより、正極缶11の開口部14に固定されている。すなわち、封口体16は正極缶11の開口部14を気密に閉塞している。
【0023】
ここで、負極キャップ32は、円盤状の頂壁34と、この頂壁34の周縁から電池1の内部方向へ延びる周壁36と、周壁36の先端部が折り返されて形成されているフランジ部38とを備えている。周壁36においては、フランジ部38との境界付近の所定位置にガス抜き孔40が設けられている。
【0024】
負極集電体31は、金属製の棒状の部材であり、円柱状の本体部42と、本体部42の基端側に位置し、本体部42よりも拡径されている頭部44と、本体部42の先端側に位置し、本体部42よりも先細りとなっているテーパ部46とを有している。この負極集電体31は、頭部44が負極キャップ32の頂壁34の内面に溶接されている。なお、負極集電体31の材質としては、例えば、真鍮が用いられる。この負極集電体31は、後述する負極2としてのゲル状亜鉛負極24に挿入され、負極2(ゲル状亜鉛負極24)と負極端子(負極キャップ32)とを電気的に接続する。
【0025】
封口ガスケット35は、円筒状の中央円筒体48と、この中央円筒体48の周囲から延びる円環状の鍔部50とを備えている。この封口ガスケット35は、絶縁性の樹脂材料、例えば、ポリアミド樹脂により形成されている。中央円筒体48の中心貫通孔52には、負極集電体31の本体部42が嵌め合わされている。負極集電体31の本体部42と中央円筒体48の中心貫通孔52との間は気密性が保たれている。鍔部50の外周縁部は、図1に示すように、正極缶11の開口部14と負極キャップ32のフランジ部38との間に介在するように折り返されており、円環状の外周壁54を形成している。この鍔部50の外周壁54は、正極缶11の開口部14を気密に閉塞するとともに正極缶11と負極キャップ32との間を電気的に絶縁する。また、鍔部50において、中央円筒体48と外周壁54との間には、薄肉部56が設けられている。この薄肉部56は、正極缶11内でガスが異常発生し、正極缶11内の圧力が上昇した際、破断される。これにより、異常発生したガスは正極缶11の外部へ放出され、電池1の破裂が防止される。つまり、封口ガスケット35は、電池1の安全弁としても機能する。
【0026】
正極缶11の内部には、中空円筒形状に成形された複数の正極合剤21が正極缶11の内周面に接触するように収容されている。
【0027】
ここで、正極缶11の内壁には、正極合剤21と正極缶11との電気的な接続を促進させる目的で、導電膜が形成されている。この導電膜は、適切な溶媒に黒鉛を分散させた混合物を正極缶11の内壁に塗布し、乾燥させたものである。
【0028】
正極合剤21は、例えば、以下のようにして製造される。
まず、正極活物質としての二酸化マンガンの粒子、導電材としての黒鉛の粒子、アルカリ電解液、バインダ及び必要に応じて正極添加剤を準備し、これらを混合して混合物を得る。次いで、得られた混合物を圧延、解砕、造粒、分級等の工程にて処理した後、得られた混合物の粉末を圧縮して中空円筒形状に成形することにより、正極合剤21が製造される。成形された正極合剤21は、正極活物質粒子及び導電材粒子が相互に結着し、粒子間の粒界にはアルカリ電解液が存在している。
【0029】
円筒形状の正極合剤21は複数個製造され、これら正極合剤21が正極缶11の円筒軸線と同軸となるように、正極缶11の円筒軸線に沿った方向に積層されて正極缶11内に圧入されている。本実施形態の電池1においては、図1に示すように、正極缶11内に3つの正極合剤21が圧入されており、これら3つの正極合剤21が協働して正極3を形成している。
【0030】
積層された正極合剤21の内周側には、図1に示すように、有底円筒形状のセパレータ22が配設されている。このセパレータ22は、上記した正極合剤21と後述するゲル状亜鉛負極合剤23との間を電気的に隔離するとともにアルカリ電解液を保持する働きをする。このセパレータ22は、電気絶縁性、保液性及び耐アルカリ性に優れている材料により形成されている。このようなセパレータ22としては、特に限定されるものではないが、例えば、一般的なアルカリ電池に用いられているセパレータを用いることが好ましい。ここで、具体的には、セルロース系繊維と、ポリビニルアルコール系繊維とにより形成されたセパレータを用いることが好ましい。
【0031】
上記したセパレータ22における中央の空間部分58には、図1に示すように、負極合剤として、ゲル状亜鉛負極合剤23が充填されている。つまり、電池1においては、ゲル状亜鉛負極合剤23が負極2としてのゲル状亜鉛負極24を形成している。
【0032】
上記したゲル状亜鉛負極合剤23は、負極活物質としての亜鉛合金と、塩化物と、アルカリ電解液と、ゲル化剤とを含んでいる。このゲル状亜鉛負極合剤23は、ゲル化剤とアルカリ電解液とを混合することにより調製されたゲル状電解液に、亜鉛合金の粉末及び塩化物を添加し混合することにより形成される。
【0033】
ここで、ゲル化剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリアクリル酸やポリアクリル酸ナトリウムが用いられる。また、アルカリ電解液としても、特に限定されるものではなく、例えば、KOH水溶液や、KOH水溶液にZnOを添加したアルカリ性水溶液が用いられる。
【0034】
亜鉛合金についても、アルカリ電池の負極活物質として用いられている亜鉛合金を採用することが好ましい。ここで、亜鉛合金粒子の集合体である亜鉛合金粉末を調製する手順について説明する。まず、所定の組成の亜鉛合金が得られるように金属原材料を計量して混合し、この混合物を例えば誘導溶解炉で溶解する。得られた溶湯に対しガスアトマイズ法や遠心噴霧法を適用し亜鉛合金の粒子を製造する。そして、得られた亜鉛合金粒子を集めて分級し、所望粒径の亜鉛合金粉末を得る。このとき、亜鉛合金を構成する原材料としては、亜鉛の他にビスマス、アルミニウム、インジウム等を用いることが好ましい。
【0035】
ここで、ビスマスが0.005~0.02質量%、アルミニウムが0.0035~0.015質量%、インジウムが0.01~0.06質量%含まれている亜鉛合金を採用することが好ましい。この組成の亜鉛合金は、水素ガス発生の抑制効果がある。また、インジウム及びビスマスは電池の放電性能を向上させる。このようなビスマス、アルミニウム及びインジウムを含む亜鉛合金を負極活物質として用いた場合、亜鉛合金のアルカリ電解液中での自己溶解速度は適度な値になり、水素ガスの発生も抑制されて、電池内部からの漏液防止に効果がある。
【0036】
本発明のゲル状亜鉛負極合剤23においては、塩化物を添加することが特徴である。この塩化物としては、特に限定されるものではなく、例えば、塩素と、この塩素よりも陽性の元素との化合物である塩化物を用いることが好ましい。このような塩化物としては、例えば、MCl(ただし、Mは、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr及びBaのいずれかの元素を表し、xは1又は2の数字を表す。)等が挙げられる。より好ましくは、塩化カリウム(KCl)を用いる。
【0037】
この塩化物が果たす役割は、塩素イオン(Cl)の供給源である。詳しくは、塩素イオン(Cl)の存在により放電生成物としてZnCl・4Zn(OH)を生じさせ、電池1の分極増大を抑制することである。
【0038】
一般的なアルカリ電池の負極における化学反応は、以下の(I)式で表される。
Zn+2OH→ZnO+HO+e・・・(I)
【0039】
アルカリ電池の負極では、放電反応によって亜鉛表面に電気抵抗値の高い亜鉛酸化物の被膜が形成されるために、亜鉛合金の表面は、この亜鉛酸化物の被膜により閉塞されてしまう。そのため放電が不能となり、電池の寿命が早期に尽きてしまう。
【0040】
ここで、負極へKClなどの塩化物を添加すると、Clの働きにより、放電生成物としてZnCl・4Zn(OH)を生じる。ZnCl・4Zn(OH)は、ZnOほど電気抵抗値は高くなく、良好な導電性を維持できるので、アルカリ電池の高負荷放電性能を向上させることに貢献する。また、ZnCl・4Zn(OH)は、ZnOと比べて亜鉛イオンの拡散を阻害しづらく、分極増大を抑制できる。
【0041】
更に、KClを負極のみに添加することにより、正極缶11の腐食を抑えることができる。電池1において、負極2は、電池1の中心部に位置している。つまり、正極缶11の内側には正極合剤21が配設され、正極合剤21の内側にはセパレータ22が配設され、このセパレータ22の内側に負極2としてのゲル状亜鉛負極合剤23が配設されており、このゲル状亜鉛負極合剤23の中にKClが含まれている。このため、KClの働きにより生成されるZnCl・4Zn(OH)は、ほぼ電池1の中心の負極2内に存在することになる。このため、正極缶11との間には隔たりがあり、正極缶11の腐食は抑制される。また、KClは、ZnClと比較し水への溶解度が低いため、電池内部で拡散しづらく、負極2内に留まりやすい。このため、KClのClの働きにより生じる放電生成物としてのZnCl・4Zn(OH)も、電池1の中心の負極2内に生じやすい。このことからも、正極缶11の腐食を抑制できるといえる。
【0042】
次いで、電池1の組み立て手順について説明する。
まず、準備された正極缶11の内部に中空円筒形状の正極合剤21を圧入する。その後、有底円筒形状のセパレータ22を正極合剤21の中空部分に挿入する。そして、アルカリ電解液をセパレータ22の内部に供給し、当該アルカリ電解液をセパレータ22に染みこませる。ここで、セパレータ22に染みこませるアルカリ電解液としては、特に限定されるものではなく、例えば、KOH水溶液が用いられる。
【0043】
次いで、セパレータ22における中央の空間部分58に、上記のようにして準備されたゲル状亜鉛負極合剤23が注入される。これにより、セパレータ22における中央の空間部分58にゲル状亜鉛負極合剤23が充填されゲル状亜鉛負極24が形成される。
【0044】
次に、封口体16の負極集電体31をゲル状亜鉛負極24の中に挿入させていく。そして、封口ガスケット35の鍔部50がセパレータ22の上端と接するとともに、封口ガスケット35の外周壁54の部分が正極缶11の開口部14付近に到達したところで負極集電体31の挿入を止める。このとき、正極缶11の開口部14の所定位置に封口体16が配置される。この状態で、正極缶11の開口縁18をかしめ加工する。これにより、正極缶11の開口部14は気密に閉塞され、電池1が形成される。
【0045】
この電池1は、電池缶(正極缶11)が正極側であり、封口体16が負極側となっている構造、いわゆるインサイドアウト構造をなしている。そして、正極合剤21、セパレータ22及びゲル状亜鉛負極合剤23は、電池1の発電要素20を構成している。
【0046】
[実施例]
1.アルカリマンガン電池の製造
比較例1)
【0047】
(1)正極合剤の製造
電解二酸化マンガン90.80重量部に対して、黒鉛5.96重量部、アルカリ電解液(40質量%KOH水溶液)2.83重量部、ポリアクリル酸0.18重量部、シリカ0.02重量部を混合し、その混合物を圧延装置に投入し圧延した。次に、圧延されて一塊となった混合物を解砕機に投入し、細かく粉砕して原料粉末を得た。次に、得られた原料粉末を造粒機に投入することにより原料粉末を構成する粒子を互いに結合させて、ある程度以上の大きさの粒子を形成した。このような造粒工程を経た原料粉末を分級機に投入して分級し、60mesh以下の粒子が30%以下となるような原料粉末を得た。分級後の原料粉末にステアリン酸カルシウムを0.20重量部混合し、原料粉末における粒子の表面にステアリン酸カルシウムを塗布した。このような原料粉末を圧縮して円筒形状に成形し正極合剤21を得た。円筒形状の正極合剤21は、複数個製造した。
【0048】
(2)ゲル状亜鉛負極合剤の製造
Zn、Bi、Al、Inを計量し、これらが質量比で次の(II)式の割合で含まれる混合物を準備した。
Zn:Bi:Al:In=99.9:0.012:0.010:0.020・・・(II)
【0049】
得られた混合物を、アルゴンガス雰囲気中にて高周波誘導溶解炉で溶解し、亜鉛合金の溶湯を得た。次いで、その溶湯をタンディッシュと呼ばれる坩堝に流し込み、この坩堝の底面に設けられた孔から流れ出た溶湯流に、高圧のガスを吹き付けて溶湯を飛散させると同時に凝固させた。これにより亜鉛合金の粉末を得た。
【0050】
得られた亜鉛合金粉末を分級し、粒径が75μm以下の粒子を30質量%含む亜鉛合金粉末を準備した。
【0051】
次に、塩化物として、塩化カリウム(KCl)の粉末を準備した。
更に、ゲル化剤として、ポリアクリル酸及び架橋型ポリアクリル酸ナトリウムを準備するとともに、アルカリ電解液として、KOHが35質量%含まれる水溶液にZnOが2.6質量%添加されたアルカリ電解液を準備した。
【0052】
次に、上記のようにして準備したポリアクリル酸、架橋型ポリアクリル酸ナトリウム及びアルカリ電解液を混合してゲル状電解液を調製し、このゲル状電解液に亜鉛合金粉末及びKClの粉末を更に混合してゲル状亜鉛負極合剤23を調製した。このとき、亜鉛合金粉末は64.38重量部、KClは3.20重量部、ポリアクリル酸は0.35重量部、架橋型ポリアクリル酸ナトリウムは0.19重量部、アルカリ電解液は31.87重量部とした。ここで、KClの含有量は、ゲル状亜鉛負極合剤の重量に対して3.2重量%である。
【0053】
(3)アルカリマンガン電池の組み立て
JIS規格のLR6形(単3形又はAA形)のアルカリマンガン電池用の正極缶11の中に上記した円筒形状の正極合剤21を3個圧入した。この正極缶11としては、ニッケルメッキ鋼板をプレス加工して得られた有底円筒形状をなしており、上端に開口部14を有し、底壁に凸状の正極端子部12を有している缶を用いた。正極合剤は正極缶11の内壁と接触しており、正極缶11及び正極端子部12は、正極合剤21と同電位となっている。なお、正極缶11の内壁には、黒鉛を含む導電膜が形成されている。
【0054】
次に、3個の正極合剤21により形成された中央の空間部分60に有底円筒形状のセパレータ22を挿入した。このセパレータ22は、セルロース系繊維と、ポリビニルアルコール系繊維とにより形成されており、その厚みは0.12mm(目付量39.0g/m)であった。
【0055】
次に、セパレータ22にアルカリ電解液を供給し、セパレータ22にアルカリ電解液を染みこませた。ここで用いたアルカリ電解液は、KOHが37質量%含まれる水溶液が用いられた。
【0056】
次に、セパレータ22の中央の空間部分58に上記のようにして準備したゲル状亜鉛負極合剤23を充填した。これによりゲル状亜鉛負極24が形成された。
【0057】
次に、正極缶11に封口体16を装着した。このとき、封口体16の負極集電体31をゲル状亜鉛負極24の中に挿入させていき、正極缶11の開口部14の所定位置に封口体16を配置した。ここで、封口体16の負極キャップ32は、負極集電体31を介してゲル状亜鉛負極24と同電位となっている。その後、正極缶11の開口縁18をかしめ加工し、正極缶11の開口部14を気密に閉塞することにより、電池1を組み立てた。
【0058】
(実施例
KClの添加量を7.40重量部とし、ゲル状亜鉛負極合剤23を調製した。このとき、亜鉛合金粉末は61.59重量部、ポリアクリル酸は0.34重量部、架橋型ポリアクリル酸ナトリウムは0.18重量部、アルカリ電解液は30.49重量部としたことを除いて比較例1と同様にして電池1を組み立てた。ここで、KClの含有量は、ゲル状亜鉛負極合剤の重量に対して7.4重量%である。
【0059】
(比較例
KClを添加せず、ゲル状亜鉛負極合剤23を調製した。このとき、亜鉛合金粉末は66.51重量部、ポリアクリル酸は0.37重量部、架橋型ポリアクリル酸ナトリウムは0.20重量部、アルカリ電解液は32.92重量部としたことを除いて比較例1と同様にして電池1を組み立てた。ここで、KClの含有量は、ゲル状亜鉛負極合剤の重量に対して0重量%である。
【0060】
2.アルカリマンガン電池の評価
(1)内部抵抗
比較例1、実施例1、比較例の各電池につき、次の(III)式に基づき内部抵抗Rを求めた。
R=(E-E)/I・・・(III)
【0061】
ここで、Eは開回路電圧を表し、Eは1Aの電流を0.1秒間流したときの閉回路電圧を表し、Iは1Aの電流を表す。つまり、各電池につき、開回路電圧と、1Aの電流を0.1秒間流したときの閉回路電圧を測定し、その測定値から内部抵抗Rを求めた。そして、比較例の内部抵抗Rの値を100とし、各電池の内部抵抗Rと比較例の内部抵抗Rとの比を求め、その結果を内部抵抗比として表1に示した。
【0062】
(2)放電容量
比較例1、実施例1、比較例の各電池につき、250mA間欠放電、750mA間欠放電及び1500mWパルス放電をそれぞれ行い、各放電を行った際の放電容量を計測した。
【0063】
ここで、各放電の条件を以下に示す。
250mA間欠放電は、250mAで1時間放電し、その後23時間休止するサイクルを1回行い、終止電圧(0.90V)に至るまでの放電容量を計測し放電容量を求めた。そして、比較例の放電容量の値を100とし、各電池の放電容量と比較例の放電容量との比を求め、その結果を250mA間欠放電容量比として表1に示した。
【0064】
750mA間欠放電は、750mAで2分間放電し、その後58分間休止するサイクルを8回繰り返し、その後16時間休止させることを行い、終止電圧(1.10V)に至るまでの放電容量を計測し放電容量を求めた。そして、比較例の放電容量の値を100とし、各電池の放電容量と比較例の放電容量との比を求め、その結果を750mA間欠放電容量比として表1に示した。
【0065】
1500mWパルス放電は、1500mWで2秒間放電し、その後650mWで28秒間放電するサイクルを10回繰り返し、その後55分間休止させることを行い、終止電圧(1.05V)に至るまでの放電容量を計測し放電容量を求めた。そして、比較例の放電容量の値を100とし、各電池の放電容量と比較例の放電容量との比を求め、その結果を1500mWパルス放電容量比として表1に示した。
【0066】
(3)電池内のガス量
比較例1、実施例1、比較例の各電池につき、室温(25℃)環境下で3か月間保管した後、電池内のガス量を測定した。その結果を電池内ガス量として表1に示した。この電池内ガス量が少ないほど正極缶11の腐食は進行しておらず、正極缶11の腐食が抑えられていることを示す。
【0067】
【表1】
【0068】
(4)考察
表1に示すように、ゲル状亜鉛負極合剤に塩化物としてKClを含んでいる比較例1及び実施例は、ゲル状亜鉛負極合剤に塩化物を含まない比較例に比べ、内部抵抗値は低下し、放電容量が向上していることがわかる。つまり、比較例1及び実施例の電池は、導電性が大幅に改善され、高負荷放電性能が向上していると言える。また、表1に示すように、KClの添加量を増加させていくと内部抵抗が減少し、放電容量が増大することがわかる。しかも、その放電容量の増大は、高負荷放電でより顕著であることがわかる。これは、ゲル状亜鉛負極合剤に塩化物を含有させることにより、放電反応において、亜鉛合金表面に電気抵抗値の高いZnOが生じることを抑制することができ、その代わり、ZnOよりも導電性に優れるZnCl・4Zn(OH)が生じたことによるものと考えられる。
【0069】
更に、KClを含んでいる比較例1及び実施例において、電池内ガス量は、比較例1が0.65mL、実施例が0.30mLであり、1mL以下であった。これは、電池内ガス量が0.55mLである、KClを含んでいない比較例と同等かそれ以下である。このことから、KClが負極に含まれていたとしても、正極缶が腐食された際に生じるガスはあまり発生しておらず、正極缶がほとんど腐食されていないと言える。これは、KClが負極に含まれていたとしても、放電生成物であり腐食性を有するClが負極内に留まり正極缶の部分まで進行しないためであると考えられる。よって、KClを添加しても、正極缶の腐食はほとんど無視できると考えられる。
【0070】
なお、本発明は上記した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記した実施形態及び実施例において、アルカリマンガン電池について説明したが、本発明は、正極活物質としてマンガンを用いるアルカリ電池の他に、オキシ水酸化ニッケル化合物を正極活物質として用いるアルカリ電池に適用することも可能である。
【0071】
<本発明の態様>
本発明の第1の態様は、正極端子を兼ねる正極缶と、前記正極缶の内面と接する正極と、前記正極よりも内側に配設され且つ前記正極と接しており、アルカリ電解液を保持しているセパレータと、前記セパレータよりも内側に配設され且つ前記セパレータと接している負極とを備えており、前記負極は、ゲル状亜鉛負極合剤を含むゲル状亜鉛負極であり、前記ゲル状亜鉛負極合剤は、塩化物を含んでいる、アルカリ電池である。
【0072】
この第1の態様によれば、ゲル状亜鉛負極合剤が、塩化物を含んでいることから、放電の際の生成物としてZnOの代わりにZnCl・4Zn(OH)が生じるので、負極の導電性を良好な状態に維持でき、アルカリ電池の高負荷放電性能を高めることができる。
【0073】
本発明の第2の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記塩化物は、塩化カリウムである、アルカリ電池である。
【0074】
この第2の態様によれば、塩化カリウムは、水への溶解度が比較的低く、負極中に留まることから、放電の際の生成物であるZnCl・4Zn(OH)も負極に生じやすく正極缶を腐食させることを抑えることができる。
【0075】
本発明の第3の態様は、上記した本発明の第1又は第2の態様において、前記塩化物は、前記ゲル状亜鉛負極合剤の重量に対して7.4重量%以上含まれている、アルカリ電池である。
【0076】
この第3の態様によれば、電池の内部抵抗を減少させ、放電容量を増大させることができ、特に高負荷での放電容量の増大により効果を発揮させることができる。
【符号の説明】
【0077】
1 アルカリ電池(電池)
2 負極
3 正極
11 正極缶
12 正極端子部
14 開口部
16 封口体
20 発電要素
21 正極合剤
22 セパレータ
23 ゲル状亜鉛負極合剤
24 ゲル状亜鉛負極
31 負極集電体
32 負極キャップ
35 封口ガスケット
図1